説明

オイルバリア組成物

本発明は、水系媒体を用いた水系オイルバリア組成物を提供する。本発明のオイルバリア組成物は、下記重合単位(a)を含む重合体(A)、界面活性剤(B)、および水系媒体(C)を含み、前記界面活性剤(B)は、該界面活性剤(B)の総質量中にフッ素系界面活性剤(B)を50質量%以上含むことを特徴とする。重合単位(a):ポリフルオロアルキル基を含む不飽和エステルの重合単位、または炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたポリフルオロアルキル基を含む不飽和エステルの重合単位。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、オイルバリア作用を有する組成物および該組成物の製造方法に関する。より具体的には、時計、モータおよび一眼レフカメラのレンズ等の精密機械の摺動部分に使用されている潤滑剤のにじみだしを防止するために使用されるオイルバリア作用を有する組成物および該組成物の製造方法に関する。本発明は、また、該組成物を用いて摺動部品および摺動部品に近接する部品の表面をオイルバリア処理する方法および該オイルバリア処理された部品に関する。
【背景技術】
時計、モータおよび一眼レフカメラのレンズ等の精密機械の摺動部品の摺動面には、摩擦抵抗を低減させるために、鉱油等の潤滑剤が使われている。このような潤滑剤は、摺動面の磨耗防止のために不可欠なものではあるが、通常液状である潤滑剤が摺動面から周辺部へとにじみだす可能性がある。上記のような精密機械では、通常狭い領域内に複数の部品が配置されていることから、潤滑剤のにじみだしは、周辺に存在する他の部品への潤滑剤の付着につながる可能性もあり、また通常粘性の高い潤滑剤は、ほこり等を集積しやすく、所望の個所以外への潤滑油のにじみだしは、機械の故障の原因にもなる。また、潤滑剤のにじみだしは、摺動面における潤滑剤の保持時間を低下させ、潤滑剤の再施与の必要性を増加させる。そのため、このような精密機械の摺動部品または摺動部品に近接する部品には、潤滑剤のにじみだしを防止するために、オイルバリア組成物が使用されている。
オイルバリア組成物は、撥油性を有する化合物を媒体に溶解、または、分散させたもので、潤滑剤のにじみだしの防止と、必要部分への長期間保持のために、摺動部品の摺動面の周辺部に塗布し、乾燥して使用される。この撥油性を有する化合物としては、含フッ素ポリマーまたはパーフルオロアルキル基を1個、または2個以上有する含フッ素リン酸ジエステル化合物等が使用されている。また、媒体としては、クロロフルオロカーボン(CFC)、パーフルオロカーボン(PFC)またはメタキシレンヘキサフルオリド等の含フッ素芳香族炭化水素系化合物等が使用されている。
しかし、CFCはオゾン層を破壊することからフロン規制による使用の制約があり、PFCは地球温暖化係数が高く、環境への問題がある。また、含フッ素芳香族炭化水素系化合物は、毒性、作業性等に問題がある。そこで、環境への影響のない、水系媒体を用いた水系オイルバリア組成物が求められている。しかし、上記の撥油性を有する化合物のうち、含フッ素ポリマー、またはパーフルオロアルキル基を2個以上有する含フッ素化合物は、水への溶解性が低いため、水系媒体を用いた場合には充分なオイルバリア性能を発揮するのに必要な量の有効成分を溶解することができない。また、可溶化させるために炭化水素系界面活性剤を添加するとオイルバリア性能、耐久性が低下するなどの問題があった。たとえば、含フッ素ポリマーを水系媒体に溶解させた組成物として、半田用フラックスの這い上がり防止を目的とする組成物が開示されている(特開平11−154783号公報参照)。しかし、半田用フラックスは、常温で固形であるか、液状のものであっても、固形成分をイソプロピルアルコールのような揮発性の溶媒に溶解した構成で、半田付けの際の熱によりイソプロピルアルコールが揮発して、製品の段階で基板上に残るのは固形成分のみなので、本願が目的とする潤滑剤に対するオイルバリア作用に比べると要求される撥油性は高くない。そのため界面活性剤として、フッ素系界面活性剤とともに、炭素数6以上のアルキル基を分子内に有する非フッ素系カチオン性界面活性剤または炭素数6以上のアルキル基を分子内に有する非フッ素系アニオン性界面活性剤を併せて使用することが好ましいとされており、さらに界面活性剤中に含まれる非フッ素系界面活性剤量は、フッ素系界面活性剤と非フッ素系界面活性剤の合計量に対して50〜80質量%であることが好ましいと記載されている。すなわち、非フッ素系界面活性剤のほうが多く含まれるほうが好ましいとされている。このように非フッ素系界面活性剤が多いほうが好ましいとされているのは、組成物の製造時における乳化作用に優れるからであり、撥油性を有する化合物の分散安定性が高いために、得られた組成物の取扱い性に優れるからである。
