説明

ガスセンサ

【課題】検出電極の貴金属層の縁端よりも外向きに突出する接着層の突出部を設けて貴金属層の反りを防ぐことができるガスセンサを提供する。
【解決手段】検出電極6は、基体15の主面17に形成されるチタン層62と、チタン層62の上面に形成されるプラチナ層61とからなる2層構造を有し、櫛歯形状のパターンに形成される。基体15の厚み方向に沿って見たときに、検出電極6は、プラチナ層61の幅方向Tにおける両側の縁端63よりも外向きにチタン層62が突出してなる突出部65を、少なくとも1カ所以上に有する。突出部65がプラチナ層61の反りを防止するクサビとして機能するため、ガス検知層の断層割れを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検知対象ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を備えるガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体基板等の基体上に酸化スズ(SnO)等の金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を形成したガスセンサが知られている。金属酸化物半導体は、検知対象ガスに含まれる特定ガスによって電気的特性(例えば、抵抗値)が変化する。ガスセンサは、このような金属酸化物半導体の性質を利用して、特定ガスの濃度変化を検知する。
【0003】
ガス検知層の電気的特性の変化を検出するため、ガスセンサの基体とガス検知層との間には検出電極が配置されている。検出電極は、金属酸化物半導体の電気的特性の変化を効率よく検出できるように、基体の面上で櫛歯形状に形成されている。検出電極としては、基体の面上に、例えばチタン(Ti)層と白金(Pt)層を付着堆積させた2層構造を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1では、チタン層およびプラチナ層をスパッタにより形成し、レジストで櫛歯形状のパターンを形成して、例えばウエットエッチング処理を行うことにより、検出電極が形成される。ウエットエッチング処理では、まずパターン外の部分のプラチナ層がエッチング液により除去された後、パターン外の部分のチタン層が別のエッチング液により除去される。エッチングの際には、個々の検出電極間の絶縁距離を確保するため、チタン層は、積層方向に見てプラチナ層の縁端からはみ出した状態で残ることがないように、確実に除去される(特許文献1の図2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−30907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、チタン層の除去の際に、プラチナ層と基体の面との間に介在する部分のチタン層が、エッチング液によって、積層方向と直交する方向においてプラチナ層の内向きにえぐるように除去(いわゆるサイドエッチ)されてしまうことがあった。ガスセンサの製造過程では、検出電極を覆うガス検知層を定着させるために熱処理(焼成)が行われる。焼成によってプラチナ層が熱を受けると、サイドエッチを生じてチタン層が失われた部分のプラチナ層の縁端が反り、ガス検知層に断層割れを生じさせてしまい、ガスセンサの歩留り率が低下する場合があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、検出電極の貴金属層の縁端よりも外向きに突出する接着層の突出部を設けて貴金属層の反りを防ぐことができるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様によれば、絶縁性を有する板状の基体の一方の面上に形成され、検知対象ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層と、櫛歯形状をなす一対の検出電極であって、複数の櫛歯が所定の間隔をもって歯合した状態で前記ガス検知層と前記基体の前記一方の面との間に配置されるとともに、前記ガス検知層における電気的特性の変化を検出するための検出電極と、を備えるガスセンサにおいて、前記検出電極は、貴金属を主成分とし、前記ガス検知層に接触する貴金属層と、前記貴金属層と前記基体との間に介在され、前記貴金属層と前記基体とを接着する接着層と、が層状に形成されてなり、前記積層方向に沿って前記検出電極を見たときに、前記検出電極を構成する前記複数の櫛歯は、前記貴金属層の幅方向両側において、前記接着層が前記貴金属層の縁端よりも外向きに突出する突出部をそれぞれ少なくとも一カ所以上有するガスセンサが提供される。
