説明

カリックスアレーン分子の化粧用製剤および医薬製剤

本発明は、皮膚の汚染部位から体内へのアクチニドの移動を防止または制限するための、カリックスアレーンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚アクチニド汚染の処置の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、原子力産業の活動により、種々の段階の核燃料プロセス:ウラン鉱山からの採取、化学的精製、濃縮、可燃元素の製造、照射済み燃料の再処理およびその保管のモニタリング、の間に何万トンものウランを取り扱うことが必要とされる。そのため、ウランまたは超ウランアクチニド(例えばプルトニウムまたはアメリシウム)は、燃料サイクルに関与する施設で取り扱われているが、該サイクルの上流および下流で操業している研究所においても取り扱われている。
【0003】
原子力部門の労働者の保護を確実にするためには、所定のプロトコルと関連する電離放射線に対する被曝ができるだけ少なくなければならない。この目的のために、被曝の可能性のある部位は、被曝した可能性がある労働者の照射に対する外部被曝のモニタリングを確実にする著しい技術的制約(γ線警告ビーコン、個人線量計)ならびに内部汚染のモニタリングを確実にする著しい技術的制約(エアロゾルサンプリング装置、肺についての全身の放射測定(anthroporadiametrie pulmonaire)、尿中および糞便中のウランアッセイ)に付される[1]。しかしながら、労働環境において保護手段を実行しているにもかかわらず、一定数の原子力労働者の被曝事故が記録されている。アクチニドが身体中に取り込まれる主な経路は、吸入、経口摂取および皮膚経路(表面の汚染および/または創傷)である。
【0004】
創傷を介する汚染は、依然として非常にやっかいなままとなっている。なぜならば、アクチニドが身体中へ移動した後に、該汚染は、個体の重大な、かつ長期持続性の内部汚染を生じさせ得るからである。実際に、可溶性ウラン化合物などのアクチニドによる汚染が関係する不慮の傷害の場合、擦過された皮膚を通じてアクチニドが移動し、したがって循環血液による吸収が、非常に急速に(30分)起こり得る。さらに、表面的創傷の除染が部分的でしかない場合、生存表皮がウランのリザーバーのように挙動するため[2]、そのウランは生物学的に利用可能なままとなっている。そのため、皮膚において、初期の細胞毒性効果が観察される。その後、ウランは、体循環を通じて身体を通過し、最初の部分のウランが、尿中排泄によって排出される。身体中に残存する量の放射性元素は、2つの主要な標的器官、すなわち腎臓および骨格に定着する。その後、これらの器官において、特異な影響が出現し得、こうして、特に最も放射性の高い化合物(濃縮ウラン)の場合に、ウランの長期間にわたる化学的および放射線学的な毒性が示される[2〜4]。
【0005】
現在の皮膚の除染方法は、例えば創傷の場合、個体を医療施設に移送した後に、25%ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)などのキレート化剤が補充された適切な消毒液を用いて、皮膚を洗浄することを含む。次いで、粒子による汚染の場合には、創傷の洗浄は、汚染された組織の外科的切除によって補完され得る。可溶性ウラン化合物の場合、汚染時と医療施設への到着時との間の時間(平均で15分)で十分にウランが皮膚角質層を通じて拡散してしまい、このことがウランのリザーバーの形成をもたらし、次いでこのウランがより深く拡散し得るということ、を重要視することが重要である[5]。
【0006】
しかしながら、事故時にそして事故現場で、創傷を通じたアクチニドの移動を十分に防止または制限する別の応急処置が存在しない。さらに、医療施設において入手できるキレート化剤、例えばDTPAなどは、選択的にウラン化合物と錯体を形成することができず、その有効性は、生物学的環境において依然として非常に制限されたままとなっている。
【0007】
