説明

ガスバリア性積層フィルム

【課題】高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いられる透明なガスバリア性積層フィルムを提供する。
【解決手段】基材層1の一方に、ガスバリア層2、ガスバリア被膜層3、もう一方にガスバリア層4、ガスバリア被膜層5を積層し、ガスバリア層2、4は酸化珪素からなり、ガスバリア被膜層3、5は式Si(ORの珪素化合物、式(RSi(ORの珪素化合物および例えばPVAを含有する塗布液を塗布して乾燥させてなり、ガスバリア層2の膜厚(Xa)とガスバリア層4の膜厚(Xb)が、0.005〜0.5μm、ガスバリア被膜層3の膜厚(Ya)とガスバリア被膜層5の膜厚(Yb)が、0.05〜3μm、さらに下記関係を満たすガスバリア性積層フィルム。0.001≦XaYa、0.001≦XbYb、(Xa+Xb)(Ya+Yb)≦0.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品、日用品、医薬品などの包装分野、および太陽電池関連部材や電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に、好適に用いられる透明なガスバリア性積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
食品、日用品、医薬品などの包装に用いられる包装材料は、収容物の変質を抑制して、その機能や性質を包装中においても保持できるようにするため、包装材料を透過する酸素、水蒸気など、収容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらの気体を遮断するガスバリア性を備えていることが求められている。
【0003】
通常のガスバリア性を有する包装材料としては、比較的ガスバリア性に優れている塩化ビニリデン樹脂フィルムまたは塩化ビニリデン樹脂をコーティングしたフィルムなどがよく用いられてきたが、これらの包装材料は、高度なガスバリア性が要求される包装に用いることはできない。従って高度なガスバリア性が要求される場合には、アルミニウムなどの金属箔をガスバリア層として積層した包装材料を用いざるを得なかった。アルミニウムなどの金属箔を積層した包装材料は、温度や湿度の影響が殆どなく、高度なガスバリア性を有している。しかし、こうした包装材料では、それを透視して収容物を確認することができない、使用後に不燃物として廃棄処理しなければならない、収容物の検査に金属探知器が使用できない、などの多くの欠点を有していた。
【0004】
これらの欠点を克服した包装材料として、特許文献1には、透明なプラスチックフィルムからなる基材層に、透明な酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウムなどの無機酸化物の蒸着薄膜層をガスバリア層とし、その上に適宜のガスバリア性被膜層とを積層してなる積層フィルムが開示されている。
【0005】
一方近年、地球温暖化問題に対する関心が高まるなか、太陽電池市場が急速に拡大している。太陽電池の構造としては、太陽電池素子単体をそのままの状態で使用することはなく、一般的に数枚から数十枚の素子を直列、並列に配線し、素子を長期間保護するためにパッケージが行なわれ、ユニット化されている。このパッケージに組み込まれたユニットを太陽電池モジュールと呼び、一般的に太陽光が当たる面をガラスで覆い、熱可塑性プラスチックからなる充填材で隙間を埋め、裏面を耐熱、耐候性プラスチック材料などからなるシートで保護された構成になっている。
これらの太陽電池モジュールは、屋外で使用されるため、使用される材料およびその構成などにおいて、十分な耐久性、耐候性が要求される。特に、裏面保護シートは耐候性とともに高いガスバリア性が要求されている。これは水分の透過によるユニット内の充填材が剥離したりして配線の腐食を起こし、モジュールの出力そのものに悪影響を及ぼすためである。
従来、この太陽電池用裏面保護シートとしては、白色のフッ素系フィルムでアルミニウム箔を両側からサンドイッチした積層構成が多く用いられていた。しかし、このフッ素系フィルムは機械的強度が弱いため太陽電池素子とアルミニウム箔が短絡して電池性能に悪影響を及ぼす欠点があり、さらに価格が高いため、太陽電池モジュールを低価格化する際に1つの障害となっている。これらの問題点を改善するべく、アルミニウム箔を用いずに、耐候性と高いガスバリア性を兼ね備えたガスバリアフィルムの要求が高まっている。
また、この太陽電池モジュールをフレキシブル化させるべく開発も行なわれており、これを達成するためには太陽光が当たる表面のガラス基板もプラスチック材料などからなるシートに置き換える必要があり、この表面保護シートも裏面保護シートと同様に、耐候性および高いガスバリア性が要求されている。
【0006】
また近年、次世代のFPDとして期待される電子ペーパー、有機ELなどの開発が進むなかで、これらFPDのフレキシブル化を達成するため、ガラス基板をプラスチックフィルムに置き換えたいという要求が高まっている。ガラス基板は環境由来の酸素や水蒸気による内部素子の劣化を抑制するため必要とされるガスバリア性が備わっている。しかし、上述した包装材料用のガスバリアフィルムはそのバリアレベルには達しておらず、プラスチックフィルムが適用され得る電子ペーパー、有機ELなどでは、食品包材用バリアフィルムの100倍から1万倍のガスバリア性が必要とも言われている。
このような高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを実現するために、電子ビーム蒸着や誘導加熱蒸着を用いた反応性蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング法により成膜された無機酸化物薄膜は、高いガスバリア性の発現が期待できるものとして検討されている。
【0007】
その中で、有機シラン化合物を用いたプラズマCVD法による酸化珪素薄膜は、高いガスバリア性を発現するバリア層として検討されており、食品包装分野では実用化されている。特許文献2には炭素濃度および、酸化珪素薄膜の組成を制御することで、密着性と透明性が改善するとの報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−164591号公報
【特許文献2】特開平11−322981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載された積層フィルムは、印刷、ラミネート、製袋などの、包装材料としての通常の加工を施したときに、酸素透過度や水蒸気透過度などのガスバリア性が劣化してしまうという欠点を有していた。また、高いガスバリア性を有するプラスチックフィルムを得るために上記ドライコーティング法を用いたとしても、高いガスバリア性を目指すために緻密な膜を得ようとすると、高温プロセスが必要であったり、緻密であるために膜中の応力が大きくなったりする傾向がある。そのため、プラスチックフィルムの使用可能な温度範囲では緻密な膜を得ることが困難であったり、プラスチックフィルムと無機酸化物薄膜との熱膨張係数の差が大きいため密着不良やクラックが発生したりする問題が生じ、高いガスバリア性の発現は容易ではない。また、特許文献2に記載された透明バリア性フィルムは、水蒸気バリア性は若干劣ると記載されており、高いガスバリア性を必要とする電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとしては、ガスバリア性が不十分である。