また、オイルバリア剤で処理する摺動面を有する部品には、プレス加工等の前工程で付着したプレス油などのオイル分が残っている場合が多い。しかし、従来のオイルバリア組成物は、オイル分が残っている個所には塗膜を形成することができず、このような個所を従来のオイルバリア剤で処理する場合、事前に処理する部品をトリクレンなどのハロゲン系有機溶剤で洗浄し、残留しているオイル分を除去する工程が必要とされている。たとえば、水系オイルバリア組成物として、パーフルオロアルキル基を1個有する含フッ素リン酸モノエステル化合物を水系媒体に溶解させたオイルバリア組成物が開示されている(特開2000−1669号公報参照)。このオイルバリア組成物は水への溶解性に優れるものの、フッ素系界面活性剤を含有しないため、オイル分の上に塗膜を形成できるほど表面張力が低くなく、残留しているオイル分を除去する工程が必要である。また、使用されている含フッ素リン酸モノエステルは、部品への塗布時にリン酸部位が金属部品と吸着して、フルオロアルキル基部位が自由な状態となる。そのため、乾燥後の塗膜は含フッ素ポリマーを使用したオイルバリア剤と比べると密着性が不充分である。
以上より、本発明は、環境への影響のない、水系媒体を用いた水系オイルバリア組成物を提供することを目的とする。このようなオイルバリア組成物は、時計、モータおよび一眼レフカメラのレンズ等の摺動面の周辺部に適用することで、該摺動面からの潤滑剤のにじみだしを効果的に防止する。このようなオイルバリア組成物は、前工程で付着したプレス油等のオイル分が残っている部品をそのまま処理した場合でも優れたオイルバリア効果を発揮する。
【発明の開示】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、下記重合単位(a)を含む重合体(A)、界面活性剤(B)、および水系媒体(C)と、を含み、界面活性剤(B)は、該界面活性剤(B)の総質量中にフッ素系界面活性剤(B)を50質量%以上含むことを特徴とするエマルジョンタイプオイルバリア組成物を提供することを目的とする。
重合単位(a):ポリフルオロアルキル基を含む不飽和エステルの重合単位、または炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたポリフルオロアルキル基を含む不飽和エステルの重合単位。
本発明のオイルバリア組成物において、前記重合体(A)中、前記重合単位(a)の割合は90質量%以上であることが好ましい。
本発明のオイルバリア組成物は、前記重合体(A)を構成する重合単位がすべて重合単位(a)であることがさらに好ましい。
本発明のオイルバリア組成物は、前記界面活性剤(B)が、すべてフッ素系界面活性剤(B)であることが好ましい。
本発明のオイルバリア組成物は、前記重合単位(a)が、下式(1)で表される化合物の重合単位であることが好ましい。
CH=CRCOO−Q−R……式(1)
ただし、式(1)中、Q、R、およびRは以下の通りである。
:単結合または2価連結基。
:水素原子またはメチル基。
:ポリフルオロアルキル基、または炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたポリフルオロアルキル基。
本発明のオイルバリア組成物は、前記水系媒体(C)が、水、または水と沸点40〜200℃の水溶性有機溶剤との混合溶液であることが好ましい。
本発明のオイルバリア組成物は、常温(25℃)での組成物の表面張力が30mN/m以下であることが好ましい。
本発明のオイルバリア組成物は、前記重合体(A)のエマルジョンの累積平均径が10μm以下であることが好ましい。
本発明は、また、乳化剤存在下、乳化重合により重合体(A)を合成し、得られた重合体(A)にさらにフッ素系界面活性剤(B)を添加することを特徴とする、本発明のオイルバリア組成物を製造する方法を提供する。
本発明のオイルバリア組成物を製造する方法は、乳化剤として、フッ素系界面活性剤(B)の存在下、水性媒体(C)中で乳化重合することにより重合体(A)を合成することが好ましい。
本発明は、また、本発明のオイルバリア組成物を部品表面に塗布、乾燥、熱処理することを特徴とする摺動部品、および、摺動部品に近設する部品の表面をオイルバリア処理する方法を提供する。
本発明は、また、本発明のオイルバリア処理する方法により得られた、表面がオイルバリア処理された摺動部品、および、摺動部品に近設する部品を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明において重合体(A)は、特定の構成単位、すなわち重合単位(a)を含む重合体である。なお、以下においてポリフルオロアルキル基と炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたポリフルオロアルキル基とを総称して「R基」と記す。アルキル基と炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたアルキル基を総称して「エーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基」と記す。アクリレートとメタアクリレートを総称して(メタ)アクリレートと記し、他の(メタ)アクリル酸などについても同様である。
