説明

カチオン電着塗料組成物、補給用カチオン電着塗料組成物および電着塗料組成物の補給方法

【課題】固体硬化触媒が良好に分散しており、分散安定性に優れた、カチオン電着塗料組成物、および補給用カチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】アミン変性エポキシ樹脂(a);ブロックイソシアネート硬化剤(b);および、固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c);を含む、カチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体硬化触媒が水系溶媒中に分散した水分散型硬化触媒を含有するカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。さらに電着塗装は、被塗物に高い防食性を与えることができ、被塗物の保護効果にも優れている。
【0003】
カチオン電着塗料組成物は、一般に、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネート硬化剤および硬化触媒を含有する塗料組成物である。この硬化触媒として、従来は鉛化合物が用いられていた。鉛化合物を硬化触媒として用いることによって、架橋密度およびTgが高い硬化電着塗膜を得ることができるという利点がある。しかしながら、鉛は環境に対して悪影響を与えることから、近年は使用量の削減が要求されている。そのため鉛を含まない、いわゆる無鉛性カチオン電着塗料が主として利用されつつある。このような無鉛性カチオン電着塗料組成物においては、錫化合物などの硬化触媒が広く用いられている。そしてこのような硬化触媒は一般に、固体状のものおよび液状のものの両方がある。
【0004】
固体状である固体硬化触媒を用いる場合は、一般に、顔料分散樹脂を用いて顔料と共に予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状としておくことが多い。固体状の物質は、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。しかしながら、固体硬化触媒を顔料と共に分散させる場合は、固体硬化触媒および顔料それぞれの分散性が異なることに基づく問題があった。固体硬化触媒は、一般に、顔料よりも分散性が劣るものが多い。そのため、固体硬化触媒を顔料と共に分散させてペーストを調製する場合において、顔料が分散した時点で分散を終了する場合は、固体硬化触媒の分散は十分ではなく、経時により固体硬化触媒が沈降することがあった。一方で、固体硬化触媒が十分に分散した時点で分散を終了する場合は、顔料が過分散の状態となり、得られるペーストが増粘したりする不具合があった。さらにこの場合は、多量のペーストを長時間かけて調製する必要があるため、調製コストなどの点においても不利であった。このため、固体硬化触媒を良好に分散させる方法が求められている。
【0005】
国際公開WO99/31187号(特許文献1)には、ビスマス化合物及び有機酸を水性媒体中で混合分散してなる水性分散液であって、有機酸変性ビスマス化合物が非水溶性の形態で存在する水性分散液を配合してなることを特徴とするカチオン電着塗料組成物が記載されている(請求項1)。この特許文献1のカチオン電着塗料組成物に含まれる水性分散液は、ビスマス化合物とそして有機酸を用いて調製されることを特徴としている。ビスマス化合物は、本明細書に後に詳しく記載するとおり、硬化触媒としても機能する。しかしながら、これらのビスマス化合物および有機酸は、有機酸塩としてカチオン電着塗料組成物中に存在するため、電着塗料組成物の電導度が上昇し、その結果、電着塗装に不具合が生じるおそれがある。
【0006】
特開2002−129100号公報(特許文献2)には、ビスマス/アセチルアセトン錯体を含むカチオン電着塗料組成物が記載されている。しかしながら、このビスマス/アセチルアセトン錯体は電着塗膜の光沢を制御するのに用いられており、本発明とは異なるものである。
【0007】
特開2004−137365号公報(特許文献3)には、サリチル酸ビスマスを含むカチオン電着塗料が記載されている。しかしながらこの電着塗料において、サリチル酸ビスマスもまた電着塗膜の光沢値を低下させるために用いられており、本発明とは異なるものである。
【0008】
特開2004−137367号公報(特許文献4)には、コロイド状のビスマス金属を含むカチオン電着塗料が記載されている。しかしながらこの電着塗料において、コロイド状のビスマス金属もまた電着塗膜の光沢値を低下させるために用いられており、本発明とは異なる。
【0009】
さらに、カチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装は、上記の通り被塗物を陰極として浸漬し、固形分などを被塗物上に析出させることによって行われる。このため、被塗物に塗料組成物を吹き付けるなどにより塗装される他の塗料組成物とは異なり、電着槽中の電着塗料組成物における塗料固形分および顔料濃度などが塗装により変化するという問題がある。このため、電着槽中の電着塗料組成物の塗料固形分および顔料濃度を容易に調整するための補給用カチオン電着塗料組成物、さらには撹拌を行わなくても沈降物を生じないか沈降物の少ない補給用カチオン電着塗料組成物、についての検討も必要とされている。
【0010】
【特許文献1】国際公開WO99/31187号
【特許文献2】特開2002−129100号公報
【特許文献3】特開2004−137365号公報
【特許文献4】特開2004−137367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、固体硬化触媒が良好に分散しておりそして分散安定性に優れた、カチオン電着塗料組成物、および補給用カチオン電着塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
アミン変性エポキシ樹脂(a);ブロックイソシアネート硬化剤(b);および、
固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c);
を含有する、カチオン電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0013】
上記水分散型硬化触媒(c)に含まれる固体硬化触媒が、錫化合物またはビスマス化合物であるのがより好ましい。
【0014】
また、上記前記水分散型硬化触媒(c)がさらに、脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される化合物を含むのがより好ましい。
【0015】
本発明はまた、アミン変性エポキシ樹脂(a);ブロックイソシアネート硬化剤(b);および、固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c);を含み、塗料固形分濃度が30〜50重量%である、1液補給用カチオン電着塗料組成物、も提供する。
【0016】
本発明はまた、2液補給用カチオン電着塗料組成物であって、
この2液補給用カチオン電着塗料組成物の第1液が、固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c)を含有する、バインダー樹脂エマルション液であり、および
この2液補給用カチオン電着塗料組成物の第2液が、顔料分散ペースト液である、
2液補給用カチオン電着塗料組成物、も提供する。
【0017】
本発明はさらに、上記1液補給用カチオン電着塗料組成物または上記2液補給用カチオン電着塗料組成物を電着槽に入れる工程を包含する、電着塗料組成物の補給方法も提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、固体硬化触媒および特定量のノニオン界面活性剤を含む水分散型であって、そして特定の平均粒径を有する水分散型硬化触媒(c)を含有する。この水分散型硬化触媒(c)は、分散安定性が非常に優れているという特徴を有している。固体硬化触媒をカチオン電着塗料組成物中に含める場合は、一般に、固体硬化触媒と顔料とを共に分散させて顔料分散ペーストを調製する方法がとられる。しかしながらこの方法は、固体硬化触媒の沈殿または顔料分散ペーストの増粘といった不具合が生じることが多く、さらにこれらの不具合によって得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が悪化するという不具合もあった。
【0019】
本発明のカチオン電着塗料組成物において、上記水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、顔料および固体硬化触媒それぞれを、それぞれの分散性に応じて最適な条件で分散させることが可能となる。このため、固体硬化触媒の沈殿および顔料ペーストの増粘そしてこれらに由来する塗膜外観の悪化といった問題を伴うことなく、カチオン電着塗料組成物をより容易に調製することが可能となる。本発明によって、分散安定性に優れており、良好な塗膜外観を有する塗膜を得ることができるカチオン電着塗料組成物が提供される。
【0020】
