説明

カーテンエアバッグ

【課題】 特に車両前後方向の端部において車外放出防止性能を著しく向上可能なカーテンエアバッグを提供する。
【解決手段】車両室内の側面部上方に収納され、側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグ(エアバッグ100)であって、当該カーテンエアバッグの車両前後方向の端部に設置され、膨張展開用ガスを受けて膨張する端部チャンバ(フロントチャンバ120b)と、当該カーテンエアバッグの車外側であって端部チャンバの末端よりも中央側の領域と、端部チャンバの末端よりもさらに端部方向に離れた位置においてサイドウィンドウ114aよりも車内側に突出するピラー(フロントピラー106)とを結ぶストラップ(フロントストラップ130)とを備え、ストラップは、膨張展開後の当該カーテンエアバッグによって略直線状になる長さを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ(横転)時に、乗員保護を目的として車両室内の側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーテンエアバッグはドア上方に設置されていて、車両の側面部に沿って膨張展開して乗員の頭部および上半身からの荷重を吸収する。カーテンエアバッグは主に側面衝突時に乗員を保護(拘束)するよう設計されている。例えば、カーテンエアバッグは膨張展開した際の圧力持続時間がフロントエアバッグ等よりも長くなっている。側面衝突はロールオーバ(横転)を招くおそれがあり、衝撃が発生し得る時間が長いからである。特にロールオーバ時には、乗員がサイドウィンドウから車外に放出される危険性が高まる。そのためカーテンエアバッグは、ロールオーバ時にまで膨張状態を維持することで、乗員を拘束して車外放出防止を図っている。
【0003】
カーテンエアバッグには、乗員からの荷重を吸収してその車外放出防止を達成するために、車両側面部への確実な膨張展開が求められている。そこで、例えば特許文献1に記載のカーテンエアバッグは、エアバッグ本体の前端を車両側面部のフロントピラーに連結するストラップを備えている。特許文献1によれば、ストラップがカーテンエアバッグに十分な張力を与えるため、膨張展開したカーテンエアバッグを安定して支持可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−291771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、ロールオーバ時における乗員の車外放出をより確実に防止すべく、カーテンエアバッグに対してさらなる性能向上(車外放出防止性能の向上)が要請されている。この要請に応えるべく、カーテンエアバッグ上の各所における車外放出防止性能が各当業者によって検証されている。現在では、カーテンエアバッグの車外放出防止性能は車両前後方向の中央近傍よりも端部側、とくに前端近傍において劣る傾向にあることが知られている。ここで、特許文献1に記載のカーテンエアバッグのように、ストラップで支持することで前端近傍の車外放出防止性能は向上可能であるとも思われる。しかし、単にストラップを備えるだけではその向上効果は僅かである。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、特に車両前後方向の端部において車外放出防止性能を著しく向上可能なカーテンエアバッグを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかるカーテンエアバッグの代表的な構成は、車両室内の側面部上方に収納され、側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグであって、当該カーテンエアバッグの車両前後方向の端部に設置され、膨張展開用ガスを受けて膨張する端部チャンバと、当該カーテンエアバッグの車外側であって端部チャンバの末端よりも中央側の領域と、端部チャンバの末端よりもさらに端部方向に離れた位置においてサイドウィンドウよりも車内側に突出するピラーとを結ぶストラップとを備え、ストラップは、膨張展開後の当該カーテンエアバッグによって略直線状になる長さを有することを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、当該カーテンエアバッグが膨張すると、その末端方向に位置するストラップは車両中央側へ張力(テンション)を受けて略直線状に緊張する。上記のストラップの「長さ」とは、このようにストラップが略直線状になるほどのテンションが加わる長さという意味である。