重合単位(a)は、R基を含む不飽和エステルの重合単位である。R基は、エーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基の水素原子の2個以上がフッ素原子に置換された基を意味する。R基中のフッ素原子数は、[(R基中のフッ素原子数)/(R基に対応する構造を有するエーテル性酸素原子を含んでいてもよいアルキル基中に含まれる水素原子数)]×100%で表現した場合に、オイルバリア性能が発現しやすいことから60%以上が好ましく、特に80%以上が好ましい。
また、エーテル性酸素原子を有するR基としては、オキシポリフルオロエチレン、オキシポリフルオロプロピレン等のオキシポリフルオロアルキレン部分を含有するR基が挙げられる。R基の炭素数は4〜14が好ましく、特に6〜12が好ましい。R基の炭素数が上記の範囲であると、オイルバリア性能が十分であり、重合単位(a)の入手も容易である。R基は直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよいが、直鎖構造がより好ましい。分岐構造である場合には、分岐部分がR基の末端部分に存在し、かつ、炭素数1〜3程度の短鎖であることが好ましい。また、R基は末端部分において、フッ素原子の代わりに一部塩素原子が存在していてもよい。このような塩素原子が存在していてもよいRf基の末端部分の構造としては、CFCF−、CFH−、CFCl−、(CFCF−等の構造が挙げられる。
本発明におけるR基は、オイルバリア性能が発現しやすいことからエーテル性の酸素原子を含んでいてもよいアルキル基、の水素原子の実質的にすべてが、フッ素原子に置換された、エーテル性の酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキル基(以下R基と記す。)が好ましい。R基の炭素数は4〜14が好ましく、6〜12が特に好ましい。R基の炭素数が上記の範囲であると、オイルバリア性能が十分であり、重合単位(a)の入手が容易である。またR基は直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよいが、オイルバリア性能の面から直鎖構造の基が好ましい。R基は、アルキル基の水素原子の実質的に全てがフッ素原子に置換された基(すなわち、エーテル性酸素原子を含まない基)が好ましく、特にF(CF−[nは6〜12の整数]で表される直鎖の基が好ましい。
基の具体例としては、以下の構造が挙げられるがこれらに限定されない。なお、以下の具体例中には、構造異性の基に相当する基も含まれる。
エーテル性酸素原子を含まないR基の例。
−、C−[F(CF−、および(CFCF−の両者を含む]、C−[F(CF−、(CFCFCF−、(CFC−、F(CFCF(CF)−を含む]、C11−[F(CF−、(CFCF(CF−、(CFCCF−、F(CFCF(CF)CF−などの構造異性の基を含む]、C13−[F(CFC(CF−などの構造異性の基を含む]、C17−、C1021−、C1225−、C1521−、HC2t−(tは1〜18の整数)、(CFCFC2s−(sは1〜15の整数)など。
エーテル性酸素原子を含むR基の例。
F(CFOCF(CF)−、F[CF(CF)CFO]CF(CF)CFCF−、F[CF(CF)CFO]CF(CF)−、F[CF(CF)CFO]CFCF−、F(CFCFCFO)CFCF−、F(CFCFO)CFCF−(sおよびtは、それぞれ独立に1〜10の整数であり、該当する重合単位(a)の入手の容易さから1〜3の整数が好ましい。uは2〜6の整数。vは1〜11の整数であり、該当する重合単位(a)の入手の容易さから1〜4の整数が好ましい。wは1〜11の整数であり、該当する重合単位(a)の入手の容易さから1〜6の整数が好ましい。)など。
本発明における重合単位(a)は、該当する重合単位(a)の入手の容易性から、下式(1)で表されるR基含有(メタ)アクリレートの重合単位が好ましい。
CH=CRCOO−Q−R……式(1)
ただし、式中の記号は、以下の意味を示す。
:単結合または2価連結基。
:水素原子またはメチル基。
:R基。
式中のQは2価有機連結基が好ましく、特に、後述の具体例中に挙げるものが好ましい。式中のRは、エーテル性酸素原子を含まないポリフルオロアルキル基が好ましく、特にエーテル性の酸素原子を含まないペルフルオロアルキル基が好ましい。式(1)で表されるR基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、下記化合物が挙げられる。