【0009】
検出電極を構成する各櫛歯が、貴金属層の幅方向両側において、接着層が貴金属層の縁端よりも外向きに突出する突出部を有するので、例えば製造過程における熱処理によって貴金属層が加熱されて熱膨張した場合に、突出部がクサビとして機能して、貴金属層の反りを防止できる。このため、貴金属層の反りに起因して生じうるガス検知層の断層割れを防止することができ、ガスセンサの歩留りを高めることができる。
【0010】
本実施態様において、前記積層方向における前記接着層の厚みは、前記貴金属層の厚みよりも薄くてもよい。例えば製造過程における熱処理によって加熱された場合に、接着層の熱膨張によって貴金属層にかかる応力(内部応力)は、接着層の厚みが貴金属層の厚みよりも薄いことにより、比較的小さくて済む。ゆえに、接着層は、貴金属層の熱膨張による反りを防止するためのクサビとして、より効果的に、機能することができる。
【0011】
本実施態様において、前記積層方向に沿って前記検出電極を見たときに、前記接着層の前記突出部は、前記貴金属層の前記縁端の全長にわたって、前記縁端よりも外向きに突出してもよい。このように、接着層の突出部が貴金属層の縁端の全長にわたって貴金属層から突出すれば貴金属層の反りのきっかけとなる部位がないため、貴金属層が反ってしまうことを確実に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ガスセンサ1の平面図である。
【図2】図1の一点鎖線X−Xにおいて矢視方向からみたガスセンサ1の断面図である。
【図3】図2において点線Hで囲んだ部分を拡大してみた図である。
【図4】図1において点線Gで囲んだ部分を、ガス検知層8を省いた状態で拡大してみた図である。
【図5】Ptエッチングレートを示すグラフである。
【図6】Tiエッチングレートを示すグラフである。
【図7】突出部65のないサンプルAと、突出部65のあるサンプルB,Cとのベース抵抗値を測定した対数グラフである。
【図8】サンプルA1の検出電極6の断面の撮影画像である。
【図9】サンプルB1の検出電極6の断面の撮影画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化したガスセンサの一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1,図2を参照し、一例としてのガスセンサ1の構造について説明する。図1に示すように、ガスセンサ1は、概略、平面形状が略矩形に形成された板状の基体15の一方の面(以下、「主面」とよぶ。)17側に、検出対象ガス中の特定ガスの検知を行うガス検知部16が形成された構造を有する。なお、基体15の厚み方向(図1では紙面表裏方向)をガスセンサ1の上下方向とし、ガス検知部16が形成された基体15の主面17側を、ガスセンサ1の上側として説明する。
【0014】
ガスセンサ1の基体15は、図2に示すように、所定の厚みを有するシリコン基板2と、シリコン基板2の上面に形成された絶縁被膜層3と、シリコン基板2の下面に形成された絶縁被膜層4とを有する。シリコン基板2には厚み方向に貫通する開口部21が設けられ、開口部21は、内周面22が、シリコン基板2の上面側から下面側へ向け拡径されている。開口部21は、基体15の主面17側に設けられたガス検知部16の配置位置(詳細には後述する発熱抵抗体5の配置位置)に対応させて、開口されている。
【0015】
絶縁被膜層3は絶縁層31〜34および絶縁膜35から構成される。絶縁層31はシリコン基板2の上面に形成されており、所定の厚みを有するSiO膜からなる。絶縁層31の下面の一部は、シリコン基板2の開口部21内において外部に露出されている。絶縁層31の上面には、所定の厚みを有するSi膜ならなる絶縁層32が形成されている。さらに、絶縁層32の上面に、所定の厚みを有するSiO膜からなる絶縁層33および絶縁層34が形成されている。絶縁層33と絶縁層34との間には、後述する発熱抵抗体5や、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12が設けられている。絶縁層34の上面には、所定の厚みを有するSi膜からなる絶縁膜35が形成されている。絶縁膜35は、絶縁層34ごと発熱抵抗体5およびリード部12を覆っており、発熱抵抗体5やリード部12の腐食や外傷による損傷を防止する。
