説明

カップ形砥石を用いた研削盤における給液構造

【課題】カップ形砥石の砥粒面と被加工物の摺接部である加工点へ研削液を効率よく供給し、加工点に給液された研削液を周辺に飛散させずに回収することができる給液構造を提供する。
【解決手段】カップ形砥石20の全周を覆うように筒状のカバー30が設けられ、カップ形砥石20の台金21には、中央壁部22のスピンドル10側の面に設けた受液部25から中央壁部22を貫通し、周壁23の内側に開口した複数の給液穴26が形成され、カバー30は、台金21の周壁23及び砥粒層24の外周を小間隙Sを介して取り囲む円筒状周壁31を有し、カップ形砥石20の回転により研削液を小間隙S内を通してカバーの内側方向に移動させるポンプ手段27,32が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイト等の研削に使用されるカップ形砥石を用いた研削盤に関し、特にカップ形砥石を用いた研削盤において研削液を供給し、回収する給液構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カップ形砥石を用いた研削盤でバイト等の被加工物を研削する場合、カップ形砥石と被加工物の摺接部である加工点へ油や水などの研削液を供給して研削を行う場合がある。このような研削液の供給方法の一例を図4に示す。この例においては、カップ形砥石20の砥粒面24aに対向してフェルトなどの繊維状部材50をボルト51で接触圧を調節できるようにカバー30に設け、カバー30に取着した給液管40の滴下用パイプ41から繊維状部材50に研削液である油を滴下し、砥粒面24aに供給している。しかしながら、このような繊維状部材50を用いたカップ形砥石20の表側からの給油では、カップ形砥石20の回転による遠心力のため、カップ形砥石20の砥粒面24aと被加工物の加工点への研削液の給液が効率よくできず、また、ワイピング効果が低いという問題がある。また、カップ形砥石20のカバー30は、カップ形砥石20の外周の半分程度を覆ういわゆるハーフカバーであるのが一般的であり、そのため供給された油などの研削液は回収されることなく周辺へ飛散し、研削液が油である場合には床に飛散すると床が滑りやすくなり危険である。さらに、砥石の砥粒面への給油やワイピングのためにフェルトのような繊維状部材を必要とした。
【0003】
一方、特許文献1(特開平6−23673号公報)や特許文献2(特開平11−188644号公報)には、カップ形砥石を用いた研削盤において、カップ形台金の上面に環状溝を形成し、この環状溝の内底面から台金の周壁部の内側に開口する研削液導入穴を形成し、研削中に砥石の外側から環状溝に研削液を流し込むことにより、重力及び遠心力で研削液を導入穴を通して台金の内側に均等に放出するようにし、効率よくしかも均等に加工点へ研削液を供給する給液構造が提案されている。しかしながら特許文献1及び2に開示されたカップ形砥石を用いた研削盤は、縦軸形の研削盤であり、バイト研削には使用できるものではなく、また、加工点に供給した研削液の回収については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−23673号公報
【特許文献2】特開平11−188644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、カップ形砥石を用いた研削盤において、カップ形砥石の砥粒面と被加工物の摺接部である加工点へ研削液を効率よく供給し、加工点に給液された研削液を周辺に飛散させずに回収することができる給液構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造は、前記カップ形砥石の全周を覆うように筒状のカバーが設けられ、前記カップ形砥石は、スピンドルへ取り付けるための中央壁部と、該中央壁部の外周に連設された環状の周壁とを有する台金を備え、該台金の周壁の端部には砥粒面を有する砥粒層が形成されており、前記台金には、前記中央壁部のスピンドル側の面に設けた受液部から該中央壁部を貫通し、前記周壁の内側に開口した複数の給液穴が形成され、前記カバーは、前記台金の周壁及び砥粒層の外周を小間隙を介して取り囲む円筒状周壁を有し、前記カップ形砥石の回転により研削液を前記小間隙内を通して前記カバーの内側方向に移動させるポンプ手段が設けられていることを特徴とする。
【0007】
ポンプ手段は、台金の周壁及び砥粒層の外周面に形成された複数の螺旋状溝で構成するのが好ましい。さらに、ポンプ手段は、カバーの円筒状周壁の内面に形成された複数の螺旋状溝を備えるのがよい。また、小間隙の大きさは直径隙間で0.05〜1.0mmとするのが好ましい。
【0008】
