説明

カーボンナノチューブ連続繊維の製造装置およびその製造方法

【課題】カーボンナノチューブ連続繊維を安定して連続的に製造することができる実用的な装置を提供する。
【解決手段】流動気相CVD法によって炭素源と触媒とキャリアガスとから連続的にカーボンナノチューブを合成する管状反応炉2と、管状反応炉の下流側に設けられた、内径が、管状反応炉の内径の0.1〜0.5倍の範囲の筒状体12と、管状反応炉内から連続的に引き出したカーボンナノチューブのスライバーを挟持しながら加撚し送り出す一対のベルトニップツイスター410と、得られたカーボンナノチューブ連続繊維を連続的に巻き取る巻取装置500とを備えたカーボンナノチューブ連続繊維の製造装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ連続繊維の製造装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、CNTと称す。)は21世紀の新素材として脚光をあびているが、大量に連続生産する技術や、CNTからなる連続繊維を連続して安全に製造する実用的な技術は、下記するようにまだ確立されていない。
【0003】
すなわち、基板CVD法により基板上にブラシ状に成長させたCNTから、CNT側面方向にCNTを順に剥がしてこれに撚りをかけてCNT繊維を得る方法が特許文献1に示されている。しかし、CNTは基板上にのみ合成されているため、1枚の基板から得られるCNT連続繊維の長さには限りがあるため、CNT連続繊維の製造方法としては実用的でない。
【0004】
また、CNTの連続合成が可能な流動気相CVD法を用いてCNT繊維を得る方法が特許文献2および特許文献3に示されている。本合成法ではCNTの原料となる炭素源と触媒を反応系内に連続的に投入することで連続合成が可能ではある。しかし、反応炉内に設けた横向きのネジ棒にCNTを巻き取る特許文献2の方法も、合成炉に直結させたチャンバー内でスピンドルとスプールを用いてCNT繊維を巻き取る特許文献3の方法も、巻き取った後にCNT繊維を系外に取り出すバッチ式製造方法であり、連続繊維の製造には不向きである。
【0005】
さらに、カーボンナノファイバーのスライバー状糸を、流動気相CVD法を用いて連続的に合成し、系外へ取り出す方法が特許文献4に示されている。しかし、実施例等の記載からすると、該特許文献4に記載の糸はあくまでも嵩密度の小さなスライバー状糸であると言え、しっかり加撚された繊維ではない。
【0006】
また、CNT生成工程と連続繊維化工程を直結させたCNT連続繊維の製造方法が特許文献5に示されており、CNTを排出ガスと分離して反応炉から引き出して繊維にするとともに、その際にリングツイスターで加撚する方法が示されている。しかし、リングツイスターを用いての加撚にあたっては、強度の小さい状態の繊維状物にテンションをかけながらボビンに巻き取るため、CNT連続繊維の安定生産には糸切れ発生率を下げるなどの改善の余地がある。
【0007】
そして、流動気相CVD法により、直径が2nm以下の極細単層CNTからなる炭素繊維集合体を得る方法が特許文献6に開示されているが、連続繊維に関する開示はない。
【0008】
また、高分子材料中にCNTを導入した高分子繊維が特許文献7に示されているが、あくまでも母材となる高分子の材料特性を改良するものであり、CNT連続繊維とは異質のものである。
【0009】
一方、合成繊維の延伸仮撚加工の撚り掛け法として知られているニップツイスターが特許文献8に示されているが、もっぱら既存の繊維を加工する装置として考案されており、新規な繊維材料であるCNTへの適用は開示されていなかった。また、該ニップツイスターとCNT合成装置とを組み合わせても、適切なCNTの供給方法が存在しなかったので、CNT連続繊維を形成できるものではなかった。
【0010】
このようにCNT連続繊維を、安定して連続的に、かつ安全で実用的に製造する方法は未だ見いだされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2008−517182号公報
【特許文献2】特表2007−536434号公報
【特許文献3】特表2009−509066号公報
【特許文献4】特開2001−115348号公報
【特許文献5】特開2010−65339号公報
【特許文献6】特開2006−213590号公報
【特許文献7】特表2002−544356号公報
【特許文献8】特開平06−184848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、実用に供しうるCNT連続繊維を安定的に製造できる装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、安定的にCNT連続繊維を得るために以下の発明に到達した。
(1) 流動気相CVD法によって炭素源と触媒とキャリアガスとから連続的にカーボンナノチューブを合成する管状反応炉と、該管状反応炉の下流側に設けられた、内径が、管状反応炉の内径の0.1〜0.5倍の範囲の筒状体と、該筒状体の下流側に設けられた、管状反応炉内から連続的に引き出したカーボンナノチューブのスライバーを挟持しながら加撚してカーボンナノチューブ連続繊維を送り出す一対のベルトを備えたベルトニップツイスターと、得られたカーボンナノチューブ連続繊維を連続的に巻き取る巻取装置とを備えたカーボンナノチューブ連続繊維の製造装置。
(2) 前記筒状体の下流側端部に反応炉から排出されるガスの排気フードを備え、該排気フードは、大気の導入口と、導入される大気と前記ガスとを併せて吸引排気する手段を備えている、前記(1)に記載のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置。
(3) 前記(1)または(2)に記載の装置を用いるカーボンナノチューブ連続繊維の製造方法。
(4) 管状反応炉内部の温度よりも低温になっている糸かけ棒の端部を管状反応炉に挿入し、管状反応炉内部のスライバー状カーボンナノチューブに接触させ、かつ、該糸かけ棒の他の部分をベルトツイスターで挟持しながら回転および送り出しすることによって、スライバー状カーボンナノチューブをベルトニップツイスターへ誘導してカーボンナノチューブ連続繊維の製造を開始する、前記(3)に記載のカーボンナノチューブ連続繊維の製造方法。
(5) 前記(1)または(2)に記載の製造装置または前記(3)または(4)に記載の製造方法によって得られたカーボンナノチューブ連続繊維。
【0014】
