説明

カバーレイフィルム熱圧着用シート

【課題】ポリプロピレン製基材の少なくとも片面により安価で簡便な方法で密着性良く低エネルギー表面を形成し、凸凹追随性および離型性が付与され、且つカバーレイフィルムへの汚染が無いカバーレイフィルム熱圧着用シートを提供する。
【解決手段】カバーレイフィルム熱圧着用シートは、ポリプロピレン製基材の少なくとも片面に、厚み0.01〜5.0μmのフッ素樹脂含有塗膜が形成されてなり、前記フッ素樹脂含有塗膜を構成するフッ素樹脂が、ウレタン結合部および下記式で示されるフッ化アルキレン単位を含むことを特徴としている。


(式中、Fはフッ素であり、Xはフッ素または塩素である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン製基材の少なくとも片面に、フッ素樹脂含有塗膜がより安価で簡便な方法で密着性良く形成されたカバーレイフィルム熱圧着用シートに関する。詳しくは、ポリプロピレン製基材の少なくとも片面に、フッ素系ワニスとイソシアネート誘導体とを含む硬化性組成物を塗布し、加熱処理を施すことにより硬化・架橋せしめ、該フッ素系ワニスとイソシアネート誘導体の硬化体が該ポリプロピレン製基材と極めて密着性よく形成された低表面エネルギーを有するカバーレイフィルム熱圧着用シートに関する。
【従来の技術】
【0002】
従来、プリント基板の製造工程においては、図3に示すように、プリント基板4の片面もしくは両面に形成された回路(銅薄)層5を保護する目的でカバーレイフィルム6を熱圧着する工程がある。この工程では、プリント基板の片面もしくは両面にカバーレイフィルムを積層し熱板プレスや加熱加圧ロールを用いて熱圧着させている。その際にカバーレイフィルムを回路層の凸凹に追随させる目的で、クッション性のあるシート7をカバーレイフィルム6に積層し、このシート7を介してカバーレイフィルム6を、回路層5を有するプリント基板表面に熱圧着させている。
【0003】
前記のクッション性のあるシートとして紙やゴムシート等が用いられるが、熱圧着の工程で160〜180℃程度で加熱されるため、ポリエステルフィルム等の離型性を有し、耐熱性の高いフィルムで紙やゴムシート等を挟んで使用していた。これら複数枚のフィルムやシートを手作業にて順に重ね合わせ、熱板プレス等の工程へ移送するため煩雑であり、非常に作業性が悪い。作業性を改善する方法として、それぞれのフィルムおよびシートをあらかじめ接着剤等で貼り合せておく提案がなされている(特許文献1 特公平8−10790)。
【0004】
しかしながら、複数枚のフィルムを別工程にて貼り合せることはコスト的に不利である。また、耐熱性フィルムは、厚みが数μm程度である方が熱伝達性、凸凹追随性に有利であるにもかかわらず、薄膜の耐熱性フィルム生産が困難であったり、薄膜フィルムの貼り合せが困難であるとの理由から、必要以上に厚いフィルムを使用しなければならず、本来の性能を阻害する傾向にある。
【0005】
またクッション性を追求すると、熱圧着工程の温度で軟化あるいは溶融する比較的低融点の熱可塑性樹脂製シートを採用することが有利である。しかし、熱圧着の際これらのシートが溶融して耐熱性フィルムからしみ出す。特にプリント基板の両面にカバーレイフィルムを積層する場合には、クッションシートの端部からしみ出した熱可塑性樹脂により、上下のクッションシート同士が融着し袋状になりプリント基板を閉じ込めてしまうため、生産性を著しく低減させるという問題がある。
【0006】
耐熱性を有し、熱圧着時のしみ出しを低減するという観点から、160℃付近に融点を有するポリプロピレン系樹脂が有望ではあるが、シート同士の融着を完全に防止することはできない。
【0007】
この融着という問題に関しては、ポリプロピレン系樹脂よりなるシートの表面をより低表面エネルギーな表面に改質することで解決できると考えられ、その方法は数多く提案されている。代表的な方法としてはポリプロピレンよりなるシートの表面に、炭素−炭素二重結合を有するシリコーンと珪素−水素結合を有する架橋性シリコーンとを白金族触媒の存在下で付加重合せしめ、該ポリプロピレンシート上にシリコーン架橋体を形成することがあげられる。
【0008】