受液部は、台金の中央壁部の中心寄りの位置に砥石軸線を中心とした環状の受液溝として形成し、給液穴は、台金の周壁内側に開口する終端が受液溝の底部に開口する始端よりも半径方向外方に位置するように砥石軸線に対して傾斜して形成するのが好ましい。
【0009】
研削盤は、砥石軸線が水平方向に延びる横型研削盤であり、カバーに研削液タンクから送られてきた研削液を受液部へ落下により供給する供給装置を設けるのがよい。
【0010】
カバーの下部に、研削液タンクに接続された回収パイプを連結し、カバー内部の研削液を該回収パイプによって研削液タンクへ自由流下により回収するように構成するのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、カップ形砥石の台金の中央壁部のスピンドル側の面に設けた受液部から該中央壁部を貫通し、砥粒面の内側に開口した複数の給液穴が形成され、カップ形砥石の回転により研削液をカップ形砥石の外周とカバー内面の小間隙内を通してカバーの内側方向に移動させるポンプ手段が設けられているので、カップ形砥石の台金に形成した複数の給液穴により砥石の裏側(スピンドル側)から砥石の表側へ遠心力で研削液が移動し、砥粒面に供給され、研削液の加工点への効率的な給液を行うことができ、研削熱を速やかに除去してカップ形砥石の砥粒面や被加工物の焼けを防止し、ワイピング作用による砥粒面の清浄化を効果的になすことができる。そして研削液の給液やワイピングのための繊維状部材を必要とせず、砥石の砥粒面に繊維状部材がないため、加工点が見えやすいという利点がある。また、カップ形砥石の全周がカバーにより覆われているので、油などの研削液の飛散がなくなり周辺が研削液で汚れることが防止できる。さらに、油などの研削液は回収され循環して再利用されるので環境に配慮した研削加工が行える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造の一実施形態を示す分解斜視図である。
【図2】上記実施形態の要部を示す断面図である。
【図3】カップ形砥石及びカバーの端面図である。
【図4】従来の繊維状部材を用いた研削液給液構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造の実施の形態について図面を参照して説明する。図1ないし図3は、本発明に係るカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造の一実施形態を示す。
【0014】
本実施形態に係る給液構造を備えた研削盤はバイト等の研削に使用する横軸形研削盤であり、そのスピンドル10にカップ形砥石20がボルトにより取リ付けられており、カップ形砥石20の全周を覆うように円筒状のカバー30が設けられている。カップ形砥石20は、スピンドル10に取り付けるための円板状ないしは円錐皿状の中央壁部22と、この中央壁部22の外周から砥石軸線Oに平行に延びる環状の周壁23とを一体に有する台金21を備え、台金21の環状周壁23の外方端部には砥石軸線Oに直角な環状の砥粒面24aを有する砥粒層24が形成されている。
【0015】
台金21の中央壁部22の環状周壁23が設けられる面とは反対側の裏面(スピンドル10側の面)には、その中心寄りの位置に砥石軸線Oを中心とする環状の受液溝25が形成されており、この受液溝25はその内周側内面及び外周側内面が砥石軸線Oに対してそれぞれ傾斜し、全体として中央壁部22の表面側に向かって広がったコーン状を呈している。台金21の受液溝25には、周方向に所定の間隔でその底部から中央壁部22を表面側まで貫通した給液穴26が複数形成されている。各給液穴26は、終端が受液溝25の底部の始端よりも半径方向外方に位置するように砥石軸線Oに対して傾斜して形成されており、その終端は台金21の環状周壁23の内面に近接して開口している。このように形成された受液溝25及び給液穴26は、カップ形砥石20の回転時に受液溝25に供給された研削液を遠心力により台金21の中央壁部22の裏面側から表面側の環状周壁23の内面に確実かつ全周に亘って一様に供給することができる。
【0016】
さらに台金21の周壁23及び砥粒層24の外周面には砥粒面24a位置から周壁23の内方端まで延びる複数の螺旋状の溝27が形成されている。各溝27は、砥粒層24の砥粒面24aに位置する前端及び周壁23の内方端に位置する後端がカップ形砥石20の回転方向Aに関してそれぞれ前方側位置及び後方側位置を取るような向きの螺旋状溝として形成されている。この螺旋状溝27は、カップ形砥石20の回転時にカバー30の内面と協働して研削液をカバー30内方へ移動させるポンプ作用を奏するポンプ手段を構成している。
【0017】