【0010】
そこで、本発明の目的は、食品、日用品、医薬品などの包装分野や、太陽電池関連部材や電子機器関連部材などの分野において、通常の加工を施してもガスバリア性が劣化しない、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。特に、本発明の目的は、上述した太陽電池モジュールの裏面保護シートや表面保護シート、電子ペーパーや有機ELなどのFPD向けとして、ガスバリア性が不十分である問題を解決するものであり、酸素バリア性および水蒸気バリア性に優れた、透明なガスバリア性積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、透明なプラスチックフィルムからなる基材層1の一方の表面上に、ガスバリア層2、ガスバリア被膜層3、もう一方の表面上にガスバリア層4、ガスバリア被膜層5を順次積層してなるガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記ガスバリア層2および前記ガスバリア層4は酸化珪素からなり、
前記ガスバリア被膜層3および前記ガスバリア被膜層5は、
一般式Si(OR…(1)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
一般式(RSi(OR…(2)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
(但し、一般式(1)および(2)中、R、RはCH、C、またはCOCH、Rは有機官能基を表し、nは1以上の数を表す)、および
水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液を塗布して乾燥させてなり、
かつ、前記ガスバリア層2の膜厚(厚さXa)および前記ガスバリア層4の膜厚(厚さXb)が、0.005μm以上0.5μm以下であり、
前記ガスバリア被膜層3の膜厚(厚さYa)および前記ガスバリア被膜層5の膜厚(厚さYb)が、0.05μm以上3μm以下であり、
前記Xa、Xb、YaおよびYbの関係が、下記3つの式を満たすことを特徴とするガスバリア性積層フィルムである。
0.001≦XaYa
0.001≦XbYb
(Xa+Xb)(Ya+Yb)≦0.5
(式中のXa、Xb、Ya、Ybの厚さの単位はμmである)
請求項2に記載の発明は、前記一般式(RSi(OR…(2)は、式(NCO−RSi(OR(但し、式中、Rは(CHを表し、nは1以上の数を表す)で表される三量体1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルムである。
請求項3に記載の発明は、前記基材層1の表面上にそれぞれ積層した前記ガスバリア層2および前記ガスバリア層4が、プラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたことを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルムである。
請求項4に記載の発明は、前記一般式Si(OR…(1)は、その加水分解性基(R)がCであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムである。
請求項5に記載の発明は、前記基材層1と前記ガスバリア層2との間、および前記基材層1と前記ガスバリア層3との間に、アクリルポリオール、イソシアネート、およびシランカップリング剤からなるプライマー層をさらに積層することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムである。
請求項6に記載の発明は、前記一般式(RSi(OR…(2)は、1,3,5−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルムである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、食品、日用品、医薬品などの包装分野において、包装材料としての通常の加工を施してもガスバリア性が劣化せず、また包装材料を透視して収容物を確認することができ、また、太陽電池モジュール向けやFPD向けとして特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いることができる透明なガスバリア性積層フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のガスバリア性積層フィルムの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のガスバリア性積層フィルムの実施形態を、図面に沿って説明する。図1は、本発明のガスバリア性積層フィルムの一例の断面図である。基材層1の一方の表面上に、酸化珪素からなるガスバリア層2と、ガスバリア被膜層3、もう一方の表面上に、酸化珪素からなるガスバリア層4と、ガスバリア被膜層5とが厚み方向に順次積層されており、かつ、これらガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5は、
一般式Si(OR…(1)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
一般式(RSi(OR…(2)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
(但し、一般式(1)および(2)中の、R、RはCH、C、またはCOCHを表し、Rは有機官能基を表し、nは1以上の数を表す)
および
水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液を塗布、加熱、および乾燥して得られている。
【0015】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1は透明なプラスチックフィルムからなっている。透明なプラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ乳酸などの生分解性プラスチックフィルム、などが用いられる。
これらの透明なプラスチックフィルムは、延伸、未延伸のどちらでもよいが、機械的強度や寸法安定性などが優れたものが好ましい。特に、耐熱性や寸法安定性などの面から、二軸方向に延伸したポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。また、透明なプラスチックフィルムは、帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤等などの添加剤を含有してもよい。さらに、透明なプラスチックフィルムにおいて、他の層を積層する側の表面には、密着性をよくするために、コロナ処理、低温プラズマ処理、イオンボンバード処理、薬品処理、溶剤処理などを施してもよい。