しかしながら、表面に架橋性シリコーンを形成した場合、未架橋のシリコーンがカバーレイフィルム表面に移行したり、あるいは電子部品を接着するために露出しているプリント基板面に移行し、回路の通電不良やその後の貼り合せ工程での接着不良を引き起こすことがある。このため、カバーレイフィルム熱圧着用途においては、シリコーン系材料の使用は好ましくない。
【0009】
シリコーン系材料を用いずにポリプロピレンシートの表面をより低表面エネルギーな表面に改質する方法として、ドライラミネート等の方法でフッ素樹脂製のフィルム(離型フィルム)を積層する手法もいくつか提案されている。しかし、これらの手法においては、含フッ素樹脂を一旦フィルム化して離型フィルムを得て、次いで接着剤等にて離型フィルムとポリプロピレンシートとを貼り合せる複数の工程が必要になり、非常に高コストとなる。また低表面エネルギーな表面に改質する目的を達成するためには、積層される離型フィルムの厚みが薄くても問題ないが、含フッ素樹脂自体の薄膜化が技術的に難しく、必要以上に厚い層を形成することになり非経済的である。
【0010】
さらに含フッ素(メタ)アクリレート化合物を表面に塗布する手法も実用化されている。しかし、ポリプロピレンシートのような表面張力の低い基材ではその表面への含フッ素(メタ)アクリレート塗膜の密着性が悪く、カバーレイフィルムに移行し汚染を引き起こしたり、また塗膜の柔軟性が低いため凸凹追随性に劣るなどの問題がある。
【0011】
このようにカバーレイフィルムの熱圧着時に用いるシートは未だ多くの課題を残しており、プリント基板のカバーレイフィルム熱圧着工程において性能面、経済性を満足できるシートが強く要望されている。
【特許文献1】特公平8−10790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって本発明の目的は、ポリプロピレン製基材の少なくとも片面により安価で簡便な方法で密着性良く低エネルギー表面を形成し、凸凹追随性および離型性が付与され、且つカバーレイフィルムへの汚染が無いカバーレイフィルム熱圧着用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような従来技術の問題点に鑑みポリプロピレン製基材の少なくとも片面により安価で簡便な方法で密着性良く低エネルギー表面を形成し、凸凹追随性および離型性が付与され、且つカバーレイフィルムへの汚染が無いカバーレイフィルム熱圧着用シートについて鋭意検討を重ねた。
【0014】
その結果、驚くべきことにポリプロピレン製基材上に、フッ素系のワニスとイソシアネート誘導体とを含む硬化性組成物を塗布し、加熱処理を施すことにより硬化・架橋せしめてなる塗膜を形成することによって本件課題が極めて効果的に改善されることを見出し本発明に至った。
【0015】
すなわち、上記課題を解決する本発明は、下記事項を要旨として含む。
【0016】
(1)ポリプロピレン製基材の少なくとも片面に、厚み0.01〜5.0μmのフッ素樹脂含有塗膜が形成されてなり、前記フッ素樹脂含有塗膜を構成するフッ素樹脂が、ウレタン結合部および下記式で示されるフッ化アルキレン単位を含む、プリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シート。
【化1】

【0017】
(式中、Fはフッ素であり、Xはフッ素または塩素である。)
(2)前記フッ素樹脂含有塗膜が、フッ素樹脂100重量部に対して、ポリ四フッ化エチレンを0.01〜1.0重量部含む(1)に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シート。
【0018】
(3)全厚が10〜500μmである(1)に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シート。
【0019】
(4)ポリプロピレン製基材の両面にフッ素樹脂含有塗膜が積層されてなる(1)に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シート。
【0020】
(5)ポリプロピレン製基材上に、フッ素系のワニスとイソシアネート誘導体とを含む硬化性組成物を塗布した後、加熱して前記硬化性組成物を硬化せしめることを特徴とするプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シートの製造方法。
