説明

カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子および抵抗性遺伝子、ならびにその利用

【課題】カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子および抵抗性遺伝子、これら遺伝子を利用した形質転換カイコ、カイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤あるいはカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、カイコの2型濃核病ウイルス感受性判定方法ならびに判定用試薬を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、カイコゲノム情報を利用し、BACコンティグ形成による染色体ウォーキングおよびウイルスで選択された集団の連鎖解析を行い、抵抗性系統に特異的な欠失を見出し、遺伝子を同定した。抵抗性品種における欠失は転写産物にも反映されており、感受性系統に比べ約1kb短い産物が転写されていることが明らかとなった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子および抵抗性遺伝子、これら遺伝子を利用した形質転換カイコ、カイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤あるいはカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、カイコの2型濃核病ウイルス感受性判定方法ならびに判定用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫病原性ウイルスの1つである濃核病ウイルスは、パルボウイルス科に属している。節足動物を宿主とする濃核病ウイルス亜科(Densovirinae)に属するカイコ濃核病ウイルスは、諸性質の違いから2種(1型、2型)に分類されており、両者とも中腸円筒細胞の核内で増殖する。当該ウイルスに対するカイコの抵抗性は、優性や劣性の遺伝子によって支配されている。この抵抗性は、ウイルスの接種量をどれだけ増やしても全く感染しない、完全抵抗性(非感受性)という特異な現象である。また抵抗性あるいは感受性の遺伝子型を持つ細胞が1個体の中に存在するモザイクカイコを作成してウイルスを接種したところ、モザイク状の中腸の部位によりウイルスに対する抵抗性/感受性が異なっていた(非特許文献1および2参照)。このことから、この抵抗性因子は、中腸内腔に分泌されて機能するのではなく、中腸の個々の円筒細胞内または細胞膜上で機能することが示唆された。
【0003】
植物のウイルス抵抗性研究は、これまで、ウイルス蛋白質の遺伝子を宿主植物に導入することによって抵抗性を付与する組換え作物の研究が中心であり、これは、外来の遺伝子を発現する点で問題があった。近年動植物ともに、宿主のウイルス増殖因子やウイルスレセプターなどの探索により、宿主自身の遺伝子を操作して抵抗性を増強しようとする方向に変わりつつあるが、完全抵抗性因子といったものは未だ見つかっていない。
【0004】
【非特許文献1】Abe ら著、J. Invertebr. Pathol.、1990年、Vol.55、p.112-117
【非特許文献2】阿部広明ほか著、日蚕雑、1993年、Vol.62、p.38-44
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子および抵抗性遺伝子、これら遺伝子を利用した形質転換カイコ、カイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤あるいはカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、カイコの2型濃核病ウイルス感受性判定方法ならびに判定用試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。カイコ濃核病ウイルス(1型、2型)に対するカイコの抵抗性は、優性や劣性の遺伝子によって支配されており、表現形質マーカーを利用した連鎖解析によりいくつかの抵抗性遺伝子の座位が明らかにされている(表1;カイコ濃核病ウイルスと抵抗性遺伝子)。
【0007】
【表1】

【0008】
上記表1中の注記を以下に示す。1)江口良橘ほか(1991) 日蚕雑60,384-389、2)江口良橘ほか(1999) 蚕糸講要69,46、3)江口良橘ほか(2002) 蚕糸講要72,42、4)秦倫、易分仲(1988) 蚕糸科学14,129-132(中国語)、12)安嬰ほか(1999)蚕糸講要69,50、13)Ogoyi et al.(2003)Insect Mol. Biol.12,117-124
【0009】
優性のDNV-1抵抗性遺伝子であるNid-1のマッピングが、ESTマーカー(Kadono-Okuda et al.(2002)Insect Mol. Biol.11,443-451、Nguu et al.(2005) J. Insect Biotech.Seric.)を用いて、安ら(安嬰ほか(1999)蚕糸講演要旨69,50)によって行われ、第17連鎖群に5つのESTマーカーによって位置付けられた。さらに、当時その連鎖群が明らかにされていなかったDNV-2抵抗性遺伝子のnsd-2がOgoyiら(Ogoyi et al.(2003)Insect Mol. Biol.12,117-124)によって同様にマップされ、同じく第17連鎖群に座位することが明らかとなった。しかし、両者のマッピングは、異なる品種/系統を用いた50頭余りの小さなウイルス選抜個体群の結果であったことと、この研究を開始した当時は、カイコのゲノム情報はまだ充実しておらず、十分な数のマーカーも整備されていなかったため、両者に共通のマーカーで遺伝子を狭い領域に挟み込むことが出来ず、これらの遺伝子間の距離と並び順はわからなかった。
【0010】
そこで本発明においては、BACクローンのコンティグ化による染色体歩行(chromosome walk)を進めながらその都度マーカーを作成し、多数のウイルス選抜個体群の連鎖の程度を判定して進行方向を決定して歩行を続け、目標の遺伝子に接近するという方法を採用した。これは、もし1塩基多型などの小さな変異が原因であった場合、サブトラクションやディファレンシャルディスプレイでは見落としてしまう危険があったためである。
【0011】
本発明の目標遺伝子接近のために利用した方法を概説すると、nsd-2に最も近接して座位しているESTマーカー4つを出発点として、これらをプローブにし、36,864個のBACクローンDNAが高密度でブロットされたフィルターとのハイブリダイゼーションによってBACクローンをスクリーニングし、得られたポジティブBACクローンでDNAフィンガープリンティングを行い、コンティグを作成した。
【0012】
コンティグにおいて各末端に位置しているBACクローンの両末端塩基配列を決定し、先端で設計したプライマーによるPCR産物をプローブとしてさらにBACクローンのスクリーニングを行い、新たに得られたBACクローンでコンティグを伸長させる、という作業を繰り返す染色体歩行と、その都度、先端でのウイルス選抜分離個体群(抵抗性と感受性系統間での交叉型戻し交雑第1代にウイルスを接種して、抵抗性遺伝子を持つ健康蚕を選抜した。さらにその他の形質マーカーによる2重、3重選抜により、10蛾区約5,000頭から200頭余りに選抜した。)の多型解析を繰り返した。目的の遺伝子領域に近付くに従って、それまで連鎖していなかった個体に交叉が起こり、抵抗性の遺伝子型を示すようになり、やがてすべての個体が抵抗性遺伝子型を示す、抵抗性遺伝子候補領域の一端に到達した。次に、その領域を通過して感受性の遺伝子型へと変化する交叉個体が現れるまで染色体歩行を続けて、もう一方の端に到達した。さらにその内側で細かくマーカーを作成して、領域の絞り込みを行った。最終的には、4.9Mbを歩行し、nsd-2の候補領域を500 kbまで絞り込んだ。この領域内で、DNV-2抵抗性系統に約6 kbの欠失が見つかった(図2)。その他多くの抵抗性、感受性系統/品種間で比較した結果、これがnsd-2を持つ品種/系統に特異的な欠失であることが明らかとなった。そこでこの領域のアノテーション、蛋白質、cDNAの検索を行い、発現している遺伝子を同定した。そこで抵抗性と感受性の幼虫中腸からRNAを調整し、ゲノムシークエンスとアノテーション情報をもとにプライマーを設計し、RT-PCR、3'-, 5'-RACEを行った。その結果、この部分から転写産物が作られていること、抵抗性品種におけるこの部分の欠失が転写産物にも反映されており、感受性系統に比べて、約1kb短い産物が転写されていることが明らかとなった。
【0013】
脊椎動物、特にヒトではウイルスレセプターの研究が盛んに行われており、1つのウイルスに複数のレセプターが関与する例、近縁のウイルス種が類似したレセプターを利用しているわけではなく、また、異なる科のウイルスが同じレセプター分子を利用している例も示されている(大隅和、柳雄介(1999)ウイルス49,1-9)。このことから、DNV-2も複数のレセプターを利用している可能性がある。本発明によって単離された遺伝子は、DNV-2の結合、侵入あるいは脱殻などに関わる因子という可能性がある。少なくとも本発明によって判明した領域が欠けただけでウイルス感染が完全に阻止されることから、カイコ2型濃核病ウイルスにとって必須因子の1つであると言える。
【0014】
実際に本発明者らは、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性個体に、カイコ2型濃核病ウイルス感受性個体由来の全長型(感受性型)遺伝子を導入し、形質転換カイコを作製した。その結果、導入された全長型遺伝子を発現した形質転換個体だけがカイコ2型濃核病ウイルス感受性になり、当該ウイルスで病死することが確認された。
【0015】
さらに、このウイルス抵抗性は、カイコの多くの品種、系統に見られることから、本発明によって明らかとなった抵抗性に関与する領域の欠失はカイコにとって何ら影響を及ぼさないものであり、長い養蚕の歴史の中で多くの品種/系統に広がったと考えられる。DNV-1に対する劣性の抵抗性遺伝子であるnsd-1も同様に多くの品種、系統に見られることから、異なる染色体(第21)に座位する異なる蛋白質における同様の変異である可能性が高く、非常に興味深い。
【0016】
本発明が提供するカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子は、昆虫では初のウイルス抵抗性遺伝子の単離となる。単一の因子による完全抵抗性に関しては他の動物、植物を含めても例がない。これまでに見出されている脊椎動物のパルボウイルスは、すべてほぼ相同のゲノム構造を持っており、遺伝子発現の戦略も基本的にはほぼ同じである。一方、節足動物のパルボウイルスである濃核病ウイルスには、ゲノム構造を異にする4つのグループがあり、このうちの2つにそれぞれDNV-1とDNV-2が属する。ゲノムにこのような多様性が存在することは、濃核病ウイルスが、脊椎動物のパルボウイルスとは異なる多様な生存戦略を持っていることを示唆しており、ウイルスの生存戦略、あるいは宿主-ウイルス相関関係の多様性を理解する上で独自の貢献を果たすことが期待される。
【0017】
即ち、本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子および抵抗性遺伝子、これら遺伝子を利用した形質転換カイコ、カイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤あるいはカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、カイコの2型濃核病ウイルス感受性判定方法ならびに判定用試薬に関し、より具体的には、
〔1〕 配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域の塩基配列を有する、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNA、
〔2〕 下記(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNA
〔3〕 カイコ2型濃核病ウイルス感受性を有する下記(d)または(e)に記載のDNA、
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(e)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
〔4〕 配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の断片をコードするDNA、
〔5〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔6〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質、
〔7〕 〔6〕に記載の蛋白質に結合する抗体、
〔8〕 〔6〕に記載の蛋白質をコードするアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA、
〔9〕 配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域のうち少なくとも1つのエクソン領域を欠失した塩基配列を有する、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNA、
〔10〕 エクソン領域がエクソン5〜13からなる領域である、〔9〕に記載のDNA、
〔11〕 エクソン5〜13からなる領域が、配列番号:1に記載の塩基配列における7052位〜12028位である、〔10〕に記載のDNA、
〔12〕 下記(a)または(b)に記載のDNA、
(a)配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:4に記載の塩基配列を含むDNA
〔13〕 カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性を有する下記(c)または(d)に記載のDNA、
(c)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(d)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
〔14〕 配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の断片をコードするDNA、
〔15〕 〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
〔16〕 〔8〕〜〔14〕のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質、
〔17〕 〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAまたは〔5〕に記載のベクターを保持する、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコ細胞、
