説明

ガス定量分析方法及びガス定量分析装置

【課題】試料内に含まれる複数の成分分子の存在量の判定を、解裂を伴わないイオン化処理を活用して、当該試料から得られるガスに基づいてリアルタイムで正確に判定できるようにする。
【解決手段】目的分子の存在量が未知である試料から得られたガスの重量を求める熱重量測定工程(S32)と、ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データI(m/z,t)を求め、この質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、このマスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求める面積強度測定工程(S33〜S40)と、熱重量測定工程で求めたガスの重量と面積強度測定工程で求めた面積強度とに基づいて目的分子の存在量を求める定量演算工程(S40)とを有するガス定量分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に含まれる1つ又は複数の分子の存在量を求める分析である定量分析を行うガス定量分析方法及びガス定量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス分析方法として定性分析及び定量分析がある。定性分析は、測定対象である物質に含まれる分子の種類を判定するための分析である。分子の種類は、分子量や分子構造に関する情報に基づいて推定することができる。また、定量分析は、測定対象である物質に含まれる分子の存在量、例えば成分量、含有量、濃度等を判定するための分析である。
【0003】
従来、質量分析によって定量分析を行うことが知られている。この定量分析においては、まず、存在量が既知である分子に関して電子衝撃イオン化(Electro Impact Ionization:以下、EIという)処理によってマスクロマトグラム(横軸=時間又は温度、縦軸=イオン強度)を求め、このマスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求め、その面積強度と上記既知存在量との関係によって検量線を作成する。次に、成分分子の存在量が未知である試料に関してEI処理によってマスクロマトグラムを求め、さらにピーク波形の面積強度を求め、求められた面積強度を上記の検量線に当てはめることによって、当該分子の存在量を判定する。
【0004】
しかしながら、この従来の定量分析においては試料のイオン化をEI処理によって行っていたので、次のような問題があった。すなわち、EI処理では分子に電子を衝突させることによってその分子をイオン化するので、存在量を求めようとしている親分子に対応するイオン(親イオン)の生成に伴って、親分子の解裂によってフラグメントイオンが観測される。このフラグメントイオンは、分子の構造を推定する上で重要な因子を与えるものではあるが、このフラグメントイオンの存在によって親分子イオンの強度が弱められたり、あるいは、ある分子の親イオンに他の分子のフラグメントイオンが重なったりして、親分子イオンについての正確な情報が得られないことが多い。このため、EI処理に基づいて求められたマスクロマトグラムは成分分子のイオン強度を正確には反映しておらず、そのため、検量線も正確に作成できないし、未知試料の親イオン強度も正確に測定できなかった。
【0005】
質量分析に基づいた定量分析として、GC−MS(Gas Chromatograph−Mass spectrometer:ガスクロマトグラフ質量分析装置)を用いた分析も知られている。この装置においては、試料ガスを分離装置であるガスクロマトグラフに通し、通過した純粋な単一成分を質量分析装置で検出してマスクロマトグラムを求め、このマスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を算出し、算出された強度から検量線に従って単一成分の存在量を求める。
【0006】
GC−MSによれば、複数の単一成分の分子がEI処理によるイオン化領域内へ順次に運ばれて、それぞれにイオン化が行われるので、当該分子の親イオンが他の分子のフラグメントイオンの影響を受けることが無く、そのため、上記の単なるEI処理だけに基づいた定量分析に比べて、正確な定量分析を行うことができる。しかしながら、GC−MSにおいては、試料から発生したガスをGCによって経時的に分離しなければならないので、試料から発生したガスをリアルタイムで分析することができないという欠点がある。
【0007】
ここで、リアルタイムとは、試料等といったガス源から出るガスであって経時的に成分、成分比(濃度)等が変わるガスを、直接に分析すること、同時又は即時に分析すること、一旦捕集することなく分析すること、二次的な処理を加えることなく分析すること、あるいは、発生したままの成分内容及び成分比を維持した状態のガスを分析することである。
【0008】
ところで、本願発明者の一人は、非特許文献1において、標準試料に関してTG(Thermogravimetry:熱重量)測定及びMS(Mass Spectrometry:質量分析)測定を同時に行うことにより、脱ガス量(TG減量)と分子イオン強度の面積値との関係を表した検量線を予め作成し、存在量が未知である分子に関してイオン強度を測定して当該分子の存在量を上記検量線から求める、という定量方法を提案した。
【0009】
他方、EIの欠点であるフラグメントイオンを抑制できるイオン化として、近時、化学イオン化(Chemical Ionization:CI)、光イオン化(Photo-Ionization:PI)等が提案されている。これらのイオン化は、フラグメントイオンを抑制できるということから、ソフトイオン化と呼ばれることがある。このソフトイオン化によれば、分子の親分子イオンのみを選択的にイオン化して観測できるので、混合ガスに含まれる各成分分子を分子イオンごとにリアルタイムに識別できることになる。
【0010】
本発明者等は、既に、EI処理とソフトイオン化処理との両方の機能を備えた質量分析装置を提案している(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、EI処理とソフトイオン化処理とをそれぞれ単独で行うこと、及びそれらを同時に行うこと、についての手法について詳しく説明されている。また、それらのイオン化処理に基づいた質量分析に加えてTG測定を同時に行うことが簡単に触れられている。しかしながら、TG測定と質量分析とをどのように関連付けるかについての具体的な教示はなされていない。
【0011】
【非特許文献1】マテリアルインテグレーションVol.15、No.6、60〜63頁
【特許文献1】国際公開WO2007/108211パンフレット(第20〜48頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
非特許文献1に開示されたTG−MS測定においては、分子のイオン化はEIを用いて行われていた。このことは、非特許文献1には必ずしも明確に示されていないが、当時、分子のイオン化といえばEIが一般的であり、PIやCIは通常では用いられていなかったからである。しかしながら、EIによるイオン化では上記の通り、解裂によるフラグメントイオンが発生するので、仮に試料が複数の成分分子を含む場合には、イオン生成の際にそれらの分子間で相互作用が起こり、個々の成分分子の存在量を判定することは困難である。つまり、非特許文献1の技術は試料が単一成分である場合には有効であるが、試料が複数の分子を成分として有する場合には正確な定量分析を行うことができない。このことは、非特許文献1の「まとめ」の欄で述べられている。
【0013】
また、特許文献1では、EI及びソフトイオン化の両方を用いた質量分析と、TG測定とを組み合わせてガス分析を行うことが示唆されている。しかしながら、このガス分析の具体的な活用方法については触れられていない。
【0014】