言い換えれば、ストラップを所定の長さ以下に短くすれば、かかる長さが実現でき、所定の長さを超えると、実現できなくなる。ストラップがかかる長さを有するため、端部チャンバのうち、少なくとも上記のようなテンションの与えられたストラップと重畳する領域は、車外側に展開するのを妨げられてサイドウィンドウから離れる。そのため座席空間の前側または後側において端部チャンバと乗員との距離が近くなり、乗員は迅速に端部チャンバに接触する。特に、端部チャンバを乗員に近い位置に配置させることで、衝撃を受けた際における乗員の着座位置からの移動量を減少させることができる。したがって、ロールオーバの発生時において、の乗員に対する車外放出防止性能の向上を図ることが可能である。
【0009】
上記ストラップは、端部チャンバを中央側の膨張領域から区分する非膨張領域に取り付けられてもよい。非膨張領域(シーム部)は膨張領域よりも強度が高く、ストラップを好適に取り付けることが可能である。ここで、通常の端部チャンバは、車両前後方向の横断面が車両前後方向に長軸を有する略楕円となっていて、乗員が略楕円の短軸方向に接触する姿勢となっている。しかし当該カーテンエアバッグでは、上記のシーム部にストラップを取り付けることで、端部チャンバのストラップに重畳する部分は、長軸の前端または後端が車内側の斜め前方を向く姿勢となる。これにより、乗員は端部チャンバに対し、その短軸方向よりも厚みの有る部分へ接触可能となる。したがって、上記構成であれば、乗員からの荷重をより確実に吸収することが可能となっている。
【0010】
上記ストラップは、端部チャンバの外表面に取り付けられてもよい。この構成であっても端部チャンバを車内側に位置させて、乗員を迅速に受け止めることが可能である。またこの構成によっても、端部チャンバのストラップに重畳する部分は、長軸の前端または後端が車内側の斜め前方を向く姿勢となる。これにより、乗員は端部チャンバに対してその短軸方向よりも厚みの有る部分へ接触可能となる。したがって、乗員からの荷重をより確実に吸収することが可能となっている。
【0011】
上記端部チャンバは、中央側の膨張領域から膨張展開用ガスを受けるガス流入口を下部に有し、非膨張領域は、当該カーテンエアバッグの上縁から下方のガス流入口にわたって設置されているとよい。
【0012】
上記の非膨張領域は膨張しないため、端部チャンバはこの非膨張領域に沿って姿勢変更しやすい構成となっている。したがってこの構成であれば、膨張展開後の端部チャンバは、上下方向にわたって設置されている非膨張領域をあたかも回転軸のようにして車内側へ回動する。これにより、端部チャンバを車内側へ容易に位置させることが可能となる。
【0013】
上記端部チャンバは、中央側の膨張領域よりも遅れて膨張展開を開始するとよい。換言すると、中央側の膨張領域は端部チャンバに優先して膨張展開を開始する。この中央側の膨張領域は側突発生時において端部チャンバよりも乗員の接触可能性が高いため、これにより、当該カーテンエアバッグの乗員保護性能を向上させることが可能である。
【0014】
上記のストラップは、当該カーテンエアバッグの膨張展開後において側面部に沿って平面状に広がる幅広ストラップであって、幅広ストラップは、縁の一点においてピラーに取り付けられ、縁の一点よりも車両の車両前後方向の中央側の領域において当該カーテンエアバッグに取り付けられていて、幅広ストラップはさらに、縁の一点から斜め上方に延びる縁において車両に取り付けられていて、当該カーテンエアバッグは、端部チャンバよりも後方の上縁において車両に取り付けられているよい。
【0015】
上記構成によれば、端部チャンバは車両に固定されなくなり、その姿勢はより変更しやすいものとなる。すなわちストラップによる車内側への膨張展開が容易になる。しかし、端部チャンバを車両に固定しないことで、端部チャンバの乗員からの荷重の受け止めが不安定にもなりかねない。そこで、端部チャンバの車内側を三角ストラップによって広く確実に支えることで、乗員からの荷重を確実に受け止め可能としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特に車両前後方向の端部において車外放出防止性能を著しく向上可能なカーテンエアバッグを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態のカーテンエアバッグを例示する図である。
【図2】図1の展開状態のカーテンエアバッグを例示する図である。
【図3】図1(b)の概略的な断面図である。
【図4】本実施形態にかかるカーテンエアバッグと従来のカーテンエアバッグとを比較する図である。