〔18〕 〔17〕に記載の形質転換カイコ細胞を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコ、
〔19〕 〔18〕に記載の形質転換カイコの卵、子孫、もしくはクローンである、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコ、
〔20〕 〔18〕または〔19〕に記載の形質転換カイコを交配させることによる、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコの製造方法、
〔21〕 〔5〕に記載のベクターあるいは〔6〕に記載の蛋白質を有効成分とする、カイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤、
〔22〕 〔6〕に記載の蛋白質の機能が阻害されていることを特徴とする、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ細胞、
〔23〕 〔22〕に記載の形質転換カイコ細胞を含む、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ、
〔24〕 〔23〕に記載の形質転換カイコの卵、子孫、もしくはクローンである、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ、
〔25〕 〔23〕または〔24〕に記載の形質転換カイコを交配させることによる、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法、
〔26〕 〔6〕に記載の蛋白質の発現を阻害することを特徴とする、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法、
〔27〕 〔6〕に記載の蛋白質の発現を、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物の投与によって阻害することを特徴とする、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法、
(a)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの発現を、RNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA
〔28〕 〔6〕に記載の蛋白質の機能阻害物質を有効成分として含有する、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、
〔29〕 〔6〕に記載の蛋白質の機能阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、〔28〕に記載のカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、
(a)〔6〕に記載の蛋白質に対してドミナントネガティブの性質を有する〔6〕に記載の蛋白質の変異体
(b)〔6〕に記載の蛋白質に対して結合する抗体
(c)〔6〕に記載の蛋白質に結合する低分子化合物
〔30〕 〔6〕に記載の蛋白質の発現阻害物質を有効成分として含有する、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、
〔31〕 〔6〕に記載の蛋白質の発現阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、〔30〕に記載のカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤、
(a)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの発現を、RNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA
〔32〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)〔6〕に記載の蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる工程
(b)前記蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を測定する工程
(c)〔6〕に記載の蛋白質またはその部分ペプチドと結合する化合物を選択する工程
〔33〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAを発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該DNAの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔34〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
〔35〕 以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法、
(a)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAを発現する細胞へ被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞における〔6〕に記載の蛋白質の発現量または活性を測定する工程
(c)被検化合物に非存在下において測定した場合と比較して、当該蛋白質の発現量または活性を低下させる化合物を選択する工程
〔36〕 カイコ2型濃核病ウイルス感受性のカイコを判定する方法であって、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域のうち少なくとも1つのエクソン領域の欠失の有無を検出することを含む方法、
〔37〕 エクソン領域がエクソン5〜13からなる領域である、〔36〕に記載の方法、
〔38〕 エクソン5〜13からなる領域が、配列番号:1に記載の塩基配列における7052位〜12028位である、〔37〕に記載の方法、
〔39〕 前記エクソン領域の欠失が検出された場合に被検カイコはカイコ濃核病ウイルスに抵抗性であるものと判定され、検出されない場合に被検カイコはカイコ濃核病ウイルスに感受性であるものと判定される工程、をさらに含む〔36〕〜〔38〕のいずれかに記載の判定方法、
〔40〕 以下の(a)または(b)のオリゴヌクレオチドを含む、カイコ2型濃核病ウイルス感受性判定試薬、
(a)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b)〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド
を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によって初めて単離されたカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子は、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性あるいは感受性の形質転換体やウイルス高感受性培養細胞株の作出を可能にする。また交配による本抵抗性の育種においてマーカーとして利用できる(Marker-assisted breeding)。
【0019】
近年急速に整備されつつあるカイコのゲノム情報を利用したこれら突然変異形質遺伝子の単離と解析、その利用法の開発は、ポストゲノムを見据えた有用形質遺伝子とその発現産物の解析を行う上でも重要なモデル系であり、これらの機能を導入または抑制した組換え生物の利用や、昆虫特異有用物質の大量生産による利用が期待される。また、本発明によって得られた抵抗性遺伝子の発現産物の解析は、ウイルス感染初期過程の機構解明を可能にすると考えられる。さらに、感受性遺伝子を導入した培養細胞の開発により、これまで感受性の培養細胞株がなかったために詳細な研究が不可能であった多くの昆虫病原ウイルスや、昆虫媒介ウイルス研究の進展が期待され、農林水産業や医学上重要なウイルス病の制御に貢献できると考える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
カイコ2型濃核病ウイルスに対する抵抗性遺伝子については、表現形質マーカーを利用した連鎖解析によりいくつかの座位が明らかにされている。カイコ2型濃核病ウイルス(DNV-2)抵抗性のnsd-2遺伝子については、第17連鎖群に座位すると知られていた。本発明者らは、BACクローンのコンティグ化による染色体歩行を進めてその都度マーカーを作成し、ウイルス選抜個体群の連鎖の程度を判定して進行方向を決定して歩行を続け、目標とする遺伝子に接近する方法を採用し、DNV-2抵抗性系統に特異的な欠失領域を見いだした。
【0021】
本発明は、カイコ2型濃核病ウイルスに対して感受性を示す遺伝子を提供する。カイコ2型濃核病ウイルス感受性系統であるNo.908におけるゲノム塩基配列を、配列番号:1に示す。当該ゲノム塩基配列上のエクソンの位置を以下に示す。エクソン1:1位〜57位、エクソン2:169位〜273位、エクソン3:4000位〜4258位、エクソン4:5415位〜5631位、エクソン5:7052位〜7095位、エクソン6:7292位〜7439位、エクソン7:7899位〜7977位、エクソン8:8065位〜8168位、エクソン9:8573位〜8765位、エクソン10:10680位〜10856位、エクソン11:10941位〜11040位、エクソン12:11155位〜11334位、エクソン13:11934位〜12028位、エクソン14:12781位〜13056位。
【0022】
また上記感受性系統No.908における翻訳領域cDNAの塩基配列を配列番号:2に、当該cDNAから翻訳されるアミノ酸配列を配列番号:3に示す。
また抵抗性系統J150の翻訳領域のcDNAの塩基配列を配列番号:4に、当該cDNAから翻訳されるアミノ酸配列を配列番号:5に示す。
【0023】
また、感受性系統No.908における完全長cDNAの塩基配列を配列番号:6に、抵抗性系統J150の完全長cDNAの塩基配列を配列番号:7に示す。さらに抵抗性系統J150のゲノム塩基配列を配列番号:8に示す。配列番号:8における5080位〜5086位、および5778位〜5811位は、配列番号:1における5087位〜5302位、および5989位〜12355位(つまり抵抗性系統J150で欠失している領域)にそれぞれ位置している。なお配列番号:1の5087位〜5302位、および5989位〜12355位に、配列番号:8における5080位〜5086位、および5778位〜5811位の配列は存在せず、即ち配列番号:8における5080位〜5086位、および5778位〜5811位の配列は抵抗性系統J150に特異的な配列であるということができる(図3)。
【0024】
なお、本明細書においては、カイコ2型濃核病ウイルスに対して感受性を示す蛋白質(遺伝子)を「カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質(遺伝子)」もしくは単に「感受性蛋白質(遺伝子)」と記載する場合がある。またカイコ2型濃核病ウイルスに対して抵抗性を示す蛋白質(遺伝子)を「カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質(遺伝子)」もしくは単に「抵抗性蛋白質(遺伝子)」と記載する場合がある。
【0025】
本発明はカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを提供する。即ち、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域の塩基配列を有するカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを提供する。
【0026】
また本発明はカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAを提供する。即ち、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするアミノ酸配列において1もしくは少なくとも数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAを提供する。
【0027】
本発明者らは、抵抗性品種に特異的な欠失領域が、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン5〜13からなる領域に相当することを見出した。即ち本発明は、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域のうち少なくとも1つのエクソン領域を欠失した塩基配列を有する、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAを提供する。本発明のカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAは、好ましくは、エクソン5〜13からなる領域を欠失した塩基配列を有するDNAであり、より好ましくは配列番号:1に記載の塩基配列における7052位〜12028位からなる領域を欠失した塩基配列を有するDNAである。
【0028】
さらに本発明者らは、配列番号:1における5087位〜5302位、および5989位〜12355位の配列が抵抗性系統J150では欠失していることを見出した。なお配列番号:1における5087位〜5302位の配列はイントロンに該当するので、抵抗性に関して問題とならない。
【0029】
また本発明は、下記の(a)〜(c)のいずれかに記載のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを提供する。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNA
【0030】
また本発明は、下記の(a)または(b)に記載のカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAを提供する。
(a)配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:4に記載の塩基配列を含むDNA
さらに配列番号:8に記載の塩基配列のコード領域を含むDNAも、本発明のカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAに含まれる。
【0031】
また、本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性を有する下記(d)または(e)に記載のDNAを提供する。
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(e)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【0032】