次に、アクチニドによる内部汚染の場合に選択される治療は、取り込まれたアクチニドの尿中排出を促進する除去剤(agents decorporants)を含む溶液(例えばPuおよびAmに対するDTPA溶液)を、全身経路によって、被曝者に注射することにある。DTPA溶液は、ウランの除去(decorporation)に有効ではないため、他の潜在的に有効な除去剤、例えばカテコラート(CAM)配位子およびヒドロキシピリジノナート(hydroxypyridinonates)(HOPO)配位子などが提案されている。しかしながら、該除去剤はまだ臨床的に承認されていない[6、7]。配位子エタン-1-ヒドロキシ-1,1-ビスホスホナート(EHBP)は、HOPOおよびCAMと同様に良好なウラン錯化剤であることがわかっており、他の適応症で既に臨床的に使用されているという利点を有する[8]。しかしながら、これらの薬剤の除去作用は、汚染時と注射時との間の経過時間に強く依存する[8]。
【0008】
結局、事故時にそして事故現場で、投与する応急処置が存在しないことによって、ギャップが構成されているが、創傷または皮膚汚染表面から体内へアクチニドが浸透する可能性を制限するために、このギャップを埋めることが賢明である。接触または創傷による汚染の後のアクチニドの経皮的流動を減少させることを目的とした除染剤の探索は、比較的少ない研究しか行われていない、時事的興味のある主題である[3、4、9〜11]。
【0009】
WO 2006/123051の出願は、尿中でウラン、アメリシウムおよびプルトニウムと選択的に錯形成する、支持体に結合したp-tert-ブチルカリックス[6]アレーンの使用を記載している。
【0010】
WO 95/19974の出願は、細菌感染症または真菌感染症、HIVおよび癌を治療するためのカリックス[3-8]アレーンの使用を記載している。
【0011】
カリックスアレーンは、識別力のある錯体形成ケージである。1993年にArakiらは、液体-液体抽出における、1,3,5-O-トリメチル-2,4,6-O-トリ(カルボン酸)-パラ-tert-ブチルカリックス[6]アレーン(本明細書中、以下、式IAによって表す分子)の、ウランに対する錯体形成特性を示した(Chem. Lett., 829〜832, 1993)。1994年に、Van Duynhoven(Van Duynoven)らは、この同じ分子を、その立体配座の平衡を研究するために使用した(J. Am. Chem. Soc., 116, 5814〜5822)。1997年に、C. Dinseら(Radioprotection, 32 no. 5, 659〜671)は、液体-液体抽出における、プルトニウムおよびナトリウムの存在下での、以下の式(IA)の分子の、ウランに対する選択性を示した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
皮膚汚染からのアクチニドの体内への浸透を制限または停止する応急の局所的処置を提案することを可能にする先行技術の製品または技術は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
予期されない方法で、本発明者らは、油相中にp-tert-ブチルカリックス[6]アレーンを含む水中油型ナノエマルションが、ウランに結合し、ウランの経皮的拡散を防ぐことを可能にすることを示した。
【0014】
したがって、本発明は、皮膚のアクチニド汚染の処置にそれを使用するための、カリックスアレーン、好ましくはカリックス[6]アレーンに関する。
【0015】
有利には、本発明のカリックスアレーンは、式(IA)または(IB):
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
[式中、R1、R3およびR5は、同一または異なって、それぞれ独立して、
(i)水素原子またはハロゲン原子、
(ii)アセチル基、アミノ基、ホスファート基、ニトロ基、スルファート基、カルボキシ基、カルボン酸基、チオカルボキシ基、カルバマート基またはチオカルバマート基、
(iii)少なくとも1個のエチレン性不飽和またはアセチレン性不飽和を示していてもよい、1〜60個、好ましくは1〜30個の炭素原子を有する置換されていてもよい直鎖状または分枝状のアルキル、
(iv)少なくとも1個のエチレン性不飽和またはアセチレン性不飽和を示していてもよい、3〜12個の炭素原子を有する置換されていてもよいシクロアルキル、
(v)置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいナフチル、置換されていてもよいアリール(C1〜C30アルキル)または置換されていてもよい(C1〜C30アルキル)アリール、
