説明

オーバーリーチ検出方法及びそれを用いた移動機

本発明は、符号分割多元接続方式を採用した移動体通信システムにおけるオーバーリーチ検出方法であって、待ち受け中に、受信信号のパワー測定を行い、前記パワー測定結果が閾値より低い場合に1回以上のプリアンブル送信を行い、前記プリアンブル送信に対する基地局からの応答がないとき該基地局はオーバーリーチとして検出するよう構成することにより、移動機側でオーバーリーチ検出を行うことができ、オーバーリーチを検出した基地局をサービングセルから除外することで呼の維持率を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、オーバーリーチ検出方法及びそれを用いた移動機に関し、特に、待ち受け時にオーバーリーチを検出する方法及びそれを用いた移動機に関する。
【背景技術】
CDMA(符号分割多元接続)方式の移動体通信システムでは、近距離に置かれた基地局には異なる拡散符号を割当て、所定間隔を隔てた基地局には同一の拡散符号が割り当てられる。
図1に示す移動体通信システムでは、隣接する基地局10,11,12,13,14では異なる拡散符号が割り当てられ、所定間隔を隔てた基地局15には、例えば基地局14と同一の拡散符号が割り当てられている。
上記基地局の拡散符号の割り当ては、周囲の地形等による電波伝搬特性も考慮して行われるが、伝搬環境が著しく変化する場所では、移動機が近くの基地局の電波を受信せずに、遠くの基地局の電波を受信するオーバーリーチが生じる場合がある。特に、移動機20がビル街でハンドオーバしている際に、近くの基地局14からの受信感度が悪い場合は、その基地局14からの信号の受信を止めて、遠距離の基地局15からの信号の受信を行うことがある。
CDMA方式は、電力レベルが著しく異なる信号を多重化すると、大電力信号が小電力信号に大きな干渉を与えるので収容可能な回線数(システム容量)が低下する。この問題を解消するためCDMA方式では同一セル内に複数の移動機が存在する場合、各位同期の送信電力を制御して当該セルの基地局における受信レベルを平均化している。
しかし、上記のオーバーリーチが発生すると、移動機20が遠くの基地局15に対し大電力信号を送出し、また、遠くの基地局15が移動機20に対し大電力信号を送出することになる。従って、他のセル、セクタに大きな干渉を与え、システム容量を大きく劣化させるという問題があった。
従来のオーバーリーチ検出は、特許文献1に記載のように、基地局で行われている。
【特許文献1】 特開2002−44006号公報
ところが、移動機側ではオーバーリーチが発生する状態になっているかどうかの判断が無いため、現在接続しているセルの受信状態が良い場合であっても、遠距離の基地局と通話、通信を行ってしまうことが多々ある。
特に、ビル街でのハンドオーバ中は、近くの基地局に対する受信感度が悪い場合は、その近くの基地局からの信号の受信を止めて遠距離の基地局からの信号受信を行うが、距離が遠いと受信感度が悪くなるため、アウター・ループ・コントロールによって基地局送信電力が強められ、他の端末に干渉してしまうおそれがあるといった問題があった。
【発明の開示】
本発明は、移動機側でオーバーリーチ検出を行い、呼の維持率を向上することができるオーバーリーチ検出方法及びそれを用いた移動機を提供することを総括的な目的とする。
この目的を達成するため、本発明は、符号分割多元接続方式を採用した移動体通信システムにおけるオーバーリーチ検出方法であって、待ち受け中に、受信信号のパワー測定を行い、前記パワー測定結果が閾値より低い場合に1回以上のプリアンブル送信を行い、前記プリアンブル送信に対する基地局からの応答がないとき該基地局はオーバーリーチとして検出するよう構成する。
このようなオーバーリーチ検出方法によれば、移動機側でオーバーリーチ検出を行うことができ、オーバーリーチを検出した基地局をサービングセルから除外することで呼の維持率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、移動体通信システムの概要図である。
図2は、基地局と移動機間のプロトコルアーキテクチャの概念図である。
図3は、本発明のオーバーリーチ検出機能の一実施例のブロック図である。
図4は、本発明のオーバーリーチ検出機能が実行する処理のフローチャートである。
図5は、オーバーリーチ検出処理のフローチャートである。