また本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性を有する下記(c)または(d)に記載のDNAを提供する。
(c)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(d)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【0033】
本明細書において「欠失」とは、1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド残基がそれぞれ、天然に存在するカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質または抵抗性蛋白質のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して存在しない、アミノ酸またはヌクレオチド配列のいずれかの変化を指す。
【0034】
本明細書において「挿入」または「付加」とは、天然に存在するカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質または抵抗性蛋白質のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して、それぞれアミノ酸またはヌクレオチド残基1つ以上が付加されたアミノ酸またはヌクレオチド配列の変化を指す。
【0035】
本明細書において「置換」とは、天然に存在するカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質または抵抗性蛋白質のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して、アミノ酸またはヌクレオチド1つ以上がそれぞれ異なるアミノ酸またはヌクレオチドに入れ替えられたアミノ酸またはヌクレオチド配列の変化を指す。
【0036】
本明細書において「ハイブリダイズ」とは、核酸鎖が塩基対形成を通じて相補鎖と結合するプロセスを意味する。
【0037】
本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAには、遺伝コードの縮重により配列番号:1または2に記載の塩基配列と異なる塩基配列からなるが、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAが含まれる。本発明のカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAには、遺伝コードの縮重により配列番号:8または4に記載の塩基配列と異なる塩基配列からなるが、配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNAが含まれる。
【0038】
また本発明には、上記各DNAがコードする蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードし、該蛋白質の配列とその全長において少なくとも40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上(例えば、98〜99%)同一である塩基配列を含むDNAが含まれる。
【0039】
ここで「機能的に同等」とは、対象となる蛋白質が、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と同等の生物学的特性を有していることを意味する。生物学的特性としては、即ち、カイコ2型濃核病ウイルス感受性あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性を挙げることができる。
【0040】
従って対象となる蛋白質がカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と同等の生物学的特性を有しているか否かの判断は、当業者においては周知の方法によって、当該ウイルスへの感受性または抵抗性を測定することにより行うことができる。例えば、感受性蛋白質を発現しているカイコに対してカイコ2型濃核病ウイルスを接種し、感染するかどうかを観察することによりカイコ2型濃核病ウイルスに対する感受性を測定することができる。反対に例えば抵抗性蛋白質を発現しているカイコに対してカイコ2型濃核病ウイルスを接種し、感染しないかどうかを観察することによりカイコ2型濃核病ウイルスに対する抵抗性を測定することができる。
【0041】
塩基配列の同一性は、例えば、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc. Natl. Acad. Sei. USA 90:5873-5877, 1993)を利用して決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al. J. Mol. Biol.215:403-410, 1990)。BLASTNによって塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore = 100、wordlength = 12とする。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。本発明のDNAには、上記のDNAの塩基配列と相補的な塩基配列を有するDNAが含まれる。
【0042】
本発明のDNAは、標準的なクローニングおよびスクリーニングにより、例えば、細胞中のmRNAから誘導されたcDNAライブラリーから得ることができる。また、本発明のDNAはゲノムDNAライブラリーのような天然源から得ることができ、商業的に入手可能な公知の技法を用いて合成することも可能である。
【0043】
本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの塩基配列(配列番号:1または2)あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAの塩基配列(配列番号:8または4)と有意な相同性を有する塩基配列からなるDNAは、例えば、ハイブリダイゼーション技術 (Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 6.3-6.4)や遺伝子増幅技術(PCR)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 6.1-6.4)を利用して調製することができる。即ち、ハイブリダイゼーション技術を利用して、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの塩基配列(配列番号:1または2)あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAの塩基配列(配列番号:8または4)またはその一部をもとに同種または異種生物由来のDNA試料から、これと相同性の高いDNAを単離することができる。また、遺伝子増幅技術を用いて、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの塩基配列(配列番号:1または2)あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAの塩基配列(配列番号:8または4)の一部を基にプライマーを設計し、該DNAの塩基配列と相同性の高いDNAを単離することができる。従って、本発明には、配列番号:1または2に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および配列番号:8または4に記載の塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAが含まれる。
【0044】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は、当業者であれば、適宜選択することができる。一例を示せば、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1xSSC、0.1% SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5xSSC、0.1% SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2xSSC、0.1% SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待しうる。但し、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0045】
また、当業者においては、他の生物におけるカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子に相当する内在性の遺伝子を、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子の塩基配列を基に適宜取得することが可能である。
【0046】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子のDNAまたはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子のDNAの塩基配列と有意な相同性を有する塩基配列からなるDNAは、配列番号:1もしくは2に記載の塩基配列、または配列番号:4もしくは8に記載の塩基配列に変異を導入する方法(例えば、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 8.1-8.5))を利用して調製することもできる。また、このようなDNAは、自然界における変異により生じることもある。本発明には、このような塩基配列の変異により、配列番号:3に記載のアミノ酸配列または配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加などされた蛋白質をコードするDNAが含まれる。
【0047】
本発明は、上記カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAまたはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAと機能的に同等なDNAを提供する。ここで「機能的に同等」とは、対象となるDNAが、上述のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAまたはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAと同等の生物学的特性を有していることを意味する。生物学的特性としては、即ち、カイコ2型濃核病ウイルス感受性またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性を挙げることができる。
【0048】
従って、対象となるDNAが本発明者らにより同定されたDNAと同等の生物学的特性を有しているか否かの判断は、当業者においては周知の方法によって、当該ウイルスへの感受性または抵抗性を測定することにより行うことができる。
【0049】
本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAまたはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNAと機能的に同等なDNAを調製するための1つの態様としては、蛋白質中のアミノ酸配列に変異を導入する方法が挙げられる。このような方法には、例えば、部位特異的変異誘発法(Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 8.1-8.5))が含まれる。また、蛋白質中のアミノ酸の変異は、自然界において生じることもある。本発明には、このように人工的か自然に生じたものかを問わず、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質のアミノ酸配列(配列番号:3)またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質のアミノ酸配列(配列番号:5)において、1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/もしくは付加などにより変異した蛋白質であって、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と機能的に同等な蛋白質が含まれる。
【0050】
置換されるアミノ酸は、蛋白質の機能の保持の観点から、置換前のアミノ酸と似た性質を有するアミノ酸であることが好ましい。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有すると考えられる。また、非荷電性としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、AspおよびGluが、塩基性アミノ酸としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。
【0051】
これら蛋白質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、その機能が保持される限り制限はない。変異数は、典型的には、全アミノ酸の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内であると考えられる。
【0052】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と機能的に同等な蛋白質を調製するための方法の他の態様としては、ハイブリダイゼーション技術あるいは遺伝子増幅技術を利用する方法が挙げられる。即ち、当業者であれば、ハイブリダイゼーション技術 (Current Protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. Jhon Wily & Sons Section 6.3-6.4)を利用してカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNA配列(配列番号:1または2)あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質をコードするDNA配列(配列番号:8または4)、またはその一部を元に同種または異種生物由来のDNA試料から、これと相同性の高いDNAを単離して、該DNAからカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と機能的に同等な蛋白質を得ることは、通常行いうることである。
【0053】