(基(radicaux)(ii)〜(v)は、ハロゲン原子、有機金属化合物、アルコール、アミン、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル、スルホン酸もしくはスルホン酸エステル、硫酸もしくは硫酸エステル、リン酸もしくはリン酸エステル、ホスホン酸もしくはホスホン酸エステル、またはヒドロキサム酸もしくはヒドロキサム酸エステル、カルバマート、チオカルバマート、エーテル、チオール、エポキシド、チオエポキシド、イソシアナートまたはイソチオシアナート官能基によって置換することが可能であり、あるいはこれらの基(radicaux)の炭素は、窒素、硫黄、リン、酸素、ホウ素またはヒ素ヘテロ原子によって置換することが可能である)
(vi)多糖
を表す]
のパラ-tert-ブチルカリックス[6]アレーンである。
【0019】
有利な実施態様によれば、式(IA)および(IB)において、R1、R3およびR5の2つは、水素またはメチルを表し、3つ目は、多糖である。
【0020】
有利には、前記多糖は、デキストラン、キトサンおよびアガロースから構成される群から選択される。
【0021】
別の有利な実施態様によれば、本発明のパラ-tert-ブチルカリックス[6]アレーンは、R1、R3およびR5が同一であり、好ましくは水素を表す、式(IA)または(IB)の化合物である。
【0022】
本発明はまた、皮膚のアクチニド汚染を処置するための薬物の製造のための、カリックスアレーンの使用に関する。
【0023】
本発明はまた、有効量のカリックスアレーンを皮膚に適用することを含む、皮膚のアクチニド汚染の処置方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図面
【図1】水中油型エマルションの図。
【図2】ナノエマルションの実施態様。
【図3】ナノエマルションにおけるカリックスアレーン濃度の関数としての、分散した油滴の大きさの変化。
【図4】エマルションにおけるカリックスアレーン濃度の関数としての、油滴のゼータ電位の変化(A)。エマルションの油滴表面上における、カリックスアレーン分子の局在化の仮説(B)。
【図5】取り込まれたカリックスアレーンの濃度の関数としての、エマルションpHの変化(A)。エマルションの油滴表面上における、カリックスアレーン分子の局在化の仮説(B)。
【図6】堆積したウラン濃度の関数としての、限外ろ過システムのフィルターによって保持されたウランの割合。
【図7】限外ろ過後の残余分(retentat)、フィルターおよびろ液間のウラン分布(A)。限外ろ過システムを表したもの(B)。
【図8】汚染物質溶液とナノエマルションとの間の接触時間の関数としての抽出されたウランの割合、ならびに接触の種類(動的および静的)の関数としての抽出されたウランの割合。注:示した接触時間=実際の実験時間+限外ろ過の30分。
【図9】汚染物質溶液とカリックスアレーンのパラフィンオイル分散液との間の接触時間の関数としての抽出されたウランの割合、ならびに接触の種類(動的および静的)の関数としての抽出されたウランの割合。注:示した接触時間=実際の実験時間+処置の20分。
【図10】ウランまたは製剤由来のカリックスアレーン分子の経皮的通過を研究するために使用した、フランツセルの図。
【図11】カリックスアレーンのナノエマルションの非存在下または存在下における、フランツセル中の24時間にわたるウランの経皮的拡散速度(n=5)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
アクチニドの化学的系列は、アクチニウムとローレンシウムとの間に位置し、したがって原子番号89〜103(89および103を含む)を有する周期表の化学元素、すなわちアクチニウム(Ac)、トリウム(Th)、プロトアクチニウム(Pa)、ウラン(U)、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)、バークリウム(Bk)、カリホルニウム(Cf)、アインスタイニウム(Es)、フェルミウム(Fm)、メンデレビウム(Md)、ノーベリウム(No)およびローレンシウム(Lr)を含む。
【0026】
すべてのアクチニドは、放射性元素であり、類似の化学的性質を有するため、重金属であるアクチニウム(Z=89)からその名前が付けられている。