【図5】第2実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。
【図6】図5のカーテンエアバッグの車両内における膨張展開後を例示する図である。
【図7】各実施形態にかかるエアバッグの第1の変形例を例示する図である。
【図8】図7のカーテンエアバッグの車両内における膨張展開後を例示する図である。
【図9】各実施形態にかかるエアバッグの第2の変形例を例示する図である。
【図10】図9の展開状態のカーテンエアバッグを例示する図である。
【図11】図9(b)の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。図1(a)は本実施形態にかかるカーテンエアバッグ(以下、「エアバッグ100」と記載する。)の非展開時、図1(b)はエアバッグ100の展開時をそれぞれ例示する。以下すべての実施形態を、図1のように車両102の右側面用のカーテンエアバッグとして説明するが、左側面用のカーテンエアバッグも同様の対称な構造を有する。
【0020】
エアバッグ100は、図1(a)のように巻回された状態で、または折り畳まれた状態(図示省略)で、車両室内の側面部上方のルーフサイドレール104(図中、仮想線で例示する。)に取り付けられて収納される。通常、ルーフサイドレール104はルーフトリムで覆われ、車両室内からは視認不能である。ルーフサイドレール104には、ルーフ(屋根)を支える複数のピラーが接続している。これらは車両102の前方から、フロントピラー106、センタピラー108、リアピラー110と呼ばれる。
【0021】
エアバッグ100は、例えば、その表面を構成する基布を表裏で縫製したり、OPW(One-Piece Woven)を用いて紡織したりすることにより袋状に形成される。
【0022】
エアバッグ100には、ガス発生装置であるインフレータ112が備えられている。車両102に側面衝突時やロールオーバ(横転)等が発生すると、まず車両102に備えられたセンサ(図示省略)による衝撃の感知に起因して、インフレータ112へ発火信号が発信される。すると、インフレータ112の火薬が燃焼し、発生したガスがエアバッグ100へ供給される。
【0023】
エアバッグ100は、インフレータ112からのガスを受給すると、図1(b)に例示するように、車室の側面部(サイドウィンドウ114a等)に沿うように下方へ膨張展開し、乗員の保護を行う。かかるエアバッグ100によれば、前部座席116および後部座席118の乗員を同時に保護可能である。
【0024】
図2は、図1の展開状態のカーテンエアバッグを例示する図である。図2(a)は、エアバッグ100の車室側を一部透過した状態で例示していて、図2(b)は図2(a)のエアバッグ100の車両前方側付近を車外側から見て例示している。
【0025】
図2(a)に例示するように、エアバッグ100は車両102の衝突時や横転時に膨張する膨張領域120と、膨張せずに膨張領域120を区画する非膨張領域122(図中ハッチングで示す)と、を備えている。膨張領域120は非膨張領域122によって複数のチャンバに区画されている。チャンバは、衝突時等の非常事態時において乗員と直接接触する部分である。各チャンバによって、乗員は、車両側面部への激突や、車外への飛び出し等から保護される。
【0026】
複数のチャンバのうち、エアバッグ100の車両前後方向の中央付近のやや前方にはメインチャンバ120aが設置されている。メインチャンバ120aは、図1(b)に例示するように前部座席116の略真横において膨張展開する。メインチャンバ120aは前部座席116の乗員に対して最も近い位置に膨張展開するため、通常の側面衝突によって衝撃を受けた乗員は大抵メインチャンバ120aによって保護される。
【0027】
本実施形態における端部チャンバとして、エアバッグ100の車両前後方向の前側にはフロントチャンバ120bが設置されている。フロントチャンバ120bは、図1(b)に例示するように前部座席空間の前側において膨張展開する。フロントチャンバ120bは、特にロールオーバ時において着座姿勢を大きく崩した前部座席116の乗員を保護する。フロントチャンバ120bの下縁は後方のメインチャンバ120a等の下縁よりも下方に突出していて、サイドウィンドウ114aの下方のドア部115に重畳する。これにより、サイドウィンドウ114aが破損して開口しても、フロントチャンバ120bの下縁側がドア部115に干渉するため、開口からのフロントチャンバ120bの車外への露出が防止できる。
【0028】
