説明

ガスセンサー、そのための気体検知モジュール、およびこれらを用いた気体計測システム

【課題】半導体の製造設備における個別のガス配管にも設置可能な超小型のガスセンサー、さらにはそのガスセンサーを用いる気体計測システムを提供する。
【解決手段】誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、この気体検知素子に電気的に接続された一対の電極とを備えるガスセンサーであって、この一対の電極に印加された極性反転を含み周期的に変化する電圧に応じて変化する電気的応答から、気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とする。ガスセンサーがこの気体検知素子に静電容量部が直列に接続した構成を備えるとさらに好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサー、そのための気体検知モジュール、およびこれらを用いた気体計測システムに関し、具体的には、半導体分野で使用しうる高感度な気体検知素子を用い、半導体の製造設備における個別のガス配管に取り付け可能な超小型のガスセンサー、そのための気体検知モジュール、およびそのガスセンサーまたは気体検知モジュールを用いた気体計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンとは、炭素原子のみからなる一連の球状炭素分子のことで、1985年に炭素のレーザーアブレーションによるクラスタービームの質量分析スペクトル中にKrotoらによって発見された(Kroto,H.W; Heath,J.R.; O'Brien,S.C.; Curl,R.F.; Smalley,R.E. Nature 1985, 318,162.)。その後、ダイヤモンド、グラファイトに次ぐ第3の結晶炭素としてのフラーレンの存在が明らかにされ、そのマクロ量の合成法(炭素電極のアーク放電法など)が確立されたのは1990年になってからである(Kratschmer,W.; Fostiropoulos,K.; Huffman,D.R. Chem.Phys.Lett.1990, 170,167.及び Kratschmer,W.; Lamb,L.D.; Fostiropoulos,K.; Huffman,D.R. Nature 1990, 347,354.) 。
【0003】
フラーレンは、発見された当初から、光学的、電気的、化学的、機械的に特異な性質を有していると指摘されており、高感度の増感剤、n型半導体、活性酸素補足剤、マイクロベアリングなどの応用が検討されてきた。しかしながら、1990年代半ばに同様のカーボンナノ材料としてカーボンナノチューブ(CNT)が発見されて以来、研究者の注目はむしろこのCNTに向かっている。このため、発見から20年が経過していながら、フラーレンの基本的な諸物性はいまだに正確に把握されているとは言いがたく、さらなる解明が求められている。
【0004】
また、フラーレンをベースとした材料(以下「フラーレンベース材料」とも記し、その詳細については後述する。)には多くの種類があり、具体的には、内包フラーレン、ヘテロフラーレン(フラーレン骨格を構成する一部の炭素が他の原子(たとえば窒素)に置換されたもの)、ノルフラーレン(フラーレン骨格構成炭素の一部が欠落したもの)、化学修飾フラーレン、フラーレン重合体が例示される。これらの材料については、多くが合成方法すら確立しておらず、物理特性も不明な部分が多い。
【0005】
このようなフラーレン材料(以下、フラーレンとフラーレンベース材料との総称として用いる。)の具体的な応用例の一つにガスセンサーのための気体検知素子が挙げられる(例えば特許文献1)。
【0006】
特許文献1では、酸素の含有量が1014個/cm以下で、かつ、水の含有量が1016個/cm以下であるフラーレン類を用いたガスセンサーが開示されている。特許文献1に係るガスセンサーは、当初のコンダクタンスが0.1(Ωcm)−1程度であったものが、大気圧の酸素を導入することによって2×10−9(Ωcm)−1になり、その後、窒素雰囲気中で加熱して酸素を除去することによって酸素導入前の0.1(Ωcm)−1程度に回復することが示されている。
コンダクタンスがほぼ元の値に戻り、フラーレン類の導電率は可逆的に変化することが記載されている。
【特許文献1】国際公開WO2007/029684号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような材料を用いたガスセンサーは高感度で計測できるため、半導体製造ラインにおける混入ガス検知などの目的に用いることも可能である。しかしながら、その反面、製造工程や計測環境などの影響を受けやすく、再現性高く安定して計測することが可能なセンサーとすることは容易でない。
【0008】
そこで、本発明は、半導体の製造設備における個別のガス配管にも設置可能な超小型のガスセンサーを提供すること、さらにはそのガスセンサーを用いる気体計測システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決しうる気体検知素子の構成材料の一つとなると期待されるフラーレン材料の持つ特性を詳細に検討し、その特性を最大限に活かしうるセンサーシステムの検討を行った。その結果、以下の新たな知見を得ることができた。
【0010】
(a)フラーレン材料を含む部材(例えばフラーレン材料の蒸着膜)は気体吸着によって抵抗率が上昇する(導電率が低下する)ことはよく知られているが、その気体吸着量を十分に減らすと、フラーレン材料を含む部材は良導電性の半導体領域の導電率を示すようになる。
【0011】
(b)その一方で、フラーレン材料を含む部材は、直流電場において誘電分極する誘電性を示す。すなわち、フラーレン材料は、誘電性を有する半導体と定義することができる。
【0012】
(c)このような気体の吸着によって誘電率が変動する誘電性半導体を有する気体検知素子を用いたガスセンサーは、直流電圧を印加すると誘電性に起因してチャージアップなどの不安定化現象が発生する。そこで、誘電性半導体を高感度のセンサーとして用いるためには、交流電圧を印加することがよい。交流電圧を印加し、その電気的応答、例えばコンダクタンスを計測することで安定性に優れたガスセンサーとすることが実現される。
【0013】
(d)さらに、誘電性半導体に対して静電容量部を電気的に直列に接続し、電気的応答として複素キャパシタンスにおける実部を計測すれば、計測時の雑音の影響を軽減することが可能であり、超高感度ガスセンサーが実現される。
【0014】
(e)しかも、付加した静電容量部の調整によってガスセンサーの検出能力を調整することが可能であるから、気体検知素子の製造工程における品質管理の負荷を緩和することが可能となり、高感度なガスセンサーを生産性高く得ることが実現される。
【0015】
上記の新たな知見に基づいて提供される本発明は以下のとおりである。
(1)誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、この気体検知素子に電気的に接続された一対の電極とを備え、この一対の電極に印加された極性反転を含み周期的に変化する電圧に応じて変化する電気的応答から、前記気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とすることを特徴とするガスセンサー。
【0016】
ここで、「誘電性半導体」とは、誘電性を有する半導体であって、外部からの電圧を印加したときに、生じた電界に応じて材料内部において誘電分極して所定のキャパシタンスが計測されるとともに、電荷のキャリアが外部電圧に応じて移動して所定のコンダクタンスが計測される材料をいう。したがって、その等価回路は、キャパシターと抵抗とが並列に接続された構成となる。
【0017】
「気体の吸着状態に応じて導電率が変化する」とは、気体検知素子に吸着する気体について、質的および/または量的な変化が発生したことによって、気体検知素子の導電率が変動することをいう。なお、質的変化には、気体の種類のみならず、気体検知素子を構成する物質との化学的な相互作用の程度が変化すること、例えば物理吸着から化学吸着に変化することや、気体の気体検知素子における吸着場所が変化すること、例えば表面吸着から内部に拡散しての吸着に移行することなども含まれる。
【0018】
気体検知素子における導電率変化を生じさせる気体は、一種以上あればよく、吸着しても導電率変化を生じさせない気体(以下、「不活性気体」ともいう。)があってもよい。また、導電率の変化は、誘電性半導体に起因する特性として生じることが好ましい。
【0019】
「極性反転を含み周期的に変化する電圧」とは、一対の電極の少なくとも一方の電極に対する、所定の波形が所定の周期で繰り返し印加された電圧であって、その電圧波形が、他方の電極の電位に対して正の電圧をなす場合と負の電圧をなす場合とを有するような電圧である。そのような電圧変化の典型はサイン波による交流電圧であるが、これに限定されず、波形は矩形波でも三角波でもよい。また、電圧波形の中心電圧は0Vであってもよいし、正負のいずれかの値のバイアスがかかっていてもよい。
【0020】
「電気的応答」とは、極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加したことに対するガスセンサーによる応答のうち、電気計測手段により測定可能な全ての応答をいう。したがって、測定する電気的パラメータは特に制限されず、電流の変化を応答として測定してもよいし、インピーダンスやその逆数としてのアドミタンスを測定してもよい。また、ガスセンサーの複素キャパシタンスを計測してもよいし、複素コンダクタンスを計測してもよい。それらの中でも、印加する電圧を交流として、コンダクタンスを測定することが好ましい。
【0021】
(2)誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、気体検知素子に対して直列に接続された静電容量部と、気体検知素子および静電容量部を含む電気素子の端部に夫々接続された一対の電極とを備え、この一対の電極に印加される極性反転を含み周期的に変化する電圧に応じて変化する電気的応答から、気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とすることを特徴とするガスセンサー。
【0022】
ここで、「静電容量部」とは、気体検知素子が誘電性半導体を含むことなどにより有するキャパシターとは異なる、誘電性を有する部分を備える別個の電気素子であって、その電気的端部に電圧を印加したときに所定のキャパシタンスが測定される部材をいう。その形態は任意であって、電子部品として一般的なコンデンサの形態でもよいし、二層の導電性材料に誘電性材料からなる層が挟まれた構造を有する膜状体、塊状体または線状体でもよい。また、電気二重層のような双極子や電気的障壁が静電容量部を構成していてもよい。気体検知素子に静電容量部の少なくとも一部が直接接触する構造を有していれば、ガスセンサーを小型化することができ、有利である。
【0023】
「気体検知素子および静電容量部を含む電気素子」とは、気体検知素子と静電容量部とが直列に接続されていれば他にいかなる電気的要素が接続されていてもよい。例えば、さらに直列に抵抗成分が接続されていてもよい。
【0024】
上記のガスセンサーについて「電気的応答」を測定するためにいかなる電気的パラメータを用いてもよいが、印加する電圧を交流電圧として、複素キャパシタンスにおける実部(以下「キャパシタンス実部」または「キャパシタンス」と略称する。)を測定したり、コンダクタンスを測定したりすることが好ましい。
【0025】
(3)静電容量部のキャパシタンスが前記気体検知素子のキャパシタンスよりも大きい上記(2)記載のガスセンサー。
【0026】
「気体検知素子のキャパシタンス」とは、気体検知素子が誘電性半導体のみからなる場合には、誘電性半導体のキャパシタンスがそのまま気体検知素子のキャパシタンスとなるが、気体検知素子が誘電性半導体以外の物質、例えばセラミックスのような誘電体を含む場合には、誘電性半導体のキャパシタンスとその物質のキャパシタンスとが成分比率に応じて合成されたキャパシタンスとなる。
【0027】
このように、静電容量部のキャパシタンスを前記気体検知素子のキャパシタンスよりも大きくすることで、複素キャパシタンスの実部について印加電圧の周波数依存性を計測したときに、気体検知素子の導電率を高感度で計測することが実現される。静電容量部のキャパシタンスが気体検知素子のキャパシタンスの10倍以上であれば安定した測定が実現され、100倍以上であれば測定の定量性を高めることも実現される。
【0028】
(4)静電容量部が複数の部材から構成される上記(2)または(3)に記載のガスセンサー。
ここで、「部材」とは、市販のコンデンサのような独立の部品のみならず、気体検知素子と一体化されているが、その構造が異なるために異なった誘電性を有する領域も意味する。
【0029】
(5)気体検知素子の電気的端部をなす面上に直接形成された金属層を備え、この金属層の気体検知素子側の界面部にはこの金属層の金属が改質された誘電性改質層を有し、この誘電性改質層は静電容量部の少なくとも一部をなす上記(2)から(4)のいずれかに記載のガスセンサー。
