説明

エンジン回転制御方法及び車両動作制御装置

【課題】周期的な電気負荷の発生に起因する内燃機関の回転数の変動を抑圧する。
【解決手段】エンジン103が所定の低回転状態にあり、且つ、所定の低負荷状態にあると判定された場合にあって(S102)、ターンハザードランプ14の点滅等に代表されるような周期的な電気負荷が生じていると判定された際(S104)に、エンジン103の回転制御において、その回転を変化させ得る係数を、エンジン103の回転変動に応じて補正することによって(S106)、周期的な電気的負荷に起因するエンジン103の回転変動を抑圧可能としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の回転制御に係り、特に、電気負荷変動に起因する回転変動の抑圧、動作の信頼性の向上等を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の回路としては、例えば、通常アイドル状態とアイドルアップ状態間の移行の際の急激な回転速度の変化を抑制し、乗員に対するショックの抑圧を図ったもの等が提案されている(例えば、特許文献1等参照)。
例えば、特許文献1に開示された装置においては、エアコンスイッチがオフからオンとされた場合、エアコンの始動に伴う負荷変動分に相当する見込み補正量が算出される。そして、回転制御における制御量に対して、その見込み補正量の補正を一気に施し、次いで、時間の経過と共に補正量を徐々に増すようにして、急激な回転速度の変化を抑制する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−129292号公報(第3−8頁、図1−図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エンジンが比較的小型の場合、上述したようなエアコンの動作時以外、例えば、周期的な電気負荷が変動する際に、エンジン負荷全体に占めるそのような電気負荷の割合が大型のエンジンに比して高いため、連動して回転変動を生ずることがあり、その対策が求められている。
【0005】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、周期的な電気負荷の発生に起因する内燃機関の回転数の変動を抑圧し、安定性、信頼性の高い回転を得ることのできる内燃機関の回転制御方法及び車両動作制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る内燃機関の回転制御方法は、
内燃機関の運転状態に基づいて前記内燃機関の回転制御が可能に構成されてなる車両動作制御装置における内燃機関の回転制御方法であって、
前記内燃機関が所定の低回転状態にあり、且つ、所定の低負荷状態にあって、
周期的な電気負荷が生じている場合に、前記内燃機関の回転制御において、前記内燃機関の回転を変化させ得る係数を、前記内燃機関の回転変動に応じて補正することによって、前記周期的な電気的負荷に起因する内燃機関の回転変動を抑圧可能としてなるものである。
また、上記本発明の目的を達成するため、本発明に係る車両動作制御装置は、
内燃機関の運転状態に基づいて電子制御ユニットにより前記内燃機関の回転制御が可能に構成されてなる車両動作制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記内燃機関が所定の低回転状態、且つ、所定の低負荷状態にあって、周期的な電気負荷が発生しているか否かを判定し、
周期的な電気負荷が発生していると判定された場合に、前記内燃機関の回転制御において、予め定められた前記内燃機関の回転を変化させ得る係数を、前記内燃機関の回転変動に応じて補正し、前記周期的な電気的負荷に起因する内燃機関の回転変動を抑圧可能に構成されてなるものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、周期的電気負荷の発生に応じて、エンジン回転制御における係数補正を行うことで、燃料噴射量を調節するようにしたので、周期的電気負荷の発生に起因するエンジン回転数の変動を抑圧することができ、安定性、信頼性の高いエンジン回転を得ることのできるという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の形態における内燃機関の回転制御方法が適用される車両動作制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】図1に示された車両動作制御装置を構成する電子制御ユニットによって実行される内燃機関の回転制御処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。
【図3】図1に示された車両動作制御装置を用いた車両における周期的電気負荷に対するエジン回転数及び燃料噴射量の変動の様子を概略的に示す変化特性例を従来装置の同様な変化特性例と共に示した概略変化特性線図であって、図3(A)は、エンジン回転数の概略変化特性線図、図3(B)は、燃料噴射量の概略変化特性線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図1乃至図3を参照しつつ説明する。
なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
最初に、本発明の実施の形態における内燃機関の回転制御方法が適用される車両動作制御装置の構成例について、図1を参照しつつ説明する。
