説明

ガス充填システム

【課題】ガスタンクへの充填を最適化できるガス充填システムを課題とする。
【解決手段】ガス充填システム1は、ガスタンク30を有する車両3と、ガスタンク30にガスを供給するガスステーション2と、を備える。車両3は、ガスタンク30への充填に用いるガスステーション2側の制御方法を規定する充填プロトコルを有する制御装置46を備え、ガスステーション2は、制御装置46から指示された充填プロトコルに基づいてガスタンク30への充填を制御する。車両3に固有の充填プロトコルとしておくことで、その車両3のガスタンク30に適した充填が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されたガスタンクに、ガスステーションからガスを充填するガス充填システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両など、ガスタンクを搭載したガス燃料車両は、充填時にガスステーションに立ち寄って、充填ノズルからガスタンクに燃料ガスを充填される。特許文献1に記載のガス充填システムでは、充填開始前に、センサによってガスタンク内の圧力及び温度を検出し、その検出したデータをガスステーション側に送信している。そして、ガスステーション側の中央制御部が、受信したデータに基づいて充填量を算出している。また、充填開始後では、ガスステーション側の中央制御部が、車両側からのガスタンク内の圧力を受信することで、その車両に充填すべき指定圧力に達したか否かを監視し、これに達したときに充填を終了させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−828211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、燃料ガスが水素ガスの場合、充填に伴って温度上昇が起きるという現象がある。充填流量を大きくすればするほど、ガスタンクの温度上昇は急激になる。その結果、ガスタンクの設計温度(例えば85℃)に早期に達して、所定の充填量を充填できなくなるおそれがある。一方で、充填流量を小さくすると、急激な温度上昇は抑えることができるものの、充填時間が長くなってしまう。この点、特許文献1では、充填量の算出については検討されているものの、充填流量及び充填時間について配慮がされていない。
【0005】
また、ガスタンクには、放熱性が異なるなど様々な種類のものがあり、今後、放熱性を向上したガスタンクの開発も期待される。放熱性に優れたガスタンクであれば、充填流量を大きくし、充填時間を短縮することもできる。しかし、特許文献1では、ガスタンクの特性を考慮せずに充填することになるため、現在ひいては将来のガスタンクの特性の向上に応じた充填をすることができない。
【0006】
本発明は、ガスタンクへの充填を最適化できるガス充填システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のガス充填システムは、ガスタンクを有する車両と、ガスタンクにガスを供給するガスステーションと、を備え、車両は、ガスタンクへの充填に用いるガスステーション側の制御方法を規定する充填プロトコルを有する車両側制御装置を備え、ガスステーションは、車両側制御装置から指示された充填プロトコルに基づいてガスタンクへの充填を制御するものである。
【0008】
本発明によれば、車両側制御装置に充填プロトコルをもたせることで、車両側の個々の事情(例えば、ガスタンクの特性)を考慮した充填プロトコルとすることができる。このような車両固有の充填プロトコルとすれば、その車両のガスタンクに適した充填を行うことができ、所定の充填量(満充填の場合の充填量と、指定量充填の場合の充填量)をできるだけ短時間で充填することができる。また、ガスステーション側では、充填プロトコルを用意したり、車両ごとに更新したりする必要もなく、将来の車両(ガスタンク)に対しても最適な充填が可能となる。
【0009】
好ましくは、車両は、車両側制御装置に接続された車両側通信機を有し、ガスステーションは、車両側通信機から充填プロトコルを受信するステーション側通信機と、ステーション側通信機で受信した充填プロトコルに基づいてガスタンクへの充填を制御するステーション側制御装置と、を有するとよい。この構成によれば、車両とガスステーションとを通信させることができるため、車両側の充填プロトコルをガスステーションに簡易に伝えることができる。
【0010】
