説明

ガスバリア性フィルム、ガスバリア層、装置及びガスバリア性フィルムの製造方法

【課題】長時間経過後のガスバリア性に優れるガスバリア性フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂基材1と、ポリエステル系樹脂基材1上に設けられた有機化合物層2と、有機化合物層2上に設けられた無機化合物層3とを有し、有機化合物層2が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であるように構成して上記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性の長期間の経時安定性を確保することができるガスバリア性フィルム及びガスバリア層、及び装置、並びにガスバリア性フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性フィルムは、有機EL素子、液晶表示素子、薄膜トランジスタ、太陽電池、タッチパネル、電子ペーパー等の装置に対し、それらの性能を劣化させる酸素又は水蒸気等の化学成分の透過を防ぐために好ましく適用されている。特に近年の電子デバイスの高性能化と高品質化に伴い、ガスバリア性フィルムにおいても高いガスバリア性が求められている。
【0003】
最近のガスバリア性フィルムには、プラスチップフィルムと、そのプラスチップフィルム上に設けられた有機層と、その有機層上に設けられた無機層とで構成されているものがある。有機層は、ガスバリア性の無機層の下に平坦化層として設けられ、無機層に生じる欠陥を低減してガスバリア性を高めるという役割を担うとされている。
【0004】
しかし、無機層を真空蒸着等で形成する場合、有機層中に残存する揮発成分が抜け出して有機層表面に欠陥を生じさせ、その上に成膜する無機層の均一性が低下するという問題があった。こうした問題に対し、特許文献1では、基材フィルム上に、重合性化合物とヒドロキシケトンオリゴマー型開始剤とを用いて有機層を形成し、その上に無機層を形成したバリア性フィルム基板を提案している。このバリア性フィルム基板は、1分子中に2以上の重合開始部位を有する重合開始剤を用いているために、揮発成分である分子量100〜300の非ラジカル成分の生成を抑えることができ、その揮発成分の揮発に基づいた欠陥の発生を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−172988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記重合開始剤を用いた場合であっても、重合性化合物の種類によってはガスバリア性の長期の経時安定性を確保できないという問題があった。具体的には、紫外線硬化樹脂で形成された有機層は、その中に未反応成分や重合開始剤が残っている場合が多く、そのため、外部からの熱又は紫外線等の負荷を受けて徐々に反応が促進したり、未反応のモノマー成分又は重合開始剤が膜中を動いて内部応力の増大やマイクロクラックの発生を引き起こしたりして、ガスバリア性が低下するという問題があった。こうしたガスバリア性の低下は、ガスバリア性フィルムを適用する装置にも悪影響を及ぼし、結果として装置特性が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ガスバリア性の長期間の経時安定性を確保することができるガスバリア性フィルム及びガスバリア層を提供することにある。また、本発明の他の目的は、ガスバリア性に優れるガスバリア性フィルム又はガスバリア層を用いた装置を提供することにある。また、本発明のさらに他の目的は、ガスバリア性フィルムの製造方法提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明に係るガスバリア性フィルムは、ポリエステル系樹脂基材と、該ポリエステル系樹脂基材上に設けられた有機化合物層と、該有機化合物層上に設けられた無機化合物層とを有し、前記有機化合物層が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、ポリエステルオリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで有機化合物層を形成するので、モノマーよりも構造の大きいオリゴマー成分を用いることにより有機化合物層中に残存する成分が有機化合物層中で拘束されると推察され、その結果、外部からの熱や光エネルギー等の負荷を受けた後も有機化合物層中を動けず、モノマーを用いた場合よりも内部応力の増大やマイクロクラックの発生が起こりにくいと推察される。こうした有機化合物層を有するガスバリア性フィルムは、結果としてガスバリア性の長期間の経時安定性を確保することができている。
【0010】
さらに、この発明によれば、基材としてポリエステル系樹脂基材を用い、有機化合物層を形成する重合性化合物としてポリエステル系オリゴマーを用いるので、基材と重合性化合物とが同種のポリエステル成分となる。その結果、有機化合物層形成時に親和性が増して両者の密着性が向上し、ガスバリア性の長期間の経時安定性の確保に寄与するものと推察される。
【0011】
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、前記ポリエステル系樹脂基材の他方の面にも、前記有機化合物層と前記無機化合物層とがその順で設けられ、又は、前記無機化合物層が設けられている。この発明によれば、有機化合物層と前記無機化合物層とを又は無機化合物層を、ポリエステル系樹脂基材の反対面にも設け、ガスバリア性をさらに高めることができる。
【0012】
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、前記ポリエステル系樹脂基材が、ポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムであり、前記無機化合物層が、酸化珪素、窒化珪素、及び酸化窒化珪素から選ばれる1種又は2種以上からなる層である。
【0013】
上記課題を解決するための本発明に係るガスバリア層は、有機化合物層と、該有機化合物層上に設けられた無機化合物層とを有し、前記有機化合物層が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、ポリエステルオリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで有機化合物層を形成するので、モノマーよりも構造の大きいオリゴマー成分を用いることにより有機化合物層中に残存する成分が有機化合物層中で拘束されると推察され、その結果、外部からの熱や光エネルギー等の負荷を受けた後も有機化合物層中を動けず、モノマーを用いた場合よりも内部応力の増大やマイクロクラックの発生が起こりにくいと推察される。こうした有機化合物層を有するガスバリア層は、結果として長期間の経時安定性を確保することができている。
