説明

カード用シート及びカード

【課題】 非PVC系の材料であり、PVCの場合と同じ条件でスクリーン印刷及びエンボス加工を行っても、裏写りが起らず、かつ、エンボスカールを低減することができるカード用シート及びカードを提供することができる。
【解決手段】 カード用シートは、ベース層の少なくとも一方の面にスキン層を有する多層シートであって、スキン層を形成する樹脂組成物が、実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とし、滑剤を0.1〜3.0質量%、及び、衝撃改良剤を8〜30質量%含有し、ベース層を形成する樹脂組成物が、衝撃改良剤を0〜5質量%含有する。スキン層の厚さは、多層シート全体の厚さの5〜25%であることが好ましい。また、カードは、このカード用シートを少なくとも1つ有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレジットカードやキャッシュカード等のような磁気カード、ICカード等に使用されるカード用シート、及び、そのカード用シートを用いたカードに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気カードやICカード等のカードは、一般的に、コアシートと称される白色樹脂シートに印刷を施した後、印刷層を保護するため両面にオーバーシートと称される透明樹脂シートを被せ、熱プレスを行って積層体を形成し、次に、形成された積層体に打抜き加工等が施されてカード形状に形成される。なお、必要に応じて、カードにはエンボス加工が施されたり、表面に印刷が施されたりする。ポリ塩化ビニル樹脂(以下「PVC」と称すこともある)は、印刷適性、エンボス加工適性等に優れるため、カードの材料として使用されてきた。
ところが、ダイオキシン等の環境問題が懸念されることから、エコロジーブームに乗って、近年においては非PVC系材料への代替が強く望まれるようになった。カード分野におけるPVCの代替材料として、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールと1,4−シクロヘキサンジメタノールとの脱水縮合体である非結晶性のポリエステル系樹脂が検討されている。
しかしながら、この非結晶性のポリエステル系樹脂からなるシートに、PVCシートの場合と同じインキを用い、同じ条件でスクリーン印刷を施した後、シートを積み重ねると、インキがなかなか乾燥せず、積み重ねたシートの裏面に下側のシートのインキが転写するという、いわゆる「裏写り」が生じることがあった。これは、PVCシートの場合には、スクリーン印刷用インキの遅乾燥性溶剤の一部がシート表面で乾燥するのと同時に、残りの遅乾燥性溶剤がシート内部に短時間で吸収され、やがてシート中に拡散されてシート外に揮発していくのに対し、ポリエステル系樹脂からなるシートの場合には、残りの遅乾燥性溶剤がシート内部に吸収されにくいので、やがてシート表面を溶解してしまうからであると考えられる。その結果、PVCシートの場合と同様の条件で乾燥させると、シート表面付近に遅乾燥性溶剤が長く残留し、裏写りが生じることになる。
この裏写りを防止するために、乾燥時間をPVCシートの場合よりも長くしたり、インキの溶剤組成を変更する等の検討が行われているが、現時点ではPVCシートと同じ設備でカード化を行うことが多いので、これらの変更は現実的ではない。すなわち、これらの変更は実用性がない。したがって、PVCシートと同じ条件でスクリーン印刷を行っても裏写りが生じないシートが求められていた。
非結晶性のポリエステル系樹脂シートを用いたカードに、PVCカードと同じ条件で、エンボス刻印を行うとカードに生じるカール(以下「エンボスカール」と称す)が大きくなり、外観上好ましくなく、しかも、ISO、JIS等の規格を満たさないことがあった。また、エンボスを施すことによってカードが割れること(以下「エンボス割れ」と称す)があるので、このエンボス割れ現象を防ぐために、衝撃改良剤を添加することが行われている。ところが、衝撃改良剤のようなエラストマーをエンボス割れ改良効果が発揮される程度の量まで添加すると、曲げ弾性率が小さくなり、エンボスカールが大きくなるという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、環境問題を発生することがなく、PVCの場合と同じ条件でスクリーン印刷を行っても裏写りが起こらず、かつ、エンボス加工を行ってもエンボスカールを低減することができるカード用シート、及び、このカード用シートを用いたカードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以上の課題を解決するため、本発明のカード用シートは、ベース層の少なくとも一方の面にスキン層を有する多層シートであって、該スキン層を形成する樹脂組成物が、実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とし、滑剤を0.1〜3.0質量%、及び、衝撃改良剤を8〜30質量%含有し、該ベース層を形成する樹脂組成物が、衝撃改良剤を0〜5質量%含有することを特徴とする。
