カチオン脂質による免疫応答の刺激
本発明は、カチオン脂質のみを用いて又は抗原と併用してカチオン脂質を用いて免疫応答を刺激するための組成物及び方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、免疫応答を刺激することに関するものであり、さらに詳しくは、免疫応答における脂質の役割に関する。
【背景技術】
【0002】
この項は、以下に記載される及び/又は請求される本発明の種々の態様に関してもよい技術の種々の態様に読者を案内することを意図する。この議論は、読者に背景情報を提供して本発明の種々の態様のより良い理解を円滑にすることに役立つと考えられる。従って、これらの記述は、従来技術の承認としてではなく、この観点で読まれるべきであることが理解されるべきである。
【0003】
ヒトに使用するための安全で且つ有効な免疫療法の開発は、世界中の患者にとって緊急の医学的ニーズとなっている。適当な免疫応答を誘発するために、ワクチン設計又は免疫療法において免疫応答を高める、指向する又は促進するような、免疫的な修飾因子(「免疫修飾因子」)を使用することができる[Gregoriadis, G., 免疫アジュバント:リポソームのための役割。Immunol Today 11:89 (1990)]。たとえば、ワクチンは、免疫応答を刺激する抗原を含んでもよい。しかしながら、見込みのある、抗原を含むワクチンのいくつかは、免疫系の抗原提示細胞(「APC」)に効率的に抗原を送達しない及び/又は抗原の免疫原性が弱いために、免疫応答の弱い賦活剤でしかない。従って、APCに抗原を効果的に送達する、また、免疫系を刺激して抗原に応答する免疫療法が必要とされる。免疫修飾因子はそのような免疫療法として機能する可能性を有する。そのような免疫療法は、これらの及びそのほかの利益を有してもよい。たとえば、治療用ワクチンの一部として含まれる場合、免疫修飾因子は、少なくとも(1)抗原の送達及び/又はAPCにおけるプロセッシングを改善し[Wang, R. F.及びWang, H. Y. 樹状細胞において抗原提示を延長することによる抗腫瘍免疫の増強。Nat Biotechnol 20:149 (2002)]、(2)ワクチン抗原に対する免疫応答の進展を支える免疫調節性サイトカインの産生を誘導するので細胞性免疫を促進し、細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)を誘導し、(3)有効なワクチンに必要とされる免疫の回数及び抗原の量を減らし[Vogel, F. R. アジュバントによるワクチン性能の改善。Clin Infect Dis 30 Suppl 3:S266 (2000)]、(4)ワクチン抗原の生物学的な及び免疫的な半減期を増大させ、並びに(5)免疫抑制因子を阻害することによって抗原に対する免疫寛容に打ち勝つべきである[Baecher-Allan, C,及びAnderson, D. E. 担癌宿主における免疫調節。Curr Opin Immunol 18:214 (2006)]。
【0004】
現在、免疫応答を誘発することにおいてペプチド又はタンパク質の抗原のような抗原の有効性を高めるのに使用されている、主な部類の作用剤は、油中水、アラム及び抗原の応答を高めるそのほかの化学物質のようなアジュバントであるが、それらは自体直接的な免疫調節性効果を有さないので、上述のようにこれらのアジュバントは免疫修飾因子ではない[Vogel, F. R.及びPowell, M. F.ワクチンのアジュバントと賦形剤の概要。Pharm Biotechnol 6: 141 (1995)]。そのような幾つかのアジュバントは、動物での使用で利用可能であり、その一部は臨床試験で試されている。アルミニウム塩のような従来のアジュバントに加えて、固有の免疫効果を有するインフルエンザビロソーム[Gluck, R.及びWalti, E. 2000. 免疫増強する再構成されたインフルエンザビロソーム(IRIV)によって補強されたA型肝炎ワクチンであるEpaxal Bernaの生物学的妥当性。Dev Biol (Basel) 103:189 (2000)]及びChironのMF59[Kahn, J. O., et al. HIVに感染していないヒト志願者におけるムラミルトリペプチドジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの存在下又は非存在下でのMF59アジュバントを併用したヒト免疫不全症ウイルス(HIV)ISF2型gp120サブユニットワクチンに対する臨床的及び免疫的な応答、 J Infect Dis 170:1288 (1994)]のような製品が市場に出つつある。たとえば、1ミクロン未満のエマルション系のアジュバントであるMF59は、樹状細胞によって内部に取り入れられる[Dupuis, M., et al., 筋肉内注射の後、樹状細胞は、ワクチンアジュバントを内部に取り込む。Cell Immunol 186:18 (1998)]。しかしながら、HSV及びインフルエンザのワクチンに関する臨床試験の報告によれば[Jones, C. A.及びCunningham, A. L. 性器ヘルペス及び新生児単純ヘルペスウイルス(HSV)疾患を予防するためのワクチン接種戦略。Herpes 11:12 (2004); Minutello, M. et al., 3回の連続したインフルエンザ流行期に免疫された、高齢対象におけるMF59アジュバントを併用した不活化インフルエンザサブユニットウイルスワクチンの安全性及び免疫原性。Vaccine 17:99 (1999)]、動物モデルからの証拠は、MF59アジュバントは、T細胞の応答を増強するのではなく、中和抗体の産生を増強することを示唆している。従って、細胞性免疫応答を刺激する新しい方法が求められる。
【0005】
さらに、上述のように、一部の抗原は、免疫応答の賦活剤としては弱い。従って、上述のような免疫応答を刺激する物質と抗原を同時投与することに加えて、免疫原性の弱い抗原を改変して、その免疫原性を高めることもできる。たとえば、免疫原性の弱い抗原を免疫原性のペプチド、多糖類又は脂質と結合させて、その免疫原性を高めることができる。しかしながら、この種の化合物に免疫原性の弱い抗原を単純に結合することは、免疫応答を誘発するのに十分ではない可能性がある。たとえば、得られる免疫応答が、弱い抗原ではなく、結合させた化合物の免疫原性のエピトープに向けられる可能性があり、又は結合させた抗原が免疫系のAPCに効率的に送達されない可能性がある。従って、免疫原性の弱い抗原に対する免疫応答を刺激するための追加的な方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の特定の例示となる態様を以下に述べる。これらの態様は、本発明が利用する特定の形態の手短な要約を読者に提供するために単に提示されるのであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。実際、本発明は、以下に明白には述べられなくてもよい種々の態様を包含してもよい。
【0007】
本発明は、特定の用量及び組成条件のもとで(1)免疫系に効果的に抗原を提示又は送達し、且つ(2)免疫系を刺激して抗原に応答するための、新規の部類の免疫賦活剤として作用する、カチオン脂質の使用に関する。
【0008】
リポソームは、小さな分子量の薬剤、プラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質及びペプチドを送達するために広範に使用されている。非ウイルス性抗原担体としてのリポソーム媒体を用いたワクチンは、生の弱毒化ワクチン又はワクシニア若しくはインフルエンザウイルスのようなウイルス媒体を用いた従来の免疫に比べて好ましい。米国特許第7,303,881号は、単純だが有効な脂質に基づいた免疫療法と、2つの分子、すなわちカチオン脂質と抗原から成り、たとえば、安定剤、アジュバント及び表面改質剤のような追加の成分を添加すればよい、カチオン脂質/抗原複合体を記載している[米国特許第7,303,881号を参照のこと]。カチオン脂質と抗原[たとえば、E7、ヒトのパピローマウイルス(「HPV」)]から成る製剤は、マウスのモデルにてHPV陽性のTC−1腫瘍に対して予防的且つ治療的な抗腫瘍免疫応答を誘導する。その結果は、抗原と複合体形成したカチオンリポソームが免疫応答を刺激し、T細胞との樹状細胞(APC)の相互作用を起こさせるのに役立つことを明らかにしている。
【0009】
本発明では、強力な免疫応答を誘導するためのカチオン脂質/抗原複合体の能力をさらに理解するために行われた追加の研究によって、カチオン脂質自体が、あらゆる哺乳類種に存在するMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase、マイトジェン活性化タンパク質)のシグナル伝達経路の成分を活性化することによって、低用量条件下にて強力な免疫活性化因子として作用し得るという発見がもたらされた。カチオン脂質/抗原複合体は、抗原と組み合わせて、低用量条件下にて、複合体にて製剤化された抗原に特異的な強力な免疫応答を誘導する。高用量のカチオン脂質では、免疫細胞にて過剰に反応性酸素種(ROS)が産生され、観察される免疫応答を弱める。
【0010】
従って、本発明の態様の1つは、対象の免疫系の細胞によってMAPキナーゼのシグナル伝達を活性化することにより対象において免疫応答を誘導するのに十分な用量の、少なくとも1つのカチオン脂質の組成物を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、カチオン脂質を対象に投与することによってMAPキナーゼのシグナル伝達を活性化することにより、対象において免疫応答を誘導する方法を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、対象の免疫系の細胞において反応性酸素種(ROS)の産生を誘導することによって免疫応答を誘導するのに十分な用量の、少なくとも1つのカチオン脂質の組成物を提供する。カチオン脂質複合体は、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分なレベルまで、ROS産生を刺激する。
【0013】
本発明の別の態様は、対象にカチオン脂質複合体を投与して対象の免疫系の細胞において反応性酸素種(ROS)の産生を誘導することによって、免疫応答を誘導する方法を提供する。カチオン脂質複合体は、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分なレベルまで、ROS産生を刺激する。
【0014】
本発明の追加の態様は、免疫応答が抗原特異的であるカチオン脂質/抗原複合体を形成するための、少なくとも1つの抗原の添加を含む。
【0015】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、「疾患の治療のためのカチオン脂質系の免疫賦活剤」と題するLeaf Huangによって2007年3月22日に出願された米国特許仮出願、出願番号60/896,412号;「疾患の治療のためのカチオン脂質系二重機能送達システム及び免疫賦活剤」と題するLeaf Huang及びWeishu Chenによって2007年4月13日に出願された同60/911,549号;「疾患の治療のためのカチオン脂質系二重機能送達システム及び免疫賦活剤」と題するLeaf Huang, Weishu Chen及びWeili Yanによって2007年7月9日に出願された同60/948,512号;及び「リポソームペプチド製剤による免疫応答の誘導」と題するWeishu Chen及びLeaf Huangによって2007年10月30日に出願された同60/983,799号の利益を請求する、「カチオン脂質による免疫応答の刺激」と題するWeishu Chen, Weili Yan, Kenya Toney, Gregory Conn, Frank Bedu−Addo及びLeaf Huangによって2008年3月17日に出願された米国特許出願第12/049,957号の利益を請求する。なおこれらの文書の開示の全体を参照することにより本明細書に組み入れる。
【0016】
図面全体を通して同類の文字が同類の部分を表す添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読めば、本発明の種々の特徴、態様及び利点がさらに理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(「DOTAP」)による樹状細胞の刺激後の、インビトロでのサイトカインの産生を示すグラフである。
【図2】図2は、フローサイトメトリーによるCTL介在性の細胞傷害性の分析である。E7特異的な細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)のクローンを調製し、増殖させた。E7ペプチドによる5日間のインビトロでの再刺激の後、示したエフェクター対ターゲットの比にて37℃で4時間、PKH−67で標識したTC−1ターゲット細胞とともにエフェクター細胞をインキュベートした。非特異的なターゲット細胞の対照としてBL−6を用いた。フローサイトメトリーにて、PKH−67陽性ターゲット細胞のゲートをかけた範囲内でPI陽性である細胞の比率によって、E7特異的な殺傷の比率を決定した。100:1のE:T比にて対照群と比べることによって統計的解析を行った(*p<0.01、**p<0.001、n=5)。
【図3】図3は、最適な脂質用量にてDOTAP/E7を与えたマウスにおいて観察された腫瘍に浸潤するTリンパ球である。記載されたようにTC−1腫瘍を定着させ、未処理のままにするか、又は6日目の単回注射にて処理した。14日目に固形腫瘍を取り出し、浸潤しているリンパ球について調べた。FITC結合した抗CD8抗体(A、B、C)及び抗CD4抗体(D、E、F)を用いて、浸潤しているT細胞を判定し、その後、DAPIによって対比染色した。3匹ずつのマウスの群から代表的な腫瘍切片を記載したように調べ、共焦点顕微鏡によって画像化した。腫瘍切片でのアポトーシスを検出するためにTUNELアッセイを行った(G、H、I)。
【図4】図4は、カチオン脂質による処理による液性活性の誘導を示すグラフである。
【図5】図5は、フローサイトメトリーを用いた、E7ペプチドと共にDOTAPを与えた後のマウスにおける調節性T細胞集団の減少を説明するグラフである。
【図6】図6は、DOTAP/E7製剤で処理したマウスにおけるTC−1腫瘍増殖の動態である。TC−1接種後6日目に、種々の脂質濃度でのDOTAPリポソームにて製剤化した10μgのE7ペプチドでマウスを処理した。23日目の各群のTC−1腫瘍のサイズを未処理の対照群と比較し、統計的に解析した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図7】図7は、DOTAPの皮下注射による樹状細胞の活性化と流入領域リンパ節への移動の誘導を示す。PBS対照(A、C及びE)、又は0.5%NBD−DOTAPと共に100ナノモルの総脂質を含有するDOTAP/E7(B、D及びF)を未処理のマウスに注射した。注射の4時間後、流入領域リンパ節を調製し、表面マーカーに対する適当な抗体で染色した。NBDとCD11c(A及びB)又はCD86(C及びD)の同時発現は、リンパ節全体の細胞で解析し、一方NBDとCD8(E及びF)の同時発現は、CD3+集団の範囲内でゲートをかけ、解析した。数字は4連一組での細胞の比率を表す。
【図8】図8は、最適なDOTAPアジュバントにて製剤化されたE7による免疫が機能的CD8+細胞を引き出すことを示す。105個のCD8+T細胞当たりのCD8+IFN−γ+細胞の数を平均値±SDとして示し、無処理の対照と比較した(n=4、**p<0.01)。
【図9】図9は、T細胞応答を引き出すことが知られている強力なアジュバントと比較した、種々のカチオン脂質で構成されるカチオン脂質/E7複合体の抗腫瘍免疫応答を説明するプロットである。
【図10】図10は、マウスの流入領域リンパ節おける、抗腫瘍免疫応答と相関するROSの産生を説明するグラフである。A:0、15、100又は600ナノモルの脂質を含有するDOTAP/E7を注射したマウスから、流入領域リンパ節(「DLN」)を注射の2時間後に単離した。陽性のROSシグナルを持つ細胞の相対的な比率を列記する。B:フローサイトメトリーによってDOTAP/E7注射の10時間後細胞を回収することにより、DLNにおける細胞傷害性を測定した。DCにおける死細胞(PI陽性)の相対的な比率(白四角)及び105個のLN細胞当たりの生きたDCの数(棒)を示し、対応スチューデントt検定によって無処理の対照のそれと比較した(**p<0.01)。C:不活性の中性脂質、ジオレイルホスファチジルコリン(「DOPC」)のDOTAP/E7との同時製剤化(DOPC/DOTAP=5)によってDLN中の反応性酸素種(「ROS」)の産生が低下し、結果的に複合体の抗腫瘍活性の低下を生じた。
【図11】図11は、カチオン脂質/抗原複合体により結果として生じる免疫応答に対する改善された封入効率の効果を説明する。カチオンリポソーム製剤へのE7リポペプチドの組み入れによって抗TC−1腫瘍活性が増強された。TC−1腫瘍担癌マウス(群当たり8〜12匹)は、6日目に単回処理で、DOTAP/E7(5又は10ナノモルのE7ペプチドを含有する)又はDOTAP/E7リポペプチド(5ナノモルのペプチドを含有する)又はDOTAP脂質のみを投与された。デキストロース(5%)で処理したマウスを陰性対照として用いた。24日目の各群の平均腫瘍サイズをDOTAP/E7(5ナノモル)を与えた群のそれと比較し、スチューデントのt検定によって解析した(*p<0.05、**p<0.01)。
【図12】図12は、DOTAP/E7リポペプチドによるマウスの免疫がCD8+T細胞におけるIFN−γの分泌の上昇を誘導することを実証するグラフである。
【図13】図13は、短い無関係のアミノ酸配列に連結したペプチド抗原の増強された免疫原性を説明するグラフである。
【図14A】図14Aは、様々なカチオンリポソームで刺激した後のDC2.4細胞における同時刺激分子、CD80とCD86の発現を説明するグラフである。
【図14B】図14Bは、DC2.4細胞における同時刺激分子(CD80)の発現に対するカチオン脂質の炭化水素鎖長依存性の発現を説明するグラフである。
【図15】図15は、カチオンリポソームによるケモカインとCD11cの転写の上方制御及びIL−1の下方制御を示す。(A)DC2細胞を50μMのDOTAPリポソームで24時間処理した後のmRNAレベルでの倍増加を示すアフィメトリクスマイクロアレイ解析。(B)50μMのDOEPC又はDOTAPリポソームと共に16時間インキュベートし、その後全RNAを抽出し、特異的プライマーと共に増幅した(陽性対照として100ng/mLのLPS)BMDCにおいて、DOTAP及び1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(「DOEPC」)によってCCL2及びCCL4が上方制御されることを示すRT−PCR。
【図16】図16は、カチオンリポソームのみがBMDCからのCCL2の放出を誘導することを示す。
【図17】図17は、DOTAPは、用量依存的にCCL2の放出を誘導することを示す。
【図18】図18は、DOTAPが誘導するBMDCからのCCL2放出に関与するシグナル伝達経路を検討するためのMAPキナーゼ阻害剤の使用を示す。6日目に、阻害剤でBMDCを20分間予備処理し、その後、75μMのDOTAPリポソームで24時間処理した。実験に使用した濃度は、PD(PD−98059)、20μM;SB(SB−203580)、lOμM;U(U−0126)、lOμM;PTx(百日咳毒素)、200ng/mL;PP2、lOμM;Wort(ワートマニン)、200nM;GF(GF109203X)、200nMである。ELISAによって上清を分析した。100ng/mLのLPSを陽性対照とした。
【図19】図19は、BMDCにおいてDOTAPがERK及びp38の活性化を誘導することを示す。(A)時間経過試験。6日目に、106個/mL/ウエルの密度にてBMDCを12穴プレートに播いた。75μMのDOTAPリポソームと共に示した時間それをインキュベートした。細胞を回収し、図に示された抗体を用いたウエスタンブロット解析に供した。ERK2抗体をプローブとして同じ膜を処理し、負荷対照とした。(B)DOTAPが誘導するERKの活性化はp38によって負に調節された。(C)DOTAPが誘導するERKの活性化は主としてPI−3キナーゼを介するものであり、p38によって負に調節された。
【図20】図20は、ERK遺伝子発現のsiRNAのアプローチによる下方制御は、DOTAPが誘導するBMDCからのCCL2放出を減衰させることを示す。(A)ERK1遺伝子の発現は、BMDCにおける24時間の処理の後siRNAによってブロックされた。(B)siRNAによるERK1のブロックは、DOTAPが誘導するBMDCからのCCL2放出を特異的に減衰させた。DOTAP:75_M、LPS:100ng/mL、対照のsiRNAに比べて*p<0.05、n=3。
【図21】図21は、DOTAP/E7製剤は、マウスの流入領域リンパ節にてCCL2の蓄積を誘導することを示す。0日目に、DOTAP/E7製剤(100ナノモルのDOTAPと10μgのE7ペプチド)をマウス(n=3)に注射した。示された日にマウスを屠殺し、流入リンパ節を回収した。流入領域リンパ節を100μLのELISA緩衝液(PBS中10%FBS)にてホモジネートし、次いで、ELISAによって解析し(A)、又は本文に記載するようにCCL2抗体によって免疫化学的に染色した(B)。元々の倍率×400
【図22】図22は、ERKの阻害は、流入領域リンパ節におけるCCL2の蓄積を減衰させ、且つDOTAP/E7製剤による抗腫瘍活性をブロックすることを示す。(A)ERKとp38の経路によって流入領域リンパ節におけるCCL2の蓄積は相互に調節された。(B)阻害剤入りまたは無しで同時製剤化したDOTAP/E7を投与したマウスにおける、TC−1腫瘍増殖の動態。0日目にTC−1細胞(1×105個/マウス)をマウスに注射した(n=5)。6日目に、DOTAP/E7、DOTAP/E7/U−0126、DOTAP/E7/SB又はPBSでマウスを処理した。その後、腫瘍サイズを測定した。DOTAP/E7と比べて*p<0.05。
【図23】図23は、カチオン脂質/抗原複合体がヒトの樹状細胞を効果的に活性化することを示す。図20A〜Eは、それぞれ、DOTAP/E7によるCD80の刺激、DOTAP/E7によるCD83の刺激、DOTAP/E7によるCD86の刺激、DOEPC/E7及びDOTAP/コレステロール/E7によるCD80の刺激、並びにDOEPC/E7及びDOTAP/コレステロール/E7によるCD83の刺激を説明する。
【図24】図24は、ヒト樹状細胞によるサイトカイン及びケモカインの産生を誘導するDOTAP/E7の能力を説明する。図23A〜Fは、それぞれ、TNF−α、IL−12、CCL3、CCL4、CC15及びCCL−19の産生を説明する。
【図25】図25は、ヒト樹状細胞の活性化に対するカチオン脂質/抗原複合体の粒径の効果を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の1以上の特定の実施態様を以下に記載する。これらの実施態様の簡明な説明を提供する努力において、実際の実施の特徴すべてが明細書に記載されるとはかぎらなくてもよい。そのような実際の実施の開発において多数の実施に特異的な決定が為されて、1つの実施から別の実施まで異なってもよい、開発者の特定の目標を達成しなければならないことが十分に理解されるべきである。さらに、そのような開発努力は複雑で時間がかかるかもしれないが、それにもかかわらず、この開示の利益を有する当業者にとっては、日常の仕事であることが十分に理解されるべきである。
【0019】
本発明の要素(たとえば、その例示となる実施態様)を紹介する際、冠詞、「a」、「an」、「the」及び「said」は1以上の要素が存在することを意味することを意図する。用語「含むこと」、「包含すること」及び「有すること」は、列記された要素以外に追加の要素があってもよいことを含み、意味することを意図する。
【0020】
本発明の態様の1つは、疾患を防ぐ又は治療するために哺乳類において免疫応答を生じるカチオン脂質を提供する。カチオン脂質は、MAPキナーゼのシグナル伝達経路の種々の成分を活性化することによって、たとえば、ケモカイン及び/又はサイトカインの産生のために用量依存性の免疫修飾因子として独立して機能することができる。最適な用量範囲は、種々の哺乳類種の範囲内で異なることが観察される。げっ歯類種では、たとえば、最適なカチオン脂質の用量は、50〜300ナノモルの間の範囲であってもよい。本明細書に記載される特定の用量及び組成は単に例示であり、当業者は、所与の対象での使用に適当な用量を決定することができる。別の態様では、免疫系の細胞に提示するために低用量のカチオン脂質が抗原又は薬剤と結合する一方で、同時に抗原特異的な強い免疫応答を刺激してもよい。本発明の一部の態様では、抗原はリポペプチドである。
【0021】
米国特許第7,303,881号は、疾患関連の抗原と複合体化した複数のカチオン脂質が、特定の疾患(たとえば、HPV陽性の癌)を防ぐ予防的免疫応答を刺激し、特定の抗原を発現する細胞を殺傷し、その結果疾患の有効な治療を生じる治療的免疫応答も刺激することを示したことを開示している。現在、DOTAP、DOEPC及びプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(「DOTMA」)を用いたカチオン脂質の免疫賦活能をさらに理解するために研究が行われ、この3種のカチオン脂質が、上記で参照された特許において免疫賦活剤として実証された脂質の広い部類に分類されている。これらの研究によって、カチオン脂質は、独立して特定の低用量の範囲又は組成物の中で免疫修飾因子として機能し、抗原と共に(又はなしで)免疫応答を刺激することができるという発見がもたらされた。カチオン脂質を抗原と共に複合体化すると、抗原特異的な免疫応答が生成される。
【0022】
別の態様では、現在記載されている特定の用量条件下で投与された本発明のカチオン脂質組成物は、MAPキナーゼのシグナル伝達経路の種々の成分の誘導を刺激して、疾患に対抗する生体の免疫応答を活性化させる一方で、同時に免疫系の細胞に抗原を送達する。以下の実施例で明らかにされるように、カチオン脂質は用量依存的に反応性酸素種(「ROS」)の産生を誘導する。しかしながら、カチオン脂質の最適な用量を超えると、高いROSの産生が免疫系の細胞にアポトーシスを誘導し、強い免疫応答を生成する脂質の能力を弱くする。特定の範囲のROSの産生は、今度は、結果としてサイトカインやケモカインの産生を生じ、免疫応答を調節する。従って、カチオン脂質の最適な用量は、カチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回る免疫応答における増進を刺激するのに十分なROSの産生レベルを効果的に刺激する量であり(一方で免疫系の細胞に顕著な量のアポトーシス、すなわち、免疫応答を弱らせるのに十分なアポトーシスを誘導するのに十分な過剰なROS産生を刺激しない)、且つMAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する量である。上述のように、最適な用量は種間で異なってもよく、当業者によって容易に決定される。
【0023】
さらに別の態様では、抗原(単数又は複数)と併用して、最適な用量のカチオン脂質が投与される。この場合、カチオン脂質/抗原の併用は、カチオン脂質と併用されて送達された抗原に特異的である免疫応答を生成することが可能である。生成される応答には、特異的細胞傷害性T細胞、記憶T細胞又はB細胞が含まれ、結果として抗原に関連する特定の疾患の予防又は治療的応答を生じてもよい。
【0024】
本発明のカチオン脂質は、カチオン脂質複合体の形態であってもよい。カチオン脂質複合体は、たとえば、リポソーム、ミセル又はエマルションのような種々の小胞の形態を取ることができる。カチオン脂質複合体は単層であっても多層であってもよい。抗原が含まれる場合、抗原はカチオン脂質複合体に封入されてもよく、封入されなくてもよい。封入されるとは、抗原が複合体の内部空間に含有されてもよく、及び/又は複合体の脂質の壁に組み入れられてもよいことを意味すると理解される。
【0025】
本発明はさらに、これらの複合体を製造する方法に関するものであり、本方法は、任意で、過剰の個々の成分からこれらの製剤を精製する工程を含んでもよい。本発明の抗原複合体の製造については、精製工程の包含は有利な実施態様である。
【0026】
特定の実施態様では、カチオン脂質複合体は、pH6.0〜8.0にて正の正味電荷及び/又は正に荷電した表面を有する。
【0027】
本発明のカチオン脂質複合体に包含されてもよい任意の「抗原」は、核酸、ペプチド、リポペプチド、タンパク質、リポタンパク質、多糖類、及びカチオン脂質と直接複合体化されてもよいそのほかの高分子であってもよい。しかしながら、カチオン薬剤(たとえば、大きなカチオンタンパク質)はアニオン脂質と直接複合体化することができ、又は、最初にアニオン脂質若しくはポリマーと次いでカチオン脂質と順次、複合体化することができる。本発明の複合体によって、このプロセスの使用によって、正又は中性に荷電した薬剤の細胞への送達を可能になる。
【0028】
本発明の態様の1つは、ケモカイン及びサイトカインの産生を刺激するカチオン脂質複合体の使用を含む。ケモカイン及びサイトカインは免疫応答の重要な調節剤である。ケモカインは元々、好中球、好酸球及び単球/マクロファージを含む炎症性細胞に対する強力な化学誘引剤として同定された。その後の研究によって、ケモカインは、樹状細胞やそのほかのリンパ球のリンパ系臓器への輸送を調節することによって、免疫反応に重大な効果を有することが明らかにされた。樹状細胞は、組織中の抗原を試食し、流入領域リンパ節に移動し、成熟してT細胞応答を刺激する、移動性の細胞である。CC型ケモカインの一員であるCCL2は元々、単球/マクロファージに対する走化性の活性化因子として同定された。その後の研究によって、T細胞、ナチュラルキラー細胞及び好中球の機能にも影響を及ぼすことができることが示された。さらなる探索によって、CCL2は、Th1サイトカインであるインターロイキン−12(「IL−12」)及びインターフェロン−γ(「IFN−γ」)の存在下で、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)活性の最も強力な活性化剤であることが見い出された。このことは、CCL2とIFN−γの間の双方向の正の相互作用によって説明することができる。サイトカイン又はケモカインのいずれかの欠如は、Th1の分極及びそれに続く特異的な腫瘍免疫の生成を妨害することもある。別のCC型ケモカインであるCCL−4は、生体内で樹状細胞を動員し、増殖させ、プラスミドDNAワクチンの免疫原性を増強することも示されている。最近、ケモカインは、ナイーブなCD8+T細胞をCD4+/樹状細胞の相互作用の部位にリクルートすることによって免疫を高め、記憶CD8+T細胞の生成を促進することが示された。本発明のカチオン脂質複合体によって刺激されてもよいケモカインの2、3の例は、CCL−2、CCL−3及びCCL−4である。本発明のカチオン脂質複合体によって刺激されてもよいサイトカインの例は、IL−12及びIFN−γである。本発明者らは、本発明のカチオン脂質複合体が、本明細書で開示されるものに加えてケモカイン及びサイトカインを刺激してもよいことを企図する。
【0029】
さらなる態様では、本発明のカチオン脂質複合体は、たとえば、ERK(extracellular signal-regulated kinase、細胞外シグナル調節性キナーゼ)経路(MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ)経路としても知られる)、p38経路、又はホスファチジルイノシトール−3(PI−3)経路のような、細胞性のキナーゼ経路を活性化することによって免疫応答を刺激する。これらの経路は、同様に免疫応答の刺激及びサイトカインやケモカインの産生を調節してもよい。これらの経路は当業者に周知である。
【0030】
本発明のカチオン脂質複合体は、T細胞の活性を調節して免疫応答を刺激してもよい。3つのクラスのT細胞:ヘルパーT細胞、キラーT細胞及び調節性T細胞がある。これら3つのクラスのT細胞は一緒に機能して細胞性の免疫応答を調整する。キラーT細胞又はCD8+T細胞としても知られる細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)は、外来抗原又は腫瘍抗原を発現する細胞を攻撃することに責務を負う。調節性T細胞のこの効果の基礎にある正確なメカニズムはよく理解されていないけれども、調節性T細胞は、CTL介在性の免疫を弱化することに責務を負うと考えられている。調節性T細胞の活性の低下が結果としてCTL活性の増大を生じ、さらに強大な細胞性免疫応答を招くことが知られている。以下の実施例で示されるように、最適な脂質用量組成での本発明のカチオン脂質複合体は、調節性T細胞の集団を減少させることによって強力な免疫応答を刺激してもよい。
【0031】
<脂質>
本発明のカチオン脂質複合体は、リポソームを形成してもよく、このリポソームは、任意で抗原と混合されるか、また、カチオン脂質だけを含有してもよいし、中性脂質との併用でカチオン脂質を含有してもよい。好適なカチオン脂質種には、3−β[4N(1N8−ジグアニジノスペルミジン)−カルバモイル]コレステロール(BGSC);3−β[N,N−ジグアニジノエチル−アミノエタン)−カルバモイル]コレステロール(BGTC);N,N1,N2,N3テトラ−メチルテトラパルミチルスペルミン(セルフェクチン);N−t−N’−ブチル−N’−テトラデシル−3−テトラデシル−アミノプロピオン−アミジン(CLONフェクチン);ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB);1,2−ミリスチロキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−p−ロパナミニウムトリフルオロアセテート)(DOSPA);1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミル)−プロピルアミド(DOSPER);4−(2,3−ビス−パルミトイルオキシ−プロピル)−1−メチル−1H−イミダゾール(DPIM);N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2,3−ジオレオイルオキシ−1,4−ブタンジアンモニウムイオジド(Tfx−50);N−1−(2、3−ジオレオイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)又はそのほかのN−(N,N−1−ジアルコキシ)−アルキル−N,N,N−三置換アンモニウム界面活性剤;トリメチルアンモニウム基がブタノールスペーサーアームを介して二重鎖(DOTBについて)又はコレステリル基(ChOTBについて)に接続する1,2−ジオレオイル−3−(4’−トリメチルアンモニオ)ブタノール−sn−グリセロール(DOBT)又はコレステリル(4’−トリメチルアンモニア)ブタノエート(ChOTB);WO93/03709で開示されたようなDORI(DL−1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアミノプロピル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム)又はDORIE(DL−1,2−O−ジオレオイル−3−ジメチルアミノプロピル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム)(DORIE)又はその類縁体;1,2−ジオレオイル−3−スシニル−sn−グリセロールコリンエステル(DOSC);コレステリルヘミスクシネートエステル(ChOSC);たとえば、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミルスペルミン(DPPES)又は米国特許第5,283,185号で開示されたカチオン脂質、コレステリル−3β−カルボキシ−アミド−エチレントリメチルアンモニウムクロリド、1−ジメチルアミノ−3−トリメチルアンモニオ−DL−2−プロピル−コレステリルカルボキシレートイオジド、コレステリル−3−O−カルボキシアミドエチレンアミン、コレステリル−3−β−オキシスクシンアミド−エチレントリメチルアンモニウムイオジド、1−ジメチルアミノ−3−トリメチルアンモニオ−DL−2−プロピル−コレステリル−3−β−オキシスクシネートイオジド、2−(2−トリメチルアンモニオ)−エチルメチルアミノエチル−コレステリル−3−β−オキシスクシネートイオジド、3−β−N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイルコレステロール(DC−chol)、及び3−β−N−(ポリエチレンイミン)−カルバモイルコレステロール;O,O−ジミリスチル−N−リシル−アスパルテート(DMKE);O,O−ジミリスチル−N−リシル−グルタメート(DMKD):1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DLEPC);1,2−ジミリスチル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMEPC);1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOEPC);1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPEPC);1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSEPC);1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);ジオレオイルジメチルアミノプロパン(DODAP);1,2−パルミトイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DPTAP);1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);1,2−ミリストイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP);及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、本出願で開示されたカチオン脂質の構造的変異体及び誘導体の使用を企図する。
【0032】
本発明の特定の態様は、以下の式によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を包含する。
【化1】
式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される。DOTAP、DMTAP、DSTAP、DPTAP、DPEPC、DSEPC、DMEPC、DLEPC、DOEPC、DMKE、DMKD、DOSPA及びDOTMAは、この一般構造を有する脂質の例である。
【0033】
実施態様の1つでは、本発明のカチオン脂質は、脂肪親和性基とアミノ基の間の結合が水溶液中で安定である脂質である。従って、本発明の複合体の特質は、保存中のその安定性(すなわち、その製剤化の後長い間、小径を保ち、生物活性を保持する能力)である。カチオン脂質において使用されるそのような結合には、アミド結合、エステル結合、エーテル結合及びカルバモイル結合が挙げられる。当業者は、1を超えるカチオン脂質種を含有するリポソームを使用して本発明の複合体を製造してもよいことを容易に理解するであろう。たとえば、特定の薬剤送達応用について、2種のカチオン脂質種、リシル−ホスファチジルエタノールアミンとβ−アラニルコレステロールエステルを含むリポソームが開示されている[Brunette, E. et al., Nucl. Acids Res., 20:1151 (1992)]。
【0034】
本発明での使用に好適なカチオンリポソームを考慮し、任意で抗原と混合するに際して、本発明の方法は、上記で引用されたカチオン脂質の使用にのみ拘束されるのではなく、むしろ、カチオンリポソームが製造され、得られるカチオン電荷密度が免疫応答を活性化し、誘導するのに十分である限り、いずれの脂質組成物を使用してもよいことがさらに理解されるべきである。
【0035】
従って、本発明の複合体は、カチオン脂質に加えてそのほかの脂質を含有してもよい。これらの脂質としては、その例がリソホスファチジルコリン(1−オレオイルリソホスファチジルコリン)であるリソ脂質、コレステロール、又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)又はジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)を含む中性リン脂質、並びにその例がツイーン80及びPEG−PEであるポリエチレングリコール部分を含有する種々の脂肪親和性の界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
形成される複合体の正味電荷が正である、及び/又は複合体の表面が正に荷電する限り、本発明のカチオン脂質複合体は、カチオン脂質と同様に、負に荷電した脂質も含有してもよい。本発明における負に荷電した脂質は、生理的pH又はその近傍で負の正味電荷を有する少なくとも1以上の脂質種又はこれらの組み合わせを含む脂質である。好適な負に荷電した脂質種としては、CHEMS(コレステリルヘミスクシネート)、NGPE(N−グルタリルホスファチジルエタノールアミン)、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジン酸又は類似のリン脂質類縁体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の薬剤送達複合体を含む脂質の製造において使用されるリポソームを製造する方法は、当業者に既知である。リポソーム調製の方法論の概説は、リポソーム技術(CFC Press New York 1984); Liposomes by Ostro (Marcel Dekker, 1987); Methods Biochem Anal. 33:337-462 (1988)及び米国特許第5,283,185号)に見い出されるかもしれない。そのような方法には、凍結融解押出し及び超音波処理が挙げられる。単層のリポソーム(平均直径約200nm未満)及び多層のリポソーム(平均直径約300nmを超える)の双方を出発成分として用いて本発明の複合体を製造してもよい。
【0038】
