説明

カーボンナノチューブ集合体およびその製造方法

【課題】 可とう性のある基材上に形成したカーボンナノチューブの集合体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 炭化ケイ素で構成された、シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物の表面にカーボンナノチューブが形成されているカーボンナノチューブ集合体であり、前記シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物は有機ケイ素ポリマーを原料として製造された炭化ケイ素で構成されていることが好ましい。前記有機ケイ素ポリマー中には、−M−C−(ここでMは金属)または−M−O−の構造単位を有する金属元素を有し、ポリマー中のSiと該金属元素との比(Si:M)が2:1〜200:1の範囲内であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可とう性のある炭化ケイ素で出来たシート、繊維、およびこの繊維で作った織物の表面にカーボンナノチューブを析出させたカーボンナノチューブ集合体とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、その内部に種々の物質を格納できる空間を有することや、その直径やチューブ側面におけるグラファイトシートの捩れかたの違いによって金属的性質や半導体的性質をもつことから、新規機能性を発現する可能性のある物質の開発研究分野において、重要な物質群として捉えることができる。
【0003】
CNTは、チューブの内径が1〜10nmであり、比表面積が1000m/gを超え、従来の活性炭よりはるかに大きいことが知られており、リチウム二次電池や電気二重層キャパシタの電極材料として用いることで大幅な充電容量が向上できると期待されている。また、CNTの先端が1〜10nmと極めて小さいという特徴を生かしてFED(電界放射型ディスプレイ)のエミッター材料への応用が期待されている。従来から提案されているフィールドエミッターは、電子を放出させる急峻な円錐状の形状を、シリコンに特殊なエッチングを行って形成したり、金属を斜めから廻転させて堆積して形成するという特殊な方法で形成している。これらの方法では、人工的な微細加工を用いていることにより急峻な円錐状の先端のサイズを20〜30nm以下にすることは不可能であった。電子を放出させることができる電圧は、先端が急峻であればあるほど低くなるが、従来の20〜30nmサイズのフィールドエミッターでは、電子を放出させる為には高い電圧を印加する必要があった。CNTを用いれば、低電圧で駆動する高輝度のFEDが実現できる可能性も考えられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、カーボンナノチューブ類は、多くが煤状の形態で得られることが一般的であり、生成・抽出した後、粉末状態で回収し、二次加工を施し用いられている。その為、例えば、シート状に加工する場合は、CNTをバインダーと共に混合してダイコーター等のシート成形機を用いてシート状に加工することが行われていた。それにより、一定容積中のCNTの量が少なく、目的の性能が得られなかったり、加工出来る形状に制限が出来たりして利用範囲を広げることが出来なかった。
【0005】
最近になって、非特許文献1および2に示すように、炭化ケイ素の単結晶粒子表面にCNTを析出させる技術が報告された。この方法は、SiC結晶を真空下で加熱することにより、SiCが分解してこのSiC結晶からSi原子を除去することで、表面にCNTを析出させるというものである。更に、非特許文献1には真空、高温雰囲気下での共有結合性金属炭化物の分解には、真空炉内に存在する微量の酸素が重要であることも記載されている。しかしながら、この方法では、炭化ケイ素の単結晶基板を用いているため可とう性のあるシート状上にCNTの集合体を得ることは困難であった。本発明は、二次加工することなく、可とう性のある、シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物の表面に形成したカーボンナノチューブの集合体およびその製造方法を提供することを目的とする。このようなものが作製できれば、様々な分野への利用が可能となる。例えば、シート状のカーボンナノチューブの集合体であれば、電気二重層キャパシターの集電極としてロール形状で供給出来るので、生産性が向上する。長繊維、短繊維やそれらを用いた織物や不織布状のカーボンナノチューブの集合体であれば、例えば、CNTの表面に触媒を担持させることにより、自動車等の排ガス浄化装置や排水処理装置の浄化フィルターとして簡便に利用できる。
