説明

カムフォロア装置

【課題】耐久性を確保しつつ、組み付け性が良く、しかも製造コストの低減を図れる構造を実現する。
【解決手段】ロッカーアーム1bを構成する両支持壁部4b、4bの一部に、これら両支持壁部4b、4bの外端縁から支持凹部14、14の端縁に亙り、軸挿入部17、17を形成する。又、これら両軸挿入部17、17の少なくとも一部の内側面同士の距離を、支持軸3bの軸方向に関する寸法よりも小さくする。更に、前記両軸挿入部17、17は、これら両軸挿入部17、17を通じて前記支持軸3bを前記両支持凹部14、14に支持可能な状態に、弾性変形可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の走行用等として使用されるエンジンの動弁機構中に組み込み、動弁機構部分の摩擦を少なくして、エンジン運転時に於ける燃料消費率の低減を図る為のカムフォロア装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン内部での摩擦低減を図り、燃料消費率を低減する事を目的として、クランクシャフトと同期したカムシャフトの回転を給気弁及び排気弁の往復運動に変換する部分に、タペットローラを組み込んだカムフォロア装置を利用する事が一般的に行われている。図5〜8は、特許文献1に記載された、従来から知られているカムフォロア装置の第1例を示している。
【0003】
このカムフォロア装置は、板金製のロッカーアーム1にタペットローラ2を、支持軸3により回転自在に支持している。
このうちのロッカーアーム1は、例えば2〜4mm程度の厚さを有する鋼板等の金属板に、不要部分を除却する為の打ち抜き加工、並びに所望形状を得る為の、絞り加工等の塑性加工を施して成るもので、1対の支持壁部4、4と、これら両支持壁部4、4同士を連結する第一、第二の連結部5、6とを備える。これら両連結部5、6のうちの第一の連結部5は、弁体7(図8参照)の基端面を突き当ててこの弁体7を変位させる為の押圧部として、第二の連結部6は、ラッシュアジャスタを構成し、前記ロッカーアーム1の揺動中心となるプランジャ8の先端面を突き当てる為の支点部として、それぞれ機能する。この為に図示の例では、前記第二の連結部6の片面(図7の下面)に、球状凹部を形成している。尚、図示の例とは異なり、第二の連結部に相当する部分にねじ孔を設け、このねじ孔部分に、端部に凸球面部を有するアジャストねじを螺合固定する構造も、従来から知られている。
【0004】
一方、前記両連結部5、6同士の間部分はローラ設置部分となっており、この部分に、前記支持軸3により回転自在に支持した前記タペットローラ2を配置している。当該部分にこのタペットローラ2を支持する為に、前記1対の支持壁部4、4の互いに整合する位置に形成した支持孔9に前記支持軸3の両端部を内嵌し、更にこの支持軸3の両端面外周縁部をこれら各支持孔9の周縁部に向けかしめ広げている。この構成により、この支持軸3の両端部を前記1対の支持壁部4、4に、これら両支持壁部4、4同士の間に掛け渡した状態で固定している。前記タペットローラ2は、この様にしてこれら両支持壁部4、4同士の間に掛け渡された前記支持軸3の中間部周囲に、直接或はラジアルころ軸受を介して、回転自在に支持している。
【0005】
エンジンへの組み付け状態では、図8に示す様に、前記第一の連結部5の片面(図8の下面)に前記弁体7の基端部を、前記第二の連結部6の片面に設けた球状凹部に前記プランジャ8の先端面を、それぞれ突き当てると共に、前記タペットローラ2の外周面に、エンジンのクランクシャフトと同期して回転するカムシャフト10の中間部に固設した(一般的には一体に形成された)カム11の外周面を当接させる。エンジンの運転時には、このカム11の回転に伴って前記ロッカーアーム1が、前記プランジャ8の先端面と前記球状凹部との当接部を中心(支点)として、図8に実線で示した状態と同じく鎖線で示した状態との間で揺動変位し、前記弁体7を、前記第一の連結部5の押圧力とリターンスプリング12の弾力とにより軸方向に往復移動させる。尚、図示は省略するが、特許文献2等にも、同様の構造を有する板金製ロッカーアームを備えたカムフォロア装置が記載されている。
【0006】
