説明

ガス分析装置

【課題】半導体製造装置等から排出される被測定ガス中のフッ素濃度を測定するに際して、測定毎に装置の校正を行うなどの手間が軽減され、妨害成分の影響を簡単に排除でき、正確な濃度を知る。
【解決手段】フッ素ガスと波長280〜290nm帯において吸収を示す成分が含まれた被測定ガスに導き、該ガス中の同波長帯の吸光度を測定して、該ガス中の同波長帯で光吸収を示す成分の濃度を求めるUV計6と、該ガス中の同波長帯に光吸収を示すとともに赤外活性成分の定量を行うFT−IR計5と、該ガスをUV計とFT−IR計に導く被測定ガス供給管路2と、UV計に同波長帯において吸収を示さないガスを供給するレファレンスガス供給源4を備え、UV計で得られた同波長帯で光吸収を示す成分の濃度の表示値から、FT−IR計で得られた同波長帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の濃度を減じて、該ガス中のフッ素ガス濃度を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば半導体製造装置などの電子デバイス製造装置から排出される排ガスなどのガス中に含まれるフッ素ガスの濃度を測定する装置に関し、被測定ガス中に含まれる妨害成分の影響を排除して、正確にかつ簡便にフッ素ガス濃度が求められるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイス製造装置では、多種多様な危険性物質や地球温暖化物質が消費される。これらの排出については、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(PRTR法,1999年制定)」や、「地球温暖化対策推進法(2006年制定)」によって、どのような物質が排出されているのかを定量的に把握することが必要となっている。
【0003】
電子デバイス製造装置から排出されるガスの分析には、一般にフーリエ変換赤外分光法(FTIR法)が広く用いられている。その具体的な方法としては、例えば、プロセスに導入されるガスとプロセスの進行により生成される物質収支を算出し、フッ素原子バランスが90%以上になるような分析を実施することが推奨されている(参考文献1:International SEMATECH.Guideline for Environmental Characterization of Semiconductor Equipment. 2001,Technology Transfer #01104197A−XFR. 43p.)。
【0004】
一方、同排ガス中には、FTIR法では測定することが出来ない赤外不活性で、人体に有害なフッ素(以下、F2と表記することがある。)ガスも含まれることがある。
F2は紫外線吸収特性(波長280〜290nm帯に特性吸収を示す)を有するため(参考文献2:Hideo Okabe,Photochemistry Of Small Molecules,JOHN WILEY&SONS,P184,1978)、紫外分光光度計(以下、UV計と言う。)(参考文献3:(財)地球環境産業技術研究機構,平成12年度「PFC回収・リサイクル技術に係る追加研究」成果報告書,平成13年3月)を利用する方法も報告されている。
【0005】
また、F2と選択的に反応する物質を利用した化学発光法を用いた分析計(例えば米国URS社製FCSフッ素濃度計)、あるいは質量分析計(以下、Q−MSと言う。)(参考文献4:Laura Mendicino,et al,REMOTE PLASMA CLEAN TECHNOLOGY FOR DIELECTRIC CVD CHAMBER CLEANING TO REDUCE PFC EMISSIONS, Electrochemical Society Proceedings,Vol.99−8,P40−51,1999)を用いる方法が知られている。
【0006】
UV計によりF2ガスを分析する場合、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、酸素(以下、O2と表示することがある。)、オゾン(O)、酸化フッ素(OxFy)など、複数成分が妨害成分となることが知られている(参考文献2、3、5:A.D.Kirshenbaum,INORG.NUCL.CHEM.LETTERS,Vol.1,P121−123)。
【0007】
一方、電子デバイス製造装置では、上記の妨害成分ガスをプロセスガスとして使用することがあるほか、プロセスガスを無害化するガス処理装置において上記の妨害成分が発生することがある。これらの妨害成分が共存するガスを分析する場合、UV計により得られるF2ガス濃度は、妨害成分による影響が含まれるものとなる。
【0008】
妨害成分の影響を排除する方法としては、多成分統計解析を行う(参考文献2)、特定の波長をベースラインとして用いる方法(参考文献6:特開2003−14626号公報)など、UV計単独で実施できる場合もあるが、複数の妨害成分が存在する場合や高濃度の妨害成分が存在する場合は、それらの影響を排除することが出来なかった。
【0009】
化学発光法を用いる分析方法の場合、F2ガスと反応基材の反応による化学発光量が測定環境に強く依存するため、絶対濃度測定を行うためには、測定毎に分析装置を校正することが必要であり、実用的ではなかった。Q−MS測定の場合、原理的に長時間の繰り返し測定時における感度のドリフト変動が問題であった。Q−MSで得られるF2のシグナルとF2濃度の間に、普遍性のある係数を得ることは困難であり、測定の毎に分析装置を校正するための校正装置が必要であった。
【非特許文献1】International SEMATECH. Guideline for Environmental Characterization of Semiconductor Equipment. 2001,Technology Transfer #01104197A−XFR. 43p.)