さらに上記水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、電着槽中の電着塗料組成物の塗料固形分および顔料濃度などの調製に良好に用いることができる、分散安定性に優れた補給用カチオン電着塗料組成物を調製することができる。これにより、1液補給用カチオン電着塗料組成物による電着塗料組成物の補給が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(a)とブロックイソシアネート硬化剤(b)とを含むバインダー樹脂、および硬化触媒を含有する。そして本発明のカチオン電着塗料組成物においては、含有される硬化触媒が、固体硬化触媒および特定量のノニオン界面活性剤を含む水分散型であって、そして特定の平均粒径を有する、水分散型硬化触媒(c)であることを特徴とする。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに、必要に応じて顔料および他の成分などを含有してもよい。
【0022】
水分散型硬化触媒(c)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水分散型硬化触媒(c)を含有する。この水分散型硬化触媒(c)は、固体硬化触媒が水系溶媒中に分散した硬化触媒である。この水分散型硬化触媒(c)は、固体硬化触媒、ノニオン界面活性剤そして水系溶媒を含む。水分散型硬化触媒(c)に含まれる固体硬化触媒は、ブロックイソシアネート硬化剤(b)のブロック剤の解離を促進させることができ、さらに得られる硬化電着塗膜の架橋密度およびTgを向上させることができる。
【0023】
固体硬化触媒としては、ブロックイソシアネート硬化剤(b)のブロック剤の解離を促進する目的で通常用いられる固体硬化触媒を用いることができる。代表的な固体硬化触媒としては、錫化合物が挙げられる。固体硬化触媒として用いられる錫化合物としては、ジブチル錫オキシド、ジオクチル錫オキシド、モノブチル錫オキシド、モノオクチル錫オキシド、およびそれらの混合物などが挙げられる。また錫化合物以外の固体硬化触媒として、例えば、水酸化ビスマス、酸化ビスマス、乳酸ビスマス、ケイ酸ビスマスなどのビスマス化合物などが挙げられる。
【0024】
なお本明細書中の固体硬化触媒における「固体」とは、通常用いられる環境下で固体状であれば良いが、例えば50℃においても固体状、つまり形状が保持された状態であること、を意味する。ここでいう「固体」とは、結晶状態および非晶質(いわゆるアモルファス)の両方を含んでいる。
【0025】
本発明においては、固体硬化触媒として、錫化合物またはビスマス化合物が好ましく用いられる。これらの固体硬化触媒は、ブロック剤の解離促進性能に優れている。環境の点から、固体硬化触媒として、水酸化ビスマスを用いるのが特に好ましい。固体硬化触媒として水酸化ビスマスを用いることによって、優れたブロック剤解離促性を付与できると共に、環境安全性が極めて高いカチオン電着塗料組成物を調製することもできる。
【0026】
本願発明において好ましく用いられる水酸化ビスマスは、従来技術とは違って、固体硬化触媒として優れた性質を有する。そして本発明において、固体硬化触媒として水酸化ビスマスを用いることによって、分散安定性に優れ、かつ、優れたブロック剤解離促性を付与できると共に、環境安全性が極めて高いカチオン電着塗料組成物を調製することが可能となる。
【0027】
水分散型硬化触媒(c)に含まれるノニオン界面活性剤として、例えばエーテル型、エステル型、エーテル・エステル型、そしてアルコール型の界面活性剤などが挙げられる。より具体的には、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレン(PO−EO)共重合体付加化合物、各種高級アルコール、芳香族エトキシレート(EO)付加型化合物、脂肪酸エステル型化合物、脂肪酸アマイド、これらのエトキシレート(EO)付加型化合物、ポリグリセリン脂肪酸エステル類などが挙げられる。
【0028】
本発明においては、上記ノニオン界面活性剤の中でも、(PO−EO)共重合体付加化合物などがより好ましく用いられる。これらのノニオン界面活性剤は、固体硬化触媒の分散能力に優れており、分散安定性により優れる水分散型硬化触媒(c)を調製することができるため、より好ましい。
【0029】
水分散型硬化触媒(c)に含まれる水系溶媒としては、イオン交換水などの通常用いられる水が挙げられる。水系溶媒はさらに、必要に応じて、低分子量アルコール、低分子量グリコールなどの水混和性有機溶媒を含んでもよい。但し上記ノニオン界面活性剤は、ここでいう水混和性有機溶媒には含まれない。
【0030】
本発明における水分散型硬化触媒(c)は、例えば、水に固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を加え、SGミル、ボールミルなどの分散混合機を用いて分散させることによって、調製することができる。水分散型硬化触媒(c)中に含まれる固体硬化触媒の量は、水分散型硬化触媒(c)100重量部に対して5〜60重量部であるのが好ましい。固体硬化触媒の量が5重量部未満である場合は、濃度が低いため、必要とされる触媒量を得るための水分散型硬化触媒(c)の配合量が多くなり、非効率的である。一方、固体硬化触媒の量が60重量部を超える場合は、水分散形態とすることが困難となるおそれがある。
【0031】
本発明で用いられる水分散型硬化触媒(c)は、平均粒径50〜200nmであることを特徴とする。この平均粒径は100〜200nmであるのがより好ましい。平均粒径が50nm未満である水分散型硬化触媒(c)を調製することは、生産効率などの面から好ましくない。一方、平均粒径が200nmを超える場合は、分散安定性が悪くなるという不具合がある。なお、水分散型硬化触媒(c)の平均粒径は、レーザー光散乱法により測定した値であり、体積平均粒径として表示する。
【0032】
平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c)は、例えば、平均粒径2〜10μmの固体硬化触媒と、ノニオン界面活性剤とを、分散機、好ましくはサンドグラインドミル(SGミル)、を用いて混合することによって、調製することができる。水分散型硬化触媒(c)の調製において用いられるノニオン界面活性剤の量は、固体硬化触媒100重量部に対して0.5〜100重量部用いるのが好ましく、5〜100重量部用いるのがより好ましい。ノニオン界面活性剤をこのような量で用いることによって、平均粒径50〜200nmと非常に小さな粒径を有する水分散型硬化触媒(c)の調製が可能となる。ノニオン界面活性剤の含有量が0.5重量部より少ない場合は、水分散型硬化触媒(c)中に含まれる固体硬化触媒の分散物の平均粒径がより大きくなり、分散安定性に劣るおそれがある。一方、ノニオン界面活性剤の含有量が100重量部を超える場合は、それ以上の分散向上効果はなく無意味である。
【0033】
また、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c)の調製において、原料として用いられる固体硬化触媒は、平均粒径2〜20μmであるのがより好ましい。水分散型硬化触媒(c)の調製において、原料としてこのような平均粒径を有する固体硬化触媒を用いることによって、より小さな平均粒径を有する水分散型硬化触媒(c)を調製することが可能となるからである。
【0034】
さらに、分散機としてサンドグラインドミルを用いるのが好ましい。そしてこの分散工程において、より硬いビーズ、例えばジルコニウムまたはジルコン(ジルコニウムのケイ酸塩)からなるビーズを用いるのがより好ましい。ビスマス化合物は一般に高い硬度を有する。そのため、ジルコニウムまたはジルコンからなるビーズを用いることによって、より平均粒径の小さな水分散型硬化触媒(c)の調製が可能となる。またこの分散工程で用いられるビーズは、直径2.0mm以下のものを用いるのがより好ましい。
【0035】
このようにして得られる水分散型硬化触媒(c)は、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量が0.1〜10重量部の範囲内となる量でカチオン電着塗料組成物に含有させるのがより好ましい。カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量が0.1重量部未満となる量で用いる場合は、得られる塗膜が十分に硬化しないおそれがある。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量が10重量部を超える量で用いる場合は、量に見合う触媒硬化を得ることができないおそれがある。本明細書における「樹脂固形分」とは、アミン変性エポキシ樹脂(a)、ブロックイソシアネート硬化剤(b)および後述の顔料分散樹脂を含む、塗料組成物中の樹脂固形分を意味する。
【0036】
なお、この水分散型硬化触媒(c)を調製する際に、必要に応じて、消泡剤、反応性架橋剤などの添加剤を併せて分散させることも可能である。これらの添加剤を固体硬化触媒と併せて分散させることによって、これらの添加剤もカチオン電着塗料組成物中に均一に分散させることができ、これにより塗膜外観に優れた硬化電着塗膜を形成することができるという利点がある。
【0037】
脂肪酸類またはアミン化合物
上記水分散型硬化触媒(c)は、必要に応じて、脂肪酸、脂肪酸の誘導体(両方あわせて脂肪酸類と呼ぶ。)、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される化合物(以下、単に「脂肪酸類またはアミン化合物」と記載することもある。)を含んでもよい。脂肪酸類またはアミン化合物が水分散型硬化触媒(c)中に含まれることによって、水分散型硬化触媒(c)中に含まれる固体硬化触媒の分散安定性がさらに向上し、静置しておいても沈降物が少ないまたは沈降物が生じない水分散型硬化触媒を製造することができる。なお、水分散型硬化触媒(c)の調製において、脂肪酸類またはアミン化合物を用いる場合は、ノニオン界面活性剤と同様に加えることによって用いることができる。
