説明

オートテンショナー

【課題】 樹脂摩擦材の摩擦係数を大きく低下させることなく、摺動特性を向上、すなわち磨耗速度を小さくすることによって、寿命の向上したオートテンショナーを提供する。
【解決手段】 車体等に固定される固定部材2と、固定部材2に回動自在に支持されるアーム状構造体の可動部材3と、可動部材3のアーム状先端部に設けられベルトに係合するプーリ7と、可動部材3を固定部材2に対し所定方向に付勢するコイルバネ4と、可動部材3と固定部材2との間に介装され、可動部材3と固定部材2のいずれか一方に固定され、他方と摺動する摺動面6を有する摩擦材5と、を備えたベルトの張力を一定に保つためのオートテンショナー1であって、摩擦材5が摺動面6に多数の微細な穴を有する熱可塑性樹脂からなり、摩擦材5の摺動面6上及び微細な穴内に潤滑剤が存在することを特徴とするオートテンショナー1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルトの張力を自動的に一定に保つためのオートテンショナーに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンの補機駆動用ベルトの張力を一定に保つ装置としてオートテンショナーが使用されている。一般に、このオートテンショナーは、バネの力を利用してベルトの張力を自動的に制御するものであるが、オートテンショナーの揺動を減衰・収束させる方式としては、油圧ダンパ方式と摩擦ダンパ方式に大別される。このうち、後者の摩擦ダンパ方式では、一般にプーリが取り付けられた可動部材と車体に固定される固定部材からなり、両者は捻りバネによってベルトの張力を一定にすべく軸部を介して相対運動をする。
【0003】
この場合、可動部材と固定部材の間の軸部には、所定の摩擦係数を有する摩擦材を配置しておき、適度な面圧を与えることによって、摺動時に発生する摩擦エネルギーにより可動部材の揺動を短時間に減衰・収束させ、ベルトの張力を可能な限り一定に保持するものである。
【0004】
一般的には、例えば特許文献1に示されるように、可動部材及び固定部材はアルミニウム合金鋳物(ダイキャスト品)からなり、摩擦材は合成樹脂からなる。アルミニウム合金鋳物と合成樹脂が摺動することにより、ベルトの張力を一定に保ち、かつ両者間に摩擦エネルギーを発生させることにより、可動部材の揺動を短時間に減衰する機構になっている。可動部材の揺動を短時間で減衰させるためには、大きなダンピングトルクが必要であり、そのためには、アルミニウム合金鋳物と樹脂摩擦材との間で大きな摩擦力が要求される。この摩擦力は、摺動面の摩擦係数と摺動面に作用する垂直荷重の積で表される。すなわち、大きなダンピングトルクを得るためには、(1)摩擦係数を大きくする、(2)摺動面に作用する荷重を大きくする、ことが必要となる。
【0005】
しかし、摩擦係数を大きくする、あるいは荷重(一定面積では面圧)を大きくすることによって、アルミニウム合金鋳物より柔らかい樹脂摩擦材の磨耗速度が大きくなり、オートテンショナーの寿命が短くなるという問題がある。さらに、従来のオートテンショナーでは、樹脂の磨耗が進行するに従って、プーリの幅方向の中心とベルトの中心がずれたり、あるいはプーリが傾いたりしてミスアライメントが発生し、これによってプーリとベルトの間でスリップ音が発生する問題もある。
【特許文献1】米国特許第4,696,663号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂摩擦材の摩擦係数を大きく低下させることなく、摺動特性を向上、すなわち磨耗速度を小さくすることによって、ミスアライメントが抑制され、寿命の向上したオートテンショナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願請求項1記載の発明は、車体等に固定される固定部材と、固定部材に回動自在に支持されるアーム状構造体の可動部材と、可動部材のアーム状先端部に設けられベルトに係合するプーリと、可動部材を固定部材に対し所定方向に付勢するコイルバネと、可動部材と固定部材との間に介装され、可動部材と固定部材のいずれか一方に固定され、他方と摺動する摺動面を有する摩擦材と、を備えたベルトの張力を一定に保つためのオートテンショナーであって、摩擦材が摺動面に多数の微細な穴を有する熱可塑性樹脂からなり、摩擦材の摺動面上及び微細な穴内に潤滑剤が存在することを特徴とするオートテンショナーである。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記潤滑剤がシリコン系グリースである請求項1記載のオートテンショナーである。