本発明者等は、複数の成分分子を含む試料から得られるガスをリアルタイムで定量分析する際の分析精度の向上を目指して鋭意努力した。その結果、解裂を伴わないイオン化であるソフトイオン化を用いて質量分析を行ってマスクロマトグラムを求め、このマスクロマトグラムに基づいて定量分析を行えば、非常に正確な定量分析を短時間に行えることに想到した。
【0015】
従って、本発明は、試料内に含まれる複数の成分分子の存在量の判定を、解裂を伴わないイオン化処理を活用して、当該試料から得られるガスに基づいてリアルタイムで正確に判定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る第1のガス定量分析方法は、(1)目的分子の存在量が既知である標準試料から得られたガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データI(m/z,t)を求め、該質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求め、前記存在量と前記面積強度とに基づいて検量線を作成する検量線作成工程と、(2)目的分子の存在量が未知である試料から得られたガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データI(m/z,t)を求め、該質量分析データに基づいて前記分子のマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求める未知試料測定工程と、(3)前記検量線作成工程で求められた検量線に基づいて前記未知試料測定工程で求められた面積強度から前記目的分子の存在量を求める工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、ソフトイオン化処理によって得られたイオンに関して質量分析データを測定し、その質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを作成し、そのマスクロマトグラムに基づいて検量線を作成したり、その検量線を用いて定量を行う。ソフトイオン化はフラグメントイオンを生成することなく、親イオンだけを生成するイオン化であるので、作成されたマスクロマトグラムは成分分子のイオン強度を正確に反映しており、従って、最終的に求められた定量分析結果は、フラグメントイオンの発生を伴うEIを用いた分析に比べて、非常に正確で信頼性が高い。
【0018】
また、本発明では、試料内の成分分子をGC−MSのように一旦トラップして分離してから質量分析を行うのではなく、測定ガスの発生時の1回の測定だけで各分子の親イオンだけをソフトイオン化処理によって正確に個別に分離して、各分子に関して定量分析を行うことにしたので、定量分析をリアルタイムで行うことができる。つまり、本実施形態の定量分析によれば、非常に正確で信頼性の高い定量分析をリアルタイムで行うことができる。
【0019】
本発明に係る分析方法は、固体物質又は液体物質に含まれている分子の存在量を定量することに関して有効である。また、自動車、その他の車両から排出される排気ガス中に含まれる分子の存在量を定量することに関しても有効である。
【0020】
本発明に係る第2のガス定量分析方法は、(1)目的分子の存在量が未知である試料から得られたガスの重量を求める熱重量測定工程と、(2)前記ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データI(m/z,t)を求め、該質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求める面積強度測定工程と、(3)前記熱重量測定工程で求めたガスの重量と、前記面積強度測定工程で求めた面積強度とに基づいて前記目的分子の存在量を求める定量演算工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
本発明方法によれば、ソフトイオン化、例えばPIによって得られたイオンに関して質量分析データを測定し、その質量分析データに基づいてマスクロマトグラム(図9参照)を作成し、そのマスクロマトグラムに基づいて成分分子の定量を行う。ソフトイオン化はフラグメントイオンを生成することなく、親イオンだけを生成するイオン化であるので、作成されたマスクロマトグラムは成分分子のイオン強度を正確に反映しており、従って、最終的に求められた定量分析結果は、フラグメントイオンの発生を伴うEIを用いた分析に比べて、非常に正確で信頼性の高いものである。
【0022】
また、本発明方法では、成分分子をGC−MSのように一旦トラップして分離してから質量分析を行うのではなく、測定ガスの発生時の1回の測定だけで成分分子の親イオンだけをソフトイオン化によって正確に個別に分離して、成分分子に関して定量分析を行うことにしたので、定量分析をリアルタイムで行うことができる。つまり、本実施形態の定量分析によれば、非常に正確で信頼性の高い定量分析をリアルタイムで行うことができる。
【0023】
さらに、本発明方法では、検量線を用いることなく定量分析を行うことができる。このため、検量線を用いた定量分析に比べて、定量分析を非常に簡単に且つ短時間で行うことができる。
【0024】
本発明に係るガス定量分析方法において、前記ソフトイオン化処理は、前記目的分子に関してフラグメントイオンを生じさせないエネルギを持つ光を用いて行われる光イオン化処理であることが望ましい。このようなソフトイオン化処理としてCI、PI等がある。
【0025】
本発明に係る第1のガス定量分析方法は、前記検量線作成工程で求められた前記検量線の傾きから前記目的分子のイオン化効率を求め、さらにマスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を当該イオン化効率で補正する工程を有することが望ましい。
【0026】
本発明に係る第2のガス定量分析方法は、目的分子の存在量が既知である標準試料から得られたガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データI(m/z,t)を求め、該質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求め、前記存在量と前記面積強度とに基づいて存在量−面積強度線図を作成し、該存在量−面積強度線図の傾きから前記目的分子のイオン化効率を求め、マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を当該イオン化効率で補正する工程をさらに有することが望ましい。
【0027】
上記の「存在量−面積強度線図」は実質的に「検量線」と同じことであるが、第2のガス定量分析方法では検量線を用いないで定量を行うので、「存在量−面積強度線図」の文言を使っている。
【0028】
検量線や存在量−面積強度線図を用いてイオン化効率を求めるようにしたガス定量分析方法において、検量線や存在量−面積強度線図を作成する際に用いる標準試料が常温で揮発性の試料である場合には、その標準試料はピンホール付き容器に収容することが望ましい。
【0029】
本発明に係るガス定量分析方法は、前記質量分析データI(m/z,t)からマススペクトルを求め、該マススペクトルに基づいて前記分子の種類を同定する定性分析工程をさらに有することが望ましい。
【0030】
さらに、前記定性分析工程では、前記ガスを電子衝撃イオン化処理によってイオン化して第1マススペクトルを求め、前記ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して第2マススペクトルを求め、前記第2マススペクトルから成分分子のm/z値を求め、求めたm/z値に基づいて参照用データベースの出力データを絞り込み、絞り込んだ出力データと前記第1マススペクトルとを比較して成分分子を同定することが望ましい。
【0031】
