説明

オーディオ再生装置

【課題】 サラウンドステレオにおいて、サブウーハーやそのドライブ用のパワーアンプが小さなものであっても、豊かな低音感を得ることができるようにする。
【解決手段】 オーディオ信号SLF〜SRBのうちの周波数が帯域f0/2〜f1/2(ただし、f0:スピーカの共振周波数。f1:ある信号の基本波成分を逓倍したとき、その結果の逓倍波成分に聴感上の違和感を生じない周波数の上限値)に含まれる低域成分を2逓倍して2倍の周波数の倍音成分を生成する倍音生成回路5を設ける。各チャンネルのオーディオ信号SLF〜SRBがそれぞれ供給される加算回路3LF〜3RBと、加算回路3LF〜3RBの各出力を各チャンネルのスピーカSPLF〜SPRBにそれぞれ供給するアンプ4LF〜4RBとを設ける。倍音生成回路5の生成した倍音成分SHTを、加算回路3LF〜3RBのそれぞれに供給して各チャンネルに分配する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オーディオ再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチチャンネルステレオあるいはサラウンドステレオとして、例えばいわゆる5.1チャンネルステレオがある。この5.1チャンネルステレオの再生装置においては、例えば図14に示すように、リスナLSNRの周囲、すなわち、左前方、右前方、中央前方に、スピーカSPLF、SPRF、SPCFがそれぞれ配置され、左後方(あるいは左側方)、右後方(あるいは右側方)に、スピーカSPLB、SPRBがそれぞれ配置されるとともに、任意の場所、図14においては、リスナLSNRの後方にサブウーハーSPSWが配置される。
【0003】
そして、図14の再生装置においては、DVDプレーヤ1から所定の方式でエンコードされた5.1チャンネルのデジタルオーディオデータが出力され、このデジタルオーディオデータがデコーダ回路2に供給されてデコードされる。こうして、デコーダ回路2からは、リスナLSNRの左前方、右前方、中央前方、左後方(あるいは左側方)、右後方(あるいは右側方)に対応する各チャンネルオーディオ信号SLF、SRF、SCF、SLB、SRBが取り出されるとともに、方向感を与えない低域成分SSW、例えば150Hz以下の低域成分SSWが取り出される。
【0004】
そして、これら信号SLF〜SRB、SSWが、パワーアンプ4LF〜4RB、4SWを通じてスピーカSPLF〜SPRB、SPSWにそれぞれ供給される。したがって、この再生装置によれば、リスナLSNRは5.1チャンネルのサラウンドステレオを聴くことができる。
【0005】
なお、先行技術文献として例えば以下のものがある。
【特許文献1】特開2001−352599号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述の再生装置においては、サブウーハーSPSWが、すべてのチャンネルの低域成分SSWを担当して再生している。このため、より大きな低音感を得ようとすると、サブウーハーSPSWにかなり大きな信号(パワー)を供給しなければならず、サブウーハーSPSWが過入力により破損してしまうことがあった。
【0007】
また、より大きな入力に耐えるようにすると、サブウーハーSPSWが大型化するとともに、パワーアンプ4SWも大出力とする必要があり、装置が巨大化してしまう。
【0008】
この発明は、このような問題点を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明においては、
リスナの周囲に各チャンネルのスピーカを配置し、これら各チャンネルのスピーカにその配置位置に対応したチャンネルのオーディオ信号を供給してオーディオ再生を行うようにしたマルチチャンネルステレオの再生装置において、
f0:上記スピーカの共振周波数
f1:ある信号の基本波成分を逓倍したとき、その結果の逓倍波成分に聴感上の違和感を生じない周波数の上限値
とするとき、
上記オーディオ信号のうちの周波数が帯域f0/2〜f1/2に含まれる低域成分を2逓倍して2倍の周波数の倍音成分を生成する倍音生成回路と、
上記各チャンネルのオーディオ信号がそれぞれ供給される複数の加算回路と、
この複数の加算回路の各出力を上記各チャンネルのスピーカにそれぞれ供給する複数のアンプと
を有し、
上記倍音生成回路の生成した上記倍音成分を、上記複数の加算回路のそれぞれに供給して上記各チャンネルに分配する
ようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、低域成分の倍音成分を各チャンネルのスピーカから出力するようにしているので、サブウーハーやそのドライブ用のパワーアンプが小さなものであっても、豊かな低音感を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
〔1〕 倍音成分について
周知のように、楽器の音は、基音とその倍音とから構成され、それらの割り合いが音色をほぼ決定している。そして、人間の聴感は、基音が出力されていなくても、その倍音が出力されていれば、あたかもその基音が出力されているかのように知覚することが、心理音響的に実証されている。
【0012】
この発明は、このような点に着目したもので、低域成分SSW(あるいはその一部)からその倍音成分を形成し、この倍音成分を各チャンネルに分配することにより、より大きな低音感が得られるようにすると同時に、サブウーハーSPSWやパワーアンプ4SWの負担を軽減するものである。
【0013】
〔2〕 第1の例
図1は、この発明を5.1チャンネルステレオの再生装置に適用した場合の一例を示す。すなわち、信号源、例えばDVDプレーヤ1から所定の方式でエンコードされた5.1チャンネルのデジタルオーディオデータが出力され、このデジタルオーディオデータがデコーダ回路2に供給されてデコードされる。こうして、デコーダ回路2からは、リスナLSNRの左前方、右前方、中央前方、左後方(あるいは左側方)、右後方(あるいは右側方)に対応する各チャンネルのオーディオ信号SLF、SRF、SCF、SLB、SRBが取り出されるとともに、方向感を与えない低域成分SSW、例えば150Hz以下の低域成分SSWが取り出される。
【0014】
この場合、各チャンネルのオーディオ信号SLF〜SRBは、本来のオーディオ信号をハイパスフィルタに供給して低域成分SSWを除去ないし減衰させた信号と考えることができ、低域成分SSWは、本来のオーディオ信号をローパスフィルタに供給して取り出した信号成分と考えることができる。
【0015】
そして、この信号SLF〜SRBが、加算回路3LF〜3RBを通じて、さらに、パワーアンプ4LF〜4RBを通じてスピーカSPLF〜SPRBに供給される。また、低域成分SSWが、パワーアンプ4SWを通じてスピーカSPSWに供給される。この場合、スピーカSPLF〜SPRBは、例えば図14により説明したように、リスナの周囲、例えば、左前方、右前方、中央前方、左後方(あるいは左側方)、右後方(あるいは右側方)に配置されるとともに、スピーカSPSWは任意の場所、例えば後方に配置されている。
【0016】
さらに、デコーダ回路2から取り出された低域成分SSWが倍音形成回路5に供給される。この倍音生成回路5は、その一例を後述するが、図2A、Bにも示すように、これに供給された低域成分SSWのうち、周波数帯域がf0/2〜f1/2の低域成分SBSを、2倍の周波数f0〜f1に2逓倍して倍音成分SHTを生成するものである。
【0017】
ここで、
f0:スピーカSPLF〜SPRBの共振周波数。例えば、f0=100Hz
f1:ある信号の基本波成分を逓倍したとき、その結果の逓倍波成分に聴感上の違和感を生じない周波数の上限値(逓倍結果の信号の周波数)。一般には200Hz程度。
である。
【0018】
なお、一般に、スピーカに共振周波数f0以下のオーディオ信号を供給すると、周波数が低くなるにつれて基本波成分の出力音圧が低下していくとともに、歪み成分(高調波成分)が急速に増加していく傾向がある。したがって、口径の小さいスピーカを使用したオーディオ機器では、スピーカの共振周波数f0以下の低音を十分に再生することができない。
【0019】
そして、その倍音成分SHTが、加算回路3LF〜3RBにそれぞれ供給されてオーディオ信号SLF〜SRBに所定の割り合いで加算され、各チャンネルに分配される。
【0020】
このような構成によれば、スピーカSPLF〜SPRBからは、オーディオ信号SLF〜SRBによる音響が出力されるとともに、スピーカSPSWからは、低域成分SSWによる低音が出力されるので、5.1チャンネルステレオの再生ができることになる。
【0021】
そして、この場合、スピーカSPLF〜SPRBに供給されるオーディオ信号SLF〜SRBには、加算回路3LF〜3RBを通じて倍音成分SHTが加算されているので、スピーカSPLF〜SPRBからは、その倍音成分SHTによる倍音も出力されることになる。そして、この倍音として出力される倍音成分SHTは、低域成分SBSを基本波成分としているので、その倍音により低域成分SBSを知覚することになり、したがって、低音感を得ることができる。