【非特許文献2】Hideo Okabe,Photochemistry Of Small Molecules,JOHN WILEY&SONS,P184, 1978
【非特許文献3】(財)地球環境産業技術研究機構,平成12年度「PFC回収・リサイクル技術に係る追加研究」成果報告書,平成13年3月
【非特許文献4】Laura Mendicino,et al,REMOTE PLASMA CLEAN TECHNOLOGY FOR DIELECTRIC CVD CHAMBER CLEANING TO REDUCE PFC EMISSIONS,Electrochemical Society Proceedings,Vol.99−8,P40−51, 1999
【非特許文献5】A.D.Kirshenbaum,INORG.NUCL.CHEM.LETTERS,Vol.1,P121−123
【特許文献1】特開2003−14626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明における課題は、電子デバイス製造装置等から排出される排ガスなどの被測定ガス中のフッ素濃度を測定するに際して、測定毎に装置の校正を行うなどの手間が軽減され、妨害成分の影響を簡単に排除でき、正確な濃度を知ることができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、フッ素ガスと波長280〜290nm帯において吸収を示す成分が含まれた被測定ガスをセルに導き、被測定ガス中の波長280〜290nm帯の吸光度を測定して、被測定ガス中の波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度を求める紫外分光光度計と、
この紫外分光光度計のセル中の被測定ガスの温度、圧力、流量を制御する制御手段と、
被測定ガス中の波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の同定およびその定量を行うフーリエ変換赤外分光光度計と、
被測定ガスを前記紫外分光光度計とフーリエ変換赤外分光光度計とのセルに導く被測定ガス供給管路と、
前記紫外分光光度計のセルに波長280〜290nm帯において吸収を示さないガスをリファレンスガスとして供給するレファレンスガス供給源を備え、
前記紫外分光光度計で得られた波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度の表示値から、フーリエ変換赤外分光光度計で得られた波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の濃度を減じて、被測定ガス中のフッ素ガス濃度を求めるようにしたことを特徴とするガス分析装置である。
【0012】
請求項2にかかる発明は、フッ素ガスと酸素と波長280〜290nm帯において吸収を示す成分が含まれた被測定ガスをセルに導き、被測定ガス中の波長280〜290nm帯の吸光度を測定して、被測定ガス中の波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度を求める紫外分光光度計と、
この紫外分光光度計のセル中の被測定ガスの温度、圧力、流量を制御する制御手段と、
被測定ガス中の波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の同定およびその定量を行うフーリエ変換赤外分光光度計と、
被測定ガスを前記紫外分光光度計とフーリエ変換赤外分光光度計とのセルに導く被測定ガス供給管路と、
前記紫外分光光度計のセルに波長280〜290nm帯において吸収を示さないガスをリファレンスガスとして供給するレファレンスガス供給源と、
前記被測定ガス供給管路のフーリエ変換赤外分光光度計の下流に設けられ、被測定ガス中の酸素以外の波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分を除去する除去装置を備え、
前記除去装置を通過した被測定ガスを前記紫外分光光度計に導入して酸素の吸収に基づくリファレンスデータを取り、前記除去装置を通過しない被測定ガスを紫外分光光度計に導入してデータを取り、このデータから前記リファレンスデータを差し引き、さらにフーリエ変換赤外分光光度計で得られた波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の濃度を減じて、被測定ガス中のフッ素ガス濃度を求めるようにしたことを特徴とするガス分析装置である。
【0013】