【0021】
(6)前記硬化性組成物が、フッ素系のワニスとイソシアネート誘導体との合計100重量部に対して、ポリ四フッ化エチレンを0.01〜1.0重量部含む(5)に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シートの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シート1によれば、ポリプロピレン製基材3の表面に、極めて密着性よくフッ素樹脂含有塗膜2を形成することができるため、プリント基板の製造工程で、カバーレイフィルム6を、回路層5を有するプリント基板4の表面に熱圧着する際に、カバーレイフィルム6と共に回路層5の凸凹への追随性が良好であり、また、その後、カバーレイフィルム6からの熱圧着用シート1の離型性も極めて良好である。しかも、熱圧着用シート1のフッ素樹脂含有塗膜2は、カバーレイフィルムを汚染することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について、その最良の形態を含めて、図面を参照しつつ、さらに具体的に説明する。図1に本発明に係るプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シート1の断面図を示し、図2にその使用態様の概略を示す。
【0024】
本発明に係るプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シート1は、ポリプロピレン製基材3の少なくとも片面に、厚み0.01〜5.0μmのフッ素樹脂含有塗膜2が形成されてなる。
【0025】
本発明において、基材3がポリプロピレンよりなることは非常に重要である。例えば、FPCプリント基板の形成に用いられる場合には、プリント基板4の片面もしくは両面にカバーレイフィルム6を載置し、カバーレイフィルム熱圧着用シート1で挟み込み170℃の温度で熱圧着を行う。この工程において、該カバーレイフィルム熱圧着用シート1が軟化もしくは溶融することにより、基板4上の回路層5の凹凸形状に追随する。したがって、基材3としては、塗膜2の塗工時および硬化・架橋時には軟化したり収縮せず、170℃前後において適度な軟化・溶融物性を有するポリプロピレンが用いられる。
【0026】
本発明における基材3として用いられるポリプロピレンは、上記のように170℃前後で適度な軟化・溶融物性を有することが特に好ましい、本発明で使用されるポリプロピレンとしては、適度な溶融物性を有し、熱収縮が少ない結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましく用いられ、具体的には、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα−オレフィンとのランダム共重合体、もしくはブロック共重合体またはこれらの混合物等を挙げることができる。上記プロピレンと共重合するα−オレフィンとしては、例えばエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−メチル−1−ペンテン等を挙げることができ、これらのα−オレフィンの共重合体中の含有量は10mol%以下であることが結晶性を保持する為に好ましい。この場合、ポリプロピレンの結晶性の指標である13C−NMR測定によって求められたアイソタクチックペンタッド分率が0.96%以上であることが好ましい。
【0027】
前記ポリプロピレン製基材3は、単独の樹脂からなる単層構造であってもよいし、複数のポリプロピレンフィルムおよびシートからなる多層構造を有していても差し支えない。
【0028】
本発明におけるポリプロピレン製基材3の製造方法としては、インフレーション法、キャスト法、一軸以上で延伸される方法などが例示される。中でもキャスト法によって得られる無延伸フィルムは熱収縮が小さく、フッ素樹脂含有塗膜2を塗工する工程や熱圧着工程において熱による寸法変化が小さいことから好適に用いられる。また、ポリプロピレン製基材3が多層構造を有する場合は、マルチマニホールド法やフィードブロック法に代表される共押出法やインラインラミネート法等の公知の方法を採用することができる。さらに、これらポリプロピレン製基材3の片面もしくは両面へ、インライン若しくはオフラインで表面処理を施すことが後述する、フッ素樹脂含有塗膜2の密着性の観点から好ましい。ここで言う表面処理とは、コロナ放電処理、フレーム(火焔)処理等をさす。