なお、本発明においてCNT連続繊維とは、1本の直径が0.6nmから数10nmのCNTの単糸または束状体をマクロに集束させて、例えば太さ数マイクロメートル以上に加工した実用に供する連続した繊維をいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明の装置によれば、CNT連続繊維を安定的に得ることができる。特に、少ない工程で、軽量・高強度・高伝導度となる工業材料としてのCNT連続繊維を、効率的かつ安価に大量生産でき、得られたCNT連続繊維は、例えば高効率発光素材、軽量導線(軽量モータ、発電機)、軽量導電ケーブル(送電線、深海ケーブル等)などに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示すCNT連続繊維の製造装置の概略断面図である。
【図2】図1における分離部300の部分拡大断面図である
【図3】ベルトニップツイスターの上面図と側面図である。
【図4】巻取部の概略図である。
【図5】図1における分離部300の他の態様を示す概略断面図である。
【図6】図1における分離部300の他の態様を示す概略断面図である。
【図7】比較例5で用いた装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の装置は、管状反応炉内にキャリアガスとともに投入される炭素源と触媒から、流動気相CVD法によって連続的にCNTを合成し、炉内で形成したスライバー状CNTからCNT連続繊維を製造する装置であって、スライバー状CNTを挟持しながら撚り掛けするとともに送り出す一対のベルトニップツイスターを備えたCNT連続繊維製造装置である。
【0018】
CNTの合成方法には、大別してアーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学的気相成長法の略称)の3種類があり、CVD法はさらに、触媒が気流に乗って反応系内に投入される流動気相CVD法と、触媒が反応系内の基板等に固定されている基板CVD法との2つに大きく分けられる。これらの合成方法のうち、流動気相CVD法は、原料となる触媒と炭素源を噴霧しながら連続して供給し、CNTを連続して合成できることからCNTを連続生産するのに最も適した方法である。一方で、基板CVD法、アーク放電法、レーザー蒸発法は、バッチごとの合成であるため連続生産には不向きである。したがって本発明では流動気相CVDが好ましく用いることができる。
【0019】
流動気相CVD法では、CNTの連続生産に適している一方で、キャリアガスとして大気ではなくアルゴンや水素などのガスを用いることが多いことから、これらのキャリアガスを分離しながら合成されたCNTを取り出すことが好ましい。そこで、本発明者らが鋭意検討した結果、ベルトニップツイスターを備えたCNT連続繊維製造装置の発明に到達した。本発明にかかる装置によって、スライバー状CNTをキャリアガス雰囲気から大気中へと安全かつ安定して連続的に取り出すことができ、かつ、そのままCNT連続繊維を形成することが可能となった。
【0020】
本発明のCNT連続繊維は、例えば図1に示す装置を用いて製造される。図1に示す装置は、炭素源と触媒とキャリアガスとからカーボンナノチューブを生成する反応管2と電気炉1とからなる管状反応炉を備えた反応部200と、その下流側に設けられた、生成されたCNTをガスと粉塵から分離して取り出す分離部300と、取り出したCNTに撚りを加える加撚部400と、得られたCNT連続繊維の巻取部500とを備えている。CNTは反応部200における管状反応炉内で生成され、その後キャリアガスに分離部300の筒状体12へと誘導される。
【0021】
反応部200から分離部300へと引き出されるCNTは、反応管2内で生成された最小単位のCNT1本1本がファンデルワールス力により束状に集合しているものであって、このCNT束1つの形状は、直径が約0.1μm以下、長さが少なくとも数10μm以上ある。図1の装置においては、この束の集合体(スライバー)を繊維状に凝集させながら連続的に引き出すことでCNT連続繊維を得るが、そのために、ベルトニップツイスター410を備えている。ベルトニップツイスター410により、CNT束のスライバーを一定の圧力で挟持することができるが、それによりスライバーを構成するCNT束同士が分子間力によって密着し、CNT連続繊維の強度向上に寄与する。また挟持すると同時に撚掛して送り出すため、連続繊維は加撚され、繊維の巻締効果によって引張強度が高まる。このようにして、カーボンナノチューブの短繊維が一回りも巻き付かない程度の細い直径の糸でも、連続したカーボンナノチューブの撚糸状連続繊維として、反応炉から直結して実用的かつシンプルな構成で取り出す事ができる。
【0022】
ここで、ベルトニップツイスター410の詳細を図3に示す。ベルトニップツイスターは、ベルト41A、41Bからなる一対のベルトが、水平からある一定の角度で互いに対向・交差するように傾き、回転するように配置されているとともに、ベルト同士の接点、すなわちニップ点において、上部から供給される糸を下部へ送り出すと同時に、圧縮力と摩擦力を加えながら撚りをかけるように配置されている。
【0023】
詳しくは、ベルト41Aとベルト41Bが、交差角θとなるように、駆動プーリ42A、42Bならびにテンションプーリ43A、43Bによって、図3のように配置される。ここで駆動プーリ42A、42Bは、駆動モーターで駆動されるが、2つの駆動プーリ42A、42Bを単一のモーターでベルトあるいはギアを介して駆動してもよいし、それぞれにモーターを設置して駆動してもよい。
【0024】
1対のベルトの交差角θは、ニップ点を中心として上側のなす角度であり、θは60°〜120°であることが好ましい。より好ましくは80°〜100°であるが、これに限定されない。交差角θは所望の撚糸形状から設定されるものであり、糸の下方への送り速度と、撚り数との関係から決めることができる。なお、交差角θは、ブラケット44A、44Bを、45A、45Bを軸として回動させ調整する。また、それぞれのベルトの、水平方向からのなす角度、および回転数は異なっていても良いが、通常は同一であることが好ましい。
【0025】
ニップ点の位置座標は、中心軸が鉛直方向に設けられた反応管2の該中心軸の真下であることが好ましいが、供給されるスライバー状CNTが糸切れを起こさない限り、前後左右に偏心していても構わない。
【0026】
ベルトの走行方向は、CNTのスライバーを送りながら撚るような図3の矢印の方向であり、ニップ点を通過するときのベルトの上下方向のベクトルが下向きとなるように走行させる。
【0027】
