説明

カラーレンズの製造方法

【課題】染色時間や製造時間を改善できるカラーレンズの製造方法を提供する。
【解決手段】染色可能なハードコート層を形成するための塗布液を、レンズ基材上に直にまたは他の層を挟んで塗布する塗布工程と、塗布工程の後、塗布液が塗布されたレンズ基材を、温度T1℃でt1時間加熱する第1の加熱工程と、第1の加熱工程の後、加熱されたレンズ基材を染色液に浸漬させて染色する染色工程と、染色工程の後、染色されたレンズ基材を、温度T2℃でt2時間加熱する第2の加熱工程とを有する。温度T1と時間t1との積を第1の管理値Q1、温度T2と時間t2との積を第2の管理値Q2、第1の管理値Q1と第2の管理値Q2との和を(Q1+Q2)としたときに、Q1と(Q1+Q2)とが以下の条件を満たす。
0.2<Q1/(Q1+Q2)≦0.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡などに用いられるプラスチック製またはガラス製のカラーレンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材あるいは基板を構成するプラスチックレンズあるいはガラスレンズを染色する代わりに、基板に積層された機能層、例えば、ハードコート層を染色したカラーレンズが知られている。カラーレンズの用途には、視力矯正用レンズやサングラス等の眼鏡レンズが含まれる。特許文献1には、眼鏡レンズの凸面にハードコート液を塗布し、その後、135℃で0.5時間加熱硬化させ、さらに、凹面にハードコート液を塗布し、その後、135℃で2.5時間加熱硬化させ、さらに、その後、ハードコート層付きレンズを染色液に浸漬させて染色する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−310755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
カラーレンズの製造方法では、染色時間の短縮や、トータルの製造時間の短縮が求められている。
【0004】
従来のカラーレンズの製造方法は、染色可能なハードコート層を形成するための塗布液をレンズ基材上に塗布し、ハードコート層が完全硬化状態(焼き固められた状態)となるような熱量を与え、その後、ハードコート層が形成されたレンズ基材を浸染法により染色している。染色レンズについて、さらに研究を重ねたところ、染色した後は、色ムラを防止し、また、色を定着させるために、一時間程度のアニールを行うことが望ましく、その後、反射防止層などを必要に応じてさらに形成することが望ましいことが判明した。しかしながら、染色後のアニールは、製造工程を延長することになる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法は、染色可能なハードコート層を形成するための塗布液をレンズ基材上に塗布し、第1の加熱工程においてハードコート層が半硬化状態となるような熱量を与え、その後、半硬化状態のハードコート層を含むレンズ基材を浸染し、第2の加熱工程において、染料がハードコート層に定着し、染色時に生じた歪みが除かれ、しかも、ハードコート層が完全硬化状態となるような熱量を与える。
【0006】
すなわち、本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法は、染色可能なハードコート層を形成するための塗布液を、レンズ基材上に直に、または他の層を挟んで塗布する塗布工程と、塗布工程の後、塗布液が塗布されたレンズ基材を、温度T1℃でt1時間加熱する第1の加熱工程と、第1の加熱工程の後、加熱されたレンズ基材を染色液に浸漬させて染色する染色工程(レンズ基材に形成されている半硬化状態のハードコート層を浸染する(染色液に浸漬させて染色する)染色工程)と、染色工程の後、染色されたレンズ基材(染色された半硬化状態のハードコート層が形成されているレンズ基材)を、温度T2℃で
2時間加熱する第2の加熱工程とを有する。このカラーレンズの製造方法においては、
温度T1と時間t1との積を第1の管理値Q1、温度T2と時間t2との積を第2の管理値Q2、Q1とQ2との和を(Q1+Q2)としたときに、第1の管理値Q1と(Q1+Q2)とが以下の条件を満たす。
0.2<Q1/(Q1+Q2)≦0.5 (1)
【0007】
管理値Q1およびQ2は、それぞれ第1の加熱工程および第2の加熱工程においてレンズ基材に加えられる熱量に相当する。したがって、(Q1+Q2)は、ハードコート層が硬化するために寄与する熱量に相当する。上述した式(1)の条件は、染色前の第1の加熱工程において、ハードコート層を完全に硬化させないようにしていることを示している。
【0008】
第1の加熱工程における第1の管理値Q1を、全体の熱量に相当する(Q1+Q2)の50%以下とすることにより、ハードコート層は、半硬化状態(ハンドリング可能な程度にまで乾燥した状態、完全に硬化していない状態)となる。そして、ハードコート層が半硬化状態のときに染色すると、ハードコート層が完全硬化状態のときに染色する場合と比べて、染色時間を短縮することができ、良好な染色性を確保できることがわかった。
【0009】
さらに、第2の加熱工程において、ハードコート層を硬化させるために必要な残りの熱量を加えることで、ハードコート層が半硬化状態から完全硬化状態となる。しかも、その第2の加熱工程において、染料がハードコート層に定着し、以降の工程において、浸透した染料(色)が抜けないことがわかった。そして、第2の加熱工程でハードコート層を半硬化状態から完全硬化状態としても、耐擦傷性や密着性といった耐久性品質についても、問題のない製品を提供できることがわかった。
【0010】
なお、式(1)に示したように、第1の管理値Q1が小さすぎて、比Q1/(Q1+Q2)が0.2以下であると、染色処理時に拭き傷が付くことがわかった。一方、第1の管理値Q1を大きくして比Q1/(Q1+Q2)が0.5を越えると、染色時間の短縮に大きな効果が得られないことがわかった。
【0011】
したがって、本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法においては、第1の加熱工程において、式(1)の条件を満たすようなQ1の熱量を与えることにより、第1の加熱工程を短縮できるともに、半硬化状態で染色することができ、染色効率が向上する。したがって、染色速度が向上し、染色工程の短縮が可能となる。その後、第2の加熱工程において、残りの熱量を第2の管理値Q2に基づき与えることにより、染料をハードコート層に定着させるとともに、ハードコート層を半硬化状態から完全硬化状態にできる。したがって、染色後の加熱を含めてハードコート層の製造と染色に要する時間が長くなるのを防止できる。さらに、染色工程を短縮可能となるので、ハードコート層の製造、染色、その後のアニールを含めたトータルの製造時間の短縮が可能となる。