【0022】
この結果、サブウーハーSPSWに入力する低域成分SSWを小さくすることができるので、サブウーハーSPSWが過入力により破損することを防止できる。また、サブウーハーSPSWは大入力に耐える必要がないので、大型化する必要がなく、パワーアンプ4SWも大出力とする必要がない。
【0023】
なお、このとき、スピーカSPLF〜SPRBに供給されるオーディオ信号SLF〜SRBには、倍音成分SHTが加算されているが、倍音成分SHTは、5つのチャンネルのオーディオ信号SLF〜SRBに分配されているので、それぞれの信号レベル(パワー)は小さく、したがって、スピーカSPLF〜SPRBやパワーアンプ4LF〜4RBにとって、ほとんど負担にならない。
【0024】
こうして、この再生装置によれば、低域成分SBSの倍音成分SHTを、サラウンドステレオの各チャンネルに分配して倍音を出力しているので、より大きな低音感が得られるとともに、サブウーハーSPSWやパワーアンプ4SWの負担を軽減することができる。また、低域成分SSWもサブウーハーSPSWにより音響として出力しているので、より豊かな低音感を得ることができる。
【0025】
〔3〕 第2の例
図3は、この発明を5.1チャンネルステレオの再生装置に適用した場合の他の例を示す。すなわち、この例においても、デコーダ回路2からスピーカSPLF〜SPRBまでの信号ラインは、図1のそれと同様に構成されるが、図1におけるパワーアンプ4SWおよびサブウーハーSPSWを省略した場合である。
【0026】
したがって、この場合には、サブウーハーSPSWから低音を得ることはできないが、〔2〕で説明したように、低域成分SHTの倍音成分SHTがスピーカSPLF〜SPRBに供給され、倍音として出力されるので、低音感を得ることができる。そして、パワーアンプ4SWおよびサブウーハーSPSWを省略しているので、コストを下げることができ、システムを簡素化することができる。
【0027】
〔4〕 第3の例
図4は、この発明を5.1チャンネルステレオの再生装置に適用するとともに、各チャンネルの信号レベルに対応して倍音成分SHTの分配量を変更するようにした場合である。
【0028】
すなわち、この例においても、デコーダ回路2からスピーカSPLF〜SPRB、SPSWまでの信号ラインは、図1のそれと同様に構成されるが、倍音生成回路5から出力される倍音成分SHTは、レベル制御回路6LF〜6RBを通じて加算回路3LF〜3RBにそれぞれ供給される。また、デコーダ回路2から出力されるオーディオ信号SLF〜SRBが、レベル検出回路7LF〜7RBに供給されてオーディオ信号SLF〜SRBのレベルがそれぞれ検出され、その検出信号が、レベル制御回路6LF〜6RBにその制御信号として供給される。
【0029】
この場合、レベル検出回路7LF〜7RBにおけるレベル検出としては、信号レベルの絶対値やそのエンベロープとすることができる。また、例えば、オーディオ信号SLFのレベルが大きいことを、検出回路7LFが検出したときは、レベル制御回路6LFから加算回路3LFに供給される倍音成分SHTのレベルが小さくなるように、逆にオーディオ信号SLFのレベルが小さいことを、検出回路7LFが検出したときは、レベル制御回路6LFから加算回路3LFに供給される倍音成分SHTのレベルが大きくなるように、レベル制御回路6LFは制御される。
【0030】
すなわち、加算回路3LFの出力レベルが一定になる方向にレベル制御回路6LFは制御される。そして、他のレベル制御回路6RF〜6RBも、同様に加算回路3RF〜3RBの出力レベルが一定になる方向に制御される。
【0031】
したがって、この再生装置においても、スピーカSPLF〜SPRBから出力される倍音により低音感を得ることができるとともに、このとき、各チャンネルに分配される倍音成分SHTのレベルが、そのチャンネルにおけるもとのオーディオ信号SLF〜SRBに対応して変化するので、スピーカSPLF〜SPRBやパワーアンプ4LF〜4RBの負担が分散して軽くなる。
【0032】
〔5〕 第4の例
図5は、各チャンネルに倍音成分SHTを分配するとともに、各チャンネルの信号レベルに対応して倍音成分SHTの分配に重み付けをするようにした場合である。
【0033】