【0029】
本発明におけるポリプロピレン製基材3は、いわゆるフィルムおよびシートの両者を含有する概念であり、またこれらを複数積層してなる多層構造体であってもよい。基材3を多層構造とする場合には、すべての構成層が同種または異種のポリプロピレンフィルムから形成されていてもよく、また本発明の目的を損なわない範囲で他の樹脂からなる構成層が含まれていても良い。各樹脂フィルムは、ドライラミネーションなどにより直接積層されていてもよく、接着剤層などを介して積層されていてもよい。
【0030】
ポリプロピレン製基材3の厚みは、目的とするカバーレイフィルム熱圧着用シート1の厚みに応じて適宜に設定される。カバーレイフィルム熱圧着用シート1の全厚は、10μm〜500μm、さらに好ましくは40〜300μm、特に好ましくは80〜200μmである。フッ素樹脂含有塗膜2の厚みは、後述するように0.01〜5.0μmである。したがって、ポリプロピレン製基材3の厚みは、カバーレイフィルム熱圧着用シート1の全厚からフッ素樹脂含有塗膜2の厚みを差し引いた厚みである。
【0031】
ポリプロピレン製基材3の厚みが薄すぎると、フッ素樹脂含有塗膜2を塗工後、加熱処理を施す際、熱負けによってフィルムやシートにシワが入り製品として使用できない場合がある。一方、ポリプロピレン製基材3の厚みが厚すぎると柔軟性が乏しいため、フッ素樹脂含有塗膜2を効率よく塗工することが難しく生産コストが大幅に上がる。
【0032】
前記ポリプロピレン製基材3の表面にフッ素樹脂含有塗膜2を形成する方法は、本発明の効果が阻害されない限り、特に制限なく公知の方法を用いることができる。公知の方法の例としては、フッ素系のワニスとイソシアネート誘導体とからなる硬化性組成物を、一般に用いられるコーティングヘッド、例えば、グラビヤ、グラビヤリバ−ス、オフセット等の転写方法を基本とした塗工や、バー、コンマバー等の掻き取り方法を基本とした塗工など一般的に普及しているコ−ティング装置を用いて塗工する方法などを挙げることができる。
【0033】
本発明におけるフッ素系ワニスとは、含フッ素オレフィンと炭化水素系単量体とを共重合せしめた含フッ素共重合体を主成分とする。具体的には、含フッ素オレフィンとしてはテトラフルオロエチレンあるいはモノクロロトリフルオロエチレンがあげられ、炭化水素系単量体としては水酸基と重合性二重結合とを含むモノマー及び重合性二重結合を持つ他の単量体があげられる。これらはフッ素塗料のワニスとして一般的に供される。
【0034】
本発明における含フッ素共重合体中の、含フッ素単量体であるテトラフルオロエチレンあるいはモノクロロトリフルオロエチレンと、水酸基と重合性二重結合とを含むモノマーの割合は、モル比で20:1〜2:1の範囲であることが好ましい。含フッ素共重合体には、水酸基と重合性二重結合とを含むモノマーに由来する水酸基が含まれる。
【0035】
本発明におけるイソシアネート誘導体とは、2つ以上のNCO基を有する脂肪族誘導体や芳香族誘導体であり具体的には、メチレンジフェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチレンキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネートなどが用いることができる。本発明の効果が損なわれない限り化学構造による制限は受けない。
【0036】
硬化性組成物におけるフッ素系ワニスとイソシアネート誘導体の混合割合は、前記フッ素系ワニスの固形分(含フッ素共重合体)100重量部に対して、イソシアネート誘導体が好ましくは5〜30重量部の範囲にある。前記イソシアネート誘導体の混合割合が前記含フッ素共重合体100重量部に対して5重量部未満の場合は、架橋密度が不十分で塗膜2の成分がカバーレイフィルムへ移行し汚染するおそれがある。またイソシアネート誘導体の混合割合が30重量部以上の場合は、塗膜自体の柔軟性が低下し凹凸追随性が低下するだけでなく、膜割れを引き起こす場合もある。また実用上においても、ポットライフが短くなり好ましくない。
【0037】