【0030】
誘電性改質層は、金属表面が酸化されたものでもよいし、窒化あるいは炭化されたものでもよい。また、これらが複合的に処理されたもの、例えば炭窒化でもよい。なお、誘電性改質層に加えて、誘電性改質層と気体検知素子との界面近傍に形成された双極子および/または電気的障壁が静電容量部を構成していてもよい。
【0031】
(6)誘電性改質層は、気体検知素子を通過した酸素により金属層の金属が酸化されてなる酸化膜である上記(5)記載のガスセンサー。
ここで、酸化膜は、通常大気中で自発的に酸化されてなる自然酸化膜でもよいし、例えば酸素を含む雰囲気で加熱して積極的に金属層の表面を酸化させた酸化膜もよい。
【0032】
(7)気体検知素子の電気的端部の少なくとも一方をなす面上に直接形成された誘電体層を備え、この誘電体層が静電容量部の少なくとも一部をなすとともに気体検知素子への電荷注入を防止する上記(2)から(6)のいずれかに記載のガスセンサー。
【0033】
誘電体層を構成する材料は、例えば酸化物などが挙げられ、誘電率が高いことが好ましく、そのような材料としてHfO系材料が例示される。また、トンネリング現象による電荷注入を防止するために1nm以上の厚みを有していることが好ましい。
【0034】
(8)誘電性半導体は、気体吸着によって導電率が低下する特性を有するフラーレン材料である上記(1)から(7)のいずれかに記載のガスセンサー。
【0035】
「フラーレン材料」とは中空の炭素クラスター物質である「フラーレン」ならびにフラーレンを出発原料として合成可能な材料およびフラーレンと基本構造が同等の材料である「フラーレンベース材料」の総称である。
【0036】
フラーレン材料からなる気体検知素子として、フラーレン材料を昇華させて得られる単結晶、フラーレン材料を昇華させて得られる蒸着膜、フラーレン材料の分子線を堆積させて得られるエピタキシャル膜、フラーレン材料を含む液状体の塗膜を真空中で200℃以上に加熱して分散媒を除去して得られる膜などが挙げられる。
【0037】
(9)誘電性半導体は有機半導体である上記(1)から(7)のいずれかに記載のガスセンサー。
【0038】
「有機半導体」とは半導体の特性を示す有機材料であって、その中でも、フタロシアニン、ペンタセン、アントラセン、Alq、チオフェン、アニリン、ポリアニリン、ポリチオフェン、およびポリパラフェニレンビニレンからなる群から選ばれる一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0039】
(10)誘電性半導体はカーボンナノ材料である上記(1)から(7)のいずれかに記載のガスセンサー。
【0040】
「カーボンナノ材料」とは、炭素を主体とするものであって基本骨格がナノサイズである材料をいい、フラーレン材料もカーボンナノ材料の一つである。カーボンナノ材料の中でも、フラーレン、内包フラーレンおよびヘテロフラーレン、カーボンナノチューブ、ピーポッド、カーボンナノオニオンならびにこれらの誘導体ならびにこれらの重合体からなる群から選ばれる一種または二種以上を含むことが好ましい。
【0041】
(11)誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、当該気体検知素子に接続された一対の電極とを備え、上記(2)から(4)のいずれかに記載のガスセンサーに用いられる気体検知モジュールであって、この気体検知モジュールに対して電気的に直列に静電容量部を接続し、気体検知モジュールと静電容量部とを含むガスセンサーの電気的端部に極性反転を含み周期的変化する電圧を印加し、その電圧印加に対する電気的応答から気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とすることを特徴とするガスセンサー用気体検知モジュール。
【0042】
(12)上記(1)から(10)のいずれかに記載されるガスセンサーと、このガスセンサーの電気的端部に極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加可能な電源と、この電源により印加された電圧に対するガスセンサーの電気的応答を計測する計測手段とを備えることを特徴とする気体計測システム。
【0043】
電源は、周期的に変化する電圧の周波数を変化させることができれば好ましく、複数の周波数での電圧変化を重畳した電圧信号を発生させることができれば、さらに好ましい。
計測手段は電源と一体化されていてもよく、計測した電気的応答から気体検知素子の導電率の変化を算出する手段、さらには気体吸着量を算出する手段を有していてもよい。
【0044】
(13)上記(11)に記載される気体検知モジュールと、その気体検知モジュールに直列に接続された静電容量部と、気体検知モジュールと静電容量部とを含むガスセンサーの電気的端部に極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加可能な電源と、その電源により印加される電圧に対するガスセンサーの電気的応答を計測する計測手段とを備えることを特徴とする気体計測システム。
【0045】
電源は、周期的に変化する電圧の周波数を変化させることができれば好ましく、複数の周波数での電圧変化を重畳した電圧信号を発生させることができれば、さらに好ましい。また、静電容量部を一体化させていてもよい。
【0046】
計測手段は電源および/または静電容量部と一体化されていてもよく、計測した電気的応答から気体検知素子の導電率の変化を算出する手段、さらには気体吸着量の変化を算出する手段を有していてもよい。
【0047】
(14)ガスセンサーに吸着した気体を脱離させる気体脱離手段をさらに備える上記(12)または(13)記載の気体計測システム。
【0048】
気体を脱離させる具体的な手段としては、ヒーターによる加熱、赤外線ランプなどの照射、レーザーの照射、高エネルギー粒子の照射などのほか、気体検知素子の周囲における吸着気体の分圧を低下させるための手段、例えば真空排気装置、高純度不活性気体の供給装置などが挙げられる。また、ガスセンサーと気体脱離手段とが一体に構成されていてもよい。
【0049】
(15)ガスセンサーの温度を計測するための測温手段をさらに有し、この測温手段は、ガスセンサーと同じ構成を有しつつその気体検知素子が気体を吸着しないように封止されたものである上記(12)から(14)のいずれかに記載の気体計測システム。
【0050】
ここで、測温手段はガスセンサーと全く同一の構成を有していなくても、温度変化に対する導電性の変化が実質的に同じであって、ガスセンサーにおける導電性の変化と測温手段における導電性の変化とを入力として適切な演算を行うことによって、ガスセンサーにおける温度変化による導電性の変化の影響を除去して、気体吸着に伴う導電性の変化のみを算出することができるのであれば、実質的に「同じ」構成を有しているといえる。
【発明の効果】
【0051】
本発明に係る気体検知素子と一対の電極とからなるガスセンサーは、誘電性を有する気体検知素子に極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加することとしたため、直流電圧を印加する場合に発生していたチャージアップなどの計測を不安定化させる現象が発生しにくい。このため、気体検知素子が原理的に達成しうる感度での測定を安定的に行うことができる。
【0052】
また、気体検知素子と静電容量部とが直列に接続された構成を備える本発明に係るガスセンサーは、極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加したときに得られる電気的応答を大きくすることが可能である。このため、気体検知素子の導電率をより高感度で検出することが実現される。特に、電気的応答を検出する電気的パラメータとしてガスセンサーのキャパシタンス実部やコンダクタンスを計測し、その印加電圧の周波数依存性を計測したプロファイルデータを解析することで、さらに高感度で気体を検出することが実現される。しかも、この静電容量部の少なくとも一部が気体検知素子と一体となる構成とした場合には、ガスセンサーの製造における品質管理の負荷が緩和され、高品質のガスセンサーを安定的に得ることも実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0053】
以下に、本発明に係る代表的な実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨に反しない限りいかなる変形例をもその技術的範囲に含む。
【0054】
1.フラーレン材料
前述のとおり、「フラーレン材料」とは「フラーレン」および「フラーレンベース材料」の総称である。
【0055】
「フラーレン」とは、Cn(n=60, 70, 76, 78・・・)で示される中空の炭素クラスター物質であり、12個の5員環と少なくとも20個の6員環を含む構造を有する。具体的には、C60やC70を挙げることができる。
【0056】
「フラーレンベース材料」とは上記のフラーレンを出発原料として合成可能な材料およびフラーレンと基本構造が同等の材料であり、次のような物質を含む。
「内包フラーレン」とは、篭状のフラーレンの中空部に炭素以外の原子又は分子を閉じ込めた炭素クラスター物質である。フラーレン分子(ケージ)の中に閉じ込める原子又は分子を、内包対象原子(分子)と呼び、閉じ込められた原子(分子)を内包原子(分子)と呼ぶ。内包対象原子は原理的には周期律で規定される全ての原子が含まれ、Li,Na,Kなどのアルカリ原子や、La,Ce,などのランタノイド原子、さらにはB,N,F,Clなどの典型元素原子が例示される。一方の内包対象分子としても特に制約されずいかなる分子であってもよく、H,N,A3−xN(x=1〜3の整数、AおよびBは金属原子、典型例はScN),金属酸化物などが例示される。
【0057】
「ヘテロフラーレン」とは、フラーレン骨格を構成する一部の炭素が他の原子(たとえば窒素)に置換されたものである。置換炭素数は1以上であれば特に制約されない。
「ノルフラーレン」とは、フラーレン骨格を構成する炭素が一個以上欠落したものであって、この炭素欠落によって生じたフラーレン骨格上の炭素の未結合部は例えば水素によって終端される。欠落炭素数は特に制限されないが、フラーレン骨格を維持するためには必然的に制限があり、通常は5個程度を上限とする。
【0058】
「セコフラーレン」とは、フラーレン骨格を構成する炭素−炭素結合の一個以上が開裂し、それぞれの結合部が例えば水素などと結合したものである。結合の開裂数は特に制限されないが、フラーレン骨格を維持するためには必然的に制限があり、通常は10個程度を上限とする。
【0059】
「化学修飾フラーレン」とは、フラーレン骨格を構成する炭素に原子または分子残基が結合したものである。原子が結合したものの典型例は水素化フラーレン、酸化フラーレン、ハロゲン化フラーレンであり、分子残基が結合した典型例は、水酸化フラーレン、PCBM(phenyl C61-butyric acid methyl ester)が挙げられる。
【0060】
「フラーレン重合体」とは、フラーレンおよび上記のフラーレンベース材料の同一種類同士が、または異なる種類同士が化学的に結合したものである。
「混合フラーレン」とは、フラーレンおよび上記のフラーレンベース材料が複数種類混合されたものである。
【0061】
2.誘電性半導体
(1)誘電性半導体
「誘電体」とは、正電場を加えるとき誘電分極を生じるが、直流電流を生じない物質である(出典:「強誘電体デバイス」、Kenji Uchino 著/内野 研二 訳/石井 孝明 訳、森北出版社、発行日:2005年8月25日)。したがって、「誘電性」とは、正電場を加えるとき誘電分極を生じるが、直流電流を生じない性質をいう。
【0062】
また、「半導体」とは、価電子帯中の電子が禁止帯を越えて伝導帯に一部遷移することなどにより、伝導帯または価電子帯に電荷を移動させるキャリアが発生し、導電性を発現する材料をいう。
【0063】
したがって、誘電性を有する半導体(以下、「誘電性半導体」という。)とは、外部からの電圧を印加したときに、生じた電界に応じて材料内部において誘電分極するとともに、電荷のキャリアが外部電圧に応じて移動する材料をいう。
【0064】
ここで、誘電分極は、電子分極、イオン分極、配向分極、空間電荷分極に分類されるが、いずれであってもかまわない。また、電荷のキャリアは電子であってもホールであってもよく、キャリアの発生または導電性を変化させる目的で原子や分子がドープされていてもよい。
【0065】
誘電性半導体は上記のような特性を有するので、その等価回路は容量成分と抵抗成分とが並列に配置された構成となる。
【0066】
(2)有機半導体
このような誘電性半導体として、有機半導体やカーボンナノ材料を挙げることができる。
【0067】
