説明

エンボスシートの製造方法

【課題】転写用立体模様が設けられた一つの原盤から、種々の立体模様を有するエンボスシートを製造できるエンボスシートの製造方法を提供する。
【解決手段】第1の立体模様が設けられたプリズムシート11aに対して、矢印Pに示す稜線方向に加重をかけると、プリズムシート11aは、稜線方向に平行な軸に沿って延伸し、断面方向に平行な軸に沿って縮む。これにより、プリズムシート11aから、第1の立体模様と相似形の第2の立体模様が設けられたプリズムシート11bを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一主面に所望の立体模様が形成されることにより、光学機能が付与されたエンボスシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、合成樹脂の光特性を利用したフィルム又はシート類は、産業面および生活面に深くかかわっている。しかしながら、その大部分は表面状態が平滑なもので、単に合成樹脂の透明性を競ったり、又は高々表面をマット状にしたり、添加物を加えたりすることによって、光線透過率を調節するものであった。
【0003】
近年に至って、特殊な表面構造を持たせ、主として反射、屈折、散乱等の作用を活用したエンボスシートやこれらを複合したエンボスシートが脚光を浴びてきている。このようなエンボスシートは、例えば、ノート型PC(Personal Computer)、液晶テレビ等に用いられる液晶表示装置の一構成単位であるプリズムシート、防眩シートや拡散シート等の光透過フィルムとして広く用いられている。
【0004】
従来、立体模様をプラスチック表面に形成する方法としては、所望の立体模様をもった原盤を用いてプレス成形する方法、あるいは射出成形する方法がある。例えば、下記特許文献1には、プレス成形の一例として、立体模様が一面に設けられた一の金型と、他の金型とを用いて、シートを熱プレスして、所望の立体模様が設けられたエンボスシートを作製する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3607759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、エンボスシートの立体模様を形成するために用いる原盤の作製には、精密な切削工程等が必要であり、長時間を要する。さらに原盤自体は、形状の精度が必要であり高価なものとなる。
【0007】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、転写用立体模様が設けられた一つの原盤から、種々の立体模様を有するエンボスシートを製造できるエンボスシートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するにあたり、本発明のエンボスシートの製造方法は、一主面に第1の立体模様が設けられたエンボスシートを少なくとも1軸方向に変形させて、上記一主面に第2の立体模様を形成する工程を有する。
【0009】
第1の立体模様が設けられたエンボスシートを少なくとも1軸方向に変形させて第2の立体模様を形成することで、一つの原盤から種々の立体模様が設けられたエンボスシートを製造することができる。
【0010】
エンボスシートは、第1の立体模様の稜線方向に平行な軸に沿って延伸することで、第1の立体模様と相似形の第2の立体模様を形成することができる。また、エンボスシートは、第1の立体模様の断面方向に平行な軸に沿って延伸することで、第1の立体模様を扁平させた第2の立体模様を形成することができる。
【0011】
本発明において、相似形とは、第1および第2の立体模様の断面が均等に拡大または縮小して重ね合わせられることをいう。ここで、第1および第2の立体模様の断面は、延伸方向に垂直な面で第1および第2の立体模様を切断した場合の断面である。
【0012】
また、立体模様とは、典型的には、断面が各種の頂角の二等辺三角形、ややこれを傾かせた不等辺三角形、大小の三角形等の連なった形状、断面が正弦曲線様の波形、断面が多数連なった半円状を伏せた形状、ピラミッド形や半球状の単位を配備したレンズアレー形状をいう。
【0013】
断面が各種の頂角の二等辺三角形、ややこれを傾かせた不等辺三角形、大小の三角形等の連なった形状が設けられたエンボスシートとしては、プリズムシートがある。