好ましくは、ガスステーションは、ガス供給源と、ガス供給源からのガスを圧縮する圧縮機と、圧縮機によって圧縮されたガスを蓄える蓄圧機と、蓄圧機からのガスをガスタンクに供給するディスペンサーと、を有しており、充填プロトコルに基づいてガス供給源、圧縮機、蓄圧機及びディスペンサーの少なくとも一つが制御されるとよい。これにより、車両側で用意された充填プロトコルに基づいてガスステーション側の機器が制御され、その車両に適した充填が行われる。
【0011】
より好ましくは、ディスペンサーは、充填プロトコルに基づいてガスタンクへのガスの流量を制御する制御弁を有するとよい。これにより、ガスタンクへの充填流量を簡単に制御することができる。
【0012】
好ましくは、充填プロトコルは、ガスタンクに関する特性に基づいて定められるとよい。より好ましくは、ガスタンクに関する特性は、ガスタンクの放熱性であるとよい。こうすることで、ガスタンクの放熱性を考慮した充填プロトコルにて充填することができるため、ガスタンクの温度上昇を好適に抑えることができる。なお、ガスタンクに関する特性には、例えば車両におけるガスタンクの位置に応じて異なる冷却特性など、ガスタンクに影響を及ぼす特性も含まれる。
【0013】
好ましくは、本発明のガス充填システムは、車両側制御装置から指示された充填プロトコルに基づいてガスタンクへの充填が行われている旨又は行われた旨を表示する表示装置を、更に備えるとよい。この構成によれば、充填作業者が、車両側からの充填プロトコルにて充填がなされていること又はなされたことを視覚を通じて確認することができる。
【0014】
好ましくは、車両及びガスステーションの少なくとも一つは、充填情報を入力するための充填情報入力部を有し、ガスステーションは、充填情報入力部に入力された充填情報に応じてガスタンクへの充填を制御するとよい。こうすることで、所望の充填情報を入力することができるので、充填作業者にとって最適な充填を行うことができる。なお、充填情報には、充填量及び充填時間の少なくとも一つが含まれる。
【0015】
好ましくは、車両は、ガスタンク内の情報を取得するセンサを有し、ステーション側通信機は、センサが取得した情報も車両側通信機から受信し、ステーション側制御装置は、ステーション側通信機が受信した充填プロトコル及びガスタンク内の情報から充填流量を決定し、制御するとよい。こうすることで、充填先であるガスタンク内の状態に適した充填ができる。また、ガスタンク内の情報を検出するので、これを推定する場合に比べて、充填流量の制御を高精度に行うことが可能となる。
【0016】
より好ましくは、センサは、充填開始時及び充填中に、ガスタンク内の情報を取得するものであり、ステーション側制御装置は、充填開始時におけるガスタンク内の情報をもとに決定した充填流量を、充填中におけるガスタンク内の情報をもとに変更するとよい。こうすることで、充填中のガスタンク内の状態に適した充填ができる。
【0017】
より好ましくは、センサは、温度センサ及び圧力センサの少なくとも一つを含むとよい。この構成によれば、例えばガスタンクの温度が高いことが検出された場合に、充填流量を低下させて、ガスタンク内のさらなる温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係るガス充填システムの概略図である。
【図2】実施形態に係るガス充填システムの構成図である。
【図3】実施形態に係るガス充填システムの充填フローを示すフローチャートである。
【図4】実施形態に係る充填フローに用いる充填流量マップの一例を示す図である。
【図5】他の実施形態に係るガス充填システムの構成図である。
【図6】参考例に係るガス充填システムの充填フローを示すフローチャートである。
【図7】参考例に係るガス充填システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係るガス充填システムについて説明する。ここでは、ガス充填システムとして、燃料電池システムを搭載した燃料電池車両に対して、ガスステーションから水素ガスを充填する例を説明する。なお、燃料電池システムは、公知のとおり、燃料ガス(例えば水素ガス)と酸化ガス(例えば空気)の電気化学反応によって発電する燃料電池などを備える。
【0020】
図1に示すように、ガス充填システム1は、例えばガスステーションとしての水素ステーション2と、水素ステーション2から水素ガスを供給される燃料電池車両3と、を備える。
【0021】
図2に示すように、水素ステーション2は、水素ガスを貯蔵するカードル(ガス供給源)11と、水素ガスを車載のガスタンク30に向けて放出する充填ノズル12と、これらを結ぶガス流路13と、を有する。充填ノズル12は、充填カップリングとも称される部品であり、水素ガスの充填に際して、車両3のレセプタクル32に接続される。充填ノズル12とレセプタクル32によって、水素ステーション2とガスタンク32とを接続する接続ユニットが構成される。