このように、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNAとハイブリダイズするDNAによりコードされる蛋白質であって、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質と機能的に同等な蛋白質、あるいはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質をコードするDNAとハイブリダイズするDNAによりコードされる蛋白質であって、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と機能的に同等な蛋白質もまた本発明の蛋白質に含まれる。
【0054】
このような蛋白質を単離するための生物としては例えば昆虫類等が挙げられ、例えばクワコ、カイコ、ショウジョウバエ、ハマダラカ、ミツバチ等が挙げられるが、これらに制限されない。
【0055】
また上述したようなハイブリダイゼーション技術を利用して単離されるDNAがコードする蛋白質は、通常、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質とアミノ酸配列において高い相同性を有する。高い相同性とは、少なくとも40%以上、好ましくは60%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは少なくとも95%以上、さらに好ましくは少なくとも97%以上(例えば、98〜99%)の配列の相同性を指す。アミノ酸配列の同一性は、例えば、上述した、Karlin and Altschul によるアルゴリズムBLASTによって決定することができる。またBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターはたとえば score = 50、wordlength = 3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
【0056】
また、遺伝子増幅技術(PCR)(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons Section 6.1-6.4)を用いて、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNA配列(配列番号:1または2)またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質をコードするDNA配列(配列番号:8または4)の一部を基にプライマーを設計し、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNA配列と相同性の高いDNA断片を単離し、該DNAを基にカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質と機能的に同等な蛋白質を得ることも可能である。
【0057】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質は「成熟」蛋白質の形であっても、融合蛋白質のような、より大きい蛋白質の一部であってもよい。本発明の蛋白質には、分泌すなわちリーダー配列、プロ配列、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、または組換え生産の際の安定性を確保する付加的配列などが含まれていてもよい。
【0058】
本発明はまたカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質の断片をコードするDNAを提供する。即ち、配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の断片をコードするDNA、または配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の断片をコードするDNAを提供する。
【0059】
こうした蛋白質の断片には、全体的に、前記したカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質のアミノ酸配列の一部と同一であるが、全部とは同一でないアミノ酸配列を有する蛋白質が含まれる。本発明の蛋白質の断片は、通常8アミノ酸残基以上、好ましくは12アミノ酸残基以上(例えば、15アミノ酸残基以上)の配列からなるポリペプチド断片である。好適な断片としては、例えば、アミノ末端を含む一連の残基もしくはカルボキシル末端を含む一連の残基の欠失、またはアミノ末端を含む一連の残基とカルボキシル末端を含む一連の残基の二連の残基の欠失したアミノ酸配列を有するトランケーション(truncation)ポリペプチドが含まれる。また、αヘリックスとαヘリックス形成領域、βシートとβシート形成領域、ターンとターン形成領域、コイルとコイル形成領域、親水性領域、疎水性領域、α両親媒性領域、β両親媒性領域、可変性領域、表面形成領域、基質結合領域、および高抗原指数領域を含む断片のような、構造的または機能的特性により特徴づけられる断片も好適である。その他の好適な断片は生物学的に活性な断片である。生物学的に活性な断片とは、同様の活性をもつ断片、その活性が向上した断片、または望ましくない活性が減少した断片を含めて、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質の活性を媒介するものである。さらに、昆虫類、特にカイコにおいてカイコ2型濃核病ウイルス感受性またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性がある断片も含まれる。これらの蛋白質の断片は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質の生物学的活性を保持することが好ましい。特定された配列および断片の変異型も本発明の一部を構成する。好適な変異型は同類アミノ酸置換により対象物と異なるもの、すなわち、ある残基が同様の性質の他の残基で置換されているものである。典型的なこうした置換は、Ala, Val, LeuとIleの間、SerとThrの間、酸性残基 AspとGluの間、AsnとGlnの間、塩基性残基 LysとArgの間、または芳香族残基 PheとTyrの間で起こる。
【0060】
また本発明は、上述したカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNAまたはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質をコードするDNAによりコードされる蛋白質を提供する。
【0061】
また本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス蛋白質に結合する抗体を提供する。ここで「抗体」には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、さらにFabまたは他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を含むFabフラグメントが含まれる。
【0062】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその断片もしくは類似体、またはそれらを発現する細胞は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体を産生するための免疫原としても使用することができる。抗体は、好ましくは、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に免疫特異的である。「免疫特異的」とは、その抗体が他の蛋白質に対するその親和性よりもカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に対して実質的に高い親和性を有することを意味する。
【0063】
本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質あるいはそのGSTとの融合蛋白質をウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、マウスミエローマ細胞とポリエチレングリコールなどの試薬により融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0064】
本発明の抗体は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質やこれを発現する細胞の単離、同定、および精製に利用することができる。カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の活性または発現を抑制(阻害)するものと考えられるので、該抗体を有効量含む組成物は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の活性または発現を抑制する必要がある場合の薬剤となるものと期待される。また該抗体は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現量を測定するために用いることもできる。
【0065】
本発明はまた、本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNAまたはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質をコードするDNAを含有するベクターを提供する。本発明のベクターとしては、挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましい。本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性蛋白質を生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内で蛋白質を発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0066】
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては、カイコの細胞を挙げることができる。即ち本発明は、上記本発明のDNAまたは本発明のベクターを保持する、カイコ2型濃核病ウイルス感受性またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ細胞を提供する。本発明には、これら形質転換カイコ細胞の培養細胞(培養細胞株)も含まれる。カイコ細胞へのベクターの導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0067】
また本発明は上記形質転換されたカイコ細胞を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感受性またはカイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコを提供する。さらにこれら形質転換カイコの卵、子孫、もしくはクローンを提供する。さらに、これら形質転換カイコ、これら形質転換カイコの卵、子孫、もしくはクローン由来の培養細胞(培養細胞株)も本発明に含まれる。
【0068】
カイコ卵に対して本発明のDNAの導入を行う場合、例えば、カイコの発生初期卵へ、トランスポゾンをベクターとして注射する方法(Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)に従って行うことができる。例えば、トランスポゾンの逆位末端反復配列(Handler AM, McCombs SD, Fraser MJ, Saul SH.(1998) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95(13):7520-5)の間に上記DNAを挿入したベクターとともに、トランスポゾン転移酵素をコードするDNAを有するベクター(ヘルパーベクター)をカイコ卵に導入する。ヘルパーベクターとしては、pHA3PIG (Tamura, T., Thibert, C., Royer ,C., Kanda, T., Abraham, E., Kamba, M., Komoto, N., Thomas, J.-L., Mauchamp, B., Chavancy, G., Shirk, P., Fraser, M., Prudhomme, J.-C. and Couble, P., 2000, Nature Biotechnology 18, 81-84)が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0069】
本発明におけるトランスポゾンとしては、piggyBacが好ましいが、これに限定されるものではなく、マリーナ(mariner)、ミノス(minos)等を用いることもできる(Shimizu, K., Kamba, M., Sonobe, H., Kanda, T., Klinakis, A. G., Savakis, C. and Tamura, T. (2000) Insect Mol. Biol., 9, 277-281;Wang W, Swevers L, Iatrou K.(2000) Insect Mol Biol 9(2):145-55)。
【0070】
また、本発明では、バキュロウイルスベクターを使用することにより形質転換カイコを作出することも可能である(Yamao, M., N. Katayama, H. Nakazawa, M. Yamakawa, Y. Hayashi et al., 1999, Genes Dev 13: 511-516)。
【0071】
また本発明は上記感受性または抵抗性形質転換カイコの製造方法を提供する。即ち、上記本発明の形質転換カイコ同士(感受性は感受性同士、抵抗性は抵抗性同士)を交配させることにより得ることができる。
【0072】
カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコは、上記カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現を阻害することによっても製造することができる。
本発明の好ましい態様においては、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現を、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物の投与によって阻害する、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法に関する。
(a)カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの発現を、RNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA
【0073】
