説明

カーボンナノチューブをベースにした微粉状組成物と、その製造方法と、特にポリマー材料中でのその使用

【課題】カーボンナノチューブをベースにした粉末組成物と、その製造方法と、ポリマー材料でのその使用。
【解決手段】ポリマー材料中に優れた分散性を示すカーボンナノチューブをベースにした粉末組成物。強化剤および/または導電性および/または熱特性の改質剤として使用でき、マスターブレンドの形でマトリックスポリマー中に容易に混和させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ(CNT)をベースにした材料、特にCNTをベースにした粉末組成物(微粉状組成物)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは巻かれたグラファイトシートから成り、その先端はフラーレン類似構造を有する五角形および六角形の半球で終わっており、直径は100nm以下、好ましくは0.4〜50nmの管状構造を有し、長さ/直径の比は極めて高く、例えば10以上、一般には100以上である。
【0003】
単一壁ナノチューブ(SWNT)とよばれる単一シートから成るナノチューブと多重壁ナノチューブ(MWNT)とよばれる複数の同心シートから成るナノチューブとがあり、一般にSWNTはMWNTより製造が難しい。
CNTの合成方法を開示した文献の中ではHiperion Catalysis International Inc.の下記特許文献1が挙げられる(この特許文献は特許文献2に対応している):
【特許文献1】国際特許第WO 86/03455A1号公報
【特許文献2】欧州特許第EP 225 556 B1号公報
【0004】
この特許はMWNT型CNT合成法に関する基本特許の一つと思われる。他の特許にはプロセスの改良方法、例えば触媒および生成カーボン材料の凝集状態を制御するための連続流動床の使用(例えばTsinghua Universityの特許文献3)や、触媒の種類および反応条件を変えて各種モルホロジーの非整合ナノチューブを製造する方法(例えばTrustees of Bonston Collegeの特許文献4)が記載されている。
【特許文献3】国際特許第WO 02/94713 A1号公報
【特許文献4】国際特許第WO 02/095097 A1号公報
【0005】
合成されたCNTは粒径が一般に約300μm以上の粉末の形態で得られる(CNTは触媒粒子に絡み合った網の形で結合している)。
CNTは優れた導電性、熱伝導性および機械特性(強化剤など)を得るのに用いられる。さらに、材料、特に高分子型の材料に導電性、熱伝導性および/または機械特性を与えるための添加剤としてCNTが用いられるようになってきたが、CNTの開発には、上記の特性の一方および/または他方を与える他の添加剤と比較してコストが高いという課題に加えて、分散が難しく、粒径が小さく微粉状であるため取り扱いが難しいという課題がある。
【0006】
CNTのHSE(hygiene-securite-environment、健康−安全−環境)の観点からの検討はまだ十分に行われていない。詳しい調査が待たれるが、念のために「裸の」CNT、例えば合成で得られたCNTを直接取り扱うことは避けるのが好ましい。
粉末の細かさはともかく、いわゆる合成で得られるCNTよりも取り扱いが容易、特に工業的に取り扱いが容易なCNTを作るというニーズがある。このニーズは満たされていない。
さらに、CNTがより均一に混和した材料を得るために、材料、特にポリマー材料中へのCNTの分散性を良くするというニーズもあるが、このニーズも満たされていない。
CNT中への分散性の問題を解決するために種々の混合技術のいずれかに頼ることが行われている。例えば、ナノチューブの表面に分散を良くする試薬(ポリマー、界面活性剤等)を付ける溶剤を用いる方法が下記文献には記載されている。
【特許文献5】欧州特許第1,495,171号公報
【0007】
下記文献には、溶剤およびモノマー中でCNT分散体を製造した後に、モノマーをその場(インサイチュウ、in situ)で重合する別の方法が開示されている。CNTは必要に応じて官能化される。
【特許文献6】欧州特許第1,359,121号公報
【特許文献7】欧州特許第1,359,169号公報
【0008】
しかし、上記の各種方法には下記の問題点がある。すなわち、混合または重合がCNT濃度が極めて低い(一般に20重量部以下)の溶剤中および/または媒体中で行うため、これらの方法では使用するCNT溶液が限定され、特に、溶剤との混和性が強い場合に限定される。また、多量に不積まれる溶剤を後で除去しなければならない。また、多量のCNTを導入するために多量の分散剤を混和する必要がある。
【0009】
下記論文にはCNTの存在下での塊重合方法が記載されている。
【非特許文献1】Park et al. Macromol.Rapid Commun., 2003, 24, vol.18, 1070-1073
【0010】
この方法でもCNTの比率は極めて低く、多くても20%以下に制限されるという欠点がある。下記文献にはCNTの分散性の問題を解決するためにポリマー材料をベースにしたマスターブレンドが提案されている。
【特許文献8】欧州特許第692,136号公報
【0011】
この特許では押出機タイプの高剪断装置を用いた溶融方法によってCNTの含有率を60重量%まで上げることができるとしている。しかし、この特許の実施例に記載のマスターブレンドのCNT濃度は常に20重量%以下である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記HSE(健康−安全−環境)の観点からの課題、例えば合成で直接得られる粗CNTの欠点がない、CNTをベースにした粉末状の組成物を提供する。
本発明の微粉状組成物は、合成で得られる粗CNTに比べてより高い体積重量および密度を有し、従来の組成物よりもリマーマトリックス中へ分散性が良く、しかも、粗CNTの粉末を取り扱う必要がないという利点がある。
本発明の組成物は、CNTを含む従来のマスターブレンドとは違って、材料中、特にポリマー中に混和したときの優れた分散特性を維持したまま、極めて多量のCNTを含むことができるという利点がある。
【0013】
本発明の別の対象は、上記微粉状組成物の製造方法と、上記組成物の使用とにある。
本明細書では特に説明の無い限り%は重量%である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の微粉状組成物は20〜95%のCNT、特に35〜90%のCNT、例えば40%〜90%のCNTを含む。
本発明の微粉状組成物の平均粒径は一般に1mm以下、好ましくは800μm以下である。
本発明組成物の粒子の10%以下、好ましくは5%以下の径は40μm以下(振動篩い上で乾式篩いによって測定)であるのが好ましい。
【0015】
上記定義の本発明組成物は、CNT以外の微粉状充填剤(一種または複数)をさらに含むことができる。充填剤の例としてはカーボンブラック、活性炭、シリカ、ガラス繊維、顔料、クレー、炭酸カルシウム、ホウ素および/または窒素で形成されるナノチューブおよび/または遷移金属が挙げられる。
本発明の別の対象は、これらの微粉状組成物の製造方法にある。
【0016】
上記定義の微粉状組成物を製造する本発明方法は下記の段階を含む:
(a)CNTを少なくとも一種の化合物Aと接触/分散させる段階、
(b)熱処理する段階(任意工程)、
(c)組成物を精製および/または反応物から分離、回収する段階(任意工程)、
(ただし、(a)(b)(c)の各段階の終了時(au term de)に混合物は固体粉末の形態を維持する)
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(a)段階では分散剤の役目をする少なくとも一種の化合物Aを用いてCNTを分散させる。以下、簡単にするために一種または複数の化合物Aを「化合物A」ということにする。
本発明の微粉状組成物中の化合物Aの含有率はCNTの含有率と任意成分である他の微粉状充填剤との合計で100%となる含有率である。一般に、化合物Aまたは化合物Aの混合物の比率は組成物の5〜80%、特に5〜65%である。
【0018】
化合物Aはモノマー、モノマー混合物、溶融ポリマーまたは溶融ポリマーのブレンド、溶剤中の一種または複数のモノマーおよび/または一種または複数のポリマーの溶液、一種または複数のモノマー中の一種または複数のポリマーの溶液、オイルタイプまたは可塑剤タイプの非反応性単位(化合物)、乳化剤または界面活性剤、カップリング剤(特にエラストマー組成物中への充填剤の分散を促進するためのもの)および/またはカルボン酸にすることができる。
【0019】
下記文献には制御されたラジカル重合で得られるブロックコポリマーの相溶化剤としての使用が記載されている。
【特許文献9】フランス国特許第2,870,251号公報
【0020】
このブロックコポリマーは有機溶剤または水性溶剤中またはポリマーマトリックス中にカーボンナノチューブの安定な分散体を得るための酸および/または無水物の官能基を有する少なくとも一つのブロックを有している。この文献に開示の方法と本発明方法との相違点は各段階の後に得られる混合物が粉末でなく、溶液である点にある。さらに、この文献にはCNT/コポリマー比しか開示がなく、最終組成物中のCNT含有率(極めて広範囲のCNT含有率に対応)は開示がない。換言すれば、この文献には製造段階が粉末のみで行われるCNT含有率が高い微粉状組成物は当業者に開示も示唆もしていない。
【0021】
本発明で「ポリマー」という用語にはオリゴマーも含まれる。「溶液」とは各化合物が互いに混和して単相を形成する混合物だけでなく、非混和性の混合物、例えばエマルションや懸濁液も含む。
本発明の化合物Aとして使用可能な「モノマー」とはラジカルまたはアニオンまたはカチオンイオン重合または共重合または重付加で(共)重合可能なモノマーを意味する。モノマーによってはこれらの重合方法の一つまたは複数に従ってそれぞれ別々に重合できることは理解できよう。
【0022】
化合物Aとして使用可能なラジカル重合可能なモノマーの中では、炭素−炭素二重結合を有するモノマー、例えばビニル、好ましくは塩化ビニル、ビニリデン、ジエンおよびオレフィン、アリル、アクリルまたはメタクリルモノマー等が挙げられる。
【0023】