図6は、プリアンブル・シグネチャを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図2は、基地局と移動機間のプロトコルアーキテクチャの概念図を示す。同図中、移動機(UE)20は、物理レイヤ(L1)部21と、データリンクレイヤのサブレイヤであるMAC(Medium Access Control)レイヤ部22及びRLC(Radio Link Control)レイヤ部23と、ネットワークレイヤのRRC(Radio Resource Control)レイヤ部24から構成されている。また、基地局の無線アクセスネットワーク(UTRAN)30は、物理レイヤ部31と、データリンクレイヤのサブレイヤであるMACレイヤ部32及びRLCレイヤ部33と、ネットワークレイヤのRRCレイヤ部34から構成されている。
物理レイヤ部21,31は多重化、チャネル符号化、拡散、変調等を行う。MACレイヤ部22,32は、ユーザの要求を無線回線の使用状況を考慮したスケジューリングやトラヒック量の監視等を行う。RLCレイヤ部23,33は誤りデータの処置やデータ再送等の制御を行い、RRCレイヤ部24,34からきたシグナリングメッセージに再送制御用の情報を付加し正しく送信できるようにしている。
RRCレイヤ部24,34ではシステム情報、発着信メッセージなどシグナリングメッセージの生成、終端を行い、また、物理レイヤ部21,31及びMACレイヤ部22,32それぞれから測定データを取得して物理レイヤ部21,31及びMACレイヤ部22,32それぞれの動作制御を行う。
本発明の移動機20に内蔵されるオーバーリーチ検出機能は、大きく2つの処理機能に分かれる。その2つの処理結果より、オーバーリーチを検出したかどうかを認識し、オーバーリーチを検出した場合、当該基地局との通信を止めるように制御する。
第1処理機能としては、物理レイヤ部21で、セル監視(セル・リセレクション)機能により通信品質判定(検出S:Squal[品質],Srxlev[レベル])を行い、パスロスの閾値判定処理で閾値よりもパスロス実測値が低い場合は遠距離の可能性があるので、第2処理機能によってオーバーリーチ検出を行う。
第2処理機能は、パスロス実測値が閾値より低い場合、MACレイヤ部22にて共通チャネルによる発呼/着呼によって通信状態が可能であるかどうかを確認するために、各サービングセルに対してプリアンブルを送信する。そのセルの基地局からの応答(Ack)が来ないでタイマ・タイムアウトした場合、または、再度プリアンブルを送信する処理サイクルを一定回数だけ行って、それでも基地局側からの応答が来ない場合、移動機20のMACレイヤ部22において該当サービングセルをオーバーリーチであると判断して、待ち受ける基地局の候補から除外する。オーバーリーチが未検出のサービングセルについては待ち受け候補とする。
図3は、本発明のオーバーリーチ検出機能の一実施例のブロック図を示す。このオーバーリーチ検出機能は、セル移行時のセル監視機能を利用している。セル監視機能の目的は、たとえそれがいつも最良のセルでなくても十分良い品質をもつセルをサービングセルとして選択し、待ち受けの対象とできるようにすることである。
待ち受けの際、移動機30は、適切なシステム情報を監視して、セル監視評価のために必要な測定を実行する。セル監視評価プロセスは、すなわち、よりよいセルが存在するかどうかを見つけるためのプロセスであり、それは、移動機の内部トリガ、もしくは、システム情報が変えられる時に実行される。
なお、階層化セルが使用される時、階層化セル優先度レベル(HCS_PRIO)が高いセルだけを処理対象とすることで、測定されるセルの範囲をさらに制限することも可能である。この場合、測定はサービングセルよりも階層化セル優先度レベルが低いか等しいセルについて実行される。
図3において、測定部40は、サービングセルのレベル測定を行う。パスロス計算部42は、測定部40から供給される測定結果に基づき、次式により、パスロス計算を行う。パスロス実測値Passlossは次式を用いて計算する。
Passloss = Primary CPICH Tx power
− CPICH RSCP …(1)
但し、Primary CPICH Tx powerは、システム情報のレイヤ3情報に含まれるIE“Primary CPICH”[dBm]が使用される。CPICH RSCPは共通パイロットチャネルCPICH(Common Pilot Channel)の逆拡散後の信号コードパワー[dBm]である。
フィルタ部44は、測定部40から供給される測定値及びパスロス実測値それぞれのフィルタリングを行ってノイズ成分を除去する。検出S計算部46は、次式により検出Sを計算する。検出S即ちSqualまたはSrxlevは、以下の式で算出する。また、閾値Sintrasearch、Sintersearchは基地局30からシステム情報で報知される。
