説明

オーディオ信号加算装置

【課題】多数のマイクロフォンのプラグを挿入できるように多数の端子を有していても、全体のノイズレベルの低減を行うことができるオーディオ信号加算装置を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態に係るオーディオ信号加算装置1においては、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないときには、その入力段10における増幅回路のゲインを(R1+R2)/R1倍から1倍に低減することができるから、マイクロフォンのプラグが挿入されていない入力端子が多いほど、出力ノイズレベルVnを大幅に減らすことができ、オーディオ信号のSN比を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器のノイズを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
カラオケ装置などにおいては、複数のマイクロフォンを接続することにより、大人数で歌唱を楽しむことができるようになっていた。これは、マイクロフォンのプラグを挿入する入力端子を複数設け、それぞれの入力端子に供給されるオーディオ信号を初段アンプにおいて増幅して加算するオーディオ信号加算装置を設けることによって実現していた。この従来の構成について図4(a)、(b)を用いて説明する。
【0003】
図4(a)は、従来のオーディオ信号加算装置1Aの構成を示す図である。オーディオ信号加算装置1Aは、複数の入力段10A−1、10A−2、・・・10A−nと、各入力段10A−1、10A−2、・・・10A−nからの出力を加算して出力する加算器50Aとを有する。各入力段10A−1、10A−2、・・・10A−nには、端子T1’、T2’およびT3’を有する入力部100A、および入力部100Aの端子T2’からの出力を増幅する初段アンプ200Aが設けられている。また端子T1’およびT3’は、接地されている。入力部100Aには、マイクロフォンのプラグが挿入される挿入口101A、電極102Aおよびスイッチ電極103Aが設けられている。
【0004】
図4(a)は、マイクロフォンのプラグが挿入されていない状態を示し、電極102Aとスイッチ電極103Aとが電気的に接続され、端子T2’は、端子T3’を介して接地される。従って初段アンプ200Aの入力は接地状態となる。一方、図4(b)のように、マイクロフォンのプラグ1000が挿入口101Aに挿入されると、プラグ1000のスリーブが挿入口101Aと接触して端子T1’を介して接地される。また、プラグ1000のチップが電極102Aと接触するとともに、電極102Aとスイッチ電極103Aとの接続を切り離すことにより、プラグ1000のチップから供給されるオーディオ信号が端子T2’を介して初段アンプ200Aに入力されることになる。
【0005】
ここで、初段アンプ200Aには、入力ノイズレベルが存在することにより、マイクロフォンのプラグ1000が接続されていなくても、初段アンプ200Aの出力にはノイズが発生する。これらのノイズは、加算部50Aで加算されるより大きなノイズとなって出力される。各入力段10A−1、10A−2、・・・、10A−nにおける初段アンプ200Aの入力ノイズレベルをそれぞれN1、N2、・・・、Nnとし、ゲインをG1、G2、・・・、Gnとすると、加算器50Aから出力される出力ノイズレベルVnは、位相のずれによる平均化を考慮すると、以下の式(1)のようなものとなる。
【0006】
【数1】

【0007】
そして、全ての初段アンプ200Aの入力ノイズレベル、ゲインが同じ(入力ノイズレベルN=N1、N2、・・・、Nn、ゲインG=G1、G2、・・・、Gn)であるとすると、出力ノイズレベルVnは式(2)のように表される。
【0008】
【数2】

【0009】
したがって、例えば、入力ノイズレベルがN=1μVであり、ゲインがG=100倍、入力段10Aの数がn=4であれば、出力ノイズレベルVnは200μVとなり大きなものとなっていた。例えば、特許文献1には、入力段単体におけるノイズレベルを低減するためにの技術が開示されている。
【特許文献1】特開平5−89591号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような様々なノイズレベルの低減においては、その構成が複雑である場合が多く、コストアップにつながっているものが多かった。
【0011】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、多数のマイクロフォンのプラグを挿入できるように多数の端子を有していても、全体のノイズレベルの低減を行うことができるオーディオ信号加算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、本発明は、オーディオ信号を供給する供給端子が接続される複数の入力端子と、前記複数の入力端子の各々に対応して設けられる増幅手段であって、前記複数の入力端子に供給されるオーディオ信号を各々予め設定されたゲインで増幅する複数の増幅手段と、前記複数の増幅手段によって増幅されたオーディオ信号の各々を加算する加算手段と、前記供給端子が前記入力端子に接続されているか否かを、前記入力端子ごとに判定する判定手段と、前記判定手段によって接続されていないと判定された入力端子に対応する増幅手段に設定されたゲインを低減させるゲイン低減手段とを具備することを特徴とするオーディオ信号加算装置を提供する。