次に、本発明に係る第1のガス定量分析装置は、(A)ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを生成する質量分析手段と、(B)前記質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを生成し、該マスクロマトグラムの面積強度を演算する面積強度演算手段と、(C)分子成分の存在量を入力する入力手段と、(D)前記質量分析手段、前記面積強度演算手段、及び前記入力手段の動作を制御する制御手段と、を有し、(E)前記制御手段は、検量線作成制御モード及び定量分析制御モードを有し、(F)前記制御手段は、(a)前記検量線作成制御モードにおいて、(ア)前記入力手段に入力されたデータを標準試料に含まれる分子成分の存在量として記憶手段に記憶させ、(イ)記憶された前記存在量と、前記面積強度演算手段によって演算された面積強度とに基づいて検量線を演算して記憶手段に記憶させ、(b)前記定量分析制御モードにおいて、(ア)前記質量分析手段によって質量分析データを生成し、(イ)前記面積強度演算手段によって前記質量分析データに基づいてマスクロマトグラムの面積強度を演算し、(ウ)演算した前記面積強度に基づいて前記検量線作成制御モードにおいて記憶手段に記憶された前記検量線に従って存在量を演算することを特徴とする。
【0032】
次に、本発明に係る第2のガス定量分析装置は、(1)試料から得られたガスの重量を求める熱重量測定手段と、(2)ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを生成する質量分析手段と、(3)前記質量分析データに基づいてマススペクトルを生成するマススペクトル生成手段と、(4)前記マススペクトルを画像として表示する表示手段と、(5)前記質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを生成し、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度をピーク波形ごとに演算する面積強度演算手段と、(6)前記熱重量測定手段によって求められたガスの重量と、前記面積強度演算手段によって演算されたピーク波形ごとの面積強度とに基づいて、ピーク波形に対応する成分の存在量を演算する定量演算手段と、を有することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
(第1実施形態)
以下、本発明に係るガス定量分析方法及びその装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。
【0034】
図1は、本発明に係るガス定量分析方法を実施するためのガス定量分析装置の一実施形態を示している。このガス定量分析装置1Aは、ソフトイオン化質量分析装置2、画像表示装置3、プリンタ4、入力装置6、及び制御装置7Aを有している。画像表示装置3は、例えば液晶表示装置等といったフラットディスプレイによって構成されている。プリンタ4は、例えば静電転写方式のプリンタによって構成されている。入力装置6は、マウス、キーボード等によって構成されている。
【0035】
被定量物であるガスGはソフトイオン化質量分析装置2の所定の入力ポートに供給される。ガスGは、存在量(すなわち、成分量、含有量)が未知である1つ又は複数の分子成分を含んだガスである。ガスGは、例えば加熱された固体試料から発生したガスや、自動車から排出された排気ガス等である。本ガス定量分析装置は、ガスGに含まれている分子の存在量を特定(すなわち、定量)するものである。
【0036】
本装置を発生ガス分析のために用いる場合には、ソフトイオン化質量分析装置2の前に試料処理部(図示せず)が設けられ、この試料処理部内の所定の試料位置に固体試料又は液体試料が置かれる。試料位置の周囲には温度調整器が設けられ、この温度調整器はヒータ及び必要に応じて冷却器を有している。固体試料の温度を所定のプログラムに従って昇温及び必要に応じて降温させたとき、その試料の特性に従って適宜の温度のときに試料からガスが発生し、このガスに含まれる1つ又は複数の分子が本実施形態のガス定量分析装置によって定量される。また、本装置を排気ガス中の分子の定量のために用いる場合には、排気ガスが直接にSI質量分析装置2へ供給される。
【0037】
ソフトイオン化質量分析装置2は、例えば、図2に示すように、被定量ガスGを受け取るソフトイオン化装置9と、イオン分離装置11と、イオン強度検出装置12と、それらの動作を制御するMS制御装置13とを有している。ソフトイオン化装置9は、導入されたガスを構成している分子をイオン化する装置であり、特にイオンの解裂を発生させることなく、成分分子だけをイオン化するものである。
【0038】
ソフトイオン化装置9は、例えば光イオン化(Photo-Ionization)装置や化学イオン化(Chemical Ionization)装置等を用いて構成されている。光イオン化装置及び化学イオン化装置は、それぞれ、PI装置及びCI装置と呼ばれることがある。PI装置は、分子に光を照射してその分子をイオン化する装置である。光の波長としては、長い方から順に紫外光、真空紫外光、軟X線等が用いられる。レーザ光を用いることもできる。CI装置は、反応ガス(試薬ガスと呼ばれることもある)分子のイオン化されたものをガスの成分分子に衝突させることにより、その成分分子をイオン化するものである。反応ガス分子のイオン化はEI(Electro Impact Ionization:電子衝撃イオン化)の原理によって行われる。PI処理でもCI処理でも、分子のイオン化の際に解裂が生じることなく、従って、分子量関連のイオンだけを得ることができる。
【0039】
イオン分離装置11は、生成されたイオンをm/z値(質量電荷比)別に分離してイオン強度検出装置12へ供給するものであり、例えば、電場や磁場を利用してイオンをm/z値ごとに分離する。電場を利用するものとして、4つの棒状電極を互いに平行に並べ、それらに印加する電圧を走査制御することによりイオンをm/z値別に分離する四重極形イオン分離装置を用いることができる。
【0040】
イオン強度検出装置12は、イオンが当たったときに電子を放出する電子増倍管を用いて構成されている。イオン強度検出装置12の出力端子には、m/z値ごとのイオン強度I(m/z)が出力される。なお、イオン分離装置11によるm/z値の走査は所定のステップ時間で行われるので、m/z値ごとのイオン強度I(m/z)は時間(t)を変数とした量として表すことができ、その場合には、I(m/z,t)として表すことができる。
【0041】
図1の制御装置7Aはコンピュータを用いて構成されている。具体的には、制御装置7Aは、CPU(Central Processing Unit/中央演算制御装置)14及びメモリ16を有している。CPU14は、周知の通り、コンピュータによって種々の機能を実現させるための演算を行ったり、コンピュータ内の各種機器の動作の制御を行ったりする。メモリ16は種々の情報を所定の処理形式で記憶するための記憶媒体であり、機械式メモリや半導体メモリによって構成されている。
【0042】
メモリ16には、コンピュータの内部メモリであるRAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)も含まれている。CPU14によって行われる処理は、RAMを一時記憶領域として用いて行われることがある。メモリ16の内部には、後述する定量分析を実行するためのプログラムソフトや、各種のデータを記憶するためのファイル領域や、各種のデータを記憶するためのメモリ領域が設けられている。
【0043】
以下、上記構成より成るガス定量分析装置1Aによって実施されるガス定量分析方法を図3に示すフローチャートを用いて説明する。なお、本実施形態では種々の分子を含む試料を測定対象とできるのであるが、これからの説明では、理解を分かり易くするために、ベンゼン(m/z=78)、トルエン(m/z=92)、及びキシレン(m/z=106)の3つの分子を成分とする物質を測定対象とし、その物質の中に含まれている各成分分子の含有量、すなわち成分量、すなわち存在量を特定すること、すなわち定量するものとする。
