説明

オートテンショナ

【課題】軽量で、低コストなオートテンショナを提供する。
【解決手段】シリンダ10内に作動油を溜め、シリンダ10の底9に形成したスリーブ嵌合凹部12にスリーブ11の下部外周を嵌め合わせ、スリーブ11内にロッド13を軸方向に摺動可能に挿入してシリンダ10内を圧力室14とリザーバ室15に区画し、ロッド13とスリーブ11の摺動面間に形成されたリーク隙間16を介して圧力室14とリザーバ室15を連通し、リザーバ室15側から圧力室14側への作動油の流れのみを許容するシールリング18を設けた通路17を介して圧力室14とリザーバ室15を連通し、ロッド13の上端にばね座23を固定し、そのばね座23を圧力室14の容積が拡大する方向に付勢するリターンスプリング29を設けたオートテンショナ6において、シリンダ10とばね座23のうちの少なくとも一方を熱硬化性樹脂で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、オルタネータ等の自動車補機を駆動するベルトの張力保持に用いられるオートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機、たとえばオルタネータやカーエアコンやウォータポンプなどは、その回転軸がエンジンのクランクシャフトにベルトで連結されており、そのベルトを介してエンジンで駆動される。このベルトの張力を適正範囲に保つために、一般に、支点軸を中心として揺動可能に設けたプーリアームと、そのプーリアームに回転可能に取り付けたテンションプーリと、そのテンションプーリをベルトに押さえ付ける方向にプーリアームを付勢するオートテンショナとからなる張力調整装置が使用される。
【0003】
この張力調整装置に組み込まれるオートテンショナとして、下部に底を有するシリンダ内に作動油を溜め、そのシリンダ内にシリンダと同軸にスリーブを固定し、そのスリーブ内にロッドを軸方向に摺動可能に挿入してシリンダ内を圧力室とリザーバ室に区画し、そのロッドの上端にばね座を一体に形成し、そのばね座を前記圧力室の容積が拡大する方向にリターンスプリングで付勢したものが知られている(特許文献1)。
【0004】
このオートテンショナは、リターンスプリングの付勢力がベルトの張力とつり合う位置までロッドが移動することにより、ベルトの張力変動を吸収し、ベルトの張力を適正範囲に保つ。
【0005】
また、圧力室とリザーバ室は、ロッドとスリーブの摺動面間に形成されたリーク隙間を介して連通しており、圧力室の容積が縮小する方向にロッドが移動すると、圧力室内の作動油がリーク隙間を通って流出する。このとき、リーク隙間を流れる作動油の流量が制限されるので、ロッドはゆっくりと移動する。
【0006】
また、圧力室とリザーバ室は、リザーバ室側から圧力室側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブを設けた通路を介して連通しており、圧力室の容積が拡大する方向にロッドが移動すると、前記チェックバルブが開き、前記通路を通ってリザーバ室側から圧力室側に作動油が流れる。そのため、圧力室の容積が拡大する方向には、ロッドが速やかに移動する。
【特許文献1】特表2000−504395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このオートテンショナは、ロッドとシリンダをアルミダイカストで形成しているので、圧力室の作動油がロッドやシリンダに浸透して外部に漏れるのを防止するために、ロッドとシリンダの肉厚を大きくする必要があり、軽量化するのが難しかった。また、薄肉の小さいものをアルミダイカストで成形するのは難しく、コスト高であった。
【0008】
この発明が解決しようとする課題は、軽量で、低コストなオートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、前記シリンダとばね座のうちの少なくとも一方を熱硬化性樹脂で形成した。
【0010】
前記熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂を採用することができる。また、前記熱硬化性樹脂に無機繊維を添加することができ、この場合、無機繊維を40〜60重量%含有するように無機繊維を添加することができる。前記無機繊維としては、例えば、ガラス繊維を採用することができる。
【0011】
