説明

ガスステーション、ガス充填システム、ガス充填方法

【課題】満タンまで充填しない場合に、充填時間を短縮することができるガスステーション、ガス充填システム及びガス充填方法を提供することを課題とする。
【解決手段】ガスステーション2の制御装置5は、燃料タンク30内のガスの状態量をもとに燃料タンク30内の充填可能なガス量Maを算出すると共に、外部から指定された燃料タンク30内に充填すべきガス量Mbを特定する。制御装置5は、燃料タンク30へのガス充填開始時に、ガス量Mbがガス量Maを下回る場合には、ガス量Mbがガス量Ma以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば車載の燃料タンクにガスを充填するガスステーションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のガスステーションとして、燃料電池車両の水素タンクに水素ガスを充填する水素ステーションや(特許文献1参照。)、気体燃料及び液体燃料を車載の燃料タンクに充填するガスステーション(特許文献2参照。)が知られている。特許文献2では、予備充填の際に燃料タンク内の圧力値等を計測して、燃料タンク内の気体燃料及び液体燃料の各残量を求め、これらの比率に応じた各燃料の充填可能量を算出して、燃料タンクに充填している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−364397号公報
【特許文献2】特開2007−138973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、1回の充填に要する充填時間は短いことが望ましい。この点、特許文献2では、各燃料の充填量を制御した充填については開示するものの、充填時間の短縮化については配慮されていない。
【0005】
また、燃料タンクに充填する燃料が水素ガスである場合には、充填に伴う燃料タンク内の温度上昇及び圧力上昇が基準を超えないようにする必要がある。この温度上昇等は充填速度(充填流量)を上げるほど大きくなるため、実際の充填制御では、燃料タンク内の温度等が基準値を超えない適切な充填速度を用いることになる。そして、このような充填速度は、例えば、燃料タンク内の状態(温度、圧力、残量など)に応じたものを予めステーション側で用意しておくことが考えられる。
【0006】
しかし、燃料タンク内の状態が同じであるからといって、満タンまで充填するのに最適な充填速度が、満タンまで充填しない場合の充填速度として最適であるとは必ずしも言えない。例えば、利用者が指定した充填量が燃料タンクの充填可能量に比べて十分に小さい場合、満タンまで充填するのに最適な充填速度を用いたのでは、燃料タンク内の基準値に対してより安全側の充填速度が用いられることになる。そのため、充填時間が長くなってしまう。
【0007】
本発明は、充填時間を短縮することができるガスステーション、ガス充填システム及びガス充填方法を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のガスステーションは、外部の燃料タンクに対してガスを充填するガスステーションにおいて、燃料タンク内のガスの状態量をもとに燃料タンク内の充填可能なガス量(以下、充填可能量という。)を算出すると共に、外部から指定された燃料タンク内に充填すべきガス量(以下、指定充填量という。)を特定する制御装置を備え、制御装置は、燃料タンクへのガス充填開始時に、指定充填量が充填可能量を下回る場合には、指定充填量が充填可能量以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択するものである。
【0009】
本発明によれば、指定充填量に対して充填可能量が十分にあるような場合、すなわち満充填とならないガス充填を行う場合に、迅速なガス充填をガス充填開始時から行うことができるので、充填時間を短縮することができる。
【0010】
好ましくは、制御装置は、指定充填量が充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、充填可能量に対する指定充填量の大きさに応じて異ならせるとよい。
【0011】
こうすることで、例えば、充填可能量に対する指定充填量の大きさが小さい場合であるほど、ガス充填速度を上げるようにすれば、充填時間の短縮化を図ることができる。
【0012】
より好ましくは、制御装置は、燃料タンク内のガスの状態量ごとに複数のガス充填速度を規定した充填速度マップを、充填可能量に対する指定充填量の大きさごとに有した充填速度マップ群を予め具備するとよい。そして、制御装置がガス充填開始時にガス充填速度を選択する方法は、充填速度マップ群から、充填可能量に対する指定充填量の大きさに対応した充填速度マップを選択し、この選択した充填速度マップから、燃料タンク内のガスの状態量に対応するガス充填速度を選択する方法であるとよい。
【0013】
こうすることで、充填可能量に対する指定充填量の大きさと、燃料タンク内のガスの状態量とに応じた最適なガス充填速度を選択することができる。
【0014】
より好ましくは、制御装置が充填速度マップからガス充填速度を選択する際に用いる燃料タンク内のガスの状態量は、ガス充填開始時におけるものであるとよい。
【0015】
これにより、ガス充填開始時の燃料タンク内のガスの状態量に適したガス充填速度を簡単に選択することができる。
【0016】
好ましくは、制御装置は、指定充填量が充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、燃料タンクに関する特性に応じて異ならせるとよい。また、より好ましくは、燃料タンクに関する特性には、燃料タンクの放熱性が含まれており、制御装置は、燃料タンクの放熱性が高くなるにしたがって、大きいガス充填速度を選択するとよい。
【0017】
こうすることで、放熱性が高い燃料タンクほど、充填時間の短縮化を図ることができる。すなわち、燃料タンクに関する特性に関わらず一律のガス充填速度を用いる場合に比べて、燃料タンクに関する特性を考慮した充填時間の短縮化が可能となる。
【0018】
ここで、燃料タンクに関する特性には、燃料タンクの仕様(例えば、燃料タンクを構成する材料や、燃料タンクの体格など。)と、燃料タンクに影響を及ぼす特性(例えば、燃料タンクが移動体に搭載されている場合の燃料タンクへの走行風の影響や、燃料タンク周辺の熱源の存在など。)とが含まれる。
【0019】
好ましくは、ガスステーションは、燃料タンクに関する特性の情報を通信により受信する通信機を更に備えるとよい。
【0020】
この構成によれば、ガスステーションの外部にある燃料タンクに関する特性を事前にガスステーションに記憶させておかなくても、ガス充填の際に、ガスステーションが個々の燃料タンクに関する特性を把握することができる。
【0021】
好ましくは、ガスステーションは、燃料タンクに充填するガスを冷却するプレクーラと、外気温情報を取得する外気温取得部と、を更に備え、制御装置は、指定充填量が充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、プレクーラの冷却能力及び外気温取得部の取得結果による外気温の少なくとも一つに応じて異ならせるとよい。
