説明

カーボンナノチューブを含有した層を備えた部材及びその部材の製造方法

本発明は、その層構造内にCNT(13)を含有する層(12)を備えた部材(11)に関する。本発明によると、ドライ潤滑剤粒子(14)も層内に含有される。これによって有利に、磨耗挙動に関して層が最適化され、その層は、含有されるCNTにより電気コンタクト表面(15)に特に適している。更に本発明においては、層(12)を電気化学的に形成する方法が提供されて、好ましくはイオン流体が電解質として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その層構造内にCNT(カーボンナノチューブ)を含有した層を備えた部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のようなCNTを備えた層は、例えば、特許文献1に記載されるようなコンタクト素子上に形成可能である。この電気コンタクト素子は電気コンタクトを開閉するのに用いられて、そのプロセス中に大きな応力に晒される。この応力は、スイッチング電流が流れることによるものであり、特許文献1によると、コンタクトの寿命の増加が、カーボンナノチューブ(以下においてはCNTと称する)がコンタクト層内に存在していることによって得られる。寿命の増加は、一方ではCNTが層の導電性を改善することによるものであり、他方ではCNTがスイッチングプロセス中の放熱の改善をもたらすことによるものである。この方法によって、スイッチングプロセス中の熱応力を減少させて、コンタクト層が小さな応力に晒される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/118337号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0036978号明細書
【特許文献3】国際公開第2006/061081号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F.Endres、“Ionische Fluessigkeiten zur Metallabscheiduing (金属堆積用のイオン流体)”、Nachrichten aus der Chemie、2007年5月、第55巻、p.507−511
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、コーティングされた部材、特に電気コンタクト素子の磨耗挙動の更なる改善をもたらすことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本課題は、本発明により、上述の部材の構造に、CNTに加えてドライ潤滑材粒子を含有させることによって達成される。本発明に係る手段の背景は、CNTの含有が、当業者によって広く信じられているのは反対に、コーティングの磨耗挙動を十分には改善しないということにある。CNTは、コーティングの硬度を実際に改善するが、表面のトライボロジー挙動はその硬度のみによって影響を受けるのではない。そうではなくて、摩擦応力に対するコーティングの潤滑性も非常に重要である。これが本発明の出発点であり、CNTに加えてドライ潤滑剤粒子も含有される。ドライ潤滑剤は、それが含まれる表面の潤滑性を改善するという性能によって特徴付けられる物質群に属する。これは有利に磨耗を低減させて、その層構造内にCNT及びドライ潤滑剤粒子を含有する層を備えた部材の寿命を改善することを可能にする。この場合、層構造は、ドライ潤滑剤粒子及びCNT(これも粒子とみなすことができる)が分散しているマトリクスを形成する。その寸法によって、CNTはナノ粒子を表す。ドライ潤滑剤粒子もナノ粒子として具体化することができるが、マイクロメートル範囲の寸法を有することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】電気コンタクト素子としての本発明の部材の例示的な実施形態を示す。
【図2】図1の詳細を示す。
【図3】本発明の方法の例示的な実施形態の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の有利な実施形態によると、使用されるドライ潤滑剤の少なくとも一つとして、硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化タンタル、グラファイト、六方晶窒化ホウ素、フッ化グラファイト、銀ニオブセレン化物が粒子に含まれる。従って、ドライ潤滑剤粒子は、列挙されたドライ潤滑剤のうちの一以上から成り得て、また、ここで述べていない他のドライ潤滑剤と混合することもできる。また、異なる組成の粒子を用いること、つまり、一のドライ潤滑剤粒子を他のドライ潤滑剤粒子と混合することも考えられ、その両方の種類のドライ潤滑剤が層構造内に含有される。ドライ潤滑剤の適切な混合及び選択によって有利に、層を、その磨耗挙動の観点から特定の応用に向けて最適化することができる。こうした場合、その応用状況が考慮されるが、一般的には二つの部材のトライボロジー挙動を限定的に予測することしかできず、最適化、つまり適切なドライ潤滑剤の選択には試行錯誤が必要となることに注意すべきである。しかしながら、上述のドライ潤滑剤は一般的に優れた潤滑性を示し、このことが、それらの物質が十分な結果に到達するための好ましい選択肢となる理由である。
