説明

ガス交換を促進するマイクロ流体デバイスならびにその使用方法および製造方法

本発明は、マイクロ流体デバイス中でガス交換するためのシステムおよび方法ならびにそのようなマイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。このシステムおよび方法は、患者における肺機能を補助するため酸素を血液に移送するために使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その内容がすべての趣旨に関して参照により本明細書に組み入れられる、2009年12月31日出願の米国特許仮出願第61/291,560号の恩典および優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、マイクロ流体デバイス中でガス交換するためのシステムおよび方法ならびにそのようなマイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
流体とのガス交換を促進するための様々なシステムおよび方法が文献に記載されている。そのようなシステムおよび方法の一つの用途は、患者における損傷した肺の機能を補助する肺補助技術における使用である。そのようなシステムおよび方法のもう一つの用途は、流体中でガス交換することが望ましい工業プロセスにおける使用である。
【0004】
以前に記載されている特定のシステムおよび方法は、中空糸膜および/または薄いシート膜を使用して流体とのガス交換を促進する。一般に、中空糸膜は、薄い壁を有するガス透過性の中空糸であり、繊維のコアにあるガスと繊維を包囲する流体(たとえば血液)との間のガス交換を可能にする。中空糸装置は一般に、ガスの入口および出口に接続されている中空糸の束を含む。繊維はハウジング中に収容され、このハウジングが血液の入口および出口に接続されうる。血流は一般に、繊維の軸に対して横向きである。
【0005】
薄いシート膜を使用してガス交換を促進するシステムおよび方法は一般に、流体チャンバ(たとえば血液のためのチャンバ)をガスチャンバから分けているガス透過性材料の薄いシートを有する。膜をはさんで二つのチャンバの間でガス交換が起こり、膜およびチャンバは、好都合な形状因子を作り出すために丸める、または折りたたむことができる。膜およびチャンバ全体は、血液およびガスの入口および出口を提供するハウジング内に収容することができる。
【0006】
中空糸膜および/または薄いシート膜を使用するガス交換のためのシステムはいくつかの欠点を特徴とする。第一に、中空糸膜は、多くの場合、幾何学的に限られた表面積 対 容積比、および血流パターンの限定された制御を有する。たとえば、中空糸膜の丸い断面形状および繊維充填密度が表面積 対 容積比を制限し、それにより性能の限界を生じさせる。第二に、繊維充填形状が、多くの場合、血流路の厳密な制御を許さず、また人の血管生理を模倣するための精密な工作も許さない。血流路は、血液の健康に影響を与える剪断応力および他の血流特性に影響するため、中空糸膜は一般に、患者血液に対する損傷を抑制または制限するための手段を提供しない。薄いシート膜としては、多くの場合、たとえば血液側方境界層条件、血液チャンバの高さに対する制限、ならびにガス交換を二つの方向に限定する血液およびガスチャンバ構成のために、限られたガス移送しか有しない。加えて、薄いシート膜は、特定の区域においては支持されない状態である場合があるため、多くの場合極めて厚く、たとえば少なくとも75μmの厚さを有する。
【0007】
したがって、マイクロ流体デバイス中でガス交換するための改善されたシステムおよび方法の必要性が存在する。本発明は、この必要性に対処し、他の関連する利点を提供する。
【発明の概要】
【0008】
概要
本発明は、マイクロ流体デバイス、流体とのガス交換を促進する方法、およびマイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。マイクロ流体デバイスは、流体へ、または流体からガスを移送することが望ましい医学的用途または工業用途において使用される場合がある。たとえば、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスおよび方法は、酸素を血液に移送する際に特定の利点を提供し、人工肺装置としての使用に適用可能であると考えられる。本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスは、一種類のガス透過性材料の少なくとも一つの層を含み、層は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとを含む。ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、ガスがガス透過性材料を通過し、流体流のためのチャンバ中の流体の中に入ることができるように最小化される。流体流のためのチャンバの特徴、たとえば高さ、幅、長さ、および形状は、流体へのガスの移送、および/または流体からのガスの移送を最大化するように、また、デバイスを通過する血液のような流体の伝達のための優れた流体流動特性を提供するように最適化されることができる。
【0009】
したがって、本発明の一つの局面は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約1μm〜約100μmである、マイクロ流体デバイスを提供する。
【0010】
本発明のもう一つの局面は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが、少なくとも1×10-6mL/s/cm2/cm Hgの酸素ガス透過度を有する厚さ以下である、マイクロ流体デバイスを提供する。
【0011】
本発明のもう一つの局面は、ガスを流体に移送する方法を提供する。この方法は、流体を、ガス流のための少なくとも一つのチャンバ中にガスを有する、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスに通過させて、それによって該ガスを該流体に移送することを含む。
【0012】
本発明のさらなる局面は、マイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。この方法は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を形成することを含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約1μm〜約100μmである。
【0013】