【0022】
ガス流路13には、カードル11側から順に、カードル11からの水素ガスを圧縮して吐出する圧縮機14と、圧縮機14によって所定圧力まで昇圧された水素ガスを蓄えておく蓄圧器15と、蓄圧機15からの水素ガスを予備冷却するプレクーラ18と、プレクーラ18からの水素ガスを充填ノズル12に供給するディスペンサー19と、が設けられる。また、水素ステーション2は、通信機21、表示装置22、外気温センサ23及び制御装置24を備え、制御装置24に各種の機器が電気的に接続される。なお、図示省略したが、蓄圧器13あるいはその下流側又はディスペンサー19には、充填時にガス流路13を開く遮断弁が設けられる。
【0023】
プレクーラ18は、熱交換により、蓄圧器15からの室温程度である水素ガスを所定の低温(例えば−20℃)に冷却する。プレクーラ18による熱交換の形式としては、隔壁式、中間媒体式及び蓄熱式のいずれも用いることができ、構造としては公知のものを適用することができる。一例を挙げると、プレクーラ18は、水素ガスが流れる管路部を有し、この管路部を冷媒が流れる容器に収容することで、水素ガスと冷媒との間で熱交換を行う。この場合、容器への冷媒の供給量及び供給温度を調整することで、水素ガスの冷却温度を調整するようにしてもよい。
【0024】
ディスペンサー19は、充填ノズル12への水素ガスの流量を調整する流量制御弁16と、水素ガスの流量を計測する流量計17と、を備える。流量制御弁16は、電気的に駆動される弁であり、駆動源として例えばステップモータを備える。流量制御弁16は、制御装置24からの指令に従って、ステップモータにより弁開度が変更されることで、水素ガスの流量を調整する。これにより、ガスタンク30への水素ガスの充填流量が制御される。この制御された充填流量が流量計17によって計測され、その計測結果を受けて所望の充填流量となるように、制御装置24は、流量制御弁16をフィードバック制御する。なお、流量制御弁16以外の流量制御装置を用いることも可能である。
【0025】
通信機21は、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。通信機21は、充填ノズル12に設けられる。表示装置22は、充填中における充填流量の情報など、各種情報を画面に表示する。表示装置22は、所望の充填量などを選択又は指定するための操作パネルを表示画面に具備するものであってもよく、ディスペンサー19を収容する本体ケースの一部に設けることもできる(図1参照)。
【0026】
制御装置24は、内部にCPU,ROM,RAMを備えたマイクロコンピュータとして構成される。CPUは、制御プログラムに従って所望の演算を実行して、種々の処理や制御を行う。ROMは、CPUで処理する制御プログラムや制御データを記憶し、RAMは、主として制御処理のための各種作業領域として使用される。制御装置24は、図2において一点鎖線で示した制御線にて接続されている通信機21等のほか、例えば、カードル11、圧縮機14、蓄圧器15及びプレクーラ18とも電気的に接続されており、水素ステーション2全体を統括制御する。また、制御装置24は、水素ステーション2にて把握可能な情報を通信機21を用いて、車両3に送信する。
【0027】
車両3は、上記したガスタンク30及びレセプタクル32を備える。ガスタンク30は、燃料電池への燃料ガス供給源であり、例えば35MPa又は70MPaの水素ガスを貯留可能な高圧タンクである。ガスタンク30内の水素ガスは、図示省略した供給管路を介して燃料電池に供給される。一方、ガスタンク30への水素ガスの補給は、水素ステーション2からレセプタクル32及び充填管路34を介して行われる。充填管路34には、例えば、水素ガスの逆流を防止するための逆止弁36が設けられる。温度センサ40及び圧力センサ42は、ガスタンク30内の水素ガスの温度及び圧力をそれぞれ検出するものであり、供給管路又は充填管路34に設けることができる。
【0028】