請求項3にかかる発明は、前記紫外分光光度計は、紫外光を発光する光源と、この光源からの紫外光を入射し、被測定ガスを満たすセルと、このセルを透過した紫外光を受光し、分光して分光光の強度を波長毎に測定する分光計と、この分光計からの光の強度に基づいて波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度を求めるデータ処理部を備えているものであることを特徴とする請求項1または2記載のガス分析装置である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、フッ素ガスは波長280〜290nm帯において吸収を示し、赤外活性ではないので、紫外分光光度計(以下、UV計と言う。)によりその吸光度を測定し、窒素などのリファレンスガスによる吸光度を差し引くことで、その濃度を正確に求めることができる。また、紫外分光光度法では当初フッ素ガスについての検量線を作製しておけば、測定の都度校正をする必要はない。
【0015】
また、被測定ガス中に波長280〜290nm帯において吸収を示す妨害成分が含まれている場合には、この妨害成分濃度とフッ素ガス濃度とが合算された値がUV計に表示されることになる。この際、UV計にて予め既知量の妨害成分についての検量線を作製しておき、妨害成分が前記表示濃度に占める寄与分を求めておく。
【0016】
そして、この妨害成分は、通常赤外活性を示すことが多いので、フーリエ変換赤外分光光度計(以下、FT−IR計と言う。)により、その同定と定量を行い、妨害成分濃度を求める。ついで、FT−IR計により求められた妨害成分濃度から前記寄与分を算出し、この寄与分をUV計により得られた前記表示濃度から減じることで、正確なフッ素濃度が求められる。
さらに、FT−IR計による定量では、やはり当初妨害成分についての検量線を作製しておけば、測定の都度校正の必要はない。
【0017】
さらに、被測定ガス中にさらに酸素も含まれている場合には、酸素は波長280〜290nm帯において吸収を示すので妨害成分であり、しかも赤外活性ではないので、FT−IR計では同定、定量できない。
この場合には、被測定ガスを除去装置に導入して酸素以外のフッ素を含む波長280〜290nm帯において吸収を示す妨害成分を除去してUV計に導入して、リファレンスデータを取り、ついで除去装置を通過しない被測定ガスをUV計に導入してデータを取り、このデータからリファレンスデータを差し引くことで酸素による影響を除外する。
【0018】
さらに、FT−IR計によって酸素以外の波長280〜290nm帯において吸収を示す妨害成分の濃度を求め、この濃度から妨害成分の前記寄与分を求め、UV計により得られた表示濃度からこれを減じることで、酸素とそれ以外の妨害成分が含まれている被測定ガス中のフッ素濃度を正確に知ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明のガス分析装置の一例を示すものである。図1において、符号1は被測定ガスが流れるガスラインを示し、このガスライン1には、電子デバイス製造装置などから排出されたガスが流れている。このガスライン1には、被測定ガス供給管2が接続され、ガスライン1に流れるガスの一部が被測定ガスとして分流されるようになっている。
【0020】
この被測定ガス供給管2には、切替弁3が取り付けられ、リファレンスガス供給源4からのリファレンスガスと前記被測定ガスとが適宜切り替えられて下流のFT−IR計5に導かれるようになっている。前記リファレンスガス供給源4には、波長280〜290nm帯において吸収を示す成分がほとんど含まれていない高純度窒素ガスなどのリファレンスガスを貯留するガスボンベなどが用いられる。
【0021】
前記FT−IR計5には、市販製品(例えば、堀場製作所製FG120など)が用いられ、これのセルに前記被測定ガスまたはリファレンスガスが導入され、被測定ガスに含まれる赤外活性の成分の同定と定量が行われる。
【0022】
FT−IR計5のセルから導出された被測定ガスは、被測定ガス供給管2を通り、UV計6のセル7の一端から導入されるようになっている。セル7は、耐食性に富むガラス、セラミック、フッ素系樹脂などからなる直径5〜15mm、長さ10cm〜1mの直管状のパイプで構成され、その両端は入射窓71および出射窓72により密閉されている。入射窓71、出射窓72は、紫外光の透過率の高い石英、サファイア、ホタル石などからなっている。
【0023】
また、セル7の両端部付近には、それぞれガス入口73およびガス出口74が設けられ、ガス入口73から被測定ガスが流入し、ガス出口74から被測定ガスが導出されるようになっている。
さらに、セル7の外周部には、バンドヒーターなどのヒーター8が取り付けられており、セル7内部のガスを例えば50℃などの一定の設定温度に保つようになっている。
【0024】