本発明のカチオン脂質複合体を製造するのに利用されるカチオンリポソームでは、リポソーム中のカチオン脂質は、リポソームの総脂質の約10モル%〜約100モル%、又は約20モル%〜約80モル%の割合で存在する。中性脂質がリポソームに含まれる場合、中性脂質は、リポソームの総脂質の約0モル%〜約90モル%、又は約20モル%〜約80モル%、又は約40モル%〜約80モル%の濃度で存在してもよい。負に荷電した脂質がリポソームに含まれる場合、負に荷電した脂質は、リポソームの総脂質の約0モル%〜約49モル%、又は約0モル%〜約40モル%の範囲の濃度で存在してもよい。実施態様の1つでは、リポソームは約2:8〜約6:4の比率でカチオン脂質と中性脂質を含有する。本発明の複合体は、特定の組織又は細胞型に複合体を向ける標的化因子として機能する、修飾された脂質、タンパク質、ポリカチオン又は受容体リガンドを含有してもよいことがさらに理解される。標的化因子の例には、アシアロ糖タンパク質、インスリン、低密度リポタンパク質(LDL)、葉酸塩及び細胞の表面分子に対するモノクローナル抗体とポリクローナル抗体が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、複合体の循環半減期を改変するには、ポリエチレングリコール部分を含有する脂肪親和性の界面活性剤を組み入れることによって、正の表面電荷を立体的に遮蔽することができる。
【0039】
カチオン脂質複合体は、スクロース勾配から回収した際、等張のスクロース若しくはデキストロースの溶液に保存してもよく、又は凍結乾燥し、次いで使用前に等張溶液で再構築してもよい。実施態様の1つでは、カチオン脂質複合体は溶液に保存される。特定のアッセイで本発明のカチオン脂質複合体の安定性を測定し、保存中長期間にわたるカチオン脂質複合体の物理的安定性及び生物活性を判定する。たとえば、電子顕微鏡、ゲル濾過クロマトグラフィを含む当業者に既知の方法によって、又はたとえば、実施例で記載されるようなコールターN4SD粒径アナライザを用いた準弾性光散乱によって、カチオン脂質複合体の直径及び電荷を測定することによりカチオン脂質複合体の物理的安定性を測定する。保存されたカチオン脂質複合体の直径が、100%を超えて、又は50%以下で、又は30%以下で、カチオン脂質複合体が精製された時点で決定されたカチオン脂質複合体の直径を上回って増大しない場合、カチオン脂質複合体の物理的安定性は、保存中「実質的に不変である」といえる。
【0040】
純粋な又は実質的に純粋な形態でカチオン脂質を投与することが可能である一方で、医薬組成物、製剤又は調製物としてそれを提示することが好ましい。本発明のカチオン脂質複合体を用いた医薬製剤は、たとえば、リン酸緩衝の生理食塩水、等張の生理食塩水又は酢酸塩若しくはHepesのような低イオン強度の緩衝液(例示となるpHは約5.0〜約8.0)のような生理的に認容される無菌の緩衝液中にカチオン脂質複合体を含んでもよい。腫瘍内、動脈内、静脈内、気管支内、腹腔内、皮下及び筋肉内の投与のために、カチオン脂質複合体は、噴霧又は液状溶液として投与されてもよい。
【0041】
本発明の製剤は、当該技術で既知のいかなる安定剤を組み入れてもよい。例証となる安定剤は、リポソームの二重層を堅くするのを助け、二重層の崩壊又は不安定化を防ぐのを助けるコレステロール及びそのほかのステロール類である。ポリエチレングリコール、多糖類及び単糖類のような作用剤をリポソームに組み入れてリポソーム表面を改質し、血液成分との相互作用によって不安定化されるのを防いでもよい。そのほかの例証となる安定剤は、単体で又は混合物のいずれかで使用されてもよいタンパク質、糖類、無機酸又は有機酸である。
【0042】
多数の薬学的方法を採用して免疫刺激の持続時間を制御してもよく、改変してもよく、又は延長してもよい。ポリマー複合体、たとえば、ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ(乳酸)及びヒドロゲル、の使用を介して、カチオン脂質をカプセル化し又は取り込み、次いでそれらを徐放させることによって、制御放出の調製物が得られる。同様のポリマーを使用してリポソームを吸収してもよい。刺激物の放出特性を変えるために、リポソームはエマルション製剤に含有されてもよい。或いは、リポソーム及びエマルションの循環時間及び半減期を増やすことが可能であるポリエチレングリコールやそのほかのポリマーのような化合物又は糖類のような物質でリポソームの表面を被覆することによって、血液循環における刺激物の存在の持続時間を増大させてもよい。
【0043】
経口調製物が必要である場合、カチオン脂質を、当該技術で既知の典型的な医薬担体のうちでも、たとえば、スクロース、ラクトース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はアラビアゴムなどと組み合わせてもよい。全身性の送達のためには、カチオン脂質をカプセル又は錠剤に封入してもよい。
【0044】
本発明のカチオン脂質の投与は、予防目的又は治療目的にいずれかであってもよい。予防的に提供される場合、カチオン脂質は、病気の証拠又は兆候に先立って提供される。治療的に提供される場合、カチオン脂質は疾患の発症時又は発症後に提供される。免疫刺激物の治療的投与は、疾患を減衰させる又は治癒させるのに役立つ。双方の目的で、カチオン脂質は、追加の作用剤又は抗原と共に投与されてもよい。カチオン脂質を、追加の作用剤又は抗原と共に投与する場合、特定の疾患に対する予防的又は治療的な効果が生成されてもよい。
【0045】
獣医用及びヒトでの使用用の双方で、本発明の製剤は、上述のようにカチオン脂質だけを含むが、また、任意で1以上の治療成分、たとえば、抗原又は薬剤分子と共にカチオン脂質を含んでもよい。製剤は単位投与形態で好都合なように提示されてもよく、薬学技術で既知のいずれの方法で調製されてもよい。
【0046】
<抗原>
実施態様の1つでは、そのほかの免疫調節剤の産生を含む種々の免疫応答を押し上げる又は低下させるために、及び免疫応答を押し上げて疾患と闘うために、カチオン脂質は追加の作用剤なしで投与される。別の実施態様では、カチオン脂質は抗原(単数又は複数)との併用で投与される。この場合、目的は、カチオン脂質と併用で送達された抗原に特異的である免疫応答を生成することである。生成される応答としては、結果としてそれら抗原に関連する特定の疾患の予防又はそれへの治療的応答を生じるような、特異的な細胞傷害性T細胞、記憶T細胞又はB細胞の産生が含まれてもよい。抗原は、腫瘍関連抗原又は微生物抗原又は当業者に既知のほかの抗原であることができる。
【0047】
本明細書で使用される「腫瘍関連抗原」は、腫瘍細胞又は癌細胞に関連し、且つMHC分子の背景で抗原提示細胞の表面に発現されると免疫応答(液性及び/又は細胞性)を誘発することが可能である分子又は化合物(たとえば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/又はDNA)である。腫瘍関連抗原には、自己抗原、並びに、癌に特異的に関連していなくてもよいが、動物に投与した際、腫瘍若しくは癌に対する免疫応答を高める及び/又は腫瘍若しくは癌の増殖を低下させる、そのほかの抗原が含まれる。本明細書ではさらに特定の実施態様が提供される。
【0048】
本明細書で使用される「微生物抗原」は、微生物の抗原であり、感染性ウイルス、感染性細菌、感染性寄生虫及び感染性真菌が挙げられるが、これらに限定されない。微生物抗原は、天然の微生物及び天然の単離物、その断片又は誘導体、天然に存在する微生物抗原と同一又はそれに類似する合成化合物であってもよく、好ましくは相当する微生物(天然に存在する微生物抗原がそれに由来する)に特異的な免疫応答を誘導する。好ましい実施態様では、天然に存在する微生物抗原と類似する免疫応答(液性及び/又は細胞性)を誘導するならば、化合物は天然に存在する微生物抗原に類似する。たとえば、たとえば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/又はDNAのような天然に存在する微生物抗原と類似する化合物又は抗原は、当業者に周知である。天然に存在する微生物抗原と類似する化合物の別の非限定例は、多糖類抗原のペプチド模倣体である。本明細書ではさらに特定の実施態様が提供される。
【0049】
用語「抗原」はさらに、本明細書で記載されるもののような既知の又は野生型の抗原のペプチド又はタンパク質の類縁体を包含することを意図する。類縁体は、野生型抗原に比べてより可溶性であるか、より安定性であってもよく、抗原をさらに免疫的に活発にする突然変異又は修飾も含有してもよい。たとえば、脂質若しくは糖の部分を付加する方法、ペプチド若しくはタンパク質のアミノ酸配列に突然変異を起こす方法、DNA若しくはRNAの配列に突然変異を起こす方法、又は当業者に既知のそのほかの修飾にて、抗原を修飾することができる。当業者に既知の常法を用いて抗原を修飾することができる。
【0050】
また、本発明の組成物及び方法において有用であるのは、所望の抗原のアミノ酸配列と相同のアミノ酸配列を有し、相同の抗原が各腫瘍、微生物又は感染した細胞に対する免疫応答を誘導する、ペプチド又はタンパク質である。
【0051】
実施態様の1つでは、カチオン脂質複合体における抗原は、腫瘍を防ぐ又は治療するワクチンを作製するための、腫瘍又は癌に関連する抗原、すなわち、腫瘍関連抗原を含む。そこで、実施態様の1つでは、本発明の腫瘍又は癌のワクチンは、少なくとも1つの腫瘍関連抗原の少なくとも1つのエピトープをさらに含む。別の好ましい実施態様では、本発明の腫瘍又は癌のワクチンは、1以上の腫瘍関連抗原の複数のエピトープをさらに含む。本発明のカチオン脂質複合体及び方法において用いうる腫瘍関連抗原は、本質的に免疫原性であるか、又は非免疫原性であるか、又はやや免疫原性であってもよい。本明細書で明らかにされるように、対象組成物がそのような抗原に対する免疫寛容を破壊することが可能であるので、治療効果に関して対象ワクチンにて腫瘍関連の自己抗原でさえ有利に採用されてもよい。例示となる抗原には、合成抗原、組換え抗原、外来抗原又は相同抗原が挙げられるが、これらに限定されず、抗原物質には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/DNAが挙げられてもよいが、これらに限定されない。そのようなワクチンの例には、腫瘍関連抗原と共にカチオン脂質複合体を用いた、乳癌、頭頚部の癌、メラノーマ、子宮頚癌、肺癌、前立腺癌、消化器癌腫、又は免疫療法に感受性の当該技術で既知のそのほかの癌の治療又は予防が挙げられるが、これらに限定されない。リポソームに封入することなく抗原をカチオン脂質複合体と共に製剤化することも可能である。
【0052】
癌を治療する又は予防するための方法に本発明のカチオン脂質複合体を使用してもよい。そのような場合、封入された抗原と共にリポソームを含有する医薬製剤を、免疫される哺乳類に注射する。腫瘍ワクチンによって治療されてもよい癌の例には、乳癌、頭頚部の癌、メラノーマ、子宮頚癌、肺癌、前立腺癌、消化器癌腫、又は、カチオン脂質と癌に関連する抗原又は複数のペプチド抗原を用いる、当該技術で既知のそのほかの癌の治療又は予防が挙げられるが、これらに限定されない。リポソームに抗原を封入することなく抗原をカチオン脂質複合体と共に製剤化することも可能である。
【0053】
本発明での使用に好適な腫瘍関連抗原としては、天然に存在する分子及び修飾された分子のいずれかであって、単一の腫瘍型を示すか、幾つかの型の腫瘍の間で共有されるか、又は正常細胞に比べて独占的に発現される若しくは過剰発現されてもよい分子が挙げられる。タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ペプチド及びリポペプチドに加えて、炭水化物、ガングリオシド、糖脂質及びムチンの腫瘍特異的パターンの発現が記録されている。癌ワクチンでの使用のための例示となる腫瘍関連抗原には、癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子及び腫瘍細胞に特有の突然変異若しくは再構成を持つそのほかの遺伝子のタンパク産物、再活性化された胎児性遺伝子の産物、腫瘍胎児抗原、組織特異的(しかし、腫瘍特異的ではない)分化抗原、増殖因子受容体、細胞表面の炭水化物残基、外来ウイルスタンパク質並びに多数のそのほかの自己タンパク質が挙げられる。
【0054】
腫瘍関連抗原の具体的な実施態様には、たとえば、Ras p21癌原遺伝子、腫瘍サプレッサーp53及びHER−2/neu及びBCR−abl癌遺伝子のタンパク産物のような突然変異した又は修飾された抗原、並びにCDK4、MUM1、カスパーゼ8及びベータカテニン;過剰発現された抗原、たとえば、ガレクチン4、ガレクチン9、炭酸脱水素酵素、アルドラーゼA、PRAME、Her2/neu、ErbB−2及びKSA、腫瘍胎児抗原、たとえば、α−フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG);自己抗原、たとえば、癌胎児性抗原(CEA)及びメラニン細胞分化抗原、たとえば、Mart1/Melan A、gplOO、gp75、チロシナーゼ、TRPl及びTRP2;前立腺関連抗原、たとえば、PSA、PAP、PSMA、PSM−Pl及びPSM− P2;再活性化胎児性遺伝子産物、たとえば、MAGE 1、MAGE 3、MAGE 4、GAGE 1、GAGE 2、BAGE、RAGE及びそのほかの癌精巣抗原、たとえば、NY−ESOl、SSX2及びSCPl;ムチン、たとえば、Muc−1 及びMuc−2;ガングリオシド、たとえば、GM2、GD2及びGD3;中性糖脂質及び糖タンパク質、たとえば、ルイス(y)及びグロボ−H;並びに糖タンパク質、たとえば、Tn、トンプソン−フリーデンリッヒ抗原(TF)及びsTnが挙げられる。また、本明細書における腫瘍関連抗原としては、細胞全体及び腫瘍細胞の溶解物、またその免疫原性の部分、そしてB細胞リンパ腫に対する使用のためのBリンパ球のモノクローナル増殖で発現された免疫グロブリンのイディオタイプも含まれる。
【0055】
腫瘍関連抗原及びそれらの各腫瘍細胞標的には、たとえば、癌腫に対する抗原としてサイトケラチン類、特にサイトケラチン8、18及び19が挙げられる。上皮膜抗原(EMA)、ヒト胎児性抗原(HEA−125)、ヒト乳脂肪小球、MBrI、MBr8、Ber−EP4、17−1A、C26及びT16も既知の癌腫抗原である。デスミン及び筋肉特異的アクチンは、筋原肉腫の抗原である。胎盤アルカリホスファターゼ、ベータ−ヒト絨毛性ゴナドトロピン及びα−フェトプロテインは、絨毛性の胚細胞の腫瘍の抗原である。前立腺特異抗原は、前立腺癌腫の抗原であり、結腸腺癌の癌胎児性抗原である。HMB−45はメラニン細胞の抗原である。子宮頸癌では、有用な抗原は、ヒトパピローマウイルスによってコードされればよい。クロマグラニンA及びシナプトフィシンは、神経内分泌及び神経外胚葉系の腫瘍の抗原である。特に関心があるのは、壊死領域を有する固形腫瘍塊を形成する侵襲性の腫瘍である。そのような壊死細胞の溶解物は、抗原提示細胞のための抗原の豊富な供給源であるので、対象療法は従来の化学療法及び/又は放射線療法と併せた有利な使用が見い出されるであろう。
【0056】
実施態様の1つでは、ヒトのパピローマウイルスHPV抗原が使用される。腫瘍関連抗原として使用される特定のHPV抗原は、HPVの亜型16E7である。HPV E7抗原/カチオン脂質複合体は、子宮頸癌を予防し、治療するのに有効である。さらに、遺伝子操作を加えたE7タンパク質、すなわち、抗原性活性は有するが腫瘍形成活性を欠くE7mは、有効な腫瘍関連抗原である。E7m/カチオン脂質複合体は、細胞性免疫を誘導し、樹立された腫瘍の完全な退行を生じるので、強力な抗子宮頸癌ワクチンとして有用である。
【0057】
腫瘍関連抗原は、当該技術で周知の方法によって調製することができる。たとえば、癌細胞の粗抽出物を調製すること(たとえば、Cohen et al., Cancer Res., 54:1055 (1994)に記載されたように)、抗原を部分的に精製すること、組換え技術、又は、既知の抗原のデノボ合成のいずれかによって、これらの抗原を癌細胞から調製することができる。抗原はまた、対象での発現及び免疫された対象の免疫系への提示に好適な形態で抗原性ペプチドをコードする、核酸の形態であってもよい。さらに、抗原は、完全な抗原であってもよく、又は少なくとも1つエピトープを含む、完全な抗原の断片であってもよい。
【0058】
特定の癌への素因が知られる病原体に由来する抗原も本発明の癌ワクチンに有利に包含されてもよい。世界中の癌の発生の16%近くが感染性病原体によるものであると推定され、多数の一般的な悪性腫瘍は、特定のウイルス遺伝子産物の発現を特徴とする。従って、癌の原因となると思われる病原体に由来する1以上の抗原を包含することは、宿主の免疫応答を広げることを助け、癌ワクチンの予防効果又は治療効果を高めるのを助ける。本明細書で提供される癌ワクチンで使用するのに特に関心のある病原体には、B型肝炎ウイルス(肝細胞癌腫)、C型肝炎(肝臓癌)、エプステインバーウイルス(EBV)(バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌、免疫抑制された個体におけるPTLD)、HTLVL(成人T細胞白血病)、発癌性のヒトパピローマウイルス、16、18、33、45型(成人子宮頚癌)、及びヘリコバクターピロリ菌(B細胞胃リンパ腫)が挙げられる。哺乳類及びさらに特にヒトにおいて抗原として役立ってもよいそのほかの医学的に関連する微生物は、文献に幅広く記載されており、たとえば、C.G.AThomas,Medical Microbiology,Bailliere Tindall,Great Britain 1983が挙げられ、その内容全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0059】
別の実施態様では、カチオン脂質複合体における抗原は、病原体に由来する又は関連する抗原、すなわち、微生物抗原を含む。そこで、実施態様の1つでは、本発明の病原体ワクチンは、少なくとも1つの微生物抗原の少なくとも1つのエピトープをさらに含む。対象ワクチンによって標的とされてもよい病原体には、ウイルス、細菌及び真菌が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施態様では、本発明の病原体ワクチンは、1以上の微生物抗原に由来する複数のエピトープをさらに含む。
【0060】
本発明のカチオン脂質複合体及び方法において用いうる微生物抗原、本質的に免疫原性であるか、又は非免疫原性であるか、又はやや免疫原性である。例示となる抗原には、合成抗原、組換え抗原、外来抗原又は相同抗原が挙げられるが、これらに限定されず、抗原物質には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/DNAが挙げられてもよいが、これらに限定されない。
【0061】
例示となるウイルス抗原には、哺乳類、さらに特にヒトに感染するウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスの例には、Retroviridae(たとえば、HIV−1(HTLV−III、LAV若しくはHTLV−III/LAV若しくはHIV−IIIとも呼ばれる)のようなヒト免疫不全症ウイルス;及びそのほかの単離物、たとえば、HIV−LP;Picornaviridae(たとえば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、腸ウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、リノウイルス、エコウイルス);Calciviridae(たとえば、胃腸炎を起こす株);Togaviridae(たとえば、馬脳炎ウイルス、ルベラウイルス);Flaviridae(たとえば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);Coronoviridae(たとえば、コロナウイルス);Rhabdoviradae(たとえば、水疱性口内炎ウイルス、ラビエスウイルス);Coronaviridae(たとえば、コロナウイルス);Rhabdoviridae(たとえば、水疱性口内炎ウイルス、ラビエスウイルス);Filoviridae(たとえば、エボラウイルス);Paramyxoviridae(たとえば、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);Orthomyxoviridae(たとえば、インフルエンザウイルス);Bungaviridae(たとえば、ハンタンウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルス及びナイロウイルス);Arena viridae(出血熱ウイルス);Reoviridae(たとえば、レオウイルス、オルビウイルス及びロタウイルス);Birnaviridae;Hepadnaviridae(B型肝炎ウイルス);Parvovirida(パルボウイルス);Papovaviridae(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);Adenoviridae(ほとんどのアデノウイルス);Herpesviridae、単純性ヘルペスウイルス(HSV)1及び2、帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス;Poxyiridae(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);並びにIridoviridae(たとえば、アフリカブタコレラウイルス);並びに分類されていないウイルス(たとえば、海綿状脳症の病因因子、デルタ型肝炎(B型肝炎ウイルスの不完全な付随体と考えられる)の因子、非A、非B型肝炎(クラス1=内部伝染;クラス2=非経口伝染(すなわち、C型肝炎)の因子;ノーウォークウイルス及び関連ウイルス、及びアストロウイルス)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
また、脊椎動物における対象組成物及び方法によって、グラム陰性及びグラム陽性の細菌が標的とされてもよい。そのようなグラム陽性の細菌には、Pasteurella種、Staphylococci種及びStreptococcus種が挙げられるが、これらに限定されない。グラム陰性の細菌には、Escherichia coli、Pseudomonas種及びSalmonella種が挙げられるが、これらに限定されない。感染性細菌の具体例には、Helicobacter pylons、Borella burgdorferi、Legionella pneumophilia、Mycobacteria sps (たとえば、M.tuberculosis、M.avium、M.intracellular、M.kansaii、M.gordonae)、Staphylococcus aureus、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、Streptococcus pyogenes(A群、Streptococcus)、Streptococcus agalactiae(B群、Streptococcus)、Streptococcus(viridans群)、Streptococcus faecalis、Streptococcus bovis、Streptococcus(anaerobic sps.)、Streptococcus pneumoniae、pathogenic Campylobacter sp、Enterococcus sp、Haemophilus infuenzae、Bacillus antracis、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium sp、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringers、Clostridium tetani、Enterobacter aerogenes、Klebsiella pneumoniae、Pasturella multocida、Bacteroides sp、Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Treponema pallidium、Treponema pertenue、Leptospira、Rickettsia及びActinomyces israeliiが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
対象組成物における微生物抗原の供給源としての使用を見い出してもよい細菌性病原体のポリペプチドには、せつ腫症の原因となるAeromonis salmonicidaの鉄調節性の外膜タンパク質(「IROMP」)、外膜タンパク質(「OMP」)及びA−タンパク質、細菌性腎疾患(「BKD」)の原因となるRenibacterium salmoninarumのp57タンパク質、主要表面関連抗原(「msa」)、表面に発現された細胞毒素(「mpr」)、表面に発現されたヘモリシン(「ish」)、及びYersiniosisの鞭毛抗原;Pasteurellosisの細胞外タンパク質(「ECP」)、鉄調節性の外膜タンパク質(「IROMP」)及び構造タンパク質;Vibrosis anguillarum及びV.ordaliiのOMP及び鞭毛タンパク質;Edwardsiellosis ictaluri及びE.tardaの鞭毛タンパク質、OMPタンパク質、アロA及びpurA;Ichthyophthiriusの表面抗原;Cytophaga columnariの構造タンパク質及び調節性タンパク質;並びにRickettsiaの構造タンパク質及び調節性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。組換えによって又は当該技術で既知のそのほかのいずれかの手段によってそのような抗原を単離し、調製することができる。
【0064】
病原体の例には、哺乳類、さらに特にヒトに感染する真菌がさらに挙げられるが、これらに限定されない。真菌の例には、Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis及びCandida albicansが挙げられるが、これらに限定されない。感染性寄生虫の例には、Plasmodium falciparum、Plasmodium malariae、Plasmodium ovale及びPlasmodium vivaxのようなPlasmodiumが挙げられるが、これらに限定されない。そのほかの感染性生物(すなわち、原生生物)には、Toxoplasma gondiiが挙げられる。寄生虫病原体のポリペプチドには、Ichthyophthiriusの表面抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
哺乳類、さらに特にヒトにおいて抗原として役立つそのほかの医学的に関連する微生物は、文献に広範に記載されており、たとえば、C.G.A.Thomas, Medical Microbiology,Bailliere Tindall,Great Britain 1983(その内容全体を参照により本明細書に組み入れる)を参照されたい。感染性のヒト疾患及びヒト病原体の治療に加えて、本発明の組成物及び方法は、非ヒト哺乳類の感染を治療するのに有用である。非ヒト哺乳類の治療のための多数のワクチンは、Bennett,K.獣医製品の概要、第3版、North American Compendiums,Inc.、1995に開示されており;WO 02/069369(その開示を参照により本明細書に組み入れる)も参照されたい。
【0066】
例示となる非ヒト病原体には、マウス乳癌ウイルス(「MMTV」)、ラウス肉腫ウイルス(「RSV」)、トリ白血病ウイルス(「ALV」)、トリ骨髄芽球症ウイルス(「AMV」)、マウス白血病ウイルス(「MLV」)、ネコ白血病ウイルス(「FeLV」)、マウス肉腫ウイルス(「MSV」)、テナガザル白血病ウイルス(「GALV」)、脾臓壊死ウイルス(「SNV」)、細網内皮症ウイルス(「RV」)、サル肉腫ウイルス(「SSV」)、マソン−ファイザーマネーウイルス(「MPMV」)、サルレトロウイルス(「SRV−1」)、レンチウイルス、たとえば、HIV−1、HIV−2,SIV、ビスナウイルス、ネコ免疫不全症ウイルス(「FIV」)、及びウマ感染性貧血ウイルス(「EIAV」)、T細胞白血病ウイルス、たとえば、HTLV−1、HTLV−II、サルT細胞白血病ウイルス(「STLV」)、及びウシ白血病ウイルス(「BLV」)、及び泡沫状ウイルス、たとえば、ヒト泡沫状ウイルス(「HFV」)、サル泡沫状ウイルス(「SFV」)及びウシ泡沫状ウイルス(「BFV」)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
一部の実施態様では、「治療」、「治療する」及び「治療すること」は、感染性病原体を参照して本明細書で使用されるとき、病原体による感染に対する対象の抵抗力を高める又は対象が病原体に感染する可能性を減らす予防的治療、及び/又は対象が感染した後、感染と闘うための、たとえば、感染を軽減する若しくは排除する又は感染が悪化するのを防ぐための治療を言う。
【0068】
微生物抗原は、当該技術で周知の方法によって調製することができる。たとえば、粗抽出物を生成することによって、抗原を部分的に精製することによって、或いは組換え技術によって、又は既知の抗原のデノボ合成によって、これらの抗原は、ウイルス細胞及び細菌細胞から直接調製することができる。抗原はまた、対象での発現及び免疫された対象の免疫系への提示に好適な形態で抗原性ペプチドをコードする、核酸の形態であってもよい。さらに、抗原は、完全な抗原であってもよく、又は少なくとも1つエピトープを含む、完全な抗原の断片であってもよい。
【0069】
抗原のカチオン脂質小胞への取り込みを改善し、又免疫系の細胞への送達を改善するために、抗原を修飾してその疎水性を高め、抗原上の負の電荷を高めてもよい。分子の抗原性特性を保持する一方で、カチオン脂質の疎水性アシル鎖における抗原の溶解性を改善するために、脂質鎖又は疎水性のアミノ酸に結合することによって抗原の疎水性を高めてもよい。修飾された抗原は、リポタンパク質、リポペプチド、疎水性を高めたアミノ酸で修飾されたタンパク質又はペプチド、及びそれらの組み合わせであってもよい。修飾された抗原は、脂質と抗原の間に結合されたリンカーを有してもよく、たとえば、ジペプチドであるセリン/セリンのリンカーを介して、N末端のα又はε−パルミトイルリジンを抗原に接続してもよい。以下でさらに詳細に議論するように、DOTAP/E7製剤に比べて、DOTAP/E7リポペプチド複合体は、生体内で、増強された機能的な抗原特異的CD8+Tリンパ球の応答を示した。さらに、抗原がカチオン脂質複合体に封入される製剤緩衝液を変更することによって、又はアニオン部分、たとえば、アニオン性アミノ酸を抗原に共有結合させることによって、抗原を操作して負の電荷を高めてもよい。
【0070】
実施例1(以下)で明らかにされるように、E7抗原の免疫原性は、抗原を共有結合で修飾することによって高められた。アミノ酸配列を抗原に共有結合させることを、得られるアミノ酸配列が抗原が由来する母体タンパク質に見い出されないように行うことができた。修飾された抗原が、元々の抗原に比べて優れたMHCクラス1結合親和性を提供することを明らかにするために研究が行われた。明らかにされたように、この優れた結合親和性は、HPV陽性のTC−1腫瘍に対する生体内での優れた抗腫瘍免疫応答の生成として説明された。本発明は、以下の実施例に照らしてさらに十分に理解されるであろう。
【実施例】
【0071】
〔実施例1〕
特定の用量組成のカチオン脂質による免疫系及び抗原提示細胞への抗原送達に対する効果的な刺激は、疾患の予防及び治療において強力な免疫応答をもたらす
【0072】
1.カチオン脂質(たとえば、DOTAP)のみ又は抗原(たとえば、HPVタンパク質E7ペプチド抗原)を取り込んでいるカチオンリポソームを含む免疫系刺激物としての使用のためのリポソームの調製
【0073】
細胞培養等級の水(メリーランド州、ウォーカーズビルのカムブレックスから市販されている)又はリン酸緩衝の生理食塩水をすべてのリポソーム調製手順に用いた。E7抗原は、HPV16E7タンパク質(ペンシルベニア州、ピッツバーグのピッツバーグ大学分子医学研究所によって合成された)に由来するH−2Db拘束性のCTLエピトープ(アミノ酸49〜57、RAHYNIVTF[配列番号1]であった。
【0074】
これらの研究で使用されたリポソームは脂質フィルムを用いて作製した。脂質フィルムは、(1)クロロホルムに脂質を溶解すること及び(2)絶え間なく流れる乾燥窒素ガスのもとでクロロホルムを蒸発させることによってガラスのバイアルで作製した。一晩真空下でフィルムを保持することによって微量の有機溶媒を除去した。次いで、必要とされる量の水又は緩衝液を加えて10mg/mLの最終濃度にすることによって12時間、脂質フィルムを水和した。次いで、槽型超音波処理器にて懸濁液を10分間超音波処理し、その後400、200及び100nmの膜フィルター(ネバダ州、リノのハミルトン社から市販されている)を介して押し出し、4℃で保存した。DOTAP/E7の調製については、E7ペプチドの水溶液によって脂質フィルムを再水和した。当業者に周知である一般的なリポソーム調製で使用されるそのほかの方法も使用されてもよい。
【0075】
2.リンパ節細胞及び樹状細胞によるIL−2及びTNF−αの産生は、カチオン脂質による処理の後刺激される
【0076】
カチオン脂質、DOTAPの免疫賦活性のメカニズムを解明し、免疫賦活活性をさらに特徴付けるために、DOTAPが適切なTh1サイトカイン産生を誘導してさらに免疫応答を高めるかどうかを評価することが重要である。従って、我々は、DOTAPの刺激に続く骨髄由来の樹状細胞(「BMDC」)によるサイトカインの産生を調べた。組換えmGM−CSFとmIL−4の存在下インビトロでの6日間の培養後、BMDC(ウエル当たり2mL中に106個の細胞)を、培地対照、DOTAPリポソーム、LPD(カチオン脂質が複合体化したDNAとプロタミン)又はリポ多糖類(LPS)0.1μg/mLで37℃にて20時間刺激した。上清中のIL−12とTNF−αの産生をBDのELISAセットによって解析した。LPD及びLPSは陽性対照として使用した。LPDにおける細菌DNAは、トール様受容体を介して免疫系を刺激し、TNF−αを刺激することが知られているCpGモチーフを含有する。培養上清を回収し、IL−12とTNF−αのサイトカインレベルをELISAによって評価した。図1では、DOTAPの濃度に応答してTNF−αではなくIL−12の産生が上昇した。このことは、樹状細胞に加えて、ほかの種類の細胞、たとえば、T細胞も、生体内で見られたDOTAPリポソームによって刺激されるTh1サイトカインの産生に関与しているかもしれないことを示している。さらに、カチオン脂質が有意なレベルの炎症誘発性サイトカインTNF−αを誘導しなかったという事実は、免疫賦活のメカニズムが、トール様受容体の経路とは無関係かもしれないことを示唆している。
【0077】
3.抗原特異的なCTL免疫応答はカチオン脂質/抗原複合体によって脂質用量依存的に誘導される。
【0078】
0日目と7日目にメスのC57BL/6マウスをDOTAP/E7製剤によって免疫した。種々の濃度のDOTAPを用いたが、HPV−16E7抗原の濃度は、10μg用量で維持した。E7抗原は、HPV16E7タンパク質に由来するH−2Db拘束性のCTLエピトープ(アミノ酸49〜57、RAHYNIVTF[配列番号1]であった。最終免疫の7日後、マウスを屠殺し、脾細胞を回収し、分離した。RBCを除いた後、完全なRPMI1640培地中にて40U/mLの組換えIL−12(ミネソタ州、ミネアポリスのR&Dシステムズから市販されている)の存在下E7ペプチド(10μg/mL)で5日間、脾細胞集団(応答細胞)を刺激した。インビトロでのCTLの増殖の後、応答細胞はCTLのエフェクターとして使えるようになる。このアッセイでは、TC−1細胞株をターゲット細胞として用いた。TC−1細胞は、HPV16E6とE7癌遺伝子と活性化H−rasによって形質転換されたC57BL/6マウスの肺上皮細胞である。エフェクターとターゲットを識別するために、製造元の指示書に従って、TC−1細胞をPKH−67(ミズーリ州、セントルイスのシグマから市販されている)で標識した。種々のエフェクター:ターゲット(E:T)の比にてエフェクターと標識されたターゲットを96穴プレートに入れ、37℃にて4時間、溶解反応を行った。細胞を回収し、BDのFACSオートデジタルフローサイトメータ(カリフォルニア州、サンディエゴのBDバイオサイエンシズから市販されている)での解析のためにヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。FL1(PKH−67)陽性領域内でのPI陽性細胞の比率によってE7特異的溶解の比率を決定した。
【0079】
今や図2を参照して、100ナノモルのDOTAPでDOTAP/E7を与えられたマウスは、TC−1細胞の特異的殺傷を生じる有意なCTL活性を示したが、600ナノモルのDOTAPでDOTAP/E7を与えられたマウスは、殺傷効果の有意な低下を示し、カチオン脂質の用量反応効果を示すことが認められる。15ナノモルのDOTAPでDOTAP/E7を与えられたマウスは、PBSで処理した対照マウスと有意に異なるCTL活性を生じなかった。我々は、最適な用量のDOTAPを与えた群からのエフェクター細胞をターゲットとしてのHPVE7陰性BL6細胞とインキュベートすることによってこの殺傷がE7特異的であることを確認したが、無視できるほどの細胞の殺傷も生じた。CTL介在性の殺傷に加えて、我々はまた、ナチュラルキラー(「NK」)細胞介在性の細胞傷害性も検討した。NK細胞は意図的な免疫なしで腫瘍細胞を破壊することができ、天然の免疫応答で重要な役割を担っている[Wu, J及びLanier, L L, ナチュラルキラー細胞と癌。Adv Cancer Res 90: 127 (2003); 及びLodoen, MB及びLanier, LL, 病原体に対する初期防御としてのナチュラルキラー細胞。 Curr Opin Immunol 18:391 (2006)]。種々の用量のDOTAPでDOTAP/E7複合体を与えたマウスは、NK感受性のターゲットであるYAC−1細胞に対して有意な殺傷を示した。
【0080】
4.カチオン脂質/抗原複合体の投与は、生体内で脂質用量依存的にCD8+及びCD4+のT細胞集団を誘導し、E7陽性腫瘍の微細環境への移動を誘導する
【0081】
最適なDOTAP/E7製剤がTリンパ球(T細胞)の産生を誘導するかどうか、及びTリンパ球はE7抗原を発現する細胞の部位に効果的に移動するかどうかを理解するために、腫瘍に浸潤しているTリンパ球の免疫組織化学的検討を行った(図3)。6〜7週令のメスC57BL/6マウスをチャールズリバーラボラトリーズ(マサチューセッツ州、ウィルミントン)から購入し、すべての動物試験に用いた。0日目に毛を刈り込んだマウスのわき腹にTC−1細胞(105個)を注射することによって皮下のHPV陽性腫瘍を定着させた。6日目に、それぞれ10μgのE7ペプチドを含有するDOTAP/E7(15、100、600ナノモル)の選択した製剤150μLをマウス(n=6)の皮下に注射した。
【0082】
14日目に固形のHPV陽性の腫瘍をマウスから切り出し、分離し、ティッシュ−Tek(登録商標)OCTコンパウンド(カリフォルニア州、トランスのサクラファインテックから市販されている)に包埋した(その後、凍結切片の調製)。クリオスタット(H/Iハッカーインスツルメンツ&インダストリーズ社から市販されている)によって試料を8μmの厚さの切片に切断した。FITCを結合した抗CD8抗体及び抗CD4抗体(カリフォルニア州、オーバーンのミルテンイバイオテック社から市販されている)を用いて腫瘍に浸潤しているT細胞を決定し、その後、DAPIによって核を対比染色した。切片の画像は、レイカSP2共焦点顕微鏡によって撮った。
【0083】
TACS(商標)TdTキット(ミネソタ州、ミネアポリスのR&Dシステムズから市販されている)を用いてTUNEL解析を行い、製造元の指示書に従ってDABで発色させた。ニコンマイクロフォトSA顕微鏡によって試料を画像化した。
【0084】
図3に示されるように、無処理のマウス(図3A)及び高用量のDOTAP組成物(600ナノモル、図3C)を与えたマウスに比べて、100ナノモルでDOTAP/E7を与えたマウスでは、CD8+Tリンパ球が高い割合(約5%)で見い出された。同様の結果は、CD4+T細胞についても見い出された(図3E〜F)。アポトーシスを判定するTUNELアッセイも一部の腫瘍凍結切片で行った。図3Hでは、無処理のマウス(図3G)及び正常で生きた腫瘍細胞を示した高用量群(図3I)に対して、100ナノモル用量のDOTAP/E7複合体でマウスを処理した後では、これらのマウスの腫瘍細胞の濃縮され、断片化された核でTUNEL陽性反応が認められた。「抗原特異的なCTL免疫応答はカチオン脂質/抗原複合体によって脂質用量依存的に誘導される」と題される上記第3項における抗原特異的なCTL応答に対する用量反応効果と同様の、Tリンパ球産生に対するカチオン脂質用量の用量反応効果が認められた。
【0085】
5.カチオン脂質/抗原複合体の投与は液性免疫を誘導する。
【0086】
図4は、DOTAPとタンパク質抗原、卵白アルブミンを含有するカチオン脂質/抗原複合体をマウスに注射した結果を示す。B細胞活性を刺激して抗体産生を誘導する、液性の免疫応答として知られる複合体の能力についてマウスを評価した。IgG抗体の形成をモニターすることによって液性応答を評価した。図4に説明されるように、DOTAP/卵白アルブミン複合体は用量依存的に液性の応答を誘発した。これらのデータは、DOTAP製剤を使用して細胞性と液性の双方の免疫応答を刺激してもよいことを示唆している。
【0087】
6.カチオン脂質/抗原複合体の投与は脂質用量依存的に調節性T細胞の集団を小さくする
【0088】
調節性T細胞は腫瘍関連抗原に対するT細胞免疫を弱め、奏功する免疫療法及び活性のあるワクチンを抑える主な障害であると考えられている。従って、我々は、担癌マウスにて調節性T細胞によって維持されている免疫寛容を、最適用量での治療的ワクチン製剤におけるDOTAP/E7が破壊する能力、よって腫瘍関連抗原に対するT細胞免疫を高める能力を検討した。フローサイトメトリー解析に使用された抗マウス抗体はすべてBDファーミンゲン(カリフォルニア州、サンディエゴ)又はバイオサイエンス社(カリフォルニア州、サンディエゴ)から購入したが、それらはそこから市販されている。脾臓細胞を回収し、1mg/mLのコラゲナーゼと70μmの細胞濾過器を用いて分離した。赤血球(RBC)を除いた後、4℃にて単一細胞の浮遊液を蛍光標識したモノクローナル抗体、抗−CD4(RM4−5)、抗−CD8a(53−6.7)、抗−CD3e(145−2cll)、抗−NKl.l(pkl36)及び抗−CD25(pc61.5)によって30分間染色した。固定し、製造元の指示書に従ってCytofix/Cytoperm(商標)キット(BDファーミンゲン)を用いて浸透化した後、50μLのPerm/Wash(商標)緩衝液中の抗−Foxp3(FJK−16s)によって4℃にて30分間細胞を染色した。さらに2回Perm/Wash(商標)緩衝液で細胞を洗浄し、次いで最終的に300μLの染色緩衝液に再浮遊し、BDのFACSオートデジタルフローサイトメータ(カリフォルニア州、サンディエゴのBDバイオサイエンシズから市販されている)で解析した。図5に示されるように、DOTAP/E7複合体(100ナノモルのDOTAP)を与えたマウスから回収した脾臓細胞は、高投与量(600ナノモルのDOTAP)動物と違って、無処理の担癌マウスに比べて、さらに低い量の調節性T細胞亜集団(Foxp3+、CD25+及びFoxp3+/CD25+)を示した。
