エンドエフェクタ及び基板搬送装置
【課題】基板の安定な保持及び確実な搬送が可能なエンドエフェクタ及び基板搬送装置を提供すること
【解決手段】本発明のエンドエフェクタ4は、エンドフェクタ本体5と、電気粘性素子6とを具備する。エンドエフェクタ本体5は、円形基板が載置される載置面を有する。電気粘性素子6は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子6であって、載置面上に規定される単一の円上に配置される。
電気粘性素子6は、反りが生じた基板であっても、全体が円形基板に当接する。これにより電気粘性素子6に電圧を印加すると、電気粘性素子6が円形基板に密着し、円形基板を安定して保持することが可能となる。
【解決手段】本発明のエンドエフェクタ4は、エンドフェクタ本体5と、電気粘性素子6とを具備する。エンドエフェクタ本体5は、円形基板が載置される載置面を有する。電気粘性素子6は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子6であって、載置面上に規定される単一の円上に配置される。
電気粘性素子6は、反りが生じた基板であっても、全体が円形基板に当接する。これにより電気粘性素子6に電圧を印加すると、電気粘性素子6が円形基板に密着し、円形基板を安定して保持することが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板搬送に用いられるエンドエフェクタ及び基板搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(Large Scale Integration)用の半導体基板やシリコンウェハー等(以下、基板)を搬送する搬送装置の一種に、ロボットのアームの先端に取り付けられたエンドエフェクタにより基板を保持する搬送装置がある。このような搬送装置は、基板の確実な保持や高い位置精度を必要とし、エンドエフェクタへ基板を保持する保持機構には種々の形態のものが存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、「爪部」が設けられたエンドエフェクタを有する基板保持装置が開示されている。この基板保持装置は、爪部により基板のエッジ部分を把持し、搬送する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−313865号公報(段落[0039]、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような基板保持装置は、例えば高速で基板を搬送する場合等において基板がエンドエフェクタから脱落しないように、爪部が基板に印加する力を強くする必要がある。このため、基板の材質が脆弱な場合には使用することが困難である。また、基板に加熱等による反りが発生する場合があるが、このような場合には爪部による把持が不安定となるおそれがある。さらに、爪部が基部に接触するため、ダストが発生するおそれもある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、基板の安定な保持及び確実な搬送が可能なエンドエフェクタ及び基板搬送装置を提供することにある。
を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るエンドエフェクタは、エンドフェクタ本体と、電気粘性素子とを具備する。
上記エンドエフェクタ本体は、円形基板が載置される載置面を有する。
上記電気粘性素子は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって、上記載置面上に規定される単一の円上に配置される。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る搬送装置は、エンドフェクタと、アームと、駆動部とを具備する。
上記エンドエフェクタは、円形基板が載置される設置面を有するエンドエフェクタ本体と、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって上記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子とを有する。
上記アームは、上記エンドエフェクタに接続される。
上記駆動部は上記アームを駆動する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る基板搬送装置の斜視図である。
【図2】同基板搬送装置が搬送対象とする基板の断面図である。
【図3】同基板搬送装置のエンドエフェクタの斜視図である。
【図4】同基板搬送装置のエンドエフェクタの平面図である。
【図5】同基板搬送装置の電気粘性素子の構造を示す模式図である。
【図6】同基板搬送装置の動作を示す模式図である。
【図7】同基板搬送装置の基板を支持する電気粘性素子を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例及び比較例に係るアームの動作条件を示す表である。
【図9】本発明の実施例の測定結果を示す表である。
【図10】本発明の実施例の測定結果を示す表である。
【図11】比較例の測定結果を示す表である。
【図12】比較例の測定結果を示す表である。
【図13】本発明の実施形態に係る基板搬送装置の電気粘性素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るエンドエフェクタは、エンドフェクタ本体と、電気粘性素子とを具備する。上記エンドエフェクタ本体は、円形基板が載置される載置面を有する。上記電気粘性素子は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって、上記載置面上に規定される単一の円上に配置される。
【0011】
円形基板は加熱等により反りが発生する場合があるが、反りは円形基板の形状に応じて円周方向に一様に発生し、円形基板は部分的な球面のような形状となる。ここで本実施形態に係る電気粘性素子は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成され、載置面上に規定される円上に配置されているため、上記のような反りが生じた基板であっても、全体が円形基板に当接する。これにより、電気粘性素子に電圧(電気粘性効果を生じさせるための電圧)を印加すると、電気粘性素子が円形基板に密着し、安定して保持することが可能となる。また、本実施形態に係るエンドエフェクタは、円形基板に外部から力を印加することなく円形基板を保持するため、脆弱な材料からなる基板であっても保持が可能となる。
