ガスセンサ
【課題】例えばマイクロマシン技術で作製した発熱する検出素子を用いた熱伝導式ガスセンサにおいて、高応答、高精度を同時に達成できるガスセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】検出素子を覆う有孔キャップと、有孔キャップの孔9と対向しない位置で孔9の中心を対称点として設けた4個の同径のガス導入口8を形成したケース4とからなり、孔9の直径をガス導入口8の直径で除した値が1.5以上3.5以下であり、かつ孔9の中心と任意のガス導入口8の中心の間の距離から孔9の半径とガス導入口8の半径を差し引いた値に対して孔9の直径で除した値が0以上0.2以下とすることにより、被検出ガスが直ちに検出素子まで拡散でき、かつガスセンサ周囲の被検出ガス流量の変化に出力が影響されない構造となるので、極めて高応答で流量依存性の少ない高精度ガスセンサを構成できる。
【解決手段】検出素子を覆う有孔キャップと、有孔キャップの孔9と対向しない位置で孔9の中心を対称点として設けた4個の同径のガス導入口8を形成したケース4とからなり、孔9の直径をガス導入口8の直径で除した値が1.5以上3.5以下であり、かつ孔9の中心と任意のガス導入口8の中心の間の距離から孔9の半径とガス導入口8の半径を差し引いた値に対して孔9の直径で除した値が0以上0.2以下とすることにより、被検出ガスが直ちに検出素子まで拡散でき、かつガスセンサ周囲の被検出ガス流量の変化に出力が影響されない構造となるので、極めて高応答で流量依存性の少ない高精度ガスセンサを構成できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガスの濃度を検出するためのガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検出ガスの濃度を検出するためのガスセンサとして、従来、ガスの持つ熱伝導率が種類によって異なる性質を利用して、熱伝導率の変化を感熱素子(発熱素子と併用)の温度変化として検出する原理のものが提案されている。例えば、被検出ガスが空気中に存在する湿気である場合、感熱素子から奪われる熱量が空気のみの時より多くなり、これにより素子の温度が湿度に応じて変化する。この温度変化を感熱素子の抵抗値の変化として電気的に検出するものである。ここで、乾燥空気中に封じ込められたもう一つの感熱素子を併用することにより、前記感熱素子からは周囲温度にのみ相関した出力が得られるため、両感熱素子の差を取ることで周囲温度の影響を除いた湿度出力が得られる。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特許第3559915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなガスセンサを可燃ガス、特に燃えやすい水素の漏洩検知に用いる場合、被検出ガスの応答性が特に重要となる。すなわち、図13に示した特許文献1の構造の場合、確かに水素に対しても検出することは可能であるが、水素は通気孔113から小孔107を通って感熱素子101まで拡散していくので、水素が感熱素子101に到達するまで時間がかかる。実際に図13と同様のガスセンサを構成して水素検知における90%応答性(ガスを切り替えて出力変化の90%に至るまでの時間)を評価したところ1分以上かかることがわかり、水素の漏洩検知に対して極めて応答性が遅いという課題があった。
【0005】
これに対し、一般的には通気孔113や小孔107を大きくすれば応答性が速くなるが、同時にガスセンサ108に導入される被検出ガスの流量の影響も大きくなる。すなわち、背景技術のガスセンサのように検出原理に熱伝導式を用いたものは、ガスの種類だけでなくガス流量によっても感熱素子101から奪われる熱量に変化が現れ、結果的にセンサ出力に誤差が発生してしまうという課題があった。
【0006】
以上のことから、本発明は応答性がよく流量依存性の少ない高精度ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明は、特に、被検出ガスに接触する検出素子と、この検出素子を覆う有孔キャップと、この有孔キャップの孔と対向しない位置でこの孔の中心を対称点として設けた4個の同径のガス導入口を形成したケースとからなり、前記孔の直径を前記ガス導入口の直径で除した値が1.5以上3.5以下であり、かつ前記孔の中心と任意の前記ガス導入口の中心の間の距離から前記孔の半径と前記ガス導入口の半径を差し引いた値に対して前記孔の直径で除した値が0以上0.2以下としたものであり、被検出ガスが直ちに検出素子まで拡散できて、かつガスセンサ周囲の被検出ガス流量の変化に出力が影響されない構造となるので、極めて高応答で流量依存性の少ない高精度ガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、検出素子をマイクロマシン技術で作成したものであり、これにより、検出素子の体積を極小にできるため、ガスセンサ内における被検出ガスの置換体積が小さくなり、さらに高応答なガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0010】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、孔に金属製の網を二重に設けたものであり、これにより、ガスセンサ外部からのノイズが直接検出素子に至らず、ノイズの影響を低減できるとともに、万一水素などの可燃ガスが検出素子近傍で発火しても火炎が網より外に至らなくなるため、被検出ガスの拡散を損なわず、かつ流量の影響を受けずに安全性を確保できるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の請求項4に記載の発明は、特に、有孔キャップおよびケースが金属材料からなり、両者を電気的、機械的に接続したものであり、これにより、ガスセンサ外部からのノイズの影響を低減できるので、ノイズによる応答性への影響を低減できるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の請求項5に記載の発明は、特に、検出素子の出力からガス濃度を検出する検出回路を設けた回路基板がケースに内蔵され、この回路基板のグランド線を前記ケースおよび有孔キャップと電気的に接続したものであり、これにより、検出回路も含めてガスセンサ外部からのノイズの影響を低減できるので、ノイズによる応答性への影響をさらに低減できるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の請求項6に記載の発明は、特に、有孔キャップおよびケースを、はめ合いにより接続したものであり、これにより、有孔キャップとケースの隙間から侵入するノイズの影響を低減できるので、ノイズによる応答性への影響をさらに低減できるという作用効果が得られる。