ここで、前記スキン層の厚さは、前記多層シート全体の厚さの5〜25%であることが好ましい。
また、前記衝撃改良剤が、(メタ)アクリル系重合体であることができる。
【0005】
本発明のカードは、上記カード用シートを少なくとも1つ含むことを特徴とする。
ここで、上記カード用シートをオーバーシート及びコアシートとしてそれぞれ独立に含むことができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、非PVC系のカード用シートであって、PVCの場合と同じ条件でスクリーン印刷及びエンボス加工を行っても、裏写りが起こらず、かつ、エンボスカールを低減することができるカード用シートを提供することができる。また、このカード用シートを用いて形成すれば、裏写りが起らず、かつ、エンボスカールの低減が可能なカードを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のカード用シートは、ベース層の少なくとも一方の面にスキン層を有する2層以上の多層シートである。但し、このスキン層は、実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とし、滑剤を含有し、かつ、衝撃改良剤を8〜30質量%含有する樹脂組成物から形成された層である。スキン層に含有される衝撃改良剤が8質量%未満では、スクリーンインキの溶剤の吸収効果が発現されにくく、インキの裏写り防止効果が十分に発揮されない。また、エンボス加工によるエンボス割れが生じ易い。一方、衝撃改良剤の含有量が30質量%より多くなっても、インキの裏写り防止効果が向上するわけではなく、すなわち、効果が飽和状態に達していると考えられ、不経済である。なお、本発明において、スキン層に含有される衝撃改良剤の量が8〜30質量%であるとは、スキン層を形成する樹脂組成物中の衝撃改良剤の量が8〜30質量%であることを意味する。
【0008】
本発明に使用される衝撃改良剤としては、アルキルアクリレートを主体とするアクリル系重合体、アルキルメタクリレートを主体とするメタクリル系重合体、ブタジエン等の共役ジエンを含む、スチレン−ブタジエン重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン重合体、ポリオルガノシロキサンを含むシリコーン系重合体等の公知のものが挙げられる。これらの中では、アクリル系重合体又はメタクリル系重合体が好ましく用いられる。また、これらの衝撃改良剤は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0009】
ここで、ポリエステル系樹脂とは、芳香族ジカルボン酸成分とジオール成分との脱水縮合体をいい、その中でも結晶性が低く、プレス融着等の実用上行われる熱加工を行っても結晶化による白濁や融着不良を起こさないものをいう。
本発明に好ましく用いられるジカルボン酸成分の代表的なものとしてはテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸が特に好ましく用いられるが、テレフタル酸の一部を他のジカルボン酸等で置換してもよい。他のジカルボン酸等成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ネオペンチル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、p−オキシ安息香酸などが挙げられる。なお、用いられる他のジカルボン酸等成分は、一種でも二種類以上の混合物であってもよく、また、置換される他のジカルボン酸の量も適宜選択することができる。
【0010】
本発明に好ましく用いられるジオール成分の代表的なものとしてはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの中では、エチレングリコールが特に好適に用いられるが、エチレングリコールの一部を他のジオール等成分で置換してもよい。他のジオール等成分としては、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロール、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。なお、用いられる他のジオール等成分は、一種でも二種類以上の混合物であってもよく、また、置換される他のジオール等の量も適宜選択することができる。本発明に用いられるポリエステル系樹脂としては、具体的には、テレフタル酸とエチレングリコールとを縮合重合させたポリエチレンテレフタレートがコストの観点から好ましいが、テレフタル酸以外の他のジカルボン酸等成分及び/又はエチレングリコール以外の他のジオール等成分を含んだ共重合ポリエステルを使用することができる。
【0011】
共重合ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分の60モル%以上がテレフタル酸であり、残りのジカルボン酸成分が他のジカルボン酸等成分で置換されたジカルボン酸成分と、ジオール成分の60モル%以上がエチレングリコールで、残りのジオール成分が他のジオール等成分で置換されたジオール成分とを縮合重合させた共重合ポリエステルが挙げられる。本発明におけるポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレートと上記の共重合ポリエステルとの混合物であってもよい。