本発明のこれらおよび他の局面は、本明細書に開示される発明の他の特徴および態様とともに、以下の詳細な説明、図面、および特許請求の範囲の参照によってより明確になるであろう。さらには、本明細書に記載される局面、特徴、および態様が互いに排他的ではなく、様々な組み合わせおよび入れ換えにおいて共存することができることが理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】平行/逆平行流体およびガス流構成を有する本発明の一つのマイクロ流体デバイス構成の断面図を示す。非アセンブル状態の層が左に示され、アセンブル状態の層が右に示されている。それぞれが三つのチャンバを有する三つの層が示されている。しかし、任意の数のチャンバまたは層が存在し得る。流体チャンバおよびガスチャンバをこれらの層内に組み込むと、構成の多様性を増すことができ、これにより、ガス交換のための潜在的な界面を増すことができる。この構成において、ガスおよび流体流路は平行または逆平行のいずれかである。
【図2】互いに対して横向きである流体流およびガス流を有する本発明の一つのマイクロ流体デバイス構成の断面図を示す。非アセンブル状態の層が左に示され、アセンブル状態の層が右に示されている。それぞれが一つの流体チャンバおよび二つのガスチャンバを有する三つの層が示されている。しかし、任意の数の層および/またはチャンバが存在し得る。流体およびガスチャンバをこれらの層内に組み込むと、構成の多様性を増すことができ、これにより、ガス交換のための潜在的な界面、ひいては表面積を増すことができる。この構成において、ガス流および流体流は互いに対して横向きであり、各層は同様に構成されている。しかし、構成は層ごとに異なることもできる。
【図3】多数のチャンバを有するマイクロ流体デバイスを調製するための例示的な一般的方法であって、チャンバ層が、(A)シリコンウェーハをフォトレジストでコートすること、(B)フォトリソグラフィー的パターニング、(C)フォトレジストを現像して型を創製すること、(D)次いで液状プレポリマーを型の中にスピンコートすること、および(E)離型させてポリマーデバイスを創製することによって作製される方法を示す。
【図4】ポリジメチルシロキサン(PDMS)で作製されたマイクロ流体デバイスの断面図を示す。図4には二つの層が示されているが、詳細な説明において説明するように、多様なチャネルおよび層取り付け構成を達成することができる。図示するように、チャンバ寸法は、各層で実質的に等しいこともできるし(パートAを参照)、または層ごとに異なることもできる(パートB〜Dを参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
詳細な説明
本発明は、マイクロ流体デバイス、流体とのガス交換を促進する方法、およびマイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。上記で説明したように、マイクロ流体デバイスは、流体へ、および/または流体からガスを移送することが望ましい医学的用途または工業用途において使用され得る。マイクロ流体デバイスおよび方法は、酸素を血液に移送する際に特定の利点を提供し、人工肺装置としての使用に適用可能であると考えられる。たとえば、本明細書に記載される流体チャンバの特徴は、肺補助ガス交換装置の使用のために患者が体験し得る血液凝固、溶血、炎症、および他の副作用の発生を減らすと考えられる。また、流体チャンバの構成は、ガス移送効率を改善すると考えられる優れた表面積 対 容積比を提供する。さらに、ガスチャンバおよび流体チャンバの両方を一種類のガス透過性材料の同じ層中に配置することは、大規模での製造技術および製造に適用可能なマイクロ流体デバイスを提供する。以下、本発明の様々な局面を節に分けて説明する。しかし、ある特定の節に記載される本発明の局面が任意の特定の節に限定されてはならない。
【0016】
I. ガスの移送のためのマイクロ流体デバイス
本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスは、一種類のガス透過性材料の少なくとも一つの層を含み、この層は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとを含む。ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、ガスがガス透過性材料を通過し、流体流ためのチャンバ中の流体の中に入ることができるように最小化される。流体流のためのチャンバの特徴は、特定の性能特性を達成するために、以下に記載するように選択することができる。
【0017】
したがって、本発明の一つの局面は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約1μm〜約100μmである、マイクロ流体デバイスを提供する。ガス流のためのチャンバを流体流のためのチャンバに隣接および近接させて配置することは、ガス流のためのチャンバを流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料をガスが貫通することを可能にし、それにより、ガスを流体へ、および/または流体から移送する。たとえば、流体流のためのチャンバが血液を含み、ガス流のためのチャンバが酸素を含む場合、酸素を血液に移送し、血液中に溶解した二酸化炭素および/または他のガスをガス流のためのチャンバに移送することができる。このガスの伝達は、患者における肺によって実施されるガス交換を模倣する。特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは約10μm〜約100μmである。
【0018】
本発明のもう一つの局面は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが、少なくとも1×10-6mL/s/cm2/cm Hgの酸素ガス透過度を有する厚さ以下である、マイクロ流体デバイスを提供する。様々なタイプのガス透過性材料を使用してマイクロ流体デバイスを調製することができ、マイクロ流体デバイスの構成は、特定の用途に十分なガスを流体へ、および/または流体から移送するのに十分な速度でガスがガス透過性材料を貫通することができるような構成であると考えられる。
【0019】