図2(a)に例示するように、フロントチャンバ120bは、メインチャンバ120aとガス流入口134によって繋がっている。ガス流入口134には、ガスがメインチャンバ120aからフロントチャンバ120bに向かって通過する。非膨張領域122は、ガス流入口134の上方からエアバッグ100の上縁にわたるシーム部132を含んでいる。このシーム部132によって、フロントチャンバ120bはメインチャンバ120aから区分されている。
【0029】
上記のフロントチャンバ120bは、メインチャンバ120aからのガスの受給がガス流入口134からに限られている。そのため、フロントチャンバ120bはメインチャンバ120aよりも遅れて膨張展開を開始する。換言すると、メインチャンバ120aはフロントチャンバ120bに優先して膨張展開を開始する。このメインチャンバ120aは側突発生時においてフロントチャンバ120bよりも乗員の接触可能性が高いため、これにより、エアバッグ100の乗員保護性能を向上させることが可能である。
【0030】
エアバッグ100の上縁には、取付部材として複数のタブ(タブ126a、126b)が設けられている。タブはエアバッグ100を車両102に取り付ける際に用いる帯状の部材である。タブ(タブ126b)には、車両102への締結用のボルトを通すボルト穴128が設けられている。
【0031】
本実施形態におけるストラップとして、エアバッグ100の前側には、フロントストラップ130が設けられている。フロントストラップ130は、膨張展開したエアバッグ100の姿勢を車両側面部に沿わせるように保持する紐状の部材である。図1(b)に例示するように、フロントストラップ130はフロントチャンバ120bの末端よりもさらに端部方向に離れた位置、すなわちフロントチャンバ120bの前方に位置するフロントピラー106に連結される。このフロントピラー106は、サイドウィンドウ114aよりも車内側に突出する部位である(図4(a)参照)。
【0032】
フロントストラップ130は、膨張展開後のエアバッグ100によって、略直線状になる長さを有している。つまり、略直線状になるほどのテンションが膨張展開後のエアバッグ100から加わるよう、フロントストラップ130の長さは所定の長さ以下に決定されている。これにより、エアバッグ100の展開挙動は規制され、その姿勢が車両側面部に沿うように保持される。なお、フロントストラップ130は、膨張展開前から直線状になっていてもよい。
【0033】
フロントストラップ130は、エアバッグ100の車外側であってフロントチャンバ120bの末端よりも中央側の領域、すなわち前端よりも後方の領域に縫合される。図2(b)に例示するように、本実施形態においてフロントストラップ130はシーム部132に取り付けられている。言い換えれば、フロントストラップ130は、フロントチャンバ120bの車外側の面を、フロントチャンバ120bの前端から後端であるシーム部132まで、前後方向に完全に横断している。シーム部132では基布が表裏一体となっているため、フロントストラップ130の取付強度を十分に確保できる。
【0034】
図3は、図1(b)の概略的なA−A断面図である。ここで、エアバッグ100の膨張展開後において、フロントストラップ130はサイドウィンドウ114aよりも車内側へ突出するフロントピラー106と、エアバッグ100上のシーム部132との間で緊張し、略直線状の姿勢になる(図4(a)参照)。すると、図3に例示するようにフロントチャンバ120bのうちの少なくともフロントストラップ130と重畳する領域120dは、車外側への展開が防がれてサイドウィンドウ114aから離れる。領域120d以外のほとんどの領域についても、フロントチャンバ120bは、フロントストラップ130によってサイドウィンドウ114aから離れる。これにより、前部座席空間の前側においてフロントチャンバ120bと乗員との距離が近くなり、衝撃発生時において乗員は迅速にフロントチャンバ120bに接触可能となる。
【0035】
図4は、本実施形態にかかるカーテンエアバッグと従来のカーテンエアバッグとを比較する図である。図4(a)は本実施形態にかかるエアバッグ100を例示する図であって、図1(b)のB−B断面に対応している。図4(b)は従来のカーテンエアバッグ(以下、「エアバッグ10」と記載する。)であって、図4(a)のエアバッグ100に対応した断面を例示している。
【0036】
図4(b)に例示するように、従来のエアバッグ10では、フロントストラップ12がフロントチャンバ14の前端に取り付けられていた。膨張展開後において、フロントストラップ12にはフロントチャンバ14によって車両後方へ向かって張力(テンション)が加えられ、緊張する。その際、フロントストラップ12と、フロントチャンバ14およびメインチャンバ16は車両側面部(サイドウィンドウ114a等)に沿って略一列に並ぶ姿勢となっていた。