すなわち、この例においても、デコーダ回路2からスピーカSPLF〜SPRB、SPSWまでの信号ラインが、図4のそれと同様に構成されるとともに、倍音生成回路5から出力される倍音成分SHTは、レベル制御回路6LF〜6RBを通じて加算回路3LF〜3RBにそれぞれ供給される。また、デコーダ回路2から出力されるオーディオ信号SLF〜SRBが、レベル検出回路7LF〜7RBに供給されてオーディオ信号SLF〜SRBのレベルがそれぞれ検出され、その検出信号が分配制御回路8に供給される。
【0034】
この分配制御回路8は、デコーダ回路2から出力されるオーディオ信号SLF〜SRBの総和に対する各チャンネルにおけるオーディオ信号SLF〜SRBの割り合いに対応して、各チャンネルに分配される倍音成分SHTの大きさを制御するものである。このため、検出回路7LF〜7RFの検出出力の総和に対する各検出出力の割り合いが、チャンネルごとに判別され、その判別結果の信号がレベル制御回路6LF〜6RBにその制御信号として供給される。
【0035】
例えば、オーディオ信号SLF〜SRBの総和に対するオーディオ信号SLFのレベルが大きいときは、レベル制御回路6LFから加算回路3LFに供給される倍音成分SHTのレベルが小さくなるように、逆にオーディオ信号SLF〜SRBの総和に対するオーディオ信号SLFのレベルが小さいときは、レベル制御回路6LFから加算回路3LFに供給される倍音成分SHTのレベルが大きくなるように、レベル制御回路6LFは制御される。そして、他のレベル制御回路6RF〜6RBも同様に制御される。
【0036】
さらに、倍音生成回路5から出力される倍音成分SHTが検出回路9に供給されてそのレベルが検出され、その検出出力が判別制御回路8に供給されるとともに、例えばリスナにより変更可能な制御信号SCTLが判別制御回路8に供給され、加算回路6LF〜6RBに供給される倍音成分SHTの総量があらかじめ適正値に設定される。
【0037】
したがって、この再生装置においても、スピーカSPLF〜SPRBから出力される倍音により低音感を得ることができるとともに、このとき、各チャンネルに分配される倍音成分SHTのレベルが、そのチャンネルにおけるもとのオーディオ信号SLF〜SRBに対応して変化するので、スピーカSPLF〜SPRBやパワーアンプ4LF〜4RBの負担が分散して軽くなる。
【0038】
〔6〕 倍音成分SHTの分配の重み付け方法の例
図6および図7は、図5の判別制御回路8の処理内容を具体的に示すフローチャートの一例である。この場合には、判別制御回路8がマイクロコンピュータにより構成されるとともに、図6および図7に示すフローチャートのルーチン100が、そのマイクロコンピュータにより、例えば信号SLF〜SRBのサンプルごとに実行される。
【0039】
なお、以下の説明において、各オーディオ信号SLF〜SRBはデジタル信号であり、フルビットのとき、最大値1.0(0dB)であるとする。また、
ALF〜ARB:信号SLF〜SRBの各レベル
AHT :検出回路9が検出した倍音成分SHTのレベル
GLF〜GRB:レベル制御回路6LF〜6RBの利得
GTTL :倍音成分SHTの目標利得
あらかじめ設定された倍音成分SHTの総量を得るために必要な利得
とする。
【0040】
そして、判別制御回路8を構成するマイクロコンピュータの処理は、ルーチン100のステップ101からスタートし、次にステップ102において、信号レベルALF〜ARBについて、
すべてのレベルALF〜ARB≦レベル(1.0−GTTL/5×AHT) ・・・ (1)
であるか否かが判別される。
【0041】
そして、(1)が成立する場合には、処理はステップ102からステップ111に進み、このステップ111において、倍音成分SHTの分配は「均等分配モード」に設定される。すなわち、レベル制御回路6LF〜6RBの利得GLF〜GRBが、
GLF=GRF=GCF=GLB=GRB=GTTL/5
に設定され、その後、処理はステップ112に進み、ルーチン100を終了する。
【0042】
したがって、(1)が成立する場合、すなわち、オーディオ信号SLF〜SRBのすべてのレベルが規定値よりも小さいときには、倍音成分SHTがすべてのオーディオ信号SLF〜SRBに均等に分配される。
【0043】
一方、ステップ102において、(1)が成立しない場合には、すなわち、信号SLF〜SRBの少なくとも1つのレベルが(1)の右辺よりも大きい場合には、処理はステップ102からステップ121に進み、このステップ121以降において、倍音成分SHTの分配は「小レベルチャンネル優先分配モード」に設定される。