上記モノマーとしては特に、ビニル芳香族モノマー、例えばスチレンまたは置換されたスチレン、特にα−メチルスチレンおよびナトリウムスチレンスルホネート、ジエン類、例えばブタジエン、イソプレン、または、1,4−ヘキサジエン、アクリルモノマー、例えばアクリル酸またはその塩、アクリル酸アルキル、アクリル酸シクロアルキルまたはアクリル酸アリール、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、エチルヘキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ヒドロキシアルキルアクリレート、例えば2−ヒドロキシエチルアクリレート、エーテルアルキルアクリレート、例えば2−メトキシエチルアクリレート、アルコキシまたはアリールオキシポリアルキレングリコールアクリレート、例えばメトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリプロピレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールアクリレートまたはその混合物、アミノアルキルアクリレート、例えば2−(ジメチルアミノ)アクリル酸エチル(ADAME)、アミン塩のアクリレート、例えば[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウムまたは[2−(アクリロイルオキシ)エチルジメチルベンジル塩化または硫酸アンモニウム、フルオロアクリレート、シリル化アクリレートまたは燐含有アクリレート、例えばアルキレングリコールアクリレート燐酸塩、メタクリルモノマー、例えばメタクリル酸またはその塩、メタクリル酸アルキル、メタクリル酸シクロアルキル、メタクリル酸アルケニルまたはメタクリル酸アリール、例えばメタクリル酸メチル、ラウリルメタクリレート、メタクリル酸シクロヘキシル、アリルメタクリレート、メタクリル酸フェニル、ヒドロキシアルキルメタクリレート、例えば2−ヒドロキシエチルメタクリレート、または、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、エーテルアルキルメタクリレート、例えば2−エトキシエチルメタクリレート、アルコキシまたはアリールオキシポリアルキレングリコールメタクリレート、例えばメトキシポリエチレングリコールメタクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリプロピレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールメタクリレートまたはその混合物、アミノアルキルメタクリレート、例えば2−(ジメチルアミノ)メタクリル酸エチル(MADAME)、アミン塩のメタクリレート、例えば[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチル塩化または硫酸アンモニウム、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルベンジル塩化または硫酸アンモウム、フルオロメタクリレート、例えば2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、シリル化メタクリレート、例えば3−メタクリロイルオキシプロピルトリメチルシラン、燐含有メタクリレート、例えばアルキレングリコールメタクリレート燐酸塩、ヒドロキシエチルイミダゾリドンメタクリレート、ヒドロキシエチルイミダゾリジノンメタクリレートまたは2−(2−オキソ−1−イミダゾリジニル)メタクリル酸エチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、または、置換されたアクリルアミド、4−アクリロイルモルホリン、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム(APTAC)、アクリルアミドメチルプロパンスルホン酸(AMPS)またはその塩、メタクリルアミドまたは置換されたメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、メタアクリルアミドプロピルトリメチル塩化アンモニウム(MAPTAC)、イタコン酸、マレイン酸またはその塩、無水マレイン酸、アルキルまたはアルコキシまたはアリールオキシポリアルキレングリコールマレイン酸エステルまたはヘミ(hemi)マレイン酸エステル、ビニールピリジン、ビニルピロリジノン、(アルコキシ)ポリ(アルキレングリコール)ビニルエーテルまたはジビニルエーテル、例えばメトオキシポリ(エチレングリコール)ビニルエーテルまたはポリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、オレフィンモノマー、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、および、1−オクテン、および、フルオロオレフィンモノマーおよびビニリデンモノマー、例えばフッ化ビニリデンの中から選択される単独または上記モノマーの少なくとも2つの混合物を挙げることができる。
【0024】
ラジカル重合は必要に応じて有機または無機の過酸化物、アゾ化合物、レドックス対および/またはアルコキシアミンの中から選択される少なくとも一種の重合開始剤の存在下で実施することができる。
化合物Aとして使用可能な本発明のモノマーの例としてはカルボン酸、その塩およびその無水物、飽和または不飽和カルボン酸のビニルエステル、例えば酢酸ビニルまたはプロピオン酸ビニル、アミノ酸、例えばアミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸および12−アミノドデカン酸、ラクタム、例えばカプロラクタム、エナントラクタムおよびラウリラクタム、またはヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等のジアミンと、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカンジカルボン酸等のジアシッドとの塩または混合物のモノマーが挙げられる。
【0025】
本発明の化合物Aとして使用可能な「モノマー」は、さらに、開環重合可能なエポキシ樹脂型のモノマー、例えば脂肪族グリシジルエステルおよびエーテル、例えばアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、グリシジルマレエートおよびイタコネートおよびグリシジル(メタ)アクリレートまたは脂環式グリシジルエステルおよびエーテル、例えば2−シクロヘキセン−1−イルグリシジルエーテル、シクロヘキセン−4,5−ジグリシジルカルボキシレート、シクロヘキセン−4−グリシジルカルボキシレート、5−ノルボルネン−2−メチル−2−グリシジルカルボキシレートおよびエンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジグリシジルジカルボキシレートでもよい。
【0026】
本発明で使用する化合物Aは溶融ポリマー、溶融ポリマーの混合物、溶剤中の一種または複数のポリマーの溶液および/または一種または複数のモノマー中の一種または複数のポリマーの溶液でもよい。
化合物Aとして使用可能な一種または複数のポリマーという用語は任意タイプの一種または複数のポリマーをベースにした任意の組成物を意味する。すなわち、リジッドまたはエラストマーの非晶質、結晶性および/または半結晶性の熱可塑性または熱硬化性のホモポリマーまたは勾配、ブロック、ランダムまたはシーケンシャルコポリマーであり、この組成物は一種または複数の種々のポリマーと、ポリマーに通常添加される種々の添加剤、アジュバントおよび/または充填剤、例えば安定化剤、可塑剤、重合触媒、染料、顔料、潤滑剤、難燃剤、強化剤および/または充填剤、重合溶剤等との混合物にすることができる。
【0027】
上記ポリマーは上記モノマーおよび/または当業者に公知の一種または複数のモノマー単位から得ることができるが、これらに限定されるものではない。
化合物Aとして使用可能なポリマーという用語には上記の説明に対応するホモポリマーから製造される任意のランダム、ブロックまたはシーケンシャルコポリマーが含まれ、特にSBS、SIS、SEBSおよびSB型のアニオン重合で製造されるブロックコポリマーおよびSBM型のコポリマー(ポリスチレン−コ−ポリブタジエン−コ−ポリ(メチルメタクリレート))を含む。さらに、制御されたラジカル重合で製造されるコポリマー、例えばSBuAS型のコポリマー(ポリスチレン−コ−ポリ(ブチルアクリレート)−コ−ポリスチレン)、MBuAM型(ポリ(メチルメタクリレート)−コ−ポリ(ブチルアクリレート)−コ−ポリ(メチルメタクリレート))およびその官能化誘導体も含まれる。
【0028】
本明細書での「エポキシ樹脂」とは開環重合可能な少なくとも2つのオキシラン型官能基を有する単独または混合物としての任意の有機化合物を意味する。この「エポキシ樹脂」という用語には室温(20〜25℃)またはそれ以上の温度で液体である任意のエポキシ樹脂が含まれる。このエポキシ樹脂はモノマー状またはポリマー状でもよく、また、脂肪族、芳香族、脂環式化合物、複素環式化合物でもよい。エポキシ樹脂の例としてはレゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、トリグリシジル−p−アミノフェノール、ブロモビスフェノールFジグリシジルエーテル、m−アミノフェノールトリグリシジルエーテル、テトラグリシジルメチレンジアニリン、(トリヒドロキシフェニル)メタントリグリシジルエーテル、フェノールホルムアルデヒドノボラックポリグリシジルエーテル、オルト-クレゾールノボラックポリグリシジルエーテルおよび/またはテトラフェニルエタンテトラグリシジルエーテルを挙げることができる。
【0029】
エポキシ樹脂には硬化剤とよばれる少なくとも一種の第2の化学物質を添加することができる。この硬化剤はエポキシ樹脂と反応することによってエポキシ樹脂を架橋させるもので、例としては以下のものを挙げることができる:
酸無水物、特に無水コハク酸、
芳香族または脂肪族ポリアミン、特にジアミノジフェニルスルホン(DDS)、メチレンジアニリンまたは4,4’−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)(MCDEA)
ジシアンジアミドとその誘導体、
イミダゾレート(imidazoles)、
ポリカルボン酸、
ポリフェノール。
エポキシ樹脂および硬化剤が同時にCNTと接触する場合には、エポキシ樹脂と硬化剤とが互いに反応する前に本発明組成物を使用するのが好ましい。
【0030】
化合物Aとして他の熱硬化性樹脂のモノマーを用いることもできる。例えば、フェノール樹脂となるモノマー、例えば反応性アルキル化メチルフェノール−ホルムアルデヒドおよびブロモメチルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリエステルまたはビニルエステル樹脂またはポリウレタン樹脂型のものにすることができる。ビニルエステルまたは不飽和ポリエステル樹脂の例は下記文献に記載されている。
【非特許文献2】Rev. Macromol.Chem.Phys.,C40(2&3),p.139-165(2000)
【0031】
この文献では上記樹脂をその構造に基づいて5つのグループに分類している:(1)オルト樹脂、例えば1,2−プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールまたは水素化ビスフェノールA、(2)イソ樹脂、(3)ビスフェノールAフマレート(4)塩素化樹脂および(5)ビニルエステル樹脂、例えばビスフェノールA型のビニルエステル、ノボラック型のビニルエステル樹脂、両方の型の単位を有する「混合」ビニルエステル樹脂およびハロゲン化ビニルエステル樹脂。
【0032】