【0015】
上記課題を解決するための本発明に係る装置は、上記本発明のガスバリア性フィルム又は上記本発明のガスバリア層を用いる表示装置又は発電装置であることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、長期間の経時安定性を確保できる上記ガスバリア性フィルム又はガスバリア層を、長期間の安定品質が要求される表示装置又は発電装置に用いたので、その表示装置又は発電装置の長期信頼性の向上に寄与することができる。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法は、ポリエステル系樹脂基材上に、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した有機化合物層を形成する工程と、前記有機化合物層上に無機化合物層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、ガスバリア性の長期間の経時安定性を確保したガスバリア性フィルムを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るガスバリア性フィルム及びガスバリア層によれば、モノマーよりも構造の大きいオリゴマー成分を用いることにより有機化合物層中に残存する成分が有機化合物層中で拘束されると推察されるので、外部からの熱や光エネルギー等の負荷を受けた後も有機化合物層中を動けず、モノマーを用いた場合よりも内部応力の増大が起こりにくく、また、無機化合物層のマイクロクラックの発生も起こりにくいと推察される。また、この効果は、ポリエステル系樹脂基材と有機化合物層との界面でも考えられ、オリゴマー成分を用いることで外部からの熱や光エネルギー等の負荷(脱ガス等)による界面剥離等の現象も抑えられると推察される。その結果、こうした有機化合物層を有するガスバリア性フィルム及びガスバリア層は、結果としてガスバリア性の長期間の経時安定性を確保することができている。
【0020】
さらに、本発明に係るガスバリア性フィルムによれば、基材と重合性化合物とが同種のポリエステル成分となるので、有機化合物層形成時に親和性が増して両者の密着性が向上し、ガスバリア性の長期間の経時安定性の確保に寄与するものと推察される。
【0021】
本発明に係る装置によれば、長期間の経時安定性を確保できる上記ガスバリア性フィルム又はガスバリア層を、長期間の安定品質が要求される表示装置又は発電装置に用いたので、その表示装置又は発電装置の長期信頼性の向上に寄与することができる。
【0022】
本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法によれば、ガスバリア性の長期間の経時安定性を確保したガスバリア性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るガスバリア性フィルムの一例を示す模式的な断面図である。
【図2】本発明に係るガスバリア性フィルムの他の一例を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0025】
[ガスバリア性フィルム及びガスバリア層]
本発明に係るガスバリア性フィルム10は、図1及び図2に示すように、ポリエステル系樹脂基材1と、ポリエステル系樹脂基材1上に設けられた有機化合物層2と、有機化合物層2上に設けられた無機化合物層3とを有する。そして、有機化合物層2が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明に係るガスバリア層4は、図1及び図2に示すように、有機化合物層2と、有機化合物層2上に設けられた無機化合物層3とを有し、有機化合物層2が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であることを特徴とする。
【0027】
本発明では、ポリエステルオリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで有機化合物層2を形成する。重合性化合物及び重合開始剤としてモノマーよりも構造の大きいオリゴマー成分を用いるので、有機化合物層中に残存するオリゴマー成分が有機化合物層中で拘束されるものと推察される。その結果、残存するオリゴマー成分は、外部からの熱や光エネルギー等の負荷を受けた後も有機化合物層中を動けず、モノマーを用いた場合よりも内部応力の増大やマイクロクラックの発生が起こりにくいものと推察される。こうした有機化合物層2を有するガスバリア性フィルム10及びガスバリア層4は、後述の実施例に記載のように、ガスバリア性の長期間の経時安定性を確保することができている。
【0028】
なお、有機化合物層2と無機化合物層3と(これら2層で「ガスバリア層4」ともいう。)は、図1に示すようにポリエステル系樹脂基材1の一方の面S1にその順で少なくとも設けられるが、図2に示すように他方の面S2にも有機化合物層2’と無機化合物層3’と(これら2層で「ガスバリア層4’」ともいう。)をその順で設けてもよい。また、他方の面S2には、図1に示すように、有機化合物層2’を設けずに無機化合物層3’を設けてもよい。他方の面S2にも、無機化合物層3’を設け(図1)又はガスバリア層4’(有機化合物層2’と無機化合物層3’)を設けることにより、ガスバリア性をさらに高めることができる。
【0029】
以下、ガスバリア性フィルム及びガスバリア層の構成要素を詳しく説明する。
【0030】
(ポリエステル系樹脂基材)
ポリエステル系樹脂基材1は、ポリエステル系樹脂を少なくとも有機化合物層2側に有するフィルム状基材である。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、これらの共重合体、及びポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)等を挙げることができる。ポリエステル系樹脂のうちでも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びこれらの共重合体が好ましい。
【0031】