断面が正弦曲線様の波形、断面が多数連なった半円状を伏せた形状が設けられたエンボスシートとしては、レンチキュラーシートがある。
ピラミッド形や半球状の単位を配備したレンズアレー形状が設けられたエンボスシートとしては、レンズアレーシートがある。
【0014】
さらに、立体模様としては、典型的には、横断面が凸状または凸弧状の多数の山部と横断面が凹状または凹弧状の多数の谷部とが交互に且つ略平行に配列されたものをいう。この場合、片面に交互に略平行に形成された横断面が凸状または凸弧状の山部と横断面が凹状または凹弧状の谷部とで形成される斜面、山頂部及び谷底部は一つもしくは複数の平面により構成されていてもよく、曲面から形成されていてもよく、また平面と曲面の双方から形成されていてもよい。平面及び曲面の斜面の傾斜は光を正面に集める性能上非常に重要であるが、所望する性能に併せて設計すればよい。また、略平行に形成された山部と山部、谷部と谷部の間隔は狭ければ狭いほど面均一さに優れ、好ましくは150μm以下がよい。
【0015】
さらに、シートとは、典型的には、厚みによって限定される厳密な意味でのシートのみならず、通常フィルムと呼ばれる薄手のものも含む。その平均厚さは、典型的には、50μm以上が好ましく、より好ましくは、典型的には、100μm〜350μmである。
【0016】
一方、エンボスシートを延伸させて第2の立体模様を形成する際、エンボスシートの面内において延伸方向と非延伸方向とで屈折率に差をもたせることができる。具体的に、合成樹脂製のエンボスシートは、材料の種類に応じて延伸方向に屈折率が大きくなる又は小さくなる特性を有しているので、延伸後のエンボスシートは面内に屈折率異方性をもつことになる。これにより、延伸方向と非延伸方向とで屈折率に差をもつことで光学特性に面内異方性を具備する光透過フィルムを構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によれば、転写用の立体模様が設けられた一つの原盤から、種々の立体模様が設けられたエンボスシートを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
まず、この発明の一実施形態によるプリズムシートの製造方法について説明する。この製造方法は、転写用の立体模様が設けられた1つの原盤から、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを製造し、この第1の立体模様を変形させて、種々の立体模様を有するプリズムシートを製造するものである。
【0020】
図1は、本実施形態によるプリズムシートの製造方法により製造されるプリズムシートの一例を示す。このプリズムシート1は、例えば、液晶ディスプレイ(液晶表示装置)のバックライトの輝度向上、配向特性の改良のために用いられる。図1に示すように、プリズムシート1の一主面には、断面が直角二等辺三角形のプリズム列が複数連なった立体模様が設けられている。
【0021】
プリズムシート1の材料としては、所定温度で変形できる光透過性の熱可塑性樹脂を用いることができる。ここでいう所定温度とは、例えば、当該熱可塑性樹脂のガラス転移点(Tg)近傍、より具体的には、例えば、Tg±40℃の範囲とされる。
【0022】
例えば、プリズムシート1の材料は、光学用途、特に液晶ディスプレイ用の面状発光体光制御シートの材料として用いる点から、光透過性を有する必要があり、例えば、光の出射方向を制御する機能が必要とされる場合は、屈折率1.4以上の熱可塑性樹脂が好ましい。
【0023】
プリズムシート1の材料として、より具体的には、例えば、アラミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂に代表されるアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステル樹脂や非晶性共重合ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を挙げることができる。また、第1の立体模様と相似形状の第2の立体模様を得る点からは、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましい。
【0024】
次に、本発明の第1の実施形態によるプリズムシートの製造方法の一例について説明する。本実施形態では、第1の立体模様が設けられたプリズムシートから、第1の立体模様と相似な形状の第2の立体模様が設けられたプリズムシートを形成する例について説明する。