前記セル7の入射窓71側には、少なくとも波長280〜290nm帯の紫外光を含む光を発する重水素紫外線ランプなどの光源9が設けられ、この光源9からの光がセル7内に入射窓71から入射されるようになっている。
なお、光源9からの光を効率よくセル7に取り込むため、光源9の出射端とセル7の入射窓71との間にレンズ、フィルターなどを設けることができる。
【0025】
また、光源9からの光を光ファイバにより導波してカプラーを介してセル7の入射窓71に導くようにしてもよい。さらに、光源9からの光は短波長の紫外光を含むため、この光によって空気中の酸素がオゾンとなって、測定を妨害する可能性があるので、このような場合には、光源9からセル7の入射窓71付近に窒素などのパージガスを流すことや、この部分を気密構造とすることが好ましい。
【0026】
前記セル7のガス出口74から排出される被測定ガスは排出管10に流れる。この排出管10には、圧力計11、制御機能付きの質量流量計12、ポンプ13が設けられ、セル7内部およびFT−IR計5のセルを流れる被測定ガスの圧力、流量が所定値に保たれるようになっている。ポンプ13から排出された被測定ガスは排出管10を通り、ガスライン1に戻されるようになっている。
【0027】
前記セル7の出射窓72には、セル7を透過した透過光を受光するレンズなどからなるカプラー14が設けられ、カプラー14で受光された光は光ファイバ15を通り、分光計16に送られる。
分光計16は、回折格子などの分光器(モノクロメータ)とホトマルチプライヤーなどの光電変換器(O/E)とデータ処理部を備えたもので、光ファイバ15を通った光が分光器で分光され、分光された単色光が波長順に順次光電変換器に入射されて単色光の強さに応じた電気信号が出力され、この電気信号をデータ処理部において演算処理して吸収スペクトルを作製し、少なくとも波長280〜290nm帯での吸光度を求めることができるものである。
【0028】
この分光計16には、例えばプラズマ発光をモニターしてプラズマ雰囲気中に存在するラジカルやイオンを同定、定量するために用いられる市販のプラズマ発光モニター(例えば、浜松ホトニクス製C7460など)などが用いられる。
また、この例のUV計6は、セル7、ヒーター8、光源9、分光計16から構成されている。
【0029】
次に、このようなガス分析装置を用いて被測定ガス中に含まれるフッ素ガス濃度を測定する方法について説明する。
実際の被測定ガス中のフッ素濃度の測定に先立って、準備作業を行う。
まず、UV計6におけるフッ素についての濃度と吸光度との関係を示す検量線を作製する。
【0030】
これには、高純度のF2ガスと窒素ガスとの混合ガスであって、F2濃度が既知の標準ガスをUV計6のセル7に流し、セル7内の温度、圧力、流量を一定に保ってフッ素濃度変化に対応した吸光度を求めることによって行われる。この場合、リファレンスガスとしては、リファレンスガス供給源4から高純度窒素ガスをセル7に流す。
図3は、このようにして得られたF2の検量線の例を示すものである。
【0031】
次に、F2と妨害成分とが含まれているガスについてのF2の検量線を作製する。
電子デバイス製造装置から排出されるガスの種類は、該製造装置に供給される各種ガスの種類、該製造装置での化学反応の形態が決まれば、ほぼ成分が決まり、本ガス分析装置によるF2濃度測定に際して妨害となる成分をまえもって知ることができる。
【0032】
このため、F2と妨害成分を含んだ標準ガスを用いてUV計6によるF2濃度測定を行い、UV計6によって得られたF2濃度表示値に占める妨害成分の寄与分を求めておく。
以下、妨害成分として二酸化窒素(以下、NO2と表記する)が存在するケースについて例示する。
【0033】
それぞれ既知量のF2とNO2を含む窒素ガスを標準ガスとしてFT−IR計5とUV計6とに導入する。NO2は赤外活性でもあるので、標準ガス中のNO2濃度はFT−IR計5によって正確に求められる。NO2の検量線は、FT−IR計5に付属しているものを利用できる。
【0034】
一方、NO2は、上述のように、波長280〜290nm帯において吸収を示すので、前記標準ガスのUV計6での測定では、その吸光度はフッ素とNO2の寄与分との和に相当する表示値となる。この吸光度の表示値から、そのすべてがF2によるものとして、仮のF2濃度を前記F2の検量線(図3)から求める。
【0035】
例えば、標準ガス中のF2濃度が1000ppm、NO2濃度が1000ppmとすると、FT−IR計5ではNO2が検出され、その濃度が1000ppmと測定される。そして、UV計6での仮のF2濃度が1200ppmと測定されると、そのうちの200ppmがNO2による寄与分であることがわかる。同様にして、NO2濃度を変化させた標準ガスを用いて、UV計6で得られた仮のF2濃度におけるNO2寄与分を求める。
