説明

カートリッジ及び該カートリッジを具備するカドミウム分析用前処理装置

【課題】カドミウム以外の金属イオンを除去しカドミウムを濃縮させるという前処理が迅速に実施できるカートリッジ、及び該カートリッジを用いた試料中のカドミウムを分析する方法を提供する。
【解決手段】収納部及び複数の口を有し該口以外は密閉されたカートリッジにおいて、該口の少なくとも1つの口は試料注入口であり、試料注入口の断面積は収納部の断面積よりも小さく、試料注入口と収納部との間にはフィルターが具備されており、収納部にはカドミウムを選択的に吸着する剤を担体に固定化した充填材が充填されてなるカートリッジ;並びに
該カートリッジに試料を通液し、0.05M以上の塩酸水溶液を通液したのち、硝酸水溶液を通液し、得られた硝酸水溶液による脱離分のカドミウム含有量を測定することを特徴とする分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量カドミウムの前処理用カートリッジ及び該カートリッジを具備するカドミウム分析用前処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウムが、例えば、米などの農産物、魚などの水産物、畜産物に多く含まれていると、それらを摂取した者に深刻な健康被害をもたらすことが知られており、農産物、水産物、畜産物などの食品に含まれるカドミウムの量を正確、迅速に分析するとともに、多くの試料を迅速に分析することが求められている。
微量カドミウムの分析方法としては、例えば、海水に含まれるカドミウムの分析方法として、オクタデシルシリル基を有するシリカゲルにトリオクチルメチルアンモニウムを担持させたものをカラムに充填し、塩酸を加えた海水を該カラムに2 ml/min の割合で通液させることによって海水中のカドミウムを該カラムに吸着させ、続いて 0.1M 硝酸水溶液で該カラムからカドミウムを脱離させて、カドミウム濃縮液を調製するという前処理を実施したのち、得られたカドミウム濃縮液を 波長 228.8 nm における原子吸光で分析する方法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】K.Akatsuki et al., Analytical Sciences, p529, Vol.14, (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の方法では、試料の通液速度が2 ml/min の割合と遅く、異なる種類の試料の分析や同じ種類でも多くのロットの分析が求められる食品のカドミウム分析の前処理方法としては実用的ではない。さらに、食品の場合には海水とは異なり、カドミウム以外の金属イオンが多様にかつ大量に含有することから、カドミウムを吸着させたまま、カドミウム以外の金属イオンを除去するという前処理も実施しなければならない。
本発明の目的は、カドミウム以外の金属イオンを除去しカドミウムを濃縮させるという前処理が迅速に実施できる前処理装置、及び該前処理装置を用いた試料中のカドミウムを分析する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは、特定のカートリッジを含む前処理装置及び該前処理装置を用いた分析方法がかかる問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、収納部及び複数の口を有し該口以外は密閉されたカートリッジにおいて、該口の少なくとも1つの口は試料注入口であり、試料注入口の断面積は収納部の断面積よりも小さく、試料注入口と収納部との間にはフィルターが具備されており、収納部にはカドミウムを選択的に吸着する剤を担体に固定化した充填材が充填されてなるカートリッジ;
該カートリッジと試料吸引部及び/又は試料圧送部とからなるカドミウム分析用前処理装置であって、該部は該カートリッジに具備されている口に接続されてなるカドミウム分析用前処理装置;並びに
該カートリッジに試料を通液し、0.05M以上の塩酸水溶液を通液したのち、硝酸水溶液を通液し、得られた硝酸水溶液による脱離分のカドミウム含有量を測定することを特徴とする分析方法