【0014】
本発明の請求項7に記載の発明は、特に、有孔キャップとケースの隙間を接着剤で埋めたものであり、これにより、有孔キャップとケースの隙間から被検出ガスが漏れて検出素子に至るのに時間がかかるということがなくなるため、高応答なガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスセンサは、上記のような構成の口数、寸法規定にすることにより、被検出ガスが直ちに検出素子まで拡散でき、かつ、ガスセンサ周囲の被検出ガス流量の変化に出力が影響されない構造となるので、極めて高応答で流量依存性の少ない高精度ガスセンサを構成できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施の形態を用いて、本発明の全請求項に記載の発明について説明する。なお、本実施の形態では被検出ガスとして水素を検出するものとして、以下、説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態におけるガスセンサの分解斜視図である。図2は同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部および検出素子の概略斜視図である。図3は同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部近傍の概略断面図である。図4は同実施の形態におけるガスセンサの90%応答性の定義図である。図5は同実施の形態におけるガスセンサの流量依存性の定義図である。図6は同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する90%応答性の相関図である。図7は同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する流量依存性の相関図である。図8は同実施の形態におけるガスセンサの孔の中心とガス導入口の中心の間の距離から孔の半径とガス導入口の半径を差し引いた値を孔の直径で除した値(以下、ピッチという)に対する90%応答性の相関図である。図9は同実施の形態におけるガスセンサのピッチに対する流量依存性の相関図である。図10は同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の数に対する90%応答性の相関図である。図11は同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の穴数に対する流量依存性の相関図である。図12は同実施の形態におけるガスセンサのノイズ有無による応答性への影響を示す特性図である。
【0018】
図1において、1はガス検出部であり、その端子は回路基板2に半田付けにより実装されている。なお、ガス検出部1の外周は全周に渡って回路基板2の上に設けたグランドパターンとも半田3により固着されている。これにより、ガス検出部1は電気的かつ機械的に回路基板2に固定されることになる。回路基板2はアルミダイキャストにより形成されたケース本体4と同じくアルミダイキャストで形成されたケース蓋5とともに4本の金属製ネジ6で固定される。この際、回路基板2でケース本体4およびケース蓋5が接触する部分は全てグランドパターンにしてあるので、回路基板2をケース本体4およびケース蓋5内に固定することでケース本体4およびケース蓋5もグランド共通になる。
【0019】
ケース本体4には突起部7が設けられており、ガス検出部1を実装した回路基板2をケース本体4に取り付けることでガス検出部1の一部が突起部7にちょうど挿入される。挿入する際にはガス検出部1の突起部7に挿入される外周部分に接着剤を塗布している。これにより挿入することでガス検出部1と突起部7の隙間が接着剤で埋まり、この部分からのガス漏れを防ぐことができる。突起部7の底面にはガス検出部1に設けた孔9の中心(すなわち、突起部7の中心)が対称点となるように4つのガス導入口8が形成されている。ガス導入口8はガス検出部1が突起部7に挿入されても孔9と対向しない位置に設けられている。
【0020】
ケース本体4には、さらに回路基板2の信号のやり取りを行うための貫通コンデンサ10が固定されており、その端子は回路基板2をケース本体4に挿入することでU字形状に曲げた部分を介して回路基板2と接続される。接続部分は半田付けにより固定される。
【0021】
このような構造とすることにより、回路基板2はケース本体4およびケース蓋5とグランドを共通にしたシールド構造の中に固定されるので、外乱ノイズに強いガスセンサが構成される。
【0022】
次に、ガス検出部1の詳細構造について図2を用いて説明する。ガス検出部1は、ベース11の上に検出素子12を接着し、金製のワイヤ13でベース11に設けたピン14と検出素子12を配線し、有孔キャップ15をベース11に被せて溶接することで構成されている。なお、有孔キャップ15の孔9の部分にはステンレス製の網16が二重に設けられている。網16は有孔キャップ15と溶接により接合されているので、網16もグランドに接続されることになる。従って、網16の部分に到達した外乱ノイズが検出素子12に至ることはなくなり、ノイズの影響を低減できる。