テンションプーリ43A、43Bなどには、ベルトに適正なテンションを与えるためテンション調整機構を持たせることが望ましい。テンション調整機構を設けない場合は、ベルトの素材をウレタンゴムなどの伸縮性に富んだものを用いることが好ましい。
【0028】
また、ベルトニップツイスター410には、ニップ点での圧力を調整する機構や、糸を通し始める前などにベルト同士を互いに離間させる機構を備えておくことが好ましい。その機構としては、例えば、一方のブラケット46Bを固定し、他方のブラケット46Aをエアシリンダ48により支点軸47を基点として可動に設計することが挙げられる。このような機構によれば、エアシリンダ48を制御することで、ブラケット46Aの位置およびニップ圧を調整することができ、スライバー状CNTに適正な挟持圧力を加えたり、ベルト間に隙間を設けたりすることができる。
【0029】
さらに、ニップ点の直上には上流ガイド49Aを、直下には下流ガイド49Bを設けることが好ましい。これらのガイドを使用することで、より正確にニップ点へ糸を誘導することができ、糸の均一性を向上させることができる。
【0030】
ベルトの素材には弾力性に富んだ材質を用いることが好ましく、糸に接触する面には、糸への摩擦力を適度に発生するような材料を選択するか、もしくはそのような摩擦力を発生するように後加工されたものを用いるのが好ましい。そのような素材として、ウレタンゴムなどのエラストマーが好ましく用いられる。
【0031】
ベルトニップツイスターは、たとえば直径1〜500μmの撚糸形成に有効である。すなわち、撚り角度、送り速度、ニップ圧を独立して変える事ができるので、所望の糸を得るに際して多様に制御することができる。しかも、引出ローラ等の送り装置が不要であり、シンプルな装置に出来る。また、ニップポイントに磁力をかけて圧力を加えることもできる。
【0032】
ベルト41A、ベルト41Bによるニップ圧は、ベルトが傷まない程度にできるだけ大きくすることが好ましい。スライバー状CNTは、ベルトニップツイスターを経由することでCNT連続繊維とすることができるが、CNT束同士が分子間力で密着することで連続繊維としての強度が増すので、CNT束同士をきっちり密着させるだけの圧力を加えておくことが好ましい。
【0033】
CNT連続繊維の撚り角は、CNT連続繊維の直径、ベルトニップツイスターの撚り方向の回転速度、ツイスターから巻き取りボビンまでの距離など、複数の要素で決まる。特にベルトニップツイスターの撚り方向の回転速度は、撚り角の大きな支配要因となるので、適切に調整することが好ましい。なお撚り角とは、連続繊維表面に見られる微小繊維束の、連続繊維の長軸方向に対する角度を言う。撚り角は5〜45°が好ましく、より好ましくは15〜40°である。加撚することで、繊維の巻締効果により糸の引張強度が高めることができるが、撚りをかけすぎた場合には糸切れを起こしたり、あるいはボビンから糸を解いたときに二重撚りになったりするので好ましくない。一方で、撚りが浅すぎる場合には、ボビンに巻き取った糸同士が密着し、ボビンから糸を巻き出す際に糸切れしやすくなるなどの問題が発生する。
【0034】
以上のようなニップベルトツイスターにより、スライバー状CNTは所定の圧力で挟持されつつ撚掛され、送り出され、CNTの連続繊維となる。このとき、スライバーの上部側にはスライバーの回転を抑制する支点が存在しないため、ニップ点から上部へはオープンエンドで撚りがかけられる。このことにより、上流ガイド49A付近では、スライバー状CNTにも撚りが伝えられており、撚り上がりのある状態となる。このためスライバー状CNTはより安定して、ガイドおよびニップ点へ誘導されることになる。
【0035】
さらに、本発明においては、ベルトニップツイスターの上流側であって、かつ、管状反応炉の下流側に、該管状反応炉の内径の0.1〜0.5倍の内径を持つ筒状体を設ける。具体的に図1,2に示す装置においては、管状反応炉を構成する反応管2の下流側で、かつ、ベルトニップツイスター410の上流側に、該反応管2の内径の0.1〜0.5倍の内径を持つ筒状体12を設ける。
【0036】
筒状体の内径の、管状反応炉の内径に対する比率が0.5を超える場合、スライバー状CNTは、管状反応炉外へ誘導することが可能であるが、管状反応炉の円の中心部分から外側へ偏心しやすくなり、通過位置が不安定になるので好ましくない。またこの比率が0.1を下回ると、スライバー状CNTが筒状体12の内壁に付着し、糸切れの頻度が上がるので好ましくない。なお、当該内径の比率は0.2〜0.3が好ましい。また、本発明において、管状反応炉および筒状体の内径とは、管状反応炉および筒状体それぞれの最小内径のことを意味する。
【0037】
なお、図1,2に示す装置において、筒状体12は管状反応炉の排気口としても作用しているが、このようにして筒状体12の内部をキャリアガスとスライバー状CNTとが通過するように設計することで、筒状体12においてキャリアガスの線速度が増加するため、スライバー状CNTを筒状体12の内壁により付着しにくく、中央をより安定して下流方向に誘導することができる。反応管内部におけるスライバー状CNTの線速度は、キャリアガスの線速度に比べて速いことから、スライバーがたわみやすいことがわかっている。したがって、反応管出口以降の任意の箇所において、キャリアガスの線速度の大きい部分を設けて、スライバー状CNTを下流方向へ引っ張り、スライバーを直線状にコントロールすることでスライバー状CNTを、ベルトニップツイスターへ安定して誘導することができる。
【0038】
筒状体としては、最小径の部分が上述のような範囲のものであればいかなるものでもよいが、例えば図1、2に示すようなロート状であるものが好ましい。さらに、上部に向けて30〜120度の捕集角を有するロート状の筒状体を用いることで、スライバー状CNTが内壁へ付着する確率をさらに低減することができ、糸切れ確率の小さい、より均一な糸を得ることができるようになる。ここでロート表面は摩擦係数の小さな面であることが好ましく、例えばCNTが付着しにくい表面処理が施されていることが好ましい。また、ロートの形状は円錐、三角錐、四角錐の何れであってもよい。後述する炉内観察用の反射鏡22を設ける際には、ロートは透明のガラスであることが好ましい。さらに、筒状体12の直上部に、内径の大きい円筒がさらに接続されていても構わない。
【0039】
筒状体12の周囲には、図2に示すようにガラスや石英からなる分離箱10を設けることが好ましい。該分離箱10を設けることで、管状反応炉と筒状体12との温度差を和らげることができ、スライバー状CNTの生成状況を随時観察することができる。分離箱10には圧力監視用側孔31を設け、さらに該側孔31に水柱差圧計を設けて、実質的に管状反応炉内の圧力を随時監視できるようにすることが好ましい。