半導体の特性を示す有機材料である有機半導体は、ペリレンテトラカルボン酸無水物及びその誘導体、ペリレンテトラカルボキシジイミド誘導体、ナフタレンテトラカルボン酸無水物及びその誘導体、ナフタレンテトラカルボキシジイミド誘導体、金属フタロシアニン誘導体の他、例えば、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq)、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム(略称:BeBq)、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(略称:BAlq)等キノリン骨格またはベンゾキノリン骨格を有する金属錯体等が例示される。また、この他、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX))、ビス[2−(2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ))などのオキサゾール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども例示される。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)、1,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)等が例示される。このほか、上記の物質を組み合わせた分子骨格を主鎖とする誘導体であってもよい。
【0068】
こうした有機半導体の中でも、フタロシアニン、ペンタセン、アントラセン、Alq、チオフェン、アニリン、ポリアニリン、ポリチオフェン、およびポリパラフェニレンビニレンからなる群から選ばれる一種または二種以上からなることが好ましい。
【0069】
(3)カーボンナノ材料
炭素を主体とするものであって基本骨格がナノサイズであるカーボンナノ材料としては、上記のフラーレン材料に加え、カーボンナノチューブ、ピーポッド、カーボンナノオニオンおよびこれらの誘導体ならびにこれらの重合体が例示される。
【0070】
3.気体検知素子
(1)構成
本発明に係る気体検知素子は、上記の誘電性半導体を有し、この誘電性半導体に起因する特性として、吸着する気体の状態に応じて導電率が変化するものである。典型的には、気体が吸着することによって誘電性半導体の導電率が変化する。なお、吸着する気体の状態の変化としては、吸着する気体の量的変化のみならず、質的変化も含まれる。この質的変化には、気体の種類のみならず、気体検知素子を構成する物質との化学的な相互作用の程度が変化すること、例えば物理吸着から化学吸着に変化することや、気体の気体検知素子における吸着場所が変化すること、例えば表面吸着から内部に拡散しての吸着に移行することなどが挙げられる。
【0071】
この特性について、C60フラーレンの単結晶を例にして説明すれば、C60フラーレンの単結晶(分子密度は1.44×1021個/cm)を室温50%RHの大気中に暴露させると、単結晶に吸着する水分の分子密度は飽和状態で約2×1020個/cmであり、フラーレン7.6分子に対して1分子の水が吸着しうることが本発明者らの調査により明らかになった。また、同一の環境で吸着する酸素分子は約2×1018個/cmであり、これは、フラーレン約860分子に1分子の酸素が吸着していることとなる。このことから、飽和状態では、吸着分子はC60フラーレンの単結晶の表面のみならずその内部のフラーレンにも吸着していることが確認された。
【0072】
このようにC60フラーレンの単結晶はきわめて多くの分子を吸着することができ、C60フラーレンの蒸着膜もほぼ同様の吸着特性を有する。したがって、C60フラーレンの蒸着膜からなる気体検知素子は、特許文献1にも示されるように、気体吸着によって10(Ωcm)−1もの導電率変化を実現しうる。
【0073】
他のフラーレン材料もC60フラーレンと同様の振る舞いをするが、その導電率変化の程度は、フラーレン材料の種類、気体検知素子としてのフラーレン材料の構造(例えば、他のフラーレン材料との結合状態)、吸着する気体の種類などによって変化する。例えば、アルカリ金属内包フラーレン(Li@C60)を含有するC60フラーレンからなる気体検知素子を用いて酸素の検出を行う場合について説明すれば、C60フラーレンのみからなる気体検知素子よりも導電率が高いため、C60フラーレンのみからなる気体検知素子と同一の測定条件であれば、より多くの電流が得られることとなり、より高感度の計測が実現される。また、このことは、同一の電流で計測するときには、気体検出素子を小型化することが可能であることをも意味するから、C60フラーレンのみからなる気体検知の場合よりコンパクトなセンサーを実現することができる。
【0074】
また、フラーレン材料以外の他のカーボンナノ材料もフラーレン材料と同様に気体吸着によって導電率が変化(通常は低下)する。
一方、有機半導体を誘電性半導体として含む気体検知素子は、電子供与性の気体が吸着することによって有機半導体の表面に高い導電率を有する層が形成され、導電率が上昇する場合もある。
【0075】
本発明に係る気体検知素子は、このような誘電性半導体を有し、その特性によって気体吸着による導電率変動が生じるのであれば、他にいかなる材料を含んでいてもよい。セラミックスのような絶縁性の物質、例えば金属のような導電性の物質、およびこれらの中間的な導電性を有する物質のいずれが含まれていてもかまわない。
【0076】
(2)構造
気体検知素子の構造は、電極などを介して極性反転を含む電圧の周期的変化、典型的には中心電圧が0Vのサイン波による交流電圧が印加される一対の電気的端部と、その電気的端部の間に配置される誘電性半導体とを備え、その電気的端部の間に配置される誘電性半導体に計測対象の気体が吸着できる構造であれば、いかなる構造でもかまわない。薄膜状でもよいし、塊状でも線状でもよい。
【0077】
(3)製造方法
製造方法も、気体検知素子が誘電性半導体としての機能を発揮できるのであれば、特に制限されない。
【0078】
フラーレン材料からなる気体検知素子を例にして説明すれば、好ましい製造方法の一つは、フラーレン材料を加熱して昇華させることであり、昇華により得られた単結晶や蒸着膜による気体検知素子は優れた特性を有する。昇華のための加熱方法や加熱温度は対象となるフラーレン材料に応じて適宜設定すればよく、具体的な加熱方法としては通電加熱や電子線による加熱、レーザー照射による加熱などが例示される。
【0079】
ここで、フラーレン材料の昇華温度と同等の昇華温度を有する物質、例えば銅フタロシアニンをフラーレン材料が入ったルツボに混在させると、こうした材料が所定の割合で混在する蒸着膜が得られる。この場合も、昇華プロセスを採用していることから、不純物濃度を低く抑えることが実現される。
【0080】
また、フラーレン材料を分子線として供給しエピタキシャル成長させて得られるMBE膜は、単結晶並みの結晶構造を有する気体検知素子が得られるため、このMBE膜による気体検知素子も優れた特性を有する。
【0081】
あるいは、フラーレン材料を加熱するのではなく、アルゴンなどの不活性気体を用いてスパッタリングして、スパッタ膜として気体検知素子を得てもよい。この場合には、蒸着膜に比べて分解生成物やスパッタガスに由来する成分が混入する可能性は高くなるため若干純度は低下するものの、気体検知素子の生産性を高めることが実現される。
【0082】
このほか、昇華させたフラーレン材料をプラズマ中に導入し、フラーレン材料の重合体を膜状に堆積させて気体検知素子としてもよい。ただし、この場合も若干の不純物が不可避的に混在することになる。
【0083】
上記のようなドライプロセスではなく、フラーレン材料を適切な媒体に溶解または分散させて溶液または分散液とし、これをスピンコートなどの手法を用いて薄膜化させた後に媒体を揮発させてもよい。この場合には、高価な真空設備を使用することなく気体検知素子を製造することが実現される。
【0084】
このほか、粉末状のフラーレン材料を加圧圧縮して得られるペレットとして気体検知素子を製造してもよい。このとき、真空ポンプを用いて脱気を同時に行えば、緻密な気体検知素子を容易に得ることが実現される。
【0085】
なお、上記のような手法で得られた気体検知素子に光や電子線などの照射を行うなどして、気体検知素子に含まれるフラーレン材料全体またはその一部を重合させてもよい。重合させることで気体検知素子の耐熱性を向上させることが可能となる。
【0086】
4.第一の実施形態
以下に、本発明の第一の実施形態に係る気体計測システムについて説明する。
【0087】
(1)構成
図1は、本発明の第一の実施形態に係る気体計測システムを示す概念図である。
第一の実施形態に係る気体計測システム0100は、図1に示すように、ガスセンサー0101と、複数の周波数の交流電圧を発生可能な電源0102と、そのガスセンサーからの電気的応答を計測する計測手段0103と、ガスセンサーに吸着した気体を脱離させる気体脱離手段0104とを備える。
【0088】
以下に、まずガスセンサーについて説明し、その後、気体検知原理について説明して、引き続いてガスセンサー以外の構成要素について説明する。
【0089】
(2)ガスセンサーの構造
(A)概要
本発明に係るガスセンサーは、気体検知素子と静電容量部と一対の電極とを最小限の構成要素とし、気体検知素子および静電容量部を含む電気素子の電気的端部に一対の電極が電気的に接続する構成を備える。
【0090】
図2は、本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの構造を示す概念図であり、(a)が上面図、(b)が(a)におけるAA断面での断面図、(c)が(a)におけるBB断面での断面図である。
【0091】
第一の実施形態に係るガスセンサー0200は次の構成要素を備える:
気体脱離手段であるセラミックヒーター0201、
セラミックヒーター0201の上に所定の間隔で形成された第一の金層0202および第二の金層0206、
第一の金層0202における第二の金層0206寄りの一部を覆いつつ、セラミックヒーター0201上であって金層0202と0206との間における第一の金層0202寄りの部分に形成された第一のアルミニウム層0203、
第一のアルミニウム層0203上であって第二の金層0206寄りの部分、およびセラミックヒーター0201上であって第一のアルミニウム層0203と第二の金層0206との間における第一のアルミニウム層0203寄りの部分に形成された気体検知素子0204、ならびに
気体検知素子0204の開放された上面における第二の金層0206寄りの部分、および第二の金層0206上における第一の金層0202寄りの部分に形成され、さらにこれらを連結するように形成された連結部を有する第二のアルミニウム層0205。
【0092】
アルミニウム層0203,0205は、それぞれ、金属部分0203a,0205aと、気体検知素子0204に対向する表面に形成された酸化膜部分0203b,0205bとを有している。後述するように本実施形態に係る気体検知素子0204はC60フラーレンで構成されているので、気体検知素子の内部を酸素が通過することが可能であり、この酸素がアルミニウム層の金属表面を酸化することによってこの酸化膜は形成されている。
【0093】
また、詳細は必ずしも明らかではないが、この酸化膜部分0203b,0205bと気体検知素子0204との界面近傍にはC60フラーレンを含む誘電体層が形成され、それは双極子および/または電気的障壁と想定される。この誘電体層とアルミニウム層の酸化膜部分0203b,0205bとが一体となって本実施形態に係るガスセンサーの静電容量部をなしており、これが気体検知素子0204と直列に接続されている構成となっている。
【0094】
なお、第二のアルミニウム層0205の上面部分にも自然酸化膜が形成されているが、説明の都合上表示していない。また、図2は、各部材の積層方向とこれに垂直な面内方向とでは表示の拡大率が大きく(1000倍程度)異なっており、現実には基板0201上の構造体は実質的に薄膜状である。このため、第二のアルミニウム層0205における、気体検知素子0204と第二の金層0206との連結部分のうち、気体検知素子0204に接する部分の面積は、第二のアルミニウム層0205の気体検知素子0204上に形成された部分の面積よりもはるかに小さい。したがって、気体検知素子0204の電気的端部は、実質的に、気体検知素子0204上に形成された第二のアルミニウム層0205と接触する部分である。
【0095】
気体検知素子0204および静電容量部を含む電気素子の電気的端部は、第一のアルミニウム層0203の酸化膜部分0203bにおける金属部分203aに対向する面、および第二のアルミニウム層0205の酸化膜部分0205bにおける金属部分205aに対向する面である。よって、本実施形態に係るガスセンサーの電極は、第一のアルミニウム層0203の金属部分203a、および第二のアルミニウム層0205の金属部分205aである。なお、金層0202、0206は、配線部材との接続を行いやすくするための部材(パッド電極)であり、必須の構成ではない。
【0096】
(B)気体検知素子
本実施形態に係る気体検知素子0204は、誘電性半導体の一つであるC60フラーレンの蒸着膜からなる。前述のようにC60フラーレンの蒸着膜の内部には酸素などの気体が容易に侵入することが可能であるから、吸着領域は気体検知素子0204の表面のみならず素子全体となる。