【0013】
また、別の好ましい態様において、前記増幅手段は、オペアンプ、前記オペアンプの反転入力端子と接地端子との間に設けられた接地抵抗、および前記オペアンプの出力端子と前記反転入力端子との間に設けられたフィードバック抵抗を有する非反転増幅回路によりオーディオ信号を増幅し、前記ゲイン低減手段は、前記反転入力端子と前記接地端子との間の抵抗値を増加させることにより、前記増幅手段に設定されたゲインを低減させることを特徴とする。
【0014】
また、別の好ましい態様において、前記ゲイン低減手段は、前記反転入力端子と前記接地端子との間を電気的に切断することにより、前記増幅手段に設定されたゲインを1に低減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多数のマイクロフォンのプラグを挿入できるように多数の端子を有していても、全体のノイズレベルの低減を行うことができるオーディオ信号加算装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
<実施形態>
図1は、本発明の実施形態に係るオーディオ信号加算装置1の構成についての説明図である。オーディオ信号加算装置1は、マイクロフォンのプラグを挿入する入力端子をn個有し、図1に示すように、各入力端子に対応して、複数の入力段10−1、10−2、・・・、10−n(以下、それぞれを区別しない場合には、単に入力段10という)を有する。また、各入力段10から出力されるオーディオ信号を加算して出力する加算器50を有する。
【0018】
各入力段10は、端子T1、T2、・・・、T5を有する入力部100、オペアンプ201、フィードバック抵抗R2および接地抵抗R1を有する。端子T1、T3、T4は、接地端子に接続されている。
【0019】
オペアンプ201の非反転入力端子には、入力部100の端子T2からの出力信号が入力され、出力端子と反転入力端子との間には、フィードバック抵抗R2が設けられている。また、反転入力端子と端子T5との間には、接地抵抗R1が設けられている。また、オペアンプ201からの出力信号は、加算器50へ入力される。
【0020】
次に、各入力段10の入力部100について、図2を用いて説明する。図2は、入力部100の構成についての説明図であって、図2(a)は、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないとき、図2(b)は、プラグ1000が挿入されているときの状態を示す図である。
【0021】
入力部100は、マイクロフォンのプラグ1000が挿入される挿入口101、電極102、スイッチ電極103、104、105を有し、それぞれ、端子T1、T2、T3、T4、T5と電気的に接続されている。スイッチ電極104と電極102との間には絶縁体104aが設けられ、電気的に接続されないようになっているが、スイッチ電極104と電極102とは物理的には接触状態を保つように構成され、電極102が移動すると併せてスイッチ電極104が移動するようになっている。
【0022】
図2(a)に示すように、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていない状態においては、電極102とスイッチ電極103とは電気的に接続され、端子T2と端子T3とは導通している。また、スイッチ電極104とスイッチ電極105とは接触していないため電気的に切断されていて、端子T4と端子T5とは導通していない。
【0023】
したがって、端子T5は接地されていないから、接地抵抗R1が接地されず、オペアンプ201とフィードバック抵抗R2により、1倍のゲインを持つ増幅回路として機能する。
【0024】
一方、図2(b)に示すように、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されている状態においては、マイクロフォンのプラグ1000のスリーブが挿入口101と接触して端子T1を介して接地される。また、マイクロフォンのプラグ1000のチップが電極102と接触する。一方、電極102が移動することにより電極102とスイッチ電極103との接続が切り離され、端子T3と端子T2とが導通しなくなり、端子T2が接地されなくなるから、プラグ1000のチップから端子T2にオーディオ信号が供給される。
【0025】
また、電極102の移動によりスイッチ電極104が移動して、スイッチ電極104とスイッチ電極105とが電気的に接続され、端子T4と端子T5とが導通する。したがって、端子T5が接地されるから、接地抵抗R1の端子T5側の一端が接地され、オペアンプ201、フィードバック抵抗R2および接地抵抗R1により、(R1+R2)/R1倍(単に、R1、R2と記載した場合は、接地抵抗R1、フィードバック抵抗R2の抵抗値を示す。以下同じ。)のゲインを持つ非反転増幅回路が構成される。これは、従来例における初段アンプに相当する。
【0026】