本発明で化合物Aとして使用可能なポリマーの中では特に下記のものが挙げられる:ポリスチレン(PS)、ポリオレフィン、特にポリエチレン(PE)またはポリプロピレン(PP)、ポリアミド(例えば、PA−6、PA6,6、PA−11またはPA−12)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)、ポリスチレン−アクリロニトリル(SAN)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(塩化ビニル)PVC、ポリエーテルジオールの残基であるポリエーテルのソフトブロックと少なくとも一種のジイソシアネートと少なくとも一種の鎖延長剤の短いジオール単位との反応で得られるリジッドなブロック(ポリウレタン)とからなるポリウレタン(鎖延長剤の短いジオールは上記のグリコールの中から選択することができ、ポリウレタンブロックとポリエーテルブロックはイソシアネート官能基とポリエーテルジオールのOH官能基との反応で生じる結合を介して結合されている)、ポリエステルウレタン、例えばジイソシアネート単位と非晶質ポリエステルジオールから得られる単位と例えば上記グリコールの中から選択される鎖延長剤の短いジオールから得られる単位とを有するもの、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマー(PEBA)〔このコポリマーは特に下記(1)〜(3)のような反応性末端基を有するポリアミドブロックと反応性末端基を有するポリエーテルブロックとの共重縮合で得られる:(1)ジアミン鎖末端を有するポリアミドブロックと、ジカルボン酸鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロック、(2)ジカルボン酸鎖末端を有するポリアミドブロックと、ポリエーテルジオールとよばれる脂肪族ジヒドロキシル化α,ω−ポリオキシアルキレンブロックをシアノエチル化および水素化して得られるジアミン鎖末端を有するポリオキシアルキレンブロック、(3)ジカルボン酸鎖末端を有するポリアミドブロックと、ポリエーテルジオール(この場合に得られる生成物を特にポリエーテルエステルアミドという)〕、またはポリエステル。
【0033】
化合物Aとして使用可能なポリマーは、エポキシドおよび/またはグリシジルエーテル型の官能基、飽和または不飽和の芳香族または非芳香族、ビニルまたは芳香族ビニル型の酸、例えば無水物、エステル、アミドおよび/またはイミド型のモノ−、ジ−またはポリカルボン酸または酸の官能性誘導体を含むポリマーにすることもできる。上記ポリマーの定義には上記官能基を複数の含むポリマーが不積まれるということは理解できよう。
【0034】
本発明の化合物Aは特に、(メタ)アクリル酸モノマーの重合または共重合、特に(メタ)アクリル酸とオキシアルキレンモノマー、特にオキシエチレンとの共重合で得られるポリマーの溶剤中の溶液である。
本発明の別の実施例の化合物Aは、アルキル(特にメチル、エチル、プロピル、ブチル)(メタ)アクリレートとスチレンおよび/またはブタジエンとの重合で得られるポリマーの溶剤中の溶液である。
【0035】
本発明の化合物Aとして使用可能な非反応性単位(化合物)とはポリマー工業で用いられる任意タイプのオイル(油)または任意タイプの液体可塑剤を意味し、例としては下記が挙げられる:
(1)動物由来の炭化水素油、例えばペルヒドロスクアラン(またはスクアラン)、
(2)植物由来の炭化水素油、例えば脂肪酸の液体トリグリセリド(この脂肪酸は4〜22個、特に4〜10個の炭素原子を有する)、例えばヘプタン酸またはオクタン酸のトリグリセリドまたは植物由来の油、例えばヒマワリ、トウモロコシ、ダイズ、キュウリ、ブドウの種、ゴマ、ヘーゼルナッツ、アンズ、マカダミア、アララ、コリアンダー、ヒマシまたはアボカド油、ホホバ油、または、シアバター油、またはカプリル/カプリン酸のトリグリセリド、例えばStearineries Dubois社から市販のものまたはDynamit Nobel社から商品名Miglyol810、812、818で市販のもの、
(3)合成エステルおよびエーテル、特に脂肪酸のもの、例えば式R1COOR2およびR1OR2の油(ここで、R1は8〜29個の炭素原子を含む脂肪酸の残基を表し、R2は3〜30個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素鎖を表す)、例えばpurcellin油、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸イソプロピル、2−エチルヘキシルパルミテート、2−オクチルドデシルステアレート、エルカ酸2−オクチルドデシルまたはイソステアリルイソステアレート。
(4)ヒドロキシル化エステル、例えばイソステアリルラクテート、オクチルヒドロキシステアレート、オクチルドデシルヒドロキシステアレート、ジイソステアリルマレート、クエン酸トリイソセチル、脂肪アルコールのヘプタン酸、オクタン酸またはデカン酸、ポリオールエステル、例えばジオクタン酸プロピレングリコール、ジヘプタン酸ネオペンチルグリコールおよびジイソノナン酸ジエチレングリコール、
【0036】
(5)ペンタエリトリトールエステル、例えばペンタエリトリチルテトライソステアレート、アミノ酸の親油性誘導体、例えば味の素から商品名Eldew SL 205で市販のイソプロピルラウロイルサルコシネート(INCI名)、
(6)鉱物または合成物由来の直鎖または分岐鎖を有する炭化水素、例えば鉱油(油から得られる炭化水素油の混合物、INCI名:鉱油)、揮発性または不揮発性流動パラフィンおよびその誘導体、流動ワセリン、ポリデセン、イソヘキサデカン、イソドデカン、水素化イソパラフィン、例えばNOF社から市販のParleam(登録商標)油(INCI名:水素化ポリイソブテン)、
(7)シリコン油、例えば、室温で液体またはペースト状である直鎖または環状のシリコン鎖を含む揮発性または不揮発性ポリメチルシロキサン(PDMS)、特にシクロポリジメチルシロキサン(シクロメチコン)、例えばシクロペンタシロキサンおよびシクロヘキサジメチルシロキサン、
(8)側基のアルキル、アルコキシまたはフェニル基を含むまたはシリコン鎖の末端にアルキル、アルコキシまたはフェニル基を含むポリジメチルシロキサン、この基は2〜24個の炭素原子を有し、フェニル化シリコン、例えばフェニルトリメチコン、フェニルジメチコン、フェニル(トリメチルシロキシ)ジフェニルシロキサン、ジフェニルジメチコン、ジフェニル(メチルジフェニル)トリシロキサン、(2−フェニルエチル)トリメチルシロキシシリケートおよびポリメチルフェニルシロキサン、
(9)フッ素化油、例えば、下記文献に記載のもののような、炭化水素および/またはシリコンを一部含むもの、
【特許文献10】日本国特許第JP−A−2−295912号
【0037】
(10)エーテル、例えばジカプリリルエーテル(CTFA名)およびC12−C15脂肪アルコール(FINETEX社のFinsolv TN )35ベンゾエート、
(11)これらの混合物。
【0038】
トリメリテート型の油、例えばトリオクチルトリメリテート、または、ナフテンを主成分とする油、例えばShell社のCatenex N956油、パラフィン型(一般にExxon-Mobil 社のPrimol 352)または液状ポリブテン型(一般にNapvis 10)の油および、難燃剤の改良など他の特性に寄与しながら可塑剤の役目をするレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)型の製品も挙げることができる。
プラスチックの変換で通常使用される外部可塑剤も本発明の化合物Aとして用いることができる。オクタデカノールまたは脂肪酸、例えばステアリン酸またはパルミチン酸も挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の化合物Aとして使用可能な乳化剤とは、アニオン、カチオンまたはノニオン性の界面活性剤を意味する。この乳化剤は両性または第四級またはフッ素化された界面活性剤にすることもできる。乳化剤はアルキルまたはアリールスルフェート、アルキルまたはアリールスルホネート、脂肪酸塩、ポリ(ビニルアルコール)またはポリエトキシ化脂肪アルコールの中から選択できる。例えば、乳化剤は下記の中から選択できる:
ラウリル硫酸ナトリウム、
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、
ステアリン酸ナトリウム、
ポリエトキシ化ノニルフェノール、
ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、
ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、
臭化ラウリルジメチルアンモニウム、
ラウリルアミドベタイン、
ペルフルオロオクチル酢酸カリウム。
乳化剤は両親媒性のブロックまたはランダムまたはグラフトコポリマー、例えばスチレンスルホン酸ナトリウムコポリマー、特にポリスチレン−b−ポリ(スチレンスルホン酸ナトリウム)や他の重合法で製造された任意の両親媒性コポリマーにすることもできる。
【0040】
本発明の化合物Aはエラストマー組成物中の充填剤の分散をよくするためのカップリング剤、特に下記文献(この特許の内容は参考として本明細書の一部を成す)に開示されているポリ(アルキルフェノール)ポリスルフィドの中から選択することもできる。
【特許文献11】国際特許第05/007738号公報
【0041】
カップリング剤として下記文献に開示されているポリスルフィドオルガノシラン誘導体も挙げられる。
【特許文献12】欧州特許第501,227号公報
【特許文献13】国際特許第WO 97/42256号公報
【特許文献14】国際特許第WO 02/083719号公報
【0042】
本発明の化合物Aはカルボン酸にすることもできる。「カルボン酸」とは少なくとも一種のカルボン酸官能基を含む化合物を意味する。例としては酢酸、アクリル酸またはメタクリル酸の単独または混合物が挙げられる。
本発明の化合物Aは一種または複数のモノマーおよび/または一種または複数のポリマーの溶剤中の溶液にすることができる。この溶剤は水、環状または直鎖のエーテル、アルコール、ケトン、例えばメチルエチルケトン、脂肪族エステル、酸、例えば酢酸、プロピオン酸または酪酸、芳香族溶剤、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンまたはエチルベンゼン、ハロゲン化溶剤、例えばジクロロメタン、クロロホルムまたはジクロロエタン、アルカン、例えばペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、ドデカンまたはイソドデカン、アミド、例えばジメチルホルムアミド(DMF)またはジメチルスルホキシド(DMSO)の単独または混合物の中から選択することができる。
【0043】
本発明の化合物Aは気体、液体および/または固体にすることができる。
CNTは下記のような種々の方法、特に分散、吸着または混合によって化合物Aと接触させることができる(a段階):
(1)化合物Aが液状の場合のCNT粉末をAと接触させる操作には例えば化合物Aを粉末に(またはその逆に)注いで直接導入するか、化合物AをCNT粉末上に滴下して導入するか、噴霧機を用いて化合物AをCNT粉末上に噴霧する操作等がある。分散操作は化合物Aの溶液を固体表面上に広げた流体膜または微細な液滴(露)の形にし、その上にCNT粉末を注入する操作で行うこともできる。
【0044】
(2)化合物Aが気体状の場合にCNT粉末を化合物Aと接触させる操作は、化合物Aの蒸気を必要に応じてガス、好ましくは不活性ガスで移送し、この蒸気を吸着させる操作にすることができる。
(3)化合物Aが固体状の場合にCNT粉末をAと接触させる操作は粉末を乾式混合し、その後、(b)段階(熱処理)を行う操作に対応する。(b)段階で化合物Aは液体または気体の状態に変換され、化合物AとCNTとが確実に均一に混合する。
【0045】