この様な構造の場合、前記支持軸3の両端部は1対の支持壁部4、4に対し、がたつきなく、且つ、前記カム11からタペットローラ2を介して加えられるラジアル荷重を支承できる構造である必要がある。一方で、前記支持軸3の中間部外周面は、タペットローラ2を回転自在に支持する為のラジアルころ軸受の内輪軌道としての役目を有するので、前記中間部外周面に傷等が付く事は好ましくない。従って、前記支持軸3を、前記各支持壁部4、4に形成した支持孔9に圧入する構造は、傷付き防止の面から不利である。
【0007】
又、1対の支持壁部の支持孔に支持軸を圧入により支持する構造で、且つ、この支持軸の中間部外周面に傷等が付く事を防止する為の構造として、この支持軸を、この支持軸の両端部の外径が、中間部の外径に比べて大径である段付形状とする事が知られている。又、前記両支持孔の内径を、前記支持軸の中間部の外径よりも大きく、且つ両端部の外径よりも僅かに小さくする。この様な構造の場合、前記両支持孔に前記支持軸を挿入した場合でも、これら両支持孔の内径は、この支持軸の中間部の外径よりも大きい。この為、この支持軸の中間部外周面に傷等が付く事を防止できる。但し、この様な段付形状の支持軸の作製はコストが嵩んでしまう。
【0008】
更に、支持壁部の支持孔に支持軸を圧入により支持する構造で、且つ、この支持軸の中間部外周面に傷等が付く事を防止する構造として、1対の支持壁部の支持孔のうち、一方の支持孔を前記支持軸の外径よりも小さい内径を有する小径支持孔とし、他方の支持孔をこの支持軸の外径よりも僅かに大きい外径を有する大径支持孔とする構造が知られている。この様な構造の場合、前記支持軸の一端を前記小径支持孔のみに圧入した状態で支持する。但し、この支持軸を前記大径支持孔側から挿入しなければならない。この為、この支持軸を前記両支持孔に支持する際の組み付け方向が制限されて、組み付け性が低下してしまう。
【0009】
又、図9〜10は同じく前記特許文献1に記載され、従来から知られているカムフォロア装置の第2例を示している。このカムフォロア装置は、前記図5〜8に示したカムフォロア装置の構造と同様に、ロッカーアーム1aを構成する1対の支持壁部4a、4aに、タペットローラ2aを支持する為の支持軸3aの両端部を固定している。又、この従来構造では、前記両支持壁部4a、4aに互いに同心に形成した円形の支持孔9a、9aの内径は、前記支持軸3aの外径よりも僅かに大きい。更に、この支持軸3aは、中間部外周面のみを高周波焼入れにより硬化させており、両端部は焼入れせずに軟らかい(生の)ままとしている。
【0010】
この様な支持軸3aを前記ロッカーアーム1aに対し固定する場合には、この支持軸3aの両端部を前記両支持孔9a、9a内に位置させた状態で、この支持軸3aの両端部を径方向外方に塑性変形させる。即ち、この支持軸3aの両端面にパンチの如き治具を押し当てて、この両端面に凹溝13を形成する。そして、この凹溝13の周囲部分を径方向外方に押し広げ(かしめ広げ)、この部分を前記両支持孔9a、9aの幅方向外端(特に断らない限り、支持孔9a、9a、及び支持壁部4a、4aに関して「幅方向外」とは、タペットローラ2aに対向しない側を言う。本明細書及び特許請求の範囲全体で同じ。)側開口縁部に形成した面取り部に押し付ける。
【0011】
この様な構成を有する従来構造の場合、前記支持軸3aの両端部に生の部分を残しつつ、中間部外周面のみを硬化する必要がある。この為、この支持軸3aの焼入れ処理に、加工コストの嵩む高周波焼入れを採用する必要があり、コストが嵩む原因となる。又、この支持軸3aの両端部をかしめ広げるべく、この支持軸3aの両端面に押し付けるパンチの如き治具は、先端部が尖った形状となる為、耐久性が限られ、頻繁に交換を要する。この為、やはりコストが嵩み、カムフォロア装置の製造コストの上昇を招く。
又、前記支持軸3aの両端部をかしめ広げる際の所謂かしめ荷重により、この支持軸3aの中間部が僅かながらも変形してしまう可能性がある。
又、前記支持軸3aの両端部に生の部分を残している。この為、この両端部の強度及び剛性を確保する観点から不利である。
【0012】