【0027】
核燃料サイクルにおいて最も豊富に生成するアクチニドは、プルトニウム、主としてその主要な同位体プルトニウム239であり、これは、それ自体が核分裂性である。しかし、原子炉では、他のアクチニドが少量生じ、これらのアクチニドは、この理由により「マイナー」アクチニドと呼ばれている。主要なマイナーアクチニドは、ネプツニウム237、アメリシウム241、アメリシウム243、キュリウム244およびキュリウム245である。マイナーアクチニドは、核分裂生成物とともに、最も放射活性の高い、長寿命の放射性廃棄物、すなわち原子力産業上最も危険な廃棄物を構成する。
【0028】
有利には、本発明は、ウラン、プルトニウムおよび/またはアメリシウムによる皮膚汚染の処置に使用される。
【0029】
本発明はまた、皮膚の汚染部位から身体中へのアクチニドの移動を防止または制限するための、有利には皮膚の汚染部位から身体中へのウラン、プルトニウムおよび/またはアメリシウムの移動を防止または制限するための、カリックスアレーン、有利にはカリックス[6]アレーンの使用に関する。
【0030】
実際に、本発明は、皮膚の汚染部位から体内へのアクチニドの浸透を防止するか、または身体中に浸透するアクチニドの量を、汚染に関連する症状、特に腎臓または骨組織の症状を誘発するには不十分な量にまで制限するための、皮膚化粧用組成物(composition dermocosmetique)を提供する。
【0031】
本発明はまた、有効成分としての1種以上のカリックスアレーン化合物と1種以上の化粧用に許容される賦形剤とを含む、皮膚化粧用組成物にも関する。
【0032】
用語「皮膚化粧用組成物」は、皮膚に適用することを意図した化粧用組成物を意味する。
【0033】
本発明はまた、有効成分としての1種以上のカリックスアレーン化合物と1種以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む、皮膚科用組成物(composition dermatologique)にも関する。
【0034】
用語「皮膚科用組成物」は、皮膚に適用することを意図した医薬組成物を意味する。
【0035】
有利には、本発明の製剤の賦形剤は、フランス薬局方に従って選択される。
【0036】
有利には、本発明の皮膚化粧用製剤または皮膚科用製剤の賦形剤は、皮膚構造を破壊し得かつ汚染物質のアクチニドの皮膚浸透を促進し得る皮膚浸透プロモーターを構成しない。
【0037】
カリックスアレーン分子の強い親油性の特性を考慮すると、本発明の皮膚化粧用組成物または皮膚科用組成物は、有利には油相を含む形態で提供され、ここでカリックスアレーン化合物は、
・油ベースのゲル;
・固体脂肪相または蝋をベースとする無水ペースト;
・水中に油滴が分散したものから構成される水中油型(O/W)エマルション、または油相中に水滴が分散したものから構成される油中水型(W/O)エマルション
などの油相中に存在する。
【0038】
有利には、本発明の皮膚化粧用組成物または皮膚科用組成物は、水中油型ナノエマルションまたは油中水型ナノエマルションであり、好ましくは水中油型ナノエマルションである。
【0039】
用語「ナノエマルション」は、液滴の大きさが50 nm〜200 nmであるエマルションをいう。
【0040】
当該エマルション、具体的にはナノエマルション(分散した液滴の平均直径1ミクロン未満)は、比較的低い残留性を示し、そのため容易に洗い落とせ、したがってより効率的な除染を可能にするため、特に有利な製剤であることがわかっている。さらに、ナノエマルションは、皮膚表面でのカリックスアレーンのより良好な利用可能性を確かなものとする可能性が高く、水相中で微細に分散した油滴による巨大なつくり出された総表面を有する。
【0041】
有利には、ナノエマルション形態での本発明の皮膚化粧用組成物または皮膚科用組成物は、50 nm〜200 nmの大きさ、好ましくは100 nm〜200 nmの大きさの液滴を有する。
【0042】
有利には、油相は、鉱油、植物油、合成油またはこれらの混合物から構成される。好ましくは、油相は、パラフィンを含む。特に好ましい様式において、油相は、パラフィンからなる。
【0043】
有利には、本発明の皮膚科用組成物中に有効成分として存在する少なくとも1種のカリックス[6]アレーン化合物は、先に定義した式(IA)または(IB)(式中、R1、R3およびR5は、先に定義した通りである)のものである。