F(CF(CHOCOCH=CH、F(CF(CHOCOC(CH)=CH、F(CF(CHOCOCH=CH、F(CFCHOCOCH=CH、F(CF10(CHOCOC(CH)=CH、H(CF(CHOCOC(CH)=CH、(CFCF(CF(CHOCOC(CH)=CH、F(CFSON(CHCHCH)−(CHOCOCH=CH
重合体(A)中の重合単位(a)は、1種のみであっても2種以上であってもよい。重合体(A)は、重合単位(a)以外の重合単位を含んでいてもよい。重合単位(a)以外の重合単位としては、R基を持たず重合性の不飽和基を有する単量体(以下、他の単量体という。)の重合単位であれば特に限定されない。他の単量体としては、公知または周知の化合物から採用され、1種または2種以上を使用できる。
他の単量体としては、アクリル酸エステル等のポリオレフィン系不飽和エステル、エポキシ基を有する不飽和エステル、ビニル基を有する化合物、アミノ基と重合性不飽和基を有する化合物、ケイ素と重合性不飽和基を有する化合物、および置換アミノ基と重合性不飽和基を有する化合物があげられる。
重合体(A)が(a)以外の重合単位を含む共重合体である場合には、重合体(A)中の重合単位(a)の割合は80質量%以上が好ましく、特に90質量%以上が好ましい。重合体(A)中の重合単位(a)の割合が上記の範囲であると、オイルバリア性能が良好である。
本発明の重合体(A)中のフッ素含量は30質量%以上が好ましく、特に45〜95質量%が好ましい。重合体(A)中のフッ素含量が上記の範囲であると、オイルバリア性能が良好である。
重合体(A)の質量平均分子量は1×10〜1×10が好ましく、特に1×10〜1×10が好ましい。また、重合体(A)が2種以上の重合単位を含む重合体である場合は、各重合単位の連なり方はブロックでもランダムでもよく、特にランダムが好ましい。
また、本発明のオイルバリア組成物において、重合体(A)のエマルジョンの累積平均径は、10μm以下であることが好ましく、6μm以下であることがより好ましく、1μm以下であることがさらに好ましく、0.1μm以下であることが特に好ましい。重合体(A)のエマルジョンの累積平均径が10μm以下であると、エマルジョンとしての分散安定性に優れており、塗布に際して再攪拌などの操作が必要になるおそれがなく、また、塗布処理後の塗膜の均質性に優れており、オイルバリア性能が低下するおそれがない。
ここで、本発明において、累積平均径とは、1つの粒子の集団を仮定し、その粒度分布が求められているとき、その粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求めた時、その累積カーブが50%となる点の粒径(μm)をいう。
本発明の組成物は、上記した重合体(A)とともに、界面活性剤(B)、および水系媒体(C)を含む。組成物中の重合体(A)は、後述する水系媒体(C)中に粒子となって分散しているのが好ましい。本発明の組成物中における重合体(A)の濃度は0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%が特に好ましい。該重合体(A)の濃度が上記の範囲であれば、オイルバリア性能が良好であり、本発明の組成物を用いてオイルバリア処理を行う際のコスト面でも優れている。
本発明において、界面活性剤(B)は、該界面活性剤(B)の総質量中にフッ素系界面活性剤(B)を50質量%以上含んだフッ素系界面活性剤(B)を主成分とする界面活性剤であり、フッ素系界面活性剤(B)の含量が上記の範囲である限り、非フッ素系界面活性剤(B)を含んでもよい。界面活性剤(B)は、その総質量に対してフッ素系界面活性剤(B)を90質量%以上含むことがより好ましく、界面活性剤(B)が全てフッ素系界面活性剤(B)であることが特に好ましい。
界面活性剤(B)の総質量に対するフッ素系界面活性剤(B)の含量が50質量%未満であると、所望のオイルバリア性能を得ることができず、また、組成物の耐久性が劣っていて実用に耐えない。
本発明におけるフッ素系界面活性剤(B)としては、フッ素原子を有するイオン性界面活性剤またはフッ素原子を有するノニオン性界面活性剤が挙げられる。さらに、フッ素系界面活性剤(B)としては、R基とアニオン性基とを併有するアニオン性フッ素系界面活性剤、R基とカチオン性基とを併有するカチオン性フッ素系界面活性剤、R基とカチオン性基とアニオン性基とを併有する両性界面活性剤、R基と親水性基とを併有するノニオン性界面活性剤のいずれでもよい。