【0009】
本発明の更なる実施形態は、層が金属構造を有する、特にニッケルコバルト合金製である場合に得られる。層の金属構造によって、有利に低い電気抵抗で電流を流すことができる。特にニッケルコバルト合金は、比較的優れた電気伝導性及び熱伝導性が十分な磨耗挙動と組み合わさっているので、電気スイッチング素子に適している。従って、CNT及びドライ潤滑剤粒子の含有による最適化の可能性を特に有利に利用することができる。
【0010】
本発明の他の実施形態によると、層は、特に、酸化物セラミックや窒化物セラミック(窒化チタン等)からなるセラミック構造又は少なくともセラミック構造部分を有する。これによって有利に、例えば工具をコーティングするための、非常に硬い層を形成することができて、そのトライボロジー挙動を、ドライ潤滑剤粒子を含有させることによって最適化することができる。これによって、寿命を有利に改善することができる。同時に、CNTの熱伝導性を利用して、例えば熱を切削工具から効率的に逃がすことができる。熱応力の低減は、工具の切削速度が高い場合に、有利には同時に寿命を改善し、又は、同じ寿命においてより高速での切削を可能にする。
【0011】
また、特定の構造部分のみをセラミックにして、他の構造部分を金属にすることも考えられる。従って、層の導電性が保たれるのと共に、セラミック構造部分が主に寿命を最適化するために採用される。最後に、導電性セラミックを用いることもできて、純粋なセラミック層でも、電気コンタクト層を形成することができる。これは特に窒化チタンの場合に当てはまる。
【0012】
本発明は更に部材を電気化学的にコーティングするための方法に関する。本方法において、部材は電解質内に入れられて、電解質の成分の層が堆積する。電解質内にはCNTが分散していて、層内に含有される。
【0013】
上述のタイプの方法は、例えば特許文献2により知られていて、CNTは、電気化学的に形成される層に含有させるために、電解質内に分散している。従って、電気化学層の形成中に、CNTが層内に取り込まれる。
【0014】
本発明の目的は、CNTを含有させながら電気化学的コーティングを行うための方法を提供することであり、当該方法によって、機能範囲の増強された層を形成することができる。
【0015】
この目的は、本発明に従って、上記方法において、CNTに加えて層内に含有されるドライ潤滑剤粒子も電解質中に分散させることによって達成される。これによって、本発明の層に関して上述したような要求に有利に合致する層を形成することができる。
【0016】
有利には、水性電解質を用いてコーティングすることができて、CNT及びドライ潤滑剤粒子が湿潤剤を用いて電解質中に分散される。このような場合、有利には、複数の電解質を利用することができて、また、特許文献2に記載される湿潤剤を使用することができる。
【0017】
本発明の方法の他の特に有利な実施形態は、コーティング用の電解質としてイオン流体を使用する場合に得られる。塩が溶媒(好ましくは水)に溶解していない流体塩のことをイオン流体と称する。イオン流体は、カチオン及びアニオンからなる有機流体を含む。この場合、アルキル化イミダゾリウムイオン、アルキル化ピリジニウムイオン、アルキル化アンモニウムイオン又はアルキル化ホスホニウムイオンが、カチオンとして使用される。例えば、単純なハロゲン化物、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロフォスフェートを、アニオンとして使用することができる。これらのカチオン及びアニオンの選択の効果は、イオン流体を、100℃未満の温度、好ましくは室温において流体状態にできることである。その化学構造に起因して、イオン流体は、表面活性剤的な特性を有し、これがイオン流体が分散を生じさせるのに特に適している理由である。このような場合、イオン流体は分散手段として作用して、分散される分散剤がマイクロ粒子又はナノ粒子となり、また、本発明においてCNT及びドライ湿潤剤粒子で形成可能である。有利には、分散用の湿潤剤を用いなくても良い。それによって、電気化学的に形成される層内に含有される粒子の特性が、含有される湿潤剤によって悪影響を受けることが防止される。更に、比較的高濃度の分散された粒子をイオン流体内に得ることができて、形成される層中のより高い含有率も有利に得ることができる。
【0018】
更に、金属をナノ結晶金属層として、イオン流体から堆積させることができる。この点については、特許文献3や非特許文献1によるパラメータを参酌することができる。ナノ結晶金属層の構造は、CNT及びドライ潤滑剤粒子の含有に特に適しているので、特に高い含有率を有利に得ることができる。
【0019】
水性電解質からの堆積及びイオン流体からの堆積はどちらも、直流モードでもパルスモードでも行うことができる。これによって有利に、CNT及びドライ潤滑剤粒子の堆積比率を変化させることができる。また、上述の金属に加えて、金属層の堆積用の金属として例えば銅及び金も使用することができる。使用されるCNTは異なる特性を有し得る。特に、単層CNT、多層CNT又は二層CNTの使用が考えられる。更に、CNTは、その特性に影響を与える官能基を有することができる。
【0020】
本発明の方法の例示的な実施形態を以下に示す。この例示的な実施形態では、以下の段階が実施される:
1.イオン流体(1‐ブチル‐3‐メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート等)中に、イオン性塩用の適切な塩(ニッケルテトラフルオロボレート、コバルトスルファマート等)をイオンキャリアとして溶解させる。
2.次に、硫化モリブデン又は硫化タングステンをナノ粒子又はマイクロ粒子として電解質中に分散させる。
3.前記分散剤が電解質内に均一に分布すると、ニッケル及びコバルトからなるアノードをバスの中に入れる。これらの電極は、一定のNi及びCo濃度を得るために可溶性電極である。
4.コーティングされる導電性のワークピースを電解質に浸漬して、カソードとして電源に接続する。
5.0.5から20A/dmの電流で、Ni/Coを前記硫化物及びCNTと共に堆積させる。
【0021】
本発明の更なる詳細について図面を参照して以下説明する。各図面の同一又は対応する構成要素には同一の参照符号が付されていて、各図面に相違点がある場合のみ再度説明する。
【0022】
図1による部材11は、電気スイッチング素子として具体化されている。そのコンタクト領域において、部材11は層12を有し、図2に見て取れるように、層12内には、CNT13とドライ潤滑剤粒子14が含有されている。有利には、これによって、層12により形成されるコンタクト表面15は、耐摩耗性の向上、スイッチング電流を流す性能の向上が提供され、寿命が長くなる。
【0023】
図3による方法では、容器17が、イオン流体として具体化される電解質16で満たされる。電解質16中には、CNT13とドライ潤滑剤粒子14が分散している。作動電極としてのコーティングされる部材11と対向電極18とは電源19に接続されていて、CNT13及びドライ潤滑剤粒子14を含有させることによって部材11上に層を形成することができる。
【符号の説明】
【0024】
11 部材
12 層
13 カーボンナノチューブ(CNT)
14 ドライ潤滑剤粒子
15 コンタクト表面
16 電解質
17 容器
18 対向電極
19 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ(13)を含有する層(12)を備えた部材(11)であって、
ドライ潤滑剤粒子(14)も前記層内に含有されていることを特徴とする部材。
【請求項2】
硫化モリブデン、硫化タングステン、硫化タンタル、グラファイト、六方晶窒化ホウ素、フッ化グラファイト、銀ニオブセレン化物のうち少なくとも一つのドライ潤滑剤粒子が、前記ドライ潤滑剤粒子(14)に含まれていることを特徴とする請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記層(12)が、特にニッケル、コバルト、銀又はこれらの合金からなる金属構造を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の部材。
【請求項4】
前記層(12)が、特に酸化物セラミック又は窒化チタン等の窒化物セラミックからなるセラミック構造又は少なくともセラミック構造部分を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の部材。
【請求項5】
前記層(12)の表面が電気コンタクト表面(15)として形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の部材。
【請求項6】
部材(11)を電気化学的にコーティングするための方法であって、
前記部材を電解質(16)内に入れる段階と、
前記電解質(16)の成分から層(12)を堆積させる段階と、を備え、
前記電解質(16)に分散されているカーボンナノチューブ(13)も前記層(12)に含有される方法であって、
前記電解質(16)に分散されているドライ潤滑剤粒子(14)も前記層(12)に含有されることを特徴とする方法。
【請求項7】
水性電解質(16)がコーティング用に使用されて、前記カーボンナノチューブ(13)及び前記ドライ潤滑剤粒子(14)が湿潤剤を用いて前記電解質(16)内に分散されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
イオン流体が電解質として使用されることを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記イオン流体が湿潤剤を添加せずに使用されることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記層(12)がナノ結晶金属層として堆積されることを特徴とする請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−527487(P2011−527487A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515348(P2011−515348)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057788
【国際公開番号】WO2009/156386
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(508008865)シーメンス アクティエンゲゼルシャフト (99)
【Fターム(参考)】