さらに当該エンドエフェクタは機械的な可動機構を有しないため、可動機構と円形基板との摩擦によるダストの発生を防止することが可能である。
【0012】
上記電気粘性素子は、絶縁体からなる絶縁層と、上記絶縁層上に積層された導電体からなる電極層と、上記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、上記絶縁層が下層となるように上記載置面に載置されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、電極層に電圧を印加することにより、電気粘性ゲル層の表面に存在していた微粒子がゲル中に引きこまれ、電気粘性ゲル層の粘着性が増大する。エンドエフェクタ本体が導電性材料からなる場合、このような構成を有する素子を本実施形態に係る電気粘性素子として用いることが可能である。
【0014】
上記電気粘性素子は、導電体からなる電極層と、上記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、上記電極層が下層となるように上記載置面に載置されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、電極層に電圧を印加することにより、電気粘性ゲル層の表面に存在していた微粒子がゲル中に引きこまれ、電気粘性ゲル層の粘着性が増大する。エンドエフェクタ本体が絶縁性材料からなる場合、このような構成を有する素子を本実施形態に係る電気粘性素子として用いることが可能である。
【0016】
上記エンドエフェクタ本体は、上記載置面を有する基部と、上記基部から突出して形成されそれぞれが上記載置面を有し互いに離間する一対の支持部とを有し、上記複数の電気粘性素子は、上記基部及び上記一対の支持部のそれぞれに配置されていてもよい。
【0017】
基板搬送装置が基板を取得(エンドエフェクタに基板を載置させる)する手法の一つに、リフトピンを用いる手法がある。この手法は、リフトピンによってリフトされている基板の下方にエンドエフェクタを差し入れ、リフトピンを下降させて基板をエンドエフェクタに載置させるものである。本実施形態に係るエンドエフェクタ本体は、互いに離間する一対の支持部を有し、これらの支持部の間隙にリフトピンを位置させることが可能なものである。これにより、円形基板は支持部上にも載置される。本実施形態に係るエンドエフェクタは、上記形状及び配置を有する電気粘性素子が支持部にも設けられているため、円形基板を安定して保持することが可能である。
【0018】
上記複数の電気粘性素子は、3個の電気粘性素子であり、上記3個の電気粘性素子は、それぞれが、上記円の中心から上記円の半径方向に120°ずつの間隔をあけて引かれる3本の直線に掛かるように配置されていてもよい。
【0019】
3個の電気粘性素子をこのように配置することにより、円形基板の円周方向において均等に円形基板を支持することができ、円形基板を安定して保持することが可能となる。
【0020】
本実施形態に係る搬送装置は、エンドフェクタと、アームと、駆動部とを具備する。
上記エンドエフェクタは、円形基板が載置される設置面を有するエンドエフェクタ本体と、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって上記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子とを有する。
上記アームは、上記エンドエフェクタに接続される。
上記駆動部は上記アームを駆動する。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
[基板搬送装置の全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る基板搬送装置1を示す斜視図である。
図1に示すように、基板搬送装置1は、駆動部2、アーム3及びエンドエフェクタ4を有する。駆動部2の一端にアーム3が連結され、アーム3の他端にエンドエフェクタ4が連結されている。また、図1にはエンドエフェクタ4に載置された円形基板Wを示す。
【0023】
駆動部2は、電動モーター等の回転動力源と動力伝達機構を内蔵し、アーム3に回転動力を伝達する。駆動部2は、回転角度や回転速度等を制御可能に構成されている。駆動部2の構造や配置は特に限定されない。
【0024】
アーム3は、駆動部2によって駆動され、伸縮あるいは旋回等の動作によりエンドエフェクタ4を移動させる。アーム3の構造は特に限定されず、水平多関節型アームやフロッグレッグ型アーム等とすることができる。
【0025】
エンドエフェクタ4は円形基板Wを保持可能に構成されている。エンドエフェクタ4の詳細な構成については後述する。
【0026】
基板搬送装置1の構成はここに示すものに限られず、例えば1基の駆動部2に対して複数のアーム3及びエンドエフェクタ4が設けられたものとすることも可能である。基板搬送装置1は例えば、複数のプロセスチャンバが連結されたマルチチャンバの基板搬送室に収容され、プロセスチャンバ間で基板を搬送する装置として用いることができる。
【0027】
[基板について]
基板搬送装置1の搬送対象物である円形基板Wについて説明する。円形基板Wは円板状の基板であり、LSI用の半導体基板やシリコンウェハー等、その種類は問わない。円形基板Wの厚さやサイズも特に限定されないが、後述するエンドエフェクタ4の構成に応じて保持可能な厚さやサイズが決定される。なお、シリコンウェハーの一般的な最大サイズは直径300mm程度である。
【0028】
このような基板の中には、加熱処理等により「反り」が発生するものも存在する。図2は円形基板Wの断面図である。図2(a)は反りが生じていない円形基板Wを示し、図2(b)は反りが生じている円形基板Wを示す。同図に示すように、反りは円形基板Wの形状に応じて円周方向に一様に発生し、円形基板Wは部分的な球面のような形状となる。
【0029】
上述のように、円形基板Wはエンドエフェクタ4に保持されるものであるが、反りが生じた円形基板Wがエンドエフェクタ上に凸状となるように載置される場合と凹状となるように載置される場合が考えられる。なお、図2(b)に示す円形基板Wは反りを誇張して示されており、実際には、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)は例えば数十〜数百μm程度である。
【0030】
以下に説明するエンドエフェクタ4は、このような反りが発生している円形基板Wに対しても安定した保持が可能なものである。
【0031】
[エンドエフェクタの構成]