一方、カップ形砥石20の外周を取り囲むように機枠(図示せず)に取着されたカバー30は、カップ形砥石20の台金21の周壁23及び砥粒層24の外周との間に小間隙Sを介して囲繞するように形成された円筒状周壁31を備えている。カップ形砥石20の外周とカバー30の円筒状周壁31との間の小間隙Sは、カップ形砥石20の回転により研削液をカバー30の内側方向へ移動させる空気の流れを作るため、直径隙間で0.05mm〜1.0mmと小さく形成されている。小間隙Sの大きさが0.05mm未満であると、スピンドル10やカップ形砥石20及びカバー30は製作誤差や組立誤差によりわずかに偏心しているため、スピンドル10にカップ形砥石20を取り付ける際に、カップ形砥石20の外周がカバー30に接触するおそれがあり、小間隙Sの大きさが1.0mmを超えると、カバー30の内面と回転するカップ形砥石20とによるポンプ作用がなくなり、研削液を移動させて回収することができない。そして、カバー30の円筒状周壁31の開放側端部の内面にはカップ形砥石20の外周に形成された螺旋状溝27に対応した長さを有する螺旋状の溝32が複数形成されている。カバー30の円筒状周壁31の螺旋状溝32はカップ形砥石20の外周の螺旋状溝27とはその向きが逆になるように、円筒状周壁31の開放端部に位置する前端及び円筒状周壁31の軸線方向内方側に位置する後端がカップ形砥石20の回転方向Aに関してそれぞれ後方位置及び前方位置を取るように形成されている。このようにして形成されたカバー30の円筒状周壁31内面の螺旋状溝32は、カップ形砥石20の螺旋状溝27と協働するポンプ手段の一部を構成している。なお、カップ形砥石20の螺旋状溝27とカバー30の螺旋状溝32の数は異なるものとするのが望ましい。また、カバー30の開放側端部の一部は被加工物を砥粒面24aへ適確に摺接させるため切り欠き部34が形成されているが、カバー30はカップ形砥石20の周壁23及び砥粒層24の外周全体を実質的に取り囲んでいる。
【0018】
カバー30の円筒状周壁31の上部にガラスオイラー35が取り付けられており、このガラスオイラー35の下端にカバー30の内部に垂下するように供給チューブ36が連結されている。供給チューブ36の下端はその軸線に対して傾斜した開口部を有し、この開口部は台金21の受液溝25に臨み、研削液がカップ形砥石20の回転時に非接触状態で受液部である受液溝25に対して適確な位置に落下されるようになっている。このようにガラスオイラー35及び供給チューブ36はカップ形砥石20の受液部に研削液を落下により供給する供給装置を構成している。なお、ガラスオイラー35の上部には研削液供給配管40が接続されており、図示しない研削液タンクからポンプ42により圧送された研削液が逆止弁41を介して供給されるようになっている。
【0019】
また、カバー30の円筒状周壁31の下部には、開口37が形成され、研削液回収パイプ38の一端が円筒状周壁31の接線方向に延びるように連結され、回収パイプ38の他端は適宜の配管により研削液タンクに接続されており、カバー30内部の研削液は自然流下により研削液タンクに回収されるようになっている。そして、研削液タンクに回収された研削液は適宜の浄化処理を経た後、清浄な研削液として再使用される。
【0020】
このように構成された、カップ形砥石20を用いた研削盤により被加工物を研削するに際しては、スピンドル10により回転駆動されるカップ形砥石20の砥粒面24aに被加工物が摺接されその被加工面が研削される。研削時、カバー30の上部に取着されたガラスオイラー35に研削液タンクからポンプにより研削液が供給され、次いで供給チューブ36から回転しているカップ形砥石20の台金21に形成された環状の受液溝25内へ確実に落下される。受液溝25内へ供給された研削液は、図2に示すようにカップ形砥石20の回転による遠心力で受液溝25の底部から複数の給液穴26を通して台金21の環状周壁23の内側に移動され、環状周壁23の内面に沿って砥粒層24の砥粒面24aに達し、さらにカップ形砥石20の回転による遠心力で砥粒面24a上を半径方向外方へと流れ、砥粒面24aと被加工物の被加工面との摺接部分すなわち加工点に供給されることとなる。このように流れる研削液により、加工点に発生した研削熱の除去と砥粒面24aからの切りくずの排出を効率的に行うことができる。
【0021】