【0044】
なお、測定者は物質の中にベンゼン、トルエン、キシレンが含まれていることを明確には認識していないが、それらの分子が含まれているかもしれない、という程度の認識はあるものとする。また、本実施形態では、真空紫外光を用いたPI(光イオン化)処理によってソフトイオン化が行われるものとする。また、以下の説明で参照する図面においては、ベンゼンを「B」、トルエンを「T」、そしてキシレンを「X」で示すことがある。
【0045】
本実施形態のガス定量分析方法では、検量線を用いた定量分析が行われる。検量線は、通常、次のようにして作成される。すなわち、目的分子成分の存在量(成分量、含有量)が既知である標準試料を複数、調整し、それらの標準試料に対して質量分析を行ってイオン強度を求め、既知の存在量と測定したイオン強度とに基づいて検量線を作成する。図3では、ステップS1〜S4において検量線作成工程を示している。
【0046】
検量線の作成に際して、測定者はまず標準試料を調整、すなわち作成する。具体的には、例えば図4に模式的に示すように、ベンゼン(B)、トルエン(T)、キシレン(X)の個々に関して溶剤中の成分量(mg)がmb1〜mbn、mt1〜mtn、mx1〜mxnであるn個(nは正の整数)の標準試料を作成する。
【0047】
次に、測定者は、各分子についての標準試料S1,S2,…,Snを1つずつ交互に図2のソフトイオン化質量分析装置2内の試料処理部(図示せず)内の所定位置に置き、それぞれについて加熱等といった所定の処理を行って、それぞれの標準試料からガスを発生させる。発生したガスは、ステップS2においてPI(光イオン化)処理によってイオン化され、イオン分離装置11によってm/z値ごとに分離され、分離されたイオンの強度I(m/z,t)がイオン強度検出装置12によって測定される。このイオン強度I(m/z,t)が質量分析データである。
【0048】
次に、CPU14はステップS3において質量分析データに基づいて、図5に示すように、個々の標準試料S1,S2,…,Snのそれぞれについてマスクロマトグラムを作成する。マスクロマトグラムは、m/z値がそれぞれ78、92、106であるベンゼン、トルエン、キシレンのイオン強度の経時変化を示す線図である。図5では、便宜的に、各分子の1番目試料S1、2番目試料S2、…のマスクロマトグラムを1つのグラフ上に示している。これらのマスクロマトグラムは、必要に応じて図1の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。
【0049】
一般に、ガスをイオン化する手法として、光イオン化(PI)、化学イオン化(CI)等といったソフトイオン化と、親イオン(すなわち前駆イオン)の解裂を伴う電子衝撃イオン化(EI)とがある。仮に、図5のようなマスクロマトグラムをEIによって生成された質量分析データに基づいて行うとすると、図2のイオン化装置9内のイオン化領域において生成されたイオンの中には、ベンゼン(m/z=78)、トルエン(m/z=92)、キシレン(m/z=106)の分子の親イオン(前駆イオン)の他にそれらの親イオンに由来するフラグメントイオンも存在する。そして、ある親イオンに由来するフラグメントイオンが他の親イオン重なる状態が生じ、この場合には、マスクロマトグラムが成分分子のイオン強度を正確に表さない状態となる。
【0050】
これに対し、本実施形態で用いたPI処理によれば、イオン化領域において成分分子が解裂することなく、フラグメントイオンが発生せず、親イオンだけが生成される。従って、図5に示したマスクロマトグラムはベンゼン、トルエン、キシレンの各成分分子のイオン強度を正確に表している。
【0051】
次に、CPU14は、図6に示すように、個々のマスクロマトグラムのピーク波形の面積強度(斜線で示す面積)を計算する。図6では、各分子の1番目の標準試料S1に関する面積強度だけが示されているが、面積強度はS1,S2,…,Snの全ての標準試料に関して計算される。こうして求められた面積強度Ib1,It1,Ix1,…,Ibn,Itn,Ixnは、それぞれ、ベンゼン、トルエン、キシレンの各分子の存在量mb1,mt1,mx1,…,mbn,mtn,mxnに対応している。
【0052】
次に、CPU14はステップS4において検量線を作成する。具体的には、標準試料S1,S2,…,Snの調整時に予め記憶しておいた存在量mb1,mt1,mx1,…,mbn,mtn,mxnと、ステップS3で求めた面積強度Ib1,It1,Ix1,…,Ibn,Itn,Ixnとに基づいて、図7に示すように、ベンゼン、トルエン、キシレンのそれぞれについて検量線を演算によって作成する。これらの検量線は数式としてメモリ16のファイル領域又はメモリ領域に記憶される。なお、ベンゼン、トルエン、キシレンの各分子は固有のイオン化効率(イオンへの成り易さを示す値)を持っており、このイオン化効率はとりもなおさず、検量線の傾斜によって表されている。求められた検量線は、必要に応じて図1の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。以上により検量線が求められると、図1のガス定量分析装置1Aは、ベンゼン、トルエン、キシレンを成分とする試料に関する定量分析を行うことができる状態となる。
【0053】
次に、ベンゼン、トルエン、キシレンの各分子を含んでいるかもしれないことが分かっている物質に関して、それらの存在量(成分量、含有量)を特定したい、すなわち定量したい場合、測定者はその物質を試料として図2のソフトイオン化質量分析装置2の試料処理部に置く。そして、図1の入力装置6を操作して定量分析を開始する旨の指示を行う。CPU14は図3のステップS5において指示を確認し(ステップS5でYES)、次のようにして定量分析を行う。
【0054】
まず、ステップS6において、測定時間の計時を開始する。そして、ステップS7において図2のソフトイオン化質量分析装置2を用いてm/z値を走査させながら質量分析データI(m/z,t)を測定する。この質量分析データは、測定開始から時間t経過したときのm/z値ごとのイオン強度Iがいくつであったかを示すデータである。次に、CPU14は、ステップS8において、質量分析データI(m/z,t)に基づいて図8に示すようなマススペクトルを作成する。このマススペクトルは、m/z値ごとのイオン強度を棒グラフによって示した線図である。このマススペクトルにより、測定したガスの中にm/z値=78、92、106の分子が、表示されているイオン強度に対応した量だけ存在していることが分かる。このマススペクトルは、必要に応じて図1の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。
【0055】
一般に、マススペクトルによれば、分子をm/z値によって特定できるが、その分子の種類までは判断できない。本実施形態で言えば、測定されたガス中にm/z値=78、92、106の分子が存在することが分かるが、それらがベンゼン、トルエン、キシレンであることまでは判定できない。しかしながら、本実施形態では、測定対象の試料の中にベンゼン、トルエン、キシレンが含まれているらしいことが、分析開始前から予め認識されていたので、測定者が図8のマススペクトルを観察することにより、試料の中に目的分子であるベンゼン、トルエン、キシレンが間違いなく含まれていることを確認できる。こうして、測定者は目的分子の種類を判定、すなわち定性分析することができる。
【0056】
次に、ステップS9において、ステップS7で求めた質量分析データI(m/z,t)に基づいてm/z=78,92,106の分子のマスクロマトグラムを作成する。このマスクロマトグラムは、必要に応じて、例えば図9に示す線図として図1の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。本実施形態ではステップS8の定性分析により、これらの分子がそれぞれベンゼン、トルエン、キシレンであることが分かっている。