【0006】
【非特許文献1】M.Kusunoki, M. Rokkaku and T. Suzuki: Appl. Phys. Lett., 71, pp.2626 (1997)
【非特許文献2】田中 一義;カーボンナノチューブ ナノデバイスへの挑戦,p89-98(2001, 化学同人)
【課題を解決するための手段】
【0007】
我々は、上記課題を解決して、可とう性のある基材上にCNTの集合体を製造すべく鋭意研究を重ねた結果、有機ケイ素ポリマーを原料として可とう性のある炭化ケイ素成形体を作製して、それを熱処理することにより、炭化ケイ素成形体表面にCNTが生成したカーボンナノチューブ集合体が出来ることを見出した。これを、カーボンナノチューブ集合体と呼ぶ。
【0008】
即ち、本発明は、炭化ケイ素で構成された、シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物の表面にカーボンナノチューブが形成されているカーボンナノチューブ集合体に関する。
【0009】
また、本発明は、前記カーボンナノチューブの長さが、10nm〜1000nmであることを特徴とする前記カーボンナノチューブ集合体に関する。
【0010】
さらに、本発明は、前記シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物が有機ケイ素ポリマーを原料として製造された炭化ケイ素で構成されていることを特徴とする前記のカーボンナノチューブ集合体に関する。
【0011】
また、前記有機ケイ素ポリマー中には、−M−C−(ここでMは金属)または−M−O−の構造単位を有する金属元素を有し、ポリマー中のSiと該金属元素との比(Si:M)が2:1〜200:1の範囲内であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記金属元素としては、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金、イットリウム、および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記有機ケイ素ポリマーを用いて製造されたシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物を不融化させる工程と、不融化させたものを炭化ケイ素にするための工程と、炭化ケイ素表面にカーボンナノチューブを形成させる工程と、からなることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法に関する。
【0014】
前記の不融化させる工程において、焼成温度が50〜400℃の範囲で、空気、オゾン、酸素、塩素ガス、臭素ガスおよびアンモニアガスのうちから選ばれる少なくとも1種の酸化性ガス雰囲気で焼成することが好ましい。
【0015】
前記の不融化させたものを炭化ケイ素にするための工程において、真空、不活性ガスあるいは還元性ガス雰囲気中で800〜2000℃の温度範囲で焼成することが好ましい。
【0016】
さらに、前記の炭化ケイ素表面にカーボンナノチューブを形成させる工程において、真空度1.01×10〜1.33×10−8Paの範囲、焼成温度1000〜2200℃の範囲で焼成することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、CNTが可とう性の炭化ケイ素基板表面に密集した形態を有するため、シートや織物に加工することで、ロール状に巻き取ることが出来るので持ち運びも容易であるばかりでなく、製品に組み込む場合も、切断加工にも十分適応できる。このようなことから、これまで困難であった産業分野へCNTを適用することが可能となる。従って、本発明のカーボンナノチューブ集合体は、エレクトロニクス分野、エネルギー分野など幅広い分野において極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の、カーボンナノチューブ集合体は、可とう性のある炭化ケイ素成形体の表面にカーボンナノチューブが複数自立するように形成された集合体であり、可とう性のある炭化ケイ素成形体を利用することを特徴とする。可とう性のある炭化ケイ素成形体としては、炭化ケイ素で構成されたシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物があり、それらの表面にカーボンナノチューブが形成されている。