【0025】
図2は、第1の立体模様が設けられたプリズムシートの製造工程について説明するための模式図である。まず、図2を参照して、第1の立体模様が設けられたプリズムシートの製造工程に用いられるプリズムシートの製造装置について説明する。このプリズムシートの製造装置は、加圧プレート34a,34bを備え、この加圧プレート34a,34bの間に鏡面プレート33および平板金型32が配置され、されに、これらの鏡面プレート33および平板金型32の間に、シート31が配置される。なお、図示を省略するが、この透過フィルム(プリズムシート)の製造装置は、加圧プレート34a,34bをプレスするためのプレス機構と、加圧プレート34a,34b付近を真空雰囲気にするための真空チャンバとを有する。
【0026】
加圧プレート34a,34bは、鏡面プレート33および平板金型32によって挟み込まれたシート31を加圧するためのものである。加圧プレート34a,34bの内部にはヒータなどの加熱機構および冷却管などの冷却機構が設けられ、加圧プレート34a,34bを加熱および冷却可能に構成されている。なお、冷却管に供給される冷媒としては、例えば、水または油などが用いられる。
【0027】
鏡面プレート33は、プリズムシート1の光入射側の面を形成するためのものであり、薄板状の形状を有し、その両主面は平面状とされている。平板金型32は、プリズムシート1の光出射側の面を形成するためのものであり、薄板状の形状を有する。そして、その一方の主面には、シート31の一方の主面にプリズム(またはプリズムレンズ)を形成するための微細形状が設けられ、他方の主面は、平面状とされている。プリズムを形成するための微細形状は、例えば、ダイヤモンドバイトによる精密切削又はレーザー加工により形成される。なお、加圧プレート34bのプレス面に平板金型32が着脱可能に設けられて、加圧プレート34bと平板金型32とが一体化された構成としてもよい。また、加圧プレート34aのプレス面に鏡面プレート33が着脱可能に設けられて、加圧プレート34bと鏡面プレート33とが一体化された構成としてもよい。
【0028】
次に、図2を参照しながら、第1の立体模様が設けられたプリズムシートの製造工程について説明する。まず、平板金型32と鏡面プレート33との間にシート31を配置し、平板金型32と鏡面プレート33を加圧プレート34a,34bで挟み込み、真空チャンバ内を真空引きする。その後、矢印に示す方向へ加圧プレート34bに所定の力を加えて、シート31を加圧する。この際、加圧プレート34a,34bを所定温度に加熱しておくようにする。これにより、平板金型32の一主面に設けられた微細形状の転写をより容易にすることができる。
【0029】
そして、一定時間加圧した後、内部に備えられた冷却管(図示省略)によって、加圧プレート34a,34bを冷却し、加圧プレート34a,34bの温度が室温程度に達したら加圧プレート34a,34bを開く。以上の工程により、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを得ることができる。
【0030】
次に、図3を参照して、第1の立体模様から第2の立体模様に変形する工程について説明する。図3は、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを示す。このプリズムシート31aの一主面には、断面が三角形のプリズム列が複数連なった形状が設けられている。
【0031】
第1の立体模様から第2の立体模様を変形する工程は、例えば、一軸方向に荷重をかけてプリズムシート31aを延伸することにより行う。延伸は、例えば、プリズムシート31aの材料が変形できる所定の温度環境下で行う。ここで、所定の温度とは、例えば、プリズムシート31aの材料のTg近傍、より具体的には、例えば、Tg±40℃の範囲とされる。
【0032】
例えば、第1の立体模様が設けられたプリズムシート31aに対して、矢印Pに示す稜線方向に荷重をかけると、プリズムシート31aは、稜線方向に平行な軸に沿って延伸し、断面方向に平行な軸に沿って縮む。そして、図4に示すように、プリズムシート31aは、第1の立体模様と相似形の第2の立体模様が設けられたプリズムシート31bに変形する。以上により、本発明の第1の実施形態によるプリズムシートが製造される。
【0033】