【0022】
このような構成によれば、プレクーラの冷却能力や外気温を加味したガス充填速度を選択することができる。例えば、冷却能力が高い場合や外気温が低い場合には、ガス充填速度を上げて充填時間を短縮することが可能となる。
【0023】
好ましくは、制御装置は、ガス充填開始時に選択したガス充填速度でガス充填を行うと共に、このガス充填速度を、ガス充填中における燃料タンク内のガスの状態量をもとに変更してガス充填を行うとよい。
【0024】
こうすることで、ガス充填中の燃料タンク内の状態に適した充填が可能となる。
【0025】
好ましくは、ガスステーションは、燃料タンク内の温度情報を取得する温度取得部と、燃料タンク内の圧力情報を取得する圧力取得部と、を更に備え、制御装置は、温度取得部及び圧力取得部が取得した温度情報及び圧力情報をもとに、燃料タンク内のガスの状態量を認識するとよい。
【0026】
この構成によれば、ガスステーションの外部にある燃料タンク内のガスの状態量を、ガスステーション側で実際の取得情報をもとに把握することができる。
【0027】
より好ましくは、温度取得部及び圧力取得部は、それぞれ、ガスステーションの外部にある温度センサ及び圧力センサの検出を通信により温度情報及び圧力情報として取得するものであり、制御装置は、温度センサ及び圧力センサが検出した温度及び圧力を、燃料タンク内のガスの状態量として認識するとよい。
【0028】
この構成によれば、通信を利用しているので、ガスステーションの外部に温度センサ及び圧力センサがある場合にも、それらの検出情報をガスステーションにて簡単に把握することができる。
【0029】
本発明の別のガスステーションは、外部の燃料タンクに対してガスを充填するガスステーションにおいて、燃料タンク内のガスの状態量をもとに燃料タンク内の充填率(以下、第1のSoCという。)を算出すると共に、外部から指定された燃料タンク内に充填すべきガス量を特定し且つこの特定したガス量を前記算出した第1のSoCの燃料タンクに充填した場合の燃料タンク内の充填率(以下、第2のSoCという。)を算出する制御装置を備え、制御装置は、燃料タンクへのガス充填開始時に、第2のSoCが100%を下回る場合には、第2のSoCが100%以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択するとよい。
【0030】
この構成によれば、上記した本発明に係るガスステーションと同様に、特定した充填量(指定充填量)を充填しても満充填とならない場合に、迅速なガス充填をガス充填開始時から行うことができ、充填時間の短縮化を図ることができる。
【0031】
本発明の別のガスステーションは、上記した本発明に係るガスステーションと同様に、以下の好ましい態様を採用することができる。
【0032】
すなわち、制御装置は、第2のSoCが100%を下回る場合に選択するガス充填速度を、第2のSoCの大きさ及び燃料タンクに関する特性の少なくとも一つに応じて異ならせるとよい。
【0033】
また、制御装置は、制御装置は、燃料タンク内のガスの状態量ごとに複数のガス充填速度を規定した充填速度マップを、第2のSoCの大きさごとに有した充填速度マップ群を予め具備しており、制御装置がガス充填開始時にガス充填速度を選択する方法は、充填速度マップ群から、第2のSoCの大きさに対応した充填速度マップを選択し、この選択した充填速度マップから、燃料タンク内のガスの状態量に対応するガス充填速度を選択する方法であるとよい。
【0034】
さらに、制御装置は、第2のSoCが100%を下回る場合に選択するガス充填速度を、プレクーラの冷却能力及び外気温取得部の取得結果による外気温の少なくとも一つに応じて異ならせるとよい。
【0035】
本発明のガス充填システムは、燃料タンクを搭載した車両と、上記した本発明のいずれかに係るガスステーションと、を備えたものである。
【0036】
本発明の別のガス充填システムは、燃料タンクを搭載した車両と、燃料タンクに対して燃料ガスを供給するガスステーションと、を備えたガス充填システムにおいて、上記の充填可能量を算出する算出部と、上記の指定充填量を特定する特定部と、燃料タンクへのガス充填開始時に、指定充填量が充填可能量を下回る場合には、指定充填量が充填可能量以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択する選択部と、を備えたものであり、選択部が選択したガス充填速度となるようにガス充填を制御する運転制御部と、を備え、ガスステーションは、算出部、特定部、選択部及び運転制御部のうち、少なくとも運転制御部を有するものである。
【0037】
この場合、算出部、特定部及び選択部の少なくとも一つについては、ガスステーションではなく、車両に具備させることが可能である。
【0038】
好ましくは、車両は、算出部を有すると共に、車両側通信機を有し、ガスステーションは、特定部及び選択部を有すると共に、算出部が算出した充填可能量の情報を車両側通信機から受信するステーション側通信機を有するとよい。
【0039】
この構成によれば、車両側で算出した燃料タンクの充填可能量の情報をガスステーション側に伝え、ガスステーションの選択部によるガス充填速度の選択に利用することができる。
【0040】
本発明のガス充填方法は、ガスステーションの外部にある燃料タンクに対してガスステーションからガスを充填するガス充填方法において、燃料タンク内のガスの状態量をもとに燃料タンク内の充填可能なガス量を算出するステップと、外部から指定された燃料タンク内に充填すべきガス量を特定するステップと、燃料タンクへのガス充填開始時に、特定したガス量が算出したガス量を下回る場合には、そうではない場合に選択するガス充填速度に比べて大きいガス充填速度を選択するステップと、選択したガス充填速度となるようにガス充填を行うステップと、を備えたものである。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態に係るガス充填システムの概略図である。
【図2】実施形態に係るガス充填システムの構成図である。
【図3】実施形態に係るガスステーションの制御装置の機能ブロック図である。
【図4】実施形態に係るガス充填システムの充填フローを示すフローチャートである。
【図5】実施形態に係る充填フローに用いる充填速度マップ群の一例を示す図である。
【図6】実施形態に係る充填速度マップ群に関し、タンク圧力及びタンク温度が同じ条件であるときのSoCと充填速度等との関係をまとめた表である。
【図7】実施形態に係る充填フローを用いてガス充填を行った場合の充填時間と充填量との関係を示す図であり、(a)は燃料タンクの残量がない状態から充填した場合を示し、(b)は燃料タンクの残量がある状態から充填した場合を示す。
【図8】実施形態の第1の変形例に係る充填フローを示すフローチャートである。