【0012】
本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法において、染色工程で用いる染料としては、色ムラを抑制するために分散染料を用いることが望ましい。染色工程では、レンズを染色助剤水溶液で含浸した後、浴から引き上げたレンズを水洗し、乾燥した後、染色浴で染色する浸染法により染色を行う。この際に使用する染料には、特に制限はないが、堅牢性の高いものが好ましい。
【0013】
染料としては、例えば、アントラキノン系染料、キノフタロン系染料、ニトロジフェニルアミン系染料、アゾ系染料などの分散染料を使用することができる。分散染料の具体例としては、p−アニシジン、アニリン、p−アミノアセトアニリド、p−アミノフェノール、1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼン、2−クロロ−4−ニトロアニリン、o−クロロニトロベンゼン、ジフェニルアミン、m−ニトロアニリン、p−ニトロアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アニリン、1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン、フェノール等のベンゼン系中間物、p−クレシジン(6−メトキシ−m−トルイジン)、m−クレゾール、p−クレゾール、m−トルイジン、2−ニトロ−p−トルイジン、p−ニトロトルエン等のトルエン系中間物、1−ナフチルアミン、2−ナフトール等のナフタレン系中間物、1−アミノ−4−ブロモアントラキノン−2−スルホン酸(ブロマ
ミン酸)、1−アントラキノンスルホン酸、1,4−ジアミノアントラキノン、1,5−ジクロロアントラキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン(キニザリン)、1,5−ジヒドロキシアントラキノン(アントラルフィン)、1,2,4−トリヒドロキシアントラキノン(プルプリン)、2−メチルアントラキノン等の無水フタル酸、アントラキノン系中間物などが挙げられる。また、分散染料は単独で又は2種以上混合して使用してもよい。分散染料は、通常、水に分散して染色浴とされるが、溶媒としてメタノール、エタノール、ベンジルアルコールなどの有機溶媒を併用してもよい。
【0014】
また、染色浴には、染料に対する分散剤としてさらに界面活性剤を添加することもできる。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物、ラウリル硫酸塩などの陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチルアルキルエーテル、アルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤などが挙げられる。これらの界面活性剤は、レンズの着色濃度に応じて、使用する染料の量に対して5〜200重量%の範囲で使用するのが好ましい。浸染は、分散染料及び界面活性剤を水又は水と有機溶媒との混合物中に分散させて染色浴を調製し、この染色浴中にプラスチックレンズを浸漬し、所定温度で所定時間染色を行う。染色温度及び時間は、所望の着色濃度により変動するが、通常、95℃以下で数分〜30分程度でよく、染色浴の染料濃度は0.01〜5重量%であるのが好ましい。
【0015】
本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法においては、温度T1および温度T2は、以下の条件を満たすことが望ましい。
100℃<T1<150℃ (2)
100℃<T2<150℃ (3)
【0016】
温度T1が100℃以下であると、ハードコート層の硬化が進まず、染色の歪取りおよ
び染色処理時に拭き傷がつき易くなる。一方、温度T1が150℃以上であると、プラス
チックレンズの場合は、熱によりレンズ基材が黄色く変色し易くなる。
【0017】
同様に、温度T2が100℃以下であると、染色の歪取りおよび染色処理時に拭き傷が
つき易くなる。一方、温度T2が150℃以上であると、熱によりレンズ基材が黄色く変
色し易くなる。
【0018】
また、本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法においては、時間t1と時間t2との和は、以下の条件を満たすことが望ましい。
1時間≦t1+t2≦3時間 (4)
【0019】
1+t2が1時間未満であると、ハードコート層の硬化が不十分で擦傷性の評価が低下する。一方、t1+t2が3時間を越えると、プラスチックレンズの場合は、熱によりレンズ基材が黄色く変色し易くなる。また、トータルの製造時間の短縮の効果が得られ難くなる。
【0020】
本発明の一態様にかかるカラーレンズの製造方法において、染色可能なハードコート層の一例としては、金属酸化物微粒子、シラン化合物および多官能エポキシ化合物を主成分としたものを挙げることができる。
【0021】
金属酸化物微粒子としては、メタノール分散アンチモン酸化物被覆酸化チタン含有複合酸化物ゾル、あるいは、Si,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物からなる、微粒子または複合微粒子を使用できる。金属酸化物微粒子の最外表面を有機ケイ素化合物で改質処理を施した微粒
子であっても良く、混合物、固溶状態、他の複合状態で含んでいるものが挙げられる。酸化チタンは無定型であっても、アナタース型、ルチル型、ブルッカイト型あるいはペロブスカイト型チタン化合物であっても良い。これらは分散媒たとえば水やアルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものである。また複合酸化物微粒子は、その表面が有機珪素化合物又はアミン系化合物で処理され改質されていても良い。この際用いられる有機ケイ素化合物としては、単官能性シラン、あるいは二官能性シラン、三官能性シラン、四官能性シラン等がある。処理に際しては、加水分解性基を未処理で行ってもあるいは加水分解して行ってもよい。また処理後は、加水分解性基が微粒子の−OH基と反応した状態が好ましいが、一部残存した状態でも安定性には何ら問題がない。またアミン系化合物としてはアンモニウムまたはエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、n−プロピルアミン等のアルキルアミン、ベンジルアミン等のアラルキルアミン、ピペリジン等の脂環式アミン、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンがある。これら有機ケイ素化合物とアミン化合物の添加量は微粒子の重量に対して1〜15%程度の範囲内で加える必要がある。いずれも粒子径は約1〜300ミリミクロンが好適である。