【0023】
検出素子12はシリコンからなる台座17をマイクロマシンで加工技術により厚み約10マイクロメートルの極薄に加工した窪み部の表面上に、図示しない絶縁層と、その上につづら折れ状に形成した白金薄膜からなる発熱体18からなる。これにより発熱体18の熱容量を極めて低減され、応答性のよいガスセンサを構成することができる。発熱体18の両端はワイヤ13をボンディングするためのランド19が設けられている。なお、発熱体18やランド19の下面には図示しない絶縁層が形成されている。さらに、発熱体18の上面にも図示しない保護層が形成されている。
【0024】
次にガスセンサに被検出ガスが到達する様子を図3で説明する。被検出ガスは図3の矢印で示したようにガス導入口8を通って突起部7と有孔キャップ15の隙間に至る。被検出ガスはさらに孔9、網16を通り有孔キャップ15内に導入される。その後、検出素子12に到達することでガス濃度を検出している。
【0025】
このような基本構造のガスセンサを用いて、ガス導入口8や孔9の大きさ、ピッチ、ガス導入口8の数を変えることにより、応答性に対する影響を調べた。応答性は流量500cc/分の空気から同流量の1%水素含有の空気に切り替えて測定した。ガスの切り替えに要する時間は0.3秒であった。図4に応答性の定義図を示す。空気から1%水素に切り替えて流したとき、出力が飽和値である1%H2(%H2は「%水素濃度」の意味、以下同様)の90%に相当する0.9%H2となるまでの時間を応答性(以下、90%応答性)と定義する。図4の例では90%応答性は8秒になる。なお、水素漏洩検知のための応答性の目標値は5秒以下とした。
【0026】
また、前記のようにガス導入口8や孔9の大きさ、ピッチ、ガス導入口8の数を変えると、ガスセンサに導入される被検出ガスの流量の影響も大きくなる。そこで、流量に対する影響も調べた。流量は0から30L/分(発明者の測定系では流速10m/秒に相当)までを10L/分刻みで100秒毎に上下して測定した。これにより、図5に示すように流量に応じてノイズ状にランダムにセンサ出力が変動した。その最大変動幅(単位:%H2p−p、p−pはピーク・トゥ・ピークの意味、以下同様)を流量依存性と定義して評価した。図5の例では流量依存性は0.144%H2p−pになる。なお、流量依存性は小さいほど高精度となるので、流量依存性の目標値は0.05%H2p−p以下とした。
【0027】
評価結果を以下に説明する。
【0028】
まず、ガス導入口8や孔9の穴径に対する90%応答性および流量依存性の結果であるが、予備検討の結果、ガス導入口8と孔9がオーバーラップする構造、すなわち図3で定義を示したピッチがマイナスの構造では、流量依存性が著しく大きくなることがわかったので、ピッチが必ず0以上になるようにそれぞれの穴径を設計した。従って、ガス導入口8を大きくすると孔9は小さくした。逆の場合も同様である。
【0029】
このことから、穴径はガス導入口8と孔9の2種類のパラメータを持つので、これを一元的に表現するために、孔9の直径をガス導入口8の直径で除した値(以下、穴径比)で取り扱う。なお、他のパラメータはピッチが0、ガス導入口8の穴数は4とした。
【0030】
結果を図6、図7に示す。図6より、90%応答性は穴径比に対し下に凸のカーブを示すことがわかる。これは、ガス導入口8または孔9のいずれかの直径が小さいと90%応答性が悪くなることを示す。従って、90%応答性を最速とする構造があることがわかる。図6の結果から、目標値5秒以下を達成する穴径比は1.5以上3.5以下であることがわかった。従って、この範囲内の組み合わせでそれぞれの穴径を設計すればよい。
【0031】
一方、流量依存性は図7の結果より、今回評価した範囲では穴径比に大きく依存せず、どの組み合わせでも目標0.05%H2p−pを満たすことがわかった。これは前述のように流量依存性が大きくなる条件であるピッチがマイナスとなる構造にしなかったためである。
【0032】
次に、ピッチに対する90%応答性および流量依存性の結果を図8、図9にそれぞれ示す。なお、ピッチは穴径の組み合わせを変えることで可変した。他のパラメータとしてガス導入口8の穴数は8つとした。
【0033】
図8より、ピッチが大きくなると90%応答性は遅くなり、目標を満たすにはピッチが0.2以下でなければならないことがわかる。
【0034】
一方、図9より、ピッチが小さいほど流量依存性が悪くなることがわかる。この結果からは目標を満たすピッチの下限は約0.15となる。従って、図8、図9の結果からピッチの範囲は0.15以上0.2以下となる。しかし、これはガス導入口8が8個の場合の結果であり、穴数による影響を加味していない。
【0035】
そこで、次にガス導入口8の穴数に対する90%応答性および流量依存性の結果を図10、図11にそれぞれ示す。なお、他のパラメータとして穴径比は2、ピッチは0とした。
【0036】
図10より、穴数が4個から8個まで変わっても90%応答性にはほとんど影響せず約4秒であるので、穴数はいくつでも目標を達成できることがわかる。
【0037】
一方、図11より、穴数が増えると流量依存性が悪くなることがわかる。従って、たとえピッチが0でも穴数が多くなると流量依存性が発現し、目標を満たすには穴数を4個にしなければならないことがわかる。
【0038】
以上のことから、ピッチの結果を再考すると、ピッチの評価は穴数を8個として行ったが、図10の結果から穴数による90%応答性への影響はないため、穴数が4個でもピッチの90%応答性への影響はないと考える。従って、前述の通り、穴数が4個の場合も目標達成にはピッチが0.2以下でなければならない。一方、流量依存性については穴数の影響が大きく、穴数が4個であれば、たとえピッチが0でも流量依存性は図11の結果より目標を達成できる。ゆえに、穴数が4個の場合はピッチの下限は0でもよいことになる。
【0039】
