説明

カーボンナノファイバー、カーボンナノファイバー集合体、カーボンナノファイバーの製造方法、炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料

【課題】カーボンナノファイバー、カーボンナノファイバー集合体、カーボンナノファイバーの製造方法、炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料を提供する。
【解決手段】本発明の炭素繊維複合材料の製造方法は、第1の工程と第2の工程とを有する。第1の工程は、気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバー60を圧縮処理して複数のカーボンナノファイバー80を得る。第2の工程は、カーボンナノファイバー80を、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る。複数の第1のカーボンナノファイバー60は、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバー60を含む。圧縮処理は、第1のカーボンナノファイバー60を分岐部から切断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノファイバー、カーボンナノファイバー集合体、カーボンナノファイバーの製造方法、炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノファイバーの一種である気相法微細炭素繊維を粉砕して、繊維の長手方向に対して屈曲度が30度以下の直線性微細炭素繊維が提案された(例えば、特許文献1参照)。微細炭素繊維は、一般的には、有機遷移金属化合物を用いて有機化合物からなる炭素源を液体または気体状で反応炉にキャリアガスと共に導入して熱分解することにより得ることができ、微細炭素繊維の原料となる有機化合物は、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素が好ましく用いられている。微細炭素繊維は、有機化合物、有機遷移金属化合物及び必要に応じて助触媒を水素などの還元性ガスと混合し、800〜1300℃に加熱した反応炉へ供給し、反応させて得られた。反応炉への原料供給は、液体のままキャリアガスで噴霧して反応炉へ供給する方法であった。さらに、樹脂などの母材との密着性を向上するために、不活性雰囲気中で900〜1300℃で熱処理(焼成)を行い、微細炭素繊維の表面に付着したタールなどの有機物を除去することができ、さらに、微細炭素繊維の異方性磁化率を向上させるために、微細炭素繊維を不活性雰囲気下で2000〜3500℃の熱処理を行い、結晶を発達させることが提案された。このようにして得られた微細炭素繊維は、さらに、樹脂などの母材に対する分散性を向上させるために凝集や分岐を有する黒鉛化微細炭素繊維を解砕・粉砕処理し、微細炭素繊維の凝集部および分岐部を解消し、樹脂中に分散しやすい微細炭素繊維を得ることが提案された。しかしながら、このような解砕・粉砕処理した微細炭素繊維は、分岐部が減って分散しやすくなる傾向があるが、嵩密度が小さくなってふわりとするため飛散しやすく取り扱いにくくなる傾向があった。
【0003】
また、溶融状態にあるマトリックス樹脂に、繊維径が2〜500nmの気相法炭素繊維を混合することを特徴とする導電性樹脂組成物の製造方法が提案された(例えば、特許文献2参照)。この製造方法によれば、気相法炭素繊維の破断を極力抑えられるため良好な導電性ネットワークを形成することができたが、気相法炭素繊維自体は嵩密度が小さいので取り扱いにくかった。
【0004】
さらに、本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーを用いることで、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献3参照)。このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い弾性を有するエラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。しかしながら、炭素繊維複合材料のさらなる柔軟性の向上と耐久性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−360160号公報
【特許文献2】特開2006−97006号公報
【特許文献3】特開2005−97525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、カーボンナノファイバー、カーボンナノファイバー集合体、カーボンナノファイバーの製造方法、炭素繊維複合材料の製造方法及び炭素繊維複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかるカーボンナノファイバーは、
気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して得られたカーボンナノファイバーであって、最大繊維長が20μm未満であってかつ分岐部がない。
【0008】
本発明にかかるカーボンナノファイバーによれば、最大繊維長が20μm未満と短くかつ分岐部がないので、他の材料と混合したときにもカーボンナノファイバーの分散性を向上させることができる。また、本発明にかかるカーボンナノファイバーによれば、最大繊維長が20μm未満と短いので、複合材料に配合した際に、複合材料の柔軟性を向上させることができる。さらに、本発明にかかるカーボンナノファイバーによれば、分岐部がないので、複合材料に配合した際に、カーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0009】
本発明にかかるカーボンナノファイバーにおいて、折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記カーボンナノファイバー100本の内、10本未満であることができる。
【0010】
本発明にかかるカーボンナノファイバーにおいて、嵩密度が0.15〜0.3g/cmであることができる。
【0011】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体は、最大繊維長が20μm未満であってかつ分岐部がないカーボンナノファイバーからなる。
【0012】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体によれば、カーボンナノファイバーの最大繊維長が20μm未満と短くかつ分岐部がないので、他の材料と混合したときにもカーボンナノファイバーの分散性を向上させることができる。また、本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体によれば、カーボンナノファイバーの最大繊維長が20μm未満と短いので、複合材料に配合した際に、複合材料の柔軟性を向上させることができる。さらに、本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、複合材料に配合した際に、カーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0013】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体において、折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記カーボンナノファイバー100本の内、10本未満であることができる。
【0014】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体において、嵩密度が0.15〜0.3g/cmであることができる。
【0015】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体において、複数のカーボンナノファイバーが板状に造粒されてなることができる。
【0016】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体は、嵩密度が0.15〜0.3g/cmである。
【0017】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体によれば、嵩密度が高いので、保管時、運搬時または配合時における取り扱い性を向上することができる。また、他の材料へ配合する際には、カーボンナノファイバーが飛散しにくく取り扱い易く、特にエラストマーに投入して混練する際には、エラストマー中へカーボンナノファイバーが入り込み易いためカーボンナノファイバーの投入に要する時間を短縮することができる。
【0018】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体は、複数のカーボンナノファイバーが板状に造粒されてなる。
【0019】
本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体によれば、板状に造粒されているので、保管時、運搬時または配合時における取り扱い性を向上することができる。また、他の材料へ配合する際には、カーボンナノファイバーが飛散しにくく取り扱い易く、特にエラストマーに投入して混練する際には、エラストマー中へカーボンナノファイバーが入り込み易いためカーボンナノファイバーの投入に要する時間を短縮することができる。
【0020】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法は、