また、車両3は、水素ステーション2の通信機21との間で各種情報を送受信する通信機44と、水素ステーション2の制御装置24と同様にマイクロコンピュータとして構成された制御装置46と、各種情報を画面に表示する表示装置48と、を備える。通信機44は、通信機21に対応した形式のものであり、例えば、赤外線通信等の無線通信を行う通信インターフェースを有する。通信器44は、充填ノズル12をレセプタクル32に接続した状態で通信機21と通信できるように、レセプタクル32に組み込まれるか、あるいは車両3のリッドボックス内に固定される。通信機44,21の数は、それぞれ一つずつでも良いが、一方を他方よりも多くすることで、接続時に通信状態が確実に確立されるようにしてもよい。制御装置46は、温度センサ40及び圧力センサ42を含む各種のセンサの検出結果を受けて、車両3を統括制御する。また、制御装置46は、車両3にて把握可能な情報を通信機44を用いて、水素ステーション2に送信する。表示装置48は、例えばカーナビゲーションシステムの一部として用いることが可能なものである。
【0029】
上記のガス充填システム1において、車両3に水素ガスを充填する場合、先ず、充填ノズル12をレセプタクル32に接続する。この状態にて、水素ステーション2を作動させると、蓄圧器15に貯められていた水素ガスが、充填ノズル12からガスタンク30へ放出されて充填される。
本実施形態のガス充填システム1では、車両3側からどのような制御で充填してほしいかを水素ステーション2側に指示している。
【0030】
次に、図3のフローチャートを参照して、ガス充填システム1における充填制御について説明する。
【0031】
先ず、充填作業者によって、充填ノズル12とレセプタクル32の接続作業がなされると(ステップS1)、水素ステーション2と車両3との間で無線通信が確立される。また、この接続作業後、車両3では、タンク圧力及びタンク温度が読み込まれる。タンク圧力は、ガスタンク30内の水素ガスの圧力であり、圧力センサ42によって検出される。タンク温度は、ガスタンク30内の水素ガスの温度であり、温度センサ40によって検出される。タンク圧力及びタンク温度の検出信号は、制御装置46に入力される。制御装置46は、例えばRAMにタンク圧力及びタンク温度の検出情報を一時的に記憶する。
【0032】
次いで、通信により、タンク圧力及びタンク温度の検出情報と充填プロトコルとが、車両3から水素ステーション2へと送信される(ステップS2)。これは、制御装置46が通信機44を利用して、タンク圧力及びタンク温度の検出情報と充填プロトコルとを水素ステーション2の通信機21に同時に送信することで行われる。
【0033】
次に、水素ステーション2の制御装置24は、通信機21にて受信した充填プロトコルを読み込み、これと同時に受信したタンク圧力及びタンク温度の検出情報をもとに充填を開始する(ステップS3)。なお、詳述しなかったが、充填開始の前には、水素ステーション2から車両3への水素ガスの放出を許可する充填開始操作が充填作業者によってなされており、水素ステーション2側の充填準備が完了したところで、水素ステーション2が作動して充填が開始される。
【0034】
ここで、充填プロトコルについて説明する。充填プロトコルは、車両3の制御装置46の記憶部(例えばROM)に記憶されているものであり、その車両3のガスタンク30への充填に用いる水素ステーション2側の制御方法を規定するものである。充填プロトコルによって制御される機器は、水素ステーション2のガス流路13にある機器であり、その機器には、カードル11、充填ノズル12、圧縮機14、蓄圧機15、流量制御弁16及びプレクーラ18を含むことができる。例えば、充填ノズル12での噴出量の調整、圧縮機14の駆動状態(吐出量、吐出圧)の可変、蓄圧機15が複数ある場合に所定の蓄圧機からの選択的な水素ガスの流出、流量制御弁16の開度の調整や、プレクーラ18での水素ガスの冷却温度の調整など、各種の制御を行うことができる。また、充填プロトコルによって操作又は制御される操作量又は制御量としては、ガスタンク30への充填流量(充填速度)や、ガスタンク30内での圧力上昇率を挙げることができる。
【0035】
以下に述べる実施形態の一例では、充填プロトコルによって制御される機器を流量制御弁16とし、充填プロトコルによって制御される制御量を充填流量として説明する。この場合の充填プロトコルは充填流量マップを具備している。
図4に示すように、充填流量マップは、縦軸をタンク圧力、横軸をタンク温度としたものであり、車両3ごとに設けられる。例えば、互いに異なる車両A,B,Cに関しては、車両A用に充填流量マップMaがあり、車両B、C用にそれぞれ充填流量マップMb、Mcがある。
【0036】
充填流量マップにおける各充填流量(充填流量マップMaでいうA1、A2など。)は、タンク圧力及びタンク温度の各条件下において、ガスタンク30内の温度が所定の上限値(例えば85℃)に達しないように、ガスタンク30内に水素ガスを円滑に高速充填できる流量である。なお、充填流量マップMaでは、タンク圧力を10Mpaごとに、タンク温度を10℃ごとに設定したが、もちろんこれらの幅は任意に設定することができる。