これらの透明なプラスチックフィルムからなる基材層1の厚さは、特に制限を受けるものではないが、包装材料としての適性や他の層を積層する場合の加工適性などを考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲、特に6〜30μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、ガスバリア層2およびガスバリア層4の形成方法は特に限定されるものではないが、基材層1の表面に、酸化珪素からなるガスバリア層2、ガスバリア層4を真空中において成膜して、高いガスバリア性を発現させるためには、現時点ではプラズマ化学蒸着(CVD)法が好ましく、上記プラスチックフィルムからなる基材層の片面もしくは両面に成膜することができる。また、プラスチックフィルムからなる基材層1の特徴を活かした巻取式による連続蒸着を行うことができ、巻取式の真空蒸着成膜装置を用いることが好ましい。また、プラズマ発生装置としては、直流(DC)プラズマ、低周波プラズマ、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、3極構造プラズマ、マイクロ波プラズマなどの低温プラズマ発生装置が用いられる。
【0017】
プラズマCVD法により積層される酸化珪素からなるガスバリア層2およびガスバリア層4は、分子内に炭素を有するシラン化合物と酸素ガスを原料として成膜することができ、この原料に不活性ガスを加えて成膜することもできる。分子内に炭素を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラメチルシラン(TMS)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、テトラメチルジシロキサン。メチルトリメトキシシランなどの比較的低分子量のシラン化合物を選択し、これらシラン化合物の1つまたは、複数を選択しても良い。これらシラン化合物のうち、成膜圧力と蒸気圧を考えると、TEOS、TMOS、TMS、HMDSO、テトラメチルシランなどが好ましい。
【0018】
プラズマCVD法による成膜では、上記シラン化合物を気化させ酸素ガスと混合したものを電極間に導入し、低温プラズマ発生装置にて電力を印加してプラズマ化し、上記基材層1の表面上に積層することができる。また、プラズマCVD法では、酸化珪素からなる上記ガスバリア層2および上記ガスバリア層4の膜質を様々な方法で変えることが可能であり、例えば、シラン化合物やガス種の変更、シラン化合物と酸素ガスの混合比や、印加電力の増減などが考えられる。
【0019】
また、プラズマCVD法以外のガスバリア層2およびガスバリア層4の形成方法としては、真空蒸着法が好ましく、プラズマCVD法と同様に、上記プラスチックフィルムからなる基材層の片面もしくは両面に成膜することができる。現時点の真空蒸着法において、真空蒸着装置内での蒸発源材料の加熱手段としては、電子線加熱方式や抵抗加熱方式や誘導加熱方式などが好ましい。また基材層1との密着性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法などを用いることも可能である。さらに、蒸着薄膜層の透明性を上げるために、酸素ガスなど吹き込んで反応性蒸着を行ってもよい。
【0020】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1の表面上にそれぞれ積層したガスバリア層2およびガスバリア層4は、透明であり、かつ酸素、水蒸気などの収容物を変質させる気体を遮断する優れたガスバリア性を有している。これらガスバリア層2の厚さXa[μm]およびガスバリア層4の厚さXb[μm]は、各々が0.005μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.005μm以上0.3μm以下である。ここで、膜厚が0.005μm未満であると、均一な蒸着薄膜層が得られないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない。一方、膜厚が0.5μmを越えると、蒸着薄膜層にフレキシビリティを保持させることが難しく、折り曲げや引っ張りなどの外部応力が加わると、蒸着薄膜層に亀裂を生じるおそれがある。
【0021】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおいて、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5は、
i)一般式Si(OR…(1)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
ii)一般式(RSi(OR…(2)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
(但し、一般式(1)および(2)中、R、RはCH、C、またはCOCHを表し、Rは有機官能基を表し、nは1以上の数を表す)
および
iii)水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液を塗布、加熱、および乾燥して得られる。
【0022】
本発明によれば、ガスバリア被膜層は、この3つの成分を含むことにより、十分に不溶化される。一般式(2)のRSi(ORは加水分解により、一般式(1)のSi(ORおよび水酸基を有する水溶性高分子と水素結合を形成するため、バリアの孔になり難く、また一方で、有機官能基はネットワークをつくることで、水酸基を有する水溶性高分子が、その水素結合に水が付加することにより膨潤することを防ぎ、耐水性を著しく向上させる。
なお、バリアの孔とは、膜の中の緻密なネットワークを作らず気体の透過を容易にする部分をいう。
【0023】
また、基材層1上に、上記ガスバリア被膜層3、5を、上記ガスバリア層2、4と組み合わせて設けることにより、高いガスバリア性が得られる。さらに、たとえ基材層1とガスバリア層2、4との間に、密着性コーティング層いわゆるプライマー層、あるいは特殊処理層がなくても、ボイル殺菌処理およびレトルト殺菌処理後も、酸素透過率、およびラミネート強度等の劣化が見られず、ガスバリア層2、4が基材から剥離することが殆どない、安価で実用性の高い積層フィルムを提供することができる。
【0024】
一般式(1)中、Rは、CH、C、またはCOCH等で表せるものであればいずれも使用することができる。なかでも、RがCであるテトラエトキシシランが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるため好ましい。
【0025】