【0089】
表1では、調節性T細胞の解析に関する10の代表的な実験を要約する。マウスが最適なDOTAP/E7処理を受けた後、脾臓細胞では、CD4+T細胞の集団が有意に増大し、同様の増大はCD8+T細胞でも見い出された(データは示さず)。さらに、この処理群では、調節性T細胞集団(Foxp3+、CD25+及びFoxp3+/CD25+)の有意な減少が見い出された。高用量でのDOTAP/E7の低下した抗腫瘍活性が、増大した調節性T細胞集団と関連することは特に明らかであった。カチオン脂質の用量反応効果が再び認められる。この結果は、最適用量の脂質での免疫療法で使用されるカチオン脂質組成物は、担癌マウスにおける寛容を破壊することによって特定の癌に対する観察される免疫応答を高め、調節性T細胞集団を抑制する一方で、機能的なCD4+及びCD8+抗原特異的Tリンパ球の増殖を刺激することができることを示している。
【0090】
表1.DOTAP/E7複合体で処理した後の担癌マウスの脾臓細胞における調節性T細胞亜集団の比率
【0091】
10.変化する用量のDOTAPにてDOTAP/E7組成物で処理されたマウスにおけるTC−1HPV陽性腫瘍の増殖の動態。
【0092】
図6では、HPV陽性腫瘍の増殖を誘導するために0日目にマウスの皮下にTC−1細胞を注射した。6日目、マウスは腹部の反対側の皮下に、10μgのE7ペプチドを含有するDOTAP/E7組成物を投与された。複合体におけるDOTAP脂質の濃度は3〜600ナノモル(3、15、30、75、150、300及び600)で変化した。低用量(15ナノモル)のDOTAPは、23日目で無処理の対照に比べて部分的な腫瘍阻害効果(p<0.05)を示したが、30、150又は300ナノモルのDOTAPは、高い有効性(p<0.01)を示した。75ナノモルでのDOTAPは、最も有意な腫瘍退行効果(p<0.001)を示した。再び、高用量のDOTAP(600ナノモル)を与えられたマウスが抗腫瘍活性を示さなかったということは、高用量でのDOTAPリポソームが免疫応答に負の調節を誘導したことを裏付けている。さらに、100ナノモルのDOTAPリポソームはE7ペプチドなしで腫瘍増殖の有意な阻害を示さなかったということは、抗腫瘍効果は抗原特異的であったことを示している。
【0093】
11.DOTAP/E7複合体は、注射後、主として樹状細胞に取り込まれ、樹状細胞の活性化及び流入領域リンパ節への移動を誘導する。
【0094】
未処理のマウス(n=4〜6)にPBS対照(図7A、C及びE)又は0.5%の1−オレオイル−2−[6−[(7−ニトロ−2−1,3−ベンゾキサジアゾール−4−イル)アミノ]ヘキサノイル]−3−トリメチルアンモニウムプロパン(「NBD−DOTAP」)を伴った総脂質100ナノモルを含有するDOTAP/E7(図7B、D及びF)を注射した。注射の4時間後、流入領域リンパ節を調製し、表面マーカーに対する適当な抗体で染色した。リンパ節の細胞全部の範囲内でNBDとCD11c(図7A及びB)又はCD86(図7C及びD)の同時発現を解析し、一方、NBDとCD8(図7E及びF)の同時発現は、CD3+集団の範囲内でゲートをかけ、解析した。数字は、4連一組の細胞の比率を表した。流入領域リンパ節を回収し、注射後様々な時点でフローサイトメータによって解析した。NBD−DOTAP/E7の注射後4時間で(図7A及びB)無処理のマウスに比べて、流入領域リンパ節でのCD11c+細胞の数は、2.5倍を超えて増えていた。NBD+細胞における同時刺激分子CD86の発現を調べたところ、NBD+細胞が高いレベルのCD86を示した(図7C及びD)ということは、DOTAPの皮下注射は、樹状細胞の活性化を誘導したことを示している。Tリンパ球のようなそのほかの種類の細胞によるNBDの取り込みも、抗CD3、CD4及びCD8抗体の同時染色によって検討した。CD3+細胞にゲートをかけ、CD3+細胞を解析したところ(図7E及びF)、NBD−DOTAPの注射後、NBDの取り込みを示さなかった。その結果は、NBD−DOTAPは、免疫直後主として樹状細胞(約80%)によって取り込まれ、DOTAPは、流入領域リンパ節への樹状細胞の移動を誘導し、結果として樹状細胞とT細胞の相互作用を生じ、強いT細胞の応答を引き出すことを明らかに実証した。
【0095】
12.特に有利な一定用量のDOTAPで製剤化されたDOTAP/E7複合体による免疫は機能的なCD8+T細胞を誘発する。
【0096】
活性化されたT細胞又はNK細胞によって分泌されるIFN−γは、CTL応答を誘導することと同様にTh1型の免疫応答で重要な役割を担うことが知られている。DOTAP/E7ワクチンによって誘導された機能的なCD8+Tリンパ球が必須のサイトカインを産生することができるかどうか評価するために、免疫の1週間後、対照又は免疫されたマウスから脾臓細胞を単離し、5μg/mLのE7ペプチドと共に、又はペプチドなしで6時間インキュベートし、その後、IFN−γの細胞内染色を行った。図8に示されるように、IFN−γを産生するCD8+細胞の数は、陰性対照よりも、最適な脂質用量でのDOTAPで製剤化されたE7を与えたマウス及びLPD陽性対照において有意に多かった。CD8+細胞によるIFN−γ産生はE7特異的に生じた。これらの結果は、最適用量でのDOTAPは、全身のリンパ系臓器においてIFN−γを産生するCD8+T細胞の生成と同様にCTLの誘導のための強力なワクチンアジュバントであることを示している。
【0097】
13.抗原特異的CTL活性を誘導することが知られている優れたアジュバントで製剤化されたE7の抗腫瘍活性とカチオン脂質/E7複合体の抗腫瘍効果の比較。
【0098】
カチオン脂質/E7製剤の有効性を腫瘍に対する免疫応答を誘導するそのほかのアジュバントと比較するために、製剤当たり6〜12匹の担癌マウスを、腫瘍定着の6日後、(1)100ナノモル用量組成のカチオン脂質でのカチオン脂質(DOTAP、DOEPC及びDOTMA)、(2)アニオン脂質(DPPG)又は(3)アジュバント(完全フロインドアジュバント「CFA」又はCpGODN1826)から構成されるF7ペプチド製剤化リポソームで処理した。図9では、26日目、対照群に比べて、カチオン脂質製剤と同様にアジュバントを与えられたマウスは、腫瘍増殖の効果的な阻害を示した。CpG/E7又はCFA/E7の製剤を与えたマウスに比べて、最適なDOTAP/E7及びDOEPCの製剤を与えたマウスはさらに良好な抗癌活性(p<0.01)を示した。CpG/E7又はCFA/E7の製剤を与えたマウスに比べて、最適なDOTMA/E7を与えたマウスはさらに良好な抗癌活性を示した。
【0099】
14.カチオン脂質は用量依存的にROSの産生を誘導し、その結果、高い用量では樹状細胞の死及び免疫賦活効果の低下を生じる。
【0100】
0、15、100又は600ナノモルの脂質を含有するDOTAP/E7を皮下注射したマウスから注射の2時間後、流入領域リンパ節を単離した。フローサイトメトリー解析に先立って、リンパ節細胞すべてをDCFH−DA化合物と37℃にて30分間インキュベートした。大顆粒細胞にゲートをかけ、ROSの存在下で蛍光生成物DCFが生成されるROSの発現について大顆粒細胞を解析した。陽性のROSシグナルを持つ細胞の相対的比率を図10Aに列記する。DOTAP/E7の注射後10時間で細胞を回収し、適当な抗体で染色することによって流入領域リンパ節で細胞傷害性を調べた。図10Bでは、樹状細胞(DC)における死細胞の比率を線状プロット(□)で示し、105個のLN当たりの生きたDCの数を棒グラフで表す。数を無処理の対照に対して正規化し、統計的に解析した(**p<0.01)。15ナノモルのDOTAPを与えたマウスからの細胞が基底レベルのROS産生(<5%)を示したのに対して、10ナノモル用量のDOTAP注射のマウスからの細胞は相対的に高いレベルのROS(約20%)を産生した。驚くべきことに、DOTAP600ナノモル群からの大顆粒細胞の大半(約80%)は陽性のROSシグナルを示した。皮下注射後10時間で、リンパ節細胞をすべて回収し、フローサイトメトリーによって細胞死について解析した(図10B)。CD11c+(樹状細胞)集団内の細胞死(ヨウ化プロピジウム陽性)の比率は、脂質の用量と共に高まり、図10Aで示されたROS産生と正に相関した。DC集団中の細胞死の比率は、未処理の対照群と比べて、高い用量のDOTAPを注射した群については約2倍高かった。また、図10Bには、DOTAP脂質の用量の関数としての105個のリンパ節細胞当たりの生きたCD11c+細胞の数も示されている。処理群の中で、100ナノモルの脂質を伴うDOTAP/E7を与えたマウスが最高の量(**p<0.01)生きた樹状細胞を示した。マウスが最適な製剤を投与された後さらに2日目に流入領域リンパ節を秤量した。総合すると、結果は、高用量のDOTAPで誘導されるROS産生は樹状細胞の死の原因となってもよいことを示している。
【0101】
さらに図10Cで説明されるように、カチオン電荷の密度は、免疫賦活効果及び得られる抗癌活性に重要である。不活性の中性脂質DOPCをカチオン脂質/E7複合体と同時製剤化することによって、ROS生成と抗癌活性の双方が低下し、その結果カチオン電荷密度が低下した。
【0102】
15.ペプチド抗原の脂質化は結果としてカチオン脂質/抗原複合体への改善された封入を生じる
【0103】
上述のようにカチオン脂質/抗原複合体を調製した。LavaPep(商標)ペプチド定量キット(オーストラリア、シドニーのフルオロテクニクスから市販されている)を用いてリポソームに結合したペプチドの比率によって、ペプチドの封入効率を測定した。取り込まれていないリポペプチドは凝集して排除フィルターを通過できなかったので、1%SDSの存在下排除されたリポソームに関連する量として取り込まれたリポペプチドを測定し、平均値±SDとして報告した。天然型のE7やKSS−E7のような水溶性ペプチドについては、Micron(登録商標)遠心フィルター(マサチューセッツ州、ベッドフォードのミリポアから市販されている)によって複合体から結合していないペプチドを分離した。製造元の指示書に従って、LavaPep(商標)を用いて結合していないペプチドの濃度を測定した。封入の効率を(1−結合していないペプチドの%)として決定し、平均値±SDとして表2に報告した(n=3)。
【0104】
表2.合成リポペプチドの比較、及びリポペプチド:DOTAPのモル比1:40でのDOTAPリポソームへのペプチド抗原封入効率の比較
【0105】
16.抗原封入効率とともにカチオン脂質/抗原複合体の抗腫瘍効果が改善する
【0106】
6日目(腫瘍定着後)に、TC−1腫瘍担癌マウス(群当たり8〜12匹)を、DOTAP/E7(10ナノモル若しくは5ナノモルのペプチドを含有する)又はDOTAP/E7−リポペプチド製剤(5ナノモルのペプチド抗原を含有する)によって単回処理した。各場合、100ナノモルのカチオン脂質の組成を使用した。5ナノモルのペプチドを伴うDOTAP/E7は有意な抗腫瘍活性を示さなかった。それに対して、DOTAPリポソームで製剤化された場合、5ナノモルの抗原でのE7−リポペプチド(α位又はε位)双方とも、5ナノモルでの天然型E7抗原によるDOTAPと比べて有意に高い治療効果を示した(図11)。リポペプチドによって引き出された抗腫瘍活性は、10ナノモルによるDOTAP/E7のそれに似ていた。パルミトイル化E7ペプチド(KSSスペーサーなしで)であるPA−E7は、DOTAPリポソームで製剤化された場合、ペプチドに直接脂肪酸を結合することによって多分エピトープが隠されたために、そのほかのリポペプチド製剤で見られるような高い抗腫瘍活性を示せなかった。少なくとも部分的には、抗原の高い封入効率のために、抗腫瘍活性は、DOTAP/E7−リポペプチドによって高められる。このことは、抗原の疎水性を高めることによって複合体への取り込みが上昇し、その結果、抗原特異的免疫応答を高めることを実証している。デキストロース(5%)で処理したマウスを陰性対照として使用した。
【0107】
17.カチオン脂質/脂質化抗原複合体は、抗原特異的なCTLの応答を高める。
【0108】
DOTAP/E7−リポペプチドによる免疫は、IFN−γを分泌するCD8+T細胞の産生を高めた。種々の製剤をマウスに注射し、最後の免疫の7日後に、免疫したマウスから脾臓細胞を単離した。インビトロにてE7ペプチド(5μg/mL)の存在下又は非存在下で細胞を6時間刺激し、FACS解析に先立って、表面CD8マーカー及び細胞内IFN−γサイトカインで染色した。各処理群からのCD8+104個当たりのCD8+IFN−γ+二重陽性細胞の比率を平均値±SDとして図12に示し、対応t検定によって統計的に解析した(**p<0.01、n=4)。
【0109】
DOTAP/E7−リポペプチドのワクチン接種によって誘導されたエピトープ特異的免疫応答を評価するために、IFN−γを産生するCD8+T細胞を分析した。最終免疫の1週間後、対照マウス及び免疫したマウスから脾臓細胞を単離し、5μg/mLのE7ペプチドの存在下又は非存在下で刺激し、その後IFN−γについて細胞内染色した。表2(上記)に記載されたように、また図12に示されるように、リポペプチド抗原の場合、複合体への抗原の取り込みが有意に改善されたので、IFN−γを産生するCD8+T細胞の数は、10及び5ナノモルの天然型のE7よりもDOTAPリポソームで製剤化された5ナノモルのε−PA−KSS−E7を与えたマウスの方が有意に高かった。再び、同一抗原量の場合、KSS−E7は、天然型のE7よりも優れた結果を示した。CD8+細胞によるIFN−γの産生は、非投与細胞がバックグランドレベルのサイトカインしか示さなかったので、E7特異的であった。これらの結果は、疎水性を高め、DOTAPリポソームへの複合体化効率を高めたE7−リポペプチドの取り込みは、カチオン脂質/抗原複合体の有効性を明らかに高め、リンパ系臓器におけるIFN−γを産生するCD8+Tリンパ球の量を増やすことを示した。
【0110】
18.母体ペプチドに存在する配列に無関係の短いアミノ酸配列を結合することによって、ペプチド抗原の抗原性が改善され、それは、DOTAPとKSS−E7ペプチドから成る脂質/抗原複合体の改善された抗腫瘍効果をもたらす
【0111】
結合される脂質鎖なしのKSS(リジン−セリン−セリン)−E7ペプチドは、DOTAPカチオン脂質で製剤化された場合、天然型のE7と匹敵する封入効率(表2)であるにもかかわらず、DOTAP複合体で製剤化された天然型のE7よりもはるかに強い免疫応答を提供した(図11及び12)。MHCクラスI分子に結合し、安定化するペプチドの能力は、特異的CTL応答を誘導する能力と直接的に相関することができることが知られている[Feltkamp, M. C. et al, 細胞傷害性Tリンパ球のエピトープを含有するペプチドによるワクチン接種は、ヒトのパピローマウイルス16型で形質転換した細胞により誘導される腫瘍に対して防御する。 Eur J Immunol, 23, (9), 2242-2249 (1993)]。我々は、天然型のE7及びKSSで延長したE7ペプチドのMHCクラスI結合親和性を評価した。5×105個/mLのマウスのリンパ腫細胞株であるRMA−S細胞を、天然型のE7又はKSS−E7ペプチド(10μM)と共に27℃にて一晩インキュベートした。培地と共にインキュベートした細胞を対照として用いた。次いで、細胞を37℃で2時間インキュベートした。洗浄した後、フローサイトメトリー解析に先立って、細胞表面上のH−2Db又はH−2Kb分子に対する蛍光標識したモノクローナル抗体で細胞を染色した。E7ペプチド(a.a.49〜57)は、H−2Dbに拘束される既知のエピトープであり、対照に比べて、RMA−S細胞でH−2Db分子を4倍上方制御する(図13)。KKS−E7ペプチドについては、平均の蛍光で8倍の上昇が認められた。E7ペプチド又はKSS−E7ペプチドのいずれかと共にインキュベートした後、RMA−S細胞でH−2Kb分子の上方制御は検出されなかった。結果は、KSS−E7は、天然型のE7ペプチドよりもH−2Db分子への結合親和性を改善しており、それはDOTAP/抗原複合体で製剤化された場合、優れた抗腫瘍活性をもたらすことが明らかにした。
【0112】
本研究によって、免疫原性ペプチドが由来する天然の母体タンパク質の配列に無関係のアミノ酸の短い配列を結合することによって、免疫原性ペプチドの免疫原性を改善する又は変更することができることが明らかにされている。
【0113】
19.カチオン脂質/抗原複合体への抗原の取り込みの効率に対するカチオン脂質と抗原の間のイオン性相互作用の影響
【0114】
これらの研究のために、DOTAPをクロロホルムに可溶化し、16×100mmのガラス管にて7mgのDOTAPから乾燥膜を調製した。減圧下で乾燥した後、(1)イオン強度の高い環境(15mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、pH7.0)又はイオン強度の低い環境(15mMのリン酸ナトリウム、50mMのNaCl、pH7.0における0.5mLの抗原)における0.5mLの抗原(HPV−16E7、アミノ酸11〜20、YMLDLQPETT、配列番号2)によってリポソームを水和した。粒径は100nmだった。
【0115】
微量遠心機にて5000rpmで20分間100KNanosep微量フィルター(ミシガン州、アナーバーのポール社から市販されている)上で濾過することによって抗原封入効率を分析した。逆相クロマトグラフィによって出発緩衝液及びNanosepフィルターからの通過液における抗原の濃度を解析してパーセント封入を決定した。表3に見られるように、封入効率は、(1−取り込まれなかったペプチドの%)として算出した。
【0116】
表3.抗原上の負の電荷を増すことによってカチオン脂質/抗原複合体への抗原の封入は高められる。
【0117】
イオン強度の高い環境では、イオン性の相互作用は最小限にとどめられる。イオン強度が高ければ高いほど、製剤化緩衝液(150mMのNaCl)のイオン強度を高めることによって負を効果的に減らし、負に荷電した抗原と正に荷電した脂質の間のイオン性の相互作用は最小限にとどめられ、結果として封入の低下を生じる。イオン強度を低下させることによって、脂質と抗原の間のイオン性の相互作用を高め、複合体への抗原のさらに大きな取り込みをもたらす。従って、製剤化緩衝液を変更するか、又はアニオン性の若しくはポリアニオン性の化合物を抗原に結合させることによって、負の電荷を高めるように抗原を操作することにより、カチオン脂質/抗原複合体への取り込み効率を高めることができる。
【0118】
考察
【0119】
米国特許第7,303,881号で記載されたように、広範なクラスのカチオン脂質が、抗原と一緒に免疫賦活剤として作用し、疾患の治療において抗原特異的な免疫応答を生成することができる。たとえば、米国特許第7,303,881号は、DC2.4樹状細胞上でのCD80/CD86同時刺激分子の発現のカチオン脂質による刺激によって明らかにされたように、カチオン脂質で構成されるリポソームが樹状細胞を活性化することを開示している(図14A及び14B)。図14Aで示されるように、様々なカチオンリポソームによるDC2.4細胞におけるCD80/CD86の発現を刺激する能力は大きく異なる。リポフェクトアミン RTM、ポリカチオン脂質、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)と中性脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の3:1(w/w)リポソーム製剤、及びO,O’−ジミリスチル−N−リシルアスパルテート(DMKE)とO,O’−ジミリスチル−N−リシル−グルタメート(DMKD)から調製されたリポソームは、CD2.4細胞によるCD80/CD86の発現を強く刺激した。
【0120】
DC2.4細胞におけるCD80の発現を刺激する様々なカチオン脂質の能力は異なっていた。脂質の親水性の頭部及び親油性の尾部の双方がこの能力に有意な影響を有する。たとえば、エチルホスホコリン(EPC)頭部基を持つDXEPCは、一般に、トリメチルアンモニウムプロパン(TAP)頭部基を持つDXTAPよりもさらに強力である。1つの特定の頭部基構造を持つ脂質の中では、より短い(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DLEPC−12:0)、(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMEPC−14:0)又は不飽和の(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOEPC−18:1))アシル鎖を持つ脂質は、さらに長い(1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPEPC−16:0)又は飽和1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSEPC−16:0))アシル鎖を持つものより強力であると思われる(図14B)。これらのデータは複数のカチオン脂質が樹状細胞の活性化を刺激することが可能であることを明らかにした。従って、3つの代表的なカチオン脂質、DOTAP、DOTMA及びDOEPCをさらなる研究のために選択し、カチオン脂質が免疫賦活剤として作用するメカニズムを決定した。代表的なカチオン脂質と共に本明細書で提示されるデータは、免疫応答を刺激するそのほかのカチオン脂質に外挿されてもよい。
【0121】
本研究のデータは、カチオン脂質が免疫系のAPCを効率的に標的とし、抗原をAPCに送達する媒体であるだけでなく、結果的にサイトカインやケモカインを始めとする免疫系調節性分子の産生を伴って、MAPキナーゼ依存性のシグナル伝達経路の活性化を介して免疫系に直接影響を及ぼすように、低い用量組成で強力なアジュバントとしても機能するという所見をもたらした。製剤の免疫賦活能におけるカチオン脂質の明瞭な用量反応効果が実証された。この目的を達成するために、我々は、抗原、たとえば、HPV16型のE7タンパク質のペプチドエピトープをDOTAP、DOTMA又はDOEPC(D0TAP/E7、D0TMA/E7又はD0EPC/E7)のいずれかのカチオンリポソームに封入し、約100ナノモル用量組成で単回の皮下注射によって抗原/脂質の複合体を投与した場合、それは、マウスにおいてHPV−16E7陽性の腫瘍TC−1の退行を誘導することを実証した。脂質/抗原の複合体を投与した際、粒子は、主要な専門的な抗原提示細胞である樹状細胞によって主として取り込まれた。実証されたように、樹状細胞の活性化の開始及び流入領域リンパ節への移動は、抗原特異的なTC−1腫瘍に対する免疫応答を促進する。DOTAP/E7を注射すると、機能的なCD8+Tリンパ球が生成され、腫瘍の微細環境に浸潤するT細胞の数の増加によって腫瘍サイズは小さくなり、アポトーシスが増加した。得られたベル形状(最適用量より上及び下で活性が低下する)のカチオン脂質の用量反応曲線は、非常に低い用量での活性を明示し、このことは、アジュバント又は免疫賦活剤としてのカチオン脂質の活性が、非常に強力なのでEC50は注射当たり約15ナノモルと低いことを示している。高用量のカチオン脂質は、免疫賦活活性を排除する。我々はまた、抗原、たとえば、卵白アルブミンをカチオンリポソームに取り込み、単回の皮下注射で投与した場合、抗原に対する有効な抗体が産生されることを明らかにした。最適な用量組成で、カチオン脂質及びカチオン脂質/抗原複合体は、疾患を防ぎ、治療するのに有用な、単純で、安全な且つ非常に効率的な免疫療法を提供することは明らかである。
【0122】
調節性T細胞は、Gershonら[Eardley, D D, et al., T細胞セットの中での免疫調節性回路、I.ヘルパーT細胞はほかのT細胞セットを誘導してフィードバック阻害を発揮する。 J Exp Med 147: 1106; 及びCantor, H, et al., T細胞セットの中での免疫調節性回路、II.生体内でのフィードバック阻害の生理的役割:NZBマウスには存在しない。J Exp Med 147:1116 (1978)]によって1970年代に最初に記載され、抑制性T細胞と呼ばれた。最近の研究は、癌患者と同様にいくつかのマウスのモデルにて腫瘍免疫の抑制においてCD4+CD25+調節性T細胞(T−reg)の役割を検討している[Comes, A, et al., CD25+調節性T細胞の欠如は、IL−21を分泌する細胞性ワクチンによって免疫療法を増強する。J Immunol 176:1750 (2006)]。T−reg細胞の頻度は癌患者の末梢血で増加する[Sasada, T, et al., 消化器悪性腫瘍の患者におけるCD4+CD25+調節性T細胞:疾患の進行への調節性T細胞の関与の可能性。 Cancer 98:1089 (2003)]。それらは、腫瘍に浸潤するリンパ球及び流入領域リンパ節で濃縮される[Baecher-Allan, C, 及び Hafler, DA, ヒト疾患におけるサプレッサーT細胞。J Exp Med 200:273 (2004)]。また、腫瘍関連組織におけるT−regの蓄積は、乏しい予後及び生存を予測する[Baecher-Allan, C, 及びAnderson, DE 担癌宿主における免疫調節。Curr Opin Immunol 18:214 (2006)]。T−regがどのように正常なT細胞免疫を弱らせるのかというメカニズムの詳細はよく理解されていないが、抗CD25抗体を用いてT−reg細胞をブロックすることによって抗腫瘍効果を高めることが報告されている[Attia, P, et al., メラノーマ患者における調節性Tリンパ球を排除するためのIL−2とジフテリア毒素(Denileukin Diftitox、DAB389IL−2、ONTAK)の融合タンパク質の不能。J Immunother 28:582 (2005)]。実際、ヒト対象腫瘍ワクチンを服用する患者においてエフェクターの応答とT−regの応答の双方をモニターし、性状分析する必要があることが明らかになっている[Baecher-Allan, C,及びAnderson, DE 担癌宿主における免疫調節。Curr Opin Immunol 18:214 (2006)]。本研究では、我々は、DOTAP/E7の抗腫瘍活性とT−reg細胞の減少の明瞭な相関を見い出した。
【0123】
従って、カチオン脂質は、特定の用量にて、生体の免疫応答を調節すること及び予防的使用及び治療的使用の双方のための治療剤及びワクチンの開発に効果的に適用することができる、新規の部類の免疫賦活剤を構成する。
【0124】
ここ数年、免疫療法及びワクチンの開発で使用するのにタンパク質及びペプチドが重要な素質を有することが知られている。そのような療法の奏功する開発の主な欠点は、免疫系への抗原の不十分な送達である。また、多大な尽力を払って感染性疾患での使用にて及び癌の療法として安全で強力な免疫賦活剤を開発してきた。マンニドモノオレエートファミリーからの界面活性剤と鉱物油又は非鉱物油の混合物であるSEPPIC社からのMontanide ISA(商標)51及び720のようなアジュバントを始めとする現在の技術は、ヒトでの感染性疾患及び癌のためのワクチンで試されている[Aucouturier, J, et al., Montanide ISA720及び51: ヒトのワクチン用のアジュバントとしての油中水エマルションの新しい生成。Expert Rev Vaccines 1:111 (2002)]。種々の研究が、抗体価を高め、特異的CTL応答を高めるMontanide ISA(商標)51及び720の能力を実証している[Yamshchikov, GV, et al.,メラノーマ患者の流入領域リンパ節及び末梢血におけるペプチドワクチンの免疫原性の評価。Int J Cancer 92:703 (2001)]。しかしながら、この種の油中水アジュバントは、製造工程の間で乳化の重大な工程を必要とし、それは常に容易に制御できるとはかぎらない。さらに重要なことに、Montanide ISA720を併用した複数エピトープポリペプチドTAB9のフェーズI臨床試験は、低用量群の8人の志願者のうち7人が中程度又は重度の局所の炎症を示し、高用量群の8人の被験者のうち4人が肉芽腫及び無菌性膿瘍を発生したことを示した[Toledo, H, et al., HIV−1非感染のヒト志願者におけるMontanide ISA720を併用した複数エピトープポリペプチドTAB9のフェーズI臨床試験。 Vaccine 19:4328 (2001)]。ISA720は、代謝可能な油で構成されており、ヒトではあまり反応原性ではないと考えられる。しかしながら、ほかのアジュバントのほとんどと同様に、エマルション中の界面活性剤は、樹状細胞及びマクロファージ上のトール様受容体(TLR)の引き金を引くので、NF−κBの産生及び炎症性応答を誘導する[Aucouturier, J, et al., Montanide ISA720及び51: ヒトのワクチン用のアジュバントとしての油中水エマルションの新しい生成。 Expert Rev Vaccines 1:111 (2002)]。
【0125】
我々は、カチオン脂質はNF−κBの発現を高めないことを明らかにしたが、これは、カチオン脂質による樹状細胞の刺激はNF−κBと無関係なメカニズムを介してシグナル伝達されることを示唆している[Cui, Z., et al (2005). ワクチン担体としてのLPDナノ粒子の免疫賦活のメカニズム。MoI Pharm 2:22-28)]。従って、カチオンリポソームは、改善された安全性特性を持つ独特の部類のアジュバントに属するのかもしれない。
【0126】
我々はまた、抗原を脂質化することによって、たとえば、KSSで延長したE7ペプチド(α位又はε位のいずれかで)にモノパルミチン酸を連結することによって、カチオンリポソーム/抗原複合体内へのペプチドの封入効率を水溶性抗原のそれを超えて改善することができることを明らかにした。たった2つの分子から成るDOTAP/E7−リポペプチド複合体は、HPV陽性のTC−1細胞を撲滅するための抗原特異的なCTLを生成するのに総合的な増強を誘導した。カチオン脂質の組成は100nmで維持した。抗原を減らした用量(5ナノモル以下)で担癌マウスに投与した場合、完全な用量(10ナノモル)での元々のDOTAP/E7製剤に比べて、DOTAP/E7−リポペプチド複合体は、優れた抗腫瘍活性を示した。リポペプチドの高められた抗原性及び抗腫瘍活性は、リポソームへのリポペプチドの高められた封入と相関した。表2に示されるように、総脂質の2.5モル%のペプチド負荷でリポペプチドの取り込み効率は90%であったが、元々の水溶性E7ペプチドのたった約25%が複合体に取り込まれたにすぎない。リポペプチドの同様の高められたリポソーム取り込みも報告されている[Yagi, N.et al.,ペプチドリガンドを伴った機能的なリポソームの調製及びその細胞膜への結合。Lipids, 35:673-680 (2000); 及びLiang, M. T. et al., リポソーム内へのリポペプチドの封入:脂質鎖の数、鎖長及びリポソーム調製法の影響。 Int J Pharm, 301:247-254 (2005)]。ペプチドがMHCクラスI経路によって提示されるように、ペプチドはAPCの細胞質に入らなければならない。カチオン脂質は、封入された、しかし遊離してはいないペプチドを、APCの中に送達する。従って、ペプチドの封入が高ければ高いほど、送達は良好であり、抗原性を期待することができる。さらに、明らかにされた用量条件下で、カチオン脂質はまた強力な免疫賦活剤として作用し、抗原特異的な強い免疫応答をもたらし、結果的に観察された腫瘍細胞死を生じる。
【0127】
ROSの重要性は、天然の免疫応答及びT細胞の活性化に関係しているとみなされており[Kantengwa et al, 超酸化物アニオンはヒト樹状細胞の成熟を誘導する。 Am J Respir Crit Care Med 167:431-437 (2003)]、ROSの高い産生は細胞死をもたらす[Tobiume K, et al, ASKIはJNK/p38 MAPキナーゼの持続した活性化及びアポトーシスに必要とされる。EMBO Rep 2:222-228 (2001)][Aramaki Y, et al, カチオンリポソームによるWEHI 231細胞におけるアポトーシスの誘導。Pharm Resl7:515-520 (2000)]。我々は、カチオン脂質によって流入領域リンパ節の細胞でROSを誘導し、高用量のDOTAP脂質は樹状細胞の死を招くことを明らかにした。実際、Iwaokaらは、カチオンリポソームがインビトロでマクロファージにおいてROSを誘導できることを示した[Iwaoka S, et al, カチオンリポソームは、マクロファージ様のRAW264.7細胞においてp38 MAPキナーゼカスパーゼ−8−Bid経路を介してアポトーシスを誘導する。J Leukoc Biol 79:184-191 (2006)]。図10Aに示されたデータは、DOTAP/E7複合体の皮下注射の後、生体内で流入領域リンパ節にてカチオン脂質がROSを生成できることを明らかに実証している。同じデータは、高用量のカチオン脂質によって生成された過剰のROSが樹状細胞の死の増大を招くことも示唆している。これらのデータは、免疫系の細胞でROSの産生を誘導するのに十分な用量でカチオン脂質を対象に投与することを支持しており、この誘導されるROSは、カチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分なレベルである。高いDOTAP用量のDOTAP/E7複合体に起因する、免疫賦活と得られる抗腫瘍活性の喪失については、そのほかの理由の可能性があるかもしれない。しかしながら、DLNにおける活性化APCの量の低下は、高用量のワクチンにおけるリンパ球浸潤(図3)、抗原特異的なCTL活性及びIFN−γの産生(図2及び図8)、並びに最も重要なことに、抗腫瘍活性(図6)の観察された低下において、確かに重要な役割を担っているはずである。他方、DOTAP誘導のROSは、おそらく、たとえば、ERKやp38 MAPのような、実施例2で以下に議論されるようにワクチンの活性に必要であるそれに続くシグナル伝達に介在する最初のシグナルなので、望ましいレベルのROS産生が必要とされる。さらに、我々は、図10Cにおいて免疫賦活効果及び得られる抗腫瘍活性に対するカチオン電荷の密度の重要性を明らかにした。ここでは、高い比率の不活性の中性脂質、DOPCをカチオン脂質/E7複合体と同時製剤化することによってROS産生と抗癌活性の双方を低下させることができ、結果としてカチオン電荷密度の低下を生じることが明らかにされる。
【0128】
実施例1は、免疫賦活効果におけるカチオン脂質の用量の重要性を明らかにし、癌及び細菌感染やウイルス感染のような複数の疾患の治療のために抗原特異的な強い免疫応答を生成するための、単純で且つ安全な免疫療法の開発における、カチオン脂質/抗原複合体の役割を強調している。
【0129】
〔実施例2〕
カチオン脂質の免疫賦活活性のメカニズム:MAPキナーゼ、ERKのリン酸化及びケモカインの誘導
A.材料及び方法
1.細胞株及びペプチド
【0130】
TC−1細胞はTC.Wu(メリーランド州、ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学)によって提供された。これらの細胞は、HPV16E6及びE7癌遺伝子と活性化H−rasによって形質転換されたC57BL/6マウスの肺内皮細胞である。10%ウシ胎児血清と100U/mLのペニシリンと100m/mLのストレプトマイシンを添加したRPMI培地(カリフォルニア州、カールズバッドのインビトロゲンから市販されている)にて細胞を増殖させた。ピッツバーグ大学、ペプチド合成施設によって、アドバンストケムテックモデル200ペプチド合成機を用いた固相合成によりHPV16E7タンパク質(アミノ酸49〜57、RAHYNIVTF[配列番号1])からMHCクラスI拘束性のペプチドを合成し、HPLCによって精製した[Feltkamp, et al. Eur J Immunol 23:2242-2249 (1993)に記載されたように]。pERK及びERK2及びsiRNAに特異的なマウスモノクローナル抗体は、カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から購入した。リン酸化p38(p−p38)に特異的なウサギポリクローナル抗体は、マサチューセッツ州、ダンバーのセルシグナリングテクノロジー社から入手した。GeneChipマウスゲノム430 2.0アレイはアフィメトリクス社から入手した。PD−98059、U−0126、PP2、ワートマニン及びGF109203Xは、カルビオケムから入手した。百日咳毒素及びそのほかの試薬はシグマから入手した。
【0131】
2.脂質/抗原複合体の調製及び物性の測定
【0132】
脂質はすべてアバンチ・ポラー・リピッド(アラバマ州、アラバスター)から購入した。薄膜水和、その後の押し出しによって小型の単層のDOTAP、DOEPC及びDOTMAのリポソームを調製した。ガラス管にて窒素流のもとでクロロホルム中の薬剤を伴った又は伴わない脂質を薄層として乾燥させた。薄膜を減圧下2〜3時間乾燥させ、次いで、最終濃度0.7mgの脂質とmL当たり0.1mgのE7(モル比=11:1)になるようにE7ペプチドを含有する細胞培養等級の水(メリーランド州、ウォーカーズビルのカムブレックスから市販されている)又は緩衝液で再び水和した。穴サイズ0.4、0.2及び0.1μmを持つポリカーボネートの膜を介して脂質分散物を順次押し出した。取り込まれなかったペプチドを除かなかった。使用までリポソームを4℃で保存した。E7ペプチドとリポソームとの結合は、リポソームに結合したペプチドの比率を測定することによって決定した。手短に言えば、DOTAP/E7又はDOTAP/E7/薬剤(MAPキナーゼ阻害剤)複合体からの結合していないE7ペプチドは、Micron(登録商標)遠心濾過装置(マサチューセッツ州、ベッドフォードのミリポア)によって分離し、結合していないペプチドの濃度は、MicroBCA(商標)プロテインアッセイキット(イリノイ州、ロックフォードのピアース)によって測定した。パーセント結合していないペプチドとしてペプチド結合の効率を決定した。およそ30%のE7ペプチドがリポソームに結合した。
【0133】
3.統計的な解析。
【0134】
少なくとも5回の独立した実験の平均値±SDとしてデータが提示される。両側性スチューデントのt検定を用いて平均値の差異について統計的有意性を評価した。有意性は、p<0.05で設定した。
【0135】
4.RNAの抽出及びマイクロアレイ
【0136】
メリーランド州、ジャーマンタウンのキアゲンからのRNeasyミニキットによって製造元の指示書に従ってRNAを抽出した。7μgの全RNAを用いてcDNAを合成した。この反応には、T7−(dT)24プライマーと共にメリーランド州、ゲーサーズバーグのライフ・テクノロジーズからのカスタムcDNAキットを用いた。次いで、バイオアレイハイイールドRNA転写キットを用いたcDNA反応からビオチン化cRNAを生成した。次いで、チップハイブリッド形成の前に、94℃にて35分間、断片化緩衝液(5×断片化緩衝液:200mMのトリス酢酸塩、pH8.1、50OmMのKOAc、15OmMのMgOAc)にてcRNAを断片化した。次いで、15μgの断片化cRNAをハイブリッド形成カクテル(0.05μg/μLの断片化cRNA、50pMの対照オリゴヌクレオチドB2、BioB、BioC、BioD及びcreハイブリッド形成対照、0.1mg/mLのニシン精子DNA、0.5mg/mLのアセチル化BSA、100mMのMES、1MのNaCl、20mMのEDTA、0.01%のツイーン20)に加えた。ハイブリッド形成に10μgのcRNAを用いた。GeneChipハイブリッド形成オーブン640にて45℃で16時間アレイをハイブリッド形成させた。アレイを洗浄し、GeneChip流体工学ステーション400にてR−フィコエリスリン−ストレプトアビジンによって染色した。この後、ヒューレットパッカードGeneArrayスキャナーによってアレイを走査した。洗浄、走査及び基本的な解析にはアフィメトリックスGeneChipマイクロアレイスイート5.0ソフトウエアを用いた。特定の遺伝子の3’から5’の強度比を調べることによって試料の質を評価した。
【0137】
5.骨髄由来の樹状細胞(BMDC)
【0138】
Inabaら、[ 顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子を添加したマウスの骨髄培養からの多数の樹状細胞の生成。J Exp Med 176:1693-702, (1992)]に記載されたものを改変した手順を用いてBMDCを生成した。手短に言えば、メスC57BL/6マウスの大腿骨及び脛骨から骨髄を回収した。赤血球を溶解した後、プラスチックへの付着性によってリンパ球から樹状細胞前駆細胞を分離することができた。10%FBS、非必須アミノ酸、抗生物質及びGM−CSF及びIL−4(R&Dシステムズ)を各1,000U/mLを添加したRPMI1640培地にて、残った骨髄細胞を6日間培養した。2日に一回培地を交換した。6日目に細胞をアッセイに使用した。CD11cの発現についてフローサイトメトリーによって証明されたように、これらの細胞は、>90%樹状細胞であった。
【0139】
6.RT−PCR
【0140】
製造元の指示書に従ってキアゲンからのRNeasyミニキットによってBMDCから全RNAを単離した。37℃にて30分間のDNA分解酵素による消化に続いて、全RNAの濃度を分光光度計によって決定した。マウスのCCL2、CCL3、CCL4及びβ−アクチン用のプライマー対(CCL2用の正方向プライマー:5’−AAGCCAGCTCTCTCTTCCTC−3’[配列番号3]及び逆方向プライマー:5’−CCTCTCTCTTTGAGCTTGGTG−3’[配列番号4];CCL3用の正方向プライマー:5’−ATCATGAAGGTCTCCACCAC−3’[配列番号5]及び逆方向プライマー:5’−TCTCAGGCATTCAGTTCCAG−3’[配列番号6];β−アクチン用の正方向プライマー: 5’−GCTCTGTGCAAACCTAACCC−3’[配列番号7]及び逆方向プライマー:5’−TGTGATGGTGGGAATGGGTCAG−3’[配列番号8]及び逆方向プライマー:5’−TTTGATGTCACGCACGATTTCC−3’[配列番号9])[Wang H., et al., 樹状細胞の流入リンパ節への移動を誘導することを介したIL−4が介在する腫瘍免疫における単球の化学誘引性タンパク質(MCP)−l/CCh2の関与の可能性。 Int Immunopharmacol 3:627-42, (2003)]をIDT技術によって合成した。逆転写及びDNAの増幅が同一の反応で起きる一工程RT−PCTキット(カリフォルニア州、カールズバッドのインビトロゲンから市販されている)を用いてRT−PCRを行った。手短に言えば、逆転写酵素とTaqポリメラーゼの存在下適当なプライマーを含む反応で1μgの全RNAを鋳型として用いた。混合物を45℃で30分間インキュベートし、94℃で30秒間、55℃で30秒間及び72℃で2分間を25回繰り返してインキュベートした。増幅の適当な陰性対照は、逆転写酵素無しの反応を含んだ。臭化エチジウムで染色した1.5%アガロースゲルのUV透照によってPCR産物を視覚化した。