【0097】
このため、本実施形態に係る気体検知素子0204の導電率は10−2(Ωcm)−1以上から10−10(Ωcm)−1以下まで10(Ωcm)−1以上の範囲で変動しうる。一方、C60フラーレンの比誘電率は4〜5程度であるから、キャパシタンスは、気体検知素子0204の形状が面積1mm、厚み1μmの場合で40pF程度となる。現実に使用されると想定される気体検知素子は、面積が0.1〜100mm、厚み0.1〜10μm程度であるから、この場合には、気体検知素子のキャパシタンスは1pF程度から1nF程度の範囲となる。
【0098】
(C)静電容量部
本実施形態に係る気体検知素子0204はC60フラーレンの蒸着膜からなるため、その内部を酸素分子は自由に移動することができる。このため、C60フラーレンの蒸着膜と直接接触するように形成されたアルミニウム層203,205におけるその蒸着膜に対向する面は、蒸着膜を通過してくる酸素によって酸化され、アルミニウムの自然酸化膜(Al)が形成されている。本実施形態に係るガスセンサーは、この酸化膜を静電容量部の構成部材の一つとしている。
【0099】
この場合には、酸化膜の厚さは、概ね0.1〜10nm、一般的には0.5〜5nm程度である。このため、気体検知素子の一方の電気的端部が1mm程度の面積であっても、1〜100nF程度の静電容量を有する静電容量部が形成されることとなる。
【0100】
後述するように静電容量部単独のキャパシタンスは大きければ大きいほど検出感度を高めることが可能であるから、この観点からは酸化膜は薄ければ薄いほど好ましい。その一方で、酸化膜は、電極からの気体検出素子への電荷注入を防ぐバリア層としての機能も有する。電荷注入は計測の不安定化要因であり、ガスセンサーに印加する電圧の周波数が高いときにこの傾向は顕著となる。このため、酸化膜はある程度の厚さがあることが好ましい。したがって、好ましい酸化膜の厚さは1〜5nmである。
【0101】
なお、上記の酸化膜の厚さの好適範囲はアルミニウム層の場合であり、同じように自然酸化膜が形成される金属、例えばチタンを用いた場合には、その誘電率もバリア層としての特性もアルミニウムの酸化膜とは異なるのであるから、当然に好適な酸化膜の厚さの範囲は変動する。
【0102】
また、前述のように、この酸化膜部分0203b,0205bと気体検知素子0204との界面近傍にはC60フラーレンを含む誘電体層が形成されている。この点に関し、実測結果をもって説明する。本実施形態に係るガスセンサーの特性評価結果に基づいて、アルミニウムとフラーレン蒸着膜との界面に存在するキャパシタンスを等価回路からのシミュレーションによって算出した。次に、このキャパシタンスがアルミニウムの酸化膜によってもたらされていると仮定して厚みを求めると、6nmに相当することが確認された。ところが、分光エリプソ法(J.A.Woollam 製高速分光エリプソメーター M-2000V)によってそのガスセンサーのアルミニウム層に形成された酸化膜の厚みを実測すると1.0nmとなった。すなわち、この結果によれば、静電容量部構成要素としての酸化膜以外の誘電体層が、電気的には5nm分の酸化膜に相当するものとして、フラーレン蒸着膜と酸化膜との界面近傍に存在することになる。
【0103】
(D)電極
本発明に係るガスセンサーの電極は、気体検知素子および静電容量部を含む電気素子の電気的端部に電気的に接続するものであるから、本実施形態においては、アルミニウム層203,205の金属部分203a,205aである。
【0104】
電極は金、アルミニウム、銅などの金属、ITO,ZnOなどの酸化物系導電材料、グラファイト、金属性SWCNTなどの金属性カーボン材料などが典型例として挙げられる。
ただし、本実施形態においては、金属の自然酸化膜を静電容量部の一部とすることとしているため、緻密な自然酸化膜を形成することが可能な金属を用いることが好ましく、そのような金属として、本実施例に係るアルミニウムのほかに、チタン、クロム、ニッケル、ニオブ、タンタルが例示される。
【0105】
(3)気体検知原理
(A)概要
上記の構成を有する本実施形態に係るガスセンサーは、等価回路として表すと、図3のようになる。ここで、CおよびRはそれぞれ気体検知素子の静電容量および抵抗であり、Cは静電容量部の容量である。
【0106】
本実施形態に係る気体計測システムでは、図3に示される等価回路を有するガスセンサーに交流電圧を印加し、その電気的応答を測定することで気体検知素子への気体の吸着状態を計測する。ここで、「電気的応答」とは、交流電圧を印加したことに対するガスセンサーによる応答のうち、電気計測手段により測定可能な全ての応答をいう。したがって、電流の変化を応答として測定してもよいし、インピーダンスやその逆数としてのアドミタンスを測定してもよい。また、ガスセンサーを複素キャパシタンスとして計測してもよいし、複素コンダクタンスを計測してもよい。
【0107】
このように交流電圧にて測定することで、誘電性を有する気体検知素子へのチャージアップが防止される。このため、ドリフトなど計測精度を低下させる現象が抑制され、高精度での測定が実現される。
【0108】
(B)複素キャパシタンス計測
以下、典型例として、複素キャパシタンスを計測した場合について説明する。複素キャパシタンスを計測することで、ガスセンサーにおける各構成要素の電気的特性の影響を独立にすることができる。具体的には、図3に示される二つの容量成分と抵抗成分とを独立にして、抵抗成分の変動、すなわち気体検知素子の導電率の変動を効率的に検出することが実現される。
【0109】
まずこの回路についてアドミタンスYを求めると、
【0110】
【数1】

【0111】
となる。ここで、前述のように、CはpFからnFのオーダーであるのに対して、Cは概ね数十nFのオーダーである。したがって、C>>Cであるから、
【0112】
【数2】

【0113】
となる。
こうして求めたアドミタンスYのうち、実部すなわちコンダクタンス成分Gを取り出すと、
【0114】
【数3】

【0115】
となる。したがって、コンダクタンスGの交流電圧の周波数依存性を測定すると、低周波では周波数の増加によってコンダクタンスGは増加するが、高周波になると実質的に気体検知素子の導電率を直接示すようになる。
【0116】
一方、ガスセンサーのアドミタンスYと複素キャパシタンスC(=C’−jC”)との関係は、
【0117】
【数4】

【0118】
となる。したがって、複素キャパシタンスCの実部C’(以下「キャパシタンスC’」という。)は、
【0119】
【数5】

【0120】
となる。したがって、キャパシタンスC’の交流電圧の周波数依存性を測定すると、低周波では1>>ωCR、かつ1>>ωとなってほぼCであり、高周波になると1<<ωCR、かつ1<<ωとなってCとなる。
【0121】
図4は、気体検知素子の環境を真空度10Pa(温度:200℃)に維持し、気体検知素子への気体の吸着状態に変化を生じさせないようにしてRを一定にした場合における、キャパシタンスC’の、印加交流電圧周波数に対する依存性を示すグラフである。図4において、丸印は実測データであり、実線は図3に示される等価回路を用いてフィッティングさせた結果である。
【0122】
図4に示すように、200Hz以下の低周波では、キャパシタンスC‘は、静電容量部(アルミニウムの酸化膜部分)に起因するCであったものが、100kHz以上の高周波では気体検知素子(C60フラーレン)に起因するキャパシタンスCに低下する。そして、中程度の周波数帯は遷移領域となっており、この遷移領域におけるキャパシタンスC’の変動は、その領域の端部近傍(数百Hzおよび10kHz近傍)に変化率の絶対値が極大となる部分がある。
【0123】
ここで、Rを変化させると、キャパシタンスC’が低周波および高周波になるとそれぞれ一定の値に収束し、途中に遷移領域を有するという基本傾向には変化がないものの、Rに応じて遷移領域が移動する。
【0124】
図5は、本実施形態に係るガスセンサーの等価回路シミュレーションにより得られたキャパシタンスプロファイルを示すグラフであり、Rを大きくすると、遷移領域のプロファイルに変更はないものの、遷移領域全体が低周波側に、Rを小さくすると遷移領域全体が高周波側に移動することが確認できる。
【0125】
このように本実施形態に係るガスセンサーについてキャパシタンスC’を計測することで、気体検知素子に気体が吸着して導電率が低下すると、キャパシタンスC’の変化として計測することが可能である。ここで、そのキャパシタンスC’の変化は、上限が概ねCであって、下限がCである。したがって、C>Cであって、その差が大きいことが測定上有利であり、C/Cが10以上であれば安定した計測が実現される。この比率が100以上であれば特に安定した計測が実現される。
【0126】
なお、計測や表示の段階で、このキャパシタンスC’またはこれに基づいて得られる電気的パラメータ、例えば比誘電率ε’を用いてもよい。また、本実施の形態に係る気体検知素子は気体が吸着によって導電率が低下するが、逆に気体の吸着により導電率が増加する場合であっても、遷移領域の移動方向が異なるのみであるから、本気体検知原理をそのまま適用することが可能である。
【0127】
(C)計測の具体的方法
その計測にあたっての具体的な方法は、次のように複数が考えられる。
a)周波数固定
まず、気体が吸着していない状態でキャパシタンスC’が遷移領域内、例えば遷移領域の中心となる周波数の交流電圧を印加し、その周波数に固定してキャパシタンスC’を計測すれば、気体の吸着によって気体検知素子の導電率が低下して遷移領域が低周波側に移動すると、その周波数におけるキャパシタンスC’は低下する。したがって、気体吸着量の変化をキャパシタンスC’の変化として定量的に計測することが実現される。
【0128】
一方、同様に遷移領域内であるが変化率が極大または極小となるピークまたはバレー値に周波数に固定して計測すれば、少量の気体吸着でもキャパシタンスC’は大きく変化するため、微量検知などの用途に適した計測が実現される。また、遷移領域の低周波側のバレー値よりも低周波側の周波数で計測すれば、気体吸着量が少ない場合にはキャパシタンスC’はほとんど変化しないが、ある程度の吸着量になると大きく変化するような計測が実現される。この計測方法は、先の微量検知の計測方法と組み合わせて、危険度を段階的に管理するような用途に適用することができる。具体的には、複数の周波数で計測し、バレー値に近い周波数による測定で極微量の気体漏れを検知したときは警報を発し、さらに漏れ量が増加して低周波数側でも検知したときはシステム全体を強制停止させる信号を発することが考えられる。
【0129】
b)キャパシタンス固定
上記のように印加電圧の周波数を固定する計測のほかに、常に一定のキャパシタンスC’が測定されるように周波数変調を行い、その周波数から気体検知素子の抵抗成分の抵抗値(導電率)を求め、その結果に基づいて気体吸着量を見積もることも考えられる。
【0130】
c)キャパシタンスプロファイル
あるいは、計測の度に周波数掃引を行い、図4のようなキャパシタンスC’の周波数依存性プロファイル(以下、「キャパシタンスプロファイル」という。)を取り込む方法もある。この場合には、このプロファイルを解析して気体検知素子の抵抗成分の抵抗値(導電率)を求め、その結果に基づいて気体吸着量を見積もることができる。この測定方法は電源および計測手段の負荷が大きくなるものの、測定精度が高くなることが期待される。
【0131】
(D)温度の影響
なお、気体検知素子によっては、その抵抗成分の抵抗値(導電率)が気体吸着のみならず気体検知素子の温度によっても変動する場合がある。本実施形態に係る気体検知素子も温度の上昇によって導電率が上昇する傾向を有する。この場合には、あらかじめ温度による導電率変動をバックデータとして用意しておき、得られた測定結果から温度変動による寄与を除去するようにしてもよいし、気体吸着しない構造を有するリファレンス用のセンサーをガスセンサーの近傍に設置し、このリファレンス用センサーとの差分を計測値とすることとしてもよい。ここで、リファレンス用センサーは、ガスセンサーと同一の構造を有しているが、気体検知素子の露出部分全体が気体を透過させない材料、例えばポリイミドのような有機材料でもよいし、シロキサン結合を有した無機材料でもよいし、これらの複合材料でもよい、で封止されたものを用いれば、ガスセンサーと同一の感温特性を有する温度センサーとして機能させることも可能である。
このほか、計測中は常にセラミックヒーターを稼動させて、気体は吸着しうるものの環境温度の変動はキャンセルしうる温度に維持することとしてもよい。
【0132】
(E)等価回路の検討
ここで、本実施形態に係るガスセンサーの電気的性質について厳密に検討すれば、酸化膜などによって構成される静電容量部にもCで示される容量成分のほかに抵抗成分Rが存在する。したがって、本実施形態に係るガスセンサーの等価回路は、正確には図6のように記載されるべきである。
【0133】
