説明

オレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法

【課題】オレフィンとアルコールの共沸混合物から少なくともアルコールを高純度で分離回収することのできる方法を提供する。
【解決手段】RfCH=CH(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基である)で表わされるオレフィンとアルコールの共沸混合物を晶析操作に付して、元の共沸混合物より高いオレフィン濃度を有するオレフィン部分と、元の共沸混合物より高いアルコール濃度を有するアルコール部分とに分離する共沸混合物晶析工程と、分離したアルコール部分を晶析操作および蒸留操作のいずれかに付して、元のアルコール部分より低いアルコール濃度を有する低アルコール部分と、元のアルコール部分より高いアルコール濃度を有する高アルコール部分とに分離して、高アルコール部分としてアルコールを回収するアルコール高純度化工程とを実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法、より詳細にはオレフィンとアルコールの共沸混合物から少なくともアルコールを分離回収する方法に関する。また、本発明はこのような方法を利用したエステル製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
式RfCHCHOCORで表わされる構造を有するエステルは、撥水撥油剤、界面活性剤、離型剤、その他の有用な物質を製造するための中間体などとして用いられている。
【0003】
このようなエステルを合成する方法として、式RfCHCHY(YはBrまたはI)で表わされるハロゲン化物とカルボン酸のアルカリ金属塩とをアルコール溶媒中で加熱する方法が知られている(特許文献1を参照のこと)。エステル化反応後、目的生成物であるエステルのほか副生成物や溶媒のアルコールなどを含む反応混合物を精留操作に付して、目的のエステルを得ることができる。
【0004】
このエステル合成方法において溶媒として用いるのに適したアルコール(例えばtert−アミルアルコールやtert−ブチルアルコールなど)は比較的高価であり、反応後はアルコールをできるだけ回収し、エステル化反応の溶媒として再利用することが好ましい。
【0005】
【特許文献1】特公昭39−18112号公報
【特許文献2】特公昭59−29047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のエステル化反応における主な副生成物は式RfCH=CHで表わされるオレフィンであり、これは10〜20mol%程度の割合(反応後に得られる反応混合物基準)で副生する。このオレフィン(RfCH=CH)と溶媒のアルコールとは共沸するため、精留操作ではこれらを完全に分離することはできない。
【0007】
このオレフィン(RfCH=CH)が混入したアルコールをエステル化反応の溶媒として用いると目的物質の収率低下の原因となる。よって、反応混合物の精留操作にて得られるオレフィンとアルコールの共沸混合物は、エステル化反応の溶媒として再利用できない。このことがエステル(RfCHCHOCOR)製造におけるアルコール原単位低下と大量の含フッ素廃液の発生を招いており、エステル製造方法の大きな課題となっていた。オレフィンとアルコールの共沸混合物からアルコールを高純度で分離することができれば、これをエステル化反応に再利用できるので好都合である。
【0008】
本発明の主な目的は、オレフィンとアルコールの共沸混合物から少なくともアルコールを高純度で分離回収することのできる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、アルコールとオレフィン(RfCH=CH)との融点差に着目し、いわゆる晶析を利用してこれらを分離するプロセスについて検討した。通常の晶析分離法では、1回の晶析操作で共沸混合物から高融点成分を固体として高純度で分離することができる(例えば特許文献2を参照のこと)。即ち、一般的な共沸混合物(二成分系)の場合、1回の晶析操作により析出する固体はいずれか一成分の純粋な固体である。
【0010】
しかしながら、本発明者らの研究により、アルコールとオレフィン(RfCH=CH)の混合物の場合、1回の晶析操作だけでは、一般的にアルコールである高融点成分を固体として高純度で分離することはできず、これら二成分の混ざった固体が析出することが判明した。析出する固体の組成は母液の組成によって異なり、元の混合物中のアルコール濃度が高いほど、析出する固体のアルコール濃度も高くなる。本発明者らはこのような独自の知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の1つの要旨によれば、オレフィンとアルコールの共沸混合物から少なくともアルコールを分離回収する方法であって、以下の式