【0141】
7.DOTAP刺激後のリンパ節細胞及びBMDCによるCCL2の産生
【0142】
メスC57BL/6マウス(n=5)にPBS、DOTAP/E7又はDOTAP/E7/MAPキナーゼ阻害剤を皮下注射した2日後、CCL2 ELISAキット(BD バイオサイエンシズから市販されている)によって流入領域リンパ節内でのCCL2産生の量を解析した。記載されたようなGM−CSF及びIL−4の存在下、C57BL/6マウスからのBMDCを6日間培養した。6日目に、37℃にて培地対照又はリポソームで1h、24h又は48h、BMDC(106個/mL/ウエル)を刺激した。阻害剤の処理については、リポソーム刺激の前、阻害剤をBMDCと共に20分間予備インキュベートした。CCL2 ELISAキットによって上清中のCCL2の産生を解析した。
【0143】
8.CCL2の免疫組織化学染色
【0144】
2日目にマウスの流入領域リンパ節を取り出し、OTCコンパウンドに包埋し、液体窒素で急速冷凍し、免疫組織化学分析に使用するまで−80℃で保存した。製造元のプロトコールに従って、ヤギABC染色システム(カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)を用いた。手短に言えば、流入領域リンパ節の8μmの厚さのクリオスタット切片を作製し、冷アセトンで10分間固定し、各洗浄5分間でPBSによって3回洗浄した。次いで切片を順次、内因性ペルオキシダーゼをブロックするために1%の過酸化水素(H2O中)にて10分間、PBS中1%のブロッキング血清(ロバ血清)にて60分間、次いで4℃にて一次抗体(1:100希釈、カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)と共に一晩インキュベートした。次いで、切片をAB酵素試薬と共にビオチン化二次抗体(1:150希釈、カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)と30分間インキュベートし、3滴のペルオキシダーゼ基質と10分間以上インキュベートした。
【0145】
9.ウエスタンブロット解析
【0146】
様々な処理の後、BMDC細胞の溶解物を回収し、細胞性タンパク質すべてをポリアクリルアミド/SDSゲル上で分離し、次いでポリジフッ化ビニリデン膜に転写した。トリス緩衝生理食塩水中5%の脱脂乳によって1時間、膜をブロックし、次いで一次抗体と共に1時間〜一晩インキュベートした。トリス緩衝生理食塩水で3回膜を洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼを結合した二次抗体と共に1時間、膜をインキュベートした。タンパク質バンドに結合したペルオキシダーゼ活性は、ECL(アマシャム・インターナショナル)を用いた増強化学発光、次いでオートラジオグラフィによって検出した。
【0147】
10.siRNA処理
【0148】
製造元の指示書に従って、リポフェクトアミン2000試薬(カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)を用いて、ERK1用のsiRNA及び対照siRNA(カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)によってRNA干渉実験を行った。手短に言えば、5日目に、12穴プレートにウエル当たり5×105個のBMDCを播き、直ちに4μLの形質移入試薬を用いて80nMのsiRNAで形質移入した。DOTAP又はLPSと共にさらに16時間細胞をインキュベートした。CCL2についてELISAによって上清を分析した。
【0149】
B.結果
【0150】
APCの良好なモデルであることが示されている[Mendoza L., et al., HPV16関連腫瘍の担癌マウスにおけるBMDC株及びDC株の予防的、治療的及び抗転移的な効果。 Int J Oncol 23:243-7, (2003); Okada N., et al., マウスの樹状細胞及び樹状細胞変異体における主要組織適合複合体クラスI拘束性抗原提示経路に対するリポフェクチン−抗原複合体の効果。Biochim Biophys Acta 1527:97-101, (2001)]形質転換された樹状細胞株、DC2.4を用いて、アフィメトリクスマイクロアレイ解析を用いて、DOTAPによって誘導される包括的遺伝子調節を検討した(図15A)。データは、DOTAPが、単球化学誘引タンパク質−1(「MCP−1」)/CC型ケモカイン−2(「CCL2」)、マクロファージ炎症性タンパク質−1アルファ(「MIP−1α」)/CC型ケモカイン−3(「CCL3」)、マクロファージ炎症性タンパク質−1ベータ(「MIP−1β」)/CC型ケモカイン−4(「CCL4」)を含む幾つかのケモカインの過剰発現を誘導することを示した。CC型ケモカインの誘導のほかに、IL−1のシグナルが下方制御されたが、これは、50μMのDOTAP処理の際、IL−1βが低下し、IL−1受容体アンタゴニスト(「IL1RA」)が上昇したからである。興味深いことに、DOTAPリポソームによって樹状細胞マーカー、CD11cが誘導されたということは、カチオン脂質が樹状細胞の成熟に役割を担っていることを示唆している。マウスBMDCによるRT−PCRによってケモカインmRNAの誘導が確認された(図15B)。
【0151】
前述のように、ケモカインはリンパ球の移動に関与し、免疫応答に重要な役割を担っている。ケモカインの誘導は、前述のようにカチオンリポソームの主なアジュバント活性を説明できるかもしれない。この仮説は、プロセスの根底にある詳細なメカニズムを検討するように我々を促した。様々な脂質から調製したリポソームを利用して、ケモカインの誘導がリポソームによる一般的な現象であるのかどうかを判定した。BMDCを用いた結果、四級カチオンリポソーム(DOTAP及びDOEPC)のみがBMDCからのMCP−1/CCL2の放出を誘導することを示した。中性(DOPC及びDOG)及び負に荷電した(DOPS及びDOPG)リポソームは誘導しなかった(図16)。また、DOTAP及びDODAPの三級アミン類縁体がいずれの活性も誘導しなかったということは、活性は、脂質において四級アミノ頭部基を必要とすることを示唆している。LPSもまた陽性対照として実験に含めた。図16はまた、48時間のインキュベートがさらに高いレベルのケモカイン産生を生じなかったので、カチオンリポソームによるCCL2の誘導は24時間で最高量に達することを示している。我々のデータはまた、DOTAP誘導のCCL2の発現が用量依存的であることを示している(図17)。5μMのDOTAPがBMDCからの十分量のCCL2を誘導し、45〜75μMで最高の誘導に達した。BMDCにおけるDOTAPによるCCL2の誘導にどの経路が関与しているのかを同定するために、別々のシグナル伝達経路に特異的な幾つかの阻害剤を用いた。ERK経路に特異的な阻害剤であるPD98059(「PD」)及びU−0126(「U」)は、ほぼ完全にCCL2の産生をなくしたが、驚くべきことに、p38経路の阻害剤であるSB203586(「SB」)は、DOTAPによって誘導されるCCL2産生を相乗的に高めた(図18)。われわれのデータはまた、PKC阻害剤、GF109203X(「GF」)及びSrcキナーゼ阻害剤、PP2が阻害効果を有さなかったので、DOTAPによるCCL2産生にはPKC経路及びSrcキナーゼは関与しないことを明瞭に示した。図18はまた、ワートマニン(「Wort」)及び百日咳毒素(「PTx」)が幾分阻害効果を有したので、PI−3キナーゼ及びGi依存性Gタンパク質結合性受容体(GPCR)は、DOTAP処理に際したCCL2の放出に関与する可能性があることを示している。
【0152】
幾つかのケモカインはERK経路によって調節されていることが知られており[Yoo J. K., et al., IL−18は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ/AktとMEK/ERK1/2の経路を介してマクロファージにおける単球走化性タンパク質−1の産生を誘導する。 J Immunol 175:8280-6, (2005)]、我々の系でも証明されている。ERKの経路の活性化を検討するためにBMDCを用いて、我々のデータは、DOTAPは暴露の10分以内にERKのリン酸化を誘導し、ホスフォ−ERK(p−ERK)は、高いレベルで少なくとも40分間留まることを示した(図19A)。さらに、p38もまたDOTAPによってやや活性化された。しかしながら、DOTAPのインキュベートに続いてIκBのリン酸化とそれに続く分解が検出されなかった(データは示さず)ということは、我々の以前の知見に一致して、DOTAPによって開始されるシグナル伝達にNF−κBが関与していなかったことを示唆している[Cui Z., et al., ワクチン担体としてのLPDナノ粒子の免疫賦活メカニズム。Mol Pharm 2:22-8, (2005)]。ウエスタンブロットが、p38の阻害は、DOTAPによって引き金が引かれるERKのリン酸化も相乗的に高めることができることを示したということは、ERKの経路とp38は相互に調節されていることを示唆している(図19B)。言い換えれば、p38の活性化は、ERKの活性化を阻害するのかもしれない。図18におけるELISAのデータと一致して、我々のデータは、DOTAPによって誘導されるERKのリン酸化をワートマニンが阻害したので、DOTAPが誘導するERKの活性化にはPI−3キナーゼが介在することを示していた。しかしながら、Gi阻害剤であるPTxは、DOTAPが誘導するERKのリン酸化に対してわずかな阻害効果しか示さなかった(図19C)。他方では、GF及びPP2がDOTAPによって誘導されるERKのリン酸化に効果を有さなかったので、PKCの経路及びSrcキナーゼはこのプロセスに関与していない。
【0153】
DOTAPによって開始されるCCL2の放出にERKの経路が関与することをさらに検証するために、RNA干渉のアプローチを利用してBMDCにおけるERK遺伝子の発現をブロックした。図20Aは、24時間後、特定のsiRNAによってERK1が下方制御されることを示した。ERK1遺伝子の発現をブロックするsiRNAで処理された細胞にてDOTAPが誘導するCCL2の放出が減衰した(図20B)。しかしながら、ERK1が下方制御されても、LPSはCCL2の放出を誘導し続けた(図20B)。データはまた、ERK1のsiRNA処理はほかのシグナル伝達経路に影響を及ぼさなかったことを明らかにしている。
【0154】
今までのこところ、データは、インビトロでのDOTAPが誘導するERKの活性化及びその下流のCCL2の誘導を明らかにしている。我々は、上記のシグナル伝達のメカニズムがインビトロでのDOTAPのアジュバント活性に役割を担っているかどうか検討した。DOTAP/E7リポソームワクチン製剤でマウスを皮下で免疫し、流入領域リンパ節を回収し、CCL2についてELISAによってアッセイした。データは、免疫後、流入領域リンパ節にCCL2が蓄積し、最大の蓄積は注射後2日だったことを示している(図21A)。免疫組織化学染色によってこれらのデータは確認された(図21B)。同じデータはまた、DOTAP/E7処理に際してさらに多くのリンパ球が流入領域リンパ節に移動し、結果的にリンパ節の肥大を生じたことも明らかにしている。
【0155】
ERK及びp38の経路の阻害剤もDOTAP/E7リポソーム複合体で製剤化した。DOTAP/E7/U−0126及びDOTAP/E7/SB203580は透明な懸濁液を形成したが、PD98059は、DOTAP/E7複合体中で製剤化するのは困難であった。DOTAP/E7/薬剤の製剤は、DOTAP/E7の製剤と同様のゼータ電位、粒径及び抗原負荷能を有したということは、薬剤の取り込みがワクチンの物理的な特性を有意には変えなかったことを示している。マウスにDOTAP/E7/U−0126及びDOTAP/E7/SB203580を皮下注射した。インビトロのデータと一致して、DOTAP/E7製剤は、流入領域リンパ節においてCCL2の蓄積を誘導し、U−0126及びSB−203580は、CCL2の誘導を相互に調節した(図22A)。ERKとp38の経路が、DOTAP/E7の抗腫瘍活性に関係するかどうかを判定するために、我々は、DOTAP/E7/薬剤の製剤の抗腫瘍活性を調べた。図22Bに示されるように、脂質用量100ナノモルにてDOTAP/E7で処理された担癌マウスは、TC−1腫瘍の増殖に対する強い増殖阻害効果を示した。ERKの阻害剤であるU−0126は、DOTAP/E7と同時製剤化した場合、DOTAP/E7の抗腫瘍活性を完全に消失させた。同様に、SB−203580と同時製剤化したDOTAP/E7でマウスを処理した場合、抗腫瘍活性の部分的阻害が示されたということは、p38とERKの経路の双方がDOTAP/E7複合体の抗腫瘍活性に重要な役割を担っていることを示している。
【0156】
C.考察
【0157】
リポソームは、二層の水和させた両親媒性の脂質から成る閉鎖した小胞構造である[Small D. M., 脂質と水の表面及び全体の相互作用、とそれに伴うこれらの相互作用に基づいた生物学的に活性のある脂質の分類。Federation Proc. 29:1320-1326, (1970)]。それらが1974年にアジュバントとして同定されて以来[Allison A.G.及びGregoriadis G., 免疫アジュバントとしてのリポソーム。Nature 252:252, (1974)]、リポソームは、タンパク質ワクチン及びDNAワクチンの送達システムとして広範に活用されている[Chen W.C.及びHuang L., ワクチン担体としての非ウイルスベクター。 Adv Genet 54:315-37, (2005); Gregoriadis G., et al.、リポソームへのワクチンの取り込み。Methods 19:156-62, (1999); Perrie Y., et al., 皮下経路を介したリポソームが介在するDNA免疫。J Drug Target 11:555-63, (2003)]。リポソームは、抗原の送達について幾つかの独特の利点を示す。先ず、特定の適用に選択することができる脂質組成、サイズ、層化性、電荷、調製方法に十分な汎用性がある。さらに、担体と抗原の比を考慮すると、リポソーム小胞系は、封入又は安定な結合の形態での抗原負荷の効率性が高い。安全性の観点からは、リポソームは生分解性であり、生体適合性であり、免疫原性が低い[Copland MJ., et al., 抗原の送達のための脂質基剤の粒子製剤。Immunol Cell Biol 83:97-105, (2005); O'Hagan D. T.及びSingh M., ワクチンアジュバント及び送達系としての微粒子。Expert Rev Vaccines 2:269-83, (2003)]。さらにリポソームは、タンパク質抗原を細胞質のMHCクラスI経路に導入し、CD8+T細胞の応答を生成するのに使用されている[hikh G.及びSchutze-Redelmeier M.P.,樹状細胞へのCTLエピトープのリポソームによる送達。 Biosci Rep 22:339-53, (2002)]。
【0158】
カチオンリポソームは、負に荷電した細胞膜と相互作用することができるので、それらは、遺伝子療法及びワクチン送達に広く使用されている[Anderson P., Mycobacterium tuberculosis感染に対する分泌された微生物タンパク質の可溶性混合物によるマウスの有効なワクチン接種。Infect Immun 62:2536-44, (1994); Hasegawa A.,et al., ジフテリア毒素を結合したCD52コアによる鼻免疫は、メスマウスの生殖管で特異的な抗体の産生を誘導した。Am J Reprod Immunol 34:305- 11, (2002)]。しかしながら、カチオンリポソーム自体は、天然の免疫応答を活性化できるという点で不活性であるとみなされている[Moinegeon P., et al., Th1アジュバントの合理的な設計に向けて。Vaccine 19:4363-72, (2001)]。しかしながら、カチオンリポソームはまた、同時刺激分子CD80とCD83の発現を誘導し、ヒト樹状細胞を活性化することができる(図23A〜E及び図25A〜B)。それらはまた、疾患に対する強力な免疫応答を生成することと関連した重要なケモカイン及びサイトカインを産生するようにヒト樹状細胞を誘導する(図24A〜F)。これらの知見はすべて、樹状細胞への有効な送達以外に、カチオンリポソームは、免疫系の強力な活性化剤であることを示唆している。
【0159】
アラム、CpG及びCFAのような現在使用されているアジュバントとは異なって、カチオン脂質免疫賦活剤は、NF−κBの発現を高めず、このことは、カチオン脂質による免疫系の刺激は、NF−κBに無関係のメカニズムを介してシグナル伝達されることを明らかにしており、我々のカチオン脂質に基づいた療法からLPS様の炎症反応の可能性を排除する。これらの研究は、カチオンリポソームが、有効な送達系であることに加えて、改善された安全性特性を持つ独特の部類の免疫賦活剤に属することを示している。
【0160】
本明細書では、カチオンリポソームのアジュバント活性の考えられる分子メカニズムを検討した。カチオン脂質の免疫賦活活性におけるその役割について、MAPキナーゼシグナル伝達経路の種々の成分を検討した。活性のある樹状細胞賦活剤として、脂質を検討した。カチオン脂質によってケモカインの産生が誘導され、誘導には主としてERK経路が介在することが明らかになった。さらに、データは、p38経路は、このプロセスを負に調節することを明瞭に示している。最近の報告は、p38は、主としてERKの活性を調節する能力が介在してIL−2産生において負の役割を担うことを明らかにした。p38に特異的な阻害剤はERKの活性化を誘導し、最終的にはIL−2遺伝子の活性化を高める[Kogkopoulou O., et al., p38MAPKの不活化によるIL−2産生の条件付上方制御にはErkl/2活性の増加が介在する。J Leukoc Biol 79:1052- 60, (2006)]。p38のリン酸化及び活性化が、ERK1/2とのその相互作用を高め、ERK1/2のホスホトランスフェラーゼの活性と相関するということは、活性化されたp38はERK1/2を隔離し、MEK1によるリン酸化を立体的にブロックすることを示唆している[Zhang H., et al., p38MAPキナーゼとの直接的な相互作用によるERK1及びERK2のストレスを減らした阻害。J Biol Chem 276:6905-8, (2001)]。最近の研究は、頑強で持続するERKのリン酸化は結果として樹状細胞におけるAP−1転写因子、cFosのリン酸化を生じ、それは、今度はTh1を規定するサイトカインIL−12の発現を抑えるので、Th2にとってより好ましい、ということを示唆する。しかしながら、我々のデータは、これらの報告に対して2つの重要な差異を示している。第1に、それらの研究で利用されたPam−3cys(TLR−2リガンド)は、LPSに比べてERKの活性を高めることを示したが(Dillon et al., 2004)、カチオン脂質が誘導したERKの活性は、LPSによって認められるものより低い。我々はまた、Th2サイトカインであるIL−10も検討したところ、結果はDOTAPによってIL−10は誘導されないことを示した(データは示さず)。従って、DOTAPによって誘導されるERKのシグナルはTh2の応答の引き金を引くには十分ではない。第2に、DOTAPが誘導したIL−1シグナルの下方制御は、Th2の応答も抑制することができた。DOTAPが誘導するERKの活性化は適切に制御されていると思われる。
【0161】
我々の結果は、DOTAPが誘導するERKの活性化とCCL2の誘導にはPI−3キナーゼが必要とされることを示唆している。PI−3キナーゼとERKの間の正確な関係を同定するにはさらなる検討が必要である。ELISAのデータは、DOTAPによって誘導されるCCL2の放出をPTxが阻害することを示しているが、ウエスタンブロットのデータが示すように、DOTAPが誘導するERKのリン酸化はPTxによってわずかしか阻害されない。従って、DOTAPによって開始されるシグナル伝達にはGタンパク質結合受容体は関与してもしなくてもよい。興味深いことに、リソホスファチジルコリン(LPC)はG2A受容体依存性のERKの活性化及びT細胞の移動を誘導する[Radu C.G., et al.,G2A受容体を介したリソホスファチジルコリンへのT細胞の走化性。 Proc Natl Acad Sci U S A 101:245-50, (2004)]。著者らは元々、LPCはG2A受容体のリガンドであると報告していた[Kabarowski J.H., et al., 免疫調節性受容体G2Aのリガンドとしてのリソホスファチジルコリン。Science 293:702-5, (2001)]が、その後、LPCが誘導するERKの活性化は、G2A受容体の細胞内隔離と表面発現を調節するメカニズムを介することが明らかにされた[Wang L, et al., リソホスファチジルコリンが誘導する表面の再分布は、マウスのGタンパク質結合受容体G2Aのシグナル伝達を調節する。Mol Biol Cell 16:2234-47, (2005)]。活性のあるカチオン脂質は、大きな極性の頭部基及び2つの長いアシル鎖を含有する。そのような構造的特徴は、脂質膜へのその挿入を促進してもよく、結果として脂質単層の自発的な湾曲の変化の可能性、同様に膜タンパク質の立体配座の及び機能的な変化を生じる。
【0162】
p38はCCL2誘導のERK活性化を負に調節するので、我々は、DOTAP/E7ワクチンで製剤化されたp38阻害剤、SB203580が抗腫瘍活性を高めることを期待した。しかしながら、p38はDOTAP/E7が誘導する腫瘍の退行に陽性の役割も担ってもよいことを示す反対の結果が見い出された。カチオンリポソームは、p38の活性化をもたらすことができる反応性酸素種(ROS)の生成を誘導することができるので、DOTAPが誘導するp38の活性化はROSを介することが考えられる(Iwaoka et al., 2006)。蓄積された証拠は、p38の活性化が樹状細胞からのTh1サイトカインの放出を誘導することを示している[DeSilva D.R., et al., 活性化された及び反応不顕性のTh1細胞におけるp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ経路。Cell Immunol 180:116-23, (1997); Yu J.J., et al., 本来のTh1細胞の調節及び表現型:サイトカインの役割とp38キナーゼ経路。J Immunol 171:6112-8, (2003)]。哺乳類種では、MAPキナーゼ(ERK,p38及びJNK)は、免疫応答のあらゆる態様、天然の免疫の開始相から、獲得免疫の活性化まで、及び免疫機能が完結した場合の細胞死まで関与する[Dong C, et al., 免疫応答におけるMAPキナーゼ。Annu Rev Immunol 20:55-72, (2002)]。
【0163】
多種多様な実験的アジュバントが動物での使用に利用可能であり、その一部は臨床試験で試されている。それらには、幾つかの油中水エマルション、リポソーム及びそのほかの化学アジュバントが挙げられる[Vogel, F. R.及びPowell, M. F. ワクチンアジュバント及び賦形剤の概要。 Pharm Biotechnol 6:141 (1995)]。しかしながら、インフルエンザビロソーム[Gluck, R.及びWalti, E., 免疫増強再構成インフルエンザビロソーム(IRIV)をアジュバントとしたA型肝炎ワクチン、Epaxal Bernaの生物学的検証。Dev Biol (Basel) 103:189 (2000)]及びChironのMF59[Kahn, J. O., et al., HIV非感染のヒト志願者におけるムラミルトリペプチドジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの存在下又は非存在下でのMF59アジュバントを併用したヒト免疫不全症ウイルス(HIV)ISF2型gpl20サブユニットワクチンに対する臨床的及び免疫的な応答。J Infect Dis 170:1288 (1994)]だけがアルミニウム塩以外ですでに上市されている。カチオンリポソーム(未公表データ)と同様に、アジュバントMF59に基づいた1ミクロン未満のエマルションは、樹状細胞によって内部移行させられる[Dupuis, M., et al., 筋肉注射の後、樹状細胞はワクチンアジュバントを内部移行させる。Cell Immunol 186:18 (1998)]。それは、同時送達された抗原に対する高い抗体及びT細胞の反応をもたらす種々の免疫活性を刺激する。しかしながら、HSV及びインフルエンザのワクチンに関する臨床試験報告[Jones, C. A.及びCunningham, A. L., 性器ヘルペス及び新生児単純ヘルペスウイルス(HSV)症を防ぐためのワクチン接種戦略。 Herpes 11:12 (2004); and Minutello, M., et al., 3回の連続したインフルエンザ流行期に免疫された、高齢対象におけるMF59アジュバントを併用した不活化インフルエンザサブユニットウイルスワクチンの安全性及び免疫原性。Vaccine 17:99 (1999)]によれば、動物モデルからの証拠は、MF59アジュバントは、T細胞の応答ではなく中和抗体を高めることを示唆している。従って、ワクチンアジュバントとしてのカチオンリポソームは、我々のデータによって示されるように、強い細胞性免疫応答を生成する点でMF59とは異なる。
【0164】
カチオン脂質/抗原複合体は、今までに報告された最も単純な癌ワクチン製剤であると思われる。それは、たった2つの分子、すなわち、抗原と担体だけを含有する。たとえば、樹状細胞のような抗原提示細胞の細胞質にE7ペプチドを送達することに加えて、DOTAPはまた、DCも活性化するに違いない。実際、DOTAPのみから成るリポソームは樹状細胞にて同時刺激分子、CD80/CD86の発現を誘導する。
【0165】
結論として、我々の知見は、カチオンリポソームが強力な免疫系賦活剤であることを初めて示唆している。本明細書で報告される結果は、たとえば、DOTAPのようなカチオン脂質のアジュバント活性の分子メカニズムの解明に役立つ。
【0166】
DOTAPは、その発現にERK経路が介在する幾つかのケモカイン及びサイトカインの誘導に介在する。我々の研究は、カチオンリポソームのアジュバント活性を評価するための新しい分子マーカーとしてERK経路を同定した。これらのマーカーを、強力な脂質系アジュバント及びワクチン送達系の高処理能力スクリーニング又は設計に用いてもよい。
【0167】
〔実施例3〕
ヒト免疫系の細胞におけるカチオン脂質/抗原複合体の免疫賦活能の実証。
【0168】
1.カチオン脂質/E7複合体は、脂質用量依存的にヒト樹状細胞を活性化する。
【0169】
上述のようにカチオンリポソームを調製した。製剤に使用されたE7抗原は、HLA−A*0201によって拘束される同定されたヒトE7ペプチド(HPV−16 E7、アミノ酸11−20、YMLDLQPETT、配列番号2)である。ペプチドは、ペンシルベニア州、ピッツバーグのピッツバーグ大学分子医学研究所によって合成された。ヒトHLA−A2ヒト樹状細胞はロンザ(メリーランド州、ウォーカーズビル)から入手した。凍結したクリオバイアルを融解し、50μg/mLのIL−4及びGM−CSFを添加したLGM−3培地(メリーランド州、ウォーカーズビルのロンザから市販されている)中で、37℃及び5%CO2にて12穴培養皿で2mLの培地に最初の播種密度125,000個/cm2で樹状細胞を培養した。培養中で細胞を3日間増殖させると、顕微鏡検査では、付着性細胞と丸い細胞の混合物として見えた。
【0170】
3日目に、新鮮な用量の50μg/mLのIL−4及びGM−CSFで処理し(すべてのウエル)、試験ウエルは、10ng/mLのインターロイキン−1β(「IL−1β」)、インターロイキン−6(「IL−6」)及びTNF−αの混合物、及び10μg/mLのプロスタグランジンE2(「PGE2」)(活性化の陽性対照)、無処理(活性化の陰性対照)、及び2.5、10及び40μMの最終濃度でのDOTAP/E7、2.5、10及び40μMの最終濃度でのDOEPC、及び2.5、10及び40μMの最終濃度での脂質とコレステロールのDOTAP/コレステロール/E7、のいずれかで処理した。脂質二重膜の安定剤であるコレステロールは25モル%で加えた。処理された樹状細胞を培養で24時間維持し、表面マーカーの染色及びフローサイトメトリー解析のために回収した。回収した細胞を血球計算板で計数し、10μLの以下の抗体結合体:CD80−FITC、CD−83−APC及びCD−86−PE(BDバイオサイエンシズ)を、表面マーカーを標識するために各試料に順次加えた。その後、表面を標識された細胞はBD FACSキャリバーフローサイトメータを用いたフローサイトメトリーによって解析し、活性化の際産生される同時刺激樹状細胞マーカー分子、CD80、CD83及びCD86をモニターした。図23のA,B及びCに見られるように、種々の用量のカチオン脂質/E7複合体で処理された初代ヒト樹状細胞は、評価された、T細胞への抗原提示の成功に必要とされる樹状細胞活性化の3つの同時刺激マーカーすべてについて、それらの発現を上方制御した。図23D及びEに見られるように、安定剤のような追加の成分も複合体の免疫賦活能に否定的に影響することなく、医薬組成物に含めることができる。
【0171】
2.カチオン脂質/E7複合体はヒト樹状細胞を活性化し、ケモカイン及びサイトカインの産生を誘導する
【0172】
ヒトHLA−A2の樹状細胞(メリーランド州、ウォーカーズビルのロンザ)を上述のように処理し、培養で増殖させた。3日目に、40μMのDOTAP/E7複合体又は50μM濃度の強力な免疫賦活リポ多糖類(LPS)(陽性対照)で細胞を処理した。アッセイウエルの培地を取り出し、微量遠心機にて1300rpmで5分間遠心して、付着していない樹状細胞を沈殿させた。上清を取り出し、mL当たり10μLのプロテアーゼ阻害剤カクテルセットI(カタログ番号539131、カリフォルニア州、ラホヤのカルビオケム)で処理し、解析の前に凍結保存した。ピアースバイオテクノロジー社(マサチューセッツ州、ウォバーン)のサーチライト・プロテイン・アレイMultiplexELISAアッセイを用いて、サイトカインの発現について試料を解析した。
【0173】
TNF−α及びIL−12の産生を評価し、細胞性の免疫応答に必須であることが分かっている選択されたケモカイン、CCL3、CCL4、CCL5及びCCL19の産生もすべて評価した(図24A〜F)。図24は、DOTAP/E7複合体がヒト樹状細胞によるサイトカイン及びケモカインの産生を誘導することを説明している。図24A〜Fはそれぞれ、DOTAP/E7が、TNF−α、IL−12、CCL3、CCL4、CCL5及びCCL19の産生を誘導したことを説明している。
【0174】
マウスの樹状細胞を用いた所見(実施例1)と同様に、LPSとは異なって、DOTAP/E7複合体は炎症誘発性サイトカイン、TNF−αの有意な産生を誘導しなかったということは、ヒトの系でもNF−κBが介在するシグナル伝達はカチオン脂質によって活性化されないことを裏付けている。DOTAP/E7が複数のケモカインの有効な産生を刺激することは、カチオン脂質が強力な免疫賦活剤として作用し、マウスとヒト双方の免疫細胞で効率的な活性化の同様の相関を提供することを実証している。
【0175】
3.ヒト樹状細胞の活性化に対するDOTAP/E7粒径の効果
【0176】
ヒトHLA−A2の樹状細胞(メリーランド州、ウォーカーズビルのロンザ)を上述のように処理し、培養で増殖させた。3日目に、10ng/mLのIL−1β、IL−6及びTNF−α、並びに10μg/mLのPGE2の混合物(活性化の陽性対照)、無処理(活性化の陰性対照)、50μM濃度での強力な免疫賦活リポ多糖類(LPS)(第2の陽性対照)、又は、粒径100nm、200nm及び400nmの10μMのDOTAP/E7複合体、のいずれかで試験細胞を処理した。図25に示した結果は、免疫療法の開発において免疫応答を誘導するために、カチオン脂質/抗原複合体は広いサイズ範囲内で利用できることを明らかにしている。
【0177】
考察
【0178】
実施例1及び2で記載された研究は、カチオン脂質/抗原複合体から成る免疫療法製剤の開発をもたらした。DOTAPやDOEPCのようなカチオン脂質で刺激した際、マウスの骨髄由来の樹状細胞(BMDC)は、同時刺激分子、CD80及びCD86の発現について活性化された[Vangesseri et al, カチオンリポソームによる樹状細胞の免疫刺激。Mol Membr Biol 23:385-395 (2006)]。DOTAPで活性化したBMDCでは、MAPキナーゼシグナル伝達経路の種々の成分及びCCL2のような幾つかのケモカインの活性化も認められた。動物試験は、DOTAPリポソームは特定の用量範囲内で、抗原の担体及び活性化された樹状細胞の流入領域リンパ節への移動を誘導する強力なアジュバントの双方として作用し、それによって、たとえば、腫瘍のような抗原保持細胞に対する抗原特異的なCD8+Tリンパ球の、インビボでの生成をもたらすことを示唆していた。初代ヒト樹状細胞のインビトロでの活性化試験は、カチオン脂質が、T細胞の認識及び抗原提示に必要とされる同時刺激分子の発現に向けた樹状細胞の活性化を促す強力な免疫賦活剤であることを示している。我々はまた、ヒト樹状細胞がDOTAP/E7リポソームによる活性化に際してインビトロでヒトT細胞の有意な増殖を促すことも明らかにした。
【0179】
上記で報告された研究は、カチオンリポソームの特定の独特の組成物及び適用を同定し、それらのカチオンリポソームは、単純で、コスト効果のある、最も必要とされてきた、幾つかの消耗性疾患のための免疫療法を開発するのに利用できる。
【0180】
本発明の範囲から逸脱することなく、上述の態様及び例示となる実施態様において種々の変更を行うことができるので、上記の説明に含有されるすべてのことは、限定的ではなく例示として解釈されるべきであることが意図される。これを受けて、実施例は主としてカチオン脂質DOTAP、DOEPC及びDOTMAを議論しているものの、当業者は、これらのカチオン脂質が単に例示的なものであり、本方法は、そのほかのカチオン脂質に適用可能であることを認識するであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、免疫応答を刺激することに関するものであり、さらに詳しくは、免疫応答における脂質の役割に関する。
【背景技術】
【0002】
この項は、以下に記載される及び/又は請求される本発明の種々の態様に関してもよい技術の種々の態様に読者を案内することを意図する。この議論は、読者に背景情報を提供して本発明の種々の態様のより良い理解を円滑にすることに役立つと考えられる。従って、これらの記述は、従来技術の承認としてではなく、この観点で読まれるべきであることが理解されるべきである。
【0003】
ヒトに使用するための安全で且つ有効な免疫療法の開発は、世界中の患者にとって緊急の医学的ニーズとなっている。適当な免疫応答を誘発するために、ワクチン設計又は免疫療法において免疫応答を高める、指向する又は促進するような、免疫的な修飾因子(「免疫修飾因子」)を使用することができる[Gregoriadis, G., 免疫アジュバント:リポソームのための役割。Immunol Today 11:89 (1990)]。たとえば、ワクチンは、免疫応答を刺激する抗原を含んでもよい。しかしながら、見込みのある、抗原を含むワクチンのいくつかは、免疫系の抗原提示細胞(「APC」)に効率的に抗原を送達しない及び/又は抗原の免疫原性が弱いために、免疫応答の弱い賦活剤でしかない。従って、APCに抗原を効果的に送達する、また、免疫系を刺激して抗原に応答する免疫療法が必要とされる。免疫修飾因子はそのような免疫療法として機能する可能性を有する。そのような免疫療法は、これらの及びそのほかの利益を有してもよい。たとえば、治療用ワクチンの一部として含まれる場合、免疫修飾因子は、少なくとも(1)抗原の送達及び/又はAPCにおけるプロセッシングを改善し[Wang, R. F.及びWang, H. Y. 樹状細胞において抗原提示を延長することによる抗腫瘍免疫の増強。Nat Biotechnol 20:149 (2002)]、(2)ワクチン抗原に対する免疫応答の進展を支える免疫調節性サイトカインの産生を誘導するので細胞性免疫を促進し、細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)を誘導し、(3)有効なワクチンに必要とされる免疫の回数及び抗原の量を減らし[Vogel, F. R. アジュバントによるワクチン性能の改善。Clin Infect Dis 30 Suppl 3:S266 (2000)]、(4)ワクチン抗原の生物学的な及び免疫的な半減期を増大させ、並びに(5)免疫抑制因子を阻害することによって抗原に対する免疫寛容に打ち勝つべきである[Baecher-Allan, C,及びAnderson, D. E. 担癌宿主における免疫調節。Curr Opin Immunol 18:214 (2006)]。
【0004】
現在、免疫応答を誘発することにおいてペプチド又はタンパク質の抗原のような抗原の有効性を高めるのに使用されている、主な部類の作用剤は、油中水、アラム及び抗原の応答を高めるそのほかの化学物質のようなアジュバントであるが、それらは自体直接的な免疫調節性効果を有さないので、上述のようにこれらのアジュバントは免疫修飾因子ではない[Vogel, F. R.及びPowell, M. F.ワクチンのアジュバントと賦形剤の概要。Pharm Biotechnol 6: 141 (1995)]。そのような幾つかのアジュバントは、動物での使用で利用可能であり、その一部は臨床試験で試されている。アルミニウム塩のような従来のアジュバントに加えて、固有の免疫効果を有するインフルエンザビロソーム[Gluck, R.及びWalti, E. 2000. 免疫増強する再構成されたインフルエンザビロソーム(IRIV)によって補強されたA型肝炎ワクチンであるEpaxal Bernaの生物学的妥当性。Dev Biol (Basel) 103:189 (2000)]及びChironのMF59[Kahn, J. O., et al. HIVに感染していないヒト志願者におけるムラミルトリペプチドジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの存在下又は非存在下でのMF59アジュバントを併用したヒト免疫不全症ウイルス(HIV)ISF2型gp120サブユニットワクチンに対する臨床的及び免疫的な応答、 J Infect Dis 170:1288 (1994)]のような製品が市場に出つつある。たとえば、1ミクロン未満のエマルション系のアジュバントであるMF59は、樹状細胞によって内部に取り入れられる[Dupuis, M., et al., 筋肉内注射の後、樹状細胞は、ワクチンアジュバントを内部に取り込む。Cell Immunol 186:18 (1998)]。しかしながら、HSV及びインフルエンザのワクチンに関する臨床試験の報告によれば[Jones, C. A.及びCunningham, A. L. 性器ヘルペス及び新生児単純ヘルペスウイルス(HSV)疾患を予防するためのワクチン接種戦略。Herpes 11:12 (2004); Minutello, M. et al., 3回の連続したインフルエンザ流行期に免疫された、高齢対象におけるMF59アジュバントを併用した不活化インフルエンザサブユニットウイルスワクチンの安全性及び免疫原性。Vaccine 17:99 (1999)]、動物モデルからの証拠は、MF59アジュバントは、T細胞の応答を増強するのではなく、中和抗体の産生を増強することを示唆している。従って、細胞性免疫応答を刺激する新しい方法が求められる。
【0005】
さらに、上述のように、一部の抗原は、免疫応答の賦活剤としては弱い。従って、上述のような免疫応答を刺激する物質と抗原を同時投与することに加えて、免疫原性の弱い抗原を改変して、その免疫原性を高めることもできる。たとえば、免疫原性の弱い抗原を免疫原性のペプチド、多糖類又は脂質と結合させて、その免疫原性を高めることができる。しかしながら、この種の化合物に免疫原性の弱い抗原を単純に結合することは、免疫応答を誘発するのに十分ではない可能性がある。たとえば、得られる免疫応答が、弱い抗原ではなく、結合させた化合物の免疫原性のエピトープに向けられる可能性があり、又は結合させた抗原が免疫系のAPCに効率的に送達されない可能性がある。従って、免疫原性の弱い抗原に対する免疫応答を刺激するための追加的な方法が必要とされる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の特定の例示となる態様を以下に述べる。これらの態様は、本発明が利用する特定の形態の手短な要約を読者に提供するために単に提示されるのであって、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことが理解されるべきである。実際、本発明は、以下に明白には述べられなくてもよい種々の態様を包含してもよい。
【0007】
本発明は、特定の用量及び組成条件のもとで(1)免疫系に効果的に抗原を提示又は送達し、且つ(2)免疫系を刺激して抗原に応答するための、新規の部類の免疫賦活剤として作用する、カチオン脂質の使用に関する。
【0008】
リポソームは、小さな分子量の薬剤、プラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、タンパク質及びペプチドを送達するために広範に使用されている。非ウイルス性抗原担体としてのリポソーム媒体を用いたワクチンは、生の弱毒化ワクチン又はワクシニア若しくはインフルエンザウイルスのようなウイルス媒体を用いた従来の免疫に比べて好ましい。米国特許第7,303,881号は、単純だが有効な脂質に基づいた免疫療法と、2つの分子、すなわちカチオン脂質と抗原から成り、たとえば、安定剤、アジュバント及び表面改質剤のような追加の成分を添加すればよい、カチオン脂質/抗原複合体を記載している[米国特許第7,303,881号を参照のこと]。カチオン脂質と抗原[たとえば、E7、ヒトのパピローマウイルス(「HPV」)]から成る製剤は、マウスのモデルにてHPV陽性のTC−1腫瘍に対して予防的且つ治療的な抗腫瘍免疫応答を誘導する。その結果は、抗原と複合体形成したカチオンリポソームが免疫応答を刺激し、T細胞との樹状細胞(APC)の相互作用を起こさせるのに役立つことを明らかにしている。
【0009】