砥粒面24aに沿って半径方向外方に流れ、研削に使用された研削液は砥粒面24aの外周端に達し、外周端から接線方向に放出されることになるが、この研削液は、カップ形砥石20の外周とカバー30の内面との間に設けられたポンプ手段によりカバー30内部に導かれ、その後回収される。すなわち、カップ形砥石20の台金21の周壁23及び砥粒層24の外周はカバー30の円筒状周壁31の内面に小間隙Sを介して囲繞されており、さらに、台金21の周壁23及び砥粒層24の外周には複数の螺旋状溝27が形成され、カバー30の円筒状周壁31の開放側端部の内面には複数の螺旋状溝32が形成されているので、カップ形砥石20が回転すると、空気及び研削液は粘性により、カバー30の円筒状周壁31とカップ形砥石20の外周との間の小間隙Sでカバー30の外方から内方に流れる空気の流れが作られ、さらに砥石側の螺旋状溝27によって研削液に運動エネルギーを付与され、これにより研削液は砥粒面24aの外周端からカバー30の内部に導かれる。このようにしてカバー30の内部に導かれた研削液は、カバー30の下部に設けた開口37から回収パイプ38に流入し、自然流下により研削液タンクへ回収される。研削液タンクに回収された研削液は浄化された後、ポンプ42によりガラスオイラー35に供給され、再利用される。
【0022】
本発明によれば、カップ形砥石の砥粒面へ研削液を効率的に給液できるとともに、研削に使用した研削液を周辺に飛散させずに回収することができる、カップ形砥石を用いた研削盤における給液構造を提供できる。
【符号の説明】
【0023】
10 スピンドル
20 カップ形砥石
21 台金
22 中央壁部
23 周壁
24 砥粒層
24a 砥粒面
25 受液溝
26 給液穴
27 溝
30 カバー
31 円筒状周壁
32 溝
34 切り欠き部
35 ガラスオイラー
36 供給チューブ
37 開口
38 回収パイプ
40 研削液供給配管
41 逆止弁
42 ポンプ
O 砥石軸線
S 小間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ形砥石を用いた研削盤における給液構造であって、
前記カップ形砥石の全周を覆うように筒状のカバーが設けられ、
前記カップ形砥石は、スピンドルへ取り付けるための中央壁部と、該中央壁部の外周に連設された環状の周壁とを有する台金を備え、該台金の周壁の端部には砥粒面を有する砥粒層が形成されており、
前記台金には、前記中央壁部のスピンドル側の面に設けた受液部から該中央壁部を貫通し、前記周壁の内側に開口した複数の給液穴が形成され、
前記カバーは、前記台金の周壁及び砥粒層の外周を小間隙を介して取り囲む円筒状周壁を有し、
前記カップ形砥石の回転により研削液を前記小間隙内を通して前記カバーの内側方向に移動させるポンプ手段が設けられていることを特徴とする、カップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。
【請求項2】
前記ポンプ手段は、前記台金の周壁及び砥粒層の外周面に形成された複数の螺旋状溝を含んでなる、請求項1記載のカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。
【請求項3】
前記ポンプ手段は、前記カバーの円筒状周壁の内面に形成された複数の螺旋状溝を含んでなる、請求項2記載のカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。
【請求項4】
前記受液部は、前記中央壁部の中心寄りの位置に砥石軸線を中心として形成された環状の受液溝であり、
前記給液穴は、前記台金の周壁内側に開口する終端が前記受液溝の底部に開口する始端よりも半径方向外方に位置するように砥石軸線に対して傾斜して形成されている、請求項1ないし3のいずれかに記載のカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。
【請求項5】
前記小間隙の大きさは直径隙間で0.05〜1.0mmである、請求項1ないし4のいずれかに記載のカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。
【請求項6】
前記研削盤は、砥石軸線が水平方向に延びる横型研削盤であり、
前記カバーには、研削液タンクから送られてきた研削液を前記受液部へ落下により供給する供給装置が設けられている、請求項1ないし5のいずれかに記載のカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。
【請求項7】
前記カバーの下部には、前記研削液タンクに接続された回収パイプが連結され、前記カバー内部の研削液を該回収パイプによって研削液タンクへ自由流下により回収するように構成されている、請求項6記載のカップ形砥石を用いた研削盤における給液構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−86243(P2013−86243A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231608(P2011−231608)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000104021)オルガン針株式会社 (8)
【Fターム(参考)】