RfCH=CH
(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基である)で表わされるオレフィンとアルコールの共沸混合物を晶析操作に付して、元の共沸混合物より高いオレフィン濃度を有するオレフィン部分と、元の共沸混合物より高いアルコール濃度を有するアルコール部分とに分離する共沸混合物晶析工程と、
分離したアルコール部分を晶析操作および蒸留操作のいずれかに付して、元のアルコール部分より低いアルコール濃度を有する低アルコール部分と、元のアルコール部分より高いアルコール濃度を有する高アルコール部分とに分離して、高アルコール部分としてアルコールを回収するアルコール高純度化工程と
を含む方法が提供される。
【0012】
このような本発明の方法(オレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法とも言う)では、まず、共沸混合物晶析工程で元の共沸混合物より高いアルコール濃度を有するアルコール部分を得てから、続くアルコール高純度化工程で晶析操作または蒸留操作によって、このアルコール部分より更に高いアルコール濃度を有する高アルコール部分を得ている。よって、本発明の方法によればアルコールを高純度で回収することができる。
【0013】
本発明を通じて、「晶析操作」とは、液相の組成と固相の組成の相違を利用した分離操作であって、操作対象の混合物(例えば本発明の共沸混合物晶析工程では共沸混合物であり、アルコール高純度化工程ではアルコール部分である)を液体状態から開始して徐々に冷却することにより固体を析出させ、析出した固体を母液から分離して、この固体の部分(または固体に由来する部分)と、固体が除去された残部とに分ける操作を意味する。元の混合物に比べて、固体に由来する部分は高融点成分の濃度がより高くなっており、固体が除去された残部に由来する部分は低融点成分の濃度がより高くなっている。オレフィン−アルコール二成分系の場合、本発明を限定するものではないが、一般的に、高融点成分はアルコールであり、低融点成分はオレフィン(RfCH=CH)である。
また、「蒸留操作」とは、液相の組成と気相の組成の相違を利用した分離操作であって、当該技術分野において一般的に知られているものを適用し得る。
【0014】
本発明の方法においては、共沸混合物晶析工程にて分離したアルコール部分を、アルコール高純度化工程にて晶析操作および蒸留操作のいずれかに付した後、これにより得られる各部分を必要に応じて更に晶析操作および蒸留操作などに付してよい。
【0015】
例えば、アルコール高純度化工程にて晶析操作を実施する場合、所望の純度のアルコールが得られるまで晶析操作を繰り返してよい。
【0016】
アルコール高純度化工程にて蒸留操作を実施する場合、低アルコール部分はオレフィンとアルコールの共沸混合物であり、高アルコール部分は実質的にアルコールから成る。蒸留操作に付すアルコール部分の組成は、前段の共沸混合物晶析工程によって共沸組成より高いアルコール濃度を有するものとなっているので、蒸留操作によって実質的にアルコールから成る高アルコール部分(以下、純アルコールとも言う)を得ることができる。この場合、高アルコール部分(純アルコール)は、例えば分析上100mol%(ガスクロマトグラフィー分析でオレフィンが検出限界以下である)のアルコール濃度を有し得る。
また、この蒸留操作によって得られたオレフィンとアルコールの共沸混合物は、共沸混合物晶析工程に戻してよい。このように循環させることによって、オレフィンとアルコールの共沸混合物を廃棄することなく、できるだけ多くのアルコールを回収することが可能となる。
【0017】
本発明の1つの態様では、本発明の方法は、共沸混合物晶析工程にて分離したオレフィン部分を晶析操作および蒸留操作のいずれかに付して、元のオレフィン部分より低いオレフィン濃度を有する低オレフィン部分と、元のオレフィン部分より高いオレフィン濃度を有する高オレフィン部分とに分離して、高オレフィン部分としてオレフィンを回収するオレフィン高純度化工程を更に含む。
【0018】
この態様によれば、まず、共沸混合物晶析工程で元の共沸混合物より高いオレフィン濃度を有するオレフィン部分を得てから、続くオレフィン高純度化工程で晶析操作または蒸留操作によって、このオレフィン部分より更に高いオレフィン濃度を有する高オレフィン部分を得ている。よって、本発明のこの態様によればオレフィン(RfCH=CH)も高純度で回収することができる。
【0019】
上記態様においては、共沸混合物晶析工程にて分離したアルコール部分を、アルコール高純度化工程にて晶析操作および蒸留操作のいずれかに付した後、これにより得られる各部分を必要に応じて更に晶析操作および蒸留操作などに付してよい。
【0020】
例えば、オレフィン高純度化工程にて晶析操作を実施する場合、所望の純度のオレフィンが得られるまで晶析操作を繰り返してよい。