【0016】
絶縁被膜層4は、絶縁層41および絶縁層42から構成される。絶縁層41はシリコン基板2の下面に形成されており、絶縁層31と同様に、所定の厚みを有するSiO膜からなる。絶縁層41の下面には、所定の厚みを有するSi膜ならなる絶縁層42が形成されている。絶縁層41,42は、シリコン基板2の開口部21に対応する部分が、それぞれ除去されている。
【0017】
次に、発熱抵抗体5は、上記したように、絶縁被膜層3の絶縁層33と絶縁層34との間に設けられている。具体的には、絶縁層33の上面に発熱抵抗体5のパターン(図1において2点鎖線で示す。)が形成され、ガス検知部16に対応する位置において、渦巻き状に形成される。さらに絶縁層33の上面に、発熱抵抗体5の両端それぞれに接続する一対のリード部12のパターンが形成される。その状態で、絶縁層33上に絶縁層34が形成されることによって、発熱抵抗体5およびリード部12が絶縁層33と絶縁層34との間に埋設される。
【0018】
発熱抵抗体5は、後述するガス検知部16を加熱して活性化させるためのものであり、ガス検知部16の形成位置に対応させて設けられている。また、上記した開口部21は、発熱抵抗体5によるガス検知部16の加熱効率を高めるための構造であり、発熱抵抗体5の形成位置に対応させて、開口されている。発熱抵抗体5およびリード部12は、白金からなるプラチナ層と、チタンからなるチタン層とから構成された2層構造を有する。
【0019】
図1に示すように、基体15の主面17上で、リード部12のそれぞれの末端に対応する位置には、発熱抵抗体5への通電のため外部回路(図示外)との接続を担う一対の接続端子9が形成されている。接続端子9は、絶縁層34および絶縁膜35を貫通するスルーホールに形成された引出電極(図示外)を介し、発熱抵抗体5のリード部12と接続されている。接続端子9は、ガスセンサ1の長手方向の一方の縁端寄りの位置に、後述する接続端子10とともに配置されている。
【0020】
次に、図2に示すように、基体15の主面17(絶縁被膜層3の絶縁膜35の上面)には、ガス検知部16が形成される。ガス検知部16は、検出電極6とガス検知層8とを有する。検出電極6は、図1に示すように、基体15の主面17に、櫛歯形状のパターン(図1において点線で示す。)に形成された一対の電極からなる。より詳細に、検出電極6は、細幅に延び、所定間隔をあけて並列に配置された複数の櫛歯68と、各櫛歯68のそれぞれの一端側を、櫛歯68の延びる方向と略直交する方向に接続する基部69とをそれぞれ有する2つの櫛歯形状の電極からなる。検出電極6の2つの電極は、互いに向き合いつつ、一方の電極の各櫛歯68の間に他方の電極の各櫛歯68を挿入するように、各櫛歯68が所定の間隔をもって歯合した状態で配置されることで、互いに非接触の状態に配置されている。
【0021】
図2に示すように、検出電極6は、基体15の厚み方向において、発熱抵抗体5の渦巻き状の部分(図1参照)と重なる位置に配置されている。この検出電極6を構成する一対の電極は、上記のように互いに非接触の状態に配置されているが、ガス検知層8を介し、互いに電気的に接続されている。検出電極6は、プラチナ層61とチタン層62と(図3参照)から構成される2層構造を有する。なお、検出電極6の詳細な構成については後述する。
【0022】
ガス検知層8は、金属酸化物半導体のSnOを主成分とし、検知対象ガス中の特定ガスによって自身の電気的特性(具体的には電気抵抗値)が変化する性質を有するガス感応膜である。ガス検知層8は、検出電極6を覆って形成されている。ガス検知層8は、検知対象ガス中に含まれ得るCHCOOCや、NH、HS、(CH、CHSH、(CH)Nなどの特定ガスの有無や濃度に応じ、自身の電気抵抗値が変化する。ガス検知層8の電気抵抗値の変化は、検出電極6の一方の電極と他方の電極との間に流される電流の大きさ(もしくは両電極間の電位差)の変化として検出され、ガスセンサ1による特定ガスの有無や濃度の検出がなされる。