Squal = Qqualmeas − Qqualmin …(2)
Srxlev = Qrxlevmeas − Qrxlevmin
− Pcompensation …(3)
但し、計測セル品質値QqualmeasはCPICH(Common Pilot Channel)のEc/N0[dB]であり、Qqualminはセルにおける最低要求品質レベル[dB]である。計測セル受信レベル値QrxlevmeasはCPICH RSCP(CPICHの逆拡散後の信号コードパワー)[dBm]であり、Qrxlevminはセルにおける最低要求受信レベル[dBm]であり、Pcompensationは移動機がRACH(Random Access Channel)でセルにアクセスするときの許容最大送信パワー[dBm]から移動機の最大高周波出力パワー[dBm]を減算した値と、0とのいずれか大きい方である。
検出S判定部48は、サービングセルの測定を実行するかしないかの判定を行う処理であり、Squal(またはSrxlev)を用いて以下に判定を行う。
Squal(またはSrxlev)>Sintrasearchの場合、S判定良好として、同周波セルに対して測定を行わない。
Squal(またはSrxlev)>Sintersearchの場合、S判定不良として、異周波セルに対して測定を行わない。
また、パスロス計算部42で得たパスロス実測値Passlossはフィルタ部44でフィルタリングされてオーバーリーチ検出処理部50に供給されており、オーバーリーチ検出処理部50はこのパスロス実測値Passlossを基地局30からシステム情報で報知された閾値と比較して、パスロス実測値がシステム情報の閾値より低い場合、オーバーリーチ検出処理を実行する。
ところで、図3における測定部40、パスロス計算部42、フィルタ部44、検出S計算部46は物理レイヤ部21に属し、オーバーリーチ検出処理部50はMACレイヤ部22に属する。
図4は、本発明のオーバーリーチ検出機能が実行する処理のフローチャートを示す。この処理は例えば2.56sec等の所定時間間隔で、各サービングセルについて実行される。同図中、ステップS10で測定部40により各サービングセルのレベル測定を行う。次に、ステップS12で検出S計算部46及び検出S判定部48により各サービングセルの検出S計算及び検出S判定を行う。
次に、ステップS14でオーバーリーチ検出処理部50によりパスロス実測値がシステム情報の閾値より低いか否かを判別して、パスロス実測値が閾値より低い場合、ステップS16で各サービングセルのオーバーリーチ検出処理を実行する。
オーバーリーチ検出処理が終了すると、ステップS18で各サービングセルのオーバーリーチが検出されたか否かを判別し、オーバーリーチが検出されたサービングセルは、共通チャネルによる発呼/着呼によって通信ができないため、ステップS20で物理レイヤ部31に設けられているセルテーブルの該当サービングセルの欄のオーバーリーチフラグに値1をセットする。なお、セルテーブルにはサービングセル毎に、使用する周波数,スクランブルコード,測定部40の測定値,検出S,パスロス実測値等が登録される。
一方、オーバーリーチが検出されなかったサービングセルについては、ステップS22で、セルテーブルの該当サービングセルの欄(使用する周波数,スクランブルコード,測定部40の測定値,検出S,パスロス実測値等)を更新する。この際、オーバーリーチフラグは値0とされ、オーバーリーチではないことを表す。
なお、ステップS14でオーバーリーチ検出処理部50によりパスロス実測値がシステム情報の閾値より大きい場合もステップS22で、セルテーブルの該当サービングセルの欄(使用する周波数,スクランブルコード,測定部40の測定値,検出S,パスロス実測値等)を更新する。この場合も、オーバーリーチフラグは値0とされ、オーバーリーチではないことを表す。
上記ステップS20,S22の後、ステップS24でセルテーブルに登録されているオーバーリーチフラグが値0のサービングセルについてのみ、測定値,検出S,パスロス実測値等を上位のRRCレイヤ部24に通知して、この処理を終了する。
図5は、オーバーリーチ検出処理部50がステップS16で実行するオーバーリーチ検出処理のフローチャートを示す。この処理は各サービングセルについて実行される。同図中、ステップS30でオーバーリーチ検出処理部50は送信回数を0にリセットした後、ステップS32で該当サービングセルに対しプリアンブル送信を行う。このプリアンブル送信は、共通チャネルによる発呼/着呼によって通信が可能であるか否かを確認するために行われ、上り共通トランスポートチャネルであるRACH(物理レイヤではPRACHに対応する)を用いて行われる。