本発明の実施の形態における車両動作制御装置は、電子制御ユニット101を有し、この電子制御ユニット101におけるプログラムの実行により、燃料噴射装置102における燃料噴射量、噴射タイミング等が制御され、内燃機関としてのエンジン103を所望の駆動状態とすることができるようになっている。
なお、この図1においては、図示を簡潔にして、理解を容易とするため、エンジン103の動作制御に関する主要部のみを表しており、車両動作制御装置の他の構成部分については図示を省略したものとしている。
【0010】
電子制御ユニット101は、マイクロコンピュータ(図示せず)を中心に、RAMやROM等の記憶素子(図示せず)やインターフェイス回路等(図示せず)を具備して構成されたものである。かかる電子制御ユニット101には、上述のような車両の動作制御に必要とされる、エンジン103の回転数に応じた回転信号を出力する回転センサ1、アクセル(図示せず)の踏み込み量に応じたアクセル開度信号を出力するアクセル開度センサ2を始め、エンジン103の動作制御に必要な種々の信号が入力され、エンジン103の動作制御の種々の処理に供されるようになっている。
【0011】
この、電子制御ユニット101は、イグニッションスイッチ11を介して車両バッテリ3の電源供給を受けるようになっている。
また、この車両バッテリ3からは、ターン・ハザード駆動装置51への電源供給が行われるようになっている。
すなわち、ターン・ハザード駆動装置51は、ターン・ハザードランプ14と、このターン・ハザードランプ14の点灯駆動回路15と、ターンスイッチ12及びハザードスイッチ13を主たる電気的構成要素として構成されたものとなっている。
点灯駆動回路15には、ターンスイッチ12、又は、ハザードスイッチ13を介して車両バッテリ3からの電源電圧が供給されるようになっている。そして、ターンスイッチ12、又は、ハザードスイッチ13が閉成状態(ON)とされると、ターン・ハザードランプ14が、ターンランプ、又は、ハザードランプとして点灯するよう点灯駆動回路15によって駆動されるようになっている。
【0012】
図2には、電子制御ユニット101で実行される内燃機関の回転制御処理の手順を示すサブルーチンフローチャートが示されており、以下、同図を参照しつつ、その処理手順について説明する。
電子制御ユニット101による処理が開始されると、最初に、エンジン回転状態が低回転低負荷状態にあるか否かの判定が行われる(図2のステップS102参照)。
【0013】
ここで、低回転低負荷状態か否かの具体的な判断基準は、個々の車両の規模などによって異なり、特定の基準に限定されるものでは無いが、後述するような周期的な電気負荷の変動が生じた際に、エンジン回転数や燃料噴射量の変動を来す状態を招くか否かという観点から定められるものである。例えば、低回転状態か否かの判定としては、アイドル回転状態にあるか否かを判定するのが好適である。また、低負荷状態にあるか否かの判定としては、燃料噴射量が所定量を下回るか否かを判定するのが好適である。なお、上述の燃料噴射量の所定量は、個々の車両の大きさ、すなわち、主としてエンジン103の大きさ等に応じて定められるべきもので、特定の値に限定されるものではない。
【0014】
ここで、本発明の実施の形態における車両においては、前提として、当然の事ながら、一般的な処理手順に基づく燃料噴射制御が電子制御ユニット101において実行されているものとする。
一般に、燃料噴射制御においては、例えば、燃料噴射弁(図示せず)の通電時間などを基に算出された実際の燃料噴射量が、エンジン回転数やアクセル開度等を基に演算算出された目標燃料噴射量となるように燃料噴射制御が行われるものとなっている。
【0015】
したがって、ステップ102において、低負荷状態であるか否かの判断に用いられる燃料噴射量は、この一連の処理のために特別に演算算出等されるものではなく、電子制御ユニット101において別途実行される燃料噴射制御処理において演算算出された燃料噴射量を流量することで足りるものである。
【0016】
しかして、ステップS102においてエンジン回転状態が低回転低負荷状態にあると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS104の処理へ進む一方、エンジン回転状態が低回転低負荷状態ではないと判定された場合(NOの場合)には、以下の処理を実行する状態にはないとして、一連の処理が終了され、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
ステップS104においては、周期的な電気負荷の変動が生じているか否かが判定される。すなわち、具体的には、ターン・ハザードランプ14の点滅があるか否かが判定されることとなる。
【0017】
このような周期的電気負荷が発生しているか否かは、予め明らかになっているターン・ハザードランプ14の点滅周期と一致する車両バッテリ3の周期的な電圧変動、又は、周期的な電流変動の有無によって判定するのが好適である。
【0018】
上述のようにしてステップS104において、周期的な電気負荷の変動が生じていると判定された場合(YESの場合)には、次述するステップS106の処理へ進む一方、周期的な電気負荷の変動は生じていないと判定された場合(NOの場合)には、以下の処理を実行する状態に無いとして、一連の処理は終了され、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【0019】
ステップS106においては、エンジン回転制御におけるゲイン補正が行われることとなる。