【0022】
シラン化合物としては、下記の一般式(A)で表される有機ケイ素化合物である成分を含有する組成物を用いて形成することが好ましい。
12nSiX13-n (A)
(式(A)中、nは0または1である。)
【0023】
式(A)中、R1は、重合可能な反応基または加水分解可能な官能基をもつ有機基であ
り、重合可能な反応基の具体例としては、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタクリル基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、アミノ基等が挙げられ、加水分解可能な官能基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0024】
式(A)中、R2は炭素数1〜6の炭化水素基であり、具体例としては、メチル基、エ
チル基、ブチル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。また、式(A)中、X1は加
水分解可能な官能基であり、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基、ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0025】
上記の一般式(A)で表される有機ケイ素化合物の具体例としては、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトシキ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン、テトラメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもかまわない。また、加水分解を行ってから用いた方がより有効である。
【0026】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、過酸化法で合成されるポリオレフィン系エポキシ樹脂、シクロペンタジエンオキシドやシクロヘキセンオキシドあるいはヘキサヒドロフタル酸とエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエステルなどの脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールAやカテコール、レゾシノールなどの多価フェノールあるいは(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ソルビ
トールなどの多価アルコールとエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエーテル、エポキシ化植物油、ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンから得られるエポキシノボラック、フェノールフタレインとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、グリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートアクリル系モノマーあるいはスチレンなどの共重合体、さらには上記エポキシ化合物とモノカルボン酸含有(メタ)アクリル酸とのグリシジル基開環反応により得られるエポキシアクリレートなどが挙げられる。
【0027】
さらに、多官能エポキシ化合物としては、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテル、等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0028】
ハードコート層に含まれる成分は、上記に限定されない。例えば、ハードコート層を形成するときには、上記成分の他に必要に応じて添加剤を用いることが可能である。添加剤としては、例えば、硬化触媒が挙げられる。硬化触媒としては、過塩素酸、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸マグネシウム等の過塩素酸類、Cu(II)、Zn(II)、Co(II)、Ni(II)、Be(II)、Ce(III)、Ta(III)、Ti(III)、Mn(III)、La(III)、Cr(III)、V(III)、Co(III)、Fe(III)、Al(III)、Ce(IV)、Zr(IV)、V(IV)等を中心金属原子とするアセチルアセトネ−ト、アミン、グリシン等のアミノ酸、ルイス酸、有機酸金属塩等が挙げられる。この中でも最も好ましい硬化触媒としては、過塩素酸マグネシウム、Al(III),Fe(III)のアセチルアセトネ−トが挙げられる。添加量は、固形分濃度の0.01〜5.0重量%の範囲内が望ましい。
【0029】
また、製造過程においては、上記成分に加えて溶剤などが用いられる。希釈に用いられる溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等がある。また、必要に応じて、少量の界面活性剤、帯電防止剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料、フォトクロミック化合物等を添加し、ハードコート層を形成するコーティング液の塗布性および硬化後の被膜性能を改良することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1に、本発明の実施例におけるレンズの製造工程の概要を示している。まず、ステッ
プ100において、セイコーエプソン(株)製、セイコースーパーソブリン用レンズ生地(以下SSVと略す。)を用いて屈折率1.67のプラスチック製のレンズ基材を形成した。
【0031】