【0038】
脂肪酸類とは、上記の通り、脂肪酸またはその誘導体である。脂肪酸として、例えば、直鎖飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が含まれる。また脂肪酸の誘導体として、例えば、上記脂肪酸を、アルコール、多価アルコール(グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等)で変性した脂肪酸エステル、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドで変性した脂肪酸エチレンオキサイド付加物または脂肪酸プロピレンオキサイド付加物、アミン化合物で変性した脂肪酸アミド化合物、および多官能脂肪酸が含まれる。これらの脂肪酸エステルまたは脂肪酸アミド化合物には、エチレンオキサイドが開環付加したもの(エチレンオキサイド開環付加物)も含まれる。これらの脂肪酸類は、分子の骨格中に不飽和結合、エーテル結合、エステル結合等の化学結合、水酸基、アミノ基、カルボニル基等の官能基、酸素、窒素、イオウ、ハロゲンなどのヘテロ原子を含んでいてもよい。また多官能カルボン酸なども、脂肪酸誘導体に含まれる。脂肪酸の誘導体として、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド化合物およびこれらのエチレンオキサイド開環付加物を用いるのがより好ましい。
【0039】
本発明で使用される脂肪酸類において、好ましくは炭素数4〜22の脂肪酸およびその誘導体であり、より好ましくは炭素数7〜20の脂肪酸およびその誘導体である。
【0040】
具体的な脂肪酸類として、例えば以下の化合物が挙げられる:
(1)直鎖飽和脂肪酸
アラキジン酸、トリコサン酸、ベヘニン酸、ヘンエイコサン酸、エイコサン酸、ノナデカン酸、ステアリン酸、ヘプタデカン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、ミリスチン酸、トリデカン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、オクタン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、吉草酸、酪酸等、花王社製精製ステアリン酸(450V、550V、700V)等;
(2)分岐飽和脂肪酸
イソステアリン酸、メチルテトラデカン酸、メチルヘプタデカン酸、メチルオクタデカン酸、イソ吉草酸等;
(3)不飽和脂肪酸
オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、ウンデセン酸、ソルビン酸、クロトン酸等;
(4)多官能カルボン酸
スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、フタル酸、ドデカン二酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸、3−tert−ブチルアジピン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等;
(5)ヘテロ原子含有脂肪酸
ヘキシロキシ酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、サリチル酸、安息香酸、p−ブトキシ安息香酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン、チオクト酸等;
(6)脂肪酸エステル(アルコールエステル系)
ライオン社製カデナックス(GS-90,SO-80C)、花王社製レオドール(SP-L10、SP-P10,SP-S10V,SP-S30V、AS-10、AO-10、AO-15V)、花王社製レオドールスーパーSP-L10、花王社製エマゾール(L-10(F)、P-10(F)、S-10V、O-10V)等;
(7)脂肪酸エステル(エチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル系)
ライオン社製リオノン(DT-600S,DEH-40)、旭電化工業社製アデカエストール(OEG-102,OEG-106)等;
(8)脂肪酸メチルエステル(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加系)
ライオン社製レオファット(LA-110M-95,OC-0503M)、花王社製エマノーン(1112,3199,3299,4110,CH-25, CH-40, CH-60(K), CH-80)等
(9)脂肪酸エチレンオキサイド付加物
ライオン社製エソファット(O/15,O/20,60/15)、旭電化工業社製アデカエストール(TL-144,TL-161,TL-162,S-60,S-80,T-81,T-82)、花王社製レオドール(TW-L120, TW-L106, TW-P120, TW-S120V, TW-S106, TW-S320V, TW-O120V, TW-O106V, TW-O320V, TW-IS399C, 430,440,460)、花王社製レオドールスーパー TW-L120等;
(10)脂肪酸エステル(グリセリンエステル系)
花王社製エキセルT-95,VS-95,O-95R,200,300,122V,P-40S)、花王社製レオドール(MS-50,MS-60,MO-60,MS165V)等
(11)脂肪酸アミド化合物である飽和脂肪酸モノアミド化合物
ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等;
(12)脂肪酸アミド化合物である不飽和脂肪酸モノアミド
オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、パルミチン酸アミド、ベヘン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エシル酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド等、これらの工業製品として、例えば、花王社製カオーワックス(EB-G、EB-P、EB-FF、85-P、220、230-2)、花王社製脂肪酸アマイドS, T, O-N, E)、旭電化工業社製アデカソールYAなどが含まれる;
(13)脂肪酸アミド化合物である飽和脂肪酸ビスアミド類
メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N'−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N'−ジステアリルセバシン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサエチレンビスパルミチン酸アミド等;
(14)脂肪酸アミド化合物である不飽和脂肪酸ビスアミド類
エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジオレイルセバシン酸アミド等;
(15)脂肪酸アミド化合物である置換アミド類
N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等;
(16)脂肪酸アミド化合物である芳香族ビスアミド類
メチロールステアリン酸アミド類;メチロールベヘン酸アミド等のメチロールアミド類、N,N−ジステアリルイソフタール酸アミド、メタキシリレンビスステアリン酸アミド等;
(18)脂肪酸アミド化合物である分岐型アミド類
N.N’−2−ヒドロキシエチルステアリン酸アミド、N.N’−エチレンビスオレイン酸アミド、N.N’−キシレンビスステアリン酸アミド、N.N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N.N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N.N’−ジステアリルイソフタル酸アミド等;
(19)脂肪酸アミド化合物であるアルカノールアミド類
ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノ−ルアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、ポリオキシアルキレンアルカノールアミドなど、工業製品としてライオン社製アーマイド(O,HT)、ライオン社製アーモスリップ(CP,E,E-Y)など;
等が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0041】
アミン化合物とは、窒素原子に炭素数4以上のアルキル鎖が結合したアミン化合物であるのが好ましい。窒素原子に結合するアルキル鎖は1つであってもよく、または2以上のアルキル鎖が結合していてもよい。これらのアミン化合物として、1級、2級および3級アミンの何れを用いてもよい。これらのアミン化合物はその骨格中に複数個のアミノ基を有していてもよく、また、骨格自体がエチレンオキサイド等で変性されていてもよい。本発明で使用されるアミン化合物は、好ましくはアルキル鎖の炭素数4〜22であり、より好ましくはアルキル鎖の炭素数7〜20である。
【0042】
具体的なアミン化合物として、例えば以下のものが挙げられる:
(1)1級アミン化合物
(1−1)脂肪族モノ及びポリアミン化合物