【図9】実施形態の第1の変形例に係る充填フローを用いて、燃料タンクの残量がある状態からガス充填を行った場合の充填時間と充填量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。ここでは、ガス充填システムとして、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両の燃料タンクに対して、水素ステーションから水素ガスを充填する例を説明する。なお、燃料電池システムは、公知のとおり、燃料ガス(例えば水素ガス)と酸化ガス(例えば空気)の電気化学反応によって発電する燃料電池などを備える。また、水素ガスの充填とは、水素ガスを水素ステーションから燃料タンクに供給する態様の一つである。
【0043】
図1に示すように、ガス充填システム1は、例えばガスステーションとしての水素ステーション2と、水素ステーション2から水素ガスを供給される車両3と、を備える。
【0044】
図2に示すように、車両3は、燃料タンク30、レセプタクル32、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42、通信機44及び制御装置46を備える。
燃料タンク30は、燃料電池への燃料ガス供給源であり、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能な高圧タンクである。燃料タンク30を複数搭載する場合には、燃料タンク30は燃料電池に対して並列に接続される。燃料タンク30内の水素ガスは、図示省略した供給管路を介して燃料電池に供給される。一方、燃料タンク30への水素ガスの供給は、水素ガスが水素ステーション2からレセプタクル32を介して充填流路34に放出されることで行われる。充填流路34は、燃料タンク30外にあるガス配管と、燃料タンク30の口部に取り付けられた図示省略のバルブアッセンブリ内にある流路部分と、からなる。また、充填流路34には、水素ガスの逆流を防止するための逆止弁35が設けられる。
【0045】
圧力センサ36は、水素ステーション2から放出された水素ガスの圧力を検出するものであり、充填流路34に設けられる。例えば、圧力センサ36は、逆止弁35よりも下流側であって且つ燃料タンク30の直前にある上記のガス配管に設けられ、実質的に燃料タンク30内の水素ガスの圧力(以下、「タンク圧力」という。)を反映する圧力を検出する。
温度センサ38は、上記バルブアッセンブリ内の流路部分に設けられ、燃料タンク30内に配置される。温度センサ38は、燃料タンク30内の水素ガスの温度(以下、「タンク温度」という。)を反映する温度を検出する。なお、他の実施態様では、圧力センサ36を燃料タンク30内に配置してもよい。また、燃料タンク30内における温度センサ38の配置位置は、タンク温度を実質的に検出できる位置であれば特に限定されるものではないが、燃料タンク30内への水素ガスの吹出し口の近傍にあることが好ましい。
【0046】
表示装置42は、例えばカーナビゲーションシステムの一部としても用いることが可能なものであり、各種情報を画面に表示する。通信機44は、車両3が水素ステーション2との間で通信するためのものであり、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。通信器44は、水素ステーション2の充填ノズル12をレセプタクル32に接続した状態で通信可能となるように、レセプタクル32に組み込まれるか、あるいは車両3のリッドボックス内に固定される。制御装置46は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成され、車両3を制御する。制御装置46は、圧力センサ36、温度センサ38、表示装置42及び通信機44などと接続されており、車両3にて把握可能な情報、例えば圧力センサ36及び温度センサ38による検出情報を通信機44を用いて、水素ステーション2に送信する。
【0047】
水素ステーション2は、水素ステーション2にある各機器を制御する制御装置5と、車両3との間で通信するための通信機6と、各種情報を画面に表示する表示装置7と、水素ステーション2の設置場所の外気温を検出する外気温センサ8と、を備える。通信機6は、車両3の通信機44に対応した形式のものであり、通信機44との間で各種情報を送受信する。表示装置7は、充填中における充填速度(充填流量)及び充填量などの情報を表示する。また、表示装置7は、作業者又は利用者(以下、「ユーザー」という。)が所望の充填条件を入力することが可能な操作パネルを表示画面に具備する。すなわち、ユーザーは、所望の充填条件として、満タン充填(満充填)、所望の充填量及び1回の充填に支払う所望の金額などを表示装置7の操作パネルを介して指定することができる。なお、他の実施態様では、表示装置7とは異なる装置を用いて、ユーザーからの充填条件の入力を受けることができるようにしてもよい。
【0048】
また、水素ステーション2は、水素ガスを貯蔵するカードル(ガス供給源)11と、水素ガスを車載の燃料タンク30に向けて放出する充填ノズル12と、これらを結ぶガス流路13と、を有する。充填ノズル12は、充填カップリングとも称される部品であり、水素ガスの充填に際して、車両3のレセプタクル32に接続される。充填ノズル12とレセプタクル32によって、水素ステーション2と燃料タンク32とを接続する接続ユニットが構成される。また、充填ノズル12には、水素ステーション2が燃料タンク30に供給する水素ガスの圧力及び温度を検出する圧力センサ9及び温度センサ10が設けられる。これらのセンサ9,10を充填ノズル12に設ければ、水素ステーション2から燃料タンク30に実際に供給される水素ガスの実圧力及び実温度を簡単な構成により取得することができる。なお、温度センサ10は充填ノズル12の先端(燃料タンク30側の部分)に設けられることがより好ましい。
【0049】
ガス流路13には、圧縮機14、蓄圧器15、プレクーラ16、流量制御弁17、流量計18及びディスペンサ19が設けられる。圧縮機14は、カードル11からの水素ガスを圧縮して吐出する。蓄圧器15は、圧縮機14によって所定圧力まで昇圧された水素ガスを蓄える。プレクーラ16は、蓄圧器15からの室温程度の水素ガスを所定の低温(例えば−20℃又は−40℃)に冷却する。流量制御弁17は、電気的に駆動される弁であり、制御装置5からの指令に従って、蓄圧器15からの水素ガスの流量を調整する。これにより、燃料タンク30への水素ガスの充填流量(充填速度)が制御される。この制御された充填流量が流量計18によって計測され、その計測結果を受けて所望の充填流量となるように、制御装置5が流量制御弁17をフィードバック制御する。なお、流量制御弁17以外の流量制御装置を用いることも可能である。ディスペンサ19は、水素ガスを充填ノズル12へと送り出すものである。例えば、充填ノズル12のトリガーレバーを引くとディスペンサ19が作動し、充填ノズル12から燃料タンク30に向けて水素ガスの放出が可能となる。なお、図示省略したが、蓄圧器14又はその下流側には、充填時にガス流路13を開く遮断弁が設けられる。
【0050】