【0044】
すなわち、まず、ステップ121において、デコーダ回路2から出力される信号SLF〜SRBを、そのレベルALF〜ARBの小さい順に信号S1、S2、S3、S4、S5と並び換える。例えば、信号SRBのレベルが最小であれば、S1=SRBとされる。また、以下において、
A1〜A5:信号S1〜S5のレベル。A1≦A2≦A3≦A4≦A5
61〜65:信号S1〜S5が供給されるレベル制御回路
これは、レベル制御回路6LF〜6RBのうちのどれか
G1〜G5:レベル制御回路61〜65の利得
とする。
【0045】
次にステップ122において、
(1.0−A1)/AHT≧GTTL ・・・ (2)
が成立するか否かが判別される。つまり、レベルが最小の信号S1のレベルA1をフルビットにするための利得(レベル制御回路61の利得G1)が、(2)の左辺(1.0−A1)/AHTにより算出され、この算出値が総利得GTTL以上になっているか否かを判別される。
【0046】
そして、その算出値が総利得GTTL以上になっている場合、すなわち、(2)が成立する場合には、処理はステップ122からステップ123に進み、このステップ123において、レベル制御回路61の利得G1が、
G1=GTTL
に設定されるとともに、レベル制御回路62〜65の利得G2〜G5が、
G2=G3=G4=G5=0
に設定され、その後、ステップ124によりルーチン100を終了する。
【0047】
したがって、(2)が成立する場合には、倍音成分SHTは、レベル制御回路61からのみ値GTTL倍されて出力され、対応するチャンネルのオーディオ信号に加算されることになる。
【0048】
また、ステップ122において、(2)が成立しない場合には、2番目にレベルの小さい信号S2について同様に処理される。すなわち、判別制御回路8におけるマイクロコンピュータの処理はステップ122からステップ131に進み、このステップ131において、レベル制御回路61の利得G1が、
G1=(1.0−A1)/AHT
に設定される。
【0049】
そして、次にステップ132において、
G1+(1.0−A2)/AHT≧GTTL ・・・ (3)
が成立するか否かが判別される。そして、(3)が成立する場合には、処理はステップ132からステップ133に進み、このステップ133において、レベル制御回路62〜65の利得G2〜G5が、
G2=GTTL−G1
G3=G4=G5=0
に設定され、その後、ステップ124によりルーチン100を終了する。
【0050】
したがって、(3)が成立する場合には、倍音成分SHTは、レベル制御回路61、62からのみ出力され、対応するチャンネルのオーディオ信号に加算されるとともに、A1<A2であるから、倍音成分SHTは、オーディオ信号のレベルがより小さいチャンネルに、より多く分配されされることになる。
【0051】
さらに、ステップ132において、(3)が成立しない場合には、処理はステップ132からステップ141に進み、このステップ141において、レベル制御回路62の利得G2が、
G2=(1.0−A2)/AHT
に設定される。
【0052】
そして、次にステップ142において、
G1+G2+(1.0−A3)/AHT≧GTTL ・・・ (4)
が成立するか否かが判別される。そして、(4)が成立する場合には、処理はステップ142からステップ143に進み、このステップ143において、レベル制御回路63〜65の利得G3〜G5が、
G3=GTTL−G1−G2
G4=G5=0
に設定され、その後、ステップ124によりルーチン100を終了する。
【0053】
したがって、(4)が成立する場合には、倍音成分SHTは、レベル制御回路61〜63から出力され、対応するチャンネルのオーディオ信号に加算されるとともに、A1<A2<A3であるから、倍音成分SHTは、オーディオ信号のレベルがより小さいチャンネルに、より多く分配されされることになる。
【0054】
同様に、ステップ142において、(4)が成立しない場合には、処理はステップ142からステップ151に進み、このステップ151において、レベル制御回路63の利得G3が、
G3=(1.0−A3)/AHT
に設定される。
【0055】
そして、次にステップ152において、
G1+G2+G3+(1.0−A4)/AHT≧GTTL ・・・ (5)
が成立するか否かが判別される。そして、(5)が成立する場合には、処理はステップ152からステップ153に進み、このステップ153において、レベル制御回路64、65の利得G4、G5が、