図3はエンドエフェクタ4を示す斜視図であり、図4はエンドエフェクタ4を示す平面図である。図4にはエンドエフェクタ4に保持された円形基板Wを示す。これらの図に示すように、エンドエフェクタ4は、エンドエフェクタ本体5及び電気粘性素子6を有する。電気粘性素子6はエンドエフェクタ本体5上に設けられている。
【0032】
エンドエフェクタ本体5は、円形基板Wが載置される面(以下、載置面)を有する。図3及び図4には、エンドエフェクタ本体5の載置面が示されている。エンドエフェクタ本体5は、板状とすることができ、基部5a及び一対の支持部5bによって構成されている。エンドエフェクタ本体5は、ステンレス等の導電性材料あるいはアルミナ等の絶縁性材料からなるものとすることができる。
【0033】
基部5aはアーム3に接続される部分であり、アーム3との接続に用いられるネジ孔5cが形成されている。支持部5bは、基部5aのアーム3と接続されている側とは反対側に、基部5aから突出して形成されている。一対の支持部5bは互いに離間するように配置されている。詳細は後述するが、円形基板Wは基部5a及び支持部5bにわたって載置され、即ち、基部5a及び支持部5bが載置面を有する。
【0034】
電気粘性素子6は、円弧形状に形成され、載置面に載置された円形基板Wを保持する。「円弧形状」とは、円弧を中心として一定の厚さ及び幅を有する形状であって、換言すれば一定の幅及び厚さを有する円環を切断して得られる形状である。図4に示すように、各電気粘性素子6は互いに同一の半径r(円弧の半径)を有し、載置面上に規定される単一の円C上に配置されている。電気粘性素子6は複数が配置され、特に円形基板Wの平行を保つことができる3個が好適である。その場合、各電気粘性素子6は、円Cの中心から円Cの半径方向に120°ずつの間隔をあけて引かれる3本の直線(図4に直線Lとして示す)に掛かるように配置することができる。
【0035】
また、電気粘性素子6の円弧の半径rは、円形基板Wの半径の50%〜90%、特に75%〜85%が好適である。各電気粘性素子6の幅は、半径rの5〜20%が好適である。各電気粘性素子6の長さ(円弧の長さ)は30〜250mmが好適である。各電気粘性素子6の面積は200〜4500mm2、特に150〜1300mm2が好適である。
【0036】
電気粘性素子6の構造について説明する。図5は、電気粘性素子6の構造を示す模式図である。図5(a)は電界非印加状態を示し図5(b)は電界印加状態を示す。同図に示すように、電気粘性素子6は、絶縁層7、電極層8及び電気粘性ゲル層9を有し、絶縁層7上に電極層8、電極層8上に電気粘性ゲル層9が積層されて構成されている。電気粘性素子6は絶縁層7を下にしてエンドエフェクタ本体5の載置面に設けられている。
【0037】
絶縁層7は合成樹脂等の絶縁性材料からなり、電極層8とエンドエフェクタ本体5を絶縁する。電極層8は金属等の導電性材料からなり、電気粘性ゲル層9に電界を印加する。電極層8は櫛歯電極とすることができる。電極層8は図示しない導線により、駆動部2等に設けられた電源に接続されている。
【0038】
電気粘性ゲル層9は、電気粘性ゲル(ERG:electro rheological gel)からなる。具体的には、電気粘性ゲル層9は、微粒子9aとゲル9bによって構成されてる。微粒子9aは、誘電性材料からなる微粒子であり、ゲル9b中に分散されている。ゲル9bは、絶縁性材料からなり、粘着性を有するゲルである。
【0039】
電気粘性素子6はこのように構成されている。なお、ここに示した電気粘性素子6の構造は、エンドエフェクタ本体5が導電性材料からなる場合の構造である。エンドエフェクタ本体5が絶縁性材料からなる場合、図13に示すように、上記絶縁層7は必要ではなく、電気粘性素子6は電極層8及び電気粘性ゲル層9のみを有する構造とすることができる。この場合には電気粘性素子6は電極層8を下にしてエンドフェクタ5の載置面に設けられる。
【0040】
電気粘性素子6は、電極層8に電圧が印加されていない場合には図5(a)に示す電界非印加状態をとり、電極層8に電圧が印加されている場合には図5(b)に示す電圧印加状態をとる。
【0041】
図5(a)に示す電界非印加状態では、ゲル9bの表面に微粒子9aが存在している。電気粘性ゲル層9の表面に接触した物体は、主として微粒子9aに接触し、ゲル9bとの接触が妨げられるため、電気粘性ゲル層9の粘着性は小さい。一方、図5(b)に示す電界印加状態では、ゲル9bの表面に存在していた微粒子9aがゲル9b中に引き込まれる。電気粘性ゲル層9の表面に接触した物体は、ゲル9bと接触するため、電気粘性ゲル層9の粘着性は大きくなる。なお、このような電圧の印加による粘着性(流動性)の増減は電気粘性効果と呼ばれる。
【0042】
このように、電気粘性素子6は、電極層8への電圧印加の有無により、電気粘性素子6の粘着性を増減することが可能なものである。本実施形態では、この電気粘性素子6を用いて、エンドエフェクタ4に載置された円形基板Wの保持を行う。
【0043】
[基板搬送装置の動作]
基板搬送装置1の動作について説明する。図6は、基板搬送装置1の動作を示す模式図である。図6(a)に示すように、円形基板Wは、プロセスチャンバ等に設けられているリフトピンPによってリフトされている。駆動部2によってアーム3が駆動され、エンドエフェクタ4が移動される。
【0044】
エンドエフェクタ4は、図6(b)に示すように円形基板Wの下方、リフトピンPが2本の支持部5bの間となる位置であって、リフトピンPの中心が上記円C(図4参照)の中心と一致する位置となるように移動される。
【0045】
続いて、図6(c)に示すように、リフトピンPが下降し、円形基板Wがエンドエフェクタ4の上に載置される。ここで、上述のようにエンドエフェクタ4には電気粘性素子6が形成されているため、円形基板Wは電気粘性素子6によって支持される。図7は円形基板Wを支持する電気粘性素子6を示す模式図である。図7(a)は円形基板Wが載置面において凹状に反っている場合であり、図7(b)は円形基板Wが載置面において凸状に反っている場合である。
【0046】
上述のように、電気粘性素子6は互いに同一の半径を有する円弧形状に形成され、円C上に配置されている。このため図7に示すように、円形基板Wに反りが生じていても電気粘性素子6の全体(円弧の全周)が円形基板Wに当接する。なお、図7では、円形基板Wの反り及び電気粘性素子6の厚さは誇張されている。
【0047】
ここで、上述のように電気粘性素子6の電極層8に電圧が印加され、電気粘性素子6の粘着力が増大する。これにより、円形基板Wに電気粘性素子6が密着し、円形基板Wが保持される。上述のように、円形基板Wをエンドエフェクタ4に載置した状態で電気粘性素子6の全体が円形基板Wに当接するため、電圧を供給した際に電気粘性素子6が円形基板Wに密着し、円形基板Wを確実に保持することが可能である。
【0048】