制御装置5は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置5は、図2において一点鎖線で示した制御線にて接続されている通信機6、表示装置7、外気温センサ8、圧力センサ9、温度センサ10、流量制御弁17及び流量計18のほか、蓄圧器15等とも電気的に接続される。例えば、制御装置5は、圧力センサ36及び温度センサ38が検出した圧力及び温度を、燃料タンク30内の圧力及び温度(すなわち、タンク圧力及びタンク温度)として認識して、水素ガスの充填を制御する。詳細には、制御装置5は、通信機6から受け取った車両3側のタンク圧力及びタンク温度の情報をもとに流量制御弁17の開度を制御する。また、制御装置5は、水素ステーション2にて把握可能な情報を通信機6を用いて、車両3に送信する。なお、通信機6が、後述の特許請求の範囲に記載の温度取得部及び圧力取得部に相当する。
【0051】
図3に示すように、制御装置5は、充填速度の制御を実現するための機能ブロックとして、記憶部61、算出部62、特定部63、選択部64及び運転制御部65を備える。記憶部61は、上記のROMやRAMなどからなり、例えば、後述する充填速度マップ群(複数の充填速度マップ)を予め記憶する。詳細は後述するように、算出部62は、燃料タンク30内の水素ガスの状態量をもとに燃料タンク30内の充填可能な水素ガス量を算出し、特定部63は、ユーザーにより指定された燃料タンク30内に充填すべき水素ガス量を特定する。選択部64は、算出部62の算出結果及び特定部63の特定結果を踏まえて、記憶部61にある充填速度マップから適切な充填速度を選択する。運転制御部65は、燃料タンク30への水素ガスの充填を制御する。詳細には、運転制御部65は、選択部64により選択された充填速度となるように、各種機器に制御指令を送信し、水素ガス充填を行うように各種機器を制御する。
【0052】
以上のガス充填システム1において、車両3に水素ガスを充填する場合、先ず、充填ノズル12をレセプタクル32に接続し、この状態にて、ディスペンサ19を作動させる。すると、充填ノズル12から燃料タンク30に向けて水素ガスが放出され、燃料タンク30に充填される。
本実施形態のガス充填システム1及びガス供給方法では、充填開始時に、燃料タンク30内の水素ガスの残量等を把握した上で、ユーザーにより指定された充填条件に適した充填速度を選択することで、充填時間の短縮化を図っている。
【0053】
次に、図4を参照して、ガス充填システム1における充填フローを説明する。
【0054】
ユーザーによって、充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされると(ステップS1)、水素ステーション2と車両3との間で無線通信が確立される。その後、車両3では、燃料タンク30の初期状態の水素ガスの状態量として、タンク圧力及びタンク温度が読み込まれる(以下、それぞれ「タンク初期圧力」及び「タンク初期温度」という)。タンク初期圧力及びタンク初期温度は、それぞれ圧力センサ36及び温度センサ38によって検出され、その検出された情報は、制御装置46の例えばRAMに一時的に記憶される。
【0055】
次いで、タンク初期圧力及びタンク初期温度の情報が、車両3から水素ステーション2へと送信される(ステップS2)。これは、通信機44―通信機6間の通信を用いることで、制御装置46から制御装置5に伝えることで行われる。これにより、制御装置5は、車両3側のタンク初期圧力及びタンク初期温度を把握する。ここで、送信するタンクデータとしては、タンク初期圧力及びタンク初期温度の情報のほかに、車両3における燃料タンク30の搭載本数、燃料タンク30の一本あたりの最大水素搭載量(満タン時のタンク内水素量、燃料タンクの容量)、及び燃料タンク30が複数ある場合にはその合計水素搭載量に関する情報を含めてもよい。
【0056】
次に、水素ステーション2の制御装置5は、受信したタンク初期圧力及びタンク初期温度をもとに、燃料タンク30内の残水素量M1を算出する(ステップS3)。この算出は、制御装置5の算出部62によって行われる。なお、残水素量M1は、タンク初期圧力及びタンク初期温度を所定の計算式にあてはめることで算出することができる。
【0057】
このとき、算出部62は、燃料タンク30内の充填可能な水素量(以下、「充填可能量Ma」という。)を算出することもできる(ステップS3)。充填可能量Maは、燃料タンク30の容量から残水素量M1を減算することで算出される。なお、燃料タンク30の容量については、上記した通信を用いることで水素ステーション2にて把握することができる。さらに、算出部62は、燃料タンク30内の水素ガスの充填率、すなわち、SoC(Soak of Charge)を算出することもできる(ステップS3)。SoCは、厳密にはガス密度に基づいて計算されるものであるが、簡易的には、残水素量M1を燃料タンク30の容量で除算した値として表すことができる。以下、このときのSoCを「初期SoC」(第1のSoC)という。
【0058】
次のステップS4では、ユーザーによって、所望の充填条件が指定される。これは、水素ステーション2の表示装置7等をインターフェースとして行われる。充填条件として満タン充填が指定された場合には、選択部63によって充填速度マップXが選択され、充填速度マップXに規定する充填速度となるように水素充填が制御される(ステップS5)。
【0059】
一方、充填条件として、充填に支払いたい金額や水素量が指定された場合には、指定された燃料タンク30内に充填すべき充填量を特定する(ステップS6)。この特定は、制御装置5の特定部63によって行われる。具体的には、充填したい金額が指定された場合には、その金額に相当する水素量を燃料タンク30内に充填すべき充填量として特定する。また、充填したい水素量が指定された場合には、その水素量を燃料タンク30内に充填すべき充填量として特定する。以下、特定されるこれらの充填量を「指定充填量Mb」と総称する。
【0060】
次いで、指定充填量Mbを燃料タンク30に充填した場合の燃料タンク30内の水素量(以下、「予想水素量M2」という。)を算出する(ステップS7)。予想水素量M2は次式のとおり表すことができる。この算出も上記の算出部62により行うことができる。
予想水素量M2=残水素量M1+指定充填量Mb
【0061】
また、算出部62は、指定充填量Mbを燃料タンク30に充填した場合の燃料タンク30内のSoC(以下、「予想SoC」(第2のSoC)という。)を算出することもできる(ステップS7)。予想SoCは、次式のとおり簡易的に表すことができる。
予想SoC=予想水素量M2÷燃料タンク30の容量
【0062】
その後、指定充填量Mbを充填した場合に燃料タンク30内が満タンになるか否かを判断する(ステップS8)。具体的には、指定充填量Mbが充填可能量Ma以上であるか否かを判断する。指定充填量Mbが充填可能量Ma以上である場合には、燃料タンク30内が満タンになると判断する(ステップS8;Yes)。逆に、指定充填量Mbが充填可能量Maを下回る場合には、燃料タンク30内が満タンにならないと判断する(ステップS8;No)。このステップS8における判断は、例えば上記の選択部64で行うことができ、その判断の結果に応じて、選択すべき充填マップが異なることになる(ステップS5、S9)。
