説明

カーボンナノホーン集合体、その製造方法及び燃料電池用触媒

【課題】触媒粒子の凝集を抑制してカーボンナノホーンの表面に高い分散状態で担持させることができるカーボンナノホーン集合体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】直径0.7nmを超える物質を通過させない孔3であって該孔を構成する炭素原子2のうち隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dが0.24nm以上0.70nm以下の孔3を表面に有する多数のカーボンナノホーン1からなるカーボンナノホーン集合体によって、上記課題を解決する。こうしたカーボンナノホーン集合体は、過酸化水素水中で50℃から80℃の温度範囲で加熱することにより製造できる。このカーボンナノホーン集合体に燃料電池用として好ましい触媒粒子を担持すれば、触媒粒子の粒径を3nm以下と微細化でき、触媒能に優れた燃料電池用触媒とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノホーン集合体、その製造方法及び燃料電池用触媒に関し、さらに詳しくは、触媒粒子の凝集を抑制でき、高分散状態で高い担持率を実現できるカーボンナノホーン集合体、その製造方法及び燃料電池用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、触媒担体、吸着剤、分離剤、インク、トナー等として利用されているが、近年では、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等のナノサイズの大きさからなるナノ炭素材の出現で、その構造体としての特徴が注目されている。特に特異な構造を持つカーボンナノチューブとカーボンナノホーンは、工業用の触媒担体として注目され、最近では燃料電池用の触媒粒子や水素製造における水蒸気改質用の触媒粒子の担体として利用されており、最適な触媒担体の一つとして報告されている。
【0003】
例えば上記用途において、カーボンナノチューブやカーボンナノホーン等の触媒担体に担持してなる触媒粒子の性能や物性は、単にカーボンナノチューブやカーボンナノホーン等の触媒担体の物性に依存するだけではなく、担持した触媒粒子の平均粒子径や分布等にも依存することが知られている。また、触媒担体の水溶性、吸着サイト、比表面積等も、触媒粒子が担持するプロセスや触媒性能を左右する主要な要素である。触媒能は、基本的には触媒の比表面積に依存するが、そうした比表面積は触媒粒子のサイズに依存する。触媒粒子のサイズが小さいほど触媒の比表面積が大きくなって触媒能が向上するため、触媒効率という観点では、触媒粒子の微粒子化がもっとも大きな課題である
【0004】
また、触媒は、触媒担体に触媒粒子を担持した後にアニール等によって活性化又は安定化して使用されることが一般的である。しかし、それらのプロセスにおいて触媒粒子が凝集して粗大化することにより、触媒能が低下することが知られており、触媒粒子径の粗大化も課題のひとつである。
【0005】
また、触媒担体上の触媒粒子が動きやすいときには、使用中に触媒粒子が凝集することによる粒子径の粗大化も発生し、長期間の使用により触媒特性が低下することがある。こうしたことは、燃料電池用触媒や水蒸気改質用触媒等の耐久性における実用上の問題でもあった。
【0006】
なお、カーボンナノホーン集合体を触媒担体とする関連技術として、例えば下記特許文献1には、単層カーボンナノホーンが球状に集合してなる単層カーボンナノホーン集合体を触媒担体として用いることにより、触媒物質が高度な分散状態で担持させることができ、その結果、触媒利用効率を高めることができる、と提案されている。また、下記特許文献2には、カーボンナノホーン集合体を機械的に混合してその表面に微細孔を形成することにより、カーボンナノホーンの内部にも触媒を担持させて触媒の担持量を増して触媒能を高めることができる、と提案されている。なお、下記特許文献3に記載のカーボンナノホーン吸着材は、カーボンナノホーンを分子ふるいとしたものであるが、このカーボンナノホーン吸着材は、カーボンナノホーンの壁部を開口し、その開口部からカーボンナノホーンの内部に被吸着物質をより多く取り込むことによって分子ふるいとして機能させたものである。
【特許文献1】再表2002−075831号公報
【特許文献2】再表2004−108275号公報
【特許文献3】特開2002−326032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記関連技術のように、触媒粒子の分散性を高めて触媒粒子の利用効率を高めることが提案されているが、例えば特許文献2や特許文献3のようにカーボンナノホーンの内部に触媒粒子等の被吸着物質を担持させると、却って触媒能が低下することがある。例えばコロイド法で使用される約0.8nm超のイオン径の塩化白金酸イオンをカーボンナノホーンの内部に導入して触媒粒子として担持させると、より多くの触媒粒子をカーボンナノホーンの表面に高い分散状態で担持させることができないために却って触媒能が低下することがある。