【0021】
オレフィン高純度化工程にて蒸留操作を実施する場合、低オレフィン部分はオレフィンとアルコールの共沸混合物であり、高オレフィン部分は実質的にオレフィンから成る。蒸留操作に付すオレフィン部分の組成は、前段の共沸混合物晶析工程によって共沸組成より高いオレフィン濃度を有するものとなっているので、蒸留操作によって実質的にオレフィンから成る高オレフィン部分(以下、純オレフィンとも言う)を得ることができる。この場合、高オレフィン部分(純オレフィン)は、例えば分析上100mol%(ガスクロマトグラフィー分析でアルコールが検出限界以下である)のオレフィン濃度を有し得る。
また、この蒸留操作によって得られたオレフィンとアルコールの共沸混合物は、共沸混合物晶析工程に戻してよい。このように循環させることによって、オレフィンとアルコールの共沸混合物を廃棄することなく、できるだけ多くのアルコールおよびオレフィンを回収することが可能となる。
【0022】
アルコール高純度化工程およびオレフィン高純度化工程では、上述したように晶析操作を実施してよいが、それぞれ純アルコールおよび純オレフィンを簡便に得ることができるので蒸留操作を実施するほうが好ましい。また、アルコール高純度化工程で晶析操作と蒸留操作とを組み合わせてもよく、例えば晶析操作を少なくとも1回実施した後に蒸留操作を実施することが好ましい。
【0023】
本発明のオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法は、エステル製造方法に好適に利用され得る。本発明のもう1つの要旨によれば、以下の式
RfCHCH
(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であり、Yは臭素またはヨウ素である)で表わされるハロゲン化物と、以下の式
RCOOX
(式中、RCOOはモノまたはポリカルボン有機酸の1種の親核性置換分のない残基であり、Xはアルカリ金属である)で表わされるカルボン酸アルカリ金属塩とを、アルコール溶媒中で反応させて、以下の式
RfCHCHOCOR
で表わされるエステルを得るエステル製造方法において、
該反応で生成したエステル、その際に副生したオレフィン、および溶媒として用いたアルコールを含む反応混合物を蒸留操作に付して、オレフィンとアルコールの共沸混合物を得、
得られたオレフィンとアルコールの共沸混合物を、上述した本発明のオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法に付してアルコールを回収し、
回収したアルコールを、反応のための溶媒として再利用することを特徴とする、エステル製造方法もまた提供される。
【0024】
このような本発明のエステル製造方法によれば、目的物質であるエステル(RfCHCHOCOR)の収率を低下させることなく、溶媒のアルコールを再利用することができるので、アルコール原単位ひいては製造効率を向上させることができる。本発明において高純度化のために蒸留操作を実施した場合には、オレフィンとアルコールの共沸混合物が生じ得るが、これは共沸混合物晶析工程へと戻すことができるので、廃棄する必要がなくなる。また、アルコールのみならず、オレフィン(RfCH=CH)も高純度で回収した場合には、付加価値を有するようになるので、これも廃棄する必要がない。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、オレフィンとアルコールの共沸混合物から少なくともアルコールを高純度で分離回収することのできる方法が提供される。このような本発明のオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法をエステル製造方法に利用すれば、目的物質であるエステルの収率を低下させることなく、溶媒のアルコールを再利用することができるので、製造効率を向上させることができ、また、好ましくは含フッ素廃液の量を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
(実施形態1)
本発明の1つの実施形態におけるオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法について、図1を参照しながら以下に説明する。
【0027】
オレフィン−アルコール共沸混合物には、オレフィンとアルコールの2成分から成り、共沸組成を有する共沸混合物を用いる。このオレフィンは以下の式
RfCH=CH
で表わされるものである。式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であり、より具体的にはRfはF(CF−(nは1〜10の整数、好ましくは4〜8の整数、例えば6)で表わされる。他方、アルコールはこのようなオレフィンと共沸する限り、いかなるものであってもよい。