しかしながら、高周波においては静電容量部における容量成分Cbの影響が支配的であり、抵抗成分Rの影響はほぼ完全に無視可能である。一方、低周波においてはガスセンサー全体のキャパシタンスC’の値をやや上昇させるものの、上記の遷移領域のプロファイルに与える影響はほとんどない。したがって、この遷移領域に着目して計測を行えば全くRの影響はない。また、低周波の計測が必要な場合でも、前述のリファレンス用センサーとの差分で計測すれば、その影響を消去することが可能である。
【0134】
(4)ガスセンサー以外の構成要素
本実施形態に係る気体計測システムのガスセンサー以外の構成要素について説明する。
(A)電源
電源は、交流電圧を発生させることができるのであれば特に制限されない。キャパシタンスプロファイルのように、電気的応答に対する交流印加周波数依存性プロファイルを計測する場合には、複数の印加電圧の周波数を出力できることが必要である。このとき、高周波から低周波へまたはその逆に周波数を掃引することで複数の周波数を出力してもよいし、複数の周波数が重畳された電圧を一度に出力して、計測手段においてフーリエ変換などを行って周波数解析することによりプロファイル用データとしてもよい。
【0135】
なお、本実施形態ではサイン波による交流電圧を印加することとしたが、ある極性反転を含み周期的に変化する電圧、すなわち一対の電極の少なくとも一方の電極に対する所定の波形が所定の周期で繰り返し印加された電圧であって、その電圧波形が、他方の電極の電位に対して正の電圧をなす場合と負の電圧をなす場合とを有するような電圧であれば、電圧波形は矩形波でも三角波でもよい。また、電圧波形の中心電圧は0Vであってもよいし、正負のいずれかの値のバイアスがかかっていてもよい。
【0136】
また、電源から印加する電圧の絶対値の最大値は、気体検知素子の絶縁破壊電圧未満であれば特に制限されない。ここで、絶縁破壊電圧は気体検知素子の材料や構造に依存し、例えばC60フラーレンからなる気体検知素子の場合には、1μm厚で10V程度である。この最大値が過剰に低いと電気的応答におけるノイズの影響が大きくなるので、この影響を考慮して適切な値に設定すればよい。上記のC60フラーレンからなる気体検知素子であれば、20〜100mV程度として計測することが好ましい。
【0137】
(B)測定手段
測定手段は、いわゆる一般的なLCRメーターであって、インピーダンスやアドミタンスを計測できればよく、この場合には、出力されたデータに基づいてキャパシタンスC’を別途計算すればよい。もちろん抵抗、リアクタンス、コンダクタンス、サセプタンスといった各成分を独立に出力することができたり、複素コンダクタンスや複素キャパシタンスを出力できたりすれば好ましく、キャパシタンスC’を直接出力できればなお好ましい。また、電源と一体化され、所望のプロファイルを一度に計測できるものであれば、特に好ましい。
【0138】
(C)気体脱離手段
気体脱離手段は、気体検知素子の導電率を変動させる気体を、気体検知素子から除去させるためのものである。本実施形態に係る気体計測システムでは、ガスセンサーの基板を兼ねるセラミックヒーターが気体脱離手段に相当する。図2に示されるセラミックヒーター0201には、ヒーター線0201a、0201bが図示しないヒーター電源に接続されている。このヒーター電源を操作してセラミックヒーター0201を加熱すると、この熱によって気体検知素子0204が加熱され、その結果、気体検知素子0204に吸着している気体が脱離する。
【0139】
このように、最も簡単な気体除去方法は加熱であり、本実施形態ではその一手段としてセラミックヒーターが用いられている。したがって、気体脱離手段としての機能を果たすことができるのであれば、カーボンヒーターでも金属系の抵抗加熱体であってもかまわない。また、気体を除去できるのであれば、赤外線ランプでもよいし、レーザーでもよいし、あるいは電子などの高エネルギー粒子を気体検知素子0204に衝突させる手段であってもよい。
【0140】
このほか、ガスセンサーの周囲における脱離させるべき気体の分圧を低下させることによって気体の脱離を行ってもよい。この場合には、ロータリーポンプ、クライオポンプ、ターボ分子ポンプ、ディフュージョンポンプ、サブリメーションポンプなどの排気手段、高純度窒素やアルゴンなどの不活性ガスを供給するガスボンベ、レギュレーターなどからなる給気手段が気体脱離手段となる。
【0141】
次に、気体脱離手段を用いたスタートアッププロセスおよび再生プロセスについて説明する。
【0142】
a) スタートアッププロセス
本実施形態に係る気体計測システムは、計測対象となる気体(以下、「活性物質」ともいう。)がほとんど吸着していない状態で計測を開始し、ごく微量、サブppmからppb、場合によってはpptレベルの気体の検出を行うことをも目的としている。したがって、計測開始前に、スタートアップとして気体検知素子から活性物質を脱離させ、必要であれば不活性物質を吸着させるプロセスを実行することが好ましい。これは、具体的には、気体脱離手段を動作させて、真空環境または高純度窒素などの不活性気体雰囲気への暴露および/または加熱を実施すればよい。
【0143】
なお、使用前は気体検知素子をカバー層や電極によって覆って外気と遮断された状態としておき、使用するときにこのカバー層などを破断したり除去したりするなどして測定環境に気体検知素子を露出させるようにしてもよい。この場合には、気体脱離手段を用いることなく、気体検知素子を測定環境に露出させることがスタートアッププロセスとなる。
【0144】
b) 再生プロセス
本実施形態に係る気体検知素子において、活性物質はC60フラーレンと直接的または間接的に電子を授受することで気体検知素子の導電率を変化させる。しかしながら、活性物質がフラーレン材料と強固な化学結合をなすほどの相互作用をしなくても気体検知素子の導電率の変化は発生するため、気体検知素子の導電率変動に影響する物質間相互作用のほとんどが可逆プロセスである。
【0145】
したがって、活性物質の吸着によって低下した気体検知素子の導電率は、上記のスタートアッププロセスと同様に、気体脱離手段を動作させて真空環境または高純度窒素などの不活性気体雰囲気への暴露および/または加熱を行うことによって、再び高いレベルに戻すことが可能である。そして、この再生プロセスを行うことによって、繰り返しの使用が実現される。
【0146】
(D)測温手段
本実施形態に係る気体検知素子は、温度の変化によっても導電率が変動するため、気体検知素子の温度を計測する測温手段を有していることが好ましい。その測温手段は、熱電対など公知の手段を用いることでもよいが、本実施形態に係るガスセンサーと同じ構造を有しつつ、さらに気体検知素子が気体を吸着しないように封止されたものを用いて、この測温手段からのデータをリファレンスデータとすれば、ガスセンサーにおける温度による影響を正確に除去することが実現され、好ましい。
【0147】
(5)ガスセンサーの製造方法
次に、本実施形態に係るガスセンサーの製造方法について説明する。
基本的には、基板を兼用するセラミックヒーター上に金、アルミニウム、C60フラーレンおよびアルミニウムを適当なマスクを介して順次積層させればよい。各層を形成した後に、酸素を含む雰囲気、例えば大気中に1時間程度曝すことで、アルミニウム層のC60フラーレン蒸着膜との界面に酸化膜を形成する。このように自然酸化膜を形成することが工程的に最も簡便であるが、必要であれば、セラミックヒーター兼用の基板とC60フラーレン蒸着膜との間のアルミニウム層(図2における203)については、C60フラーレンの蒸着を行う前にその表面を積極的に酸化させてもよい。
【0148】
(6)検知対象気体
本実施形態に係るガスセンサーは、気体検知素子を構成するC60フラーレンと直接的または間接的に電子を授受し、結果的にその吸着によって気体検知素子の導電率を変化させうる物質であれば測定対象とすることができる。具体的には、酸素および水分が典型的であり、このほか、水素、エタノールなどアルコール類、ホルムアルデヒドなどアルデヒド類、アセトンなどケトン類、アンモニア、メチルアミンなどの含窒素化合物、ベンゼンなどの芳香族化合物、NO、SOなど酸性物質、HCl、塩素ガスなどハロゲン含有物質が例示される。
【0149】
この検知対象気体は、気体検知素子を構成する材料によって変化させることが可能であり、その感度も制御可能である。例えば、C60フラーレンからなる気体検知素子では比較的低感度である場合には、化学修飾させたフラーレン、内包フラーレン、ヘテロフラーレンなど、検出対象気体と化学的な相互作用をしやすい構造を有したものを、気体検知素子を構成する材料の一部または全部とすることで、高感度での検出が実現される。
【0150】
(7)用途
本実施形態に係るガスセンサーは、高感度でありながら、従来の例えば質量分析器を用いた方式のセンサーに比べてそのサイズを小さくすることが可能である。したがって、このガスセンサーを備える気体計測システムは、半導体製造プロセス用途や燃料電池など多様な用途に適用可能である。これらの用途の一例として、半導体製造プロセス用途について以下に説明する。
【0151】
半導体製造プロセスにおけるガスコンタミネーション濃度低下への要求は特に厳しく、例えば窒素ガス中の酸素や水分の混入濃度は現在でも5ppb未満であり、2010年には1ppb未満とすることが求められている。このような極微量の気体状活性物質の分析手段として、現在は大気圧質量分析器による分析が一般的に行われているが、装置が大掛かりであるため個別配管の計測を行うような用途には適用できず、プロセスチャンバーのみの計測が行われている。しかしながら、pptレベルでの管理が求められるようになると、プロセスチャンバーのみでの計測ではひとたびコンタミネーションが発生した場合の品質回復に要する時間が長くなり、リードタイムの管理が困難となる。そこで、個別配管に高感度のガスセンサーを設け、プロセスチャンバーへのコンタミネーションを未然に防ぐことが必要とされてきており、そのためにも超小型・高感度のガスセンサーの開発が強く求められている。
【0152】
本実施形態に係るガスセンサーは小型でかつ高感度なセンサーであり、原理的にはppbオーダーはもちろん、pptレベルでの計測も可能である。したがって、本発明に係るガスセンサーを半導体製造装置におけるガス配管系の個別配管の各々に設置することで、上記のようなコンタミネーション管理の厳しい要請に応えることが可能である。
【0153】
(8)第一の実施形態に係るガスセンサーの変形例
(A)自然酸化膜以外の静電容量部
本実施形態では、気体検知素子に直接形成させた金属層の気体検知素子との界面に自発的に形成される自然酸化膜を静電容量部の一部として用いたが、前述のように、自然酸化膜ではなく、積極的に酸化させた酸化膜でもよい。また、酸化ではなく、窒化させたり炭化させたりすることで金属表面を改質して、金属表面に誘電性を有する改質層(以下自然酸化膜も含めて「誘電性改質層」という。)を形成させてもよい。
【0154】
あるいは、金属層は例えば金のような実質的に自然酸化膜を形成しない材料(以下、この材料からなる層を「不活性金属層」という。)で構成し、誘電性改質層を形成させることなく、静電容量部を構成する部材を別途設けてもよい。その方法には大きく分けて気体検知素子と一体で形成する場合と気体検知素子とは別体で形成する場合とがある。
【0155】
a)誘電性付加層の一体形成
静電容量部を気体検知素子と一体で形成する場合には、ガスセンサーとして小型の構成を維持できる利点がある。この場合には、図7(a)に示されるように、自然酸化膜の場合と同様に、気体検知素子0701と金属層、すなわち不活性金属層0704、0705との間に誘電性を有する層(以下「誘電性付加層」という。)0702、0703を備える構成と、図7(b)に示されるように、気体検知素子0706の電気的端部に不活性金属層0707、0708が直接形成され、その上に誘電性付加層0709、0710を備える構成とがある。前者の構成では、不活性金属層0704、0705がガスセンサーの構成要素における「電極」に相当するが、後者の構成では、不活性金属層は、「気体検知素子」と「静電容量部」とを電気的に接続する部材に相当することとなり、誘電性付加層0709、0710の電気的端部にさらに電極0711、0712を形成する必要がある。
【0156】
誘電性付加層を形成する材料は、典型的にはSiOなどの絶縁材料であり、静電容量部のキャパシタンスは高ければ高いほど検出感度を高めることが可能であるから、例えばHfO系材料やBaO-R-TiO系材料のような高誘電率材料を用いることが好ましい。また、気体検出素子への電荷注入防止層としても機能することが好ましいため、トンネリング現象が発生しないように1nm以上の厚みを有していることが好ましい。
【0157】
なお、気体検知素子上に不活性金属層を直接形成する場合には、この層を構成する金などの金属が気体検知素子内に拡散し、気体検知素子に印加される電場が不均一になったり、最悪の場合には短絡を生じたりする。したがって、気体検知素子と不活性金属層との間に誘電性付加層を形成する構成のほうがこのような事態が発生する可能性が低いので、好ましい。
【0158】
b)外部コンデンサの接続