ガスの移送に関して様々なガス透過性材料が異なる透過特性を有するため、ガス流のためのチャンバを流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、特定の速度におけるガス移送を可能にする厚さにしたがって特徴づけることができる。したがって、特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、少なくとも1×10-6mL/s/cm2/cm Hg、1×10-5mL/s/cm2/cm Hg、3×10-5mL/s/cm2/cm Hg、7×10-5mL/s/cm2/cm Hg、または1×10-4mL/s/cm2/cm Hgの酸素ガス透過度を有する厚さ以下である。特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約1×10-6mL/s/cm2/cm Hg〜約1×10-3mL/s/cm2/cm Hgまたは約1×10-5mL/s/cm2/cm Hg〜約7×10-5mL/s/cm2/cm Hgの範囲の酸素ガス透過度を提供するような厚さである。
【0020】
特定の他の態様において、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、少なくとも1×10-6mL/s/cm2/cm Hg、1×10-5mL/s/cm2/cm Hg、2×10-5mL/s/cm2/cm Hg、または5×10-5mL/s/cm2/cm Hgの二酸化炭素ガス透過度を有する厚さ以下である。
【0021】
II. ガス流のためのチャンバおよび流体流のためのチャンバの配設
ガス流のためのチャンバおよび/または流体流のためのチャンバの数および配設は、マイクロ流体デバイスにとって特定の性能特性を達成するように調節することができる。たとえば、流体流のためのチャンバに近接するガス流のためのチャンバの数を増すと、ガスが流体に移送される速度を増すことができる。同様に、ガス流のためのチャンバを流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さを減らしても、ガスが流体に移送される速度を増すことができる。調節することができるマイクロ流体デバイスのさらなる特徴は、(1)チャンバを含むデバイス中の層の数を選択すること、および(2)一つの層におけるチャンバの向きを隣接層におけるチャンバに対して選択することを含む。
【0022】
したがって、特定の態様において、第一の層は、ガス流のための複数のチャンバと流体流のための複数のチャンバとをその中に画定し、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約1μm〜約100μmである。特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは約10μm〜約100μmである。特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは約10μm〜約50μmまたは約10μm〜約25μmである。一つの層におけるガス流のためのチャンバの数は20、50、100、500、または1000よりも多い場合がある。一つの層における流体流のためのチャンバの数は20、50、100、500、または1000よりも多い場合がある。特定の態様において、流体流のためのチャンバの数 対 ガス流のためのチャンバの数の比は、1:4〜4:1または1:2〜2:1の範囲であり得る。
【0023】
各層におけるガス流のためのチャンバおよび流体流のためのチャンバの配設は、特定の性能特性を達成するように選択することができる。たとえば、特定の態様において、流体流のためのチャンバそれぞれがガス流のためのチャンバ二つの間に位置する。チャンバの配設は、同じ層内では、流体流のためのチャンバに隣接するガス流体流のためのチャンバが一つ置きにあるように選択することができる。上記のように、流体流のためのチャンバに近接しているガス流のためのチャンバの数を増すことは、流体へのガス移送、および/または流体からのガス移送の速度を増すと考えられる。
【0024】
流体流のためのチャンバに対するガス流のためのチャンバの向きは、チャンバ中を横切るガスおよび/または流体の流れ方向にしたがって特徴づけることができる。たとえば、特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバおよび流体流のための任意のチャンバは、ガスおよび流体の流れ方向が互いに対して平行または逆平行になるように配設される。図1は、流体およびガス流の平行/逆平行の方向を有する配置を概略的に示す。または、ガス流のための少なくとも一つのチャンバが、ガスの流れ方向が流体流のためのチャンバ中の流体流の方向に対して横向きになるように配設される。図2は、流体およびガスの横向きである流れ方向を有する配置を概略的に示す。同じ層内に多数の流れ構成を有する構成は、流体チャネルをガスチャネルに近接させて配置する機会を増すことにより、ガス交換を改善し得ると考えられる。一つの層内に多数の流体タイプを有するさらなる利点は、デバイスが、多層デバイスの機能性の多くを実現すると同時に、一つの単一層だけからなり得るということである。同じ層におけるチャンバの配置を特徴づけるもう一つの方法は、ガス流のためのチャンバが、流体流のためのチャンバと同一面にあるのか、流体流のためのチャンバの平面に対して垂直であるのかによる。
【0025】
マイクロ流体デバイスは多数の層を含む場合がある。たとえば、マイクロ流体デバイスは、第一の層の上に積み重ねられた、一種類のガス透過性材料の第二の層を含む場合があり、第二の層は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する。特定の態様において、マイクロ流体デバイスはさらに、第二の層の上に積み重ねられた、一種類のガス透過性材料の第三の層を含む場合があり、第三の層は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する。多数の層を含むマイクロ流体デバイスは、層間および層内でのガス交換を可能にすることができ、層内のチャネル配置と多層整列との協調を用いて全ガス交換を高める場合もある。
【0026】
第二の層におけるチャンバを分けるガス透過性材料の厚さは、マイクロ流体デバイスの性能特性を最適化するように選択することができる。たとえば、特定の態様において、第二の層におけるガス流のためのチャンバを第二の層における流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約1μm〜約100μm、約10μm〜約100μm、または約10μm〜約25μmである。
【0027】