フッ素樹脂含有塗膜2は、上述したフッ素系ワニスとイソシアネート誘導体とを含む硬化性組成物を塗工し、これに加熱処理を施すことで形成される。この際の加熱温度は、フッ素系ワニスに含まれる含フッ素共重合体中の水酸基とイソシアネート誘導体のイソシアネート基(NCO)とが反応し、硬化・架橋反応が起こる程度の温度であり、一般的には30〜120℃であることが好ましく、50〜90℃であることが生産性、硬化度、ポリプロピレン製基材3の熱収縮の観点からさらに好ましい。
【0038】
本発明におけるフッ素樹脂含有塗膜2は、フッ素系ワニスとイソシアネート誘導体とを含む硬化性組成物を塗工し、加熱処理を施すことにより硬化・架橋せしめた塗膜である。
【0039】
上記の加熱により、フッ素系ワニス中に含まれる含フッ素共重合体を構成する水酸基と重合性二重結合とを含むモノマーに由来する水酸基と、イソシアネート誘導体のイソシアネート基(NCO)とが反応し、ウレタン結合部(−NHC(=O)O−)が形成され、塗膜が硬化し、架橋したフッ素樹脂含有塗膜2が得られる。
【0040】
またフッ素樹脂含有塗膜2には、フッ素系ワニス中に含まれる含フッ素共重合体を構成する含フッ素オレフィンに由来する下記のフッ化アルキレン単位が含まれる。
【化2】

【0041】
(式中、Fはフッ素であり、Xはフッ素または塩素である。)
フッ素樹脂含有塗膜2を構成するフッ素樹脂には、上記のウレタン結合部が、好ましくは10〜75モル%、さらに15〜60モル%、特に好ましくは20〜50モル%の割合で含まれる。
【0042】
ウレタン結合部の割合が少なすぎる場合には、架橋密度が不十分となり、また多すぎる場合には、過度に架橋するため塗膜の柔軟性が低下する。フッ化アルキレン単位の割合が少なすぎる場合には、十分な剥離性が得られず、また多すぎる場合には基材3との密着性が低下するおそれがある。
【0043】
フッ素樹脂含有塗膜2におけるウレタン結合部の割合は、13C−NMR分析により定量することができる。
【0044】
フッ素系ワニスとイソシアネート誘導体とからなる硬化性組成物には、ポリ四フッ化エチレンの粒子を混合し用いることが出来る。前記ポリ四フッ化エチレンの粒子が混合された混合液をポリプロピレン基材3上で架橋重合せしめることにより、更に離型性が向上する。なかでも低分子量のポリ四フッ化エチレンが粉体の取り扱い上好適である。フッ素系ワニスとポリ四フッ化エチレンの割合は、前記フッ素系ワニスの固形分(含フッ素共重合体)100重量部に対しポリ四フッ化エチレン0.01〜1.0重量部が好ましい。ポリ四フッ化エチレンの含有量が前記フッ素樹脂100重量部に対して0.01重量部未満の場合は離型性の向上効果は見られない。一方、1.0重量部以上添加すると塗膜表面にポリ四フッ化エチレンが析出し脱落する。またこれ以上の添加は離型性の向上に影響はなくコストの上昇を招き、さらに脱落した粒子がカバーレイフィルムへ移行する問題もあり有効とは言えない。
【0045】
本発明におけるフッ素樹脂含有塗膜2の厚みは0.01μm〜5.0μmであり、好ましくは0.1〜4.0μm、さらに好ましくは0.5〜2.5μmである。前記フッ素樹脂含有塗膜2の厚みが0.01μm未満であると離型性の発現が見られず、5.0μmより厚くした場合は離型性向上の効果が見られないだけでなく塗膜自体の柔軟性が低下し凹凸追随性が低下する可能性がある。また本発明の効果を勘案すると、塗膜の厚みはポリプロピレン製基材表面の表面粗さ(Ra)よりも厚いことがより好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に実施例、比較例をあげて本発明について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
(1)凸凹追随性
熱板プレス装置を用い、加熱温度180℃、加圧力34kg/cm、加熱加圧時間60分の条件でカバーレイフィルムの熱圧着テストを行った。プレスに用いる試験片は、A4サイズの熱圧着用シート上に240mm×180mmのフレキシブルプリント基板を積層し、次いで260mm×180mmのカバーレイフィルムを積層し、最後にA4サイズの熱圧着用シートを積層し作成した。テスト終了後の試験片から両表層の熱圧着用シートを剥がし、基板上の形成された回路の凹部へのカバーレイフィルムの埋まり込み状態を観察した。
【0048】