このようにして、基板搬送装置1は円形基板Wを取得する。再び駆動部2によってアーム3が駆動され、目的の位置までエンドエフェクタ4が移動される。図6(c)に示すように、エンドエフェクタ4は、目的の位置に設けられているリフトピンPの中心が上記円Cの中心と一致する位置に移動されるものとすることができる。
【0049】
ここで、上述のように電気粘性素子6の電極層8への電圧の印加が停止され、電気粘性素子6の粘着力が減少する。図6(b)に示すように、リフトピンPが上昇し、円形基板Wをエンドエフェクタ4からリフトする。図6(a)に示すように、エンドエフェクタ4が移動される。
【0050】
基板搬送装置1は以上のようにして円形基板Wを搬送する。基板搬送装置1は、電気粘性素子6の形状及び配置により電気粘性素子6が円形基板Wに密着するため、円形基板Wの安定な保持及び確実な搬送が可能である。また、基板搬送装置1は、円形基板Wに外部から力を印加することなく円形基板Wを保持するため、脆弱な材料からなる基板であっても搬送が可能である。さらに基板搬送装置1はエンドエフェクタ4に機械的な可動機構を有しないため、可動機構と基板との摩擦によるダストの発生を防止することが可能である。
【0051】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更することが可能である。
【0052】
エンドエフェクタへの基板の載置は、リフトピンを用いるものに限られない。この場合、エンドエフェクタ本体の形状も上記実施形態に示したような形状には限られず、適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0053】
上記実施形態に示したエンドエフェクタ及び比較例に係るエンドエフェクタに、反りが生じた円板状の基板を載置した。この状態でアームを180°旋回動作させ、基板のズレ量を測定した。ズレ量は、CCD(Charge Coupled Device)センサを用いて測定した。なお、比較例に係るエンドエフェクタは、円弧形状ではなく正方形状の電気粘性素子を実施形態に係るエンドエフェクタと同様の位置に配置したものである。
【0054】
図8はアームの動作条件を示す表である。表に示すように、アームの動作時間をa〜hに示す各値に設定しアームを旋回させた。図9及び図10は実施例に係る測定結果を示す表であり、図11及び図12は比較例に係る測定結果を示す表である。各実施例及び各比較例において、アームの旋回方向は時計周り(CW)と反時計回り(CCW)であり、印加電圧は電気粘性素子の電極に印加した電圧である。
【0055】
(実施例1)
実施形態に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が320μmの基板を凸状となるように載置した。なお、電気粘性素子のサイズは、基部に設けられたものが、円弧の半径:150mm、幅:8mm、中心角:40°であり、支持部に設けられたものが、円弧の半径:150mm、幅:8mm、支持部の幅:22mmである。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0056】
(実施例2)
実施形態に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が70μmの基板を凹状となるように載置した。電気粘性素子のサイズは実施例1と同一である。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0057】
(比較例1)
比較例に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が320μmの基板を凸状となるように載置した。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0058】
(比較例2)
実施形態に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が70μmの基板を凹状となるように載置した。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0059】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2を比較すると、全ての動作条件において、電気粘性素子への電圧印加の有無に係わらず、実施例に係るエンドエフェクタでの基板のズレ量は減少している。これにより、上記実施形態に係るエンドエフェクタは、比較例のものに比べて確実に基板を保持することが可能であるといえる。
【符号の説明】
【0060】
1…基板搬送装置
2…駆動部
3…アーム
4…エンドエフェクタ
5…エンドエフェクタ本体
5a…基部
5b…支持部
6…電気粘性素子
7…絶縁層
8…電極層
9…電気粘性ゲル層
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板搬送に用いられるエンドエフェクタ及び基板搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI(Large Scale Integration)用の半導体基板やシリコンウェハー等(以下、基板)を搬送する搬送装置の一種に、ロボットのアームの先端に取り付けられたエンドエフェクタにより基板を保持する搬送装置がある。このような搬送装置は、基板の確実な保持や高い位置精度を必要とし、エンドエフェクタへ基板を保持する保持機構には種々の形態のものが存在する。
【0003】
例えば、特許文献1には、「爪部」が設けられたエンドエフェクタを有する基板保持装置が開示されている。この基板保持装置は、爪部により基板のエッジ部分を把持し、搬送する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−313865号公報(段落[0039]、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような基板保持装置は、例えば高速で基板を搬送する場合等において基板がエンドエフェクタから脱落しないように、爪部が基板に印加する力を強くする必要がある。このため、基板の材質が脆弱な場合には使用することが困難である。また、基板に加熱等による反りが発生する場合があるが、このような場合には爪部による把持が不安定となるおそれがある。さらに、爪部が基部に接触するため、ダストが発生するおそれもある。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、基板の安定な保持及び確実な搬送が可能なエンドエフェクタ及び基板搬送装置を提供することにある。
