説明

ガスケット用素材

【課題】クロメート処理を施したガスケット用素材と同等以上の耐塩水性を有し、環境面においても問題のないガスケット用素材を提供する。
【解決手段】鋼板の片面または両面に、(A)Mg、Co、Zr、Mn、Ni、Cuの炭酸塩と、(B)水分散性シリカと、(C)1分子中にカルボキシル基及び水酸基の少なくとも1種を含み、1分子中の炭素数が3〜10の有機酸との反応生成物からなる皮膜を介してゴム層が形成してなることを特徴とするガスケット用素材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機や自動車等のエンジンに使用されるガスケット用素材に関し、主に塩水環境に対する耐久性を改善したガスケット用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機や自動車のエンジンに装着されるガスケットは、ステンレス鋼板にゴム層を積層したゴムコーティングステンレス鋼板が一般的である。しかし、船外機のエンジンでは、エンジンの冷却用に海水が使用されるため、また自動車のエンジンでも、海岸付近の走行時に海水の一部がエンジンルームに侵入することがあるため、エンジンルームの熱により海水が霧化し、ミスト状の海水がエンジンルーム内に充満することがある。そして、このミスト状に充満した海水が電解液として作用し、エンジンのアルミフランジ(アノード側)とガスケット(カソード側)との間で電池反応が起こり、ガスケット側が高アルカリ環境になり、ゴム層/ステンレス鋼板間の密着が破壊されることがある。また、燃焼熱によっても、ゴム層/ステンレス鋼板間の密着が破壊されることがある。
【0003】
ステンレス鋼版とゴム層とをより強固に密着させるために、ステンレス鋼板の片面または両面にクロム化合物、リン酸、シリカからなるクロメート皮膜を形成し、クロメート皮膜の上にゴム層を積層したガスケット材が広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。クロメート皮膜は高アルカリ環境でも耐性を持っており、また、クロメート処理液をステンレス鋼板に塗布した際、重クロム酸が鋼板表面をエッチングして鋼板表面に極性成分が導入され、この極性成分とクロメート皮膜とが2次結合を介して強固に接着する。
【0004】
【特許文献1】特開平3-227622号公報(特許請求の範囲、第3頁〜第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、クロメート処理されたステンレス鋼板の上にゴム層を設けたガスケット用素材は、塩水中での密着性に優れるが、クロメート処理液に含まれる6価クロムが人体に直接的な悪影響を及ぼすことから、クロメート処理が敬遠される傾向にある。また、6価クロムを含む廃液は水質汚濁防止法に規定されている特別な処理を施す必要があり、クロメート処理を施したステンレス材料の廃棄物はリサイクルできないという欠点もある。更には、海水との接触により、クロメート皮膜のクロムが抽出される可能性も高い。
【0006】
本発明は、クロメート皮膜の環境に対する影響に鑑みてなされたものであり、クロメート処理を施したガスケット用素材と同等以上の塩水に対する密着耐久性を有し、環境面においても問題のないガスケット用素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、クロメート処理品と同等以上の物性を得るために、クロムを含有しない皮膜について鋭意検討した結果、(A)Mg、Co、Zr、Mn、Ni、Cuの炭酸塩、(B)水分散性シリカ、(C)1分子中にカルボキシル基及び水酸基の少なくとも1種を含み、1分子中の炭素数が3〜10の有機酸の3成分が反応して得られる複合体からなる皮膜を鋼板に形成することにより上記目的が達成されることを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、鋼板の片面または両面に、(A)Mg、Co、Zr、Mn、Ni、Cuの炭酸塩と、(B)水分散性シリカと、(C)1分子中にカルボキシル基及び水酸基の少なくとも1種を含み、1分子中の炭素数が3〜10の有機酸との反応生成物からなる皮膜を介してゴム層が形成してなることを特徴とするガスケット用素材である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のガスケット用素材は、人体に有害なクロメート処理を施さずに、優れた塩水に対する密着性が得られるため、環境保全やリサイクル性等の社会問題に対する対策案としても、極めて有効でかつ実用上の効果も大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0011】