本発明では、強力な免疫応答を誘導するためのカチオン脂質/抗原複合体の能力をさらに理解するために行われた追加の研究によって、カチオン脂質自体が、あらゆる哺乳類種に存在するMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase、マイトジェン活性化タンパク質)のシグナル伝達経路の成分を活性化することによって、低用量条件下にて強力な免疫活性化因子として作用し得るという発見がもたらされた。カチオン脂質/抗原複合体は、抗原と組み合わせて、低用量条件下にて、複合体にて製剤化された抗原に特異的な強力な免疫応答を誘導する。高用量のカチオン脂質では、免疫細胞にて過剰に反応性酸素種(ROS)が産生され、観察される免疫応答を弱める。
【0010】
従って、本発明の態様の1つは、対象の免疫系の細胞によってMAPキナーゼのシグナル伝達を活性化することにより対象において免疫応答を誘導するのに十分な用量の、少なくとも1つのカチオン脂質の組成物を提供する。
【0011】
本発明の別の態様は、カチオン脂質を対象に投与することによってMAPキナーゼのシグナル伝達を活性化することにより、対象において免疫応答を誘導する方法を提供する。
【0012】
本発明の別の態様は、対象の免疫系の細胞において反応性酸素種(ROS)の産生を誘導することによって免疫応答を誘導するのに十分な用量の、少なくとも1つのカチオン脂質の組成物を提供する。カチオン脂質複合体は、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分なレベルまで、ROS産生を刺激する。
【0013】
本発明の別の態様は、対象にカチオン脂質複合体を投与して対象の免疫系の細胞において反応性酸素種(ROS)の産生を誘導することによって、免疫応答を誘導する方法を提供する。カチオン脂質複合体は、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分なレベルまで、ROS産生を刺激する。
【0014】
本発明の追加の態様は、免疫応答が抗原特異的であるカチオン脂質/抗原複合体を形成するための、少なくとも1つの抗原の添加を含む。
【0015】
〔関連出願への相互参照〕
本出願は、「疾患の治療のためのカチオン脂質系の免疫賦活剤」と題するLeaf Huangによって2007年3月22日に出願された米国特許仮出願、出願番号60/896,412号;「疾患の治療のためのカチオン脂質系二重機能送達システム及び免疫賦活剤」と題するLeaf Huang及びWeishu Chenによって2007年4月13日に出願された同60/911,549号;「疾患の治療のためのカチオン脂質系二重機能送達システム及び免疫賦活剤」と題するLeaf Huang, Weishu Chen及びWeili Yanによって2007年7月9日に出願された同60/948,512号;及び「リポソームペプチド製剤による免疫応答の誘導」と題するWeishu Chen及びLeaf Huangによって2007年10月30日に出願された同60/983,799号の利益を請求する、「カチオン脂質による免疫応答の刺激」と題するWeishu Chen, Weili Yan, Kenya Toney, Gregory Conn, Frank Bedu−Addo及びLeaf Huangによって2008年3月17日に出願された米国特許出願第12/049,957号の利益を請求する。なおこれらの文書の開示の全体を参照することにより本明細書に組み入れる。
【0016】
図面全体を通して同類の文字が同類の部分を表す添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読めば、本発明の種々の特徴、態様及び利点がさらに理解されるようになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(「DOTAP」)による樹状細胞の刺激後の、インビトロでのサイトカインの産生を示すグラフである。
【図2】図2は、フローサイトメトリーによるCTL介在性の細胞傷害性の分析である。E7特異的な細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)のクローンを調製し、増殖させた。E7ペプチドによる5日間のインビトロでの再刺激の後、示したエフェクター対ターゲットの比にて37℃で4時間、PKH−67で標識したTC−1ターゲット細胞とともにエフェクター細胞をインキュベートした。非特異的なターゲット細胞の対照としてBL−6を用いた。フローサイトメトリーにて、PKH−67陽性ターゲット細胞のゲートをかけた範囲内でPI陽性である細胞の比率によって、E7特異的な殺傷の比率を決定した。100:1のE:T比にて対照群と比べることによって統計的解析を行った(*p<0.01、**p<0.001、n=5)。
【図3】図3は、最適な脂質用量にてDOTAP/E7を与えたマウスにおいて観察された腫瘍に浸潤するTリンパ球である。記載されたようにTC−1腫瘍を定着させ、未処理のままにするか、又は6日目の単回注射にて処理した。14日目に固形腫瘍を取り出し、浸潤しているリンパ球について調べた。FITC結合した抗CD8抗体(A、B、C)及び抗CD4抗体(D、E、F)を用いて、浸潤しているT細胞を判定し、その後、DAPIによって対比染色した。3匹ずつのマウスの群から代表的な腫瘍切片を記載したように調べ、共焦点顕微鏡によって画像化した。腫瘍切片でのアポトーシスを検出するためにTUNELアッセイを行った(G、H、I)。
【図4】図4は、カチオン脂質による処理による液性活性の誘導を示すグラフである。
【図5】図5は、フローサイトメトリーを用いた、E7ペプチドと共にDOTAPを与えた後のマウスにおける調節性T細胞集団の減少を説明するグラフである。
【図6】図6は、DOTAP/E7製剤で処理したマウスにおけるTC−1腫瘍増殖の動態である。TC−1接種後6日目に、種々の脂質濃度でのDOTAPリポソームにて製剤化した10μgのE7ペプチドでマウスを処理した。23日目の各群のTC−1腫瘍のサイズを未処理の対照群と比較し、統計的に解析した(*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
【図7】図7は、DOTAPの皮下注射による樹状細胞の活性化と流入領域リンパ節への移動の誘導を示す。PBS対照(A、C及びE)、又は0.5%NBD−DOTAPと共に100ナノモルの総脂質を含有するDOTAP/E7(B、D及びF)を未処理のマウスに注射した。注射の4時間後、流入領域リンパ節を調製し、表面マーカーに対する適当な抗体で染色した。NBDとCD11c(A及びB)又はCD86(C及びD)の同時発現は、リンパ節全体の細胞で解析し、一方NBDとCD8(E及びF)の同時発現は、CD3+集団の範囲内でゲートをかけ、解析した。数字は4連一組での細胞の比率を表す。
【図8】図8は、最適なDOTAPアジュバントにて製剤化されたE7による免疫が機能的CD8+細胞を引き出すことを示す。105個のCD8+T細胞当たりのCD8+IFN−γ+細胞の数を平均値±SDとして示し、無処理の対照と比較した(n=4、**p<0.01)。
【図9】図9は、T細胞応答を引き出すことが知られている強力なアジュバントと比較した、種々のカチオン脂質で構成されるカチオン脂質/E7複合体の抗腫瘍免疫応答を説明するプロットである。
【図10】図10は、マウスの流入領域リンパ節おける、抗腫瘍免疫応答と相関するROSの産生を説明するグラフである。A:0、15、100又は600ナノモルの脂質を含有するDOTAP/E7を注射したマウスから、流入領域リンパ節(「DLN」)を注射の2時間後に単離した。陽性のROSシグナルを持つ細胞の相対的な比率を列記する。B:フローサイトメトリーによってDOTAP/E7注射の10時間後細胞を回収することにより、DLNにおける細胞傷害性を測定した。DCにおける死細胞(PI陽性)の相対的な比率(白四角)及び105個のLN細胞当たりの生きたDCの数(棒)を示し、対応スチューデントt検定によって無処理の対照のそれと比較した(**p<0.01)。C:不活性の中性脂質、ジオレイルホスファチジルコリン(「DOPC」)のDOTAP/E7との同時製剤化(DOPC/DOTAP=5)によってDLN中の反応性酸素種(「ROS」)の産生が低下し、結果的に複合体の抗腫瘍活性の低下を生じた。
【図11】図11は、カチオン脂質/抗原複合体により結果として生じる免疫応答に対する改善された封入効率の効果を説明する。カチオンリポソーム製剤へのE7リポペプチドの組み入れによって抗TC−1腫瘍活性が増強された。TC−1腫瘍担癌マウス(群当たり8〜12匹)は、6日目に単回処理で、DOTAP/E7(5又は10ナノモルのE7ペプチドを含有する)又はDOTAP/E7リポペプチド(5ナノモルのペプチドを含有する)又はDOTAP脂質のみを投与された。デキストロース(5%)で処理したマウスを陰性対照として用いた。24日目の各群の平均腫瘍サイズをDOTAP/E7(5ナノモル)を与えた群のそれと比較し、スチューデントのt検定によって解析した(*p<0.05、**p<0.01)。
【図12】図12は、DOTAP/E7リポペプチドによるマウスの免疫がCD8+T細胞におけるIFN−γの分泌の上昇を誘導することを実証するグラフである。
【図13】図13は、短い無関係のアミノ酸配列に連結したペプチド抗原の増強された免疫原性を説明するグラフである。
【図14A】図14Aは、様々なカチオンリポソームで刺激した後のDC2.4細胞における同時刺激分子、CD80とCD86の発現を説明するグラフである。
【図14B】図14Bは、DC2.4細胞における同時刺激分子(CD80)の発現に対するカチオン脂質の炭化水素鎖長依存性の発現を説明するグラフである。
【図15】図15は、カチオンリポソームによるケモカインとCD11cの転写の上方制御及びIL−1の下方制御を示す。(A)DC2細胞を50μMのDOTAPリポソームで24時間処理した後のmRNAレベルでの倍増加を示すアフィメトリクスマイクロアレイ解析。(B)50μMのDOEPC又はDOTAPリポソームと共に16時間インキュベートし、その後全RNAを抽出し、特異的プライマーと共に増幅した(陽性対照として100ng/mLのLPS)BMDCにおいて、DOTAP及び1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(「DOEPC」)によってCCL2及びCCL4が上方制御されることを示すRT−PCR。
【図16】図16は、カチオンリポソームのみがBMDCからのCCL2の放出を誘導することを示す。
【図17】図17は、DOTAPは、用量依存的にCCL2の放出を誘導することを示す。
【図18】図18は、DOTAPが誘導するBMDCからのCCL2放出に関与するシグナル伝達経路を検討するためのMAPキナーゼ阻害剤の使用を示す。6日目に、阻害剤でBMDCを20分間予備処理し、その後、75μMのDOTAPリポソームで24時間処理した。実験に使用した濃度は、PD(PD−98059)、20μM;SB(SB−203580)、lOμM;U(U−0126)、lOμM;PTx(百日咳毒素)、200ng/mL;PP2、lOμM;Wort(ワートマニン)、200nM;GF(GF109203X)、200nMである。ELISAによって上清を分析した。100ng/mLのLPSを陽性対照とした。
【図19】図19は、BMDCにおいてDOTAPがERK及びp38の活性化を誘導することを示す。(A)時間経過試験。6日目に、106個/mL/ウエルの密度にてBMDCを12穴プレートに播いた。75μMのDOTAPリポソームと共に示した時間それをインキュベートした。細胞を回収し、図に示された抗体を用いたウエスタンブロット解析に供した。ERK2抗体をプローブとして同じ膜を処理し、負荷対照とした。(B)DOTAPが誘導するERKの活性化はp38によって負に調節された。(C)DOTAPが誘導するERKの活性化は主としてPI−3キナーゼを介するものであり、p38によって負に調節された。
【図20】図20は、ERK遺伝子発現のsiRNAのアプローチによる下方制御は、DOTAPが誘導するBMDCからのCCL2放出を減衰させることを示す。(A)ERK1遺伝子の発現は、BMDCにおける24時間の処理の後siRNAによってブロックされた。(B)siRNAによるERK1のブロックは、DOTAPが誘導するBMDCからのCCL2放出を特異的に減衰させた。DOTAP:75_M、LPS:100ng/mL、対照のsiRNAに比べて*p<0.05、n=3。
【図21】図21は、DOTAP/E7製剤は、マウスの流入領域リンパ節にてCCL2の蓄積を誘導することを示す。0日目に、DOTAP/E7製剤(100ナノモルのDOTAPと10μgのE7ペプチド)をマウス(n=3)に注射した。示された日にマウスを屠殺し、流入リンパ節を回収した。流入領域リンパ節を100μLのELISA緩衝液(PBS中10%FBS)にてホモジネートし、次いで、ELISAによって解析し(A)、又は本文に記載するようにCCL2抗体によって免疫化学的に染色した(B)。元々の倍率×400
【図22】図22は、ERKの阻害は、流入領域リンパ節におけるCCL2の蓄積を減衰させ、且つDOTAP/E7製剤による抗腫瘍活性をブロックすることを示す。(A)ERKとp38の経路によって流入領域リンパ節におけるCCL2の蓄積は相互に調節された。(B)阻害剤入りまたは無しで同時製剤化したDOTAP/E7を投与したマウスにおける、TC−1腫瘍増殖の動態。0日目にTC−1細胞(1×105個/マウス)をマウスに注射した(n=5)。6日目に、DOTAP/E7、DOTAP/E7/U−0126、DOTAP/E7/SB又はPBSでマウスを処理した。その後、腫瘍サイズを測定した。DOTAP/E7と比べて*p<0.05。
【図23】図23は、カチオン脂質/抗原複合体がヒトの樹状細胞を効果的に活性化することを示す。図20A〜Eは、それぞれ、DOTAP/E7によるCD80の刺激、DOTAP/E7によるCD83の刺激、DOTAP/E7によるCD86の刺激、DOEPC/E7及びDOTAP/コレステロール/E7によるCD80の刺激、並びにDOEPC/E7及びDOTAP/コレステロール/E7によるCD83の刺激を説明する。
【図24】図24は、ヒト樹状細胞によるサイトカイン及びケモカインの産生を誘導するDOTAP/E7の能力を説明する。図23A〜Fは、それぞれ、TNF−α、IL−12、CCL3、CCL4、CC15及びCCL−19の産生を説明する。
【図25】図25は、ヒト樹状細胞の活性化に対するカチオン脂質/抗原複合体の粒径の効果を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の1以上の特定の実施態様を以下に記載する。これらの実施態様の簡明な説明を提供する努力において、実際の実施の特徴すべてが明細書に記載されるとはかぎらなくてもよい。そのような実際の実施の開発において多数の実施に特異的な決定が為されて、1つの実施から別の実施まで異なってもよい、開発者の特定の目標を達成しなければならないことが十分に理解されるべきである。さらに、そのような開発努力は複雑で時間がかかるかもしれないが、それにもかかわらず、この開示の利益を有する当業者にとっては、日常の仕事であることが十分に理解されるべきである。
【0019】
本発明の要素(たとえば、その例示となる実施態様)を紹介する際、冠詞、「a」、「an」、「the」及び「said」は1以上の要素が存在することを意味することを意図する。用語「含むこと」、「包含すること」及び「有すること」は、列記された要素以外に追加の要素があってもよいことを含み、意味することを意図する。
【0020】
本発明の態様の1つは、疾患を防ぐ又は治療するために哺乳類において免疫応答を生じるカチオン脂質を提供する。カチオン脂質は、MAPキナーゼのシグナル伝達経路の種々の成分を活性化することによって、たとえば、ケモカイン及び/又はサイトカインの産生のために用量依存性の免疫修飾因子として独立して機能することができる。最適な用量範囲は、種々の哺乳類種の範囲内で異なることが観察される。げっ歯類種では、たとえば、最適なカチオン脂質の用量は、50〜300ナノモルの間の範囲であってもよい。本明細書に記載される特定の用量及び組成は単に例示であり、当業者は、所与の対象での使用に適当な用量を決定することができる。別の態様では、免疫系の細胞に提示するために低用量のカチオン脂質が抗原又は薬剤と結合する一方で、同時に抗原特異的な強い免疫応答を刺激してもよい。本発明の一部の態様では、抗原はリポペプチドである。
【0021】
米国特許第7,303,881号は、疾患関連の抗原と複合体化した複数のカチオン脂質が、特定の疾患(たとえば、HPV陽性の癌)を防ぐ予防的免疫応答を刺激し、特定の抗原を発現する細胞を殺傷し、その結果疾患の有効な治療を生じる治療的免疫応答も刺激することを示したことを開示している。現在、DOTAP、DOEPC及びプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(「DOTMA」)を用いたカチオン脂質の免疫賦活能をさらに理解するために研究が行われ、この3種のカチオン脂質が、上記で参照された特許において免疫賦活剤として実証された脂質の広い部類に分類されている。これらの研究によって、カチオン脂質は、独立して特定の低用量の範囲又は組成物の中で免疫修飾因子として機能し、抗原と共に(又はなしで)免疫応答を刺激することができるという発見がもたらされた。カチオン脂質を抗原と共に複合体化すると、抗原特異的な免疫応答が生成される。
【0022】
別の態様では、現在記載されている特定の用量条件下で投与された本発明のカチオン脂質組成物は、MAPキナーゼのシグナル伝達経路の種々の成分の誘導を刺激して、疾患に対抗する生体の免疫応答を活性化させる一方で、同時に免疫系の細胞に抗原を送達する。以下の実施例で明らかにされるように、カチオン脂質は用量依存的に反応性酸素種(「ROS」)の産生を誘導する。しかしながら、カチオン脂質の最適な用量を超えると、高いROSの産生が免疫系の細胞にアポトーシスを誘導し、強い免疫応答を生成する脂質の能力を弱くする。特定の範囲のROSの産生は、今度は、結果としてサイトカインやケモカインの産生を生じ、免疫応答を調節する。従って、カチオン脂質の最適な用量は、カチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回る免疫応答における増進を刺激するのに十分なROSの産生レベルを効果的に刺激する量であり(一方で免疫系の細胞に顕著な量のアポトーシス、すなわち、免疫応答を弱らせるのに十分なアポトーシスを誘導するのに十分な過剰なROS産生を刺激しない)、且つMAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する量である。上述のように、最適な用量は種間で異なってもよく、当業者によって容易に決定される。
【0023】
さらに別の態様では、抗原(単数又は複数)と併用して、最適な用量のカチオン脂質が投与される。この場合、カチオン脂質/抗原の併用は、カチオン脂質と併用されて送達された抗原に特異的である免疫応答を生成することが可能である。生成される応答には、特異的細胞傷害性T細胞、記憶T細胞又はB細胞が含まれ、結果として抗原に関連する特定の疾患の予防又は治療的応答を生じてもよい。
【0024】
本発明のカチオン脂質は、カチオン脂質複合体の形態であってもよい。カチオン脂質複合体は、たとえば、リポソーム、ミセル又はエマルションのような種々の小胞の形態を取ることができる。カチオン脂質複合体は単層であっても多層であってもよい。抗原が含まれる場合、抗原はカチオン脂質複合体に封入されてもよく、封入されなくてもよい。封入されるとは、抗原が複合体の内部空間に含有されてもよく、及び/又は複合体の脂質の壁に組み入れられてもよいことを意味すると理解される。
【0025】
本発明はさらに、これらの複合体を製造する方法に関するものであり、本方法は、任意で、過剰の個々の成分からこれらの製剤を精製する工程を含んでもよい。本発明の抗原複合体の製造については、精製工程の包含は有利な実施態様である。
【0026】
特定の実施態様では、カチオン脂質複合体は、pH6.0〜8.0にて正の正味電荷及び/又は正に荷電した表面を有する。
【0027】
本発明のカチオン脂質複合体に包含されてもよい任意の「抗原」は、核酸、ペプチド、リポペプチド、タンパク質、リポタンパク質、多糖類、及びカチオン脂質と直接複合体化されてもよいそのほかの高分子であってもよい。しかしながら、カチオン薬剤(たとえば、大きなカチオンタンパク質)はアニオン脂質と直接複合体化することができ、又は、最初にアニオン脂質若しくはポリマーと次いでカチオン脂質と順次、複合体化することができる。本発明の複合体によって、このプロセスの使用によって、正又は中性に荷電した薬剤の細胞への送達を可能になる。
【0028】
本発明の態様の1つは、ケモカイン及びサイトカインの産生を刺激するカチオン脂質複合体の使用を含む。ケモカイン及びサイトカインは免疫応答の重要な調節剤である。ケモカインは元々、好中球、好酸球及び単球/マクロファージを含む炎症性細胞に対する強力な化学誘引剤として同定された。その後の研究によって、ケモカインは、樹状細胞やそのほかのリンパ球のリンパ系臓器への輸送を調節することによって、免疫反応に重大な効果を有することが明らかにされた。樹状細胞は、組織中の抗原を試食し、流入領域リンパ節に移動し、成熟してT細胞応答を刺激する、移動性の細胞である。CC型ケモカインの一員であるCCL2は元々、単球/マクロファージに対する走化性の活性化因子として同定された。その後の研究によって、T細胞、ナチュラルキラー細胞及び好中球の機能にも影響を及ぼすことができることが示された。さらなる探索によって、CCL2は、Th1サイトカインであるインターロイキン−12(「IL−12」)及びインターフェロン−γ(「IFN−γ」)の存在下で、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)活性の最も強力な活性化剤であることが見い出された。このことは、CCL2とIFN−γの間の双方向の正の相互作用によって説明することができる。サイトカイン又はケモカインのいずれかの欠如は、Th1の分極及びそれに続く特異的な腫瘍免疫の生成を妨害することもある。別のCC型ケモカインであるCCL−4は、生体内で樹状細胞を動員し、増殖させ、プラスミドDNAワクチンの免疫原性を増強することも示されている。最近、ケモカインは、ナイーブなCD8+T細胞をCD4+/樹状細胞の相互作用の部位にリクルートすることによって免疫を高め、記憶CD8+T細胞の生成を促進することが示された。本発明のカチオン脂質複合体によって刺激されてもよいケモカインの2、3の例は、CCL−2、CCL−3及びCCL−4である。本発明のカチオン脂質複合体によって刺激されてもよいサイトカインの例は、IL−12及びIFN−γである。本発明者らは、本発明のカチオン脂質複合体が、本明細書で開示されるものに加えてケモカイン及びサイトカインを刺激してもよいことを企図する。
【0029】
さらなる態様では、本発明のカチオン脂質複合体は、たとえば、ERK(extracellular signal-regulated kinase、細胞外シグナル調節性キナーゼ)経路(MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ)経路としても知られる)、p38経路、又はホスファチジルイノシトール−3(PI−3)経路のような、細胞性のキナーゼ経路を活性化することによって免疫応答を刺激する。これらの経路は、同様に免疫応答の刺激及びサイトカインやケモカインの産生を調節してもよい。これらの経路は当業者に周知である。
【0030】
本発明のカチオン脂質複合体は、T細胞の活性を調節して免疫応答を刺激してもよい。3つのクラスのT細胞:ヘルパーT細胞、キラーT細胞及び調節性T細胞がある。これら3つのクラスのT細胞は一緒に機能して細胞性の免疫応答を調整する。キラーT細胞又はCD8+T細胞としても知られる細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)は、外来抗原又は腫瘍抗原を発現する細胞を攻撃することに責務を負う。調節性T細胞のこの効果の基礎にある正確なメカニズムはよく理解されていないけれども、調節性T細胞は、CTL介在性の免疫を弱化することに責務を負うと考えられている。調節性T細胞の活性の低下が結果としてCTL活性の増大を生じ、さらに強大な細胞性免疫応答を招くことが知られている。以下の実施例で示されるように、最適な脂質用量組成での本発明のカチオン脂質複合体は、調節性T細胞の集団を減少させることによって強力な免疫応答を刺激してもよい。
【0031】
<脂質>
本発明のカチオン脂質複合体は、リポソームを形成してもよく、このリポソームは、任意で抗原と混合されるか、また、カチオン脂質だけを含有してもよいし、中性脂質との併用でカチオン脂質を含有してもよい。好適なカチオン脂質種には、3−β[4N(1N8−ジグアニジノスペルミジン)−カルバモイル]コレステロール(BGSC);3−β[N,N−ジグアニジノエチル−アミノエタン)−カルバモイル]コレステロール(BGTC);N,N1,N2,N3テトラ−メチルテトラパルミチルスペルミン(セルフェクチン);N−t−N’−ブチル−N’−テトラデシル−3−テトラデシル−アミノプロピオン−アミジン(CLONフェクチン);ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB);1,2−ミリスチロキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);2,3−ジオレオイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−p−ロパナミニウムトリフルオロアセテート)(DOSPA);1,3−ジオレオイルオキシ−2−(6−カルボキシスペルミル)−プロピルアミド(DOSPER);4−(2,3−ビス−パルミトイルオキシ−プロピル)−1−メチル−1H−イミダゾール(DPIM);N,N,N’,N’−テトラメチル−N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2,3−ジオレオイルオキシ−1,4−ブタンジアンモニウムイオジド(Tfx−50);N−1−(2、3−ジオレオイルオキシ)プロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)又はそのほかのN−(N,N−1−ジアルコキシ)−アルキル−N,N,N−三置換アンモニウム界面活性剤;トリメチルアンモニウム基がブタノールスペーサーアームを介して二重鎖(DOTBについて)又はコレステリル基(ChOTBについて)に接続する1,2−ジオレオイル−3−(4’−トリメチルアンモニオ)ブタノール−sn−グリセロール(DOBT)又はコレステリル(4’−トリメチルアンモニア)ブタノエート(ChOTB);WO93/03709で開示されたようなDORI(DL−1,2−ジオレオイル−3−ジメチルアミノプロピル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム)又はDORIE(DL−1,2−O−ジオレオイル−3−ジメチルアミノプロピル−β−ヒドロキシエチルアンモニウム)(DORIE)又はその類縁体;1,2−ジオレオイル−3−スシニル−sn−グリセロールコリンエステル(DOSC);コレステリルヘミスクシネートエステル(ChOSC);たとえば、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミルスペルミン(DPPES)又は米国特許第5,283,185号で開示されたカチオン脂質、コレステリル−3β−カルボキシ−アミド−エチレントリメチルアンモニウムクロリド、1−ジメチルアミノ−3−トリメチルアンモニオ−DL−2−プロピル−コレステリルカルボキシレートイオジド、コレステリル−3−O−カルボキシアミドエチレンアミン、コレステリル−3−β−オキシスクシンアミド−エチレントリメチルアンモニウムイオジド、1−ジメチルアミノ−3−トリメチルアンモニオ−DL−2−プロピル−コレステリル−3−β−オキシスクシネートイオジド、2−(2−トリメチルアンモニオ)−エチルメチルアミノエチル−コレステリル−3−β−オキシスクシネートイオジド、3−β−N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイルコレステロール(DC−chol)、及び3−β−N−(ポリエチレンイミン)−カルバモイルコレステロール;O,O−ジミリスチル−N−リシル−アスパルテート(DMKE);O,O−ジミリスチル−N−リシル−グルタメート(DMKD):1,2−ジミリスチルオキシプロピル−3−ジメチル−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DLEPC);1,2−ジミリスチル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMEPC);1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOEPC);1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPEPC);1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSEPC);1,2−ジオレオイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP);ジオレオイルジメチルアミノプロパン(DODAP);1,2−パルミトイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DPTAP);1,2−ジステアロイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DSTAP);1,2−ミリストイル−3−トリメチルアンモニウムプロパン(DMTAP);及びドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、本出願で開示されたカチオン脂質の構造的変異体及び誘導体の使用を企図する。
【0032】
本発明の特定の態様は、以下の式によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を包含する。
【化1】
式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される。DOTAP、DMTAP、DSTAP、DPTAP、DPEPC、DSEPC、DMEPC、DLEPC、DOEPC、DMKE、DMKD、DOSPA及びDOTMAは、この一般構造を有する脂質の例である。
【0033】
実施態様の1つでは、本発明のカチオン脂質は、脂肪親和性基とアミノ基の間の結合が水溶液中で安定である脂質である。従って、本発明の複合体の特質は、保存中のその安定性(すなわち、その製剤化の後長い間、小径を保ち、生物活性を保持する能力)である。カチオン脂質において使用されるそのような結合には、アミド結合、エステル結合、エーテル結合及びカルバモイル結合が挙げられる。当業者は、1を超えるカチオン脂質種を含有するリポソームを使用して本発明の複合体を製造してもよいことを容易に理解するであろう。たとえば、特定の薬剤送達応用について、2種のカチオン脂質種、リシル−ホスファチジルエタノールアミンとβ−アラニルコレステロールエステルを含むリポソームが開示されている[Brunette, E. et al., Nucl. Acids Res., 20:1151 (1992)]。
【0034】
本発明での使用に好適なカチオンリポソームを考慮し、任意で抗原と混合するに際して、本発明の方法は、上記で引用されたカチオン脂質の使用にのみ拘束されるのではなく、むしろ、カチオンリポソームが製造され、得られるカチオン電荷密度が免疫応答を活性化し、誘導するのに十分である限り、いずれの脂質組成物を使用してもよいことがさらに理解されるべきである。
【0035】
従って、本発明の複合体は、カチオン脂質に加えてそのほかの脂質を含有してもよい。これらの脂質としては、その例がリソホスファチジルコリン(1−オレオイルリソホスファチジルコリン)であるリソ脂質、コレステロール、又はジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)又はジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)を含む中性リン脂質、並びにその例がツイーン80及びPEG−PEであるポリエチレングリコール部分を含有する種々の脂肪親和性の界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
形成される複合体の正味電荷が正である、及び/又は複合体の表面が正に荷電する限り、本発明のカチオン脂質複合体は、カチオン脂質と同様に、負に荷電した脂質も含有してもよい。本発明における負に荷電した脂質は、生理的pH又はその近傍で負の正味電荷を有する少なくとも1以上の脂質種又はこれらの組み合わせを含む脂質である。好適な負に荷電した脂質種としては、CHEMS(コレステリルヘミスクシネート)、NGPE(N−グルタリルホスファチジルエタノールアミン)、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジン酸又は類似のリン脂質類縁体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の薬剤送達複合体を含む脂質の製造において使用されるリポソームを製造する方法は、当業者に既知である。リポソーム調製の方法論の概説は、リポソーム技術(CFC Press New York 1984); Liposomes by Ostro (Marcel Dekker, 1987); Methods Biochem Anal. 33:337-462 (1988)及び米国特許第5,283,185号)に見い出されるかもしれない。そのような方法には、凍結融解押出し及び超音波処理が挙げられる。単層のリポソーム(平均直径約200nm未満)及び多層のリポソーム(平均直径約300nmを超える)の双方を出発成分として用いて本発明の複合体を製造してもよい。
【0038】
本発明のカチオン脂質複合体を製造するのに利用されるカチオンリポソームでは、リポソーム中のカチオン脂質は、リポソームの総脂質の約10モル%〜約100モル%、又は約20モル%〜約80モル%の割合で存在する。中性脂質がリポソームに含まれる場合、中性脂質は、リポソームの総脂質の約0モル%〜約90モル%、又は約20モル%〜約80モル%、又は約40モル%〜約80モル%の濃度で存在してもよい。負に荷電した脂質がリポソームに含まれる場合、負に荷電した脂質は、リポソームの総脂質の約0モル%〜約49モル%、又は約0モル%〜約40モル%の範囲の濃度で存在してもよい。実施態様の1つでは、リポソームは約2:8〜約6:4の比率でカチオン脂質と中性脂質を含有する。本発明の複合体は、特定の組織又は細胞型に複合体を向ける標的化因子として機能する、修飾された脂質、タンパク質、ポリカチオン又は受容体リガンドを含有してもよいことがさらに理解される。標的化因子の例には、アシアロ糖タンパク質、インスリン、低密度リポタンパク質(LDL)、葉酸塩及び細胞の表面分子に対するモノクローナル抗体とポリクローナル抗体が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、複合体の循環半減期を改変するには、ポリエチレングリコール部分を含有する脂肪親和性の界面活性剤を組み入れることによって、正の表面電荷を立体的に遮蔽することができる。
【0039】
カチオン脂質複合体は、スクロース勾配から回収した際、等張のスクロース若しくはデキストロースの溶液に保存してもよく、又は凍結乾燥し、次いで使用前に等張溶液で再構築してもよい。実施態様の1つでは、カチオン脂質複合体は溶液に保存される。特定のアッセイで本発明のカチオン脂質複合体の安定性を測定し、保存中長期間にわたるカチオン脂質複合体の物理的安定性及び生物活性を判定する。たとえば、電子顕微鏡、ゲル濾過クロマトグラフィを含む当業者に既知の方法によって、又はたとえば、実施例で記載されるようなコールターN4SD粒径アナライザを用いた準弾性光散乱によって、カチオン脂質複合体の直径及び電荷を測定することによりカチオン脂質複合体の物理的安定性を測定する。保存されたカチオン脂質複合体の直径が、100%を超えて、又は50%以下で、又は30%以下で、カチオン脂質複合体が精製された時点で決定されたカチオン脂質複合体の直径を上回って増大しない場合、カチオン脂質複合体の物理的安定性は、保存中「実質的に不変である」といえる。
【0040】
純粋な又は実質的に純粋な形態でカチオン脂質を投与することが可能である一方で、医薬組成物、製剤又は調製物としてそれを提示することが好ましい。本発明のカチオン脂質複合体を用いた医薬製剤は、たとえば、リン酸緩衝の生理食塩水、等張の生理食塩水又は酢酸塩若しくはHepesのような低イオン強度の緩衝液(例示となるpHは約5.0〜約8.0)のような生理的に認容される無菌の緩衝液中にカチオン脂質複合体を含んでもよい。腫瘍内、動脈内、静脈内、気管支内、腹腔内、皮下及び筋肉内の投与のために、カチオン脂質複合体は、噴霧又は液状溶液として投与されてもよい。
【0041】
本発明の製剤は、当該技術で既知のいかなる安定剤を組み入れてもよい。例証となる安定剤は、リポソームの二重層を堅くするのを助け、二重層の崩壊又は不安定化を防ぐのを助けるコレステロール及びそのほかのステロール類である。ポリエチレングリコール、多糖類及び単糖類のような作用剤をリポソームに組み入れてリポソーム表面を改質し、血液成分との相互作用によって不安定化されるのを防いでもよい。そのほかの例証となる安定剤は、単体で又は混合物のいずれかで使用されてもよいタンパク質、糖類、無機酸又は有機酸である。
【0042】
多数の薬学的方法を採用して免疫刺激の持続時間を制御してもよく、改変してもよく、又は延長してもよい。ポリマー複合体、たとえば、ポリエステル、ポリアミノ酸、メチルセルロース、ポリビニル、ポリ(乳酸)及びヒドロゲル、の使用を介して、カチオン脂質をカプセル化し又は取り込み、次いでそれらを徐放させることによって、制御放出の調製物が得られる。同様のポリマーを使用してリポソームを吸収してもよい。刺激物の放出特性を変えるために、リポソームはエマルション製剤に含有されてもよい。或いは、リポソーム及びエマルションの循環時間及び半減期を増やすことが可能であるポリエチレングリコールやそのほかのポリマーのような化合物又は糖類のような物質でリポソームの表面を被覆することによって、血液循環における刺激物の存在の持続時間を増大させてもよい。
【0043】
経口調製物が必要である場合、カチオン脂質を、当該技術で既知の典型的な医薬担体のうちでも、たとえば、スクロース、ラクトース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はアラビアゴムなどと組み合わせてもよい。全身性の送達のためには、カチオン脂質をカプセル又は錠剤に封入してもよい。
【0044】
本発明のカチオン脂質の投与は、予防目的又は治療目的にいずれかであってもよい。予防的に提供される場合、カチオン脂質は、病気の証拠又は兆候に先立って提供される。治療的に提供される場合、カチオン脂質は疾患の発症時又は発症後に提供される。免疫刺激物の治療的投与は、疾患を減衰させる又は治癒させるのに役立つ。双方の目的で、カチオン脂質は、追加の作用剤又は抗原と共に投与されてもよい。カチオン脂質を、追加の作用剤又は抗原と共に投与する場合、特定の疾患に対する予防的又は治療的な効果が生成されてもよい。
【0045】
獣医用及びヒトでの使用用の双方で、本発明の製剤は、上述のようにカチオン脂質だけを含むが、また、任意で1以上の治療成分、たとえば、抗原又は薬剤分子と共にカチオン脂質を含んでもよい。製剤は単位投与形態で好都合なように提示されてもよく、薬学技術で既知のいずれの方法で調製されてもよい。
【0046】
<抗原>
実施態様の1つでは、そのほかの免疫調節剤の産生を含む種々の免疫応答を押し上げる又は低下させるために、及び免疫応答を押し上げて疾患と闘うために、カチオン脂質は追加の作用剤なしで投与される。別の実施態様では、カチオン脂質は抗原(単数又は複数)との併用で投与される。この場合、目的は、カチオン脂質と併用で送達された抗原に特異的である免疫応答を生成することである。生成される応答としては、結果としてそれら抗原に関連する特定の疾患の予防又はそれへの治療的応答を生じるような、特異的な細胞傷害性T細胞、記憶T細胞又はB細胞の産生が含まれてもよい。抗原は、腫瘍関連抗原又は微生物抗原又は当業者に既知のほかの抗原であることができる。
【0047】
本明細書で使用される「腫瘍関連抗原」は、腫瘍細胞又は癌細胞に関連し、且つMHC分子の背景で抗原提示細胞の表面に発現されると免疫応答(液性及び/又は細胞性)を誘発することが可能である分子又は化合物(たとえば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/又はDNA)である。腫瘍関連抗原には、自己抗原、並びに、癌に特異的に関連していなくてもよいが、動物に投与した際、腫瘍若しくは癌に対する免疫応答を高める及び/又は腫瘍若しくは癌の増殖を低下させる、そのほかの抗原が含まれる。本明細書ではさらに特定の実施態様が提供される。
【0048】
本明細書で使用される「微生物抗原」は、微生物の抗原であり、感染性ウイルス、感染性細菌、感染性寄生虫及び感染性真菌が挙げられるが、これらに限定されない。微生物抗原は、天然の微生物及び天然の単離物、その断片又は誘導体、天然に存在する微生物抗原と同一又はそれに類似する合成化合物であってもよく、好ましくは相当する微生物(天然に存在する微生物抗原がそれに由来する)に特異的な免疫応答を誘導する。好ましい実施態様では、天然に存在する微生物抗原と類似する免疫応答(液性及び/又は細胞性)を誘導するならば、化合物は天然に存在する微生物抗原に類似する。たとえば、たとえば、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/又はDNAのような天然に存在する微生物抗原と類似する化合物又は抗原は、当業者に周知である。天然に存在する微生物抗原と類似する化合物の別の非限定例は、多糖類抗原のペプチド模倣体である。本明細書ではさらに特定の実施態様が提供される。
【0049】
用語「抗原」はさらに、本明細書で記載されるもののような既知の又は野生型の抗原のペプチド又はタンパク質の類縁体を包含することを意図する。類縁体は、野生型抗原に比べてより可溶性であるか、より安定性であってもよく、抗原をさらに免疫的に活発にする突然変異又は修飾も含有してもよい。たとえば、脂質若しくは糖の部分を付加する方法、ペプチド若しくはタンパク質のアミノ酸配列に突然変異を起こす方法、DNA若しくはRNAの配列に突然変異を起こす方法、又は当業者に既知のそのほかの修飾にて、抗原を修飾することができる。当業者に既知の常法を用いて抗原を修飾することができる。
【0050】
また、本発明の組成物及び方法において有用であるのは、所望の抗原のアミノ酸配列と相同のアミノ酸配列を有し、相同の抗原が各腫瘍、微生物又は感染した細胞に対する免疫応答を誘導する、ペプチド又はタンパク質である。