を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るエンドエフェクタは、エンドフェクタ本体と、電気粘性素子とを具備する。
上記エンドエフェクタ本体は、円形基板が載置される載置面を有する。
上記電気粘性素子は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって、上記載置面上に規定される単一の円上に配置される。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る搬送装置は、エンドフェクタと、アームと、駆動部とを具備する。
上記エンドエフェクタは、円形基板が載置される設置面を有するエンドエフェクタ本体と、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって上記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子とを有する。
上記アームは、上記エンドエフェクタに接続される。
上記駆動部は上記アームを駆動する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態に係る基板搬送装置の斜視図である。
【図2】同基板搬送装置が搬送対象とする基板の断面図である。
【図3】同基板搬送装置のエンドエフェクタの斜視図である。
【図4】同基板搬送装置のエンドエフェクタの平面図である。
【図5】同基板搬送装置の電気粘性素子の構造を示す模式図である。
【図6】同基板搬送装置の動作を示す模式図である。
【図7】同基板搬送装置の基板を支持する電気粘性素子を示す模式図である。
【図8】本発明の実施例及び比較例に係るアームの動作条件を示す表である。
【図9】本発明の実施例の測定結果を示す表である。
【図10】本発明の実施例の測定結果を示す表である。
【図11】比較例の測定結果を示す表である。
【図12】比較例の測定結果を示す表である。
【図13】本発明の実施形態に係る基板搬送装置の電気粘性素子の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るエンドエフェクタは、エンドフェクタ本体と、電気粘性素子とを具備する。上記エンドエフェクタ本体は、円形基板が載置される載置面を有する。上記電気粘性素子は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって、上記載置面上に規定される単一の円上に配置される。
【0011】
円形基板は加熱等により反りが発生する場合があるが、反りは円形基板の形状に応じて円周方向に一様に発生し、円形基板は部分的な球面のような形状となる。ここで本実施形態に係る電気粘性素子は、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成され、載置面上に規定される円上に配置されているため、上記のような反りが生じた基板であっても、全体が円形基板に当接する。これにより、電気粘性素子に電圧(電気粘性効果を生じさせるための電圧)を印加すると、電気粘性素子が円形基板に密着し、安定して保持することが可能となる。また、本実施形態に係るエンドエフェクタは、円形基板に外部から力を印加することなく円形基板を保持するため、脆弱な材料からなる基板であっても保持が可能となる。
さらに当該エンドエフェクタは機械的な可動機構を有しないため、可動機構と円形基板との摩擦によるダストの発生を防止することが可能である。
【0012】
上記電気粘性素子は、絶縁体からなる絶縁層と、上記絶縁層上に積層された導電体からなる電極層と、上記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、上記絶縁層が下層となるように上記載置面に載置されていてもよい。
【0013】
この構成によれば、電極層に電圧を印加することにより、電気粘性ゲル層の表面に存在していた微粒子がゲル中に引きこまれ、電気粘性ゲル層の粘着性が増大する。エンドエフェクタ本体が導電性材料からなる場合、このような構成を有する素子を本実施形態に係る電気粘性素子として用いることが可能である。
【0014】
上記電気粘性素子は、導電体からなる電極層と、上記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、上記電極層が下層となるように上記載置面に載置されていてもよい。
【0015】
この構成によれば、電極層に電圧を印加することにより、電気粘性ゲル層の表面に存在していた微粒子がゲル中に引きこまれ、電気粘性ゲル層の粘着性が増大する。エンドエフェクタ本体が絶縁性材料からなる場合、このような構成を有する素子を本実施形態に係る電気粘性素子として用いることが可能である。
【0016】
上記エンドエフェクタ本体は、上記載置面を有する基部と、上記基部から突出して形成されそれぞれが上記載置面を有し互いに離間する一対の支持部とを有し、上記複数の電気粘性素子は、上記基部及び上記一対の支持部のそれぞれに配置されていてもよい。
【0017】
基板搬送装置が基板を取得(エンドエフェクタに基板を載置させる)する手法の一つに、リフトピンを用いる手法がある。この手法は、リフトピンによってリフトされている基板の下方にエンドエフェクタを差し入れ、リフトピンを下降させて基板をエンドエフェクタに載置させるものである。本実施形態に係るエンドエフェクタ本体は、互いに離間する一対の支持部を有し、これらの支持部の間隙にリフトピンを位置させることが可能なものである。これにより、円形基板は支持部上にも載置される。本実施形態に係るエンドエフェクタは、上記形状及び配置を有する電気粘性素子が支持部にも設けられているため、円形基板を安定して保持することが可能である。
【0018】
上記複数の電気粘性素子は、3個の電気粘性素子であり、上記3個の電気粘性素子は、それぞれが、上記円の中心から上記円の半径方向に120°ずつの間隔をあけて引かれる3本の直線に掛かるように配置されていてもよい。
【0019】
3個の電気粘性素子をこのように配置することにより、円形基板の円周方向において均等に円形基板を支持することができ、円形基板を安定して保持することが可能となる。
【0020】
本実施形態に係る搬送装置は、エンドフェクタと、アームと、駆動部とを具備する。
上記エンドエフェクタは、円形基板が載置される設置面を有するエンドエフェクタ本体と、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって上記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子とを有する。
上記アームは、上記エンドエフェクタに接続される。