フッ素系のカチオン性界面活性剤の商品名としては、セイミケミカル社製「サーフロン(登録商標)S−121」、スリーエム社製「フロラードFC−134」、大日本インキ化学工業社製「メガファックF−150」が挙げられる。フッ素系のアニオン性界面活性剤の商品名としては、セイミケミカル社製「サーフロン(登録商標)S−111」、スリーエム社製「フロラード(登録商標)FC−143」、大日本インキ化学工業社製「メガファック(登録商標)F−120」が挙げられる。フッ素系の両性界面活性剤の商品名としては、セイミケミカル社製「サーフロン(登録商標)S−132」、「サーフロン(登録商標)S−131」、スリーエム社製「フロラード(登録商標)FX−172」、大日本インキ化学工業社製「メガファック(登録商標)F−120」が挙げられる。フッ素系のノニオン性界面活性剤の商品名としては、セイミケミカル社製「サーフロン(登録商標)S−145」、スリーエム社製「フロラード(登録商標)FC−170」、大日本インキ化学工業社製「メガファック(登録商標)F−141」が挙げられる。
界面活性剤(B)に含めてもよい非フッ素系界面活性剤(B)としては、HLB値が7以上の非フッ素系非イオン性界面活性剤、炭素数6以上のアルキル基を分子内に有する非フッ素系カチオン性界面活性剤、または、炭素数6以上のアルキル基を分子内に有する非フッ素系アニオン性界面活性剤が好ましい。
HLB値が7以上の非フッ素系非イオン性界面活性剤としては、オキシアルキレン単位を分子中に5個以上含有する公知の非イオン性界面活性剤が好ましい。オキシアルキレン単位としては、オキシエチレンまたはオキシプロピレンが好ましい。また、炭素数6以上のアルキル基を分子内に有する非フッ素系カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム塩等が挙げられ、炭素数6以上のアルキル基を分子内に有する非フッ素系アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸塩等が挙げられる。
本発明における非フッ素系界面活性剤(B)の具体例を以下に挙げる。ポリオキシエチレンラウリルエーテル(HLB=14.5、オキシエチレン付加モル数=9)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル(HLB=9.5、オキシエチレン付加モル数=1、オキシプロピレン付加モル数=8)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル(HLB=11.5、オキシエチレン付加モル数=10)、ポリオキシオキシエチレンノニルフェニルエーテル(HLB=8.0、オキシエチレン付加モル数=5)、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ジメチルオクタデシルアミン酢酸塩。これらのうち、非フッ素系界面活性剤(B)としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ジメチルオクタデシルアミン酢酸塩等が好ましい。
界面活性剤(B)は、組成物中に0.001質量%〜10質量%含まれることが好ましく、特に0.01質量%〜5質量%含まれることが好ましい。界面活性剤(B)量が0.001質量%未満だと基材に対する組成物の濡れ性が不足する恐れがあり、10質量%超であると、形成された塗膜の基材への密着性が低くなる問題点がある。
また、本発明の組成物は、水系媒体(C)を含む。水系媒体(C)としては、水、または水に水溶性有機溶剤を含ませたものが挙げられる。水溶性有機溶剤としては、ケトン類、エステル類、グリコール類、グリコールエーテル類、またはアルコール等が挙げられる。水系媒体(C)が、水溶性有機溶剤を含む場合には水系媒体(C)中の水の割合は50〜95質量%が好ましく、一方、水溶性有機溶剤の割合は5〜50質量%が好ましい。
さらに水溶性有機溶剤は、乾燥しやすさの点から沸点が40〜200℃であるものが好ましい。また、水系媒体(C)は、20℃における水への溶解度が1質量%以上の有機溶剤であるのが好ましい。
本発明の組成物は、常温(25℃)における表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、20mN/m以下であることがより好ましい。常温(25℃)における組成物の表面張力が30mN/m以下であると、オイルバリア性が良好であり、また、プレス加工時に使用されるプレス油のような前工程時に部品の表面に付着している可能性が高い、例えば高級脂肪酸エステルなどのオイル分の表面張力よりも低いため、オイル分が付着している面に対しても濡れ性、付着性に優れている。このため、処理する面に付着しているオイル分を洗浄除去せずに組成物で処理することができる。
本発明の組成物は、処理対象となる面上に塗膜を形成させた際に、該塗膜表面における潤滑剤(例えば、炭素数16以上の炭化水素系潤滑油、具体的には例えばノルマルヘキサデカン)の接触角が50°以上である。組成物塗膜表面での潤滑剤の接触角が上記の範囲であれば、オイルバリア性能に優れている。