以上の結果をまとめると、穴数は4個とし、穴径比は1.5以上3.5以下、ピッチは0以上0.2以下とすれば目標を達成できることがわかった。なお、具体的には穴数4、穴径比2.57、ピッチ0の構成が最適であり、その90%応答性は最速の3.8秒、流量依存性は0.046%H2p−pであることを確認した。
【0040】
次に回路基板2に設けた検出回路のノイズの影響について述べる。
【0041】
ノイズと応答性には関係がないように思われるが、本実施の形態のガスセンサに関しては駆動方法に起因して大きく影響する。
【0042】
前述のように、検出素子12はマイクロマシン技術で作製されているので、極めて熱容量が小さい。また、熱伝導式ガスセンサの場合、熱伝導率が周囲温度によって変化するため、温度補正が必須である。これらのことから、検出素子12をほとんど発熱させない条件で検出素子12の抵抗値を測定すると周囲温度を得ることができるので、まず検出素子12の抵抗値を微弱電流で測定し、次に発熱させる電流を流して瞬時に加熱し熱伝導率を測定することで、1つの検出素子12で2つの出力を得ることができる。その後電流を切り検出素子12を冷却し、その間に温度補正したガス濃度を演算して出力する。これを一定の周期で繰り返す。この方法の特徴は、素子が1つなので背景技術のように2つの感熱素子を使うことによる素子ばらつきの影響を受けない、温度と熱伝導率を同一の場所で測定できるため場所による誤差がない、超小型なのでガス置換体積が小さく応答性向上に寄与する、といった点が挙げられる。
【0043】
これらの特徴を活かすために、検出素子12にはパルス状に電流が繰り返し印加されるので、パルス周期毎にしか出力が得られない。なお、本実施の形態ではパルス周期を2秒としたので、回路基板2に設けた検出回路で2秒毎に出力が更新されるようにした。
【0044】
ここで、回路基板2に設けた検出回路に外乱ノイズが乗ると、出力が2秒毎に大きく変動することになる。この様子を図12(a)に示す。同図は90%応答性測定時の時間によるセンサ出力の変化を示し、図中の矢印が90%応答性に相当する。また、各プロットは2秒毎の出力を表す。出力がノイズによって変動した場合の90%応答性は図12(a)より約5秒であるが、本実施の形態で述べたように外乱ノイズに対してシールド構造にすることでノイズを除去した場合の90%応答性は図12(b)に示すように4秒弱であった。これは、本来の90%応答性の実力は約4秒であるのに、ノイズにより出力が実際より小さくなってしまった場合、結果的に90%応答性が遅く見えてしまうためである。このことから、本実施の形態で述べた回路基板2に設けた外乱ノイズに対するシールド構造が高応答性実現に必要であることがわかる。
【0045】
以上の構成、動作により、応答性がよく流量依存性の少ない高精度なガスセンサを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明にかかるガスセンサは、ガス導入口や孔の口数、寸法を最適範囲に規定したことにより、高応答、高精度を同時に達成できるという効果を有し、特にマイクロマシン技術で作製した発熱する検出素子を用いた熱伝導式ガスセンサへの適用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態におけるガスセンサの分解斜視図
【図2】同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部および検出素子の概略斜視図
【図3】同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部近傍の概略断面図
【図4】同実施の形態におけるガスセンサの90%応答性の定義図
【図5】同実施の形態におけるガスセンサの流量依存性の定義図
【図6】同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する90%応答性の相関図
【図7】同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する流量依存性の相関図
【図8】同実施の形態におけるガスセンサのピッチに対する90%応答性の相関図
【図9】同実施の形態におけるガスセンサのピッチに対する流量依存性の相関図
【図10】同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の数に対する90%応答性の相関図
【図11】同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の数に対する流量依存性の相関図
【図12】同実施の形態におけるガスセンサのノイズ有無による応答性への影響を示す特性図
【図13】背景技術における湿度センサの断面図
【符号の説明】
【0048】
1 ガス検出部
2 回路基板
3 半田
4 ケース本体
5 ケース蓋
6 ネジ
7 突起部
8 ガス導入口
9 孔
10 貫通コンデンサ
11 ベース
12 検出素子
13 ワイヤ
14 ピン
15 有孔キャップ
16 網
17 台座
18 発熱体
19 ランド
20 接着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出ガスの濃度を検出するためのガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検出ガスの濃度を検出するためのガスセンサとして、従来、ガスの持つ熱伝導率が種類によって異なる性質を利用して、熱伝導率の変化を感熱素子(発熱素子と併用)の温度変化として検出する原理のものが提案されている。例えば、被検出ガスが空気中に存在する湿気である場合、感熱素子から奪われる熱量が空気のみの時より多くなり、これにより素子の温度が湿度に応じて変化する。この温度変化を感熱素子の抵抗値の変化として電気的に検出するものである。ここで、乾燥空気中に封じ込められたもう一つの感熱素子を併用することにより、前記感熱素子からは周囲温度にのみ相関した出力が得られるため、両感熱素子の差を取ることで周囲温度の影響を除いた湿度出力が得られる。