静電容量部を気体検知素子と別体で形成する場合には、図8に示されるように、気体検知素子0801の両方の電気的端部に不活性金属層0802,0803が設けられ、これにコンデンサ0804が直列に接続された構成を基本構成とする。このとき、ガスセンサーはこれらの全体0805をいい、コンデンサが接続されない側の不活性金属層0803およびコンデンサ0804の気体検知素子に対向しない側の電極が、ガスセンサーの「電極」に相当することとなる。この構成においては、静電容量部をなすコンデンサ0804は、気体検知素子0801の大きさに制限されないため、静電容量部の設計自由度が高くなる利点がある。例えば、気体の有無を検出する用途であればキャパシタンスが小さいコンデンサを接続して小型化や低コスト化を追求し、高度な定量測定能力が求められる場合にはキャパシタンスが大きいコンデンサを接続してダイナミックレンジを広げればよい。
【0159】
また、自然酸化膜を静電容量部とする場合には製造工程において酸化膜の厚さを制御する必要があるが、この構成の場合には、市販のコンデンサを用いることが可能であるから、この工程管理項目を減らすことが可能となる。
【0160】
(B)一体形成と別体形成との組み合わせ
上記の二者の組み合わせとして、気体検知素子と一体化するように形成させた誘電性を有する層に加えて、別体のコンデンサを直列に接続してもよい。このとき、誘電性を有する層は、誘電性改質層でも誘電性付加層でもよい。図9には、その一例として、気体検知素子0901の両方の電気的端部に誘電性付加層0902,0903が形成され、さらにその両端に不活性金属層0904,0905が形成されてなる電気素子に対してコンデンサ0906が直列に接続された構成を有するガスセンサーを示した。
【0161】
この構成は、図8に示される構成に比べて、気体検知素子に電荷注入される可能性が低く、より安定した計測が期待される。ただし、この場合には、静電容量部全体のキャパシタンスは、誘電性付加層のキャパシタンスとコンデンサのキャパシタンスとの小さい方の影響をより強く受けるため、これらの差が大きすぎるとキャパシタンスが大きい部材を設けた意味が実質的になくなってしまう。したがって、双方のキャパシタンスの比率を0.1〜10倍程度として、別体のコンデンサは調整用に使用することが好ましい。例えば、ガスセンサーが形成されている基板上の別の領域に形成された金属膜−絶縁膜−金属膜の積層体を外部コンデンサとして、レーザーなどの手段を用いてその形状、特には積層体を構成する膜の面積を変更することでそのキャパシタンスを調整可能な構成としておけばよい。そして、一体化させた部材のキャパシタンスが設計よりも若干異なる場合には、その別体のコンデンサの形状を変化させて、例えば膜の一部をトリミングして、静電容量部全体のキャパシタンスが所定の範囲になるようにすればよい。
【0162】
また、別体のコンデンサがキャパシタンスを可逆的に調整可能な構成であれば、一体化させたコンデンサのキャパシタンスを製造段階で調整することが不要となり、測定を行うときに静電容量部全体のキャパシタンスが所定の値になるように調整すればよい。このような構成は、定量性が厳しく求められる用途などに好適である。
【0163】
(C)他のセンサー構造
本実施形態に係るガスセンサーは、気体検知素子の二つの電気的端部をなす面の法線方向、つまり気体検知素子の主たる電界方向が、気体検知素子の基板に対する積層方向とほぼ一致する構造(積層型構造、サンドイッチ構造)であったが、この構造以外の構造であってもよい。
【0164】
例えば、上記の電界方向が、上記の積層方向とほぼ直交していてもよい。この場合の構造の一例を説明すると、基板上に二つの櫛型電極を、互いの電極の櫛歯部分が所定の間隔を有しながらかみ合うように形成し、その電極の表面に誘電性改質層または誘電性付加層を形成する。さらに、その櫛歯部分の離間部分をなす基板上および双方の櫛歯部における上記の離間部分に向いた端面を覆うように気体検知素子をなす部材を積層させる。そうすると、上記の櫛歯部分の端面に形成された誘電性改質層または誘電性付加層を静電容量部とし、電界方向が積層方向に直行する構造のガスセンサーとなる。
【0165】
この構造は、気体検知素子における気体が吸着すべき領域、つまり静電容量部に挟まれた気体検知素子部分が露出する構造なので、気体吸着が速やかに行われ、応答性のよい計測が実現される利点がある。
【0166】
(D)他の計測方法
本実施形態では、ガスセンサーの複素キャパシタンスを計測することとしたが、他の電気的応答に着目して計測をしてもよい。例えば、上記式(3)に示したコンダクタンスを計測してもよい。図10は、図3に示される等価回路のシミュレーションにより得られたコンダクタンスの印加交流周波数依存性プロファイル(以下、「コンダクタンスプロファイル」という。)を示すグラフであるであり、気体検知素子の抵抗成分Rの変動によってプロファイルが変動する様子を示したものである。この図から、1MHz程度の高周波ではRの変動をコンダクタンスの変化として読み取ることができるほか、100Hz以下の低周波帯では所定のコンダクタンスを示す周波数を追尾することでRの変動を計測することが可能であることがわかる。さらに、プロファイルの微分データにおける極小値をなす周波数をトレースすることでもRの変動を計測可能である。
【0167】
4.第二の実施形態
続いて、本発明の第二の実施形態に係る気体計測システムについて説明する。
(1)構成
本発明の第二の実施形態に係る気体計測システムの基本構成は、図1に示される第一の実施形態に係る気体計測システムの構成と同一である。すなわち、第二の実施形態に係る気体計測システムも、ガスセンサーと、複数の周波数の交流電圧を発生可能な電源と、そのガスセンサーからの電気的応答を計測する計測手段と、ガスセンサーに吸着した気体を脱離させる気体脱離手段とを備える。ガスセンサー以外の構成要素は第一の実施形態と同じである。
【0168】
(2)ガスセンサー
本実施形態に係るガスセンサーは、誘電性半導体を有し、この誘電性半導体に起因する特性として吸着する気体の状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、この気体検知素子に電気的に接続された一対の電極とを備える。誘電性半導体に求められる特性は第一の実施形態に係るガスセンサーの場合と同じである。本実施形態においても、気体検知素子はC60フラーレンの蒸着膜からなるが、他の部材からなる気体検知素子を用いてもよい。
【0169】
本実施形態に係るガスセンサーの具体的構成は、図2におけるアルミニウム層が、不活性金属層である金層に置き換わった構成である。このため、酸化膜など静電容量部をなす要素は本実施形態に係るガスセンサーには含まれない。つまり、本実施形態にガスセンサーでは、この一対の不活性金属層を電極と、これに挟まれた気体検知素子とからなる。
【0170】
(3)気体検知原理
上記の構成を有する本実施形態に係るガスセンサーは、等価回路として表すと、図11のようになる。ここで、CおよびRはそれぞれ気体検知素子の静電容量および抵抗であり、Rは電極をなす不活性金属層の抵抗である。
【0171】
本実施形態に係る気体計測システムでは、図11に示される等価回路を有するガスセンサーに交流電圧を印加し、その電気的応答を測定することで気体検知素子への気体の吸着状態を計測する。交流電圧にて測定することで、誘電性を有する気体検知素子へのチャージアップが防止される。このため、ドリフトなど計測精度を低下させる現象が抑制され、高精度での測定が実現される。
【0172】
以下、典型例として、コンダクタンスを計測した場合について説明する。まず、この回路についてアドミタンスYを求めると、
【0173】
【数6】

【0174】
となる。ここで、Rは、不活性金属層の金属材質や成膜方法などにより若干変化するものの、その厚みは通常0.1μm以下であるから、あきらかにR>>Rである。したがって、
【0175】
【数7】

【0176】
となる。
こうして求めたアドミタンスYのうち、実部すなわちコンダクタンス成分Gを取り出すと、
【0177】
【数8】

【0178】
となる。したがって、コンダクタンスGの交流電圧の周波数依存性を測定すると、低周波領域では(1/R)となり、コンダクタンスGは気体検知素子の導電率を直接的に示し、高周波数領域では、図12に示されるように増加する傾向を示す。なお、図12は、図11に示される等価回路に基づいて算出したコンダクタンスプロファイルのシミュレーション結果である。
【0179】
したがって、本実施形態のガスセンサーについてコンダクタンスを測定すると、所定の周波数以下の周波数までは導電率が直接計測され、交流電圧印加によってチャージアップなどの影響が抑制されているため、直流電圧の印加に比べて安定した計測が可能である。
【0180】
また、コンダクタンスプロファイルにおいてコンダクタンスがほぼ一定値の状態から増加傾向となる周波数は気体検知素子の導電率に依存しているため、コンダクタンスプロファイルを経時的に計測し、その微分データにおける極大値を示す周波数をトレースすることによっても気体検知素子の導電率の変化を計測することが実現される。
【実施例】
【0181】
以下に実施例を用いてさらに本発明について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
1.実施例1
まず、実施例1−1〜1−4および比較例1−1を用いて、本発明に係るガスセンサーの基本動作について説明する。
【0182】
(1)実施例1−1
ガラス基板(30mm×30mm、厚さ0.12〜0.17mm)を用意し、真空度1×10−5Pa、残留酸素濃度1011/cm以下(10ppb以下)の真空チャンバー内に設置した。そして、ガラス基板上に電極用の長方形(20mm×4mm)のパターンとこれに接続する線状の引き出し電極用パターンとをAlの蒸着により形成した。その厚みは100nm程度であった。
【0183】
次に、C60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、製品名Nanomパープル)が充填されたモリブデンボートを温度計測しつつ通電加熱し、500〜550℃の範囲に制御してC60フラーレンを昇華させ、上記の電極用Alパターン上に2μmの厚さでC60フラーレン膜を形成した。なお、C60フラーレンによるパターンは、その下のAlパターンが完全に覆われるような長方形のパターンとした。
【0184】
続いて、このC60フラーレン膜上に、先の電極用Alパターンと同一のパターンをAlの蒸着により形成した。その厚みは200nm程度であった。また、この電極の引き出し電極も下部電極の引き出し電極と重ならないようにAl蒸着により形成した。
【0185】
こうして得られたガスセンサーをチャンバーから取り出して、大気中に2時間放置する大気暴露処理を行った後、計測用チャンバー内に設置した。この計測用チャンバーの真空度を10−5Pa、残留酸素濃度10/cm以下(0.1ppb以下)を維持し、酸素濃度を10/cm以下(0.1ppb以下)とした高純度窒素(以降「純窒素」と略称する。)を全圧が1気圧になるまで導入した。そして、上記のようにして製造したガスセンサーの、ガラス基板の製膜領域をなす面と反対側の面に当接させたカーボンヒーターに通電して、ガスセンサーの表面温度が280±10℃になるように6時間加熱してガスセンサーのスタートアップ処理を行った。
【0186】
280℃での6時間の加熱後、カーボンヒーターへの通電量を調整してガスセンサーの表面温度を250℃に設定し、続いて二箇所の引き出し電極にインピーダンスアナライザ(横河・ヒューレット・パッカード株式会社(現アジレント・テクノロジー株式会社)製 LF4192A型)からの端子を接続させた。
【0187】
ここで、真空チャンバーには、複数の気体を任意の割合で混入させることができる複数のガス経路を切り替え可能な気体導入機構と、質量分析器(株式会社日本エイピーアイ製 API−500)とが設けられており、この質量分析器は大気圧中でも任意の気体をppmオーダーで計測することが可能である。そこで、あらかじめ気体導入機構を調整して、純窒素を1L/minで導入する経路と、これに酸素が1ppm添加された全圧1atmの気体(以降「1ppm酸素含有窒素」と略称する。)を1L/minで導入する経路とを切り替え可能にしておいた。
【0188】
引き出し電極への端子接続後、気体導入機構を動作させて、チャンバー内に純窒素を導入した。圧力が1atmになって安定状態になったことを確認してから引き出し電極に20mV、1MHzでの電圧印加を開始して1分単位でインピーダンスの計測を開始した。計測されたインピーダンスからガスセンサーの比誘電率を算出してその変化を経時的に記録した。
【0189】
計測開始後、所定のタイミングで気体導入機構のガス経路を切り替えて、チャンバー内に設置されたガスセンサーを1ppm酸素含有窒素に暴露させた。その結果、図13に示されるように、1ppm酸素含有窒素を導入した直後に比誘電率の急激な低下(40→30)が観測され、その後時間とともに低下率を減少させながらも比誘電率が減少することが確認された。
【0190】
1ppm酸素含有窒素の導入から120分後、ガス経路を再び純酸素に切り替えると、22まで低下していた比誘電率の上昇が観測され、本実施例の試験温度である250℃では1時間で38程度まで、その後280℃まで上昇させると1時間で計測開始時の40まで比誘電率が回復することが確認された。