次に、ステップ101において、染色可能なハードコート層を形成するための塗布液を、浸漬法により、レンズ基材上に塗布した(塗布工程)。塗布液は、以下のようにして調合した。ブチルセロソルブ103.2gおよびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン35.3gを混合したものを用意した。この混合液に0.1N塩酸水溶液9.7gを攪拌しながら滴下した。さらに3時間攪拌後、一昼夜熟成させた。この液にメタノール分散酸化チタン含有複合酸化物ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名「オプトレイク特殊品(62)」固形分20%品312.5g、ジグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス(株)製、商品名「デナコールEX−421」)37.5g、過塩素酸マグネシウム1.7g、シリコーン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L−7604」)0.15g、フェノール系酸化防止剤(川口化学工業(株)製、商品名「アンテージクリスタル」)0.6gを添加し4時間攪拌後、一昼夜熟成させ、塗布液とした。この塗布液を、レンズ基材に浸漬法(引き上げ速度20cm/min)により塗布した。
【0032】
ステップ102において、塗布液が塗布されたレンズ基材を、温度T1℃でt1時間加熱した(第1の加熱工程)。次に、ステップ103において、温度T1℃でt1時間加熱したレンズ基材を、染料が分散されているとともに活性剤が混入された約90℃の浴中に、視感透過率が50%となるまでt3時間浸漬し、ハードコート層の染色を行った(染色工程
)。分散染料としては、例えば、セイコープラックスダイヤコート用染色剤アンバーDを用いることができる。
【0033】
ステップ104において、染色されたハードコート層が形成されているレンズ基材を、温度T2℃でt2時間加熱した(第2の加熱工程)。これにより、レンズ基材上に、染色されたハードコート層が膜厚1.0μmで形成された。上記塗布液によるハードコート層の焼成後(第2の加熱工程後)の固形分比は、金属酸化物:シラン化合物:多官能性エポキシ化合物が約50:約20:約30となった。続けて、ハードコート層上に、反射防止層を形成してもよい。さらに、反射防止層の上に防汚層を形成してもよい。
【0034】
以下、温度T1(℃)、時間t1(時間)、温度T2(℃)、時間t2(時間)を変化させてサンプルを形成した。また、温度T1と時間t1との積を第1の管理値Q1(℃・H)、温度T2と時間t2との積を第2の管理値Q2(℃・H)、Q1とQ2との和を(Q1+Q2)(℃・H)とし、比Q1/(Q1+Q2)が、上述した式(1)を満たすものを実施例、満たさないものを比較例とした。
【0035】
図2は、実施例および比較例のレンズサンプルの製造条件と、染色性と、染色時の作業性、黄変度、染色の歪取り、耐擦傷性および密着性の試験結果とを示している。図3は、実施例および比較例のレンズサンプルの評価を示している。
【0036】
(実施例1)
図2に示すように、実施例1では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で
、0.50時間(時間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となる
のに3分を要した。また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.50
時間(時間t2)、加熱した。
【0037】
図3に示すように、実施例1では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1(=T1×t1)は62.5(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2(=T2×t2)は187.5(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q
1+Q2)が250.0(小数点2桁目を四捨五入)である。熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.3(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲内である。また、加熱および染色に要するトータルタイム(トータルリードタイム)Pt(t1+t2+t3)は、123分であった。
【0038】
(実施例2)
実施例2では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、0.50時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに3分を要した。
また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、0.50時間(時間t2)、加熱した。
【0039】
実施例2では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は62.5(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は62.5(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は125.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.5(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲内である。また、トータルリードタイム(t1+t2+t3)は63分であった。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、1.00時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに6分を要した。
また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.00時間(温度t2)、加熱した。
【0041】