【0036】
このようにして得られた関係を検量線あるいは補正係数として使用することで、被測定ガス中の未知量のF2と未知量のNO2とが含まれている場合に、FT−IR計5で求められたNO2濃度に基づき、前記検量線または補正係数を用いて、NO2による寄与分を算出し、この寄与分をUV計6で測定された仮のF2濃度から差し引くことで正確なF2濃度が求められる。
【0037】
さらに、NO2以外の波長280〜290nm帯において吸収を示し、かつ赤外活性であるその他の妨害成分についても同様の操作を行うことで、これら妨害成分の影響を排除して被測定ガス中のF2濃度を正確に知ることができる。
このような準備作業を行って、各妨害成分についての前記検量線または補正係数を求めておき、ついで実際の電子デバイス製造装置から排出される排ガスなどの被測定ガスを本ガス分析装置に導入して被測定ガス中のF2濃度を求める作業を行う。
【0038】
図2は、この発明のガス分析装置の他の例を示すもので、図1に示した装置と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
この例の装置では、被測定ガス供給管2のFT−IR計5の下流側に、2個の切替弁21、22を介して除去装置23が設けられている以外は先の例のガス分析装置と同様である。
【0039】
すなわち、この装置では、FT−IR計5から導出されて被測定ガス供給管2を流れる被測定ガスの全量が切替弁21を介して除去装置23に導かれ、ここで被測定ガス中の酸素(以下、O2と表記する)以外の波長280〜290nm帯において吸収を示す成分、これには測定対象のF2も含まれ、例えばF2、NO2などが活性炭、ゼオライトなどの吸着剤によって吸着除去され、この被測定ガスが切替弁22を介して被測定ガス供給管2に戻され、UV計6のセル7に導入されるようになっている。
【0040】
この例のガス分析装置では、被測定ガス中に妨害成分となるO2が含まれている場合や妨害成分が多種類含まれている場合に用いられるもので、除去装置23を通過してO2以外の波長280〜290nm帯において吸収を示す成分が取り除かれたガスをリファレンスガスとして使用するものである。
【0041】
このガス分析装置を用いる場合には、初めに被測定ガスをFT−IR計5から除去装置23を経てUV計6に流して、波長280〜290nm帯において吸光度を測定する。
被測定ガスが例えばF2とNO2とO2を含む窒素ガスとすると、除去装置23ではF2とNO2とが除去されるので、UV計のセル7に導入される被測定ガスはO2を含む窒素となり、これをリファレンスガスとしてO2による吸光度Aを求める。
【0042】
次に、切替弁21、22を切り替えて被測定ガスを除去装置23を通さずにUV計6のセル7に導入して波長280〜290nm帯での吸光度Bを測定する。この吸光度BはF2とNO2とO2とによる吸収が合わさったものとなる。この吸光度Bから前記リファレンスガスで測定された吸光度Aを差し引いた吸光度Cは、F2とNO2とによる吸収によるものとなる。
FT−IR計5による測定でNO2濃度が求められるので、先の例と同様にして、NO2の影響を排除してF2濃度が求められ、結果的に妨害成分としてNO2とO2とが含まれていても正確なF2濃度を知ることが可能になる。
【0043】
なお、図1および図2に示した例では、FT−IR計5の下流にUV計6を配したが、UV計6の下流にFT−IR計5を配してもよく、さらにはガスライン1からの被測定ガスを並行してUV計6とFT−IR計5に導入するように被測定ガス供給管2を配管してもよい。
【0044】
以下、具体例を示す。
[参考例]
セントラルガラス製N/F(15%)混合ガスとジャパンファインプロダクツ製Nガスを用い、質量流量計による流量混合法で検量線を作成した結果を図3に示す。ここで、光源には浜松ホトニクス製L2D2,L7292(電源:C9598)、プラズマ発光モニタには浜松ホトニクス製C7460用いた。セルはテフロン(登録商標)製で光路長700mmとし、セルの外周部はリボンヒーターで53℃に保温した。
【0045】
圧力計は堀場エステック製VG121、質量流量計は堀場エステック製SEC4400(N:5slm)を用い、測定圧力は750Torrで一定化し、測定流量は2slmとした。測定は低濃度から高濃度への上り、そして、高濃度から低濃度への下り、さらに、異なる日時でデータを採取し、合計7件となったデータについて解析を実施した。
解析の結果、図3に示す検量線が得られ、その相関係数(r二乗)は0.9999と良好な直線性を示すことが確認できた。6145ppmを測定した時の不確かさは34ppmとなり、また、検出下限(ノイズの3σ)は30ppmと、高い精度で分析できることを確認した。