特定の内在性遺伝子の発現を阻害する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者によく知られている。アンチセンスRNAをコードするDNAが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸と蛋白質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319-347,1993)。
【0074】
本発明で用いられるアンチセンスRNAをコードするDNAは、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスRNAをコードするDNAに含まれる。使用されるアンチセンスRNAをコードするDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。アンチセンスRNAをコードするDNAの配列は、標的遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。
【0075】
本発明のアンチセンスRNAをコードするDNAは、例えば、感受性蛋白質をコードするDNA(例えば、配列番号:1または2)の配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, 1988 Physicochemical properties of phosphorothioate oligodeoxynucleotides. Nucleic Acids Res 16, 3209-21 (1988))などにより調製することが可能である。
【0076】
感受性遺伝子の発現の阻害は、また、リボザイム活性を有するRNAをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子を指す。リボザイムには種々の活性を有するものがあり、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, (1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191)。
【0077】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumiら,(1988) FEBS Lett.228:225)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumiら,(1988) FEBS Lett. 239:285、小泉誠および大塚栄子,(1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191、 M.Koizumiら, (1989) Nucleic Acids Res. 17:7059)。
【0078】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi およびN.Sasaki (1992) Nucleic Acids Res. 19:6751、 菊池洋, (1992) 化学と生物 30:112)。
【0079】
本発明の感受性蛋白質をコードする遺伝子の発現を抑制するDNAを形質転換に用いる場合には、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターなどを利用して、ex vivo法やin vivo法などによりカイコへ投与を行うことが考えられる。
【0080】
感受性遺伝子の発現の阻害は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二本鎖RNAを用いたRNA干渉(RNA interferance;RNAi)によっても行うことができる。RNAiとは、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する二重鎖RNAを細胞内に導入すると、導入した外来遺伝子および標的内在性遺伝子の発現がいずれも阻害される現象のことを指す。RNAiの機構の詳細は明らかではないが、最初に導入した二本鎖RNAが小片に分解され、何らかの形で標的遺伝子の指標となることにより、標的遺伝子が分解されると考えられている。RNAiに用いるRNAは、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子もしくは該遺伝子の部分領域と必ずしも完全に同一である必要はないが、完全な相同性を有することが好ましい。また、二重鎖RNAを細胞内で合成し得るDNA分子を導入することもできる。
【0081】
本発明において、感受性遺伝子に対するアンチセンスRNAをコードするDNAあるいはRNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNAを構成するDNAの配列は、当業者においては、本明細書の配列表において掲載された感受性遺伝子のDNA配列を元に、適宜設計することが可能である。
【0082】
さらに、上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)もまた、感受性遺伝子の発現を抑制し得る化合物の態様に含まれる。本発明の上記二本鎖RNAを発現し得るDNA(ベクター)は、通常、該二本鎖RNAの一方の鎖をコードするDNA、および該二本鎖RNAの他方の鎖をコードするDNAが、それぞれ発現し得るようにプロモーターと連結した構造を有するDNAである。本発明の上記DNAは、当業者においては、一般的な遺伝子工学技術により、容易に作製することができる。より具体的には、本発明のRNAをコードするDNAを公知の種々の発現ベクターへ適宜挿入することによって、本発明の発現ベクターを作製することが可能である。
【0083】
また、本発明の感受性蛋白質の発現の阻害には、感受性蛋白質をコードする遺伝子の発現を人為的に抑制する(感受性遺伝子がノックアウトされた)場合も含まれる。本発明においては、感受性遺伝子の遺伝子対の一方の遺伝子の発現のみが抑制されている場合(ヘテロノックアウト)も含まれるが、遺伝子対の双方の感受性遺伝子の発現が抑制されていることが好ましい。
【0084】
さらに本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質、あるいはカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質をコードするDNAを含有するベクターを有効成分とするカイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤を提供する。
【0085】
さらに本発明は、カイコ2型濃核病ウイルスの感染阻害剤を提供する。本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤としては、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現抑制物質または機能阻害物質を挙げることができる。
【0086】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の機能阻害物質を有効成分として含有する、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤を提供する。カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の機能阻害物質(機能抑制物質)とは、通常、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の機能を有意に阻害(抑制)し得る物質を指す。
【0087】
本発明の好ましい態様においては、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質阻害剤に関する。
(a)カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に対してドミナントネガティブの性質を有するカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の変異体
(b)カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に対して結合する抗体
(c)カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する低分子化合物
【0088】
「カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に対してドミナントネガティブの性質を有するカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質変異体」とは、該蛋白質をコードする遺伝子を発現させることによって、内在性の野生型蛋白質(カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質)の活性を消失もしくは低下させる機能を有する蛋白質を指す。
【0089】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体(抗カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質抗体)は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。天然のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質、あるいはGSTとの融合蛋白質として大腸菌等の微生物において発現させたリコンビナントカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質、またはその部分ペプチドをウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質若しくはその部分ペプチドをマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、該細胞とマウスミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の試薬を用いて融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質や合成ペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0090】
本発明の抗体の形態には、特に制限はなく、本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する限り、上記ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のほかに、抗体断片や抗体修飾物も含まれる。
【0091】
抗体取得の感作抗原として使用される本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質は、その由来となる動物種に制限されないが、昆虫類、例えばカイコ由来の蛋白質が好ましい。カイコ由来の蛋白質は、本明細書に開示される遺伝子配列又はアミノ酸配列を用いて得ることができる。
【0092】
本発明において、感作抗原として使用される蛋白質は、完全な蛋白質あるいは蛋白質の部分ペプチドであってもよい。蛋白質の部分ペプチドとしては、例えば、蛋白質のアミノ基(N)末端断片やカルボキシ(C)末端断片が挙げられる。本明細書における「抗体」とは蛋白質の全長又は断片に反応する抗体を意味する。
【0093】
本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体は、例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害を目的とした使用が考えられる。
【0094】
さらに、本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の機能を阻害し得る物質として、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する低分子量物質も含有する。本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する低分子量物質は、天然または人工の化合物であってもよい。通常、当業者に公知の方法を用いることによって製造または取得可能な化合物である。また本発明の化合物は、後述のスクリーニング方法によって、取得することが可能である。
【0095】
また本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現阻害物質を有効成分として含有する、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤を提供する。
【0096】
本発明における「蛋白質の発現抑制物質」は、蛋白質の発現を有意に抑制(減少)させる物質である。本発明の上記「発現抑制」には、該蛋白質をコードする遺伝子の転写抑制、および/もしくは該遺伝子の転写産物からの翻訳抑制が含まれる。
【0097】
本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現阻害物質としては、例えばカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子の転写調節領域(例えばプロモーター領域)に結合して、該遺伝子の転写を抑制する物質(転写抑制因子等)を挙げることができる。
【0098】
また本発明において、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現活性の測定は、当業者においては周知の方法、例えばノーザンブロット法、ウェスタンブロット法等により、容易に実施することができる。
【0099】
本発明の好ましい態様においては、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤に関する。
(a)カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの発現を、RNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA
【0100】
また本発明は、本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法を提供する。
【0101】
その一つの態様は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合を指標とする方法である。通常、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドと結合する化合物は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の機能を阻害する効果を有することが期待される。
【0102】