上述の例では、第1の立体模様と第2の立体模様とが相似となる場合について説明したが、第1の立体模様と第2の立体模様とが相似とならない場合にも適用が可能である。この場合は、例えば、延伸方向、延伸の際の温度条件等を変えることで、一つの立体模様から種々の形状の形成が可能となる。
【0034】
さらに、上述の例では、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを延伸させる際に、稜線方向に荷重をかけて一軸延伸させたが、荷重をかける方向は、稜線方向に限定されない。例えば、断面方向に荷重をかけて一軸延伸させて、第1の立体模様の断面形状が、扁平となるように変形した第2の立体模様を形成することも可能である。
【0035】
また、上述の例では、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを、熱プレス法で製造する場合について説明したが、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを製造する方法は、これに限定されない。例えば、射出成形、キャスト法、押出成形などの方法を用いることができる。
【0036】
上述のように、本実施形態では、一つの原盤から転写された第1の立体模様が設けられたプリズムシートを一軸方向に変形し、所望とする第2の立体模様が設けられたプリズムシートを形成する。これにより、一つの原盤から、種々の立体模様を有するプリズムシートを作製でき、原盤に高精度な精密加工を必要とすることなく所望の微細な立体模様を有するエンボスシートを作製することができる。また、稜線方向に平行な軸に沿って延伸させることで、第1の立体模様が設けられたプリズムシートと相似な形状の第2の立体模様が設けられたプリズムシートを形成できる。
【0037】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。上述した第1の実施形態では、断面が二等辺三角形のプリズム列が複数連なるプリズムシートについて説明したが、本実施形態では、一主面にシリンドリカルレンズが多数連なって設けられたレンチキュラーシートの製造方法について説明する。
【0038】
図5は、本実施形態によるレンチキュラーシートの一例を示す。図5に示すように、レンチキュラーシート2の一主面には、シリンドリカルレンズが多数連なって設けられている。レンチキュラーシート2を構成する材料は、上述の第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0039】
次に、本実施形態によるレンチキュラーシート2の製造方法について説明する。まず、一主面にシリンドリカルレンズが多数連なって設けられているレンチキュラーシート2aを製造する。図6にこのレンチキュラーシート2aの断面形状を示す。
【0040】
次に、図6に示すように、レンチキュラーシート2aを矢印Tで示す断面方向に平行な軸に沿って荷重をかけると、レンチキュラーシート2aは、断面方向に平行な軸に沿って延伸する。そして、図7に示すように、レンチキュラーシート2aに設けられた第1の立体模様を扁平させるようにして、第2の立体模様が設けられたレンチキュラーシート2bに変形する。以上により、本発明の第2の実施形態によるレンチキュラーシートを製造できる。なお、延伸は、例えば、レンチキュラーシート2aの材料が変形できる所定の温度環境下で行う。ここで、所定の温度とは、例えば、レンチキュラーシート2aの材料のTg近傍、より具体的には、例えば、Tg±40℃の範囲とされる。
【0041】
本実施形態では、一つの原盤から、一主面にシリンドリカルレンズが多数連なった形状の第1の立体模様を有するレンチキュラーシート2aを得て、この第1の立体模様を変形させることによって、用途に応じた種々の第2の立体模様を得ることができ、一つの原盤から、所望の配向特性および視野特性を有するレンチキュラーシートを製造することができる。なお、レンチキュラーシートを構成するレンズ体は上述したシリンドリカルレンズ体に限らず、双曲面または放物面を有するレンチキュラーレンズ体や高次の非球面を有するレンチキュラーレンズ体などが含まれる。
【0042】
(第3の実施形態)
続いて、図8を参照して本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、エンボスシートとしてプリズムシートの製造方法について説明する。
【0043】