実施例3では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は125.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は125.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は250.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.5(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲内である。また、トータルリードタイム(t1
+t2+t3)は126分であった。
【0042】
(比較例1)
比較例1では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、1.00時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに6分を要した。
また、第2の加熱工程において、80℃(温度T2)で、0.50時間(時間t2)、加熱した。
【0043】
比較例1では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は125.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は40.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は165.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.8(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
2+t3)は、96分であった。
【0044】
(比較例2)
比較例2では、第1の加熱工程において、80℃(温度T1)で、0.50時間(時間
1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに1分を要した。ま
た、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.50時間(時間t2)、加熱した。
【0045】
比較例2では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は40.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は187.5(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は227.5(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.2(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
2+t3)は、121分であった。
【0046】
(比較例3)
比較例3では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、0.25時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに1分を要した。
また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.75時間(時間t2)、加熱した。
【0047】
比較例3では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は31.3(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は218.8(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は250.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.1(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
2+t3)は、121分であった。
【0048】
(比較例4)
比較例4では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、2.00時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに10分を要した
。また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.00時間(時間t2)、加熱した。
【0049】
比較例4では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は250.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は125.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は375.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.7(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
+t2+t3)は、190分であった。
【0050】
(比較例5)
比較例5では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、3.00時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに12分を要した
。また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.00時間(時間t2)、加熱した。
【0051】
比較例5では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は375.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は125.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は500.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.8(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
+t2+t3)は、252分であった。
【0052】
(比較例6)
比較例6では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、6.00時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに15分を要した