【0008】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、触媒粒子の凝集を抑制してカーボンナノホーンの表面に高い分散状態で担持させることができるカーボンナノホーン集合体を製造する方法を提供することにある。また、本発明の第2の目的は、高い触媒能を有するカーボンナノホーン集合体を提供することにある。また、本発明の第3の目的は、そうしたカーボンナノホーン集合体を用いてなる燃料電池用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の目的を達成する本発明のカーボンナノホーン集合体の製造方法は、多数のカーボンナノホーンからなるカーボンナノホーン集合体を過酸化水素水中で50℃から80℃の温度範囲で加熱することにより、前記カーボンナノホーンの表面に直径0.7nmを超える物質を通過させない孔を開けることを特徴とする。
【0010】
本発明のカーボンナノホーン集合体の製造方法において、前記孔を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子間の最短距離が0.24nm以上0.70nm以下であるように構成する。
【0011】
上記第2の目的を達成する本発明のカーボンナノホーン集合体は、直径0.7nmを超える物質を通過させない孔であって該孔を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子間の最短距離が0.24nm以上0.70nm以下の孔を表面に有する多数のカーボンナノホーンからなることを特徴とする。
【0012】
本発明のカーボンナノホーン集合体において、前記孔の大きさの範囲が、BET比表面積測定と、C60フラーレンの導入測定とにより特定されるように構成する。
【0013】
上記第3の目的を達成する本発明の燃料電池用触媒は、カーボンナノホーンからなるカーボンナノホーン集合体に触媒粒子が担持してなる燃料電池用触媒において、前記カーボンナノホーン集合体は、直径0.7nmを超える物質を通過させない孔であって該孔を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子間の最短距離が0.24nm以上0.70nm以下の孔を表面に有する多数のカーボンナノホーンからなり、前記カーボンナノホーン集合体に担持した後の触媒金属の粒径が3nm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の燃料電池用触媒において、前記触媒粒子を、前記カーボンナノホーン集合体に対する重量比で50%以上担持しているように構成する。
【0015】
本発明の燃料電池用触媒において、前記触媒粒子が、Au、Pt、Pd、Ag、Cu、Fe、Ru、Ni、Sn、Co及びランタノイド元素から選ばれる1種又は2種以上の金属、その金属錯体及びその酸化物乃至化合物であるように構成する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のカーボンナノホーン集合体の製造方法によれば、上記した孔が開いたカーボンナノホーンからなるカーボンナノホーン集合体を極めて容易な手段で製造できる。この方法で製造されたカーボンナノホーンは、その孔の内部に金属、金属錯体及び酸化物等の被吸着物質を導入することなくその孔の表面にナノサイズの被吸着物質(金属、金属錯体及び酸化物等)を局部的に吸着させるので、被吸着物質の凝集を抑制して微細化でき、その結果として高い分散状態で被吸着物質を担持させることができる。特に燃料電池用触媒の優れた触媒担体として用いることができ、燃料電池用のナノサイズの触媒粒子を被吸着物質としてカーボンナノホーンに吸着させれば、触媒能の高い燃料電池用触媒とすることができる。
【0017】
本発明のカーボンナノホーン集合体によれば、上記した所定の大きさからなる孔の内部に金属、金属錯体及び酸化物等の被吸着物質を導入することなくその孔の表面にナノサイズの被吸着物質(金属、金属錯体及び酸化物等)を局部的に吸着できるので、被吸着物質の凝集を抑制して微細化でき、その結果として高い分散状態で被吸着物質を担持させることができる。特に燃料電池用触媒の優れた触媒担体として用いることができ、燃料電池用のナノサイズの触媒粒子を被吸着物質としてカーボンナノホーンに吸着させれば、反応性の高い燃料電池用触媒とすることができる。また、凝集化が起こりやすい担持率の高い触媒粒子を用いる場合においても、その孔の官能基に触媒が吸着して担持されるために、触媒粒子の凝集化を抑制することができ、触媒粒子を微粒子化できる。また、こうした効果は、触媒を長期使用した際に生じる触媒粒子の凝集粗大化の問題も改善でき、燃料電池用触媒の触媒担体として最適である。