【0037】
一方、図4(a)に例示するように、本実施形態にかかるエアバッグ100では、フロントストラップ130がフロントチャンバ120bの後方のシーム部132に取り付けられている。エアバッグ100の展開時の挙動は、その寸法やルーフサイドレール104への取付位置によって異なるが、エアバッグ100が巻回されていた状態から膨張展開するとき、シーム部132が当初の位置から後方に移動すると仮定する。その場合、このフロントストラップ130の長さは、フロントピラー106上の取付位置から、エアバッグ100の膨張展開によってシーム部132が移動しようとする位置までの長さよりも短く設定されている。すなわち、フロントストラップ130の長さは、シーム部132が目的の位置まで移動するのを阻むほどに短い。したがって、シーム部132は、略直線状になったフロントストラップ130によって止められ、移動しようとする位置まで実際には移動できない。一方、膨張展開後にはフロントストラップ130は、シーム部132によって車両後方へ引っ張られるように略直線状に緊張する。
【0038】
ここで、フロントストラップ130の前端が取り付けられているフロントピラー106は、サイドウィンドウ114aよりも車内側に突出(突出量≒幅W1)する部位である。そして、フロントストラップ130に車両後方へテンションが加えられることで、フロントチャンバ120bのフロントストラップ130と重畳する領域は、サイドウィンドウ114aから車内側へ離れる。したがって、従来のエアバッグ10のフロントチャンバ14と比較して、前部座席116の乗員との距離は近くなり、乗員を迅速に受け止めることが可能となる。
【0039】
上記のように、本実施形態ではフロントストラップ130をシーム部132に取り付けることにより、フロントチャンバ120bまたはフロントチャンバ120bの少なくとも一部(重畳する領域)の姿勢を変更させている。ここでシーム部132は膨張しない部分であって、図2(a)に示すようにエアバッグ100の上縁から下方のガス流入口134にわたって設置されている。したがって、フロントストラップ130に干渉したフロントチャンバ120bは、膨張展開時にシーム部132をあたかも回転軸のようにして車内側へ回動することが可能となっている。この回動により、フロントチャンバ120bを車内側へ容易に位置させることが可能である。
【0040】
再び図4を参照する。図4(b)に例示する従来のエアバッグ10のフロントチャンバ14では、図中に例示している車両前後方向の横断面が、車両前後方向に長軸aを有する略楕円となっている。そして、フロントチャンバ14は、乗員(図示省略)が略楕円の短軸bの略軸方向に接触する(乗員が部分120fに接触する)姿勢となっている。しかし図4(a)に例示するエアバッグ100では、シーム部132にフロントストラップ130を取り付けることで、フロントチャンバ120bのフロントストラップ130に重畳する部分は、長軸aの前端が車内側の斜め前方を向く姿勢となる。これにより乗員は、フロントチャンバ120bに対し、その短軸bの軸方向よりも厚み(≒幅W1)の有る部分120eへ接触可能となる。したがって、上記構成であれば、乗員からの荷重をより確実に吸収することが可能となっている。
【0041】
さらに図4を参照して、サイドウィンドウ114aを基準としたフロントチャンバ14、120bのそれぞれの車内側への突出量を比較する。図4(b)のエアバッグ10では、サイドウィンドウ114aの厚みを無視すると、サイドウィンドウ114aから車内側へのフロントチャンバ14の突出量D1は、ほぼフロントチャンバ14の短軸bの軸方向の厚み(長さ)である。一方、図4(a)のエアバッグ100のフロントチャンバは、フロントピラー106に締結されたフロントストラップ130よりも車内側へ位置している。そのため、フロントチャンバ120bのサイドウィンドウ114aからの車内側への突出量D2は、フロントチャンバ120bの幅W1(幅W1は短軸bよりも厚い(長い))と、フロントピラー106の幅W2とを加えた量(W1+W2)となる。このように、本実施形態にかかるエアバッグ100では、従来のエアバッグ10と比較して、フロントチャンバ120bが車両側へ大きく突出(移動)している。
【0042】
上記説明したように、エアバッグ100は、フロントチャンバ120bを前部座席116の乗員に近い位置に配置させることで、衝撃を受けた際における乗員の着座位置からの移動量を減少させることができる。したがって、エアバッグ100であれば、ロールオーバの発生時において、前部座席116の乗員に対する車外放出防止性能の向上を図ることが可能である。