本実施形態のプリズムシートは、図8Aに示すように、一方の面にプリズム構造面が形成された樹脂フィルム23を成形する工程と、この樹脂フィルム23をプリズムの延在方向に延伸させて、プリズムの断面形状を相似形に縮小する工程とを経て、製造される。
【0044】
樹脂フィルム23の成形方法は特に限定されないが、例えば、熱プレス法や溶融押出し加工法等が適用可能である。また、平坦な樹脂シートをベースとし、その上にプリズム層を作製してもよい。なお、樹脂フィルム23は、ロール方式で連続的に作製できる方法が好ましい。
【0045】
作製した樹脂フィルム23は、プリズム延在方向に延伸されることで目的とする縮小倍率のプリズムシートが得られることになる。延伸率は、必要とする縮小率、樹脂フィルムの材料の種類等に応じて適宜設定することができる。
【0046】
樹脂材料としては、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)及びこれらの混合物またはPET−PENコポリマー等の共重合体、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリアミド等が挙げられる。
【0047】
ここで、延伸方向をプリズム延在方向とするのは、延伸前後におけるプリズム形状の変動によって、目的とする光学特性が変化することを抑えるためである。図8Bは延伸前後におけるプリズム構造面の外形状の変化の様子を示しており、実線は延伸前、一点鎖線は延伸後を示している。延伸方向をプリズム延在方向(X方向)とすることにより、延伸後のプリズム断面形状が延伸前のプリズム断面形状に対してほぼ相似関係となるので、1つの原盤から所望のピッチのプリズム形状を得ることが可能となる。
【0048】
一方、樹脂フィルム23を延伸させてプリズムシートを作製する際、プリズムシートの面内において、延伸方向と非延伸方向とで屈折率に差をもたせることができる。具体的に、プリズムの延在方向(X方向)とプリズムの配列方向(Y方向)との間において屈折率の異方性を生じさせることができる。その結果、プリズムシートのもつ屈折率の面内異方性によって当該プリズムシートを透過する光の透過特性をその偏光方向に応じて異ならせることが可能となる。
【0049】
樹脂フィルム23の構成材料としては、延伸方向に屈折率が大きくなる樹脂材料を用いてもよいし、延伸方向に屈折率が小さくなる樹脂材料を用いてもよい。延伸方向に屈折率が大きくなる樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリフッ化ビニリデン、ポリプロピレン、PET、PENおよびこれらの混合物またはPET−PENコポリマー等の共重合体が挙げられる。逆に、延伸方向に屈折率が小さくなる樹脂材料としては、例えば、メタクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS樹脂)、スチレン−メチルメタクリレート共重合体およびこれらの混合物等がある。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
熱プレス用の金属製エンボス原盤として、その表面が、横断面形状が頂角90度である直角二等辺三角形で交互且つ平行に山部と山部、谷部と谷部が50μm間隔で規則的に連続して彫刻されたものを用いた。熱可塑性樹脂として、200μmポリカーボネート樹脂シート(FE2000、三菱エンジニアリングプラスチック(株))を170℃、10分間、100kgf/cm2(9.8MPa)のプレス条件で第1の立体模様が設けられたプリズムシートを作製した。
【0052】
次に、第1の立体模様が設けられたプリズムシートを、160℃のオーブン内で稜線方向に1kgf/cmになるように荷重をかけ、その後10分間放置して、第2の立体模様が設けられた実施例4のプリズムシートを得た。本実施例のプリズムシートでは、稜線方向に150%、断面方向に70%の伸縮があった。
【0053】
次に、延伸前のプリズムシートおよび延伸後のプリズムシートの断面形状を表面粗さ計(サーフコーダーET4001A、小坂研究所(株)製)で下記の測定条件下で測定したところ、延伸後のプリズムシートの断面形状は、90度ではない頂角をもつ二等辺三角形が規則的に連続した形状であった。さらに、第1の立体模様のピッチは、原盤と同じ50μmピッチであったのに対し、第2の立体模様のピッチは、35μmピッチであった。これより、第1の立体模様と異なる第2の立体模様を得ることができることがわかる。
【0054】
表面粗さ計の測定条件を以下に示す。