上記駆動部は上記アームを駆動する。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0022】
[基板搬送装置の全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る基板搬送装置1を示す斜視図である。
図1に示すように、基板搬送装置1は、駆動部2、アーム3及びエンドエフェクタ4を有する。駆動部2の一端にアーム3が連結され、アーム3の他端にエンドエフェクタ4が連結されている。また、図1にはエンドエフェクタ4に載置された円形基板Wを示す。
【0023】
駆動部2は、電動モーター等の回転動力源と動力伝達機構を内蔵し、アーム3に回転動力を伝達する。駆動部2は、回転角度や回転速度等を制御可能に構成されている。駆動部2の構造や配置は特に限定されない。
【0024】
アーム3は、駆動部2によって駆動され、伸縮あるいは旋回等の動作によりエンドエフェクタ4を移動させる。アーム3の構造は特に限定されず、水平多関節型アームやフロッグレッグ型アーム等とすることができる。
【0025】
エンドエフェクタ4は円形基板Wを保持可能に構成されている。エンドエフェクタ4の詳細な構成については後述する。
【0026】
基板搬送装置1の構成はここに示すものに限られず、例えば1基の駆動部2に対して複数のアーム3及びエンドエフェクタ4が設けられたものとすることも可能である。基板搬送装置1は例えば、複数のプロセスチャンバが連結されたマルチチャンバの基板搬送室に収容され、プロセスチャンバ間で基板を搬送する装置として用いることができる。
【0027】
[基板について]
基板搬送装置1の搬送対象物である円形基板Wについて説明する。円形基板Wは円板状の基板であり、LSI用の半導体基板やシリコンウェハー等、その種類は問わない。円形基板Wの厚さやサイズも特に限定されないが、後述するエンドエフェクタ4の構成に応じて保持可能な厚さやサイズが決定される。なお、シリコンウェハーの一般的な最大サイズは直径300mm程度である。
【0028】
このような基板の中には、加熱処理等により「反り」が発生するものも存在する。図2は円形基板Wの断面図である。図2(a)は反りが生じていない円形基板Wを示し、図2(b)は反りが生じている円形基板Wを示す。同図に示すように、反りは円形基板Wの形状に応じて円周方向に一様に発生し、円形基板Wは部分的な球面のような形状となる。
【0029】
上述のように、円形基板Wはエンドエフェクタ4に保持されるものであるが、反りが生じた円形基板Wがエンドエフェクタ上に凸状となるように載置される場合と凹状となるように載置される場合が考えられる。なお、図2(b)に示す円形基板Wは反りを誇張して示されており、実際には、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)は例えば数十〜数百μm程度である。
【0030】
以下に説明するエンドエフェクタ4は、このような反りが発生している円形基板Wに対しても安定した保持が可能なものである。
【0031】
[エンドエフェクタの構成]
図3はエンドエフェクタ4を示す斜視図であり、図4はエンドエフェクタ4を示す平面図である。図4にはエンドエフェクタ4に保持された円形基板Wを示す。これらの図に示すように、エンドエフェクタ4は、エンドエフェクタ本体5及び電気粘性素子6を有する。電気粘性素子6はエンドエフェクタ本体5上に設けられている。
【0032】
エンドエフェクタ本体5は、円形基板Wが載置される面(以下、載置面)を有する。図3及び図4には、エンドエフェクタ本体5の載置面が示されている。エンドエフェクタ本体5は、板状とすることができ、基部5a及び一対の支持部5bによって構成されている。エンドエフェクタ本体5は、ステンレス等の導電性材料あるいはアルミナ等の絶縁性材料からなるものとすることができる。
【0033】
基部5aはアーム3に接続される部分であり、アーム3との接続に用いられるネジ孔5cが形成されている。支持部5bは、基部5aのアーム3と接続されている側とは反対側に、基部5aから突出して形成されている。一対の支持部5bは互いに離間するように配置されている。詳細は後述するが、円形基板Wは基部5a及び支持部5bにわたって載置され、即ち、基部5a及び支持部5bが載置面を有する。
【0034】
電気粘性素子6は、円弧形状に形成され、載置面に載置された円形基板Wを保持する。「円弧形状」とは、円弧を中心として一定の厚さ及び幅を有する形状であって、換言すれば一定の幅及び厚さを有する円環を切断して得られる形状である。図4に示すように、各電気粘性素子6は互いに同一の半径r(円弧の半径)を有し、載置面上に規定される単一の円C上に配置されている。電気粘性素子6は複数が配置され、特に円形基板Wの平行を保つことができる3個が好適である。その場合、各電気粘性素子6は、円Cの中心から円Cの半径方向に120°ずつの間隔をあけて引かれる3本の直線(図4に直線Lとして示す)に掛かるように配置することができる。
【0035】
また、電気粘性素子6の円弧の半径rは、円形基板Wの半径の50%〜90%、特に75%〜85%が好適である。各電気粘性素子6の幅は、半径rの5〜20%が好適である。各電気粘性素子6の長さ(円弧の長さ)は30〜250mmが好適である。各電気粘性素子6の面積は200〜4500mm2、特に150〜1300mm2が好適である。
【0036】
電気粘性素子6の構造について説明する。図5は、電気粘性素子6の構造を示す模式図である。図5(a)は電界非印加状態を示し図5(b)は電界印加状態を示す。同図に示すように、電気粘性素子6は、絶縁層7、電極層8及び電気粘性ゲル層9を有し、絶縁層7上に電極層8、電極層8上に電気粘性ゲル層9が積層されて構成されている。電気粘性素子6は絶縁層7を下にしてエンドエフェクタ本体5の載置面に設けられている。
【0037】
絶縁層7は合成樹脂等の絶縁性材料からなり、電極層8とエンドエフェクタ本体5を絶縁する。電極層8は金属等の導電性材料からなり、電気粘性ゲル層9に電界を印加する。電極層8は櫛歯電極とすることができる。電極層8は図示しない導線により、駆動部2等に設けられた電源に接続されている。
【0038】
電気粘性ゲル層9は、電気粘性ゲル(ERG:electro rheological gel)からなる。具体的には、電気粘性ゲル層9は、微粒子9aとゲル9bによって構成されてる。微粒子9aは、誘電性材料からなる微粒子であり、ゲル9b中に分散されている。ゲル9bは、絶縁性材料からなり、粘着性を有するゲルである。
【0039】
