説明

オイルシール

【課題】ピストン部材の押圧部が多板クラッチに接触するときの衝撃を緩和することができ、しかも組込み工数等を削減することができるオイルシールを提供する。
【解決手段】自動車の自動変速機に使用され、シリンダとその内周側に挿通される軸との間をシールするものであって、軸方向に変位する有底円筒形状のピストン部材10の内周側円筒部12に形設された第一シール部20と、ピストン部材10の外周側円筒部13の軸方向一端部に形設された第二シール部30とを備えたオイルシール1において、外周側円筒部13の軸方向他端部を屈曲させて屈曲部16とし、屈曲部16に緩衝材42を介した押し板41を結合させて多板クラッチ50を押圧する押圧部40とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の自動変速機でクラッチ締結に使用されるオイルシールに関する。更に詳しくは、多板クラッチを押圧してクラッチ締結を行う押圧部がピストン部材に形設されているオイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のオイルシールとしては、図2に示すようなものが知られている。この図に示すオイルシールは、軸心Oを通る平面で切断して示す概略断面図であり、自動車の自動変速機でクラッチ締結に使用されるものである。
【0003】
このオイルシール101は、有底円筒形状のシリンダとその内周側に挿通される軸との間をシールするものであって、軸方向に変位する有底円筒形状のピストン部材102の内周側円筒部103に軸の周面をシールする第一シール部104が形設され、ピストン部材102の外周側円筒部105の底部側A(図2における上側)端部にシリンダの周面をシールする第二シール部106が形設されている。更に、外周側円筒部105の多板クラッチ側B(図2における下側)端部には、ピストン部材102を外周側に屈曲させた多板クラッチを押圧する押圧部107が形設されている。
【0004】
この押圧部107は、押圧部107より軸方向下側に位置する多板クラッチ108を押圧してクラッチ締結を行うが、多板クラッチ108との接触時に衝撃圧力制御が不十分な場合や摺動抵抗のバラツキにより変速ショックが発生する虞があり、この接触による衝撃を緩和するため、ウェーブスプリング等の部品を追加設定する必要が生じ、コスト高になるという不具合点があった。
【0005】
なお、下記特許文献1には、製造の容易化を図りつつ、多板クラッチに対する押圧強度の安定化を図るために、ピストン部の軸方向先端部にリング部材を付設して押圧部とすることが提案されている。また下記特許文献2には多板クラッチの摩擦機構部における相対回転によってスプラインに摩耗を生じさせないようにするために、弾性体で成形した押圧部をピストン部の軸方向先端部に付設することが提案されているが本発明と目的構成を異にしている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−056717公報
【特許文献2】実開平06−035678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、ピストン部材に形設されている押圧部が多板クラッチに接触するときの衝撃を緩和することができ、しかも組込み工数等を削減することができるオイルシールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係るオイルシールは、自動車の自動変速機に使用され、シリンダとその内周側に挿通される軸との間をシールするものであって、軸方向に変位する有底円筒形状のピストン部材の内周側円筒部に形設された前記軸の周面をシールする第一シール部と、前記ピストン部材の外周側円筒部の軸方向一端部に形設された前記シリンダ周面をシールする第二シール部とを備えたオイルシールにおいて、前記外周側円筒部の軸方向他端部を屈曲させて屈曲部とし、該屈曲部に緩衝材を介した押し板を結合させて多板クラッチを押圧する押圧部としたことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項2に係るオイルシールは、請求項1に記載のオイルシールにおいて、前記緩衝材がゴム状弾性体若しくは樹脂で成形されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0011】
すなわち、上記構成を備えた本発明の請求項1のオイルシールは、ピストン部材の外周側円筒部の軸方向他端部を屈曲させて屈曲部とし、この屈曲部に緩衝材を介した押し板を結合させて押圧部としたので、ピストン部材が軸方向に変位し押圧部が多板クラッチに接触し押圧するときでも緩衝材により衝撃が緩和され、変速ショックを防止することができ、また、ピストン部材が傾斜して作動したときも緩衝材により追随性をアップさせることができる。更に、緩衝材を介した押し板が外周側円筒部の屈曲部に結合して押圧部を形成しているので、組込み工数を削減することができ製造原価を低減することができる。