又、前述した何れのカムフォロア装置の構造の場合も、タペットローラの内周面と支持軸の中間部外周面との間に設けるラジアルころ軸受を、負荷容量確保の為に、保持器を有しない所謂総ころ型軸受とする事が多い。この様な構造のカムフォロア装置を組み立てる場合、先ず、タペットローラの内周面と、このタペットローラの内径側に配置した軸部材(所謂止め栓)の外周面との間の空間に複数本のころを配置した中間組立体を組み立てる。
【0013】
次いで、この中間組立体を1対の支持壁部の内側面同士の間に、前記止め栓の両端面とこれら両支持壁部の支持孔とを整合させた状態で配置する。次いで、前記支持軸を、これら両支持壁部のうちの一方の支持壁部の支持孔に、この一方の支持壁部の幅方向外側から挿入する。次いで、この支持軸により前記止め栓を押し出しつつ、この支持軸を、その一端部が前記他方の支持壁部の支持孔に挿入されるまで押し込む。更に、必要に応じて前記支持軸の両端部をかしめ広げる。
【0014】
この様な構造の場合、前記支持軸を前記タペットローラの内径側に、前記止め栓を押し出しつつ挿入する作業が面倒である。又、前記中間組立体と前記支持軸とを別体として、組み立てメーカに納入する必要がある。この為、部品管理の観点からコストが嵩んでしまう。更に、前記止め栓を使用する分、部品点数及び組立工数が増大し、コストが嵩んでしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2009−79569号公報
【特許文献2】特公平6−81892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、カムフォロア装置を構成するロッカーアームの構造を工夫する事により、耐久性を確保しつつ、組み付け性が良く、しかも製造コストの低減を図れる構造を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のカムフォロア装置は、ロッカーアームと、支持軸と、タペットローラとを備える。
このうちのロッカーアームは、1対の支持壁部及びこれら両支持壁部同士を連結する連結部を有する。
又、前記支持軸は、その両端部を前記両支持壁部の互いに整合する位置に形成した1対の支持部に支持する事により、これら両支持壁部同士の間に掛け渡す状態で固定されている。
又、前記タペットローラは、前記支持軸の中間部周囲に回転自在に支持され、ラジアル荷重に基づいて変位する。
【0018】
特に、本発明のカムフォロア装置の場合、前記ロッカーアームを構成する両支持壁部の幅方向内側面一部に、これら両支持壁部の外端縁から前記両支持部の端縁に亙り、軸挿入部を形成する。
又、これら両軸挿入部の少なくとも一部の内側面同士の距離は、前記支持軸の軸方向に関する寸法よりも小さい。
更に、前記両軸挿入部は、前記支持軸を、これら両軸挿入部を通じて前記両支持部に支持できる状態に、幅方向に関して弾性変形可能である。
【0019】
上述の様な本発明のカムフォロア装置を実施する場合に具体的には、請求項2に記載した発明の様に、前記両軸挿入部の内側面を、これら両内側面同士の距離が、前記支持部から遠い側の端縁である外端縁で最も大きく、前記支持部に近付く程小さくなる方向に傾斜させる。
【0020】
又、上述の様な本発明のカムフォロア装置を実施する場合に好ましくは、請求項3に記載した発明の様に、前記両軸挿入部のうちで、前記両支持壁部の長さ方向に関する両端部に、これら両支持壁部の外端縁から、前記支持部の端縁に向けて、これら両支持壁部毎に1対ずつのスリットを形成する。
【0021】
又、上述の様な本発明のカムフォロア装置を実施する場合に、例えば、請求項4に記載した発明の様に、前記両支持部を、前記両支持壁部の内側面から凹入する状態で形成された有底の凹部とする。又、これら両支持部のうちの少なくとも一方の支持部と前記支持軸の両端部との係合により、この支持軸の回り止めを図る。
或は、請求項5に記載した発明の様に、前記両支持部を、前記両支持壁部の内側面から凹入する状態で形成された凹部とする。又、これら両凹部のうちの少なくとも一方の凹部の内周面に第一の係合部を形成する。又、前記支持軸の端部のうちの、この第一の係合部が形成された凹部に支持される側の端部に第二の係合部を形成する。そして、この第一の係合部と、この第二の係合部とを係合させて前記支持軸の回り止めを図る。
【発明の効果】
【0022】