気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る工程を有し、
前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、
前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する。
【0021】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法によれば、得られたカーボンナノファイバーに分岐部がなく欠陥を減少させることができる。また、本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法で得られたカーボンナノファイバーは、他の材料と混合したときにもカーボンナノファイバーの分散性を向上することができる。また、本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法によれば、得られたカーボンナノファイバーに分岐部がないので、カーボンナノファイバーを複合材料に配合した際に、カーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下が減少したカーボンナノファイバーを得ることができる。
【0022】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、前記複数のカーボンナノファイバーは、最大繊維長が20μm未満であることができる。
【0023】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記複数のカーボンナノファイバー100本の内、10本未満であることができる。
【0024】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、前記複数のカーボンナノファイバーは、嵩密度が0.15〜0.3g/cmであることができる。
【0025】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、前記複数のカーボンナノファイバーが複数の板状のカーボンナノファイバー集合体に造粒されることができる。
【0026】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、前記圧縮処理は、少なくとも2本の回転するロール間に前記第1のカーボンナノファイバーを投入して、剪断力と圧縮力とによって行われることができる。
【0027】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、前記圧縮処理は、カーボンナノファイバー同士を結合するためのバインダーを用いないことができる。
【0028】
本発明にかかるカーボンナノファイバーの製造方法において、前記圧縮処理は、乾式圧縮造粒機で行われることができる。
【0029】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、本発明にかかるカーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る。
【0030】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、本発明に用いるカーボンナノファイバーの最大繊維長が20μm未満と短くかつ分岐部がないので、エラストマー中へのカーボンナノファイバーの分散性が向上し、柔軟性が向上した炭素繊維複合材料を製造することができる。また、本発明に用いるカーボンナノファイバーには分岐部がないので、炭素繊維複合材料中におけるカーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0031】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、本発明にかかるカーボンナノファイバー集合体を、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る。
【0032】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバー集合体を用いることで、カーボンナノファイバーを混合する時の取り扱い性が容易で、特にエラストマーに投入する際には、エラストマー中へカーボンナノファイバーが入り込み易いためカーボンナノファイバーの投入に要する時間を短縮することができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、本発明に用いるカーボンナノファイバー集合体におけるカーボンナノファイバーの最大繊維長が20μm未満と短くかつ分岐部がないので、エラストマー中へのカーボンナノファイバーの分散性が向上し、柔軟性が向上した炭素繊維複合材料を得ることができる。さらに、本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、本発明に用いるカーボンナノファイバー集合体におけるカーボンナノファイバーに分岐部がないので、炭素繊維複合材料中におけるカーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0033】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、
気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、
前記カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る第2の工程と、
を含み、
前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、
前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する。
【0034】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、エラストマーへのカーボンナノファイバーの分散性が向上し、柔軟性が向上した炭素繊維複合材料を得ることができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、炭素繊維複合材料中においてカーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0035】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、前記複数のカーボンナノファイバーは、最大繊維長が20μm未満であることができる。
【0036】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記複数のカーボンナノファイバー100本の内、10本未満であることができる。
【0037】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、前記複数のカーボンナノファイバーは、嵩密度が0.15〜0.3g/cmであることができる。
【0038】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、前記複数のカーボンナノファイバーが複数の板状のカーボンナノファイバー集合体に造粒されることができる。
【0039】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、前記圧縮処理は、少なくとも2本の回転するロール間に前記第1のカーボンナノファイバーを投入して、剪断力と圧縮力とによって行われることができる。
【0040】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、前記圧縮処理は、カーボンナノファイバー同士を結合するためのバインダーを用いないことができる。
【0041】
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、前記圧縮処理は、乾式圧縮造粒機で行われることができる。
【0042】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
本発明にかかる炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料であって、
エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散したカーボンナノファイバーと、を含み、
前記カーボンナノファイバーは、気相成長法によって製造され、かつ、分岐部を有していない。
【0043】
本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、エラストマーへのカーボンナノファイバーの分散性が向上し、柔軟性を向上することができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、カーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0044】
本発明にかかる炭素繊維複合材料は、
エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散した気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーと、を含む炭素繊維複合材料であって、