【0019】
図1に、炭化ケイ素で構成されたシートの表面にカーボンナノチューブを多数自立するように形成した、本発明のカーボンナノチューブ集合体の概略図を示す。
【0020】
図2に、炭化ケイ素で構成された繊維を使った織物の表面にカーボンナノチューブを多数自立するように形成した、本発明のカーボンナノチューブ集合体の概略図を示す。
【0021】
従来のように、粉末状態で得られる場合は、粉末を回収・精製する工程を含めて、二次加工を施して利用されていた。その為、加工できる形状やCNTの含有率に制限があり、利用範囲が限られていた。本発明のカーボンナノチューブ集合体は、可とう性の炭化ケイ素基板表面にCNTが密集した形態を有するため、シートや織物に加工することで、ロール状に巻き取ることが出来るので持ち運びも容易であるばかりでなく、製品に組み込む場合も、切断加工にも十分適応できる。
【0022】
本発明の、カーボンナノチューブ集合体は、炭化ケイ素で構成されたシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物の表面に形成されたCNTの長さ、即ち、CNT層の厚みは、通常、10nm〜1000nmである。CNT層の厚みは、焼成条件で制御することが出来る。焼成時の真空度、焼成温度、焼成時間、雰囲気の酸素濃度などで任意の厚みに制御できる。
【0023】
CNT層の厚みは、目的によって選択できる。FEDのようにCNTの先端が重要な場合は、10nm程度でFEDの効果を発揮できる。一方、キャパシタのように充電容量が、電極物質の体積に比例する場合は、CNT層の厚みは出来るだけ厚い方が好ましい。ただし、厚みが増すと基板である炭化ケイ素シートからの剥離が問題となる。これらのことを考慮すると、1000nm以下が好ましい。
【0024】
本発明のカーボンナノチューブ集合体の原料である、前記のシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物は、有機ケイ素ポリマーを原料として製造された炭化ケイ素で構成されていることに特徴がある。前記の通り、可とう性のある炭化ケイ素成形体を利用することが、本発明の重要な点である。可とう性のある炭化ケイ素の成形体を作製する方法として、前駆体を用いる方法が望ましい。前駆体としては、種々の有機ケイ素ポリマーの混合物を用いることが出来る。利用できる有機ケイ素ポリマーとしては、主鎖が−Si−CH−構造単位のみからなるポリマー、例えば、ポリシルメチレン、ポリシルエチレン、ポリシルトリメチレン、ポリシルフェニレン、ポリシルアリレン等のポリカルボシラン類が、また、主鎖が−Si−CH−Si−O−構造単位からなるポリマー、例えば、ポリ(シルメチレンシロキサン)、ポリ(エチレンシロキサン)、ポリ(シルフェニレンシロキサン)、ポリ(シルアリレンシロキサン)、ポリ(シルキシリレンシロキサン)等が、また、主鎖が−Si−O−構造単位のみからなるポリマー、例えば、ポリ(メチレンオキシシロキサン)、ポリ(エチレンオキシシロキサン)、ポリ(フェニレンオキシシロキサン)、ポリ(ジフェニレンオキシシロキサン)等のポリシラン類が挙げられる。これらの化合物の少なくとも1種類で構成された混合物を前駆体として使用できる。更に、これらのポリマー中に金属を含んでも構わない。その場合は、有機ケイ素ポリマーの構造中に、−M−C−または−M−O−の構造単位を含むことになる。ここで、Mは金属、Cは炭素、Oは酸素である。また、この金属元素の存在位置は、ポリマーの主鎖中でも、架橋点としてでも構わない。
【0025】
可とう性のある炭化ケイ素基板を製造するには、前駆体を用いる方法が望ましい。前駆体としては、種々の有機ケイ素ポリマーの混合物が好適に用いられる。有機ケイ素ポリマーは、その性状から、溶融したり、各種有機溶媒に溶解させたりすることが容易であるので、様々な形状に加工が出来る。汎用性の高い形状としては、シート状が一般的である。比表面積を大きくしたい場合は、繊維状に加工することも有効である。有機ケイ素ポリマーから繊維状に加工して製造した炭化ケイ素繊維は、数十本から数千本の繊維束に加工することが出来る。これらの繊維束は、更に平織り、朱子織およびその積層体、3次元織物に加工することが出来る。織物は、表面積が大きく溶液やガスの透過性も良好なので、そのような目的に好適に利用できる。
【0026】