【0044】
好ましくは、本発明の皮膚科用組成物中に有効成分として存在するすべてのカリックス[6]アレーン化合物は、先に定義した式(IA)または(IB)(式中、R1、R3およびR5は、先に定義した通りである)のものである。
【0045】
好ましくは、本発明の皮膚科用組成物は、50%〜95%の水を含み、好ましくは70%〜80%の水を含む。好ましくは、本発明の皮膚科用組成物は、5%〜50%の油相を含み、好ましくは15%〜25%の油相を含む。好ましくは、本発明の皮膚科用組成物は、1%〜15%の界面活性剤を含む。有利には、本発明の皮膚科用組成物は、組成物1グラムあたり2 mg〜30 mg、好ましくは2 mg〜12 mgのカリックス[6]アレーンを含む。本発明の皮膚科用組成物がナノエマルションである場合、前記組成物は、組成物1グラムあたり2 mg〜30 mg、好ましくは2 mg〜12 mgのカリックス[6]アレーンを含む。
【0046】
有利には、本発明の皮膚化粧用組成物中に存在する少なくとも1種のカリックスアレーン化合物は、カリックス[6]アレーンである。
【0047】
好ましくは、本発明の皮膚化粧用組成物中に有効成分として存在するすべてのカリックスアレーン化合物は、カリックス[6]アレーンである。
【0048】
有利には、本発明の皮膚化粧用組成物中に有効成分として存在する少なくとも1種のカリックスアレーン化合物は、先に定義した式(IA)または(IB)(式中、R1、R3およびR5は、先に定義した通りである)のものである。
【0049】
好ましくは、本発明の皮膚化粧用組成物中に有効成分として存在するすべてのカリックスアレーン化合物は、先に定義した式(IA)または(IB)(式中、R1、R3およびR5は、先に定義した通りである)のものである。
【0050】
好ましくは、本発明の皮膚化粧用組成物は、50%〜95%の水を含み、好ましくは70%〜80%の水を含む。好ましくは、本発明の皮膚化粧用組成物は、5%〜50%の油相を含み、好ましくは15%〜25%の油相を含む。好ましくは、本発明の皮膚化粧用組成物は、1%〜15%の界面活性剤を含む。有利には、本発明の皮膚化粧用組成物は、組成物1グラムあたり2 mg〜30 mg、好ましくは2 mg〜12 mgのカリックスアレーンを含む。本発明の皮膚化粧用組成物がナノエマルションである場合、前記組成物は、組成物1グラムあたり2 mg〜30 mg、好ましくは2 mg〜12 mgのカリックスアレーンを含む。
【0051】
以下の実施例は、範囲を限定することなく本発明を説明するものである。
【実施例】
【0052】
実施例1:カリックス[6]アレーンの水中油型ナノエマルションの調製
カリックスアレーン分子が油相中に取り込まれている水中油型ナノエマルションを調製する。前記ナノエマルションは、鉱油(パラフィンオイル)、非イオン界面活性剤(Tween 80(登録商標)およびSpan 80(登録商標))、Milli-Q水および1,3,5-O-Me-2,4,6-OCH2COOH-p-tert-ブチルカリックス[6]アレーンから構成される。界面活性剤、油および水の質量百分率を、それぞれ5%、20%および75%とした。最適な乳化状態を得るために、2つの界面活性剤の相対的な質量百分率を最適化した(親水性・親油性バランス(HLB)=11)。
【0053】
転相法に従って、カリックスアレーンのナノエマルションを調製した。最初に、油・カリックスアレーン・界面活性剤の混合物に相当するエマルションの油相および水相を、別々に、50℃に温度制御された浴中に、穏やかに攪拌しながら、30分間置く。この温度平衡化時間の終了時に、穏やかに攪拌しながら、水相を油相に滴下する(図2)。こうして得たナノエマルションを、温度制御された浴中、攪拌しながら45分間保持し、次いで室温で45分間攪拌する。その後、ナノエマルションを、光から遠ざけて、室温で保管する。
【0054】
実施例2:実施例1で得られたナノエマルションのキャラクタリゼーション
分散した油滴の大きさ、ゼータ電位(液滴が水媒体中で得る総表面電荷)およびpHを測定することによって、ナノエマルションを特徴付けた。電気伝導度測定法および水でのエマルションの希釈試験によって、エマルションの向き(Le sens)も検証した。
【0055】
分散した油滴の平均の大きさ、および大きさの分布の均一性を反映する多分散指数(PDI)を、光子相関分光法によって、測定した。