【0191】
(2)実施例1−2
実施例1−1と同様の製造方法で作製され、スタートアップ処理として同様の真空下での加熱処理が施されたガスセンサーをチャンバーに設置し、純窒素を1L/minで供給するガス経路で気体を導入して比誘電率の計測を開始した。その後、実施例1−1における酸素1ppmに代えて水分が10ppm添加された全圧1atmの気体(以降「10ppm水分含有窒素」と略称する。)を1L/minで供給するガス経路に切り替えると、図14に示されるように、実施例1−1の場合と同様に速やかな比誘電率の減少が観測された(145→127)。
【0192】
その後も計測を継続すると、10ppm水分含有窒素の導入から15分で比誘電率の低下は飽和し、120でほぼ安定した。そこで、10ppm水分含有窒素の導入から25分後に純窒素の経路に切り替えると比誘電率は速やかに上昇し、純窒素の導入から20分後には10ppm水分含有窒素の導入前の比誘電率と同等のレベルに回復した。
【0193】
(3)実施例1−3
実施例1−2と同様の実験を、計測時のガスセンサーの表面温度を150℃にして行った。
【0194】
その結果を図15に示す。250℃の場合との効果を比較しやすいように、計測開始当初の比誘電率を100%とする規格化を行った。図15における実線が150℃の場合の結果であり、破線は250℃の結果を示している。図15に示されるように、速やかな比誘電率の減少および単位時間当たりの減少量の経時的な低下という大まかな傾向は実施例1−2の場合と同様であったが、比誘電率は計測開始時の92%程度で飽和し、しかも比誘電率の低下が飽和するまでの時間が2時間程度と長くなった。これは、250℃の場合に比べると、比誘電率の減少幅としては1/2、飽和までの時間としては8倍であった。
【0195】
また、10ppm水分含有窒素の導入から130分後に純窒素の経路に切り替えると比誘電率は実施例1−1に比べると緩やかに上昇し、純窒素の導入から100分経過した後でも計測開始時の比誘電率に対して93%程度までしか回復しなかった。しかしながら、温度を300℃まで上昇させると、1時間で当初の比誘電率まで回復した。
【0196】
(4)実施例1−4
ガラス基板((30mm×30mm、厚さ0.12〜0.17mm) を用意し、真空度1×10−5Pa、残留酸素濃度1011/cm以下(10ppb以下)の真空チャンバー内に設置した。そして、ガラス基板上に電極用の長方形(20mm×4mm)のパターンとこれに接続する線状の引き出し電極用パターンとをAlの蒸着により形成した。その厚みは100nm程度であった。
【0197】
次に、Li内包C60含有フラーレン混合体(株式会社イデアルスター製、製品名001A、内包フラーレンの全混合体における重量比率:5%)が充填されたモリブデンボートを温度計測しつつ通電加熱し、550〜600℃の範囲に制御してLi内包C60含有フラーレン混合体を昇華させ、上記の電極用Alパターン上に2μmの厚さでLi内包C60を含有するフラーレン混合膜を形成した。なお、フラーレン混合体によるパターンは、その下のAlパターンが完全に覆われるような長方形のパターンとした。
【0198】
続いて、C60フラーレン膜上に、先の電極用Alパターンと同一のパターンをAlの蒸着により形成した。このとき、下部電極の引き出し電極と重ならないようにしつつ同様の引き出し電極もAl蒸着により形成した。その厚みは200nm程度であった。
【0199】
上記のようにして製造したガスセンサーに対して実施例1−1と同様の大気暴露処理およびスタートアップ処理を行い、ガスセンサーの表面温度を250℃とした後、純窒素を1L/minで導入して比誘電率の計測を開始した。
【0200】
測定環境が安定し、比誘電率が52程度で安定したことを確認した後、実施例1−1と同様に1ppm酸素含有窒素の1L/minでの導入を開始した。すると、図16の実線に示されるように、急激な比誘電率の減少が計測され、導入から5分で比誘電率は約30となり、その後、減少率は少なくなるものの、1ppm酸素含有窒素の導入開始から120分後には比誘電率は20となった。この挙動をC60のみで作成した気体検知素子によるガスセンサーの結果(図16破線)と比較すると、計測開始前の比誘電率が高くなるという点で異なるが、酸素吸着により比誘電率が20程度となる点では共通である。したがって、Li内包C60を添加することで酸素検出感度が向上することが確認された。
【0201】
その後、ガス経路を切り替えて純窒素を導入すると、比誘電率はすぐに上昇を開始し、切り替えから1時間後には計測開始時における比誘電率とほぼ同じレベルにまで回復した。その後、カーボンヒーターへの通電量を増加してガスセンサー表面の温度を280℃としたところ、1時間後には計測開始時の比誘電率に回復した。
【0202】
(5)比較例1−1
ガラス基板(30mm×30mm、厚さ0.12〜0.17mm)を用意し、真空度1×10−5Pa、残留酸素濃度10/cm以下(0.1ppb以下)の真空チャンバー内に設置した。そして、ガラス基板上に電極用の二つの長方形(20mm×2mm)のパターンを電極間距離が2mmになるようにして形成するとともに、各電極に接続する線状の引き出し電極用パターンをAuの蒸着により形成した。製膜されたAu電極の厚みは100nm程度であった。
【0203】
次に、C60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、製品名Nanomパープル)が充填されたモリブデンボートを温度計測しつつ通電加熱し、500〜550℃の範囲に制御してC60フラーレンを昇華させ、上記の二つの電極用Auパターン上およびこれらの電極間領域上に2μmの厚さでC60フラーレン膜を形成した。
【0204】
引き続き、真空度を10−5Pa、残留酸素濃度10/cm以下(0.1ppb以下)を維持したチャンバーに、Tiゲッターポンプによって酸素濃度を10/cm以下(0.1ppb以下)とした高純度窒素(以降「純窒素」と略称する。)を全圧が1気圧になるまで導入した。そして、上記のようにして製造したガスセンサーの、ガラス基板の製膜領域をなす面と反対側の面に当接させたカーボンヒーターに通電して、ガスセンサーの表面温度が280±10℃になるように6時間加熱してガスセンサーのスタートアップ処理を行った。
【0205】
280℃での6時間の加熱後、カーボンヒーターへの通電量を調整してガスセンサーの表面温度を250℃に設定し、インピーダンスアナライザからの端子を接続して直流電圧(20V)を印加してガスセンサーの抵抗率の測定を開始した。
【0206】
純窒素での抵抗率を計測後、純窒素に添加する酸素を段階的に増加させて、抵抗率の変動が安定した状態をその添加酸素濃度の抵抗率として計測した結果、図17のような抵抗率の酸素濃度依存性が観測された。なお、図17において、○が計測結果であり、実線は近似直線である。
【0207】
このように、高い線形性が観測され、センサーとして求められる基本性能を有していることは確認されたものの、抵抗率の安定に要する時間は2時間程度であり、しかも1000ppbの酸素暴露後、ガスセンサーを280℃に加熱しても20時間経過しなければ元の状態に回復しなかった。
【0208】
また、水分についても同様の計測を行ったが、酸素の場合のような抵抗値の変動は計測されなかった。
【0209】
2.実施例2
続いて、実施例2を用いて、本発明に係るガスセンサーの取り得る構成、特に静電容量部の構成が異なる場合の構成について説明する。なお、以下の実施例では、C60フラーレンの蒸着膜からなる気体検知素子が、気体を吸着した場合に導電率が低下するように、温度が低下した場合も導電率が低下することを利用して、温度を変化させることで気体吸着状態を模擬的に発生させ、静電容量部の構成が異なる場合のガスセンサーの計測結果を検証した。
【0210】
(1)実施例2−1
表面粗さがRaで20nm以下になるまで研磨したアルミナ基板(30mm×30mm、厚さ0.12〜0.17mm)であって、あらかじめ所定の位置(2箇所)に電極パッドとしての金蒸着膜が形成されたものを用意し、真空度3×10−5PaのAl蒸着用の真空チャンバー内に設置した。そして、セラミックス基板の研磨面上に電極用の長方形(4mm×6mm)のパターンとこれに接続する線状の引き出し電極用パターンとをAlの蒸着により形成した。成膜速度は1.5Å/s程度であり、蒸着膜の厚みは50nm程度であった。なお、一方の金電極パッド上に引き出し電極の一部を形成することで電気的に接続させた。
【0211】
次に、Al蒸着された基板を、真空度1×10−4Pa、残留酸素濃度10/cm以下(1ppb以下)のフラーレン蒸着用の真空チャンバー内に設置した。Al蒸着用のチャンバーからの大気開放時間は20分以下であった。そして、C60フラーレン(フロンティアカーボン株式会社製、製品名Nanomパープル)が充填されたモリブデンボートを温度計測しつつ通電加熱し、500〜550℃の範囲に制御してC60フラーレンを昇華させた。こうして、上記の電極用Alパターン上に3〜4Å/s程度の成膜速度でC60フラーレンを堆積させて、1.4μmの厚さのC60フラーレン膜を形成した。なお、C60フラーレンによるパターンは、その下のAlパターン(引き出し電極部を除く。)が完全に覆われるような長方形のパターンとした。
【0212】
続いて、このC60フラーレン膜が形成された基板を再び上記のAl蒸着用チャンバーに設置した。このときの大気開放時間は20分であった。そして、C60フラーレン膜上に、先の電極用Alパターンよりも狭い範囲のパターン(2mm×5mm)をAlの蒸着により形成した。その成膜速度は先のAl蒸着と同一であり、厚みも50nm程度であった。また、この蒸着では、この電極の引き出し電極を下部電極の引き出し電極と重ならないようにAl蒸着により形成し、その一部は金電極パッド上になるようにした。
【0213】
基板をチャンバーから取り出して大気中(25℃、60%RH)に24時間放置して、Al蒸着膜に自然酸化膜を形成させた。自然酸化膜を含む静電容量部のキャパシタンスは15nF程度であった。こうして、有効電極面積が10mmのガスセンサーを得た。
【0214】
このガスセンサーをAl蒸着用チャンバーから取り出し、真空度を10Paに維持した測定用チャンバーに設置した。続いて、ガスセンサーの、セラミックス基板の製膜領域をなす面と反対側の面に当接させたカーボンヒーターに通電して、ガスセンサーの表面温度が200±10℃になるように24時間加熱してガスセンサーのスタートアップ処理を行った。
【0215】
スタートアップ処理の終了後、ガスセンサーの表面温度をほぼ200℃に維持したままで、二箇所の引き出し電極に、0.01Hzから10MHzまでの範囲で印加電圧の周波数を任意に変化させうる電源からの端子を接続させた。そして、この引き出し電極に、印加電圧を50mVに維持しつつ0.01Hzから10MHzまで印加周波数を変化しうる電源の端子からの配線を接続して、インピーダンスの計測を行った。計測されたインピーダンスからガスセンサーのキャパシタンスを算出して、ガスセンサーの表面温度が200℃のときのキャパシタンスプロファイルを求めた。
【0216】
続いて、カーボンヒーターを調節してガスセンサーの表面温度を180℃まで下げ、この温度で安定したことを確認してから、周波数を変化させながらインピーダンス計測を行い、上記のキャパシタンスプロファイルを求めた。
【0217】
こうして、ガスセンサーの表面温度を25℃まで下げながら、キャパシタンスプロファイルの計測を複数回行った。
その結果を図18に示す。図18における点は実測値であり、実線は図6に示される等価回路に基づいてフィッティングした結果である。符号1301で示されるプロファイルが200℃の測定結果であり、符号1302〜1310で示されるプロファイルは、それぞれ、180℃、160℃、140℃、120℃、100℃、80℃、60℃、40℃、および25℃の測定結果である。
【0218】
図18に示されるように、どの温度でも、キャパシタンスプロファイルは、高周波において低く、低周波において高くなり、その中間にほぼ10Hzの幅の遷移領域を有するものとなった。この遷移領域は、高温であって導電率が高いほど高周波側にあり、200℃では遷移領域の中央がほぼ10kHzになった。これに対し、25℃では、導電率が低下したことに基づいて、遷移領域の中央が0.2Hz程度になった。この結果から、気体検知素子の導電率の変化をこのキャパシタンスプロファイルの変化として計測できることが確認された。本実施例に係るガスセンサーの等価回路は図6に記載される回路であるとして上記の測定結果をフィッティングしたところ、気体検知素子の導電率は約10−11(Ωcm)−1から約10−6(Ωcm)−1の範囲で変化していると見積もられた。
【0219】
したがって、気体を吸着させた場合も同様の導電率変化が発生するので、その吸着量をキャパシタンスプロファイルから見積もることが可能であることが確認された。