【0003】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特許第3559915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなガスセンサを可燃ガス、特に燃えやすい水素の漏洩検知に用いる場合、被検出ガスの応答性が特に重要となる。すなわち、図13に示した特許文献1の構造の場合、確かに水素に対しても検出することは可能であるが、水素は通気孔113から小孔107を通って感熱素子101まで拡散していくので、水素が感熱素子101に到達するまで時間がかかる。実際に図13と同様のガスセンサを構成して水素検知における90%応答性(ガスを切り替えて出力変化の90%に至るまでの時間)を評価したところ1分以上かかることがわかり、水素の漏洩検知に対して極めて応答性が遅いという課題があった。
【0005】
これに対し、一般的には通気孔113や小孔107を大きくすれば応答性が速くなるが、同時にガスセンサ108に導入される被検出ガスの流量の影響も大きくなる。すなわち、背景技術のガスセンサのように検出原理に熱伝導式を用いたものは、ガスの種類だけでなくガス流量によっても感熱素子101から奪われる熱量に変化が現れ、結果的にセンサ出力に誤差が発生してしまうという課題があった。
【0006】
以上のことから、本発明は応答性がよく流量依存性の少ない高精度ガスセンサを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有する。
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明は、特に、被検出ガスに接触する検出素子と、この検出素子を覆う有孔キャップと、この有孔キャップの孔と対向しない位置でこの孔の中心を対称点として設けた4個の同径のガス導入口を形成したケースとからなり、前記孔の直径を前記ガス導入口の直径で除した値が1.5以上3.5以下であり、かつ前記孔の中心と任意の前記ガス導入口の中心の間の距離から前記孔の半径と前記ガス導入口の半径を差し引いた値に対して前記孔の直径で除した値が0以上0.2以下としたものであり、被検出ガスが直ちに検出素子まで拡散できて、かつガスセンサ周囲の被検出ガス流量の変化に出力が影響されない構造となるので、極めて高応答で流量依存性の少ない高精度ガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の発明は、特に、検出素子をマイクロマシン技術で作成したものであり、これにより、検出素子の体積を極小にできるため、ガスセンサ内における被検出ガスの置換体積が小さくなり、さらに高応答なガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【0010】
本発明の請求項3に記載の発明は、特に、孔に金属製の網を二重に設けたものであり、これにより、ガスセンサ外部からのノイズが直接検出素子に至らず、ノイズの影響を低減できるとともに、万一水素などの可燃ガスが検出素子近傍で発火しても火炎が網より外に至らなくなるため、被検出ガスの拡散を損なわず、かつ流量の影響を受けずに安全性を確保できるという作用効果が得られる。
【0011】
本発明の請求項4に記載の発明は、特に、有孔キャップおよびケースが金属材料からなり、両者を電気的、機械的に接続したものであり、これにより、ガスセンサ外部からのノイズの影響を低減できるので、ノイズによる応答性への影響を低減できるという作用効果が得られる。
【0012】
本発明の請求項5に記載の発明は、特に、検出素子の出力からガス濃度を検出する検出回路を設けた回路基板がケースに内蔵され、この回路基板のグランド線を前記ケースおよび有孔キャップと電気的に接続したものであり、これにより、検出回路も含めてガスセンサ外部からのノイズの影響を低減できるので、ノイズによる応答性への影響をさらに低減できるという作用効果が得られる。
【0013】
本発明の請求項6に記載の発明は、特に、有孔キャップおよびケースを、はめ合いにより接続したものであり、これにより、有孔キャップとケースの隙間から侵入するノイズの影響を低減できるので、ノイズによる応答性への影響をさらに低減できるという作用効果が得られる。
【0014】
本発明の請求項7に記載の発明は、特に、有孔キャップとケースの隙間を接着剤で埋めたものであり、これにより、有孔キャップとケースの隙間から被検出ガスが漏れて検出素子に至るのに時間がかかるということがなくなるため、高応答なガスセンサを構成できるという作用効果が得られる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガスセンサは、上記のような構成の口数、寸法規定にすることにより、被検出ガスが直ちに検出素子まで拡散でき、かつ、ガスセンサ周囲の被検出ガス流量の変化に出力が影響されない構造となるので、極めて高応答で流量依存性の少ない高精度ガスセンサを構成できるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施の形態を用いて、本発明の全請求項に記載の発明について説明する。なお、本実施の形態では被検出ガスとして水素を検出するものとして、以下、説明する。
【0017】