【0043】
なお、図示しないものの、フロントストラップ130は、メインチャンバ120aまで延長してエアバッグ100に縫合してもよい。その場合、フロントチャンバ120bだけでなく、メインチャンバ120aの前部も、フロントストラップ130と重畳する領域において、車内側に位置することとなる。この場合、本実施形態と比較しても、膨張展開時に車内側に位置するエアバッグ100の領域が広くなる利点がある。一方、フロントストラップ130にかかる荷重が増大するため、本実施形態と比較すると、フロントチャンバ120bが車両側へ突出(移動)する量は減少する。
【0044】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態にかかるカーテンエアバッグを例示する図である。図5は図2(b)に対応していて、第2実施形態にかかるカーテンエアバッグ(以下、「エアバッグ200」と記載する。)の車両前側付近を車外側から見て例示している。図5に例示するエアバッグ200は、フロントストラップの取付位置において第1実施形態のエアバッグ100と異なる。
【0045】
本実施形態におけるストラップとして、エアバッグ200が備えるフロントストラップ230は、フロントチャンバ120bの車外側の外表面に取り付けられている。この構成によっても、エアバッグ200の膨張展開後において、フロントチャンバ120bのうちの少なくともフロントストラップ230と重畳する領域はサイドウィンドウ114aから車外側へ離れ、より車内側に膨張展開する。
【0046】
図6は、図5のカーテンエアバッグの車両内における膨張展開後を例示する図である。なお、図6は図4(a)に対応している。図6に例示するように、フロントストラップ230を備えることによっても、フロントチャンバ120bのサイドウィンドウ114aからの車内側への突出量D3は、フロントチャンバ120bの幅W3(幅W3は短軸bよりも厚い(長い))と、フロントピラー106の幅W2とを加えた量となる。したがって、フロントチャンバ120bを車内側に位置させて乗員を迅速に受け止め、乗員の着座位置からの移動量を減少させることが可能である。またこの構成によっても、フロントチャンバ120bのフロントストラップ230に重畳する部分は、長軸の前端が車内側の斜め前方を向く姿勢となる。これにより、乗員はフロントチャンバ120bに対してその短軸方向よりも厚みの有る部分へ接触可能となる。したがって、乗員からの荷重をより確実に吸収することが可能となっている。
【0047】
(各実施形態の第1の変形例)
図7は、各実施形態にかかるエアバッグの第1の変形例を例示する図である。以下では、各実施形態を代表して、第1実施形態にかかるエアバッグ100を参照して各実施形態の第1の変形例について説明する。なお、この図7は図2に対応している。
【0048】
図7(a)に例示するように、エアバッグ300には、複数のチャンバのうちの1つとして、かつフロントチャンバ120bとは異なる端部チャンバとして、エアバッグ300の車両前後方向の後側にリアチャンバ120cが設置されている。そして、エアバッグ300の後側にはフロントストラップ130とは異なるストラップとして、リアストラップ330が設けられている。リアストラップ330は、フロントストラップ130と同様に、膨張展開したエアバッグ300の姿勢を車両側面部に沿わせるように保持する紐状の部材である。リアストラップ330は、エアバッグ300よりも後方のリアピラー110(図1(a)参照)に連結される。リアピラー110は、サイドウィンドウ114bよりも車内側に突出する部位である(図8参照)。
【0049】
リアストラップ330は、エアバッグ300の車外側であってリアチャンバ120cの後端よりも前方の領域に縫合される。図7(b)に例示するように、当該エアバッグ300においてリアストラップ330は、リアチャンバ120cを前方の膨張領域120から区分するシーム部332に縫合されている。
【0050】
図8は、図7のカーテンエアバッグの車両内における膨張展開後を例示する図である。なお、図8は図4(a)に対応している。図8に例示するように、エアバッグ300の膨張展開後において、リアストラップ330はエアバッグ300からのテンションが加わり、略直線状となる。すると、リアチャンバ120cのうちの少なくともリアストラップ330と重畳する領域はサイドウィンドウ114bよりも車外側へ離れ、より車内側に膨張展開することとなる。
【0051】