すなわち、エンジン回転制御におけるゲイン補正は、周期的電気負荷変動の発生によって生ずるエンジン回転数変動を抑圧する観点から、エンジン回転の減少を補償することで、回転変動を抑圧するためのものである。
【0020】
ここで、周期的電気負荷変動に対するエンジン回転数の変動及び燃料噴射量の変動の関係について、図3を参照しつつ説明する。
まず、図3(A)は、周期的電気負荷変動に対するエンジン回転数の変動の様子を概略的に表した特性線図であり、横軸は時間を、縦軸はエンジン回転数と周期的電気負荷の発生の有無を、それぞれ表すものとなっている。
【0021】
図3(A)において、二点鎖線で表された方形波は、周期的電気負荷、例えば、ターン・ハザードランプ14の点灯の有無を表したものであり、方形波の部分が周期的電気負荷が発生している状態を表している。
また、同図において、点線の特性線は、従来装置におけるエンジン回転数の変動の例を示すものである。
【0022】
一方、図3(B)は、周期的電気負荷変動に対する燃料噴射量の変動の様子を概略的に表した特性線図であり、横軸は時間を、縦軸は燃料噴射量を、それぞれ表すものとなっている。
図3によれば、従来装置においては、周期的電気負荷変動が生ずると、エンジン回転の変動が生じ、特に、周期的電気負荷変動が停止する付近でエンジン回転数の落ち込みが大きくなり(図3(A)の点線の特性線参照)、それに伴い、その時点近傍で燃料噴射量の増加が大となることが確認できる(図3(B)の点線の特性線参照)。
【0023】
なお、周期的電気負荷変動の発生によってエンジン回転数の変動が生ずる原因としては、周期的電気負荷変動の発生が車両バッテリ3の電圧、電流の変動を招き、それが、例えば、燃料噴射弁(図示せず)の駆動電流、通電時間に影響を与え、燃料噴射量の変化を招くことに一因があると考えられる。
【0024】
これに対して、本発明の実施の形態においては、エンジン回転数のゲイン補正によって、エンジン回転数変動に対応して燃料噴射量の変化量が従来に比して増大するよう補正がなされることで(図3(B)の実線の特性線参照)、エンジン回転数変動は、従来(図3(A)において点線の特性線参照)に比して、僅かなものとなっている(図3(A)において実線の特性線参照)。
なお、本発明の実施の形態において、エンジン回転数のゲイン補正は、より具体的には、燃料噴射制御における目標燃料噴射量の演算算出値が、周期的電気負荷の発生に応じて増加するよう、演算算出過程における適宜な係数を補正することによって行われるものである。なお、個々の車両によって目標燃料噴射量の演算処理において、上述のゲイン補正に用いることが可能な係数は異なるので、ここで特定のものに限定することはできないが、個々の車両において、上述のような補正に用いることができる係数を選択し、シミュレーションや実験等に基づいて、好適な補正の大きさ等を設定するのが好適である。
【0025】
上述のようにして電子制御ユニット101によるステップS106の処理が行われた後は、一連の処理が終了し、電子制御ユニット101による処理は、図示されないメインルーチンへ一旦戻ることとなる。
【符号の説明】
【0026】
12…ターンスイッチ
13…ハザードスイッチ
14…ターンハザードランプ
51…ターンハザード駆動装置
101…電子制御ユニット
102…燃料噴射装置
103…エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転状態に基づいて前記内燃機関の回転制御が可能に構成されてなる車両動作制御装置における内燃機関の回転制御方法であって、
前記内燃機関が所定の低回転状態にあり、且つ、所定の低負荷状態にあって、
周期的な電気負荷が生じている場合に、前記内燃機関の回転制御において、前記内燃機関の回転を変化させ得る係数を、前記内燃機関の回転変動に応じて補正することによって、前記周期的な電気的負荷に起因する内燃機関の回転変動を抑圧可能としたことを特徴とする内燃機関の回転制御方法。
【請求項2】
内燃機関の回転制御における係数の補正は、
内燃機関へ対する燃料噴射量を変化させ得る係数を、周期的電気負荷の発生に応じて補正することを特徴とする請求項2記載の内燃機関の回転制御方法。
【請求項3】
内燃機関の運転状態に基づいて電子制御ユニットにより前記内燃機関の回転制御が可能に構成されてなる車両動作制御装置であって、
前記電子制御ユニットは、
前記内燃機関が所定の低回転状態、且つ、所定の低負荷状態にあって、周期的な電気負荷が発生しているか否かを判定し、
周期的な電気負荷が発生していると判定された場合に、前記内燃機関の回転制御において、予め定められた前記内燃機関の回転を変化させ得る係数を、前記内燃機関の回転変動に応じて補正し、前記周期的な電気的負荷に起因する内燃機関の回転変動を抑圧可能に構成されてなることを特徴とする車両動作制御装置。
【請求項4】
電子制御ユニットは、
内燃機関の回転制御における係数の補正として、予め定められた前記内燃機関へ対する燃料噴射量を変化させ得る係数を、周期的電気負荷の発生に応じて補正するよう構成されてなることを特徴とする請求項3記載の車両動作制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−102606(P2012−102606A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59711(P2009−59711)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】