【0056】
この研究により、油の小球の直径が200 nm未満であること、および該直径は、取り込まれたカリックスアレーンの量がエマルション1グラムあたり2 mgよりも大きい場合、有意に減少すること(p<0.05)、が示された(図3)。この大きさの減少は、多分散指数の有意な(p<0.05)増大と相関しており、したがってエマルションの均一性の減少を反映している。しかしながら、PDI値は小さいままであり(<0.250)、このことは、最大で8 mg/gまでのカリックスアレーンを負荷したナノエマルションについては、油滴の大きさの分布は、均一なままであることを示している。
【0057】
分散した油の小球の電気泳動移動度を測定することによって、ゼータ電位を決定した。
【0058】
この測定により、こうした液滴の表面でカリックスアレーンが存在することが実証された(図4)。実際に、ナノエマルションのカリックスアレーン濃度が増大すると、4 mg/gの濃度(それを上回れば、ゼータ電位が安定化する傾向にある濃度である)までは油滴の表面電荷が減少することとなる。この安定化は、油の小球の表面上に見出されるカリックスアレーン分子の起こり得る脱プロトン化によって説明することができる。
【0059】
分散した油滴の表面上にカリックスアレーンが存在することは、pHを測定することによっても実証された。カリックスアレーンを負荷していないエマルションのpHと、2 mg/g、4 mg/g、6 mg/gおよび8 mg/gのカリックスアレーンを負荷したエマルションのpHとを比較すると、このキレート化剤の存在下では、pHが約1単位減少することが示された。この現象は、油の小球の表面上に存在するカリックスアレーン分子の脱プロトン化によって説明される(図5)。
【0060】
実施例3:カリックスアレーンのナノエマルションの除染に対するインビトロでの有効性
限外ろ過技術を用いて、カリックスアレーンのナノエマルションの有効性をインビトロで評価した。実際に、限外ろ過は、ナノエマルションの水相部分を回収することを可能にし、その後、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を用いて、遊離したウランを定量することが可能である。
【0061】
最初に、ろ液においてナノエマルションの水相のみを得るために、限外ろ過・超遠心分離法のパラメータを最適化した。
・フィルター多孔度:3000 kDa
・遠心分離する体積:400 μl
・遠心分離温度:20℃
・遠心分離速度:6000 rpm
・遠心分離時間:30分
【0062】
このようにして得られた透明なろ液を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。HPLC分析は、ろ液が水のみからなることを示し、したがって油、界面活性剤またはカリックスアレーンが存在しないことを示した。
【0063】
次に、限外ろ過に使用したフィルターによるウランの保持を評価することを目的とする研究を行った。この研究により、pH 5の酢酸緩衝液中、硝酸ウラニルの形態でフィルター上に堆積するウランのうちの平均で47%が、限外ろ過の間にフィルター中で保持されるという結論が得られた(図6)。このことは、フィルターが、負電荷をもつサイトを有する物質である再生セルロースからなり、ウランは、このサイトと静電結合によって相互作用し得、それゆえ保持され得ることによる[16]。成分を評価することによって、フィルター中で保持されたウランに十分に相当し、フィルター上に堆積した相(残余分(retentat))中でのウランの濃縮という現象には相当しないパーセンテージも検証した(図7)。実際に、最初に堆積した濃度と比較して、限外ろ過後の残余分においては、ウラン濃度の増大はない。
【0064】
限外ろ過技術を用いることで、水のみから構成されるナノエマルションのろ液を回収することが可能であること、および限外ろ過システムのフィルターによって、平均で47%のウランが保持されることがわかれば、それに従ってカリックスアレーンのナノエマルションの除染能力をインビトロで評価することが可能となる。
【0065】
このカリックスアレーンのナノエマルションの除染の有効性試験を、2つの様式の汚染物質とナノエマルションとの接触:
・動的接触:汚染物質溶液とカリックスアレーンのナノエマルションとを含む試験管を、ある長さの時間反転させることによって、攪拌すること