金属アルコキシドは加水分解後に縮合し、セラミック膜を形成する。しかし、金属酸化物は硬く、さらに縮合時の体積縮小による歪みによりクラックが入りやすいため、フィルム上に薄く透明で均一な縮合体被膜を形成することは非常に困難である。そこで、高分子を添加することによって構造体に柔軟性を付与しクラックを防止して造膜することができる。しかし高分子の添加は目視では均一でも、微視的には珪素または金属酸化物と高分子部分とに分離していることが多く、バリアの孔になりやすく、ガスバリア性が低下しやすい。
そこで、水酸基を有する水溶性高分子を添加することにより、高分子の水酸基と金属アルコキシドの加水分解物の水酸基との強い水素結合を利用して、金属酸化物が縮合に際し高分子との間にうまく分散してセラミックに近い高いガスバリア性を発現する。また、この被膜を酸化珪素からなるガスバリア層の上に堆積することで、それぞれ単層によって得られる効果よりも、非常に高いガスバリア性、耐水性、耐湿性を発現する。しかし、金属アルコキシドあるいはその加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子の混合からなる被膜層は、水素結合からなるため、水により膨潤して溶解する。ガスバリア層との積層構造による相乗効果があってもボイルやレトルト処理等の過酷な条件下ではガスバリア性が劣化しやすい。
【0026】
これに対し本発明では、上記一般式(2)の化合物を添加することにより、この膨潤を防ぐことができる。
一般式(2)は、その有機官能基(R)が、ビニル、エポキシ、メタクリロキシ、ウレイド、およびイソシアネート等の非水性官能基であることが好ましい。非水官能基は、官能基が疎水性であるため、耐水性はさらに向上する。
一般式(2)で表される化合物が多量体である場合は、三量体が好ましく、より好ましくは、一般式(NCO−RSi(OR(式中、Rは(CH、nは1以上)で表される1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートである。これは、3−イソシアネートアルキルアルコキシシランの縮合体である。
【0027】
この1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、イソシアヌレート部には化学的反応性はなくなるが、ヌレート部の極性により反応と同様の性能を示すことが知られている。一般的には、3−イソシアネートアルキルアルコキシシランと同様に接着剤などに添加され、接着性向上剤として知られている。よって、1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートをSi(OR)と、水酸基を有する水溶性高分子に添加することにより、水素結合に基づくガスバリア性積層フィルムが水による膨潤することを防ぎ、耐水性を向上させることができる。また、3−イソシアネートアルキルアルコキシシランは、反応性が高く、液安定性が低いのに対し、ヌレート部はその極性により水溶性ではないが、水系液中に分散しやすく、液粘度を安定に保つことができ、その耐水性性能は3−イソシアネートアルキルアルコキシシランと同等である。さらに、ヌレート部は耐水性があるのみでなく、その極性によりSi(ORと、水酸基を有する水溶性高分子はバリアの孔になりにくい。
【0028】
1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートは、3−イソシアネートプロピルアルコキシシランの熱重合により製造されるものもあり、原料の3−イソシアネートプロピルアルコキシシランが含まれる場合もあるが、特に問題はない。さらに好ましくは、1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルプロピル)イソシアヌレートであり、さらにまた好ましくは、1,3,5−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートである。
このメトキシ基は、加水分解速度が早く、また、プロピル基を含むものは比較的安価に入手しえることから、実用上のメリットが大きい。
【0029】
また、一般式(2)の有機官能基Rとして、3−グリシドキシプロピル基、あるいは2−(3,4エポキシシクロヘキシル)基が好ましく使用できる。これらの有機官能基は、加水分解により、一般式(1)のSi(ORおよび水溶性高分子と水素結合を形成するために、バリアの孔になり難く、ガスバリア性を損なうことなく耐水性を向上することができる。
しかしながら、上述のようなエポキシ系シラン化合物の一部は、変異原性を有する場合がある。また、有機官能基(R)が、ビニルおよびメタクリロキシの場合、製造過程で紫外線または電子線等の照射が必要となり設備および工程の増加によりコスト高を招く傾向がある。有機官能基(R)が、ウレイドの場合は、特有の臭気があり、また、イソシアネートの場合は、反応性が高く、ポットライフが短い。このようなことなどから、本発明に使用されるii)の成分としては、1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートがより好ましいと考えられる。
【0030】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおけるガスバリア被膜層中の水酸基を有する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、でんぷん、セルロース類が好ましい。特にポリビニルアルコール(以下、PVA)を本発明のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れる。それは、PVAはモノマー単位中に最も多く水酸基を含む高分子であるため加水分解後の金属アルコキシドの水酸基と非常に強固な水素結合を持つことができるためである。ここで言うPVAとは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分ケン化PVAから酢酸基が数%しか残存していない完全ケン化PVAまでを含む。PVAの分子量は重合度が300〜数千まで多種あるが、どの分子量のものを用いても効果に問題はない。しかし、一般的にケン化度が高く、また重合度が高い高分子量のPVAは耐水性が高いため好ましい。
【0031】
Si(ORの加水分解方法は、一般的に知られているように、酸またはアルカリ触媒とアルコール、水を用いて行なわれる。好ましくは、酸による加水分解が制御しやすく好ましい。このとき、加水分解をさらに制御するために一般的に知られている触媒、塩化錫やアセチルアセトナートなどを添加しても問題ない。
【0032】
塗布液の混合方法では、加水分解したSi(OR、水酸基を有する水溶性高分子、および(RSi(ORを、どの順番で混合しても効果は発現する。(RSi(ORは、混合して、塗布液中で分散せずに油滴状に存在するような場合は、上述のように加水分解を行い、微分散させることが好ましい。特にSi(ORと(RSi(ORを別々に加水分解してから水溶性高分子に添加すれば、SiOの微分散およびSi(ORの加水分解効率を考慮すると望ましい。