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のカートリッジ及びカドミウム分析用前処理装置は、通液速度を速くしても、カドミウムを完全かつ迅速に吸着し、カドミウム以外の金属イオンは迅速に除去でき、結果として、試料から迅速にカドミウムを濃縮するという前処理を実施することができる。また、本発明の分析方法は、異なる種類の試料の分析や同じ種類でも多くのロットなど、多数の試料を分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のカートリッジは、収納部及び複数の口を有し、該複数の口以外は密閉された容器である。複数の口は、通常、図1の如く2つの口((1)及び(3))である。
該複数の口が密閉された本カートリッジは、収納部が±1気圧程度の加圧または減圧されても形状が変化しない耐圧容器であることが好ましく、このことにより、口から試料を通液しても、収納部などから試料が漏洩することを防止することができる。本カートリッジは、耐圧性を向上させるために、図1の如く、収納部を有するルアー型であることが好ましい。
本カートリッジの材質としては、加工のしやすさの観点から、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製などのポリオレフィン製、フッ素樹脂製などが推奨され、耐薬品性の観点からポリプロピレン製、フッ素樹脂製が好ましく、とりわけ、ポリプロピレン製が好適である。
【0008】
本カートリッジは、複数の口の少なくとも1つは試料注入口(1)である。
他の口(3)は、試料が吸入によってカートリッジに注入される場合には空気の吸引口として用いられ、試料が圧送によってカートリッジに注入される場合には、空気の排出口として用いられる。
【0009】
本カートリッジにおける試料注入口(1)の断面積は、収納部(2)の断面積よりも小さい。
試料注入口および収納部の断面の形状は、通常、略円形であり、試料注入口(1)の径(図1のr)は、収納部(2)の径(図1のR)よりも小さく、好ましくは、r/R=0.01〜0.7程度、好ましくは0.1〜0.5である。r/Rが0.7以下であると試料注入口から試料が収納部全体に分散され、カドミウムを効率的に収納部に充填された充填材に吸着させることができることから好ましく、0.01以上であると、試料を大量に処理できる傾向があることから好ましい。
試料注入口(1)はカートリッジの略軸心部に位置することが好ましい。このことにより、試料注入口から試料が収納部全体に分散され、カドミウムを効率的に収納部に充填された充填材に吸着させることができる。
また、試料注入口が着脱可能であることが好ましい。着脱可能であると後述する試料吸引部及び/又は試料圧送部を容易に交換することができる。具体的には、注射筒に貯えられた試料を試料注入口から収納部に充填された充填材に吸着させたのち、ただちに、該注射筒を塩酸などのハロゲン化水素酸が貯えられた注射筒に容易に交換して、該ハロゲン化水素酸を収納部に通液させることができるなどの前処理方法が例示される。なお、ハロゲン化水素酸はこれを充填材に接触させるとカドミウム以外の金属イオンを充填材から脱離させる作用を有する。
【0010】
試料注入口と収納部との間にはフィルターが具備されている。フィルターが存在することにより、試料注入口から試料を収納部全体に分散させ、カドミウムを効率的に充填材に吸着させることができる。
フィルターとしては、塩酸、硝酸などの酸や試料などのフィルターに接触する物質に対する耐薬品性があればよく、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製、フッ素樹脂製、ガラス製などのフリット、及び、濾紙等、ならびにこれらの組合せたフィルターが挙げられる。
中でも、ポリプロピレン製フリットは安価で入手が容易で、耐薬品性に優れる。また、カートリッジを作成する際に収納部に充填材を充填したのち、収納部上面を簡単に平滑にすることができることから好ましい。
また、他の口(3)から充填材を流出させないために、カートリッジに具備されている他の口と収納部との間には、通常、フィルターが具備されている。
【0011】
本発明のカートリッジの収納部(2)には、カドミウムを選択的に吸着する剤を担体に固定化された充填材が充填されている。
カドミウムを選択的に吸着する剤は、充填材に担持され得る剤であって、カドミウムを吸着し得る剤であり、通常、4級アンモニウム塩である。4級アンモニウム塩としては、窒素原子に炭素数1〜18のアルキル基が4つ結合しており、該アルキル基の合計炭素数は、通常、8〜40である。4級アンモニウムの具体例としては、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、トリドデシルメチルアンモニウムなどが挙げられ、中でも、窒素原子にメチル基が1つ及び炭素数6〜12のアルキル基3つが窒素原子に結合したアンモニウムが好ましく、中でもとりわけトリオクチルメチルアンモニウムは市販品が容易に入手できることから好ましい。