【0046】
[実施例1]
次に、UV計とFT−IR計を組み合わせた本発明のガス分析装置を用い、F2ガス濃度が1000ppmの被測定ガスにNO2を1000ppm添加した条件での測定を実施した。
分析の結果、FT−IR計ではNO2のみが1000ppm検出され、また、UV計ではF2濃度の表示値が1200ppmとなった。UV計で予め取得されたNO2ガスの補正係数を用いると、NO2が1000ppmの場合、UV計ではF2濃度換算で200ppmの表示をするため、上記の計測値である1200ppmから200ppmを差し引くと1000ppmとなり、本ガス分析装置に供給されたF2ガス濃度と正確に一致することが確認できた。
【0047】
[実施例2]
UV計とFT−IR計を組み合わせた本発明のガス分析装置を用い、F2ガス濃度が1000ppmの被測定ガスにNO2を1000ppmとO2を10000ppm添加した条件での測定を実施した。リファレンスガスはN2ガスとした。
分析の結果、FT−IR計ではNO2のみを1000ppm検出し、また、UV計ではF2濃度の表示値が1260ppmとなった。UV計で予め取得されたNO2の補正係数を考慮すると、実質のF2濃度は1060ppmとなり、実際の添加濃度と同じ結果を得ることは出来なかった。
【0048】
次に、同じ被測定ガスの測定を開始するに当たり、始めに活性炭とゼオライトが充填された除去装置によりNO2とF2を吸着除去して、被測定ガス中にN2とO2のみが含まれる状態とし、これをリファレンスガスとして測定してから、切替弁を切り替え、除去装置を経由せずに直接被測定ガスを分析した結果、FT−IR計ではNO2のみを1000ppm検出し、また、UV計でのF2濃度表示値は1200ppmとなった。UV計で予め取得されたNO2の補正係数を考慮すると、実質のF2濃度は1000ppmとなり、導入したNO2濃度と正確に一致することを確認した。
このように、被測定ガス中にO2が存在する場合は、FT−IR計での妨害成分補正を行うことの他、除去装置を用い、予め、O2を含んだリファレンスガスを用いてリファレンスデータを所得することが有効である。
【0049】
[応用例1]
UV計とFT−IR計を組み合わせ、プラズマCVD装置の排ガスを分析した。プラズマCVD装置には市販のアプライドマテリアルズ社製Precision5000を用い、FT−IR計には堀場製作所製FG120(光路長:1cm)を用いた。プラズマCVD装置を用い、二酸化珪素(SiO)膜を820nm成膜後に六フッ化エタン(C)ガスによりチャンバークリーニングを行った時の排ガス分析を実施した。
ガスによるクリーニング条件は、C:500sccm、O:600sccm、圧力:3.5Torr/2Torr、RFパワー:750W(6.1W/cm2)、電極間距離:999milsの2ステップクリーニングとした。
クリーニング中の化学反応式は次式となった。
【0050】
+O+(SiO:クリーニング対象)+プラズマ→CO+CO+COF+CF+HF+SiF+F+C

クリーニング中に投入されたガスと、クリーニングにより生成した成分の物質収支(マスバランス)に関し、炭素(C)とフッ素(F)について、プロセス中の平均値を計算した結果、それぞれ、100.9%、100.0%となった。CバランスについてはFT−IR計の測定データのみで解析されるが、ほぼ100%が得られており、当該プロセス中におけるC含有成分はほぼ完全に分析されていると判断される。また、Fバランスについても100%という結果が得られており、当該プロセスにおいては、投入されたガスと排出されたガスのマスバランスが正確に一致していることを確認した。
【0051】
[応用例2]
八フッ化プロパン(C)ガスを用い、応用例1と同様の実験を行った。
ガスによるクリーニング条件は、C:210sccm、O:450sccm、圧力:3.5Torr/2Torr、RFパワー:750W(6.1W/cm2)の2ステップクリーニングとした。
クリーニング中の化学反応式は次式となった。
【0052】
+O+(SiO:クリーニング対象)+プラズマ→CO+CO+COF+CF+HF+SiF+F+C

CとFのマスバランスについて、プロセス中の平均値を計算した結果、それぞれ、99.5%、98.3%となった。Cバランスについて応用例1と同様、当該プロセス中におけるC含有成分はほぼ完全に分析されていると判断される。一方、Fバランスについては、FT−IR計による分析のみの結果から算出すると96.0%となり、F2分析結果を加えることで98.3%となった。
【0053】