【0018】
また、本発明のカーボンナノホーン集合体は、例えば燃料電池用触媒として好ましく用いられる、約0.8nm超のイオン径の塩化白金酸イオンを、カーボンナノホーンの内部に導入するのを妨げることができ、カーボンナノホーンの表面に高い分散状態で担持させることができる。その結果、高い触媒能を有するカーボンナノホーン集合体となる。
【0019】
本発明の燃料電池用触媒によれば、上記本発明のカーボンナノホーン集合体に、凝集が抑制された触媒粒子が高い分散状態で担持しているので、触媒能の高い燃料電池用触媒となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明のカーボンナノホーン集合体、その製造方法及び燃料電池用触媒について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0021】
(カーボンナノホーン集合体及びその製造方法)
図1は、本発明に係るカーボンナノホーン集合体を構成するカーボンナノホーンの一例を示す模式的な構造図である。カーボンナノホーン1は、図1に示すように、カーボンナノチューブのようにチューブ径が一定ではなく、チューブ径が連続的に増加する中空円錐状の、つまり角(ホーン)状の構造からなるものである。具体的には、カーボンナノチューブの先端が円錐状に閉じた態様を呈し、ダリアの花に似た形状を持つものや、つぼみ状、たね状のものも存在する。円筒状のカーボンナノチューブの表面は通常6員環のグラファイト構造で覆われているが、この6員環の中に5員環や7員環が混じるとチューブの径が狭くなったり、あるいは広がったりすることが知られている。したがって、本発明に係る円錐状のカーボンナノホーン1は、ホーンの径が連続的に変化するため、円筒状のカーボンナノチューブに比べて表面のグラファイト構造が不規則となり、6員環の他に、5員環や7員環も混ざっている。なお、このカーボンナノホーン1は、単層でも多層でもよい。
【0022】
カーボンナノホーン集合体を構成する各カーボンナノホーン1は、チューブの直径が2nm程度、代表的な長さは30nm以上50nm以下であり、円錐部は軸断面の傾角が平均20°程度である。また、カーボンナノホーン1は、先端となる一端が閉じているものでもよいし、閉じていないものでもよい。また、その一端の円錐形状の頂点が丸まった形状で終端していてもよい。カーボンナノホーン1が、その一端の円錐形状の頂点が丸まった形状で終端している場合、頂点が丸まった部分を外側に向けて放射状に集合している。また、カーボンナノホーン1の構造の一部が不完全であり、微細孔を有するものでもよい。さらに、カーボンナノホーン集合体は、カーボンナノチューブを含むことができる。
【0023】
こうしたカーボンナノホーン集合体の製造方法は特に限定されず各種の手段で製造することが可能であるが、通常は、1.01325×10Paの不活性ガス雰囲気中で、グラファイト等の固体状炭素単体物質をターゲットとするレーザーアブレーション法によって製造することができる。
【0024】
なお、カーボンナノホーン1が疎水性である場合には、酸化性の酸により酸化処理を行うことによって官能基を導入し、水溶液等の水性溶媒に分散又は溶解しやすくすることができる。酸化性の酸としては、硫酸、硝酸、硫酸−硝酸混合溶液、過酸化水素、塩素酸等が挙げられる。これらの酸による酸化処理は液相中で行われ、水溶液系であれば0℃〜180℃程度(水溶液が液体として存在する温度であればよい)、有機溶媒系であれば使用する溶媒が液体として存在する温度中において行われる。そうすることにより、ナノホーンの先端などグラファイト面がまがっているところにある5員環や7員環やその他反応性の高い炭素部位にカルボニル基、カルボキシル基、水酸基、エーテル基、イミノ基、ニトロ基及びスルホン基等の親水性の官能基を付加することができる。
【0025】
カーボンナノホーン1は、直径0.7nmを超える物質を通過させない孔3を表面に有している。本発明においては、こうした孔3に触媒粒子等の被吸着物質が吸着して凝集が生じるのを抑制することができる。孔3は、カーボンナノホーン1を構成する炭素原子2を脱離させることにより作ることができる。
【0026】