ただし、共重合ポリエステルを使用する場合には、共重合成分の選択や含有量等によっては、シートのガラス転移温度や引張り弾性率の変化が大きいので注意を要する。
【0012】
特に好適に使用できる共重合ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの約30モル%を、1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した実質的に非晶性の芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、例えば、イーストマンケミカル社製の商品名「PETG6763」を商業的に入手することができる。
【0013】
カード用シートを構成するベース層は、衝撃改良剤を0〜5質量%含有する樹脂組成物から形成された層であることが必要である。(ベース層の衝撃改良剤が0〜5質量%とは、ベース層を形成する樹脂組成物中の衝撃改良剤の量が5質量%以下であることを意味する。)ベース層を形成する樹脂組成物は、実質的に非結晶性のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、又はポリエステル系樹脂とポリカーボネートとのアロイを主成分とすることが好ましい。
【0014】
ここで、実質的に非結晶性のポリエステル系樹脂としては、上述した、スキン層に用いられるものと同様のものが挙げられる。
また、ポリカーボネートとは、主成分がポリカーボネートである樹脂組成物を意味する。ポリカーボネートに混合することができる樹脂としては、例えば、イーストマンケミカル社製の商品名「PETG」等が挙げられる。
【0015】
また、ベース層の材料として用いられる、ポリエステル系樹脂とポリカーボネートとのポリマーアロイとしては、例えばポリエステル系樹脂としてPETG又はポリブチレンテレフタレート(以下「PBT」と称す)を使用し、これとポリカーボネートとのポリマーアロイが好ましいものとして挙げられる。PBTは、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールとの脱水縮合体であり、ホモポリマーでも共重合体でもよい。共重合体としては、例えばテレフタル酸の一部をイソフタル酸で置換したものが挙げられる。ポリマーアロイのポリエステル系樹脂とポリカーボネートとの組成比は、目的等に応じて適宜設定することができ、使用されるカードの種類や厚さ等を考慮して設計することが望ましい。
【0016】
本発明のカード用シートは、少なくともスキン層に滑剤を含むことが必要である。滑剤の量は各層を形成する樹脂組成物中、0.1〜3.0質量%であることが好ましく、特に0.3〜2.0質量%であることが好ましい。各層を形成する樹脂組成物中の滑剤の含有量が0.1質量%以上であれば、熱プレスによるカード化の際に、化粧板にシートが貼り付くことを効果的に防止することができ、3.0質量%以下であれば、シート上への印刷適性を損なうことがない。好ましく用いられる滑剤としては、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0017】
本発明において、カード用シートの各層には着色剤を添加することもできる。着色剤を添加した層を少なくとも一層設けることにより、隠蔽性のあるコアシートを設計することができる。着色剤としては顔料を使用することができ、例えば、酸化チタン、硫酸バリウムのような白色顔料を用いることができる。この場合、各層における着色剤の含有量は、スキン層≦ベース層の関係になることが好ましい。このように着色剤を配合することは、隠蔽性に優れたカード用シートを設計する上で有利に作用し、しかも、形成されたカードにエンボス加工を施す際、エンボス割れを効果的に防ぐことができる。したがって、顔料の含有量がベース層よりもスキン層の方が多い場合には、カードにエンボス加工を行う際、カード表面から割れが進行してエンボス割れにつながりやすいと考えられる。
【0018】
また、カード用シートの各層にはタルク等のフィラーを添加することもできる。この場合、各層におけるフィラーの含有量は、スキン層≧ベース層の関係になることが好ましい。このようにフィラーを配合することにより、シートの腰を強くすることができるので、エンボスカールを防ぐという点において有利になる。
【0019】
上述したように、カード用シートの各層には、衝撃改良剤、滑剤の他、着色剤やフィラー等を添加することができるが、これらの添加量は相互に補完的に関係しあって全体として、シートやカードの特性に大きく影響を及ぼすことになる。すなわち、カードに形成した後のエンボス適性やエンボスカール防止性、印刷適性等、種々の特性を総合的に考慮すると、各層に含有される衝撃改良剤の量はスキン層>ベース層であり、各層に含有される滑剤の量はスキン層≧ベース層であり、各層に含有される着色剤の量はスキン層≦ベース層であり、各層に含有されるフィラーの量はスキン層≧ベース層であることが好ましく、これらの関係を同時に満たすことが、総合的なバランスの観点から最も好ましい。