CNTと化合物Aとの間の分散は、溶剤中にCNTを存在させて化合物Aを分散させる予備段階を用いて行うこともできる。この場合にはこの予備段階の後に溶剤を蒸発させる段階を(好ましくは攪拌下で)行なって組成物を粉末状で回収する。化合物AとCNTの粉末状組成物を乾燥状態で得るためのサイクル時間を加速するために濾過を使用できるのが有利である。
【0046】
物理形態の異なる化合物Aを導入する場合は、物理形態の異なる化合物をCNTと接触させる操作を連続して行うのが好ましい。例えば、一種または複数の化合物Aの気体をCNTに吸着させた後に、固体または液体の第2の化合物Aと乾式混合する。
(a)段階は通常の合成反応器中、流動床反応器中、Zアームミキサーの混合装置中、ブラベンダー(Brabender)または押出機中または当業者に周知の同様なタイプの他の任意の混合装置で行うことができる。
この第1段階(a)の終了時にCNTと化合物Aとの混合物は固体粉末の形態を維持し、良好な流動特性を維持する(混合物が塊になることはない)。この混合物を必要に応じて機械的に攪拌することもできる。
【0047】
化合物Aの導入量は、この段階(a)の間、CNTの液体懸濁液と成ったり、CNT粒子が完全または部分的にペースト化してペーストと成る閾値以下になるような量にする。この閾値は化合物AがCNT粉末を含浸する能力に依存し、Aが液体または溶液の場合には導入する液体の粘度に依存する。
化合物Aがアクリル酸の場合、化合物Aの含有率は一般に30〜90重量%である。
【0048】
本発明組成物の製造方法は任意段階としての(b)段階を含む。この(b)段階では(a)段階で得られた粉末を熱処理する。この熱処理は(a)段階後に得られる粉末を加熱して粉末の物理化学的性質を改質するためのものである。
(a)段階でモノマー(液体のモノマー、モノマー溶液)を含む液体を導入した場合には、この熱処理段階は例えば加熱処理にすることができる。この加熱処理でモノマーを重合させ、および/または、強く物理吸着させ、および/または、化学吸着させることができ、CNTとモノマーまたは形成されたポリマーの一部との間に結合を形成させることができる。
【0049】
第1段階で導入したモノマーのインサイチュウ(in situ)合成で得られたポリマーまたは第1段階で添加したポリマーとCNTとの間の結合の特徴は、ポリマー用に選択した溶剤を用いても、インサイチュウで形成されたポリマーまたは(b)段階の熱処理前にCNTに添加したポリマーの一部を洗浄操作ではCNTから抽出できなくなる点にある(これに対して、同じ洗浄操作を(a)段階で得られた混合物(CNT/化合物A)に対して行った場合にはCNTから全ての化合物Aを抽出することができる)。
【0050】
(a)段階で一種または複数の(コ)ポリマーの溶液を用いた場合には、熱処理段階(b)で強い物理吸着および/または化学吸着によってCNTとポリマーとの間に共有結合が形成され、および/または、重合が続き、例えばポリマーのモル質量が増大する。
化合物Aが液体であるか溶剤の溶液の場合にも、(b)段階によって液体とCNTとの分散を改良することができる。
【0051】
(b)段階で重合を行う場合には、この熱処理段階の圧力および温度条件を当業者に公知の通常の重合条件と一致させる。重合中の雰囲気は対象となるモノマーおよびポリマーの種類に応じて不活性にする。例えば、化合物Aが(メタ)アクリル酸の場合には(b)段階での重合を一般に0〜3barの圧力および40〜150℃の温度で行う。加熱時間は5〜1000分、特に300〜600分である。この熱処理(b段階)は64℃で150〜500分間維持する第1期、その後の120℃で100〜200分間維持する第2期、その後の室温への冷却の熱サイクルに従って行うのが有利である。圧力は大気圧にほぼ等しい圧力を維持する。
【0052】
(b)段階の完了時に得られる生成物(混合物)は固体粉末の形態を維持し、良好な流動特性を保持している(混合物は塊にならない)。この段階の完了時に得られる生成物は、(a)段階で得られた生成物と同様に、CNTの液体懸濁液やCNT粒子が完全または部分的にペースト化したペーストになる閾値以下にある。
【0053】
本発明組成物の製造方法は任意段階の段階(c)を含む。この段階(c)は(a)段階または(b)段階で得られた組成物に物理吸着および/または化学吸着によって結合していない化合物をCNTベースの粉末組成物から分離する段階である。この段階は例えば除去すべき化合物用の溶剤を含む溶液を用いた洗浄操作および/または揮発性生成物を揮発させる乾燥操作で行なうことができる。洗浄操作は例えば溶剤混合物を用いて行なうことができる。洗浄操作を複数回、好ましくは1〜5回行って非結合化合物の分離を良くすることができる。洗浄、乾燥のような分離技術を複数回組み合わせることもできる。
【0054】
乾燥操作では揮発性化合物を脱着が容易になるような温度および圧力条件下に置く。すなわち、化合物が化学的分解する温度より低い温度で部分的に減圧する。特に200℃以下、100Pa〜200kPaの圧力下に置くのが好ましい。揮発性化合物の抽出を加速するために、先ず最初に濾過を行なうこともできる。(c)段階で攪拌下に乾燥の最終段階を実施することもできる。例えば、本発明の範囲に入らない非凝集CNT粉末を回収する操作を行なうこともできる。
【0055】
化合物Aが(メタ)アクリル酸で、(b)段階を含まない場合、(c)段階はアルコール水溶液、特に50%エタノール水溶液を用いた洗浄操作にすることができる。
本発明組成物は多くの分野、特に電子工学の分野(温度および構造に応じて伝導体、半導体または絶縁体になる)、機械の分野、例えば複合材料の補強材(CNTは鋼より100倍強く、1/6の軽さを有する)、電気機械の分野(電荷の注入で伸縮できる)で使用できる。
例としては、電磁遮蔽用および/または静電防止散逸用の電子部品の包装材料、例えば携帯電話、コンピュータ、自動車、電車および航空機内に搭載される電子機器用のケース、自動車、電車、航空機用の構造部材、医療機器、燃料輸送ライン(ガソリンまたはディーゼル燃料)、接着材料、静電防止被覆、サーミスター、電極、特にスーパーキャパシター用電極、その他の用途に用いられる材料を挙げることができる。
【0056】
本発明組成物はポリマー中への分散特性が優れているのでマスターブレンドとして使用するのが有利である。このマスターブレンドは例えば一種または複数のポリマーをベースにした最終材料中に希釈して用いる。本発明組成物の希釈は通常の合成反応器中、流動床反応器中、Zアームミキサーの混合装置中、ブラベンダー(Brabender)または押出機型中、溶融容器中(ポリマー材料が熱硬化性の場合)または当業者に公知の類似タイプの他の任意の混合装置中で行うことができる。
【実施例】
【0057】
以下の全ての実施例では触媒担体上でCVD(化学的蒸着)法によって得られた多重壁ナノチューブ(以下、CNTとする)を用いた。透過電子顕微鏡による統計的研究から、ほぼ100%のナノチューブが直径が10〜50nmの多重壁であることがわかった。ペレットに圧縮した時の導電性は20 S/cm以上である。空気下で650℃で焼成した時の灰分量は約7%である。
【0058】
実施例1
CNTとアクリル酸とをベースにした本発明組成物(アクリル酸の噴霧による含浸)
化粧用香水アトマイザー型の噴霧器を用いてアクリル酸溶液を噴霧することで10gのアクリル酸を10gのCNT粉末と混和した。噴霧中に磁気棒型の機械的攪拌器を用いて粉末を攪拌して、アクリル酸の分散を容易にした(a段階)。
次いで、得られた粉末を密閉容器内で加熱した。温度サイクルに64℃で約250分の第1温度固定期と、その後の120℃で約100分の第2温度固定期と、その後の室温への冷却期にした(b段階)。
【0059】
こうして得られた粉末(CNT1a)の特性は[表1]に示してある。
さらに、得られた粉末を洗浄および乾燥した(c段階)。この洗浄操作は水で50%に希釈したエチルアルコール溶液を用いて行った。粉末に2回の連続した洗浄操作は行い、毎回、多孔度が11μmのBuchner濾過用漏斗を用いて粉末を濾過した。
次いで、得られた粉末を1000Paの部分減圧下に120℃で1時間乾燥した。
得られた粉末(CNT1b)の特性は[表1]に示してある。このCNT1b粉末の平均粒径は200μmで、微粉(<100μm)の量は2%以下である(振動篩い上で乾式篩いし測定)。
【0060】
実施例2
CNTとポリ(アクリル酸)とをベースにした本発明組成物(a段階):アクリル酸+ラジカル開始剤混合物を一滴ずつ注入して含浸)
40gのアクリル酸と0.04gのAIBNとを含む溶液を10gのCNT粉末に「パスツール」ピペットを用いて一滴ずつ溶液を滴下して混和した。含浸中に磁気棒型の機械的攪拌器を用いて1時間攪拌して、アクリル酸の粉末中への分散を容易にした。
次いで、得られた粉末を密閉容器中で加熱した。温度は実施例1の(b)段階の温度サイクルに従った(b段階)。
得られた粉末(CNT2a)の特性は[表1]に示してある。
次に、この粉末を1kPaの部分減圧下に120℃で1時間乾燥(c段階)して粉末(CNT2b)を得た。この粉末の特性も[表1]に示してある。必要に応じて、粉末(CNT2a)を洗浄および乾燥するために、未反応のモノマーとグラフトされなかったポリマー鎖またはCNTに非可逆的に吸着されているポリマー鎖を抽出することができる。この洗浄操作は水で50%に希釈したエチルアルコール溶液を用いて行う。粉末に2回の連続した洗浄操作を行う。毎回、多孔度が11μmのBuchner濾過用漏斗を用いて粉末を濾過する。こうして得られた粉末を1kPaの部分減圧下に120℃で1時間乾燥する。この粉末はCNT2b粉末と同じ特性を有する。
【0061】
実施例3
アクリル酸蒸気の吸着による含浸(a段階)と熱処理(b段階
アクリル酸溶液を入れた容器に室温で窒素ガス流を送ってバブリングさせ、得られた蒸気を焼結ガラスに介してCNTを入れた洗浄瓶中に導入した。これによってCNTを懸濁させ、CNT粉末とガス蒸気との交換が促進できた。次いで、蒸気を液体窒素で冷却した容器中で捕捉する。この蒸気相の含浸は4時間続けた(a段階)。得られた粉末(CNT3a)の特性は[表1]に示してある。
このCNT3a粉末を次いで密閉容器中で加熱する。実施例1の(b)段階の温度サイクルに従う(b段階)。得られた粉末(CNT3b)の特性は[表1]に示してある。
次に、こうして得られた粉末を洗浄、乾燥した(c段階)。洗浄操作は水で50%に希釈したエチルアルコール溶液を用いて行った。粉末を2回の連続した洗浄操作で洗浄した。毎回、多孔度が11μmのBuchner濾過用漏斗を用いて粉末を濾過した。次いで、得られた粉末を1kPaの部分減圧下に120℃で1時間乾燥した。得られた粉末(CNT3c)の特性は[表1]に示してある。
【0062】
[表1]には各組成物の粉末中のCNTの比率と、粉末の非圧縮状態での密度と、2%のPVDFまたは1%のCNTを含むサンプル(最終混合物中でこれら濃度を得るのに必要な量に組成物を希釈して得られる)の導電率とを示してある。
粉末の非圧縮状態での密度は、試験管に1gの粉末を入れ、試験管を3回続けてゆっくり逆さにした後に占める体積を測定して求めた。測定は3回行い、得られた体積の平均値を用いて密度を求めた。
【0063】
PVDF中の分散物は下記のように調製した:PVDF(アルケマ社のカイナー(Kynar、登録商標)と上記定義のCNTまたはCNTベースの粉末組成物との混合物をHaake90レオコードマイクロミキサーを用いて調製した。混合条件は下記の通り:
混合温度:230℃
回転速度:50回転/分
混練時間:15分。
次に、サンプルを230℃で圧縮成形した。穴あけポンチを用いてペレットを作り、導電率を測定した。導電率試験は4端子装置で行った。
【0064】
【表1】