孔3は、孔3を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dが0.24nm以上0.70nm以下となる大きさで形成されることにより、直径0.7nmを超える物質を通過させないようにすることができる。図1中の符号3及び符号dで示すように、孔3が形成されるカーボンナノホーン1は、炭素原子によって主に6員環で構成されているが、接し合う6員環3つの中央に位置する炭素原子1つが脱離して孔3ができた場合、その孔3を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dは約0.24nmとなる。したがって、本発明では、孔3の部分における隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dの下限値を0.24nmとしている。その最短距離dが0.24nm未満のときは、そもそも炭素原子が脱離していないので孔3が形成されておらず、孔3での被吸着物質の吸着が起きにくい。
【0027】
一方、接し合う6員環から炭素原子が2つ以上脱離した場合は、孔3の部分における隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dが大きくなる。このときの形は、円形、楕円形、又は複雑な他の形であってもよいが、炭素原子2,2間の最短距離dが0.7nmを超えると、例えば触媒担持の1つの方法であるコロイド法で使用される塩化白金酸のイオン径(約0.8nm)がその孔3からカーボンナノホーン1の内部に入り込む可能性がある。本発明では、孔3の部分における隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dの上限値を0.70nmとしているが、その理由は、その孔3からカーボンナノホーン1の内部に直径0.7nmを超える前記の塩化白金酸イオン等の物質が侵入し、その内部で触媒粒子等として担持すると、より多くの触媒粒子等をカーボンナノホーン1の表面の孔3に高い分散状態で担持させることができないために却って触媒能が低下することになるためである。
【0028】
したがって、本発明では、孔3を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dは、燃料電池用触媒として好ましく用いられる塩化白金酸イオン等を適用する場合においては、0.24nm以上0.7nm以下であることが望ましい。なお、現時点で触媒粒子として好ましく利用できる上記塩化白金酸イオン等の金属、金属錯体及び酸化物の大きさはおよそその塩化白金酸イオンの0.8nmが最も小さいと言うことができるので、現時点で触媒粒子の凝集化を抑制して高い分散状態でカーボンナノホーン1に担持させるためには、直径0.7nmを超える物質を通過させない前記の0.24nm以上0.7nm以下の最短距離dからなる孔3であることが好ましい。一方、被吸着物質として更に小さいイオン径のものや分子径のものを用いる場合には、その径以下の孔3であることが望ましい。
【0029】
なお、炭素原子2が複数脱離して複雑な形の孔3が形成された場合には、炭素原子2,2間の最短距離dが例えば0.7nm以下であっても、その他の部分に直径0.7nm程度の円が入る大きさが仮に存在する場合には、塩化白金酸イオン等が入り込んでしまう。そのため、孔3の形状として、直径0.7nmの円が通過できるものを除く。
【0030】
こうして、例えば燃料電池用触媒として好ましく用いられる約0.8nm超のイオン径の塩化白金酸イオンを、カーボンナノホーン1の内部に導入するのを妨げることができ、そうした塩化白金酸イオンをカーボンナノホーン1の表面に多数形成された孔3の部分に高い分散状態で担持させることができる。その結果、高い触媒能を有するカーボンナノホーン集合体となる。
【0031】
孔3は、カーボンナノホーン集合体を過酸化水素水中で50℃から80℃の温度範囲で加熱することにより形成することができ、カーボンナノホーン1の表面に直径0.7nmを超える物質を通過させない孔3を開けることができ、より好ましくは、孔3を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dが例えば0.24nm以上0.70nm以下の大きさで孔3を開けることができる。上記温度範囲は、そうした孔3を開けるための温度範囲であり、後述の実施例で説明するように、その温度が50℃未満ではBET比表面積測定の結果が一定であり、孔3の生成が起こっていないと考えられる。一方、その温度が80℃を超えると、直径0.70nmのC60フラーレンの導入測定によってカーボンナノホーン1に導入されたC60フラーレンの量が顕著に増したので、孔3の大きさが著しく増していることが考えられる。したがって、上記温度範囲は、BET比表面積測定と、C60フラーレンの導入測定とにより特定でき、言い換えれば、上記大きさの孔3の範囲も、BET比表面積測定と、C60フラーレンの導入測定とにより特定できる。
【0032】
孔3の大きさは、上記範囲内の温度と、処理時間とを制御し調整できる。処理時間としては、1時間〜3時間程度で変化させることが好ましい。
【0033】