【0023】
また、図1に示すように、基体15(絶縁膜35)の主面17には、上記の検出電極6を構成する一対の電極間への通電を行うため、各電極にそれぞれ接続する一対のリード部11のパターンが形成されている。各リード部11の末端の表面上には、Auからなり、外部回路(図示外)との接続を担う一対の接続端子10が形成されている。リード部11も、上記の検出電極6と同様に、プラチナ層61とチタン層62とからなる2層構造を有する。
【0024】
次に、検出電極6の詳細な構成について、図3,図4を参照して説明する。図3に示すように、検出電極6は、基体15の厚み方向において、プラチナ層61と、チタン層62とから構成される2層構造を有する。チタン層62は、基体15の主面17、すなわち絶縁被膜層3の絶縁膜35の上面に形成され、チタン層62の上面にプラチナ層61が形成されている。チタン層62は、プラチナ層61を基体15の主面17、すなわちSi膜からなる絶縁膜35の上面に形成する上で、プラチナ層61と絶縁膜35との間の密着性を高める密着層として形成される。
【0025】
また、本実施の形態では、プラチナ層61とチタン層62との積層方向(基体15の厚み方向)において、検出電極6の厚みDを、250nm以下に規定している。後述する実施例において説明するが、プラチナ層61およびチタン層62は、スパッタによって基体15(絶縁膜35)の主面17上に形成される。そして、ウエットエッチング処理によって不要部分が除去されて、櫛歯形状のパターンをなした検出電極6として形成される。そして、ウエットエッチング処理の際には、プラチナ層61とチタン層62の不要部分の除去にそれぞれ異なるエッチング液が用いられる。本実施の形態ではエッチングレートの管理を行うことで、後述するチタン層62の突出部65が確実に形成されるようにしており、管理可能な検出電極6の厚みDとして250nm以下のものを本願の対象とする規定を設けている。
【0026】
次に、検出電極6は、櫛歯68が主面17上において列をなすように並んで形成されている。図4に示すように、櫛歯68を基体15の厚み方向に沿って見たときに、検出電極6は、プラチナ層61の幅方向Tにおける両側の縁端63よりも外向きにチタン層62が突出してなる突出部65を、少なくとも1カ所以上に有している。なお、本実施の形態では、一対の検出電極6に存在する複数の歯の部分(櫛歯68)のそれぞれに、プラチナ層61の幅方向Tにおける両側の縁端63よりも外向きにチタン層62が突出してなる突出部65が、少なくとも1カ所以上設けられている。
【0027】
このように、プラチナ層61の縁端63の全長において、チタン層62が突出部65を1カ所以上に有することで、突出部65が、いわゆるクサビとして機能するため、プラチナ層61の縁端63が絶縁膜35から剥がれて反ってしまうことが防止される。ゆえにチタン層62は、図4の二点鎖線Jで囲う部位のように、プラチナ層61の縁端63よりも幅方向Tの外向きに突出しない非突出部66を有してもよい。すなわち、突出部65と非突出部66とが、プラチナ層61の縁端63の全長にわたって混在する状態であってもよい。言い換えると、突出部65はプラチナ層61よりも幅方向Tの外向きに、断続的に、突出した状態であってもよい。この非突出部66は、図3の二点鎖線Lで囲う部位のように、プラチナ層61の縁端63よりも幅方向Tの外向きに突出せず、且つ、幅方向Tの内向きにエグレがない状態であってもよい。あるいは、図3の二点鎖線Mで囲う部位のように、非突出部66は、プラチナ層61の縁端63よりも幅方向Tの内向きに若干えぐれた状態であってもよい。非突出部66がいかなる形態であっても、断続的に存在する突出部65のそれぞれがクサビとして機能することで、非突出部66において生じうるプラチナ層61の縁端63の反りを十分に防止することができる。ゆえに、プラチナ層61の反りに起因して生じうるガス検知層8の断層割れを防止することができ、ガスセンサ1の歩留りを高めることができる。
【0028】