この結果は、Cバランスの結果と比較してやや低いが、クリーニング処理後、CVDチャンバー内に水素ガスを導入してプラズマ放電させると、FT−IR計によりHFが検出されたことから、当該クリーニング条件ではチャンバー内で生成した活性なF原子がチャンバー内、あるいは、排気系に吸着している影響と考えられる。
応用例1では、CバランスとFバランスはほぼ一致して100%の値を得たが、ガスの種類や条件が異なると、このような差が現れることが明らかとなった。
【0054】
[応用例3]
三フッ化窒素(NF)を用いるクリーニングで、リモートクリーニングを実施した。実験は、応用例1、2と同一装置のチャンバー上部にリモートプラズマソース(MKS社製ASTRONi)を搭載し、クリーニング時には当該リモートソースで活性なF原子含有ガスを生成させ、そのガスのダウンストリームによりチャンバー内を洗浄した。クリーニング条件は、NF:700sccm、Ar:1400sccm、圧力:3Torrrの1ステップクリーニングとした。
クリーニング中の化学反応式は次式となった。
【0055】
NF+Ar+(SiO:クリーニング対象)+プラズマ→HF+SiF+F+N

FT−IR計のみの解析結果では、Fバランスは13.5%と、応用例1、2の結果に比較して極端に低い結果となった。一方、UV計によるF2濃度を加算してFバランスを計算すると、94.8%となった。本条件の場合もFバランスがやや低い結果となったが、応用例1、2と同様、クリーニング後のH2プラズマ処理によりHFが検出されることから、吸着の影響だと判断される。
【0056】
[応用例4]
応用例3と同じくNFガスを用い、応用例1、2と同様の実験を行った。NFガスによるクリーニング条件は、NF:240sccm、O:560sccm、圧力:3.5Torr/2Torr、RFパワー:750W(6.1W/cm2)の2ステップクリーニングとした。
クリーニング中の化学反応式は次式となった。
【0057】
NF+O+(SiO:クリーニング対象)+プラズマ→NO+HF+SiF+F+NF+N

このクリーニングでは、炭素含有成分は検出されず、窒素(N)とF成分のみ検出され、また、F2分析の妨害成分であるNOxとNOFxの生成が確認された。なお、窒素ガスについては、CVD装置後段のドライポンプで大量(29.6slm)に希釈導入されていること、また、窒素濃度を分析する装置を配置していないため、分析することはできない。
【0058】
FT−IR計のみの解析結果では、Fバランスは62.8%と、応用例1、2の結果に比較して大幅に低い結果となった。一方、UV計によるF2濃度を加算してFバランスを計算すると、124.9%と大幅に過剰となる結果となった。FT−IR計による分析では妨害成分が検出されており、この結果をUV計の濃度補正に用いると、補正をしない場合に比較して約28%減少し、トータルのFバランスは96.5%と、応用例2に近い結果となった。
【0059】
Fバランスの値はやや低かったが、応用例2と同様、クリーニング処理後のH2プラズマ処理によりHFが検出されることから、当該クリーニング条件でもチャンバー内で生成した活性なF原子がチャンバー内、あるいは、排気系に吸着している影響であったと考えられる。このように、排ガス中に妨害成分が含まれる場合についても、本発明より正確にF2ガス濃度を定量することが出来る。
【0060】
[応用例5]
次に、応用例1と同様のCクリーニングについて、排気系に高濃度の酸素とNO2が含まれる場合の測定を実施した。クリーニング条件は応用例1と同一で、ドライポンプの希釈Nをドライエアーに変えた。また、同一装置の別チャンバーよりNO2を0.1slm導入し、両チャンバーの排気系が合流した箇所で排ガス分析を実施した。分析は、リファレンス測定にNラインを使用した場合と、リファレンス測定にNガスを用いず、排ガスラインより得られたガスから除去装置によりNO2などを物理吸着除去して得たガスをリファレンスガスとして用いる場合とで比較した。
【0061】
F2濃度のトレンドを図4に示す。リファレンスとしてNガスを用いた場合、被測定ガスを本分析装置に導入してから約50秒後まで、FT−IR計ではNO2が1650ppm検出された以外、検出ガスが無いものの、UV計の表示濃度は上昇し、その後、実際のクリーニングが開始されるとさらにUV計の濃度が上昇した。
一方、除去装置により得られたガスをリファレンスとして用いた場合、酸素が共存する状態をリファレンスガスとしているため、NO2が1650ppm存在する場合の影響のみとして、UV計での補正係数である420ppmを表示濃度から差し引き、応用例1と同様にFバランスを求めると99.5%となり、高精度で分析できていることを確認した。