上記構成においても、リアストラップ330がフロントストラップ130と同様に作用することにより、後部座席空間の後側においてリアチャンバ120cと乗員との距離が近くなり、乗員は迅速にリアチャンバ120cに接触する。特に、リアチャンバ120cを乗員に近い位置に配置させることで、衝撃を受けた際における乗員の着座位置からの移動量を減少させることができる。したがって、ロールオーバの発生時において、後部座席118の乗員に対する車外放出防止性能の向上を図ることが可能である。
【0052】
(各実施形態の第2の変形例)
図9は、各実施形態にかかるエアバッグの第2の変形例を例示する図である。以下では、各実施形態を代表して、第1実施形態にかかるエアバッグ100を用いて第2の変形例について説明する。図9は図1に対応している。
【0053】
図9(b)に例示するように、エアバッグ400は幅広な形状の幅広ストラップ430を備えている。本変形例では、幅広ストラップ430は、フロントピラー106から略水平に延びてフロントチャンバ120bのほぼ中央を横断する第1の辺と、そこから略垂直上方に延びてルーフサイドレール104(あるいはフロントピラー106)に到達する第2の辺と、第1・第2の辺を結ぶ第3の辺とを含む。したがって幅広ストラップ430は、第3の辺を斜辺とする直角三角形に近い形状をしている。幅広ストラップ430は、縁の一点によってフロントピラー106に取り付けられ、第3の辺が位置するフロントピラー106からサイドウィンドウ114aの下部にかけて広範囲に広がり、フロントチャンバ120bのほぼ上半分という広い範囲を、サイドウィンドウ114aから離すことが可能となっている。
【0054】
図10は、図9(b)の展開状態のカーテンエアバッグを例示する図である。図10(a)(b)はそれぞれ、図2(a)(b)と同様の方向からエアバッグ400を見た図である。図10(a)に例示するように、幅広ストラップ430の形状は略直角三角形となっていて、その斜辺(縁の一点から斜め上方に延びる縁)にはタブ432が設けられている。タブ432にはボルトを通すボルト穴434が設けられて、フロントピラー106またはルーフサイドレール104に取付可能となっている。
【0055】
図10(b)に例示するように、幅広ストラップ430は、縁の一点よりも車両の車両前後方向の中央側の領域、例えば後方側(図中、左側)の辺近傍においてシーム部132に縫合されている。幅広ストラップ430には、複数の肉抜穴436が設けられている。複数の肉抜穴436は、幅広ストラップ430上に千鳥状に形成されている。これにより、図9(a)に例示するような収納時の巻回状態において、巻回によって基布同士が重なる面積が減少する。したがって、広い面積を有する幅広ストラップ430ごとエアバッグ400を巻回しても、細くコンパクトな状態に巻回することが可能となっている。
【0056】
図4(a)のフロントストラップ130と同様に、幅広ストラップ430はエアバッグ400の膨張展開後において、サイドウィンドウ114aよりも車内側へ突出するフロントピラー106と、エアバッグ100上のシーム部132との間で緊張し、車両前後方向に略平面状の姿勢になる。
【0057】
図11は、図9(b)の概略的なC−C断面図である。図11に例示するように、フロントチャンバ120bのうちのフロントストラップ130と重畳する領域120gは、車外側への展開が防がれてサイドウィンドウ114aから離れる。特に三角巾状の幅広ストラップ430は、フロントチャンバ120gの上部側の大部分である領域120gに重畳し、サイドウィンドウ114aから離すことが可能である。
【0058】
しかも、フロントチャンバ120bにはタブ126b(図2(a)参照)は設けられていず、フロントビラー106に取り付けられていない。したがってフロントチャンバ120bは動作の自由度が高く、上下方向にわたって設置されているシーム部132をあたかも回転軸のようにして車内側へ回動しやすく、サイドウィンドウ114aから離すことが容易に可能である。
【0059】
フロントチャンバ120bがフロントビラー106に取り付けられていない一方、図9(b)に例示するように、幅広ストラップ430はその前端部分だけでなく、前端よりも後方のタブ432によってもフロントビラー106に取り付けられている。これにより、図11に例示する車内側から乗員がフロントチャンバ120bに接触しても、端部チャンバの乗員からの荷重の受け止めが不安定になることはなく、フロントチャンバ120bの領域120gをその車外側から確実に支え、乗員からの荷重を受け止めることが可能となっている。これらのように、幅広ストラップ430によってもフロントチャンバ120bと乗員との距離を近くし、ロールオーバの発生時の乗員に対する車外放出防止性能の向上を図ることが可能である。なお、図7に例示するリアストラップ330もまた、幅広ストラップ430と同様に幅広の形状とすることが可能である。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0061】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