一つの層におけるチャンバの向きは、一つまたは複数の隣接層におけるチャンバの向きと協調させることができる。たとえば、特定の態様において、ある層における流体流のための任意のチャンバは、その同じ層におけるガス流のための二つのチャンバの間に配置され、該流体流のための任意のチャンバは、任意の隣接層におけるガス流のためのチャンバと垂直方向に整列している。そのような配置は、流体流のためのチャンバに近接しているガス流のためのチャンバの数を増すため、流体へのガス移送の優れた速度を提供すると考えられる。
【0028】
さらに、上記のように、マイクロ流体デバイス中のガス流のためのチャンバを流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、特定の性能特性を達成するように選択することができる。この厚さは、同じ層におけるガス流および流体流のためのチャンバに関して選択することができるだけでなく、一つの層におけるガス流のためのチャンバと隣接層における流体流のためのチャンバとの間でも選択することもできる。したがって、特定の態様において、マイクロ流体デバイス中のガス流のための任意のチャンバをマイクロ流体デバイス中の流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約1μm〜約100μmまたは約10μm〜約100μmである。特定の他の態様において、ある層におけるガス流のための任意のチャンバをその同じ層における流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約50μm〜約100μmである。特定の他の態様において、ある層におけるガス流のための任意のチャンバをその同じ層における流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約10μm〜約25μmである。さらに他の態様において、マイクロ流体デバイス中のガス流のための任意のチャンバをマイクロ流体デバイス中の流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さは、約10μm〜約25μmである。
【0029】
III. チャンバの特徴
チャンバの特徴は、その物理的寸法、形状的特徴、およびチャンバ表面への修飾の存在にしたがって特徴づけることができる。チャンバの特徴の様々な局面を以下に記す。
【0030】
A. チャンバの高さ、幅、および長さ
チャンバは、チャンバの高さ、幅、および/または長さにしたがって特徴づけることができる。チャンバの高さ、幅、および長さの特定の組み合わせが、チャンバの表面積、チャンバを通過する流体またはガスの流れ特性、および流体またはガスをチャンバに通すために必要になり得る圧力に影響を与えることができる。
【0031】
チャンバの高さに関して、特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、600μm、500μm、400μm、300μm、200μm、100μm、75μm、50μm、25μm、または15μm未満の高さを有する。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは25μm未満の高さを有する。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは約10μm〜約15μmの高さを有する。特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバの高さは、同じ層における流体流のための任意のチャンバと同じ高さを有する。
【0032】
チャンバの幅に関して、特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、600μm、500μm、400μm、300μm、200μm、150μm、100μm、または50μm未満の幅を有する。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは200μm未満の幅を有する。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、約200μm〜約10μmまたは約150μm〜約50μmの幅を有する。特定の態様において、ガス流のための任意のチャンバの幅は、同じ層における流体流のための任意のチャンバと同じ幅を有する。特定の他の態様において、流体流のための任意のチャンバは少なくとも2:1の幅 対 高さ比を有する。
【0033】
チャンバの長さに関して、特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、2cm、5cm、7cm、10cm、または15cm未満の幅を有する。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、約2cm〜15cmまたは約5cm〜約10cmの範囲の長さを有する。
【0034】
流体流のためのチャンバはまた、流体がチャンバの中を移動するときに観察される、チャンバの壁における流体剪断速度にしたがって特徴づけることもできる。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、37.0℃の血液の場合で約100s-1〜約4000s-1の範囲、37.0℃の血液の場合で約100s-1〜約3000s-1の範囲、37.0℃の血液の場合で約400s-1〜約2200s-1の範囲、37.0℃の血液の場合で約1000s-1〜約2200s-1の範囲、37.0℃の血液の場合で約1500s-1〜約2200s-1の範囲、または37.0℃の血液の場合で約1900s-1〜約2200s-1の範囲の流体剪断速度を有するとして特徴づけられる。
【0035】
流体流のためのチャンバはまた、該チャネルの集団に通して輸送することができる流体の量にしたがって特徴づけることもできる。たとえば、特定の態様において、流体流のためのチャンバ8000〜9000個の集団は、約1mL/分〜約500mL/分、約1mL/分〜約100mL/分、または約50mL/分〜約500mL/分の速度で血液を輸送することができる。特定の他の態様において、マイクロ流体デバイスは、集合的に、約1mL/分〜約500mL/分の量で流体を流体流のための該複数のチャンバに通して輸送するように構成されている、流体流のための複数のチャンバを含む。
【0036】
B. チャンバの断面特徴づけ