【0028】
本実施形態においては、最低沸点にて共沸し(最低共沸混合物)、オレフィンよりアルコールのほうが融点が高く、液体状態より固化状態のほうがアルコール濃度が高いオレフィン−アルコール共沸混合物を用いるものとする。このようなオレフィン−アルコール共沸混合物としては、例えばパーフルオロヘキシルエチレン(F(CFCH=CH)とtert−ブチルアルコール(以下、本明細書において単にt−ブタノールとも言う)との共沸混合物が挙げられる。
【0029】
・共沸混合物晶析工程
図1を参照して、オレフィン−アルコール共沸混合物を晶析操作に付して、より高いオレフィン濃度を有するオレフィン部分と、より高いアルコール濃度を有するアルコール部分とに分離する。オレフィン(RfCH=CH)−アルコール二成分系では、共沸組成にある液相から得られる固相の組成は共沸組成からずれたものとなるので、晶析操作により、元の共沸混合物より高いオレフィン濃度を有するオレフィン部分と、より高いアルコール濃度を有するアルコール部分とに分離することができる。
【0030】
本実施形態において具体的には、まず、高融点成分であるアルコールの融点以下の温度にまで冷却する。これにより析出した固体は、元の共沸混合物よりアルコール濃度が高くなっており、液体残部は、元の共沸混合物よりオレフィン濃度が高くなっている。任意の適切な固液分離を実施して固体部分と液体残部とに分離し、この固体部分をアルコール部分として、液体残部をオレフィン部分として得る(尚、アルコール部分は、固体から液体状態に戻す)。
【0031】
オレフィン(RfCH=CH)−アルコール二成分系では、析出した固体は純粋なアルコールより成っておらず、アルコールとオレフィンとが混じったものになっている。例えばパーフルオロヘキシルエチレンとt−ブタノールとの共沸混合物(パーフルオロヘキシルエチレン約65重量%、t−ブタノール約35重量%)から得られる固体(ひいてはアルコール部分)は、パーフルオロヘキシルエチレン約30重量%、t−ブタノール約70重量%の組成を有し得る。
【0032】
・アルコール高純度化工程
共沸混合物晶析工程より得られたアルコール部分を以下の晶析操作または蒸留操作に付して、より高いアルコール濃度を有する高アルコール部分と、より低いアルコール濃度を有する低アルコール部分とに分離する。
【0033】
(1)晶析操作
アルコール部分を更に晶析操作に付すことによって、高アルコール部分と低アルコール部分とに分離できる。オレフィン(RfCH=CH)−アルコール二成分系では、晶析条件にもよるが一般的には、元の混合物中のアルコール濃度が高いほど、析出する固体のアルコール濃度も高くなる傾向にあるので、元の混合物より高いアルコール濃度を有する高アルコール部分を得ることができる。
【0034】
具体的な操作は先の共沸混合物晶析工程における晶析操作と同様に行えばよく、固体部分を高アルコール部分として、液体残部を低アルコール部分として得る(尚、高アルコール部分は、固体から液体状態に戻す)。
【0035】
得られた高アルコール部分のアルコール濃度が十分高くない場合、所望のアルコール濃度が得られるまで晶析操作を繰り返してよいが、高アルコール部分を以下(2)と同様の蒸留操作に付すことが好ましい。他方、低アルコール部分は、本実施形態を限定するものではないが、以下(4)と同様の蒸留操作に付すことが好ましい。
【0036】
(2)蒸留操作
あるいは、アルコール部分を蒸留操作に付すことによっても、高アルコール部分と低アルコール部分とに分離できる。先の共沸混合物晶析工程を経て得られたアルコール部分は共沸組成とずれた組成を有するので、これを蒸留操作に付すことによって、元の混合物より高いアルコール濃度を有する高アルコール部分を得ることができる。
【0037】
本実施形態において具体的には、低沸点成分としてオレフィン−アルコール最低共沸混合物が得られ、高沸点成分として純アルコールが得られ、前者が低アルコール部分、後者が高アルコール部分に該当する。得られたオレフィン−アルコール最低共沸混合物は、共沸混合物晶析工程に戻すことによって、アルコール回収率を上げられる上、この廃棄に要する処理および費用をなくすことができる。
【0038】
上記(1)晶析操作または(2)蒸留操作の後、高アルコール部分の形態でアルコールを高純度で分離回収することができる。
【0039】
・オレフィン高純度化工程
共沸混合物晶析工程より得られたオレフィン部分を以下の晶析操作または蒸留操作に付して、より高いオレフィン濃度を有する高オレフィン部分と、より低いオレフィン濃度を有する低オレフィン部分とに分離する。
【0040】
(3)晶析操作
オレフィン部分を更に晶析操作に付すことによって、高オレフィン部分と低オレフィン部分とに分離できる。オレフィン(RfCH=CH)−アルコール二成分系では、晶析条件にもよるが一般的には、元の混合物中のオレフィン濃度が高いほど、液体残部として残るオレフィン濃度も高くなる傾向にあるので、元の混合物より高いオレフィン濃度を有する高オレフィン部分を得ることができる。