前記カーボンナノファイバーは、分岐部を有していない。
【0045】
本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、エラストマーへのカーボンナノファイバーの分散性が向上し、柔軟性を向上することができる。また、本発明にかかる炭素繊維複合材料によれば、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、カーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノ
ファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。
【0046】
本発明にかかる炭素繊維複合材料において、前記カーボンナノファイバーは、最大繊維長が20μm未満であることができる。
【0047】
本発明にかかる炭素繊維複合材料において、折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記炭素繊維複合材料に含まれるカーボンナノファイバー100本の内、10本未満であることができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本実施の形態にかかる第1のカーボンナノファイバーを模式的に示す図である。
【図2】本実施の形態にかかるカーボンナノファイバーの製造方法を模式的に示す斜視図である。
【図3】本実施の形態にかかるカーボンナノファイバーを模式的に示す図である。
【図4】本実施の形態にかかるカーボンナノファイバー集合体を50倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】本実施の形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【図6】実施例及び比較例に用いた第1のカーボンナノファイバー「CNT−N」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。
【図7】実施例及び比較例に用いた第1のカーボンナノファイバー「CNT−A」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。
【図8】実施例及び比較例に用いた第1のカーボンナノファイバー「CNT−O」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。
【図9】実施例及び比較例に用いたカーボンナノファイバー「CNT−NP」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。
【図10】実施例及び比較例に用いたカーボンナノファイバー「CNT−AP」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。
【図11】実施例及び比較例に用いたカーボンナノファイバー「CNT−OP」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。
【図12】実施例2〜4と比較例5〜7のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破断伸び(Eb(%))をグラフで示した。
【図13】実施例5〜7と比較例8〜10のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破断伸び(Eb(%))をグラフで示した。
【図14】実施例2〜4と比較例5〜7のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破壊エネルギー(H(KJ/m))をグラフで示した。
【図15】実施例5〜7と比較例8〜10のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破壊エネルギー(H(KJ/m))をグラフで示した。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0050】
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバーは、気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して得られたカーボンナノファイバーであって、最大繊維長が20μm未満であってかつ分岐部がない。
【0051】
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバー集合体は、最大繊維長が20μm未満であってかつ分岐部がないカーボンナノファイバーからなる。
【0052】
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバー集合体は、嵩密度が0.15〜0.3g/cmである。
【0053】
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバー集合体は、複数のカーボンナノファイバーが板状に造粒されてなる。
【0054】
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバーの製造方法は、気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る工程を有し、前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する。
【0055】
本発明の一実施形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、本発明の一実施形態にかかる前記カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る。
【0056】
本発明の一実施形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、本発明の一実施形態にかかる前記カーボンナノファイバー集合体を、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る。
【0057】
本発明の一実施形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、前記カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る第2の工程と、を含み、前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する。
【0058】
本発明の一実施形態にかかる炭素繊維複合材料は、本発明の一実施形態にかかる前記炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料であって、エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散したカーボンナノファイバーと、を含み、前記カーボンナノファイバーは、気相成長法によって製造され、かつ、分岐部を有していない。
【0059】
本発明の一実施形態にかかる炭素繊維複合材料は、エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散した気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーと、を含む炭素繊維複合材料であって、前記カーボンナノファイバーは、分岐部を有していない。
【0060】
(I)第1のカーボンナノファイバー
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバーの製造方法に用いられる、気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーについて説明する。図1は、本実施の形態にかかる第1のカーボンナノファイバーを模式的に示す図である。
【0061】
第1のカーボンナノファイバー60は、気相成長法によって製造され、図1の(A)に示すように長手方向に直線的であることが好ましいが、図1の(B)に示すように湾曲しているもの、図1の(C)に示すように折曲部62で折れ曲っているもの、図1の(D)に示すように分岐部64で複数(図では4本)に枝分かれしているものもある程度含まれる。複合材料に配合された第1のカーボンナノファイバー60は、図1(A)のように直線的である程、特に複合材料の柔軟性や耐久性を向上させることができると考えられるが、図1(C)、(D)に示すような第1のカーボンナノファイバー60は、折曲部62や分岐部64において応力集中が起きると考えられ、複合材料における補強材としての第1のカーボンナノファイバー本来の性能を減じる傾向があると考えられる。なお、折曲部62は、図1(C)に示すように明確に折れ曲っている箇所であって、図1(B)のように湾曲しているものは含まない。
【0062】