様々なタイプの断面を有するチャンバが、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスにおける使用に適用可能であると考えられる。たとえば、特定の場合において、チャンバは、長方形、円形、三角形、半円形、または他の幾何学形状であり得る。長方形の断面形状を有するチャンバがたとえば図1に示されている。本明細書に記載される特定の断面形状は、デバイス中の流体チャンバの中を移動する流体、たとえば血液が受ける剪断応力を最小限にすることができると考えられる。たとえば、円形または半円形の断面形状は、チャンバの中を移動する流体が受ける剪断応力を最小限にし、チャンバの表面積 対 容積比を高めることができると考えられる。したがって、特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、半円形である断面を有する。
【0037】
さらに、流体チャンバの断面形状は、流体をマイクロ流体デバイスに通すために流体、たとえば血液に加えなければならない圧力を最小限にするように選択することができる。チャンバ壁との摩擦を最小限にすると同時にチャンバを通過する流体移送を促進する断面形状は、流体をマイクロ流体デバイスに通すために流体に加えなければならない圧力を最小限にするように完成される。加えて、流体の層がチャンバの中を移動することに伴う損失を最小限にすることによって流体移送を促進する断面形状は、流体をマイクロ流体デバイスに通すために流体に加えなければならない圧力を最小限にするように達成される。
【0038】
C. チャンバの形状的特徴
チャンバは、たとえば流体混合を誘発する、または他の特定の性能特性を達成するための三次元構造を含み得る。流体混合を誘発する構造は、流れ方向と異なる方向に流体を向ける形状的特徴(たとえば、流れに対して斜めに配置されたクロスハッチパターンまたはリッジ)、流れの下で変形して流体中に一時的な乱れを生じさせる可撓性要素、および流体の流れ内に回転流を誘発する要素を含むことができる。したがって、特定の態様において、流体流のためのチャンバはさらに、流体混合を誘発するための混合要素を含む。特定の他の態様において、流体流のためのチャンバは、チャンバの縦軸に沿って、チャンバの高さまたは幅における一つまたは複数の変化を含む。
【0039】
チャンバのもう一つの特徴は、二次元構造、たとえば分岐状または二叉状のチャネルのネットワークに関する。ネットワークは、滑らかな分岐および/または断面チャネル寸法における漸進的な変化を特徴とする場合があり、インビボの血管および/または微小血管ネットワークの生理学的性質を模倣しうる。流体運搬チャネルネットワークを含む「血管層」の上および下に酸素チャンバが位置してもよい。両側に酸素チャンバを有するそのようなネットワークは、酸素(および/または他のガス)の、流体含有チャンバに入るおよびそこから出る移送効率を、2倍にしうる。いくつかの態様において、チャンバは、血管層における、分岐状チャネルではなく、柱状物のパターンによって(すなわち、血管層の上および下の層を接続する材料のブロックによって)形成される。たとえば、柱状物は、正方形の格子の頂点に配設されて、間に格子作りのチャネルを残す場合がある。特定の態様において、柱状物はくり抜かれ、さらなる供給源として、複数の血管層を貫通して酸素を運ぶ。たとえば、酸素が上下の酸素チャンバの両方から、および柱状物の壁を通過して血管層に入るように、くり抜かれた柱状物は、柱状物が存在する血管層の上および下の酸素チャンバに、流体的に接続されうる。
【0040】
D. チャンバ表面の修飾
チャンバの内面は、特定の性能特性、たとえば流体またはガス中に存在し得る特定の物質によって生じる劣化に対する改善された耐性を達成する、またはチャンバが流体またはガス中の特定の成分の変態(たとえば血液凝固の誘発)を生じさせる危険を減らすために修飾することができる。表面修飾は、特定の物質によるチャンバ内壁の部分的コーティングである場合もあるし、または特定の物質によるチャンバ内壁の完全なコーティングである場合もある。血液-物質相互作用を変化させる表面修飾は、凝固を減らす表面係留化合物(たとえばヘパリン)、デバイスへのタンパク質吸着を抑制する疎水性/親水性単層、デバイスにおける吸着種の蓄積を減らす分解性コーティング、ならびに表面化学およびその後の疎水性/親水性を変化させる高エネルギー処理(たとえば高エネルギー酸素プラズマ)を含むことができる。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、生物学的分子、たとえば血清アルブミン、または血管系中に見いだすことができる表面タンパク質でコートされている。特定の態様において、流体流のための任意のチャンバは、血流のための流体チャンバ中の血液凝固を減らすと考えられる抗凝固剤(たとえばヘパリン)でコートされている。
【0041】
IV. 流体およびガスをマイクロ流体デバイスに送り出すための分配システム
マイクロ流体デバイスは、デバイス中の任意のガスチャンバにガスを送り出し、デバイス中の任意の流体チャンバに流体を送り出すための分配システムを含んでもよい。分配システムは、分岐状もしくは二叉状のマイクロチャネル、生物模倣型血管様チャネル、またはマニホールド構造を含みうる。血管様チャネル構造、流体流のための滑らかな経路を提供する構造、または他の構成により、チャンバへの制御可能なアクセスが提供され得る。
【0042】
したがって、特定の態様において、マイクロ流体デバイスはさらに、流体流のためのチャンバにガスを送り出し、流体流のためのチャンバに流体を送り出すための手段を含む。特定の態様において、送り出し手段は大小の導管を橋渡しする。
【0043】
V. 流体導管およびポンプ
本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスは、任意で、(i)流体流のための一つまたは複数のチャンバの入力端との流体連絡を提供する第一のアクセス導管、(ii)流体流のための一つまたは複数のチャンバの出力端との流体連絡を提供する第一の戻り導管、(iii)第一のアクセス導管に入る流体が流体流のための一つまたは複数のチャンバの中を流れて第一の戻り導管から出ることを保証するための第一のポンプ、(iv)ガス流のための一つまたは複数のチャンバの入力端との流体連絡を提供する第一のアクセス導管、および(vi)第一のアクセス導管に入るガスがガス流のための一つまたは複数のチャンバの中を流れることを保証するための第二のポンプの一つまたは複数を含んでもよい。
【0044】
アクセス導管および戻り導管は、流体、たとえば患者の血液を、流体流のためのチャンバへ、およびそれから運ぶことができる。アクセスは、IV針、カニューレ、フィステル、カテーテル、または埋め込まれたアクセス装置を介するものであり得る。アクセスポイントは、以前の処置(たとえば血液透析)のための既存のポイントである場合もあるし、本質的に動静脈または静静脈である場合もある。導管は、シリコーンゴム、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、およびラテックスゴムのようなポリマーを含む標準的な医療用管材料であることができる。アクセス導管の内径のおおよそのサイズ範囲は、300μm〜1cmであることができる。アクセス導管は、マイクロ流体デバイスに組み込むこともでき、または、別個で存在して、マイクロ流体デバイスに接続するための取り付けポイントを有することもできる。