A:回路の凹部へカバーレイフィルムが完全に埋め込まれていた。
【0049】
B:回路が密集している箇所や凹部の深さが深い箇所などで凹部の転写が甘い箇所が見られたが、実用上は問題ない範囲であった。
【0050】
C:プリント基板とカバーレイフィルムとの間に気泡や浮きが見られた。
【0051】
(2)離型性
凸凹追随性評価と同様に、熱板プレス装置を用い、加熱温度180℃、加圧力34kg/cm、加熱加圧時間60分の条件でカバーレイフィルムの熱圧着テストを行った。テスト後の試験片から両表層の熱圧着用シートを剥がす際にプリント基板およびカバーレイフィルムの外周にはみ出している熱圧着用シート同士に融着が見られるかを確認した。
【0052】
A:熱圧着用シート同士の融着は見られず、熱圧着用シートが容易に剥離できた。
【0053】
B:基板の端部など変形が大きい箇所で一部融着が見られたが、剥離は容易であった。
【0054】
C:熱圧着用シート同士が融着してしまい、熱圧着用シートの剥離が困難であった。
【0055】
(3)密着性
フッ素樹脂含有塗膜に対して粘着テープを貼り付けた後に粘着テープを剥がして、その粘着テープの接着力の残留接着率を測定することによって塗膜と基材との密着性や塗膜からの脱落を評価した。
【0056】
具体的な測定方法としては以下である。あらかじめ日東電工製31BテープをSUS板に2kgロールを用いて圧着速度5mm/分にて一往復プレス圧着し4時間放置する。その後、日東電工製31Bテープを180°剥離し粘着力を測定する。この際の剥離速度は300mm/分とする。この時の粘着力をブランクの粘着力(Ai)とする。
【0057】
次いで熱圧着用シートのフッ素樹脂含有塗膜に日東電工製31Bテープを5kgロールで圧着する。その後70℃、20g/cm、20時間加熱エージングを行い、エージング終了後23℃で状態調節を行う。フッ素樹脂含有塗膜より日東電工製31Bテープを剥がし、SUS板に2kgロールを用い圧着速度5mm/秒で一往復プレス圧着し4時間放置する。ここで日東電工製31Bテープを180°剥離し粘着力を測定する。この際の剥離速度は300mm/分とする。この時の粘着力を(Ae)とする。最後に以下の式に代入し残留接着率を算出する。
【0058】
残留接着率(%)=(Ae/Ai)×100
残留接着力が高いほど、フッ素樹脂含有塗膜と基材との密着性が良好であり、フッ素樹脂含有塗膜から31Bテープへの成分の移行が少ないことを意味する。
【0059】
(4)カバーレイフィルムへの汚染
凸凹追随性評価と同様に、熱板プレス装置を用い、加熱温度180℃、加圧力34kg/cm、加熱加圧時間60分の条件でカバーレイフィルムの熱圧着テストを行った。テスト後の試験片から両表層の熱圧着用シートを剥がし、カバーレイフィルムへの汚染を確認した。
【0060】
A:カバーレイフィルム上に付着した物質は見られない。
【0061】
C:カバーレイフィルム上に塗膜の破片や脱落粒子の付着が見られる。
【0062】
(5)ウレタン結合部の割合の算出
フッ素樹脂中のOH価(ゼッフルGK510=60、ルミフロンLF200=52、いずれもメーカーの公開情報による)とイソシアネート中のNCO基の含量(コロネートL55E=9.65%、コロネートHX=21.2%、いずれもメーカーの公開情報による)から、各フッ素樹脂とイソシアネートとの混合物中のウレタン結合部の割合を導き出した。ここで言うウレタン結合部の割合とは、フッ素樹脂中のOH基とイソシアネート中のNCO基が全て反応したと仮定して、全フッ素樹脂中に存在するOH基に対するNCO基の割合を示す。
【0063】
(実施例1)
(ポリプロピレン製基材の作成)
ポリプロピレン単独重合体(融点=163℃、MFR=10g/10分)およびエチレン−プロピレン共重合体(融点=140℃、MFR=7g/10分、エチレン含量=4.5%)を用いて以下の方法でフィルムを作成した。
【0064】
中間層用のスクリュー径75mmの押出機が1台、両外層用のスクリュー径50mmの押出機が2台の合計3台の押出機を有する3種3層構成のTダイ方式フィルム製膜装置を用い、中間層用押出機にエチレン−プロピレン共重合体、両外層用の2台の押出機にポリプロピレン単独重合体を供給し、樹脂温度230℃でTダイより押出し、30℃の冷却ロールを通して厚み120μmの多層無延伸ポリプロピレンフィルムを得た。製膜工程にて片方のフィルム表面の濡れ指数が40mN/mとなるようにコロナ放電処理を施し、次いで40℃で24時間エージングすることで本発明に用いるポリプロピレン製基材を得た。