有機ケイ素ポリマーを用いて繊維化する方法としては、通常用いられる合成繊維紡糸装置により紡糸する。所定組成の有機ケイ素ポリマーを調製し、ミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去する。原料となる有機ケイ素ポリマーを所定の粘度になる温度で加熱溶融して紡糸し原糸を作製する。紡糸する際の有機ケイ素ポリマーの温度は原料の組成により異なるが50〜400℃の温度範囲が有利である。
【0027】
カーボンナノチューブ集合体は、前記有機ケイ素ポリマーを用いて製造されたシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物を不融化させる工程と、不融化させたものを炭化ケイ素にするための工程と、炭化ケイ素表面にカーボンナノチューブを形成させる工程と、からなる。
【0028】
不融化は、前記有機ケイ素ポリマーを用いて製造されたシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物の表面に薄い酸化皮膜を形成させ、後述する炭化ケイ素にするための工程でシートや繊維が溶融しないように前記酸化物皮膜で保護することを目的に行う。不融化処理を行う雰囲気は、空気、オゾン、酸素、塩素ガス、臭素ガスおよびアンモニアガスのうちから選ばれるいずれか1種または2種以上の酸化性ガス雰囲気とすることが好ましく、50〜400℃の温度範囲とすることが好ましい。前記ガス雰囲気での低温加熱を50℃以下で行っても紡糸繊維に酸化被覆を造ることが出来ず、400℃以上の温度では酸化が進みすぎるため50〜400℃の温度範囲で良い結果が得られる。前記低温加熱時間は前記温度と関連し、数分から30時間の範囲が適当である。
【0029】
前記の酸化雰囲気中で低温加熱して不融化する方法のほかに、紡糸繊維に酸化雰囲気あるいは非酸化雰囲気で、低温加熱しながらγ線照射、あるいは電子線照射して不融化することができる。このγ線あるいは電子線を照射する目的は、紡糸繊維を形成する有機ケイ素ポリマーを、更に重合させることによって、重合体が軟化することなく分解し後述の焼成工程で紡糸繊維が融解して、繊維形状を失うことを防ぐためである。
【0030】
前記γ線あるいは電子線照射による不融化の特徴は、酸化による不融化で出来ないような低融点の紡糸繊維を不融化できるところにある。有機ケイ素ポリマーは、その組成により、融点が50℃以下になる場合もある。そのような場合でも、γ線あるいは電子線照射による不融化を行うことにより、後述の焼成工程で紡糸繊維が融解して、繊維形状を失うことなく焼成が可能である。
【0031】
次にこの不融化した繊維を、800〜2000℃の温度範囲で焼成し、炭化ケイ素連続繊維を作製する。
【0032】
前記の焼成は、真空、不活性ガスあるいは還元性ガス雰囲気中で800〜2000℃の温度範囲で、張力下、あるいは無張力下で行われる。この焼成において紡糸繊維を形成する有機ケイ素ポリマーは、熱重合反応と、熱分解反応とにより易揮発性成分を500〜700℃で放出する。700℃から無機化が激しくなり約800℃でほぼ無機化が完了するものと推定される。更に、800〜2000℃の範囲で焼成することで炭化ケイ素連続繊維が作製できる。
【0033】
このような繊維状の炭化ケイ素繊維は、数十μmの短繊維が束になったストランドと呼ばれる繊維束として用いられることが普通である。更に、このストランドを用いて織物を作製することが出来る。平織り、朱子織、それらを積層した織物、ストランドを直接三次元に製織した三次元織物を作ることが出来、この様な可とう性のある織物を基板として用いることが可能である。
【0034】
上記の有機ケイ素ポリマーを用いてシート状成形体を製作する場合は、基板に有機ケイ素ポリマーをコーティングすることになる。コーティングする場合は、有機ケイ素ポリマーをそのまま使っても良いが、適切な溶媒で希釈して用いても良い。溶媒としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン、エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの有機ケイ素ポリマーを溶解出来るものであれば構わない。有機ケイ素ポリマーを基板にコーティングする方法としては、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、スプレーコート法、ロールコート法、メニスカスコート法、バーコート法及び流延法などの方法を用いることが出来る。用いる基板としては、有機ケイ素ポリマーを焼成する場合に、除去出来る必要があるので、低温で溶融する物質、昇華性の高い物質、溶媒に可溶な物質などを用いたりする必要がある。例えば、スズ、亜鉛、インジウムなどの低融点金属の板状基板、NaCl、KClなどの溶媒に可溶な無機結晶、ショウノウ、パラジクロロベンゼン、ナフタレンなどの昇華性の高い有機化合物基板を用いることが出来る。