n-ブチルアミン、アミルアミン、n-ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、テトラデシルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、2,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン等の脂肪族1級アミン化合物類、
(1−2)脂環族モノ及びポリアミン化合物
シクロヘキシルアミン、1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3-アミノメチル-3,5,5- トリメチル-1- アミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1-メチル-2,4- ジアミノシクロヘキサン、1-メチル-2,6-ジアミノシクロヘキサン等の脂環族1級アミン化合物類、
(1−3)芳香族モノ及びポリアミン化合物
アニリン、メタ及びパラトルイジン、ナフチルアミン、1,3-及び1,4-フェニレンジアミン、1-メチル-2,4- ジアミノベンゼン、1-メチル-2,6- ジアミノベンゼン、2,4,- 及び 4,4,-ジアミノジフェニルメタン、 4,4,-ジアミノビフェニル、1,5-及び2,6-ナフタレンジアミン等の芳香族1級アミン化合物類、
(1−4)アラルキルモノ及びポリアミン化合物
1,3-及び1,4-ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,5-及び2,6-ビス(アミノメチル)ナフタレン等のアラルキル1級アミン化合物類、
これらの工業製品として、ライオン社製アーミンCD,OD,TD,HT,8D,12D,14D,16D,18D)、花王社製ファーミン(CS,08D,20D,80,86T,O,T)等が挙げられる;
(2)2級アミン化合物
ジ-n-ブチルアミン、ジイソアミルアミン、ジベンジルアミン、メチルジエチルエチレンジアミン、メチルアニリン、ピペリジン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、モルホリン、N-メチル-グルカミン、グルコサミン、t-ブチルアミン等の2級アミン、
これらの工業製品として、花王社製ファーミン(D86)等が挙げられる;
(3)3級アミン化合物
トリ(n-ブチル)アミン、テトラメチルエチレンジアミン、1-メチルピペリジン、1-メチルピロリジン、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチレンジアミン、ビスジメチルアミノエチルエーテル、トリイソプロパノールアミン等の3級アミン、
これらの工業製品として、ライオン社製アーミン(DMMCD,DMTD,DMMHTD,DM12D,DM14D,DM16D,DM18D,DM22D, M2HT, M2O,M210D)、花王社製ファーミン(DM24C,DM0898,DM1098,DM2098,DM2465,DM2463,DM2458,DM4098,DM4662, DM6098, DM6875,DM8680,DM8098,DM2285,M2-2095,T-08)等が挙げられる;
(4)アルカノールアミン
花王社製アミノーン(PK-02S,L-02)等;
(5) 変性アミン
(5−1)アルキルアミンエチレンオキサイド付加物
ライオン社製エソミン(C/12,C/15,C/25,T/12,T/15,T/25,S/15,S/25,O/12,O/17,O/20,HT/12, HT/14, HT/17)、ライオン社製エソマイド(HT/15,HT/60,O/15)、旭電化工業社製アデカソール(CO,COA,CMA,YA-6)、花王社製アミート(105,320);
等が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0043】
これらの脂肪酸類とアミン化合物はいずれか一種または二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0044】
脂肪酸類またはアミン化合物を用いる場合は、水分散型硬化触媒(c)中に含まれる固体硬化触媒100重量部に対して0.1〜10重量部を占める量で含有されるのが好ましく、1〜7重量部であるのがより好ましい。
【0045】
これらの脂肪酸類またはアミン化合物を電着塗料組成物(c)中に加えることによって、固体硬化触媒の分散性が著しく向上するという効果がある。
【0046】
本発明で用いられる水分散型硬化触媒(c)は、分散安定性が非常に優れているという特徴を有している。固体の硬化触媒は一般に分散性が悪く、固体硬化触媒を顔料と共に分散させようとすると、固体硬化触媒および顔料それぞれの分散性が異なることに基づく問題があった。すなわち、固体硬化触媒を顔料と共に分散させてペーストを調製する場合において、顔料が分散した時点で分散を終了する場合は、固体硬化触媒の分散は十分ではなく、経時により固体硬化触媒が沈降することがあった。一方で、固体硬化触媒が十分に分散した時点で分散を終了する場合は、顔料が過分散の状態となり、得られるペーストが増粘したりする不具合、そして多量のペーストを長時間かけて調製することによる調製コストなどの不利があった。
【0047】
これらの問題は、上記水分散型硬化触媒(c)を用いることによって解決できる。この水分散型硬化触媒(c)をカチオン電着塗料組成物の調製に用いることによって、顔料および固体硬化触媒それぞれを、それぞれの分散性に応じて最適な条件で分散させることが可能となる。このため、固体硬化触媒の沈殿および顔料ペーストの増粘そしてこれらに由来する塗膜外観の悪化といった問題を伴うことなく、カチオン電着塗料組成物を調製することが可能となる。また、固体硬化触媒および顔料ペーストそれぞれに応じた最適な条件で分散させることができるため、顔料分散ペーストおよび水分散型硬化触媒(c)の調製時間は結果的に短縮されるという利点もある。さらにこの水分散型硬化触媒(c)は分散安定性に非常に優れており、水分散型硬化触媒(c)自体を撹拌することなくそのまま静置しておくことができる。さらに、顔料と顔料分散樹脂を用いて顔料分散ペーストを調製し、次いで、得られた顔料分散ペーストと水分散型硬化触媒(c)とを混合した場合、あるいは水分散型硬化触媒(c)とバインダー樹脂エマルションとをあらかじめ混合した場合、であっても、分散安定性に優れており、固体硬化触媒が沈殿しないという利点がある。さらには、この水分散型硬化触媒(c)を電着塗料組成物中に加えた状態であっても、固体硬化触媒が沈殿しないという利点もある。このため、カチオン電着塗料組成物の調製がより容易になるという利点がある。
【0048】
また、水分散型硬化触媒(c)を含有するカチオン電着塗料組成物により得られる硬化電着塗膜は、塗膜外観に優れるという利点も有している。上記水分散型硬化触媒(c)は非常に優れた分散安定性を有しているため、水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、カチオン電着塗料組成物中に固体硬化触媒を均一に分散させることができる。そしてこのように固体硬化触媒を均一に分散させることによって、固体硬化触媒が再凝集することなく、塗膜外観に優れた硬化電着塗膜が得られることとなる。
【0049】
アミン変性エポキシ樹脂(a)
アミン変性エポキシ樹脂(a)は、電着塗料組成物において一般に使用されるアミンで変性されたエポキシ樹脂を特に制限なく用いることができる。アミン変性エポキシ樹脂(a)として、当業者に公知のアミン変性エポキシ樹脂(a)および市販のエポキシ樹脂をアミン変性したものなどを使用することができる。
【0050】
好ましいアミン変性エポキシ樹脂(a)は、樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるアミン変性エポキシ樹脂(a)である。一般に、アミン変性エポキシ樹脂(a)は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂などである。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載され公知であるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものである。
【0051】
上記出発原料樹脂は、必要に応じて、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。
【0052】
また、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良等を目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0053】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用することができるアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0054】
上記アミン変性エポキシ樹脂(a)の数平均分子量は1,500〜5,000の範囲であるのが好ましく、1,600〜3,000の範囲であるのがより好ましい。数平均分子量が1,500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および耐食性等の物性が劣ることがある。また5,000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難となるおそれがあり、さらに得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱、硬化時のフロー性が悪く、塗膜外観を損ねる場合がある。