【0040】
さらに、管状反応炉の出口より下流側に設けた筒状体12の下流側端部には、管状反応炉から排出されるガスと、大気とを併せて吸引する、排気管15等を備えた排気フード16を備えることが好ましい。CVD法では、キャリアガスに水素を、原料ガスに炭化水素ガスを用いることが多いが、上記のような構成により、これらの可燃性ガスを安全に排気し、なおかつCNTを大気中へ安全に分離して取り出すことができる。このような排気フードを設けない場合には、CNT連続繊維を形成することはできるが、排気口14の外側周辺において可燃性ガスが拡散し、管状反応炉のヒーター部分へ達して火災・爆発が発生する危険性が高まる。そのため、これら可燃性ガスを、大気とともに吸引排気する局所排気装置を別途設けて安全を確保することが好ましい。
【0041】
排気フードの構造の一例は図2の通りである。管状反応炉で生成したスライバー状CNTは筒状体12の排気口14、ガイド17を通過して大気中へと誘導されるが、スライバー状CNTの糸切れを防ぐため、ガイド17は、反応部200を完全には密閉しないように、誘導されるスライバー状CNTの周囲に隙間を設けるように構成されている。また、その隙間から管状反応炉内へ大気が大量に流入しないよう、排気口14と、ガイド17の間の空間の側方に、排気管15を設ける。排気管15は反応管2から排気されるガスの流量以上の流量で排気するようにし、排気ガスと大気の両方を混合しながら排気するように設計する。
【0042】
ここで、大気の吸い込み量が多すぎるとガイド17から勢いよく大気が逆流することになり、スライバー状CNTを安定して排出することが難しくなる。そこで、排気管15の中間部分に、大気孔20を設け、その吸い込み量を調節できるようにスライダ筒19を設けている。このようにスライダ筒19を用いて大気の吸い込み量を排気管付近で調節することで、スライバー状CNTを大気中へ安全に安定して取り出すことが容易になり、ひいてはCNT連続繊維をより安定に製造することができる。排気ガスは、爆発限界濃度よりも小さい濃度に希釈した上で大気中に拡散排気することが必要であるが、上記のような構成にすることで、排気口14から大気孔20の付近で素早く大気で希釈されることになり、その結果、安全性を高めることができる。また、このような排気フードを設置することで、ガス成分のみならず、飛散性のCNTやカーボン微粒子、および未反応の触媒微粒子などを、排気とともに排出することができ、CNT連続繊維製造装置近傍での作業者への安全性を高めることができる。なお、排気管15から排出される排気ガスは、微小な粉塵を含んでいる可能性が高いので、高性能フィルターを介して外部へ拡散排気することが好ましい。
【0043】
また、排気フードには、スライダ筒を設けなくてもよい。例えば、管状反応炉からのガスの排出量、および排気口15のガス吸引量をそれぞれ測定し、その吸引量から排気量を差し引いた量の大気を、排気フード側面等に設けられた大気の導入口から、マスフローコントローラーなどで制御しながら導入することもできる。こうすることで上述のスライダ筒を用いた場合と同様の機能を備えることができる。なお、管状反応炉からのガスの排気量と、排気口15のガスの吸引量と、大気の吸い込み量を制御できれば、上記装置構成に限られない。
【0044】
排気フードの、繊維走行方向の下流側端部には、ガイド17が接合されている。これには、非磁性体で耐摩耗性があり、走行抵抗の小さいセラミックを用いることが好ましい。またスライバー状CNTもしくはCNT連続繊維が安定して走行できるようにするために、ガイド17の位置と、ベルトニップツイスター410によるニップ点とを極力近づけるようにすることが好ましい。
【0045】
本発明のCNT連続繊維製造装置は、連続的に送り出されるCNT連続繊維の巻取装置も備える。具体的には、例えば図1,図4に示すように、上部から送られてくるCNT連続繊維をボビン51に巻き取るように巻取部500を構成すればよい。ボビン51を水平方向に往復運動させながら回転させる方式が望ましいが、一定張力や一定速度でCNT連続繊維(撚糸)Fを巻き取れる巻き取り機であればその方式に限られない。例えば、ボビン51上流側に糸道ガイド55を設けて、該糸道ガイド55によりCNT連続繊維を左右に揺動するシステムを用いることもできる。
【0046】
以下において、図4に示したボビン51を水平方向に往復運動させながら巻き取る場合について説明する。まず、ボビンホルダー53は、可変速モータM2と架台52に固定されたねじによって正逆方向へ往復運動することができる。そして、ボビン51は、ボビンホルダー53から脱着可能なシステムで保持されている。そして、巻径が増大しても巻取速度が一定になるよう、可変速モータM1と制御装置54にて回転数を漸減させるシステムを有する。なお、巻径は、モータM1の軸線の上に設けられた糸道ガイド55の近傍に取り付けた非接触巻厚センサー56で計測した値から計算され制御装置54へ送られる。また、巻径に応じて可変速モータM2のトラバース幅を制御して巻取形状を変えることもできる。また糸切れセンサーの機能を併せ持つ非接触巻厚センサー56により、ベルトへの巻き付きや分離部300におけるCNTの束のたまり異常を検出し回復処置を行えるように構成する。
【0047】
ボビン51の回転速度は、CNT連速繊維の供給速度に合わせることが好ましく、僅かにテンションを加えるために、供給速度よりも5〜10%速めにすることも好ましい。ボビン51の材質はステンレス、プラスチックなどの汎用素材を用いることができる。
【0048】
以上のようなCNT連続繊維製造装置において、管状反応炉内で生成開始したスライバー状CNTは、キャリアガスに誘導されて排気管15へと向かう。このとき、スライバー状CNTは、周囲に電気炉を有する反応管2の内部では内壁に付着しない状態で出口へ向かって移動してくるが、周囲に電気炉を有する反応管2を出て温度が下がる領域に到達すると内壁に付着しやすくなる。そこで、CNTがより低温のものに付着する性質を利用して、管状反応炉内部の温度よりも低温になっている耐熱性の糸かけ棒(例えば直径1〜2mmのステンレス製の棒)の端部を管状反応炉内部に挿入し、スライバー状カーボンナノチューブに接触・付着させ、かつ糸かけ棒の他の部分(スライバー状CNTに接触していない箇所)をベルトツイスターで挟持しながら回転および送り出しをすることによって、スライバー状カーボンナノチューブをベルトニップツイスターへ誘導してCNT連続繊維の製造を開始することが好ましい。なお、この棒の表面は光沢が無い程度に細かい凹凸を付けておくことが好ましく、そうすることで絡め取ったスライバー状CNTの棒への付着力を向上できる。