【0012】
更に、請求項2のオイルシールのように緩衝材をゴム状弾性体若しくは樹脂とすることで、より一層上記効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示して説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るオイルシールを多板クラッチと共に軸を通る平面で切断して示す概略断面図であり、このオイルシール1は、図示しない有底円筒形状のシリンダと、そのシリンダの内周側に挿通される軸との間に形成される環状空間をシールするもので、ピストン部材10と、第一シール部20と、第二シール部30と、多板クラッチ50を押圧する押圧部40とを備えている。
【0015】
ピストン部材10は有底円筒形状をしており、多板クラッチ50と軸方向反対側の底部11と、その底部11の内周側端部から軸方向に延びる内周側円筒部12と、底部11の外周側端部から軸方向に延びる外周側円筒部13とが一体で成形されている。
【0016】
内周側円筒部12は、軸方向で底部側A(図1における上側)と反対側に位置する多板クラッチ側B(図1における下側)の端部が内周側に屈曲して内周屈曲部14を形成し、内周屈曲部14に軸の周面と摺動自在に密接する底部側Aに向かって延びる第一シール部20が形設されている。また、外周側円筒部13の底部側Aの角部15には外周側に突出し、シリンダの周面と摺動自在に密接する底部側Aに向かって延びる第二シール部30が形設されていて、第一シール部20と第二シール部30とは、内周側円筒部12および底部11を被覆している膜部21によって連結している。
【0017】
外周側円筒部13であって第二シール部30が形設されている位置と軸方向反対側の多板クラッチ側Bには、外周方向に屈曲した外周屈曲部16が形成されていて、後述する押圧部40の一部を構成している。
【0018】
押圧部40は、シリンダの内周側設けられている多板クラッチ50を押圧するものであって、外周側円筒部13の外周屈曲部16と、多板クラッチ50に接触する押し板41と、外周屈曲部16と押し板41に挟持結合されているゴム状弾性体の緩衝材42とから構成されている。なお、緩衝材42は、ゴム状弾性体の他に樹脂で形成されている場合でもよい。
【0019】
このように構成された押圧部40は、ピストン部材10がシリンダと軸とで囲われた圧力室の圧力により軸方向で多板クラッチ側Bに変位したときに多板クラッチ50を押圧するようになっている。この場合に、多板クラッチを直接押圧する押し板41とピストン部材10の外周屈曲部16との間に緩衝材42が挟持結合されているので、多板クラッチ50に接触したときの衝撃を緩和することができるので、変速ショックの発生を防止することが可能となり、またピストン部材10が傾斜して作動したときでも追随性をアップすることが可能となる。
【0020】
更に、緩衝材42を介して多板クラッチ50を直接押圧する押し板41が外周屈曲部16に結合しているので、組込み工数を削減することができると共に、ウェーブスプリング等の部品点数が増加しないので製造原価を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るオイルシールの部分断面図
【図2】従来例に係るオイルシールの部分断面図
【符号の説明】
【0022】
1 オイルシール
10 ピストン部材
11 底部
12,13 円筒部
14,16 屈曲部
15 角部
20,30 シール部
21 膜部
40 押圧部
41 押し板
42 緩衝材
50 多板クラッチ
A 底部側
B 多板クラッチ側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の自動変速機に使用され、シリンダとその内周側に挿通される軸との間をシールするものであって、軸方向に変位する有底円筒形状のピストン部材の内周側円筒部に形設された前記軸の周面をシールする第一シール部と、前記ピストン部材の外周側円筒部の軸方向一端部に形設された前記シリンダ周面をシールする第二シール部とを備えたオイルシールにおいて
前記外周側円筒部の軸方向他端部を屈曲させて屈曲部とし、該屈曲部に緩衝材を介した押し板を結合させて多板クラッチを押圧する押圧部としたことを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
請求項1に記載のオイルシールにおいて、
前記緩衝材がゴム状弾性体若しくは樹脂で形成されていることを特徴とするオイルシール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−292190(P2007−292190A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120194(P2006−120194)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】