第1のカーボンナノファイバーの製造方法である気相成長法は、触媒気相合成法(Catalytic Chemical Vapor Deposition:CCVD)とも呼ばれ、炭化水素等のガスを金属系触媒の存在下で気相熱分解させて第1のカーボンナノファイバーを製造する方法である。より詳細に気相成長法を説明すると、例えば、ベンゼン、トルエン等の有機化合物を原料とし、フェロセン、ニッケルセン等の有機遷移金属化合物を金属系触媒として用い、これらをキャリアガスとともに高温例えば400℃〜1000℃の反応温度に設定された反応炉に導入し浮遊状態あるいは反応炉壁に第1のカーボンナノファイバーを生成させる浮遊流動反応法(Floating Reaction Method)や、あらかじめアルミナ、酸化マグネシウム等のセラミックス上に担持された金属含有粒子を炭素含有化合物と高温で接触させて第1のカーボンナノファイバーを基板上に生成させる触媒担持反応法(Substrate Reaction Method)等を用いることができる。図1(A)のように直線的な第1のカーボンナノファイバーを多く含むように製造する気相成長法は、例えば浮遊流動反応法によって縦型加熱炉の上部のスプレーノズルからフェロセンを含有するベンゼンの液体原料を水素ガスの流れに沿って散布するように供給することで第1のカーボンナノファイバーを生成成長させることで得ることができる。気相成長法で製造された第1のカーボンナノファイバーの平均直径は、平均直径が4nm〜250nmであることができ、20nm〜200nmが好適で、特には60nm〜150nmが好適である。第1のカーボンナノファイバーは、直径が4nm以上ではマトリックス樹脂に対する分散性が向上し、逆に230nm以下ではマトリックス樹脂の表面の平坦性が損なわれにくくなる傾向がある。第1のカーボンナノファイバーの平均直径が60nm以上では分散性及び表面の平坦性に優れており、150nm以下では少量の添加量でもカーボンナノファイバーの本数が増加することになるため例えば炭素繊維複合材料の性能を向上させることができ、したがって高価な第1のカーボンナノファイバーを節約することができる。本発明の詳細な説明においてカーボンナノファイバーの平均直径及び平均長さは、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノファイバーのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び平均長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。また、第1のカーボンナノファイバーのアスペクト比は50〜200であることができる。第1のカーボンナノファイバーは、圧縮処理されていないという意味で未処理の第1のカーボンナノファイバーである。
【0063】
このように気相成長法で製造された第1のカーボンナノファイバーは、不活性ガス雰囲気中において2000℃〜3200℃で熱処理することができる。この熱処理温度は、2500℃〜3200℃がさらに好ましく、特に2800℃〜3200℃が好ましい。熱処理温度が、2000℃以上であると、気相成長の際に第1のカーボンナノファイバーの表面に沈積したアモルファス状の堆積物や残留している触媒金属などの不純物が除去されるので好ましい。また、第1のカーボンナノファイバーの熱処理温度が、2500℃以上であると、第1のカーボンナノファイバーの骨格が黒鉛化(結晶化)し、第1のカーボンナノファイバーの欠陥が減少し強度が向上するため好ましい。なお、第1のカーボンナノファイバーの熱処理温度が、3200℃以下であれば、黒鉛が昇華することによる黒鉛骨格の破壊が発生しにくいため好ましい。このように黒鉛化した第1のカーボンナノファイバーは、圧縮処理されていないので未処理の第1のカーボンナノファイバーであって、黒鉛化によって優れた強度、熱伝導性、電気伝導性などを有している。
【0064】
また、気相成長法で製造された第1のカーボンナノファイバーの表面を黒鉛化することなく、低温熱処理例えば前記気相成長法における反応温度より高温であって、かつ、1100℃〜1600℃で熱処理することで、マトリックス材料例えばエラストマーとの表面反応性が向上した第1のカーボンナノファイバーとすることができる。この熱処理の温度は、1200℃〜1500℃であることができる。熱処理の温度が気相成長法の反応温度より高温であることで、第1のカーボンナノファイバーの表面構造を整え、表面の欠陥を減少させることができる。また、この熱処理温度を1100℃〜1600℃とすることで、黒鉛化した第1のカーボンナノファイバーに比べ、マトリックス材料との表面反応性が向上し、マトリックス材料中におけるカーボンナノファイバーの分散不良をより改善することができる。
【0065】
さらに、気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを酸化処理して表面を酸化してもよい。このときの第1のカーボンナノファイバーは、黒鉛化したものであってもよいし、低温熱処理したものであってもよい。第1のカーボンナノファイバーの表面が適度に酸化されていることによって、第1のカーボンナノファイバーと他の材料例えば複合材料におけるマトリックス材料との表面反応性が向上し、第1のカーボンナノファイバーとマトリックス材料との濡れ性が改善することができる。特に、黒鉛化された第1のカーボンナノファイバーの場合、比較的反応性の低い表面を適度に酸化させることによって、第1のカーボンナノファイバーとマトリックス材料との濡れ性を改善することができるため、分散性をさらに向上させることができる。
【0066】
第1のカーボンナノファイバーは、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層もしくは多層に巻いた構造を有する。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブ、気相成長炭素繊維または微細炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0067】
(II)カーボンナノファイバーの製造方法
本発明の一実施形態にかかるカーボンナノファイバーの製造方法は、気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る工程を有し、前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する。圧縮処理は、第1のカーボンナノファイバーを少なくとも分岐部から切断するための高い圧力が必要である。ここでは、カーボンナノファイバーの製造方法について、図2を用いて詳細に説明する。図2は、本実施の形態にかかるカーボンナノファイバーの製造方法を模式的に示す斜視図である。
【0068】
図2に示すように、圧縮処理は、図中の矢印方向に連続回転する複数例えば少なくとも2本のロール72,74間に原料である第1のカーボンナノファイバー60を投入して、剪断力と圧縮力とを第1のカーボンナノファイバーに加えることによって行う、例えばロールプレス機やローラーコンパクター(ロール式高圧圧縮成形機)のような乾式圧縮造粒機70を採用することができる。気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバー60を乾式圧縮造粒機70に投入して圧縮処理することで、複数のカーボンナノファイバー80を得ることができる。ロールプレス機は、通常ロール外周面にポケットを刻まない平滑ロールまたはポケットを刻んだロール等を使用するが、本実施の形態においては第1のカーボンナノファイバーに均等に圧縮力を加えるために平滑ロールを用いることができる。また、2本のロールの間隔は0mmすなわちロール同士が接触するように設定され、さらに2本のロール間には所定の圧縮力F例えば980〜2940N/cmを与えることができ、さらに1500〜2500N/cmを与えることが好ましい。圧縮力Fは、得られたカーボンナノファイバー集合体における分岐部の有無を電子顕微鏡などで確認しながら適当な圧力に設定することができる。980N/cm以上であれば分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを分岐部で切断することができる。このような圧縮処理は、カーボンナノファイバー全体の均質化のため、複数回例えば2回程度行うことができる。造粒機では、一般に粉体を結合するために水などのバインダーを配合することが多いが、本実施の形態における圧縮処理は、カーボンナノファイバー同士を結合するためのバインダーを用いない乾式造粒であることができる。バインダーを用いると、後工程でカーボンナノファイバーを分散させにくくする虞があり、バインダーを除去する工程がさらに必要になることがあるためである。
【0069】
なお、乾式圧縮造粒機70によって2本のロール間で圧縮して板状(フレーク)のカーボンナノファイバー80の集合体に成形した後、さらに粉砕機などで破砕し、所望の大きさに整粒したカーボンナノファイバー80の集合体をつくることができる。このときの粉砕機は、例えば回転刃を高速回転させてその剪断力によりカーボンナノファイバー80の集合体を破砕し、スクリーンを用いて適当なサイズ以下のカーボンナノファイバー80の集合体だけを通して整粒を行うことができる。圧縮処理だけではカーボンナノファイバー80の集合体の大きさにばらつきが大きいが、このようにさらに破砕することでカーボンナノファイバー80の集合体の粒径が適度な大きさに整えられるため、マトリックス材料と混練した時のカーボンナノファイバーの集合体の偏りを防ぐことができる。
【0070】
この圧縮処理によってカーボンナノファイバーが分岐部で切断され、ふわりとしない所望の嵩密度になって取り扱いが容易になり、例えば板状のカーボンナノファイバー集合体に造粒されることができる。
【0071】
(III)カーボンナノファイバー
圧縮処理することによって得られたカーボンナノファイバーについて図3及び図4を用いて詳細に説明する。図3は、本実施の形態にかかるカーボンナノファイバーを模式的に示す図である。図4は、本実施の形態にかかるカーボンナノファイバー集合体の走査型電子顕微鏡の写真である。
【0072】