【0033】
なお、i)一般式Si(OR…(1)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、ii)一般式(RSi(OR…(2)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、およびiii)水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液において、その混合割合は、前記i)の固形分重量を100としたとき、前記ii)を3〜30、前記iii)を5〜50と設定するのが好ましい(いずれも固形分重量)。
【0034】
ガスバリア被膜層を形成するための塗布液へは、インキ、接着剤との密着性、濡れ性、収縮によるクラック発生防止を考慮して、イソシアネート化合物、コロイダルシリカやスメクタイトなどの粘土鉱物や、安定化剤、着色剤、粘度調整剤などの公知の添加物などを、ガスバリア性や耐水性を阻害しない範囲で添加することができる。
【0035】
ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の形成方法としては、通常のコーティング方法を用いることができる。例えば、ディッピング法、ロールコート、グラビアコート、リバースコート、エアナイフコート、コンマコート、ダイコート、スクリーン印刷法、スプレーコート、グラビアオフセット法等を用いることができる。これらの塗工方式を用いてガスバリア層の上に塗布する。
【0036】
ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の乾燥方法は、熱風乾燥、熱ロール乾燥、高周波照射、赤外線照射、UV照射など被膜層に熱をかけて、水分を飛ばす方法であれば、これらのいずれでも、またこれらを2つ以上組み合わせても構わない。
【0037】
本発明のガスバリア性積層フィルムにおけるガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の役割は、優れたガスバリア性を有するガスバリア層2およびガスバリア層4に対して、印刷、ラミネート、製袋などの通常の加工を施した場合の保護機能、および折り曲げや引っ張りなどの外部応力が加わった場合の保護機能、
さらに、上述してきたガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5それ自体の高いガスバリア性の発現、
さらに、ガスバリア層3およびガスバリア層5の表面に形成することでガスバリア層の欠陥などを穴埋めしてガスバリア性を向上する機能、
さらには、ガスバリア被膜層形成時の硬化収縮による内部応力によりガスバリア層を引き締めることで発現するガスバリア性向上機能である。
【0038】
上記ガスバリア被膜層3の厚さYaおよび上記ガスバリア被膜層5の厚さYbは0.05μm以上3μm以下であることが好ましい。膜厚が0.05μm未満であると、均一な被膜層を形成することが難しく十分な保護機能およびガスバリア性が発現しなく、また、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5形成時の硬化収縮による内部応力が僅かに生じるだけで、ガスバリア層2を被膜層3が十分に引き締めることができず、かつ、ガスバリア層4を被膜層5が十分に引き締めることができないため、上記ガスバリア性向上機能もあまり期待できない。また、膜厚が3μmを超えるとガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5形成時にクラックが発生しやすくなり、さらに硬化収縮による内部応力が過度に働き、ガスバリア層2およびガスバリア層4との密着性が低下する可能性が高くなる。
【0039】
また、上記ガスバリア被膜層3および上記ガスバリア被膜層5が上述した硬化収縮によるガスバリア性向上機能を発揮し、かつ密着性も低下させないためには、上記ガスバリア被膜層3および上記ガスバリア被膜層5の厚さと酸化珪素からなる上記ガスバリア層2および上記ガスバリア層4の厚さとのバランスも考慮する必要がある。すなわち、上述したように、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の役割の1つに、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5形成時の硬化収縮による内部応力によりガスバリア層を引き締めることでガスバリア性を向上させる機能があるが、上記内部応力はガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の厚さが厚くなるほどガスバリア層2およびガスバリア層4に大きく働き、また、上記内部応力に対するガスバリア層2およびガスバリア層4の抵抗力は、ガスバリア層2およびガスバリア層4の厚さが厚くなるほど小さくなり、例えば、同程度の内部応力がガスバリア層2およびガスバリア層4に働いたとしても、ガスバリア層2およびガスバリア層4の厚さが厚くなるに伴い、内部応力に耐え切れず、密着性は低下する傾向がある。
【0040】
また、上記ガスバリア被膜層3および上記ガスバリア被膜層5は、上述した塗布液を塗布し熱をかけて乾燥することで、硬化して形成することができるが、このときプラスチックフィルムからなる基材層1は軟化する傾向があり、そこに上述した硬化収縮による内部応力がかかると密着性が低下する原因となる。すなわち、本発明のように、基材層1の一方の表面上にガスバリア層2とガスバリア被膜層3、もう一方の表面上にガスバリア層4とガスバリア被膜層5とを積層する場合、基材層1を2度にわたり熱をかけて乾燥してガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5を硬化する必要があるため、乾燥による基材層1の軟化および上述した密着性の低下に起因する硬化収縮による内部応力の発生が2度起きることとなり、基材層1にガスバリア層2とガスバリア被膜層3のみを積層する場合よりも、密着性が低下する可能性が高く、例えば、同じ厚さのガスバリア層と同じ厚さのガスバリア被膜層とを、基材層1の一方の表面上に、ガスバリア層2とガスバリア被膜層3のみを積層する場合と、さらにガスバリア層4とガスバリア被膜層5とを積層する場合とでは、後者の場合の方が密着性は低下する。
【0041】
つまり、密着性良好なガスバリア性積層フィルムを作成するためには、ガスバリア層の厚さXa[μm]とXb[μm]とを合わせた上限値とガスバリア被膜層の厚さYa[μm]とYb[μm]とを合わせた上限値とに反比例の関係が成り立ち、それぞれの厚さXa、Xb、YaおよびYbは不等式(Xa+Xb)(Ya+Yb)≦α(正数)を満たす必要がある。また、上記αの値は、酸化珪素からなるガスバリア層2およびガスバリア層4の形成方法、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の硬化条件などにより異なるが、αは0.5以下で、ガスバリア性積層フィルムの密着性は概ね良好になる。従って、上記厚さXa、Xb、YaおよびYbは不等式(Xa+Xb)(Ya+Yb)≦0.5を満たすことが好ましい。