本発明の組成物には、分散安定性、オイルバリア性、基材への濡れ性、または外観等に悪影響を与えない範囲で、上記した以外の他の成分を含めてもよい。このような他の成分としては、具体的には腐食を防止するためのpH調節剤、防錆剤、液中の重合体の濃度を管理するための染料、染料の安定剤、難燃剤、または帯電防止剤等が挙げられる。
本発明のオイルバリア組成物は、上記した所望の組成および物理特性を有する組成物が得られる限りどのような方法で製造してもよい。したがって、重合単位(a)を含む重合単位を含フッ素溶剤中で溶液重合させて重合体(A)を合成し、含フッ素溶剤を除去した後、得られた重合体(A)をフッ素系界面活性剤(B)の存在下で水系媒体(C)に分散させて本発明の組成物を製造してもよい。この場合使用可能な含フッ素溶剤としては、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、2,3−ジヒドロデカフルオロ(n−)ペンタン等のHFC、CHFCl(旭硝子社製商品名「AK−225」)等のHCFCが挙げられる。ただし、重合単位(a)を含む単量体と、必要に応じて他の単量体とを、乳化剤の存在下で乳化重合させて重合体(A)を合成すれば、直接本発明の組成物を得られるため好ましい。
乳化重合により重合体(A)を合成する場合には、下記方法1または方法2で実施するのが好ましい。
[方法1]媒体および乳化剤の存在下に単量体を乳化させ、つぎに撹拌しながら重合させる方法。
[方法2]重合開始剤を添加する前に、媒体および乳化剤の存在下で単量体をホモミキサーまたは高圧乳化装置により乳化して、つぎに、重合開始源を作用させて重合する方法。
上記のいずれの方法においても、単量体として塩化ビニルなどのガス状の単量体を採用する場合には、圧力容器を用いて、加圧下で連続供給してもよい。
重合開始源としては、特に限定されず、有機過酸化物、アゾ化合物、過硫酸塩等の通常の重合開始剤、または、γ線のような電離性放射線等が使用することができる。
媒体としては、水系媒体(C)と同じものを使用するのが好ましい。
すなわち、重合体(A)を乳化重合で合成して本発明の組成物を製造する場合、重合単位(a)を含む単量体、好ましくは式(1)で表される単量体と、必要に応じて他の単量体とを、乳化剤の存在下、水系媒体(C)中で乳化重合して重合体(A)を合成することが好ましい。
また、上記の方法の全てにおいて、乳化剤は界面活性剤(B)であってもよく、この場合、フッ素系界面活性剤(B)であっても、非フッ素系界面活性剤(B)であってもよい。ただし、フッ素系界面活性剤(B)を用いれば、本発明の組成物が直接得られるので好ましい。界面活性剤(B)は、イオン性の異なる界面活性剤を2種以上併用してもよい。ただし、イオン性の異なる界面活性剤を用いる場合には、カチオン性と非イオン性、アニオン性と非イオン性、または非イオン性と両性とを組合わせるのが好ましい。
本発明において、組成物の組成、具体的には、重合体(A)の質量平均分子量、組成物中における重合体(A)、界面活性剤(B)および水系媒体(C)の各含量、界面活性剤(B)中のフッ素系界面活性剤(B)の含量等、および物理特性、具体的には組成物の表面張力等を上記した好適範囲に調整することが容易であることから、乳化重合後にフッ素系界面活性剤(B)を加えることで本発明の組成物を調製するのが好ましい。
本発明の組成物によれば、目的や用途に応じて、オイルバリア処理することが必要な摺動部品または摺動部品の近くの部品(以下、「被処理部品」ともいう。)の表面をオイルバリア処理することができる。処理方法としては、一般的な被覆加工方法が採用できる。たとえば、浸漬塗布、スプレー塗布、または本発明の組成物を充填したエアゾール缶による塗布等の方法がある。
本発明の組成物を被処理部品の表面に塗布し、つぎに乾燥することにより、該表面上に塗膜を形成することができる。組成物を塗布し、乾燥させた後、さらに熱処理するのが好ましい。このような熱処理を行うことで、被処理物の表面に欠陥のない連続な被膜を形成することができる。乾燥条件および熱処理条件は、塗布する組成物の組成や、塗布面積等に応じて適宜選択すればよく、例えば、乾燥条件としては、後述する実施例では60℃15分間乾燥させており、熱処理条件としては、後述する実施例では120℃で10分間加熱処理している。
【実施例】
以下実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[重合体1の合成例]