図3に示すように、圧縮処理によって、図の左上側に示した分岐部64を有する第1のカーボンナノファイバー60が分岐部64から切断され、図の右下側に示したように例えば4本のカーボンナノファイバー80が得られる。したがって、一実施形態にかかるカーボンナノファイバー80は、電子顕微鏡で観察しても分岐部64がない。このように分岐部が無いカーボンナノファイバーは、他の材料と混合したときにも複合材料中のカーボンナノファイバーの分散性を向上させることができ、また、複合材料の柔軟性や耐久性を向上させることができる。さらに、カーボンナノファイバーに分岐部がないので、複合材料に配合した際に、カーボンナノファイバーの分岐部への応力集中がなく、カーボンナノファイバーの補強材としての性能低下を減少することができる。図1(C)で示したような折曲部62を有する第1のカーボンナノファイバーの一部も折曲部62から切断されるため、折曲部62や分岐部64のようないわゆる欠陥部分を有するカーボンナノファイバーを減少させることができる。圧縮処理によって得られたカーボンナノファイバー80の内、折曲部62を有するカーボンナノファイバーを含む割合が100本中10本未満であることができる。折曲部62を有するカーボンナノファイバーを含む割合が100本中10本以上であると、圧縮処理によって十分に欠陥部分を除去できていない可能性がある。このように折曲部62や分岐部64のような欠陥部分が減少した複数のカーボンナノファイバー80は、最大繊維長が20μm未満であることができる。近年、市場の要求としてカーボンナノファイバーの最大繊維長が20μm未満、さらに15μm未満であることが好ましいとされることがある。例えば、カーボンナノファイバーの最大繊維長を20μm未満とすることで、カーボンナノファイバーを配合した複合材料の柔軟性を向上することができる。複数のカーボンナノファイバー80は、嵩密度が0.15〜0.3g/cmであることができる。嵩密度が0.15〜0.3g/cmであればカーボンナノファイバー80が飛散しにくく保管時、運搬時または配合時における扱いが容易になってハンドリング性も良好で、エラストマーなどのマトリックス材料へも入り易くなるためカーボンナノファイバーの投入に要する時間を短縮することができる。なお、本願における嵩密度は、JIS−K6219−2ゴム用カーボンブラック−造粒粒子の測定−第2部かさ密度の測定にしたがって、1000cmの円筒容器にカーボンナノファイバーを注ぎ落としてその質量を測定し、嵩密度(g/cm)を計算して得られたものとする。
【0073】
図4は、粉砕機で整粒したカーボンナノファイバーの集合体82を50倍で撮影した走査型電子顕微鏡の写真である。図4に示すように、圧縮処理によって得られた複数のカーボンナノファイバー80は、複数のカーボンナノファイバーが寄り集まって板状の塊となった複数の板状のカーボンナノファイバー集合体82に造粒されることができる。このように板状の塊になってカーボンナノファイバー80を取り扱うことができるので、保管時、運搬時または配合時における取り扱い性を向上することができ、エラストマーなどのマトリックス材料へも入り易くなるためカーボンナノファイバーの投入に要する時間を短縮することができる。
【0074】
(IV)炭素繊維複合材料の製造方法
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法は、複数のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、前記カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る第2の工程と、を含む。第1の工程については、前記(II)で説明したので省略する。また、第1の工程で得られたカーボンナノファイバーは、前記(III)で説明したカーボンナノファイバーであって、カーボンナノファイバー集合体を用いることができる。第2の工程について図5を用いて詳細に説明する。
【0075】
図5は、本実施の形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核がHで測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜3000μ秒であることができる。図5に示すように、2本ロールのオープンロール2における第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.5mmの間隔で配置され、図5において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。まず、図5(a)に示すように、第1のロール10に巻き付けられたエラストマー30の素練りを行ない、エラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。素練りによって生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0076】
次に、図5(b)にしめすように、第1のロール10に巻き付けられたエラストマー30のバンク34に、カーボンナノファイバー80を投入し、混練する。エラストマー30とカーボンナノファイバー80とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0077】
さらに、図5cにしめすように、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、例えば0.5mm以下、より好ましくは0〜0.5mmの間隔に設定し、混合物36をオープンロール2に投入して薄通しを1回〜複数回行なう。薄通しの回数は、例えば1回〜10回程度行なうことができる。第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。このように狭いロール間から押し出された炭素繊維複合材料50は、エラストマー30の弾性による復元力で図5(c)のように大きく変形し、その際にエラストマー30と共にカーボンナノファイバー80が大きく移動する。薄通しして得られた炭素繊維複合材料50は、ロールで圧延されて所定厚さのシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の比較的低い温度に設定して行われ、エラストマー30の実測温度も0〜50℃に調整されることができる。このようにして得られた剪断力により、エラストマー30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー80がエラストマー分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、エラストマー30中に分散される。特に、エラストマー30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー80との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー80を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー80の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料50を得ることができる。
【0078】
より具体的には、オープンロールでエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。カーボンナノファイバーの表面が例えば酸化処理によって適度に活性が高いと、特にエラストマー分子と結合し易く好ましい。次に、エラストマーに強い剪断力が作用すると、エラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散されることになる。本実施の形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、エラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、エラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0079】
エラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0080】
炭素繊維複合材料の製造方法は、薄通し後の分出しされた炭素繊維複合材料に架橋剤を混合し、架橋して架橋体の炭素繊維複合材料としてもよい。また、炭素繊維複合材料は、架橋させずに成形してもよい。炭素繊維複合材料は、オープンロール法によって得られたシート状のままでもよいし、第2の工程で得られた炭素繊維複合材料を一般に採用されるゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって所望の形状例えばシート状に成形してもよい。
【0081】
本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法において、通常、エラストマーの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にエラストマーに投入することができる。
【0082】