。また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、1.00時間(時間t2)、
加熱した。
【0053】
比較例6では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Qは750.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は125.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は875.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.9(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
2+t3)は、435分であった。
【0054】
(比較例7)
比較例7では、第1の加熱工程において、150℃(温度T1)で、0.25時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに3分を要した。
また、第2の加熱工程において、125℃(温度T2)で、2.00時間(時間t2)、加熱した。
【0055】
比較例7では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は37.5(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は250.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は287.5(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.1(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
2+t3)は、138分であった。
【0056】
(比較例8)
比較例8では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、2.00時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに10分を要した
。また、第2の加熱工程において、120℃(温度T2)で、1.00時間(時間t2)、加熱した。
【0057】
比較例8では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は250.0(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は120.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は370.0(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.7(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
+t2+t3)は、190分であった。
【0058】
(比較例9)
比較例9では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、0.25時間(時
間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに1分を要した。
また、第2の加熱工程において、150℃(温度T2)で、2.00時間(時間t2)、加熱した。
【0059】
比較例9では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は31.3(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は300.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は331.3(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.1(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1
2+t3)は、138分であった。
【0060】
(比較例10)
比較例10では、第1の加熱工程において、125℃(温度T1)で、0.25時間(
時間t1)、加熱した。染色工程において、視感透過率が50%となるのに6分を要した
。また、第2の加熱工程において、80℃(温度T2)で、0.25時間(時間t2)、加熱した。
【0061】
比較例10では、第1の加熱工程の熱量に相当する管理値Q1は31.3(小数点2桁目を四捨五入)、第2の加熱工程の熱量に相当する管理値Q2は20.0(小数点2桁目を四捨五入)、総熱量に相当する(Q1+Q2)は51.3(小数点2桁目を四捨五入)である。また、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)は0.6(小数点2桁目を四捨五入)であり、上記式(1)の範囲外である。また、トータルリードタイム(t1+t2+t3)は、36分であった。
【0062】
(評価方法・評価基準)
実施例1〜3および比較例1〜10として説明した製造方法で得られたカラーレンズサンプルに対して、染色時の作業性、黄変度、染色の歪取り、耐擦傷性、密着性に関する試験を行った。その結果を図2に纏めてある。
【0063】
染色時の作業性の試験は、染色後のレンズ表面の残染料を、アセトンを浸み込ませた布で拭き取る際、レンズ表面からハードコート層の剥がれが生じるか否かで判断した。染色時の作業性の評価基準は、「○」は、全く剥がれないものを示し、「×」は、僅かでも剥がれが生じたものを示している。
【0064】
黄変度は、目視で判断した。黄変度の評価基準は、「○」は、黄変なしを示し、「△」は、わずかな黄変が生じたことを示し、「×」は、黄変が目立つことを示している。
【0065】
染色の歪取りの試験は、暗箱中で黒色の背景のもと、蛍光灯の透過光および反射光を用いて、第2の加熱工程を経たレンズ表面の歪みの状態について、目視にて判断した。染色の歪取りの試験の評価基準は、「○」は、歪が無いものを示し、「×」は、歪が残っているものを示している。
【0066】
耐擦傷性の試験は、カラーレンズの表面に、ボンスター#0000 スチールウール(