【0035】
前記の方法で作製した有機ケイ素ポリマーシートは、前記の炭化ケイ素繊維を製造する方法と同じ工程で処理することで、炭化ケイ素シートとすることが出来る。
【0036】
カーボンナノチューブ集合体に用いるための基板を製造するために使用する有機ケイ素ポリマー中には、−M(金属)−C−または−M(金属)−O−の構造単位を有する金属元素を有し、ポリマー中のSiに対する該金属元素の比率がSi:M=2:1〜200:1の範囲内で含有している。好ましくは、Si:M=20:1〜200:1の範囲である。
【0037】
アーク放電法でCNTを合成する場合、触媒の存在は非常に重要であることは良く知られている。アーク放電法の場合は、原料となる炭素粉末に触媒となる金属を混合して反応させることで生成するCNTを制御できる。一方、後述する通り、本発明では炭化ケイ素中のケイ素を高真空中で除去しながら炭化ケイ素表面にCNTを析出させる。本発明の方法でCNTを析出させる基板にバルク状の炭化ケイ素を使用し、この中に触媒となる金属元素を含有させることは困難である。ところが、基板となる炭化ケイ素を有機ケイ素ポリマーで製造することにより、基板となる炭化ケイ素中に触媒となる金属元素を任意に導入することが出来る。添加量は、特に限定されるものではないが、CNTの成長を阻害しない範囲で添加する。添加する割合は、Si:M=2:1〜200:1の範囲内で任意に添加できるが、添加元素を触媒として利用する場合は、多すぎても触媒の効果が飽和するので、高コスト化になり好ましくなく、少なすぎると、触媒の効果が低下するので好ましくない。以上のことを考慮すると、触媒金属元素を添加する割合は、好ましくは、20:1〜200:1の範囲である
カーボンナノチューブ集合体に用いるための基板を製造するために使用する有機ケイ素ポリマー中に添加する金属元素は、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金、イットリウム、ランタン・セリウム等の希土類のうち、1種類あるいは2種類以上を添加する事が出来る。
【0038】
鉄、コバルト、ニッケル、ロジウム、イットリウム、ランタン、セリウムなどは、単独で添加しても、CNTの生成に効果的である。また、鉄−ニッケル、コバルト−ニッケル、ルテニウム−パラジウム、ロジウム−パラジウム、ロジウム−白金、ニッケル−イットリウム、ニッケル−ランタン、鉄−モリブデン、コバルト−モリブデンなどは、混合して利用するほうがCNTの生成には効果的である。本発明で使用する有機ケイ素ポリマー前駆体には、触媒として作用する種々の金属元素も容易に添加する事が出来る。例えば、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金、イットリウム、ランタン・セリウム等の希土類等といった元素のアルコキシド、アセチルアセトナート、ハロゲン化物、金属錯体、カルボニル、ジピボロイルメタネート錯体等が利用できる。
【0039】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は、前記の炭化ケイ素の表面に例えば次のようにして形成することができる。カーボンナノチューブ集合体は、炭化ケイ素で構成されたシート、繊維、およびその繊維を使った織物を真空度1.01×10〜1.33×10−8Paの範囲、焼成温度1000℃〜2200℃の範囲で焼成することにより好適に形成できる。
【0040】
本発明では炭化ケイ素中のケイ素を除去することによりCNTを生成させる。ケイ素は基板中に含まれる酸素と結合して、一酸化ケイ素として除去されると考えている。そのため、一酸化ケイ素の蒸気圧を制御することで、CNTの生成を制御できる。真空度が低い場合は、一酸化ケイ素の蒸気圧を高くする必要があるので、温度は高くする必要がある。一方、真空度が高い場合は、蒸気圧は高くなるので、温度は低くても構わない。しかながら、CNTの生成速度を考えると、温度は高い方が好ましい。以上のことを考慮すると、好ましい真空度は1.01×10〜1.33×10−8Paであり、より好ましくは、1.33×10−1〜1.33×10−8Paである。また、好ましい焼成温度は、真空度と焼成温度は、1000℃〜2200℃の範囲であり、より好ましくは、1500℃〜2200℃である。
【0041】
有機ケイ素ポリマー中に添加するCNT成長制御用金属触媒の種類によってCNTの生成速度を促進することが出来る。