【0020】
この他、カード用シートの各層には必要に応じて、上記の効果等を損なわない範囲内において、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、異種ポリマー等を添加することができる。
【0021】
本発明のカード用シートは、ベース層の少なくとも一方の面にスキン層が設けられているが、カードの製造工程における作業性の観点からは、スキン層を両面に設けることが好ましい。なお、ベース層およびスキン層は、それぞれ単層体でも多層体でもよい。
【0022】
カード用シートの厚みは、特に限定はないが、例えば30〜800μmの範囲で選択されることができる。ただし、スキン層の一層(単層体及び多層体を含む)の厚みが、カード用シート全体の厚みの5〜25%の範囲内であることが好ましい。スキン層の厚みがシート全体の厚みの5%より薄いと、遅乾燥性溶剤の吸収効果が発現されにくい場合があり、また、エンボス加工によるエンボス割れが生じることがある。また、スキン層の厚みが25%より厚いと、溶剤を吸収したスキン層が乾燥する際に、収縮応力がカード用シート全体に対して大きくなり、これが起因して、カード用シートがカールしてしまうことがあり、カードの製造工程における作業性を低下させることがある。
【0023】
カード用シートは、例えば押出成形により製造することができ、ベース層用樹脂組成物とスキン層用樹脂組成物とを2台の押出機に供給し、Tダイより共押し出しした後、キャストロールで急冷固化することにより、スキン層/ベース層、スキン層/ベース層/スキン層等の層構成を有する多層シートを得ることができる。
【0024】
本発明のカード用シートは、少なくとも一方の面にマット加工が施されていることが好ましい。マット加工については特に限定されるものではないが、例えば、表面の10点平均粗さ(Rz)が5μm以上、30μm以下であるような連続的なマット加工が施されていることが好ましく、このようなマット加工が施されていることにより、裏写り防止効果が更に大きくなる。また、Rzが5μm以上であれば、シートを積層して熱プレスを行ったとき、シートとシートとの間や、シートと化粧板との間の空気が抜け難くなることがなく、得られたカードの外観に欠陥が生じることがない。また、Rzが30μm以下であれば、表面に印刷を施すときに、印刷インキが入り込まないというような悪影響を与えることがなく、印刷適性に支障をきたすことがない。
【0025】
シート表面にマット加工を施したり、艶消し加工等を施す場合には、まず鏡面のシートを形成してから、マットロールや艶消しロールを用いて表面に加工を施しても、あるいはシートの押出成形の際にキャストロールをマットロール又は艶消しロールに変更して押出成形を行うことにより表面に加工を施してもよい。なお、マット加工によって形成されるマット模様等のデザインは適宜決定することができ、美的観点から、あるいは機能的な観点からシートの商品価値を高めることもできる。
【0026】
一般にカードは、例えば、カードの中層として使用されるコアシート、カードの表面に配置されるオーバーシート等から、また必要に応じて情報を記録するための磁気ストライプテープやICチップ等から構成されており、コアシートにオーバーシートを重ね、熱プレス等によりシート間を融着させた後、カード形状に打抜き加工を施して形成される。本発明においてカード用シートという場合には、カード製造に使用される基材としてのシートを言い、コアシートやオーバーシート等のシートを含むものとする。
【0027】
本発明のカードは、本発明のカード用シートを少なくとも1つ含むことが必要であり、例えば、コアシート及び/又はオーバーシートとして用いることができる。カード全体に対するシート厚みの寄与を考慮すると、本発明のカード用シートをコアシートとして用いることが望ましく、さらにコアシート及びオーバシートとして用いることが望ましい。本発明のカード用シートがコアシート及びオーバーシートの両方に使用される場合には、これらのカード用シートは同一でも異なっていてもよい。なお、コアシートやオーバーシートに使用される本発明のカード用シート以外のシートとしては、通常のコアシートやオーバーシートを用いることができる。オーバーシートは透明であってもよく、透明の場合には、コアシートに印刷した図柄等をカード表面から透かして見ることができる。
例えば、コアシートの表面にシルクスクリーン印刷、オフセット印刷等によって印刷を施し、形成された印刷面にオーバーシートを被せ、また必要に応じてコアシートの他方の面にもオーバーシートを被せ、仮貼りした後、化粧板に挟み込み、熱プレスして積層体を形成する。得られた積層体を打抜き刃でカード形状に打抜きカードを形成することができる。
【0028】
本発明において、オーバーシートとコアシート等を一体化する方法については特に限定されるものではないが、例えば、熱融着、接着剤等を用いる方法等が挙げられる。本発明においては、熱融着により一体化することが好ましい。なお、オーバーシートに、予め磁気テープを貼っておいてもよい。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例におけるシート及びカードの評価等は、下記に示す評価方法に基づいて行った。