ポリエステル系樹脂基材1は、その全てがポリエステル系樹脂からなるフィルム状基材であってもよいし、有機化合物層2が形成される側(図1における片面S1又は図2における両面S1,S2)に少なくともポリエステル系樹脂層が形成されているフィルム状積層基材であってもよい。このフィルム状積層基材において、有機化合物層2が形成されるポリエステル系樹脂層以外の層は、ポリエステル系樹脂層でなくてもよい。ポリエステル系樹脂層以外の層の種類の選定にあたっては、耐熱性、熱膨張、光透過性等を考慮して各種の樹脂層が任意に選定される。
【0032】
ポリエステル系樹脂基材1の厚さは特に限定されないが、全てがポリエステル系樹脂からなるフィルム状基材の場合は、厚さが10μm以上500μm以下程度であることが好ましい。一方、ポリエステル系樹脂層を有するフィルム状積層基材の場合は、ポリエステル系樹脂層の厚さが10μm以上400μmで、そのポリエステル系樹脂層を含む全体の厚さが12μm以上500μm以下程度であることが好ましい。
【0033】
ポリエステル系樹脂基材1の表面は、必要に応じて、コロナ処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、加熱処理、薬品処理、及び易接着処理等の表面処理を行ってもよい。こうした表面処理の具体的な方法は従来公知のものを適宜用いることができる。また、有機化合物層2を直接形成しない側の面には、他の機能層を設けてもよい。機能層の例としては、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0034】
このポリエステル系樹脂基材1上には、後述するように、ポリエステル系オリゴマーを重合性化合物とする有機化合物層2が設けられる。こうした構成を有するガスバリア性フィルム10は、ポリエステル系樹脂基材1と有機化合物層2との密着性が良く、ガスバリア性が長期に渡って確保される。その理由は、基材成分と有機化合物層成分とが同種のポリエステル成分であるので、有機化合物層形成時に親和性が増して両者の密着性が向上し、ガスバリア性の長期間の経時安定性の確保に寄与するものと推察される。
【0035】
(有機化合物層)
有機化合物層2は、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とを有する有機化合物層用組成物を重合させてなる層であり、上述したポリエステル系樹脂基材1上に直接設けられる。本発明では、有機化合物層用組成物として、重合性化合物と重合開始剤とを含む電離放射線硬化樹脂組成物が好ましく用いられる。電離放射線とは、紫外線又は電子線が代表的なものであるが、この他、可視光線、X線、γ線等の電磁波、或いはα線等の荷電粒子線を挙げることができる。こうした電離放射線を電離放射線硬化樹脂組成物に照射して重合性化合物を架橋重合等させることにより、有機化合物層2を形成できる。
【0036】
重合性化合物は、ポリエステル系オリゴマーを用いる。ポリエステル系オリゴマーは、2官能基以上を有する多官能の電離放射線硬化型のアクリル系化合物の一つである。電離放射線硬化型のアクリル系化合物としては、例えば、紫外線硬化樹脂層を構成するポリエステルアクリレートオリゴマーを主成分とする樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリエステルの構造単位の繰り返しの数が2〜50、好ましくは2〜20の重合体中に、アクリレート基を結合させた化合物を挙げることができる。そうしたポリエステルアクリレートオリゴマーとしては、特に東亞合成株式会社製のアロニックスM−8030、8060、9050(いずれも商品名)が、重合時の収縮が小さく、紫外線照射による分解反応が遅いことから、好ましい。
【0037】
なお、ポリエステルアクリレートオリゴマーは、ポリオールと二塩基酸とで合成したポリエステル骨格に残ったヒドロキシ基に、(メタ)アクリル酸を縮合してアクリレートオリゴマーにしたものである。具体的には、無水フタル酸とプロピオンオキサイドとアクリル酸との反応物、アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールとアクリル酸との反応物、トリメリット酸とジエチレングリコールとアクリル酸との反応物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
本発明では、このポリエステル系オリゴマーのみを含む有機化合物層用組成物であってもよいし、ポリエステル系オリゴマーを主成分として含み、副成分として他のオリゴマー又はプレポリマーを含むものであってもよい。ここで、「主成分として含む」とは、ポリエステル系オリゴマーが、全重合性化合物の60%(重量比)以上、好ましくは66%(2/3)以上であることをいい、したがって、「副成分」とは、全重合性化合物の40%(重量比)未満、好ましくは33%(1/3)であることをいう。なお、オリゴマーとは、モノマーでない分子量数千レベルまでのものであり、化合物の分子構造に依存するので分子量で正確に特定することはできないが、およそ、300〜4000程度ということができる。
【0039】
ポリエステル系オリゴマーと共に混合可能な副成分としてのオリゴマー又プレポリマーとしては、上記配合比の範囲内で、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー又はプレポリマーを挙げることができる。これらの具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能オリゴマー又プレポリマー並びに多官能オリゴマー又プレポリマーを挙げることができ、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のオリゴマー又プレポリマーが挙げられる。本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。また、副成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0040】
本発明では、前記したポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アクリレート等のオリゴマー又はプレポリマーを、ポリエステル系オリゴマーと併用しないで用いることはできない。その理由は、ガスバリア性の長期間の経時安定性を達成できないからである。
【0041】