【0055】
上記アミン変性エポキシ樹脂(a)は、ヒドロキシル価が50〜200mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50mmol/100g未満では塗腹の硬化不良を招くことがある。またヒドロキシル価が250mmol/100gを超える場合は、硬化後に塗膜中に過剰の水酸基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0056】
また、上記アミン変性エポキシ樹脂(a)は、アミン価が40〜150mmol/100gの範囲となるように分子設計することが好ましい。アミン価が40mmol/100g未満では下記で詳説する酸処理による水媒体中での乳化分散不良を招き、反対に150mmol/100gを超えると硬化後に塗膜中に過剰のアミノ基が残存し、その結果、耐水性が低下することがある。
【0057】
ブロックイソシアネート硬化剤(b)
カチオン電着塗料組成物には、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られるブロックイソシアネート硬化剤(b)が含まれる。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0058】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で用いてもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0059】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤(b)として使用してよい。
【0060】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0061】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0062】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0063】
顔料
本発明のカチオン電着塗料組成物は、通常用いられる顔料を含んでもよい。使用し得る顔料の例としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄及びベンガラのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー及びシリカのような体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等が挙げられる。
【0064】
顔料は、一般に、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して下限1重量%、上限60重量%を占める量でカチオン電着塗料組成物に含有されるのが好ましい。上記上限は30重量%であるのがより好ましい。
【0065】
顔料分散ペースト
上記顔料を電着塗料の成分として用いる場合は、顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状にするのが好ましい。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。このようなペーストを顔料分散ペーストという。顔料分散ペーストには、一般に、顔料および顔料分散樹脂が含まれる。
【0066】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100重量部に対して固形分比20〜100重量部の量で用いる。顔料分散樹脂と顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0067】
他の成分
本発明のカチオン電着塗料は、必要に応じて、消泡剤、水混和性有機溶剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0068】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明のカチオン電着塗料組成物は、アミン変性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を水性溶媒中に分散させたもの(バインダー樹脂エマルション)、脱イオン水、水分散型硬化触媒(c)、そして必要に応じた顔料分散ペーストを、所定の割合で混合することによって調製することができる。
【0069】
従来は、固体硬化触媒を含む電着塗料組成物を調製する場合は、一般に、顔料分散ペーストの調製時に顔料と共に固体硬化触媒を分散させていた。この場合に生じうる不具合は上述の通りである。これに対して本発明の水分散型硬化触媒(c)は、分散安定性に非常に優れるため、カチオン電着塗料組成物の調製において種々の方法で添加し混合することができる。例えば、バインダー樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストを混合する際に、水分散型硬化触媒(c)も併せて添加して混合してもよい。または、バインダー樹脂エマルションに水分散型硬化触媒(c)をあらかじめ加えてもよく、さらに顔料分散ペーストに水分散型硬化触媒(c)をあらかじめ加えてもよい。
【0070】
また本発明の水分散型硬化触媒(c)の調製において好ましく用いられる、脂肪酸類またはアミン化合物を、電着塗料組成物に加えてもよい。この場合、脂肪酸類またはアミン化合物は、何れの分散・混合段階においても加えることができる。脂肪酸類またはアミン化合物は、好ましくは、上記のカチオン性顔料分散ペーストに加えられ、その後、カチオン性メインエマルション等の他の成分と混合される。この場合は、顔料の沈降を防止する性能により優れるからである。電着塗料組成物に、脂肪酸類またはアミン化合物を加えることによって、電着塗料組成物を撹拌せずに長時間静置させた場合であっても沈殿物が少なく、塗装時に必要とされる撹拌に費やされるエネルギーおよび撹拌設備費用などのコストがかからないというメリットを得ることができる。脂肪酸類またはアミン化合物を電着塗料組成物中に加えることによって顔料の分散性が向上する作用機構は明確ではないが、例えば、脂肪酸が顔料に対して単分子膜のような構造または2分子膜のような構造の配置をとり、これによって顔料の水に対する抵抗等が大きくなり、顔料の沈降が防止されると考えられる。本発明において使用される脂肪酸類またはアミン化合物は、分子膜のような構造に配置する能力が高く、顔料の沈降を防止する性能に優れる。
【0071】
カチオン電着塗料組成物に用いられる水性溶媒としては、イオン交換水、純水などを用いることができる。水性溶媒は、必要に応じて少量のアルコール類などを含んでいてもよい。そして水性溶媒にはアミン変性エポキシ樹脂(a)の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0072】
ブロックイソシアネート硬化剤(b)の量は、硬化時にアミン変性エポキシ樹脂(a)中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にアミン変性エポキシ樹脂(a)のブロックイソシアネート硬化剤(b)に対する重量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。アミン変性エポキシ樹脂(a)とブロックイソシアネート硬化剤(b)とを含むバインダー樹脂は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の25〜85重量%、好ましくは40〜70重量%を占める量で電着塗料組成物に含有される。
【0073】
本発明のカチオン電着塗料組成物が、低固形分型カチオン電着塗料組成物である場合は、その塗料組成物の固形分濃度は、従来の20重量%と比較してより少なく、例えば固形分濃度が0.5〜9重量%であるのが好ましく、さらには3〜9重量%であるのがより好ましい。このような低固形分型カチオン電着塗料組成物は、静置した場合における沈降物が少なく、そのため撹拌や循環にかかるエネルギーコストも少ないという利点がある。このような低固形分型カチオン電着塗料組成物において水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、分散性が悪い固体硬化触媒を良好に分散させることができ、そしてこれにより低固形分型カチオン電着塗料組成物の沈降安定性をより向上させることができるという利点がある。さらに低固形分型カチオン電着塗料組成物において水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、顔料濃度の設計がより容易になるという利点もある。なお低固形分型カチオン電着塗料組成物において、固形分濃度が0.5重量%未満である場合は、電着塗料組成物の電導度が低くなり、電着塗膜の析出性が低下するおそれがある。一方、固形分濃度は9重量%を超えても構わないが、この場合は低固形分型カチオン電着塗料組成物とは分類されず、また電着槽の撹拌や循環にかかるエネルギーコストを減らすことは困難である。
【0074】
電着塗装