なお、プロファイルの全体的傾向として、高温のときほど低周波側のキャパシタンスが増加した。これは、シミュレーションの結果、温度が高いときに静電容量部のキャパシタンスが増加していると見積もられた。具体的には、25℃では15nF程度であったものが、200℃においては35nF程度まで増加していると算出された。
【0220】
このようにキャパシタンスが増加する理由は明確でないが、静電容量部を構成する自然酸化膜以外の要素、たとえば気体検知素子の自然酸化膜との界面近傍に形成される誘電性の高い領域が温度によって変動し、これがキャパシタンスの変化として計測されているものと考えられる。
また、遷移領域より低周波側でキャパシタンスが漸増する傾向が見られた。これは、静電容量部に含まれる抵抗成分がやはり温度により変動していることに起因する。
【0221】
(2)実施例2−2
実施例2−1の製造方法において、蒸着材料をAlからAuに代えた以外は同一の製造方法でガスセンサーを製造し、同様のスタートアップ処理を行った。スタートアップ処理の終了後、ガスセンサーの表面温度をほぼ200℃に維持したままで、二箇所の引き出し電極に、0.01Hzから10MHzまでの範囲で印加電圧の周波数を任意に変化させうる電源からの端子を接続させた。そして、この引き出し電極に、印加電圧を50mVに維持しつつ0.01Hzから10MHzまで印加周波数を変化しうる電源の端子からの配線を接続して、インピーダンスの計測を行った。計測されたインピーダンスからガスセンサーのコンダクタンスを算出して、ガスセンサーの表面温度が200℃のときのコンダクタンスプロファイルを求めた。以降、実施例2−1と同様に、ガスセンサーの表面温度を冷却させながら複数のコンダクタンスプロファイルを計測した。
【0222】
その結果を図19に示す。符号1401で示されるプロファイルが200℃の測定結果であり、符号1402〜1410で示されるプロファイルは、それぞれ、180℃、160℃、140℃、120℃、100℃、80℃、60℃、40℃、および24℃の測定結果である。
【0223】
図19に示されるように、どの温度でも、コンダクタンスプロファイルは、低周波において平坦であって、高周波において増加する傾向を示した。また、温度が低いとき、すなわち気体検知素子の導電率が低いときほど、増加傾向に転ずる周波数が低くなった。
【0224】
(3)実施例2−3
実施例2−2の製造方法と同一の製造方法でガスセンサーを製造し、同様のスタートアップ処理を行った。スタートアップ処理の終了後、ガスセンサーの表面温度をほぼ210℃に維持したままで、二箇所の引き出し電極に、5Hzから5MHzまでの範囲で印加電圧の周波数を任意に変化させうる電源からの端子を接続させた。そして、この引き出し電極に、印加電圧を50mVに維持しつつ0.01Hzから10MHzまで印加周波数を変化しうる電源の端子からの配線を接続して、インピーダンスの計測を行った。計測されたインピーダンスからガスセンサーのキャパシタンスを算出して、ガスセンサーの表面温度が210℃のときのキャパシタンスプロファイルを求めた。その結果を図20の黒丸(●)で示した。
【0225】
次に、引き出し電極と電源端子との間に1nF(1000pF)の市販のコンデンサを介在させ、ガスセンサーの表面温度を210℃に維持してキャパシタンスプロファイルを求めた。その結果を図20の三角(△)で示した。
【0226】
続いて、1nF(1000pF)のコンデンサを10nF(10000pF)の市販のコンデンサに置き換えて、同様にガスセンサーの表面温度を210℃に維持してキャパシタンスプロファイルを求めた。その結果を図20のひし形(◇)で示した。
【0227】
図20に示されるように、コンデンサを介在させないときには、キャパシタンスプロファイルはほぼ平坦で変化がなかったが、1nFのコンデンサを介在させると、低周波領域においてキャパシタンスが高くなり、2kHzから50kHzにかけて遷移領域が測定された。また、10nFのコンデンサを介在させると、低周波領域におけるキャパシタンスはさらに大きくなり、20Hzから50kHzにかけて遷移領域が測定された。
【0228】
この結果により、気体検知素子の両方の電気的端部に不活性金属層からなる電極が形成された簡単な構造の電気素子でも、外部にコンデンサを設けることによって、キャパシタンスプロファイルを求めることが可能であること、および、外部コンデンサを用いることによってキャパシタンスプロファイルを任意に調整しうることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0229】
【図1】本発明の第一の実施形態に係る気体計測システムを示す概念図である。
【図2】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの構造を示す概念図であり、(a)が上面図、(b)が(a)におけるAA断面での断面図、(c)が(a)におけるBB断面での断面図である。
【図3】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの等価回路を示す部分回路図である。
【図4】本発明の第一の実施形態に係る気体計測システムにより得られるキャパシタンスプロファイルの一例およびそのフィッティング結果を示すグラフである。
【図5】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの等価回路のシミュレーションにより得られたキャパシタンスプロファイルを示すグラフである。
【図6】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーを厳密に解釈した場合における等価回路を示す部分回路図である。
【図7】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの変形例(誘電性付加層を含む静電容量部を気体検知素子と一体で形成する場合)の構成を概念的に示す図であり、(a)は気体検知素子と不活性金属層との間に誘電性付加層を形成する場合を、(b)は気体検知素子に不活性金属層を直接形成し、さらにその両端に誘電性付加層を形成する場合を示している。
【図8】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの変形例(静電容量部を気体検知素子と別体で形成する場合)の構成を概念的に示す図である。
【図9】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの変形例(一体形成と別体形成との組み合わせ)の構成を概念的に示す図である。
【図10】本発明の第一の実施形態に係るガスセンサーの等価回路のシミュレーションにより得られたコンダクタンスプロファイルを示すグラフである。
【図11】本発明の第二の実施形態に係るガスセンサーの等価回路を示す部分回路図である。
【図12】本発明の第二の実施形態に係るガスセンサーの等価回路のシミュレーションにより得られたコンダクタンスプロファイルを示すグラフである。
【図13】実施例1−1に係るガスセンサーによる250℃における酸素の計測結果を示すグラフである。
【図14】実施例1−2に係るガスセンサーによる250℃における水分の計測結果を示すグラフである。
【図15】実施例1−3に係るガスセンサーによる150℃における水分の計測結果を示すグラフである。
【図16】実施例1−4に係るガスセンサーによる250℃における酸素の計測結果を示すグラフである。
【図17】比較施例1に係るガスセンサーによる250℃における酸素の計測結果を示すグラフである。
【図18】実施例2−1に係るガスセンサーによる各温度におけるキャパシタンスプロファイルの測定結果(丸印)およびこれらに対するフィッティング結果(実線)を示すグラフである。
【図19】実施例2−2に係るガスセンサーによる各温度におけるコンダクタンスプロファイルの測定結果を示すグラフである。
【図20】実施例2−3に係るガスセンサーそのままの、ならびに1nFおよび10nFの外部コンデンサを接続したときのキャパシタンスプロファイルの測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、
当該気体検知素子に電気的に接続された一対の電極とを備え、
当該一対の電極に印加される極性反転を含み周期的に変化する電圧に応じて変化する電気的応答から、前記気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とすることを特徴とするガスセンサー。
【請求項2】
誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、
前記気体検知素子に対して直列に接続された静電容量部と、
前記気体検知素子および前記静電容量部を含む電気素子の端部に夫々接続された一対の電極とを備え、
当該一対の電極に印加される極性反転を含み周期的に変化する電圧に応じて変化する電気的応答から、前記気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とすることを特徴とするガスセンサー。
【請求項3】
前記静電容量部のキャパシタンスが前記気体検知素子のキャパシタンスよりも大きい請求項2記載のガスセンサー。
【請求項4】
前記静電容量部が複数の部材から構成される請求項2または3に記載のガスセンサー。
【請求項5】
前記気体検知素子の電気的端部をなす面上に直接形成された金属層を備え、
当該金属層の前記気体検知素子側の界面部には当該金属層の金属が改質された誘電性改質層を有し、
当該誘電性改質層は前記静電容量部の少なくとも一部をなす請求項2から4のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項6】
前記誘電性改質層は、前記気体検知素子を通過した酸素により前記金属層の金属が酸化されてなる酸化膜である請求項5記載のガスセンサー。
【請求項7】
前記気体検知素子の電気的端部の少なくとも一方をなす面上に直接形成された誘電体層を備え、当該誘電体層が前記静電容量部の少なくとも一部をなすとともに前記気体検知素子への電荷注入を防止する請求項2から6のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項8】
前記誘電性半導体は、気体吸着によって導電率が低下する特性を有するフラーレン材料である請求項1から7のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項9】
前記誘電性半導体は有機半導体である請求項1から7のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項10】
前記誘電性半導体はカーボンナノ材料である請求項1から7のいずれかに記載のガスセンサー。
【請求項11】
誘電性半導体を有し、気体の吸着状態に応じて導電率が変化する気体検知素子と、当該気体検知素子に接続された一対の電極とを備え、請求項2から4のいずれかに記載のガスセンサーに用いられる気体検知モジュールであって、
当該気体検知モジュールに対して電気的に直列に静電容量部を接続し、
前記気体検知モジュールと前記静電容量部とを含むガスセンサーの電気的端部に極性反転を含み周期的変化する電圧を印加し、
その電圧印加に対する電気的応答から前記気体検知素子への気体の吸着状態を検知可能とすることを特徴とするガスセンサー用気体検知モジュール。
【請求項12】
請求項1から10のいずれかに記載されるガスセンサーと、当該ガスセンサーの電気的端部に極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加可能な電源と、当該電源により印加される電圧に対する前記ガスセンサーの電気的応答を計測する計測手段とを備えることを特徴とする気体計測システム。
【請求項13】
請求項11に記載される気体検知モジュールと、当該気体検知モジュールに直列に接続された静電容量部と、前記気体検知モジュールと前記静電容量部とを含むガスセンサーの電気的端部に極性反転を含み周期的に変化する電圧を印加可能な電源と、当該電源により印加される電圧に対する前記ガスセンサーの電気的応答を計測する計測手段とを備えることを特徴とする気体計測システム。
【請求項14】
前記ガスセンサーに吸着した気体を脱離させる気体脱離手段をさらに備える請求項12または13記載の気体計測システム。
【請求項15】
前記ガスセンサーの温度を計測するための測温手段をさらに有し、当該測温手段は、前記ガスセンサーと同じ構成を有しつつその気体検知素子が気体を吸着しないように封止されたものである請求項12から14のいずれかに記載の気体計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2009−47675(P2009−47675A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316222(P2007−316222)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(502344178)株式会社イデアルスター (59)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】