重合開始剤は、ヒドロキシケトン系オリゴマーを用いる。ヒドロキシケトン系オリゴマーとしては、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−[4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−フェノキシ]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−(4−{2−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−フェニル]−エチル}−フェニル)−2−メチル−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−(4−{1−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−フェニル]−1,1−ジメチル}−フェニル)−2−メチル−プロパン−1−オン等が挙げられる。
【0042】
具体的には、例えば、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニル−ケトン(チバ・スペチャリティー・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュア184)、2−ヒドロキシメチル−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン(チバ・スペチャリティー・ケミカルズ社製、商品名:ダロキュア1173)、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバ・スペチャリティー・ケミカルズ社製、商品名:イルガキュア127)等を挙げることができる。
【0043】
重合開始剤の配合量は特に限定されないが、良好な重合が行われるという観点から、重合性化合物100重量部に対して0.1〜5重量部程度添加することが好ましい。
【0044】
溶剤は、塗布液の粘度調整の見地から、有機化合物層用組成物に応じて任意に混合される。溶剤としては、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;ハロゲン化炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0045】
有機化合物層用組成物を構成する重合性化合物と重合開始剤との混合比は、重量比で、100:0.1〜100:20の範囲であることが好ましく、100:0.5〜100:10の範囲であることがより好ましい。
【0046】
有機化合物層用組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内で、必要に応じて適宜添加剤を添加する。添加剤としては、例えば、光増感剤、熱安定剤、ラジカル捕捉剤、可塑剤、界面活性剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、色素(着色染料、着色顔料)、体質顔料、光拡散剤等が挙げられる。光増感剤としては、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等を混合して用いることができる。
【0047】
有機化合物層2は、ポリエステル系樹脂基材1上に上記有機化合物層用組成物を塗布し、塗布後の塗膜に電離放射線を照射して架橋重合等させて形成する。塗布方法は、後述の「製造方法」欄で説明する塗布方法から選択して適用できる。このときの電離放射線の照射も、後述の「製造方法」欄で説明する電離放射線及び電離放射線照射装置を任意に選択して適用できる。
【0048】
有機化合物層2は、一回の成膜回数で形成してなる単層でも、2回以上の成膜回数で形成してなる2層以上の層であってもよい。2層以上の場合、本発明の構成要素を満たせば、各層は同じ有機化合物層用組成物を用いてもよいし、異なる有機化合物層用組成物を用いてもよい。有機化合物層2の厚さは、単層又は2層以上に関わらず、基板のたわみの観点から0.1μm以上20μm以下であることが好ましく、さらに表面性や生産性の観点を加えると1μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0049】
(無機化合物層)
無機化合物層3は、水蒸気等のガスを遮断するバリア層として、有機化合物層2上に形成される。無機化合物層3の形成材料としては、例えば、無機酸化物、無機酸化窒化物、無機窒化物、無機酸化炭化物、及び無機酸化炭化窒化物等から選ばれる1又は2以上の無機化合物を挙げることができる。具体的には、珪素、アルミニウム、マグネシウム、チタン、スズ、インジウム、及びセリウムから選ばれる1種又は2種以上の元素を含有する無機化合物を挙げることができ、より具体的には、珪素酸化物、アルミニウム酸化物、マグネシウム酸化物、チタン酸化物、スズ酸化物、及びインジウム合金酸化物等の無機酸化物;珪素窒化物、アルミニウム窒化物、及びチタン窒化物等の無機窒化物;酸化窒化珪素等の無機酸化窒化珪素;を挙げることができる。特に好ましくは、酸化珪素、窒化珪素、及び酸化窒化珪素から選ばれる1又は2以上の無機化合物を挙げることができる。無機化合物層3は上記材料を単独で用いてもよいし、本発明の要旨の範囲内で上記材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0050】
無機化合物層3の厚さは、使用する無機化合物によっても異なるが、ガスバリア性確保の見地から、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、クラック等の発生を抑制する見地から、通常5000nm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは300nm以下である。また、無機化合物層3は1層であってもよいし、合計厚さが上記範囲内となる2層以上の無機化合物層3であってもよい。2層以上の無機化合物層3の場合には、同じ材料同士を組み合わせてもよいし、異なる材料同士を組み合わせてもよい。
【0051】
(その他の構成)
ガスバリア性フィルム10は、上述のとおり、ポリエステル系樹脂基材1、有機化合物層2、及び無機化合物層3で構成されているが、例えば、これら以外の層を有機化合物層2と無機化合物層3との間に適宜挿入したり、ポリエステル系樹脂基材1の有機化合物層2が形成されていない側の面S2に積層したり、無機化合物層3上又は無機化合物層3’上に積層したりしてもよい。任意の層としては、本発明の特徴を阻害しない範囲で、例えば、従来公知のプライマー層、マット剤層、保護層、帯電防止層、平滑化層、密着改良層、遮光層、反射防止層、ハードコート層、応力緩和層、防曇層、防汚層、被印刷層、易接着層等が挙げられる。
【0052】