【0042】
さらにまた、上述したように、ガスバリア被膜層3形成時の硬化収縮による内部応力は、ガスバリア被膜層3の厚さが厚くなるほど大きくなり、ガスバリア層2の抵抗力は、ガスバリア層2の厚さが厚くなるほど小さくなる。すなわち、上述したガスバリア層2の厚さXa[μm]は(0.005≦Xa≦0.5)、ガスバリア被膜層3の厚さYa[μm](0.05≦Ya≦3)の範囲において、ガスバリア層2の厚さXaが厚くなるに伴い、さらにガスバリア被膜層3の厚さYaが厚くなるに伴い、上述したガスバリア層2を引き締めることにより発現するガスバリア性向上機能の効果は大きくなる。しかし、言い換えれば、ガスバリア層2の厚さXaが薄い場合には、ガスバリア被膜層3の厚さYaを厚く、ガスバリア被膜層3の厚さYaが薄い場合には、ガスバリア層2の厚さXaを厚くしなければ、上記ガスバリア性向上機能は十分には発現しないこととなる。つまり、上記ガスバリア性向上機能を十分に発現するためには、酸化珪素からなる上記ガスバリア層2の厚さXaの下限値と上記ガスバリア被膜層3の厚さYaの下限値とに反比例の関係が成り立ち、それぞれの厚さXa、Yaは不等式XaYa≧β1(正数)を満たす必要がある。
【0043】
さらにまた、上述したガスバリア層2とガスバリア被膜層3との関係と同様にして、ガスバリア被膜層5形成時の硬化収縮による内部応力は、ガスバリア被膜層5の厚さが厚くなるほど大きくなり、ガスバリア層4の抵抗力は、ガスバリア層4の厚さが厚くなるほど小さくなる。すなわち、上述したガスバリア層4の厚さXb[μm]は(0.005≦Xb≦0.5)、被膜層5の厚さYb[μm](0.05≦Ya≦3)の範囲において、ガスバリア層4の厚さXaが厚くなるに伴い、さらにガスバリア被膜層5の厚さYaが厚くなるに伴い、上述したガスバリア層4を引き締めることにより発現するガスバリア性向上機能の効果は大きくなる。しかし、言い換えれば、ガスバリア層4の厚さXbが薄い場合には、ガスバリア被膜層5の厚さYbを厚く、ガスバリア被膜層5の厚さYbが薄い場合には、ガスバリア層4の厚さXbを厚くしなければ、上記ガスバリア性向上機能は十分には発現しないこととなる。つまり、上記ガスバリア性向上機能を十分に発現するためには、酸化珪素からなる上記ガスバリア層4の厚さXbの下限値と上記ガスバリア被膜層5の厚さYbの下限値とに反比例の関係が成り立ち、それぞれの厚さXb、Ybは不等式XbYb≧β2(正数)を満たす必要がある。
【0044】
さらにまた、上記β1およびβ2の値は、酸化珪素からなるガスバリア層2およびガスバリア層4の形成方法、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5を形成する上述した塗布液の種類および硬化条件などにより異なるが、β1およびβ2は0.001以上で、ガスバリア性向上機能が十分に働くようになる。従って、上記厚さXa、Yaは不等式XaYa≧0.001を満たし、上記厚さXb、Ybも不等式XbYb≧0.001を満たすことが好ましい。
【0045】
すなわち、上記ガスバリア被膜層3および上記ガスバリア被膜層5が上述したガスバリア性向上機能を発揮し、かつ密着性も低下させないためには、酸化珪素からなる上記ガスバリア層2の厚さXa[μm]および上記ガスバリア層4の厚さXb[μm](0.005≦Xa(もしくはXb)≦0.5)と上記ガスバリア被膜層3の厚さYa[μm]および上記ガスバリア被膜層5の厚さYb[μm](0.05≦Ya(もしくはYb)≦3)とが、下記3つの不等式を満たすことが好ましい。
0.001≦XaYa
0.001≦XbYb
(Xa+Xb)(Ya+Yb)≦0.5
なお、式中のXa、Xb、Ya、Ybの単位はμmである。
【0046】
本発明のガスバリア積層フィルムは、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5が、一般式Si(ORで表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、一般式(RSi(ORで表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ(但し、R、RはCH、C、またはCOCHを表し、Rは有機官能基を表し、nは1以上の数を表す)、水酸基を有する水溶性高分子と、を含有する塗布液を塗布、加熱、および乾燥して得られ、かつ、Xa、Xb、Ya、Yb、が上記特定の不等式を満たすことにより、密着性と高いバリア性を両立することができる。特に、本発明のガスバリア性積層フィルムのように基材層1の両面それぞれにガスバリア層とガスバリア被膜層の2層構造を有する場合や、後述するような複雑な積層構造を有する場合であっても、基材層とガスバリア層との密着やガスバリア層とガスバリア被膜層との密着を保持しつつ高いバリア性を有することができる。
【0047】
本発明のガスバリア積層フィルムは、基材層1とガスバリア層2もしくはガスバリア層3との密着性をさらに高くするために、基材層とガスバリア層の間にプライマー層を設けてもよい。
プライマー層としては、例えばアクリルポリオール、ポリビニルアセタール、ポリ−スチルポリオール、およびポリウレタンポリオール等から選択されるポリオール類と、イソシアネート化合物との2液反応によって得られる有機高分子、またはポリイソシアネート化合物および水との反応によりウレア結合を有する有機化合物、ポリエチレンイミンまたはその誘導体、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール、また有機変性コロイダルシリカのような無機シリカ、シランカップリング剤およびその加水分解物のような有機シラン化合物を主剤とするものなどが挙げられる。特にアクリルポリオールとイソシアネート化合物、シランカップリング剤の組み合わせが好ましい。この組み合わせからなるプライマー層を用いると、基材層とガスバリア層の間に、安定したさらに高い密着性を得ることができる。
【0048】
プライマー層の厚さは、一般的には乾燥後の厚さで、0.005μm以上1μm以下であることが望ましく、より好ましくは0.01μm以上0.5μm以下である。0.01μm未満の場合は塗工技術の点から均一な塗膜が得られ難く、逆に0.5μmより大きい場合はコストが高くなり、経済的にデメリットになる。
【0049】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、基材層1の一方の面に、少なくとも酸化珪素からなるガスバリア層2と、ガスバリア被膜層3、もう一方の面に、酸化珪素からなるガスバリア層4と、ガスバリア被膜層5とが厚み方向に順次積層されており、かつ、これらガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5は、
一般式Si(OR…(1)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