【0051】
実施態様の1つでは、カチオン脂質複合体における抗原は、腫瘍を防ぐ又は治療するワクチンを作製するための、腫瘍又は癌に関連する抗原、すなわち、腫瘍関連抗原を含む。そこで、実施態様の1つでは、本発明の腫瘍又は癌のワクチンは、少なくとも1つの腫瘍関連抗原の少なくとも1つのエピトープをさらに含む。別の好ましい実施態様では、本発明の腫瘍又は癌のワクチンは、1以上の腫瘍関連抗原の複数のエピトープをさらに含む。本発明のカチオン脂質複合体及び方法において用いうる腫瘍関連抗原は、本質的に免疫原性であるか、又は非免疫原性であるか、又はやや免疫原性であってもよい。本明細書で明らかにされるように、対象組成物がそのような抗原に対する免疫寛容を破壊することが可能であるので、治療効果に関して対象ワクチンにて腫瘍関連の自己抗原でさえ有利に採用されてもよい。例示となる抗原には、合成抗原、組換え抗原、外来抗原又は相同抗原が挙げられるが、これらに限定されず、抗原物質には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/DNAが挙げられてもよいが、これらに限定されない。そのようなワクチンの例には、腫瘍関連抗原と共にカチオン脂質複合体を用いた、乳癌、頭頚部の癌、メラノーマ、子宮頚癌、肺癌、前立腺癌、消化器癌腫、又は免疫療法に感受性の当該技術で既知のそのほかの癌の治療又は予防が挙げられるが、これらに限定されない。リポソームに封入することなく抗原をカチオン脂質複合体と共に製剤化することも可能である。
【0052】
癌を治療する又は予防するための方法に本発明のカチオン脂質複合体を使用してもよい。そのような場合、封入された抗原と共にリポソームを含有する医薬製剤を、免疫される哺乳類に注射する。腫瘍ワクチンによって治療されてもよい癌の例には、乳癌、頭頚部の癌、メラノーマ、子宮頚癌、肺癌、前立腺癌、消化器癌腫、又は、カチオン脂質と癌に関連する抗原又は複数のペプチド抗原を用いる、当該技術で既知のそのほかの癌の治療又は予防が挙げられるが、これらに限定されない。リポソームに抗原を封入することなく抗原をカチオン脂質複合体と共に製剤化することも可能である。
【0053】
本発明での使用に好適な腫瘍関連抗原としては、天然に存在する分子及び修飾された分子のいずれかであって、単一の腫瘍型を示すか、幾つかの型の腫瘍の間で共有されるか、又は正常細胞に比べて独占的に発現される若しくは過剰発現されてもよい分子が挙げられる。タンパク質、糖タンパク質、リポタンパク質、ペプチド及びリポペプチドに加えて、炭水化物、ガングリオシド、糖脂質及びムチンの腫瘍特異的パターンの発現が記録されている。癌ワクチンでの使用のための例示となる腫瘍関連抗原には、癌遺伝子、腫瘍抑制遺伝子及び腫瘍細胞に特有の突然変異若しくは再構成を持つそのほかの遺伝子のタンパク産物、再活性化された胎児性遺伝子の産物、腫瘍胎児抗原、組織特異的(しかし、腫瘍特異的ではない)分化抗原、増殖因子受容体、細胞表面の炭水化物残基、外来ウイルスタンパク質並びに多数のそのほかの自己タンパク質が挙げられる。
【0054】
腫瘍関連抗原の具体的な実施態様には、たとえば、Ras p21癌原遺伝子、腫瘍サプレッサーp53及びHER−2/neu及びBCR−abl癌遺伝子のタンパク産物のような突然変異した又は修飾された抗原、並びにCDK4、MUM1、カスパーゼ8及びベータカテニン;過剰発現された抗原、たとえば、ガレクチン4、ガレクチン9、炭酸脱水素酵素、アルドラーゼA、PRAME、Her2/neu、ErbB−2及びKSA、腫瘍胎児抗原、たとえば、α−フェトプロテイン(AFP)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG);自己抗原、たとえば、癌胎児性抗原(CEA)及びメラニン細胞分化抗原、たとえば、Mart1/Melan A、gplOO、gp75、チロシナーゼ、TRPl及びTRP2;前立腺関連抗原、たとえば、PSA、PAP、PSMA、PSM−Pl及びPSM− P2;再活性化胎児性遺伝子産物、たとえば、MAGE 1、MAGE 3、MAGE 4、GAGE 1、GAGE 2、BAGE、RAGE及びそのほかの癌精巣抗原、たとえば、NY−ESOl、SSX2及びSCPl;ムチン、たとえば、Muc−1 及びMuc−2;ガングリオシド、たとえば、GM2、GD2及びGD3;中性糖脂質及び糖タンパク質、たとえば、ルイス(y)及びグロボ−H;並びに糖タンパク質、たとえば、Tn、トンプソン−フリーデンリッヒ抗原(TF)及びsTnが挙げられる。また、本明細書における腫瘍関連抗原としては、細胞全体及び腫瘍細胞の溶解物、またその免疫原性の部分、そしてB細胞リンパ腫に対する使用のためのBリンパ球のモノクローナル増殖で発現された免疫グロブリンのイディオタイプも含まれる。
【0055】
腫瘍関連抗原及びそれらの各腫瘍細胞標的には、たとえば、癌腫に対する抗原としてサイトケラチン類、特にサイトケラチン8、18及び19が挙げられる。上皮膜抗原(EMA)、ヒト胎児性抗原(HEA−125)、ヒト乳脂肪小球、MBrI、MBr8、Ber−EP4、17−1A、C26及びT16も既知の癌腫抗原である。デスミン及び筋肉特異的アクチンは、筋原肉腫の抗原である。胎盤アルカリホスファターゼ、ベータ−ヒト絨毛性ゴナドトロピン及びα−フェトプロテインは、絨毛性の胚細胞の腫瘍の抗原である。前立腺特異抗原は、前立腺癌腫の抗原であり、結腸腺癌の癌胎児性抗原である。HMB−45はメラニン細胞の抗原である。子宮頸癌では、有用な抗原は、ヒトパピローマウイルスによってコードされればよい。クロマグラニンA及びシナプトフィシンは、神経内分泌及び神経外胚葉系の腫瘍の抗原である。特に関心があるのは、壊死領域を有する固形腫瘍塊を形成する侵襲性の腫瘍である。そのような壊死細胞の溶解物は、抗原提示細胞のための抗原の豊富な供給源であるので、対象療法は従来の化学療法及び/又は放射線療法と併せた有利な使用が見い出されるであろう。
【0056】
実施態様の1つでは、ヒトのパピローマウイルスHPV抗原が使用される。腫瘍関連抗原として使用される特定のHPV抗原は、HPVの亜型16E7である。HPV E7抗原/カチオン脂質複合体は、子宮頸癌を予防し、治療するのに有効である。さらに、遺伝子操作を加えたE7タンパク質、すなわち、抗原性活性は有するが腫瘍形成活性を欠くE7mは、有効な腫瘍関連抗原である。E7m/カチオン脂質複合体は、細胞性免疫を誘導し、樹立された腫瘍の完全な退行を生じるので、強力な抗子宮頸癌ワクチンとして有用である。
【0057】
腫瘍関連抗原は、当該技術で周知の方法によって調製することができる。たとえば、癌細胞の粗抽出物を調製すること(たとえば、Cohen et al., Cancer Res., 54:1055 (1994)に記載されたように)、抗原を部分的に精製すること、組換え技術、又は、既知の抗原のデノボ合成のいずれかによって、これらの抗原を癌細胞から調製することができる。抗原はまた、対象での発現及び免疫された対象の免疫系への提示に好適な形態で抗原性ペプチドをコードする、核酸の形態であってもよい。さらに、抗原は、完全な抗原であってもよく、又は少なくとも1つエピトープを含む、完全な抗原の断片であってもよい。
【0058】
特定の癌への素因が知られる病原体に由来する抗原も本発明の癌ワクチンに有利に包含されてもよい。世界中の癌の発生の16%近くが感染性病原体によるものであると推定され、多数の一般的な悪性腫瘍は、特定のウイルス遺伝子産物の発現を特徴とする。従って、癌の原因となると思われる病原体に由来する1以上の抗原を包含することは、宿主の免疫応答を広げることを助け、癌ワクチンの予防効果又は治療効果を高めるのを助ける。本明細書で提供される癌ワクチンで使用するのに特に関心のある病原体には、B型肝炎ウイルス(肝細胞癌腫)、C型肝炎(肝臓癌)、エプステインバーウイルス(EBV)(バーキットリンパ腫、鼻咽頭癌、免疫抑制された個体におけるPTLD)、HTLVL(成人T細胞白血病)、発癌性のヒトパピローマウイルス、16、18、33、45型(成人子宮頚癌)、及びヘリコバクターピロリ菌(B細胞胃リンパ腫)が挙げられる。哺乳類及びさらに特にヒトにおいて抗原として役立ってもよいそのほかの医学的に関連する微生物は、文献に幅広く記載されており、たとえば、C.G.AThomas,Medical Microbiology,Bailliere Tindall,Great Britain 1983が挙げられ、その内容全体を参照により本明細書に組み入れる。
【0059】
別の実施態様では、カチオン脂質複合体における抗原は、病原体に由来する又は関連する抗原、すなわち、微生物抗原を含む。そこで、実施態様の1つでは、本発明の病原体ワクチンは、少なくとも1つの微生物抗原の少なくとも1つのエピトープをさらに含む。対象ワクチンによって標的とされてもよい病原体には、ウイルス、細菌及び真菌が挙げられるが、これらに限定されない。別の実施態様では、本発明の病原体ワクチンは、1以上の微生物抗原に由来する複数のエピトープをさらに含む。
【0060】
本発明のカチオン脂質複合体及び方法において用いうる微生物抗原、本質的に免疫原性であるか、又は非免疫原性であるか、又はやや免疫原性である。例示となる抗原には、合成抗原、組換え抗原、外来抗原又は相同抗原が挙げられるが、これらに限定されず、抗原物質には、タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、リポタンパク質、リポペプチド、脂質、糖脂質、炭水化物、RNA及び/DNAが挙げられてもよいが、これらに限定されない。
【0061】
例示となるウイルス抗原には、哺乳類、さらに特にヒトに感染するウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ウイルスの例には、Retroviridae(たとえば、HIV−1(HTLV−III、LAV若しくはHTLV−III/LAV若しくはHIV−IIIとも呼ばれる)のようなヒト免疫不全症ウイルス;及びそのほかの単離物、たとえば、HIV−LP;Picornaviridae(たとえば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、腸ウイルス、ヒトコクサッキーウイルス、リノウイルス、エコウイルス);Calciviridae(たとえば、胃腸炎を起こす株);Togaviridae(たとえば、馬脳炎ウイルス、ルベラウイルス);Flaviridae(たとえば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);Coronoviridae(たとえば、コロナウイルス);Rhabdoviradae(たとえば、水疱性口内炎ウイルス、ラビエスウイルス);Coronaviridae(たとえば、コロナウイルス);Rhabdoviridae(たとえば、水疱性口内炎ウイルス、ラビエスウイルス);Filoviridae(たとえば、エボラウイルス);Paramyxoviridae(たとえば、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);Orthomyxoviridae(たとえば、インフルエンザウイルス);Bungaviridae(たとえば、ハンタンウイルス、ブンガウイルス、フレボウイルス及びナイロウイルス);Arena viridae(出血熱ウイルス);Reoviridae(たとえば、レオウイルス、オルビウイルス及びロタウイルス);Birnaviridae;Hepadnaviridae(B型肝炎ウイルス);Parvovirida(パルボウイルス);Papovaviridae(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);Adenoviridae(ほとんどのアデノウイルス);Herpesviridae、単純性ヘルペスウイルス(HSV)1及び2、帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス;Poxyiridae(痘瘡ウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);並びにIridoviridae(たとえば、アフリカブタコレラウイルス);並びに分類されていないウイルス(たとえば、海綿状脳症の病因因子、デルタ型肝炎(B型肝炎ウイルスの不完全な付随体と考えられる)の因子、非A、非B型肝炎(クラス1=内部伝染;クラス2=非経口伝染(すなわち、C型肝炎)の因子;ノーウォークウイルス及び関連ウイルス、及びアストロウイルス)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
また、脊椎動物における対象組成物及び方法によって、グラム陰性及びグラム陽性の細菌が標的とされてもよい。そのようなグラム陽性の細菌には、Pasteurella種、Staphylococci種及びStreptococcus種が挙げられるが、これらに限定されない。グラム陰性の細菌には、Escherichia coli、Pseudomonas種及びSalmonella種が挙げられるが、これらに限定されない。感染性細菌の具体例には、Helicobacter pylons、Borella burgdorferi、Legionella pneumophilia、Mycobacteria sps (たとえば、M.tuberculosis、M.avium、M.intracellular、M.kansaii、M.gordonae)、Staphylococcus aureus、Neisseria gonorrhoeae、Neisseria meningitidis、Listeria monocytogenes、Streptococcus pyogenes(A群、Streptococcus)、Streptococcus agalactiae(B群、Streptococcus)、Streptococcus(viridans群)、Streptococcus faecalis、Streptococcus bovis、Streptococcus(anaerobic sps.)、Streptococcus pneumoniae、pathogenic Campylobacter sp、Enterococcus sp、Haemophilus infuenzae、Bacillus antracis、Corynebacterium diphtheriae、Corynebacterium sp、Erysipelothrix rhusiopathiae、Clostridium perfringers、Clostridium tetani、Enterobacter aerogenes、Klebsiella pneumoniae、Pasturella multocida、Bacteroides sp、Fusobacterium nucleatum、Streptobacillus moniliformis、Treponema pallidium、Treponema pertenue、Leptospira、Rickettsia及びActinomyces israeliiが挙げられるが、これらに限定されない。
【0063】
対象組成物における微生物抗原の供給源としての使用を見い出してもよい細菌性病原体のポリペプチドには、せつ腫症の原因となるAeromonis salmonicidaの鉄調節性の外膜タンパク質(「IROMP」)、外膜タンパク質(「OMP」)及びA−タンパク質、細菌性腎疾患(「BKD」)の原因となるRenibacterium salmoninarumのp57タンパク質、主要表面関連抗原(「msa」)、表面に発現された細胞毒素(「mpr」)、表面に発現されたヘモリシン(「ish」)、及びYersiniosisの鞭毛抗原;Pasteurellosisの細胞外タンパク質(「ECP」)、鉄調節性の外膜タンパク質(「IROMP」)及び構造タンパク質;Vibrosis anguillarum及びV.ordaliiのOMP及び鞭毛タンパク質;Edwardsiellosis ictaluri及びE.tardaの鞭毛タンパク質、OMPタンパク質、アロA及びpurA;Ichthyophthiriusの表面抗原;Cytophaga columnariの構造タンパク質及び調節性タンパク質;並びにRickettsiaの構造タンパク質及び調節性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。組換えによって又は当該技術で既知のそのほかのいずれかの手段によってそのような抗原を単離し、調製することができる。
【0064】
病原体の例には、哺乳類、さらに特にヒトに感染する真菌がさらに挙げられるが、これらに限定されない。真菌の例には、Cryptococcus neoformans、Histoplasma capsulatum、Coccidioides immitis、Blastomyces dermatitidis、Chlamydia trachomatis及びCandida albicansが挙げられるが、これらに限定されない。感染性寄生虫の例には、Plasmodium falciparum、Plasmodium malariae、Plasmodium ovale及びPlasmodium vivaxのようなPlasmodiumが挙げられるが、これらに限定されない。そのほかの感染性生物(すなわち、原生生物)には、Toxoplasma gondiiが挙げられる。寄生虫病原体のポリペプチドには、Ichthyophthiriusの表面抗原が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
哺乳類、さらに特にヒトにおいて抗原として役立つそのほかの医学的に関連する微生物は、文献に広範に記載されており、たとえば、C.G.A.Thomas, Medical Microbiology,Bailliere Tindall,Great Britain 1983(その内容全体を参照により本明細書に組み入れる)を参照されたい。感染性のヒト疾患及びヒト病原体の治療に加えて、本発明の組成物及び方法は、非ヒト哺乳類の感染を治療するのに有用である。非ヒト哺乳類の治療のための多数のワクチンは、Bennett,K.獣医製品の概要、第3版、North American Compendiums,Inc.、1995に開示されており;WO 02/069369(その開示を参照により本明細書に組み入れる)も参照されたい。
【0066】
例示となる非ヒト病原体には、マウス乳癌ウイルス(「MMTV」)、ラウス肉腫ウイルス(「RSV」)、トリ白血病ウイルス(「ALV」)、トリ骨髄芽球症ウイルス(「AMV」)、マウス白血病ウイルス(「MLV」)、ネコ白血病ウイルス(「FeLV」)、マウス肉腫ウイルス(「MSV」)、テナガザル白血病ウイルス(「GALV」)、脾臓壊死ウイルス(「SNV」)、細網内皮症ウイルス(「RV」)、サル肉腫ウイルス(「SSV」)、マソン−ファイザーマネーウイルス(「MPMV」)、サルレトロウイルス(「SRV−1」)、レンチウイルス、たとえば、HIV−1、HIV−2,SIV、ビスナウイルス、ネコ免疫不全症ウイルス(「FIV」)、及びウマ感染性貧血ウイルス(「EIAV」)、T細胞白血病ウイルス、たとえば、HTLV−1、HTLV−II、サルT細胞白血病ウイルス(「STLV」)、及びウシ白血病ウイルス(「BLV」)、及び泡沫状ウイルス、たとえば、ヒト泡沫状ウイルス(「HFV」)、サル泡沫状ウイルス(「SFV」)及びウシ泡沫状ウイルス(「BFV」)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
一部の実施態様では、「治療」、「治療する」及び「治療すること」は、感染性病原体を参照して本明細書で使用されるとき、病原体による感染に対する対象の抵抗力を高める又は対象が病原体に感染する可能性を減らす予防的治療、及び/又は対象が感染した後、感染と闘うための、たとえば、感染を軽減する若しくは排除する又は感染が悪化するのを防ぐための治療を言う。
【0068】
微生物抗原は、当該技術で周知の方法によって調製することができる。たとえば、粗抽出物を生成することによって、抗原を部分的に精製することによって、或いは組換え技術によって、又は既知の抗原のデノボ合成によって、これらの抗原は、ウイルス細胞及び細菌細胞から直接調製することができる。抗原はまた、対象での発現及び免疫された対象の免疫系への提示に好適な形態で抗原性ペプチドをコードする、核酸の形態であってもよい。さらに、抗原は、完全な抗原であってもよく、又は少なくとも1つエピトープを含む、完全な抗原の断片であってもよい。
【0069】
抗原のカチオン脂質小胞への取り込みを改善し、又免疫系の細胞への送達を改善するために、抗原を修飾してその疎水性を高め、抗原上の負の電荷を高めてもよい。分子の抗原性特性を保持する一方で、カチオン脂質の疎水性アシル鎖における抗原の溶解性を改善するために、脂質鎖又は疎水性のアミノ酸に結合することによって抗原の疎水性を高めてもよい。修飾された抗原は、リポタンパク質、リポペプチド、疎水性を高めたアミノ酸で修飾されたタンパク質又はペプチド、及びそれらの組み合わせであってもよい。修飾された抗原は、脂質と抗原の間に結合されたリンカーを有してもよく、たとえば、ジペプチドであるセリン/セリンのリンカーを介して、N末端のα又はε−パルミトイルリジンを抗原に接続してもよい。以下でさらに詳細に議論するように、DOTAP/E7製剤に比べて、DOTAP/E7リポペプチド複合体は、生体内で、増強された機能的な抗原特異的CD8+Tリンパ球の応答を示した。さらに、抗原がカチオン脂質複合体に封入される製剤緩衝液を変更することによって、又はアニオン部分、たとえば、アニオン性アミノ酸を抗原に共有結合させることによって、抗原を操作して負の電荷を高めてもよい。
【0070】
実施例1(以下)で明らかにされるように、E7抗原の免疫原性は、抗原を共有結合で修飾することによって高められた。アミノ酸配列を抗原に共有結合させることを、得られるアミノ酸配列が抗原が由来する母体タンパク質に見い出されないように行うことができた。修飾された抗原が、元々の抗原に比べて優れたMHCクラス1結合親和性を提供することを明らかにするために研究が行われた。明らかにされたように、この優れた結合親和性は、HPV陽性のTC−1腫瘍に対する生体内での優れた抗腫瘍免疫応答の生成として説明された。本発明は、以下の実施例に照らしてさらに十分に理解されるであろう。
【実施例】
【0071】
〔実施例1〕
特定の用量組成のカチオン脂質による免疫系及び抗原提示細胞への抗原送達に対する効果的な刺激は、疾患の予防及び治療において強力な免疫応答をもたらす
【0072】
1.カチオン脂質(たとえば、DOTAP)のみ又は抗原(たとえば、HPVタンパク質E7ペプチド抗原)を取り込んでいるカチオンリポソームを含む免疫系刺激物としての使用のためのリポソームの調製
【0073】
細胞培養等級の水(メリーランド州、ウォーカーズビルのカムブレックスから市販されている)又はリン酸緩衝の生理食塩水をすべてのリポソーム調製手順に用いた。E7抗原は、HPV16E7タンパク質(ペンシルベニア州、ピッツバーグのピッツバーグ大学分子医学研究所によって合成された)に由来するH−2Db拘束性のCTLエピトープ(アミノ酸49〜57、RAHYNIVTF[配列番号1]であった。
【0074】
これらの研究で使用されたリポソームは脂質フィルムを用いて作製した。脂質フィルムは、(1)クロロホルムに脂質を溶解すること及び(2)絶え間なく流れる乾燥窒素ガスのもとでクロロホルムを蒸発させることによってガラスのバイアルで作製した。一晩真空下でフィルムを保持することによって微量の有機溶媒を除去した。次いで、必要とされる量の水又は緩衝液を加えて10mg/mLの最終濃度にすることによって12時間、脂質フィルムを水和した。次いで、槽型超音波処理器にて懸濁液を10分間超音波処理し、その後400、200及び100nmの膜フィルター(ネバダ州、リノのハミルトン社から市販されている)を介して押し出し、4℃で保存した。DOTAP/E7の調製については、E7ペプチドの水溶液によって脂質フィルムを再水和した。当業者に周知である一般的なリポソーム調製で使用されるそのほかの方法も使用されてもよい。
【0075】
2.リンパ節細胞及び樹状細胞によるIL−2及びTNF−αの産生は、カチオン脂質による処理の後刺激される
【0076】
カチオン脂質、DOTAPの免疫賦活性のメカニズムを解明し、免疫賦活活性をさらに特徴付けるために、DOTAPが適切なTh1サイトカイン産生を誘導してさらに免疫応答を高めるかどうかを評価することが重要である。従って、我々は、DOTAPの刺激に続く骨髄由来の樹状細胞(「BMDC」)によるサイトカインの産生を調べた。組換えmGM−CSFとmIL−4の存在下インビトロでの6日間の培養後、BMDC(ウエル当たり2mL中に106個の細胞)を、培地対照、DOTAPリポソーム、LPD(カチオン脂質が複合体化したDNAとプロタミン)又はリポ多糖類(LPS)0.1μg/mLで37℃にて20時間刺激した。上清中のIL−12とTNF−αの産生をBDのELISAセットによって解析した。LPD及びLPSは陽性対照として使用した。LPDにおける細菌DNAは、トール様受容体を介して免疫系を刺激し、TNF−αを刺激することが知られているCpGモチーフを含有する。培養上清を回収し、IL−12とTNF−αのサイトカインレベルをELISAによって評価した。図1では、DOTAPの濃度に応答してTNF−αではなくIL−12の産生が上昇した。このことは、樹状細胞に加えて、ほかの種類の細胞、たとえば、T細胞も、生体内で見られたDOTAPリポソームによって刺激されるTh1サイトカインの産生に関与しているかもしれないことを示している。さらに、カチオン脂質が有意なレベルの炎症誘発性サイトカインTNF−αを誘導しなかったという事実は、免疫賦活のメカニズムが、トール様受容体の経路とは無関係かもしれないことを示唆している。
【0077】
3.抗原特異的なCTL免疫応答はカチオン脂質/抗原複合体によって脂質用量依存的に誘導される。
【0078】
0日目と7日目にメスのC57BL/6マウスをDOTAP/E7製剤によって免疫した。種々の濃度のDOTAPを用いたが、HPV−16E7抗原の濃度は、10μg用量で維持した。E7抗原は、HPV16E7タンパク質に由来するH−2Db拘束性のCTLエピトープ(アミノ酸49〜57、RAHYNIVTF[配列番号1]であった。最終免疫の7日後、マウスを屠殺し、脾細胞を回収し、分離した。RBCを除いた後、完全なRPMI1640培地中にて40U/mLの組換えIL−12(ミネソタ州、ミネアポリスのR&Dシステムズから市販されている)の存在下E7ペプチド(10μg/mL)で5日間、脾細胞集団(応答細胞)を刺激した。インビトロでのCTLの増殖の後、応答細胞はCTLのエフェクターとして使えるようになる。このアッセイでは、TC−1細胞株をターゲット細胞として用いた。TC−1細胞は、HPV16E6とE7癌遺伝子と活性化H−rasによって形質転換されたC57BL/6マウスの肺上皮細胞である。エフェクターとターゲットを識別するために、製造元の指示書に従って、TC−1細胞をPKH−67(ミズーリ州、セントルイスのシグマから市販されている)で標識した。種々のエフェクター:ターゲット(E:T)の比にてエフェクターと標識されたターゲットを96穴プレートに入れ、37℃にて4時間、溶解反応を行った。細胞を回収し、BDのFACSオートデジタルフローサイトメータ(カリフォルニア州、サンディエゴのBDバイオサイエンシズから市販されている)での解析のためにヨウ化プロピジウム(PI)で染色した。FL1(PKH−67)陽性領域内でのPI陽性細胞の比率によってE7特異的溶解の比率を決定した。
【0079】
今や図2を参照して、100ナノモルのDOTAPでDOTAP/E7を与えられたマウスは、TC−1細胞の特異的殺傷を生じる有意なCTL活性を示したが、600ナノモルのDOTAPでDOTAP/E7を与えられたマウスは、殺傷効果の有意な低下を示し、カチオン脂質の用量反応効果を示すことが認められる。15ナノモルのDOTAPでDOTAP/E7を与えられたマウスは、PBSで処理した対照マウスと有意に異なるCTL活性を生じなかった。我々は、最適な用量のDOTAPを与えた群からのエフェクター細胞をターゲットとしてのHPVE7陰性BL6細胞とインキュベートすることによってこの殺傷がE7特異的であることを確認したが、無視できるほどの細胞の殺傷も生じた。CTL介在性の殺傷に加えて、我々はまた、ナチュラルキラー(「NK」)細胞介在性の細胞傷害性も検討した。NK細胞は意図的な免疫なしで腫瘍細胞を破壊することができ、天然の免疫応答で重要な役割を担っている[Wu, J及びLanier, L L, ナチュラルキラー細胞と癌。Adv Cancer Res 90: 127 (2003); 及びLodoen, MB及びLanier, LL, 病原体に対する初期防御としてのナチュラルキラー細胞。 Curr Opin Immunol 18:391 (2006)]。種々の用量のDOTAPでDOTAP/E7複合体を与えたマウスは、NK感受性のターゲットであるYAC−1細胞に対して有意な殺傷を示した。
【0080】
4.カチオン脂質/抗原複合体の投与は、生体内で脂質用量依存的にCD8+及びCD4+のT細胞集団を誘導し、E7陽性腫瘍の微細環境への移動を誘導する
【0081】
最適なDOTAP/E7製剤がTリンパ球(T細胞)の産生を誘導するかどうか、及びTリンパ球はE7抗原を発現する細胞の部位に効果的に移動するかどうかを理解するために、腫瘍に浸潤しているTリンパ球の免疫組織化学的検討を行った(図3)。6〜7週令のメスC57BL/6マウスをチャールズリバーラボラトリーズ(マサチューセッツ州、ウィルミントン)から購入し、すべての動物試験に用いた。0日目に毛を刈り込んだマウスのわき腹にTC−1細胞(105個)を注射することによって皮下のHPV陽性腫瘍を定着させた。6日目に、それぞれ10μgのE7ペプチドを含有するDOTAP/E7(15、100、600ナノモル)の選択した製剤150μLをマウス(n=6)の皮下に注射した。
【0082】
14日目に固形のHPV陽性の腫瘍をマウスから切り出し、分離し、ティッシュ−Tek(登録商標)OCTコンパウンド(カリフォルニア州、トランスのサクラファインテックから市販されている)に包埋した(その後、凍結切片の調製)。クリオスタット(H/Iハッカーインスツルメンツ&インダストリーズ社から市販されている)によって試料を8μmの厚さの切片に切断した。FITCを結合した抗CD8抗体及び抗CD4抗体(カリフォルニア州、オーバーンのミルテンイバイオテック社から市販されている)を用いて腫瘍に浸潤しているT細胞を決定し、その後、DAPIによって核を対比染色した。切片の画像は、レイカSP2共焦点顕微鏡によって撮った。
【0083】
TACS(商標)TdTキット(ミネソタ州、ミネアポリスのR&Dシステムズから市販されている)を用いてTUNEL解析を行い、製造元の指示書に従ってDABで発色させた。ニコンマイクロフォトSA顕微鏡によって試料を画像化した。
【0084】
図3に示されるように、無処理のマウス(図3A)及び高用量のDOTAP組成物(600ナノモル、図3C)を与えたマウスに比べて、100ナノモルでDOTAP/E7を与えたマウスでは、CD8+Tリンパ球が高い割合(約5%)で見い出された。同様の結果は、CD4+T細胞についても見い出された(図3E〜F)。アポトーシスを判定するTUNELアッセイも一部の腫瘍凍結切片で行った。図3Hでは、無処理のマウス(図3G)及び正常で生きた腫瘍細胞を示した高用量群(図3I)に対して、100ナノモル用量のDOTAP/E7複合体でマウスを処理した後では、これらのマウスの腫瘍細胞の濃縮され、断片化された核でTUNEL陽性反応が認められた。「抗原特異的なCTL免疫応答はカチオン脂質/抗原複合体によって脂質用量依存的に誘導される」と題される上記第3項における抗原特異的なCTL応答に対する用量反応効果と同様の、Tリンパ球産生に対するカチオン脂質用量の用量反応効果が認められた。
【0085】
5.カチオン脂質/抗原複合体の投与は液性免疫を誘導する。
【0086】
図4は、DOTAPとタンパク質抗原、卵白アルブミンを含有するカチオン脂質/抗原複合体をマウスに注射した結果を示す。B細胞活性を刺激して抗体産生を誘導する、液性の免疫応答として知られる複合体の能力についてマウスを評価した。IgG抗体の形成をモニターすることによって液性応答を評価した。図4に説明されるように、DOTAP/卵白アルブミン複合体は用量依存的に液性の応答を誘発した。これらのデータは、DOTAP製剤を使用して細胞性と液性の双方の免疫応答を刺激してもよいことを示唆している。
【0087】
6.カチオン脂質/抗原複合体の投与は脂質用量依存的に調節性T細胞の集団を小さくする
【0088】
調節性T細胞は腫瘍関連抗原に対するT細胞免疫を弱め、奏功する免疫療法及び活性のあるワクチンを抑える主な障害であると考えられている。従って、我々は、担癌マウスにて調節性T細胞によって維持されている免疫寛容を、最適用量での治療的ワクチン製剤におけるDOTAP/E7が破壊する能力、よって腫瘍関連抗原に対するT細胞免疫を高める能力を検討した。フローサイトメトリー解析に使用された抗マウス抗体はすべてBDファーミンゲン(カリフォルニア州、サンディエゴ)又はバイオサイエンス社(カリフォルニア州、サンディエゴ)から購入したが、それらはそこから市販されている。脾臓細胞を回収し、1mg/mLのコラゲナーゼと70μmの細胞濾過器を用いて分離した。赤血球(RBC)を除いた後、4℃にて単一細胞の浮遊液を蛍光標識したモノクローナル抗体、抗−CD4(RM4−5)、抗−CD8a(53−6.7)、抗−CD3e(145−2cll)、抗−NKl.l(pkl36)及び抗−CD25(pc61.5)によって30分間染色した。固定し、製造元の指示書に従ってCytofix/Cytoperm(商標)キット(BDファーミンゲン)を用いて浸透化した後、50μLのPerm/Wash(商標)緩衝液中の抗−Foxp3(FJK−16s)によって4℃にて30分間細胞を染色した。さらに2回Perm/Wash(商標)緩衝液で細胞を洗浄し、次いで最終的に300μLの染色緩衝液に再浮遊し、BDのFACSオートデジタルフローサイトメータ(カリフォルニア州、サンディエゴのBDバイオサイエンシズから市販されている)で解析した。図5に示されるように、DOTAP/E7複合体(100ナノモルのDOTAP)を与えたマウスから回収した脾臓細胞は、高投与量(600ナノモルのDOTAP)動物と違って、無処理の担癌マウスに比べて、さらに低い量の調節性T細胞亜集団(Foxp3+、CD25+及びFoxp3+/CD25+)を示した。
【0089】
表1では、調節性T細胞の解析に関する10の代表的な実験を要約する。マウスが最適なDOTAP/E7処理を受けた後、脾臓細胞では、CD4+T細胞の集団が有意に増大し、同様の増大はCD8+T細胞でも見い出された(データは示さず)。さらに、この処理群では、調節性T細胞集団(Foxp3+、CD25+及びFoxp3+/CD25+)の有意な減少が見い出された。高用量でのDOTAP/E7の低下した抗腫瘍活性が、増大した調節性T細胞集団と関連することは特に明らかであった。カチオン脂質の用量反応効果が再び認められる。この結果は、最適用量の脂質での免疫療法で使用されるカチオン脂質組成物は、担癌マウスにおける寛容を破壊することによって特定の癌に対する観察される免疫応答を高め、調節性T細胞集団を抑制する一方で、機能的なCD4+及びCD8+抗原特異的Tリンパ球の増殖を刺激することができることを示している。
【0090】
表1.DOTAP/E7複合体で処理した後の担癌マウスの脾臓細胞における調節性T細胞亜集団の比率
【0091】
10.変化する用量のDOTAPにてDOTAP/E7組成物で処理されたマウスにおけるTC−1HPV陽性腫瘍の増殖の動態。
【0092】
図6では、HPV陽性腫瘍の増殖を誘導するために0日目にマウスの皮下にTC−1細胞を注射した。6日目、マウスは腹部の反対側の皮下に、10μgのE7ペプチドを含有するDOTAP/E7組成物を投与された。複合体におけるDOTAP脂質の濃度は3〜600ナノモル(3、15、30、75、150、300及び600)で変化した。低用量(15ナノモル)のDOTAPは、23日目で無処理の対照に比べて部分的な腫瘍阻害効果(p<0.05)を示したが、30、150又は300ナノモルのDOTAPは、高い有効性(p<0.01)を示した。75ナノモルでのDOTAPは、最も有意な腫瘍退行効果(p<0.001)を示した。再び、高用量のDOTAP(600ナノモル)を与えられたマウスが抗腫瘍活性を示さなかったということは、高用量でのDOTAPリポソームが免疫応答に負の調節を誘導したことを裏付けている。さらに、100ナノモルのDOTAPリポソームはE7ペプチドなしで腫瘍増殖の有意な阻害を示さなかったということは、抗腫瘍効果は抗原特異的であったことを示している。
【0093】
11.DOTAP/E7複合体は、注射後、主として樹状細胞に取り込まれ、樹状細胞の活性化及び流入領域リンパ節への移動を誘導する。
【0094】
未処理のマウス(n=4〜6)にPBS対照(図7A、C及びE)又は0.5%の1−オレオイル−2−[6−[(7−ニトロ−2−1,3−ベンゾキサジアゾール−4−イル)アミノ]ヘキサノイル]−3−トリメチルアンモニウムプロパン(「NBD−DOTAP」)を伴った総脂質100ナノモルを含有するDOTAP/E7(図7B、D及びF)を注射した。注射の4時間後、流入領域リンパ節を調製し、表面マーカーに対する適当な抗体で染色した。リンパ節の細胞全部の範囲内でNBDとCD11c(図7A及びB)又はCD86(図7C及びD)の同時発現を解析し、一方、NBDとCD8(図7E及びF)の同時発現は、CD3+集団の範囲内でゲートをかけ、解析した。数字は、4連一組の細胞の比率を表した。流入領域リンパ節を回収し、注射後様々な時点でフローサイトメータによって解析した。NBD−DOTAP/E7の注射後4時間で(図7A及びB)無処理のマウスに比べて、流入領域リンパ節でのCD11c+細胞の数は、2.5倍を超えて増えていた。NBD+細胞における同時刺激分子CD86の発現を調べたところ、NBD+細胞が高いレベルのCD86を示した(図7C及びD)ということは、DOTAPの皮下注射は、樹状細胞の活性化を誘導したことを示している。Tリンパ球のようなそのほかの種類の細胞によるNBDの取り込みも、抗CD3、CD4及びCD8抗体の同時染色によって検討した。CD3+細胞にゲートをかけ、CD3+細胞を解析したところ(図7E及びF)、NBD−DOTAPの注射後、NBDの取り込みを示さなかった。その結果は、NBD−DOTAPは、免疫直後主として樹状細胞(約80%)によって取り込まれ、DOTAPは、流入領域リンパ節への樹状細胞の移動を誘導し、結果として樹状細胞とT細胞の相互作用を生じ、強いT細胞の応答を引き出すことを明らかに実証した。
【0095】
12.特に有利な一定用量のDOTAPで製剤化されたDOTAP/E7複合体による免疫は機能的なCD8+T細胞を誘発する。
【0096】
活性化されたT細胞又はNK細胞によって分泌されるIFN−γは、CTL応答を誘導することと同様にTh1型の免疫応答で重要な役割を担うことが知られている。DOTAP/E7ワクチンによって誘導された機能的なCD8+Tリンパ球が必須のサイトカインを産生することができるかどうか評価するために、免疫の1週間後、対照又は免疫されたマウスから脾臓細胞を単離し、5μg/mLのE7ペプチドと共に、又はペプチドなしで6時間インキュベートし、その後、IFN−γの細胞内染色を行った。図8に示されるように、IFN−γを産生するCD8+細胞の数は、陰性対照よりも、最適な脂質用量でのDOTAPで製剤化されたE7を与えたマウス及びLPD陽性対照において有意に多かった。CD8+細胞によるIFN−γ産生はE7特異的に生じた。これらの結果は、最適用量でのDOTAPは、全身のリンパ系臓器においてIFN−γを産生するCD8+T細胞の生成と同様にCTLの誘導のための強力なワクチンアジュバントであることを示している。
【0097】
13.抗原特異的CTL活性を誘導することが知られている優れたアジュバントで製剤化されたE7の抗腫瘍活性とカチオン脂質/E7複合体の抗腫瘍効果の比較。
【0098】
カチオン脂質/E7製剤の有効性を腫瘍に対する免疫応答を誘導するそのほかのアジュバントと比較するために、製剤当たり6〜12匹の担癌マウスを、腫瘍定着の6日後、(1)100ナノモル用量組成のカチオン脂質でのカチオン脂質(DOTAP、DOEPC及びDOTMA)、(2)アニオン脂質(DPPG)又は(3)アジュバント(完全フロインドアジュバント「CFA」又はCpGODN1826)から構成されるF7ペプチド製剤化リポソームで処理した。図9では、26日目、対照群に比べて、カチオン脂質製剤と同様にアジュバントを与えられたマウスは、腫瘍増殖の効果的な阻害を示した。CpG/E7又はCFA/E7の製剤を与えたマウスに比べて、最適なDOTAP/E7及びDOEPCの製剤を与えたマウスはさらに良好な抗癌活性(p<0.01)を示した。CpG/E7又はCFA/E7の製剤を与えたマウスに比べて、最適なDOTMA/E7を与えたマウスはさらに良好な抗癌活性を示した。
【0099】
14.カチオン脂質は用量依存的にROSの産生を誘導し、その結果、高い用量では樹状細胞の死及び免疫賦活効果の低下を生じる。
【0100】
0、15、100又は600ナノモルの脂質を含有するDOTAP/E7を皮下注射したマウスから注射の2時間後、流入領域リンパ節を単離した。フローサイトメトリー解析に先立って、リンパ節細胞すべてをDCFH−DA化合物と37℃にて30分間インキュベートした。大顆粒細胞にゲートをかけ、ROSの存在下で蛍光生成物DCFが生成されるROSの発現について大顆粒細胞を解析した。陽性のROSシグナルを持つ細胞の相対的比率を図10Aに列記する。DOTAP/E7の注射後10時間で細胞を回収し、適当な抗体で染色することによって流入領域リンパ節で細胞傷害性を調べた。図10Bでは、樹状細胞(DC)における死細胞の比率を線状プロット(□)で示し、105個のLN当たりの生きたDCの数を棒グラフで表す。数を無処理の対照に対して正規化し、統計的に解析した(**p<0.01)。15ナノモルのDOTAPを与えたマウスからの細胞が基底レベルのROS産生(<5%)を示したのに対して、10ナノモル用量のDOTAP注射のマウスからの細胞は相対的に高いレベルのROS(約20%)を産生した。驚くべきことに、DOTAP600ナノモル群からの大顆粒細胞の大半(約80%)は陽性のROSシグナルを示した。皮下注射後10時間で、リンパ節細胞をすべて回収し、フローサイトメトリーによって細胞死について解析した(図10B)。CD11c+(樹状細胞)集団内の細胞死(ヨウ化プロピジウム陽性)の比率は、脂質の用量と共に高まり、図10Aで示されたROS産生と正に相関した。DC集団中の細胞死の比率は、未処理の対照群と比べて、高い用量のDOTAPを注射した群については約2倍高かった。また、図10Bには、DOTAP脂質の用量の関数としての105個のリンパ節細胞当たりの生きたCD11c+細胞の数も示されている。処理群の中で、100ナノモルの脂質を伴うDOTAP/E7を与えたマウスが最高の量(**p<0.01)生きた樹状細胞を示した。マウスが最適な製剤を投与された後さらに2日目に流入領域リンパ節を秤量した。総合すると、結果は、高用量のDOTAPで誘導されるROS産生は樹状細胞の死の原因となってもよいことを示している。