【0045】
たとえば、特定の用途にとって動脈血圧が十分に高くない場合または静脈-静脈アクセスがより望ましいと考えられる場合、ポンプがデバイスへの血流量を調整する場合がある。いくつかの場合には、120mmHgの生理学的血圧が、血流を駆動して動脈アクセスからマイクロ流体デバイスに通して患者に戻すのに十分でありうる。他の場合には、特に静脈-静脈アクセスが使用される場合、血液を駆動してマイクロ流体デバイスに通すためにポンプが使用される。最適なポンプ圧は所望の血流に依存するが、0〜300mmHgの範囲のポンプ圧が代表的である。
【0046】
VI. ガス貯蔵のための貯留部
マイクロ流体デバイスは、任意で、ガス貯蔵のための貯留部を含んでもよい。特定の態様において、貯留部は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバの延長部である。特定の態様において、貯留部は酸素を含む。
【0047】
VII. マイクロ流体デバイスのためのガス透過性材料
マイクロ流体デバイスにおける使用のための様々なガス透過性ポリマー材料が当技術分野において公知であり、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスにおける使用に適用可能であると考えられる。たとえば、特定の態様において、ガス透過性材料はオルガノシリコーンポリマー(たとえばポリシロキサン、たとえばMDX-4などのPDMS変形物、およびガス(たとえば酸素および二酸化炭素)透過性を高める改質PDMS組成物)、ポリエチレンまたはポリウレタンである。特定の具体的な態様において、ガス透過性材料はポリジメチルシロキサンである。
【0048】
VIII. マイクロ流体デバイスとの使用のためのガスおよび流体
本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスは、多種多様な流体およびガスとの使用に適用可能であると考えられる。たとえば、特定の態様において、ガスは、酸素、二酸化炭素、空気、窒素、または不活性ガスである。特定の態様において、流体は、水溶液、血液、有機溶媒などである。特定の態様において、流体流のためのチャンバは血液を含み、ガス流のためのチャンバは酸素を含む。特定の他の態様において、ガス流のためのチャンバは、酸素、二酸化炭素、空気、窒素、不活性ガス、または部分真空の少なくとも一つを含む。特定の態様において、血液がマイクロ流体デバイスに通される前に、血液から細胞成分が一時的に除去され、その後、マイクロ流体デバイスを通過した血液に細胞成分が再び導入される。これは、マイクロ流体デバイス内での血液凝固の危険性を減らすと考えられる。
【0049】
IX. マイクロ流体デバイスの製造
一つまたは複数の層を含むマイクロ流体デバイスは、ガス透過性ポリマーが微細加工された型に対して成形される微細加工法を使用して製造されうる。たとえば、図3に示すように、ポリジメチルシロキサン(PDMS)が型上にスピンコートされうる。しかし、他のオルガノシリコーン材料(たとえばポリシロキサン、たとえばMDX-4などのPDMS変形物、およびガス(たとえば酸素および二酸化炭素)透過性を高める改質PDMS組成物)、ポリエチレン、およびポリウレタン様材料を含むがこれらに限定されない他のガス透過性ポリマーを同様に使用してもよい。
【0050】
上記で使用される型は、マイクロファブリケーション、一般にはフォトパターニングされたフォトレジストによって作製してもよい。しかしながら、エッチングされたシリコン、硬化エポキシおよび/または電鋳金属を使用することもできる。次に、プレポリマーを型に流し込み、型を指定の速度でスピンさせて、プレポリマーの薄い層を作製する。次に、プレポリマーを硬化させ、硬化後、デバイスを離型させる。
【0051】
チャンバ層を作製する代替方法は、第二のマイクロファブリケートされた型を使用して型の中のプレポリマーに上から圧力を加える方法である。これはスピンコート工程に代わるものであり、デバイスを硬化させたのち離型させる。
【0052】
次に、上記手法を使用して調製されたフローチャンバを含むポリマー層を、目視的整列および/または機械的位置決め装置を介する整列を含む技術を使用して整列させる。目視的整列は、アセンブリのための層整列を誘導するように働く、層に組み込まれた合わせマークまたは基準を使用することによって達成されうる。整列は、デバイス層および任意の合わせマークを拡大倍率で見ること、層を互いに対して非常に正確に動かすための機構、および層を互いに永久的または一時的に接合する手段を含むこともある。一つの態様において、整列プロセスは、一般的なマイクロファブリケーションプロセスで使用されるパターニングされたシリコンウェーハへのマスクの整列に類似しているが、ポリマー層の整列および接合を可能にする。機械的位置決め装置を介する整列は、層に組み込まれた特定のロック要素を使用することにより、第一の層の上部の位置決め装置が第一の層の真上の第二の層の下部の位置決め装置と整列し、ロックするようにして達成されうる。一つの態様において、機械的位置決め装置は、一つの層に対する別の層の特定かつ正確な位置決めを提供するため、アクティブアライメントをほとんど要しない。
【0053】
ひとたびポリマー層が整列すると、プラズマ活性化接合、接着剤接合、および/または機械的クランピングを含む接合法を使用してそれらを接合してもよい。図4は、これらの技術を使用して作製された例示的な二層デバイスの断面図を示す。
【0054】
本明細書に記載されるデバイスの様々な態様は、多数のチャンバを有する一つの層、各層において多数のチャンバを有する多数の積み重ねられた層、管形状に巻かれた一つの層または他の構成を含む場合がある。各層は、様々なチャネル断面および流路形状を特徴としうる。ガスまたは流体流をチャンバに接続するために多様な方法を使用してもよい。一つの態様において、ガスおよび流体流チャンバは、交互に、または複雑な様式で配列され、ガスまたは流体は、大きな断面積の主アクセス導管から非常に小さい断面積を有する個々のチャンバに正確に送り出される。正確な送り出しは、分岐状もしくは二叉状のマイクロチャネル、生物模倣型血管様チャネル、および/またはマニホールド構造の形態をとることができる。接続性が大小の導管の橋渡しをし、フローチャネル形状を通過する流れ条件を正確に変えることによって、有害な血液物質または血流誘発剪断応力相互作用を減らしうる。