従来の構成によれば、有機化合物層中に残存するモノマー成分は、無機化合物層側とポリエステル系樹脂基材側の両方向に拡散し、無機化合物層側では、無機化合物層のマイクロクラックの原因となり、ポリエステル系樹脂基材側では、有機化合物層とポリエステル系樹脂基材との界面剥離の原因となると考えられ、いずれもガスバリア性の長期間の経時安定性の悪化を生じさせていたと推察される。しかしながら、上記構成の有機化合物層2は、モノマーよりも構造の大きいオリゴマー成分を用いており、有機化合物層2中に残存する成分が有機化合物層2中で拘束されると推察される。そのため、外部からの熱や光エネルギー等の負荷を受けた後も有機化合物層2中を動けず、モノマーを用いた場合よりも内部応力の増大が起こりにくく、また、無機化合物層のマイクロクラックの発生も起こりにくいと推察される。また、この効果は、ポリエステル系樹脂基材と有機化合物層との界面でも考えられ、オリゴマー成分を用いることで外部からの熱や光エネルギー等の負荷(脱ガス等)による界面剥離等の現象も抑えられると推察される。
【0053】
こうして構成された本発明に係るガスバリア性フィルム10は、作製直後の初期水蒸気ガスバリア性が0.01g/m・day未満であり、しかも温度40℃・湿度90%の恒温恒湿槽に400時間保存した加速試験後の水蒸気ガスバリア性も0.01g/m・day未満であり、長期間の経時安定性を示した。特に好ましい構成では、温度40℃・湿度90%の恒温恒湿槽に1000時間保存した加速試験後の水蒸気ガスバリア性も0.01g/m・day未満であり、極めて長期間の経時安定性を示した。なお、水蒸気透過率は、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、型名:AQUATRAN)を用いて行った結果で評価した。
【0054】
[製造方法]
本発明に係るガスバリア性フィルム10の製造方法は、ポリエステル系樹脂基材1上に、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した有機化合物層2を形成する工程と、有機化合物層2上に無機化合物層3を形成する工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0055】
(有機化合物層形成工程)
有機化合物層形成工程は、ポリエステル系樹脂基材1上に、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とを有する有機化合物層用組成物で有機化合物層2を形成する工程である。通常、ポリエステル系樹脂基材1上に電離放射線硬化樹脂組成物(紫外線硬化樹脂組成物等)を塗布し、その塗膜に電離放射線(紫外線等)を照射し、電離放射線硬化樹脂組成物を重合硬化させて有機化合物層2を形成する。なお、電離放射線硬化樹脂組成物を構成する重合性化合物と重合開始剤等については、上記「有機化合物層」の説明欄で説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。
【0056】
電離放射線硬化樹脂組成物の塗布方法としては、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスロールコート法、リバースロールコート法、ミヤバーコート法、グラビアコート法、スピンコート法、及びダイコート法等を挙げることができる。
【0057】
電離放射線硬化樹脂組成物の塗布後は、必要に応じて乾燥を行う。乾燥温度は、常温であってもよいが、電離放射線硬化樹脂組成物が溶剤を含有する場合には、溶剤を除去するための乾燥を、溶剤の沸点以上の温度で行うことが好ましい。電離放射線としては既述したとおりであるが、電離放射線として紫外線を適用する場合には、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯等の光源が用いられる。
【0058】
(無機化合物層形成工程)
無機化合物層形成工程は、有機化合物層2上に無機化合物層用材料を堆積して無機化合物層3を形成する工程である。無機化合物層用材料は、上記「無機化合物層」の説明欄で説明したとおりであるので、ここではその説明を省略する。
【0059】
無機化合物層3の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的気相成長法又はプラズマ化学気相成長法等を好ましく挙げることができる。こうした各種の形成方法での成膜条件は、得ようとする無機化合物層3の物性及び厚さ等を考慮し、従来公知の成膜条件を適宜調整して行えばよい。
【0060】
より具体的には、(1)無機酸化物、無機窒化物、無機酸化窒化物、又は金属等の原料を基材上に加熱蒸着させる真空蒸着法、(2)原料に酸素ガスを導入して酸化させ、基材に蒸着させる酸化反応蒸着法、(3)ターゲット原料にアルゴンガス、酸素ガスを導入してスパッタリングすることにより、基材に堆積させるスパッタリング法、(4)原料をプラズマガンで発生させたプラズマビームで加熱させ、基材に堆積させるイオンプレーティング法、(5)有機珪素化合物を原料とし、酸化珪素膜を基材に堆積させるプラズマ化学気相成長法、等を利用することができる。
【0061】
なお、ガスバリア性フィルム10が、上述した他の機能層を有する場合には、それらの層の形成工程が任意に含まれる。
【0062】
[装置]
本発明に係る装置は、上記本発明のガスバリア性フィルム10又は上記本発明のガスバリア層4を用いる表示装置又は発電装置である。上記したガスバリア性フィルム10及びガスバリア層4はいずれも長期間の経時安定性を有するので、そのガスバリア性フィルム10又はガスバリア層4を用いた表示装置及び発電装置は、その品質特性を低下させる水蒸気等のガス成分の影響を排除できる。その結果、表示装置又は発電装置の長期信頼性を図ることができる。
【0063】
表示装置としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子、タッチパネル、電子ペーパー等を挙げることができる。また、これらの表示装置をアクティブマトリックス駆動する薄膜トランジスタも、この表示装置に含まれる。なお、これら各表示装置の構成は特に限定されず、それぞれ従来公知の構成を適宜採用することができ、且つそうした各表示装置に適用するガスバリア性フィルム10又はガスバリア層4による封止手段も特に限定されず、従来公知の手段とすることができる。
【0064】
具体的には、例えば、有機EL素子としては、本発明に係るガスバリア性フィルム10上に陰極と陽極を有し、両電極の間に、有機発光層(単に「発光層」ともいう。)を含む有機層を有するものを挙げることができる。発光層を含む有機層の積層態様としては、陽極側から、正孔輸送層、発光層及び電子輸送層の順に積層されている態様が好ましい。さらに、正孔輸送層と発光層との間、又は、発光層と電子輸送層との間には、電荷ブロック層等を有していてもよい。また、陽極と正孔輸送層との間に正孔注入層を有してもよく、陰極と電子輸送層との間に電子注入層を有してもよい。また、発光層は一層だけでもよく、また、第一発光層、第二発光層及び第三発光層等のように発光層を分割してもよい。さらに、各層は複数の二次層に分かれていてもよい。なお、有機EL素子は発光素子であることから、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0065】