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記摩擦材が前記固定部材に固定された請求項1または2記載のオートテンショナーである。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記摩擦材が前記可動部材に固定された請求項1または2記載のオートテンショナーである。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記固定部材及び可動部材がアルミニウム合金からなり、前記摺動面と摺動する前記可動部材または固定部材の面が滑剤を含浸させたアルマイト層からなる請求項1乃至4のいずれかに記載のオートテンショナーである。
【0012】
請求項6記載の発明は、前記滑剤が、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン、シリコンオイル、二硫化モリブデン、低分子量パーフルオロカーボン、そしてポリエチレンワックスから選ばれた少なくとも1種である請求項5記載のオートテンショナーである。
【0013】
請求項7記載の発明は、前記摩擦材が、ナイロン66、ナイロン46、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、そしてシンジオタクチックポリスチレンから選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1乃至6のいずれかに記載のオートテンショナーである。
【発明の効果】
【0014】
本願各請求項記載の発明によれば、潤滑剤による潤滑特性を改善し、摩擦材の磨耗速度を低減することによって、ミスアライメントが抑制され、寿命の増大したオートテンショナーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明のオートテンショナーの一例を示す概略図である。オートテンショナー1は、自動車等(図示しない)に固定されるアルミニウム合金等からなる固定部材2と、この固定部材2に回動自在に支持されるアルミニウム合金等からなるアーム状構造体の可動部材3と、可動部材3を固定部材2に対して所定方向に付勢するコイルバネ4と、可動部材3と固定部材2との間に介装され、可動部材3の揺動を減衰・収束させる摩擦材5とを備え、可動部材3の先端には、図示しないベルトに当接するプーリ7が軸受9を介して装着される。
【0016】
摩擦材5は、肉厚0.5〜3mm程度の中空のテーパー形状を有し、ナイロン66、ナイロン46、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、そしてシンジオタクチックポリスチレンから選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を射出成形することによって作製される。
【0017】
摩擦材5は、通常はキー・キー溝からなる係止手段によって固定部材2あるいは可動部材3のいずれか一方に固定される。摩擦材5が固定部材2に固定された場合は、可動部材3と摺動する面が摺動面となり、摩擦材5が可動部材3に固定された場合は、固定部材2と摺動する面が摺動面となる。以下、摩擦材5が固定部材2に固定された場合、すなわち可動部材3と摺動する面が摺動面となる場合について説明する。
【0018】
摩擦材5の摺動面6には、図2(a)に示すように、後述の潤滑剤を収容するための多数の微細な穴11が設けられる。摩擦材5が通常200μm程度磨耗することを考慮すれば、穴11の深さは300μm以上であることが好ましく、また摩擦材5の肉厚を考慮すれば穴11の深さは600μm以下であることが好ましい。穴11の開口径もその深さと同程度であることが好ましい。穴11の形状は特に限定されるものではなく、円柱状、円錐状の他、いわゆるディンプル形状であってもよい。穴11の深さ及び形状は均一であることが好ましく、その配置はランダムであってよい。穴11は、穴11に対応する凸部を有する金型を用いることによって摩擦材5の射出成形時に同時に形成することも可能であり、また射出成形後の摩擦材5に対してレーザアブレーション、パウダーブラスト等の手法を用いて加工することも可能である。
【0019】
オートテンショナー1の組み立てに先立って、摺動面6に潤滑剤が均一に塗布される。塗布された潤滑剤は、摺動面6上に均一に展開され、また穴11内に収容される。潤滑剤の供給源として機能する穴11は摺動面6全体に配置されているため、潤滑剤による潤滑特性が向上し、摩擦材5の磨耗速度が低減される。潤滑剤の種類としては、シリコン系グリース、フッ素系グリース、フェニルエーテル系グリース等が使用可能であるが、耐熱性及び耐寒性を考慮すれば、シリコン系グリースが最も好ましい。