【0055】
したがって、本発明の一つの局面は、ガス流のための少なくとも一つのチャンバおよび流体流のための少なくとも一つのチャンバをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を形成することを含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約10μm〜約100μmである、マイクロ流体デバイスを製造する方法を提供する。
【0056】
特定の態様において、前記方法はさらに、一種類のガス透過性材料の少なくとも一つのさらなる層においてガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとを形成することを含む。特定の態様において、この方法はさらに、一種類のガス透過性材料のさらなる層を第一の層に結合することを含む。特定の態様において、ガス透過性材料の層は積み重ねられる。
【0057】
X. マイクロ流体デバイスの医学的および他の用途
本発明の様々な態様は、ガス移送効率を改善すると同時に副作用を減らし、それにより、高容量肺補助装置について長期的使用が求められる市場への拡大を可能にすると考えられる。本発明の態様の商業的用途は、とりわけ、体外式膜型人工肺(ECMO)、心肺バイパス(CPB)、肺損傷または成人呼吸促迫症候群(ARDS)患者のための肺補助、傷害からの肺移植への患者のブリッジング、慢性閉塞性肺疾患の治療、火災/爆発被害者のための酸素投与増強または二酸化炭素除去、および最終的な長期の部分的または完全な肺置換を含む。
【0058】
したがって、本発明の一つの局面は、ガスを流体に移送する方法を提供する。この方法は、流体を、ガス流のための少なくとも一つのチャンバ中にガスを有する、節I〜IXに記載されたマイクロ流体デバイスのいずれかのような、本明細書に記載されるマイクロ流体デバイスに通過させ、それによって該ガスを該流体に移送することを含む。特定の態様において、該流体は血液であり、該ガスは酸素を含む。特定の態様において、マイクロ流体デバイスは患者の血管系に流体的に接続される。特定の態様において、この方法はさらに、該流体中に溶解したガスをマイクロ流体デバイス中のガス流のためのチャンバに移送することを含む。
【0059】
XI. 定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語および語句を以下に定義する。
【0060】
本明細書に使用される単数形の用語は「一つまたは複数」を意味し、文脈が不適切でない限り、複数をも含む。
【0061】
「複数」という用語は、少なくとも四つを意味する。たとえば、複数のチャンバを含む層とは、少なくとも四つのチャンバを含む層をいう。
【0062】
参照による組み入れ
本明細書において参照される特許文献および科学文献それぞれの全開示は、すべての趣旨に関して、参照により本明細書に組み入れられる。
【0063】
等価物
本発明は、その真意または本質的特徴を逸脱することなく、他の具体的な形態に具現化されてもよい。したがって、前記態様は、あらゆる点において、本明細書に記載される発明を限定するものではなく、例示的であるとみなされる。したがって、本発明の範囲は、前記詳細な説明ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および同等の範囲に入るすべての変形は本発明に含まれるものと解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層
を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約1μm〜約100μmである、マイクロ流体デバイス。
【請求項2】
ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層
を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが、少なくとも1×10-6mL/s/cm2/cm Hgの酸素ガス透過度を有する厚さ以下である、マイクロ流体デバイス。
【請求項3】
第一の層が、ガス流のための複数のチャンバと流体流のための複数のチャンバとをその中に画定し、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約1μm〜約100μmである、請求項1または2記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項4】
ガス流のための任意のチャンバおよび流体流のための任意のチャンバが、ガスおよび流体の流れ方向が互いに対して平行または逆平行になるように配設されている、請求項1〜3のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項5】
流体流のためのチャンバそれぞれがガス流のためのチャンバ二つの間に位置する、請求項1〜4のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項6】
ガス流のための少なくとも一つのチャンバが、ガスの流れ方向が流体流のためのチャンバ中の流体流の方向に対して横向きになるように配設されている、請求項1〜4のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項7】
第一の層の上に積み重ねられた、一種類のガス透過性材料の第二の層をさらに含み、該第二の層が、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、請求項1〜6のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項8】
第二の層の上に積み重ねられた、一種類のガス透過性材料の第三の層をさらに含み、該第三の層が、ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、請求項7記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項9】
第二の層におけるガス流のためのチャンバを第二の層における流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約1μm〜約100μmである、請求項7または8記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項10】