【0065】
(フッ素樹脂含有硬化性組成物の作成)
ダイキン工業株式会社製フッ素塗料ワニス ゼッフルGK510(溶媒:酢酸ブチル、固形分濃度50%、テトラフルオロエチレン系)100重量部に対して、日本ポリウレタン工業株式会社製塗料用ポリイソシアネート コロネートL55E(溶媒:酢酸エチル、固形分濃度55%、トリレンジイソシアネート系)を13.65重量部混合した(フッ素塗料ワニス固形分100重量部に対してイソシアネート固形分が15重量部)。次いで溶液の固形分濃度が15%となるように酢酸エチルにて希釈し、フッ素樹脂含有硬化性組成物を作成した。
【0066】
(フッ素樹脂含有塗膜の形成)
ポリプロピレン製基材のコロナ放電処理面に硬化性組成物を乾燥厚が0.5μmとなるようにグラビヤコ−タ−で塗工し、その後80℃で乾燥し硬化せしめた。その後40℃で24時間のエ−ジングを施すことによりフッ素樹脂含有塗膜を形成し、カバーレイフィルム熱圧着用シートを得た。
【0067】
上記にて得られたカバーレイフィルム熱圧着用シートを用い、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
硬化性組成物の作成に際し、100重量部のゼッフルGK510に対して、コロネートL55Eを22.73重量部(フッ素塗料ワニス固形分100重量部に対してイソシアネート固形分が25重量部)混合したこと以外は実施例1と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
フッ素樹脂含有塗膜の厚みが乾燥厚で1.5μmとなるようにグラビヤコ−タ−で塗工したこと以外は実施例1と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
硬化性組成物の作成に際し、100重量部のゼッフルGK510に対して、日本ポリウレタン工業株式会社製塗料用ポリイソシアネート コロネートHX(固形分濃度100%、ヘキサメチレンジイソシナネート系)を5.0重量部(フッ素塗料ワニス固形分100重量部に対してイソシアネート固形分が10重量部)混合したこと以外は実施例3と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例5)
硬化性組成物の作成に際し、旭硝子株式会社製塗料用フッ素樹脂ルミフロンLF200(溶媒:キシレン、固形分濃度60%、モノクロロトリフルオロエチレン系)100重量部に対して、コロネートL55Eを10.91重量部(フッ素塗料ワニス固形分100重量部に対してイソシアネート固形分が10重量部)混合したこと以外は実施例3と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(実施例6)
100重量部のゼッフルGK510に対して、コロネートL55Eを13.65重量部混合したものに対して、ダイキン工業株式会社製 ルブロンL−2(ポリ四フッ化エチレン微粒子)0.05重量部(フッ素塗料ワニス固形分100重量部に対してポリ四フッ化エチレンが0.1重量部)添加したこと以外は実施例3と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0073】
(実施例7)
ポリプロピレン製基材の作成に際し、3台の押出機全てにポリプロピレン単独重合体(融点=163℃、MFR=10g/10分)を供給し、樹脂温度230℃でTダイより押出し、30℃の冷却ロールを通して厚み120μmの単層無延伸ポリプロピレンフィルムを作成したこと以外は実施例3と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0074】
(実施例8)
ポリプロピレンよりなるフィルムの作成に際し、3台の押出機全てにポリプロピレン単独重合体(融点=163℃、MFR=10g/10分)を供給し、厚み60μmの単層無延伸ポリプロピレンフィルムを作成したこと以外は実施例3と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0075】
(比較例1)