前述の様に構成する本発明によれば、耐久性を確保しつつ、製造コストの低減を図り、しかも組み付け性が良いカムフォロア装置を実現できる。
先ず、耐久性の確保は、支持軸を支持部に支持する作業の際、この支持軸の中間部外周面に傷等が付く恐れがない事で達成できる。即ち、本発明の場合には、前記ロッカーアームを構成する両支持壁部の外端縁から前記支持部の端縁に亙り、幅方向に関して弾性変形可能な軸挿入部を形成している。そして、この軸挿入部を弾性変形させ、この軸挿入部の内側面同士の幅を、前記支持軸の軸方向寸法よりも大きくした状態で、この支持軸をこの軸挿入部を通じて前記両支持部に支持する。この様な組み付け作業は、前述した従来構造の第1例の様に、支持壁部の支持孔と支持軸の中間部外周面とが擦れ合う事がない。この為、この支持軸の中間部外周面に傷が付く事を防止できる。
【0023】
又、組立性の向上は、タペットローラと支持軸とを予め組み立てた状態で、前記両支持部に組み付けられる事で達成できる。即ち、本発明の場合、タペットローラと支持軸とを予め組み立てた状態で、前記両軸挿入部を通じて前記支持部に組み付ける事ができる。この為、前述した従来構造の各例の様に、タペットローラの内径側に配置した止め栓を、前記支持軸により押し出す様にして挿入する面倒な作業が不要である。
【0024】
更に、製造コストの低減は、前述した各従来構造の様な止め栓が不要であり、且つ、タペットローラと支持軸とを予め組み立てた状態で、前記両支持部に組み付ける事で達成できる。即ち、組み立てメーカに納入する際も、前述した従来構造の様に中間組立体(タペットローラ、ラジアル軸受、及び止め栓から成る)と支持軸とを別体として納入せず、予め組み立てた状態で納入する事ができる。この為、輸送コスト、及び部品管理コストの低減を図る事ができる。又、前記中間組立体を構成する止め栓が不要である為、部品コスト及び組み立てコストの低減を図る事ができる。
【0025】
又、請求項4、5に記載した発明の様に、支持部と支持軸の両端部との係合により、この支持軸の回り止めを図る構造を採用すれば、この支持軸の両端縁をかしめ広げる必要がなくなる。この為、この支持軸の両端縁を生のままの状態(硬化処理を施していない状態)としておく必要がなくなる。従って、この支持軸の焼入れを、全体を加熱してから焼入れ用の油に浸漬する、所謂ズブ焼により行える。ズブ焼きによる焼入れ処理は、高周波焼入れ処理よりも低コストで行える為、その分だけ製造コストを抑えられる。又、面倒なかしめ作業が不要となる結果、かしめ部を形成するパンチ等の治具も不要である。この為、加工コストの低減を図る事ができる。
又、かしめ作業が不要である為、ラジアルころ軸受の内輪軌道を構成する前記支持軸の軸方向中間部が、かしめ荷重により変形する事もない。
又、前記支持軸の全体に前記ズブ焼きによる熱硬化処理を施している。この為、各ころの外周面の軸方向両端部に、所謂エッジロードの発生を防止する為のクラウニング処理を施す必要がないか、或は、クラウニング処理を施した場合でも、このクラウニング処理を施した部分の径方向に関する落差(落ち量)を小さくする事ができる。その結果、カムフォロア装置を構成するラジアルころ軸受の耐久性の向上を低コストで図る事ができる。
【0026】
更に、支持軸の両端部にもズブ焼入れによる熱硬化処理を施す事ができる。この為、この両端部の強度及び剛性を十分に確保できて、この両端部が、使用時に受けるラジアル荷重に基づき塑性変形する事を有効に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、ロッカーアームの要部斜視図。
【図2】同じく、支持軸を、両支持壁部に組み付ける手順を説明する為の、これら両支持壁部が弾性変形する前の状態を示す断面図(A)と、これら両支持壁部が弾性変形した後の状態を示す断面図(B)。
【図3】同じく、各ころが軸受空間から抜け出る事の防止を図る為のワッシャの形状を変えた、本発明の実施の形態の第2例を示す断面図。
【図4】同第3例を示す、ロッカーアームの要部斜視図。
【図5】従来のカムフォロア装置の第1例を示す斜視図。
【図6】同じく平面図。
【図7】図6のA−A断面図。
【図8】同じくエンジンへの組み付け状態を示す断面図。
【図9】従来のカムフォロア装置の第2例を示す側面図。