【0020】
摺動面6には、図2(b)に示すように、周方向に等間隔に配置された溝12を設けてもよい。溝12には摺動面6に塗布された潤滑剤が滞留するため、摺動面6全体に十分な量の潤滑剤が適切に供給されることになる。
【0021】
以上説明した穴11を有する摺動面6に潤滑剤を塗布する構成に加えて、摺動の相手部材であるアルミニウム合金からなる可動部材3の摺動面(摺動面6に接する可動部材3の内周面)を滑剤を含浸させたアルマイト層で形成することによって、可動部材3と摩擦材5との摺動特性をさらに改善することができる。アルマイト層は、アルミニウム合金部材表面に形成される本質的に多数の微細空孔からなる表面改質層であって、一般にアルミニウム合金摺動部材の摺動性を改善する効果がある。
【0022】
可動部材3の摺動面にアルマイト層を形成するには、公知の陽極酸化処理を採用することが好ましい。一般的な陽極酸化処理としては、ホウ素、炭素、窒素、リン、硫黄から選ばれる1種以上の元素を含有する溶液、具体的には、硫酸、シュウ酸、ギ酸、スルファミン酸、リン酸、亜リン酸、ホウ酸、硝酸等を含む水溶液を用いて、電圧、電流密度等の電解条件を適宜選択して行う。陽極酸化処理は、アルマイト層の形成が必要とされる摺動面のみならず、可動部材3全体に施してもよい。アルマイト層の厚さは10μm〜100μm程度であることが好ましい。アルマイト層の厚さが10μm未満では十分な摺動性改善効果が得られず、一方100μmを超えても格段の改善はなく、製造コストの増大が問題となる。
【0023】
続いて、得られたアルマイト層に滑剤を含浸させる。滑剤の含浸についても下記のような公知の方法を採用することができる。まず、滑剤をボールミル、ハンマーミル等により粉砕し、ステアリン酸、ラウリル酸等の脂肪酸に分散させてエマルジョンを作製する。このエマルジョンに可動部材3全体あるいは可動部材3の摺動部を浸漬するか、あるいはエマルジョンを可動部材3の摺動面に塗布した後、容器内に入れて減圧することによって脂肪酸を蒸発させる。これにより、アルマイト層の各微細空孔内に浸入した溶液中の脂肪酸のみが選択的に蒸発し、各微細空孔内に滑剤が充填される。
【0024】
滑剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、超高分子量ポリエチレン、シリコンオイル、二硫化モリブデン、低分子量パーフルオロカーボン、ポリエチレンワックスから選ばれる少なくとも1種からなる。中でも、PTFEが最も好ましい。
【0025】
上記のように得られた摩擦材5を固定部材2の外周面に嵌着し、固定部材2と可動部材3とによって形成される空間10内に収容されたコイルバネ4の一端を固定部材2の係止穴に、コイルバネ4の他端を可動部材3の係止穴にそれぞれ係止しながら、可動部材3の内周面と摩擦材5の摺動面6とを圧接させることによって、オートテンショナー1の組み立てが完了する。
【0026】
以上説明した、摩擦材5が固定部材2に固定されたオートテンショナー1とは異なり、摩擦材5が可動部材3に固定されたオートテンショナー1の場合は、摩擦材5の内周面が摺動面となるため、前記の穴11及び溝12は摩擦材5の内周面に設けられる。また、摺動の相手材は固定部材2となるため、前記アルマイト層の形成及びそれへの滑剤の含浸は固定部材2に対して施される。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
深さが300〜500μmの多数の微細な穴を有するナイロン46製摩擦材を射出成形によって作製し、表面(摺動面)にシリコン系グリースを塗布した。得られたナイロン46製摩擦材に加えて、アルミニウム合金鋳物製ハウジング(JIS:ADC12)、アルミニウム合金鋳物製可動部材(JIS:ADC12)、コイルバネ、プーリ等を用いて、スプリングトルク(ベルトへの付与張力)30Nm、ダンピングトルク12Nmを有するオートテンショナーを組み立て、以下の条件でプーリを揺動させる耐久試験を実施し、ナイロン46製摩擦材の磨耗量を測定した。結果を図3に示す。
【0028】
耐久試験条件
雰囲気温度:100±3℃
プーリ中心の振幅:±2.5度
プーリの揺動周波数:30Hz
試験時間:500時間
【0029】
(実施例2)