なお、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料の製造方法においては、ゴム弾性を有した状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、エラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させる。エラストマーは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるエラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核がHで測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100〜3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のエラストマーを素練りしてエラストマーの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のエラストマーを得る。なお、素練り後の液体状のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のエラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることができる。この素練りは、エラストマーが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってエラストマーの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、例えば液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.5mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のエラストマーにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、エラストマーは液体状で弾性が著しく低下しているため、エラストマーのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0083】
そこで、液体状のエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合して得られた混合物中におけるエラストマーの分子量を増大させ、エラストマーの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをエラストマー中に均一に分散させる。エラストマーの分子量が増大した混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃、観測核がHで測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下のゴム状弾性体である。また、エラストマーの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料エラストマーの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることができる。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、エラストマーの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。エラストマーの分子量を増大させる工程は、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることができる。このような加熱処理によって、混合物中に存在するエラストマーのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、エラストマーの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってエラストマーの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0084】
ここで説明した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にエラストマーの粘性を低下させることで、エラストマー中にカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した製造方法のように分子量が大きいエラストマーにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のエラストマーを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙に侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、エラストマーが分子切断されることで大量に生成されたエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーとより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した製造方法によれば、先の製造方法よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。
【0085】
なお、炭素繊維複合材料の製造方法は、前記(III)で説明したカーボンナノファイバーもしくはカーボンナノファイバー集合体を前記第2の工程に用いることができ、第1の工程が前記(II)で説明したカーボンナノファイバーの製造方法に限定されるものではない。
【0086】
(V)炭素繊維複合材料
次に、炭素繊維複合材料について説明する。
炭素繊維複合材料は、エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散した気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーと、を含む。カーボンナノファイバーは、分岐部が無く、折曲部も第1のカーボンナノファイバーに比べて減少しているので、炭素繊維複合材料の柔軟性が改善される。
【0087】
炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃、観測核がHで測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100〜3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)は0〜0.2であることができる。
【0088】
炭素繊維複合材料の150℃で測定したT2n及びfnnは、マトリックスであるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されていることを表すことができる。つまり、エラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されているということは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、炭素繊維複合材料の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなり、特にカーボンナノファイバーが均一に分散することでより短くなる。
【0089】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。したがって、炭素繊維複合材料は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が上記の範囲にあることによってカーボンナノファイバーが均一に分散されていることがわかる。
【0090】
また、カーボンナノファイバーの周囲には、エラストマーの一部が混練中に分子鎖切断され、それによって生成されたフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面をアタックして吸着したエラストマー分子の凝集体と考えられる界面相が形成される。界面相は、例えばエラストマーとカーボンブラックとを混練した際にカーボンブラックの周囲に形成されるバウンドラバーに類似するものと考えられる。このような界面相は、カーボンナノファイバーを被覆して保護し、また、カーボンナノファイバーを所定量以上配合することで界面相同士が連鎖した界面相に囲まれてナノメートルサイズに分割されたエラストマーの小さなセルを形成すると推定される。このような小さなセルが炭素繊維複合材料の全体にほぼ均質に形成されることで、単に2つの材料を複合したことによる効果を超えた効果を期待することができる。
【実施例】
【0091】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0092】
(1)第1のカーボンナノファイバーの作成
(1−1)縦型加熱炉(内径17.0cm、長さ150cm)の頂部に、スプレーノズルを取り付ける。加熱炉の炉内壁温度(反応温度)を1000℃に昇温・維持し、スプレーノズルから4重量%のフェロセンを含有するベンゼンの液体原料20g/分を100L/分の水素ガスの流量で炉壁に直接噴霧(スプレー)散布するように供給する。この時のスプレーの形状は円錐側面状(ラッパ状ないし傘状)であり、ノズルの頂角が60°である。このような条件の下で、フェロセンは熱分解して鉄微粒子を作り、これがシード(種)となってベンゼンの熱分解による炭素から、第1のカーボンナノファイバーを生成成長させた。本方法で成長した第1のカーボンナノファイバーを5分間隔で掻き落としながら1時間にわたって連続的に製造した。
【0093】