こうした極めて簡単な処理方法により、カーボンナノホーン1の表面に上記大きさからなる孔3を無数に開けることができるので、その孔3の部分に、金属、金属錯体及び酸化物等のナノサイズの微粒子を局所的に吸着させることができる。このとき、吸着するナノサイズの微粒子の粒子径は、開孔した孔3の数が多ければ多いほど微粒子の凝縮が起こらないのでその粒径は小さくなり、被吸着物質の微小化を実現できる。
【0034】
ナノサイズの微粒子として触媒粒子を用い、その触媒粒子がカーボンナノホーン1の内部に入り込んだ場合、開孔している部分以外は炭素原子2で囲まれているため、触媒粒子はその触媒機能が制限されるという難点がある。そのため、触媒粒子はカーボンナノホーン1の表面に吸着させる必要があり、上記範囲の大きさで孔3を開けることにより、触媒粒子をカーボンナノホーン表面に無数に形成された孔3の部分に局所的に吸着させることができる。
【0035】
上記のようにして得られた本発明のカーボンナノホーン集合体に触媒粒子を担持すれば、その触媒粒子は無数の孔3に吸着することから、触媒粒子の凝集と粒径の粗大化が起きにくい。その結果、触媒粒子の粒径は3nm以下となる。なお、触媒粒子の下限は、孔3を通過しない大きさであり、0.70nmの孔が開いている場合には、触媒粒子の下限値は約0.8nm程度と言うことができる。こうした粒径で触媒粒子をカーボンナノホーン集合体に担持させることができるので、カーボンナノホーン集合体に対する触媒粒子の担持を、重量比で50%以上という高い比率で実現することが可能となる。ここで、触媒粒子の粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡)観察の結果から評価し、また、触媒粒子の担持量は、TG(熱重量測定)により評価した。
【0036】
金属、金属錯体及び酸化物等の被吸着物質としては、Au、Pt、Pd、Ag、Cu、Fe、Ru、Ni、Sn、Co及びランタノイド元素から選ばれる1種又は2種以上の金属、その金属錯体及びその酸化物乃至化合物を挙げることができる。特に燃料電池用触媒としては、白金が優れた触媒能を有するので好ましく、また、水素吸蔵触媒としては、パラジウム等が有効である。こうした被吸着物質は、カーボンナノホーン1の表面に形成された上記大きさからなる孔に引っ掛かるように優先的に吸着して固定化される。このときの担持法は、T.Yoshitake, Y.Shimakawa, S.Kuroshima, H.Kimura, T.Ichihashi, Y.Kubo, D.Kasuya, K.Takahashi, F.Kokai, M.Yudasaka, S.Iijima, Physica 2002, B323, 124. により報告されているコロイド法及び、触媒金属を含んだ溶液とカーボンナノホーンとを混合させ、分散、攪拌した後、フィルターで集める含浸法等を挙げることができる。
【0037】
また、カーボンナノホーン集合体に担持する際の雰囲気(気相、液相)や条件(溶媒、pH、温度など)を調節することで、被吸着物質の担持量を制御することができる。
【0038】
以上説明したように、本発明のカーボンナノホーン集合体によれば、上記した直径0.7nmを超える物質を通過させない大きさからなる孔3(より具体的には、例えば0.24nm以上0.7nm以下からなる孔3)の内部に金属、金属錯体及び酸化物等の被吸着物質を導入することなくその孔3の表面にナノサイズの被吸着物質(金属、金属錯体及び酸化物等)を局部的に吸着できるので、被吸着物質の凝集を抑制して微細化でき、その結果として高い分散状態で被吸着物質を担持させることができる。特に燃料電池用触媒の優れた触媒担体として用いることができ、燃料電池用のナノサイズの触媒粒子を被吸着物質としてカーボンナノホーン1に吸着させれば、反応性の高い燃料電池用触媒とすることができる。また、凝集化が起こりやすい担持率の高い触媒粒子を用いる場合においても、その孔3の官能基に触媒が吸着して担持されるために、触媒粒子の凝集化を抑制することができ、触媒粒子を微粒子化できる。また、こうした効果は、触媒を長期使用した際に生じる触媒粒子の凝集粗大化の問題も改善でき、燃料電池用触媒の触媒担体として最適である。
【0039】
(燃料電池用触媒)
本発明の燃料電池用触媒は、カーボンナノホーン1からなるカーボンナノホーン集合体に触媒粒子が担持してなる燃料電池用触媒において、そのカーボンナノホーン集合体は、直径0.7nmを超える物質を通過させない孔3であって該孔3を構成する炭素原子2のうち隣接しない炭素原子2,2間の最短距離dが0.24nm以上0.70nm以下の孔3を表面に有する多数のカーボンナノホーン1からなり、前記カーボンナノホーン集合体に担持した後の触媒粒子の粒径が3nm以下である。なお、触媒粒子の下限値は、孔3に入らないで孔3に吸着する0.7nm超程度であり、例えば0.80nm等である。
【0040】