もちろん、図4において二点鎖線Kで囲う部位のように、突出部65が、プラチナ層61の縁端63の全長にわたって、連続的に、プラチナ層61の縁端63よりも幅方向Tの外向きに突出した状態であれば、なお好ましい。このように、チタン層62の突出部65がプラチナ層61の縁端63から連続的に突出し、非突出部66が存在しなければ、プラチナ層61の反りのきっかけとなる部位がないため、プラチナ層61の縁端63が絶縁膜35から剥がれて反ってしまうことを確実に防止できる。
【0029】
また、上記したように、検出電極6は、厚みDが250nmであるが、検出電極6を構成するチタン層62は、その厚みが、プラチナ層61の厚みよりも薄くなるように形成されている。例えば、本実施の形態では、プラチナ層61の厚みをおよそ40nmに形成され、チタン層62はおよそ20nmの厚みに形成されている。上記したように、チタン層62は、プラチナ層61を基体15の主面17(絶縁膜35の上面)に密着させる接着層として機能する。ガスセンサの製造過程において行われる熱処理等でチタン層62やプラチナ層61が熱膨張を生じても、チタン層62の厚みがプラチナ層61の厚みよりも薄ければ、チタン層62の熱膨張によってプラチナ層61にかかる応力(内部応力)が比較的小さくて済む。ゆえに、チタン層62は、プラチナ層61の熱膨張による反りを防止するためのクサビとして、より効果的に、機能することができる。
【実施例1】
【0030】
このような構造のガスセンサ1の製造過程において、本実施の形態では、上記したように、検出電極6を櫛歯形状のパターンに形成する際にエッチングレートの管理を行うことで、チタン層62の突出部65が確実に形成されるようにしている。以下、ガスセンサ1の製造工程について説明する。なお、作製途中のガスセンサ1の中間体を、基板と称する。また、各工程の説明に用いる工程名に付した括弧内の数字は、各工程の実施順序を示している。
【0031】
(1) シリコン基板2の洗浄
まず、厚みが400μmのシリコン基板2を洗浄液中に浸し、洗浄処理を行った。
【0032】
(2) 絶縁層31,41の形成
上記シリコン基板2を熱処理炉に入れ、熱酸化処理にて厚さが100nmのSiO膜からなる絶縁層31,41をシリコン基板2の両面(上面および下面)に形成した。
【0033】
(3) 絶縁層32,42の形成
次に、LP−CVDにてSiHCl、NHをソースガスとし、絶縁層31,41それぞれの表面上に、厚さが200nmのSi膜からなる絶縁層32,42を形成した。
【0034】
(4) 絶縁層33の形成
次に、プラズマCVDにてTEOS、Oをソースガスとし、絶縁層32の表面上に厚さが100nmのSiO膜からなる絶縁層33を形成した。
【0035】
(5) 発熱抵抗体5およびリード部12の形成
その後、DCスパッタ装置を用い、絶縁層33の表面上に厚さ20nmのチタン層を形成し、その層上に厚さ220nmのプラチナ層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理で発熱抵抗体5およびリード部12のパターンを形成した。
【0036】
(6) 絶縁層34の形成
そして、(4)と同様に、プラズマCVDにてTEOS、Oをソースガスとし、絶縁層33、発熱抵抗体5およびリード部12の表面上に、厚さが100nmのSiO膜からなる絶縁層34を形成した。このようにして、厚さ200nmのSiO膜からなる絶縁層33,34内に、発熱抵抗体5およびリード部12を埋設した。
【0037】
(7) 絶縁膜35の形成
さらに、(3)と同様に、LP−CVDにてSiHCl、NHをソースガスとし、絶縁層34の上面に、厚さが200nmのSi膜からなる絶縁膜35を形成した。
【0038】
(8) 接続端子9の開口の形成
次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ドライエッチング法で絶縁膜35および絶縁層34のエッチングを行い、接続端子9の形成を予定する部分にスルーホールを開け、リード部12の末端の一部を露出させた。
【0039】
(9) 検出電極6,リード部11および引出電極13の形成