本発明のガスケット用素材では、従来のクロメート皮膜に代えて、(A)Mg、Co、Zr、Mn、Ni、Cuの炭酸塩と、(B)水分散性シリカと、(C)1分子中にカルボキシル基及び水酸基の少なくとも1種を含み、1分子中の炭素数が3〜10の有機酸との反応生成物からなる皮膜を介して、鋼板とゴム層とを接着する。
【0012】
上記金属の炭酸塩(A)は、正塩と塩基性塩とに分けられる。正塩の例には炭酸コバルト、炭酸マグネシウム、炭酸銅、炭酸ニッケル、炭酸マンガンが挙げられ、塩基性塩としては、塩基性炭酸亜鉛、塩基性炭酸コバルト、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸銅、塩基性炭酸ニッケル、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、塩基性炭酸マンガン等が挙げられる。本発明で用いる金属の炭酸塩(A)はこれらに限定される物ではなく、Mg、Co、Zr、Mn、Ni、Cuから選ばれる金属の炭酸塩であれば正塩、塩基性塩の何れも使用できるが、特にZrを金属として含む正塩、塩基性塩が最も耐塩水性に効果がある。
【0013】
上記水分酸性シリカ(B)は、皮膜形成用処理液中での分散性に優れるものが好ましく、そのようなシリカとしてコロイダルシリカ、気相シリカが挙げられる。コロイダルシリカとしては、特に限定するものではないが、スノーテックスC、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS-M、スノーテックスPS-L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス30、スノーテックス40(何れも日産化学工業(株)製)、等を市場から入手することができる。気相シリカとしては、特に限定するものではないが、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルTT600、アエロジルMOX80アエロジルMOX170(何れも日本アエロジル(株)製)、等を市場から入手することができる。これらの水分散性シリカは、上記金属の炭酸塩(A)に対し、重量比で5〜95%の割合で配合されることが好ましい。さらに好ましくは重量比で10〜90%である。
【0014】
上記有機酸(C)は、1分子中にカルボキシル基及び水酸基の少なくとも1種類を含み、1分子中の炭素数が3〜10であれば特に限定されない。このような有機酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、タンニン酸、アジピン酸、グルタミン酸、プロピオン酸、フィチン酸、安息香酸等が挙げられる。また、より好ましい炭素数の範囲は3〜8である。また、有機酸(C)の含有量は、上記金属の炭酸塩(A)に対し、重量比で1〜50%の範囲であり、更に好ましくは10〜30%である。
【0015】
本発明で使用される鋼板は、特に限定されず、従来からガスケット用素材に使用されているステンレス(フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系の各ステンレス)、鉄、アルミニウム等を使用することが出来る。
【0016】
鋼板上に皮膜を形成するには、上記した金属の炭酸塩(A)、水分散性シリカ(B)及び有機酸(C)を、所定の比率で水に分散もしくは溶解させた皮膜形成用処理液を、ロールコーター等の公知の塗布手段を用いて鋼板の片面または両面に塗布し、70〜250℃程度の温度にて乾燥すれば良い。この加熱乾燥の間に金属の炭酸塩(A)、水分散性シリカ(B)及び有機酸(C)が反応し、その生成物が皮膜となる。尚、皮膜量は制限されるものではないが、実用上50〜1500mg/m程度が適当であり、塗布量を調製する。
【0017】