電気粘性素子6はこのように構成されている。なお、ここに示した電気粘性素子6の構造は、エンドエフェクタ本体5が導電性材料からなる場合の構造である。エンドエフェクタ本体5が絶縁性材料からなる場合、図13に示すように、上記絶縁層7は必要ではなく、電気粘性素子6は電極層8及び電気粘性ゲル層9のみを有する構造とすることができる。この場合には電気粘性素子6は電極層8を下にしてエンドフェクタ5の載置面に設けられる。
【0040】
電気粘性素子6は、電極層8に電圧が印加されていない場合には図5(a)に示す電界非印加状態をとり、電極層8に電圧が印加されている場合には図5(b)に示す電圧印加状態をとる。
【0041】
図5(a)に示す電界非印加状態では、ゲル9bの表面に微粒子9aが存在している。電気粘性ゲル層9の表面に接触した物体は、主として微粒子9aに接触し、ゲル9bとの接触が妨げられるため、電気粘性ゲル層9の粘着性は小さい。一方、図5(b)に示す電界印加状態では、ゲル9bの表面に存在していた微粒子9aがゲル9b中に引き込まれる。電気粘性ゲル層9の表面に接触した物体は、ゲル9bと接触するため、電気粘性ゲル層9の粘着性は大きくなる。なお、このような電圧の印加による粘着性(流動性)の増減は電気粘性効果と呼ばれる。
【0042】
このように、電気粘性素子6は、電極層8への電圧印加の有無により、電気粘性素子6の粘着性を増減することが可能なものである。本実施形態では、この電気粘性素子6を用いて、エンドエフェクタ4に載置された円形基板Wの保持を行う。
【0043】
[基板搬送装置の動作]
基板搬送装置1の動作について説明する。図6は、基板搬送装置1の動作を示す模式図である。図6(a)に示すように、円形基板Wは、プロセスチャンバ等に設けられているリフトピンPによってリフトされている。駆動部2によってアーム3が駆動され、エンドエフェクタ4が移動される。
【0044】
エンドエフェクタ4は、図6(b)に示すように円形基板Wの下方、リフトピンPが2本の支持部5bの間となる位置であって、リフトピンPの中心が上記円C(図4参照)の中心と一致する位置となるように移動される。
【0045】
続いて、図6(c)に示すように、リフトピンPが下降し、円形基板Wがエンドエフェクタ4の上に載置される。ここで、上述のようにエンドエフェクタ4には電気粘性素子6が形成されているため、円形基板Wは電気粘性素子6によって支持される。図7は円形基板Wを支持する電気粘性素子6を示す模式図である。図7(a)は円形基板Wが載置面において凹状に反っている場合であり、図7(b)は円形基板Wが載置面において凸状に反っている場合である。
【0046】
上述のように、電気粘性素子6は互いに同一の半径を有する円弧形状に形成され、円C上に配置されている。このため図7に示すように、円形基板Wに反りが生じていても電気粘性素子6の全体(円弧の全周)が円形基板Wに当接する。なお、図7では、円形基板Wの反り及び電気粘性素子6の厚さは誇張されている。
【0047】
ここで、上述のように電気粘性素子6の電極層8に電圧が印加され、電気粘性素子6の粘着力が増大する。これにより、円形基板Wに電気粘性素子6が密着し、円形基板Wが保持される。上述のように、円形基板Wをエンドエフェクタ4に載置した状態で電気粘性素子6の全体が円形基板Wに当接するため、電圧を供給した際に電気粘性素子6が円形基板Wに密着し、円形基板Wを確実に保持することが可能である。
【0048】
このようにして、基板搬送装置1は円形基板Wを取得する。再び駆動部2によってアーム3が駆動され、目的の位置までエンドエフェクタ4が移動される。図6(c)に示すように、エンドエフェクタ4は、目的の位置に設けられているリフトピンPの中心が上記円Cの中心と一致する位置に移動されるものとすることができる。
【0049】
ここで、上述のように電気粘性素子6の電極層8への電圧の印加が停止され、電気粘性素子6の粘着力が減少する。図6(b)に示すように、リフトピンPが上昇し、円形基板Wをエンドエフェクタ4からリフトする。図6(a)に示すように、エンドエフェクタ4が移動される。
【0050】
基板搬送装置1は以上のようにして円形基板Wを搬送する。基板搬送装置1は、電気粘性素子6の形状及び配置により電気粘性素子6が円形基板Wに密着するため、円形基板Wの安定な保持及び確実な搬送が可能である。また、基板搬送装置1は、円形基板Wに外部から力を印加することなく円形基板Wを保持するため、脆弱な材料からなる基板であっても搬送が可能である。さらに基板搬送装置1はエンドエフェクタ4に機械的な可動機構を有しないため、可動機構と基板との摩擦によるダストの発生を防止することが可能である。
【0051】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更することが可能である。
【0052】
エンドエフェクタへの基板の載置は、リフトピンを用いるものに限られない。この場合、エンドエフェクタ本体の形状も上記実施形態に示したような形状には限られず、適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0053】
上記実施形態に示したエンドエフェクタ及び比較例に係るエンドエフェクタに、反りが生じた円板状の基板を載置した。この状態でアームを180°旋回動作させ、基板のズレ量を測定した。ズレ量は、CCD(Charge Coupled Device)センサを用いて測定した。なお、比較例に係るエンドエフェクタは、円弧形状ではなく正方形状の電気粘性素子を実施形態に係るエンドエフェクタと同様の位置に配置したものである。
【0054】
図8はアームの動作条件を示す表である。表に示すように、アームの動作時間をa〜hに示す各値に設定しアームを旋回させた。図9及び図10は実施例に係る測定結果を示す表であり、図11及び図12は比較例に係る測定結果を示す表である。各実施例及び各比較例において、アームの旋回方向は時計周り(CW)と反時計回り(CCW)であり、印加電圧は電気粘性素子の電極に印加した電圧である。
【0055】
(実施例1)
実施形態に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が320μmの基板を凸状となるように載置した。なお、電気粘性素子のサイズは、基部に設けられたものが、円弧の半径:150mm、幅:8mm、中心角:40°であり、支持部に設けられたものが、円弧の半径:150mm、幅:8mm、支持部の幅:22mmである。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0056】
(実施例2)
実施形態に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が70μmの基板を凹状となるように載置した。電気粘性素子のサイズは実施例1と同一である。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0057】