次に、DCスパッタ装置を用い、絶縁膜35の表面上に厚さ20nmのチタン層62を形成し、さらにその表面上に厚さ40nmのプラチナ層61を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理にて、櫛歯68および基部69を有する櫛歯形状の平面形状をなす検出電極6およびリード部11のパターンを形成した。なお、検出電極6のパターンを形成するためのウエットエッチング処理におけるエッチングレートの管理については後述する。また、(8)で形成したスルーホール内および周辺にもチタン層およびプラチナ層を形成し、リード部12の末端を絶縁膜35の上面側に引き出す引出電極13のパターンを形成した。
【0040】
(10) 接続端子9,10の形成
そして、DCスパッタ装置を用い、上記電極部分が作製された基板の電極側の表面上に、厚さ400nmのAu層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理で接続端子9,10を形成した。これにより、接続端子9はリード部12の末端と電気的に接続され、接続端子10は、引出電極13を介し、リード部11の末端と電気的に接続された。
【0041】
(11) 開口部21の形成
次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、マスクとなる絶縁膜(図示外)をドライエッチング処理により形成した。そしてTMAH溶液中に基板を浸し、シリコン基板2の異方性エッチングを行って下面側を開口し、発熱抵抗体5の配置位置に対応する部分の絶縁層31を凹部底面に露出させた開口部21を形成した。
【0042】
(12) ガス検知層8の形成
RFスパッタ装置を用いて、シリコン基板2の温度が50〜400℃になるように加熱しながら、発熱抵抗体5および開口部21に対応する位置であって、櫛歯形状の検出電極6,およびその周辺部分の絶縁膜35上に、厚さ300nmのSnO膜を形成した。その後、SnO膜上にRFスパッタ装置にて、Pdを付着させ触媒粒子を形成した。なお、触媒粒子の形成は、シリコン基板2を50〜400℃に加熱した状態で行った。さらに、触媒粒子を付着させたSnO膜上にRFスパッタ装置にて、酸化ケイ素を分散させた状態で形成した。
【0043】
(13) 熱処理
上記(12)の工程を経て得られたシリコン基板2を熱処理炉にセットし、大気雰囲気の下、300〜500℃、1〜10時間の熱処理を加えた。
【0044】
(14) 基板の切断
ダイシングソーを用いて基板を切断し、平面視矩形で2.6mm×2mmの大きさにした。以上の製造工程により、図1に示す、ガスセンサ1が完成した。
【0045】
次に、上記のガスセンサ1の製造過程において、(9)で検出電極6のパターンを形成するために行ったウエットエッチング処理におけるエッチングレートの管理について説明する。本実施の形態では、プラチナ層61のウエットエッチング処理において、公知の熱王水を使用している。また、チタン層62のウエットエッチング処理においては、公知のアンモニア過水(アンモニア水と過酸化水素水の混合液)を使用している。
【0046】
熱王水によるプラチナ層61のエッチングレートは、以下のように測定した。シリコン基板2の表面上に(7)と同様にして絶縁膜35を形成し、さらにその表面上に、(9)と同様の手法のもと、厚さ50nmのチタン層と、チタン層上に厚さ200nmのプラチナ層とからなる一対の電極を、L(電極幅)/S(電極間)=1mm/3mmのメタルマスクパターンを使いつつDCスパッタ装置を用いて形成して、サンプルを6個作製した。
【0047】
次に、6個のサンプルを熱王水に浸し、ウエットエッチング処理を行った。その際に、各サンプルを熱王水に浸す時間を、60〜360秒の間で適宜異ならせた。そしてウエットエッチング処理後、各サンプルを電極が断面として得られるようにそれぞれ切断した。切断した各サンプルの断面を電子顕微鏡で観察し、エッチングによってプラチナ層がえぐられた部分の表面からの深さ(Ptエッチング量)をそれぞれ測定した。得られたプラチナ層のエッチングレートを、図5のグラフに示す。
【0048】
次に、チタン層のエッチングレートは、以下のように測定した。シリコン基板2の表面上に(7)と同様にして絶縁膜35を形成し、さらにその表面上に、(9)と同様の手法のもと、厚さ50nmのチタン層のみからなる一対の電極を、L(電極幅)/S(電極間)=1mm/3mmのメタルマスクパターンを使いつつDCスパッタ装置を用いて形成して、サンプルを5個作製した。そして、5個のサンプルをアンモニア過水に浸し、上記同様、浸す時間を5〜60秒の間で適宜異ならせた。そして同様に各サンプルを切断し、断面を電子顕微鏡で観察して、エッチングによってチタン層がえぐられた部分の表面からの深さ(Tiエッチング量)をそれぞれ測定した。得られたチタン層のエッチングレートを、図6のグラフに示す。