G4=GTTL−G1−G2−G3
G5=0
に設定され、その後、ステップ124によりルーチン100を終了する。
【0056】
したがって、(5)が成立する場合には、倍音成分SHTは、レベル制御回路61〜64から出力され、対応するチャンネルに分配されるとともに、A1<A2<A3<A4であるから、倍音成分SHTは、オーディオ信号のレベルがより小さいチャンネルに、より多く分配されされることになる。
【0057】
また、ステップ152において、(5)が成立しない場合には、処理はステップ152からステップ161に進み、このステップ161において、レベル制御回路64の利得G4が、
G4=(1.0−A4)/AHT
に設定される。
【0058】
そして、次にステップ162において、
G1+G2+G3+G4+(1.0−A5)/AHT≧GTTL ・・・ (6)
が成立するか否かが判別される。そして、(6)が成立する場合には、処理はステップ162からステップ163に進み、このステップ163において、レベル制御回路65の利得G5が、
G5=GTTL−G1−G2−G3−G4
に設定され、その後、ステップ124によりルーチン100を終了する。
【0059】
さらに、ステップ162において、(6)が成立しない場合には、処理はステップ162からステップ164に進み、このステップ164において、レベル制御回路65の利得G5が、
G5=(1.0−A5)/AHT
に設定され、その後、ステップ124によりルーチン100を終了する。
【0060】
こうして、ルーチン100によれば、倍音成分SHTをオーディオ信号SLF〜SRBの各チャンネルに分配する場合、倍音成分SHTは、各チャンネルのうち、オーディオ信号のレベルが小さいチャンネルに優先的に分配される。したがって、倍音成分SHTを各チャンネルに分配するとき、より多くの倍音成分SHTをオーバーフローすることなく各チャンネルに分配することができる。
【0061】
〔7〕 倍音生成回路の第1の例
図8は、倍音生成回路5の一例を示す。すなわち、デコーダ回路2から取り出された低域成分SSWが、入力端子51を通じてバンドパスフィルタ52に供給され、例えば図9A、Bにも示すように、これに供給された低域成分SSWのうち、周波数帯域がf0/2〜f1/2の低域成分S52(=SBS)が取り出され、この低域成分S52が逓倍回路53に供給されて図9Bに示すように、2倍の周波数f0〜f1の信号成分S53とされ、この信号成分S53が倍音成分SHTとして出力端子54に取り出される。
【0062】
この場合、逓倍回路53は、例えば図10に示すように構成することができる。すなわち、図10において、符号53Mは例えばリングバッファにより構成されて実質的に十分な大きさのアドレス(容量)を有するメモリ回路を示す。また、低域成分S52はデジタルデータであるが、D/A(Digital to Analog)変換したとき、例えば図11Aに示すような波形であるとする。
【0063】
さらに、この低域成分S52の極性が例えば負から正に反転する時点を、時点txとする。また、ある時点txからその次の時点txまでの期間、すなわち、低域成分S52の1サイクル期間を、期間Txとする。
【0064】
そして、図10において、低域成分S52が入力端子53Aを通じてメモリ回路53Mに供給され、図11Aに示すように、低域成分S52は、その1サンプル分ごとにメモリ回路53Mの各アドレスに順に書き込まれていく。
【0065】
また、この書き込みと同時に、メモリ回路53Mから、1つ前の期間Txにメモリ回路53に書き込まれた低域成分S52が読み出される。図11では、簡単のため、低域成分S52の1サイクルについて、その書き込みの行われた1サイクル期間Txと、読み出しの行われる1サイクル期間Txとが同一であるとしている。
【0066】
このメモリ回路53Mからの読み出しは、書き込み時と等しいクロック周波数で、2番地につき1番地の割り合いで間引いて読み出すものである。また、期間Txに、その読み出しを2回繰り返すものである。したがって、この読み出した信号は、図11Bにも示すように、もとの低域成分S52(=SBS)の2倍の周波数の信号S53となるので、これを倍音成分SHTとして取り出すことができる。
【0067】
〔8〕 倍音生成回路の第2の例