実施例1で作成した120μmの多層無延伸ポリプロピレンフィルムにフッ素樹脂含有塗膜を形成せずに評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(比較例2)
フッ素樹脂含有塗膜の厚みが乾燥厚で10.0μmとなるようにグラビヤコ−タ−で塗工したこと以外は実施例3と同様にカバーレイフィルム熱圧着用シートを作成し、評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例3)
実施例1で作成した120μmの多層無延伸ポリプロピレンフィルムに対し、共栄社化学株式会社製アクリル酸誘導体ライトアクリレートFA−108を30重量部、2,2‘−アゾビス(イソブチロニトリル)を0.5重量部、およびトルエンを70重量部含む混合溶液を、塗膜の厚みが乾燥厚で1.0μmとなるように塗工したこと以外は実施例1と同様に評価試験を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例4)
東洋紡績株式会社製東洋紡エステルフィルムE5100(50μm厚)を用い、実施例1と同様に評価試験を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明に係るプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シートの断面図を示す。
【図2】本発明に係るプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シートの使用態様の概略を示す。
【図3】従来法を示す。
【符号の説明】
【0080】
1…プリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シート
2…フッ素樹脂含有塗膜
3…ポリプロピレン製基材
4…プリント基板
5…回路層
6…カバーレイフィルム
7…クッション性シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン製基材の少なくとも片面に、厚み0.01〜5.0μmのフッ素樹脂含有塗膜が形成されてなり、前記フッ素樹脂含有塗膜を構成するフッ素樹脂が、ウレタン結合部および下記式で示されるフッ化アルキレン単位を含む、プリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シート。
【化1】

(式中、Fはフッ素であり、Xはフッ素または塩素である。)
【請求項2】
前記フッ素樹脂含有塗膜が、フッ素樹脂100重量部に対して、ポリ四フッ化エチレンを0.01〜1.0重量部含む請求項1に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シート。
【請求項3】
全厚が10〜500μmである請求項1に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シート。
【請求項4】
ポリプロピレン製基材の両面にフッ素樹脂含有塗膜が積層されてなる請求項1に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シート。
【請求項5】
ポリプロピレン製基材上に、フッ素系のワニスとイソシアネート誘導体とを含む硬化性組成物を塗布した後、加熱して前記硬化性組成物を硬化せしめることを特徴とするプリント基板カバーレイフィルム熱圧着用シートの製造方法。
【請求項6】
前記硬化性組成物が、フッ素系のワニスとイソシアネート誘導体との合計100重量部に対して、ポリ四フッ化エチレンを0.01〜1.0重量部含む請求項5に記載のカバーレイフィルム熱圧着用シートの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−277764(P2009−277764A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125737(P2008−125737)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(596104050)サン・トックス株式会社 (16)
【出願人】(391020757)株式会社奥田 (3)
【Fターム(参考)】