【0065】
この表から、本発明組成物はマトリックスポリマー中に良く分散しており、CNTの分散は均質で、従来法の組成物よりも電気抵抗率が低くなることがわかる。
【0066】
実施例4
CNT、酢酸(AcA)、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸(AA)とスチレン(S)との混合物をベースにした本発明組成物(酢酸、メタクリル酸、アクリル酸とスチレンの混合物の噴霧による含浸
CNT粉末のサンプルに実施例2に記載の条件に従って種々のタイプの化合物を含浸させた。各成分の分散を容易にするために含浸中、磁気棒型の機械的攪拌器を用いて1時間、粉末を攪拌した。混合物の詳細は[表2]に示してある(a段階)。
【0067】
【表2】

【0068】
得られた粉末を密閉容器中で80℃で4時間、次に125℃で70分間加熱した。(b1段階)。導入した化合物Aの全てが第1段階後にCNT中に実際に存在することを重量が保持されることで確認した。一部のサンプルではサンプル中の触媒の割合が実際に予測されるCNTの量と一致することを熱分解によってもう一度確認した。得られた粉末の特性は[表3]に示した。
次いで、得られた粉末を1kPaの部分減圧下に120℃で1時間乾燥した。この粉末の特性も[表3]に示してある(b2段階)。
次に、得られた粉末を洗浄、乾燥した(c段階)。洗浄操作は水で50%に希釈したエチルアルコール溶液を用いて行う。粉末を2回の連続した洗浄操作で洗浄し、毎回、多孔度が11μmのBuchner濾過用漏斗を用いて粉末を濾過した。こうして得られた粉末を1kPaの部分減圧下に120℃で1時間乾燥した。得られた粉末の特性は[表3]に示してある。
【0069】
【表3】