上記構成において、スイッチ電極104、105は、その接続関係により、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているか否かを判定する判定手段として機能する。さらに、スイッチ電極104、105は、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているときにおいて、非反転増幅回路に設定されている(R1+R2)/R1倍のゲインを、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないときにはゲインを低減させて、1倍とするゲイン低減手段としても機能する。
【0027】
このように、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているときには、マイクロフォンから供給されるオーディオ信号が(R1+R2)/R1倍に増幅されることになるが、プラグ1000が挿入されていないときには、1倍の増幅となる。したがって、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていない入力段10においては、入力ノイズが増幅されずに加算器50に出力される。
【0028】
したがって、本実施形態におけるオーディオ信号加算装置1の出力ノイズレベルVnは、各入力段10における増幅回路の入力ノイズレベルがN、ゲインがG(マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないときには「1」)とすると、n個の入力段10のうち、m個の入力段10に係る入力端子にマイクロフォンのプラグ1000が挿入されているときには、以下の式(3)のように示される。
【0029】
【数3】

【0030】
ここで、一般に、G>>1であるから、出力ノイズレベルVnは、概ね式(4)と表されることになる。
【0031】
【数4】

【0032】
したがって、本発明の実施形態におけるオーディオ信号加算装置1と従来例におけるオーディオ信号加算装置1Aとの出力ノイズレベルVnについての比較を行う。ここで、それぞれマイクロフォンの入力端子(入力段10、10A)が5つ(n=5)であり、入力ノイズレベルがN=0.7μV、ゲインが30dB(G=31.6)であるとする。
【0033】
この場合、従来例におけるオーディオ信号加算装置1Aの出力ノイズレベルVnは、上記式(2)に当てはめると、49.5μVとなる。この出力ノイズレベルVnは、マイクロフォンが何本用いられていても、最低限発生するものである。一方、本発明の実施形態におけるオーディオ信号加算装置1の出力ノイズレベルVnは、上記式(4)に当てはめると、マイクロフォンが1本だけ用いられているとすると22.1μV、2本なら31.3μV、3本なら38.3μV、4本なら44.2μV、5本なら49.5μVとなる。
【0034】
したがって、本発明の実施形態におけるオーディオ信号加算装置1においては、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないときには、その入力段10における増幅回路のゲインを(R1+R2)/R1倍から1倍に低減することができるから、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていない入力端子が多いほど、出力ノイズレベルVnを大幅に減らすことができ、オーディオ信号のSN比を向上させることができる。また、このような構成を、機械的な構造により実現できるから、低コストでの実現が可能である。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は以下のように、さまざまな態様で実施可能である。
【0036】
<変形例1>
上述した実施形態においては、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていない入力段においては、接地抵抗R1が接地されない状態になるように構成されていたが、オペアンプの反転入力端子と接地抵抗R1との間が切断されるように構成されるようにしてもよい。この場合には、例えば、接地抵抗R1をスイッチ電極104とスイッチ電極105とが接触する部分から接地端子までの間に設けるようにすればよい。
【0037】
<変形例2>
上述した実施形態においては、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていない入力段においては、接地抵抗R1が接地されない状態になるように構成することにより、接地抵抗R1の抵抗値が実質的に無限大になった状態とすることで、増幅回路のゲインを低減させて1倍としていた。一方、接地抵抗R1の抵抗値を増加させることで、増幅回路のゲインを低減させれば、出力ノイズレベルVnを少なくすることができるから、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されている状態と挿入されていない状態において、接地抵抗R1の抵抗値が変化するようにすればよい。
【0038】
この場合には、スイッチ電極104とスイッチ電極105とが接触していない状態のときに、スイッチ電極105が、一端が接地された抵抗の他端と電気的に接続されるようにすればよい。
【0039】
<変形例3>