【0049】
糸かけ棒の一方の端部に付着したスライバー状CNTは、糸かけ棒の他の部分がベルトニップツイスターによって回されるため、棒に充分絡められて下方へ誘導される。このとき回転速度は棒の直径に依存するため、より確実に撚りをかけるために棒の直径は、所望するCNT連続繊維と同等の直径、例えば10〜500μm程度が理想的であるが、長さ数十センチメートルの棒の強度を保持するためには、直径0.5〜5mmの太さが好ましい。したがって、棒の直径は装置のスケールと棒の強度などから最適化して選択する必要があるが、より好ましくは、直径0.5〜2mmである。
【0050】
糸かけ棒の素材は、管状反応炉内部の温度で形状を保持できるものであれば何れも用いることができ、ステンレス製やセラミックス製が好ましい。これ以外にも鉄、チタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウムなどや、それらを含む合金や酸化物も用いることができる。
【0051】
糸かけ棒の長さは、最低限、繊維走行方向に関して管状反応炉の電気炉下端部からニップ点までの距離の長さが必要であり、さらにその長さにハンドリング用の長さとして20cm程度を足した長さが好ましい。具体的には30〜100cm程度のものが好ましい。
【0052】
糸かけ棒の一方の端部に付着したスライバー状CNTは、ベルトニップツイスターを通過することでCNT連続繊維になるが、連続繊維となった状態でも、CNT連続繊維は糸かけ棒に付着した状態である。そのため、このCNT連続繊維が付着した糸かけ棒をさらに、巻取部500へと誘導し、ボビンに糸かけを行うことが好ましい。ボビンに糸掛けを行った後には、糸かけ棒の先端付近のCNT連続繊維を切断して、連続的な巻き取りを開始すればよい。
【0053】
なお、ベルトニップツイスターを通過した後のCNT連続繊維の一端を巻き取り装置へ誘導する手段としては、図1に示すようにサクションガン80を用いることが有効である。サクションガン80は、ベルトニップツイスター410と巻取部500との間で、CNT連続繊維を初めに誘導してボビンへ糸かけする場合や、糸切れが発生した場合に、糸切れした上流側の端を捕捉してボビンへ誘導する際に用いることができる。サクションガンの先端に大気の吸い込み口が設けられており、大量の空気とともにCNT連続繊維を吸い込んで、一定の吸引力、すなわち一定の張力で、任意の場所へ糸の一端を誘導することができる。サクションガン80は繊維生産設備で使用されている公知の装置であり圧縮空気を下流側に吹き出し、上流吸い込み口に吸引力を発生させる仕組みである。
【0054】
また、サクションガン80をCNT連続繊維が通過する側に仮固定し、平常時は吸引を停止させ、糸切れ信号やボビン切り替え信号によって圧縮空気を導入して吸引を開始させ、続いてボビンへ糸を誘導させるなどの自動化も可能である。
【0055】
サクションガン80へ導入される大気、および吸い込み口から吸引した大気は、下流側に設けた目地の細かい袋布を介して排気することができる。こうすることで吸引したCNTを捕捉し、周囲に飛散させないようにすることができる。
【0056】
本発明のCNT連続繊維製造装置には、管状反応炉内部を観察するための反射鏡もしくはモニタカメラ、内視鏡などを設けることができる。例えば図2に示すように鏡22を管状反応炉に設けることで内部が観察できる。このように内部を観察できるようにすることで、スライバー状CNTの糸かけ時のモニタリングや、生成CNTの供給状態、ひいてはCNT原料がノズルから噴霧供給される状態などを観察することができる。特に、糸かけ棒を挿入してスライバー状CNTを付着させる際に有用である。さらには生産されるCNTの品質管理・維持にも活用できる。
【0057】
そして、内部を観察することで、スライバー状CNTの生成過程、およびベルトニップツイスターからの撚り上がり効果も把握できる。反応炉内でCNTは冷却開始位置前後で自己凝集が始まってスライバー状となるが、このときCNT同士の凝集力で集まるため、通常はCNT単糸の方向はランダムである。しかし、ベルトニップツイスターで撚りをかけると、スライバー状CNTの上端は開放端であるために上部へ撚りが伝わり、CNTがスライバー状になる際に、スライバー上部の自由端でCNT単糸がある程度揃いながら、すなわち配向しながら凝集・捕捉されることになる。
【0058】
なお、この撚り上がり機構を十分に機能させるためには、繊維走行方向に関してベルトニップツイスターのニップ点と管状反応炉の電気炉下端部(加熱領域の最下限)との距離を短くすることが好ましい。具体的には、管状反応炉の電気炉下端部から、ベルトニップツイスターのニップ点までの距離が、反応管2の内径の3〜12倍であることが好ましい。この範囲にすることにより、撚りの遡及が上流部に伝達しやすく、走向による外乱抵抗の影響が少なくなり、加熱領域下端部での凝集集束点が安定するため、糸切れが少なく太さがより均一なCNT連続繊維を得ることができる。上記距離が3倍より小さい場合には、電気炉の設定温度を1200℃としたときニップ点付近の温度が250℃以上となり、ニップベルトが変形するなどの不具合が生じ易くなるので好ましくない。一方、12倍を超える場合は、CNT連続繊維を形成することができるものの、撚りが不安定になる傾向がある。
【0059】
なお、管状反応炉の電気炉下端部からベルトニップツイスターのニップ点までの距離を短くする場合には、その間に設ける部品の耐熱性を考慮することが好ましい。例えば反応管2の直下には、反応管を支えるフランジを設けることが望ましいが、これはSUSなどの素材を用いることが好ましい。また、反応管2下の筒状体の周囲には分離箱10を設けることが好ましいが、その素材はガラスや石英が好ましい。さらに、フランジと分離箱の接続部分にはパッキンを設けることが好ましいうが、該パッキンには耐熱性に優れたグラファイトシートを用いることが好ましい。
【0060】
また、図2に示すように、スライバー状CNTもしくはCNT連続繊維の太さムラを、静電容量の変化によって読みとるセンサー23を配置することも好ましい。このように、センサー23をスライバー状CNTもしくはCNT連続繊維の側面に配置する場合、該センサーからのモニター信号により太さムラや糸切れを常時監視することができる。そして、このモニター信号でCNT連続繊維の太さが所望する範囲に入るように、(i)投入原液の吐出量やキャリアガスの投入量をかえたり、(ii)ベルト41Aと41Bの速度をかえたり、(iii)エアシリンダ48(図3)の作動圧でベルト41Aと41Bでのニップ圧をフィードバック制御させたり、(iv)ボビン51の巻き取り速度を変化させたりして制御することができる。