【0037】
充填流量マップでは、タンク圧力が大きいほど充填流量を大きくすることが可能である。また、タンク温度が小さいほど充填流量を大きくすることが可能である。例えば、充填流量マップMaにおける充填流量A1〜H8のうち、充填流量H1(タンク圧力80MPa,タンク温度−30℃)が最も大きく、充填流量A8(タンク圧力10MPa,タンク温度40℃)が最も小さくなる。このように、タンク圧力が低い場合やタンク温度が高い場合に、減少させた充填流量を用いることで、ガスタンク30内の温度が上限値に達しないように、できるだけ短時間で充填することが可能となる。
【0038】
そして、充填流量マップMa,Mb,Mcは、車両A,B,Cに搭載されるそれぞれのガスタンク30に関する特性に基づいて定められる。
詳述するに、ガスタンク30として、様々なものが開発されており、その材料、表面積及び構造等によっては、放熱性又は温度上昇率が異なる。例えば、ガスタンク30のライナーとしてアルミニウムを用いた場合には、樹脂(ポリエチレンなど)を用いた場合よりも、ガスタンク30の放熱性は優れたものとなる。また、樹脂ライナーにおける樹脂の特性や配合割合によっても、ガスタンク30の放熱性は異なるものとなる。加えて、車両3におけるガスタンク30の搭載位置によっても、走行風等によるガスタンク30の冷却特性も異なる。このように、ガスタンク30自身の特性や、ガスタンク30に影響を及ぼす特性は、現在又は将来の車両3において必ずしも同じというわけではない。
【0039】
そこで、制御装置46に記憶される充填流量マップMa,Mb,Mcは、その車両A,B,Cに搭載したガスタンク30に関する上記の特性も考慮したものが用いられる。一例を挙げると、ガスタンク30がアルミライナー製の車両Aの場合には、ガスタンク30が樹脂ライナー製の車両Bに比べて、タンク圧力及びタンク温度が同じ条件の下では、充填流量の値は大きくなる。
【0040】
再び、図3に戻って説明する。
上記したステップS3においては、水素ステーション2の制御装置24が、通信機21で受信した車両3に固有の充填プロトコルを読み込み、そこに含まれている充填流量マップにて、受信したタンク圧力及びタンク温度の情報を参照し、充填流量を決定する。例えば、車両Aの場合、受信したタンク圧力が40MPa、タンク温度が0℃であるとき、充填流量マップMaから充填流量としてD4[m3/min]が選択・決定される。そして、制御装置24は、この選択・決定した充填流量となるように充填を開始し、流量計17の計測結果を見ながら、流量制御弁16の開度を制御する。これにより、タンク圧力、タンク温度及びガスタンク30に関する特性に応じた充填流量にてガスタンク30に水素ガスが充填される。
【0041】
この充填中、タンク圧力及びタンク温度を取得し、これらの情報を水素ステーション2に送って、充填流量を見直すようにしてもよい。つまり、水素ステーション2の制御装置24は、充填中に取得したタンク圧力及びタンク温度に応じた充填流量を改めて選択・決定することで、充填開始時に決定した充填流量から変更して、制御してもよい。こうすることで、充填中のガスタンク30内の状態に適した充填をすることができる。
【0042】
また、充填中は、水素ステーション2の表示装置22及び車両3の表示装置48の少なくとも一つに、車両3側から指示された充填プロトコルに基づいて充填されている旨を表示してもよい。この表示により、充填作業者は、車両3に応じた充填流量が選択された上で制御されている旨を確認することができる。
【0043】
その後、所定の充填量(充填作業者が指定した充填量又はフル充填量)がガスタンク30に充填されると、水素ステーション2からの水素ガスの供給が停止し、充填が終了する(ステップS4)。なお、充填終了後にも又は充填終了後にのみ、表示装置22,48の少なくとも一つに、上記同様の表示、例えば車両3側からの充填プロトコルに基づいて充填された旨の表示を出すようにしてもよい。
【0044】
充填終了後は、ガス充填システム1における制御装置24、46の少なくとも一つの記憶部(例えば上記のRAM)が、通信機44−通信機21の送受信履歴を一時的に記憶するとよい。この送受信履歴としては、例えば、ステップS2にて通信機44から通信機21へと充填プロトコルを含む情報が送信されたことを示す履歴が含まれるとよい。このような送受信履歴は水素ステーション2及び車両3の両方に記憶させることもできるが、特に車両3に記憶させることが好ましい。車検などの際に、図3に規定するフローにて充填が行われたか否かを簡単に確認することができるからである。換言すると、水素ステーション2にのみ記憶させたのでは、各所に点在している水素ステーション2から、ある特定の車両3の充填に関する送受信履歴を取得することは、煩雑だからである。