図1は本発明の実施の形態におけるガスセンサの分解斜視図である。図2は同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部および検出素子の概略斜視図である。図3は同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部近傍の概略断面図である。図4は同実施の形態におけるガスセンサの90%応答性の定義図である。図5は同実施の形態におけるガスセンサの流量依存性の定義図である。図6は同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する90%応答性の相関図である。図7は同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する流量依存性の相関図である。図8は同実施の形態におけるガスセンサの孔の中心とガス導入口の中心の間の距離から孔の半径とガス導入口の半径を差し引いた値を孔の直径で除した値(以下、ピッチという)に対する90%応答性の相関図である。図9は同実施の形態におけるガスセンサのピッチに対する流量依存性の相関図である。図10は同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の数に対する90%応答性の相関図である。図11は同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の穴数に対する流量依存性の相関図である。図12は同実施の形態におけるガスセンサのノイズ有無による応答性への影響を示す特性図である。
【0018】
図1において、1はガス検出部であり、その端子は回路基板2に半田付けにより実装されている。なお、ガス検出部1の外周は全周に渡って回路基板2の上に設けたグランドパターンとも半田3により固着されている。これにより、ガス検出部1は電気的かつ機械的に回路基板2に固定されることになる。回路基板2はアルミダイキャストにより形成されたケース本体4と同じくアルミダイキャストで形成されたケース蓋5とともに4本の金属製ネジ6で固定される。この際、回路基板2でケース本体4およびケース蓋5が接触する部分は全てグランドパターンにしてあるので、回路基板2をケース本体4およびケース蓋5内に固定することでケース本体4およびケース蓋5もグランド共通になる。
【0019】
ケース本体4には突起部7が設けられており、ガス検出部1を実装した回路基板2をケース本体4に取り付けることでガス検出部1の一部が突起部7にちょうど挿入される。挿入する際にはガス検出部1の突起部7に挿入される外周部分に接着剤を塗布している。これにより挿入することでガス検出部1と突起部7の隙間が接着剤で埋まり、この部分からのガス漏れを防ぐことができる。突起部7の底面にはガス検出部1に設けた孔9の中心(すなわち、突起部7の中心)が対称点となるように4つのガス導入口8が形成されている。ガス導入口8はガス検出部1が突起部7に挿入されても孔9と対向しない位置に設けられている。
【0020】
ケース本体4には、さらに回路基板2の信号のやり取りを行うための貫通コンデンサ10が固定されており、その端子は回路基板2をケース本体4に挿入することでU字形状に曲げた部分を介して回路基板2と接続される。接続部分は半田付けにより固定される。
【0021】
このような構造とすることにより、回路基板2はケース本体4およびケース蓋5とグランドを共通にしたシールド構造の中に固定されるので、外乱ノイズに強いガスセンサが構成される。
【0022】
次に、ガス検出部1の詳細構造について図2を用いて説明する。ガス検出部1は、ベース11の上に検出素子12を接着し、金製のワイヤ13でベース11に設けたピン14と検出素子12を配線し、有孔キャップ15をベース11に被せて溶接することで構成されている。なお、有孔キャップ15の孔9の部分にはステンレス製の網16が二重に設けられている。網16は有孔キャップ15と溶接により接合されているので、網16もグランドに接続されることになる。従って、網16の部分に到達した外乱ノイズが検出素子12に至ることはなくなり、ノイズの影響を低減できる。
【0023】
検出素子12はシリコンからなる台座17をマイクロマシンで加工技術により厚み約10マイクロメートルの極薄に加工した窪み部の表面上に、図示しない絶縁層と、その上につづら折れ状に形成した白金薄膜からなる発熱体18からなる。これにより発熱体18の熱容量を極めて低減され、応答性のよいガスセンサを構成することができる。発熱体18の両端はワイヤ13をボンディングするためのランド19が設けられている。なお、発熱体18やランド19の下面には図示しない絶縁層が形成されている。さらに、発熱体18の上面にも図示しない保護層が形成されている。
【0024】
次にガスセンサに被検出ガスが到達する様子を図3で説明する。被検出ガスは図3の矢印で示したようにガス導入口8を通って突起部7と有孔キャップ15の隙間に至る。被検出ガスはさらに孔9、網16を通り有孔キャップ15内に導入される。その後、検出素子12に到達することでガス濃度を検出している。
【0025】
このような基本構造のガスセンサを用いて、ガス導入口8や孔9の大きさ、ピッチ、ガス導入口8の数を変えることにより、応答性に対する影響を調べた。応答性は流量500cc/分の空気から同流量の1%水素含有の空気に切り替えて測定した。ガスの切り替えに要する時間は0.3秒であった。図4に応答性の定義図を示す。空気から1%水素に切り替えて流したとき、出力が飽和値である1%H2(%H2は「%水素濃度」の意味、以下同様)の90%に相当する0.9%H2となるまでの時間を応答性(以下、90%応答性)と定義する。図4の例では90%応答性は8秒になる。なお、水素漏洩検知のための応答性の目標値は5秒以下とした。
【0026】
また、前記のようにガス導入口8や孔9の大きさ、ピッチ、ガス導入口8の数を変えると、ガスセンサに導入される被検出ガスの流量の影響も大きくなる。そこで、流量に対する影響も調べた。流量は0から30L/分(発明者の測定系では流速10m/秒に相当)までを10L/分刻みで100秒毎に上下して測定した。これにより、図5に示すように流量に応じてノイズ状にランダムにセンサ出力が変動した。その最大変動幅(単位:%H2p−p、p−pはピーク・トゥ・ピークの意味、以下同様)を流量依存性と定義して評価した。図5の例では流量依存性は0.144%H2p−pになる。なお、流量依存性は小さいほど高精度となるので、流量依存性の目標値は0.05%H2p−p以下とした。
【0027】
評価結果を以下に説明する。
【0028】