【0061】
以上のような装置におけるCNTの合成は、流動気相CVD法で、かつ、既知の材料を用いて、例えば以下のように行うことができる。すなわち、反応管2の上下方向中央部を電気炉1によって600〜1200℃に加熱しておき、反応管2の上部からキャリアガスとCNT原料を導入してCNTを合成する。原料に液体を使用するので、液体原料の混合溶液4はマイクロフィーダー5を用いて定量的に供給され、キャリアガスと装置に備え付けられたノズルによって反応管内へ噴霧される。反応管2へ供給された原料は加熱されて気化し、さらに熱分解し、微粒子状の鉄触媒を起点にしてCNTが成長する。CNTは成長するとともにキャリアガスによって下流へ送られ成長を終える。このとき生成したCNTは、キャリアガスの単位体積あたりに存在するCNTの濃度が、CNTが自己凝集できる程度に高濃度であることが好ましい。ここで自己凝集とは1本1本のCNTが束状に凝集することに加えて、束状CNT同士がマクロに凝集することをさす。CNT同士の凝集力を活用することで副生成物の粉塵を分離することもできる。すなわち、アモルファスカーボンなどからなるススや、合成反応に寄与しなかった触媒くずなどの副生成物は、キャリアガス中へ拡散する性質があり、一方で生成したCNTはキャリアガス中で凝集する性質があることから、CNTが凝集するのに対して副生成物はCNTから分離する。その結果、CNT純度の高いCNT連続繊維が得られる。
【0062】
CNT原料の炭素源としては、炭化水素を使用することが好ましく、1種類でも複数種類であってもよい。特に制約はないが、後述する触媒や反応促進剤を溶解できる液体を少なくとも1種類用いることが好ましい。炭化水素の例としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの非環式飽和脂肪族炭化水素や、直鎖ではなく枝分かれした構造の異性体であってもよい。二重結合を一つもしくは複数持つ非環式不飽和脂肪族炭化水素であってもよい。シクロヘキサン、デカリン、テトラデカヒドロフェナントレンなどの環式飽和脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロナフタレンなどの環式不飽和炭化水素であってもよい。エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類も用いることができる。これらの炭素源のうちデカリン、エタノール、トルエンが好ましく用いられる。液体の炭素源には金属錯体を溶解させたり、微粒子状金属などを懸濁分散させて用いることができる。
【0063】
触媒としては、金属の種類やその形態の違いに特に制限されるものではないが、遷移金属化合物又は遷移金属超微粒子(例えば1nm程度の金属クラスター)が好ましく用いられる。遷移金属化合物は、反応管内で分解することにより、触媒としての遷移金属粒子を発生することができるものである。
【0064】
これら遷移金属化合物や遷移金属原子は、反応管内における600〜1200℃の温度に維持された反応領域に、気体の状態で供給されるのが好ましく、所定の反応温度にまで昇温される前に、完全に気化することができるものが好適である。
【0065】
遷移金属原子としては、鉄、ニッケル、コバルト、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン等を挙げることができ、中でもより好ましいのは鉄、ニッケル、コバルトである。
【0066】
遷移金属化合物としては、例えば、有機遷移金属化合物、無機遷移金属化合物等を挙げることができる。有機遷移金属化合物としては、フェロセン、ニッケロセン、コバルトセン、鉄カルボニル、アセチルアセトナート鉄、オレイン酸鉄等を挙げることができ、より好ましくはフェロセンである。無機遷移金属化合物としては塩化鉄などをあげることができる。
【0067】
炭素源は複数種投入することもでき、第二炭素源としては常温状圧でガス状のものも用いることができる。例えば、メタン、エタン、プロパン、アセチレン、エチレン、プロピレンなどが用いられるが、中でもエチレンが好ましく用いられる。
【0068】
さらに、投入原料中に反応促進剤を添加することも好ましい。硫黄化合物は金属触媒と相互作用して、CNT生成の促進に寄与するので好ましく用いられる。硫黄化合物として、有機硫黄化合物、無機硫黄化合物の何れも用いられるが、チアナフテン、ベンゾチオフェン、チオフェン等の含硫黄複素環式化合物などがより好ましく、さらに好ましくはチオフェンである。これらの反応促進剤は気体であればキャリアガスと混合して反応管へ導入し、液体であれば液体の炭素源に混合溶解して、ノズル噴霧によって反応管へ導入される。
【0069】
以上のように炭素源の種類に応じて原料供給ラインを選択することができ、液体原料と気体原料を同時に使用する場合には両者を併用することが好ましい。
【0070】
キャリアガスは、水素、アルゴン、窒素が好ましく用いられ、単一のガスであっても、混合ガスであっても構わない。好ましくは水素ガス単一か、水素を含んだアルゴンガスである。
【0071】
本発明ではスライバー状CNTを形成しやすくするため、キャリアガス量を少なくして、反応管中の線速度が、5〜50cm/分となるように設定することが好ましい。5cm/分より遅い場合には生成したCNTが拡散しやすくなりCNT同士が自己凝集しなくなるので好ましくない。また50cm/分超の場合はCNTがキャリアガスに運ばれる割合が大きくなるためCNT同士が自己凝集しにくくなるので好ましくない。なお、ここで言う線速度とは、投入したガスの流量を反応管内側の断面積で割った値である。加熱ゾーンを通過する際にガスが膨張して線速度が多少増大するが、計測が難しいのでここでは室温のガスの体積を計算の基準とする。
【0072】
キャリアガス単位体積中の炭素原料濃度を、大きくする方法も有効である。具体的にはキャリアガスを含めた全投入原料のうち、炭素原子の占める重量比率が25〜50重量%となる条件が好ましい。この範囲にすることでCNT純度の高いスライバー状CNTを得ることができる。炭素源が25重量%未満では、生成したCNTの濃度が小さいためにCNT同士が自己凝集しにくくなるので好ましくない。また50重量%超では、ススなどの副生成物の生成量が増え、CNTの純度が低下しやすいので好ましくない。
【0073】
電気炉1の温度は600〜1200℃であることが好ましい。この温度範囲にすることによって触媒金属を微粒子化でき、さらにはCNTを生成しやすい状態に炭素源を分解することができるので、CNTを高純度かつ高効率で得ることができる。1200℃超では分解と生成の割合が分解の方へ偏ってしまうため収率が低下するので好ましくない。一方600℃未満でもCNTは合成できるが、CNTの収量が低下したり、CNTが内壁に付着しやすくなるなどの弊害が発生するので好ましくない。