4級アンモニウム塩の対イオンとしては、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、過塩素酸イオンまたは水酸化イオンなどが例示され、好ましくは塩素イオンである。
【0012】
担体への4級アンモニウム塩を固定化する方法としては、例えば、4級アンモニウム塩を含む水溶液を充填材とともに攪拌混合する方法、例えば、カートリッジに充填された充填材に4級アンモニウム塩を含む水溶液を通液させる方法などが挙げられる。
担体への4級アンモニウム塩の吸着量を向上させるために、担体に4級アンモニウム塩を接触させる前にハロゲン化水素酸で洗浄することが好ましい。また、4級アンモニウム塩に由来する不純物を除去するために、4級アンモニウム塩が吸着された充填材をヘキサン、ヘプタンなどの炭化水素で洗浄することが好ましい。
【0013】
充填材への4級アンモニウム塩の吸着量を向上させるために、担体への4級アンモニウム塩の固定化方法において、担体と接触する際に用いる4級アンモニウム塩を含む水溶液を高濃度化させたり、担体と4級アンモニウム塩を含む水溶液との接触時間を長くするなどして、担体に飽和する程度まで固定化することが好ましい。例えば、担体に飽和する剤の量は、破砕状シリカゲルにトリオクチルメチルアンモニウムクロライドを固定化する場合、通常、10〜450mg(トリオクチルメチルアンモニウムクロライド)/g(破砕状シリカゲル)程度であり、球状シリカゲルにトリオクチルメチルアンモニウムクロライドを固定化する場合、通常、10〜500mg(トリオクチルメチルアンモニウムクロライド)/g(球状シリカゲル)程度である。
【0014】
充填材とは、カドミウムを選択的に吸着する剤が固定化された担体であり、担体としては、0.5〜4μmのスルーポア及び2〜50nmのメソポアからなる二重細口構造を有するシリカゲル、破砕状シリカゲル、球状シリカゲル、オクタデシルシリル基を有するシリカゲルなどのシリカゲル、活性アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、活性炭などの担体が例示される。
中でも、シリカゲルは、球状シリカゲルは、カドミウムを選択的に吸着する剤が多く固定化され、しかも、試料の通液速度が向上し、前処理が迅速になる傾向があることから好ましい。球状シリカゲルの粒径は、通常、3〜600μmであり、好ましくは、50〜250μmである。球状シリカゲルの粒径が50μm以上であると試料の注入速度が向上し、前処理が迅速になる傾向があることから好ましく、250μm以下であると球状シリカゲルに固定化される4級アンモニウム塩の量が増大する傾向があることから好ましい。尚、本発明では、粒径は篩の目開きによって測定される。
【0015】
充填材の使用量は、吸着するカドミウムの量に応じて、適宜、設定すればよいが、ハンディタイプの注射筒で試料を注入する場合のカートリッジには、0.2〜10g程度の充填材が用いられる。
【0016】
カートリッジの大きさは、試料中のカドミウムを十分に吸着し得る充填材を格納できる大きさであればよい。具体的には、収納部の径(図1のR)は少なくとも5mm以上であれば、試料の通液速度の制御が容易になる傾向があることから好ましい。また、収納部の高さ(図1のH)は、通常、5mm以上であれば、収納部における試料の保持時間の制御が容易になる傾向があることから好ましい。
【0017】
本発明のカートリッジは、複数の口以外は密閉されており、好ましくは、±1気圧程度の加圧あるいは減圧に耐えられる構造である。このことにより、カートリッジの収納部を加圧あるいは減圧にして、試料などの通液速度を上げ、迅速に前処理することができる。
【0018】
本カドミウム分析用前処理装置とは、前記カートリッジと試料吸引部及び/又は試料圧送部とを具備してなるカドミウム分析用前処理装置であって、該部は該カートリッジに具備されている口に接続されてなるものである。
そして、本分析方法は、本カートリッジに試料を通液し、0.05M以上の塩酸水溶液を通液したのち、硝酸水溶液を通液し、得られた硝酸水溶液のカドミウム含有量を測定する分析方法である。
以下に本発明の前処理装置及び該装置を用いた分析方法を説明する。
【0019】