プリアンブルは、16種類のシグネチャと呼ばれる系列で構成される4096チップの信号である。図6に示す各16チップのシグネチャP〜P15をそれぞれ256回繰り返してプリアンブルとしている。
その後、ステップS34でリセットしたタイマをスタートさせて、ステップS35で上記プリアンブル送信に対し該当サービングセルの基地局30から応答(Ack)がなくタイマがタイムアウトしたか否かを判別する。タイマがタイムアウトした場合にはステップS36で送信回数を1だけインクリメントする。
その後、ステップS38で送信回数が例えば32等の閾値以上であるか否かを判別し、送信回数が閾値未満であればステップS32に進んでプリアンブル送信を繰り返す。そして、送信回数が閾値以上であればステップS40に進む。
なお、プリアンブル送信の電力は、下り共通パイロットチャネルの測定から推定された最適送信電力より小さい電力から開始して送信回数が増加するに従って順次増大させている。
ステップS40では、共通チャネルによる発呼/着呼によって通信ができないため、該当サービングセルの基地局30についてオーバーリーチ検出としてこの処理を終了する。
一方、ステップS38で送信回数が閾値以上となる前に、プリアンブル送信に対する基地局30からの応答があればステップS42に進んで、オーバーリーチ未検出としてこの処理を終了する。
このように、オーバーリーチを検出したサービングセルについてはRRCレイヤ部24への通知が行われないので、RRCレイヤ部24ではオーバーリーチを検出したサービングセルは共通チャネルによる発呼/着呼によって通信ができないとしてサービングセル候補から除外する。このため、サービングセルはオーバーリーチ未検出のものだけが残り、残ったサービングセルの呼接続の維持率を上げることができる。
なお、ステップS10,S12が請求項記載のパワー測定手段に対応し、ステップS32がプリアンブル送信手段に対応し、ステップS40がオーバーリーチ検出手段に対応し、ステップS20,S24がセル除外手段に対応する。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
符号分割多元接続方式を採用した移動体通信システムにおけるオーバーリーチ検出方法であって、
待ち受け中に、受信信号のパワー測定を行い、
前記パワー測定結果が閾値より低い場合に1回以上のプリアンブル送信を行い、
前記プリアンブル送信に対する基地局からの応答がないとき該基地局はオーバーリーチとして検出するオーバーリーチ検出方法。
【請求項2】
請求項1記載のオーバーリーチ検出方法において、
前記オーバーリーチとして検出した基地局を、待ち受けを行うサービングセルから除外するオーバーリーチ検出方法。
【請求項3】
請求項1記載のオーバーリーチ検出方法において、
前記受信信号のパワー測定は、共通パイロットチャネルの逆拡散後の信号コードパワーを測定するオーバーリーチ検出方法。
【請求項4】
請求項3記載のオーバーリーチ検出方法において、
前記閾値は、システム情報で報知された値であるオーバーリーチ検出方法。
【請求項5】
符号分割多元接続方式を採用した移動体通信システムの移動機であって、
待ち受け中に、受信信号のパワー測定を行うパワー測定手段と、
前記パワー測定結果が閾値より低い場合に1回以上のプリアンブル送信を行うプリアンブル送信手段と、
前記プリアンブル送信に対する基地局からの応答がないとき該基地局はオーバーリーチとして検出するオーバーリーチ検出手段を
有する移動機。
【請求項6】
請求項5記載の移動機において、
前記オーバーリーチとして検出した基地局を、待ち受けを行うサービングセルから除外するセル除外手段を
有する移動機。
【請求項7】
請求項5記載の移動機において、
前記受信信号のパワー測定は、共通パイロットチャネルの逆拡散後の信号コードパワーを測定する移動機。
【請求項8】
請求項6記載の移動機において、
前記閾値は、システム情報で報知された値である移動機。

【国際公開番号】WO2005/006797
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503856(P2005−503856)
【国際出願番号】PCT/JP2003/008801
【国際出願日】平成15年7月10日(2003.7.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】