まず、ガス導入口8や孔9の穴径に対する90%応答性および流量依存性の結果であるが、予備検討の結果、ガス導入口8と孔9がオーバーラップする構造、すなわち図3で定義を示したピッチがマイナスの構造では、流量依存性が著しく大きくなることがわかったので、ピッチが必ず0以上になるようにそれぞれの穴径を設計した。従って、ガス導入口8を大きくすると孔9は小さくした。逆の場合も同様である。
【0029】
このことから、穴径はガス導入口8と孔9の2種類のパラメータを持つので、これを一元的に表現するために、孔9の直径をガス導入口8の直径で除した値(以下、穴径比)で取り扱う。なお、他のパラメータはピッチが0、ガス導入口8の穴数は4とした。
【0030】
結果を図6、図7に示す。図6より、90%応答性は穴径比に対し下に凸のカーブを示すことがわかる。これは、ガス導入口8または孔9のいずれかの直径が小さいと90%応答性が悪くなることを示す。従って、90%応答性を最速とする構造があることがわかる。図6の結果から、目標値5秒以下を達成する穴径比は1.5以上3.5以下であることがわかった。従って、この範囲内の組み合わせでそれぞれの穴径を設計すればよい。
【0031】
一方、流量依存性は図7の結果より、今回評価した範囲では穴径比に大きく依存せず、どの組み合わせでも目標0.05%H2p−pを満たすことがわかった。これは前述のように流量依存性が大きくなる条件であるピッチがマイナスとなる構造にしなかったためである。
【0032】
次に、ピッチに対する90%応答性および流量依存性の結果を図8、図9にそれぞれ示す。なお、ピッチは穴径の組み合わせを変えることで可変した。他のパラメータとしてガス導入口8の穴数は8つとした。
【0033】
図8より、ピッチが大きくなると90%応答性は遅くなり、目標を満たすにはピッチが0.2以下でなければならないことがわかる。
【0034】
一方、図9より、ピッチが小さいほど流量依存性が悪くなることがわかる。この結果からは目標を満たすピッチの下限は約0.15となる。従って、図8、図9の結果からピッチの範囲は0.15以上0.2以下となる。しかし、これはガス導入口8が8個の場合の結果であり、穴数による影響を加味していない。
【0035】
そこで、次にガス導入口8の穴数に対する90%応答性および流量依存性の結果を図10、図11にそれぞれ示す。なお、他のパラメータとして穴径比は2、ピッチは0とした。
【0036】
図10より、穴数が4個から8個まで変わっても90%応答性にはほとんど影響せず約4秒であるので、穴数はいくつでも目標を達成できることがわかる。
【0037】
一方、図11より、穴数が増えると流量依存性が悪くなることがわかる。従って、たとえピッチが0でも穴数が多くなると流量依存性が発現し、目標を満たすには穴数を4個にしなければならないことがわかる。
【0038】
以上のことから、ピッチの結果を再考すると、ピッチの評価は穴数を8個として行ったが、図10の結果から穴数による90%応答性への影響はないため、穴数が4個でもピッチの90%応答性への影響はないと考える。従って、前述の通り、穴数が4個の場合も目標達成にはピッチが0.2以下でなければならない。一方、流量依存性については穴数の影響が大きく、穴数が4個であれば、たとえピッチが0でも流量依存性は図11の結果より目標を達成できる。ゆえに、穴数が4個の場合はピッチの下限は0でもよいことになる。
【0039】
以上の結果をまとめると、穴数は4個とし、穴径比は1.5以上3.5以下、ピッチは0以上0.2以下とすれば目標を達成できることがわかった。なお、具体的には穴数4、穴径比2.57、ピッチ0の構成が最適であり、その90%応答性は最速の3.8秒、流量依存性は0.046%H2p−pであることを確認した。
【0040】
次に回路基板2に設けた検出回路のノイズの影響について述べる。
【0041】
ノイズと応答性には関係がないように思われるが、本実施の形態のガスセンサに関しては駆動方法に起因して大きく影響する。
【0042】
前述のように、検出素子12はマイクロマシン技術で作製されているので、極めて熱容量が小さい。また、熱伝導式ガスセンサの場合、熱伝導率が周囲温度によって変化するため、温度補正が必須である。これらのことから、検出素子12をほとんど発熱させない条件で検出素子12の抵抗値を測定すると周囲温度を得ることができるので、まず検出素子12の抵抗値を微弱電流で測定し、次に発熱させる電流を流して瞬時に加熱し熱伝導率を測定することで、1つの検出素子12で2つの出力を得ることができる。その後電流を切り検出素子12を冷却し、その間に温度補正したガス濃度を演算して出力する。これを一定の周期で繰り返す。この方法の特徴は、素子が1つなので背景技術のように2つの感熱素子を使うことによる素子ばらつきの影響を受けない、温度と熱伝導率を同一の場所で測定できるため場所による誤差がない、超小型なのでガス置換体積が小さく応答性向上に寄与する、といった点が挙げられる。
【0043】
これらの特徴を活かすために、検出素子12にはパルス状に電流が繰り返し印加されるので、パルス周期毎にしか出力が得られない。なお、本実施の形態ではパルス周期を2秒としたので、回路基板2に設けた検出回路で2秒毎に出力が更新されるようにした。
【0044】
ここで、回路基板2に設けた検出回路に外乱ノイズが乗ると、出力が2秒毎に大きく変動することになる。この様子を図12(a)に示す。同図は90%応答性測定時の時間によるセンサ出力の変化を示し、図中の矢印が90%応答性に相当する。また、各プロットは2秒毎の出力を表す。出力がノイズによって変動した場合の90%応答性は図12(a)より約5秒であるが、本実施の形態で述べたように外乱ノイズに対してシールド構造にすることでノイズを除去した場合の90%応答性は図12(b)に示すように4秒弱であった。これは、本来の90%応答性の実力は約4秒であるのに、ノイズにより出力が実際より小さくなってしまった場合、結果的に90%応答性が遅く見えてしまうためである。このことから、本実施の形態で述べた回路基板2に設けた外乱ノイズに対するシールド構造が高応答性実現に必要であることがわかる。
【0045】