発電装置としては、例えば、太陽電池素子(太陽電池モジュール)を挙げることができる。発電装置の構成は特に限定されず、従来公知の構成を適宜採用することができる。さらに、そうした発電装置に適用するガスバリア性フィルム10又はガスバリア層4による封止手段も特に限定されず、従来公知の手段とすることができる。例えば、ガスバリア性フィルム10を太陽電池素子の裏面保護シートとして用いることができる。
【0066】
具体的には、例えば、太陽電池モジュールとしては、本発明に係るガスバリア性フィルム10を太陽電池バックシートとして使用した例を挙げることができる。こうした太陽電池モジュールは、太陽光側から厚さ方向に順に、前面基材(ガラス又はフィルム等の高光線透過性を有するもの)、充填材、太陽電池素子、リード線、端子、端子ボックス、太陽電池バックシートの構成で、それらがシール材を介して両端の外装材(アルミ枠等)に固定されている。その太陽電池バックシートとしては、裏面封止用フィルムと、外層側に配置されるフィルムとの間に、本発明に係るガスバリア性シート10を挟んで構成される例を挙げることができる。裏面封止用フィルムとしては、太陽電池モジュール側で太陽光を反射して電換効率を高めるべく、高度な反射率を有する例えば白色のポリエステルフィルム等が使用される。また、外層側に配置されるフィルムとしては、耐候性、耐加水分解性フィルム等が使用される。
【実施例】
【0067】
本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0068】
[実施例1]
まず、ポリエステル系樹脂基材1として、一方の面S2(図1参照)に易接着処理が施された厚さ100μmのポリエチレン−2,6−ナフタレンフィルム(PENフィルム、帝人デュポンフィルム株式会社製、商品名:Q65F)を用いた。このポリエステル系樹脂基材1上に、下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(1)をダイコート法で塗布し、120℃で3分間乾燥させた後、紫外線照射ランプを用い、積算光量500mJ/cmの条件で紫外線を照射し、厚さ2μmの有機化合物層2を形成した。
【0069】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(1)の組成)
・ポリエステルオリゴマー(重合性化合物、東亜合成株式会社製、商品名:M−8030):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0070】
次に、ガスバリア性の無機化合物層3をスパッタリング法で形成した。具体的には、有機化合物層2を形成したポリエステル系樹脂基材1を、バッチ式スパッタリング装置(アネルバ株式会社製、型名:SPF−530H)のチャンバー内に、有機化合物層側に成膜する向きに設置し、珪素をターゲット材として搭載した。ターゲットと、有機化合物層2が形成されたポリエステル系樹脂基材1との距離は50mmに設定した。成膜時の添加ガスとして、窒素ガスとアルゴンガスを用いた。チャンバー内を2.5×10−4Paまで減圧した後、チャンバー内に窒素ガスを流量15sccmで導入し、アルゴンガスを流量20sccmで導入した。そして、チャンバー内圧力を0.25Paに保ち、RFマグネトロンスパッタリング法により、投入電力1.2kWで、有機化合物層上に厚さ80nmの酸化窒化珪素層(無機化合物層3)を形成した。なお、sccmとは、standard cubic centimeter per minuteの略である。
【0071】
最後に、ポリエステル系樹脂基材1の反対側の面S2(易接着処理面)に、上記無機化合物層3と同様の手順で厚さ80nmの酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)を形成し、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例1のガスバリア性フィルムを得た。
【0072】
[実施例2]
実施例1において、ポリエステル系樹脂基材1の反対側の面S2上に、実施例1の有機化合物層2と同様の手順で厚さ2μmの有機化合物層2’を形成し、その後、実施例1の無機化合物層3’と同様の手順で厚さ80nmの酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)を形成し、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例2のガスバリア性フィルムを得た。
【0073】
[実施例3]
実施例1において、ポリエステル系樹脂基材1として、厚さ188μmのポリエステルフィルム(PETフィルム、東洋紡績株式会社製、商品名:A4300)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PETフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例3のガスバリア性フィルムを得た。
【0074】
[実施例4]
実施例2において、ポリエステル系樹脂基材1として、厚さ188μmのポリエステルフィルム(PETフィルム、東洋紡績株式会社製、商品名:A4300)を用いた他は、実施例2と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2’)/PETフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例4のガスバリア性フィルムを得た。
【0075】
[実施例5]
実施例1において、下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(2)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例5のガスバリア性フィルムを得た。
【0076】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(2)の組成)
・ポリエステルオリゴマー(重合性化合物、東亜合成株式会社製、商品名:M−8030):19重量部
・ビスフルオレン型エポキシアクリレート/ビスフェニルテトラカルボン酸共重合体:19重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0077】