【0057】
次に、ステップS10でm/z=78,92,106から1つが選択されて、面積強度が計算によって求められ(ステップS11)、求められた面積強度をステップS4で求めた図7の検量線に代入して存在量を求める。これが、m/z=78,92,106の全て、すなわちベンゼン、トルエン、キシレンの全てについて行われる(ステップS13)。以上により、測定対象である試料に含まれる目的分子であるベンゼン、トルエン、キシレンの存在量が特定、すなわち定量される。
【0058】
本実施形態においては、図3のステップS2及びS7において、ソフトイオン化であるPIによって得られたイオンに関して質量分析データを測定し、その質量分析データに基づいてステップS3及びS9でマスクロマトグラム(図5、図9参照)を作成し、そのマスクロマトグラムに基づいて検量線を作成したり、その検量線を用いて成分量判定を行った。ソフトイオン化はフラグメントイオンを生成することなく、親イオンだけを生成するイオン化であるので、作成されたマスクロマトグラムはベンゼン等といった成分分子のイオン強度を正確に反映しており、従って、最終的に求められた定量分析結果は、フラグメントイオンの発生を伴うEIを用いた分析に比べて、非常に正確で信頼性の高いものである。
【0059】
また、本実施形態では、m/z値=78,92,106の各分子をGC−MSのように一旦トラップして分離してから質量分析を行うのではなく、測定ガスの発生時の1回の測定だけでm/z値=78,92,106の各分子の親イオンだけをPIによって正確に個別に分離して、各成分に関して定量分析を行うことにしたので、定量分析をリアルタイムで行うことができる。つまり、本実施形態の定量分析によれば、非常に正確で信頼性の高い定量分析をリアルタイムで行うことができる。
【0060】
以上の説明から分かるように、本実施形態は、ある物質に含まれている分子の存在量(成分量、含有量)を定量することに関して有効である。また、自動車、その他の車両から排出される排気ガス中に含まれる分子の存在量を定量することに関しても有効である。
【0061】
(第2実施形態)
図10は本発明に係るガス定量分析方法を実施できるガス定量分析装置の他の実施形態を示している。本実施形態では、上述した実施形態と同様に測定対象である試料の中に含まれる成分分子の種類が大体分かっているものとする。また、本実施形態では検量線を用いることなく定量分析を行うものとする。また、本実施形態では、試料を加熱したときにその試料から発生するガスに含まれる成分分子の存在量(成分量、含有量)を特定、すなわち定量するものとする。
【0062】
なお、本実施形態のガス定量分析方法においても、種々の分子を含む試料を測定対象とできるのであるが、これからの説明では、理解を分かり易くするために、ベンゼン(m/z=78)、トルエン(m/z=92)、及びキシレン(m/z=106)の3つの分子を成分とする物質を測定対象とし、その物質の中に含まれている各分子の成分量を定量するものとする。既述の通り、測定者は、試料の中にベンゼン、トルエン、キシレンの3種類の成分分子が含まれていることを、予め、大体、認識している。
【0063】
図10は、本実施形態のガス定量分析装置1Bを示している。このガス定量分析装置1BはTG(Thermogravimetry)装置19、ソフトイオン化質量分析装置2、画像表示装置3、プリンタ4、入力装置6、及び制御装置7Bを有している。画像表示装置3、プリンタ4、及び入力装置6は、図1の実施形態で用いたものと同じである。
【0064】
TG装置19は、例えば図11に示すように、試料室R0を形成するケーシング21と、ケーシング21の周囲に設けられた加熱手段としての加熱炉22と、ケーシング21の内部に設けられた天秤ビーム23とを有する。ケーシング21にはガス供給源24が配管26によって接続されている。ガス供給源24はキャリヤガス、例えば不活性ガス、例えばヘリウム(He)を放出する。
【0065】
加熱炉22は、例えば通電によって発熱する発熱線を熱源とする加熱装置によって構成されており、温度制御装置27からの指令に従って発熱し、さらに必要に応じて冷却される。温度制御装置27はコンピュータ、シーケンサ、専用回路等によって構成される。温度制御装置27は加熱炉22の経時的な温度情報、すなわち試料31の経時的な温度情報T(t)を信号として出力する。天秤ビーム23は支点28によって揺動自在に支持されている。天秤ビーム23の一端に試料皿29が設けられている。定量分析の分析対象である試料31はその試料皿29の上に置かれる。
【0066】
天秤ビーム23の他端の近傍に傾き検知センサ32が設けられている。この傾き検知センサ32は、例えば天秤ビーム23に固定された検知片と、その検知片を挟んで設けられた受光素子と発光素子と組合せとを有している。天秤ビーム23が傾き移動すると受光素子が受光する光量に変化が生じ、この光量変化によって天秤ビーム23の傾き量を検知できる。傾き検知センサ32は検知した傾き量に応じた信号を出力する。
【0067】
天秤ビーム23の適所にビーム傾動装置33が設けられている。このビーム傾動装置33は、例えば天秤ビーム23の適所に設けられた磁石と、その磁石の周囲に設けられた電磁コイルとの組合せを有している。これとは逆に、天秤ビーム23に電磁コイルを設け、その周囲に磁石を設けても良い。電磁コイルは通電によって磁界を発生し、この磁界の作用により磁石に力が加わり、この力により天秤ビーム23を支点28を中心として傾斜移動させることができる。電磁コイルに流される電流は天秤ビーム傾動装置34によって制御される。
【0068】
天秤ビーム傾動装置34は傾き検知センサ32の出力信号を受け取って、その出力信号が傾きゼロに対応した信号となるように、ビーム傾動装置33へ供給する電流量を制御する。このフィードバック制御により、天秤ビーム23は支点28によって常に水平状態を維持するように制御されている。天秤ビーム傾動装置34には重量演算装置36が取り付けられている。この重量演算装置36は天秤ビーム傾動装置34がビーム傾動装置33へ供給した電流量を情報として受け取り、試料31に発生した重量変化をその電流量に基づいて演算する。重量演算装置36は演算した試料の経時的な重量変化W(t)を信号として出力する。
【0069】
図10のソフトイオン化質量分析装置2は、図11に示すようにソフトイオン化装置9、イオン分離装置11、イオン強度検出装置12、及びMS制御装置13を有している。この構成は既述の第1実施形態において図2に示したソフトイオン化質量分析装置2と同じである。図11において、TG装置19のケーシング21の試料皿29の近傍にガス排気ポート37が設けられており、このガス排気ポート37とソフトイオン化質量分析装置2のソフトイオン化装置9のガス入力ポートとがガス搬送チューブ38によってつながれている。
【0070】
ガス搬送チューブ38はキャピラリチューブ、すなわち径の細いチューブであり、ガラス、合成樹脂、ゴムその他の適宜の材料によって形成されている。通常、ケーシング21の内部の試料室R0は大気圧であり、ソフトイオン化装置9の内部のイオン化領域は真空又はそれに近い減圧状態になっている。ガス搬送チューブ38はチューブの軸方向の長さと管の内径とを調整することによって、試料室R0とイオン化領域との間の圧力差を維持している。
【0071】
TG装置19においては、試料31が加熱炉22によって所定の昇温プログラムに従って加熱されて昇温する。昇温する試料31がそれ自身の特性に従って熱的に変化(例えば、分解)すると、試料31からガスが発生して、同時に試料31に重量変化が生じる。TG装置19は天秤ビーム23を介して試料31の重量変化を測定する。試料31からガスが発生した場合、そのガスは、配管26によってガス供給源24から送り出されたキャリヤガスによって搬送され、ガス搬送チューブ38を通ってソフトイオン化装置9へ搬送される。
【0072】