[測定条件]
カットオフ値 R+W(mm)
フィルタ特性 2CR
予備長さ カットオフ値
レベリング なし
評価長さ 1mm
表示倍率 縦 20000
横 50
送り速さ 0.02mm/s
測定力 50μN
なお、以下に説明する実施例2,3も実施例1と同様の測定機を用いて、同様の条件の下で測定を行った。
【0055】
(実施例2)
[プリズムシートの成形]
樹脂フィルムにプリズム形状を転写形成するための熱プレス用の金属製エンボス原盤として、その表面が、横断面形状が頂角90度である直角二等辺三角形で交互且つ平行に山部と山部、谷部と谷部が50μm間隔で規則的に連続して彫刻されたものを用いた。樹脂フィルムは熱可塑性樹脂であり、200μm厚みのA−PET(アモルファスPET)シート(三菱化学社製「ノバクリア(商標)SG007」、Tg約70℃)を用いた。この樹脂フィルムを100℃、10分間、100kgf/cm2(9.8MPa)の熱プレス条件で、プレス後すぐに氷水に投入し、透明な等方性プリズムシートを得た。
【0056】
[プリズムシートの延伸]
得られた等方性プリズムシートを縦(プリズム稜線方向)8cm×横5cmの長方形状に裁断した後、長手方向の両端部の三角断面(プリズム断面)を手動延伸機でチャックし、プリズム延在方向に55℃の温水中でサンプル中央が3.5倍になるように延伸速度1cm/秒で一軸延伸を行い、縮小ピッチプリズムシートを得た。
【0057】
得られた縮小ピッチプリズムシートと延伸前の等方性プリズムシートの三角断面を表面粗さ計(サーフコーダーET4001A、小坂研究所(株)製)で測定したところ、両者とも原盤と同じ45度底角をもつ二等辺三角形であった。さらに、延伸前のサンプルのプリズムは原盤と同じ約50μmピッチであったのに対して、延伸後のサンプルのプリズムは約30μmピッチであった。
【0058】
図9は、延伸前後におけるプリズムシートの概略断面形状を示している。図中、一点鎖線は延伸前のサンプルの断面形状を示し、実線は延伸後のサンプルの断面形状を示している。延伸前後にわたってプリズムが相似形であることがわかる。
なお、二点鎖線は、縦1.5cm×横5cmに裁断したサンプルを縦方向(プリズム稜線方向)に延伸させたときのプリズム形状を示している。図示の例から明らかなように、縦/横比が1未満のサンプルを縦方向に延伸したときにはシート断面形状が歪んで相似形のプリズム形状を得ることができない。従って、縦/横比が1以上となるようにサンプルを切り出すことが好ましい。
【0059】
[複屈折性の測定]
次に、得られた縮小ピッチプリズムシートの複屈折性を測定した。複屈折性の測定には、図10に示すように、シート45のプリズム面から偏光を垂直に入射させ、透過光を測定器46で検出し、透過光の出射角φの違いにより、プリズム稜線方向の屈折率nvとプリズム配列方向の屈折率nhとの差Δn(=nv−nh)を算出した。すなわち、透過光の出射角φは、入射偏光方向によって異なり、図11に示すようにプリズム稜線方向に平行に振動する偏光成分(以下これを「垂直偏光Lx」という。)の出射角φxは、プリズム配列方向に平行に振動する偏光成分(以下これを「水平偏光Ly」という。)の出射角φyよりも大きい。これを利用して、Δnを算出することができる。
【0060】
図12は、シート45を透過した垂直偏光Lxおよび水平偏光Lyの光量と出射角との関係を示す測定結果である。縦軸の単位(a.u.)は、arbitrary unit(任意単位)のことで「相対値」であることを示している。測定の結果、図13に示すように、得られたプリズムシート45のプリズム稜線方向の屈折率nxは1.62、プリズム配列方向の屈折率nyは1.55であり、Δnは0.07であった。
【0061】
以上の結果より、A−PETシートを熱プレスしプリズム形状を付与した後、一軸延伸することにより、プリズム形状の相似形を保持したまま、原盤よりもプリズムピッチが縮小されたプリズムシートを得ることができた。
【0062】
また、A−PETシートを熱プレスしプリズム形状を付与した後、一軸延伸することにより、プリズム稜線方向と配列方向とで屈折率が異なる異方性プリズムシートを得ることができた。なお、図12に示したように、垂直偏光Lxに比べて水平偏光Lyの方が、透過率が高いことが確認できる。これは、プリズム稜線方向の屈折率nxがプリズム配列方向の屈折率nyよりも大きいため、プリズム稜線方向に平行な偏光成分Lxのプリズム斜面における全反射作用が高くなり、Lyに比べて透過光量が減少するからである。