【0049】
図5,図6に示すように、プラチナ層およびチタン層のエッチングレートは、それぞれのエッチング液に浸した時間に比例する。本実施の形態では、プラチナ層61の厚みを40nm、チタン層の厚みを20nmとしている。図5に示すプラチナ層のエッチングレートによれば、熱王水に60秒浸した場合のPtエッチング量が、40nmである。よって、40nmのプラチナ層61の不要部分を除去するには、(9)のウエットエッチング処理において、熱王水に浸す時間を60秒とすればよいことがわかる。また、図6に示すチタン層のエッチングレートによれば、アンモニア過水に30秒浸した場合のTiエッチング量が、20nmである。よって、20nmのチタン層62の不要部分を除去しつつ、突出部65を形成するには、(9)のウエットエッチング処理において、アンモニア過水に浸す時間を30秒未満(望ましくは25秒)とすればよい。
【0050】
[評価試験1]
次に、検出電極6を構成するチタン層62がプラチナ層61から突出する突出部65を有することの効果を確認するため、評価試験を行った。この評価試験は、上記のガスセンサ1の製造過程を経て製造したガスセンサ1のガス検知層8に断層割れが生じたか否かをガス検知層8の抵抗値(ベース抵抗値)を測定することによって行った。
【0051】
上記のガスセンサ1の製造過程に従い、ガスセンサ1の3種類のサンプルA,B,Cを、それぞれ7個ずつ作製した。製造過程の(9)において、アンモニア過水によるチタン層62のエッチング時間を30秒とし、検出電極6のチタン層62がプラチナ層61の縁端63よりも突出しない(突出部65がない)ように作製した、従来と同様のガスセンサをサンプルAとした。チタン層62のエッチング時間を28秒とし、図4の二点鎖線Jで囲う部位のように、検出電極6が断続的な突出部65を有する(突出部65と非突出部66とが混在する)ように作製したガスセンサを、サンプルBとした。そして、そして、チタン層62のエッチング時間を25秒とし、図4の二点鎖線Kで囲う部位のように、検出電極6が連続的な突出部65を有する(非突出部66がない)ように作製したガスセンサを、サンプルCとした。
【0052】
次に、温度25℃、相対湿度40%RHで、Oを20.9Vol%としたOとNとの混合ガスをベースガスとして用い、このベースガス雰囲気中に各サンプルA〜Cを晒す。そして、各サンプルA〜Cの発熱抵抗体5の温度を350℃に制御しつつ、接続端子10間に電流を流し、ガス検知層8のベース抵抗値をそれぞれ測定した。なお、ここで測定されるベース抵抗値は、厳密にはガス検知層8の接続端子10間に介在する部分の抵抗値となる。ベース抵抗値の測定結果を図7の対数グラフに示す。
【0053】
図7に示すように、検出電極6に突出部65のないサンプルAは、7つのうちの5つのサンプルのベース抵抗値が、50kΩ以上の値を示した。検出電極6に突出部65と非突出部66とが混在するサンプルBは、7つのうちの2つのサンプルのベース抵抗値が、50kΩ以上の値を示したが、2つのサンプルのベース抵抗値が、10kΩ未満の値を示した。検出電極6に非突出部66のないサンプルCは、7つのサンプルすべてのベース抵抗値が、10kΩ未満の値を示した。
【0054】
また、ベース抵抗値が50kΩ以上の値を示したサンプルより、ベース抵抗値が390kΩと、特に高い値を示したサンプルA1を、検出電極6の櫛歯形状の歯の部分(櫛歯68)が断面として得られるように切断し、断面を電子顕微鏡で撮影した。図8に、その撮影画像を示す。図8に示すように、サンプルA1のチタン層62は、点線Eで囲う部分がサイドエッチにより、プラチナ層61に対して内向きにえぐれてしまっている。このためプラチナ層61が反りを生じ、その結果、サンプルA1のガス検知層8に断層割れを生じている。これにより、ベース抵抗値が他のサンプルよりも高い値を示したことがわかる。
【0055】