この燃料電池用触媒において、カーボンナノホーン1、カーボンナノホーン集合体等の詳細については記述したのでその詳細は省略するが、燃料電池用触媒として好ましい白金や、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、レニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、リチウム、ランタン、ストロンチウム、イットリウム等から選ばれる1種又は2種以上の触媒粒子を用いることが望ましい。こうした燃料電池用触媒によれば、上記本発明のカーボンナノホーン集合体に、凝集が抑制された触媒粒子が高い分散状態で担持しているので、触媒能の高い燃料電池用触媒となる。
【0041】
(燃料電池)
本発明の燃料電池用触媒を用いることにより、触媒能に優れた燃料電池を構成できる。燃料電池は、固体電解質膜を燃料極と酸化剤極とで挟んだ固体電解質膜接合体(MEA)を備えており、燃料極と酸化剤極とをあわせて触媒電極と呼んでいる。燃料極は基体と触媒層とから構成され、酸化剤極も基体と触媒層とから構成され、単数又は複数の固体電解質膜接合が、燃料極側セパレータ及び酸化剤極側セパレータを介して電気的に接続される。なお、ここで言う触媒層が、上記本発明の燃料電池用触媒を有する層である。
【0042】
燃料極と酸化剤極は、触媒粒子を担持した本発明の燃料電池用触媒と固体高分子電解質の微粒子とを含む触媒層を、基体上に形成した構成となっている。また、基体としては、カーボンペーパー、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属などの多孔性基体を用いることができる。
【0043】
固体高分子電解質は、触媒電極の表面において、触媒金属を担持したカーボンナノホーン集合体と固体電解質膜を電気的に接続するとともに、触媒金属の表面に燃料を到達させる役割を有しており、水素イオン伝導性が要求される。さらに、燃料極にメタノール等の有機液体燃料が供給される場合、燃料透過性が求められ、酸化剤極においては酸素透過性が求められる。固体高分子電解質としては、こうした要求を満たすために、水素イオン伝導性や、メタノール等の有機液体燃料透過性に優れる材料が好ましく用いられる。
【0044】
こうした燃料電池は、本発明の燃料電池用触媒を触媒層に含むので、触媒利用効率が高く、優れた電池特性を有す。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を示し、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、以下の例によって発明が限定されることはない。
【0046】
[実施例]
(カーボンナノホーンの作製)
カーボンナノホーン集合体をCOレーザーアブレーション法により作製した。先ず、固体状炭素物質としての焼結丸棒炭素を真空容器内に設置し、Ar雰囲気下でレーザーパワー密度:30kW/cm、ターゲット回転数:2rpmの条件でCOレーザー光を前記固体状炭素物質に室温中、30分照射した。これにより得られたすす状物質を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、カーボンナノホーン集合体構造であることが確認された。
【0047】
(過酸化水素水によるカーボンナノホーン表面の開孔)
カーボンナノホーン300gを過酸化水素水(30%)300mlに入れ、スターラーで300rpmで撹拌しながら、ウォーターバスで温度制御して3時間加熱した。加熱後、過酸化水素水を0.2μmフィルターでろ過し、純水で2回洗った。その後、フィルター上のカーボンナノホーンを真空100℃のオーブンで48時間乾燥した。
【0048】
(孔の大きさの評価)
図2は、カーボンナノホーン集合体を過酸化水素水処理した場合の、過酸化水素水処理温度とカーボンナノホーンのBET比表面積との関係を示すグラフである。過酸化水素水の温度が室温から50℃まではBET比表面積はほとんど変化がなかったが、50℃以上では温度が上がるに従って比表面積が増大し、カーボンナノホーン表面の孔が増加したことが確認された。なお、BET比表面積は、BET法により見積もった。この結果は、50℃以上の温度でBET比表面積が増大していることから、その温度以上でカーボンナノホーンの孔が形成され始めているということができる。
【0049】