1リットルのガラス製オートクレーブにF(CF(CHOCOCH=CH219g、フッ素系界面活性剤S−131(固形分濃度30%、セイミケミカル社製)64.4g、アセトン48.2g、イオン交換水266gを加え、50℃で1時間の前乳化を行った。その後2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)塩酸塩(V−50、和光純薬社製)2gを加え、オートクレーブを窒素置換した。
攪拌速度約200rpm(20L円筒型容器Φ=26cm、アンカー翼(Φ=18cm))で撹拌しながら60℃に昇温して18時間重合を行い、冷却後、ガスクロマトグラフィ(GC)で分析した結果、F(CF(CHOCOCH=CHの反応率は99%以上であり、重合反応が順調に進行したことがわかった。その後、孔径6μmのフィルタでろ過して乳白色エマルジョンを得た。エマルジョンの固形分濃度は36.0%であった。
[重合体2の合成例]
1リットルのガラス製オートクレーブにF(CF(CHOCOCH=CH217g、炭化水素系界面活性剤K−220(日本油脂社製)20wt.%水溶液133g、アセトン47.6g、イオン交換水201gを加え、50℃で1時間の前乳化を行った。その後2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)塩酸塩(V−50、和光純薬社製)1.9gを加え、オートクレーブを窒素置換した。
重合体1と同一条件で撹拌しながら60℃に昇温して18時間重合を行い、冷却後、ガスクロマトグラフィ(GC)で分析した結果、F(CF(CHOCOCH=CHの反応率は99%以上であり、重合反応が順調に進行したことがわかった。その後、孔径6μmのフィルタでろ過して乳白色エマルジョンを得た。エマルジョンの固形分濃度は40.9%であった。
[組成物1の調製]
サーフロン(登録商標)S−111(固形分濃度30%、セイミケミカル社製)を20%エタノール水溶液で希釈し、固形分濃度0.2%の溶液▲1▼を調製した。重合体1の合成例で合成したエマルジョン(固形分濃度36%)を、調製した溶液▲1▼で希釈し、重合体1の固形分濃度が2%の組成物1を調製した。
得られた組成物について、重合体1のエマルジョンの累積平均径を、製粒度分析計MICROTRAC UPA(MODEL:9230、日機装社製)を用いて、動的光反射法により測定した。累積平均径の測定値は0.0112μmであった。
[組成物2の調製]
重合体2の合成例で調製したエマルジョン(固形分濃度40%)を、組成物1の調製例で調製した溶液▲1▼で希釈し、重合体2の固形分濃度が2%の組成物2を調製した。得られた組成物について、組成物1と同様の方法で重合体2のエマルジョンの累積平均径を測定した。累積平均径の測定値は0.0689μmであった。
[組成物3の調製]
重合体1の合成例で調製したエマルジョン(固形分濃度36%)を、サーフロン(登録商標)S−111(固形分30%、セイミケミカル社製)の0.2wt.%水溶液と、イオン交換水とで当該重合体1の固形分濃度が0.4%、S−111の固形分濃度が0.04%となるように希釈して組成物3を調製した。
得られた組成物について、組成物1と同様の方法で重合体1のエマルジョンの累積平均径を測定した。累積平均径の測定値は0.0119μmであった。
[組成物4の調製]
重合体1の合成例と同様の手順であるが、重合時の攪拌速度を120rpm(20L円筒型容器Φ=26cm、アンカー翼(Φ=18cm))として調製したエマルジョン(固形分濃度36%)を、サーフロン(登録商標)S−111(固形分30%、セイミケミカル社製)の0.2wt.%水溶液と、イオン交換水とで当該重合体の固形分濃度が0.4%、S−111の固形分濃度が0.04%となるように希釈して組成物4を調製した。
得られた組成物について、組成物1と同様の方法で重合体のエマルジョンの累積平均径を測定した。累積平均径の測定値は0.3178μmであった。
[性能評価方法および評価結果]
(1)濡れ性 組成物1および2の濡れ性を評価するために常温(25℃)での表面張力をウィルヘルミー表面張力計で測定した。結果(単位:mN/m)を表1に示す。

(2)オイルバリア性能の評価(その1)
組成物1および2に、10cm×10cm×1mmの鉄板をそれぞれ1分間浸漬した。さらに、120℃で10分間乾燥、加熱処理を行い、表面に塗膜を形成させた。塗膜を形成した後の表面におけるノルマルヘキサデカン接触角を協和界面科学社製の液滴式投影形接触角計で測定した。さらに、ノルマルヘキサデカンの液滴をのせたままの鉄板を常温(25℃)または90℃の条件でそれぞれ一定時間放置し、ノルマルヘキサデカン接触角の経時変化を測定した。接触角の平均値を表2に示した。

(3)オイルバリア性能の評価(その2)
(2)と同様な鉄板に、ブレス加工に使われるオイル(AK−280 コスモ石油ルブリカンツ社製)をハケ塗りしたものを使用した以外は(2)と同様に表面におけるノルマルヘキサデカン接触角を協和界面科学社製の液滴式投影形接触角計で測定した。接触角の平均値を表3に示した。