本発明の電着塗料組成物は当業者に周知の方法で被塗物に電着塗装することができ、これにより硬化電着塗膜を得ることができる。本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合の被塗物は、予め、化成処理等の表面処理が施されているのが好ましい。被塗物としては、例えば冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛−鉄合金系めっき鋼板、亜鉛−マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板、鉛−錫合金系めっき鋼板、クロム系めっき鋼板などの鋼材、さらにこれらの鋼板に化成処理を施した鋼材、などが挙げられる。
【0075】
電着塗装においては、カチオン電着塗料組成物に被塗物を陰極として浸漬し、次いで陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させることによって、未硬化の電着塗膜が形成される。電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。
【0076】
電着塗膜の膜厚は、乾燥膜厚として5〜25μmであるのが好ましく、20μm程であるのがさらに好ましい。膜厚が5μm未満である場合は防錆性が不充分となるおそれがあり、また25μmを超えると塗料の浪費につながるおそれがある。
【0077】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼付けることによって硬化電着塗膜が形成される。
【0078】
補給用カチオン電着塗料組成物
本発明はさらに、補給用カチオン電着塗料組成物も提供する。カチオン電着塗料組成物を用いる電着塗装は、カチオン電着塗料組成物を含む電着槽中に、被塗物を陰極として浸漬し、そして電圧を印加して、被塗物上に電着塗膜を析出させることによって行われる。このように電着塗装はカチオン電着塗料組成物から固形分を析出させることによる塗装方法であるため、電着塗装を行うことによって、電着槽中の電着塗料組成物の塗料固形分および顔料濃度などが減少していく。この場合、電着塗装に用いられるカチオン電着塗料組成物よりも高固形分でありおよび高顔料濃度である補給用カチオン電着塗料組成物を、電着槽に補給することによって、電着槽中の電着塗料組成物の減少した塗料固形分および顔料濃度を適切な範囲に調節することができる。
【0079】
電着塗装により減少した塗料固形分および顔料濃度を適切な範囲に調節する方法として、アミン変性エポキシ樹脂(a)およびブロックイソシアネート硬化剤(b)を水性溶媒中に分散させた、バインダー樹脂エマルションと、顔料を水性溶媒中に分散させた顔料分散ペーストとの、2種類の溶液を用いて補給を行うことが一般的であった。これは、バインダー樹脂エマルションと顔料分散ペーストとをあらかじめ混合しておくと、分散性の悪い固体触媒および顔料などの沈殿が生じてしまうためである。
【0080】
このように電着槽に電着塗料組成物を補給するために用いられる、補給用カチオン電着塗料組成物の調製に、上記水分散型硬化触媒(c)を用いることができる。このような補給用カチオン電着塗料組成物として、例えば、上記水分散型硬化触媒(c)を含有するバインダー樹脂エマルション液(第1液)、および顔料分散ペースト液(第2液)からなる、2液補給用カチオン電着塗料組成物が挙げられる。本発明で用いられる水分散型硬化触媒(c)は分散安定性に非常に優れており、そしてこのような2液補給用カチオン電着塗料組成物においても、固体触媒が沈殿することなく分散安定性に優れた2液補給用カチオン電着塗料組成物を調製することが可能となる。
【0081】
このような2液補給用カチオン電着塗料組成物は、上記水分散型硬化触媒(c)、そして上記カチオン電着塗料組成物の調製に用いられるバインダー樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストを用いて調製することができる。バインダー樹脂エマルション液(第1液)は、水分散型硬化触媒(c)およびバインダー樹脂エマルションを混合することによって調製することができ、そして顔料分散ペースト液(第2液)は上記顔料分散ペーストをそのまままたは必要に応じて希釈して用いることができる。2液補給用カチオン電着塗料組成物において、水分散型硬化触媒(c)を含有するバインダー樹脂エマルション液(第1液)の塗料固形分濃度は20〜60重量%であるのが好ましく、30〜50重量%であるのがより好ましい。また2液補給用カチオン電着塗料組成物の顔料分散ペースト液(第2液)の顔料濃度は、全固形分に対して20〜60重量%であるのが好ましい。
【0082】
なお、2液補給用カチオン電着塗料組成物として、上記以外にも、顔料分散ペーストと水分散型硬化触媒(c)とをあらかじめ混合した溶液、およびバインダー樹脂エマルション、からなる2液補給用カチオン電着塗料組成物、を用いることができる。さらには、バインダー樹脂エマルション、水分散型硬化触媒(c)および顔料分散ペーストがそれぞれ別々の溶液中に分散する、3液補給用カチオン電着塗料組成物も用いることができる。本発明における水分散型硬化触媒(c)は分散安定性が非常に優れるため、このように種々の形態で用いることができる。このような2液型または3液型の補給用カチオン電着塗料組成物を用いることによって、各種被塗物および塗装目的に応じた電着塗料組成物を調製することができるという利点がある。
【0083】
ところで、このような2種類の溶液を用いる塗料補給方法は、例えば特開2005−126789号公報に開示されている。そしてこの塗料補給方法においては、特開2005−126789号公報に記載されるとおり、それぞれ石油缶またはドラム缶中に保存されたバインダー樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストを、缶数比で調整して補給する場合がある。この場合、電着槽中の塗料固形分および顔料濃度を細かく制御すること(例えば0.1重量%単位で制御することなど)は、従来の補給方法では困難であった。また補給の度にこれらのバインダー樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストを混合して補給するのは手間がかかり煩雑であった。さらには、これらの補給用塗料を貯蔵するスペースなどの確保も必要であり、バインダー樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストが別々の石油缶またはドラム缶中に含まれることによって、より大きな貯蔵スペースが必要とされるという問題もあった。
【0084】
このような問題もまた、上記水分散型硬化触媒(c)を用いて1液補給用カチオン電着塗料組成物を調製することによって、解決することが可能である。上記水分散型硬化触媒(c)は、分散安定性に非常に優れるという特徴がある。そしてこの水分散型硬化触媒(c)を用いて調製した1液補給用カチオン電着塗料組成物は、分散安定性に優れるため、バインダー樹脂エマルション、顔料分散ペーストおよび水分散型硬化触媒(c)をあらかじめ混合しておいても、固体触媒が沈殿することはない。本発明における水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、いわゆる1液型であり、分散安定性に優れた、補給用カチオン電着塗料組成物を調製することができる。そしてこの1液補給用カチオン電着塗料組成物は、1液型であっても分散安定性に優れるため、長期保存が可能である。本発明の1液補給用カチオン電着塗料組成物は、さらに、2液型の補給用塗料の問題点である、補給時の煩雑さ、そして補給用塗料の貯蔵スペースなどの問題の解決も図ることができる。
【0085】
上記補給用カチオン電着塗料組成物は、上記水分散型硬化触媒(c)、そして上記カチオン電着塗料組成物の調製に用いられるバインダー樹脂エマルションおよび顔料分散ペーストを用いて、調製することができる。この補給用カチオン電着塗料組成物は、塗料固形分濃度は20〜60重量%であるのが好ましく、30〜50重量%であるのがより好ましい。また補給用カチオン電着塗料組成物の顔料濃度は、塗料組成物の全固形分に対して下限0.5重量%、上限60重量%を占める量でカチオン電着塗料組成物に含有されるのが好ましく、この上限は30重量%であるのがより好ましい。
【実施例】
【0086】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0087】
製造例1 アミン変性エポキシ樹脂(a)の調製
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計および滴下漏斗を装備したフラスコに、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(重量比=8/2)92部、メチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略す)95部およびジブチル錫ジラウレート0.5部を仕込んだ。反応混合物を攪拌下、メタノール21部を滴下した。反応は、室温から始め、発熱により60℃まで昇温した。その後、30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル50部を滴下漏斗より滴下した。更に、反応混合物に、ビスフェノールA−プロピレンオキシド5モル付加体53部を添加した。反応は主に、60〜65℃の範囲で行い、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失するまで継続した。
【0088】
次に、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンから既知の方法で合成したエポキシ当量188のエポキシ樹脂365部を反応混合物に加えて、125℃まで昇温した。その後、ベンジルジメチルアミン1.0部を添加し、エポキシ当量410になるまで130℃で反応させた。