まず、試料の調製方法を説明する。試料の調製方法としては、食品の場合を例示すると、 食品をミル型破砕機などで破砕したのち、0.1M程度の塩酸を混合し、必要に応じて、遠心分離や濾過などで食品に由来する夾雑物を除去して得られた水溶液を試料として用いる方法などが挙げられる。
【0020】
カドミウム分析用前処理装置の実施の一態様を図2に示した。図2の形態における前処理方法を具体的に説明する。
カートリッジ(I)の試料吸入口(1)は、試料吸引部及び試料圧送部である注射器(II)に接続されており、他の口(3)から排出される液を受け入れるように、受器(III)が具備されている。
試料は注射器(II)のシリンダー部(6)に準備され、注射器のピストン(7)に押し出されて受器(III)に導かれる。この際、カートリッジを通液する際の試料の通液速度としては、0.01〜0.7秒−1程度、好ましくは、0.07〜0.5秒−1である。
0.01秒−1以上であると、試料からカドミウムを迅速に吸着できる傾向があることから好ましく、0.7秒−1以下であると、収納部でカドミウムが固定化されやすい傾向があることから好ましい。
ここで、通液速度とは、試料が受器(III)に注入する量(ml)をピストン(7)で加圧した時間(秒)で除すことによって得られる「受器(III)に注入される液の速度(ml/秒)」を収納部の体積(ml)で除した値である。
試料が1つの注射器で処理できない場合には、試料の入った注射器に交換し、続いて、同様に、収納部にカドミウムを固定化させればよい。この際、試料注入部(3)が注射器(II)を着脱できる口であると、容易に注射器(II)を交換することができる。
【0021】
次に、充填材に含まれるカドミウム以外の金属イオンを洗浄するために、塩酸などのハロゲン化水素酸水溶液の入った注射器(II)に交換して、該水溶液をカートリッジ(I)に通液する。
カートリッジを通液する際の該水溶液の通液速度としては、塩酸濃度によっても異なるが、0.1Mの場合、通常、0.01〜8秒−1程度、好ましくは、0.02〜1.5秒−1である。
0.02秒−1以上であると、カドミウム以外の金属イオンを迅速に洗浄できる傾向があることから好ましく、8秒−1以下であると、収納部に固定化されたカドミウムの脱離量が低減されやすい傾向があることから好ましい。
塩酸水溶液における塩酸濃度としては、通常、0.01〜1M程度であり、好ましくは、0.01〜1M程度である。0.05M以上であるとカドミウムが脱離しない傾向があることから好ましく、0.1M以下であると、カドミウム以外の金属イオンが脱離されやすい傾向があることから好ましい。
塩酸の通液量は、塩酸濃度によって異なるが、塩酸濃度が0.01Mの場合、通常、充填材の量の2〜20容量倍程度、好ましくは、7〜15容量倍程度である。通液量が2容量倍以上であると、カドミウムの分析に支障がない程度にカドミウム以外の金属イオンが十分低減され、15容量倍以下であると、収納部に固定化されたカドミウムの脱離量が低減されやすい傾向があることから好ましい。
【0022】
続いて、充填材からカドミウムイオンを脱離させるために、硝酸水溶液の入った注射器(II)に交換して、該水溶液をカートリッジ(I)に通液してカドミウム分析用に前処理されたカドミウム濃縮液を得る。
カートリッジを通液する際の硝酸水溶液の通液速度としては、硝酸濃度によっても異なるが、硝酸濃度が0.1Mの場合、通常、0.01〜8秒−1程度、好ましくは、0.02〜1.5秒−1である。
0.02秒以上であると、カドミウムを迅速に脱離できる傾向があることから好ましく、8秒以下であると、カドミウムの脱離させるための硝酸水溶液の量が低減されやすい傾向があることから好ましい。
硝酸水溶液における硝酸濃度としては、通常、0.01〜0.5M程度であり、好ましくは、0.05〜0.1M程度である。0.05M以上であるとカドミウムの脱離させるための硝酸水溶液の量が低減されやすい傾向があることから好ましく、0.1M以下であると、カドミウムの分析がイムノクロマト法であると、用いる抗体が活性化しやすい傾向があることから好ましい。
硝酸の通液量は、硝酸濃度によって異なるが、硝酸濃度が0.1Mの場合、通常、充填材の量の2〜20容量倍程度、好ましくは、7〜15容量倍程度である。通液量が2容量倍以上であると、カドミウムが全量脱離する傾向があることから好ましく、20容量倍以下であると、カドミウム濃縮液におけるカドミウム濃度を向上させる傾向があることから好ましい。
【0023】