【0070】
(b2)段階で得られた粉末サンプルのPVDF中の混合物の抵抗率を実施例3に記載の方法に従って求め、[表4]に示した。
【表4】

【0071】
この表から、本発明組成物はマトリックスポリマー中に良く分散し、CNTの分散は均質であり、従来法の組成物よりも電気抵抗率が低くなることがわかる。
【0072】
実施例5
CNTと(メタ)アクリル酸とオキシエチレン化モノマーとのコポリマーをベースにした本発明組成物(CNTとポリマー溶液との混合物(a段階)、任意工程でのグラフト化(b段階
80重量部のCoatex社のDV1256の溶液(下記特許文献に記載の(メタ)アクリル酸とオキシエチレン化モノマーとの溶液)と、100重量部のCNTと、40重量部の水とを含む混合物をZアームミキサーで調製した。DV1256は25重量%のコポリマーを含む水溶液である。
得られた生成物の一部を室温で減圧乾燥して水を除去した。この乾燥操作で得られた粉末を実施例2に記載の手順に従って洗浄してCNTから全てのポリマーを抽出した。
粉末の別の一部を100℃で5時間30分乾燥した。この乾燥操作によって得られた粉末を実施例2に記載の手順に従って洗浄した時にCNTから抽出されたポリマーは21重量%のみである。すなわち、DV1256を添加してCNTに導入されたポリマーの79重量%はCNTにグラフトまたは非可逆的に吸着されたと考えられる。
【特許文献15】フランス国特許第2,766,106号公報
【0073】
実施例6
CNTと種々の化合物Aとの機械的攪拌による混合
レオコードマイクロミキサーで製造した各混合物(a段階)の操作条件の詳細(温度、混練速度、混練時間)は[表5]に示す。混練室の容積は66cm3で、ミキサー中で全重量を20gにした。全ての混合物は下記の方法で調製した:
1)CNTの2/3を混練室に導入し、混練室の全容積をCNTで占める。
2)ポリマーを少量づつ連続的に添加してCNTの全容積比を減らす。
3)次いで、CNTの残りの1/3を混合物に添加する。
【0074】
【表5】