【図10】同じく平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
図1〜3は、請求項1〜2、4〜5に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例を含め、本発明のカムフォロア装置の特徴は、支持軸3bを、ロッカーアーム1bを構成する1対の支持壁部4b、4bに支持する部分の構造を工夫した点にある。この特徴部分以外の構造、及びエンジンへの組み付け状態は前記図5〜10に示した構造を含め、従来から知られているカムフォロア装置の構造とほぼ同様であるから、従来と同様に構成する部分に就いては、図示並びに説明を、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0029】
本例のカムフォロア装置を構成するロッカーアーム1bは、前述した各従来構造のカムフォロア装置と同様に、互いに対向する1対の支持壁部4b、4bと、これら両支持壁部4b、4b同士を連結する第一、第二の連結部5、6(図5〜7参照)とを備える。
又、前記両支持壁部4b、4bの内側面の互いに整合する位置に、支持軸3bを支持する為の支持凹部14、14が形成されている。これら両支持凹部14、14は、前記両支持壁部4b、4bの内側面から凹入する状態で形成された有底の円孔であり、その内径は、前記支持軸3bの両端部の外径とほぼ同じか、僅かに(弾性変形に基づいてこの両端部を内嵌できる程度に)小さい。
【0030】
尚、前記両支持凹部14、14の内径を、前記支持軸3bの両端部の外径よりも小さくした場合、これら両支持凹部14、14の内周面とこの支持軸3bの両端部の外周面との係合(締り嵌めの嵌合)により、この支持軸3bの回り止めを図る事ができる。
【0031】
一方、前記両支持凹部14、14の内径を、前記支持軸3bの両端部の外径以上とした場合、この支持軸3bの回り止めを図る為の構造を別途設ける必要がある。この回り止めを図る構造は各種構造を適用できるが、例えば、前記両支持凹部14、14の内周面の一部に設けた平坦面と、前記支持軸3bの両端部の一部に設けた平坦面とを係合させる。又は、前記両支持凹部14、14の内周面、又は、前記支持軸3bの両端部外周面の何れか一方にキー溝の如き凹溝を設け、他方にこの凹溝と係合可能なキーの如き凸部を設け、これら凹溝と凸部とを係合させても良い。尚、上述した様に前記支持凹部14、14と、前記支持軸3bの端部との係合で回り止めを図る場合、少なくとも一方の前記支持凹部14、14と、前記支持軸3bの端部のうちのこの一方の支持凹部14に支持される側の端部とを係合させれば、回り止めを図る事が可能である。
【0032】
又は、対向する前記両支持凹部14、14の底部同士の距離L14(図2参照)を、前記支持軸3bの軸方向の長さL3bよりも小さくする。そして、この支持軸3bを前記両支持凹部14、14に組み付けた状態で、この支持軸3bの両端面を、これら両支持凹部14、14の底部により挟む状態で押圧して、回り止めを図る事もできる。この構造の場合、これら両支持凹部14、14の底部と前記支持軸3bの両端との間に作用する摩擦力を、ラジアルころ軸受16の転動体を構成する各ころ15、15の転動面と、同じくラジアルころ軸受16の内輪軌道を構成する前記支持軸3bの中間部の外周面との間に生じる転がり摩擦により、この支持軸3bを回転させようとする力である、前記ラジアルころ軸受16の動トルクよりも十分に大きくする。
【0033】
又、本例の場合、前記ラジアルころ軸受16は、保持器を有しない所謂総ころ型である。
又、前記支持軸3bは、全体を加熱してから焼入れ用の油に浸漬する、所謂ズブ焼による熱硬化処理が施されている。尚、この様な熱硬化処理は、高周波焼入れにより行う事もできる。又、熱硬化処理に代えて、又は、熱硬化処理と共に、前記支持軸全体の外周面に、DLC(Diamond Like Carbon:ダイヤモンドライクカーボン)被膜等の超硬コーティング層を形成する事もできる。何れにしても、本例の場合、両端部を含む支持軸3bの全体に硬化処理を施す事ができる。
【0034】