カドミウム分析用前処理装置の異なる実施態様として図3を示した。カートリッジ(I)の試料吸入口(2)には、注射器(II)のシリンダー部が接続されており、試料吸引部及び試料圧送部として、注射器(4)が図示されている。
カートリッジ(I)の他の口(3)は減圧マニホールド(IV)に接続される。減圧マニホールド(IV)には、受器(III)及び真空ポンプ(VI)が具備されており、減圧マニホールド(IV)を減圧することにより、シリンダー部からカートリッジ(I)に、試料、塩酸水溶液及び硝酸水溶液を通液することができる。減圧マニホールド(IV)とカートリッジ(I)との接続口が複数あれば、複数のカートリッジを接続することができる。
減圧マニホールド(IV)には、必要に応じて、減圧度メーター(V)、減圧調整弁(図示せず)、吸引瓶(図示せず)などを接続していてもよい。
【0024】
カドミウム分析用前処理装置の異なる実施態様として図4を示した。
圧送の場合、カートリッジ(I)を通液する試料等を供給するための貯槽(VII)および加圧ポンプ(VIII)がカートリッジ(I)に接続されている場合などが例示される。
【0025】
かくして得られたカドミウム含有硝酸水溶液は、通常、1〜50倍程度にカドミウムが濃縮される。このように濃縮された水溶液は、既に周知である、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS(=inductively coupled plasma [source] mass spectrometry))、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES(=inductively coupled plasma atomic emission spectrometry))、原子吸光分析(AAS(=atomic absorption spectrometry))などでカドミウム含有量を測定していてもよいし、例えば、硝酸水溶液に導電性ダイヤモンド電極と対電極との間で電圧を印加して電流値を測定する方法(特開2005-49275号公報)、カドミウムをキレート剤に配位させ、この形成された錯体をモノクローナル抗体(例えば、特許生物寄託センターの寄託番号 FERM P-19240 のハイブリドーマが産生する抗カドミウムモノクローナル抗体So26G8、例えば、特許生物寄託センターの寄託番号 FERM P-19703 のハイブリドーマが産生する抗カドミウムモノクローナル抗体Nx22C3)により検出・測定するイムノアッセイ法などで分析してもよい。
中でも、イムノアッセイ法は、特開2004-323508号公報の図7に記載されているようにキットとなっていることから、本カートリッジで施す前処理と同様に、カドミウムの濃度を迅速かつ簡便に分析できることから好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例により、何ら限定されるものではない。例中の「%」及び「部」は、特記ない限り、重量%及び重量部である。
【0027】
(実施例1)
<カドミウムを選択的に吸着する剤及びカートリッジの調製>
シリカゲル60N(関東化学製、中性の球状シリカ、粒子径0.063-0.210mm (70-230mesh ASTM)))100.6gと0.1M塩酸2000mLを反応容器に仕込み、内温90℃で1時間撹拌した。内容物をろ過し、ろ過器上をろ液がpH≧6になるまで純水で洗浄し、真空乾燥して、シリカゲルの塩酸洗浄品95.4gを得た。
続いて、シリカゲルの塩酸洗浄品85.4g及びヘキサン427mLを反応容器にて撹拌した。別途調製した、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド(Aliqat336、Alfa Aesar社製)12.8g及びヘキサン128mLの混合溶液を該反応溶液に混合し、室温で1時間撹拌した。ろ別し、ろ過器上を数回ヘキサンで洗浄、乾燥したところ、カドミウムを選択的に吸着する剤97.7g得た。尚、シリカゲル85.43gに対してトリオクチルメチルアンモニウムクロライド12.31gであることから、カドミウムを選択的に吸着する剤は0.144g/シリカゲルgの割合でトリオクチルメチルアンモニウムクロライドが吸着されていた。また、ろ液の濃縮残渣は約0.5gのトリオクチルメチルアンモニウムクロライドが回収された。
次に、カドミウムを選択的に吸着する剤0.55gを図1に記載のカートリッジにおける収納部(0.7ml)に充填し、本カートリッジを得た。
【0028】
<カドミウム含有試料の調製1>