日本スチールウール(株)製)で1kgの荷重をかけ、10往復表面を摩擦し、傷ついた程度を目視で観察した。この耐擦傷性の評価基準は、傷の程度を目視の観察により10段階(1(悪)〜10(良))にランク付けし、「◎」は、段階10〜8で非常に耐擦傷性が高く、「〇」は、段階7〜6で耐擦傷性が高く、「△」は、段階5〜4で耐擦傷性は若干低く、「×」は、段階3〜1で耐擦傷性が低いことを示している。
【0067】
密着性は、レンズサンプルを3つの異なる条件に放置したものについて試験を行った。サンシャインの密着性の試験は、レンズサンプルを炭素の電気放電のアーク光を120時間暴露した後(太陽下で120時間放置したものに相当)、JISD−0202に準じてクロスカットテープ試験により行った。恒温恒湿に晒した後の密着性の試験は、レンズサンプルを60℃、99%の相対湿度の中に7日間放置し、その後、JISD−0202に準じてクロスカットテープ試験により行った。温水に晒した後の試験は、レンズサンプルを90℃の温水で1.5時間放置し、その後、JISD−0202に準じてクロスカットテープ試験により行った。
【0068】
クロスカットテープ試験は、ナイフを用い基材表面に1mm間隔に切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個形成させ、次に、その上ヘセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製:商品名「セロテープ(登録商標)」)を強く押し付けた後、表面から90度方向へ急に引っ張り剥離した後コート被層(膜)の残っているマス目を密着性指標として、目視で観察した。密着性を目視の観察により8段階(1(悪)〜8(良))にランク付けし
、「8」は、コート膜の残った面積が100%であり、密着性が非常に高いことを示し、「7」は、コート膜の残った面積が100%未満〜99%であり、「6」は、コート膜の残った面積が99%未満〜95%であり、「5」は、コート膜の残った面積が95%未満〜85%であり、「4」は、コート膜の残った面積が85%未満〜65%であり、「3」は、コート膜の残った面積が65%未満〜35%であり、「2」は、コート膜の残った面積が35%未満〜15%であり、「1」は、コート膜の残った面積が15%未満〜0%であることを示している。
【0069】
(評価結果)
実施例1〜実施例3は、いずれも、比Q1/(Q1+Q2)、温度T1およびT2、トータル時間Ptが、上述した式(1)〜式(4)を満たしている。実施例1〜実施例3によ
り製造されたカラーレンズは、いずれも、染色時の作業性、染色の歪取り、耐擦傷性、密着性に優れ、黄変も無い。
【0070】
染色時の作業性、染色の歪取り、耐擦傷性、密着性に優れ、黄変も無く、染色性(染色時間)t3については、比較例4や比較例8と比べて、染色時間が短く、染色速度が速い
ことがわかる。また、比較例4や比較例8と比べて、トータルタイムPtが短い。すなわ
ち、優れた性能のカラーレンズを短時間で製造できることがわかる。
【0071】
比較例1は、比Q1/(Q1+Q2)が0.8であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例1は、第2の加熱工程における温度T2が80℃であり、上述した
(3)式を満たしていない。比較例1により製造されたカラーレンズでは、第2の加熱工程を経たレンズ表面の歪みが残ることがわかった。これは、比Q1/(Q1+Q2)が0.5を超えるとともに、第2の加熱工程における温度T2が低すぎるため、第2の加熱工
程における熱量が少なすぎたことが要因であると考えられる。また、比較例1により製造されたカラーレンズは、レンズ表面に残る歪が回復しないため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0072】
比較例2は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.2であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例2は、第1の加熱工程における温度T1が80
℃であり、上述した(2)式を満たしていない。比較例2により製造されたカラーレンズでは、染色時の作業性の試験において、ハードコート層に剥がれが生じることがわかった。これは、比Q1/(Q1+Q2)が0.2以下であるとともに、第1の加熱工程における温度T1が低すぎるため、第1の加熱工程における熱量が少なすぎたことが要因である
と考えられる。また、比較例2により製造されたカラーレンズは、染色時の作業性の試験の際にハードコート層が剥がれたため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0073】
比較例3は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.1であり、上述した式(1)を満たしていない。比較例3により製造されたカラーレンズでは、染色時の作業性の試験において、ハードコート層に剥がれが生じることがわかった。これは、比Q1/(Q1+Q2)が0.2以下であり、第1の加熱工程における熱量が少ないことが要因であると考えられる。また、比較例3により製造されたカラーレンズは、染色時の作業性の試験の際にハードコート層が剥がれたため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0074】
比較例4は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.7であり、上述した式(1)を満たしていない。比較例4により製造されたカラーレンズは、染色時の作業性、染色の歪取り、耐擦傷性、密着性に優れ、黄変も無い。しかしながら、実施例1〜3と比べて、トータルタイムが長い、すなわち、製造に時間がかかることがわかった。
【0075】
比較例5は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.8であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例5は、第1の加熱時間t1と第2の加熱時間t2のトータルの加熱時間(t1+t2)が4時間であり、上述した(4)式を満たしていない。比較例5により製造されたカラーレンズでは、わずかに黄変が生じることがわかった。これは、熱量配分Q1/(Q1+Q2)が0.5を超えるとともに、トータルの加熱時間(
1+t2)が長いためであると考えられる。