【0045】
以上説明した本実施形態のガス充填システム1の作用効果について説明する。
先ず、本実施形態によれば、車両3に充填プロトコルをもたせ、これを充填に際して水素ステーション2に送り、この充填プロトコルに基づいて水素ステーション2が充填を制御する。したがって、車両3に最適な充填プロトコルをもたせておくことで、他の車両に影響されることなく、その車両3のガスタンク30にとって最適な充填が可能となる。特に、ガスタンク30に関する特性(例えば放熱性)に基づいて定めた充填プロトコルによれば、放熱性が優れたガスタンク30に対しては充填流量を大きくすることができるため、ガスタンク30内の上限温度を超えない円滑な充填を短時間で行うことが可能となる。
【0046】
また、車両3側から水素ステーション2に充填プロトコルを指示するので、水素ステーション2側で充填プロトコルを用意したり、あるいは用意した充填プロトコルを新しい車両(ガスタンク)ごとに更新したりする必要もない。よって、ガスタンク30等についての技術的進歩のメリットを損なうことなく、その技術的進歩に応じた最適な充填を行うことができる。
【0047】
さらに、車両3側の充填プロトコルは、通信により水素ステーション2に送られる。これにより、車両3にて決定した充填流量を水素ステーション2に手動で入力する必要がない。また、通信の形式を無線とすることで、有線の場合に比べて充填作業者の負担を軽減することもできる。ただし、他の実施態様では有線の通信を採用してもよい。さらに、通信の送受信履歴が記憶されるため、車検時などにおいて、上記した最適な充填がされていたか否かを確認することができる。
【0048】
また、充填プロトコルの充填流量マップから充填流量を決定するのに、タンク圧力及びタンク温度を用いているので、充填先であるガスタンク30内の状態に適した充填ができる。加えて、タンク圧力及びタンク温度を実際に取得しているので、これらを推定する場合に比べて、より最適な充填流量を決定することができる。なお、他の実施態様では、タンク圧力及びタンク温度の一方又はいずれも考慮せずに、充填流量を決定し、制御するようにしてもよい。
【0049】
<他の実施形態>
次に、図5を参照して、他の実施形態に係るガス充填システム1について相違点を中心に説明する。上記実施形態と異なる点は、車両3が充填情報入力部50をさらに備えた点である。充填情報入力部50は、充填作業者が充填情報を入力するためのものであり、例えば、上記した表示装置48の一部(操作パネル)として構成し、充填情報を選択又は指定できるようにしてもよい。もっとも、表示装置48とは別個のものとすることもできる。充填情報とは、例えば、充填量及び充填時間のほかに、充填に支払う金額(この場合、充填量が、指定された金額に相当するものとなる。)を含むことができる。
【0050】
充填作業者による充填情報入力部50への入力は、一般に、充填ノズル12の接続作業(図3に示すステップS1)の前に行われる。そして、充填情報入力部50に入力された充填情報は、充填プロトコルなどの情報とともに車両3から水素ステーション2に送られる(図3に示すステップS2)。その後、水素ステーション2の制御装置24は、送られてきた充填情報に応じてガスタンク30への充填を制御する(図3に示すステップS3)。
【0051】
したがって、本実施形態によれば、上記実施形態による作用効果を奏することができることに加え、充填作業者が所望の充填情報を操作(選択、指定)することができるので、充填作業者が所望する最適な充填を行うことができる。なお、他の実施態様によれば、水素ステーション2にも又は水素ステーション2にのみ、充填情報入力部を設けてもよい。この場合も、充填情報入力部を表示装置22に組み込むことができる。
【0052】
<変形例>
次に、上記各実施形態に適用することができるガス充填システム1の二つの変形例について説明する。なお、各変形例は他の変形例と組み合わせても適用することができる。
【0053】
第1の変形例では、充填流量を決定する際に、タンク圧力及びタンク温度を推定してもよい。この場合、水素ステーション2側の機器を利用して推定することができる。例えば、タンク圧力については、圧力センサを水素ステーション2のガス流路13に設け、この圧力センサによる充填開始直後の検出結果から推定することができる。また、タンク温度については、外気温センサ23による充填開始直後の検出結果から推定することができる。