・静的接触:攪拌せずに、ある長さの時間カリックスアレーンのナノエマルションを汚染物質溶液と接触させて配置すること
に従って行った。
【0066】
したがって、カリックスアレーンのナノエマルションによるウランの抽出速度を測定することができる(以下の比:Qカリックスアレーン/Qウラン=10000、およびV汚染物質/V製剤=1を用いる(図8))。
【0067】
この研究は、カリックスアレーンを負荷していないナノエマルションが、静的な様式では約25%のウラン、動的な様式では約40%のウランを抽出することを示している。このことは、ヒドロキシルイオンと水素結合をつくることが可能であり[17]、したがってウランを保持することも可能であるエトキシル基を非イオン界面活性剤が有するため、非イオン界面活性剤によるウランの捕捉によって、説明することができる。カリックスアレーンを負荷していないナノエマルション混合物と汚染物質溶液とを攪拌すると、ウランと界面活性剤との接触が促進され、このことにより動的条件の下でウラン抽出がより大きくなる理由を説明することができる。
【0068】
2 mg/gのカリックスアレーンを負荷したナノエマルションに関しては、動的な様式でおよそ90%のウランが35分後に抽出され(実際の実験時間は5分)、このことは、静的な様式でのおよそ85%と対比される。したがって、これらの結果は、ナノエマルション中にカリックスアレーンが存在すると、ウラン抽出の収率が少なくとも2というファクターによって、向上することを示している。
【0069】
さらに、ガレン製剤(formulation galenique)としてのカリックスアレーンを負荷したパラフィンオイルについて先に行った速度研究によれば、静的な様式で、すべての他の条件は同じままで、この製剤によって、10%のウランすら抽出されないことが示された(Qカリックスアレーン/Qウラン=10000、およびV汚染物質/V製剤=1、(図9))。
【0070】
したがって、選択した製剤(カリックスアレーンのナノエマルション)は、カリックスアレーンを負荷した単独の賦形剤(パラフィンオイル)よりも、はるかに効果的であることは明らかである。これは、ほぼ確実に、ナノエマルションにおいては、カリックスアレーンとウランとの間に生じる表面が、はるかに大きいことによる。
【0071】
結論として、これらの結果は、選択した製剤(ナノエマルション)および使用した有効成分、すなわちカリックスアレーンが、ガレン形態の効果に寄与することを示している。したがって、カリックスアレーンのナノエマルションは、静的な除染に有効である。したがってカリックスアレーンのナノエマルションは、創傷の除染に十分に適した系である。
【0072】
実施例4:カリックスアレーンのナノエマルションの除染に対するエクスビボの有効性
フランツセルシステムを用い、ナノエマルションを適用して、およびナノエマルションの適用なしで、ウランの経皮的通過速度を研究することによって、カリックスアレーンのナノエマルションの有効性を評価した(図10)。すべての経皮的拡散の研究は、ブタの耳の皮膚の外植片を用いて密封条件で行った(n=5)。劣化ウラン(238U)の溶解したpH 5の酢酸緩衝液の溶液を堆積させることによって、汚染を行った。
【0073】
4 mg/gのカリックスアレーンを負荷した1 mlのナノエマルションから放出されたカリックスアレーンの経皮的通過速度を測定することを目的とする最初の実験により、このようにして製剤化されたカリックスアレーンが、24時間の曝露時間の間に皮膚を通過しなかったことが示された(λ波長=210 nmを用いたHPLC検出:検出限界(LD)=17 ng/ml;定量限界(LQ)=52 ng/ml)。
【0074】
4 mg/gのカルボン酸カリックスアレーンを負荷したナノエマルション(Qカリックスアレーン/Qウランの比=10000)の除染効果の研究により、24時間後に皮膚を通って拡散するウランの量が98%減少することが示された。
【0075】
実際には、カリックスアレーンを負荷していないナノエマルションを堆積させることにより汚染を処置することで、拡散するウランの量を71%減少させることが既に可能になっている。これは、部分的には、エマルションの水相でのウランの希釈によるものであり、また部分的には、ナノエマルションの構成成分によりウランの一部が捕捉されること(インビトロの試験において示した)によるものである。ナノエマルションにカリックスアレーンを加えると、カリックスアレーンを負荷していないナノエマルションと比較して、拡散するウランの量がさらに93%減少する(図11)。