また、上記実施形態においては本発明にかかるカーテンエアバッグを自動車に適用した例を説明したが、自動車以外にも航空機や船舶などに適用することも可能であり、同様の作用効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ(横転)時に、乗員保護を目的として車両室内の側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグに利用することができる。
【符号の説明】
【0064】
a …長軸、b …短軸、D1、D2、D3 …突出量、W1、W2、W3 …幅、100、200、300、10 …エアバッグ、102 …車両、104 …ルーフサイドレール、106 …フロントピラー、108 …センターピラー、110 …リアピラー、112 …インフレータ、114 …サイドウィンドウ、115 …ドア部、116 …前部座席、118 …後部座席、120 …膨張領域、120a、16 …メインチャンバ、120b、14 …フロントチャンバ、120c …リアチャンバ、122 …非膨張領域、120d …領域、120e、120f …部分、126 …タブ、128 …ボルト穴、130、230、12 …フロントストラップ、132、332 …シーム部、134 …ガス流入口、330 …リアストラップ、400 …エアバッグ、430 …幅広ストラップ、432 …タブ、434 …ボルト穴、436 …肉抜穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両室内の側面部上方に収納され、該側面部に沿って膨張展開するカーテンエアバッグであって、
当該カーテンエアバッグの車両前後方向の端部に設置され、膨張展開用ガスを受けて膨張する端部チャンバと、
当該カーテンエアバッグの車外側であって前記端部チャンバの末端よりも中央側の領域と、該端部チャンバの末端よりもさらに端部方向に離れた位置においてサイドウィンドウよりも車内側に突出するピラーとを結ぶストラップとを備え、
前記ストラップは、膨張展開後の当該カーテンエアバッグによって略直線状になる長さを有することを特徴とするカーテンエアバッグ。
【請求項2】
前記ストラップは、前記端部チャンバを中央側の膨張領域から区分する非膨張領域に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項3】
前記ストラップは、前記端部チャンバの外表面に取り付けられることを特徴とする請求項1に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項4】
前記端部チャンバは、中央側の膨張領域から膨張展開用ガスを受けるガス流入口を下部に有し、
前記非膨張領域は、当該カーテンエアバッグの上縁から下方の前記ガス流入口にわたって設置されていることを特徴とする請求項2に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項5】
前記端部チャンバは、中央側の膨張領域よりも遅れて膨張展開を開始することを特徴とする請求項4に記載のカーテンエアバッグ。
【請求項6】
前記ストラップは、当該カーテンエアバッグの膨張展開後において前記側面部に沿って平面状に広がる幅広ストラップであって、
前記幅広ストラップは、縁の一点において前記ピラーに取り付けられ、該縁の一点よりも前記車両の車両前後方向の中央側の領域において当該カーテンエアバッグに取り付けられていて、
前記幅広ストラップはさらに、前記縁の一点から斜め上方に延びる縁において前記車両に取り付けられていて、
当該カーテンエアバッグは、前記端部チャンバよりも後方の上縁において車両に取り付けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−20719(P2012−20719A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−162345(P2010−162345)
【出願日】平成22年7月16日(2010.7.16)
【出願人】(503358097)オートリブ ディベロップメント エービー (402)
【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
【Fターム(参考)】