【0076】
比較例6は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.9であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例6は、第1の加熱時間と第2の加熱時間のトータルの加熱時間(t1+t2)が7時間であり、上述した(4)式を満たしていない。比較例6により製造されたカラーレンズでは、黄変が目立つことがわかった。これは、比Q1/(Q1+Q2)が0.5を超えるとともに、トータルの加熱時間(t1+t2)が長すぎるためであると考えられる。また、比較例6により製造されたカラーレンズは、黄変が目立つため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0077】
比較例7は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.1であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例7は、第1の加熱工程における温度T1が15
0℃であり、上述した(2)式を満たしていない。比較例7により製造されたカラーレンズでは、黄変が目立つことがわかった。これは、第1の加熱工程における温度T1が高す
ぎるためであると考えられる。また、比較例7により製造されたカラーレンズは、黄変が目立つため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0078】
比較例8は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.7であり、上述した式(1)を満たしていない。比較例8により製造されたカラーレンズは、染色時の作業性、染色の歪取り、耐擦傷性、密着性に優れ、黄変も無い。しかしながら、実施例1〜3と比べて、トータルタイムが長い、すなわち、製造に時間がかかることがわかった。
【0079】
比較例9は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.1であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例9は、第2の加熱工程における温度T2が15
0℃であり、上述した(3)式を満たしていない。比較例9により製造されたカラーレンズでは、黄変が目立つことがわかった。これは、比Q1/(Q1+Q2)が0.2を下回るとともに、第2の加熱工程における温度T2が高すぎるため、第2の加熱工程における
熱量が多すぎたことが要因であると考えられる。また、比較例9により製造されたカラーレンズは、黄変が目立つため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0080】
比較例10は、熱量配分に相当する比Q1/(Q1+Q2)が0.6であり、上述した式(1)を満たしていない。しかも、比較例10は、第2の加熱工程における温度T2
80℃であり、上述した(3)式を満たしていない。比較例10により製造されたカラーレンズは、染色時の作業性の試験において、ハードコート層に剥がれが生じることがわかった。また、比較例10により製造されたカラーレンズでは、第2の加熱工程を経たレンズ表面の歪みが残ることがわかった。これは、Q1/(Q1+Q2)が0.5を超えるとともに、第2の加熱工程における温度T2が低すぎるため、第2の加熱工程における熱量
Q2が少なすぎたことが要因であると考えられる。また、比較例10により製造されたカラーレンズは、また、染色時の作業性の試験の際にハードコート層が剥がれ、しかも、レンズ表面に残る歪が回復しないため、耐擦傷性および密着性の正確な評価が不能となった。
【0081】
なお、本例では、基材として、プラスチックレンズを例に説明しているが、ガラスレンズであっても同様の効果を得ることができる。さらに、上記では、眼鏡に用いるプラスチ
ックレンズを染色レンズとして製造し、染色性の他に、密着性や耐擦傷性などの耐久性を評価しているが、本発明に適用可能な染色レンズ(光学素子)は、眼鏡レンズに限らず、カメラ用レンズであっても良く、さらに、本発明は、その他の光学素子、例えば、プリズムなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明にかかるカラーレンズの製造方法を示すフローチャート。
【図2】実施例および比較例のレンズの製造条件と、染色性と、染色時の作業性、黄変度、染色の歪取り、耐擦傷性および密着性の試験結果とを示す図。
【図3】実施例および比較例のレンズの評価を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色可能なハードコート層を形成するための塗布液を、レンズ基材上に直に、または他の層を挟んで塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後、前記塗布液が塗布された前記レンズ基材を、温度T1℃でt1時間加熱する第1の加熱工程と、
前記第1の加熱工程の後、加熱された前記レンズ基材を染色液に浸漬させて染色する染色工程と、
前記染色工程の後、染色された前記レンズ基材を、温度T2℃でt2時間加熱する第2の加熱工程とを有し、
前記温度T1と前記時間t1との積を第1の管理値Q1、前記温度T2と前記時間t2との積を第2の管理値Q2、としたときに、以下の条件を満たす、カラーレンズの製造方法。
0.2<Q1/(Q1+Q2)≦0.5
【請求項2】
請求項1において、温度T1および温度T2は、以下の条件を満たす、カラーレンズの製造方法。
100℃<T1<150℃
100℃<T2<150℃
【請求項3】
請求項1において、時間t1と時間t2との和は、以下の条件を満たす、カラーレンズの製造方法。
1時間≦(t1+t2)≦3時間
【請求項4】
請求項1において、前記染色可能なハードコート層は、金属酸化物微粒子、シラン化合物および多官能エポキシ化合物を主成分として含む、カラーレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−76965(P2008−76965A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258823(P2006−258823)
【出願日】平成18年9月25日(2006.9.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】