説明

カチオン性脂質および使用方法

本発明は、カチオン性脂質を含む組成物、カチオン性脂質を含むリポソームおよび核酸脂質粒子を提供し、かつそのような組成物、リポソームおよび核酸脂質粒子の使用方法を提供する。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年6月7日出願の米国仮特許出願第60/578,075号、2004年9月17日出願の第60/610,746号および2005年5月9日出願の第60/679,427号の恩典を主張し、これらの出願それぞれがすべての主旨で全体として参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の背景
遺伝子治療を臨床的に有用にするために、効果的で安全な遺伝子送達システムが求められている。ウイルスベクターは、比較的効率のよい遺伝子送達システムであるが、野生型への復帰ならびに免疫応答への懸念など、様々に制限される欠点がある(Worgall, et al., Human Gene Therapy 8:37-44 (1997)(非特許文献1); Peeters, et al., Human Gene Therapy 7: 1693-1699 (1996)(非特許文献2); Yei, et al., Gene Therapy 1:192-200 (1994)(非特許文献3); Hope, et al., Molecular Membrane Biology 15:1-14 (1998)(非特許文献4))。プラスミドDNA-カチオン性リポソーム複合体は、現在最も一般的に使用されている非ウイルス遺伝子送達ビークルである(Felgner, Scientific American 276:102-106 (1997)(非特許文献5); Chonn, et al., Current Opinion in Biotechnology 6:698-708 (1995)(非特許文献6))。しかし、複合体は、全身適用には不適な、大型の、画定度の低いシステムであり、さらに毒性の強い副作用を誘発することがある(Harrison, et al., Biotechniques 19:816-823 (1995)(非特許文献7); Huang, et al., Nature Biotechnology 15:620-621 (1997)(非特許文献8); Templeton, et al., Nature Biotechnology 15:647-652 (1997)(非特許文献9); Hofland, et al., Pharmaceutical Research 14:742-749 (1997)(非特許文献10))。
【0003】
最近の研究は、プラスミドDNAが、脂質二重膜小胞内に封入された単一プラスミドからなる小型の(直径約70nm)「安定化プラスミド脂質粒子」(SPLP)に封入できることを示している(Wheeler, et al., Gene Therapy 6:271-281 (1999)(非特許文献11))。これらSPLPは、典型的には「融合性」脂質であるジオレオイルホスファチジル-エタノールアミン(DOPE)、低レベルのカチオン性脂質を含有し、ポリ(エチレングリコール)(PEG)コーティングの存在により、水性媒体中で安定化する。SPLPは、静脈内(i.v.)注射後に長い血中寿命を示すこと、遠位腫瘍領域での高い血管透過性によって遠位腫瘍部位に優先的に蓄積すること、かつこれら腫瘍部位での導入遺伝子の発現を媒介できることから、全身適用に供されている。ルシフェラーゼマーカー遺伝子を芽入するSPLPのi.v.注射後に腫瘍部位で観察される導入遺伝子の発現レベルは、プラスミドDNA-カチオン性リポソーム複合体(リポプレックス)または裸のDNAを用いて達成できるレベルに比べて遙かに高い。それでもなお、いくつかの適用では最適な治療便益のために、発現レベルの向上が求められるであろう(例えば、Monck, et al., J. Drug Targ. 7:439-452 (2000)(非特許文献12)を参照されたい)。
【0004】
典型的には、リポソームおよびSPLPは共にカチオン性脂質を含む。多くの場合、カチオン性脂質は、2本の、(酸素)結合しているかしていないかのいずれかのアルキル鎖、ならびに、例えばDODACおよびDODMAなどアミン頭部基を有する。典型的には、アルキル鎖は、一箇所の不飽和部位を含む。残念なことに、不飽和部位が1ヵ所のみのカチオン性脂質は、柔軟性を欠くことがある。これらカチオン性脂質を含むリポソームまたはSPLPは、十分な膜流動性を欠くことがあり、その結果、細胞または患者への生物活性薬剤の送達の効率に影響を及ぼすことがある。
【0005】
脂質の柔軟性は、リポソームまたはSPLP薬物送達システムの開発において重要である。それゆえに、より柔軟なカチオン性脂質を開発すること、それによりリポソームまたはSPLPの膜流動性を高めることが望まれている。本発明は、このおよびその他ニーズに応えるものである。
【0006】
【非特許文献1】Worgall, et al., Human Gene Therapy 8:37-44 (1997)
【非特許文献2】Peeters, et al., Human Gene Therapy 7: 1693-1699 (1996)
【非特許文献3】Yei, et al., Gene Therapy 1:192-200 (1994)
【非特許文献4】Hope, et al., Molecular Membrane Biology 15:1-14 (1998)
【非特許文献5】Felgner, Scientific American 276:102-106 (1997)
【非特許文献6】Chonn, et al., Current Opinion in Biotechnology 6:698-708 (1995)
【非特許文献7】Harrison, et al., Biotechniques 19:816-823 (1995)
【非特許文献8】Huang, et al., Nature Biotechnology 15:620-621 (1997)
【非特許文献9】Templeton, et al., Nature Biotechnology 15:647-652 (1997)
【非特許文献10】Hofland, et al., Pharmaceutical Research 14:742-749 (1997)
【非特許文献11】Wheeler, et al., Gene Therapy 6:271-281 (1999)
【非特許文献12】Monck, et al., J. Drug Targ. 7:439-452 (2000)
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明は、一般的に使用されているカチオン脂質(DODACおよびDODMAなど)よりも高い柔軟性を有する新規なカチオン性脂質を提供する。より具体的には、驚くべきことに、本発明のカチオン性脂質は、リポソームまたはSPLPの膜流動性を上げることによって、リポソームならびに核酸脂質粒子(SPLP)の特性が高まり、それによってリポソームおよびSPLP内の生物活性薬剤の送達効率が上がることが見いだされている。特に、本発明は、下記の構造を有する式Iの化合物を提供する:

【0008】
上記の式Iの化合物では、R1およびR2は、独立しており、かつHまたはC1〜C3アルキルである。R3およびR4は、式Iの化合物では独立に選択され、かつ約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基であり、かつR3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。R3とR4は、同一であっても、異なってもよい。異なっている場合、R3とR4は、アルキル鎖の長さ、不飽和部位または不飽和部位の数のいずれかに関して異なり得る。R3およびR4は、不飽和部位を少なくとも2カ所含むことができる(例えば、R3およびR4は、例えばドデカジエニル、テトラデカジエニル、ヘキサデカジエニル、リノレイルおよびイコサジエニルでもよい。好ましい態様では、R3およびR4は、共にリノレイルである。R3およびR4は、不飽和部位を少なくとも3ヵ所含む(例えば、R3およびR4は、例えば、ドデカトリエニル、テトラデクトリエニル、ヘキサデカトリエニル、リノレイルおよびイコサトリエニルでよい)。
【0009】
本発明は、下記の構造を有する式IIの化合物も提供する:

【0010】
上記の式IIでは、R1およびR2は、独立に選択され、かつHまたはC1〜C3アルキルである。R3およびR4は、独立に選択され、かつ約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基であり、ここで、R3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。一つの態様では、R3およびR4は、共に同一のものであり、即ちR3およびR4は共にリノレイル(C18)等である。別の態様では、R3およびR4は異なっており、即ちR3はテトラデクトリエニル(C14)であり、R4はリノレイル(C18)である。好ましい態様では、本発明のカチオン性脂質は対称的であり、即ちR3およびR4は共に同一のものである。別の好ましい態様では、R3およびR4は共に、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。いくつかの態様では、R3およびR4は、独立にドデカジエニル、テトラデカジエニル、ヘキサデカジエニル、リノレイル、およびイコサジエニルから選択される。好ましい態様では、R3およびR4は、共にリノレイルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、少なくとも不飽和部位を3ヵ所含み、かつ、例えばドデカトリエニル、テトラデクトリエニル、ヘキサデカトリエニル、リノレイル、およびイコサトリエニルから独立に選択される。
【0011】
別の局面では、本発明は、式I、式IIのカチオン性脂質またはそれらの組み合わせを含むリポソームを提供する。リポソームは、PEG脂質(例えばPEG-ジアシルグリセロール、PEG-ジアルキルオキシプロピル、PEG-セラミド、PEG-ホスファチジルエタノールアミンまたはそれらの混合物)をさらに含んでよい。リポソームは、空であってもよく、あるいはまたはリポソームは、一つまたは複数の生物活性薬剤をさらに含み得る。好適な生物活性薬剤としては、抗腫瘍薬、抗生物質、免疫調節剤、抗炎症剤および中枢神経系に作用する薬剤を含むが、それらに限定されない。同様に、好適な生物活性薬剤としては、ペプチド、タンパク質および核酸(例えば単鎖または二本鎖DNA、siRNAを含む、単鎖または二本鎖RNA)を含むが、それらに限定されない。
【0012】
別の局面では、本発明は、細胞に生物活性薬剤を送達する方法であって、細胞を、式I、式IIのカチオン性脂質、またはその組み合わせを含むリポソームと接触させる段階を含み、ここで、生物活性薬剤はリポソームに封入されている方法を提供する。同様に、別の局面では、本発明は患者に生物学的作用物質を送達する方法であって、患者に式I、式IIのカチオン性脂質、またはその組み合わせを含むリポソームを投与する段階を含み、ここで、生物活性薬剤はリポソームに封入されている方法を提供する。
【0013】
別の局面では、本発明は核酸脂質粒子を提供し、核酸脂質粒子は下記を含む:核酸;式I、式IIのカチオン性脂質、またはその組み合わせ;非カチオン性脂質;およびPEG脂質複合体。
【0014】
よりさらに別の局面では、本発明は、核酸を細胞内に導入する方法であって、細胞を、式I、式IIのカチオン性脂質またはその組み合わせ、非カチオン性脂質、PEG脂質複合体および核酸を含む核酸脂質粒子と接触させる段階を含む方法を提供する。
【0015】
本発明のその他の特徴、目的および利点、ならびにその好ましい態様は、下記の詳細な説明、実施例、特許請求の範囲および図面から明らかになると考えられる。
【0016】
発明の詳細な説明
I. 序
本発明は、一般に使用されているカチオン性脂質(DODACおよびDODMAなど)よりも高い柔軟性を有する新規カチオン性脂質を提供する。脂質小胞(例えばリポソーム、SPLPおよびSNALP)内に組み入れた場合、本明細書に記載のカチオン性脂質は高い融合性を付与する。
【0017】
II. 定義
「脂質」という用語は、脂肪酸のエステルを含み、水に不溶性であるが多くの有機溶媒に溶解性であることを特徴とする、有機化合物の群を指すが、これに限定されない。それらは、通常少なくとも3つの部類に分けられる:(1)脂肪および油ならびにロウを含む「単純脂質」;(2)リン脂質および糖脂質を含む「複合脂質」;(3)ステロイドなどの「誘導脂質」。
【0018】
「脂質小胞」とは、化合物を送達するのに用いることができる下記を含む任意の脂質組成物を指すが、これらに限定されない:水容積が両親媒性脂質二重層により封入されているリポソーム;または脂質が、干渉RNA配列を含むプラスミドなどの巨大分子成分を含む内部を小さくなった水性内部と一緒に、被覆しているリポソーム;あるいは比較的不規則な脂質混合物内に、封入成分が含まれている脂質凝集物もしくはミセル。
【0019】
本明細書で使用する「脂質封入された」とは、完全に封入された化合物、部分的に封入された化合物、またはその両方の化合物を提供する脂質調合物を指すことができる。好ましい態様では、核酸は脂質調合物内に完全に封入される(例えば、SPLP、pSPLPまたはその他SNALPを形成する)。
【0020】
本明細書で使用する用語「SNALP」は、SPLPを包含する、安定な核酸脂質粒子を指す。SNALPは、核酸(例えばssDNA、dsDNA、ssRNA、ミクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、dsRNA、siRNA、または干渉RNAがそこから転写されるプラスミドを包含するプラスミド)を含む、小さくなった水性内部を覆っている脂質の小胞である。本明細書で使用する「SPLP」という用語は、脂質小胞内に封入された核酸(例えばプラスミド)を含む、核酸脂質粒子を指す。SNALPおよびSPLPは、典型的には、カチオン性脂質、非カチオン性脂質および粒子の凝集を阻止する脂質(例えばPEG脂質複合体)を含有する。SNALPおよびSPLPは、それらが静脈内投与後の延長した血中での寿命の、および遠位部位(例えば投与部位から物理的に離れている部位)での蓄積を示し、これら遠位部位でのトランスフェクトされた遺伝子の発現を仲介できることから、全身性に適用される。SPLPは、国際公開公報第00/03683号に記載の封入縮合剤-核酸複合体を含む「pSPLP」を包含する。
【0021】
「小胞形成脂質」という用語は、疎水性成分および極性頭部基を有し、またそれ自体が、多くのリン脂質が例示するように、水中にて自発的に二重層小胞を形成できる任意の両親媒性脂質を包含することを意図している。
【0022】
「小胞採用脂質」という用語は、他の両親媒性脂質と共に、その疎水性成分が二重膜の内側の疎水性領域と接触し、かつその極性頭部は膜外側の極性表面に向かって配置されるように、脂質二重層内に安定して組み入れられる任意の両親媒性脂質を包含することを意図している。小胞採用脂質としては、それ自体が非膜小胞相を採る傾向にあるものの、二重膜安定化成分存在下において二重層構造を形成することができる脂質を包含する。典型的な例はDOPE(ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)である。二重層安定化成分としては、SNALPの凝集を阻止する複合脂質、ポリアミドオリゴマー(例えばATTA脂質誘導体)、ペプチド、タンパク質、界面活性剤、脂質誘導体、ジアルキルオキシプロピルに結合しているPEG、ジアシルグリセロールに結合しているPEG、ホスファチジル-エタノールアミンに結合しているPEG、およびセラミドに複合しているPEGなどのPEG脂質誘導体(米国特許第5,885,613号を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。PEGは、脂質に直接結合でき、またはリンカー部分を介して脂質に連結してもよい。脂質へのPEGのカップリングに適した任意のリンカーを使用することができ、そのようなものとしては、例えば非エステル含有リンカー部分およびエステル含有リンカー部分が挙げられる。
【0023】
本明細書で使用する「非エステル含有リンカー部分」という用語は、カルボン酸エステル結合(-OC(O)-)を含まないリンカー部分を指す。好適な非エステル含有リンカー部分としては、アミド(-C(O)NH-)、アミノ(-NR-)、カルボニル(-C(O)-)、カルバメート(-NHC(O)O-)、尿素(-NHC(O)NH-)、ジスルフィド(-S-S-)、エーテル(-O-)、スクシニル(-(O)CCH2CH2C(O)-)、スクシンアミジル(-NHC(O)CH2CH2C(O)NH-)、エーテル、ジスルフィド等、ならびにそれらの組合せ(カルバメートリンカー部分およびアミドリンカー部分の両方を含有するリンカーなど)を含むが、それらに限定されない。好ましい態様では、カルバメートリンカーを用いて、PEGを脂質にカップリングする。
【0024】
別の態様では、エステル含有リンカー部分を用いて、PEGを脂質にカップリングする。好適なエステル含有リンカー部分としては、例えば、カーボネート(-OC(O)O-)、スクシノイル、リン酸エステル(-O-(O)POH-O-)、スルホネートエステルおよびそれらの組合せを含む。
【0025】
「両親媒性脂質」という用語は、一部分、脂質物質の疎水性部分が疎水相内に配向され、一方親水性部分は水相に配向される任意の好適物質を指す。両親媒性脂質は、通常、脂質小胞の主要成分である。親水性特性は、炭水化物、リン酸塩、カルボン基、硫酸基、アミノ基、スルフヒドリル基、ニトロ基、ヒドロキシ基およびその他類似の基のような極性または荷電基の存在に由来する。疎水性は、長鎖飽和および不飽和脂肪族炭化水素基、かつ一つまたは複数の芳香族、脂環式または複素環式基によって置換されたような基を含むが、これらに限定されない非極性基を含有することによって付与できる。両親媒性化合物の例は、リン脂質、アミノ脂質およびスフィンゴ脂質を含むが、これらに限定されない。リン脂質の代表例は、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリンまたはジリノレオイルホスファチジルコリン含むが、これらに限定されない。スフィンゴリピド、グリコスフィンゴリピド類、ジアシルグリセロールおよびβ-アシルオキシ酸のような、リンを欠いたその他化合物も、両親媒性脂質として表される群に入る。これに加え、上記両親媒性脂質は、トリグリセリドおよびステロールを包含する他の脂質と混合することもできる。
【0026】
「中性脂質」という用語は、選択されたpHにおいて、非電荷または中性の両性イオンの形のいずれかで存在する多くの脂質種の任意のものを指す。生理学的pHにおいては、このような脂質としては、例えばジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、コレステロール、セレブロシドおよびジアシルグリセロールが挙げられる。
【0027】
「非カチオン性脂質」という用語は、上記のようにアニオン性脂質と同様に、いかなる中性の脂質も指す。
【0028】
「アニオン性脂質」という用語は、生理学的pHにおいて負に帯電した任意の脂質を指す。これら脂質としては、ホスファチジルグリセロール、カルジオリピン、ジアシルホスファチジルセリン、ジアシルホスファチジン酸、N-ドデカノイルホスファチジルエタノールアミン、N-スクシニルホスファチジルエタノールアミン、N-グルタリルホスファチジルエタノールアミン、リシルホスファチジルグリセロール、パルミトイルオレイルホスファチジルグリセロール(POPG)および中性脂質に結合した他のアニオン性修飾基を含むが、これらに限定されない。
【0029】
「カチオン性脂質」という用語は、生理学的pHなど選択されたpHにおいて、正味の正電荷を担持する、数多くある脂質種のいずれかを指す。このような脂質としては、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(「DLinDMA」)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(「DLenDMA」)、ジオクタデシルジメチルアンモニウム(「DODMA」)、ジステアリルジメチルアンモニウム(「DSDMA」)、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(「DODAC」);N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(「DOTMA」);N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(「DDAB」);N-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(「DOTAP」);3-(N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル)コレステロール(「DC-Chol」)およびN-(1,2-ジミリスチルオキシプロパ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(「DMRIE」)を含むが、それらに限定されない。例えば、生理学的pH以下で正電荷を有するカチオン性脂質としては、下記のものを含むが、それらに限定されない:DODAP、DODMAおよびDMDMA。いくつかの例では、カチオン性脂質は、プロトン化可能な第三アミン頭部基、C18アルキル鎖、頭部基とアルキル鎖との間のエーテル結合、および0〜3個の二重結合を含む。このような脂質としては、例えばDSDMA、DLinDMA、DLenDMAおよびDODMAを含む。カチオン性脂質は、エーテル結合およびpH滴定可能な頭部基を含んでもよい。このような脂質としては、例えばDODMAを含む。
【0030】
「疎水性脂質」という用語は、長鎖の、飽和および不飽和の、脂肪族炭化水素基および一もしくは複数の芳香族、脂環式もしくは複素環式基によって置換されていてもよいそれらの基を含むが、これらに限定されない。好適例としては、ジアシルグリセロール、ジアルキルグリセロール、N-N-ジアルキルアミノ、1,2-ジアシルオキシ-3-アミノプロパンおよび1,2-ジアルキル-3-アミノプロパンを含むが、これらに限定されない。
【0031】
「融合性」という用語とは、リポソーム、SNALPまたはその他薬物送達システムの、細胞膜と融合する能力を指す。膜は、原形質膜でも、または細胞小器官、例えばエンドゾーム、核等を取り巻いている膜のいずれでもあり得る。
【0032】
「核酸」または「ポリヌクレオチド」という用語は、少なくとも二個のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを、単鎖または二本鎖いずれかの形で含有するポリマーを指す。核酸は、公知ヌクレオチド類似体または修飾主鎖残基もしくは結合を含有する核酸を含むが、これらは合成物、天然に存在する、および非天然の産物であり、参照核酸と同様の結合特性を有し、またこれらは参照ヌクレオチドと同様の様式で代謝される。このような類似体の例としては、ホスホロチオエート、ホスホラミデート、メチルホスホネート、キラル-メチルホスホネート、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド-核酸(PNA)を含むが、それらに限定されない。特に制限のない限り、本用語は、参照核酸と類似の結合特性を有し、かつ天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で代謝される、天然ヌクレオチドの公知類似物を含有する核酸を包含する。特に指示がない限り、具体的核酸配列は、暗黙のうちにその保存的に修飾された変異物(例えば縮重コドン置換物)、対立遺伝子、オルトログ、SNPおよび相補的配列、ならびに明示的に指示された配列も包含する。特に、縮重コドン置換物は、一つまたは複数の選択されたコドンの三番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換されている配列を生成することによって達成できると考えられる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985); and Cassol et al. (1992); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。「ヌクレオチド」は、糖デオキシリボース(DNA)またはリボース(RNA)、塩基およびリン酸基を含有する。ヌクレオチドは、リン酸基を介して互いに連結する。ヌクレオチドは、例えば国際公開公報第03/74654号に記載されるような、化学的に修飾されたヌクレオチドを含む。「塩基」は、プリンおよびピリミジンを含み、これらはさらに天然化合物であるアデニン、チミン、グアニン、シトシン、ウラシル、イノシンならびに、プリンおよびピリミジンの天然類似体および合成誘導体を含み、これらは、アミン、アルコール、チオール、カルボキシラート、およびハロゲン化アルキルなどの、ただしこれらに限定されない新規反応基を置く修飾を含むが、それらに限定されない。DNAは、アンチセンス、プラスミドDNA、プラスミドDNAの一部、事前濃縮されたDNA、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の産物、ベクター(P1、PAC、BAC、YAC、人工染色体)、発現カセット、キメラ配列、染色体DNAまたはそれらの群の誘導体の形でもよい。核酸という用語は、遺伝子、プラスミド、cDNA、mRNA、および干渉RNA分子(例えば、合成siRNAまたはプラスミドから発現したsiRNA)と相互交換的に用いられる。
【0033】
III. カチオン性脂質
本発明は、一般に使用されているカチオン性脂質(DODACおよびDODMAなど)よりも高い柔軟性を有する新規カチオン性脂質を提供する。より具体的には、本発明は、下記の構造を有する式Iの新規カチオン性脂質を提供する:

【0034】
上記の式Iでは、R1およびR2は、独立に選択され、かつHまたはC1〜C3アルキルである。R3およびR4は、独立に選択され、かつ約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基であり、ここで、R3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。一つの態様では、R3およびR4は、共に同一のものであり、即ちR3およびR4は、共にリノレイル(C18)等である。別の態様では、R3およびR4は、異なっており、即ちR3は、テトラデクトリエニル(C14)であり、R4は、リノレイル(C18)である。好ましい態様では、本発明のカチオン性脂質は、対称性であり、即ちR3およびR4は共に同一のものである。別の好ましい態様では、R3およびR4は、共に不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。いくつかの態様では、R3およびR4は、独立にドデカジエニル、テトラデカジエニル、ヘキサデカジエニル、リノレイルおよびイコサジエニルから選択される。好ましい態様では、R3およびR4は、共にリノレイルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、不飽和部位を少なくとも3ヵ所含み、かつ、例えばドデカトリエニル、テトラデクトリエニル、ヘキサデカトリエニル、リノレイルおよびイコサトリエニルから独立に選択される。
【0035】
本発明は、下記の構造を有する式IIの新規カチオン性脂質も提供する:

【0036】
上記の式IIでは、R1およびR2は、独立に選択され、かつHまたはC1〜C3アルキルである。R3およびR4は、独立に選択され、かつ約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基であり;R3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。一つの態様では、R3およびR4は、共に同一のものであり、即ちR3およびR4は共にリノレイル(C18)等である。別の態様では、R3およびR4は、異なっており、即ちR3は、テトラデクトリエニル(C14)であり、R4は、リノレイル(C18)である。好ましい態様では、本発明のカチオン性脂質は、対称性であり、即ちR3およびR4は共に同一のものである。別の好ましい態様では、R3およびR4は共に、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。いくつかの態様では、R3およびR4は、独立にドデカジエニル、テトラデカジエニル、ヘキサデカジエニル、リノレイルおよびイコサジエニルから選択される。好ましい態様では、R3およびR4は、共にリノレイルである。いくつかの態様では、R3およびR4は、不飽和部位を少なくとも3ヵ所含み、かつ、例えばドデカトリエニル、テトラデクトリエニル、ヘキサデカトリエニル、リノレイルおよびイコサトリエニルから独立に選択される。
【0037】
IV. カチオン性脂質を含む、脂質ベースのキャリアシステム
一つの態様では、本発明は、本発明のカチオン性脂質、即ち式I、式IIの脂質またはそれらの組み合わせを含む、安定化核酸脂質粒子(SPLPまたはSNALP)およびその他の脂質ベースのキャリアシステム(例えばリポソーム、ミセル、ビロソーム、脂質-核酸粒子、核酸複合体、およびそれらの混合物)を提供する。本発明の脂質-核酸粒子は、典型的には、核酸、式Iまたは式IIのカチオン性脂質、非カチオン性脂質およびPEG脂質複合体を含む。式Iまたは式IIのカチオン性脂質は、典型的には、該粒子中に存在する全脂質の約2%〜約60%、約5%〜約50%、約10%〜約45%、約20%〜約40%または約30%を含む。非カチオン性脂質は、典型的には、該粒子内に存在する全脂質の約5%〜約90%、約10%〜約85%、約20%〜約80%、約30%〜約70%、約40%〜約60%または約48%を含む。PEG脂質複合体は、典型的には、該粒子中に存在する全脂質の約1%〜約20%、約1.5%〜約18%、約4%〜約15%、約5%〜約12%または約2%を含む。本発明の核酸脂質粒子は、さらにコレステロールを含んでよい。コレステロールは、存在する場合、典型的には、該粒子中に存在する全脂質の約10%〜約60%、約12%〜約58%、約20%〜約55%または約48%を含む。核酸脂質粒子の成分比は、例えば本明細書に記載のERPアッセイを用いた場合に変わるかもしれないことは、当業者は容易に理解できるだろう。例えば、全身送達の場合、カチオン性脂質は該粒子中に存在する全脂質の約5%〜約15%を含み、また局所もしくは局部送達の場合には、カチオン性脂質は該粒子中に存在する全脂質の約40%〜約50%を含むだろう。
【0038】
本発明の核酸脂質粒子は、典型的には約50nm〜約150nmの、より典型的には約100nm〜約130nmの、最も典型的には約110nm〜約115nmの平均直径を有し、かつ実質的に無毒である。これに加えて、核酸は、本発明の核酸脂質粒子内に存在する場合には、水溶液中でのヌクレアーゼによる分解に対し耐性である。核酸脂質粒子およびそれらの調製方法は、米国特許第5,753,613号;第5,785,992号;第5,705,385号;第5,976,567号;第5,981,501号;第6,110,745号;第6,320,017号および国際公開公報第96/40964号に開示されている。
【0039】
A. カチオン性脂質
式IおよびIIのカチオン性脂質は、単独で、または一もしくは複数のその他カチオン性脂質種もしくは非カチオン性脂質種と組み合わせるかのいずれかで、本発明に用いることができる。
【0040】
本明細書に記載の式Iおよび式IIのカチオン性脂質は、典型的には、生理学的pHなどの選択されたpHにおいて、正味の正電荷を帯びている。驚くべきことに、複数の不飽和部位、例えば少なくとも2または3つの不飽和部位を持つアルキル鎖を含むカチオン性脂質が、高い膜流動性を有する脂質-核酸粒子の形成にとって特に有効であることが見出されている。多くのカチオン性脂質および関連する類似体は、本発明においても有用であり、同時係属中の米国特許出願第08/316399号;米国特許第5,208,036号、第5,264,618号、第5,279,833号および第5,283,185号、ならびに国際公開公報第96/10390号に記載されている。
【0041】
追加の適切なカチオン性脂質は、例えばジオクタデシルジメチルアンモニウム (「DODMA」)、ジステアリルジメチルアンモニウム(「DSDMA」)、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(「DODAC」); N-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(「DOTMA」); N,N-ジステアリル-N,N-臭化ジメチルアンモニウム (「DDAB」); N-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド (「DOTAP」); 3-(N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル)コレステロール(「DC-Chol」)およびN-(1,2-ジミリスチルオキシプロパ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-臭化アンモニウムヒドロキシエチル(「DMRIE」)を含む。多数のこれらの脂質および関連する類似体は、本発明においても有用であり、米国特許第5,208,036号、第5,264,618号、第5,279,833号、第5,283,185号、第5,753,613号および第5,785,992号に記載されている。
【0042】
B. 非カチオン性脂質
本発明に用いる非カチオン性脂質は、安定した複合体を産生できる、様々ある中性の、非荷電性の、双極性またはアニオン性脂質のいずれかであり得る。それらは、好ましくは中性であるが、正または負に耐電していてもよい。本発明に有用である非カチオン性脂質の例としては次のものを含む:レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、セファリン、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシデス、ジセチルリン酸、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)およびジオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン4-(N-マレイミドメチル)-シクロヘキサン-1-カルボキシラート(DOPE-mal)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジル-エタノールアミン(DSPE)、16-0-モノメチルPE、16-0-ジメチルPE、18-1-トランスPE、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジエタノールアミン(SOPE)などのリン脂質関連物質。コレステロールなどの非カチオン性脂質またはステロールが存在してもよい。脂質を含んでいる追加の非リン酸は、例えばステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、パルミチン酸アセチル、グリセロールリシノール酸、ヘキサデシルステアラート、イソプロピルミリスチン酸、両性アクリルポリマー、トリエタノールアミン硫酸ラウリル、アルキル硫酸アリールポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ジオクタデシル臭化ジメチルアンモニウム等、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリンおよびセレブロシデスである。リソホスファチジルコリンおよびリソホスファチジルエタノールアミンのような他の脂質も存在してよい。非カチオン性脂質はさらに、同時係属中の米国特許出願第08/316,429号に記載されている、リン脂質またはセラミド(PEG-Cerと呼ばれる)と複合体を形成するPEG 2000、PEG 5000およびポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールをベースとしたポリマーも含む。
【0043】
好ましい態様では、非カチオン性脂質は、ジアシルホスファチジルコリン(例えばジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリンおよびジリノレオイルホスファチジルコリン)、ジアシルホスファチジルエタノールアミン(例えばジオレオイルホスファチジルエタノールアミンおよびパルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン)、セラミドまたはスフィンゴミエリンである。これら脂質のアシル基は、C10〜C24炭素鎖を有する脂肪酸に由来するアシル基であることが好ましい。より好ましくは、アシル基は、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイルまたはオレオイルである。特に好ましい態様では、非カチオン性脂質は、コレステロール、1,2-sn-ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、またはエッグスフィンゴミエリン(ESM)である。
【0044】
C. 二重層安定化成分
カチオン性および非カチオン性脂質に加えて、本発明のSPLPは、ATTA脂質、または、例えば国際公開公報第第05/026372号に記載のジアルキルオキシプロピルに結合したPEG(PEG-DAA)、例えば米国特許公開第20030077829号および第2005008689号に記載のジアシルグリセロールに結合したPEG(PEG-DAG)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)に結合したPEG(PEG-PE)、またはセラミドに複合したPEG、あるいはそれらの混合物(米国特許第5,885,613を参照されたい)などのPEG脂質といった二重層安定化構成成分(BSC)を含む。一つの好ましい態様では、SPLPの凝集を阻止するBSCは、複合脂質である。好適な複合脂質としては、PEG脂質複合体、ATTA脂質複合体、カチオン性ポリマー脂質複合体(CPL)またはそれらの混合物を含むが、これらに限定されない。一つの好ましい態様では、SPLPは、PEG脂質複合体またはATTA脂質複合体のいずれかを、CPLと一緒に含む。
【0045】
PEGはポリエチレングリコールであり、2つの末端ヒドロキシル基を有する、エチレンPEG反復単位の、直線状の水溶性ポリマーである。PEGは、その分子量に応じて分類されている;例えばPEG 2000は約2,000ダルトンの平均分子量を有しており、PEG 5000は約5,000ダルトンの平均分子量を有している。PEGは、Sigma Chemical Co.およびその他の会社より市販されており、例えば下記を含む:モノメトキシポリエチレングリコール(MePEG-OH)、モノメトキシポリエチレングリコール-スクシナート(MePEG-S)、モノメトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルスクシナート((MePEG-S-NHS)、モノメトキシポリエチレングリコール-アミン(MePEG-NH2)、モノメトキシポリエチレングリコール-トレシラート(MePEG-TRES)およびモノメトキシポリエチレングリコール-イミダゾイル-カルボニル(MePEG-IM)。加えて、モノメトキシポリエチレングリコール酢酸(MePEG-CH2COOH)は、例えばPEG-DAA複合体を含むPEG-脂質複合体を調製するのに特に有用である。
【0046】
好ましい態様では、PEGは、約550ダルトン〜約10,000ダルトン、より好ましくは約750ダルトン〜約5,000ダルトン、より好ましくは約1,000ダルトン〜約5,000ダルトン、より好ましくは約1,500ダルトン〜約3,000ダルトン、さらにより好ましくは、約2,000ダルトン、または約750ダルトンの平均分子量を有する。PEGは、任意でアルキル、アルコキシ、アシルまたはアリール基で置換できる。PEGは、脂質に直接複合できるか、またはリンカー部分を介して脂質に結合してもよい。使用可能な、脂質へのPEGのカップリングに適した任意のリンカー部分としては、例えば非エステル含有リンカー部分およびエステル含有リンカー部分を含む。好ましい態様では、リンカー部分は非エステル含有リンカー部分である。本明細書で用いる場合、「非エステル含有リンカー成分」という用語は、カルボキシルエステル結合(-OC(O)-)を含まないリンカー部分を指す。好適な非エステル含有リンカー部分としては、アミド(-C(O)NH-)、アミノ(-NR-)、カルボニル(-C(O)-)、カルバメート(-NHC(O)O-)、尿素(-NHC(O)NH-)、ジスルフィド(-S-S-)、エーテル(-O-)、スクシニル(-(O)CCH2CH2C(O)-)、スクシンアミジル(-NHC(O)CH2CH2C(O)NH-)、エーテル、ジスルフィド等、ならびにそれらの組合せ(カルバメートリンカー部分とアミドリンカー部分の両方を含有するリンカーなど)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。好ましい態様では、カルバメートリンカーを用いて、PEGを脂質に結合する。
【0047】
別の態様では、エステル含有リンカー部分を用いて、PEGを脂質に結合する。好適なエステル含有リンカー部分としては、例えば、カーボネート(-OC(O)O-)、スクシノイル、リン酸エステル(-O-(O)POH-O-)、スルホネートエステルおよびそれらの組合せを含む。
【0048】
様々な鎖長および飽和度の、様々なアシル鎖基を有するホスファチジルエタノールアミンを、ポリエチレングリコールに複合させて二重層安定化成分を形成できる。このようなホスファチジルエタノールアミンは市販されているか、または当業者公知の通常の技術を用いて単離または合成できる。C10〜C20の範囲の炭素鎖長を持つ飽和または不飽和脂肪酸を含有するホスファチジルエタノールアミンが好ましい。モノまたはジ不飽和脂肪酸、および飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸との混合物を有するホスファチジルエタノールアミンも用いることができる。好適なホスファチジルエタノールアミンとしては、下記を含むが、これらに限定されない:ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン(DMPE)、ジパルミトリルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)。
【0049】
「ATTA」または「ポリアミド」という用語は、米国特許第6,320,017号および第6,586,559号に開示されている化合物を指すが、これらに限定されない。このような化合物としては、下記式を有する化合物を含む:

式中、Rは、水素、アルキルおよびアシルからなる群より選択されたメンバーであり;R1は、水素およびアルキルからなる群より選択されるメンバーであるか;または任意で、RおよびR1、ならびにそれらが結合する窒素は、アジド部分を形成し;R2は、水素、任意で置換されているアルキル、任意で置換されているアリール、およびアミノ酸の側鎖から選択さる群のメンバーであり;R3は、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、メルカプト、ヒドラジノ、アミノおよびNR4R5からなる群より選択されるメンバーであり、ここで、R4およびR5は、独立に水素またはアルキルであり;nは、4〜80であり;mは、2〜6であり;pは、1〜4であり;およびqは、0または1である。他のポリアミドが本発明の化合物に使用できることは、当業者には明らかであろう。
【0050】
「ジアシルグリセロール」という用語は、共にグリセロールの1-および2-位置にエステル結合によって結合した2〜30個の炭素結合を有する、2-脂肪アシル鎖、R1およびR2を有する化合物を指す。アシル基は、飽和しても、または様々な不飽和度を有し得る。ジアシルグリセロールは下記一般式を有する:

【0051】
「ジアルキルオキシプロピル」という用語は、R1およびR2が共に2〜30個の炭素を独立に有する、2-アルキル鎖を有する化合物を指す。アルキル基は飽和しても、または様々な不飽和度を有し得る。ジアルキルオキシプロピルは下記一般式を有する:

【0052】
一つの好ましい態様では、PEG脂質は、下記式を有するPEG-DAA複合体である:

【0053】
式VIでは、R1およびR2は、約10〜22個の炭素原子を有する長鎖アルキル基であり、独立に選択される。長鎖アルキル基は、飽和でも不飽和でもあり得る。好適アルキル基としては、ラウリル(C12)、ミリスチル(C14)、パルミチル(C16)、ステアリル(C18)およびイコシル(C20)を含むが、これらに限定されない。好ましい態様では、R1およびR2は、同一であり、即ちR1とR2は、共にミリスチル(即ちジミリスチル)であるか、R1およびR2は共にステアリル(即ちジステアリル)である。
【0054】
上記の式VIでは、「R1およびR2」は、独立に選択され、かつ約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基であり;PEGはポリエチレングリコールであり;およびLは上記非エステル含有リンカー部分である。好適なアルキル基としては、ラウリル(C12)、ミリスチル(C14)、パルミチル(C16)、ステアリル(C18)およびイコシル(C20)を含むが、それらに限定されるわけではない。好ましい態様では;R1およびR2は、同一であり、すなわちそれらは共にミリスチル(C14)であるか、または共にパルミチル(C16)であるか、または共にステアリル(C18)である。好ましい態様では、アルキル基は、飽和している。
【0055】
上記の式VIでは、「PEG」は、約550ダルトン〜約10,000ダルトン、より好ましくは約750ダルトン〜約5,000ダルトン、より好ましくは約1,000ダルトン〜約5,000ダルトン、より好ましくは約1,500ダルトン〜約3,000ダルトンの範囲の、および、よりさらに好ましくは約2,000ダルトン、または約750ダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコールである。PEGは、任意でアルキル、アルコキシ、アシルまたはアリールで置換できる。好ましい態様では、末端のヒドロキシル基はメトキシまたはメチル基で置換されている。
【0056】
上記の式VIでは、「L」は非エステル含有リンカー部分またはエステル含有リンカー部分である。好ましい態様では、Lは非エステル含有リンカー部分である。好適な非エステル含有リンカーとしては、アミドリンカー部分、アミノリンカー部分、カルボニルリンカー部分、カルバメートリンカー部分、尿素リンカー部分、エーテルリンカー部分、ジスルフィドリンカー部分、スクシンアミジルリンカー部分およびそれらの組合せを含むが、それらに限定されるわけではない。好ましい態様では、非エステル含有リンカー部分は、カルバメートリンカー部分(すなわち、PEG-C-DAA複合体)である。別の好ましい態様では、非エステル含有リンカー部分は、アミドリンカー成分(すなわち、PEG-A-DAA複合体)である。好ましい態様では、非エステル含有リンカー部分は、スクシンアミジイルリンカー部分(すなわちPEG-S-DAA複合体)である。
【0057】
PEG-DAA複合体は、当業者公知の標準的技術および試薬を用いて合成される。PEG-DAA複合体は、様々なアミド、アミン、エーテル、チオ、カルバメートおよび尿素結合を含有することを認めるだろう。当業者は、これら結合を形成するための方法および試薬が周知であり、容易に利用できることを認めるだろう。例えばMarch, ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY (Wiley 1992), Larock, COMPREHENSIVE ORGANIC TRANSFORMATIONS (VCH 1989);およびFurniss, VOGEL'S TEXTBOOK OF PRACTICAL ORGANIC CHEMISTRY 5th ed. (Longman 1989)を参照されたい。さらに、PEG-DAA複合体の合成の様々な時点において、存在する任意の官能基が保護および脱保護を必要とすることがあることも明らかであろう。当業者は、このような技術が周知であると認識するであろう。例えばGreen and Wuts, PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC SYNTHESIS (Wiley 1991)を参照されたい。
【0058】
好ましい本態様において、PEG-DAA複合体は、ジラウリルオキシプロピル(C12)-PEG複合体、ジミリスチルオキシプロピル(C14)-PEG複合体、ジパルミトイルオキシプロピル(C16)-PEG複合体またはジステリルオキシプロピル(C18)-PEG複合体である。当業者は、本発明のPEG-DAA複合体に、他のジアルキルオキシプロピルを使用できることに容易に理解するだろう。
【0059】
前記に加えて、PEGの代わりに、他の親水性ポリマーを使用できることも当業者に容易に明らかになるだろう。PEGの代わりに用いることができる好適ポリマーの例としては、ポリビニルピロリドン、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミドおよびポリジメチルアクリルアミド、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ならびにヒドロキシメチルセルロースもしくはヒドロキシエチルセルロースなどの誘導体化セルロースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0060】
前記成分に加えて、本発明のSNALPおよびSPLPは、脂質二重層に挿入して正電荷を付与するために設計されているカチオン性ポリ(エチレングリコール)(PEG)脂質、またはCPLをさらに含むことができる(Chen, et al., Bioconj. Chem. 11:433-437 (2000)を参照されたい)。本発明での使用、ならびにSPLPおよびSPLP-CPLの作製方法および使用方法での使用のために好適なSPLPおよびSPLP-CPLは、例えば米国特許第6,852,334号および国際公開公報第00/62813号に開示されている。本発明に有用であるカチオン性ポリマー脂質(CPL)は、下記の構造的特徴を有する:(1)脂質二重層内へCPLを組み込むための、疎水性脂質などの脂質アンカー;(2)脂質アンカーをカチオン頭部基に連結するための、ポリエチレングリコールなどの親水性スペーサー;および(3)プロトン化可能なカチオン性頭部基を産生するための、天然のアミノ酸などのポリカチオン性部分。
【0061】
好適CPLとしては、下記式VIIの化合物を含む:
A-W-Y (VII)
式中、A、WおよびYは、下記の通りである。
【0062】
式VIIに関しては、「A」は、脂質アンカーとして働く両親媒性脂質、中性脂質または疎水性脂質のような脂質成分である。好適脂質の例としては、小胞形成脂質または小胞採用脂質が挙げられ、かつジアシルグリセロリル、ジアルキルグリセロリル、N-N-ジアルキルアミノ、1,2-ジアシルオキシ-3-アミノプロパンおよび1,2-ジアルキル-3-アミノプロパンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
「W」は、親水性のポリマーまたはオリゴマーなどのポリマーまたはオリゴマーである。好ましくは、親水性ポリマーは、非免疫原性であるか、また固有免疫原性が低い生体適合性ポリマーである。または、親水性ポリマーは、適切なアジュバントと共に使用するのであれば、弱免疫原性であってもよい。好適な非免疫原性ポリマーとしては、PEG、ポリアミド、ポリ酢酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸/ポリグリコール酸コポリマーおよびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい態様では、ポリマーは約250〜約7000ダルトンの分子量を有する。
【0064】
「Y」はポリカチオン性成分である。ポリカチオン性成分という用語は、選択pHにおいて、好ましくは生理学的pHにおいて、正電荷を、好ましくは少なくとも2つの正電荷を有する化合物、誘導体または官能基を指す。好適ポリカチオン性成分としては、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびヒスチジンなどの塩基性アミノ酸およびそれらの誘導体;スペルミン;スペルミジン;カチオン性デンドリマー;ポリアミン;ポリアミン糖;ならびにアミノポリ多糖を含む。ポリカチオン性成分は、直鎖状テトラジンなどの直鎖状構造、枝分かれ構造またはデンドリマー構造であってよい。ポリカチオン性成分は、選択したpH値において、約2〜約15の正電荷、好ましくは約2〜約12の正電荷を、より好ましくは約2〜約8の正電荷を有する。どのポリカチオン性成分を使用するかの選択は、所望するリポソーム応用のタイプによって決まるだろう。
【0065】
ポリカチオン性成分の電荷は、リポソーム成分全体に分布しても、またはリポソーム成分のある特定領域への電荷密度の散在的な集中、例えば電荷スパイクのいずれでもよい。電荷密度がリポソーム上に分布する場合は、電荷密度は均等または不均等に分布し得る。ポリカチオン性成分の電荷分布の全ての変形が、本発明に包含される。
【0066】
脂質「A」と非免疫原性ポリマー「W」とは、様々な方法によって、好ましくは共有結合によって結合できる。「A」と「W」の共有結合には、当業者公知の方法を用いることができる。好適な結合法としては、アミド、アミン、カルボキシル、カーボネート、カルバメート、エステルおよびヒドラゾン結合が挙げられるが、これらに限定されない。「A」および「W」が結合を遂行するための必須の相補的官能基を有していることが当業者には明らかであろう。これら2つの基、即ち脂質側の基とポリマー側の基との反応により、所望する結合が提供される。例えば脂質がジアシルグリセロールであり、かつ末端のヒドロキシルを、例えばNHSおよびDCCで活性化して活性エステルを形成し、次にアミノ基を含有するポリマー、ポリアミドなどと反応させる場合(米国特許第6,320,017号および第6,586,559号を参照されたい)、2つの基の間にはアミド結合が形成される。
【0067】
ある例では、ポリカチオン性成分は、標的化リガンドなどのリガンドを付着するか、またはカルシウムを錯体化するためのキレート成分を持つことができる。リガンドを付着した後、カチオン性成分は正電荷を維持することが好ましい。ある例では、付着するリガンドは正電荷を有する。好適リガンドとしては、反応性官能基を有する化合物または素子を含み、かつ脂質、両親媒性脂質、キャリア化合物、生体親和性化合物、生体材料、生体ポリマー、生物医学的素子、分析可能な化合物、治療活性化合物、酵素、ペプチド、タンパク質、抗体、免疫賦活性剤、放射線標識、蛍光物質、ビオチン、薬物、ハプテン、DNA、RNA、多糖、リポソーム、ビロソーム、ミセル、免疫グロブリン、官能基、その他標的化成分、または毒素を含むが、これらに限定されない。
【0068】
D. 関心対象の生成物
上記成分に加えて、本発明のSPLPおよびSNALPは、核酸(例えば単鎖または二本鎖DNA、単鎖または二本鎖RNA、RNAi、siRNA等)を含む。好適な核酸としては、プラスミド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムならびにその他ポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドを含むが、それらに限定されない。好ましい態様では、核酸は、関心対象の生成物、例えば治療用生成物をコードする。本発明のSPLPおよびSNLPを用いて、核酸を、例えば核酸の発現、または細胞が発現する標的配列をサイレンシングするために、細胞(例えば哺乳動物内の細胞)に送達することができる。
【0069】
関心対象の生成物は、医薬品または診断薬としての治療目的を含む、商業目的に有用であり得る。治療用生成物の例としては、タンパク質、核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、tRNA、snRNA、siRNA、抗原、第VIII因子およびアポプチンが挙げられる(Zhuang et al. (1995) Cancer Res. 55(3):486-489)。遺伝子産物の好適な種類としては、細胞毒性/自殺遺伝子、免疫調節因子、細胞レセプターリガンド、腫瘍抑制因子、および抗血管新生遺伝子を含むが、それらに限定されない。選択する具体的遺伝子は、意図する目的または処理に依存すると考えられる。このような関心対象の遺伝子の例は下記および明細書全体に記載されている。
【0070】
いくつかの態様では、核酸は関心対象の遺伝子をサイレンシングするsiRNA分子である。このような核酸は、単独で、あるいは関心対象の遺伝子に関連する疾患または障害の治療に用いられる通常薬の投与と組み合わせて投与できる。別の態様では、核酸は、特定の疾患または障害(例えば病原性感染症または腫瘍性障害)を持つ被検体で発現または過剰発現しているポリペプチドをコードしており、これを用いて遺伝子が発現しているポリペプチドに対する免疫応答を生ずることができる。このような核酸は、単独で、あるいは疾患または障害の治療に用いられる通常薬の投与と組み合わせて投与できる。さらに別の態様では、核酸は、特定の疾患または障害(例えば代謝性疾患または障害)を持つ被検体で過小発現しているまたは発現していないポリペプチドをコードし、かつ都合よくポリペプチドを発現するために使用でき、かつ単独で、あるいは疾患または障害の治療に用いられる通常薬の投与と組み合わせて投与できる。
【0071】
1. 関心対象の遺伝子
関心対象の遺伝子としては、ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子、代謝性疾患および障害(例えば肝臓の疾患および障害)と関連する遺伝子、腫瘍形成および細胞の形質転換と関連する遺伝子、血管形成遺伝子、炎症および自己免疫応答に関連する遺伝子のような免疫調節遺伝子、リガンドレセプター遺伝子、ならびに神経退行障害に関連する遺伝子を含むが、これらに限定されない。
【0072】
a) ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子
ウイルスの感染および生存に関連する遺伝子としては、細胞に結合し、その中に侵入して複製するために、ウイルスが発現する遺伝子を含むが、これらに限定されない。特に関心の高いものは、慢性ウイルス疾患に関連するウイルス配列である。特に関心の高いウイルス配列としては、肝炎ウイルスの配列(Hamasaki, et al., FEBS Lett. 543:51 (2003); Yokota, et al., EMBO Rep. 4:602(2003); Schlomai, et al., Hepatology 37:764 (2003); Wilson, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 100:2783 (2003); Kapadia, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 100:2014 (2003); およびFIELDS VIROLOGY (Knipe et al. eds. 2001))、ヒト免疫不全ウイルス(HIV) (Banerjea, et al., Mol. Ther. 8:62 (2003); Song, et al., J. Virol. 77:7174 (2003); Stephenson JAMA 289:1494 (2003); Qin, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 100:183 (2003))、ヘルペスウイルス(Jia, et al., J. Virol. 77:3301 (2003))、ならびにヒト乳頭腫ウィルス(HPV) (Hall, et al., J. Virol. 77:6066 (2003); Jiang, et al., Oncogene 21:6041 (2002))を含む。サイレンシングできる例示的な肝炎ウイルス核酸配列としては、転写および翻訳に関与する核酸配列(例えばEn1、En2、X、P)、構造タンパク質(例えばCおよびC関連タンパク質;カプシドならびにS、M、および/もしくはLタンパク質を含むエンベロープタンパク質、またはその断片)をコードする核酸配列(例えば、前記、FIELDS VIROLOGY, 2001を参照されたい)。サイレンシング可能な例示的なC型肝炎核酸配列としては:セリンプロテアーゼ(例えばNS3/NS4)、ヘリカーゼ(例えばNS3)、ポリメラーゼ(例えばNS5B)ならびにエンベロープタンパク質(例えばE1、E2およびp7)を含むが、これらに限定されない。A型肝炎核酸配列は、例えばGenbankアクセッション番号NC_001489に記載されている;B型肝炎ウイルス核酸配列は、例えばGenbankアクセッション番号NC_003977に記載されている;C型肝炎ウイルス核酸配列は、例えばGenbankアクセッション番号NC_004102に記載されている;D型肝炎ウイルス核酸配列は、例えばGenbankアクセッション番号NC_001653に記載されている;E型肝炎ウイルス核酸配列は、例えばGenbankアクセッション番号NC_001434に記載されている;およびG型肝炎ウイルス核酸配列は、Genbankアクセッション番号NC_001710に記載されている。
【0073】
b) 代謝性疾患および障害に関連する遺伝子
代謝性疾患および障害(例えば肝臓が標的となる障害、ならびに肝疾患および障害)に関連する遺伝子としては、例えば異脂肪血症(例えば肝臓Xレセプター(例えばLXRαおよびLXRβ Genbankアクセッション番号 NM_007121)、ファルネソイドXレセプター(FXR)(GenbankアクセッションNM_005123、ステロール調節エレメント結合タンパク質(SREBP)、Site-1プロテアーゼ(S1P)、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A還元酵素(HMG補酵素A還元酵素)、アポリポプロテイン(ApoB)、およびアポリポプロテイン(ApoE))、ならびに糖尿病(例えばグルコース6-ホスファターゼ)で発現している、例えば遺伝子を含む(例えば、Forman et al., Cell 81:687 (1995); Seol et al., Mol. Endocrinol. 9:72 (1995), Zavacki et al., PNAS USA 94:7909 (1997); Sakai, et al., Cell 85:1037-1046 (1996); Duncan, et al., J. Biol. Chem. 272:12778-12785 (1997); ,Willy, et al., Genes Dev. 9(9):1033-45 (1995); Lehmann, et al., J. Biol. Chem. 272(6):3137-3140 Janowski, et al., Nature 383:728-731 (1996); Peet, et al., Cell 93:693-704 (1998)を参照されたい)。当業者は、代謝性疾患および障害(例えば肝臓が標的となる障害、ならびに肝疾患および障害)が、肝臓自体で発現している遺伝子だけでなく、他の器官および組織で発現している遺伝子も含むことに気づくだろう。
【0074】
c) 腫瘍形成に関連する遺伝子
腫瘍形成および細胞形質転換に関連する遺伝子配列の例は、下記を含む:MLL融合遺伝子、BCR-ABL(Wilda, et al., Oncogene, 21:5716 (2002); Scherr, et al., Blood 101:1566)、TEL-AML1、EWS-FLI1、TLS-FUS、PAX3-FKHR、BCL-2、AML1-ETOおよびAML1-MTG8 (Heidenreich, et al., Blood 101:3157 (2003))などの転座配列; 多剤耐性遺伝子(Nieth, et al., FEBS Lett. 545:144 (2003); Wu, et al, Cancer Res. 63:1515 (2003))、サイクリン(Li, et al., Cancer Res. 63:3593 (2003); Zou, et al., Genes Dev. 16:2923 (2002))、β-カテニン(Verma, et al., Clin Cancer Res. 9:1291(2003))、テロメラーゼ遺伝子(Kosciolek, et al., Mol Cancer Ther. 2:209 (2003))、c-MYC、N-MYC、BCL-2、ERBB1およびERBB2 (Nagy, et al. Exp. Cell Res. 285:39 (2003))などの過剰発現配列;ならびにRAS(Tuschl and Borkhardt, Mol. Interventions, 2:158 (2002)に概説されている)などの変異配列。例えば、DNA修復酵素をコードする配列のサイレンシングは、化学療法薬の投与と組み合わせて用いられる(Collins, et al., Cancer Res. 63:1550 (2003))。腫瘍移動と関連するタンパク質をコードする遺伝子もまた、関心対象の標的配列であり、例えばインテグリン、セクレンおよび金属プロテアーゼである。前記の例は限定的ではない。腫瘍形成または細胞の形質転換、腫瘍の増殖あるいは腫瘍の移動を容易にし、または促進する遺伝子の任意の全配列または部分配列も、関心対象の遺伝子配列に含めることができる。
【0075】
d) 血管形成/抗血管形成遺伝子
血管形成遺伝子は、新規の血管の形成を促進できる。特に関心の対象となるものは、血管内皮成長因子(VEGF) (Reich, et al., Mol. Vis. 9:210 (2003))またはVEGFrである。VEGFrを標的とするsiRNA配列は、例えば、英国特許第2396864号;米国特許公開第20040142895号;およびカナダ特許第2456444号に記載されている。
【0076】
抗血管形成遺伝子は、新規の血管形成を阻止できる。これら遺伝子は、血管形成が疾患の病理的発生に役割を果たしている癌の治療に特に有用である。抗血管形成遺伝子の例は、エンドスタチン(例えば米国特許第6,174,861号を参照されたい)、アンジオスタチン(例えば米国特許第5,639,725号を参照されたい)およびVEGF-R2(例えばDecaussin et al. (1999) J. Pathol. 188(4): 369-737を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0077】
e) 免疫調節遺伝子
免疫調節遺伝子は、一つまたは複数の免疫応答を調節する遺伝子である。免疫調節遺伝子の例としては、成長因子(例えばTGF-α、TGF-β、EGF、FGF、IGF、NGF、PDGF、CGF、GM-CSF、SCF等)、インターロイキン(例えばIL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-20等)、インターフェロン(例えばIFN-α、IFN-β、IFN-γ等)、TNF(例えばTNF-α)およびFlt3-リガンドなどのサイトカインを含む。FasおよびFasリガンド遺伝子もまた関心対象の免疫調節標的配列である(Song, et al., Nat. Med. 9:347 (2003))。造血細胞およびリンパ細胞の二次シグナル伝達分子をコードする遺伝子もまたは本発明に含まれ、例えばブルトンのチロシンキナーゼ(Btk)のようなTecファミリーキナーゼがある(Heinonen, et al., FEBS Lett. 527:274(2002))。
【0078】
f) 細胞レセプターリガンド
細胞レセプターリガンドとしては、細胞表面レセプター(例えばインスリンレセプター、EPOレセプター、G-タンパク質共役レセプター、チロシンキナーゼ活性を有するレセプター、サイトカインレセプター、成長因子レセプター等)に結合し、レセプターが関与する生理学的経路(例えばグルコースレベル調節、血液細胞の発生、有糸分裂誘発等)を調節(例えば阻害する、活性化する等)できるリガンドを含む。細胞レセプターリガンドの例としては、サイトカイン、成長因子、インターロイキン、インターフェロン、エリスロポイエチン(EPO)、インスリン、グルカゴン、Gタンパク質共役レセプターリガンド等が挙げられる。トリヌクレオチドリピート(例えばCAGリピート)拡張部をコードする鋳型は、脊髄延髄性筋萎縮症およびハンチントン病などのトリヌクレオチドリピート拡張部が引き起こす神経退行性障害での病原配列のサイレンシングに用いることができる(Caplen et al., Hum. Mol. Genet. 11:175 (2002))。
【0079】
g) 腫瘍抑制遺伝子
腫瘍抑制遺伝子とは、細胞、特に腫瘍細胞の増殖を阻止できる遺伝子である。それゆえに、腫瘍細胞へのこれら遺伝子の送達は、癌の治療に有用である。腫瘍抑制遺伝子としては、p53 (Lamb et al., Mol. Cell. Biol. 6:1379-1385 (1986), Ewen et al., Science 255:85-87 (1992), Ewen et al. (1991) Cell 66:1155-1164, and Hu et al., EMBO J. 9:1147-1155(1990))、RB1 (Toguchida et al. (1993) Genomics 17:535-543)、WT1 (Hastie, N. D., Curr. Opin. Genet. Dev. 3:408-413 (1993))、NF1 (Trofatter et al., Cell 72:791-800 (1993), Cawthon et al., Cell 62:193-201 (1990))、VHL (Latif et al., Science 260:1317-1320 (1993))、APC (Gorden et al., Cell 66:589-600 (1991))、DAPキナーゼ(例えばDiess et al. (1995) Genes Dev. 9:15-30を参照されたい)、p16 (例えばMarx (1994) Science 264 (5167):1846を参照されたい)、ARF (例えばQuelle et al. (1995) Cell 83(6):993-1000を参照されたい)、ニューロフィブロミン(例えばHuynh et al. (1992) Neurosci. Lett. 143(1-2):233-236を参照されたい)ならびにPTEN (例えばLi et al. (1997) Science 275 (5308):1943-1947を参照されたい)が含むが、これらに限定されない。
【0080】
h) 細胞毒性/自殺遺伝子
細胞毒性/自殺遺伝子は、細胞を直接または間接的に殺すことができる、アポトーシスを誘発できるかまたは細胞周期で細胞を抑止できる遺伝子である。このような遺伝子としては、免疫毒素、単純ヘルペスウイルス・チミジンキナーゼ(HSV-TK)、シトシンデアミナーゼ、キサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、p53、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ、カルボキシエステラーゼ、デオキシシチジンキナーゼ、ニトロリダクターゼ、チミジンホスホリラーゼおよびチトロームp450 2B1の遺伝子を含むが、それらに限定されない。
【0081】
遺伝子送達酵素プロドラッグ治療(「GDEPT」)として、あるいは「自殺遺伝子/プロドラッグ」システムとして知られる遺伝子治療技術では、アシクロビルおよびガンシクロビル(チミジンキナーゼに対する)、シクロホスファミド(チトクロームp450 2B1に対する)、5-フルオロシトシン(シトシンデアミナーゼに対する)などの薬剤が、典型的には、本発明の自殺遺伝子組成物をコードする発現カセットと共に全身投与され、所望の細胞毒性または細胞増殖抑制性効果を達成する(例えば、Moolten, F.L., Cancer Res., 46:5276-5281 (1986)を参照されたい)。GDEPTシステムの概要については、Moolten, F.L., The Internet Book of Gene Therapy, Cancer Therapeutics, Chapter 11 (Sobol, R. E., Scanlon, NJ (Eds) Appelton & Lange (1995))を参照されたい。この方法では、異種遺伝子は、RNAPプロモータを含有する発現カセットで細胞に送達され、異種遺伝子は、細胞がそれに対し感受性が低い第一化合物(即ち「プロドラッグ」)を、細胞がより感受性である第二化合物代謝することを促進する酵素をコードしている。プロドラッグは、遺伝子と一緒に、または遺伝子送達後のいずれかに細胞に送達される。酵素は、プロドラッグを第二化合物に加工し、それにより応答するだろう。Mooltenが提唱する好適システムは、単純ヘルペスウイルス-チミジンキナーゼ(HSV-TK)遺伝子およびプロドラッグのガンシクロビルである。この方法は、Zerrouqui et al., Can. Gen. Therapy, 3(6):385-392 (1996); Sugaya et al., Hum. Gen. Ther., 7:223-230 (1996)およびAoki et al., Hum. Gen. Ther., 8:1105-1113 (1997)により、TK遺伝子のマウス腫瘍への局所送達(即ち腫瘍内直接注入)または部位送達(即ち腹膜内)のためにカチオン性脂質-核酸凝集物を利用して最近用いられている。ウイルスベクターを用いるGDEPTシステムを利用するヒト臨床試験が提案され(Hum. Gene Ther., 8:597-613 (1997), and Hum. Gene Ther., 7:255-267 (1996)を参照されたい)、実施中である。
【0082】
任意の自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせは、本発明に従って使用できる。本発明での使用に適した複数の自殺遺伝子/プロドラッグの組み合わせとしては、Sikora, KによってOECD文書、Gene Delivery Systemのpp.59〜71(1996)に下記のものが引用されているが、これらに限定されない:

【0083】
異種遺伝子産物によって、細胞がより感受性である化合物に代謝されるものであれば、いかなるプロドラッグも使用できる。好ましくは、細胞は、プロドラッグに比べ代謝物に対し少なくとも10倍感受性である。
【0084】
本発明に有益であり得るGDEPTシステムの変更としては、例えば、修飾されたTK酵素コンストラクトの使用が含まれ、ここで、TK遺伝子に突然変異を誘導し、プロドラッグから薬物への変換をより迅速にしている(例えば、Black, et al., Proc. Natl. Acad. Sci, U.S.A., 93: 3525-3529 (1996)を参照されたい)。または、TK遺伝子を、その効果を高める別の遺伝子と一緒にバイシストロン性コンストラクトとして送達できる。例えば、「近接効果」としても知られる「バイスタンダー効果(bystander effect)」(トランスフェクトされた細胞に近接する細胞も殺される)を高めるために、TK遺伝子をコネクシン43などのギャップジャンクションタンパク質の遺伝子と共に送達できる。コネクシンタンパク質は、TK酵素の毒性産物を一つの細胞から別の細胞に拡散させる。TK/コネクシン43コンストラクトは、内部リボソーム侵入配列によってTK遺伝子と動作可能に連結されたCMVプロモータ、およびコネクシン43コード化核酸を有する。
【0085】
2. siRNA
いくつかの態様では、核酸はsiRNAである。siRNAは、関心対象の遺伝子の翻訳(即ち発現)をダウンレギュレーションまたはサイレンシングするのに用いることができる。好適なsiRNA配列は、当技術分野において周知の任意の手段を使用して同定され得る。典型的には、Elbashir et al., Nature 411:494-498 (2001)およびElbashir et al., EMBO J 20:6877-6888 (2001)に記載された方法を、ReynoldsらNature Biotech. 22 (3):326-330 (2004)に説明された合理的設計規則と組み合わせる。
【0086】
典型的には、関心対象の標的遺伝子転写物の開始コドンAUGの3'側、約50〜約100ヌクレオチド内の配列を、ジヌクレオチド配列(例えばAA、CC、GGまたはUU)について細かく調べる(例えばElbashir, et al., EMBO J 20: 6877-6888 (2001)を参照されたい)。ジヌクレオチド配列の3'側直近のヌクレオチドは、潜在的siRNA標的配列と同定される。典型的には、ジヌクレオチド配列の3'側直近の19、21、23、25、27、29、31、33、35またはそれ以上のヌクレオチドは、潜在的siRNA標的部位と同定される。いくつかの態様では、ジヌクレオチド配列は、AA配列であり、AAジヌクレオチドの3'側直近の19ヌクレオチドは、潜在的siRNA標的部位と同定される。典型的なsiRNA標的部位は、標的遺伝子の全長上の様々な位置に間隔を開けて存在する。siRNA配列のサイレンシング効率をさらに高めるために、潜在的siRNA標的部位をさらに分析し、他のコーディング配列と相同的な領域を含有しない部位を同定してもよい。例えば、約21塩基対の好適なsiRNA標的部位は、典型的には、16〜17より長い、他のコーディング配列と相同的である連続塩基対を有することはない。siRNA配列をRNA Pol IIIプロモータから発現させなければならない場合には、4つより多い連続するAまたはTを持たないsiRNA標的配列を選択する。
【0087】
ひとたび潜在的siRNA標的部位が同定されたならば、siRNA標的部位に相補的なsiRNA配列を設計してもよい。それらのサイレンシング効率を上げるために、siRNA配列を、合理的に設計アルゴリズムによって分析し、下記の特徴の一つまたはそれ以上を有する配列を同定してもよい:(1)約25%〜約60%G/CのG/C含有量;(2)センス鎖の位置15〜19の少なくとも3つがA/U;(3)内部反復がない;(4)センス鎖の位置19がA;(5)センス鎖の位置3がA;(6)センス鎖の位置10がU;(7)センス鎖の位置19がG/Cでない;および(8)センス鎖の位置13がGでない。これら各特徴の好適値を割り当てるアルゴリズムを組み込み、かつsiRNAの選択に有用である、siRNA設計ツールは、例えばhttp://boz094.ust.hk/RNAi/siRNAに見いだすことができる。
【0088】
いくつかの態様では、ひとたび潜在的siRNA配列が同定されたならば、配列は、例えば2004年7月2日出願の同時係属の米国仮特許出願第60/585301号;2004年7月19日出願の第60/589363号;2004年11月12日出願の第60/627326号;および2005年3月25日出願の60/665297号に記載されているように、免疫賦活性モティーフ(例えば、GU-リッチモティーフ)の有無のために分析される。ひとたび特定されれば、免疫賦活性siRNA分子を修飾し、それらの免疫賦活性特性を増減すること、および非免疫賦活性分子をそれらが免疫賦活性特性を有するように修飾できる。
【0089】
3. siRNAの生成
siRNAは、例えば一つまたは複数の、単離された低分子干渉RNA(siRNA)二重鎖、より長い二本鎖RNA(dsRNA)などの、またはDNAプラスミド内の転写カセットから転写されたsiRNAまたはdsRNAのような形を含む、複数の形で提供できる。siRNAは、化学的に合成してもよい。好ましくは合成または転写されたsiRNAは、約1〜4ヌクレオチド、好ましくは約2〜3ヌクレオチドの3'オーバーハング、および5'リン酸基末端を有する。siRNA配列は、オーバーハングを有しても(例えば(Elbashir et al., Genes Dev. 15:188 (2001); Nykanen, et al., Cell 107:309 (2001)に記載の3'または5'オーバーハング)、あるいはオーバーハングを欠いてもよい(即ち、平滑末端を有する)。
【0090】
RNA集団を用いて、長い前駆体RNAを提供すること、または選択した標的配列と実質的な、または完全な同一性を有する長い前駆体RNAを用いてsiRNAを作ることができる。RNAは、当業者周知の方法に従って、細胞もしくは組織から単離、合成、および/またはクローニングできる。RNAは混合集団(細胞もしくは組織から得る、cDNAから転写する、サブトラクトする、選択等)であり得、または単一の標的配列を表し得る。RNAは天然に存在する(例えば組織もしくは細胞サンプルより単離した)、インビトロ合成(例えばT7もしくはSP6ポリメラーゼ、およびPCR産物もしくはクローニングしたcDNAを用いた);あるいは化学的に合成できる。
【0091】
長いdsRNAを形成するには、合成RNAの場合、同様に相補体もインビトロ合成し、ハイブリダイズしてdsRNAを形成する。天然のRNA集団を用いる場合は、例えばRNA集団に対応するcDNAを転写するか、またはRNAポリメラーゼを用いることによって、RNA相補体も提供される(例えば、大腸菌(E. coli) RNAse IIIまたはダイサー(Dicer)による消化のためのdsRNAを形成する)。次に前駆体RNAをハイブリダイズし、消化のための二本鎖RNAを形成する。dsRNAは、被検体に直接投与でき、または投与前にインビトロで消化してもよい。
【0092】
または、一つまたは複数のsiRNA鋳型をコードする、一つまたは複数のDNAプラスミドを用いてsiRNAを提供する。siRNAは、RNAポリメラーゼIII転写ユニットを有するプラスミド内にて、例えば小核RNA U6またはヒトRNase P RNA H1の天然の転写ユニットに基づいて、DNA鋳型から、ヘアピンループを持った二重鎖に自動的に折りたたまれる配列として転写できる(Brummelkamp, et al., Science 296:550 (2002); Donze, et al., Nucleic Acids Res. 30:e46 (2002); Paddison, et al., Genes Dev. 16:948 (2002); Yu, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 99:6047 (2002); Lee, et al., Nat. Biotech. 20:500 (2002); Miyagishi, et al., Nat. Biotech. 20:497 (2002); Paul, et al., Nat. Biotech. 20:505 (2002); and Sui, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 99:5515 (2002)を参照されたい)。典型的には、転写ユニットまたはカセットは、所望のsiRNA配列の転写のための鋳型と作動可能に連結したH1-RNAまたはU6プロモータなどのRNA転写プロモータ配列、ならびに2〜3個のウリジン残基およびポリチミジン(T5)配列(ポリアデニル化シグナル)を含む終止配列を含むであろう(前記、Brummelkamp, Science)。選択したプロモータは、構成的または誘導的転写体に提供できる。RNA干渉分子のDNA定方向転写のための組成物および方法は、米国特許第6,573,099号に詳しく記載されている。転写ユニットは、プラスミドまたはDNAベクター内に組み入れられ、そこから干渉RNAは転写される。治療目的のための遺伝物質のインビボ送達に好適なプラスミドは、米国特許第5,962,428号および第5,910,488号に詳しく記載されている。選択したプラスミドは、標的細胞の一過的または安定的送達のために提供できる。元来、所望遺伝子配列を発現させるために設計されたプラスミドを変更し、siRNAの転写のための転写単位カセットを含有させることができる。
【0093】
RNAを単離する方法、RNAを合成する方法、核酸をハイブリダイズする方法、cDNAライブラリを作製しかつスクリーニングする方法、およびPCRを実施する方法は、当技術分野において周知である(例えば、Gubler & Hoffman, Gene 25:263-269 (1983); 前記、Sambrook et al.; 前記、Ausubel et al.を参照されたい)、PCR方法に関しては同様に当技術分野において周知である(米国特許第4,683,195号および第4,683,202号; PCR Protocols: A Guide to Methods and Applications (Innis et al., eds,1990)を参照されたい)。発現ライブラリは、また、当業者にとって周知である。本発明において使用する一般法を開示している追加の基本教本は、Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual (2nd ed. 1989); Kriegler, Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual (1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds., 1994))を含む。
【0094】
好適プラスミドは、関心対象の遺伝子産物の部分長配列または全長配列をコードする鋳型配列を、発現可能な形で含むように遺伝子工学的に作られる。鋳型配列は、単離された、または合成されたsiRNAおよびdsRNAを提供するのにも用いることができる。一般的には、関心対象の遺伝子産物の転写および翻訳をダウンレギュレートすること、またはサイレンシングすることが望まれる。
【0095】
V. 核酸脂質粒子の調製
本発明は、プラスミドまたはその他の核酸を脂質二重層に封入し、分解から保護する、血清安定核酸脂質粒子を調製する方法を提供する。本発明の方法で作成した粒子は、典型的には約50nm〜約150nm、より典型的には約100nm〜約130nm、最も典型的には約110nmから約115nmの大きさを有する。粒子は、連続混合法、界面活性剤透析法、または有機溶媒を利用し、成分混合中に単相を提供する逆相法の改良法を含むが、これに限定されない本技術分野で公知の任意の方法によって形成できる。
【0096】
好ましい態様では、カチオン性脂質は式IおよびIIの脂質、あるいはその組み合わせである。別の好ましい態様では、非カチオン性脂質は、ESM、DOPE、DOPC、DPPE、DMPE、16:0 モノメチルホスファチジルエタノールアミン、16:0 ジメチルホスファチジルエタノールアミン、18:1 トランスホスファチジルエタノールアミン、18:0 18:1 ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、16:0 18:1 ホスファチジルエタノールアミン、DSPE、ポリエチレングリコールをベースとしたポリマー(例えばPEG 2000、PEG 5000、PEG修飾ジアシルグリセロール、またはPEG修飾ジアルキルオキシプロピル)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、コレステロール、あるいはそれらの組み合わせである。さらに別の態様では、有機溶媒は、メタノール、クロロホルム、塩化メチレン、エタノール、ジエチルエーテル、またはそれらの組み合わせである。
【0097】
特に好ましい態様では、核酸はプラスミドである;カチオン性脂質は、式IまたはIIの脂質、あるいはそれらの組み合わせである;非カチオン性脂質はESM、DOPE、PEG-DAA、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、コレステロール、またはそれらの組み合わせ(例えばDSPCおよびPEG-DAA);ならびに有機溶媒は、メタノール、クロロホルム、塩化メチレン、エタノール、ジエチルエーテルまたはそれらの組み合わせである。
【0098】
特に好ましい態様では、本発明は連続混合法によって、例えば下記の段階を含む工程によって、産生された核酸脂質粒子を提供する:siRNAなどの核酸もしくはプラスミドを含む水溶液を第一容器に提供する段階、および第二容器に有機脂質溶液を提供する段階、ならびに実質的に即時に核酸(例えばsiRNA)を封入したリポソームを産生するために有機脂質溶液が水溶液と混合するように、水溶液と有機脂質溶液とを混合する段階。この工程およびこの工程を実施するための装置は、米国特許公開第20040142025号に詳しく記載されている。
【0099】
脂質および緩衝液を、混合チャンバーのような混合環境に連続的に導入する作業によって、脂質溶液は緩衝液により連続的に希釈され、それによって、リポソームは混合時に、実質的に即時に作られる。本明細書で用いる場合、「緩衝液による脂質溶液の連続的希釈」(および、その変形)という句は、一般的に脂質溶液が水和工程中に、十分な速さで、十分な力によって希釈され、効率的に小胞を形成することを意味する。核酸を含む水溶液を、有機脂質溶液と混合することによって、有機脂質溶液は、緩衝液(即ち水溶液)が存在する状態で、連続段階的希釈を受け、核酸脂質粒子を作る。
【0100】
連続混合法を用いて形成された血清安定核酸脂質粒子は、典型的には、約50nmから約150nm、より典型的には約100nm〜約130nm、最も典型的には約110nmから約115nmの大きさを有する。こうして形成した粒子は凝集せず、場合によっては分粒し、均一な粒子サイズを達成する。
【0101】
いくつかの態様では、粒子は界面活性剤透析を用いて形成される。任意の特定の形成メカニズムと結びつける意図なしに、プラスミドまたはその他核酸(例えばsiRNA)をカチオン性脂質の界面活性剤溶液と接触させ、被覆核酸複合体を形成する。これら被覆核酸は凝集および沈殿することがある。しかしながら、界面活性剤の存在がこの凝集を減らし、被覆核酸と過剰な脂質(典型的には非カチオン性脂質)との反応を可能にし、プラスミドまたはその他核酸が脂質二重層内に封入されている粒子を形成させる。従って、本発明は、下記の段階を含む、血清安定核酸脂質粒子の調製法を提供する:
(a)界面活性剤溶液中で核酸とカチオン性脂質を合わせ、被覆核酸脂質複合体を形成する段階;
(b)非カチオン性脂質を被覆核酸脂質複合体と接触させて、核酸脂質複合体および非カチオン性脂質を含む界面活性剤溶液を形成する段階;ならびに
(c)段階(b)の界面活性剤溶液を希釈して、核酸が脂質二重層内に封入されており、粒子が血清安定的であり、かつ約50〜約150nmの大きさを有する血清安定核酸脂質粒子の溶液を提供する段階。
【0102】
被覆核酸脂質複合体の初期溶液は、核酸とカチオン性脂質とを界面活性剤溶液中で合わせることによって形成される。
【0103】
これらの態様では、界面活性剤溶液は、好ましくは、臨界ミセル濃度15〜300mM、より好ましくは20〜50mMを有する中性界面活性剤の水溶液である。好適な界面活性剤の例としては、例えばN,N'-((オクタノイルイミノ)-ビス-(トリメチレン))-ビス-(D-グルコンアミド)(BIGCHAP);BRIJ 35;デオキシ-BIGCHAP;ドデシルポリ(エチレングリコール)エーテル、Tween 20;Tween 40;Tween 60;Tween 80;Tween 85;Mega 8;Mega 9;Zwittergent(登録商標)3-08;Zwittergent(登録商標)3-10;Triton X-405;ヘキシル-、ヘプチル-、オクチル-およびノニル-β-D-グルコピラノシド;ならびにヘプチルチオグルコピラノシドを含み;このうちオクチルβ-D-グルコピラノシドおよびTween-20が最も好ましい。界面活性剤溶液中の界面活性剤の濃度は、典型的には約100mM〜約2M、好ましくは約200mM〜約1.5Mである。
【0104】
カチオン性脂質および核酸は、典型的には、合わせて約1:1〜約20:1、好ましくは約1:1〜約12:1、およびより好ましくは約2:1〜約6:1の電荷比(+/-)を産生する。これに加えて、溶液中の核酸の全濃度は、典型的には、約25μg/mL〜約1mg/mL、好ましくは約25μg/mL〜約200μg/mLであり、より好ましくは約50μg/mL〜約100μg/mLである。界面活性剤溶液中の核酸およびカチオン性脂質の組み合わせは、被覆複合体の形成にとって十分である期間、典型的には室温で維持される。または、核酸およびカチオン性脂質は、界面活性剤溶液の中で合わせ、約37℃までの温度に温めることができる。温度に特に感受性である核酸の場合は、被覆複合体は、低温、典型的には約4℃までの温度で形成できる。
【0105】
好ましい態様では、形成された核酸脂質粒子内の脂質に対する核酸の比率(質量/質量比)は、約0.01〜約0.08の範囲であろう。原料の比率も、典型的には精製段階で未封入核酸ならびに空のリポソームが除去されることから、この範囲内にはいる。別の好ましい態様では、核酸脂質粒子調製は、全脂質10mg当たり約400μgの核酸を用いるか、または約0.01〜約0.08の、より好ましくは約0.04の対脂質核酸比を用いるが、これは核酸50μg当たり、総脂質1.25mgに相当する。
【0106】
次に、被覆核酸脂質複合体の界面活性剤溶液は非カチオン性脂質と接触させられ、核酸脂質複合体および非カチオン性脂質の界面活性剤溶液を提供する。この段階に有用な非カチオン性脂質としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、セファリン、カルジオリピンおよびセレブロシドが挙げられる。好ましい態様では、非カチオン性脂質は、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミドまたはスフィンゴミエリンである。これら脂質のアシル基は、C10〜C24炭素鎖を有する脂肪酸に由来するアシル基であることが好ましい。より好ましくは、アシル基は、ラウロイル、ミリストイル、パルミトイル、ステアロイルまたはオレオイルである。特に好ましい態様では、非カチオン性脂質は、1,2-sn-ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、コレステロールまたはそれらの混合物である。最も好ましい態様では、核酸脂質粒子は、インビボでの特性を高めた融合性粒子であり、非カチオン性脂質はDSPCまたはDOPEであろう。これに加えて、本発明の核酸脂質粒子は、コレステロールを更に含むことができる。別の好ましい態様では、非カチオン性脂質は、米国特許第5,820,873号および米国特許公開第20030077829号に記載されている、ジアシルグリセロール、セラミドもしくはリン脂質と複合したPEG 2000、PEG 5000およびポリエチレングリコールなどのポリエチレングリコールをベースとするポリマーを更に含むだろう。更に好ましい態様では、非カチオン性脂質は、ジアルキルオキシプロピルに複合したPEG 2000、PEG 5000およびポリエチレングリコールなどの、ポリエチレングリコールをベースとしたポリマーを更に含むだろう。
【0107】
本方法で使用する非カチオン性脂質の量は、典型的には核酸50μg当たり、総脂質で約2〜約20mgである。好ましくは、総脂質量は約5〜約10mg/50μg核酸である。
【0108】
核酸脂質複合体および非カチオン性脂質の界面活性剤溶液の形成に続いて、界面活性剤は、好ましくは透析によって取り除かれる。界面活性剤の除去により、脂質二重層の形成が起こり、これが核酸を取り囲み、約50nm〜約150nm、より典型的には約100nm〜約130nm、最も典型的には約110〜約115nmの大きさを持つ血清安定核酸脂質粒子を提供する。こうして形成された粒子は凝集せず、場合によっては分粒し、均一な粒子サイズを得る。
【0109】
血清安定核酸脂質粒子は、リポソームの分粒に利用できる任意の方法によって分粒できる。分粒は、所望のサイズ範囲および比較的狭い粒子サイズ分布を得るために実施してもよい。
【0110】
粒子の所望サイズへの分粒には、複数の技術が利用可能である。リポソームに使用され、かつ本発明の粒子へ応用可能な一つの分粒方法は、米国特許第4,737,323号に記載されている。水槽またはプローブ超音波のいずれかによって粒子懸濁液を超音波処理することで、約50nm未満の大きさの粒子を産生することができる。均質化は、剪断エネルギーによって大型の粒子をより小さな粒子に断片化する別の方法である。典型的な均質化手順では、粒子は、選択した粒子サイズ、典型的には約60〜80nmが観察されるまで、標準的なエマルジョンホモジェニナイザーに繰り返しかけられる。両方法では、粒子サイズ分布は、通常のレーザー光線粒子サイズ測定またはQELSによってモニタリングできる。
【0111】
粒子を小口径のポリカーボネート膜または非対称セラミック膜を通し押し出すことも、比較的よく画定されたサイズ分布に粒子サイズを減少させるのに有効な方法である。典型的には、懸濁液は、所望の粒子サイズ分布が得られるまで、一つまたは複数回膜を循環させる。粒子は、連続的に口径が小さくなる膜を通して、押し出し、サイズを段階的に減少させることを達成してもよい。
【0112】
別の一群の態様では、本発明は、次の段階を含む、血清安定核酸脂質粒子の調製方法を提供する:
(a)有機溶媒中のカチオン性脂質および非カチオン性脂質を含む混合液を調製する段階;
(b)核酸の水溶液を、段階(a)の該混合液と接触させて、清澄な単相を提供する段階;ならびに
(c)該有機溶媒を除去して、該核酸が脂質二重層に封入されており、かつ該粒子が血清安定でかつ約50〜約150nmの大きさを有する核酸脂質粒子の懸濁液を提供する段階。
【0113】
本態様の群において有用である核酸(またはプラスミド)、カチオン性脂質、および非カチオン性脂質は、上記界面活性剤透析法に関し記載されたものと同じである。
【0114】
有機溶媒の選択では、典型的には、溶媒の極性および粒子形成の後半段階での除去可能の容易さを考慮するであろう。可溶化剤としても用いられる有機溶媒は、核酸および脂質の、清澄な単相混合液を提供するのに十分な量で存在する。適切な溶媒は、クロロホルム、ジクロロメタン、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、シクロペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、またはプロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、イソブタノール、ペンタノールおよびヘキサノールなどの他の脂肪族アルコールを含むが、これらに限定されない。二つまたはそれ以上の溶媒の組合せも、本発明において使われてもよい。
【0115】
核酸とカチオン性および非カチオン性脂質の有機溶液との接触は、典型的には水溶液である核酸の第一溶液と、脂質の第二有機溶液とを一緒に混合することによって成し遂げられる。当業者は、この混合が、任意の、様々な方法、例えばボルテックスミキサーを用いるような機械的手段によって実施できることを了解するだろう。
【0116】
核酸を脂質有機溶液に接触させた後、有機溶媒を除去し、それにより血清安定核酸脂質粒子の水性懸濁液が形成される。有機溶媒を除去するのに用いる方法としては、典型的なものでは、減圧による蒸発または不活性ガス(例えば窒素もしくはアルゴン)の混合液への吹き込みが挙げられる。
【0117】
こうして形成された血清安定核酸脂質粒子は、典型的には、約50nmから約150nm、より典型的には約100nmから約130nm、最も典型的には約110nmから115nmに分粒される。さらにサイズを減少させるか、または粒子のサイズを均一化するために、上記のような分粒を実施できる。
【0118】
別の態様では、方法はさらに、本組成物を用いる細胞への送達の遂行に有用である非脂質ポリカチオンを含むだろう。好適な非脂質ポリカチオンの例としては、ヘキサジメトリンブロミド(Aldrich Chemical Co., Milwaukee, Wisconsin, USAより商品名POLYBRENE(登録商標)で販売されている)またはその他のヘキサジメトリンの塩が含むが、これらに限定されない。その他の好適ポリカチオンとしては、例えばポリ-L-オルニチン、ポリ-L-アルギニン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミンの塩を含む。
【0119】
ある態様では、核酸脂質粒子の形成は、単相系(例えばBligh and Dyer単相、または水性溶媒および有機溶媒の混合物)あるいは二相系のいずれかにおいて、好適に混合されることで実施できる。
【0120】
複合体の形成を単相系で行う場合は、カチオン性脂質および核酸は、それぞれある量の単相系に溶解される。二つの溶液を合わせて単一の混合液とし、この中で複合体が形成される。または、複合体は、カチオン性脂質が核酸(水相に存在する)に結合し、それを有機相に「引き込む」二相系で形成することもできる。
【0121】
別の態様では、本発明は、下記の段階を含む、血清安定核酸脂質粒子の調製法を提供する:
(a)核酸を、非カチオン性脂質および界面活性剤を含む溶液と接触させて核酸脂質混合液を形成する段階;
(b)カチオン性脂質を核酸脂質混合液と接触させて、核酸の負の電荷部分を中和し、核酸および脂質の電荷中和混合液を形成する段階;ならびに
(c)電荷中和混合液から界面活性剤を除去して、核酸が分解から保護されている核酸脂質粒子の溶液を提供する段階。
【0122】
一群の態様では、非カチオン性脂質および界面活性剤の溶液は水溶液である。核酸と、非カチオン性脂質および界面活性剤の溶液との接触は、典型的には、核酸の第一溶液および脂質と界面活性剤との第二溶液を一緒に混合することによって成し遂げられる。当業者は、この混合が、任意の、様々な方法、例えばボルテックスミキサーを用いるような機械的手段によって実施できることを了解するだろう。好ましくは、核酸溶液もまた界面活性剤溶液である。本方法に使用する非カチオン性脂質の量は、典型的には、使用するカチオン性脂質の量に基づいて決定され、かつ典型的にはカチオン性脂質の約0.2〜5倍、好ましくは使用するカチオン性脂質の量の約0.5〜約2倍である。
【0123】
いくつかの態様では、核酸は、例えば米国特許出願第09/744,103号に記載のように、事前に濃縮される。
【0124】
こうして形成された核酸脂質混合液をカチオン性脂質と接触させ、存在する核酸(または他のポリアニオン性物質)に伴う負の電荷部分を中和する。使用するカチオン性脂質の量は、典型的には、核酸の負電荷の少なくとも50%を中和するのに十分な量であろう。好ましくは、負電荷は、少なくとも70%が中和され、より好ましくは少なくとも90%が中和される。本発明に有用であるカチオン性脂質としては、例えばDLinDMA、およびDLenDMAが含まれる。これらの脂質および関連する類似体は、2004年6月7日出願の米国仮特許出願第60/578,075号;2004年9月17日出願の第60/610,746号;および2005年5月9日出願の第60/679,427号に記載されている。
【0125】
カチオン性脂質と核酸脂質混合物との接触は、数多くある技術のいずれか、好ましくはカチオン性脂質の溶液と核酸脂質混合物を含む溶液とを一緒に混合することによって成し遂げられる。二つの溶液を混合すること(または任意の別の様式で接触させること)により、核酸に伴う負電荷部分は中和される。それでもなお、核酸は非凝縮状態を保ち、親水性の特徴を獲得する。
【0126】
カチオン性脂質を核酸脂質混合物と接触させた後、界面活性剤(または界面活性剤と有機溶媒との組み合わせ)を除去し、それにより核酸脂質粒子を形成する。界面活性剤の除去に用いる方法としては、典型的なものとして透析を含む。有機溶媒が存在する場合は、除去は、典型的には、減圧での蒸発、または不活性ガス(例えば窒素もしくはアルゴン)の混合液への吹き込みによって成し遂げられる。
【0127】
こうして形成した粒子は、典型的には約50nm〜数ミクロン、より典型的には約50nm〜約150nm、よりさらに典型的には約100nm〜約130nm、最も典型的には約110nm〜約115nmの大きさであろう。さらにサイズを減少させるか、粒子のサイズを均一にするために、核酸脂質粒子を超音波処理、濾過、またはリポソームの調合に用いられかつ当業者に公知であるその他の分粒技術に供することができる。
【0128】
別の態様では、方法はさらに、本組成物を用いた細胞のリポフェクションの実施に有効である非脂質ポリカチオンを加えることを含む。好適な非脂質ポリカチオンの例としては、ヘキサジメトリンブロミド(Aldrich Chemical Co., Milwaukee, Wisconsin, USAより(商品名POLYBRENE(登録商標)で販売されている)またはヘキサジメトリンのその他の塩を含む。その他の好適ポリカチオンとしては、例えばポリ-L-オルニチン、ポリ-L-アルギニン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ポリアリルアミンおよびポリエチレンイミンの塩を含む。これらの塩の付加は、粒子が形成された後が好ましい。
【0129】
別の局面では、本発明は、下記の段階を含む核酸脂質粒子の調製法を提供する:
(a)溶液中で、ある量のカチオン性脂質を核酸と接触させ、疎水性の核酸脂質複合体を提供する段階:溶液は、約15〜35%の水、約65〜85%の有機溶媒、および約0.85〜約2.0の+/-電荷比を生ずるのに十分な量のカチオン性脂質を含む;
(b)溶液中で、疎水性の核酸脂質複合体を、非カチオン性脂質と接触させ、核酸脂質混合液を提供する段階;ならびに
(c)核酸脂質混合液から有機溶媒を除去して、分解から核酸が保護されている核酸脂質粒子を提供する段階。
【0130】
本発明のこの局面に有用である核酸、非カチオン性脂質、カチオン性脂質および有機溶媒は、界面活性剤を用いる上記の方法に関し記載したものと同一である。一群の態様では、段階(a)の溶液は、単相である。別の群の態様では、段階(a)の溶液は、二相である。
【0131】
好ましい態様では、非カチオン性脂質は、ESM、DOPE、DOPC、ポリエチレングリコールベースのポリマー(例えばPEG 2000、PEG 5000、PEG修飾されたジアシルグリセロールまたはPEG修飾されたジアルキルオキシプロピル)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、DPPE、DMPE、16:0 モノメチルホスファチジルエタノールアミン、16:0 ジメチルホスファチジルエタノールアミン、18:1 トランスホスファチジルエタノールアミン、18:0 18:1 ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、16:0 18:1 ホスファチジルエタノールアミン、DSPE、コレステロールあるいはそれらの組み合わせである。さらに他の好ましい態様では、有機溶媒は、メタノール、クロロホルム、塩化メチレン、エタノール、ジエチルエーテルまたはそれらの組み合わせである。
【0132】
一つの態様では、核酸は、干渉RNAが転写されるプラスミドである;カチオン性脂質は、DLindMA、DLenDMA、DODAC、DDAB、DOTMA、DOSPA、DMRIE、DOGSまたはそれらの組み合わせである;非カチオン性脂質は、ESM、DOPE、DAG-PEG、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、DPPE、DMPE、16:0 モノメチルホスファチジルエタノールアミン、16:0 ジメチルホスファチジルエタノールアミン、18:1 トランスホスファチジルエタノールアミン、18:0 18:1 ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、16:0 18:1 ホスファチジルエタノールアミンDSPE、コレステロールまたはそれらの組み合わせである(例えばDSPCおよびPEG-DAA);かつ有機溶媒は、メタノール、クロロホルム、塩化メチレン、エタノール、ジエチルエーテルまたはそれらの組み合わせである。
【0133】
上記のように、核酸とカチオン性脂質との接触は、典型的には、核酸の第一溶液と脂質の第二溶液を一緒に混合することによって、好ましくはボルテックスミキサーによるような機械的手段によって成し遂げられる。生じた混合液は、上記の複合体を含有する。次に、これら複合体は、非カチオン性脂質の付加と、有機溶媒の除去によって粒子に変換される。非カチオン性脂質の付加は、典型的には、複合体を含有する混合液に非カチオン性脂質を単純に付加することによって成し遂げられる。付加を逆にもし得る。続く有機溶媒の除去は、当業者公知であり、上記した方法によっても成し遂げることができる。
【0134】
本発明のこの局面に用いられる非カチオン性脂質の量は、典型的には、電荷中和された核酸脂質複合体を提供するのに用いられるカチオン性脂質の約0.2〜約15倍(モルベースで)である。好ましくは、この量は、使用したカチオン性脂質の量の約0.5〜約9倍である。
【0135】
さらに別の局面では、本発明は、上記の方法で調製された核酸脂質粒子を提供する。これらの態様では、核酸脂質粒子は、正味の電荷が中性であるか、より高い遺伝子リポフェクション活性を持つ粒子を提供する総電荷を担持するかのいずれかである。好ましくは、粒子の核酸成分は、望ましくないタンパク質の産生を干渉する核酸である。好ましい態様では、核酸は干渉RNAを含み、非カチオン性脂質はエッグスフィンゴミエリンであり、カチオン性脂質はDLinDMA、またはDLenDMAである。好ましい態様では、核酸は干渉RNAを含み、非カチオン性脂質は、DSPCとコレステロールとの混合物であり、カチオン性脂質は、DLinDMAまたはDLenDMAである。別の好ましい態様では、非カチオン性脂質は、コレステロールをさらに含んでもよい。
【0136】
SNALP-CPL(CPL含有SNALP)を作製するための各種一般法を、本明細書で論ずる。二つの一般的技術として、「後挿入」技術、即ちCPLの、例えば事前形成したSNALPへの挿入、ならびにCPLが、例えばSNALP形成段階の間に、脂質混合体に含める「標準」技術を含む。後挿入技術は、SNALP二重膜の外面に主にCPLを有するSNALPを生じ、一方標準技術は、内面および外面の両方にCPLを有するSNALPを提供する。方法は、リン脂質から作られた小胞(コレステロールを含有できる)、ならびにPEG脂質(PEG-DAAおよびPEG-DAGのような)を含有する小胞に特に有用である。SNALP-CPLの作製方法は、例えば米国特許第5,705,385号、第6,586,410号、第5,981,501号、第6,534,484号;第6,852,334号;米国特許公開第20020072121号;と共に国際公開公報第00/62813号においても教示される。
【0137】
A. 核酸脂質粒子の投与
本発明の核酸脂質粒子は、単独で、または投与経路および標準的な医薬的慣行に従って選択された、生理学的に許容される担体(生理学的食塩水またはリン酸緩衝液)との混合物中のいずれかで投与できる。一般的には、標準の生理食塩水が薬学的に許容される担体として用いられるであろう。その他の好適な担体としては、例えば水、緩衝化水、0.4%食塩水、0.3%グリシン等を含み、かつ安定性を高めるために、アルブミン、リポタンパク質、グロブリンなどの糖タンパク質を含む。
【0138】
薬学的担体は、一般的には、粒子形成後に加えられる。従って、粒子が形成された後に、粒子は、標準の生理学的食塩水のような薬学的に許容される担体の中で希釈することができる。
【0139】
医薬調合物中の粒子の濃度は極めて広く、即ち重量の約0.05%未満、通常は約2〜5%かまたは少なくとも2〜5%から、10〜30%程度までであり、選択された具体的な投与様式に従って、主に液体の容積、粘度等から選択されるだろう。例えば、濃度を高くして、治療に伴う液体の負荷を小さくしてもよい。これは、アテローム性動脈硬化症関連鬱血性心不全または重症高血圧の患者に特に望ましいだろう。または、刺激性脂質から構成された粒子は、低濃度に希釈し、投与部位の炎症を軽減できる。
【0140】
上記のように、いくつかの態様では、本発明の核酸脂質粒子は、PEG-DAA複合体を含む。PEG-DAA複合体と同様の様式で作用し、ならびに粒子の凝集を阻止するのに役立ち、かつ血中寿命を延ばすための手段および標的組織への核酸脂質粒子の送達を上げるための手段を提供するのに役立つ、その他成分を含むことが望ましいことが多い。このような成分としては、粒子と、PEG-ジアシルグリセロール、PEGセラミドまたはPEGリン脂質(PEG-PEなど)、ガングリオシドGM1修飾脂質、あるいはATTA脂質などのPEG脂質複合体を含むが、それらに限定されない。典型的には、粒子内の成分の濃度は、約1〜20%、より好ましくは約3〜10%である。
【0141】
本発明の薬学的組成物は、通常の、周知の滅菌技術により滅菌してもよい。水溶液は、使用のために包装するか、または無菌的条件で濾過して凍結乾燥でき、凍結乾燥製剤は、投与前に無菌水溶液と合わせられる。組成物は、例えば酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムなどのpH調節および緩衝化剤、ならびに張性調節剤等、生理学的状態に近づけるのに必要な、薬学的に許容される補助物質を含有できる。これに加えて、粒子懸濁液は、貯蔵中のフリーラジカルおよび脂質の過酸化損傷から脂質を保護する脂質保護剤を含んでよい。アルファトコフェロールなどの脂肪親和性フリーラジカルクエンチャー、およびフェリオキシアミンのような水溶性イオン特異的キレート化剤が好適である。
【0142】
それらの使用の別の例では、脂質-核酸粒子は、ゲル、オイル、乳剤等を含むが、それらに限定されない、広範囲の局所投与形態に組み入れることができる。例えば、核酸脂質粒子を含有する懸濁液は、局所用クリーム、ペースト、軟膏、ゲル、ローション等として調合および投与できる。
【0143】
ひとたび形成されれば、本発明の血清安定核酸脂質粒子は、核酸の細胞内への導入に有用である。それゆえに、本発明は、核酸(例えばプラスミドもしくはsiRNA)の細胞内への導入方法も提供する。方法は、まず上記のように粒子を形成すること、次に粒子を細胞と、核酸の細胞内への送達が起こるのに十分な時間接触させることによって、インビトロまたはインビボで実施される。
【0144】
本発明の核酸脂質粒子は、それらが混合または接触させられるほとんどいかなるタイプの細胞にも吸着させることができる。ひとたび吸着すると、粒子は細胞部分によりエンドサイトーシスされるか、脂質と細胞膜を交換するか、または細胞と融合するかのいずれかを成し得る。粒子の核酸部分の移送または取り込みは、これら経路の任意の一つによって起こる。特に、融合が起こる場合は、粒子膜は細胞膜内に組み入れられ、粒子の内容物は細胞内液と合わさる。
【0145】
本発明のERPアッセイを使用して、SPLPまたは他の脂質をベースとする担体システムのトランスフェクション効率を最適化することができる。より具体的には、ERPアッセイの目的は、SPLPの様々なカチオン性脂質および補助脂質成分の効果を、エンドソーム膜への結合/取り込み、または融合/不安定化に対するそれらの相対的効果に基づいて区別することである。このアッセイにより、SPLPまたは他の脂質をベースとする担体システムの各成分がトランスフェクション効率にどれだけ効力を発揮しているか定量的に決定することができ、それによってSPLPまたはその他脂質をベースとする担体システムを最適化できる。本明細書での説明では、エンドソーム放出パラメータ、またはERPは、次のように定義される:

【0146】
任意のレポーター遺伝子(例えばルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、グリーン蛍光タンパク質等)も用いることができることは、当業者にとって容易に明らかになるだろう。これに加えて、もし投与が細胞内への取り込みを抑制または妨害するのであれば、脂質構成成分(または、SPLPもしくは脂質ベース調合物のいずれかの構成成分)を検出可能な標識で標識することもできる。本発明のERPアッセイを用いることで、当業者は様々な脂質構成成分(例えばカチオン性脂質、非カチオン性脂質、PEG脂質誘導体、PEG-DAA複合体、ATTA脂質誘導体、カルシウム、CPL、コレステロール等)の細胞取り込みおよびトランスフェクション効率に及ぼす影響を評価でき、それによってSPLPまたはその他脂質ベースのキャリアシステムを最適化できる。様々なSPLPまたはその他脂質ベース調合物それぞれについてERPを比較することによって、最適化されたシステム、例えば最高のトランスフェクション効率と相まって、最大の細胞内取り込みを示すSPLPまたはその他脂質ベースの調合物を容易に決定できる。
【0147】
本発明のERPアッセイを実施するための好適な標識物としては、蛍光色素(例えばフルオロセイン、ならびにフルオロセインイソチオシアネート(FITC)およびOregon Green(商標)などの誘導体;ローダミン、およびテキサスレッド、テトラローダミンイソチオシアネート(TRITC)などの誘導体、ジゴキイシゲニン、ビオチン、フィコエリスリン、AMCA、CyDyes(商標)等の分光標識物;3H、125I、35S、14C、32P、33P等の放射性標識物;西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素;金コロイドまたは着色ガラス製ビーズもしくはポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックス等などのプラスチック製ビーズなどの分光比色標識を含むが、これらに限定されない。標識は、当技術分野公知のいずれかの手段によってSNALP、SPLP、または他の脂質ベースのキャリアシステムの成分に直接、または間接的にカップリングできる。上記に示したように、極めて多様な標識を用いることができ、標識は必要とする感度、SNALPとの複合の容易さ、安定性要求、および利用できる装置および消耗品に拠って選ばれる。
【0148】
VI. カチオン性脂質含有リポソーム
上記SNALP調合物に加えて、本発明のカチオン性脂質(即ち、式Iまたは式IIのカチオン性脂質)を、空のリポソーム、または一もしくは複数の生物活性薬剤を含有するリポソームのいずれかの調製に用いることができる。
【0149】
A. リポソーム調製
リポソームを調製するための種々な方法が、例えばSzoka et al., Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 9:467 (1980)、米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号、第4,946,787号、国際公開公報第91/17424号、Deamer and Bangham, Biochim. Biophys. Acta, 443:629-634 (1976); Fraley et al., PNAS. USA, 76:3348-3352 (1979); Hope et al., Biochim. Biophys. Acta, 812:55-65 (1985); Mayer et al., Biochim. Biophys. Acta, 858:161-168 (1986); Williams et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 85:242-246 (1988)、教本Liposomes, Marc J. Ostro, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, 1983, Chapter 1およびHope et al., Chem. Phys. Lip., 40:89 (1986)に記載のように利用可能である。好適な方法は、超音波処理、押出し、高圧/均質化、マイクロフルイダイゼーション、界面活性剤透析、小さなリポソーム小胞のカルシウム誘発融合およびエーテル注入法を含むがそれらに限定されず、その全ては当技術分野において周知である。
【0150】
一つの方法は、不均一なサイズの多重膜小胞を産生する。この方法では、小胞形成脂質は、好適な有機溶媒または溶媒系に溶解してから、真空下または不活性ガス下で乾燥して薄層脂質フィルムを形成する。望ましければ、フィルムを第三級ブタノールなどの好適溶媒に再溶解し、次に凍結乾燥し、より水和が容易である粉末状のより均一な脂質混合物に形成してもよい。このフィルムに水性緩衝化溶液を被せ、一般的には15〜60分間かけて撹拌しながら水和する。生じた多重膜小胞のサイズ分布は、より強い撹拌条件下で脂質を水和するか、またはデオキシコール酸などの可溶化界面活性剤を加えることによって、より小さなサイズにシフトできる。
【0151】
単層小胞は、超音波処理または押出しによって調製できる。超音波処理は、一般的には、Bransonチップ超音波発生装置などのチップ型超音波発生器を用いて、氷槽内で実施される。典型的には、懸濁液を、激しい超音波サイクルにかける。押出しは、Lipex Biomembraneエクストルーダーなどの生体膜押出機を用いて行ってもよい。押出しフィルターの規定の孔径により、指定サイズの単層リポソーム小胞が生成される得る。リポソームは、Norton Company, Worcester MAから市販されているCeraflow Microfilterなどの非対称型セラミックフィルターを通して押し出すことによっても形成することできる。単層小胞は、さらに、リン脂質をエタノールに溶解して、次に緩衝液中に脂質を噴射することにより、脂質を自発的に単層小胞に形成させて作製することもできる。また、リン脂質は、例えばコール酸塩、Triton Xまたはn-アルキルグルコシドなどの界面活性剤に溶解することもできる。溶解した脂質界面活性剤ミセルに薬物を加えた後、界面活性剤は、透析、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー、遠心分離および限外濾過を含む、多くの可能な方法のいずれかによって取り除かれる。
【0152】
リポソーム調製に続いて、形成中一定のサイズに作られなかったリポソームは、リポソームのサイズを望ましいサイズ範囲かつ比較的狭い分布を達成するようにサイズ決めしてよい。約0.2〜0.4ミクロンのサイズ範囲は、通常のフィルターを通した濾過によるリポソーム懸濁液の滅菌を可能にする。リポソームのサイズが約0.2〜0.4ミクロンまで小さくされていれば、フィルター滅菌法をハイスループットベースで実施できる。
【0153】
リポソームを所望のサイズにサイズ決めするための種々な技術が利用可能である。サイズ決めの一つの方法は、米国特許第4,737,323号に記載されている。水槽またはプローブ超音波処理のいずれかによるリポソーム懸濁液の超音波処理は、さらにサイズを、約0.05ミクロン未満の小さな単層小胞まで小さくする。均質化は、剪断エネルギーに頼って大きなリポソームをより小さなものに断片化する別の方法である。典型的な均質化操作では、多重膜小胞は、選択されたリポソームのサイズ、典型的には約0.1〜0.5ミクロンが観察されるまで、標準的なエマルジョンホモジナイザーに繰り返しかけられる。リポソーム小胞のサイズは、Bloomfield, Ann. Rev. Biophys. Bioeng., 10:421-450 (1981)に記載されている準電光散乱(QELS)によって決定できる。リポソームの平均直径は、形成されたリポソームを超音波処理することによって小さくしてもよい。間欠的な超音波サイクルとQELS評価を交互に行うことで、効率的なリポソーム合成を行うことができる。
【0154】
リポソームを小孔性ポリカーボネート膜または非対称性セラミック膜を通して押し出すことも、リポソームのサイズを比較的良く画定されたサイズ分布まで小さくするのに有効な方法である。典型的には、懸濁液を、所望のリポソームサイズ分布が得られるまで、膜を通し一回または複数回循環させる。リポソームを、孔が連続的に小さくなる膜を通して押し出して、リポソームのサイズが徐々に小さくなるのを達成するようにしてもよい。本発明での使用に関しては、約0.05ミクロン〜約0.40ミクロンの範囲のサイズを有するリポソームが好ましい。特に好ましい態様では、リポソームは約0.05〜0.2ミクロンの間である。
【0155】
好ましい態様では、空のリポソームは、当業者に公知である通常の方法を用いて調製される。
【0156】
B. 送達小胞としてのリポソームの使用
本発明の薬物送達組成物(例えばリポソーム、ミセル、脂質-核酸粒子、ビロゾーム等)は、治療薬または生物活性薬剤の全身または局所送達に有用であり、また診断アッセイにも有用である。
【0157】
以下の論議は、一般的にはリポソームを指している。しかしながら、この同じ論議が、本発明の別の薬物送達システム(例えばミセル、ビロゾーム、リポプレックス、核酸脂質粒子等であり、それらは全て、本明細書に記載の式IまたはIIのカチオン性脂質を用いて有利に形成することができる)にも完全に適用できることは、当業者には容易に明らかになると考えられる。
【0158】
治療薬または生物活性薬剤の送達のためには、カチオン性脂質含有リポソーム組成物に治療薬を加え、治療を必要とする被検体に投与できる。本発明の組成物および方法を用いて投与される治療薬は、治療対象の疾患にとって適切な治療薬として選択される任意の様々な薬物でよい。多くの場合、薬物は、ビンクリスチン(ならびに他のビンカアルカロイド)、ドキソルビシン、ミトキサントロン、カンプトテシン、シスプラチン、ブレオマイシン、シクロホスファミド、メトトレキセート、ストレプトゾトシン等の抗腫瘍剤であると考えられる。特に好ましい抗腫瘍剤としては、例えばアクチノマイシンD、ビンクリスチン、ビンブラスチン、シスチンアラビノシド、アントラサイクリン、アルキル化剤、白金化合物、抗代謝薬、ならびにメトトレキセートおよびプリンおよびピリミジン類似体などのヌクレオシド類似体を含む。本発明の化合物および方法を用いて、特定の組織に抗感染薬を送達することも望ましいと考えられる。本発明の組成物は、下記を含むが、それらに限定されない、他の薬物の選択的送達のために用いることもできる:局所麻酔薬、例えばジブカインおよびクロロプロマジン;β-アドレナリン作用ブロッカー、例えばプロパノロール、チモロールおよびラベトロール;高血圧治療薬、例えばクロニジンおよびヒドララジン;抗抑うつ剤、例えばイミプラミン、アミトリプチリンおよびドキセピム(doxepim);抗発作薬、例えばフェニトイン;抗ヒスタミン剤、例えばジフェンヒドラミン、クロロフェニリミンおよびプロメタジン;抗生物質/抗菌剤、例えばゲンタマイシン、シプロフロキサシンおよびセフォキシチン;抗真菌剤、例えばミコナゾール、テルコナゾール、エコナゾール、イソコナゾール、ブタコナゾール、クロトリマゾール、イトラコナゾール、ナイスタチン、ナフチフィンおよびアンフォテリシンB;抗悪寄生虫薬、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、免疫調節剤、神経伝達物質アンタゴニスト、緑内障治療薬、ビタミン、鎮静剤および造影剤。
【0159】
上記のように、カチオン性脂質は、細胞内でのいくつかのタンパク質の産生を誘導または阻止することを意図した治療遺伝子またはオリゴヌクレオチドの送達に用いることができる。核酸は負に帯電しており、正電荷成分と組み合わさり、上記核酸の調合物および細胞送達に好適なSPLPを形成することができる。
【0160】
本発明のカチオン性脂質の別の臨床的応用は、動物およびヒト両方の免疫用アジュバントとしての応用である。ジフテリア毒素、コレラ毒素、寄生虫抗原、ウイルス抗原、免疫グロブリン、酵素および組織適合性抗原などのタンパク質抗原を、免疫を目的として、本発明のカチオン性脂質を含有するリポソーム内に組み入れる、またはその上に結合することができる。
【0161】
本発明のカチオン性脂質を含有するリポソームはまた、適切なリンパ器官を標的として免疫応答を刺激するワクチンのための担体としても特に有用である。
【0162】
本発明のカチオン性脂質を含有するリポソームはまた、関心対象の細胞に選択的に免疫抑制または免疫刺激作用物質を送達するベクターとしても用いることができる。例えば、本発明のリポソームを用いて、マクロファージ活性を抑制するのに有用なグルココルチコイドかつマクロファージを活性化するリンフォカインを送達できる。
【0163】
本発明のカチオン性脂質を含有しかつ標的分子を含有するリポソームは、多くの生物学的活性を選択的に調節するために用いることができる。例えば、特定の抗原を組み入れたリポソームは、該抗原に特異的に結合する表面抗体を提示しているB細胞の増殖を刺激し、それにより該抗原に特異的な免疫反応を誘発するのに用いることができる。別の例では、成長因子またはリンフォカインをリポソーム表面に組み入れたリポソームは、これら因子に対し適切なレセプターを発現している細胞を刺激するように仕向ける。このやり方により、治療レジメン(例えば癌治療)の一部として骨髄細胞の増殖を刺激できる。
【0164】
本発明のカチオン性脂質を含有するリポソームは、哺乳動物内の細胞および組織を含む、細胞または組織への任意の生成物(例えば核酸を含む治療薬、診断薬、標識または他の化合物)の送達に用いることができる。
【0165】
ある態様では、本発明のリポソームを、ある細胞タイプまたは組織に特異的な標的化成分を用いて、標的化することが望ましい。リガンド、細胞表面レセプター、糖タンパク質、ビタミン(例えばリボフラビン)およびモノクローナル抗体などの様々な標的化成分を用いたリポソームの標的化がこれまで報告されている(例えば米国特許第4,957,773号および第4,603,044号を参照されたい)。標的化成分は、タンパク質全体またはその断片を含むことができる。
【0166】
標的化メカニズムは、一般的には、標的作用物質を、標的化成分が標的と、例えば細胞表面レセプターと相互作用できるようにリポソームの表面上に配置することを必要とする。一つの態様では、リポソームは、リポソーム形成時に膜の中に連結部分を取り込むように設計される。連結部分は、膜内にしっかり埋め込まれ、固定される親油性部分を有していなければならない。それはまた、リポソームの水性表面上にあって、化学的に利用できる親水性部分も有していなければならない。親水性部分は、その部分と標的作用物質とが安定した化学結合を形成するように、作用物質に対し化学的に好適であるものが選択される。それゆえに、連結部分は通常、リポソーム表面から外に伸びており、標的作用物質を正しく位置づけるように形成されている。いくつかの例では、標的作用物質を連結部分に直接結合できるが、多くの場合は、「分子架橋」として作用する第三の分子を用いることがより好適である。架橋は、連結部分とリポソーム表面外にある標的作用物質とを結び付けており、それにより標的作用物質は、細胞標的と自由に相互作用できるようになる。
【0167】
標的作用物質をカップリングするための、標準的な方法を用いることができる。例えば、標的作用物質の付着のために活性化できるホスファチジルエタノールアミン、または脂質誘導体化ブレオマイシンなどの誘導体化親油性化合物を用いることができる。抗体標的化リポソームは、例えばプロテインAを組み入れたリポソームを用いて構築することができる(Renneisen, et al., J. Bio. Chem., 265:16337-16342 (1990) I: and Leonetti, et al., PNAS USA 87:2448-2451 (1990)を参照されたい)。標的化成分の例としては、新生物または腫瘍と関連する抗原を含む、細胞成分に特異的な他のタンパク質も含むことができる。標的化成分として使用するタンパク質は、共有結合を介してリポソームに結合することができる。Heath, Covalent Attachment of Proteins to Liposomes, 149 Methods in Enzymology 111-119 (Academic Press, Inc. 1987)を参照されたい。その他の標的化の方法としては、ビオチン-アビジンシステムが挙げられる。
【0168】
いくつかの例では、リポソームの診断標的化を連続して用い、標的細胞または組織を処理することができる。例えば、トキシンを標的リポソームにカップリングした場合、トキシンは、腫瘍性物細胞などの標的細胞を破壊するのに有効であり得る。
【0169】
C. 診断薬としてのリポソームの使用
本発明のカチオン性脂質を用いて調製した薬物送達組成物、例えばリポソームは、腫瘍、炎症を起こした関節、障害等を含む様々な疾患状態の診断画像化を容易にするマーカーで標識できる。典型的には、これらの標識は、放射性マーカーであるが、蛍光標識も用いることができる。ガンマ線を放出する放射性同位元素の使用は、シンチレーションウェルカウンターで容易に測定でき、測定前に組織を均質化する必要がなく、またガンマカメラを使って画像化できることから、特に有利である。
【0170】
γ線またはポジトロン放射ラジオアイソトープは、99Tc、24Na、51Cr、59Fe、67Ga、86Rb、111In、125Iおよび195Ptなどγ放射として;ならびに68Ga、82Rb、22Na、75Br、122Iおよび18Fなどポジトロン放射として、典型的に使用される。リポソームは、磁気共鳴映像法(MRI)または電子スピン共鳴(ESR)を用いるようなインビボ診断の目的のために、常磁性同位元素でも標識できる。例えば、米国特許第4,728,575号を参照されたい。
【0171】
D. リポソームへの付加
通常の薬物をリポソーム内に付加する方法としては、例えば封入技術、二重層内挿入および膜電位差付加法がある。
【0172】
一つの封入技術では、薬物およびリポソーム成分は、全ての種が混和できる有機溶媒に溶解し、乾燥フィルムに濃縮する。次に緩衝液を乾燥フィルムに加えて、小胞壁内に薬物を取り込んだリポソームを形成する。または、薬物を緩衝液内に入れてから、脂質成分だけの乾燥フィルムに加えることもできる。この様式の場合、薬物はリポソームの水性内部に封入されるようになる。リポソーム形成に用いる緩衝液は、生物学的に適合した任意の緩衝液でよく、例えば、等張食塩水、リン酸緩衝化食塩水、または他の低イオン強度緩衝液であり得る。一般的には、薬物は、約0.01ng/mL〜約50mg/mLの量で存在する。こうして得られた、薬物が水性内部または膜内に取り込まれている生じたリポソームは、その後上記のようにしてサイズ決めされる。
【0173】
膜電位差付加法は、米国特許第4,885,172号、第5,059,421号および第5,171,578号に詳しく記載されている。簡単に説明すると、膜電位差付加法は、適切な水性媒体中に溶解したときに荷電状態で存在できるものであれば、実質的に任意の通常の薬物にも用いることができる。好ましくは、薬物は比較的親油性であり、リポソーム膜内に分配されると考えられる。膜電位差は、リポソームまたはタンパク質リポソーム複合体の二重層を横切って作製され、薬物は膜電位差によってリポソーム内に付加される。膜電位差は、膜を横切る、一つまたは複数の電荷種(例えばNa+、K+および/またはH+)の濃度勾配を作製することによって生成する。この濃度勾配は、様々な内部および外部媒体を有するリポソームを産生することで生じ、それに伴うプロトン勾配を有する。このとき薬物の蓄積は、Henderson-Hasselbach方程式で推測される様式で発生し得る。
【0174】
本発明のリポソーム組成物は、標準的技術に従い被検体に投与できる。好ましくは、リポソーム組成物の薬学的組成物は、非経口的、すなわち腹腔内、静脈内、皮下または筋肉内に投与される。より好ましくは、薬学的組成物は、大量注射により静脈投与される。本発明での使用に好適な調合物は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, Pa., 17th ed. (1985)に見出される。薬学的組成物は、例えば様々な状態の診断、様々な疾患状態(炎症、感染症(ウイルスおよび細菌感染症の両方)、新形成、癌等)の治療に用いることができる。
【0175】
好ましくは、薬学的組成物は静脈内に投与される。従って、本発明は、許容可能な担体、好ましくは水性担体中に懸濁したリポソーム溶液を含む、静脈内投与のための組成物を提供する。様々な水性担体、例えば水、緩衝用水、0.9%等張食塩水等を用いることができる。これら組成物は、通常の、周知滅菌技術で滅菌できるが、または濾過滅菌してもよい。生じた水溶液は、そのまま使用するために包装しても、または凍結乾燥してもよく、凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌水溶液と合わせてもよい。組成物は、pH調整および緩衝化剤、浸透圧調整剤、湿潤剤等などの、適切な生理学的条件に近づけるために必要な薬剤学的に許容される補助物質、例えば、酢酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリル酸ソルビタン、トリエタノールアミンオレエート等を含有してもよい。
【0176】
医薬調合物中のリポソーム組成物の濃度は、極めて広範囲で変動し、すなわち重量の約0.05%未満から、通常は約2〜5%かまたは少なくとも約2〜5%から10〜30%程度までであり、選択された具体的な投与形態に従って、主に液体の容積、粘度等により選択される。診断目的では、投与される組成物の量は、使用する具体的標識(すなわち放射線標識、蛍光標識等)、診断対象の疾患状態、および医師の判断に依存するが、一般的には約1〜約5mg/kg体重であると考えられる。
【0177】
実施例
発明を、以下の実施例を用いてより詳しく説明する。以下の実施例は例示を目的として提供するものであり、いかなる形でも、本発明を制限すること意図したものではない。当業者は、実質同一の結果を生ずる変更または改良が可能である、様々な重要でないパラメータを容易に認識すると考えられる。
【0178】
実施例1:材料および方法
材料:DPPS、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)およびコレステロールは、Avanti Polar Lipid(Alabaster, AL)より購入した。TNSは、Sigma-Aldrich Canada(Oakville, ON)より得た。RiboGreenは、Molecular Probes(Eugene, OR)より得た。アルキルメシレートは、Nu-Chek Prep, Inc. (Elysian, MN, USA)から購入した。siRNA(抗ルシフェラーゼおよびミスマッチコントロール)は、Dharmacon (Lafayette, CO, USA)より購入した。抗ルシフェラーゼセンス配列は、