本発明の上記方法においてはまず、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる。カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドは、被検化合物との結合を検出するための指標に応じて、例えばカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドの精製された形態、細胞内または細胞外に発現した形態、あるいはアフィニティーカラムに結合した形態であり得る。この方法に用いる被検化合物は必要に応じて適宜標識して用いることができる。標識としては、例えば、放射標識、蛍光標識等を挙げることができる。
【0103】
本方法においては次いで、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を測定する。カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合は、例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドに結合した被検化合物に付された標識によって検出することができる。また、細胞内または細胞外に発現しているカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドへの被検化合物の結合により生じるカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の活性の変化を指標として検出することもできる。
【0104】
本方法においては次いで、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質またはその部分ペプチドと結合する化合物を選択する。本方法により単離される化合物は、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害作用を有することが期待され、例えば、カイコに対する当該ウイルス感染防止剤として有用である。また、当該ウイルスの感染メカニズム解明の研究等に有用である。
また本発明のスクリーニング方法の他の態様は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの発現を指標とする方法である。当該DNAの発現量を低下させるような化合物は、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤となることが期待される。
【0105】
本方法においてはまず、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを発現する細胞に、被検化合物を接触させる。用いられる「細胞」の由来としては、昆虫類等に由来する細胞が挙げられるが、これら由来に制限されない。「カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを発現する細胞」としては、内因性のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子を発現している細胞、または外因性のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子が導入され、該遺伝子が発現している細胞を利用することができる。外因性のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子が発現した細胞は、通常、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子が挿入された発現ベクターを宿主細胞へ導入することにより作製することができる。該発現ベクターは、一般的な遺伝子工学技術によって作製することができる。
【0106】
本方法に用いる被検化合物としては、特に制限はない。例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、蛋白質、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを発現する細胞への被検化合物の「接触」は、通常、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを発現する細胞の培養液に被検化合物を添加することによって行うが、この方法に限定されない。被検化合物が蛋白質等の場合には、該蛋白質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより、「接触」を行うことができる。
【0108】
本方法においては次いで、該DNAの発現レベルを測定する。ここで「発現」には、転写および翻訳の双方が含まれる。発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子を発現する細胞からmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法またはRT-PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。また、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子を発現する細胞から蛋白質画分を回収し、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現をSDS-PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。さらに、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法を実施することにより該蛋白質の発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばモノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体の両方を利用することができる。
【0109】
本方法においては次いで、被検化合物を接触させない場合(対照)と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物となる。
【0110】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子の発現量を低下させるような化合物を、レポーター遺伝子を利用して同定する方法に関する。
【0111】
本方法においてはまず、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる。ここで「機能的に結合した」とは、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域に転写因子が結合することにより、レポーター遺伝子の発現が誘導されるように、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが結合していることをいう。従って、レポーター遺伝子が他の遺伝子と結合しており、他の遺伝子産物との融合蛋白質を形成する場合であっても、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域に転写因子が結合することによって、該融合蛋白質の発現が誘導されるものであれば、上記「機能的に結合した」の意に含まれる。カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子のcDNA塩基配列に基づいて、当業者においては、ゲノム中に存在するカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子の転写調節領域を周知の方法により取得することが可能である。
【0112】
本方法に用いるレポーター遺伝子としては、その発現が検出可能であれば特に制限はなく、例えば、CAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、およびGFP遺伝子等が挙げられる。「カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」として、例えば、このような構造が挿入されたベクターを導入した細胞が挙げられる。このようなベクターは、当業者に周知の方法により作製することができる。ベクターの細胞への導入は、一般的な方法、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法、リポフェタミン法、マイクロインジェクション法等によって実施することができる。「カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」には、染色体に該構造が挿入された細胞も含まれる。染色体へのDNA構造の挿入は、当業者に一般的に用いられる方法、例えば、相同組み換えを利用した遺伝子導入法により行うことができる。
【0113】
「カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞抽出液」とは、例えば、市販の試験管内転写翻訳キットに含まれる細胞抽出液に、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを添加したものを挙げることができる。
【0114】
本方法における「接触」は、「カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞」の培養液に被検化合物を添加する、または該DNAを含む上記の市販された細胞抽出液に被検化合物を添加することにより行うことができる。被検化合物が蛋白質の場合には、例えば、該蛋白質を発現するDNAベクターを、該細胞へ導入することにより行うことも可能である。
【0115】
本方法においては次いで、該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する。レポーター遺伝子の発現レベルは、該レポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFP蛋白質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現量を測定することができる。
【0116】
本方法においては次いで、測定したレポーター遺伝子の発現レベルを、被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、低下させる化合物を選択する。このようにして選択された化合物は、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物となる。
【0117】
本発明のスクリーニング方法の他の態様は、本発明のカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現量または活性を指標とする方法である。当該蛋白質の発現量または活性を低下させるような化合物は、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤となることが期待される。
【0118】
本方法においてはまず、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAを発現する細胞へ被検候補化合物を接触させる。次いで該細胞におけるカイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質の発現量または活性を測定する。上記蛋白質の活性としては、具体的には、カイコ2型濃核病ウイルスへの感受性を例示することができる。該活性は、当業者においては公知の方法、例えば、共役免疫沈降実験等により、適宜測定することが可能である。
【0119】
次いで、被検化合物の非存在下において測定した場合(対照)と比較して、当該蛋白質の発現量または活性を低下させる化合物を選択する。
【0120】
本発明の薬剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0121】
上記薬剤の剤型の種類としては、例えば経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。また、本発明の蛋白質をコードするDNAを生体内に投与する場合には、レトロウイルス、アデノウイルス、センダイウイルスなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターを利用することができる。投与方法としては、in vivo法およびex vivo法を例示することができる。
本発明の薬剤の投与量は、剤型の種類、投与方法、カイコの年齢や体重、症状等を考慮して、最終的には医師または獣医師の判断により適宜決定することができる。
【0122】
また本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性のカイコを判定する方法を提供する。即ち、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域のうち少なくとも1つのエクソン領域の欠失の有無を検出する方法に関する。好ましくは、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン領域が5〜13からなる領域のうち少なくとも1つのエクソン領域の欠失の有無を検出する方法である。より好ましくは、エクソン5〜13からなる領域が、配列番号:1に記載の塩基配列における7052位〜12028位である方法である。
【0123】
上記エクソン領域の欠失が検出された場合、被検カイコはカイコ濃核病ウイルスに抵抗性を有すると判断され、一方でエクソン領域の欠失が検出されない場合、被検カイコはカイコ濃核病ウイルスに対して感受性であると判定される。
【0124】
また本発明は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の判定に用いられる試薬(検査薬)に関する。その一つの態様は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む試薬である。
【0125】
該オリゴヌクレオチドは、好ましくはカイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの塩基配列に特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら, Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他の蛋白質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。
【0126】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の判定方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。上記の領域としては、例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子のエクソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等を挙げることができる。