【実施例】
【0074】
以下に、本発明のCNT連続繊維の製造例を具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0075】
<CNT連続繊維の形成性>
CNT連続繊維は形成開始直後10〜40cmで不具合が生じ易いことを加味し、CNT連続繊維を連続で50cm以上形成できるかどうかで形成性を評価した。CNT連続繊維を連続で50cm以上形成できる場合を○、できない場合を×として表に示した。
【0076】
<CNT連続繊維の嵩密度>
CNT連続繊維の嵩密度を測定した。嵩密度が0.1g/cm以上である場合、巻き取りに耐えうる引っ張り強度を得ることができる。
【0077】
なお、嵩密度については、糸の初端から10cm〜11cm部分の1cmの糸、中央部分の1cmの糸、終端から10cm〜11cm部分の1cmの糸を分取し、光学顕微鏡により3箇所の直径、重量をそれぞれ測定し、それらから各箇所での嵩密度を算出するとともに、3箇所での平均を算出しそれを表に示した。また、直径および嵩密度のばらつきがいずれも平均値の±20%以内である場合に○とし、そうでない場合を×として表に示した。
【0078】
<実施例1>
図1〜4に示すCNT連続繊維製造装置を組み立て、キャリアガスとなる水素を合計0.4L/分、触媒のフェロセン4w%と添加剤のチオフェン2w%を含むデカリン溶液を20μL/分、第2炭素源のエチレンガスを3mL/分を、電気炉1により1200℃に設定された反応管2内に投入した。このときキャリアガスを含む全投入原料中に占める炭素原子の重量比率は32.2w%である。また、反応管2の内径を52mm、筒状体12の内径を14mmとし、両者の内径の比を0.27とした。なお、この筒状体12にはロート形状のものを用いた。この条件にて装置を運転したところ、直径約7mmのスライバー状CNTが反応炉内部で生成することが、内部確認用の反射鏡を通じて確認できた。
【0079】
次に、ベルトニップツイスターの送り速度と巻取部における巻取速度が2.5m/分となるように設定し、直径1mm、長さ60cm、約20℃のステンレス棒を、ベルトニップツイスターの下側から筒状体12を介して管状反応炉内部へ向かって挿入し、スライバー状CNTを棒の先端に付着させた。そしてスライバー状CNTが絡みついたステンレス棒を、回転しているベルトニップツイスターに挟持させて、下流側へ2.5m/分の送り速度で引き抜くことで、スライバー状CNTを筒状体12の内部を通過させるとともにベルトニップツイスターの交点へと誘導し、CNT連続繊維を形成した。ついで、CNT連続繊維をステンレス棒から取り外して、CNT連続繊維の先端をサクションガン80に吸い込ませた。その後、サクションガン80の吸い口をゆっくりと巻き取り用ボビンへと誘導し、CNT連続繊維をボビンに巻き取らせてからサクションガンを取り外し、CNT連続繊維の連続巻き取りを行った。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上、安定に巻き取ることができた。
【0080】
このCNT連続繊維の直径の平均値は40μm、嵩密度の平均値は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0081】
<実施例2>
筒状体12に関して、図2の12のような漏斗形状のものではなく、図5の12のような段差がある筒状体(内径14mm)に変更した以外は、実施例1と同様にした。その結果、CNT連続繊維を4分間以上、すなわち10m以上を連続して巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は40μm、嵩密度(平均値)は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0082】
<実施例3>
キャリアガスとなる水素を合計0.4L/分から0.7L/分に増やし、デカリン溶液の投入量を20μL/分から30μL/分へ増やした以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、キャリアガスを含む全投入原料中に占める炭素原子の重量比率は28.1w%であった。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上、安定に巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は40μm、嵩密度(平均値)は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0083】
<実施例4>
筒状体12の内径を14mmから26mmに変え、筒状体12と反応管2の内径の比を0.5に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上、安定に巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は40μm、嵩密度(平均値)は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0084】
<実施例5>
筒状体12の内径を14mmから6mmに変え、筒状体12と反応管2の内径の比を0.12に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上、安定に巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は10μm、嵩密度(平均値)は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0085】
<実施例6>
ベルトニップツイスター410のベルトの数を片側1本から、片側2本、すなわち合計4本に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上、安定に巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は30μm、嵩密度(平均値)は0.4g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0086】
<実施例7>