【0030】
評価方法:
(1)裏写り
カード用シートを300mm×300mmの大きさに切断し、このシートのスキン層に、PVCシートの印刷に用いられているインキと同一のスクリーンインキ(商品名「CAD藍」、帝国インキ製造株式会社製)を用い、公知のスクリーン印刷法によりベタ印刷を全面に行い、50℃の熱風乾燥機中で20分間乾燥させた。ただし、インキの固形分濃度は20質量%となるように調整し、インキが20g/mの塗布量となるように印刷を行った。印刷後、印刷面を上にしてカード用シートを100枚重ね、室温で24時間放置してから、最下部のカード用シートとその上のカード用シートとを取り出し、最下部のカード用シートの印刷がその上のカード用シートの裏面に転写されているか否かを目視観察した。また、積み重ねたシート同士がブロッキングを生じていないかどうかも確認した。裏写りが生じていた場合を記号「×」、ブロッキングは生じたが、裏写りはなく、実質上問題がない場合を記号「△」、ブロッキングも裏写りも生じていない場合を記号「○」で示した。
【0031】
(2)印刷後のカード用シートのカール
裏写りの評価と同様にして、スクリーン印刷を行ったカード用シートの1枚を、室温で24時間放置した。このカード用シートを、印刷面を上にして定盤上に置き、カード用シートの端部に浮き上がり(カール)が生じていないか目視観察した。シートの端部に浮き上がり(カール)が生じていないものを記号「○」、シートの端部に浮き上がり(カール)は認められるが、実用上問題のない程度であると判断されるものを記号「△」、シートの端部が3mm以上浮き上がっているものを記号「×」で示した。
【0032】
(3)カードのエンボス割れ
裏写りの評価と同様にして、スクリーン印刷を行ったカード用シートを2枚用い、オーバーシート/コアシート/コアシート/オーバーシートの順に重ねた。但し、印刷面がオーバーシート側になるように配置した。この重ねたシートを化粧版に挟み込み、120℃で10分間、シート面圧が9.8×10Paで熱プレスを行い、シートを一体化させた後、室温まで冷却し、カード形状に打ち抜いてカードを作製した。
得られたカードに、日本データカード社製の「エンボッサーDC−9000」を用いて、7Bフォントの文字を3行で19文字、エンボス加工を行った。エンボス文字の凸部分を目視観察し、割れが生じていたものを記号「×」、割れが生じていなかったものを記号「○」で示した。
【0033】
(4)カードのエンボスカール
エンボス割れの評価において作製したエンボスが施されたカードを、定盤の上にエンボス凸部が上になるように置き、カールの度合いを目視により観察した。カールの度合いに関し、JIS X 6305の規定に基づいて評価を行い、規定外のものを記号「×」、カードの厚さを含めた最大高さが2.5mm以下であるものを記号「○」、PVCカードと同等とみなせるものを記号「◎」で示した。
【0034】
実施例1
表1に示す配合物CS1の配合に基づいて、ベース層用樹脂組成物を作製し、配合物CS4の配合に基づいて、スキン層用樹脂組成物を作製した。すなわち、ベース層用樹脂組成物として、ポリエチレンテレフタレートにおけるエチレングリコールの約30モル%を、1,4−シクロヘキサンジメタノールで置換した実質的に非晶性の芳香族ポリエステル(ここでは「ポリエステルA」と表記する)と酸化チタンとを、ポリエステルAが90質量%、酸化チタンが10質量%の割合で配合した。また、スキン層用樹脂組成物として、ポリエステルAを81質量%、衝撃改良剤としてアクリル系重合体であるアクリル−シリコンゴム(三菱レイヨン(株)製、「メタブレンS−2001」)を8質量%、酸化チタンを10質量%、滑剤として脂肪酸エステルを1質量%の割合で配合した。ベース層用樹脂組成物と、スキン層用樹脂組成物とを、2台の押出機に投入し、同方向二軸押出機を用いて2種3層構成の積層体を形成した。得られた積層体の各層の厚み比は、表2に示すように、スキン層/ベース層/スキン層=20/60/20であった。この積層体をカード用シートCとする。
得られたカード用シートCについて、裏写り、印刷後のカールの評価を行った。その結果を表2に示す。
【0035】
実施例2〜13
実施例1において、スキン層用樹脂組成物とベース層用樹脂組成物を表2及び表3に示す配合物に変更し、使用する配合物の配合は表1に示すように変更して、積層体を形成した。なお、スキン層とベース層との厚み比は表2及び表3に示すように変更した。得られた積層体を、表2に示すように、それぞれ、カード用シートD〜カード用シートJ、カード用シートL、カード用シートN、カード用シートP、カード用シートQ、カード用シートOAとした。
得られた各カード用シートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2及び表3に示す。
【0036】
比較例1〜5