【0063】
ここで、燃料タンク30内が満タンになるか否かの判断(ステップS8)については、指定充填量Mbと充填可能量Maとを比較する以外の方法を用いてもよい。例えば、ステップS7において予想水素量M2を算出する場合には、予想水素量M2が燃料タンク30の容量以上であるか否かで判断してもよい。予想水素量M2が燃料タンク30の容量未満である場合には、指定充填量Mbを充填しても燃料タンク30内が満タンにならないことになる。また、ステップS7において予想SoCを算出する方法を採用している場合には、予想SoCが100%以上であるか否かで判断してもよい。予想SoCが100%を下回る場合にも、指定充填量Mbを充填しても燃料タンク30内が満タンにならないことになる。
【0064】
ステップS8の結果、満タンになると判断した場合には(ステップS8;Yes)、満タン充填を行う場合と同じように、充填速度マップXを選択して水素充填を行う(ステップS5)。一方、満タンにならないと判断した場合には(ステップS8;No)、充填速度マップXよりも早期の充填が可能な充填速度マップYnを選択して水素充填を行う(ステップS9)。
【0065】
ここで、充填速度マップX,Ynについて説明する。
充填速度マップX、Ynは、充填速度マップ群の一部として予め制御装置5の記憶部61に記憶されている。充填速度マップ群の一例を図5に示すと、充填速度マップ群MMは、縦軸をタンク圧力、横軸をタンク温度として、複数の充填速度を規定する充填速度マップを、いくつかのSoCごとに備えたものである。SoC100%に対応する充填速度マップが充填速度マップXであり、SoC100%未満に対応する充填速度マップが、例えばSoC10パーセントごとに設けられた充填速度マップYn(Y1、Y2、Y3・・・)である。
【0066】
なお、充填速度マップYnの数を決定するSoCの範囲の区切り方は、任意に設定することができる。また、SoCの範囲で区切るのではなく、充填可能量Maに対する指定充填量Mbの大きさごとに区切った充填速度マップYn(Y1、Y2、Y3・・・)を用いてもよい。例えば、充填可能量Maに対する指定充填量Mbの大きさが、90%に対応するものとして充填速度マップY1を用意し、80%に対応するものとして充填速度マップY2を用意してもよい。
【0067】
一つの充填速度マップにおける各充填速度(充填速度マップXでいうA1、A2など。)は、タンク圧力及びタンク温度の各条件下において、燃料タンク30内の温度が所定の基準値(ここでは、85℃とする。)を超えないように最速で充填できる充填速度を意味する。充填速度マップでは、タンク圧力が大きいほど、あるいは、タンク温度が小さいほど、充填速度を大きくすることができる。したがって、充填流量マップXにおける充填速度A1〜H8のうち、充填速度H1(タンク圧力80MPa,タンク温度−30℃)が最も大きく、充填速度A8(タンク圧力10MPa,タンク温度40℃)が最も小さくなる。なお、図5に示した充填速度マップX,Ynでは、タンク圧力を10Mpaごとに、タンク温度を10℃ごとに設定したが、もちろんこれらの幅は任意に設定することができる。
【0068】
図6に示すように、タンク圧力及びタンク温度が同じ条件下では、充填速度マップX、Ynで規定する充填速度の値は、SoCが小さくなるほど大きくなる。例えば、図5に示すタンク圧力が40MPa、タンク温度が0℃である場合、充填速度マップXでの充填速度D4は、SoC90%に対応する充填速度マップY1での充填速度D4Y1よりも小さい。また、この充填速度D4Y1は、SoC80%に対応する充填速度マップY2での充填速度D4Y2よりも小さい。このような充填速度マップ群MMの構成であるため、充填の狙い値としてSoCが100%未満であるときは、そのSoCの大きさに対応した充填速度マップYnを用いれば、満充填(SoC100%)に対応した充填速度マップXを用いる場合よりも、タンク圧力及びタンク温度が同じ条件下では、大きな充填速度で早く充填されることになる。これについて、図7を参照して更に説明する。
【0069】
図7(a)に示すように、燃料タンク30の残量がない状態(残水素量M1=初期SoC=0)において充填速度マップXを用いて満タンを目標に充填した場合、直線L1に沿って充填され、満タンまでにかかる充填時間はtfullとなる。
ここで、目標が満タンではない場合(予想SoCが100%未満の場合。予想水素量M2<燃料タンク30の容量の場合。参照:図4のステップS8のNo。)に、本実施形態とは異なる充填方法を採用した場合を考える。この場合、充填速度マップXを用いて予想水素量M2を目標に充填したとすると、直線L1に沿って充填され、予想水素量M2までにかかる充填時間はtcomとなる。なお、このときの充填では、燃料タンク30の基準値(85℃)を狙った充填が行われず、この基準値から安全側に乖離した値を狙った充填が行われることは言うまでもない。
【0070】
これに対し、本実施形態の充填方法を採用し、予想SoCの大きさに対応した充填速度マップYnを用いて予想水素量M2を目標に充填すると、直線L2に沿って充填され、満タンまでにかかる充填時間はt1となる。つまり、本実施形態によれば、充填速度マップXに規定する充填速度よりも大きな充填速度を規定する充填速度マップYnで充填が行われるため、tcom−t1に相当する時間分、充填時間が短縮される。
【0071】
同様に、図7(b)に示すように、燃料タンク30に残量がある状態(残水素量M1≠0、初期SoC≠0)において、本実施形態の充填方法を採用して、予想SoCの大きさに対応した充填速度マップYnを用いて予想水素量M2を目標に充填すると、予想水素量M2までにかかる充填時間として、tcom−t1に相当する時間分、短縮することができる。
【0072】
なお、予想SoCの大きさに対応した充填速度マップYnを用いるとは、例えば、予想SoCの大きさが80%以上90%未満のときは充填速度マップY1を使用し、予想SoCの大きさが70%以上80%未満のときは充填速度マップY2を使用することをいうが、これは、充填速度マップYnの数やその区切り方によって異なるものとなる。また、充填速度マップとして、充填可能量Maに対する指定充填量Mbの大きさに応じたものを複数用意している場合には、この大きさに対応した充填速度マップが適宜選択されることになる。
【0073】
再び、図4に戻って説明すると、ステップS9では、先ず、選択部64が、充填速度マップ群MMから、予想SoCの大きさに対応した充填速度マップYnを選択する。次いで、選択部64は、この選択した充填速度マップYnに、ステップS2で受信したタンク初期圧力及びタンク初期温度を参照し、これらに対応する充填速度を選択する。そして、運転制御部65が、この選択した充填速度となるように充填を開始し、流量制御弁17の開度を制御する。充填中には、タンク圧力及びタンク温度を監視し、この監視するタンク圧力及びタンク温度を、充填開始時に選択した充填速度マップYnに参照することで、必要に応じて充填速度を変更し、流量制御弁17の開度を制御する。充填の結果、予想SoC又は予想水素量M2に達すると、充填が終了する。