そして、上記の皮膜の上に、ゴム層を形成して本発明のガスケット用素材が完成する。ゴム層を形成するゴムは公知のもので構わないが、耐熱性や耐薬品性に優れるNBR、フッ素ゴム、シリコンゴム、アクリロブタジエンゴム、HNBR、EPDM等が好適である。また、ゴム層の形成には、ゴム材料を適当な溶剤に溶解させたゴム液またはラテックスを、スキマコーターやロールコーター等で、20〜130μmの厚さに塗布し、150〜250℃で加硫接着させればよい。
【0018】
また、必要に応じて、ゴム層と皮膜との間に、プライマー層(例えば、ニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂との接着剤)を介在させてもよい。
【実施例】
【0019】
以下に本発明を、実施例及び比較例を挙げて更に詳しく説明する。但し、これらの実施例は本発明の説明のために記載するものであり、本発明を限定するものではない。
【0020】
(試料の作成)
ステンレス鋼板の両面に、ロールコーターで表1に示す配合にて混合した皮膜形成用処理液を塗布し、塗膜を180℃で乾燥させ皮膜を形成した。尚、皮膜量については表2に示す。次いで、皮膜の上にニトリルゴムコンパウンドとフェノール樹脂で構成された接着剤を塗布して熱処理を行い、皮膜上にプライマー層を形成した。また、このプライマー層を形成しない試料も作成した(実施例5)。そして、その上(プライマー層または皮膜)に、ニトリルゴムを溶剤で溶かした液をロールコーターにて塗布し、180℃で10分間加硫接着させてゴム層を形成して試料とした。
【0021】
(評価方法)
作成した試料について、以下に説明する(1)塩水浸漬試験と(2)電池反応試験の2つの試験により評価した。
【0022】
(1)塩水浸漬試験
試料の表面に隙間間隔2mmの碁盤目状の切り傷を付け、100個の碁盤目を形成した。そして、この試料を、固形分濃度が4%となるように調整した塩水溶液中に液温70℃で500時間放置した。その後、4%塩水溶液から試料を取り出し、碁盤目テープ剥離試験を行った。この碁盤目テープ剥離試験は、JIS-K5400に準拠するもので、碁盤目の上に粘着テープを張り付け、消しゴムで擦って粘着テープを完全に付着させ、テープ付着1〜2分後に、粘着テープの一方の端を持ち、試料表面に対して垂直方向に瞬間的に引き剥がし、残存する碁盤目の数を求めた。結果を(残存する碁盤目の数)/100で表し、表2に示す。
【0023】
(2)電池反応試験
試料の表面に隙間間隔2mmの碁盤目状の切り傷を付け、100個の碁盤目を形成した。そして、この試料とAl板とを導線で結んだ状態で、固形分濃度が4%となるように調整した塩水溶液中に液温70℃で168時間放置した。その後、4%塩水溶液から試料を取り出し、同様の碁盤目テープ剥離試験を行った。結果を(残存する碁盤目の数)/100で表し、表2に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
本発明で耐塩水性を有するとは、(1)塩水浸漬試験の結果が90/100以上で、かつ(2)電池反応試験の結果が90/100以上であることを意味するが、本発明の要件を満足する実施例は、何れもクロメート処理を行った比較例4と同等の良好な評価結果が得られている。しかし、本発明を満足しない皮膜を設けた比較例1〜3は著しく性能が劣っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の片面または両面に、(A)Mg、Co、Zr、Mn、Ni、Cuの炭酸塩と、(B)水分散性シリカと、(C)1分子中にカルボキシル基及び水酸基の少なくとも1種を含み、1分子中の炭素数が3〜10の有機酸との反応生成物からなる皮膜を介してゴム層が形成してなることを特徴とするガスケット用素材。
【請求項2】
前記(A)と前記(B)との配合比(A)/(B)が、重量比で0.5/9.5〜9.5/0.5の範囲であることを特徴とする請求項1記載のガスケット用素材。
【請求項3】
前記(C)の含有量が前記(A)に対し、重量比で1%〜50%の範囲であることを特徴とする請求項1または2記載のガスケット用素材。

【公開番号】特開2007−112871(P2007−112871A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304448(P2005−304448)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000110804)ニチアス株式会社 (432)
【Fターム(参考)】