実施例1において、スキン層用樹脂組成物とベース層用樹脂組成物を表2及び表3に示す配合物に変更し、使用する配合物の配合は表1に示すように変更して、積層体を形成した。なお、スキン層とベース層との厚み比は表2及び表3に示すように変更した。得られた積層体を、表2及び表3に示すように、それぞれ、カード用シートA、カード用シートB、カード用シートK、カード用シートM、カード用シートO、カード用シートOBとした。
得られた各カード用シートについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2及び表3に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
表2及び表3から明らかなように、実施例1〜13の本発明のカード用シートは、裏写りが生じておらず、かつ、印刷後のシートのカールも実用上問題のない範囲内のものであることが分かった。一方、比較例1〜2のカード用シートは、裏写りが生じていた。
なお、エンボス割れについては、カードを作製し、カードについて評価を行った。これについては、実施例14〜26及び比較例7〜11に示す。
【0041】
実施例14
表4に示すように、コアシートとしてカード用シートCを用い、オーバーシートとしてカード用シートOBを用いた。コアシートのスキン層にスクリーン印刷を行い、コアシートの印刷面がオーバーシート側になるようにして、オーバーシート/コアシート/コアシート/オーバーシートの順に重ねて化粧板に挟み込み、温度120℃、シート面圧9.8E+5Paで10分間、熱プレスを行い、一体化させた後、冷却して厚さ約760μmの積層体を形成した。なお、コアシート1枚の厚みが約280μm、オーバーシート1枚の厚みが約100μmである。得られた積層体をカード形状に打抜き、カードを作製した。
得られたカードについて、エンボス割れ、及びエンボスカールの評価を行った。その結果を表4に示す。なお、カード用シートの裏写り、及び、シートの印刷後のカールについても、併せて表4に再度表示する。
【0042】
実施例15〜26、及び、比較例7〜11
実施例14において、使用するコアシート及びオーバーシートを表4に示すように変更した以外は実施例14と同様にして、カードを作製した。
得られたカードについて、実施例14と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。なお、カード用シートの裏写り、及び、シートの印刷後のカールについても、併せて表4に再度表示する。
【0043】
【表4】

【0044】
表4から明らかなように、本発明のカード用シートをコアシートとして用いた実施例14〜26のカードは、エンボス加工を行った後のエンボス割れが生じておらず、かつ、エンボスカールも実用範囲内のものであることが分かった。また、本発明のカード用シートをオーバーシートにも使用した実施例26のカードは、エンボスカールの評価において、更に優れたものであることが分かった。しかも、実施例14〜26に使用したカード用シートは裏写りの評価も印刷後のカールの評価においても良好なものであった。すなわち、本発明のカード用シートは、裏写り及びエンボスカールの評価の全てにおいて良好なものであることが分かった。
一方、比較例7のカードはエンボス割れが生じており、比較例9〜11のカードはエンボスカールが大きくて実用範囲外のものであることが分かった。また、比較例8のカードは、カード用シートBが裏写りの評価において劣ったものであった。したがって、比較例7〜11のカードは、裏写り及びエンボスカールの少なくとも一方において劣ったものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース層の少なくとも一方の面にスキン層を有する多層シートであって、該スキン層を形成する樹脂組成物が、実質的に非結晶性の芳香族ポリエステル系樹脂を主成分とし、滑剤を0.1〜3.0質量%、及び、衝撃改良剤を8〜30質量%含有し、該ベース層を形成する樹脂組成物が、衝撃改良剤を0〜5質量%含有することを特徴とするカード用シート。
【請求項2】
前記スキン層の厚さが、前記多層シート全体の厚さの5〜25%であることを特徴とする請求項1記載のカード用シート。
【請求項3】
前記衝撃改良剤が、(メタ)アクリル系重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載のカード用シート。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のカード用シートを少なくとも1つ含むことを特徴とするカード。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載のカード用シートを、オーバーシート及びコアシートとして、それぞれ独立に含むことを特徴とする請求項4記載のカード。

【国際公開番号】WO2005/042250
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515116(P2005−515116)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015615
【国際出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】