一般式(RSi(OR…(2)で表される珪素化合物、およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
(但し、R、RはCH、C、またはCOCH、Rは有機官能基)
および
水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液を塗布、加熱、および乾燥して得らていればよく、さらに複雑な積層構造をとっていてもよい。
たとえば、ガスバリア被膜層3もしくはガスバリア被膜層5の上にガスバリア層とガスバリア被膜層との積層体を積層してもよい。さらに、ガスバリア被膜層3もしくはガスバリア被膜層5の表面に印刷層を積層してもよい。この場合、従来から用いられている通常の印刷インキを用い、周知の印刷方式や塗布方式などによって、厚さ0.1〜2.0μmの印刷層を特に制約なく積層することができる。
【0050】
本発明のガスバリア性積層フィルムを他のフィルムと積層して、食品、日用品、医薬品などの包装分野や太陽電池関連部材や電子機器関連部材などの分野において用いることもできる。たとえば、本発明のガスバリア性積層フィルムを最外層として使用し、接着剤を介して中間フィルム層やヒートシール層などを積層した構成にしてもよい。また、本発明のガスバリア性積層フィルムを中間層として使用し、その片面側に接着剤を介して外側フィルム層などを積層し、そのもう一方の面側に接着剤を介してヒートシール層などを積層した構成にしてもよい。
上記の中間フィルム層または外側フィルム層としては透明なフィルム層が用いられる。こうした透明なフィルム層としては、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ポリアクリルニトリル系フィルム、ポリイミド系フィルムなどが挙げられる。上記のヒートシール層としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸エステル共重合体、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、およびこれらの金属架橋物、などの合成樹脂が用いられる。中間フィルム層、外側フィルム層、ヒートシール層の厚さは、目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。上記の接着剤としては、1液硬化型または2液硬化型のポリウレタン系接着剤などが用いられる。接着剤を介してこれらの層を積層するには、ドライラミネート法などが用いることができる。また、ヒートシール層の他の積層方法として、ヒートシール層の合成樹脂を、熱溶融押出する方法(エクストルージョンラミ)を用いることもできる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されない。以下の実施例1、2、3においては、図1に示したように、基材層1の一方の表面上に、ガスバリア層2とガスバリア被膜層3、もう一方の表面上にガスバリア層4とガスバリア被膜層5とを順次積層したガスバリア性積層フィルムを作製した。
【実施例1】
【0052】
基材層1として厚さ25μmのニ軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、真空蒸着装置内に設置した。ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)5sccm/酸素100sccmの混合ガスを電極間に導入し、13.56MHzの高周波を0.5kW印加してプラズマ化し、基材層1の一方の面上に厚さ0.03μmの酸化珪素からなるガスバリア層2を積層した。
次に、真空蒸着装置内に設置しなおし、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)5sccm/酸素100sccmの混合ガスを電極間に導入し、13.56MHzの高周波を0.5kW印加してプラズマ化し、基材層1のもう一方の面上に厚さ0.03μmの酸化珪素からなるガスバリア層4を積層した。
次に、下記方法にて調液した溶液(A)から(C)をA/B/C=100/20/10(固形分重量比)の割合で混合し、この塗布液をバーコーターにより上記ガスバリア層2の表面上に塗布し、120℃で1分間乾燥させ、0.3μmのガスバリア被膜層3を形成した。
【0053】
≪ガスバリア被膜層用の溶液≫
(A):テトラエトキシシラン(Si(OC、以下、TEOSと称す)17.9gと、メタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間撹拌し、加水分解させた固形分5%(重量比SiO換算)の加水分解溶液
(B):ポリビニルアルコールの5%(重量比)、水/メタノール=95/5(重量比)水溶液
(C):1,3,5−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートを、水/IPA=1/1溶液で、固形分5%(重量比RSi(OH)換算)
【0054】
次に、上記方法にて調液した溶液(A)から(C)をA/B/C=100/20/10(固形分重量比)の割合で混合し、この塗布液をバーコーターにより上記ガスバリア層4の表面上に塗布し、120℃で1分間乾燥させ、0.3μmのガスバリア被膜層5を形成した。こうして実施例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【実施例2】
【0055】
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1の表面に積層した酸化珪素からなるガスバリア層2およびガスバリア層4の厚さを共に0.3μmにし、さらにガスバリア層2の表面およびガスバリア層4の表面に積層したガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の厚さを共に0.3μmにした。その他の条件は実施例1と同様であった。こうして実施例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【実施例3】
【0056】
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1の表面に積層したガスバリア層2およびガスバリア層4を電子線加熱方式で酸化珪素を蒸発させて、共に厚さ0.03μmのガスバリア層にした。その他の条件は実施例1と同様であった。こうして実施例3のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0057】
[比較例1]
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1の両方の面上に酸化珪素からなるガスバリア層2およびガスバリア層4のみを積層し、ガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5は積層しなかった。こうして比較例1のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0058】