【0042】
本発明であるカーボンナノチューブ集合体の製造方法の大きな特徴は、有機ケイ素ポリマーを用いて製造した可とう性のある炭化ケイ素基板を用いることによりカーボンナノチューブ集合体を製造できることにある。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0044】
(参考例1)
5リットルの三口フラスコに無水キシレン2.5リットルとナトリウム400gとを入れ、窒素ガス気流下でキシレンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間で滴下した。滴下終了後、10時間還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まず、メタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。
【0045】
他方、ジフェニルジクロロシラン759gとホウ酸124gを窒素ガス雰囲気下、n−ブチルエーテル中で、100〜120℃の温度で加熱し、生成した白色樹脂を、更に真空中400℃で1時間加熱することによって530gのポリボロジフェニルシロキサンを得た。
【0046】
次に、上記ポリジメチルシラン250gに上記のポリボロジフェニルシロキサン8.27gを添加混合し、還流管を備えた2リットルの石英管中、窒素気流下で350℃まで加熱し6時間重合し、出発原料の有機ケイ素ポリマーであるポリカルボシランを得た。
【0047】
(実施例1)
参考例1で得られたポリカルボシラン40gとチタンテトラブトキシド28gとを採取し、この混合物にキシレン400mlを加えて均一相からなる混合溶液とし、窒素ガス雰囲気下で、130℃で1時間撹拌しながら還流反応を行った。還流反応終了後、更に温度を200℃まで上昇させて溶媒のキシレンを留出させたのち、200℃で1時間重合を行い、チタン金属を含む有機金属重合体(ポリチタノカルボシラン)を得た。このポリマー中のSi:Ti=約8:1であった。
【0048】
得られたポリチタノカルボシラン1gをキシレン10gに溶解し、この溶液をNaCl基板上に塗布した。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。この不融化したシートを剥離するために、基板を水に溶かして除去した。得られた不融化シートを窒素気流中で1200℃まで12時間で昇温し、1200℃で1時間保持して焼成した。得られたシートの厚みは20μmであった。このシートを真空度1×10−3Torrにおいて、1700℃で2時間加熱処理を行った。外観は、黒色で、処理前後での大きな変化は認められなかった。その厚みは、約100nmであった。得られたカーボンナノチューブ集合体は、容易に曲げることが可能であった。これにより、様々な分野への利用が可能となる。
【0049】
(実施例2)
参考例1で得られたポリカルボシラン40gとチタンテトラブトキシド28gとを採取し、この混合物にキシレン400mlを加えて均一相からなる混合溶液とし、窒素ガス雰囲気下で、130℃で1時間撹拌しながら還流反応を行った。還流反応終了後、更に温度を200℃まで上昇させて溶媒のキシレンを留出させたのち、200℃で1時間重合を行い、チタン金属を含む有機金属重合体(ポリチタノカルボシラン)を得た。このポリマー中のSi:Ti=約8:1であった。
【0050】
得られたポリチタノカルボシランを、紡糸装置を用いて250℃に加熱溶融して300μmの口金より、400m/minの紡糸速度で、空気中で溶融紡糸して繊維を得た。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。得られた不融化糸を窒素気流中で1200℃まで12時間で昇温し、1200℃で1時間保持して焼成した。得られた連続炭化ケイ素繊維の直径は20μmであった。この繊維を真空度1×10−3Torrにおいて、1700℃で1時間加熱処理を行った。外観は、黒色で、処理前後での大きな変化は認められなかった。生成したCNT層の厚みは、約50nmであった。
【0051】
(実施例3)
参考例1で得られたポリカルボシラン40gとビス・アセチルアセトネート白金32.3gとを採取し、この混合物にキシレン400mlを加えて均一相からなる混合溶液とし、窒素ガス雰囲気下で、130℃で1時間撹拌しながら還流反応を行った。還流反応終了後、更に温度を230℃まで上昇させて溶媒のキシレンを留出させたのち、230℃で1時間重合を行い、白金を含む有機金属ポリマーである白金含有ポリカルボシランを得た。このポリマー中のSi:Pt=約8:1であった。