ある層における流体流のための任意のチャンバが、その同じ層におけるガス流のための二つのチャンバの間に配置され、該流体流のためのチャンバが、任意の隣接層におけるガス流のためのチャンバと垂直方向に整列している、請求項1〜9のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項11】
マイクロ流体デバイス中のガス流のための任意のチャンバをマイクロ流体デバイス中の流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約10μm〜約100μmである、請求項1〜10のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項12】
ある層におけるガス流のための任意のチャンバをその同じ層における流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約50μm〜約100μmである、請求項1〜11のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項13】
マイクロ流体デバイス中のガス流のための任意のチャンバを該マイクロ流体デバイス中の流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約10μm〜約25μmである、請求項1〜11のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項14】
デバイス中の任意のガスチャンバにガスを送り出し、該デバイス中の任意の流体チャンバに流体を送り出すための分配システムをさらに含む、請求項1〜13のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項15】
システムが、分岐状もしくは二叉状のマイクロチャネル、生物模倣型血管様チャネル、またはマニホールド構造を含む、請求項14記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項16】
任意の流体チャンバが25μm未満の高さを有する、請求項1〜15のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項17】
任意の流体チャンバが約10μm〜約15μmの高さを有する、請求項1〜16のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項18】
任意の流体チャンバが200μm未満の幅を有する、請求項1〜17のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項19】
流体チャンバが少なくとも2:1の幅 対 高さ比を有する、請求項1〜17のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項20】
流体流のための任意のチャンバが、半円形である断面を有する、請求項1〜19のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項21】
流体流のための任意のチャンバが抗凝固剤でコートされている、請求項1〜20のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項22】
ガス透過性材料がオルガノシリコーンポリマー、ポリエチレン、またはポリウレタンである、請求項1〜21のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項23】
ガス透過性材料がポリジメチルシロキサンである、請求項1〜22のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項24】
流体流のためのチャンバが血液を含み、ガス流のためのチャンバが酸素を含む、請求項1〜23のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項25】
流体を、ガス流のための少なくとも一つのチャンバ中にガスを有する、請求項1〜24のいずれか一項記載のマイクロ流体デバイスに通過させ、それによって該ガスを該流体に移送することを含む、ガスを流体に移送する方法。
【請求項26】
流体が血液であり、ガスが酸素を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
マイクロ流体デバイスが患者の血管系に流体的に接続される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
流体中に溶解したガスをマイクロ流体デバイス中のガス流のためのチャンバに移送することをさらに含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
ガス流のための少なくとも一つのチャンバと流体流のための少なくとも一つのチャンバとをその中に画定する、一種類のガス透過性材料の第一の層を形成する工程
を含み、ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約1μm〜約100μmである、マイクロ流体デバイスを製造する方法。
【請求項30】
ガス流のための任意のチャンバを隣接する流体流のためのチャンバから分けているガス透過性材料の厚さが約10μm〜約100μmである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
一種類のガス透過性材料の少なくとも一つのさらなる層における、流および流体流のための少なくとも一つのチャンバ。
【請求項32】
一種類のガス透過性材料のさらなる層を第一の層に結合する工程をさらに含む、請求項29または30記載の方法。
【請求項33】
ガス透過性材料の層が積み重ねられる、請求項31記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−516310(P2013−516310A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547304(P2012−547304)
【出願日】平成22年12月30日(2010.12.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/062537
【国際公開番号】WO2011/082323
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(502362426)ザ チャールズ スターク ドレイパー ラボラトリー インク (3)
【Fターム(参考)】