このように気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを、さらに不活性ガス雰囲気中において2800℃で熱処理して黒鉛化した。黒鉛化した第1の(未処理)カーボンナノファイバー(表1では「CNT−N」と示す)は、平均直径87nm、平均長さ9.1μm、表面の酸素濃度2.1atm%であった。
【0094】
また、気相成長法によって製造された第1のカーボンナノファイバーを、さらに不活性ガス雰囲気中において1200℃で熱処理して第1のカーボンナノファイバー(表1では「CNT−A」と示す)を得た。この低温熱処理した第1の(未処理)カーボンナノファイバー(CNT−A)は、黒鉛化した第1のカーボンナノファイバーと同様の平均直径及び平均長さであった。
【0095】
黒鉛化した第1のカーボンナノファイバー(CNT−N)120gを容器(寸法は300mm×300mm×150mm)に入れ、50ml/minで大気雰囲気を連続流入した加熱炉(寸法は700mm×350mm×900mm)に入れ、650℃と1.5時間で加熱炉内で保持して熱処理することで酸化処理を行って酸化処理した第1のカーボンナノファイバー(表1では「CNT−O」と示す)を得た。酸化処理した第1のカーボンナノファイバー(CNT−O)は、平均直径87nm、平均長さ9.4μm、表面の酸素濃度2.7atm%であった。なお、第1のカーボンナノファイバーの表面の酸素濃度は、XPS(X線光電子分光分析法(X−ray Photoelectron Spectroscopy))を用いて測定した。XPS装置は、日本電子社製の「マイクロ分析用X線光電子分光装置JPS−9200(以下、XPS装置)を用いた。
【0096】
第1のカーボンナノファイバー(CNT−N,CNT−A,CNT−O)の嵩密度(g/cm)及び繊維長(μm)を測定し、欠陥を有する割合(%)と共に、飛散性について評価した。結果は、表1に示した。繊維長及び欠陥を有する割合は、第1のカーボンナノファイバーを走査型電子顕微鏡(SEM)で5000倍にて40視野本撮影し、各視野毎に50本ずつ合計200本の繊維について、繊維長及び欠陥を有する繊維の本数を計測して求めた。欠陥は、分岐部と折曲部を有する繊維の本数をそれぞれ数え、欠陥(分岐部と折曲部)の割合は、各欠陥を有する繊維の本数が200本中に含まれる割合(%)を計算した。また、最大繊維長が20μm以上ある第1のカーボンナノファイバーの割合(表1には「20μm以上の割合」と示した)を計算した。図6は第1のカーボンナノファイバー「CNT−N」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。図7は第1のカーボンナノファイバー「CNT−A」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。図8は第1のカーボンナノファイバー「CNT−O」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。飛散性については、「飛散しない」、「飛散しにくい」、「飛散しやすい」、「飛散がひどい」の4段階で評価した。
【0097】
【表1】

【0098】
(2)カーボンナノファイバーの作製
(1)で得られた第1のカーボンナノファイバー(CNT−N,CNT−A,CNT−O)を、2本のロール間に圧縮力(980N/cm〜2940N/cm)を加えることができるスプリング式の加圧機構を有する乾式圧縮造粒機に投入し、それぞれ2回の圧縮処理を行い、3種類のカーボンナノファイバー(CNT−NP,CNT−AP,CNT−OP)を得た。
【0099】
乾式圧縮造粒機は2本ロールのロールプレス機(ロール径は150mm、ロールは平滑ロール、ロール間隔は0mm、ロール間の設定圧縮力(線圧)は1960N/cm、ギア比1:1.3、ロール回転数3rpm)であった。
カーボンナノファイバーは、直径が約2〜3cmの板状の塊(カーボンナノファイバー集合体)に造粒された。その造粒された板状の塊をさらに、8枚の回転刃を有する破砕造粒整粒機(回転数15rpm、スクリーン5mm)を通して破砕し、粒径を整えた。第1のカーボンナノファイバーと同様にして、カーボンナノファイバー(CNT−NP,CNT−AP,CNT−OP)の嵩密度(g/cm)及び繊維長を測定し、欠陥を有する割合(%)と共に、飛散性について評価した。結果は、表2に示した。なお、表2において圧縮処理したカーボンナノファイバーは、第1のカーボンナノファイバーと区別するためにそれぞれ元の第1のカーボンナノファイバーの略称の後ろに「P」を付記した。図9はカーボンナノファイバー「CNT−NP」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。図10はカーボンナノファイバー「CNT−AP」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。図11はカーボンナノファイバー「CNT−OP」を5000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真の40視野本の内の1視野本である。なお、カーボンナノファイバーの繊維径は第1のカーボンナノファイバーと変わらなかった。
【0100】
【表2】

【0101】
表1,2に示すように、本発明のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する繊維の割合が0%、嵩密度(JIS−K6219−2に従って測定した)が0.2g/cm、最大繊維長が20μm未満、折曲部を有する繊維の割合が8%未満であり、飛散しなかったので第1のカーボンナノファイバーに比べてハンドリング性に優れ、取り扱い易かった。
【0102】
(3)実施例1〜7及び比較例1〜10の炭素繊維複合材料サンプルの作製
実施例1〜7及び比較例1〜10サンプルとして、オープンロール(ロール設定温度20℃)に、表3,4に示す所定量のマトリックス材料としてのEPDM(エチレン−プロピレンゴム)を投入し素練り後、(1)で得られた3種類の第1のカーボンナノファイバーまたは(2)で得られた3種類のカーボンナノファイバーをEPDMに投入し混練りの後、第1の混練工程を行いロールから取り出した。さらに、その混合物をロール温度100℃に設定されたオープンロールに再度投入し、第2の混練工程を行って取り出した。次に、この混合物をオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔0.3mm)に巻きつけ、薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた炭素繊維複合材料を投入し、分出しした。分出ししたシートを90℃、5分間圧縮成形して厚さ1mmの実施例1〜7及び比較例1〜10の無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを得た。また、薄通しして得られた炭素繊維複合材料に架橋剤としてパーオキサイド2質量部を加えて分出ししたシートを175℃、20分間圧縮成形して厚さ1mmの実施例1〜7及び比較例1〜10のシート状の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルを得た。なお、比較例1は、第1のカーボンナノファイバーを配合しなかったが、同様の混練工程を行った。
【0103】
表3及び表4において、「EPDM」はJSR社製のエチレン−プロピレンゴムの商品名EP103AFであった。
【0104】
(4)パルス法NMRを用いた測定
実施例1〜7及び比較例1〜10の各無架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は、150℃であった。この測定によって、各サンプルについて第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)と第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)とを求めた。測定結果を表2〜4に示した。なお、同様に測定した原料ゴムの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)は、「EPDM」が520μsecであった。なお、実施例3,4及び比較例6,7の炭素繊維複合材料サンプルについては、測定不能だった。
【0105】
(5)硬度(Hs)、100%モジュラス(M100)、引張強さ(Tb)、破断伸び(Eb)及び破壊エネルギー(H)の測定
実施例1〜7及び比較例1〜10の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS−A))をJIS K 6253に基づいて測定した。実施例1〜7及び比較例1〜10の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルをJIS6号形のダンベル形状に切り出した試験片について、東洋精機社製の引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い引張強さ(Tb(MPa))、破断伸び(Eb(%))及び100%応力(M100)を測定した。実施例1〜7及び比較例1〜10の架橋体の炭素繊維複合材料サンプルについて、前記引張試験で得られた応力−ひずみ曲線の面積を求め、試験片の断面積で除して破壊エネルギー(H(KJ/m))を測定した。測定結果を表3,4に示した。また、図12は実施例2〜4と比較例5〜7のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破断伸び(Eb(%))をグラフで示し、図13は実施例5〜7と比較例8〜10のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破断伸び(Eb(%))をグラフで示し、図14は実施例2〜4と比較例5〜7のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破壊エネルギー(H(KJ/m))をグラフで示し、図15は実施例5〜7と比較例8〜10のカーボンナノファイバーの充填率(phr)−破壊エネルギー(H(KJ/m))をグラフで示した。