独立行政法人 国立環境研究所提供の環境標準試料 玄米粉末(NIES CRM No.10、カドミウム高レベル 1.82μg/g(米))2gに対し0.1M塩酸20mLを加え、10分間振とうした。次いでろ紙でろ過して得られたろ液をカドミウム含有試料とした。
カドミウム含有試料をICP−AESで分析したところ、カドミウム含有量としては0.14 mg/L(1.4μg/g(米))であった。
【0029】
<カドミウム含有試料の調製2>
玄米粉末として、独立行政法人 国立環境研究所提供の環境標準試料 玄米粉末(NIES CRM No.10、カドミウム中レベル 0.32μg/g(米))を用いる以外は<カドミウム含有試料の調製1>と同様にしてカドミウム含有試料を調製した。
カドミウム含有試料をICP−AESで分析したところ、カドミウム含有量としては0.027 mg/L であった。
【0030】
<注射器を用いる前処理>
注射器(II)に、前記カドミウム含有試料1を5ml吸引したのち、前記で調製されたカートリッジとともに図2にように組み立てて、カドミウム分析用前処理装置とした。
(i)次に、通液速度0.1mL/sec(=0.143sec-1(収納部0.7ml)の割合でピストン部(7)を圧して、カドミウム含有試料1をカートリッジに通液して、カドミウムイオンを収納部に吸着させた。この際、受器(III)に回収された溶液内のカドミウムイオン含量は後述するICP−AES分析の検出限界(0.01mg/L)以下であり、Fe2+=1.1mg/L、Mn2+=3.1mg/L、Cu2+=0.29mg/L、Mg2+=140mg/L、Zn2+=1.9mg/Lが含有されていた。
(ii)続いて、カドミウム分析用前処理装置から注射器(II)を取り外し、0.1M塩酸を5mL充填した別の注射器(II)を装着し、押出しにより通液速度1mL/sec(=1.43sec-1)で通液した。この際、受器(III)に回収された溶液内のカドミウムイオン含量は後述するICP−AES分析の検出限界(0.01mg/L)以下であり、Fe2+=0.23mg/L、Mn2+=0.16mg/L、Cu2+=0.03mg/L、Mg2+=7mg/L、Zn2+=0.40mg/Lが含有されていた。
(iii)そして、カドミウム分析用前処理装置から注射器(II)を取り外し、0.1M硝酸を5mL充填した別の注射器(II)を装着し、押出しにより通液速度1mL/sec(=1.43sec-1)で通液し、受器(III)にカドミウム濃縮液を得た。
ICP−AESにて測定したところ、カドミウム濃縮液には、Cd2+=0.14 mg/L(1.4μg/g(米))、Fe2+=0.34mg/L、Mn2+=<0.01mg/L、Cu2+=<0.01mg/L、Mg2+=0.05mg/L、Zn2+=0.13mg/Lが含有されていた。
カドミウム含有試料1に含まれるカドミウムがほぼ全量、受器(III)に回収されたことが明らかになった。
【0031】
(実施例2〜4)
表1の備考に記した以外は実施例1と同様に実施した。受器(III)におけるカドミウム含有量を実施例1とともに表1に示した。(i)は前処理における試料の通液、(ii)は前処理における塩酸の通液、(iii)は前処理における硝酸の通液を表す。いずれも、カドミウム含有試料1に含まれるカドミウムがほぼ全量、受器(III)に回収されたことが明らかになった。
【0032】
【表1】

【0033】
(実施例5)
カドミウム含有試料としてカドミウム含有試料2を用いる以外には実施例1と同様にしててカドミウム濃縮液を得た。
ICP−AESにて測定したところ、カドミウム濃縮液には、Cd2+=0.027 mg/Lが含有されていた。特開2004-323508号公報の図7に記載されたキットを3本使用して測定したところ、平均値0.030 mg/Lが測定された。
カドミウム含有試料2に含まれるカドミウムがほぼ全量、受器(III)に回収されたことが明らかになった。
【0034】
(実施例6〜8)
<減圧マニホールドを用いた前処理>
(i)図3に記載の減圧マニホールドのA、B及びCの位置に、カドミウム含有試料2を5ml吸引した注射器(II)を接続し、約-50mmHgの減圧で吸引した。実施例6の通液速度が0.047ml/sec、実施例7の通液速度が0.033ml/sec、実施例8の通液速度が0.046ml/secであった。
(ii)続いて、カドミウム分析用前処理装置から注射器(II)を取り外し、0.1M塩酸を5mL充填した別の注射器(II)を装着し、約-50mmHgの減圧で吸引した。実施例6の通液速度が0.111ml/sec、実施例7の通液速度が0.139ml/sec、実施例8の通液速度が0.208ml/secであった。