また、上記オートテンショナは、前記シリンダとばね座のうちの少なくともばね座を熱硬化性樹脂で形成し、そのばね座の前記ロッドの上端への固定をインサート成形により行なうことができ、この場合、前記ロッドの上端外周に円周溝を形成すると、ばね座に対するロッドの固定強度を高めることができる。
【0012】
また、上記オートテンショナは、前記シリンダとばね座のうちの少なくともばね座を熱硬化性樹脂で形成し、前記シリンダの上端内周に取り付けた環状のシール部材の内周に摺接する筒状のカラーを設け、そのカラーの上端を、インサート成形により前記ばね座に固定することができ、この場合、前記カラーの上端に拡径部を形成すると、ばね座に対するカラーの固定強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
この発明のオートテンショナは、シリンダとばね座のうちの少なくとも一方を熱硬化性樹脂で形成しているので、その部材を通じた作動油の浸透漏れが生じにくい。そのため、その熱硬化性樹脂で形成した部材の肉厚を小さくして、オートテンショナを軽量化することができる。また、薄肉の小さいものを樹脂成形するのは容易なので、このオートテンショナは、低コストである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1、図2に、自動車補機を駆動するベルト1の張力調整装置を示す。この張力調整装置は、ベルト1に接触するテンションプーリ2と、テンションプーリ2を回転可能に支持するプーリアーム3とを有し、プーリアーム3は、図2に示すエンジンブロック4に固定した支点軸5に揺動可能に支持されている。
【0015】
プーリアーム3には、この発明の実施形態に係るオートテンショナ6の一端が連結軸7を中心として回転可能に連結され、オートテンショナ6の他端は、エンジンブロック4に固定した連結軸8に回転可能に連結されている。オートテンショナ6は、プーリアーム3を付勢してテンションプーリ2をベルト1に押さえ付けている。
【0016】
図2に示すように、オートテンショナ6は、下部に底9を有するシリンダ10内に作動油が溜められている。シリンダ10は、無機繊維が添加された熱硬化性樹脂からなり、無機繊維を40〜60重量%含有するようになっている。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂を用いることができ、無機繊維としては、ガラス繊維を用いることができる。
【0017】
シリンダ10内には、シリンダ10と同軸に鋼製のスリーブ11が挿入され、シリンダ10の底9に形成されたスリーブ嵌合凹部12にスリーブ11の下部外周が嵌め合わされている。スリーブ11内には、鋼製のロッド13が軸方向に摺動可能に挿入されており、スリーブ11とロッド13によって、シリンダ10内が圧力室14とリザーバ室15に区画されている。
【0018】
圧力室14とリザーバ室15は、スリーブ11とロッド13の摺動面間に形成されたリーク隙間16を介して連通している。また、スリーブ嵌合凹部12とスリーブ11の嵌合面間には、圧力室14の下部とリザーバ室15の下部を連通する通路17が設けられている。
【0019】
図4に示すように、スリーブ11の下部内周には、シールリング18が軸方向に摺動可能に設けられている。シールリング18は、リザーバ室15側から圧力室14側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブとして機能し、圧力室14の圧力がリザーバ室15の圧力よりも低くなったときは、上方に移動して、通路17の圧力室14側の開口を開放し、一方、圧力室14の圧力がリザーバ室15の圧力よりも高くなったときは、下方に移動して、通路17の圧力室14側の開口を閉鎖する。また、スリーブ11内には、シールリング18を下方に付勢するコイルばね19が組み込まれている。
【0020】
図2に示すように、ロッド13の下部外周には、周方向に連続する溝20が形成され、その溝20に、C形リング状の止め輪21が嵌め込まれている。また、スリーブ11の内周には、下側を大径とする段部22が形成されており、圧力室14の容積を拡大する方向にロッド13が移動したときに止め輪21が段部22に係止し、その係止によって、ロッド13がスリーブ11から抜け止めされるようになっている。
【0021】