【0063】
(実施例3)
[プリズムシートの成形]
樹脂フィルムにプリズム形状を転写形成するための熱プレス用の金属製エンボス原盤として、その表面が、横断面形状が頂角90度である直角二等辺三角形で交互且つ平行に山部と山部、谷部と谷部が50μm間隔で規則的に連続して彫刻されたものを用いた。樹脂フィルムは熱可塑性樹脂であり、200μm厚みのA−PEN(アモルファスPEN)シート(Tg約120℃)を用いた。この樹脂フィルムを150℃、10分間、100kgf/cm2(9.8MPa)の熱プレス条件で、プレス後すぐに氷水に投入し、等方性プリズムシートを得た。
【0064】
[プリズムシートの延伸]
得られた等方性プリズムシートを縦(プリズム延在方向)8cm×横5cmの長方形状に裁断した後、長手方向の両端部の三角断面(プリズム断面)を手動延伸機でチャックし、プリズム延在方向に140℃の環境下でサンプル中央が3.5倍になるように延伸速度1cm/秒で一軸延伸を行い、縮小ピッチプリズムシートを得た。
【0065】
得られた縮小ピッチプリズムシートと延伸前の等方性プリズムシートの三角断面を表面粗さ計(サーフコーダーET4001A、小坂研究所(株)製)で測定したところ、両者とも原盤と同じ45度底角をもつ二等辺三角形であった。さらに、延伸前のサンプルのプリズムは原盤と同じ約50μmピッチであったのに対して、延伸後のサンプルのプリズムは約30μmピッチであった。
【0066】
図14は、延伸前後におけるプリズムシートの概略断面形状を示している。図中、実線は延伸前のサンプルの断面形状を示し、破線は延伸後のサンプルの断面形状を示している。延伸前後にわたってプリズムが相似形であることがわかる。
【0067】
[複屈折性の測定]
次に、得られた縮小ピッチプリズムシートの複屈折性を測定した。複屈折性の測定には、実施例2と同様の測定を行った。
【0068】
図15は、上記プリズムシートを透過した垂直偏光Lxおよび水平偏光Lyの光量と出射角との関係を示す測定結果である。縦軸の単位(a.u.)は、arbitrary unit(任意単位)のことで「相対値」であることを示している。測定の結果、図16に示すように、得られたプリズムシート45のプリズム稜線方向の屈折率nxは1.79、プリズム配列方向の屈折率nyは1.56であり、Δnは0.23であった。
【0069】
以上の結果より、A−PENシートを熱プレスしプリズム形状を付与した後、一軸延伸することにより、プリズム形状の相似形を保持したまま、原盤よりもプリズムピッチが縮小されたプリズムシートを得ることができた。
【0070】
また、A−PENシートを熱プレスしプリズム形状を付与した後、一軸延伸することにより、プリズム稜線方向と配列方向とで屈折率が異なる異方性プリズムシートを得ることができた。なお、図15に示したように、垂直偏光Lxに比べて水平偏光Lyの方が、透過率が高いことが確認できる。これは、プリズム稜線方向の屈折率nxがプリズム配列方向の屈折率nyよりも大きいため、プリズム稜線方向に平行な偏光成分Lxのプリズム斜面における全反射作用が高くなり、Lyに比べて透過光量が減少するからである。
【0071】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、勿論、本発明はこれらに限定されることなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0072】
例えば以上の実施形態において挙げた数値はあくまでも例にすぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0073】
また、以上の実施形態では、エンボスシートとして、プリズムシートやレンチキュラーシートを例に挙げて説明したが、本発明はこれらに限られない。例えば、角錐・円錐などの2次元広がりにより発現する光機能の付与された連続したプラスチックのシート、例えばプラスチックレンズ、光反射シート、防眩シート、拡散シート等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1の実施形態によるプリズムシートの製造方法により製造されるプリズムシートの一例を示す斜視図である。
【図2】第1の立体模様が設けられたプリズムシートの製造工程について説明するための模式図である。
【図3】第1の立体模様から第2の立体模様に変形する工程を説明するための概略図である。