上述した実施形態においては、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているかの判定、および増幅回路のゲインの低減は、機械的な構成で行っていたが、このような構成に限られず、図3に示すような構成のオーディオ信号加算装置1aにより行なってもよい。以下、図3に示す構成について説明する。図3は、本変形例に係るオーディオ信号加算装置1aの構成を示す説明図である。
【0040】
入力部100aは、マイクロフォンのプラグ1000が挿入され、チップから供給されるオーディオ信号を可変増幅回路202aに出力する。また、入力部100aには、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているか否かを検出する検出手段が設けられている。検出手段は、例えば、実施形態における入力部100において端子T4と端子T5と導通しているか否かにより検出してもよいし、光センサ、圧力センサ、オーディオ信号の信号レベルなどにより検出してもよい。
【0041】
可変増幅回路202aは、入力されたオーディオ信号を設定されたゲインで増幅して加算器50aに出力する。また、このゲインの設定は、判定部110aにより制御される。判定部110aは、その検出手段の検出結果から、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているか否かを判定し、判定結果により可変増幅回路202aのゲインを制御する。具体的には、判定部110aは、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないと判定したときには、挿入されていると判定したときよりも、可変増幅回路202aに設定されるゲインを低減させるように制御する。このようにすれば、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されていないときに、可変増幅回路202aのゲインを低減することができる。なお、マイクロフォンのプラグ1000が挿入されているときにおける可変増幅回路202aに設定されるゲインは、図示しない操作子により、変更可能なものとしてもよい。
【0042】
<変形例4>
上述した実施形態におけるオーディオ信号加算装置1は、様々な装置に内蔵されて用いることができ、例えば、ミキサ、アンプなどに用いられると好適である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態に係るオーディオ信号加算装置の構成を示す説明図である。
【図2】実施形態に係る入力部の構成を示す説明図である。
【図3】変形例3に係るオーディオ信号加算装置の構成を示す説明図である。
【図4】従来例に係るオーディオ信号加算装置の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0044】
1,1a,1A…オーディオ信号加算装置、10,10−1,10−2,・・・,10−n,10a,10a−1,10a−2,・・・,10a−n,10A,10A−1,10A−2,・・・,10A−n…入力段、50,50a,50A…加算器、100,100a,100A…入力部、101,101A…挿入口、102,102A…電極、103,103A,104,105…スイッチ電極、104a…絶縁体、110a…判定部、200A…初段アンプ、201…オペアンプ、202a…可変増幅回路、1000…プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーディオ信号を供給する供給端子が接続される複数の入力端子と、
前記複数の入力端子の各々に対応して設けられる増幅手段であって、前記複数の入力端子に供給されるオーディオ信号を各々予め設定されたゲインで増幅する複数の増幅手段と、
前記複数の増幅手段によって増幅されたオーディオ信号の各々を加算する加算手段と、
前記供給端子が前記入力端子に接続されているか否かを、前記入力端子ごとに判定する判定手段と、
前記判定手段によって接続されていないと判定された入力端子に対応する増幅手段に設定されたゲインを低減させるゲイン低減手段と
を具備することを特徴とするオーディオ信号加算装置。
【請求項2】
前記増幅手段は、オペアンプ、前記オペアンプの反転入力端子と接地端子との間に設けられた接地抵抗、および前記オペアンプの出力端子と前記反転入力端子との間に設けられたフィードバック抵抗を有する非反転増幅回路によりオーディオ信号を増幅し、
前記ゲイン低減手段は、前記反転入力端子と前記接地端子との間の抵抗値を増加させることにより、前記増幅手段に設定されたゲインを低減させる
ことを特徴とする請求項1に記載のオーディオ信号加算装置。
【請求項3】
前記ゲイン低減手段は、前記反転入力端子と前記接地端子との間を電気的に切断することにより、前記増幅手段に設定されたゲインを1に低減させる
ことを特徴とする請求項2に記載のオーディオ信号加算装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−114827(P2010−114827A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287824(P2008−287824)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】