であった。抗ルシフェラーゼアンチセンス配列は、

であった。他の化学薬品は、全てSigma-Aldrich (Oakville, ON, Canada)より購入した。
【0179】
DSDMAおよびDODMAの合成: DSDMAおよびDODMAは、それぞれのアルキルブロミドを用いて、DOTMA前駆体の方法から導いた方法により合成した(Felgner et al., PNAS USA, 84, 7413-7417 (1987))。3-(ジメチルアミノ)-1,2-プロパンジオール(714mg、6mmol)および95%水素化ナトリウム(NaH、1.26g、50mmol)をベンゼン(30mL)中、アルゴン下に、30分間攪拌した。修正(オレイルまたはステアリルのいずれか)アルキルブロミド(5.0g、15mmol)を加え、反応液をアルゴン下に18時間還流した。次に反応混合液を、氷槽内で、エタノールをゆっくり加えクエンチングしながら冷却した。さらに150mLのベンゼンで希釈した後、混合液を蒸留水(2×150mL)およびブライン(150mL)で洗浄し、必要に応じてエタノール(約20mL)を用いて相分離を補助した。有機相を、硫酸マグネシウムで乾燥させ、蒸発させた。粗生成物を、シリカゲル(Kiesel Gel 60)カラムで0〜5%メタノールを含有するクロロホルムにより溶出し、精製した。カラム分画を、薄層クロマトグラフィー(TLC)(シリカゲル、クロロホルム/メタノール 9:1 v/v、モリブデン酸塩により視覚化)により分析し、純粋な生成物(Rf=0.5)を含有する分画をプールして、濃縮した。生成物は、30分間、60℃で、活性炭(1g)のエタノール(75ml)懸濁液中で攪拌することによって脱色した。活性炭は、セライトを通し濾過することで取り除き、エタノール溶液を濃縮して、典型的には2.4g (65%)の純粋な生成物を得た。

【0180】
DLinDMAおよびDLenDMAの合成: DLinDMAおよびDLenDMAは、DSDMAおよびDODMAと同様にして合成したが、アルキルブロミドの代わりにアルキルメシレートを使用した。一般的な合成プロトコールは、DSDMAおよびDODMAのものと同一であったが、同じモル比でブロミドをアルキルメシレートに代えた。活性炭による脱色工程は、ここでの生成物が共役二重結合を含むこと、および活性炭がこのような特徴を含む化合物を吸着することが予想されることから、省略した。収量は、典型的に2.0g(55%)であった。