図10において、制御装置7Bはコンピュータを用いて構成されている。具体的には、制御装置7Bは、CPU14、メモリ16、及びイオン化効率データテーブル39を有している。CPU14は、周知の通り、コンピュータによって種々の機能を実現させるための演算を行ったり、コンピュータ内の各種機器の動作の制御を行ったりする。メモリ16は種々の情報を所定の処理形式で記憶するための記憶媒体であり、機械式メモリや半導体メモリによって構成されている。メモリ16には、コンピュータの内部メモリであるRAM及びROMも含まれている。
【0073】
メモリ16の内部には、後述する定量分析を実行するためのプログラムソフトや、各種のデータを記憶するためのファイル領域や、各種のデータを記憶するためのメモリ領域が設けられている。イオン化効率データテーブル39には、各種物質のイオン化効率の値がデータテーブルの形で記憶されている。この情報の中には、本実施形態における目的分子成分であるベンゼン、トルエン、キシレンに関するイオン化効率の値も含まれている。
【0074】
以下、上記構成から成る装置によって行われる定量分析の流れを図12に基づいて説明する。この分析を行うにあたって、測定者は、検量線を予め作成しておく必要はない。測定者は、まず、分析対象の試料を図11のTG装置19の天秤ビーム23の先端の試料皿29の上に置く。そして、図10の入力装置6を操作して分析の開始を指示する。図12のステップS31において分析の開始が確認されると(ステップS31でYES)、CPU14はステップS32において図11のTG装置19にTG測定を行わせ、さらにステップS33において図11のソフトイオン化質量分析装置2に質量分析データの測定を行わせる。
【0075】
具体的には、TG装置19において、まず、試料31が加熱炉22によって所定の昇温プログラムに従って昇温させられる。この昇温時、試料31が自身の物性に従って分解、脱離等といった構造変化を生じると、構造変化に係る分子がガスとなって試料31から分離し、試料31の重量が減少する。この重量変化は天秤ビーム23の傾斜移動によって検知され、重量演算装置36から重量変化データW(t)として出力される。重量変化データW(t)を線図として表したものがTG曲線であり、例えば図13(a)に示すような線図となる。
【0076】
図13(a)に示すTG曲線では、横軸に温度(℃)がとられ、縦軸に重量(mg)がとられている。試料の温度変化は図11の温度制御装置27の出力信号に基づいて時間変化として捉えることができるので、図13(a)の横軸は時間(t)軸とすることもできる。図13(a)に示すTG曲線では、温度T1と温度T2との間で重量W1が減少している。このことから、この時間帯において試料31から重量W1のガスが発生したことが分かる。ここで発生したガスは単一成分のガスではなく、ベンゼン、トルエン、キシレンの混合ガスである。もちろん、測定者は発生したガスがそれらの種類のガスであることを、この時点では認識できない。
【0077】
ステップS33における質量分析データの測定により、測定開始から時間t経過したときのm/z値ごとのイオン強度I(m/z,t)が質量分析データとして測定される。次に、CPU14は、ステップS34において、質量分析データI(m/z,t)に基づいて図8に示すようなマススペクトルを作成する。このマススペクトルは、m/z値ごとのイオン強度を棒グラフによって示した線図である。このマススペクトルにより、測定したガスの中にm/z値=78、92、106の分子が、表示されているイオン強度に対応した量だけ存在していることが分かる。このマススペクトルは、必要に応じて図10の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。
【0078】
一般に、マススペクトルによれば、分子をm/z値によって特定できるが、その分子の種類までは判断できない。本実施形態で言えば、測定されたガス中にm/z値=78、92、106の分子が存在することが分かるが、それらがベンゼン、トルエン、キシレンであることまでは判定できない。しかしながら、本実施形態では、測定対象の試料の中にベンゼン、トルエン、キシレンが含まれているらしいことが、分析開始前から予め認識されていたので、測定者が図8のマススペクトルを観察することにより、試料の中に目的分子成分であるベンゼン、トルエン、キシレンが間違いなく含まれていることを確認できる。こうして、測定者は目的分子成分の種類を判定、すなわち定性分析することができる。
【0079】
次に、ステップS35において、ステップS33で求めた質量分析データI(m/z,t)に基づいてm/z=78,92,106の分子のマスクロマトグラムを作成する。このマスクロマトグラムは、必要に応じて、例えば図9に示す線図として図10の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。本実施形態ではステップS34の定性分析により、これらの分子がそれぞれベンゼン、トルエン、キシレンであることが分かっている。
【0080】
図9に示すマスクロマトグラムを図13(a)に示したTG曲線に温度軸(横軸)の単位長さを合わせて重ね合わせると、図13(b)に示す合成図が得られる。CPU14は必要に応じてこの合成図を図10の画像表示装置3やプリンタ4によって表示できる。この合成図から明らかなように、TG曲線における重量の減少とマスクロマトグラムにおけるピーク波形とが時刻的に一致していることが分かる。
【0081】
次に、ステップS36でm/z=78,92,106から1つが選択され、さらにステップS37でその分子に関して面積強度が計算によって求められ、さらにステップS38で当該分子のイオン化効率によってその面積強度が補正される。この補正は、各物質間で単位重量に対するイオン化率が異なっていることを補償するために行われるものである。面積強度の算出及びイオン化効率の補正はm/z=78,92,106の全ての分子に対して行われる(ステップS39)。
【0082】
次に、ステップS40において、各分子の存在量の演算、すなわち定量の演算が行われる。具体的には、ステップS36〜S39で求められたベンゼン、トルエン、キシレンの各成分についてのマスクロマトグラム上での面積強度の比率を算出し、ステップS32でTG装置19によって求めた発生ガスの総重量W1を、各成分の面積強度比率に基づいて各成分に割り振る。これにより、ベンゼン、トルエン、キシレンの各成分についての存在量(成分量、含有量)が計算によって正確に求められ、定量分析が完了する。
【0083】
本実施形態においては、図12のステップS33において、ソフトイオン化であるPI(光イオン化)によって得られたイオンに関して質量分析データを測定し、その質量分析データに基づいてマスクロマトグラム(図9参照)を作成し、そのマスクロマトグラムに基づいて各成分分子の成分量の判定を行った。ソフトイオン化はフラグメントイオンを生成することなく、親イオンだけを生成するイオン化であるので、作成されたマスクロマトグラムはベンゼン等といった成分分子のイオン強度を正確に反映しており、従って、最終的に求められた定量分析結果は、フラグメントイオンの発生を伴うEIを用いた分析に比べて、非常に正確で信頼性の高いものである。
【0084】
また、本実施形態では、m/z値=78,92,106の各分子をGC−MSのように一旦トラップして分離してから質量分析を行うのではなく、測定ガスの発生時の1回の測定だけでm/z値=78,92,106の各分子の親イオンだけをPIによって正確に個別に分離して、各成分に関して定量分析を行うことにしたので、定量分析をリアルタイムで行うことができる。つまり、本実施形態の定量分析によれば、非常に正確で信頼性の高い定量分析をリアルタイムで行うことができる。
【0085】
図1〜図3に示した実施形態では検量線を用いて定量分析を行った。この検量線の作成処理は多数の標準試料を準備した上で行わなければならず、非常に面倒で長時間を要する処理である。これに対し、本実施形態では、検量線を用いることなく定量分析を行うことができるので、定量分析を簡単且つ短時間で行うことができる。