【0054】
第2の変形例では、ガスタンク30の数を複数にしてもよい。車両3に複数のガスタンクを搭載した場合には、その搭載位置の違いにより放熱率が異なったり、また、燃料電池への供給の仕方によっては各ガスタンクからの放出量も異なる。よって、ガスタンク30が複数ある場合、複数のガスタンクのうちタンク温度が最も大きいガスタンク又はタンク圧力が最も小さいガスタンクの情報(タンク温度及びタンク圧力)を使って、充填流量マップから充填流量を決定するとよい。これにより、全てのガスタンクについて、上限温度に達するのを抑制しながら、短時間で所定の充填量を充填することができる。
【0055】
なお、第2の変形例の場合、各ガスタンクのタンク温度及びタンク圧力については、上記した温度センサ40及び圧力センサ42をガスタンクごとに設けることで取得することもできるし、あるいは一つの温度センサ40及び一つの圧力センサ42により全てのガスタンクについて取得することもできる。また、第2の変形例にて説明したように、各ガスタンクのタンク温度及びタンク圧力を推定することで取得することもできる。
【0056】
<参考例>
最後に、2つの参考例に係るガス充填システムについて説明する。
【0057】
第1の参考例は、水素ステーション2が数種類の充填プロトコルを有している場合に関するものである。この場合の充填フローを図6に示す。図6に示すステップS11は図3に示すステップS1と同じであるが、ステップS12及びS13は、図3に示すステップS2及びS3と若干異なる。
【0058】
具体的には、ステップS12において、車両3は、水素ステーション2が保持している数種類の充填プロトコルのうちどれを使用するかを選択する信号、すなわち自己の車両3(ガスタンク30の特性)に適した充填プロトコルを選択するための信号を、タンク圧力及びタンク温度の情報とともに水素ステーション2に送信する。
【0059】
そして、ステップS13において、水素ステーション2は、受信した信号に基づいて充填プロトコルを選択する。水素ステーション2は、その選択した充填プロトコルに含まれている充填流量マップにて、受信したタンク圧力及びタンク温度の情報を参照し、充填流量を決定し、制御する。したがって、参考例1に係るガス充填システムであっても、他の車両に影響されることなく、その車両3にあった充填プロトコルを使用することができるので、充填時間を短縮することが可能となる。
【0060】
第2の参考例は、車両とは関係なく、ガスタンク単体に充填する場合に関するものである。この場合、図7に示すように、水素ステーション2の充填ノズル12に設けた通信機21に対応するように、高圧ガスタンク60の口金62又はこれにねじ込み接続されたバルブアッセンブリに通信機64を設け、充填ノズル12を口金62又はバルブアッセンブリに嵌合した際に無線通信が確立されるようにする。
【0061】
そして、高圧ガスタンク60の通信機64は、上記実施形態で説明した充填プロトコルを記憶したものとし、この記憶した充填プロトコルを水素ステーション2の通信機21に送信するように構成される。あるいは、通信機64は、上記参考例1で説明した水素ステーション2が保持する数種類の充填プロトコルのうちどれを使用するかを選択する信号を、通信機21に送信するように構成される。このような構成により、水素ステーション2から高圧ガスタンク60に最適な充填をすることができる。これにより、充填作業者の負担を軽減して、ヒューマンエラーを抑制することができ、短時間で充填することができる。
【0062】
なお、高圧ガスタンク60単体への充填の場合には、通信手段ではなく、記録媒体と読取り装置との組み合わせを用いてもよい。例えば、通信機64に代えて、ICタグ、バーコード、QRコードなどの記録媒体を高圧ガスタンク60に設ける。この記録媒体を設ける位置は、口金62又はバルブアッセンブリであってもよいし、タンク本体(筒状部分)の外周面にペイントやシールなどを利用して設けてもよい。
【0063】