【図4】第1の立体模様から第2の立体模様に変形後の態様を説明するための概略図である。
【図5】本発明の第2の実施形態によるレンチキュラーシートの製造方法により製造されるレンチキュラーシートの一例を示す斜視図である。
【図6】第1の立体模様から第2の立体模様に変形する工程を説明するための断面図である。
【図7】第1の立体模様から第2の立体模様に変形後の態様を説明するための断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態によるプリズムシートの製造方法を説明するための図である。
【図9】本発明の実施例2において説明するプリズムシートの断面形状を測定した結果を示す図である。
【図10】本発明の実施例2において作製したプリズムシートの複屈折性測定方法を説明するための図である。
【図11】図10においてプリズムシートに対する垂直偏光と水平偏光の出射角の違いを説明するための図である。
【図12】本発明の実施例2において作製したプリズムシートの光透過特性を示す図である。
【図13】本発明の実施例2において作製したプリズムシートの面内各方向の屈折率を説明する概略斜視図である。
【図14】本発明の実施例3において説明するプリズムシートの断面形状を測定した結果を示す図である。
【図15】本発明の実施例3において作製したプリズムシートの光透過特性を示す図である。
【図16】本発明の実施例3において作製したプリズムシートの面内各方向の屈折率を説明する概略斜視図である。
【符号の説明】
【0075】
1,31a,31b…プリズムシート、2,2a,2b…レンチキュラーシート、23…樹脂フィルム、31…シート、32…平板金型、33…鏡面プレート、34a,34b…加圧プレート、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面に第1の立体模様が設けられたエンボスシートを少なくとも1軸方向に変形させて、前記一主面に第2の立体模様を形成する工程を有する
ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項2】
前記エンボスシートの材料のガラス転移点近傍で、前記エンボスシートの変形を行う
ことを特徴とする請求項1に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項3】
前記第2の立体模様は、前記第1の立体模様の相似形である
ことを特徴とする請求項1に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項4】
一主面に第1の立体模様が設けられたエンボスシートを前記第1の立体模様の稜線方向に平行な軸に沿って延伸させることで、前記一主面に前記第1の立体模様と相似形の第2の立体模様を形成する工程を有する
ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。
【請求項5】
前記第1,第2の立体模様は、プリズム体またはシリンドリカルレンズ体である
ことを特徴とする請求項4に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項6】
前記エンボスシートの材料がPEN、PET、PEN−PETコポリマー、アラミド樹脂のいずれか1つを含む
ことを特徴とする請求項4に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項7】
前記エンボスシートを延伸させることによって、前記第2の立体模様を有するエンボスシートの面内において延伸方向と非延伸方向とで屈折率に差をもたせる
ことを特徴とする請求項4に記載のエンボスシートの製造方法。
【請求項8】
一主面に第1の立体模様が設けられたエンボスシートを前記第1の立体模様の断面方向に平行な軸に沿って延伸し、前記第1の立体模様を扁平させるように第2の立体模様を形成する工程を有する
ことを特徴とするエンボスシートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−137058(P2007−137058A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−284385(P2006−284385)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】