【0089】
続いて、ビスフェノールA61部およびオクチル酸33部を加えて120℃で反応させたところ、エポキシ当量は1190となった。その後、反応混合物を冷却し、ジエタノールアミン11部、N−エチルエタノールアミン24部およびアミノエチルエタノールアミンのケチミン化物の79重量%MIBK溶液25部を加え、110℃で2時間反応させた。その後、MIBKで不揮発分80%となるまで希釈し、アミン変性エポキシ樹脂(a)(樹脂固形分80%)を得た。
【0090】
製造例2 ブロックイソシアネート硬化剤(b)の調製
ジフェニルメタンジイソシアナート1250部およびMIBK266.4部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ジブチル錫ジラウレート2.5部を加えた。ここに、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK336.1部を加えて、ブロックイソシアネート硬化剤(b)を得た。
【0091】
製造例3 顔料分散樹脂の調製
まず、攪拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここヘジブチル錫ジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を攪拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(樹脂固形分90.0%)が得られた。
【0092】
次いで、適当な反応容器に、ジメチルエタノールアミン87.2部、75%乳酸水溶液117.6部およびエチレングリコールモノブチルエーテル39.2部を順に加え、65℃で約半時間攪拌して、4級化剤を調製した。
【0093】
次に、エポン(EPON)829(シェル・ケミカル・カンパニー社製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量193〜203)710.0部とビスフェノールA289.6部とを適当な反応容器に仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱したところ、初期発熱反応が生じた。反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで、120℃に冷却した後、先に調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)498.8部を加えた。
【0094】
反応混合物を110〜120℃に約1時間保ち、次いで、エチレングリコールモノブチルエーテル463.4部を加え、混合物を85〜95℃に冷却し、均一化した後、先に調製した4級化剤196.7部を添加した。酸価が1となるまで反応混合物を85〜95℃に保持した後、脱イオン水964部を加えて、エポキシ−ビスフェノールA樹脂において4級化を終了させ、4級アンモニウム塩部分を有する顔料分散用樹脂を得た(樹脂固形分50%)。
【0095】
製造例4 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散用樹脂を100部、二酸化チタン59.2部、カーボンブラック1.9部、カオリン38.9部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分50%)。分散に要した時間は1時間であった。
【0096】
製造例5 バインダー樹脂エマルションの調製
製造例1で得られたアミン変性エポキシ樹脂(a)と製造例2で得られたブロックイソシアネート硬化剤(b)とを固形分比で80/20で均一になるよう混合した。これに樹脂固形分100g当たり酸のミリグラム当量(MEQ(A))が30になるよう氷酢酸を添加し、さらにイオン交換水をゆっくりと加えて希釈した。減圧下でMIBKを除去することにより、固形分が36%のエマルションを得た。
【0097】
製造例6 水分散型硬化触媒(c−1)の調製
固体硬化触媒として、水酸化ビスマス(平均粒度15μmである微粒子品)を用いた。水酸化ビスマス25重量部、ノニオン界面活性剤(TG−740W、共栄社化学株式会社製)25重量部、脂肪酸類としてのヘプタン酸 1重量部、およびイオン交換水49重量部を、グラインドミルに入れた。このグラインドミルに、直径0.8mmのジルコンビーズを入れ、1時間分散させた。得られた水分散型硬化触媒(c−1)の、固体硬化触媒100重量部に対するノニオン界面活性剤の量は100重量部であり、平均粒径は160nmであった。なお本明細書において、得られた水分散型硬化触媒(c)の平均粒径は、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製)を用いて、レーザー光散乱法により測定した値(体積平均粒径)である。また水分散型硬化触媒(c−1)の粘度は45KU以下であった。本明細書において、粘度測定は、ストーマー粘度計を用いて測定した。
【0098】
製造例7 水分散型硬化触媒(c−2)の調製
固体硬化触媒として、ジブチル錫オキシド(平均粒度5μmである微粒子品)を用いた。ジブチル錫オキシド25重量部、ノニオン界面活性剤(TG−740W、共栄社化学株式会社製)2.5重量部、脂肪酸類としてのヘプタン酸 1重量部、およびイオン交換水26.5重量部を、グラインドミルに入れた。このグラインドミルに、直径0.8mmのジルコンビーズを入れ、1時間分散させた。得られた水分散型硬化触媒(c−2)の、固体硬化触媒100重量部に対するノニオン界面活性剤の量は10重量部であり、平均粒径は150nmであった。また水分散型硬化触媒(c−2)の粘度は45KU以下であった。
【0099】
製造例8 水分散型硬化触媒(c−3)の調製
固体硬化触媒として、モノブチル錫オキシド(平均粒度15μmである微粒子品)を用いた。モノブチル錫オキシド25重量部、ノニオン界面活性剤(TG−740W、共栄社化学株式会社製)25重量部、脂肪酸類としてのヘプタン酸 1重量部、およびイオン交換水49重量部を、グラインドミルに入れた。このグラインドミルに、直径0.8mmのジルコンビーズを入れ、1時間分散させた。得られた水分散型硬化触媒(c−3)の、固体硬化触媒100重量部に対するノニオン界面活性剤の量は100重量部であり、平均粒径は160nmであった。また水分散型硬化触媒(c−3)の粘度は45KU以下であった。
【0100】
製造例9 水分散型硬化触媒(c−4)の調製
固体硬化触媒として、水酸化ビスマス(平均粒度15μmである微粒子品)を用いた。水酸化ビスマス25重量部、ノニオン界面活性剤(TG−740W、共栄社化学株式会社製)25重量部、およびイオン交換水50重量部を、グラインドミルに入れた。このグラインドミルに、直径0.8mmのジルコンビーズを入れ、1時間分散させた。得られた水分散型硬化触媒(c−4)の、固体硬化触媒100重量部に対するノニオン界面活性剤の量は100重量部であり、平均粒径は190nmであった。また水分散型硬化触媒(c−4)の粘度は47KUであった。
【0101】
比較製造例1 水分散型硬化触媒(c−5)(液体硬化触媒分散)の調製
液体硬化触媒として、ジブチル錫ラウレートを用いた。ジブチル錫ラウレート25重量部、ノニオン界面活性剤(TG−740W、共栄社化学株式会社製)25重量部、および脂肪酸類としてのヘプタン酸 1重量部を、均一になるまで混合した。これに、イオン交換水49重量部をゆっくり加えた。得られた水分散型硬化触媒(c−5)の、液体硬化触媒100重量部に対するノニオン界面活性剤の量は100重量部であり、平均粒径は120nmであった。また水分散型硬化触媒(c−5)の粘度は45KU以下であった。
【0102】
比較製造例2 水分散型硬化触媒(c−6)の調製
固体硬化触媒として、ジブチル錫オキシド(平均粒度5μmである微粒子品)を用いた。ジブチル錫オキシド25重量部、製造例3より得られた顔料分散樹脂25重量部、およびイオン交換水50重量部を、グラインドミルに入れた。このグラインドミルに、直径0.8mmのジルコンビーズを入れ、1時間分散させた。得られた水分散型硬化触媒(c−6)の平均粒径は250nmであった。また水分散型硬化触媒(c−6)の粘度は49KUであった。
【0103】
実施例1
カチオン電着塗料組成物の調製
上記製造例5で得られたバインダー樹脂エマルション158部および製造例4で得られた顔料分散ペースト8部と、イオン交換水144部および製造例6の水分散型硬化触媒(c−1) 3.5部とを混合して、塗料固形分20重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。カチオン電着塗料組成物の顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。なお塗料固形分は、180℃で30分間加熱した後の残渣の重量の、元の重量に対する百分率として求めることができる(JIS K5601に準拠)。
【0104】
実施例2
製造例6の水分散型硬化触媒(c−1) 3.5部の代わりに、製造例7の水分散型硬化触媒(c−2) 1.9部を用いること以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。カチオン電着塗料組成物の塗料固形分20重量%であり、顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。
【0105】
実施例3