[実施例6]
実施例1において、下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(3)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例6のガスバリア性フィルムを得た。
【0078】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(3)の組成)
・ポリエステルオリゴマー(重合性化合物、東亜合成株式会社製、商品名:M−8030):24重量部
・ビスフルオレン型エポキシアクリレート/ビスフェニルテトラカルボン酸共重合体:16重量部
・トルエン(溶剤):58重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0079】
[実施例7]
実施例1において、下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(4)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる実施例7のガスバリア性フィルムを得た。
【0080】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(4)の組成)
・ポリエステルオリゴマー(重合性化合物、東亜合成株式会社製、商品名:M−8030):24重量部
・エポキシアクリレート(重合性ポリマー、大日本インキ株式会社製、商品名:V−5502)16重量部(なお、ポリエステルオリゴマー:エポキシアクリレート=3:2)
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0081】
[比較例1]
実施例1において、光重合開始剤を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(5)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例1のガスバリア性フィルムを得た。
【0082】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(5)の組成)
・ポリエステルオリゴマー(重合性化合物、東亜合成株式会社製、商品名:M−8030):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(モノマー系光重合開始剤、日本チバガイギー株式会社製、商品名:イルガキュア184):2重量部
【0083】
[比較例2]
実施例1において、重合性化合物と光重合開始剤を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(6)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例2のガスバリア性フィルムを得た。
【0084】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(6)の組成)
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(重合性化合物、日本化薬株式会社製、商品名:PET−30):20重量部
・イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(重合性化合物、東亜合成株式会社製、商品名:M−215):20重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(モノマー系光重合開始剤、日本チバガイギー株式会社製、商品名:イルガキュア184):2重量部
【0085】
[比較例3]
実施例1において、重合性化合物と光重合開始剤を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(7)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例3のガスバリア性フィルムを得た。
【0086】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(7)の組成)
・ポリウレタンオリゴマー(重合性化合物、日本合成化学株式会社製、商品名:紫光):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(モノマー系光重合開始剤、日本チバガイギー株式会社製、商品名:イルガキュア184):2重量部
【0087】
[比較例4]
実施例1において、重合性化合物を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(8)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例4のガスバリア性フィルムを得た。
【0088】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(8)の組成)
・エポキシ系シリコーン樹脂(重合性化合物、信越化学株式会社製、商品名:X−40−2670):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0089】
[比較例5]
実施例1において、重合性化合物を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(9)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例5のガスバリア性フィルムを得た。
【0090】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(9)の組成)
・エポキシアクリレート(重合性化合物、大日本インキ株式会社製、商品名:V−5502):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0091】
[比較例6]
実施例1において、重合性化合物を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(10)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例6のガスバリア性フィルムを得た。
【0092】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(10)の組成)