ロッド13の上端には、ばね座23が固定されている。ばね座23は、シリンダ10と同様の熱硬化性樹脂からなり、ばね座23の成形金型内にロッド13の上端をセットした状態でばね座23を成形(インサート成形)することによって、ロッド13の上端が固定されている。
【0022】
シリンダ10の上端内周には、環状のシール部材24が取り付けられている。シール部材24は、ばね座23に固定された筒状のカラー25の外周に摺接し、シリンダ10内の作動油を密封している。カラー25は、カラー25の上端をばね座23の成形金型内にセットした状態でばね座23を成形(インサート成形)することによって、ばね座23に固定されている。
【0023】
また、ばね座23には、シリンダ10の上部外周と対向する筒状のダストカバー26が一体に形成されている。
【0024】
図3に示すように、ロッド13の上端外周には、円周溝27が形成されている。また、カラー25の上端には、拡径部28が形成されている。
【0025】
図2に示すように、ばね座23とシリンダ10の底9との間にはリターンスプリング29が組み込まれており、リターンスプリング29は、圧力室14の容積を拡大する方向にばね座23を付勢している。リターンスプリング29の下端は、図4に示すように、環状のスプリング受け30で支持されており、スプリング受け30は、スリーブ11の外周に形成された下側を大径とする段部31で支持されている。
【0026】
次に、このオートテンショナ6の動作例を説明する。
【0027】
ベルト1の張力が大きくなると、その張力が、テンションプーリ2、プーリアーム3、ばね座23を介してロッド13に伝達し、圧力室14の圧力が高まる。圧力室14の圧力がリザーバ室15の圧力よりも高くなると、作動油がリーク隙間16を通って圧力室14側からリザーバ室15側に流れ、これにより、ロッド13が下方に移動し、ベルト1の張力とリターンスプリング29の付勢力とがつり合う位置までテンションプーリ2が移動し、ベルト1の緊張を吸収する。このとき、リーク隙間16を流れる作動油の流量が制限されてダンパー作用が生じるので、テンションプーリ2はゆっくりと移動し、ベルト1の張力を安定した状態に保つ。また、図4に示すように、圧力室14とリザーバ室15の圧力差によって、シールリング18が通路17の圧力室14側の開口を閉鎖するので、作動油は通路17を流れない。
【0028】
一方、ベルト1の張力が小さくなると、リターンスプリング29の付勢力によってロッド13が上方に移動し、圧力室14の容積が拡大することで、圧力室14の圧力が低くなる。圧力室14の圧力がリザーバ室15の圧力よりも低くなると、図5に示すように、圧力室14とリザーバ室15の圧力差によって、シールリング18が通路17の圧力室14側の開口を開放し、作動油が通路17をリザーバ室15側から圧力室14側に流れる。そのため、テンションプーリ2は、ベルト1の張力とリターンスプリング29の付勢力とがつり合う位置まで速やかに移動し、ベルト1の弛みを迅速に吸収する。
【0029】
このオートテンショナ6は、シリンダ10とばね座23を熱硬化性樹脂で形成しているので、シリンダ10を通じた作動油の浸透漏れや、ばね座23を通じた作動油の浸透漏れが生じにくい。そのため、シリンダ10の肉厚と、ばね座23の肉厚を小さくして、オートテンショナ6を軽量化することができる。
【0030】
また、薄肉の小さいシリンダ10や、ダストカバー26の薄肉の小さいばね座23を樹脂成形するのは、薄肉の小さいシリンダ10や、ダストカバー26の薄肉の小さいばね座23をアルミダイカストによって形成する場合と比較して容易である。そのため、このオートテンショナ6は、低コストである。
【0031】
また、このオートテンショナ6は、シリンダ10が熱硬化性樹脂からなるので、周囲温度が上昇したときに、シリンダ10とスリーブ11の間に熱膨張差が生じにくい。そのため、高温時にもスリーブ嵌合凹部12とスリーブ11の嵌合状態が維持され、スリーブ嵌合凹部12からのスリーブ11の抜けを確実に防止することができる。
【0032】
また、このオートテンショナ6は、ばね座23が熱硬化性樹脂からなるので、周囲温度が上昇したときに、ばね座23とロッド13の間に熱膨張差が生じにくい。そのため、高温時にも、ばね座23に対するロッド13の固定が安定している。
【0033】