図12は、倍音生成回路5の他の例を示す。すなわち、この例においては、〔7〕の場合と同様、バンドパスフィルタ52および逓倍回路53により2倍の倍音成分S53(図9B)が形成され、この2倍の倍音成分S53が加算回路55に供給される。
【0068】
また、入力端子51に供給された低域成分SSWが、バンドパスフィルタ56にも供給され、図9Cに示すように、周波数帯域がf0/4〜f1/4の低域成分S56が取り出され、この低域成分S56が逓倍回路57に供給されて図9Dに示すように、4倍の周波数f0〜f1の倍音成分S57とされ、この倍音成分S57が加算回路55に供給される。
【0069】
したがって、加算回路55からは、2倍の倍音成分S53(図9B)と、4倍の倍音成分S57(図9D)との加算信号が出力され、この加算出力が倍音成分SHTとして出力端子54に取り出される。
【0070】
そして、この場合、例えば図13Aに示すように(符号FSPはスピーカSPLF〜SPRBの周波数特性を示す)、低域成分S52(S56)の周波数が35Hzであれば、この低域成分S52から2倍の倍音成分S53(破線図示)を形成しても、その周波数は70Hzであり、スピーカSPLF〜SPRBにより十分に再生することはできない。
【0071】
しかし、図12の倍音生成回路5においては、低域成分S56(S52)の周波数が35Hzであれば、この低域成分S56がバンドパスフィルタ56を通じて逓倍回路57に供給されて4倍の周波数140Hzの倍音成分S57(実線図示)が形成され、この倍音成分S57が加算回路55に供給される。したがって、低域成分S52(S56)の周波数が35Hzであっても、その4倍の周波数の倍音成分S57により低域成分S52に対応する低音感を得ることができる。
【0072】
また、例えば図13Bに示すように、低域成分S56(S52)の周波数が60Hzであれば、この低域成分S56から4倍の周波数の倍音成分S57(破線図示)を形成すると、その周波数は240Hzであり、倍音を付加するときの上限周波数f1(≒200Hz)を越えているので、この倍音成分S57をスピーカSPLF〜SPRBに供給すると違和感を与える音響が出力されてしまう。
【0073】
しかし、図12の倍音生成回路5においては、低域成分S56の周波数が60Hzであれば、この低域成分S56、すなわち、低域成分S52はバンドパスフィルタ52を通じて逓倍回路53に供給されて2倍の周波数120Hzの倍音成分S53(実線図示)とされ、この倍音成分S53が加算回路55に供給される。したがって、低域成分S56(S52)の周波数が60Hzであっても、その2倍の周波数の倍音成分S53により低域成分S56に対応する低音感を得ることができる。
【0074】
〔9〕 まとめ
上述の再生装置によれば、低域成分SBSの倍音成分SHTを各チャンネルに分配し、その倍音を各スピーカSPLF〜SPRBから出力するようにしているので、サブウーハーSPSWやそのドライブ用のパワーアンプ4SWが小さなものであっても、大型のものと同等の低音感を得ることができる。
【0075】
また、倍音成分SHTを各チャンネルに分配するようにしているので、特定のチャンネルのパワーアンプやスピーカの負担が大きくなることがない。
【0076】
〔10〕 その他
上述においては、周波数f0をスピーカ5の共振周波数としたが、実際の製品においては、低音感を得たい周波数に対応して他の周波数に設定することもできる。また、図4あるいは図5の再生装置においても、図3の再生装置と同様、サブウーハーSPSWおよびそのパワーアンプ4SWを省略することもできる。
【0077】
さらに、上述においては、この発明を5.1チャンネルステレオの再生装置に適用した場合であるが、2.1チャンネルステレオや4.1チャンネルステレオなどのマルチチャンネルステレオにも、この発明を適用することができる。
【0078】
また、上述においては、倍音成分を、本来のオーディオ信号のレベルの小さいチャンネルに優先的に分配したが、逆にレベルが大きいチャンネルから優先的に分配することもできる。さらに、倍音成分を分配するとき、特定のチャンネル、例えば前方チャンネルから優先的に分配することもできる。つまり、倍音成分の分配に重み付けをすることができる。さらに、ルーチン100は、1サイクル期間Txを単位として実行することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】この発明の一形態を示す系統図である。
【図2】図1の装置を説明するための周波数特性図である。