(4)オイルバリア性能の評価(その3)
プレス油(AK−280、コスモ石油ブルカンツ社製)に浸漬させた後1晩室温乾藻させたガラス板を、組成物3および4にそれぞれ1分間浸漬した後、60℃で15分間乾燥処理を行い、表面に塗膜を形成させ、このガラス板表面におけるノルマルヘキサデカンの接触角を液滴式投影形接触角計(協和界面科学社製)で測定した。接触角の平均値を表4に示した。

【産業上の利用可能性】
本発明のオイルバリア組成物は、水系媒体を用いているため、オゾン層破壊、地球温暖化の心配がなく、かつ、すぐれたオイルバリア性能を示す。該組成物においては、臭気の問題もほとんどないため、作業環境上も大変有利である。また、該組成物は、被処理部品にプレス加工等の前工程で使用されたオイル分が付着している場合でも、そのまま処理することができるため、オイル分を除去するための洗浄工程を省略することができ、工程の簡略化が実現できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記重合単位(a)を含む重合体(A)、界面活性剤(B)、および水系媒体(C)を含み、前記界面活性剤(B)は、該界面活性剤(B)の総質量中にフッ素系界面活性剤(B)を50質量%以上含むことを特徴とするオイルバリア組成物。
重合単位(a):ポリフルオロアルキル基を含む不飽和エステルの重合単位、または炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたポリフルオロアルキル基を含む不飽和エステルの重合単位。
【請求項2】
前記重合体(A)中、前記重合単位(a)の割合は90質量%以上である請求項1に記載のオイルバリア組成物。
【請求項3】
前記重合体(A)を構成する重合単位がすべて重合単位(a)である請求項1または2に記載のオイルバリア組成物。
【請求項4】
前記界面活性剤(B)は、すべてフッ素系界面活性剤(B)である請求項1〜3のいずれかに記載のオイルバリア組成物。
【請求項5】
前記重合単位(a)は、下式(1)で表される化合物の重合単位である請求項1〜4のいずれかに記載のオイルバリア組成物。
CH=CRCOO−Q−R……式(1)
ただし、式(1)中、Q、R、およびRは以下の通りである。
:単結合または2価連結基。
:水素原子またはメチル基。
:ポリフルオロアルキル基、または、炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されたポリフルオロアルキル基。
【請求項6】
前記水系媒体(C)は、水、または水と沸点40〜200℃の水溶性有機溶剤との混合溶液である請求項1ないし5のいずれかに記載のオイルバリア組成物。
【請求項7】
常温(25℃)での組成物の表面張力が30mN/m以下である請求項1ないし6のいずれかに記載のオイルバリア組成物。
【請求項8】
前記重合体(A)のエマルジョンの累積平均径が10μm以下である請求項1ないし7のいずれかに記載のオイルバリア組成物。
【請求項9】
乳化剤存在下、乳化重合により重合体(A)を合成し、得られた重合体(A)にさらにフッ素系界面活性剤(B)を添加することを特徴とする、請求項1ないし8のいずれかに記載のオイルバリア組成物を製造する方法。
【請求項10】
乳化剤として、フッ素系界面活性剤(B)の存在下、水性媒体(C)中で乳化重合することにより重合体(A)を合成することを特徴とする請求項9に記載のオイルバリア組成物を製造する方法。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれかに記載のオイルバリア組成物、または、請求項9もしくは10に記載のオイルバリア組成物を製造する方法により製造されるオイルバリア組成物を部品表面に塗布、乾燥もしくは熱処理することを特徴とする摺動部品または摺動部品に近設する部品の表面をオイルバリア処理する方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により得られた、表面がオイルバリア処理された摺動部品または摺動部品に近設する部品。

【国際公開番号】WO2004/033579
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【発行日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542830(P2004−542830)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012774
【国際出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【出願人】(000108030)セイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】