【0041】
具体的な操作は先の共沸混合物晶析工程における晶析操作と同様に行えばよく、固体部分を低オレフィン部分として、液体残部を高オレフィン部分として得る。
【0042】
得られた高オレフィン部分のオレフィン濃度が十分高くない場合、所望のオレフィン濃度が得られるまで晶析操作を繰り返してよいが、高オレフィン部分を以下(4)と同様の蒸留操作に付すことが好ましい。他方、低オレフィン部分は、本実施形態を限定するものではないが、上記(2)と同様の蒸留操作に付すことが好ましい。
【0043】
(4)蒸留操作
あるいは、オレフィン部分を蒸留操作に付すことによっても、高オレフィン部分と低オレフィン部分とに分離できる。先の共沸混合物晶析工程を経て得られたオレフィン部分は共沸組成とずれた組成を有するので、これを蒸留操作に付すことによって、元の混合物より高いオレフィン濃度を有する高オレフィン部分を得ることができる。
【0044】
本実施形態において具体的には、低沸点成分としてオレフィン−アルコール最低共沸混合物が得られ、高沸点成分として純オレフィンが得られ、前者が低オレフィン部分、後者が高オレフィン部分に該当する。得られたオレフィン−アルコール最低共沸混合物は、共沸混合物晶析工程に戻すことによって、アルコール回収率を上げられる上、この廃棄に要する処理および費用をなくすことができる。
【0045】
上記(3)晶析操作または(4)蒸留操作の後、高オレフィン部分の形態でオレフィンを高純度で分離回収することができる。
【0046】
本実施形態によれば、オレフィンとアルコールの共沸混合物からアルコールとオレフィンの双方を高純度で分離回収することができる。
【0047】
尚、本実施形態においては、最低沸点にて共沸し(最低共沸混合物)、オレフィンよりアルコールのほうが融点が高く、液体状態より固化状態のほうがアルコール濃度が高いオレフィン−アルコール共沸混合物について説明したが、本発明はこれに限定されず、任意の適切なオレフィン−アルコール共沸混合物を用いることができ、アルコールおよびオレフィンの各々について、晶析操作において固相および液相のどちらにより多く分配されるか、蒸留操作において液相および気相のどちらにより多く分配されるかなどは、用いるオレフィン−アルコール共沸混合物の系によって異なり得ることに留意されたい。(図1中、固体、液体、低bp、高bpを括弧内に示しているのは、本発明がこの態様に制限されないことを意図したものである。)
【0048】
(実施形態2)
本発明の1つの実施形態におけるエステル製造方法について以下に説明する。
【0049】
・反応工程
まず、ハロゲン化物とカルボン酸アルカリ金属塩とをアルコール溶媒中で反応させてエステルを生成させる。
【0050】
原料であるハロゲン化物は、以下の式
RfCHCH
で表わされるものである。式中、Yは臭素またはヨウ素である。また、式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であり、より具体的にはRfはF(CF)n−(nは1〜10の整数、好ましくは4〜8の整数、例えば6)で表わされる。
【0051】
もう1つの原料であるカルボン酸アルカリ金属塩は、以下の式
RCOOX
で表わされるものである。式中、RCOOはモノまたはポリカルボン有機酸の1種の親核性置換分のない残基であり、例えば蟻酸、酢酸プロピオン酸、酪酸、ピバール酸、吉草酸、カプロン酸、ペラルゴン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エナント酸、ヘキサヒドロ安息香酸、樟脳酸、アクリル酸、メタクリル酸、α−クロルアクリル酸、クロトン酸、チグリン酸、ビニル酢酸、オレイン酸、ウンデシレン酸、ブラシジン酸、琥珀酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、シトラコン酸、安息香酸、ニトロ安息香酸、ナフトエ酸、フェニル酢酸、ナフチル酢酸、フタール酸、イソフタール酸、テルフタール酸、クロル安息香酸、トルイル酸、桂皮酸、トリメリット酸、トリメジン酸、ピロメリット酸、ナフタル酸(1,4および1,8)などの酸の残基であり得る。また、式中、Xはアルカリ金属、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムである。
特に、アクリル酸およびメタクリル酸のアルカリ金属塩が好ましく、それらのカリウム塩がより好ましい。
【0052】