この場合、水素ステーション2側では、通信機21に代えて、充填ノズル12とは別体の読取り装置(記録媒体がバーコードである場合には、バーコードリーダー)を用意する。そして、充填に際して、水素ステーション2側の読取り装置で記録媒体に記録された情報、例えば、上記実施形態で説明した充填プロトコルや、上記参考例1で説明した水素ステーション2が保持する数種類の充填プロトコルのうちどれを使用するかを選択する信号を読み取るようにする。これにより、通信の場合と同じように、充填作業者の負担を軽減して、高圧ガスタンク60に最適な充填をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のガス充填システム1は、水素ガスのみならず、天然ガスなど他のガスに適用することができる。また、車両3に限らず、航空機、船舶、ロボットなど、外部からのガスの充填先としてガスタンクを搭載した移動体に適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:ガス充填システム、2:水素ステーション(ガスステーション)、3:車両、11:カードル(ガス供給源)、14:圧縮機、15:蓄圧機、16:流量制御弁(制御弁)、21:ステーション側通信機、22:表示装置、24:ステーション側制御装置、30:ガスタンク、40:温度センサ、42:圧力センサ、44:車両側通信機、46:車両側制御装置、48:表示装置、Ma、Mb、Mc:充填流量マップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタンクを有する車両と、前記ガスタンクにガスを供給するガスステーションと、を備えたガス充填システムにおいて、
前記車両は、前記ガスタンクへの充填に用いる前記ガスステーション側の制御方法を規定する充填プロトコルを有する車両側制御装置を備え、
前記ガスステーションは、前記車両側制御装置から指示された充填プロトコルに基づいて前記ガスタンクへの充填を制御する、ガス充填システム。
【請求項2】
前記車両は、前記車両側制御装置に接続された車両側通信機を有し、
前記ガスステーションは、
前記車両側通信機から前記充填プロトコルを受信するステーション側通信機と、
前記ステーション側通信機に接続され、前記受信した充填プロトコルに基づいて前記ガスタンクへの充填を制御するステーション側制御装置と、を有する、請求項1に記載のガス充填システム。
【請求項3】
前記ガスステーションは、ガス供給源と、当該ガス供給源からのガスを圧縮する圧縮機と、当該圧縮機によって圧縮されたガスを蓄える蓄圧機と、当該蓄圧機からのガスを前記ガスタンクに供給するディスペンサーと、を有しており、前記充填プロトコルに基づいて前記ガス供給源、前記圧縮機、前記蓄圧機及び前記ディスペンサーの少なくとも一つが制御される、請求項1又は2に記載のガス充填システム。
【請求項4】
前記ディスペンサーは、前記充填プロトコルに基づいて前記ガスタンクへのガスの流量を制御する制御弁を有する、請求項3に記載のガス充填システム。
【請求項5】
前記充填プロトコルは、前記ガスタンクに関する特性に基づいて定められる、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のガス充填システム。
【請求項6】
前記ガスタンクに関する特性は、当該ガスタンクの放熱性である、請求項5に記載のガス充填システム。
【請求項7】
前記車両側制御装置から指示された充填プロトコルに基づいて前記ガスタンクへの充填が行われている旨又は行われた旨を表示する表示装置を、更に備えた、請求項1ないし6のいずれか一項に記載のガス充填システム。
【請求項8】
前記車両及び前記ガスステーションの少なくとも一つは、充填情報を入力するための充填情報入力部を有し、
前記ガスステーションは、前記充填情報入力部に入力された充填情報に応じて前記ガスタンクへの充填を制御する、請求項1ないし7のいずれか一項に記載のガス充填システム。
【請求項9】
前記車両は、前記ガスタンク内の情報を取得するセンサを有し、
前記ステーション側通信機は、前記センサが取得した情報も前記車両側通信機から受信し、
前記ステーション側制御装置は、前記ステーション側通信機が受信した充填プロトコル及びガスタンク内の情報から充填流量を決定し制御する、請求項2に記載のガス充填システム。
【請求項10】
前記センサは、充填開始時及び充填中に、前記ガスタンク内の情報を取得するものであり、
前記ステーション側制御装置は、充填開始時におけるガスタンク内の情報をもとに決定した充填流量を、充填中におけるガスタンク内の情報をもとに変更する、請求項9に記載のガス充填システム。
【請求項11】
前記センサは、温度センサ及び圧力センサの少なくとも一つを含む、請求項9又は10に記載のガス充填システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−33068(P2011−33068A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177498(P2009−177498)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】