【0074】
一方、ステップS5では、選択部64が、充填速度マップ群MMから充填速度マップXを選択し、充填速度マップXにタンク初期圧力及びタンク初期温度を参照して、対応する充填速度を選択する。その後は同様に、運転制御部65によって、選択した充填速度となるように充填が開始されると共に、充填中には、タンク圧力及びタンク温度を監視して充填速度マップXに参照し、必要に応じて充填速度を変更する。充填の結果、満タンまで充填されると、充填が終了する。なお、満タンに達したか否かの判断は、タンク圧力及びタンク温度から燃料タンク30のSoC又は充填量を計算すればよい。
【0075】
以上説明した本実施形態によれば、燃料タンク30を満タンまで充填しない場合、充填に適した充填速度マップYnを用いて最速の充填速度を選択することができる。そのため、過度に安全側の充填速度マップXを用いて充填を行う場合と比べて、充填開始時から迅速な充填を行うことができる。したがって、充填時間を短縮することができる。特に、充填速度マップYnを複数のSoCの大きさごとに適したものを用意し、予想SoCの大きさに対応した充填速度マップYnを選択するので、充填時間の短縮化をより一層図ることができる。
【0076】
また、燃料タンク30を満タンまで充填する場合にも、それに適した充填速度マップXを用いて最速の充填速度を選択することができるため、できるだけ短時間で充填を完了させることができる。
【0077】
<変形例>
次に、本実施形態の二つの変形例について説明する。
【0078】
<第1の変形例>
図8に示す第1の変形例が上記実施形態と主に相違する点は、ステップS9の代わりにステップS19を行う点である。なお、ステップS11〜18は、図4のステップS1〜8と同じであるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0079】
ステップS19では、上記した予想SoCの大きさに加えて、燃料タンク30に関する特性及び水素ステーション2の環境条件も考慮して、充填速度マップYnを選択する。
【0080】
先ず、燃料タンク30に関する特性について説明する。
燃料タンク30に関する特性には、燃料タンク30の放熱性が含まれる。燃料タンク30の放熱性は、燃料タンク30を構成する材料や、燃料タンク30の体格(長さ、径、容量、表面積等)など、燃料タンク30の仕様によって異なる。例えば、燃料タンク30のライナーとしてアルミニウムを用いた場合には、樹脂(ポリエチレンなど)を用いた場合よりも、放熱性は優れたものとなる。また、樹脂ライナーにおける樹脂の特性や配合割合によっても放熱性は異なる。さらに、燃料タンク30の体格、例えば径に対する長さの比や、表面積に対する容量の比によっても、放熱性は異なる。また、燃料タンク30の放熱性は、燃料タンク30に影響を及ぼす冷却因子によっても異なる。例えば、そのような冷却因子として、車両3における燃料タンク30の搭載位置による走行風の影響度合いや、燃料タンク30周辺の熱源の存在などが挙げられる。
【0081】
ここで、燃料タンク30の放熱性が優れている場合、それが優れていない場合に比べて、充填に伴う燃料タンク30内の温度上昇率又は温度上昇量を低く抑えることができる。したがって、燃料タンク30の放熱性が優れている場合には、そうではない場合よりも、より大きい充填速度を用いることが可能である。
【0082】
次に、水素ステーション2の環境条件について説明する。
この環境条件としては、水素ステーション2が設置されている環境の外気温と、水素ステーション2におけるプレクーラ16の冷却能力とが考えられる。外気温が低い場合には、それが高い場合よりも、充填に伴う燃料タンク30内の温度上昇率又は温度上昇量を低く抑えることができる。したがって、外気温が低い場合ほど、大きい充填速度を用いることが可能である。
【0083】
同様に、プレクーラ16がある場合は、それがない場合(すなわち、冷却能力がゼロ。)よりも、充填に伴う燃料タンク30内の温度上昇率等を低く抑えることができる。また、プレクーラ16によって冷却される水素ガスの温度が低いほど、充填に伴う燃料タンク30内の温度上昇率等を低く抑えることができる。つまり、プレクーラ16の冷却能力によって、充填に伴う燃料タンク30内の温度上昇率等は可変する。したがって、プレクーラ16の冷却能力が高いほど、大きい充填速度を用いることが可能である。
【0084】
ステップ19では、以上の二つの因子も考慮するため、充填速度マップYn(Y1、Y2、Y3・・・)としては、図5に示したSoCの大きさごとに設けられたものに、さらに、燃料タンク30に関する特性(放熱性)の軸と、水素ステーション2の環境条件(外気温、プレクーラ16の冷却能力)に関する軸とを加えた複数次元のマップが用いられる。この具体的な例について、図9を参照して説明する。
【0085】
図9は、図7(b)と同様に、燃料タンク30に残量がある状態(残水素量M1≠0、初期SoC≠0)から充填した場合を示している。
図9に示すように、充填速度マップXを用いて満タン又は予想水素量M2を目標に充填した場合、直線L1に沿って充填され、満タン又は予想水素量Mまでにかかる充填時間はtfull又はtcomとなる。
【0086】
ここで、図9のケースIは、燃料タンク30に関する特性及び水素ステーション2の環境条件を考慮しないで、予想SoCの大きさに対応した充填速度マップYnを用いて充填した場合を示すものである(つまり、図7(b)に示す破線に沿った充填と同じ。)。この場合、予想水素量M2までにかかる充填時間は、tcom−t1に相当する時間分、短縮される。
【0087】
図9のケースII〜IVは、燃料タンク30に関する特性及び水素ステーション2の環境条件を考慮した場合を示すものである。
例えば、ケースIIは、ケースIとは、水素ステーション2の環境条件のみが異なり、ケースIよりも、外気温が低いか又はプレクーラ16の冷却能力が高い場合である。このようなケースIIでは、ケースIで用いる充填速度マップよりも大きい充填速度を規定する充填速度マップを用いて、予想水素量M2を目標に充填する。その結果、ケースIの場合よりも、t2−t1に相当する時間分、充填時間が短縮される。
【0088】
ケースIIIは、例えば、ケースIとは、燃料タンク30に関する特性のみが異なり、ケースIよりも、放熱性が優れた燃料タンク30を用いている場合である。このようなケースIIIでは、ケースIで用いる充填速度マップよりも大きい充填速度を規定する充填速度マップを用いる。その結果、ケースIの場合よりも、t3−t1に相当する時間分、充填時間が短縮される。
【0089】
なお、詳述しないが、ケースIVとケースIIIとの関係は、ケースIIとケースIとの関係と同様に、互いに、水素ステーション2の環境条件のみが異なる関係にある場合を示したものである。より大きい充填速度を規定する充填速度マップを用いるケースIVの場合の方が、ケースIIIの場合と比較して、t3−t4に相当する時間分、充填時間が短縮される。
【0090】