反応管2の内径を52mmから105mmにして筒状体12と反応管2の内径の比を0.13に変え、キャリアガス流量を0.4L/minから1.6L/minに、液体原料の投入量を20μL/minから80μL/minに変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上、安定に巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は60μm、嵩密度(平均値)は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%の範囲内であり、CNT連続繊維は均一であった。
【0087】
<実施例8>
図6のように排気フードを設けなかった以外は、実施例1と同様にした。その結果、CNT連続繊維を連続して4分以上、すなわち10m以上巻き取ることができた。得られたCNT連続繊維の直径(平均値)は40μm、嵩密度(平均値)は0.5g/cmであった。初端、中央部、終端部での直径および嵩密度はいずれも平均値±20%であり、他の実施例よりはムラがあったもののほぼ均一はCNT連続繊維が得られた。
【0088】
<比較例1>
ベルトニップツイスター410を取り外した以外は実施例1と同様の操作を行い、スライバー状CNTを直接、巻き取り用ボビンに巻き取った。その結果、スライバー状CNTを連続して4分以上、すなわち10m分相当以上、安定に巻き取ることができたが、ボビン表面でスライバー状CNT同士が付着し、ボビンからスライバー状CNTを解き取ることはできず、CNT連続繊維を得ることはできなかった。
【0089】
<比較例2>
筒状体12の内径を14mmから52mmに変え、筒状体12と反応管2の内径の比を1.0に変えた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、スライバー状CNTを安定して生成できたが、ベルトニップツイスターの交点から位置ズレを起こしたために、長さ50cm以上のCNT連続繊維は得られなかった。
【0090】
<比較例3>
筒状体12の内径を14mmから32mmに変え、筒状体12と反応管2の内径の比を0.62に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。スライバー状CNTを安定して生成できたが、ベルトニップツイスターの交点から位置ズレを起こしたために長さ50cm以上のCNT連続繊維は得られなかった。
【0091】
<比較例4>
筒状体12の内径を14mmから3mmに変え、筒状体12と反応管2の内径との比を0.058とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。スライバー状CNTを安定して生成できたが、筒状体の上部の入り口でスライバー状CNTが詰まってしまい、長さ50cm以上のCNT連続繊維は得られなかった。
【0092】
<比較例5>
図7に示すように、ニップベルトツイスターをリングツイスターに変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。CNT連続繊維を10m以上巻き取ることができたが、嵩密度の平均値が0.05g/cmであり、巻き取った糸を解き取る際に糸切れが多発した。
【0093】
【表1】

【符号の説明】
【0094】

1 電気炉
2 反応管
3 スプレーノズル
4 混合溶液
5 マイクロフィーダー
6 キャリアガス流量計
7 キャリアガス
8 フランジ
9 パッキンシート
10 分離箱
11 締結リング
12 筒状体
13 Oリング
14 排気口
15 排気管
16 排気フード
17 ガイド
18 大気
19 スライダ筒
20 大気孔
21 内視カメラ
22 鏡
23 太さムラセンサー
30 糸かけ棒
31 圧力監視用側孔
41A、41B ベルト
42A、42B 駆動プーリ
43A、43B テンションプーリ
44A、44B ブラケット
45A、45B 軸
46A、46B ブラケット
47 支点軸
48 エアシリンダ
49A 上流ガイド
49B 下流ガイド
51 ボビン
52 架台
53 ボビンホルダー
54 制御装置
55 糸道ガイド
56 非接触巻厚センサー
61 延伸ペアロール
62 リングレール
63 ボビン
200 反応部
300 分離部
400 加撚部
410 ベルトニップツイスター
500 巻取部
600 リングツイスター
F CNT連続繊維
NP ニップポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動気相CVD法によって炭素源と触媒とキャリアガスとから連続的にカーボンナノチューブを合成する管状反応炉と、該管状反応炉の下流側に設けられた、内径が、管状反応炉の内径の0.1〜0.5倍の範囲の筒状体と、該筒状体の下流側に設けられた、管状反応炉内から連続的に引き出したカーボンナノチューブのスライバーを挟持しながら加撚してカーボンナノチューブ連続繊維を送り出す一対のベルトを備えたベルトニップツイスターと、得られたカーボンナノチューブ連続繊維を連続的に巻き取る巻取装置とを備えたカーボンナノチューブ連続繊維の製造装置。
【請求項2】
前記筒状体の下流側端部に反応炉から排出されるガスの排気フードを備え、該排気フードは、大気の導入口と、導入される大気と前記ガスとを併せて吸引排気する手段を備えている、請求項1に記載のカーボンナノチューブ連続繊維製造装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置を用いるカーボンナノチューブ連続繊維の製造方法。
【請求項4】
管状反応炉内部の温度よりも低温になっている糸かけ棒の端部を管状反応炉に挿入し、管状反応炉内部のスライバー状カーボンナノチューブに接触させ、かつ、該糸かけ棒の他の部分をベルトツイスターで挟持しながら回転および送り出しすることによって、スライバー状カーボンナノチューブをベルトニップツイスターへ誘導してカーボンナノチューブ連続繊維の製造を開始する、請求項3に記載のカーボンナノチューブ連続繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の製造装置または請求項3または4に記載の製造方法によって得られたカーボンナノチューブ連続繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−11039(P2013−11039A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145445(P2011−145445)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】