【0101】
さらに図10Cで説明されるように、カチオン電荷の密度は、免疫賦活効果及び得られる抗癌活性に重要である。不活性の中性脂質DOPCをカチオン脂質/E7複合体と同時製剤化することによって、ROS生成と抗癌活性の双方が低下し、その結果カチオン電荷密度が低下した。
【0102】
15.ペプチド抗原の脂質化は結果としてカチオン脂質/抗原複合体への改善された封入を生じる
【0103】
上述のようにカチオン脂質/抗原複合体を調製した。LavaPep(商標)ペプチド定量キット(オーストラリア、シドニーのフルオロテクニクスから市販されている)を用いてリポソームに結合したペプチドの比率によって、ペプチドの封入効率を測定した。取り込まれていないリポペプチドは凝集して排除フィルターを通過できなかったので、1%SDSの存在下排除されたリポソームに関連する量として取り込まれたリポペプチドを測定し、平均値±SDとして報告した。天然型のE7やKSS−E7のような水溶性ペプチドについては、Micron(登録商標)遠心フィルター(マサチューセッツ州、ベッドフォードのミリポアから市販されている)によって複合体から結合していないペプチドを分離した。製造元の指示書に従って、LavaPep(商標)を用いて結合していないペプチドの濃度を測定した。封入の効率を(1−結合していないペプチドの%)として決定し、平均値±SDとして表2に報告した(n=3)。
【0104】
表2.合成リポペプチドの比較、及びリポペプチド:DOTAPのモル比1:40でのDOTAPリポソームへのペプチド抗原封入効率の比較
【0105】
16.抗原封入効率とともにカチオン脂質/抗原複合体の抗腫瘍効果が改善する
【0106】
6日目(腫瘍定着後)に、TC−1腫瘍担癌マウス(群当たり8〜12匹)を、DOTAP/E7(10ナノモル若しくは5ナノモルのペプチドを含有する)又はDOTAP/E7−リポペプチド製剤(5ナノモルのペプチド抗原を含有する)によって単回処理した。各場合、100ナノモルのカチオン脂質の組成を使用した。5ナノモルのペプチドを伴うDOTAP/E7は有意な抗腫瘍活性を示さなかった。それに対して、DOTAPリポソームで製剤化された場合、5ナノモルの抗原でのE7−リポペプチド(α位又はε位)双方とも、5ナノモルでの天然型E7抗原によるDOTAPと比べて有意に高い治療効果を示した(図11)。リポペプチドによって引き出された抗腫瘍活性は、10ナノモルによるDOTAP/E7のそれに似ていた。パルミトイル化E7ペプチド(KSSスペーサーなしで)であるPA−E7は、DOTAPリポソームで製剤化された場合、ペプチドに直接脂肪酸を結合することによって多分エピトープが隠されたために、そのほかのリポペプチド製剤で見られるような高い抗腫瘍活性を示せなかった。少なくとも部分的には、抗原の高い封入効率のために、抗腫瘍活性は、DOTAP/E7−リポペプチドによって高められる。このことは、抗原の疎水性を高めることによって複合体への取り込みが上昇し、その結果、抗原特異的免疫応答を高めることを実証している。デキストロース(5%)で処理したマウスを陰性対照として使用した。
【0107】
17.カチオン脂質/脂質化抗原複合体は、抗原特異的なCTLの応答を高める。
【0108】
DOTAP/E7−リポペプチドによる免疫は、IFN−γを分泌するCD8+T細胞の産生を高めた。種々の製剤をマウスに注射し、最後の免疫の7日後に、免疫したマウスから脾臓細胞を単離した。インビトロにてE7ペプチド(5μg/mL)の存在下又は非存在下で細胞を6時間刺激し、FACS解析に先立って、表面CD8マーカー及び細胞内IFN−γサイトカインで染色した。各処理群からのCD8+104個当たりのCD8+IFN−γ+二重陽性細胞の比率を平均値±SDとして図12に示し、対応t検定によって統計的に解析した(**p<0.01、n=4)。
【0109】
DOTAP/E7−リポペプチドのワクチン接種によって誘導されたエピトープ特異的免疫応答を評価するために、IFN−γを産生するCD8+T細胞を分析した。最終免疫の1週間後、対照マウス及び免疫したマウスから脾臓細胞を単離し、5μg/mLのE7ペプチドの存在下又は非存在下で刺激し、その後IFN−γについて細胞内染色した。表2(上記)に記載されたように、また図12に示されるように、リポペプチド抗原の場合、複合体への抗原の取り込みが有意に改善されたので、IFN−γを産生するCD8+T細胞の数は、10及び5ナノモルの天然型のE7よりもDOTAPリポソームで製剤化された5ナノモルのε−PA−KSS−E7を与えたマウスの方が有意に高かった。再び、同一抗原量の場合、KSS−E7は、天然型のE7よりも優れた結果を示した。CD8+細胞によるIFN−γの産生は、非投与細胞がバックグランドレベルのサイトカインしか示さなかったので、E7特異的であった。これらの結果は、疎水性を高め、DOTAPリポソームへの複合体化効率を高めたE7−リポペプチドの取り込みは、カチオン脂質/抗原複合体の有効性を明らかに高め、リンパ系臓器におけるIFN−γを産生するCD8+Tリンパ球の量を増やすことを示した。
【0110】
18.母体ペプチドに存在する配列に無関係の短いアミノ酸配列を結合することによって、ペプチド抗原の抗原性が改善され、それは、DOTAPとKSS−E7ペプチドから成る脂質/抗原複合体の改善された抗腫瘍効果をもたらす
【0111】
結合される脂質鎖なしのKSS(リジン−セリン−セリン)−E7ペプチドは、DOTAPカチオン脂質で製剤化された場合、天然型のE7と匹敵する封入効率(表2)であるにもかかわらず、DOTAP複合体で製剤化された天然型のE7よりもはるかに強い免疫応答を提供した(図11及び12)。MHCクラスI分子に結合し、安定化するペプチドの能力は、特異的CTL応答を誘導する能力と直接的に相関することができることが知られている[Feltkamp, M. C. et al, 細胞傷害性Tリンパ球のエピトープを含有するペプチドによるワクチン接種は、ヒトのパピローマウイルス16型で形質転換した細胞により誘導される腫瘍に対して防御する。 Eur J Immunol, 23, (9), 2242-2249 (1993)]。我々は、天然型のE7及びKSSで延長したE7ペプチドのMHCクラスI結合親和性を評価した。5×105個/mLのマウスのリンパ腫細胞株であるRMA−S細胞を、天然型のE7又はKSS−E7ペプチド(10μM)と共に27℃にて一晩インキュベートした。培地と共にインキュベートした細胞を対照として用いた。次いで、細胞を37℃で2時間インキュベートした。洗浄した後、フローサイトメトリー解析に先立って、細胞表面上のH−2Db又はH−2Kb分子に対する蛍光標識したモノクローナル抗体で細胞を染色した。E7ペプチド(a.a.49〜57)は、H−2Dbに拘束される既知のエピトープであり、対照に比べて、RMA−S細胞でH−2Db分子を4倍上方制御する(図13)。KKS−E7ペプチドについては、平均の蛍光で8倍の上昇が認められた。E7ペプチド又はKSS−E7ペプチドのいずれかと共にインキュベートした後、RMA−S細胞でH−2Kb分子の上方制御は検出されなかった。結果は、KSS−E7は、天然型のE7ペプチドよりもH−2Db分子への結合親和性を改善しており、それはDOTAP/抗原複合体で製剤化された場合、優れた抗腫瘍活性をもたらすことが明らかにした。
【0112】
本研究によって、免疫原性ペプチドが由来する天然の母体タンパク質の配列に無関係のアミノ酸の短い配列を結合することによって、免疫原性ペプチドの免疫原性を改善する又は変更することができることが明らかにされている。
【0113】
19.カチオン脂質/抗原複合体への抗原の取り込みの効率に対するカチオン脂質と抗原の間のイオン性相互作用の影響
【0114】
これらの研究のために、DOTAPをクロロホルムに可溶化し、16×100mmのガラス管にて7mgのDOTAPから乾燥膜を調製した。減圧下で乾燥した後、(1)イオン強度の高い環境(15mMのリン酸ナトリウム、150mMのNaCl、pH7.0)又はイオン強度の低い環境(15mMのリン酸ナトリウム、50mMのNaCl、pH7.0における0.5mLの抗原)における0.5mLの抗原(HPV−16E7、アミノ酸11〜20、YMLDLQPETT、配列番号2)によってリポソームを水和した。粒径は100nmだった。
【0115】
微量遠心機にて5000rpmで20分間100KNanosep微量フィルター(ミシガン州、アナーバーのポール社から市販されている)上で濾過することによって抗原封入効率を分析した。逆相クロマトグラフィによって出発緩衝液及びNanosepフィルターからの通過液における抗原の濃度を解析してパーセント封入を決定した。表3に見られるように、封入効率は、(1−取り込まれなかったペプチドの%)として算出した。
【0116】
表3.抗原上の負の電荷を増すことによってカチオン脂質/抗原複合体への抗原の封入は高められる。
【0117】
イオン強度の高い環境では、イオン性の相互作用は最小限にとどめられる。イオン強度が高ければ高いほど、製剤化緩衝液(150mMのNaCl)のイオン強度を高めることによって負を効果的に減らし、負に荷電した抗原と正に荷電した脂質の間のイオン性の相互作用は最小限にとどめられ、結果として封入の低下を生じる。イオン強度を低下させることによって、脂質と抗原の間のイオン性の相互作用を高め、複合体への抗原のさらに大きな取り込みをもたらす。従って、製剤化緩衝液を変更するか、又はアニオン性の若しくはポリアニオン性の化合物を抗原に結合させることによって、負の電荷を高めるように抗原を操作することにより、カチオン脂質/抗原複合体への取り込み効率を高めることができる。
【0118】
考察
【0119】
米国特許第7,303,881号で記載されたように、広範なクラスのカチオン脂質が、抗原と一緒に免疫賦活剤として作用し、疾患の治療において抗原特異的な免疫応答を生成することができる。たとえば、米国特許第7,303,881号は、DC2.4樹状細胞上でのCD80/CD86同時刺激分子の発現のカチオン脂質による刺激によって明らかにされたように、カチオン脂質で構成されるリポソームが樹状細胞を活性化することを開示している(図14A及び14B)。図14Aで示されるように、様々なカチオンリポソームによるDC2.4細胞におけるCD80/CD86の発現を刺激する能力は大きく異なる。リポフェクトアミン RTM、ポリカチオン脂質、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)と中性脂質、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)の3:1(w/w)リポソーム製剤、及びO,O’−ジミリスチル−N−リシルアスパルテート(DMKE)とO,O’−ジミリスチル−N−リシル−グルタメート(DMKD)から調製されたリポソームは、CD2.4細胞によるCD80/CD86の発現を強く刺激した。
【0120】
DC2.4細胞におけるCD80の発現を刺激する様々なカチオン脂質の能力は異なっていた。脂質の親水性の頭部及び親油性の尾部の双方がこの能力に有意な影響を有する。たとえば、エチルホスホコリン(EPC)頭部基を持つDXEPCは、一般に、トリメチルアンモニウムプロパン(TAP)頭部基を持つDXTAPよりもさらに強力である。1つの特定の頭部基構造を持つ脂質の中では、より短い(1,2−ジラウロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DLEPC−12:0)、(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DMEPC−14:0)又は不飽和の(1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DOEPC−18:1))アシル鎖を持つ脂質は、さらに長い(1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DPEPC−16:0)又は飽和1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−エチルホスホコリン(DSEPC−16:0))アシル鎖を持つものより強力であると思われる(図14B)。これらのデータは複数のカチオン脂質が樹状細胞の活性化を刺激することが可能であることを明らかにした。従って、3つの代表的なカチオン脂質、DOTAP、DOTMA及びDOEPCをさらなる研究のために選択し、カチオン脂質が免疫賦活剤として作用するメカニズムを決定した。代表的なカチオン脂質と共に本明細書で提示されるデータは、免疫応答を刺激するそのほかのカチオン脂質に外挿されてもよい。
【0121】
本研究のデータは、カチオン脂質が免疫系のAPCを効率的に標的とし、抗原をAPCに送達する媒体であるだけでなく、結果的にサイトカインやケモカインを始めとする免疫系調節性分子の産生を伴って、MAPキナーゼ依存性のシグナル伝達経路の活性化を介して免疫系に直接影響を及ぼすように、低い用量組成で強力なアジュバントとしても機能するという所見をもたらした。製剤の免疫賦活能におけるカチオン脂質の明瞭な用量反応効果が実証された。この目的を達成するために、我々は、抗原、たとえば、HPV16型のE7タンパク質のペプチドエピトープをDOTAP、DOTMA又はDOEPC(D0TAP/E7、D0TMA/E7又はD0EPC/E7)のいずれかのカチオンリポソームに封入し、約100ナノモル用量組成で単回の皮下注射によって抗原/脂質の複合体を投与した場合、それは、マウスにおいてHPV−16E7陽性の腫瘍TC−1の退行を誘導することを実証した。脂質/抗原の複合体を投与した際、粒子は、主要な専門的な抗原提示細胞である樹状細胞によって主として取り込まれた。実証されたように、樹状細胞の活性化の開始及び流入領域リンパ節への移動は、抗原特異的なTC−1腫瘍に対する免疫応答を促進する。DOTAP/E7を注射すると、機能的なCD8+Tリンパ球が生成され、腫瘍の微細環境に浸潤するT細胞の数の増加によって腫瘍サイズは小さくなり、アポトーシスが増加した。得られたベル形状(最適用量より上及び下で活性が低下する)のカチオン脂質の用量反応曲線は、非常に低い用量での活性を明示し、このことは、アジュバント又は免疫賦活剤としてのカチオン脂質の活性が、非常に強力なのでEC50は注射当たり約15ナノモルと低いことを示している。高用量のカチオン脂質は、免疫賦活活性を排除する。我々はまた、抗原、たとえば、卵白アルブミンをカチオンリポソームに取り込み、単回の皮下注射で投与した場合、抗原に対する有効な抗体が産生されることを明らかにした。最適な用量組成で、カチオン脂質及びカチオン脂質/抗原複合体は、疾患を防ぎ、治療するのに有用な、単純で、安全な且つ非常に効率的な免疫療法を提供することは明らかである。
【0122】
調節性T細胞は、Gershonら[Eardley, D D, et al., T細胞セットの中での免疫調節性回路、I.ヘルパーT細胞はほかのT細胞セットを誘導してフィードバック阻害を発揮する。 J Exp Med 147: 1106; 及びCantor, H, et al., T細胞セットの中での免疫調節性回路、II.生体内でのフィードバック阻害の生理的役割:NZBマウスには存在しない。J Exp Med 147:1116 (1978)]によって1970年代に最初に記載され、抑制性T細胞と呼ばれた。最近の研究は、癌患者と同様にいくつかのマウスのモデルにて腫瘍免疫の抑制においてCD4+CD25+調節性T細胞(T−reg)の役割を検討している[Comes, A, et al., CD25+調節性T細胞の欠如は、IL−21を分泌する細胞性ワクチンによって免疫療法を増強する。J Immunol 176:1750 (2006)]。T−reg細胞の頻度は癌患者の末梢血で増加する[Sasada, T, et al., 消化器悪性腫瘍の患者におけるCD4+CD25+調節性T細胞:疾患の進行への調節性T細胞の関与の可能性。 Cancer 98:1089 (2003)]。それらは、腫瘍に浸潤するリンパ球及び流入領域リンパ節で濃縮される[Baecher-Allan, C, 及び Hafler, DA, ヒト疾患におけるサプレッサーT細胞。J Exp Med 200:273 (2004)]。また、腫瘍関連組織におけるT−regの蓄積は、乏しい予後及び生存を予測する[Baecher-Allan, C, 及びAnderson, DE 担癌宿主における免疫調節。Curr Opin Immunol 18:214 (2006)]。T−regがどのように正常なT細胞免疫を弱らせるのかというメカニズムの詳細はよく理解されていないが、抗CD25抗体を用いてT−reg細胞をブロックすることによって抗腫瘍効果を高めることが報告されている[Attia, P, et al., メラノーマ患者における調節性Tリンパ球を排除するためのIL−2とジフテリア毒素(Denileukin Diftitox、DAB389IL−2、ONTAK)の融合タンパク質の不能。J Immunother 28:582 (2005)]。実際、ヒト対象腫瘍ワクチンを服用する患者においてエフェクターの応答とT−regの応答の双方をモニターし、性状分析する必要があることが明らかになっている[Baecher-Allan, C,及びAnderson, DE 担癌宿主における免疫調節。Curr Opin Immunol 18:214 (2006)]。本研究では、我々は、DOTAP/E7の抗腫瘍活性とT−reg細胞の減少の明瞭な相関を見い出した。
【0123】
従って、カチオン脂質は、特定の用量にて、生体の免疫応答を調節すること及び予防的使用及び治療的使用の双方のための治療剤及びワクチンの開発に効果的に適用することができる、新規の部類の免疫賦活剤を構成する。
【0124】
ここ数年、免疫療法及びワクチンの開発で使用するのにタンパク質及びペプチドが重要な素質を有することが知られている。そのような療法の奏功する開発の主な欠点は、免疫系への抗原の不十分な送達である。また、多大な尽力を払って感染性疾患での使用にて及び癌の療法として安全で強力な免疫賦活剤を開発してきた。マンニドモノオレエートファミリーからの界面活性剤と鉱物油又は非鉱物油の混合物であるSEPPIC社からのMontanide ISA(商標)51及び720のようなアジュバントを始めとする現在の技術は、ヒトでの感染性疾患及び癌のためのワクチンで試されている[Aucouturier, J, et al., Montanide ISA720及び51: ヒトのワクチン用のアジュバントとしての油中水エマルションの新しい生成。Expert Rev Vaccines 1:111 (2002)]。種々の研究が、抗体価を高め、特異的CTL応答を高めるMontanide ISA(商標)51及び720の能力を実証している[Yamshchikov, GV, et al.,メラノーマ患者の流入領域リンパ節及び末梢血におけるペプチドワクチンの免疫原性の評価。Int J Cancer 92:703 (2001)]。しかしながら、この種の油中水アジュバントは、製造工程の間で乳化の重大な工程を必要とし、それは常に容易に制御できるとはかぎらない。さらに重要なことに、Montanide ISA720を併用した複数エピトープポリペプチドTAB9のフェーズI臨床試験は、低用量群の8人の志願者のうち7人が中程度又は重度の局所の炎症を示し、高用量群の8人の被験者のうち4人が肉芽腫及び無菌性膿瘍を発生したことを示した[Toledo, H, et al., HIV−1非感染のヒト志願者におけるMontanide ISA720を併用した複数エピトープポリペプチドTAB9のフェーズI臨床試験。 Vaccine 19:4328 (2001)]。ISA720は、代謝可能な油で構成されており、ヒトではあまり反応原性ではないと考えられる。しかしながら、ほかのアジュバントのほとんどと同様に、エマルション中の界面活性剤は、樹状細胞及びマクロファージ上のトール様受容体(TLR)の引き金を引くので、NF−κBの産生及び炎症性応答を誘導する[Aucouturier, J, et al., Montanide ISA720及び51: ヒトのワクチン用のアジュバントとしての油中水エマルションの新しい生成。 Expert Rev Vaccines 1:111 (2002)]。
【0125】
我々は、カチオン脂質はNF−κBの発現を高めないことを明らかにしたが、これは、カチオン脂質による樹状細胞の刺激はNF−κBと無関係なメカニズムを介してシグナル伝達されることを示唆している[Cui, Z., et al (2005). ワクチン担体としてのLPDナノ粒子の免疫賦活のメカニズム。MoI Pharm 2:22-28)]。従って、カチオンリポソームは、改善された安全性特性を持つ独特の部類のアジュバントに属するのかもしれない。
【0126】
我々はまた、抗原を脂質化することによって、たとえば、KSSで延長したE7ペプチド(α位又はε位のいずれかで)にモノパルミチン酸を連結することによって、カチオンリポソーム/抗原複合体内へのペプチドの封入効率を水溶性抗原のそれを超えて改善することができることを明らかにした。たった2つの分子から成るDOTAP/E7−リポペプチド複合体は、HPV陽性のTC−1細胞を撲滅するための抗原特異的なCTLを生成するのに総合的な増強を誘導した。カチオン脂質の組成は100nmで維持した。抗原を減らした用量(5ナノモル以下)で担癌マウスに投与した場合、完全な用量(10ナノモル)での元々のDOTAP/E7製剤に比べて、DOTAP/E7−リポペプチド複合体は、優れた抗腫瘍活性を示した。リポペプチドの高められた抗原性及び抗腫瘍活性は、リポソームへのリポペプチドの高められた封入と相関した。表2に示されるように、総脂質の2.5モル%のペプチド負荷でリポペプチドの取り込み効率は90%であったが、元々の水溶性E7ペプチドのたった約25%が複合体に取り込まれたにすぎない。リポペプチドの同様の高められたリポソーム取り込みも報告されている[Yagi, N.et al.,ペプチドリガンドを伴った機能的なリポソームの調製及びその細胞膜への結合。Lipids, 35:673-680 (2000); 及びLiang, M. T. et al., リポソーム内へのリポペプチドの封入:脂質鎖の数、鎖長及びリポソーム調製法の影響。 Int J Pharm, 301:247-254 (2005)]。ペプチドがMHCクラスI経路によって提示されるように、ペプチドはAPCの細胞質に入らなければならない。カチオン脂質は、封入された、しかし遊離してはいないペプチドを、APCの中に送達する。従って、ペプチドの封入が高ければ高いほど、送達は良好であり、抗原性を期待することができる。さらに、明らかにされた用量条件下で、カチオン脂質はまた強力な免疫賦活剤として作用し、抗原特異的な強い免疫応答をもたらし、結果的に観察された腫瘍細胞死を生じる。
【0127】
ROSの重要性は、天然の免疫応答及びT細胞の活性化に関係しているとみなされており[Kantengwa et al, 超酸化物アニオンはヒト樹状細胞の成熟を誘導する。 Am J Respir Crit Care Med 167:431-437 (2003)]、ROSの高い産生は細胞死をもたらす[Tobiume K, et al, ASKIはJNK/p38 MAPキナーゼの持続した活性化及びアポトーシスに必要とされる。EMBO Rep 2:222-228 (2001)][Aramaki Y, et al, カチオンリポソームによるWEHI 231細胞におけるアポトーシスの誘導。Pharm Resl7:515-520 (2000)]。我々は、カチオン脂質によって流入領域リンパ節の細胞でROSを誘導し、高用量のDOTAP脂質は樹状細胞の死を招くことを明らかにした。実際、Iwaokaらは、カチオンリポソームがインビトロでマクロファージにおいてROSを誘導できることを示した[Iwaoka S, et al, カチオンリポソームは、マクロファージ様のRAW264.7細胞においてp38 MAPキナーゼカスパーゼ−8−Bid経路を介してアポトーシスを誘導する。J Leukoc Biol 79:184-191 (2006)]。図10Aに示されたデータは、DOTAP/E7複合体の皮下注射の後、生体内で流入領域リンパ節にてカチオン脂質がROSを生成できることを明らかに実証している。同じデータは、高用量のカチオン脂質によって生成された過剰のROSが樹状細胞の死の増大を招くことも示唆している。これらのデータは、免疫系の細胞でROSの産生を誘導するのに十分な用量でカチオン脂質を対象に投与することを支持しており、この誘導されるROSは、カチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分なレベルである。高いDOTAP用量のDOTAP/E7複合体に起因する、免疫賦活と得られる抗腫瘍活性の喪失については、そのほかの理由の可能性があるかもしれない。しかしながら、DLNにおける活性化APCの量の低下は、高用量のワクチンにおけるリンパ球浸潤(図3)、抗原特異的なCTL活性及びIFN−γの産生(図2及び図8)、並びに最も重要なことに、抗腫瘍活性(図6)の観察された低下において、確かに重要な役割を担っているはずである。他方、DOTAP誘導のROSは、おそらく、たとえば、ERKやp38 MAPのような、実施例2で以下に議論されるようにワクチンの活性に必要であるそれに続くシグナル伝達に介在する最初のシグナルなので、望ましいレベルのROS産生が必要とされる。さらに、我々は、図10Cにおいて免疫賦活効果及び得られる抗腫瘍活性に対するカチオン電荷の密度の重要性を明らかにした。ここでは、高い比率の不活性の中性脂質、DOPCをカチオン脂質/E7複合体と同時製剤化することによってROS産生と抗癌活性の双方を低下させることができ、結果としてカチオン電荷密度の低下を生じることが明らかにされる。
【0128】
実施例1は、免疫賦活効果におけるカチオン脂質の用量の重要性を明らかにし、癌及び細菌感染やウイルス感染のような複数の疾患の治療のために抗原特異的な強い免疫応答を生成するための、単純で且つ安全な免疫療法の開発における、カチオン脂質/抗原複合体の役割を強調している。
【0129】
〔実施例2〕
カチオン脂質の免疫賦活活性のメカニズム:MAPキナーゼ、ERKのリン酸化及びケモカインの誘導
A.材料及び方法
1.細胞株及びペプチド
【0130】
TC−1細胞はTC.Wu(メリーランド州、ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学)によって提供された。これらの細胞は、HPV16E6及びE7癌遺伝子と活性化H−rasによって形質転換されたC57BL/6マウスの肺内皮細胞である。10%ウシ胎児血清と100U/mLのペニシリンと100m/mLのストレプトマイシンを添加したRPMI培地(カリフォルニア州、カールズバッドのインビトロゲンから市販されている)にて細胞を増殖させた。ピッツバーグ大学、ペプチド合成施設によって、アドバンストケムテックモデル200ペプチド合成機を用いた固相合成によりHPV16E7タンパク質(アミノ酸49〜57、RAHYNIVTF[配列番号1])からMHCクラスI拘束性のペプチドを合成し、HPLCによって精製した[Feltkamp, et al. Eur J Immunol 23:2242-2249 (1993)に記載されたように]。pERK及びERK2及びsiRNAに特異的なマウスモノクローナル抗体は、カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から購入した。リン酸化p38(p−p38)に特異的なウサギポリクローナル抗体は、マサチューセッツ州、ダンバーのセルシグナリングテクノロジー社から入手した。GeneChipマウスゲノム430 2.0アレイはアフィメトリクス社から入手した。PD−98059、U−0126、PP2、ワートマニン及びGF109203Xは、カルビオケムから入手した。百日咳毒素及びそのほかの試薬はシグマから入手した。
【0131】
2.脂質/抗原複合体の調製及び物性の測定
【0132】
脂質はすべてアバンチ・ポラー・リピッド(アラバマ州、アラバスター)から購入した。薄膜水和、その後の押し出しによって小型の単層のDOTAP、DOEPC及びDOTMAのリポソームを調製した。ガラス管にて窒素流のもとでクロロホルム中の薬剤を伴った又は伴わない脂質を薄層として乾燥させた。薄膜を減圧下2〜3時間乾燥させ、次いで、最終濃度0.7mgの脂質とmL当たり0.1mgのE7(モル比=11:1)になるようにE7ペプチドを含有する細胞培養等級の水(メリーランド州、ウォーカーズビルのカムブレックスから市販されている)又は緩衝液で再び水和した。穴サイズ0.4、0.2及び0.1μmを持つポリカーボネートの膜を介して脂質分散物を順次押し出した。取り込まれなかったペプチドを除かなかった。使用までリポソームを4℃で保存した。E7ペプチドとリポソームとの結合は、リポソームに結合したペプチドの比率を測定することによって決定した。手短に言えば、DOTAP/E7又はDOTAP/E7/薬剤(MAPキナーゼ阻害剤)複合体からの結合していないE7ペプチドは、Micron(登録商標)遠心濾過装置(マサチューセッツ州、ベッドフォードのミリポア)によって分離し、結合していないペプチドの濃度は、MicroBCA(商標)プロテインアッセイキット(イリノイ州、ロックフォードのピアース)によって測定した。パーセント結合していないペプチドとしてペプチド結合の効率を決定した。およそ30%のE7ペプチドがリポソームに結合した。
【0133】
3.統計的な解析。
【0134】
少なくとも5回の独立した実験の平均値±SDとしてデータが提示される。両側性スチューデントのt検定を用いて平均値の差異について統計的有意性を評価した。有意性は、p<0.05で設定した。
【0135】
4.RNAの抽出及びマイクロアレイ
【0136】
メリーランド州、ジャーマンタウンのキアゲンからのRNeasyミニキットによって製造元の指示書に従ってRNAを抽出した。7μgの全RNAを用いてcDNAを合成した。この反応には、T7−(dT)24プライマーと共にメリーランド州、ゲーサーズバーグのライフ・テクノロジーズからのカスタムcDNAキットを用いた。次いで、バイオアレイハイイールドRNA転写キットを用いたcDNA反応からビオチン化cRNAを生成した。次いで、チップハイブリッド形成の前に、94℃にて35分間、断片化緩衝液(5×断片化緩衝液:200mMのトリス酢酸塩、pH8.1、50OmMのKOAc、15OmMのMgOAc)にてcRNAを断片化した。次いで、15μgの断片化cRNAをハイブリッド形成カクテル(0.05μg/μLの断片化cRNA、50pMの対照オリゴヌクレオチドB2、BioB、BioC、BioD及びcreハイブリッド形成対照、0.1mg/mLのニシン精子DNA、0.5mg/mLのアセチル化BSA、100mMのMES、1MのNaCl、20mMのEDTA、0.01%のツイーン20)に加えた。ハイブリッド形成に10μgのcRNAを用いた。GeneChipハイブリッド形成オーブン640にて45℃で16時間アレイをハイブリッド形成させた。アレイを洗浄し、GeneChip流体工学ステーション400にてR−フィコエリスリン−ストレプトアビジンによって染色した。この後、ヒューレットパッカードGeneArrayスキャナーによってアレイを走査した。洗浄、走査及び基本的な解析にはアフィメトリックスGeneChipマイクロアレイスイート5.0ソフトウエアを用いた。特定の遺伝子の3’から5’の強度比を調べることによって試料の質を評価した。
【0137】
5.骨髄由来の樹状細胞(BMDC)
【0138】
Inabaら、[ 顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子を添加したマウスの骨髄培養からの多数の樹状細胞の生成。J Exp Med 176:1693-702, (1992)]に記載されたものを改変した手順を用いてBMDCを生成した。手短に言えば、メスC57BL/6マウスの大腿骨及び脛骨から骨髄を回収した。赤血球を溶解した後、プラスチックへの付着性によってリンパ球から樹状細胞前駆細胞を分離することができた。10%FBS、非必須アミノ酸、抗生物質及びGM−CSF及びIL−4(R&Dシステムズ)を各1,000U/mLを添加したRPMI1640培地にて、残った骨髄細胞を6日間培養した。2日に一回培地を交換した。6日目に細胞をアッセイに使用した。CD11cの発現についてフローサイトメトリーによって証明されたように、これらの細胞は、>90%樹状細胞であった。
【0139】
6.RT−PCR
【0140】
製造元の指示書に従ってキアゲンからのRNeasyミニキットによってBMDCから全RNAを単離した。37℃にて30分間のDNA分解酵素による消化に続いて、全RNAの濃度を分光光度計によって決定した。マウスのCCL2、CCL3、CCL4及びβ−アクチン用のプライマー対(CCL2用の正方向プライマー:5’−AAGCCAGCTCTCTCTTCCTC−3’[配列番号3]及び逆方向プライマー:5’−CCTCTCTCTTTGAGCTTGGTG−3’[配列番号4];CCL3用の正方向プライマー:5’−ATCATGAAGGTCTCCACCAC−3’[配列番号5]及び逆方向プライマー:5’−TCTCAGGCATTCAGTTCCAG−3’[配列番号6];β−アクチン用の正方向プライマー: 5’−GCTCTGTGCAAACCTAACCC−3’[配列番号7]及び逆方向プライマー:5’−TGTGATGGTGGGAATGGGTCAG−3’[配列番号8]及び逆方向プライマー:5’−TTTGATGTCACGCACGATTTCC−3’[配列番号9])[Wang H., et al., 樹状細胞の流入リンパ節への移動を誘導することを介したIL−4が介在する腫瘍免疫における単球の化学誘引性タンパク質(MCP)−l/CCh2の関与の可能性。 Int Immunopharmacol 3:627-42, (2003)]をIDT技術によって合成した。逆転写及びDNAの増幅が同一の反応で起きる一工程RT−PCTキット(カリフォルニア州、カールズバッドのインビトロゲンから市販されている)を用いてRT−PCRを行った。手短に言えば、逆転写酵素とTaqポリメラーゼの存在下適当なプライマーを含む反応で1μgの全RNAを鋳型として用いた。混合物を45℃で30分間インキュベートし、94℃で30秒間、55℃で30秒間及び72℃で2分間を25回繰り返してインキュベートした。増幅の適当な陰性対照は、逆転写酵素無しの反応を含んだ。臭化エチジウムで染色した1.5%アガロースゲルのUV透照によってPCR産物を視覚化した。
【0141】
7.DOTAP刺激後のリンパ節細胞及びBMDCによるCCL2の産生
【0142】
メスC57BL/6マウス(n=5)にPBS、DOTAP/E7又はDOTAP/E7/MAPキナーゼ阻害剤を皮下注射した2日後、CCL2 ELISAキット(BD バイオサイエンシズから市販されている)によって流入領域リンパ節内でのCCL2産生の量を解析した。記載されたようなGM−CSF及びIL−4の存在下、C57BL/6マウスからのBMDCを6日間培養した。6日目に、37℃にて培地対照又はリポソームで1h、24h又は48h、BMDC(106個/mL/ウエル)を刺激した。阻害剤の処理については、リポソーム刺激の前、阻害剤をBMDCと共に20分間予備インキュベートした。CCL2 ELISAキットによって上清中のCCL2の産生を解析した。
【0143】
8.CCL2の免疫組織化学染色
【0144】
2日目にマウスの流入領域リンパ節を取り出し、OTCコンパウンドに包埋し、液体窒素で急速冷凍し、免疫組織化学分析に使用するまで−80℃で保存した。製造元のプロトコールに従って、ヤギABC染色システム(カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)を用いた。手短に言えば、流入領域リンパ節の8μmの厚さのクリオスタット切片を作製し、冷アセトンで10分間固定し、各洗浄5分間でPBSによって3回洗浄した。次いで切片を順次、内因性ペルオキシダーゼをブロックするために1%の過酸化水素(H2O中)にて10分間、PBS中1%のブロッキング血清(ロバ血清)にて60分間、次いで4℃にて一次抗体(1:100希釈、カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)と共に一晩インキュベートした。次いで、切片をAB酵素試薬と共にビオチン化二次抗体(1:150希釈、カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)と30分間インキュベートし、3滴のペルオキシダーゼ基質と10分間以上インキュベートした。
【0145】
9.ウエスタンブロット解析
【0146】
様々な処理の後、BMDC細胞の溶解物を回収し、細胞性タンパク質すべてをポリアクリルアミド/SDSゲル上で分離し、次いでポリジフッ化ビニリデン膜に転写した。トリス緩衝生理食塩水中5%の脱脂乳によって1時間、膜をブロックし、次いで一次抗体と共に1時間〜一晩インキュベートした。トリス緩衝生理食塩水で3回膜を洗浄した後、西洋ワサビペルオキシダーゼを結合した二次抗体と共に1時間、膜をインキュベートした。タンパク質バンドに結合したペルオキシダーゼ活性は、ECL(アマシャム・インターナショナル)を用いた増強化学発光、次いでオートラジオグラフィによって検出した。
【0147】
10.siRNA処理
【0148】
製造元の指示書に従って、リポフェクトアミン2000試薬(カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)を用いて、ERK1用のsiRNA及び対照siRNA(カリフォルニア州、サンタクルーズのサンタクルーズバイオテクノロジー社から市販されている)によってRNA干渉実験を行った。手短に言えば、5日目に、12穴プレートにウエル当たり5×105個のBMDCを播き、直ちに4μLの形質移入試薬を用いて80nMのsiRNAで形質移入した。DOTAP又はLPSと共にさらに16時間細胞をインキュベートした。CCL2についてELISAによって上清を分析した。
【0149】
B.結果
【0150】
APCの良好なモデルであることが示されている[Mendoza L., et al., HPV16関連腫瘍の担癌マウスにおけるBMDC株及びDC株の予防的、治療的及び抗転移的な効果。 Int J Oncol 23:243-7, (2003); Okada N., et al., マウスの樹状細胞及び樹状細胞変異体における主要組織適合複合体クラスI拘束性抗原提示経路に対するリポフェクチン−抗原複合体の効果。Biochim Biophys Acta 1527:97-101, (2001)]形質転換された樹状細胞株、DC2.4を用いて、アフィメトリクスマイクロアレイ解析を用いて、DOTAPによって誘導される包括的遺伝子調節を検討した(図15A)。データは、DOTAPが、単球化学誘引タンパク質−1(「MCP−1」)/CC型ケモカイン−2(「CCL2」)、マクロファージ炎症性タンパク質−1アルファ(「MIP−1α」)/CC型ケモカイン−3(「CCL3」)、マクロファージ炎症性タンパク質−1ベータ(「MIP−1β」)/CC型ケモカイン−4(「CCL4」)を含む幾つかのケモカインの過剰発現を誘導することを示した。CC型ケモカインの誘導のほかに、IL−1のシグナルが下方制御されたが、これは、50μMのDOTAP処理の際、IL−1βが低下し、IL−1受容体アンタゴニスト(「IL1RA」)が上昇したからである。興味深いことに、DOTAPリポソームによって樹状細胞マーカー、CD11cが誘導されたということは、カチオン脂質が樹状細胞の成熟に役割を担っていることを示唆している。マウスBMDCによるRT−PCRによってケモカインmRNAの誘導が確認された(図15B)。
【0151】
前述のように、ケモカインはリンパ球の移動に関与し、免疫応答に重要な役割を担っている。ケモカインの誘導は、前述のようにカチオンリポソームの主なアジュバント活性を説明できるかもしれない。この仮説は、プロセスの根底にある詳細なメカニズムを検討するように我々を促した。様々な脂質から調製したリポソームを利用して、ケモカインの誘導がリポソームによる一般的な現象であるのかどうかを判定した。BMDCを用いた結果、四級カチオンリポソーム(DOTAP及びDOEPC)のみがBMDCからのMCP−1/CCL2の放出を誘導することを示した。中性(DOPC及びDOG)及び負に荷電した(DOPS及びDOPG)リポソームは誘導しなかった(図16)。また、DOTAP及びDODAPの三級アミン類縁体がいずれの活性も誘導しなかったということは、活性は、脂質において四級アミノ頭部基を必要とすることを示唆している。LPSもまた陽性対照として実験に含めた。図16はまた、48時間のインキュベートがさらに高いレベルのケモカイン産生を生じなかったので、カチオンリポソームによるCCL2の誘導は24時間で最高量に達することを示している。我々のデータはまた、DOTAP誘導のCCL2の発現が用量依存的であることを示している(図17)。5μMのDOTAPがBMDCからの十分量のCCL2を誘導し、45〜75μMで最高の誘導に達した。BMDCにおけるDOTAPによるCCL2の誘導にどの経路が関与しているのかを同定するために、別々のシグナル伝達経路に特異的な幾つかの阻害剤を用いた。ERK経路に特異的な阻害剤であるPD98059(「PD」)及びU−0126(「U」)は、ほぼ完全にCCL2の産生をなくしたが、驚くべきことに、p38経路の阻害剤であるSB203586(「SB」)は、DOTAPによって誘導されるCCL2産生を相乗的に高めた(図18)。われわれのデータはまた、PKC阻害剤、GF109203X(「GF」)及びSrcキナーゼ阻害剤、PP2が阻害効果を有さなかったので、DOTAPによるCCL2産生にはPKC経路及びSrcキナーゼは関与しないことを明瞭に示した。図18はまた、ワートマニン(「Wort」)及び百日咳毒素(「PTx」)が幾分阻害効果を有したので、PI−3キナーゼ及びGi依存性Gタンパク質結合性受容体(GPCR)は、DOTAP処理に際したCCL2の放出に関与する可能性があることを示している。
【0152】
幾つかのケモカインはERK経路によって調節されていることが知られており[Yoo J. K., et al., IL−18は、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ/AktとMEK/ERK1/2の経路を介してマクロファージにおける単球走化性タンパク質−1の産生を誘導する。 J Immunol 175:8280-6, (2005)]、我々の系でも証明されている。ERKの経路の活性化を検討するためにBMDCを用いて、我々のデータは、DOTAPは暴露の10分以内にERKのリン酸化を誘導し、ホスフォ−ERK(p−ERK)は、高いレベルで少なくとも40分間留まることを示した(図19A)。さらに、p38もまたDOTAPによってやや活性化された。しかしながら、DOTAPのインキュベートに続いてIκBのリン酸化とそれに続く分解が検出されなかった(データは示さず)ということは、我々の以前の知見に一致して、DOTAPによって開始されるシグナル伝達にNF−κBが関与していなかったことを示唆している[Cui Z., et al., ワクチン担体としてのLPDナノ粒子の免疫賦活メカニズム。Mol Pharm 2:22-8, (2005)]。ウエスタンブロットが、p38の阻害は、DOTAPによって引き金が引かれるERKのリン酸化も相乗的に高めることができることを示したということは、ERKの経路とp38は相互に調節されていることを示唆している(図19B)。言い換えれば、p38の活性化は、ERKの活性化を阻害するのかもしれない。図18におけるELISAのデータと一致して、我々のデータは、DOTAPによって誘導されるERKのリン酸化をワートマニンが阻害したので、DOTAPが誘導するERKの活性化にはPI−3キナーゼが介在することを示していた。しかしながら、Gi阻害剤であるPTxは、DOTAPが誘導するERKのリン酸化に対してわずかな阻害効果しか示さなかった(図19C)。他方では、GF及びPP2がDOTAPによって誘導されるERKのリン酸化に効果を有さなかったので、PKCの経路及びSrcキナーゼはこのプロセスに関与していない。