【0181】
PEG2000-C-DMAの合成: PEG-C-DMAは次のようにして合成した。簡単に述べると、C14脂質アンカーを、まず3-アルキルオキシプロパン-1,2-ジオールのヒドロキシル基をミリスチルブロミドでアルキル化することによって調製した。それに続いて、アリル基をパラジウム触媒によって取り除き、C14ヒドロキシル脂質を得た。ヒドロキシル基を、メシル化およびアミノ化によって第一アミンに変換し、脂質アンカーである1,2-ジミリスチルオキシプロピル-3-アミンを得た。PEGとの複合は、モノメトキシポリ(エチレングリコール)(平均分子量2000)を過剰量のジホスゲンで処理してクロロホルメートを形成することによって実施した。C14アミン脂質アンカーを付加し、一晩攪拌し、本明細書ではPEG-C-DMAと呼ぶPEG2000-C-DMAを得た。
【0182】
SNALP調製: DSPC:Chol:PEG-C-DMA:カチオン性脂質(20:48:2:30モルパーセント)の脂質組成を有するSNALPは、エタノール希釈法による自発的小胞形成を用いて調製した[Jeffs et al., Pharm. Res. In Press (2005)]。サンプルを、向流限外濾過カートリッジ(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を用いて、100mLのPBS(20洗浄容積)に対し透析濾過し、Acrodisc 0.2μm Posidyneフィルター(Pall Corp., Ann Arbor, MI)を通し無菌濾過した。最終サンプルのsiRNA濃度は、RiboGreenアッセイおよびsiRNA標準曲線を用いて決定した。粒子サイズおよび多分散性は、Malvern Instruments Zetasizer 3000HSA(Malvern, UK)を用いて決定した。核酸封入は、RiboGreenアッセイを用いて決定し、Triton X-100存在下および非存在下での蛍光を比較した。RiboGreenの蛍光は、Varian Eclipse分光蛍光計(Varian Inc)を用い、λex=500nm、λem=525nmで測定した。
【0183】
TNSアッセイ: 20μMのSNALP脂質および6μMのTNSを、蛍光キュベットの中で、20mMリン酸ナトリウム、25mMクエン酸、20mM酢酸アンモニウムおよび150mMのNaClの溶液2mLと、pHを4.5〜9.5に変化させて混合した。蛍光を、各pHについて、Varian Eclipse分光蛍光計(Varian Inc)を用い、λex=322nm、λem=431nmに設定して決定した。次に、様々なpHにおける各システムの蛍光を、pH4.5の値に対し標準化した。pKa値は、存在する分子の50%が荷電を持つ点である。最小蛍光がゼロ電荷を表し、最大蛍光が100%電荷を表すとすることによって、pKaは、最小電荷および最大電荷の値のちょうど中間点のpHを測定することによって予測できる。
【0184】
31P核磁気共鳴分光測定: 多重膜小胞(MLV)は、DPPSおよびカチオン性脂質をモル比1:1で含むように調製した。これは、クロロホルム溶液から脂質を乾燥させ、10mmNMRチューブに移し、1.5mLの10mMクエン酸ナトリウム、pH4で水和することによって成し遂げた。1000スキャンに相当する自由誘導減衰(FID)を、3.0μs、パルス間遅延が1sの60o パルス、およびスペクトル幅25000Hzで得た。ゲーテッド2レベルプロトンデカップリングを用い、最低サンプル加熱での十分なデカップリングを保証した。フーリエ変換前に、50Hzのライン拡張に相当する対数増倍をFIDを適用した。サンプル温度(+/-1℃)は、Bruker B-VT1000可変温度ユニットを用いて制御した。化学シフトは、85%リン酸を外部標準として参照した。
【0185】
インビトロトランスフェクション: 細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(CanSera)および0.25mg/mL G418 (Invitrogen)を含有するMEM(Invitrogen)で培養した。Neuro2A-G細胞(安定にトランスフェクトされ、ルシフェラーゼを発現するNeuro2A細胞[R.E. Kingston, in Current Protocols in Molecular Biology, Vol.2, pp.9.1.4-9.1.9, John Wiley & Sons, Inc. (1997)]を、24ウェルプレートに4×104細胞/ウェルの濃度で接種し、一晩増殖させた。細胞を、用量0.0625〜1.0μg/mLの核酸(AntiLucアクティブコントロールまたはミスマッチコントロール)のSNALPで処理し、48時間、37℃および5%CO2でインキュベートした。次に細胞をPBSで洗浄し、0.1%のTriton X-100を含有する250mMのリン酸ナトリウム、200μLを用いて溶解した。各ウェルのルシフェラーゼ活性は、Luciferase Reagent(Promega)、および標準ルシフェラーゼタンパク質(Roche)を用いて決定した。各発光は、Berthold MicroLumatPlus LB96Vプレートルミノメーターを用いて測定した。得られたルシフェラーゼ活性は、次にMicro BCAアッセイキット(Pierce)を用いて、タンパク質量について標準化した。次に、各システムについて、コントロールに対するルシフェラーゼノックダウンを決定した。
【0186】
細胞取り込み: SNALPを、非交換性のトリチウム標識脂質コレステリルヘキサデシルエーテル(3H-CHE)(11.1μCi/μmol全脂質)を取り込ませて調製した[Bally et al., in Liposome Technology, Vol.III, pp.27-41, CRC Press (1993)]。Neuro2A細胞(ATCC、VA、USA)を、12ウェルプレートに、最小必須培地の中に1.6×105細胞の割合で接種した。翌日、培地を取り除き、0.5μg/mL核酸の放射線標識SNALPを含有する培地に交換した。24時間後、培地および取り込まれなかったSNALPを取り除き、付着細胞を優しく4回PBSで洗浄し、次にLysis Buffer(0.1% Triton X-100含有250mMリン酸)で溶解した。得られた細胞溶解物(500μL)を、5mLのPicofluor 40 (Perkin Elmer)の入ったガラス製シンチレーションバイアルに加え、Beckman LS6500シンチレーションカウンター(Beckman Instruments)を用いて3H-CHEを測定した。細胞溶解物のタンパク質含有量は、Micro BCAアッセイ(Pierce)を用いて測定した。取り込みは、細胞タンパク質1mg当たりの、細胞に加えられた全活性量のパーセンテージとして表した。
【0187】
Cy3標識siRNA含有SNALPの取り込み: SNALPは、フルオロフォアCy3(Cy3-siRNAはSirna Therapeutics Inc, Boulder, COより贈られた)で標識されたsiRNAを用い、前述のように調合した。封入、siRNA濃度および粒子サイズは、記載のようにして決定した。
【0188】
取り込み研究用に、8×104個のNeuro2A-G細胞を、4ウェルチャンバースライド(BD Falcon, Mississauga, ON)で、0.25mg/mLのG418を含有するMEMの中で一晩増殖させた。Cy3-siRNAを含有するDSDMA、DODMA、DLinDMAおよびDLenDMA SNALP、ならびに裸のCy3-siRNAおよび未標識のDSDMA SNALPを、細胞に0.5μg/mL siRNAで置いた。トランスフェクション培地と4時間インキュベーションした後、細胞をPBSで洗浄し、次にG418含有MEMで洗浄し、最後にPBSでもう一度洗浄した。次に細胞を、4%パラホルムアルデヒドのPBS溶液で、10分間、室温で固定した。細胞をPBSで洗浄し、300nMのDAPI(Molecular Probes, Eugene, OR)のPBSで5分間染色した。細胞をPBSで洗浄し、封入媒体ProLong Gold Antifade Reagent(Molecular Probes, Eugene, OR)を用い、カバースライドを被せた。細胞は、蛍光能力を持つよう改造したOlympus BX60 Microscopeを用いて観察した。細胞内のCy3蛍光は、ローダミンキューブセット(Microgen Optics, Redding, CA)を用いて視覚化し、DAPI蛍光は、DAPIキューブセット(Carsen Group, Markham, ON)を用いて視覚化した。デジタル画像は、Olympus DP70カメラシステムで捕捉した。細胞の写真は、Cy3蛍光検査の場合には露出時間1/4秒、およびDAPI蛍光を調べる場合には1/80秒で撮影した。
【0189】
実施例2:血清安定性のアッセイ
上記の技術に従って調合された脂質/核酸粒子は、様々な方法によって、血清安定性についてアッセイできる。
【0190】
例えば、典型的なDNase 1消化では、関心対象の粒子に封入された1μgのDNAを、総量100μLの5mM HEPES、150mM NaCl、10.0mM MgCl2、pH7.4の中でインキュベートする。DNase処理したサンプルは、100または10UのDNase I (Gibco-BRL)のいずれかで処理する。コントロール実験に1.0%のTriton X-100を加え、脂質調合物が酵素を直接不活性化しないことを確実にできる。サンプルは37℃で30分間インキュベートし、その後、500μLのDNAZOLを加え、さらに1.0mLのエタノールを加えてDNAを単離する。サンプルを、卓上型微量遠心機で、30分間、15,000rpmの遠心分離にかける。上清をデカントし、得られたDNA沈渣を80%エタノールで2回洗浄し、乾燥させる。このDNAを30μLのTE緩衝液に再懸濁する。このサンプル20μLを1.0%アガロースゲルに負荷し、TAE緩衝液を用いた電気泳動に供する。
【0191】
典型的な血清アッセイでは、遊離状態、封入されている、または封入+0.5% Triton X100のDNA 50μgを、小分けして1.5mLのEppendorfチューブに入れた。このチューブに、45μlの正常マウスまたはヒト血清、dH2O(最終容積を50μLにする)を加えた。チューブを、パラフィルムで密封し、37℃でインキュベートした。ヌクレアーゼで消化しなかった(標準物)の遊離状態、封入されている、または封入+0.5% Triton X100のサンプルを、Eppendorfチューブにいれた状態で液体窒素凍結し、-20℃で保存した。小分けサンプルを様々な時点で取り出し、プロテイナーゼK (133μg/mL)を含有するGDP緩衝液に加え、直ぐに液体窒素中で凍結して反応を停止した。全時点での採取が終了したら、サンプルを水槽中で、55℃でインキュベートしてプロテイナーゼKを活性化して、残った全てのエクソヌクレアーゼを変性させる。プロテイナーゼK消化したサンプルをポリアクリルアミドゲルにかけて、エクソヌクレアーゼ分解のレベルを評価した。
【0192】
上記開示の粒子は、このような処理の結果、たとえ100UのDNase 1が存在していても、DNA分解量(部分的または全部)が5%未満、好ましくは検出不可能な量であることを示すことにより、血清安定性を証明した。これは、完全に分解した遊離状態のDNA、およびそのような処理後もDNAが実質的(即ち20%を超える、多くは80%を超える)に分解したプラスミド/脂質複合体(DOTMAまたはDODAC:DOPE複合体など)と好対照である。
【0193】
実施例3:1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)および1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)の合成
3-(ジメチルアミノ)-1,2-プロパンジオール(714mg、6mmol)および95%水素化ナトリウム(NaH、1.26g、50mmol)を、ベンゼン(30mL)中、窒素下で30分間撹拌した。リノレイルメシレート(5.0g、15mmol)を加え、反応物を窒素下で3時間、還流した。次に、反応混合物をエタノールをゆっくり添加してクエンチングしながら氷槽内で冷却した。さらに150mLのベンゼンでの希釈に続いて、混合物液を蒸留水(2×150mL)およびブライン(150mL)で洗浄した。有機相を硫酸マグネシウム上で乾燥させ、蒸発させて粗生成物を得た。粗生成物は、0〜5%のメタノールのクロロホルム溶液で溶離するシリカゲル(Kiesel Gel 60)カラムにかけ精製した。カラム分画を、薄層クロマトグラフィー(TLC)(シリカゲル、クロロホルム/メタノール 9:1 v/v、モリブデン酸塩浸漬により視覚化)により分析し、精製した生成物含有分画(Rf=0.5)を貯留および濃縮した。
【0194】
DLinDMAの脱色および追加精製を、第二カラムを用いて実施したが、この場合は、20〜50%の酢酸エチルのヘキサン溶液で溶出した。カラム分画をTLC(シリカゲル、酢酸エチル/ヘキサン 1:1 v/v、モリブデン酸塩により視覚化)によって分析し、純粋な生成物含有分画(Rf=0.4)を貯留および濃縮した。本明細書記載の手順は、典型的には2.2g (60%)の純粋生成物を生じた。
【0195】
DLenDMAの合成では、リノレニルメシレートをリノレイルメシレートに代え、残りの合成、脱色および精製反応は上記通りに実施した。
【0196】
実施例4:不飽和脂質の調合物特性は、均一かつ再現性がある
本実施例は、本明細書記載のSNALP調合物の物理特性を示す。様々なカチオン性脂質を含有するSNALPを記載のようにして調製し、封入されたRNAおよび粒子サイズを評価した(下表1)。3種類の不飽和カチオン性脂質から、ほぼ同一サイズ(132〜140nm)の調合物が得られた。全ての調合物の多分散性は低く、粒子サイズの分布が狭いことを示した。最終粒子内へのRNA封入率は、合計で84〜85%であった。飽和脂質のDSDMAを用いて、SNALPへsiRNA封入を試みたところ、封入率67%の若干大型粒子(180nm)が形成された。
【0197】
封入パーセンテージは、RiboGreen蛍光アッセイを用い、存在する総核酸量に対する封入された核酸量を測定して決定した。粒子直径および多分散性は、Malvern Zetasizerを用いて測定した。値は、3回の実験の平均値であり、誤差は標準偏差である。

【0198】
実施例5:カチオン性脂質のpKaは、飽和度の影響を受ける
カチオン性脂質の見かけ上のpKaは、上記実施例1に記載のようにして決定された。我々の脂質pKa決定では、負の電荷を持つ、膜電位インジケータである(Bailey and Cullis, Biochemistry 33 12573-80 (1994))2-(p-トルイジノ)ナフタレン-6-硫酸を使用した。TNSは、正の荷電を有する膜に静電気的に引きつけられる。続いて脂質膜に吸着することにより、TNS付近の環境は急速により親油性となり、そうでない場合にはTNSの蛍光を消光する水分子を排除する。TNSは、正の電荷を有する膜ほど容易に吸着するため、TNSの蛍光は膜表面の正電荷のインジケータである。各SNALP調合物の表面pKa値は、TNS存在下に、局所pHを変化させることによって決定した。図5では、同様のpKa値(6.7〜7.0)を有する不飽和脂質を含有する調合物が、粒子が生理学的pHにおいては電荷的に中性であるが、エンドソームのpHでは正の電荷をもつようになることを示唆しているのが見て取れる。しかしながら、飽和脂質DSDMAは、約7.6というより高いpKaを持つ粒子を生成した。DSDMA含有SNALP粒子は、生理学的pHにおいて電荷を持つと予想された。
【0199】
図5に示す結果は、脂質のpKaが、それぞれ7.6、7.0、6.7および6.7のpKaを示すDSDMA、DODMA、DLinDMAおよびDLenDMAの飽和度と相関していることを証明している。
【0200】
実施例6:アルキル鎖飽和に伴って二重層から六方晶相への相転移温度は上昇する
相転移温度に関する飽和の意義を、31P-NMRを用いて調べた。アニオン性リン脂質/カチオン性脂質混合物での脂質多形性は、この方法を用いて他の人々により検証されており、リン脂質内のリン酸基の存在により助長されている(Epand et al., Chem. Phys. Lipids 57 75-80 (1991)); Felgner et al., PNAS USA 84 7413-7417 (1987))。NMRトレースの形状は、脂質の配置に応じて変化する。二重層構造は、低いフィールドショルダーを持つ高いフィールドピークを生ずる。しかしながら、相転移温度(Tc)より上では、脂質は融合HII相を採択し、低フィールド側に現れるピークのパターンは逆転する。これまでに31P-NMR研究は、ある温度(相転移温度、Tc)より上では、脂質が融合HII相を採択することを示している[Epand et al., Chem. Phys. Lipids 57 75-80 (1991); Felgner et al., PNAS USA. 84 7413-7417 (1987)]。二重層(Lα相)から融合HII相への変換に、より高い温度が必要なことは、低融合性二重層であることを示している。変換が起こる温度を決定することによって、脂質がHII相を形成する相対容易度、即ちそれらの「融合性」を決定できる。
【0201】
MLVは、アニオン性脂質DPPSを各カチオン性脂質と1:1のモル比で用いて調製した。MLVの31P-NMRスペクトルを、様々な温度で測定した。飽和した脂質DSDMAを含有するMLVは、50℃という高温においてさえも、融合HII相を採択したことを示す明確な兆候を全く示さなかった。しかしながら、DODMA(アルキル鎖当たり1つの二重結合)含有MLVは、30〜35℃の間の相転移温度を示した。第2二重結合の存在(DLinDMA)は、Tcをさらに20〜25℃の間まで下げたが、一方第3二重結合の組み込み(DLenDMA)による更なる効果はほとんどなかった。図6Aに見られるように、DSDMA/DPPS系では、該二重層のパターン(低いフィールドショルダーを持つ高フィールドピーク)は、30〜50℃の温度で起こる。それゆえに、DSDMAは、アニオン性脂質と一緒の場合、HII相の形成能力が極めて小さいと思われる。一つの二重結合を有するカチオン性脂質であるDODMAは、30〜35℃の間に転移温度を持つ(図6B)。DLinDMA(2つの二重結合)およびDLenDMA(3つの二重結合)系は、20〜25℃の間に、やや類似の転移温度を示す(図6Cおよび6D)。トレース6Cおよび6Dに見られる、中央の等方性ピークは、相転移温度を表してはおらず、むしろ調製物中にも存在する小さなリン脂質の小胞に由来するものであることに留意すべきである。高フィールドピーク/低フィールドショルダー(二重層相、低温)から低フィールドピーク/高フィールドショルダー(逆転六方晶相、より高い温度)への線形非対称のシフトは、相転移の指標である。これは、とりわけ、トレース6B(DODMA)に表れる。これらの結果に基づき、我々は、カチオン性脂質を含むSNALPの融合性の高さは次の順番であると仮定し:DSDMA<<DODMA<DLinDMA≒DLenDMA、かつ核酸送達に関するSNALPの潜在力は同様の階層(DSDMA<<DODMA<DLinDMA≒DLenDMA)を示すという仮説を立てた。
【0202】
実施例7:カチオン性脂質を含むSPLPに封入されたsiRNA送達後の、遺伝子発現のサイレンシング
本実施例は、下記を含むSNALPによるNeuro2A細胞のインビトロトランスフェクション後の、核酸の発現を比較した実験を記載する:(1)DODAC、DODMAまたはDLinDMA;(2)PEG-C-DMA;および(3)SNALPに封入されたルシフェラーゼに対するsiRNA二重鎖(即ち、次の配列:

を含み、

に相補的はDNA配列を標的化するsiRNA)。Neuro2A細胞は、CMVプロモータ(pLO55)制御下にあるルシフェラーゼをコードするプラスミドで安定にトランスフェクションされた。次に、安定にトランスフェクトされた細胞を下記を含むSNALPでトランスフェクトした:15、20、25、30、35または40%のDODAC、DODMAまたはDLinDMA;2%のPEG-C-DMA、およびSNALPに封入されているルシフェラーゼに対するsiRNA二重鎖。SNALPによるトランスフェクション48時間後に、ルシフェラーゼタンパク質の発現を測定した。30%DLinDMAを含むSNALPは、DODACまたはDODMAを含むSNALPに比べ、Neuro2A細胞でのルシフェラーゼ発現をより効率的に低下させた。これらの結果は、図6に示す。
【0203】
図6に示すように、SNALPを用いてルシフェラーゼ遺伝子に対するsiRNAを送達するルシフェラーゼ遺伝子サイレンシング実験の結果は、31P-NMRのデータを裏付けた。細胞を、4種類のカチオン性脂質(即ちDSDMA、DODMA、DLinDMAおよびDLenDMA)のそれぞれを含有するSNALPで処理した。48時間後、NMRにより融合性が低いことが示されているDSDMA含有SNALPは、ルシフェラーゼ遺伝子発現に対し影響を及ぼさなかった。これと対称に、HII相形成に影響しやすい不飽和脂質調合物は、ルシフェラーゼ遺伝子の有意なサイレンシングを生じた。さらには、サイレンシングの強さは、各カチオン性脂質の融合性HII相の形成性向に一致する。最も低い、見かけ上の相転移温度を持つ、最も融合能の高い脂質であるDLinDMAは、SNALPに組み入れた時に最大のノックダウンを生じ、ルシフェラーゼ発現は未処理のコントロールのわずか21%であった。これにDLenDNA調合物(32%)およびDODMA (54%)が続いた。ノックダウン効率とカチオン性脂質のHII相形成能力との間に観察された密接な対応関係は、この2つのパラメータが関連していることを示唆している。
【0204】
実施例8:不飽和カチオン性脂質を含有するSNALPは、高い遺伝子サイレンシング活性を示す
4種類のカチオン性脂質(即ち、DSDMA、DODMA、DLinDMAおよびDLenDNA)のそれぞれを含有するSNALPの、安定トランスフェクトNeuro2A細胞に遺伝子サイレンシングをもたらす能力について評価した。安定にトランスフェクトされ、ルシフェラーゼを発現しているNeuro2A細胞を、抗ルシフェラーゼsiRNAを含有するSNALPで、48時間処理した。遺伝子サイレンシング効率は、これら細胞に残存しているルシフェラーゼ活性を、ミスマッチsiRNAを含有するコントロールSNALPで処理した細胞に残存している該活性と比較することによって評価した。
【0205】
仮説を立てたように、ノックダウンの効率は、融合性逆転六方晶相形成の脂質の能力に一致することが見いだされた。飽和脂質DSDMAを含む調合物は、活性を全く示さなかった。脂質のアルキル鎖の不飽和度が増すとRNA干渉能力が増し、DLinDMA粒子は遺伝子発現の80%のノックダウンを生じた。31P-NMRは、DLinDMAが、一連のもののなかで最も低い相転移温度を有すること、従って、最も融合性の高い脂質であることを明らかにした。最も不飽和脂質であるDLenDMAを含む粒子は、DLinDMAを含有する粒子に比べ、若干効率で劣った。全ての結果は、t検定によって有意であることが分かった(0.5μg/mlの siRNA濃度においてP<0.05、および1.0μg/mlのsiRNA濃度においてP<0.01)。誤差バーは、n=3の標準偏差を表している。結果は、図7に示す。
【0206】
実施例9:各種SPLP調合物による器官のインビボトランスフェクション
本実施例は、15%DLinDMAを含むSPLPを用いた器官のインビボトランスフェクションを使用して、CMVプロモータの制御下のルシフェラーゼをコードするプラスミドを封入しているSPLPをNeuro2A腫瘍担持オスA/Jマウスに投与できることを証明する実験を記載する。SPLPの調合は下記の通りであった:

【0207】
ルシフェラーゼ遺伝子発現は、肝臓、肺、脾臓、心臓および腫瘍について、SPLP静脈投与48時間後に評価した。結果は、図8に示す。
【0208】
実施例10:追加のSPLP調合物による腫瘍のインビボトランスフェクション
本実施例は、DLinDMAまたはDODMA、およびPEG-C-DMAを様々なパーセンテージ(15%、10%、5%または2.5%)で含むSPLPを用いて、器官のインビボトランスフェクションを証明する実験を記載する。ルシフェラーゼをコードするプラスミドを封入しているSPLPを、Neuro2A腫瘍担持オスA/Jマウスに投与した。SPLPの調合は下記の通りであった:

【0209】
ルシフェラーゼ遺伝子発現は、SPLP静脈投与48時間後に、腫瘍について評価した。結果は、図9に示す。
【0210】
実施例11:PEG-C-DMAを含む脂質小胞の血液クリアランス
本実施例は、PEG-C-DMAを様々なパーセンテージで含む脂質小胞の血液クリアランス率を評価するために実施した実験を記載する。3H-CHE標識SPLP、SNALPまたは空小胞を、単一静脈投与量で、オスA/Jマウスに投与した。SPLPはカチオン性脂質のDODMAを含み、SNALPはカチオン性脂質DLinDMAを含んだ。脂質小胞の調合は下記の通りであった:

【0211】
マウスの血漿中に残存する注射投与した脂質小胞のパーセンテージを、3H-CHE-標識SPLP、SNALP、または空小胞を投与した後、1、2、4および24時間目に測定した。結果は、図10に示す。
【0212】
実施例12:PEG-C-DMAを含む脂質小胞の生体内分布
本実施例は、PEG-C-DMAを様々なパーセンテージで含む脂質小胞の生体内分布を評価するために実施した実験を記載する。3H-CHE標識SPLP、SNALPまたは空小胞を、単一静脈投与量で、Nuero 2A腫瘍担持オスA/Jマウスに投与した。SPLPはカチオン性脂質のDODMAを含み、SNALPはカチオン性脂質DLinDMAを含んだ。脂質小胞の調合は次の通りであった:

【0213】
注射投与した脂質小胞のパーセンテージを、3H-CHE-標識小胞投与48時後に、該マウスの肝臓、脾臓、肺および腫瘍について評価した。結果は、図11に示す。
【0214】
実施例13:遠位部腫瘍での遺伝子発現のサイレンシング
本実施例は、DLinDMAを含み、かつ抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入するSNALP投与後の、遠位部腫瘍での遺伝子サイレンシングを証明した実験を記載する。
【0215】
Neuro2A細胞を、CMVプロモータ(pLO55)の制御下のルシフェラーゼをコードするプラスミドで安定にトランスフェクトし、Neuro2A-G細胞を生成した。オスA/JマウスにNeuro2A-G細胞を接種した。抗ルシフェラーゼsiRNA配列(即ち、下記の配列:

を含み:

に相補的はDNA配列を標的化するsiRNA)を封入しているSNALPを、Neuro2A-G腫瘍担持A/Jマウスに静脈内投与した。SNALP調合物は下記の通りであった:

【0216】
ルシフェラーゼ遺伝子発現を、DLinDMAを含みかつ抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入しているSNALP投与48時間後に評価した。結果は、図12に示す。
【0217】
実施例14:インビトロでの、Neuro2A-G腫瘍細胞における遺伝子発現のサイレンシング
本実施例は、DLinDMAを含みかつ上記実施例3に記載の抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入しているSNALPと接触させた後の、哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングを証明する実験を記載する。Neuro2A細胞を、上記実施例3に記載のルシフェラーゼをコードするプラスミドで安定にトランスフェクトし、Neuro2A-G細胞を生成した。Neuro2A-G細胞を、SNALP調合物と24または48時間接触させた。SNALP調合物は、PEG-C-DLA(C12)またはPEG-C-DMA(C14)のいずれかを含み、かつ下記のものである:

【0218】
ルシフェラーゼ遺伝子発現を、Neuro2A-G細胞と、抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入しているSNALPと接触させた24または48時間後に測定した。結果は、図13に示す。
【0219】
実施例15:インビトロでの、Neuro2A-G腫瘍細胞における遺伝子発現のサイレンシング
本実施例は、DLinDMAを含み、上記実施例3に記載の抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入しているSNALPと接触させた後の、哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングを証明する実験を記載する。Neuro2A細胞を、上記実施例3に記載のルシフェラーゼをコードするプラスミドで安定にトランスフェクトし、Neuro2A-G細胞を生成した。Neuro2A-G細胞を、クロロキン存在下および非存在下で、SNALP調合物と48時間接触させた。SNALP調合物は、様々なパーセンテージのPEG-C-DMA(C14)、およびDODMAまたはDLinDMAのいずれかを含有した。調合は下記の通りであった:

【0220】
ルシフェラーゼ遺伝子発現を、Neuro2A-G細胞を、抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入しているSNALPと接触させた後、48時間目に測定した。結果は、図14に示す。
【0221】
実施例16:SNALPの取り込みは、遺伝子サイレンシング効率の速度を制限しない
調合物が細胞に取り込まれる量を、3H標識CHEを組み入れたSNALPを用いて測定した[Bally et al., in Liposome Technology, Vol. III, pp. 27-41, CRC Press (1993)]。Neuro2A細胞を、3H標識CHE含有SNALPで24時間処理した。3H-CHE測定前に、細胞を洗浄して、組み込まれなかったSNALPを取り除いた。取り込みは、細胞に与えた全活性のパーセンテージとして表されている。細胞の取り込みは、カチオン性脂質の飽和度の上昇に伴い増加する。誤差バーは、n=3での標準偏差を表す。結果は、図15に示す。
【0222】
細胞をSNALP調合物に24時間曝露した後、細胞をすすぎ洗いし、溶解して取り込まれた3H-CHEを測定した(図15)。それぞれの個別の調合物の取り込みは、SNALPの濃度に無関係であり、DSDMA粒子が最も高い取り込み程度を示した。SNALPの取り込みは、飽和度の減少に伴って低下し、この点に関しては、DLenDMA調合物が特に制限されていると思われる。これらの結果は、遺伝子サイレンシングの結果に基づく、DSDMA調合物が最も効果が低いことが見いだされるという我々の予想に反するものである。これらは、細胞の取り込みがSNALPの遺伝子サイレンシング能力を制限せず、SNALP媒介核酸送達においては、エンドソーム膜との融合を媒介したエンドソームによる迂回が重要な役割を果たしていることを示唆している。t検定による分析から、全ての結果が有意であり(P<0.05)、0.10、0.50および1.00μg/mLの濃度では、DODMAとDLinDMAとの間の差は乖離していることが見いだされた。
【0223】
取り込みのプロセスを、蛍光標識SNALPを用いて、さらに検討した。Neuro2A-G細胞をCy3標識siRNAを含有する調合物で、4時間処理した。洗浄および固定後に、細胞核を蛍光マーカーのDAPIで染色し(青)、蛍光標識siRNAの位置をより正確に決定した(図6)。3H-CHE取り込み実験の結果を考慮すると、DSDMA調合物が細胞へのsiRNAの送達について明らかに最も効率的であることが見て取れる。Cy3蛍光(赤)は、DSDMA含有SNALPで処理した細胞で最も強度が強い。ここでも、放射線標識取り込み研究に一致して、カチオン性脂質の飽和度が高いほど、Cy3標識siRNAの細胞取り込みは増加する。この場合も、Cy3蛍光は、DLenDMA調合物について極端に弱く、取り込みが低いことを示す。裸のCy3標識siRNAまたは未標識のSNALPのいずれかで処理した陰性コントロールは、細胞に関連するCy3蛍光を示さなかった。
【0224】
フルオロフォアCy3で標識したSNALPを細胞に適用し、4時間インキュベートした。洗浄および固定後、蛍光顕微鏡は、Cy3蛍光によって測定されたsiRNAの取り込みが、カチオン性脂質の飽和度と相関することを示した。細胞核は、フルオロフォアDAPIで染色された。未標識のSNALPおよび裸のCy3-siRNAを、陰性コントロールとして使用した。
【0225】
放射線標識マーカーの組み込みによるSNALP取り込み効率の研究から、さらに興味深い観察が得られる(図5)。SNALPの取り込みはカチオン性脂質成分のpKaと相関すると予想できた;正電解の大きな粒子ほど、負の電荷を持つ細胞表面に対し高い親和性を有し、結果としてより多く取り込まれるということ。この仮説は、この研究の結果によって支持される。最も高いpKa (〜7.6)を持つDSDMA含有調合物が、明らかに最も容易に取り込まれ、その後にDODMAおよびDLinDMA調合物が続く。興味深いことに、DLenDMA調合物の取り込みは、DLinDMA調合物の取り込みと比べた場合、これら粒子のpKaが同一であるにもかかわらず、制限されている。このことは、これら脂質の、pKa以外の別の属性が、細胞取り込みに影響することを示唆している。経時変化研究から、DLenDMA調合物の取り込み速度が24時間の間一定であり、調合物が組織培地中で未変性の状態を保っていることが示唆されていることから、この発見が粒子の安定性の差と相関するとは考えられない。
【0226】
これらの結果は、封入されたsiRNAを用いる場合、インビトロでの遺伝子サイレンシングにおいてエンドサイトーシスが速度を制限しないことを示唆している。事実、細胞取り込みの差は、調合物の潜在力にほとんど影響しないと思われる。DLinDMAおよびDLenDMA調合物は、遺伝子発現の阻害に関するそれらの能力は同様であるが、それらが細胞によって取り込まれる程度は大きく異なっている。逆に、DSDMA調合物は、RNA干渉をなし遂げる能力をほとんど有していないが、細胞によって極めて容易に取り込まれるのは明らかである。このデータは、遺伝子サイレンシングの効率に最も影響を持つ事象が、siRNAが細胞によって内部移行された後に起こることを示唆している。
【0227】
まとめると、我々は飽和度が段階的に高くなる一連の、相同的なカチオン性脂質を合成した。我々は、カチオン性脂質の飽和度が、siRNAを封入および送達する場合の脂質のpKa、融合性、細胞取り込み、遺伝子サイレンシング能力に影響することを示す。注目すべきは、より融合性であるカチオン性脂質は、たとえそれらの細胞による内部移行媒介効率が低くとも、RNAiのより強力な媒介物である。このことは、正味の核酸の付加において、エンドソーム放出が相対的に重要であることを強調している。この知見は、他の脂質核酸送達システムの効率を高めることに利用でき、低分子薬物のための送達システムの設計に活かさなければならない。
【0228】
上記の記載は、例示を目的とするものであり、制限を意図するものでないことを理解しなければならない。上記記載を読むことによって、多くの態様が当業者に明らかになるだろう。それゆえに、発明の範囲は、上記記載を参照して決定してはならず、添付の請求項の範囲を、このような請求の範囲が題される全範囲の同等物と共に参照して決定するものとする。特許出願、特許およびPCT公開、およびGenbankアクセッション番号を含む、全ての文献および参照の開示は、全ての主旨で、参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】本発明の二つの例示的カチオン性脂質:1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)および1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)の構造を示す。
【図2】DLinDMAの合成の概略を示す。
【図3】DLenDMAの合成の概略を示す。
【図4】SNALPに組み入れられたカチオン性脂質の見かけ上のpKaを示すデータを示す。
【図5】相転移温度に及ぼす不飽和の影響を決定する、31P-NMR分析の結果を表すデータを示す。
【図6】DODAC、DODMAまたはDLinDMAを含みかつ抗ルシフェラーゼsiRNA配列を封入するSPLP(即ちSNALP)による、ルシフェラーゼを安定に発現しているNeuro2a細胞のインビトロトランスフェクション後の、遺伝子発現のサイレンシングを表すデータを示す。
【図7】インビトロでのSNALP媒介遺伝子サイレンシングを表すデータを示す。
【図8】ルシフェラーゼをコードするプラスミドを封入しているSPLPの静脈内投与48時間後の、腫瘍でのルシフェラーゼ遺伝子発現を表すデータを示す。SPLPは、PEG-C-DMA複合体、およびDODMAまたはDLinDMAのいずれかを含んでいた。PEG成分は、2000または750のいずれかの分子量を有した。
【図9】ルシフェラーゼをコードするプラスミドを封入しているSPLPの静脈内投与48時間後の、Neuro2A腫瘍担持オスA/Jマウスでのルシフェラーゼ遺伝子発現を表すデータを示す。SPLPは、様々なパーセンテージ(即ち15%、10%、5%もしくは2.5%)のPEG-C-DMA、およびDODMAまたはDLinDMAのいずれかを含んでいた。
【図10】様々なパーセンテージ(即ち2%、5%、10%もしくは15%)のPEG-C-DMAを含有する3H-CHE標識SPLPもしくはSNALP、または空小胞を単回静脈内投与した後の、オスA/Jマウスの血漿に残存しているSPLP、SNALP、または空小胞の注射投与量のパーセンテージを表すデータを示す。
【図11】様々なパーセンテージのPEG-C-DMAを含有する3H-CHE標識調合物の単回静脈内投与48時間後の、Neuro2A腫瘍担持オスA/JマウスでのSPLP、SNALP、または空小胞の生体内分布を表すデータを示す。SNALPおよび空の小胞はDLinDMAを含み、SPLPはDOMDAを含んだ。
【図12】DLinDMAを含むSNALPの静脈内投与48時間後の、A/Jマウスの遠位部、安定Neuro2A-G腫瘍におけるルシフェラーゼ発現のサイレンシングを表すデータを示す。
【図13】DLinDMAを含みかつ抗ルシフェラーゼsiRNAを封入しているSNALP調合物送達後の、Neuro2A-G細胞におけるルシフェラーゼ発現のサイレンシングを表すデータを示す。
【図14】DLinDMAを含みかつ抗ルシフェラーゼsiRNAを封入しているSNALP調合物送達後の、Neuro2A-G細胞におけるルシフェラーゼ発現のサイレンシングを表すデータを示す。SNALP調合物の送達は、クロロキン存在下、または非存在下に実施された。
【図15】SNALPの細胞取り込みを表すデータを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の構造を有する式Iの化合物:

式中:
R1およびR2は、HおよびC1〜C3アルキルからなる群より独立に選択され;ならびに
R3およびR4は、約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より独立に選択され、ここで、R3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。
【請求項2】
R3およびR4が同一である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R3およびR4が共に不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
R3およびR4が、ドデカジエニル、テトラデカジエニル、ヘキサデカジエニル、リノレイルおよびイコサジエニルからなる群より独立に選択される、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
R3およびR4が共にリノレイルである、請求項3記載の化合物。
【請求項6】
R3およびR4が共に不飽和部位を少なくとも3ヵ所含む、請求項1記載の化合物。
【請求項7】
R3およびR4が、ドデカトリエニル、テトラデクトリエニル、ヘキサデカトリエニル、リノレニルおよびイコサトリエニルからなる群より独立に選択される、請求項6記載の化合物。
【請求項8】
下記の構造を有する式Iのカチオン性脂質を含むリポソーム:

式中:
R1およびR2は、HおよびC1〜C3アルキルからなる群より独立に選択され;ならびに
R3およびR4は、約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より独立に選択され、ここで、R3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む。
【請求項9】
非カチオン性脂質をさらに含む、請求項8記載のリポソーム。
【請求項10】
非カチオン性脂質が、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、パルミトイルオレヨールホスファチジルグリセロール(POPG)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジル-エタノールアミン(DSPE)、16-0-モノメチルPE、16-0-ジメチルPE、18-1-トランスPE、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、コレステロールおよびそれらの混合物からなる群より選択されるメンバーである、請求項9記載のリポソーム。
【請求項11】
PEG脂質をさらに含む、請求項8記載のリポソーム。
【請求項12】
PEG脂質が、ポリエチレングリコール-ジアシルグリセロール(PEG-DAG)複合体、ポリエチレングリコール-ジアルキルオキシプロピル(PEG-DAA)複合体、PEG-セラミド、PEG-PE、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項10記載のリポソーム。
【請求項13】
生物活性薬剤をさらに含む、請求項8記載のリポソーム。
【請求項14】
生物活性薬剤が、抗腫瘍薬、抗生物質、免疫調節薬、抗炎症剤、中枢神経系に作用する薬剤、ポリペプチド、および核酸からなる群より選択されるメンバーである、請求項13記載のリポソーム。
【請求項15】
細胞を請求項8のリポソームに接触させる段階を含む、該細胞に生物活性薬剤を送達する方法であって、該生物活性薬剤が該リポソーム内に封入されている方法。
【請求項16】
哺乳動物における、請求項15記載の方法。
【請求項17】
下記を含む核酸脂質粒子:
(a)核酸;
(b)下記の構造を有する式Iのカチオン性脂質:

式中:
R1およびR2は、HおよびC1〜C3アルキルからなる群より独立に選択され;ならびに
R3およびR4は、約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より独立に選択され、ここで、R3およびR4の少なくとも一つは、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む;
(c)非カチオン性脂質;ならびに
(d)PEG脂質複合体。
【請求項18】
カチオン性脂質が、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)および1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)からなる群より選択される、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項19】
カチオン性脂質がDLinDMAである、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項20】
非カチオン性脂質が、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、エッグホスファチジルコリン(EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、パルミトイルオレヨールホスファチジルグリセロール(POPG)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE)、ジミリストイルホスホエタノールアミン(DMPE)、ジステアロイル-ホスファチジル-エタノールアミン(DSPE)、16-0-モノメチルPE、16-0-ジメチルPE、18-1-トランスPE、パルミトイルオレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(POPE)、1-ステアロイル-2-オレオイル-ホスファチジルエタノールアミン(SOPE)、コレステロールおよびそれらの混合物からなる群より選択されるメンバーである、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項21】
非カチオン性脂質がDSPCである、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項22】
PEG脂質が、ポリエチレングリコール-ジアシルグリセロール(PEG-DAG)複合体、ポリエチレングリコール-ジアルキルオキシプロピル(PEG-DAA)複合体、PEG-セラミド、PEG-PEおよびそれらの混合物からなる群より選択されるメンバーである、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項23】
PEG脂質がPEG-DAA複合体である、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項24】
PEG-DAA複合体がPEG-ジミリスチルオキシプロピル(C14)である、請求項23記載の核酸脂質粒子。
【請求項25】
ステロールをさらに含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項26】
ステロールがコレステロールである、請求項25記載の核酸脂質粒子。
【請求項27】
核酸が、DNA、RNA、siRNA、プラスミド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイムからなる群より選択されるメンバーである、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項28】
核酸が、関心対象の治療用生成物をコードする、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項29】
関心対象の治療用生成物が、ポリペプチドおよび低分子干渉RNA (siRNA)からなる群より選択されるメンバーである、請求項28記載の核酸脂質粒子。
【請求項30】
核酸脂質粒子内の核酸が、該粒子をヌクレアーゼに37℃で20分間曝露した後に実質的に分解しない、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項31】
核酸が、核酸脂質粒子に完全に封入されている、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項32】
カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約2%〜約60%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項33】
カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約5%〜約45%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項34】
カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約15%〜約40%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項35】
カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約30%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項36】
カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約40%〜約50%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項37】
非カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約5%〜約90%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項38】
非カチオン性脂質が、粒子中に存在する全脂質の約20%〜約85%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項39】
PEG脂質が、粒子中に存在する全脂質の1%〜約20%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項40】
PEG脂質が、粒子中に存在する全脂質の4%〜約15%を含む、請求項17記載の核酸脂質粒子。
【請求項41】
ステロールが、粒子中に存在する全脂質の約10%〜約60%を含む、請求項25記載の核酸脂質粒子。
【請求項42】
ステロールが、粒子中に存在する全脂質の約20%〜約45%を含む、請求項25記載の核酸脂質粒子。
【請求項43】
請求項17記載の核酸脂質粒子および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項44】
細胞を、下記を含む核酸脂質粒子と接触させる段階を含む、核酸を該細胞内に導入する方法:
(a) 下記の構造を有する式Iのカチオン性脂質:

式中:
R1およびR2は、HおよびC1〜C3アルキルからなる群より独立に選択され;
R3およびR4は、約10〜約20個の炭素原子を有するアルキル基からなる群より独立に選択され、ここで、R3およびR4の少なくとも一つが、不飽和部位を少なくとも2ヵ所含む;
(b)非カチオン性脂質;
(c)PEG脂質複合体;ならびに
(d)核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2008−501729(P2008−501729A)
【公表日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526138(P2007−526138)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【国際出願番号】PCT/CA2005/000885
【国際公開番号】WO2005/120152
【国際公開日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(506016303)プロチバ バイオセラピューティクス インコーポレイティッド (8)
【Fターム(参考)】