【0075】
「HT121」はアルケマ社のPMMAの一つのグレードで、230℃、3.8kg下で測定したメルトフローインデックス(MFI)が2で、ISO規格306に従った50N下でのビカー軟化温度は121℃である。
「35BA320」はアルケマ社のロトリル(登録商標)で、エチレン−ブチルアクリレート官能化ポリオレフィンで、10分間測定したMFIは260〜350である。
MAM「M22」および「M22N」はアルケマ社のポリ(メチルメタクリレート)−ポリ(ブチルアクリレート)−ポリ(メチルメタクリレート)(MAMコポリマー)で、このポリマーの10%トルエン溶液の粘度は「M22」で約8cP、「M22N」で約15cPである。
「SBM E40」はアルケマ社のポリスチレン−ポリブタジエン−ポリ(メチルメタクリレート)(SBM)コポリマーで、このポリマーの10%トルエン溶液の粘度は約4cPである。
【0076】
「D320」はアルケマ社のコアシェル型アクリル衝撃改質剤である。
「DER332」はダウ社の高純度のビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)モノマー(エポキシド当量で171〜175g/eq)で、粘度は室温で約5Pa・sである。
「水中PAA GE1903」はCoatex社のPAA水溶液である。
「Vultac TB7」はアルケマ社の下記国際特許出に記載のカップリング剤である。
【特許文献16】国際特許出願WO05/007738号公報
【0077】
「Evatane 2803」は約28%の酢酸ビニルを含むアルケマ社のエチレンと酢酸ビニルとのコポリマー(EVA)で、MFIは約3g/10分である。
「Evazole」はアルケマ社の低分子量のEVAコポリマーである。
「Primol 352」は鉱油であり、40℃での動粘度は70mm2/秒である。
「Noram M2C」はセカ社のメチルジココアミン型の界面活性剤である。
【0078】
混合段階後、全ての場合で粉末組成物が得られ、その流動性は極めてよく、密度は初期CNT粉末(合成で生じるものだけでなく、混練で得られるもの)の密度より増加頁している。
各粉末の粒径は[表6]に示してある。粒径の測定はCNT用の指標指数として(1.45;0.100)を取るMalvern Mastersizer粒子計を用いた乾燥法で行った。乾燥法では圧縮空気で粉末を輸送するので粒径が下がり、微粉の量を増加させる傾向がある点に注目されたい。この傾向は各粉末で見られる。CNT+DER332粉末の平均粒径D50は200μmで、微粉の量(<40μm)は4%以下(振動篩い上で乾式篩いで測定)であり、D10は42μmである。
【0079】
【表6】

【0080】
上記で調製した4%のCNT/DER332(50/50)混合物を96%のDER332エポキシ樹脂中に機械的攪拌を用いて分散させ、さらに超音波プローブを用いて30分間、再分散させた。さらにDER332を添加して最終組成物中のCNT量を0.16%にした。
98%のDER332と2%のCNTとを含む比較用混合物を機械的攪拌を用いて調製し、その後、超音波プローブを用いて30分間、攪拌した。さらにDER332を添加して最終組成物中のCNT量を0.16%にした。
【0081】
次に、各混合物サンプルを顕微鏡で観察し、分散性を評価した。倍率が同じ場合、本発明のエポキシ樹脂中の組成物粉末の分散性はエポキシ樹脂中にCNT粉末のみを分散させた場合に比べて向上していることが確認された。エポキシ樹脂中にCNTを直接分散した場合、マトリックスポリマー中のCNTの分散/分布は不十分で、寸法が最大で約45μmにもなる多数のクラスターが存在している。
エポキシ樹脂中に本発明の微粉状組成物を分散した場合には、この寸法のクラスターが見られないだけでなく、寸法が例外的に10μmを超えるクラスターもほとんどない。
【0082】
実施例7
CNTとブロックコポリマーを溶剤法で混合して得られる粉末組成物(a段階)
CNTとブロックコポリマーとの混合物を溶剤中で調製した。この詳細は[表7]に記載してある。この混合物を超音波プローブを用いて30分間攪拌し、次いで2つの部分に分けた。
一方の部分を第2または第3の焼結ガラス漏斗で濾過して固体含有率が約20%のペーストを得た。出発材料の溶液中のコポリマーの一部が濾過した溶剤中に除去されたことは理解できよう。こうして得られたペースト中に残る溶剤を除去するためにZアームミキサーまたはブラベンダー型ミキサーで溶剤を十分な速さで蒸発させることができる温度条件(アセトンの場合は約40℃、トルエンの場合は約80℃の温度)で混合物を攪拌する。
【0083】
【表7】

【0084】
溶液の一方の部分をそのままの形で直接ブラベンダーまたはZアーム型のミキサーに入れ、上記温度条件下で溶剤を蒸発させる。溶剤の蒸発に必要な時間は上記手順に従うよりも長い。
上記の2つの実験手順の後に、実施例5に記載の粉末と同様なポリマーを充填したCNT粉末が得られる。非圧縮状態のかさ密度は約6〜9cm3/gである。
マスターブレンドとして用いられる、実施例6に記載の手順に従った、DER332エポキシド樹脂中の粉末組成物の分散性は実施例6で得られたCNT粉末の分散性と同様であり、CNTの量が同じ場合、CNTとDER332樹脂との直接混合物に比べて著しく向上する。
この組成物のPVDF中への分散性(実施例3の手順での)がCNTをPVDF中へ直接分散した場合よりも向上することは下記の[表8]から分る。
【0085】
【表8】

【0086】
この表から、本発明組成物はマトリックスポリマー中に良く分散し、CNTの分散は均質であり、従来法の組成物よりも電気抵抗率が低くなることがわかる。
【0087】
実施例8(比較例)
粉末でないCNTベースの組成物の分散性
実施例7で得られた50%のCNTと50%のMAM M22とを含むトルエン溶液を攪拌せずにオーブンで蒸発させる。全ての溶剤を攪拌せずに蒸発させると、粉末ではなく、肉眼で見えるCNT片および寸法が約1〜10ミリメートルのかなり不規則な形をしたコポリマーが得られる。
この凝集物をPVDF中に分散して最終混合物中に2%のCNTを含む組成物を得ようと試みたが、非導電性で、分散性が極めて不十分な生成物が得られた。すなわち、初期に導入したCNT片の寸法(1〜10mm)に近い寸法を有する多数の凝集体の存在が肉眼で観察される。
【0088】
実施例9
機械的攪拌を用いたCNTと種々の化合物Aとの混合
有効容積が16リットルのHosokawa Nauta Minimix 020-FFC-50型粉末ミキサーを用いた。このミキサーに化合物A(または化合物Aを含む溶液)を蠕動ポンプを用いて注入した。この蠕動ポンプのパワーは下記[表9]のスキーム1に従って注入する生成物の粘度に合わせて、(a)段階を行うことができるようになっている。
【表9】

【0089】
操作は下記の手順に従って行う:
(1)ハッチを介してCNT粉末をミキサー中に入れ、
(2)最大速度で攪拌を開始し、
(3)粉末を5分間混合し、
(4)化合物Aまたは化合物Aを含む溶液を2つの蠕動ポンプを介して注入する。この導入はミキサー頂部の2つの分岐管から行う。
(5)ポンプの導入時間は約30分に設定する。
(6)注入後5分間混合を続ける。
(7)攪拌下に底部の弁から内容物をPEドラム中に取出す。
【0090】
(a)段階でポリマー溶液を注入する場合には、(a)段階後に粉末をミキサーまたは外部オーブン内で乾燥させ、残留溶剤を蒸発させることができる。
(a)段階でモノマーまたは官能基を有する単位(例えば酢酸)を注入する場合には、CNT粉末と上記単位との反応を(b)段階を行うことができる。この(b)段階後に粉末を乾燥させ、反応しなかった単位を除去することができる。この段階はミキサーまたはオーブン中で行うことができる。製造した各種混合物のデータは[表10]に記載してある。
「カイナー(Kynar、登録商標)2801」および「カイナー(Kynar、登録商標)721」はアルケマ社のPVDFの2つのグレードである。
「AA」、「AcA」および「MEK」はそれぞれアクリル酸、酢酸およびメチルビニルケトンを表す。
重量はグラム(g)で表す。
アームおよびスクリュー(それぞれSアームおよびSスクリュー)の速度は回転/分で表す。
混合時間および導入時間は分で表す。
【0091】
【表10】