このように、被測定ガス中に高濃度の酸素が存在し、しかも、妨害成分も含まれる場合、リファレンスガスには被測定ガス中の妨害成分を除いたガスを用いることが有効である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のガス分析装置の例を示す概略構成図である。
【図2】本発明のガス分析装置の他の例を示す概略構成図である。
【図3】参考例の結果を示す図表である。
【図4】応用例5の結果を示す図表である。
【符号の説明】
【0063】
1・・ガスライン、2・・被測定ガス供給管、4・・リファレンスガス供給源、5・・FT−IR計、6・・UV計、7・・セル、8・・ヒーター、9・・光源、11・・圧力計、12・・質量流量計、13・・ポンプ、16・・分光計、23・・除去装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ガスと波長280〜290nm帯において吸収を示す成分が含まれた被測定ガスをセルに導き、被測定ガス中の波長280〜290nm帯の吸光度を測定して、被測定ガス中の波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度を求める紫外分光光度計と、
この紫外分光光度計のセル中の被測定ガスの温度、圧力、流量を制御する制御手段と、
被測定ガス中の波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の同定およびその定量を行うフーリエ変換赤外分光光度計と、
被測定ガスを前記紫外分光光度計とフーリエ変換赤外分光光度計とのセルに導く被測定ガス供給管路と、
前記紫外分光光度計のセルに波長280〜290nm帯において吸収を示さないガスをリファレンスガスとして供給するレファレンスガス供給源を備え、
前記紫外分光光度計で得られた波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度の表示値から、フーリエ変換赤外分光光度計で得られた波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の濃度を減じて、被測定ガス中のフッ素ガス濃度を求めるようにしたことを特徴とするガス分析装置。
【請求項2】
フッ素ガスと酸素と波長280〜290nm帯において吸収を示す成分が含まれた被測定ガスをセルに導き、被測定ガス中の波長280〜290nm帯の吸光度を測定して、被測定ガス中の波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度を求める紫外分光光度計と、
この紫外分光光度計のセル中の被測定ガスの温度、圧力、流量を制御する制御手段と、
被測定ガス中の波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の同定およびその定量を行うフーリエ変換赤外分光光度計と、
被測定ガスを前記紫外分光光度計とフーリエ変換赤外分光光度計とのセルに導く被測定ガス供給管路と、
前記紫外分光光度計のセルに波長280〜290nm帯において吸収を示さないガスをリファレンスガスとして供給するレファレンスガス供給源と、
前記被測定ガス供給管路のフーリエ変換赤外分光光度計の下流に設けられ、被測定ガス中の酸素以外の波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分を除去する除去装置を備え、
前記除去装置を通過した被測定ガスを前記紫外分光光度計に導入して酸素の吸収に基づくリファレンスデータを取り、前記除去装置を通過しない被測定ガスを紫外分光光度計に導入してデータを取り、このデータから前記リファレンスデータを差し引き、さらにフーリエ変換赤外分光光度計で得られた波長280〜290nm帯に光吸収を示すとともに赤外活性である成分の濃度を減じて、被測定ガス中のフッ素ガス濃度を求めるようにしたことを特徴とするガス分析装置。
【請求項3】
前記紫外分光光度計は、紫外光を発光する光源と、この光源からの紫外光を入射し、被測定ガスを満たすセルと、このセルを透過した紫外光を受光し、分光して分光光の強度を波長毎に測定する分光計と、この分光計からの光の強度に基づいて波長280〜290nm帯で光吸収を示す成分の濃度を求めるデータ処理部を備えているものであることを特徴とする請求項1または2記載のガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−196882(P2008−196882A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30280(P2007−30280)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】