一方、ベース抵抗値が50kΩ未満の値を示したサンプルより、ベース抵抗値が13kΩを示したサンプルB1における検出電極6の櫛歯形状の歯の部分(櫛歯68)の断面を、上記同様に電子顕微鏡で撮影した撮影画像を図9に示す。図9に示すように、サンプルB1のチタン層62は、プラチナ層61よりも突出する突出部65を有しており、サンプルB1のガス検知層8には断層割れが生じていない。このように検出電極6が突出部65を有することで、プラチナ層61の反りが防止されるので断層割れを生ずることがなく、ベース抵抗値は十分に低い値を確保できることが確認された。
【0056】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。例えば、検出電極6のチタン層62は、Tiにより形成したが、例えばTaを用いて形成してもよい。また、プラチナ層61もPtにより形成したが、その他の貴金属類を用いて形成してもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、ウエットエッチング処理により、プラチナ層61およびチタン層62の不要部分を除去して検出電極6の櫛歯形状のパターンを形成したが、ドライエッチングでもよいし、あるいはレーザにより不要部分を除去してもよい。また、基体15の主面17(絶縁膜35の上面)に櫛歯形状のパターンの不要部分にマスキングを行ってからスパッタでプラチナ層61およびチタン層62を形成し、マスキングを除去して検出電極6のパターンを形成してもよい。いずれの手法においても、検出電極6が、少なくとも1以上の突出部65を有するように形成すればよい。
【0058】
基体15のシリコン基板2は、シリコンから作製したが、アルミナや、その他の半導体材料から作製してもよい。また、ガスセンサ1の平面形状は矩形に限らず、任意の形状をなしてもよく、その大きさ、厚み、各部材の配置についても限定されるものではない。
【0059】
また、絶縁被膜層3,4を、SiO膜とSi膜からなる複層構造としたが、SiO膜またはSi膜からなる単層構造としてもよい。また、発熱抵抗体5を絶縁層33と絶縁層34の間に埋設したが、ガス検知部16を効率よく加熱できる位置に配置されていればよい。
【符号の説明】
【0060】
1 ガスセンサ
6 検出電極
8 ガス検知層
15 基体
17 主面
61 プラチナ層
62 チタン層
63 縁端
65 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有する板状の基体の一方の面上に形成され、検知対象ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層と、
櫛歯形状をなす一対の検出電極であって、複数の櫛歯が所定の間隔をもって歯合した状態で前記ガス検知層と前記基体の前記一方の面との間に配置されるとともに、前記ガス検知層における電気的特性の変化を検出するための検出電極と、
を備えるガスセンサにおいて、
前記検出電極は、貴金属を主成分とし、前記ガス検知層に接触する貴金属層と、前記貴金属層と前記基体との間に介在され、前記貴金属層と前記基体とを接着する接着層と、が層状に形成されてなり、
前記積層方向に沿って前記検出電極を見たときに、前記検出電極を構成する前記複数の櫛歯は、前記貴金属層の幅方向両側において、前記接着層が前記貴金属層の縁端よりも外向きに突出する突出部をそれぞれ少なくとも一カ所以上有すること
を特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
前記積層方向における前記接着層の厚みは、前記貴金属層の厚みよりも薄いことを特徴とする請求項1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記積層方向に沿って前記検出電極を見たときに、前記接着層の前記突出部は、前記貴金属層の前記縁端の全長にわたって、前記縁端よりも外向きに突出することを特徴とする請求項1または2に記載のガスセンサ。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−225860(P2012−225860A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95711(P2011−95711)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】