再び、図8に戻って説明すると、ステップS19において充填速度マップYnを選択する際、その選択に用いる燃料タンク30に関する特性の情報については、水素ステーション2の記憶部61に予め記憶させておいたものを用いることができる。しかし、燃料タンク30に関する特性は、現在又は将来の車両又は燃料タンクにおいて必ずしも同じというわけではない。そのため、燃料タンク30に関する特性の情報については、車両3の制御装置46の記憶部に記憶させておき、ステップS12の際に通信機44―通信機6間の通信を用いることで、制御装置46から制御装置5に伝えることが望ましい。こうすることで、水素ステーション2側で燃料タンク30に関する特性の情報を予め記憶しておかなくとも、この情報をステップS19において利用することができる。
【0091】
また、充填速度マップYnを選択する際に用いる水素ステーション2の環境条件のうち、外気温の情報については、外気温センサ8が検出した充填開始時の外気温を用いればよい。この場合、外気センサ8が、特許請求の範囲に記載の外気温取得部に相当する。なお、車両3側に別途設けた外気温センサを利用し、その充填開始時に検出結果をステップS12の際に通信を用いて制御装置5に伝える場合には、この外気温センサが検出した外気温を用いることも可能である。この場合は、水素ステーション2の通信機6が特許請求の範囲に記載の外気温取得部に相当することになる。
【0092】
さらに、充填速度マップYnを選択する際に用いる水素ステーション2の環境条件のうち、プレクーラ16の冷却能力の情報については、水素ステーション2の記憶部61に予め記憶させておいたものを用いればよい。
【0093】
以上説明した第1の変形例によれば、上記した実施形態による作用効果を奏することはもちろん、さらに、燃料タンク30に関する特性、プレクーラ16の冷却能力や外気温を加味した最速の充填速度で充填を行うことができる。したがって、充填時間をより一層短縮することができる。
【0094】
なお、ステップS19において、燃料タンク30に関する特性及び水素ステーション2の環境条件の一方を考慮しないように設計変更することもできるし、プレクーラ16の冷却能力及び外気温の一方を考慮しないように設計変更することもできる。
【0095】
<第2の変形例>
【0096】
図3に示す制御装置5の機能ブロックのいくつかを車両3側の制御装置46に具備させることができる。例えば、算出部62を制御装置46に具備させた場合には、制御装置46の算出部が、図4のステップS3及び図8のステップS13に示す充填可能量Ma等の算出を行うことになる。この場合、その算出結果を通信機44―通信機6間の通信を用いることで制御装置46から制御装置5に伝えることで、制御装置5において、指定充填量Mbを充填したときに満タンになるかを判断(図4のステップS8、図8のステップS18)することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のガスステーション、ガス充填システム及び燃料ガス供給方法は、水素ガスのみならず、天然ガスなど他の燃料ガスにも適用することができる。また、車両に限らず、航空機、船舶、ロボットなど、外部からの燃料ガスの充填先として燃料タンクを搭載した移動体に適用することができる。
【符号の説明】
【0098】
1:ガス充填システム、2:ガスステーション、3:車両、5:制御装置、6:通信機(温度取得部、圧力取得部、外気温取得部)、8:外気温センサ(外気温取得部)、16:プレクーラ、30:燃料タンク、36:圧力センサ、38:温度センサ、44:通信機、62:算出部、63:特定部、64:選択部、65:運転制御部、MM:充填側マップ群、X、Yn:充填速度マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の燃料タンクに対してガスを充填するガスステーションにおいて、
前記燃料タンク内のガスの状態量をもとに当該燃料タンク内の充填可能なガス量(以下、充填可能量という。)を算出すると共に、外部から指定された前記燃料タンク内に充填すべきガス量(以下、指定充填量という。)を特定する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記燃料タンクへのガス充填開始時に、前記指定充填量が前記充填可能量を下回る場合には、前記指定充填量が前記充填可能量以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択する、ガスステーション。
【請求項2】
前記制御装置は、前記指定充填量が前記充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、前記充填可能量に対する前記指定充填量の大きさに応じて異ならせる、請求項1に記載のガスステーション。
【請求項3】
前記制御装置は、前記燃料タンク内のガスの状態量ごとに複数のガス充填速度を規定した充填速度マップを、充填可能量に対する指定充填量の大きさごとに有した充填速度マップ群を予め具備しており、
前記制御装置が前記ガス充填開始時にガス充填速度を選択する方法は、前記充填速度マップ群から、前記充填可能量に対する前記指定充填量の大きさに対応した充填速度マップを選択し、この選択した充填速度マップから、前記燃料タンク内のガスの状態量に対応するガス充填速度を選択する方法である、請求項2に記載のガスステーション。
【請求項4】
前記制御装置が前記充填速度マップからガス充填速度を選択する際に用いる前記燃料タンク内のガスの状態量は、前記ガス充填開始時におけるものである、請求項3に記載のガスステーション。
【請求項5】
前記制御装置は、前記指定充填量が前記充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、前記燃料タンクに関する特性に応じて異ならせる、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項6】
前記燃料タンクに関する特性には、当該燃料タンクの放熱性が含まれており、
前記制御装置は、前記燃料タンクの放熱性が高くなるにしたがって、大きいガス充填速度を選択する、請求項5に記載のガスステーション。
【請求項7】
前記燃料タンクに関する特性の情報を通信により受信する通信機を更に備えた、請求項5又は6に記載のガスステーション。
【請求項8】
前記燃料タンクに充填するガスを冷却するプレクーラを更に備え、
前記制御装置は、前記指定充填量が前記充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、前記プレクーラの冷却能力に応じて異ならせる、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項9】
外気温情報を取得する外気温取得部を更に備え、
前記制御装置は、前記指定充填量が前記充填可能量を下回る場合に選択するガス充填速度を、前記外気温取得部の取得結果による外気温に応じて異ならせる、請求項1ないし8のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項10】