【0127】
また、上記オリゴヌクレオチドをプローブとして使用する場合、該プローブは、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNAの少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするものであれば、特に制限されない。該プローブは、合成オリゴヌクレオチドであってもよく、通常少なくとも15bp以上の鎖長を有する。プローブがハイブリダイズする領域としては、例えば、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子のエクソン領域、イントロン領域、プロモーター領域、エンハンサー領域等が挙げられる。
【0128】
本発明のオリゴヌクレオチドは、例えば市販のオリゴヌクレオチド合成機により作製することができる。プローブは、制限酵素処理等によって取得される二本鎖DNA断片として作製することもできる。
【0129】
本発明のオリゴヌクレオチドをプローブとして用いる場合は、適宜標識して用いることが好ましい。標識する方法としては、T4ポリヌクレオチドキナーゼを用いて、オリゴヌクレオチドの5'端を32Pでリン酸化することにより標識する方法、およびクレノウ酵素等のDNAポリメラーゼを用い、ランダムヘキサマーオリゴヌクレオチド等をプライマーとして32P等のアイソトープ、蛍光色素、またはビオチン等によって標識された基質塩基を取り込ませる方法(ランダムプライム法等)を例示することができる。
【0130】
本発明の試薬の他の一つの態様として、カイコ2型濃核病ウイルス感受性蛋白質に結合する抗体を含む検査薬を挙げることができる。抗体は、検査に用いることが可能な抗体であれば、特に制限はないが、例えばポリクローナル抗体やモノクローナル抗体が挙げられる。抗体は必要に応じて標識される。これら抗体は上述の方法によって作製することができる。
【0131】
本発明の試薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチドや抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、蛋白質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【実施例】
【0132】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0133】
〔実施例1〕
1. ウイルスおよび接種方法
カイコ1型濃核病ウイルス(Bombyx densovirus type1; DNV-1)およびカイコ2型濃核病ウイルス(Bombyx densovirus type 2; DNV-2)接種液は、独立行政法人農業生物資源研究所の古田要二氏より分譲を受けた。病蚕の10倍量の蒸留水を加えて粉砕、抽出された接種液をさらに10倍希釈して桑葉両面に塗布し、孵化直後の1齢幼虫または脱皮直後の4齢幼虫に与えた。
【0134】
2. カイコ品種/系統および培養細胞
抵抗性品種としてJ150(独立行政法人農業生物資源研究所由来)、J124(独立行政法人農業生物資源研究所由来)、抵抗性系統としてNo.902(独立行政法人農業生物資源研究所由来)を、感受性品種としてC124(独立行政法人農業生物資源研究所由来)、p50T(東京大学由来)、C108T(東京大学由来)、感受性系統としてNo.908(独立行政法人農業生物資源研究所由来)、B(北海道大学由来)を、また、同様に感受性を示すカイコの野生近縁種であるクワコ(野外採取、つくば市内)を用いた。
【0135】
ゲノムDNAの調整は、常法に従い、蛾の全虫体を磨砕、プロテネースK処理、フェノール抽出、エタノール沈殿により行った。4齢1日目の幼虫を解剖して、各組織を取り出し、Trizol(インビトロロジェン)によりRNAを抽出した。4種類(BoMo-15AIIc、Cam、C129、J125(K2)。このうち、C129以外が抵抗性品種由来の培養細胞株である。Camは卵巣由来、それ以外は胚子由来である。)のカイコ由来培養細胞株からTrizolを用いてRNAを抽出した。
【0136】
3. PCR
プローブ作製、連鎖解析用、および塩基配列解析のためのPCR産物の増幅には、TaKaRa Ex Taq(タカラ)を用いた。RT-PCRには、SuperScript III First-strand Synthesis System(インビトロジェン)と上記のEx Taqを、5'-および3'-RACEには、SMART RACE cDNA Amplification Kit (クロンテック)を用いた。方法は全て試薬に添付のマニュアルに従った。
【0137】
4. ハイブリダイゼーション
BACクローンのコンティグ化のための重複度11倍のBACクローンDNAがドットブロットされたHigh Density Replica Filter(HDRF)とのハイブリダイゼーション、および連鎖解析のためのウイルス分離個体群のRFLP-サザンブロットは、ECL Direct Nucleic Acid Labeling System(アマシャム)を用いた。
【0138】
5. 塩基配列解析
連鎖解析用、および目的遺伝子のゲノム、cDNA塩基配列解析には、PCR産物またはクローニング、精製したプラスミドDNAを用いて、DYEnamic ET Terminator Cycle Sequencing Kit試薬(アマシャム)を用い、ABI PRISM 3700 DNA AnalyzerおよびABI 3730xl DNA Analyzer (アプライド バイオシステムズ)で配列を読んだ。
【0139】
6. 染色体歩行
ESTクローンやBACクローン、およびゲノムDNAからのPCR産物をECLラベルし、HDRFとのハイブリダイゼーションを行い、ポジティブBACクローンを得た。これらの末端シークエンス情報をKAIKO BLASTで検索し、周辺のホールゲノムショットガンシークエンス情報を得、また同時にポジティブBACクローンのDNAフィンガープリントコンティグ化を行い、整列化されたBACクローンの中で、最も先端に位置するBACクローンの末端シークエンス情報をもとにプローブを作製し、ゲノムDNAまたはBACクローンDNAを鋳型として、PCRを行い、このPCR産物を再びECLラベルしてポジティブクローンの探索を行うことを繰り返して、コンティグ末端を伸長した。
【0140】
7. ウイルス選抜BC1の連鎖解析
nsd-2候補領域の決定およびその領域の絞り込みのために用いた、抵抗性品種はJ150(nsd-2; DNV-2抵抗性、+; DNV-1感受性、+; 白蛾)、感受性系統はNo.908(+; DNV-2感受性、Nid-1; DNV-1抵抗性、Bm; 黒蛾)であり、nsd-2, Nid-1, Bmの3つの遺伝子とも第17連鎖群に座乗している。両親間でのF1オスに抵抗性品種のメスを戻し交雑したBC1 (backcrossed F1)を作り、これにDNV-2を接種して生き残った個体を、2型ウイルス選抜分離個体群とし、Nid-1の連鎖を見るためにこれにDNV-1を接種して更なる選抜(2重選抜)をかけ、さらにBmの連鎖を見るために蛾の体色を調べて(3重選抜)、これらの個体別のDNAを調整して、連鎖解析に用いた。連鎖の方向からnsd-2領域への接近を行い、連鎖する領域を限定できたならば、次にその領域を絞り込むために、領域内でプライマーを設計、またさらに、BC1のウイルス分離個体群を増やして、境界領域でなお連鎖していない個体を選び、連鎖解析を続けてさらに領域を絞り込んだ。
【0141】
〔実施例2〕 染色体歩行と連鎖解析によって伸長、絞り込まれたnsd-2候補領域
染色体歩行を開始したプローブm25、m134、m237、m274から上流、下流に計約4.9 MbにわたってBACクローンのコンティグが構築され、同時に行った連鎖解析により、この中の約500 Kb内にnsd-2領域が絞られた(図1)。この領域内でさらに細かくPCRプライマーを設計し、抵抗性と感受性親ゲノム間での比較を行ったところ、抵抗性親品種に約6 Kb長の欠失領域を発見した。その他数種の抵抗性、感受性系統/品種間で比較した結果、これはnsd-2を持つ品種/系統に特異的な欠失であった(図2)。
【0142】
〔実施例3〕 nsd-2候補領域の塩基配列解析
上記欠失領域の塩基配列を決定した。感受性系統No.908における欠失領域を含むゲノム塩基配列を配列番号:1に示す。配列番号:1における第5989位〜12355位が抵抗性系統では欠失していた。その情報から、発現遺伝子予測、蛋白質、cDNAの相同性検索を行い、発現している遺伝子を同定した(表2;欠失領域での塩基配列相同性検索)。
【0143】
【表2】

【0144】
以上の配列情報をもとに、エクソンと予測される領域でプライマーを設計し、RT-PCR、 5'-および3'-RACEを行い、完全長のcDNA塩基配列を決定した。感受性系統No.908の完全長cDNA配列を配列番号:6、抵抗性品種J150の完全長cDNA配列を配列番号:7に示す。この結果より明らかとなった、感受性系統No.908の翻訳領域のcDNA塩基配列を配列番号:2に、抵抗性品種J150の翻訳領域のcDNA塩基配列を配列番号:4に示す。さらに、配列番号:2の翻訳アミノ酸配列を配列番号:3に、配列番号:4の翻訳アミノ酸配列を配列番号:5にそれぞれ示す。
【0145】
抵抗性品種/系統に見られる欠失型では、エクソンの4から13を欠いており、最後のエクソンである14においてもそれ以前の欠失のためにアミノ酸への翻訳枠がずれるためすぐに終止コドンが現れることが明らかとなった(図3)。また、遺伝子機能予測ソフトウェアであるKAIKO GAASによって予測された機能性および修飾領域を表3に示す。
【0146】
【表3】

【0147】
〔実施例4〕 カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性および感受性品種/系統における候補遺伝子の比較
単離した遺伝子の塩基配列から5'UTRと3'UTR領域でプライマーを設計し、本ウイルス抵抗性と感受性品種/系統の幼虫中腸から調整したRNAでRT-PCRを行った結果、両品種間において、PCR産物のサイズに予測された通りの差が認められた(図4)。すなわち抵抗性ではすべて、欠失の分だけ産物が小さかった。
【0148】
〔実施例5〕 幼虫各組織および培養細胞における候補遺伝子の発現
J150、No.908の4齢1日目における各組織のRNAを用いたRT-PCRの結果、本遺伝子はJ150、No.908ともに中腸のみで検出された(図5)。J150とNo.908における各発育時期についてRT-PCRを行った(図6)。本遺伝子は中腸が形成された後の胚子後期から全幼虫期にわたって検出され、摂食を中止して中腸細胞の脱落、更新の行われる眠期にはその発現は非常に少なかった。また、カイコ由来培養細胞から調整したRNAからはいずれもこの遺伝子の発現は見られなかった(図7)。
【0149】
〔実施例6〕 形質転換カイコの作製
カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性個体に、カイコ2型濃核病ウイルス感受性個体由来の全長型遺伝子を導入した。その結果、導入された全長型遺伝子を発現した形質転換個体だけがカイコ2型濃核病ウイルス感受性になり、当該ウイルスで病死することが確認された。
【0150】
具体的には、GAL4-UAS遺伝子発現誘導法を用いて、カイコ2型濃核病ウイルス感受性個体由来の全長型遺伝子を導入した。マーカー遺伝子として、2つの遺伝子(GFPおよびDsRedという蛍光で検出できるタンパク質)を用いた。野生型(G(-)D(-))、UAS系統(G(+)D(-))、GAL4系統(G(-)D(+))、およびGAL4/UAS系統(G(+)D(+))の4種を作製した(図8、図9)。
【0151】
図9の1、2、3、4種類の交配選別個体にウイルスを接種して、中腸を摘出し、(1)ゲノムPCRにより導入遺伝子特異的なプライマーを用いて導入遺伝子の有無を検出し、(2)ウイルスプライマーにより増殖ウイルスを検出し、(3)RT-PCRにより発現した導入遺伝子を検出した。対照として抵抗性系統(J150)RNA、感受性系統(No.908)RNA、蒸留水をテンプレートとして使用した。遺伝子は1、2に導入されているが、発現したのはアクチベーターを同時に持っている1のみだった(図10)。
【0152】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子が発現しているG(+)D(+)区では、2-3齢で発育が著しく遅延し、死亡した(図11および表4)。上記以外の区(即ちG(-)D(-)、G(+)D(-)、G(-)D(+))では、4齢以後も順調に発育し、蛹化、羽化、交尾、産卵した。
【0153】
【表4】

【0154】
さらに、G(+)D(+)区において、ウイルス接種と非接種の比較実験を行った。結果、ウイルス接種区において、有意な発育遅延や死亡が確認された。発育遅延や死亡は、GAL4/UAS系による遺伝子の発現そのものが原因ではなく、抵抗性の遺伝的背景を持つ個体に発現した感受性遺伝子によって、接種したウイルスの感染、増殖が引き起こされたためである、と結論された。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】図1は、第17連鎖群上のnsd-2のマッピング(Kadono-Okuda et al.(2002)Insect Mol. Biol.11,443-451、Nguu et al.(2005) J. Insect Biotech.Seric.、安嬰ほか(1999)蚕糸講要69,50、Ogoyi et al.(2003)Insect Mol. Biol.12,117-124)と高精度連鎖解析の結果を示す図である。右図において、上流から(黒蛾)、それに下流から(白蛾)の絞込みにより、それぞれA/A(J150のホモ型、即ち抵抗性タイプのホモ型)を示す部分で、両者に共通しているホモ型の部分(Sc3020-34C07Tより下流でSc1317-01K10Sより上流の太字のマーカーが乗る部分)が連鎖している領域である。図中、「A/B」はヘテロ、「A/A」はJ150のホモ型。「B/B」はこの戻し交配系には存在しないがNo.908のホモ型を示す。「-」は必要がないために実験を行っていないことを示す。
【図2】図2は、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性品種と感受性品種におけるゲノム上の欠失領域をまたぐPCRの結果を示す写真および図である。レーン1:マーカー、2:J150、3:J124、4:No.902、5:No.908、6:J203、7:C124、8:B、9:p50T、10:C108T、11:クワコ。レーン2-4:抵抗性品種/系統、5-11:感受性品種/系統/種。
【図3】図3は、カイコ2型濃核病ウイルス感受性品種(No.908)および抵抗性品種(J150)のゲノムとcDNAの構成を示す図である。