又、前記ロッカーアーム1bを構成する両支持壁部4b、4bの一部に、この両支持壁部4b、4bの内側面から凹入する状態で形成され、幅方向(図2の左右方向)に関して弾性変形可能な軸挿入部17、17が形成されている。又、これら両軸挿入部17、17は、一端縁(外端縁)が、エンジンに組み付けた状態でカム11(図8参照)が存在する方向(図1、2の上方)に開口し、他端縁(内端縁)が前記両支持凹部14、14に開口している。更に、これら両軸挿入部17、17の内側面は、これら両内側面同士の距離が一端縁で最も大きく、他端縁に近付く程小さくなる方向に傾斜している。
【0035】
前述の様な本発明のカムフォロア装置を組み立てる場合、先ず、前記タペットローラ2bの内周面と、このタペットローラ2bの内径側に設けた支持軸3bの外周面との間の空間(軸受空間)に、前記ラジアルころ軸受16を構成する複数個のころ15、15を配置して、ローラ組立体18を組み立てる。尚、このラジアルころ軸受16は、保持器を有しない所謂総ころ型である。この為、前記タペットローラ2bの軸方向両端部の内周面と前記支持軸3bの外周面との間に、それぞれ円輪状のワッシャ19、19を設けると共に、これらワッシャ19、19及び前記各ころ15、15を、グリースにより、前記タペットローラ2b及び前記支持軸3bに貼着している。この様にして、前記各ころ15、15が、前記軸受空間から軸方向に抜け出る事を防止すると共に、前記各ころ15、15の軸方向端面と前記両支持壁部4b、4bの内側面とが直接擦れ合わない様にしている。尚、図3に示す様に、ワッシャ19a、19aを、前記支持軸3bの外周面の、前記タペットローラ2bを軸方向両端側から挟む位置に設ける構成を採用する事もできる。
尚、ラジアルころ軸受は、保持器を備えた所謂C&R(ケージ・アンド・ローラ)の構造を採用しても良い。又、ラジアルころ軸受を省略した、所謂シングルローラ型や、タペットローラの内周面と支持軸の外周面との間に円筒状部材を設けた、所謂ダブルローラ型の構造を採用する事もできる。この様な構造を採用した場合、前記各ワッシャ19、19aを省略できる。
【0036】
何れにしても、前記支持軸3bの周囲に前記タペットローラ2bを回転自在に組み付けたならば、次いで、この支持軸3bを前記両支持壁部4b、4b同士の間に組み付ける。本例の場合には、図2(A)に示す様に、前記ローラ組立体18を、前記両軸挿入部17、17の外端(図1、2の上方)から、前記両支持凹部14、14に向けて押し込む。すると、図2(B)に示す様に、前記両軸挿入部17、17が、前記支持軸3bの両端縁により幅方向外方へ押圧されて、これら両軸挿入部17、17の内側面同士の間隔が拡がる方向に弾性変形する。その結果、前記支持軸3bの両端部を、前記両軸挿入部17、17を通じて、前記両支持凹部14、14に内嵌し、支持する事ができる。前記支持軸3bの両端部がこれら両支持凹部14、14に支持された状態では、前記両軸挿入部17、17の内側面同士の間隔は弾性変形する前の状態に戻る。
【0037】
尚、前記両軸挿入部17、17が弾性変形に加えて塑性変形した場合には、前記支持軸3bの両端部が前記両支持凹部14、14と整合した状態で、前記両支持壁部4b、4bを幅方向内側に向けて、前記両軸挿入部17、17の内側面同士の間隔が、変形する前の状態になるまで押圧する。
何れにしても、前述した様にこれら両軸挿入部17、17の内側面同士の間隔を変形する前の状態に戻す事で、これら両軸挿入部17、17の内端縁と前記支持軸3bの両端部とを係合させる。その結果、前記支持軸3bがこれら両軸挿入部17、17を通じて、前記両支持凹部14、14への組み付け方向(図2の上方)に抜け出る事を防止する。
【0038】
上述の様な本例の構造では、前記両軸挿入部17、17の内端縁と前記支持軸3bの両端部との係合幅(図2の左右方向の幅)が大きい程、前記支持軸3bの、前記両支持凹部14、14への組み付け方向(図2の上方)への抜け止めを図る事ができる。但し、前記係合幅が大きいと、この支持軸3bを前記両支持凹部14、14に支持する際の、前記両軸挿入部17、17の幅方向外方への弾性変形量が大きくなる。この為、前記係合幅は、前記支持軸3bの抜け止め防止と、この弾性変形量等とのバランスを考慮して適宜設計的に決定する。
【0039】