【0092】
CNT10を80℃のオーブンで4時間乾燥した。粒径を乾式篩いによって測定し、初期CNTと比較した。粗CNTでは50μm通過粒子(passant)は0.2%であったが、被覆した生成物では0.37%であった。[表11]のグラフ1は生成物の粒度分布を示している。
【表11】

【0093】
平均直径が400μmから200μmへ向かってシフトするのが観察される。
CNT10をポリカーボネート中に混合して、本発明に従って改質する前の対照CNTと比較した。
用いたポリカーボネートはBayer社のMakrolon2207(1.2kgの荷重下、300℃でのMFI(g/10分)が38)である。このポリカーボネートを対照CNTまたはCNT10から得られる等量の2%のCNTと混合した。混合は240℃でDSM社のマイクロ二軸スクリュー押出機で、スクリュー速度を100回転/分、混合時間を8分にして行い、混合物を均質化し、混合トルクを安定化させた。
次いで、サンプルを240℃の温度で厚さ2mmのシートの形に加熱圧縮成形した。用いたサイクルは流動5分間、240barに2分間維持、プレス中で30分間冷却、加熱停止した後、プレス外で12kgの荷重下に冷却である。
サンプルの導電率を実施例3に従って測定した。結果は[表12]に示してある。
【0094】
【表12】

【0095】
この表から、本発明組成物はマトリックスポリマー中に良く分散し、CNTの分散は均質であり、従来技術の組成物よりも電気抵抗率が低くなることがわかる。
上記CNT12を減圧下に80℃で2時間乾燥した。粒径を乾式篩い法で測定し、初期CNTと比較した。粗CNTでは50μm通過分が0.2%であったが、被覆生成物では0.07%であった。[表13]のグラフ2は生成物の粒度分布を示している。
【0096】
【表13】

【0097】
平均直径が400μmから200μmへ向かってシフトするのが観察される。
初期CNT12を100℃で4時間乾燥した。この段階の後に洗浄によって混合物から抽出可能なポリマーの量を求めた。250mlの脱イオン水に導入して10gの乾燥生成物が秤量された。攪拌か開始し懸濁液を濾紙で濾過した。抽出は4回行った。水1リットルでポリマー5gを抽出した。結果は[表14]に示してある。
【0098】
【表14】

【0099】
抽出したポリマーの量を評価するために濾過物で100℃で乾燥抽出物を作った。抽出で除去できたポリマーは60%だけで、漸近線に達成した。[表15]のグラフ3に示すように、ポリマーの20〜30%(すなわち初期に導入したポリマーの約50%)はCNTに結合したままであると推定できる。
【0100】
【表15】

【0101】
(a)段階の最後に、CNT17およびCNT18をそのまま、または、減圧下に80℃で2時間乾燥し、または(b)段階を64℃で4時間行ない、次いで125℃で70分間、次いで減圧下に80℃で2時間乾燥した後に試験を行なった。実施例3の詳細に従ってPVDF中に化合物を分散させた後の粉末の特徴および電気的特性を[表16]および[表17]に示す。
【0102】
【表16】

【表17】

【0103】
これらの表から、本発明組成物はマトリックスポリマー中によく分散し、CNTの分散は均質であり、従来技術の組成物よりも電気抵抗率が低くなることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20〜95重量%のCNTを含む微粉状組成物の製造方法であって、下記の段階(a)〜(c):
(a)CNTを少なくとも一種の化合物Aと接触させる段階、
(b)熱処理を行う任意段階、
(c)組成物を精製および/または反応物から分離、回収する任意段階、
を含み、(a)、(b)(c)の各段階の終了時に混合物は固体粉末の形態を維持し、上記化合物Aがモノマー、モノマー混合物、溶融ポリマーまたは溶融ポリマーのブレンド、溶剤中の一種または複数のモノマーおよび/または一種または複数のポリマーの溶液、一種または複数のモノマー中のポリマーブレンドの溶液、オイルタイプまたは可塑剤タイプの非反応性単位、乳化剤または界面活性剤、カップリング剤および/またはカルボン酸であることを特徴とする方法。
【請求項2】
微粉状組成物が35〜90重量%のCNTを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微粉状組成物が45〜90重量%のCNTを含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
上記化合物Aが液体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記化合物Aが固体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記化合物Aが気体である請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
物理的形態の異なる複数の化合物Aを使用する請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記化合物Aが(メタ)アクリルモノマー、好ましくはアクリル酸、オレフィンモノマー、好ましくはエチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよび/または1−オクテン、ジエンモノマー、好ましくはブタジエン、ビニルモノマー、好ましくは塩化ビニル、ビニリデンモノマー、好ましくは塩化ビニリデン、ビニル芳香族モノマー、特にスチレンモノマー、アミノ酸、ラクタム、カルボン酸モノマーおよびこれらの塩および無水物、飽和または不飽和カルボン酸のビニルエステル、好ましくは酢酸ビニルおよび開環重合可能なエポキシ樹脂タイプのモノマー、好ましくはビスフェノールAグリシジルエーテルの中から選択される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(b)段階で上記化合物Aを(共)重合する請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
上記化合物AがPS、ポリオレフィン、ポリアミド、PMMA、PET、PES、PPE、PEEK、PVC、PVDF、ポリ(エステル)ウレタン、PEBA、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルエステル、SBS、SIS、SEBS、SB、SBM、SBuAS(ポリスチレン−co−ポリ(ブチルアクリレート)−co−ポリスチレン)またはMBuAMブロックコポリマーおよびエポキシドおよび/またはグリシジルエーテルタイプの官能基を含むポリマーの中から選択される請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記化合物Aが(メタ)アクリル酸モノマーの重合または共重合で得られるポリマーの溶剤中の溶液である請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記ポリマーが(メタ)アクリル酸とオキシアルキレン化モノマーとのコポリマーである請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記化合物Aがアルキル(メタ)アクリレートとスチレンおよび/またはブタジエンとの重合で得られるポリマーの溶剤中の溶液である請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
上記化合物Aが界面活性剤、オイルタイプまたは可塑剤タイプの非反応性単位、カップリング剤および/またはカルボン酸の中から選択される請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
上記化合物Aが酢酸、アクリル酸および/またはメタクリル酸である請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法で得られた微粉状組成物。
【請求項17】
平均粒径が1mm以下、好ましくは800μm以下で、10%以下、さらに好ましくは5%以下の粒子の径が40μm以下である請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
CNTの50重量部以下を一種または複数の微粉末充填剤、例えばカーボンブラック、活性炭、シリカまたはガラス繊維で置換した請求項16または17に記載の組成物。
【請求項19】
請求項16〜18に記載の組成物の、材料、特にポリマー材料の強化剤および/または導電性および熱特性改質剤としての使用。
【請求項20】
下記(1)〜(8)の物品の製造での請求項19に記載の組成物の使用:
(1)電子部品、例えば携帯電話、コンピュータのケース、自動車、鉄道、航空機に搭載される電子機器の包装材料、
(2)自動車、鉄道、航空機の構造部材、
(3)医療機器、
(4)燃料輸送ライン、
(5)静電防止被覆、
(6)接着材料、
(7)サーミスター、
(8)電極、特にスーパーキャパシター用電極。

【公表番号】特表2009−517517(P2009−517517A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542812(P2008−542812)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【国際出願番号】PCT/FR2006/051258
【国際公開番号】WO2007/063253
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】