(iii)そして、カドミウム分析用前処理装置から注射器(II)を取り外し、0.1M硝酸を5mL充填した別の注射器(II)を装着し、約-50mmHgの減圧で吸引した。実施例6の通液速度が0.132ml/sec、実施例7の通液速度が0.185ml/sec、実施例8の通液速度が0.263ml/secであった。
(iii)で得られた受器(III)中のカドミウム含有量をICP−AES分析による結果を表2に示した。いずれも、カドミウム含有試料2に含まれるカドミウムがほぼ全量、受器(III)に回収されたことが明らかになった。
【0035】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】カートリッジ 右半分;断面図、左半分;平面図、下:平面図
【図2】試料吸引部及び/又は試料圧送部として注射器と、カートリッジとを有するカドミウム分析用前処理装置
【図3】試料吸引部としての減圧マニホールドと、カートリッジとを有するカドミウム分析用前処理装置
【図4】試料圧送部としての加圧ポンプと、カートリッジとを有するカドミウム分析用前処理装置
【符号の説明】
【0037】
(1) 試料注入部(口)
(2) 口
(3) 収納部
(4) ポリプロピレン製フリット
(5) ポリプロピレン製フリット
(6) 注射器のシリンダー部
(7) 注射器のピストン部
R 収納部の径
r 試料注入部の径
H 収納部の高さ
(I) カートリッジ
(II) 注射器
(III) 受器
(IV) 減圧マニホールド
(V) 減圧度メーター
(VI) 真空ポンプ
(VII) 貯槽
(VIII)加圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収納部及び複数の口を有し該口以外は密閉されたカートリッジにおいて、該口の少なくとも1つの口は試料注入口であり、試料注入口の断面積は収納部の断面積よりも小さく、試料注入口と収納部との間にはフィルターが具備されており、収納部にはカドミウムを選択的に吸着する剤を担体に固定化した充填材が充填されてなるカートリッジ。
【請求項2】
カドミウムを選択的に吸着する剤が、窒素原子に炭素数1〜18のアルキル基が4つ結合した4級アンモニウム塩であって、該アルキル基の合計炭素数が8〜40の4級アンモニウム塩である請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
担体が球形シリカゲルである請求項1又は2に記載のカートリッジ。
【請求項4】
試料注入口が着脱可能な口である請求項1〜3のいずれかに記載のカートリッジ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のカートリッジと試料吸引部及び/又は試料圧送部とを具備してなるカドミウム分析用前処理装置であって、該部は該カートリッジに具備されている口に接続されてなるカドミウム分析用前処理装置。
【請求項6】
試料吸引部及び/又は試料圧送部が注射器である請求項5に記載の前処理装置。
【請求項7】
試料吸引部が、カートリッジ通液後の試料の受器、減圧マニホールド、及び減圧ポンプからなる試料吸引部である請求項5に記載の前処理装置。
【請求項8】
試料圧送部が、カートリッジ通液前の試料の貯槽及び送液ポンプからなる試料圧送部である請求項5に記載の前処理装置。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれかに記載のカートリッジに試料を通液し、0.05M以上の塩酸水溶液を通液したのち、硝酸水溶液を通液し、得られた硝酸水溶液による脱離分のカドミウム含有量を測定することを特徴とする分析方法。
【請求項10】
カドミウム含有量をイムノアッセイ法で分析することを特徴とする請求項9に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−58207(P2008−58207A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237122(P2006−237122)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(390000686)株式会社住化分析センター (72)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】