・エポキシアクリレート(重合性化合物、大日本インキ株式会社製、商品名:V−4260):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0093】
[比較例7]
実施例1において、重合性化合物を変更した下記組成の紫外線硬化樹脂層用インキ(11)を用いた他は、実施例1と同様にして、酸化窒化珪素層(無機化合物層3’)/PENフィルム(ポリエステル系樹脂基材1)/紫外線硬化樹脂層(有機化合物層2)/酸化窒化珪素層(無機化合物層3)、の層構成からなる比較例7のガスバリア性フィルムを得た。
【0094】
(紫外線硬化樹脂層用インキ(11)の組成)
・シリコーンアクリレート(重合性化合物、ADEKA製、商品名::V−540):38重量部
・トルエン(溶剤):60重量部
・オリゴ[2−ヒドロキシ−2−メチル−[1−(4−メチルビニル)フェニル]プロパノン](光重合開始剤、lamberti社製、商品名:ESACURE ONE):2重量部
【0095】
[評価と結果]
(ガスバリア性の測定方法)
実施例1〜7及び比較例1〜7のガスバリア性フィルムについて、作製直後の水蒸気透過率(初期水蒸気ガスバリア性)の測定を行った。測定は、温度37.8℃、湿度100%RHの条件下で、水蒸気透過率測定装置(MOCON社製、商品名:AQUATRAN)を用いて行った。その結果を表1に示す。
【0096】
(保存試験)
実施例1〜7及び比較例1〜7のガスバリア性フィルムについて、初期水蒸気ガスバリア性が0.01g/m・day未満のものに対して保存試験を行った。保存試験の条件は、温度40℃、湿度90%の恒温恒湿層にて、200時間、400時間、1000時間それぞれ保存し、各時間経過後のガスバリア性を前記測定方法で評価した。その結果を表1に示す。なお、ガスバリア性が0.01g/m・day以上となった時点で、それ以後の保存試験は中止した。
【0097】
【表1】

【0098】
(結果)
表1に示すように、実施例1〜7は、作製直後の初期水蒸気ガスバリア性が0.01g/m・day未満であり、しかも400時間保存した後の水蒸気ガスバリア性も0.01g/m・day未満であり、長期間の経時安定性を示した。また、実施例3を除いては1000時間保存した後の水蒸気ガスバリア性も0.01g/m・day未満であり、極めて長期間の経時安定性を示した。こうした良好な長期間の経時安定性は、ポリエステル系樹脂基材1と有機化合物層2の重合性化合物とが同種のポリエステル成分であるため、有機化合物層形成時に親和性が増して両者の密着性が向上し、ガスバリア性の長期間の経時安定性の確保に寄与するものと推察され、さらには、モノマーよりも構造の大きいオリゴマー成分を用いることにより有機化合物層2中に残存する成分が有機化合物層2中で拘束されると推察され、その結果、保存試験後であっても、ガスバリア性を低下させる内部応力の増大やマイクロクラックの発生が起こりにくいためであろうと推察される。
【0099】
一方、本発明の構成要件を満たさない比較例1〜7、すなわち比較例1ではオリゴマー系光重合開始剤以外のモノマー系光重合開始剤を用い、比較例2ではポリエステル系オリゴマー以外の光重合系アクリレートを重合性化合物として用いるとともにオリゴマー系光重合開始剤以外のモノマー系光重合開始剤を用い、比較例3ではポリエステル系オリゴマー以外のポリウレタンオリゴマーを重合性化合物を用いるとともにオリゴマー系光重合開始剤以外のモノマー系光重合開始剤を用い、比較例4ではポリエステル系オリゴマー以外のエポキシ系シリコーン樹脂を重合性化合物を用い、比較例5ではポリエステル系オリゴマー以外のエポキシアクリレートを重合性化合物を用い、比較例6ではポリエステル系オリゴマー以外のエポキシアクリレートを重合性化合物を用い、比較例7ではポリエステル系オリゴマー以外のシリコーンアクリレート重合性化合物を用いたものは、上記実施例1〜7に比較して、長期間の経時安定性はいずれも不十分であった。
【符号の説明】
【0100】
1 ポリエステル系樹脂基材
2,2’ 有機化合物層
3,3’ 無機化合物層
4,4’ ガスバリア層
10,10A,10B ガスバリア性フィルム
S1 ポリエステル系樹脂基材の片面
S2 ポリエステル系樹脂基材の他の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂基材と、該ポリエステル系樹脂基材上に設けられた有機化合物層と、該有機化合物層上に設けられた無機化合物層とを有し、前記有機化合物層が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であることを特徴とするガスバリア性フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル系樹脂基材の他方の面にも、前記有機化合物層と前記無機化合物層とがその順で設けられ、又は、前記無機化合物層が設けられている、請求項1に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項3】
前記ポリエステル系樹脂基材が、ポリエチレンナフタレートフィルム又はポリエチレンテレフタレートフィルムであり、前記無機化合物層が、酸化珪素、窒化珪素、及び酸化窒化珪素から選ばれる1種又は2種以上からなる層である、請求項1又は2に記載のガスバリア性フィルム。
【請求項4】
有機化合物層と、該有機化合物層上に設けられた無機化合物層とを有し、前記有機化合物層が、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した層であることを特徴とするガスバリア層。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルム又は請求項4に記載のガスバリア層を用いる表示装置又は発電装置であることを特徴とする装置。
【請求項6】
ポリエステル系樹脂基材上に、ポリエステル系オリゴマーを有する重合性化合物と、ヒドロキシケトン系オリゴマーからなる重合開始剤とで重合した有機化合物層を形成する工程と、前記有機化合物層上に無機化合物層を形成する工程と、を有することを特徴とするガスバリア性フィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−110811(P2011−110811A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−269390(P2009−269390)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【出願人】(000183923)株式会社DNPファインケミカル (268)
【Fターム(参考)】