【0086】
(変形例)
上記の実施形態において、発生ガスに含まれる各成分分子間でイオン化効率が異なっていると、各成分分子をPIすなわちソフトイオン化した際に、仮に各成分の存在量が同じであってもイオン化された後のイオン量にバラツキが生じるおそれがある。上記実施形態では、種々の物質についてのイオン化効率の値を図10のデータテーブル39に予め記憶しておき、図12のステップS37においてマスクロマトグラムの面積強度を求めた後で、データテーブル39内のイオン化効率に基づいてその面積強度をステップS38において補正することにより、定量分析の精度を高めている。
【0087】
なお、各種の分子に対するイオン化効率の値が文献値によって提供されていれば問題は無いが、物質の種類によってはイオン化効率の値が提供されていないものがある。このような物質に関しては、測定者においてイオン化効率を決めなければならない。このことに関して、図7に示す検量線の傾きがイオン化効率を示していることを既に説明した。イオン化効率が文献値等として与えられていない物質に関しては、まず初めに検量線に相当する線図(すなわち、その分子の存在量とその分子のマスクロマトグラム上での面積強度との関係を表した線図/以下、存在量−面積強度線図)を求め、その線図の傾きを知ることにより、その物質のイオン化効率を知ることができる。
【0088】
ここで問題になるのは、イオン化効率を求めようとしている対象物質が常温(15〜30℃)で揮発性を有する場合であって、その対象物質それ自体を単体で所定の測定場所においてマスクロマトグラムを測定する場合である。既述の通り、検量線を求める際には、図9に示すようなマスクロマトグラムを対象物の存在量を異ならせて複数、作成する必要があるが、常温で揮発してしまう物質に関しては、マスクロマトグラムの横軸上で時刻ゼロの所で既にピーク波形が存在してしまい、ピーク波形の全体の面積強度を正確に算出することができないからである。
【0089】
この点に関して本発明者は考慮を重ねた。そしてその結果、揮発性物質のイオン化効率を存在量−面積強度線図(実質的に検量線)の傾きとして求める際には、重量が既知である揮発性物質をピンホール付き容器に収容した上で、ピンホールから出るガスをPIでイオン化してマスクロマトグラムのイオン面積強度を求めることが有効であることに想到した。このような容器は、例えば図14に示すように、有底で円筒形状の容器本体41に測定対象である揮発性物質42を入れ、ピンホール43を備えた蓋44を容器本体41の開口に固定することによって形成される。
【0090】
この試料収容方法によれば、ピンホール付き容器に収容した揮発性物質は測定開始の当初は容器の外へ出ることは無く、ある程度の時間が経ってから容器の外へ出てPIによってイオン化され、イオン強度が測定される。従って、図9に示すようなマスクロマトグラム上でのピーク波形の全体が確実に得られ、正確な存在量−面積強度線図を得ることができ、これにより、常温で揮発性を有する物質について正確なイオン化効率を得ることができる。
【0091】
なお、ピンホールの大きさは、常温において重量変化が微小(常温において重量変化が3.0%/s以下)であるような大きさであることが望ましい。また、実験によれば、直径5mmの円筒形状の容器においピンホール直径は50μm程度であることが適切であった。
【0092】
(第3実施形態)
図15は本発明に係るガス定量分析方法を実施できるガス定量分析装置のさらに他の実施形態を示している。本実施形態では、上述した各実施形態の場合とは異なって、測定対象である試料の中に含まれる成分分子の種類が測定者にとって全く分かっていないものとする。従って、第1実施形態(図1)及び第2実施形態(図10)とは異なって、精度の高い定性分析を行う必要がある。また、本実施形態では第2実施形態(図10)の場合と同様に検量線を用いることなく定量分析を行うものとする。また、本実施形態では、試料を加熱したときにその試料から発生するガスに含まれる分子の存在量(成分量、含有量)を特定、すなわち定量するものとする。
【0093】
なお、本実施形態のガス定量分析方法においても、種々の分子を含む試料を測定対象とできるのであるが、これからの説明では、理解を分かり易くするために、ベンゼン(m/z=78)、トルエン(m/z=92)、及びキシレン(m/z=106)の3つの分子を成分とする物質を測定対象とし、その物質の中に含まれている各成分分子の成分量を定量するものとする。既述の通り、測定者は、試料の中にベンゼン、トルエン、キシレンの3種類の成分分子が含まれていることを、全く認識していない。
【0094】
図15は本実施形態のガス定量分析装置1Cを示している。このガス定量分析装置1CはTG装置19、ソフトイオン化質量分析装置2、EI質量分析装置5、画像表示装置3、プリンタ4、入力装置6、及び制御装置7Cを有している。画像表示装置3、プリンタ4、及び入力装置6は、図1及び図10の実施形態で用いたものと同じである。ソフトイオン化質量分析装置2及びTG装置19は、図10の実施形態で用いたものと同じである。これらの同じ機器についての説明は省略することにする。
【0095】
EI質量分析装置5は、例えば、図16に示すように、電子衝撃イオン化装置(以下、EI装置ということがある)49と、イオン分離装置51と、イオン強度検出装置52と、それらの動作を制御するMS制御装置53とを有している。イオン分離装置51及びイオン強度検出装置52は、それぞれ、ソフトイオン化質量分析装置2で用いたイオン分離装置11及びイオン強度検出装置12と同じ構成であるので、それらの説明は省略する。
【0096】
EI装置49は、導入されたガスを構成している分子をイオン化する装置である。このEI装置49は、例えば、分子に電子を衝突させて、分子中の電子を放出させることにより、イオンを生成する手法である。分子に当てる電子は、例えばフィラメントへ通電を行うことにより、そのフィラメントから熱電子として取り出すことができる。分子に対応するイオンは親イオン又は前駆イオンと呼ばれることがある。また、分子に電子を衝突させた際、分子が解裂することにより、広いm/z値範囲内でフラグメントイオンが親イオンと共に発生する。親イオンはガスを構成する分子の分子量に関連する情報を与え、フラグメントイオンは分子の構造に関する情報を与える。
【0097】
ソフトイオン化質量分析装置2のソフトイオン化装置9のガス入力ポート及びEI質量分析装置5のEI装置49のガス入力ポートが、それぞれ、ガス搬送チューブ48によってTG装置19のガス排気ポート37につながれている。ガス搬送チューブ48は1本ずつのキャピラリチューブをガス排気ポート37とソフトイオン化装置9との間、及びガス排気ポート37とEI装置49との間に設けた構成であっても良いし、あるいは、ガスを2方向へ分岐して搬送できる構造を備えた1本のキャピラリチューブによって形成しても良い。
【0098】
TG装置19においては、試料31が加熱炉22によって所定の昇温プログラムに従って加熱されて昇温する。昇温する試料31がそれ自身の特性に従って熱的に変化(例えば、分解)すると、試料31に重量変化が発生し、同時に試料31からガスが発生する。TG装置19は天秤ビーム23を介して試料31の重量変化を測定する。試料31からガスが発生した場合、そのガスは、配管26によってガス供給源24から送り出されたキャリヤガスによって送り出され、ガス搬送チューブ48を通ってソフトイオン化装置9及びEI装置49へ搬送される。
【0099】
図15の制御装置7Cはコンピュータを用いて構成されている。具体的には、制御装置7Cは、CPU14と、メモリ16と、NIST(National Institute of Standards and Technology)テーブル17と、イオン化効率テーブル18とを有している。CPU14は、周知の通り、コンピュータによって種々の機能を実現させるための演算を行ったり、コンピュータ内の各種機器の動作の制御を行ったりする。メモリ16は種々の情報を所定の処理形式で記憶するための記憶媒体であり、機械式メモリや半導体メモリによって構成されている。メモリ16には、コンピュータの内部メモリであるRAM及びROMも含まれている。