また、このオートテンショナ6は、ロッド13の上端外周の円周溝27によって、ロッド13の上端がばね座23から抜け止めされるので、ロッド13の固定強度が高い。そのため、張力調整装置のベルトが切れたときなど、段部22が止め輪21を係止してばね座23とロッド13の間に引き抜き力が動的に作用したときにも、ばね座23からロッド13が抜けず、オートテンショナ6の分解を確実に防止することができる。
【0034】
また、このオートテンショナ6は、カラー25の上端の拡径部28によって、カラー25の上端がばね座23から抜け止めされるので、カラー25の固定強度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施形態のオートテンショナを組み込んだ張力調整装置を示す正面図
【図2】図1のII−II線に沿った拡大断面図
【図3】図2のロッド上端近傍の拡大断面図
【図4】図2のスリーブ下端近傍の拡大断面図
【図5】図4のロッドが圧力室の容積を拡大する方向に移動する過程を示す拡大断面図
【符号の説明】
【0036】
6 オートテンショナ
9 底
10 シリンダ
11 スリーブ
12 スリーブ嵌合凹部
13 ロッド
14 圧力室
15 リザーバ室
16 リーク隙間
17 通路
18 シールリング
23 ばね座
24 シール部材
25 カラー
27 円周溝
29 リターンスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に底(9)を有するシリンダ(10)内に作動油を溜め、そのシリンダ(10)の底(9)に形成したスリーブ嵌合凹部(12)にスリーブ(11)の下部外周を嵌め合わせ、そのスリーブ(11)内にロッド(13)を軸方向に摺動可能に挿入してシリンダ(10)内を圧力室(14)とリザーバ室(15)に区画し、前記ロッド(13)と前記スリーブ(11)の摺動面間に形成されたリーク隙間(16)を介して前記圧力室(14)と前記リザーバ室(15)を連通し、リザーバ室(15)側から圧力室(14)側への作動油の流れのみを許容するチェックバルブ(18)を設けた通路(17)を介して前記圧力室(14)と前記リザーバ室(15)を連通し、前記ロッド(13)の上端にばね座(23)を固定し、そのばね座(23)を前記圧力室(14)の容積が拡大する方向に付勢するリターンスプリング(29)を設けたオートテンショナ(6)において、前記シリンダ(10)とばね座(23)のうちの少なくとも一方を熱硬化性樹脂で形成したことを特徴とするオートテンショナ。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂である請求項1に記載のオートテンショナ。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂に無機繊維を添加した請求項1または2に記載のオートテンショナ。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が、前記無機繊維を40〜60重量%含有する請求項3に記載のオートテンショナ。
【請求項5】
前記無機繊維が、ガラス繊維である請求項3または4に記載のオートテンショナ。
【請求項6】
前記シリンダ(10)とばね座(23)のうちの少なくともばね座を熱硬化性樹脂で形成し、そのばね座(23)の前記ロッド(13)の上端への固定をインサート成形により行なった請求項1から5のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項7】
前記ロッド(13)の上端外周に円周溝(27)を形成した請求項6に記載のオートテンショナ。
【請求項8】
前記シリンダ(10)とばね座(23)のうちの少なくともばね座(23)を熱硬化性樹脂で形成し、前記シリンダ(10)の上端内周に取り付けた環状のシール部材(24)の内周に摺接する筒状のカラー(25)を設け、そのカラー(25)の上端を、インサート成形により前記ばね座(23)に固定した請求項1から5のいずれかに記載のオートテンショナ。
【請求項9】
前記カラー(25)の上端に拡径部を形成した請求項8に記載のオートテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−52652(P2009−52652A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219724(P2007−219724)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】