【0052】
得られた白金含有ポリカルボシラン1gをキシレン10gに溶解し、この溶液をNaCl基板上に塗布した。これを空気中で室温から7.5℃/時の昇温速度で昇温し、175℃で2時間保持して不融化した。この不融化したシートを剥離するために、基板を水に溶かして除去した。得られた不融化シートを窒素気流中で1200℃まで12時間で昇温し、1200℃で1時間保持して焼成した。得られたシートの厚みは30μmであった。このシートを真空度1×10−3Torrにおいて、1700℃で2時間加熱処理を行った。外観は、黒色で、処理前後での大きな変化は認められなかった。生成したCNT層の厚みは、約170nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】シート状カーボンナノチューブ集合体の概略図である。
【図2】本発明の織物状カーボンナノチューブ集合体の概略図である。
【符号の説明】
【0054】
1 可とう性炭化ケイ素シート
2 カーボンナノチューブ
3 可とう性炭化ケイ素繊維織物
4 カーボンナノチューブ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素で構成された、シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物の表面にカーボンナノチューブが形成されているカーボンナノチューブ集合体。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの長さが、10nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項3】
前記シート、繊維、あるいは該繊維を使った織物が有機ケイ素ポリマーを原料として製造された炭化ケイ素で構成されていることを特徴とする請求項1または2記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項4】
前記有機ケイ素ポリマー中に、−M−C−(ここでMは金属)または−M−O−の構造単位を有する金属元素を有し、ポリマー中のSiと該金属元素との比(Si:M)が2:1〜200:1の範囲内であることを特徴とする請求項3に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項5】
前記金属元素が、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、パラジウム、白金、イットリウム、および希土類元素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項6】
前記有機ケイ素ポリマーを用いて製造されたシート、繊維、あるいは該繊維を使った織物を不融化させる工程と、不融化させたものを炭化ケイ素にするための工程と、炭化ケイ素表面にカーボンナノチューブを形成させる工程と、からなることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項7】
前記の不融化させる工程において、焼成温度が50〜400℃の範囲で、空気、オゾン、酸素、塩素ガス、臭素ガスおよびアンモニアガスからなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化性ガス雰囲気で焼成することを特徴とする請求項6記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項8】
前記の不融化させたものを炭化ケイ素にするための工程において、真空、不活性ガスあるいは還元性ガス雰囲気中で800〜2000℃の温度範囲で焼成することを特徴とする請求項6に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項9】
前記の炭化ケイ素表面にカーボンナノチューブを形成させる工程において、真空度1.01×10〜1.33×10−8Paの範囲、焼成温度1000〜2200℃の範囲で焼成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−100864(P2008−100864A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−283421(P2006−283421)
【出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】