前記制御装置は、ガス充填開始時に選択したガス充填速度でガス充填を行うと共に、当該ガス充填速度を、ガス充填中における燃料タンク内のガスの状態量をもとに変更してガス充填を行う、請求項1ないし9のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項11】
前記燃料タンク内の温度情報を取得する温度取得部と、
前記燃料タンク内の圧力情報を取得する圧力取得部と、を更に備え、
前記制御装置は、前記温度取得部及び前記圧力取得部が取得した温度情報及び圧力情報をもとに、前記燃料タンク内のガスの状態量を認識する、請求項1ないし10のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項12】
前記温度取得部及び前記圧力取得部は、それぞれ、当該ガスステーションの外部にある温度センサ及び圧力センサの検出を通信により前記温度情報及び圧力情報として取得するものであり、
前記制御装置は、前記温度センサ及び前記圧力センサが検出した温度及び圧力を、前記燃料タンク内のガスの状態量として認識する、請求項11に記載のガスステーション。
【請求項13】
外部の燃料タンクに対してガスを充填するガスステーションにおいて、
前記燃料タンク内のガスの状態量をもとに当該燃料タンク内の充填率(以下、第1のSoCという。)を算出すると共に、外部から指定された前記燃料タンク内に充填すべきガス量を特定し且つこの特定したガス量を前記算出した第1のSoCの燃料タンクに充填した場合の当該燃料タンク内の充填率(以下、第2のSoCという。)を算出する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記燃料タンクへのガス充填開始時に、前記第2のSoCが100%を下回る場合には、当該第2のSoCが100%以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択する、ガスステーション。
【請求項14】
前記制御装置は、前記第2のSoCが100%を下回る場合に選択するガス充填速度を、当該第2のSoCの大きさ及び前記燃料タンクに関する特性の少なくとも一つに応じて異ならせる、請求項13に記載のガスステーション。
【請求項15】
前記制御装置は、前記燃料タンク内のガスの状態量ごとに複数のガス充填速度を規定した充填速度マップを、前記第2のSoCの大きさごとに有した充填速度マップ群を予め具備しており、
前記制御装置が前記ガス充填開始時にガス充填速度を選択する方法は、前記充填速度マップ群から、前記第2のSoCの大きさに対応した充填速度マップを選択し、この選択した充填速度マップから、前記燃料タンク内のガスの状態量に対応するガス充填速度を選択する方法である、請求項14に記載のガスステーション。
【請求項16】
前記燃料タンクに充填するガスを冷却するプレクーラを更に備え、
前記制御装置は、前記第2のSoCが100%を下回る場合に選択するガス充填速度を、前記プレクーラの冷却能力に応じて異ならせる、請求項13ないし15のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項17】
外気温情報を取得する外気温取得部を更に備え、
前記制御装置は、前記第2のSoCが100%を下回る場合に選択するガス充填速度を、前記外気温取得部の取得結果による外気温に応じて異ならせる、請求項13ないし16のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項18】
前記制御装置は、ガス充填開始時に選択したガス充填速度でガス充填を行うと共に、当該ガス充填速度を、ガス充填中における燃料タンク内のガスの状態量をもとに変更してガス充填を行う、請求項13ないし17のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項19】
前記燃料タンク内の温度情報を取得する温度取得部と、
前記燃料タンク内の圧力情報を取得する圧力取得部と、を更に備え、
前記制御装置は、前記温度取得部及び前記圧力取得部が取得した温度情報及び圧力情報をもとに、前記燃料タンク内のガスの状態量を認識する、請求項13ないし18のいずれか一項に記載のガスステーション。
【請求項20】
前記温度取得部及び前記圧力取得部は、それぞれ、当該ガスステーションの外部にある温度センサ及び圧力センサの検出を通信により前記温度情報及び圧力情報として取得するものであり、
前記制御装置は、前記温度センサ及び前記圧力センサが検出した温度及び圧力を、前記燃料タンク内のガスの状態量として認識する、請求項19に記載のガスステーション。
【請求項21】
前記燃料タンクを搭載した車両と、
請求項1ないし20のいずれか一項に記載のガスステーションと、を備えた、ガス充填システム。
【請求項22】
燃料タンクを搭載した車両と、前記燃料タンクに対して燃料ガスを供給するガスステーションと、を備えたガス充填システムにおいて、
前記燃料タンク内のガスの状態量をもとに当該燃料タンク内の充填可能なガス量(以下、充填可能量という。)を算出する算出部と、
外部から指定された前記燃料タンク内に充填すべきガス量(以下、指定充填量という。)を特定する特定部と、
前記燃料タンクへのガス充填開始時に、前記指定充填量が前記充填可能量を下回る場合には、前記指定充填量が前記充填可能量以上である場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択する選択部と、
前記選択部が選択したガス充填速度となるように、ガス充填を制御する運転制御部と、を備え、
前記ガスステーションは、前記算出部、前記特定部、前記選択部及び前記運転制御部のうち、少なくとも前記運転制御部を有する、ガス充填システム。
【請求項23】
前記車両は、前記算出部を有すると共に、車両側通信機を有し、
前記ガスステーションは、前記特定部及び前記選択部を有すると共に、前記算出部が算出した充填可能量の情報を前記車両側通信機から受信するステーション側通信機を有する、請求項22に記載のガス充填システム。
【請求項24】
ガスステーションの外部にある燃料タンクに対して当該ガスステーションからガスを充填するガス充填方法において、
前記燃料タンク内のガスの状態量をもとに当該燃料タンク内の充填可能なガス量を算出するステップと、
外部から指定された前記燃料タンク内に充填すべきガス量を特定するステップと、
前記燃料タンクへのガス充填開始時に、特定したガス量が算出したガス量を下回る場合には、そうではない場合に選択するガス充填速度に比べて、大きいガス充填速度を選択するステップと、
選択したガス充填速度となるようにガス充填を行うステップと、を備えた、ガス充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−153681(P2011−153681A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16376(P2010−16376)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】