実施例1のオートテンショナーに用いられた組み立て前の可動部材全体を15体積%の硫酸浴中に浸漬し、3Aの電流を流して陽極酸化処理を行い、約40μmの厚さのアルマイト層を形成した。アルマイト層が形成された可動部材をPTFEのエマルジョン中に浸漬して、PTFEの容器ごと減圧槽に入れて減圧した状態で3分間保持することによって、微細空孔中にPTFEを含浸させた。得られた可動部材以外は実施例1と同条件でオートテンショナーを組み立て、実施例1と同一の条件で耐久試験を実施し、同様に樹脂磨耗量を測定した。結果を図4に示す。
【0030】
(比較例1)
実施例1のオートテンショナーにおいて、摺動面に微細な穴のないナイロン46製摩擦材の表面(摺動面)にシリコン系グリースを塗布し、実施例1のオートテンショナーと同程度のスプリングトルクとダンピングトルクとを有するオートテンショナーを組み立て、実施例1と同一の条件で耐久試験を実施し、同様に樹脂磨耗量を測定した。結果を図3、4に示す。
【0031】
図3、4に結果を示すように、実施例1、2のオートテンショナーはナイロン46製摩擦材の磨耗量が比較例1のそれに比べて小さく、特に実施例2においては、磨耗量の一層の低減が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るオートテンショナーは、自動車用エンジンなどの多軸駆動装置に装着した補機駆動用ベルトの張力を自動的に一定に保つものとして広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るオートテンショナーの断面図である。
【図2】(a)本発明に係るオートテンショナーに用いられる摩擦材の斜視図である。(b)本発明に係るオートテンショナーに用いられる別の摩擦材の斜視図である。
【図3】実施例1及び比較例1における摩擦材の磨耗量の測定結果を示す図である。
【図4】実施例2及び比較例1における摩擦材の磨耗量の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 オートテンショナー
2 固定部材
3 可動部材
4 コイルバネ
5 摩擦材
6 摺動面
7 プーリ
8 軸部
9 軸受
11 穴
12 溝


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体等に固定される固定部材と、固定部材に回動自在に支持されるアーム状構造体の可動部材と、可動部材のアーム状先端部に設けられベルトに係合するプーリと、可動部材を固定部材に対し所定方向に付勢するコイルバネと、可動部材と固定部材との間に介装され、可動部材と固定部材のいずれか一方に固定され、他方と摺動する摺動面を有する摩擦材と、を備えたベルトの張力を一定に保つためのオートテンショナーであって、摩擦材が摺動面に多数の微細な穴を有する熱可塑性樹脂からなり、摩擦材の摺動面上及び微細な穴内に潤滑剤が存在することを特徴とするオートテンショナー。
【請求項2】
前記潤滑剤がシリコン系グリースである請求項1記載のオートテンショナー。
【請求項3】
前記摩擦材が前記固定部材に固定された請求項1または2記載のオートテンショナー。
【請求項4】
前記摩擦材が前記可動部材に固定された請求項1または2記載のオートテンショナー。
【請求項5】
前記固定部材及び可動部材がアルミニウム合金からなり、前記摺動面と摺動する前記可動部材または固定部材の面が滑剤を含浸させたアルマイト層からなる請求項1乃至4のいずれかに記載のオートテンショナー。
【請求項6】
前記滑剤が、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン、シリコンオイル、二硫化モリブデン、低分子量パーフルオロカーボン、そしてポリエチレンワックスから選ばれた少なくとも1種である請求項5記載のオートテンショナー。
【請求項7】
前記摩擦材が、ナイロン66、ナイロン46、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、そしてシンジオタクチックポリスチレンから選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂である請求項1乃至6のいずれかに記載のオートテンショナー。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−64347(P2007−64347A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−250721(P2005−250721)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】