【図3】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図4】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図5】この発明の他の形態を示す系統図である。
【図6】図5の装置の動作を制御するルーチンの一形態の一部を示すフローチャートである。
【図7】図6のルーチンの続きを示すフローチャートである。
【図8】この発明の装置の一部の一形態を示す系統図である。
【図9】図8の装置を説明するための周波数特性図である。
【図10】この発明の装置の一部の一形態を示す系統図である。
【図11】図10の装置を説明するための波形図である。
【図12】この発明の装置の一部の一形態を示す系統図である。
【図13】図12の装置を説明するための周波数特性図である。
【図14】マルチチャンネルステレオの再生装置を説明するための系統図である。
【符号の説明】
【0080】
1…DVDプレーヤ、2…デコーダ回路、3LF〜3RB…加算回路、5…倍音生成回路、6LF〜6RB…レベル制御回路、7LF〜7RB…レベル検出回路、8…判別制御回路、SPLF〜SPRB…スピーカ、SPSW…サブウーハー、100…分配ルーチン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リスナの周囲に各チャンネルのスピーカを配置し、これら各チャンネルのスピーカにその配置位置に対応したチャンネルのオーディオ信号を供給してオーディオ再生を行うようにしたマルチチャンネルステレオの再生装置において、
f0:上記スピーカの共振周波数
f1:ある信号の基本波成分を逓倍したとき、その結果の逓倍波成分に聴感上の違和感を生じない周波数の上限値
とするとき、
上記オーディオ信号のうちの周波数が帯域f0/2〜f1/2に含まれる低域成分を2逓倍して2倍の周波数の倍音成分を生成する倍音生成回路と、
上記各チャンネルのオーディオ信号がそれぞれ供給される複数の加算回路と、
この複数の加算回路の各出力を上記各チャンネルのスピーカにそれぞれ供給する複数のアンプと
を有し、
上記倍音生成回路の生成した上記倍音成分を、上記複数の加算回路のそれぞれに供給して上記各チャンネルに分配する
ようにしたオーディオ再生装置。
【請求項2】
リスナの周囲に各チャンネルのスピーカおよびサブウーハーを配置し、上記各チャンネルのスピーカにその配置位置に対応したチャンネルのオーディオ信号を供給するとともに、上記サブウーハーに低域成分を供給してオーディオ再生を行うようにしたマルチチャンネルステレオの再生装置において、
f0:上記スピーカの共振周波数
f1:ある信号の基本波成分を逓倍したとき、その結果の逓倍波成分に聴感上の違和感を生じない周波数の上限値
とするとき、
上記低域成分のうち、周波数が帯域f0/2〜f1/2に含まれる低域成分を取り出すフィルタと、
このフィルタの出力を2逓倍して2倍の周波数の倍音成分を生成する倍音生成回路と、
上記各チャンネルのオーディオ信号がそれぞれ供給される複数の加算回路と、
この複数の加算回路の各出力を上記各チャンネルのスピーカにそれぞれ供給する複数のアンプと
を有し、
上記倍音生成回路の生成した上記倍音成分を、上記複数の加算回路のそれぞれに供給して上記各チャンネルに分配する
ようにしたオーディオ再生装置。
【請求項3】
請求項2に記載のオーディオ再生装置において、
上記倍音生成回路により生成された倍音成分が上記複数の加算回路に供給されるときのレベルを制御するレベル制御回路と、
上記各チャンネルのオーディオ信号のレベルを検出するレベル検出回路と
を有し、
このレベル検出回路の検出出力により上記レベル制御回路を制御して上記加算回路に供給される上記倍音成分のレベルを変更する
ようにしたオーディオ再生装置。
【請求項4】
請求項3に記載のオーディオ再生装置において、
上記レベル検出回路の検出出力が供給される分配制御回路を有し、
この分配制御回路により、上記加算回路に上記倍音成分が供給されるとき、その供給に所定の重み付けをする
ようにしたオーディオ再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−124848(P2008−124848A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307363(P2006−307363)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】