以上の構成、動作により、応答性がよく流量依存性の少ない高精度なガスセンサを得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明にかかるガスセンサは、ガス導入口や孔の口数、寸法を最適範囲に規定したことにより、高応答、高精度を同時に達成できるという効果を有し、特にマイクロマシン技術で作製した発熱する検出素子を用いた熱伝導式ガスセンサへの適用に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態におけるガスセンサの分解斜視図
【図2】同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部および検出素子の概略斜視図
【図3】同実施の形態におけるガスセンサのガス検出部近傍の概略断面図
【図4】同実施の形態におけるガスセンサの90%応答性の定義図
【図5】同実施の形態におけるガスセンサの流量依存性の定義図
【図6】同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する90%応答性の相関図
【図7】同実施の形態におけるガスセンサの孔の直径/ガス導入口の直径に対する流量依存性の相関図
【図8】同実施の形態におけるガスセンサのピッチに対する90%応答性の相関図
【図9】同実施の形態におけるガスセンサのピッチに対する流量依存性の相関図
【図10】同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の数に対する90%応答性の相関図
【図11】同実施の形態におけるガスセンサのガス導入口の数に対する流量依存性の相関図
【図12】同実施の形態におけるガスセンサのノイズ有無による応答性への影響を示す特性図
【図13】背景技術における湿度センサの断面図
【符号の説明】
【0048】
1 ガス検出部
2 回路基板
3 半田
4 ケース本体
5 ケース蓋
6 ネジ
7 突起部
8 ガス導入口
9 孔
10 貫通コンデンサ
11 ベース
12 検出素子
13 ワイヤ
14 ピン
15 有孔キャップ
16 網
17 台座
18 発熱体
19 ランド
20 接着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検出ガスに接触する検出素子と、この検出素子を覆う有孔キャップと、この有孔キャップの孔と対向しない位置でこの孔の中心を対称点として設けた4個の同径のガス導入口を形成したケースとからなり、前記孔の直径を前記ガス導入口の直径で除した値が1.5以上3.5以下であり、かつ前記孔の中心と任意の前記ガス導入口の中心の間の距離から前記孔の半径と前記ガス導入口の半径を差し引いた値に対して前記孔の直径で除した値が0以上0.2以下であるガスセンサ。
【請求項2】
検出素子をマイクロマシン技術で作成した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
孔に金属製の網を二重に設けた請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
有孔キャップおよびケースが金属材料からなり、両者を電気的、機械的に接続した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
検出素子の出力からガス濃度を検出する検出回路を設けた回路基板がケースに内蔵され、この回路基板のグランド線を前記ケースおよび有孔キャップと電気的に接続した請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
有孔キャップおよびケースを、はめ合いにより接続した請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
有孔キャップとケースの隙間を接着剤で埋めた請求項6に記載のガスセンサ。
【請求項1】
被検出ガスに接触する検出素子と、この検出素子を覆う有孔キャップと、この有孔キャップの孔と対向しない位置でこの孔の中心を対称点として設けた4個の同径のガス導入口を形成したケースとからなり、前記孔の直径を前記ガス導入口の直径で除した値が1.5以上3.5以下であり、かつ前記孔の中心と任意の前記ガス導入口の中心の間の距離から前記孔の半径と前記ガス導入口の半径を差し引いた値に対して前記孔の直径で除した値が0以上0.2以下であるガスセンサ。
【請求項2】
検出素子をマイクロマシン技術で作成した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
孔に金属製の網を二重に設けた請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項4】
有孔キャップおよびケースが金属材料からなり、両者を電気的、機械的に接続した請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項5】
検出素子の出力からガス濃度を検出する検出回路を設けた回路基板がケースに内蔵され、この回路基板のグランド線を前記ケースおよび有孔キャップと電気的に接続した請求項4に記載のガスセンサ。
【請求項6】
有孔キャップおよびケースを、はめ合いにより接続した請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
有孔キャップとケースの隙間を接着剤で埋めた請求項6に記載のガスセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2006−208079(P2006−208079A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18060(P2005−18060)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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