溶媒のアルコールは、オレフィンと共沸混合物を形成するようなものであれば特に限定されないが、例えば特許文献1に開示されるように25℃において約17.5以下の誘電率を有する1価アルコール、具体的にはn−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、sec−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソアミルアルコール、tert−アミルアルコール、n−ヘプチルアルコール、ベンジルアルコール、α−フェニルエチルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、n−ドデシルアルコール、n−テトラデシルアルコール、セチルアルコールおよびオクタデシルアルコール、ならびに2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、4−ヘプタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、3−メチルペンタノール、シクロヘキサノール、トリエチルカルビノール、2−、3−および4−メチル−1−シクロヘキサノール、2−、3−および4−オクタノール、2−、3−、4−、5−および6−メチル−1−ヘプタノール、2−、3−および4−メチル−4−ヘプタノール、1,2,3,4−テトラヒドロ−2−ナフトール、2−エチル−1−ヘキサノールなどから適宜選択され得る。
特に、tert−アミルアルコールやtert−ブチルアルコールが好ましく、入手容易性および価格の点からtert−ブチルアルコール(即ちt−ブタノール)がより好ましい。
【0053】
この反応によってエステルが生じ、これは以下の式
RfCHCHOCOR
で表わされるものである。また、このエステル化反応の間に、オレフィンが副生し、これは以下の式
RfCH=CH
で表わされるものである。これら式中、RfおよびRは上述の通りである。
【0054】
この反応工程における温度、圧力および時間などの条件は適宜設定できる。
【0055】
これにより、反応で生成したエステル、その際に副生したオレフィン、および溶媒として用いたアルコールを含む反応混合物が得られる。
【0056】
・蒸留工程
先の反応工程より得られた反応混合物を蒸留(精留)操作に付す。これにより、目的のエステルより実質的に成るフラクションが得られると共に、オレフィン−アルコール共沸混合物より成るフラクションが生じる。
【0057】
例えばオレフィンがパーフルオロヘキシルエチレンであり、アルコールがt−ブタノールの場合、パーフルオロヘキシルエチレン約65重量%、t−ブタノール約35重量%の組成の最低共沸混合物が生じる。
【0058】
この蒸留工程における温度や圧力などの条件は適宜設定できる。
【0059】
・アルコール分離回収工程
先の蒸留工程より得られたオレフィン−アルコール共沸混合物から、例えば実施形態1にて説明したオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法により、アルコールを分離回収する。回収したアルコールは、エステル化反応の溶媒として反応工程に再利用できる。
またこの際、オレフィンも分離回収可能であり、回収したオレフィンはそれ自体価値を有し、例えば樹脂の変性剤などとして使用できる。あるいは、オレフィンにHを付加して熱媒として利用でき、また、オレフィンにHIまたはHBrを付加してエステル化反応の原料として再利用することもできる。
【0060】
本実施形態によれば、高純度のアルコールを溶媒として再利用できるので、目的物質であるエステルの収率を低下させることなく、エステルの製造効率を向上させることができる。また、従来のエステル製造方法では廃棄せざるを得なかったオレフィン−アルコール共沸混合物を再利用できるので、含フッ素廃液の量を効果的に削減でき、好ましくは廃液をなくすことができる。
【0061】
しかしながら、本発明のオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法はエステル製造方法のみならず、あらゆる場合に適用可能である。
【実施例】
【0062】
本発明の効果が得られることを確認するため、組成の異なるオレフィン−アルコール混合物に対して晶析操作を実施した。
【0063】
パーフルオロヘキシルエチレン(F(CFCH=CH)とt−ブタノールとの混合物として、表1の試料欄に示す組成の異なる4種の混合物試料を調製した。
【0064】
尚、パーフルオロヘキシルエチレンは常温(15℃)で液体であり、融点は−20℃未満(具体的な融点は不明)である。t−ブタノールは常温(15℃)で固体であり、沸点は約83℃、融点は約25℃である。パーフルオロヘキシルエチレンおよびt−ブタノールのうち高融点成分はt−ブタノールである。
【0065】
予め窒素パージした恒温容器に混合物試料300〜400mlを入れ、攪拌しながら5〜6℃/hrの速度で徐々に冷却していった。はじめに固体の析出が認められた温度を析出温度とし、一旦温度を上げて全て溶解させた後、再び徐々に冷却し、析出を再確認した。冷却を続けて固体量を増加させた後、析出温度よりやや低い温度(続くサンプリングの温度にほぼ等しい)で30分以上維持した。そして、サンプリングした混合液をグラスフィルターで固液分離し、得られた液体と固体の各組成をガスクロマトグラフィーで分析した。