次に、図2の実験で用いたカーボンナノホーンに、フラーレンで直径0.7nmのC60をトルエンに溶解させた溶液を加え、窒素気流下で72時間かけてトルエンを蒸発させ、カーボンナノホーンの孔にC60を導入した。これらの試料をTEM観察し、1個のカーボンナノホーン内部に導入されたC60の個数を数えた。その結果を表1に示す。表1に示すように、過酸化水素水の温度が55℃まではC60は導入されず、65℃以上では温度が上がるに従ってカーボンナノホーン内部に導入されたC60の数は増加し、炭素原子2,2間の最短距離dが0.7nm程度又は内部に直径0.7nmの円が入る孔の数が増大していることが確認された。過酸化水素水の温度が90℃の場合は、C60の導入個数が急激に増大したことから、こうした温度では、孔が大きくなって、多くのC60が孔内に入りやすくなったということができる。この結果は、直径0.7nmのC60が孔内に導入できる温度が50℃〜約80℃程度であることを表している。したがって、図2のBET比表面積測定と表1のC60フラーレン導入測定とにより、カーボンナノホーン表面に開いた孔の大きさは、接し合う6員環3つの中央に位置する炭素原子1つが脱離してできた、炭素原子2,2間の最短距離dが約0.24nmの値を下限とし、径0.7nmのC60フラーレンがかろうじて導入できる最短距離dが0.70nmの値を上限として特定できる。
【0050】
【表1】

【0051】
(触媒の担持とその評価)
上記の処理において得られたカーボンナノホーン集合体、及び処理をしなかったカーボンナノホーン集合体をカーボン粉体として用いた。カーボン粉末とPtの比が2:3になる量論比の塩化白金酸水溶液を調整し、その液温を50℃に保持したまま亜硫酸水素ナトリウムを加えて還元した後、1規定水酸化ナトリウム溶液でpHを5に調整した。得られた溶液を水で希釈し、さらにカーボン粉体を加え、ホモジナイザーを用いて30分撹拌した。そこに30%の過酸化水素水を少量ずつ加え、液中の白金化合物を酸化白金コロイドへ変化させ、同時にその酸化白金コロイドをカーボン粉体へ吸着させた。液温を75℃に保持しつつ、溶液のpHを5に調整し、12時間撹拌を行った。溶液を10分間沸騰させ、自然冷却後、遠心分離と水洗いで不要塩類を除去し、70℃で12時間保持した後に乾燥させ、酸化白金が吸着したカーボン粉体を得た。その後、室温・水素雰囲気下で還元を2日間行った。
【0052】
このように触媒担持を行った試料の中で、カーボンナノホーンに処理をしなかった試料と、カーボンナノホーンに73℃の処理を施した試料のそれぞれに触媒を60重量%担持したサンプルについての走査型透過電子顕微鏡像(STEM)を図3及び図4に示す。図3及び図4において、STEM像中の黒い点をエネルギー分散型X線分光(EDS)で分析した結果、Ptであることが確認された。STEM像から、図3のカーボンナノホーンに処理をしなかった試料よりも、図4の73℃の処理をした試料の方がPt粒子径が微小になっていることが分かる。処理をしなかった試料の平均Pt粒子径は4.5nmであり、73℃の処理をした試料の平均Pt粒子径は2.9nmであり、後者の方がPt粒子の凝集が抑制され、微粒子化を実現できた。
【0053】
Pt粒子の担持率については、酸素雰囲気中での熱重量分析の結果、処理をしなかったカーボンナノホーン触媒も、73℃の処理を施したカーボンナノホーン触媒もPtはカーボンナノホーンに対して重量比で60%であることが確認された。
【0054】
また、カーボンナノホーンの過酸化水素水処理の温度を変化させた試料についても、前記同様の触媒を60重量%担持させた結果、室温から47℃までは、処理をしていないカーボンナノホーンとPt粒子径は変化がなかったが、47℃以上では次第に微小化することが確認された。しかし、90℃処理ではPt粒子径は73℃処理とほぼ同じ3nmであったが、カーボンナノホーン内部にPt粒子が多く入り込み、Ptが重量比で60%担持した場合であっても、担持したPtが触媒として機能できる部分が制限されると考えられる。
【0055】
(触媒特性評価)
上記で作製した、73℃で過酸化水素水処理したカーボンナノホーンの60重量%Pt担持触媒について、担持されたPt触媒の触媒活性を電気化学的手法による酸素還元反応により評価した。測定は、回転電極を利用した標準的な3局式セルで行った。作用極の回転電極上に触媒粉末を載せ、Nafion溶液でサンプルを固定した。参照電極はAg/AgClを使用し、対極は白金を使用した。電解質溶液は0.5MのHSOとした。カーボンナノホーン触媒のサイクリックボルタメトリーの0〜0.3Vの領域の水素吸着脱離波から、Ptの実行表面積を算出した結果、Pt触媒の平均粒子サイズは2.9nmと算出され、STEM像から算出した平均粒子サイズと一致した。
【0056】
また、酸素飽和下での酸素還元反応は、交換電流密度が1.0×10−9A/cmになり、Tafel勾配は120mV/decとなった。この結果を、過酸化水素水処理をしなかったカーボンナノホーン触媒と比較すると、従来のカーボンナノホーンを使ったPt担持触媒のPt平均粒子径は4.5nmで、交換電流密度は1.0×10−9A/cmになり、Tafel勾配は120mV/decとなった。これは、過酸化水素水処理したカーボンナノホーン触媒の微小なPt粒子は、通常の4.5nmのPt粒子と表面積あたりの触媒活性が同じであることを示しており、微小化しても触媒性能は変化していないことが確認された。このことは、Pt重量あたりの活性が増加することを示すことになり、少ない触媒量で高い触媒能を実現できることがわかる。