上記製造例5で得られたバインダー樹脂エマルション158部および製造例4で得られた顔料分散ペースト8部と、イオン交換水831部および製造例8の水分散型硬化触媒(c−1) 3.5部とを混合して、塗料固形分6重量%のカチオン電着塗料組成物を得た。カチオン電着塗料組成物の顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。
【0106】
実施例4
製造例6の水分散型硬化触媒(c−1) 3.5部の代わりに、製造例9の水分散型硬化触媒(c−4) 3.5部を用いること以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。カチオン電着塗料組成物の塗料固形分20重量%であり、顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。
【0107】
比較例1
製造例6の水分散型硬化触媒(c−1) 3.5部の代わりに、比較製造例1の水分散型硬化触媒(c−5) 3.5部を用いること以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。カチオン電着塗料組成物の塗料固形分20重量%であり、顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。
【0108】
比較例2
製造例6の水分散型硬化触媒(c−1) 3.5部の代わりに、比較製造例2の水分散型硬化触媒(c−6) 3.5部を用いること以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。カチオン電着塗料組成物の塗料固形分20重量%であり、顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。
【0109】
比較例3
固体硬化触媒を含む顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに、製造例3で得た顔料分散用樹脂を100部、二酸化チタン41.2部、カーボンブラック1.32部、カオリン27.1部、ジブチル錫オキシド30.4部およびイオン交換水100.0部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分50%)。分散に要した時間は3時間であった。
【0110】
製造例4の顔料分散ペースト8部の代わりに、得られた顔料分散ペースト11.5部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。カチオン電着塗料組成物の塗料固形分20重量%であり、顔料濃度は3重量%であった。また、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100重量部に対する固体硬化触媒の含有量は1.5重量部であった。
【0111】
上記実施例および比較例により得られたカチオン電着塗料組成物およびカチオン電着塗料組成物の調製に用いた水分散型硬化触媒(c)について、以下の評価試験を行った。
【0112】
分散安定性
各実施例および比較例で用いた水分散型硬化触媒(c)について、40℃で一定期間静置しておくことによって、分散安定性を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:4週間以上静置しても、沈殿しない。
○:3週間ほどの静置で、沈殿が発生する。
△:2週間ほどの静置で、沈殿が発生する。
×:1週間ほどの静置で、沈殿が発生する。
【0113】
硬化電着塗膜の外観評価
リン酸亜鉛処理した溶融亜鉛めっき鋼板(JIS G3302規格品、150×70×0.8mm)に、実施例および比較例のカチオン電着塗料組成物を、液温30℃で、乾燥塗膜が15μmとなるように電着塗装した。水洗した後、160℃で30分間焼き付け、硬化電着塗膜を得た。
【0114】
得られた硬化電着塗膜の外観を、以下の基準に基づいて目視で評価した。評価結果を表 に示す。
○:表面が滑らかであり、ハジキの発生は確認されない。
△:ハジキが1〜10個確認される。
×:ハジキが11個以上確認される。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

*1:液体硬化触媒である
*2:顔料分散ペーストにおける平均粒径および分散安定性を示す。
【0117】
表1および2に示されるとおり、実施例のカチオン電着塗料組成物から得られた硬化電着塗膜は、塗膜外観に優れていた。一方、比較例1の、液体硬化触媒を含むカチオン電着塗料組成物から得られた硬化電着塗膜は、塗膜外観が劣っていた。これは電着塗膜の焼き付け硬化時に液体硬化触媒が凝集し、これによりハジキが発生したと考えられる。また比較例2の、顔料分散樹脂を用いて固体硬化触媒を分散させた例においては、固体硬化触媒の分散安定性が劣ることが確認された。また比較例3の、固体硬化触媒と顔料とを共に分散させることにより調製した例においては、分散時間として他の実験例の3倍以上要した。そしてこの場合もまた、分散安定性が劣ることが確認された。さらに、得られた顔料および固体硬化触媒の分散物の粘度が高いという不具合もあった。
【0118】
実施例5 補給用カチオン電着塗料組成物の調製
製造例5で得られたバインダー樹脂エマルション93.2部および製造例4で得られた顔料分散ペースト4.7部と、製造例6の水分散型硬化触媒(c−1)2.1部を混合して、塗料固形分濃度37重量%である1液補給用カチオン電着塗料組成物を得た。
【0119】
比較例4 補給用カチオン電着塗料組成物の調製
製造例5で得られたバインダー樹脂エマルション93.2部および比較例3で得られた顔料分散ペースト6.8部を混合して、塗料固形分濃度37重量%である1液補給用カチオン電着塗料組成物を得た。
【0120】
こうして得られた補給用カチオン電着塗料組成物について、分散安定性試験を上記と同様に行った。結果を表3に示す。
【0121】
【表3】

【0122】
表3に示されるように、本発明における水分散型硬化触媒を用いた、樹脂成分、顔料成分および触媒成分を混合した1液補給用カチオン電着塗料組成物は、1液型であっても沈降が生じることがなく、分散安定性に非常に優れていることが確認できた。一方、比較例の1液補給用カチオン電着塗料組成物においては早い段階において沈殿の発生が確認された。現在行われている電着塗料組成物の補給は、主として、樹脂成分と顔料触媒成分とをそれぞれ別々に補給する方法である。これに対して、本発明における水分散型硬化触媒を用いることによって、1液による電着塗料組成物の補給が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、分散安定性が非常に優れている。本発明のカチオン電着塗料組成物において、上記水分散型硬化触媒(c)を用いることによって、顔料および固体硬化触媒それぞれを、それぞれの分散性に応じて最適な条件で分散させることが可能となる。このため、固体硬化触媒の沈殿および顔料ペーストの増粘といった不具合を解消できる。さらに、固体硬化触媒および顔料ペーストそれぞれに応じた最適な条件で分散させることができるため、顔料分散ペーストおよび水分散型硬化触媒(c)の調製時間は結果的に短縮されるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性エポキシ樹脂(a);ブロックイソシアネート硬化剤(b);および、
固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c);
を含有する、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
水分散型硬化触媒(c)に含まれる固体硬化触媒が、錫化合物またはビスマス化合物である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記水分散型硬化触媒(c)がさらに、脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される化合物を含む、請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
アミン変性エポキシ樹脂(a);ブロックイソシアネート硬化剤(b);および、
固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c);
を含み、塗料固形分濃度が30〜50重量%である、1液補給用カチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
2液補給用カチオン電着塗料組成物であって、
該2液補給用カチオン電着塗料組成物の第1液が、固体硬化触媒およびノニオン界面活性剤を含む、平均粒径50〜200nmの水分散型硬化触媒(c)を含有する、バインダー樹脂エマルション液であり、および
該2液補給用カチオン電着塗料組成物の第2液が、顔料分散ペースト液である、
2液補給用カチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
請求項4記載の1液補給用カチオン電着塗料組成物または請求項5記載の2液補給用カチオン電着塗料組成物を電着槽に入れる工程を包含する、電着塗料組成物の補給方法。

【公開番号】特開2008−231142(P2008−231142A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68348(P2007−68348)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】