【0066】
実験1〜4として、以上の操作を各混合物試料につき行った。結果を表1および2に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
実験1〜3より、析出した固体は高融点成分のアルコール一成分から成るものではなく、相当量のオレフィンが混じっていること、および、元の混合物中のアルコール濃度が高いほど、析出する固体のアルコール濃度も高くなることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の1つの実施形態におけるオレフィン−アルコール共沸混合物の分離方法を説明する図である(bp:沸点)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンとアルコールの共沸混合物から少なくともアルコールを分離回収する方法であって、以下の式
RfCH=CH
(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基である)で表わされるオレフィンとアルコールの共沸混合物を晶析操作に付して、元の共沸混合物より高いオレフィン濃度を有するオレフィン部分と、元の共沸混合物より高いアルコール濃度を有するアルコール部分とに分離する共沸混合物晶析工程と、
分離したアルコール部分を晶析操作および蒸留操作のいずれかに付して、元のアルコール部分より低いアルコール濃度を有する低アルコール部分と、元のアルコール部分より高いアルコール濃度を有する高アルコール部分とに分離して、高アルコール部分としてアルコールを回収するアルコール高純度化工程と
を含む方法。
【請求項2】
アルコール高純度化工程にて蒸留操作を実施し、低アルコール部分はオレフィンとアルコールの共沸混合物であり、高アルコール部分は実質的にアルコールから成る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アルコール高純度化工程にて蒸留操作により得られたオレフィンとアルコールの共沸混合物を共沸混合物晶析工程に戻す、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
共沸混合物晶析工程にて分離したオレフィン部分を晶析操作および蒸留操作のいずれかに付して、元のオレフィン部分より低いオレフィン濃度を有する低オレフィン部分と、元のオレフィン部分より高いオレフィン濃度を有する高オレフィン部分とに分離して、高オレフィン部分としてオレフィンを回収するオレフィン高純度化工程を更に含む、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
オレフィン高純度化工程にて蒸留操作を実施し、低オレフィン部分はオレフィンとアルコールの共沸混合物であり、高オレフィン部分は実質的にオレフィンから成る、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
オレフィン高純度化工程にて蒸留操作により得られたオレフィンとアルコールの共沸混合物を共沸混合物晶析工程に戻す、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
以下の式
RfCHCH
(式中、Rfは炭素数1〜10の直鎖状パーフルオロアルキル基であり、Yは臭素またはヨウ素である)で表わされるハロゲン化物と、以下の式
RCOOX
(式中、RCOOはモノまたはポリカルボン有機酸の1種の親核性置換分のない残基であり、Xはアルカリ金属である)で表わされるカルボン酸アルカリ金属塩とを、アルコール溶媒中で反応させて、以下の式
RfCHCHOCOR
で表わされるエステルを得るエステル製造方法において、
該反応で生成したエステル、その際に副生したオレフィン、および溶媒として用いたアルコールを含む反応混合物を蒸留操作に付して、オレフィンとアルコールの共沸混合物を得、
得られたオレフィンとアルコールの共沸混合物を請求項1〜6のいずれかに記載の方法に付してアルコールを回収し、
回収したアルコールを、反応のための溶媒として再利用することを特徴とする、エステル製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−173588(P2009−173588A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14861(P2008−14861)
【出願日】平成20年1月25日(2008.1.25)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】