【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
表3,4及び図12〜15の結果からも明らかなように、本発明の実施例1〜7によれば、圧縮処理されたカーボンナノファイバーを用いた架橋体の炭素繊維複合材料サンプルは、比較例1〜10に比べて破断伸び(Eb)及び破壊エネルギー(H)が同じカーボンナノファイバーの配合量において高く、柔軟性と耐久性が向上した。
【符号の説明】
【0109】
2 オープンロール
10 第1のロール
20 第2のロール
30 エラストマー
60 第1のカーボンナノファイバー
62 折曲部
64 分岐部
70 乾式圧縮造粒機
72、74 ロール
80 カーボンナノファイバー
82 カーボンナノファイバー集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して得られたカーボンナノファイバーであって、最大繊維長が20μm未満であってかつ分岐部がない、カーボンナノファイバー。
【請求項2】
請求項1において、
折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記カーボンナノファイバー100本の内、10本未満である、カーボンナノファイバー。
【請求項3】
請求項1または2において、
嵩密度が0.15〜0.3g/cmである、カーボンナノファイバー。
【請求項4】
最大繊維長が20μm未満であってかつ分岐部がないカーボンナノファイバーからなる、カーボンナノファイバー集合体。
【請求項5】
請求項4において、
折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記カーボンナノファイバー100本の内、10本未満である、カーボンナノファイバー集合体。
【請求項6】
請求項4または5において、
嵩密度が0.15〜0.3g/cmである、カーボンナノファイバー集合体。
【請求項7】
請求項4ないし6のいずれかにおいて、
複数のカーボンナノファイバーが板状に造粒されてなる、カーボンナノファイバー集合体。
【請求項8】
嵩密度が0.15〜0.3g/cmである、カーボンナノファイバー集合体。
【請求項9】
複数のカーボンナノファイバーが板状に造粒されてなる、カーボンナノファイバー集合体。
【請求項10】
気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る工程を有し、
前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、
前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記複数のカーボンナノファイバーは、最大繊維長が20μm未満である、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項12】
請求項10または11において、
折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記複数のカーボンナノファイバー100本の内、10本未満である、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれかにおいて、
前記複数のカーボンナノファイバーは、嵩密度が0.15〜0.3g/cmである、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項14】
請求項10ないし13のいずれかにおいて、
前記複数のカーボンナノファイバーが複数の板状のカーボンナノファイバー集合体に造粒される、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項15】
請求項10ないし14のいずれかにおいて、
前記圧縮処理は、少なくとも2本の回転するロール間に前記第1のカーボンナノファイバーを投入して、剪断力と圧縮力とによって行われる、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項16】
請求項10ないし15のいずれかにおいて、
前記圧縮処理は、カーボンナノファイバー同士を結合するためのバインダーを用いない、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項17】
請求項10ないし16のいずれかにおいて、
前記圧縮処理は、乾式圧縮造粒機で行われる、カーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項18】
請求項1ないし3のいずれかの前記カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項19】
請求項4ないし9のいずれかの前記カーボンナノファイバー集合体を、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項20】
気相成長法によって製造された複数の第1のカーボンナノファイバーを圧縮処理して複数のカーボンナノファイバーを得る第1の工程と、
前記カーボンナノファイバーを、エラストマーに混合し、かつ、剪断力で該エラストマー中に均一に分散して炭素繊維複合材料を得る第2の工程と、
を含み、
前記複数の第1のカーボンナノファイバーは、分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを含み、
前記圧縮処理によって前記分岐部を有する第1のカーボンナノファイバーを該分岐部から切断する、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項21】
請求項20において、
前記複数のカーボンナノファイバーは、最大繊維長が20μm未満である、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項22】
請求項20または21において、
折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記複数のカーボンナノファイバー100本の内、10本未満である、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項23】
請求項20ないし22のいずれかにおいて、
前記複数のカーボンナノファイバーは、嵩密度が0.15〜0.3g/cmである、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項24】
請求項20ないし23のいずれかにおいて、
前記複数のカーボンナノファイバーが複数の板状のカーボンナノファイバー集合体に造粒される、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項25】
請求項20ないし24のいずれかにおいて、
前記圧縮処理は、少なくとも2本の回転するロール間に前記第1のカーボンナノファイバーを投入して、剪断力と圧縮力とによって行われる、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項26】
請求項20ないし25のいずれかにおいて、
前記圧縮処理は、カーボンナノファイバー同士を結合するためのバインダーを用いない、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項27】
請求項20ないし26のいずれかにおいて、
前記圧縮処理は、乾式圧縮造粒機で行われる、炭素繊維複合材料の製造方法。
【請求項28】
請求項20ないし27のいずれかの炭素繊維複合材料の製造方法によって得られた炭素繊維複合材料であって、
エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散したカーボンナノファイバーと、を含み、
前記カーボンナノファイバーは、気相成長法によって製造され、かつ、分岐部を有していない、炭素繊維複合材料。
【請求項29】
エラストマーと、該エラストマー中に均一に分散した気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーと、を含む炭素繊維複合材料であって、
前記カーボンナノファイバーは、分岐部を有していない、炭素繊維複合材料。
【請求項30】
請求項29において、
前記カーボンナノファイバーは、最大繊維長が20μm未満である、炭素繊維複合材料。
【請求項31】
請求項29または30において、
折曲部を有するカーボンナノファイバーを含む割合は、前記炭素繊維複合材料に含まれるカーボンナノファイバー100本の内、10本未満である、炭素繊維複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−84844(P2011−84844A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239053(P2009−239053)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(504469776)MEFS株式会社 (13)
【Fターム(参考)】