尚、本例のカムフォロア装置は、エンジンに組み付けた状態では、前記図8に示す従来構造のカムフォロア装置と同様に、前記タペットローラ2bの上側(図2の上側)にカム11(図8参照)が配置される。即ち、このタペットローラ2bは、使用状態で、図2の上方から下方に向かう方向(前記支持軸3bの前記両支持凹部14、14への組み付け方向)の荷重を受ける。この為、前記係合幅をそれほど大きくしなくても、使用時に前記支持軸3bが、前記両軸挿入部17、17を通じて抜け出る事はない。
【0040】
前述した様な本例のカムフォロア装置の場合、前記支持軸3bを前記両支持凹部14、14に支持する作業の際、前記ラジアルころ軸受16の内輪軌道を構成する前記支持軸3bの中間部外周面に傷等が付く恐れがない。即ち、前記ロッカーアーム1bを構成する両支持壁部4b、4bの外端縁から前記両支持凹部14、14の端縁に亙り、幅方向に関して弾性変形可能な軸挿入部17、17を形成している。そして、これら両軸挿入部17、17を弾性変形させて、これら両軸挿入部17、17の内側面同士の幅を、前記支持軸3bの軸方向寸法よりも大きくした状態で、この支持軸3bをこれら両軸挿入部17、17を通じて前記両支持壁部4b、4bの両支持凹部14、14に支持する。この様な組み付け作業は、前述した従来構造の第1例の様に、両支持壁部4、4(図5参照)の支持孔9と支持軸3の中間部外周面とが擦れ合う事がない。この為、前記支持軸3bの中間部外周面に傷等が付く事を防止できる。
【0041】
又、前記タペットローラ2bと前記支持軸3bとを予め組み立てた状態で、前記両支持壁部4b、4bの両支持凹部14、14に組み付ける事ができる。この為、前述した従来構造の各例の様に、タペットローラの内径側に配置した止め栓を、支持軸により押し出しつつこの支持軸を挿入する様な面倒な作業が不要である。その結果、作業コスト、及び部品コストの低減を図る事ができる。
【0042】
又、前述した様に、タペットローラ2bと、ラジアルころ軸受16と、支持軸3bとを予め組み立てた、ローラ組立体18の状態で、前記両支持壁部4b、4bの両支持凹部14、14に組み付ける事ができる。この為、組み立てメーカに納入する際も、前記ローラ組立体18の状態で納入する事ができる。その結果、輸送コスト、及び部品管理コストの低減を図る事ができる。
【0043】
又、前記両支持凹部14、14と前記支持軸3bの両端部との係合により、この支持軸3bの回り止めを図っている。この為、この支持軸3bの両端縁をかしめ広げる必要がなく、この支持軸3bの両端縁を生のままの状態(硬化処理を施していない状態)としておく必要がなくなる。従って、前記支持軸3bの焼入れを、全体を加熱してから焼入れ用の油に浸漬する、所謂ズブ焼により行える。ズブ焼きによる焼入れ処理は、高周波焼入れ処理よりも低コストで行える為、その分だけ製造コストを抑えられる。
又、面倒なかしめ作業が不要となる結果、かしめ部を形成するパンチ等の治具も不要である。この為、加工コストの低減を図る事ができる。
【0044】
又、かしめ作業が不要である為、前記ラジアルころ軸受16の内輪軌道を構成する前記支持軸3bの中間部が、かしめ荷重により変形する事もない。
又、前記支持軸3bの全体に前記ズブ焼きによる熱硬化処理を施している。この為、前記各ころ15、15の外周面の軸方向両端部に、所謂エッジロードの発生を防止する為のクラウニング処理を施す必要がないか、或は、クラウニング処理を施した場合でも、このクラウニング処理を施した部分の径方向に関する落差(落ち量)を小さくする事ができる。その結果、前記ラジアルころ軸受16の耐久性の向上を低コストで図る事ができる。
【0045】
更に、前記支持軸3bの両端部にもズブ焼入れによる硬化処理を施す事ができる。この為、この両端部の強度及び剛性を十分に確保できて、この両端部が、使用時に受けるラジアル荷重に基づき塑性変形する事を有効に防止できる。
【0046】
[実施の形態の第2例]
図4は、総ての請求項に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例のカムフォロア装置の場合、ロッカーアーム1cの両軸挿入部17aの、両支持壁部4bの長さ方向(図4の左右方向)に関する両端部に、この両支持壁部4bの外端縁から、両支持凹部14に掛けて1対のスリット20、20を形成している。