【図4】図4は、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性品種と感受性品種におけるnsd-2のRT-PCRの結果を示す写真である。A:カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子nsd-2、B:18SrRNA、レーン1:マーカー、2:J150、3:J124、4:No.902、5:No.908、6:C124、7:p50T、8:クワコ。
【図5】図5は、J150およびNo.908における、nsd-2の組織別RT-PCRの結果を示す写真である。各レーンの説明を以下に示す。1:絹糸腺、2:前腸、3:中腸、4:後腸、5:マルピーギ管、6:脂肪体、7:卵巣/精巣、8:中央神経系。18Sは内部コントロール18SrRNA。
【図6】図6は、J150とNo.908における各発育時期のRT-PCRの結果を示す写真である。図6AはJ150、図6BはNo.908に関する写真である。(1)の各レーンの説明を以下に示す。1;卵0日, 2;卵4日, 3;卵10日, 4-7;各1-4齢0日の全虫体, 8-11;5齢0日、蛹0日、蛹7日、成虫0日の中腸。(2)の各レーンの説明を以下に示す。1-5;4齢0日全虫体、1-4日の中腸, 6-9;5齢0,2,4,6日の中腸。
【図7】図7は、カイコ培養細胞におけるnsd-2のRT-PCRの結果を示す写真である。レーン1; BoMo-15AIIc、レーン2;Cam、レーン3;C129、レーン4;J125(K2)。このうち、C129以外が抵抗性品種由来の培養細胞株である。Camは卵巣由来、それ以外は胚子由来である。
【図8】図8は、アクチベーター(Activator)とエフェクター(Effector)の構築プラスミド模式図である。一方の系統が酵母転写因子Gal4を持ち、他方の系統にエフェクター配列を導入する。両者の掛け合わせにより、両方の配列を持つ(マーカーDsRed2とGFPの両方を発現している)個体だけで、感受性型遺伝子+nsd-2が発現する。矢印はpiggyBac inverted terminal repeatを表す。
【図9】図9は、形質転換体作成の流れを示す図である。Gal4を持つ系統と感受性型遺伝子を導入した系統を掛け合わせることで作成される。
【図10】図10は、形質転換4系統における導入遺伝子、増殖ウイルス、発現導入遺伝子の検出について示す写真である。図9の1、2、3、4種類の交配選別個体にウイルスを接種して、中腸を摘出し、(1)ゲノムPCRにより導入遺伝子特異的なプライマーを用いて導入遺伝子の有無を検出し、(2)ウイルスプライマーにより増殖ウイルスを検出、P;ウイルス接種液、N;蒸留水、(3)RT-PCRにより発現した導入遺伝子を検出、対照としてP1;抵抗性系統(J150)RNA, P2;感受性系統(No.908)RNA、N;蒸留水をテンプレートとして使用した。下のバンドはTG系統が本来持っている欠失型であるnsd-2。遺伝子は1、2に導入されているが、発現したのはアクチベーターを同時に持っている1のみ。
【図11】図11は、GAL4/UAS形質転換系の各種遺伝子型における2型濃核病ウイルス(DNV-2)抵抗性について示す写真である。G(-)D(-)は野生型、G(+)D(-)はUAS系統、G(-)D(+)はGAL4系統、G(+)D(+)はGAL4/UAS系統を表す。DNV-2感受性遺伝子が発現しているG(+)D(+)では、2-3齢で発育が著しく遅延し、死亡した。それ以外の区では、写真の4齢以後も順調に発育し、蛹化、羽化、交尾、産卵した。右の写真は、G(+)D(+)区における、ウイルス接種(左)と非接種(右)での比較結果を示すものである。この結果から、発育遅延や死亡は、GAL4/UAS系による遺伝子の発現そのものが原因ではなく、抵抗性の遺伝的背景を持つ個体に発現した感受性遺伝子によって、接種したウイルスの感染、増殖が引き起こされたためである、と結論される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域の塩基配列を有する、カイコ2型濃核病ウイルス感受性遺伝子をコードするDNA。
【請求項2】
下記(a)〜(c)のいずれかに記載のDNA。
(a)配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:1に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA
(c)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNA
【請求項3】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性を有する下記(d)または(e)に記載のDNA。
(d)配列番号:3に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(e)配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【請求項4】
配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の断片をコードするDNA。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質。
【請求項7】
請求項6に記載の蛋白質に結合する抗体。
【請求項8】
請求項6に記載の蛋白質をコードするアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA。
【請求項9】
配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域のうち少なくとも1つのエクソン領域を欠失した塩基配列を有する、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性遺伝子をコードするDNA。
【請求項10】
エクソン領域がエクソン5〜13からなる領域である、請求項9に記載のDNA。
【請求項11】
エクソン5〜13からなる領域が、配列番号:1に記載の塩基配列における7052位〜12028位である、請求項10に記載のDNA。
【請求項12】
下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(b)配列番号:4に記載の塩基配列を含むDNA
【請求項13】
カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性を有する下記(c)または(d)に記載のDNA。
(c)配列番号:5に記載のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、付加および/もしくは挿入したアミノ酸配列からなる蛋白質をコードするDNA
(d)配列番号:4に記載の塩基配列からなるDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
【請求項14】
配列番号:5に記載のアミノ酸配列からなる蛋白質の断片をコードするDNA。
【請求項15】
請求項8〜14のいずれかに記載のDNAを含むベクター。
【請求項16】
請求項8〜14のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質。
【請求項17】
請求項1〜4のいずれかに記載のDNAまたは請求項5に記載のベクターを保持する、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコ細胞。
【請求項18】
請求項17に記載の形質転換カイコ細胞を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコ。
【請求項19】
請求項18に記載の形質転換カイコの卵、子孫、もしくはクローンである、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコ。
【請求項20】
請求項18または19に記載の形質転換カイコを交配させることによる、カイコ2型濃核病ウイルス感受性の形質転換カイコの製造方法。
【請求項21】
請求項6に記載の蛋白質を有効成分とする、カイコ2型濃核病ウイルス感受性付与剤。
【請求項22】
請求項6に記載の蛋白質の機能が阻害されていることを特徴とする、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ細胞。
【請求項23】
請求項22に記載の形質転換カイコ細胞を含む、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ。
【請求項24】
請求項23に記載の形質転換カイコの卵、子孫、もしくはクローンである、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコ。
【請求項25】
請求項23または24に記載の形質転換カイコを交配させることによる、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法。
【請求項26】
請求項6に記載の蛋白質の発現を阻害することを特徴とする、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法。
【請求項27】
請求項6に記載の蛋白質の発現を、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物の投与によって阻害することを特徴とする、カイコ2型濃核病ウイルス抵抗性の形質転換カイコの製造方法。
(a)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの発現を、RNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA
【請求項28】
請求項6に記載の蛋白質の機能阻害物質を有効成分として含有する、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤。
【請求項29】
請求項6に記載の蛋白質の機能阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、請求項28に記載のカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤。
(a)請求項6に記載の蛋白質に対してドミナントネガティブの性質を有する請求項6に記載の蛋白質の変異体
(b)請求項6に記載の蛋白質に対して結合する抗体
(c)請求項6に記載の蛋白質に結合する低分子化合物
【請求項30】
請求項6に記載の蛋白質の発現阻害物質を有効成分として含有する、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤。
【請求項31】
請求項6に記載の蛋白質の発現阻害物質が、以下の(a)〜(c)からなる群より選択される化合物を含む、請求項30に記載のカイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤。
(a)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA
(b)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA
(c)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの発現を、RNAi効果により阻害する作用を有するRNAをコードするDNA
【請求項32】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項6に記載の蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物を接触させる工程
(b)前記蛋白質またはその部分ペプチドと被検化合物との結合活性を測定する工程
(c)請求項6に記載の蛋白質またはその部分ペプチドと結合する化合物を選択する工程
【請求項33】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAを発現する細胞に、被検化合物を接触させる工程
(b)該DNAの発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物を接触させない場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【請求項34】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAの転写調節領域とレポーター遺伝子とが機能的に結合した構造を有するDNAを含む細胞または細胞抽出液と、被検化合物を接触させる工程
(b)該レポーター遺伝子の発現レベルを測定する工程
(c)被検化合物の非存在下において測定した場合と比較して、該発現レベルを低下させる化合物を選択する工程
【請求項35】
以下の(a)〜(c)の工程を含む、カイコ2型濃核病ウイルス感染阻害剤のための候補化合物のスクリーニング方法。
(a)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAを発現する細胞へ被検化合物を接触させる工程
(b)該細胞における請求項6に記載の蛋白質の発現量または活性を測定する工程
(c)被検化合物に非存在下において測定した場合と比較して、当該蛋白質の発現量または活性を低下させる化合物を選択する工程
【請求項36】
カイコ2型濃核病ウイルス感受性のカイコを判定する方法であって、配列番号:1に記載の塩基配列において、エクソン1〜14の領域のうち少なくとも1つのエクソン領域の欠失の有無を検出することを含む方法。
【請求項37】
エクソン領域がエクソン5〜13からなる領域である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
エクソン5〜13からなる領域が、配列番号:1に記載の塩基配列における7052位〜12028位である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記エクソン領域の欠失が検出された場合に被検カイコはカイコ濃核病ウイルスに抵抗性であるものと判定され、検出されない場合に被検カイコはカイコ濃核病ウイルスに感受性であるものと判定される工程、をさらに含む請求項36〜38のいずれかに記載の判定方法。
【請求項40】
以下の(a)または(b)のオリゴヌクレオチドを含む、カイコ2型濃核病ウイルス感受性判定試薬。
(a)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチド
(b)請求項1〜4のいずれかに記載のDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチド

【図1】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−202554(P2007−202554A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−350801(P2006−350801)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】