【0153】
DOTAPによって開始されるCCL2の放出にERKの経路が関与することをさらに検証するために、RNA干渉のアプローチを利用してBMDCにおけるERK遺伝子の発現をブロックした。図20Aは、24時間後、特定のsiRNAによってERK1が下方制御されることを示した。ERK1遺伝子の発現をブロックするsiRNAで処理された細胞にてDOTAPが誘導するCCL2の放出が減衰した(図20B)。しかしながら、ERK1が下方制御されても、LPSはCCL2の放出を誘導し続けた(図20B)。データはまた、ERK1のsiRNA処理はほかのシグナル伝達経路に影響を及ぼさなかったことを明らかにしている。
【0154】
今までのこところ、データは、インビトロでのDOTAPが誘導するERKの活性化及びその下流のCCL2の誘導を明らかにしている。我々は、上記のシグナル伝達のメカニズムがインビトロでのDOTAPのアジュバント活性に役割を担っているかどうか検討した。DOTAP/E7リポソームワクチン製剤でマウスを皮下で免疫し、流入領域リンパ節を回収し、CCL2についてELISAによってアッセイした。データは、免疫後、流入領域リンパ節にCCL2が蓄積し、最大の蓄積は注射後2日だったことを示している(図21A)。免疫組織化学染色によってこれらのデータは確認された(図21B)。同じデータはまた、DOTAP/E7処理に際してさらに多くのリンパ球が流入領域リンパ節に移動し、結果的にリンパ節の肥大を生じたことも明らかにしている。
【0155】
ERK及びp38の経路の阻害剤もDOTAP/E7リポソーム複合体で製剤化した。DOTAP/E7/U−0126及びDOTAP/E7/SB203580は透明な懸濁液を形成したが、PD98059は、DOTAP/E7複合体中で製剤化するのは困難であった。DOTAP/E7/薬剤の製剤は、DOTAP/E7の製剤と同様のゼータ電位、粒径及び抗原負荷能を有したということは、薬剤の取り込みがワクチンの物理的な特性を有意には変えなかったことを示している。マウスにDOTAP/E7/U−0126及びDOTAP/E7/SB203580を皮下注射した。インビトロのデータと一致して、DOTAP/E7製剤は、流入領域リンパ節においてCCL2の蓄積を誘導し、U−0126及びSB−203580は、CCL2の誘導を相互に調節した(図22A)。ERKとp38の経路が、DOTAP/E7の抗腫瘍活性に関係するかどうかを判定するために、我々は、DOTAP/E7/薬剤の製剤の抗腫瘍活性を調べた。図22Bに示されるように、脂質用量100ナノモルにてDOTAP/E7で処理された担癌マウスは、TC−1腫瘍の増殖に対する強い増殖阻害効果を示した。ERKの阻害剤であるU−0126は、DOTAP/E7と同時製剤化した場合、DOTAP/E7の抗腫瘍活性を完全に消失させた。同様に、SB−203580と同時製剤化したDOTAP/E7でマウスを処理した場合、抗腫瘍活性の部分的阻害が示されたということは、p38とERKの経路の双方がDOTAP/E7複合体の抗腫瘍活性に重要な役割を担っていることを示している。
【0156】
C.考察
【0157】
リポソームは、二層の水和させた両親媒性の脂質から成る閉鎖した小胞構造である[Small D. M., 脂質と水の表面及び全体の相互作用、とそれに伴うこれらの相互作用に基づいた生物学的に活性のある脂質の分類。Federation Proc. 29:1320-1326, (1970)]。それらが1974年にアジュバントとして同定されて以来[Allison A.G.及びGregoriadis G., 免疫アジュバントとしてのリポソーム。Nature 252:252, (1974)]、リポソームは、タンパク質ワクチン及びDNAワクチンの送達システムとして広範に活用されている[Chen W.C.及びHuang L., ワクチン担体としての非ウイルスベクター。 Adv Genet 54:315-37, (2005); Gregoriadis G., et al.、リポソームへのワクチンの取り込み。Methods 19:156-62, (1999); Perrie Y., et al., 皮下経路を介したリポソームが介在するDNA免疫。J Drug Target 11:555-63, (2003)]。リポソームは、抗原の送達について幾つかの独特の利点を示す。先ず、特定の適用に選択することができる脂質組成、サイズ、層化性、電荷、調製方法に十分な汎用性がある。さらに、担体と抗原の比を考慮すると、リポソーム小胞系は、封入又は安定な結合の形態での抗原負荷の効率性が高い。安全性の観点からは、リポソームは生分解性であり、生体適合性であり、免疫原性が低い[Copland MJ., et al., 抗原の送達のための脂質基剤の粒子製剤。Immunol Cell Biol 83:97-105, (2005); O'Hagan D. T.及びSingh M., ワクチンアジュバント及び送達系としての微粒子。Expert Rev Vaccines 2:269-83, (2003)]。さらにリポソームは、タンパク質抗原を細胞質のMHCクラスI経路に導入し、CD8+T細胞の応答を生成するのに使用されている[hikh G.及びSchutze-Redelmeier M.P.,樹状細胞へのCTLエピトープのリポソームによる送達。 Biosci Rep 22:339-53, (2002)]。
【0158】
カチオンリポソームは、負に荷電した細胞膜と相互作用することができるので、それらは、遺伝子療法及びワクチン送達に広く使用されている[Anderson P., Mycobacterium tuberculosis感染に対する分泌された微生物タンパク質の可溶性混合物によるマウスの有効なワクチン接種。Infect Immun 62:2536-44, (1994); Hasegawa A.,et al., ジフテリア毒素を結合したCD52コアによる鼻免疫は、メスマウスの生殖管で特異的な抗体の産生を誘導した。Am J Reprod Immunol 34:305- 11, (2002)]。しかしながら、カチオンリポソーム自体は、天然の免疫応答を活性化できるという点で不活性であるとみなされている[Moinegeon P., et al., Th1アジュバントの合理的な設計に向けて。Vaccine 19:4363-72, (2001)]。しかしながら、カチオンリポソームはまた、同時刺激分子CD80とCD83の発現を誘導し、ヒト樹状細胞を活性化することができる(図23A〜E及び図25A〜B)。それらはまた、疾患に対する強力な免疫応答を生成することと関連した重要なケモカイン及びサイトカインを産生するようにヒト樹状細胞を誘導する(図24A〜F)。これらの知見はすべて、樹状細胞への有効な送達以外に、カチオンリポソームは、免疫系の強力な活性化剤であることを示唆している。
【0159】
アラム、CpG及びCFAのような現在使用されているアジュバントとは異なって、カチオン脂質免疫賦活剤は、NF−κBの発現を高めず、このことは、カチオン脂質による免疫系の刺激は、NF−κBに無関係のメカニズムを介してシグナル伝達されることを明らかにしており、我々のカチオン脂質に基づいた療法からLPS様の炎症反応の可能性を排除する。これらの研究は、カチオンリポソームが、有効な送達系であることに加えて、改善された安全性特性を持つ独特の部類の免疫賦活剤に属することを示している。
【0160】
本明細書では、カチオンリポソームのアジュバント活性の考えられる分子メカニズムを検討した。カチオン脂質の免疫賦活活性におけるその役割について、MAPキナーゼシグナル伝達経路の種々の成分を検討した。活性のある樹状細胞賦活剤として、脂質を検討した。カチオン脂質によってケモカインの産生が誘導され、誘導には主としてERK経路が介在することが明らかになった。さらに、データは、p38経路は、このプロセスを負に調節することを明瞭に示している。最近の報告は、p38は、主としてERKの活性を調節する能力が介在してIL−2産生において負の役割を担うことを明らかにした。p38に特異的な阻害剤はERKの活性化を誘導し、最終的にはIL−2遺伝子の活性化を高める[Kogkopoulou O., et al., p38MAPKの不活化によるIL−2産生の条件付上方制御にはErkl/2活性の増加が介在する。J Leukoc Biol 79:1052- 60, (2006)]。p38のリン酸化及び活性化が、ERK1/2とのその相互作用を高め、ERK1/2のホスホトランスフェラーゼの活性と相関するということは、活性化されたp38はERK1/2を隔離し、MEK1によるリン酸化を立体的にブロックすることを示唆している[Zhang H., et al., p38MAPキナーゼとの直接的な相互作用によるERK1及びERK2のストレスを減らした阻害。J Biol Chem 276:6905-8, (2001)]。最近の研究は、頑強で持続するERKのリン酸化は結果として樹状細胞におけるAP−1転写因子、cFosのリン酸化を生じ、それは、今度はTh1を規定するサイトカインIL−12の発現を抑えるので、Th2にとってより好ましい、ということを示唆する。しかしながら、我々のデータは、これらの報告に対して2つの重要な差異を示している。第1に、それらの研究で利用されたPam−3cys(TLR−2リガンド)は、LPSに比べてERKの活性を高めることを示したが(Dillon et al., 2004)、カチオン脂質が誘導したERKの活性は、LPSによって認められるものより低い。我々はまた、Th2サイトカインであるIL−10も検討したところ、結果はDOTAPによってIL−10は誘導されないことを示した(データは示さず)。従って、DOTAPによって誘導されるERKのシグナルはTh2の応答の引き金を引くには十分ではない。第2に、DOTAPが誘導したIL−1シグナルの下方制御は、Th2の応答も抑制することができた。DOTAPが誘導するERKの活性化は適切に制御されていると思われる。
【0161】
我々の結果は、DOTAPが誘導するERKの活性化とCCL2の誘導にはPI−3キナーゼが必要とされることを示唆している。PI−3キナーゼとERKの間の正確な関係を同定するにはさらなる検討が必要である。ELISAのデータは、DOTAPによって誘導されるCCL2の放出をPTxが阻害することを示しているが、ウエスタンブロットのデータが示すように、DOTAPが誘導するERKのリン酸化はPTxによってわずかしか阻害されない。従って、DOTAPによって開始されるシグナル伝達にはGタンパク質結合受容体は関与してもしなくてもよい。興味深いことに、リソホスファチジルコリン(LPC)はG2A受容体依存性のERKの活性化及びT細胞の移動を誘導する[Radu C.G., et al.,G2A受容体を介したリソホスファチジルコリンへのT細胞の走化性。 Proc Natl Acad Sci U S A 101:245-50, (2004)]。著者らは元々、LPCはG2A受容体のリガンドであると報告していた[Kabarowski J.H., et al., 免疫調節性受容体G2Aのリガンドとしてのリソホスファチジルコリン。Science 293:702-5, (2001)]が、その後、LPCが誘導するERKの活性化は、G2A受容体の細胞内隔離と表面発現を調節するメカニズムを介することが明らかにされた[Wang L, et al., リソホスファチジルコリンが誘導する表面の再分布は、マウスのGタンパク質結合受容体G2Aのシグナル伝達を調節する。Mol Biol Cell 16:2234-47, (2005)]。活性のあるカチオン脂質は、大きな極性の頭部基及び2つの長いアシル鎖を含有する。そのような構造的特徴は、脂質膜へのその挿入を促進してもよく、結果として脂質単層の自発的な湾曲の変化の可能性、同様に膜タンパク質の立体配座の及び機能的な変化を生じる。
【0162】
p38はCCL2誘導のERK活性化を負に調節するので、我々は、DOTAP/E7ワクチンで製剤化されたp38阻害剤、SB203580が抗腫瘍活性を高めることを期待した。しかしながら、p38はDOTAP/E7が誘導する腫瘍の退行に陽性の役割も担ってもよいことを示す反対の結果が見い出された。カチオンリポソームは、p38の活性化をもたらすことができる反応性酸素種(ROS)の生成を誘導することができるので、DOTAPが誘導するp38の活性化はROSを介することが考えられる(Iwaoka et al., 2006)。蓄積された証拠は、p38の活性化が樹状細胞からのTh1サイトカインの放出を誘導することを示している[DeSilva D.R., et al., 活性化された及び反応不顕性のTh1細胞におけるp38マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ経路。Cell Immunol 180:116-23, (1997); Yu J.J., et al., 本来のTh1細胞の調節及び表現型:サイトカインの役割とp38キナーゼ経路。J Immunol 171:6112-8, (2003)]。哺乳類種では、MAPキナーゼ(ERK,p38及びJNK)は、免疫応答のあらゆる態様、天然の免疫の開始相から、獲得免疫の活性化まで、及び免疫機能が完結した場合の細胞死まで関与する[Dong C, et al., 免疫応答におけるMAPキナーゼ。Annu Rev Immunol 20:55-72, (2002)]。
【0163】
多種多様な実験的アジュバントが動物での使用に利用可能であり、その一部は臨床試験で試されている。それらには、幾つかの油中水エマルション、リポソーム及びそのほかの化学アジュバントが挙げられる[Vogel, F. R.及びPowell, M. F. ワクチンアジュバント及び賦形剤の概要。 Pharm Biotechnol 6:141 (1995)]。しかしながら、インフルエンザビロソーム[Gluck, R.及びWalti, E., 免疫増強再構成インフルエンザビロソーム(IRIV)をアジュバントとしたA型肝炎ワクチン、Epaxal Bernaの生物学的検証。Dev Biol (Basel) 103:189 (2000)]及びChironのMF59[Kahn, J. O., et al., HIV非感染のヒト志願者におけるムラミルトリペプチドジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンの存在下又は非存在下でのMF59アジュバントを併用したヒト免疫不全症ウイルス(HIV)ISF2型gpl20サブユニットワクチンに対する臨床的及び免疫的な応答。J Infect Dis 170:1288 (1994)]だけがアルミニウム塩以外ですでに上市されている。カチオンリポソーム(未公表データ)と同様に、アジュバントMF59に基づいた1ミクロン未満のエマルションは、樹状細胞によって内部移行させられる[Dupuis, M., et al., 筋肉注射の後、樹状細胞はワクチンアジュバントを内部移行させる。Cell Immunol 186:18 (1998)]。それは、同時送達された抗原に対する高い抗体及びT細胞の反応をもたらす種々の免疫活性を刺激する。しかしながら、HSV及びインフルエンザのワクチンに関する臨床試験報告[Jones, C. A.及びCunningham, A. L., 性器ヘルペス及び新生児単純ヘルペスウイルス(HSV)症を防ぐためのワクチン接種戦略。 Herpes 11:12 (2004); and Minutello, M., et al., 3回の連続したインフルエンザ流行期に免疫された、高齢対象におけるMF59アジュバントを併用した不活化インフルエンザサブユニットウイルスワクチンの安全性及び免疫原性。Vaccine 17:99 (1999)]によれば、動物モデルからの証拠は、MF59アジュバントは、T細胞の応答ではなく中和抗体を高めることを示唆している。従って、ワクチンアジュバントとしてのカチオンリポソームは、我々のデータによって示されるように、強い細胞性免疫応答を生成する点でMF59とは異なる。
【0164】
カチオン脂質/抗原複合体は、今までに報告された最も単純な癌ワクチン製剤であると思われる。それは、たった2つの分子、すなわち、抗原と担体だけを含有する。たとえば、樹状細胞のような抗原提示細胞の細胞質にE7ペプチドを送達することに加えて、DOTAPはまた、DCも活性化するに違いない。実際、DOTAPのみから成るリポソームは樹状細胞にて同時刺激分子、CD80/CD86の発現を誘導する。
【0165】
結論として、我々の知見は、カチオンリポソームが強力な免疫系賦活剤であることを初めて示唆している。本明細書で報告される結果は、たとえば、DOTAPのようなカチオン脂質のアジュバント活性の分子メカニズムの解明に役立つ。
【0166】
DOTAPは、その発現にERK経路が介在する幾つかのケモカイン及びサイトカインの誘導に介在する。我々の研究は、カチオンリポソームのアジュバント活性を評価するための新しい分子マーカーとしてERK経路を同定した。これらのマーカーを、強力な脂質系アジュバント及びワクチン送達系の高処理能力スクリーニング又は設計に用いてもよい。
【0167】
〔実施例3〕
ヒト免疫系の細胞におけるカチオン脂質/抗原複合体の免疫賦活能の実証。
【0168】
1.カチオン脂質/E7複合体は、脂質用量依存的にヒト樹状細胞を活性化する。
【0169】
上述のようにカチオンリポソームを調製した。製剤に使用されたE7抗原は、HLA−A*0201によって拘束される同定されたヒトE7ペプチド(HPV−16 E7、アミノ酸11−20、YMLDLQPETT、配列番号2)である。ペプチドは、ペンシルベニア州、ピッツバーグのピッツバーグ大学分子医学研究所によって合成された。ヒトHLA−A2ヒト樹状細胞はロンザ(メリーランド州、ウォーカーズビル)から入手した。凍結したクリオバイアルを融解し、50μg/mLのIL−4及びGM−CSFを添加したLGM−3培地(メリーランド州、ウォーカーズビルのロンザから市販されている)中で、37℃及び5%CO2にて12穴培養皿で2mLの培地に最初の播種密度125,000個/cm2で樹状細胞を培養した。培養中で細胞を3日間増殖させると、顕微鏡検査では、付着性細胞と丸い細胞の混合物として見えた。
【0170】
3日目に、新鮮な用量の50μg/mLのIL−4及びGM−CSFで処理し(すべてのウエル)、試験ウエルは、10ng/mLのインターロイキン−1β(「IL−1β」)、インターロイキン−6(「IL−6」)及びTNF−αの混合物、及び10μg/mLのプロスタグランジンE2(「PGE2」)(活性化の陽性対照)、無処理(活性化の陰性対照)、及び2.5、10及び40μMの最終濃度でのDOTAP/E7、2.5、10及び40μMの最終濃度でのDOEPC、及び2.5、10及び40μMの最終濃度での脂質とコレステロールのDOTAP/コレステロール/E7、のいずれかで処理した。脂質二重膜の安定剤であるコレステロールは25モル%で加えた。処理された樹状細胞を培養で24時間維持し、表面マーカーの染色及びフローサイトメトリー解析のために回収した。回収した細胞を血球計算板で計数し、10μLの以下の抗体結合体:CD80−FITC、CD−83−APC及びCD−86−PE(BDバイオサイエンシズ)を、表面マーカーを標識するために各試料に順次加えた。その後、表面を標識された細胞はBD FACSキャリバーフローサイトメータを用いたフローサイトメトリーによって解析し、活性化の際産生される同時刺激樹状細胞マーカー分子、CD80、CD83及びCD86をモニターした。図23のA,B及びCに見られるように、種々の用量のカチオン脂質/E7複合体で処理された初代ヒト樹状細胞は、評価された、T細胞への抗原提示の成功に必要とされる樹状細胞活性化の3つの同時刺激マーカーすべてについて、それらの発現を上方制御した。図23D及びEに見られるように、安定剤のような追加の成分も複合体の免疫賦活能に否定的に影響することなく、医薬組成物に含めることができる。
【0171】
2.カチオン脂質/E7複合体はヒト樹状細胞を活性化し、ケモカイン及びサイトカインの産生を誘導する
【0172】
ヒトHLA−A2の樹状細胞(メリーランド州、ウォーカーズビルのロンザ)を上述のように処理し、培養で増殖させた。3日目に、40μMのDOTAP/E7複合体又は50μM濃度の強力な免疫賦活リポ多糖類(LPS)(陽性対照)で細胞を処理した。アッセイウエルの培地を取り出し、微量遠心機にて1300rpmで5分間遠心して、付着していない樹状細胞を沈殿させた。上清を取り出し、mL当たり10μLのプロテアーゼ阻害剤カクテルセットI(カタログ番号539131、カリフォルニア州、ラホヤのカルビオケム)で処理し、解析の前に凍結保存した。ピアースバイオテクノロジー社(マサチューセッツ州、ウォバーン)のサーチライト・プロテイン・アレイMultiplexELISAアッセイを用いて、サイトカインの発現について試料を解析した。
【0173】
TNF−α及びIL−12の産生を評価し、細胞性の免疫応答に必須であることが分かっている選択されたケモカイン、CCL3、CCL4、CCL5及びCCL19の産生もすべて評価した(図24A〜F)。図24は、DOTAP/E7複合体がヒト樹状細胞によるサイトカイン及びケモカインの産生を誘導することを説明している。図24A〜Fはそれぞれ、DOTAP/E7が、TNF−α、IL−12、CCL3、CCL4、CCL5及びCCL19の産生を誘導したことを説明している。
【0174】
マウスの樹状細胞を用いた所見(実施例1)と同様に、LPSとは異なって、DOTAP/E7複合体は炎症誘発性サイトカイン、TNF−αの有意な産生を誘導しなかったということは、ヒトの系でもNF−κBが介在するシグナル伝達はカチオン脂質によって活性化されないことを裏付けている。DOTAP/E7が複数のケモカインの有効な産生を刺激することは、カチオン脂質が強力な免疫賦活剤として作用し、マウスとヒト双方の免疫細胞で効率的な活性化の同様の相関を提供することを実証している。
【0175】
3.ヒト樹状細胞の活性化に対するDOTAP/E7粒径の効果
【0176】
ヒトHLA−A2の樹状細胞(メリーランド州、ウォーカーズビルのロンザ)を上述のように処理し、培養で増殖させた。3日目に、10ng/mLのIL−1β、IL−6及びTNF−α、並びに10μg/mLのPGE2の混合物(活性化の陽性対照)、無処理(活性化の陰性対照)、50μM濃度での強力な免疫賦活リポ多糖類(LPS)(第2の陽性対照)、又は、粒径100nm、200nm及び400nmの10μMのDOTAP/E7複合体、のいずれかで試験細胞を処理した。図25に示した結果は、免疫療法の開発において免疫応答を誘導するために、カチオン脂質/抗原複合体は広いサイズ範囲内で利用できることを明らかにしている。
【0177】
考察
【0178】
実施例1及び2で記載された研究は、カチオン脂質/抗原複合体から成る免疫療法製剤の開発をもたらした。DOTAPやDOEPCのようなカチオン脂質で刺激した際、マウスの骨髄由来の樹状細胞(BMDC)は、同時刺激分子、CD80及びCD86の発現について活性化された[Vangesseri et al, カチオンリポソームによる樹状細胞の免疫刺激。Mol Membr Biol 23:385-395 (2006)]。DOTAPで活性化したBMDCでは、MAPキナーゼシグナル伝達経路の種々の成分及びCCL2のような幾つかのケモカインの活性化も認められた。動物試験は、DOTAPリポソームは特定の用量範囲内で、抗原の担体及び活性化された樹状細胞の流入領域リンパ節への移動を誘導する強力なアジュバントの双方として作用し、それによって、たとえば、腫瘍のような抗原保持細胞に対する抗原特異的なCD8+Tリンパ球の、インビボでの生成をもたらすことを示唆していた。初代ヒト樹状細胞のインビトロでの活性化試験は、カチオン脂質が、T細胞の認識及び抗原提示に必要とされる同時刺激分子の発現に向けた樹状細胞の活性化を促す強力な免疫賦活剤であることを示している。我々はまた、ヒト樹状細胞がDOTAP/E7リポソームによる活性化に際してインビトロでヒトT細胞の有意な増殖を促すことも明らかにした。
【0179】
上記で報告された研究は、カチオンリポソームの特定の独特の組成物及び適用を同定し、それらのカチオンリポソームは、単純で、コスト効果のある、最も必要とされてきた、幾つかの消耗性疾患のための免疫療法を開発するのに利用できる。
【0180】
本発明の範囲から逸脱することなく、上述の態様及び例示となる実施態様において種々の変更を行うことができるので、上記の説明に含有されるすべてのことは、限定的ではなく例示として解釈されるべきであることが意図される。これを受けて、実施例は主としてカチオン脂質DOTAP、DOEPC及びDOTMAを議論しているものの、当業者は、これらのカチオン脂質が単に例示的なものであり、本方法は、そのほかのカチオン脂質に適用可能であることを認識するであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の免疫系の細胞にてMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)のシグナル伝達経路を活性化し、且つ、該対象にて免疫応答を誘導するするのに十分な用量の、少なくとも1種のカチオン脂質を含む、組成物。
【請求項2】
カチオン脂質が、ERK1(extracellular signal-regulated kinase 1)、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼシグナル伝達経路を活性化する、請求項1の組成物。
【請求項3】
カチオン脂質が以下の式
【化1】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択されるスペーサーであり、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項1の組成物。
【請求項4】
カチオン脂質が、DOTAP、DOTMA、DOEPC及びそれらの組み合わせから選択される、請求項3の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの抗原をさらに含んでカチオン脂質/抗原複合体を形成し、該カチオン脂質/抗原複合体が抗原特異的な免疫応答を刺激する、請求項1の組成物。
【請求項6】
カチオン脂質が、ERK1、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する、請求項5の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、微生物抗原及びそれらの組み合わせから選択される、請求項5の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの抗原が、脂質化された抗原又はその疎水性を高めるように修飾された抗原を含み、抗原と連結された疎水性基との間にリンカー配列を含有してもよい、請求項5の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、高い疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質又はペプチド、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項8の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの抗原に結合させたアミノ酸配列をさらに含み、得られた抗原のアミノ酸配列は、該抗原が由来する母体タンパク質に見い出されない、請求項5の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの抗原に結合させたアミノ酸配列をさらに含み、該アミノ酸配列は、セリンに共有結合するセリンに共有結合するリジンである、請求項5の組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの抗原が、該抗原上の負の電荷を高めるように操作された抗原を含む、請求項5の組成物。
【請求項13】
対象に免疫応答を誘導する方法であって、対象の免疫系の細胞にてMAPキナーゼのシグナル伝達経路の活性化を誘導するのに十分な用量の少なくとも1つのカチオン脂質を、対象に投与することを含む、方法。
【請求項14】
カチオン脂質が、ERK1、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する、請求項13の方法。
【請求項15】
カチオン脂質が、式:
【化2】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項13の方法。
【請求項16】
カチオン脂質が、DOTAP、DOTMA、DOEPC及びそれらの組み合わせから選択される、請求項15の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの抗原をカチオン脂質と共に複合体化してカチオン脂質/抗原複合体を形成させることをさらに含み、該カチオン脂質/抗原複合体は、抗原特異的な免疫応答を刺激する、請求項13の方法。
【請求項18】
カチオン脂質が、ERK1、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する、請求項17の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、微生物抗原、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項17の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの抗原が、脂質化された抗原又はその疎水性を高めるように修飾された抗原を含み、該抗原と連結された疎水性基との間にリンカー配列を含有してもよい、請求項17の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、高い疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質又はペプチド、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項20の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの抗原にアミノ酸配列を結合させることをさらに含み、得られた抗原のアミノ酸配列は、該抗原が由来する母体タンパク質に見い出されない、請求項17の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの抗原にアミノ酸配列を結合させることをさらに含み、該アミノ酸配列は、セリンに共有結合するセリンに共有結合するリジンである、請求項17の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの抗原上の負の電荷を高めるように、少なくとも1つの抗原を操作することをさらに含む、請求項17の方法。
【請求項25】
対象の免疫系の細胞にて反応性酸素種(「ROS」)の産生を誘導するのに十分な用量の、少なくとも1つのカチオン脂質を含む組成物であって、誘導されるROSのレベルは、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分である、組成物。
【請求項26】
少なくとも1つのカチオン脂質が、式:
【化3】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項25の組成物。
【請求項27】
免疫応答を刺激するのに十分な反応性酸素種(「ROS」)を対象にて誘導する方法であって、対象の免疫系の細胞にてROSの産生を誘導するのに十分な用量の少なくとも1つのカチオン脂質を、対象に投与することを含み、誘導されるROSのレベルは、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分である、方法。
【請求項28】
少なくとも1つのカチオン脂質が、式:
【化4】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項27の方法。
【請求項1】
対象の免疫系の細胞にてMAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)のシグナル伝達経路を活性化し、且つ、該対象にて免疫応答を誘導するするのに十分な用量の、少なくとも1種のカチオン脂質を含む、組成物。
【請求項2】
カチオン脂質が、ERK1(extracellular signal-regulated kinase 1)、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼシグナル伝達経路を活性化する、請求項1の組成物。
【請求項3】
カチオン脂質が以下の式
【化1】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択されるスペーサーであり、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項1の組成物。
【請求項4】
カチオン脂質が、DOTAP、DOTMA、DOEPC及びそれらの組み合わせから選択される、請求項3の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの抗原をさらに含んでカチオン脂質/抗原複合体を形成し、該カチオン脂質/抗原複合体が抗原特異的な免疫応答を刺激する、請求項1の組成物。
【請求項6】
カチオン脂質が、ERK1、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する、請求項5の組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、微生物抗原及びそれらの組み合わせから選択される、請求項5の組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの抗原が、脂質化された抗原又はその疎水性を高めるように修飾された抗原を含み、抗原と連結された疎水性基との間にリンカー配列を含有してもよい、請求項5の組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、高い疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質又はペプチド、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項8の組成物。
【請求項10】
少なくとも1つの抗原に結合させたアミノ酸配列をさらに含み、得られた抗原のアミノ酸配列は、該抗原が由来する母体タンパク質に見い出されない、請求項5の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つの抗原に結合させたアミノ酸配列をさらに含み、該アミノ酸配列は、セリンに共有結合するセリンに共有結合するリジンである、請求項5の組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの抗原が、該抗原上の負の電荷を高めるように操作された抗原を含む、請求項5の組成物。
【請求項13】
対象に免疫応答を誘導する方法であって、対象の免疫系の細胞にてMAPキナーゼのシグナル伝達経路の活性化を誘導するのに十分な用量の少なくとも1つのカチオン脂質を、対象に投与することを含む、方法。
【請求項14】
カチオン脂質が、ERK1、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する、請求項13の方法。
【請求項15】
カチオン脂質が、式:
【化2】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項13の方法。
【請求項16】
カチオン脂質が、DOTAP、DOTMA、DOEPC及びそれらの組み合わせから選択される、請求項15の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの抗原をカチオン脂質と共に複合体化してカチオン脂質/抗原複合体を形成させることをさらに含み、該カチオン脂質/抗原複合体は、抗原特異的な免疫応答を刺激する、請求項13の方法。
【請求項18】
カチオン脂質が、ERK1、ERK2及びp38の少なくとも1つを刺激することによって、MAPキナーゼのシグナル伝達経路を活性化する、請求項17の方法。
【請求項19】
少なくとも1つの抗原が、腫瘍関連抗原、ウイルス抗原、微生物抗原、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項17の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの抗原が、脂質化された抗原又はその疎水性を高めるように修飾された抗原を含み、該抗原と連結された疎水性基との間にリンカー配列を含有してもよい、請求項17の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの抗原が、リポタンパク質、リポペプチド、高い疎水性を有するアミノ酸配列で修飾されたタンパク質又はペプチド、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項20の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの抗原にアミノ酸配列を結合させることをさらに含み、得られた抗原のアミノ酸配列は、該抗原が由来する母体タンパク質に見い出されない、請求項17の方法。
【請求項23】
少なくとも1つの抗原にアミノ酸配列を結合させることをさらに含み、該アミノ酸配列は、セリンに共有結合するセリンに共有結合するリジンである、請求項17の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの抗原上の負の電荷を高めるように、少なくとも1つの抗原を操作することをさらに含む、請求項17の方法。
【請求項25】
対象の免疫系の細胞にて反応性酸素種(「ROS」)の産生を誘導するのに十分な用量の、少なくとも1つのカチオン脂質を含む組成物であって、誘導されるROSのレベルは、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分である、組成物。
【請求項26】
少なくとも1つのカチオン脂質が、式:
【化3】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項25の組成物。
【請求項27】
免疫応答を刺激するのに十分な反応性酸素種(「ROS」)を対象にて誘導する方法であって、対象の免疫系の細胞にてROSの産生を誘導するのに十分な用量の少なくとも1つのカチオン脂質を、対象に投与することを含み、誘導されるROSのレベルは、少なくとも1つのカチオン脂質の非存在下で存在する免疫応答を上回って免疫応答を高めるのに十分である、方法。
【請求項28】
少なくとも1つのカチオン脂質が、式:
【化4】
(式中、R1は四級アンモニウム基であり、Y1は、炭化水素鎖、エステル、ケトン及びペプチドから選択され、R2及びR3は独立して飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、エステル結合炭化水素、蛍光体−ジエステル、及びそれらの組み合わせから選択される)
によって表される構造を有する非ステロイド性カチオン脂質を含む、請求項27の方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19C】
【図20B】
【図21A】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図23E】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図24E】
【図24F】
【図25A】
【図25B】
【図3】
【図15B】
【図19A】
【図19B】
【図20A】
【図21B】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19C】
【図20B】
【図21A】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図23C】
【図23D】
【図23E】
【図24A】
【図24B】
【図24C】
【図24D】
【図24E】
【図24F】
【図25A】
【図25B】
【図3】
【図15B】
【図19A】
【図19B】
【図20A】
【図21B】
【公表番号】特表2010−522206(P2010−522206A)
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−554742(P2009−554742)
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/057678
【国際公開番号】WO2008/116078
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509263191)ピーディーエス バイオテクノロジー コーポレイション (2)
【氏名又は名称原語表記】PDS BIOTECHNOLOGY CORPORATION
【住所又は居所原語表記】500 Industrial Drive,Suite A Lawrenceburg,IN 47906−47025(US).
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2008/057678
【国際公開番号】WO2008/116078
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(509263191)ピーディーエス バイオテクノロジー コーポレイション (2)
【氏名又は名称原語表記】PDS BIOTECHNOLOGY CORPORATION
【住所又は居所原語表記】500 Industrial Drive,Suite A Lawrenceburg,IN 47906−47025(US).
【Fターム(参考)】
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