【0076】
結論として、これらの結果は、前記カリックスアレーンのナノエマルションが前記アクチニドの経皮的移動を減少させるのと同様に、ウランによって汚染された皮膚の除染に対するカリックスアレーンのナノエマルションの有効性を立証している。
【0077】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚のアクチニド汚染の処置に使用するためのカリックスアレーン。
【請求項2】
カリックス[6]アレーンであることを特徴とする、請求項1に記載のカリックスアレーン。
【請求項3】
式(IA)または(IB):
【化1】

【化2】

[式中、R1、R3およびR5は、同一または異なって、それぞれ独立して、
(i)水素原子またはハロゲン原子、
(ii)アセチル基、アミノ基、ホスファート基、ニトロ基、スルファート基、カルボキシ基、カルボン酸基、チオカルボキシ基、カルバマート基またはチオカルバマート基、
(iii)少なくとも1個のエチレン性不飽和またはアセチレン性不飽和を示していてもよい、1〜60個、好ましくは1〜30個の炭素原子を有する置換されていてもよい直鎖状または分枝状のアルキル、
(iv)少なくとも1個のエチレン性不飽和またはアセチレン性不飽和を示していてもよい、3〜12個の炭素原子を有する置換されていてもよいシクロアルキル、
(v)置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいナフチル、置換されていてもよいアリール(C1〜C30アルキル)または置換されていてもよい(C1〜C30アルキル)アリール、
(基(ii)〜(v)は、ハロゲン原子、有機金属化合物、アルコール、アミン、カルボン酸もしくはカルボン酸エステル、スルホン酸もしくはスルホン酸エステル、硫酸もしくは硫酸エステル、リン酸もしくはリン酸エステル、ホスホン酸もしくはホスホン酸エステル、またはヒドロキサム酸もしくはヒドロキサム酸エステル、カルバマート、チオカルバマート、エーテル、チオール、エポキシド、チオエポキシド、イソシアナートまたはイソチオシアナート官能基によって置換することが可能であり、あるいはこれらの基の炭素は、窒素、硫黄、リン、酸素、ホウ素またはヒ素ヘテロ原子によって置換することが可能である)
(vi)多糖
を表す]
のカリックス[6]アレーンであることを特徴とする、請求項1または2に記載のカリックスアレーン。
【請求項4】
有効成分としての1種以上のカリックスアレーン化合物と1種以上の薬学的に許容される賦形剤とを含む、水中油型ナノエマルションまたは油中水型ナノエマルションの形態の皮膚科用組成物。
【請求項5】
少なくとも1種のカリックスアレーン化合物が、請求項3で定義した式(IA)または(IB)のものである、請求項4に記載の皮膚科用組成物。
【請求項6】
有効成分としての1種以上のカリックスアレーン化合物と1種以上の化粧用に許容される賦形剤とを含む、皮膚化粧用組成物。
【請求項7】
水中油型ナノエマルションまたは油中水型ナノエマルションの形態の、請求項7に記載の皮膚化粧用組成物。
【請求項8】
少なくとも1種のカリックスアレーン化合物が、請求項3で定義した式(IA)または(IB)のものである、請求項7および8のいずれかに記載の皮膚化粧用組成物。
【請求項9】
組成物1グラムあたり2 mg〜30 mgのカリックスアレーンを含む、請求項7〜9のいずれか一項に記載の皮膚化粧用組成物。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公表番号】特表2012−512232(P2012−512232A)
【公表日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541442(P2011−541442)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/067416
【国際公開番号】WO2010/070049
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(510157339)
【Fターム(参考)】