(比較例1)
比較例に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が320μmの基板を凸状となるように載置した。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0058】
(比較例2)
実施形態に係るエンドエフェクタに、反り幅(基板を平面に載置した際の基板周縁部の当該平面からの高さ)が70μmの基板を凹状となるように載置した。電気粘性素子の電極に電圧を印加しない場合と電圧を印加(1kV)した場合のそれぞれにおいてアームを時計回り及び反時計回りに旋回させた。
【0059】
実施例1と比較例1、実施例2と比較例2を比較すると、全ての動作条件において、電気粘性素子への電圧印加の有無に係わらず、実施例に係るエンドエフェクタでの基板のズレ量は減少している。これにより、上記実施形態に係るエンドエフェクタは、比較例のものに比べて確実に基板を保持することが可能であるといえる。
【符号の説明】
【0060】
1…基板搬送装置
2…駆動部
3…アーム
4…エンドエフェクタ
5…エンドエフェクタ本体
5a…基部
5b…支持部
6…電気粘性素子
7…絶縁層
8…電極層
9…電気粘性ゲル層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形基板が載置される載置面を有するエンドエフェクタ本体と、
互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって、前記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子と
を具備するエンドエフェクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のエンドエフェクタであって、
前記電気粘性素子は、絶縁体からなる絶縁層と、前記絶縁層上に積層された導電体からなる電極層と、前記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、前記絶縁層が下層となるように前記載置面に載置されている
エンドエフェクタ。
【請求項3】
請求項1に記載のエンドエフェクタであって、
前記電気粘性素子は、導電体からなる電極層と、前記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、前記電極層が下層となるように前記載置面に載置されている
エンドエフェクタ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のエンドエフェクタであって、
前記エンドエフェクタ本体は、前記載置面を有する基部と、前記基部から突出して形成されそれぞれが前記載置面を有し互いに離間する一対の支持部とを有し、
前記複数の電気粘性素子は、前記基部及び前記一対の支持部のそれぞれに配置されている
エンドエフェクタ。
【請求項5】
請求項4に記載のエンドエフェクタであって、
前記複数の電気粘性素子は、3個の電気粘性素子であり、
前記3個の電気粘性素子は、それぞれが、前記円の中心から前記円の半径方向に120°ずつの間隔をあけて引かれる3本の直線に掛かるように配置されている
エンドエフェクタ。
【請求項6】
円形基板が載置される設置面を有するエンドエフェクタ本体と、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって前記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子とを有するエンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタに接続されたアームと、
前記アームを駆動する駆動部と
を具備する基板搬送装置。
【請求項1】
円形基板が載置される載置面を有するエンドエフェクタ本体と、
互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって、前記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子と
を具備するエンドエフェクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のエンドエフェクタであって、
前記電気粘性素子は、絶縁体からなる絶縁層と、前記絶縁層上に積層された導電体からなる電極層と、前記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、前記絶縁層が下層となるように前記載置面に載置されている
エンドエフェクタ。
【請求項3】
請求項1に記載のエンドエフェクタであって、
前記電気粘性素子は、導電体からなる電極層と、前記電極層上に積層された誘電体からなる微粒子が絶縁性を有するゲル中に分散された電気粘性ゲル層とを有し、前記電極層が下層となるように前記載置面に載置されている
エンドエフェクタ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のエンドエフェクタであって、
前記エンドエフェクタ本体は、前記載置面を有する基部と、前記基部から突出して形成されそれぞれが前記載置面を有し互いに離間する一対の支持部とを有し、
前記複数の電気粘性素子は、前記基部及び前記一対の支持部のそれぞれに配置されている
エンドエフェクタ。
【請求項5】
請求項4に記載のエンドエフェクタであって、
前記複数の電気粘性素子は、3個の電気粘性素子であり、
前記3個の電気粘性素子は、それぞれが、前記円の中心から前記円の半径方向に120°ずつの間隔をあけて引かれる3本の直線に掛かるように配置されている
エンドエフェクタ。
【請求項6】
円形基板が載置される設置面を有するエンドエフェクタ本体と、互いに同一の半径を有する円弧形状に形成された複数の電気粘性素子であって前記載置面上に規定される単一の円上に配置される複数の電気粘性素子とを有するエンドエフェクタと、
前記エンドエフェクタに接続されたアームと、
前記アームを駆動する駆動部と
を具備する基板搬送装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−191104(P2012−191104A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55167(P2011−55167)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】
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