[比較例2]
実施例1のガスバリア性積層フィルムにおいて、基材層1の表面に積層した酸化珪素からなるガスバリア層2およびガスバリア層4の厚さを共に0.5μmにし、さらにガスバリア層2の表面およびガスバリア層4の表面に積層したガスバリア被膜層3およびガスバリア被膜層5の厚さを共に0.5μmにした。その他の条件は実施例1と同様であった。こうして比較例2のガスバリア性積層フィルムを作製した。
【0059】
以下、上記のようにして作製した実施例1、2、3および比較例1、2のそれぞれのガスバリア性積層フィルムを単体フィルムという。
次に、実施例1、2、3および比較例2のそれぞれの単体フィルムの被膜層3の表面および比較例1の単体フィルムのガスバリア層2の表面に、厚さ1.2μmの印刷層を積層した。以下、これらを印刷フィルムという。
次に、実施例1、2、3および比較例1、2のそれぞれの印刷フィルムの印刷層の表面に、5g/m2のポリウレタン系接着剤を介して厚さ50μmのポリプロピレンのヒートシール層を積層した。以下、これらを積層フィルムという。
【0060】
<比較評価>
1.酸素透過度
実施例1、2、3および比較例1、2の単体フィルム、印刷フィルムおよび積層フィルムについて、モダンコントロール社製の酸素透過度計(MOCON OX−TRAN 2/21)により、30℃−70%RH雰囲気下での酸素透過度(cc/m・24h・MPa)を測定した。
2.水蒸気透過度
実施例1、2、3および比較例1、2の単体フィルムについて、モダンコントロール社製の水蒸気透過度計(MOCON PERMATRAN−W 3/31)により、40℃−90%RH雰囲気下での水蒸気透過度(g/m・24h)を測定した。
3.ラミネート強度
実施例1、2、3および比較例1、2の積層フィルムから15mm幅にスリットした試験片について、通常のテンシロン型万能試験機により、ラミネート強度(N/15mm)を測定した。
これらの測定結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1からわかるように、実施例1、実施例2および実施例3のガスバリア性積層フィルム(単体フィルム、印刷フィルムおよび積層フィルム)は、低い酸素透過度および水蒸気透過度と、高いラミネート強度を兼ね備えている。
一方、ガスバリア被膜層が積層されていない比較例1のガスバリア性積層フィルムからなる印刷フィルムおよび積層フィルムは、実施例1、実施例2および実施例3のガスバリア性積層フィルムと比較して、酸素透過度が高くガスバリア性に劣っていた。
また、ガスバリア層2およびガスバリア層4をプラズマCVD法により形成し、ガスバリア層2の厚さXa[μm]、ガスバリア層4の厚さXb[μm]、ガスバリア被膜層3の厚さYa[μm]、ガスバリア被膜層5の厚さYb[μm]が(Xa+Xb)(Ya+Yb)>0.5となる実施例2のガスバリア性積層フィルムは、実施例1および実施例3のガスバリア性積層フィルムと比較して、ガスバリア性は同等レベルであるが、積層フィルムのラミネート強度が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のガスバリア性積層フィルムは、食品、日用品、医薬品などの包装分野、および太陽電池関連部材や電子機器関連部材などの分野において、特に高いガスバリア性が必要とされる場合に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・基材層
2・・・ガスバリア層
3・・・ガスバリア被膜層
4・・・ガスバリア層
5・・・ガスバリア被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なプラスチックフィルムからなる基材層1の一方の表面上に、ガスバリア層2、ガスバリア被膜層3、もう一方の表面上にガスバリア層4、ガスバリア被膜層5を順次積層してなるガスバリア性積層フィルムにおいて、
前記ガスバリア層2および前記ガスバリア層4は酸化珪素からなり、
前記ガスバリア被膜層3および前記ガスバリア被膜層5は、
一般式Si(OR…(1)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
一般式(RSi(OR…(2)で表される珪素化合物およびその加水分解物のうちの少なくとも1つ、
(但し、一般式(1)および(2)中、R、RはCH、C、またはCOCH、Rは有機官能基を表し、nは1以上の数を表す)、および
水酸基を有する水溶性高分子を含有する塗布液を塗布して乾燥させてなり、
かつ、前記ガスバリア層2の膜厚(厚さXa)および前記ガスバリア層4の膜厚(厚さXb)が、0.005μm以上0.5μm以下であり、
前記ガスバリア被膜層3の膜厚(厚さYa)および前記ガスバリア被膜層5の膜厚(厚さYb)が、0.05μm以上3μm以下であり、
前記Xa、Xb、YaおよびYbの関係が、下記3つの式を満たすことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。
0.001≦XaYa
0.001≦XbYb
(Xa+Xb)(Ya+Yb)≦0.5
(式中のXa、Xb、Ya、Ybの厚さの単位はμmである)
【請求項2】
前記一般式(RSi(OR…(2)は、式(NCO−RSi(OR(但し、式中、Rは(CHを表し、nは1以上の数を表す)で表される三量体1,3,5−トリス(3−トリアルコキシシリルアルキル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項3】
前記基材層1の表面上にそれぞれ積層した前記ガスバリア層2および前記ガスバリア層4が、プラズマ化学蒸着(CVD)法により形成されたことを特徴とする、請求項1または2に記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項4】
前記一般式Si(OR…(1)は、その加水分解性基(R)がCであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項5】
前記基材層1と前記ガスバリア層2との間、および前記基材層1と前記ガスバリア層3との間に、アクリルポリオール、イソシアネート、およびシランカップリング剤からなるプライマー層をさらに積層することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。
【請求項6】
前記一般式(RSi(OR…(2)は、1,3,5−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のガスバリア性積層フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−161838(P2011−161838A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28538(P2010−28538)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】