【0057】
また、これら2種類の触媒について、真空中400℃で長期保管して比較したところ、未処理カーボンナノホーンに担持したPt触媒は100時間以上から徐々に凝集する傾向が見られたが、本発明によるカーボンナノホーンに担持したPt触媒は、1000時間以上経過した後もほとんどサイズに変化がないことをSTEM観察により確認した。
【0058】
(触媒のMEA評価)
上記で作製した、カーボンナノホーン集合体にPtを60重量%担持した触媒にデュポン社製5%ナフィオン溶液を加え混練した後、カーボン電極上に塗布し、140℃で乾燥し、固体電解質膜の両面に圧着させて燃料電池電極を作製した。この電極を用いて、直接メタノール型燃料電池のセルを作り、40℃の温度下で電池特性を測定したところ、未処理のカーボンナノホーン触媒及び50℃以下で過酸化水素水処理したカーボンナノホーン触媒は電池出力がほぼ同じ80mW/cmであったが、50℃〜80℃の範囲で処理をしたものは、処理しないものと比較して20mW/cmの電池出力が向上することが確認された。また、90℃以上で処理したものは、出力が低下した。結果を表2に示した。
【0059】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係るカーボンナノホーン集合体を構成するカーボンナノホーンの一例を示す模式的な構造図である。
【図2】カーボンナノホーン集合体を過酸化水素水処理した場合の、過酸化水素水処理温度とカーボンナノホーンのBET比表面積との関係を示すグラフである。
【図3】未処理のカーボンナノホーンに触媒を60重量%担持したカーボンナノホーン集合体の走査型透過電子顕微鏡像(STEM)を示す。
【図4】カーボンナノホーンに73℃の過酸化水素水処理を施し、触媒を60重量%担持したカーボンナノホーン集合体の走査型透過電子顕微鏡像(STEM)を示す。
【符号の説明】
【0061】
1 カーボンナノホーン
2 炭素原子
3 孔
d 隣接しない炭素原子間の最短距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数のカーボンナノホーンからなるカーボンナノホーン集合体を過酸化水素水中で50℃から80℃の温度範囲で加熱することにより、前記カーボンナノホーンの表面に直径0.7nmを超える物質を通過させない孔を開けることを特徴とするカーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項2】
前記孔を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子間の最短距離が0.24nm以上0.70nm以下である、請求項1に記載のカーボンナノホーン集合体の製造方法。
【請求項3】
直径0.7nmを超える物質を通過させない孔であって該孔を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子間の最短距離が0.24nm以上0.70nm以下の孔を表面に有する多数のカーボンナノホーンからなることを特徴とするカーボンナノホーン集合体。
【請求項4】
前記孔の大きさの範囲が、BET比表面積測定と、C60フラーレンの導入測定とにより特定される、請求項3記載のカーボンナノホーン集合体。
【請求項5】
カーボンナノホーンからなるカーボンナノホーン集合体に触媒粒子が担持してなる燃料電池用触媒において、
前記カーボンナノホーン集合体は、直径0.7nmを超える物質を通過させない孔であって該孔を構成する炭素原子のうち隣接しない炭素原子間の最短距離が0.24nm以上0.70nm以下の孔を表面に有する多数のカーボンナノホーンからなり、
前記カーボンナノホーン集合体に担持した後の触媒粒子の粒径が3nm以下であることを特徴とする燃料電池用触媒。
【請求項6】
前記触媒粒子を、前記カーボンナノホーン集合体に対する重量比で50%以上担持している、請求項5に記載の燃料電池用触媒。
【請求項7】
前記触媒粒子が、Au、Pt、Pd、Ag、Cu、Fe、Ru、Ni、Sn、Co及びランタノイド元素から選ばれる1種又は2種以上の金属、その金属錯体及びその酸化物乃至化合物である、請求項5又は6に記載の燃料電池用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−190928(P2009−190928A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32683(P2008−32683)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】