【0047】
この様にして、前記両軸挿入部17aの、前記支持壁部4bの幅方向に関する剛性を低くして、この支持壁部4bへの支持軸3b(図2参照)の組み付け作業の容易化を図っている。尚、前記両スリット20、20の長さは、前記両軸挿入部17aの剛性が不足しない程度に、適宜決定する事ができる。その他の構造、及び作用、効果は前記実施の形態の第1例と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
前記実施の形態の各例は、支持壁部に形成した両支持部を有底円筒状の凹部としているが、これら両支持部の内周面の形状を、楕円や、矩形状等の非円形とし、支持軸の両端部の形状を、これら両支持部の内周面形状に沿った形状として、支持軸の回り止めを図る事もできる。
又、前記両支持部のうちの一方と、前記支持軸の軸方向一方の端部との係合のみで、この支持軸の回り止めを図る構成を採用する事もできる。
【符号の説明】
【0049】
1、1a、1b、1c ロッカーアーム
2、2a、2b タペットローラ
3、3a、3b 支持軸
4、4a、4b 支持壁部
5 第一の連結部
6 第二の連結部
7 弁体
8 プランジャ
9、9a 支持孔
10 カムシャフト
11 カム
12 リターンスプリング
13 凹溝
14 支持凹部
15 ころ
16 ラジアルころ軸受
17、17a 軸挿入部
18 ローラ組立体
19、19a ワッシャ
20 スリット















【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の支持壁部及びこれら両支持壁部同士を連結する連結部を有するロッカーアームと、その両端部をこれら両支持壁部の互いに整合する位置に形成した1対の支持部に支持する事により、これら両支持壁部同士の間に掛け渡す状態で固定された支持軸と、この支持軸の中間部周囲に回転自在に支持され、ラジアル荷重に基づいて変位するタペットローラとを備えたカムフォロア装置に於いて、
前記ロッカーアームを構成する両支持壁部の幅方向内側面の一部に、これら両支持壁部の外端縁から前記両支持部の端縁に亙り、軸挿入部が形成されており、
これら両軸挿入部の少なくとも一部の内側面同士の距離が、前記支持軸の軸方向に関する寸法よりも小さく、
前記両軸挿入部は、前記支持軸を、これら両軸挿入部を通じて前記両支持部に支持できる状態に、幅方向に関して弾性変形可能である事を特徴としたカムフォロア装置。
【請求項2】
前記両軸挿入部の内側面が、これら両内側面同士の距離が外端縁で最も大きく、前記支持部に近付く程小さくなる方向に傾斜している、請求項1に記載したカムフォロア装置。
【請求項3】
前記両軸挿入部の前記両支持壁部の長さ方向に関する両端部に、この両支持壁部の外端縁から、前記支持部の端縁に向かい、前記両支持壁部毎に1対ずつのスリットが形成されている、請求項1〜2のうちの何れか1項に記載したカムフォロア装置。
【請求項4】
前記両支持部が、前記両支持壁部の内側面から凹入する状態で形成された有底の凹部であり、これら両支持部のうちの少なくとも一方の支持部と前記支持軸の端部との係合により、この支持軸の回り止めを図っている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したカムフォロア装置。
【請求項5】
前記両支持部が、前記両支持壁部の内側面から凹入する状態で形成された凹部であり、これら両凹部のうちの少なくとも一方の凹部の内周面に形成された第一の係合部と、前記支持軸の端部のうちのこの第一の係合部が形成された凹部に支持される側の端部に形成された第二の係合部との係合により、この支持軸の回り止めを図っている、請求項1〜3のうちの何れか1項に記載したカムフォロア装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2013−29027(P2013−29027A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163581(P2011−163581)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】