【0100】
NISTテーブル17は、各種の物質をEI処理によってイオン化した上で質量分析を行った場合のマススペクトルを記憶して成る周知のデータテーブルであり、混合物でない単一成分から成る化合物の130万件程度のマススペクトルが格納されている。例えば、図17に示すように、m/z値、化合物名、及びEIマススペクトルがそれぞれ対応付けられて記憶されている。図17では、例として、m/z=78、92、106に対応するデータ例を示している。
【0101】
例えば、図15において、入力装置6を操作してCPU14を通してNISTテーブル17へ(m/z)=78の化合物を検索すると、図18に示す検索結果が得られ、それが画像表示装置4の画面上に表示される。(m/z)=78を指示すると、図18の左欄46に示すように、図17のアルシン(Arsine)及びベンゼン(Benzene)を含む17種類の化合物が(m/z)=78に該当する化合物であるとしてリストアップされる。その他の(m/z)値に関しても、通常、複数の化合物がリストアップされる。
【0102】
図15のイオン化効率テーブル18には、例えば図19に示すように、種々の化合物のイオン化効率が(m/z)値別に記憶されている。これらの値は、予め実験によって求めたもの、あるいは文献値である。
【0103】
以下、上記構成から成る装置によって行われる定量分析の流れを図20に基づいて説明する。この分析を行うにあたって、測定者は、検量線を予め作成しておく必要はない。測定者は、まず、分析対象の試料を図16のTG装置19の天秤ビーム23の先端の試料皿29の上に置く。そして、図15の入力装置6を操作して分析の開始を指示する。図20のステップS51において分析の開始が確認されると(ステップS51でYES)、CPU14はステップS52において図16のTG装置19にTG測定を行わせ、さらにステップS53において図16のソフトイオン化質量分析装置2及びEI質量分析装置5の両方に質量分析データの測定を行わせる。
【0104】
TG測定により、例えば図13のTG曲線が得られる。また、ステップS53における質量分析データの測定により、測定開始から時間t経過したときのm/z値ごとのイオン強度I(m/z,t)がソフトイオン化に基づいた質量分析データ及びEIに基づいた質量分析データの両方の形で測定される。周知の通り、ソフトイオン化に基づいた質量分析データはフラグメントイオン(解裂イオン)を含まない親イオンだけのデータであり、EIに基づいた質量分析データは親イオン及びフラグメントイオンの両方に関するデータである。
【0105】
次に、CPU14は、ステップS54において、ソフトイオン化に基づいた質量分析データI(m/z,t)及びEIに基づいた質量分析データI(m/z,t)の両方に基づいて定性分析を行う。この定性分析は、試料31に含まれる分子の種類を特定するための分析である。本実施形態では、試料31にベンゼン、トルエン、キシレンが含まれる場合を考えているが、この定性分析を行うことにより、初めて、それらの成分分子が特定される。本実施形態では、ソフトイオン化とEIの両方を用いることにより、非常に正確な定性分析を実現しているのであるが、この定性分析については後述する。
【0106】
上記の定性分析が完了した後、ステップS55において、ステップS53で求めたソフトイオン化に基づいた質量分析データI(m/z,t)に基づいてm/z=78,92,106の分子のマスクロマトグラムを作成する。このマスクロマトグラムは、必要に応じて、例えば図9に示す線図として図15の画像表示装置3の画面上に表示されたり、プリンタ4によって用紙等の上にプリントされ、測定者がそれらを確認できる。本実施形態ではステップS54の定性分析により、これらの分子がそれぞれベンゼン、トルエン、キシレンであることが分かっている。
【0107】
図9に示すマスクロマトグラムを図13(a)に示したTG曲線に温度軸(横軸)の単位長さを合わせて重ね合わせると、図13(b)に示す合成図が得られる。CPU14は必要に応じてこの合成図を図15の画像表示装置3やプリンタ4によって表示できる。この合成図から明らかなように、TG曲線における重量の減少とマスクロマトグラムにおけるピーク波形とが時刻的に一致していることが分かる。
【0108】
次に、ステップS56でm/z=78,92,106から1つが選択され、さらにステップS57でその分子に関して面積強度が計算によって求められ、さらにステップS58で当該分子のイオン化効率によってその面積強度が補正される。この補正は、各物質間で単位重量に対するイオン化率が異なっていることを補償するために行われるものである。面積強度の算出及びイオン化効率の補正はm/z=78,92,106の全ての分子に対して行われる(ステップS59)。
【0109】
次に、ステップS60において、各成分分子の成分量の演算、すなわち定量の演算が行われる。具体的には、ステップS56〜S59で求められたベンゼン、トルエン、キシレンの各成分についてのマスクロマトグラム上での面積強度の比率を算出し、ステップS52でTG装置19によって求めた発生ガスの総重量W1を、各成分の面積強度比率に基づいて各成分に割り振る。これにより、ベンゼン、トルエン、キシレンの各成分についての存在量(成分量、含有量)が計算によって正確に求められ、定量分析が完了する。
【0110】
本実施形態においては、図20のステップS53において、ソフトイオン化であるPIによって得られたイオンに関して質量分析データを測定し、その質量分析データに基づいてマスクロマトグラム(図9参照)を作成し、そのマスクロマトグラムに基づいて各成分分子の成分量の判定を行った。ソフトイオン化はフラグメントイオンを生成することなく、親イオンだけを生成するイオン化であるので、作成されたマスクロマトグラムはベンゼン等といった成分分子のイオン強度を正確に反映しており、従って、最終的に求められた定量分析結果は、フラグメントイオンの発生を伴うEIを用いた分析に比べて、非常に正確で信頼性の高いものである。
【0111】
また、本実施形態では、m/z値=78,92,106の各分子をGC−MSのように一旦トラップして分離してから質量分析を行うのではなく、測定ガスの発生時の1回の測定だけでm/z値=78,92,106の各分子の親イオンだけをPIによって正確に個別に分離して、各成分に関して定量分析を行うことにしたので、定量分析をリアルタイムで行うことができる。つまり、本実施形態の定量分析によれば、非常に正確で信頼性の高い定量分析をリアルタイムで行うことができる。
【0112】
図1〜図3に示した実施形態では検量線を用いて定量分析を行った。この検量線の作成処理は多数の標準試料を準備した上で行わなければならず、非常に面倒で長時間を要する処理である。これに対し、本実施形態では、検量線を用いることなく定量分析を行うことができるので、定量分析を簡単且つ短時間で行うことができる。
【0113】
(第1の定性分析)
さて、次に、図20のステップS54で行われる定性分析について図21に示すフローチャートに基づいて第1の分析方法を説明する。なお、本定性分析が完了するまでは、試料31にそのような成分分子が含まれているかは、全く分かっていない。
【0114】
図20のステップS54の定性分析が開始されると、ステップS53で測定したEI質量分析データI(m/z,t)に基づいて、例えば図22(a)に示すマススペクトルが求められる。ベンゼン、トルエン、キシレンの各成分のm/z値は、それぞれ、78、92、106であるが、EI処理に固有のフラグメントイオンが各成分の分子構造に応じて発生しており、広い範囲のm/z値にわたってイオンピークが現れている。他方、ステップS53で測定したソフトイオン化質量分析データI(m/z,t)に基づいて、例えば、図22(b)に示すマススペクトルが求められる。ソフトイオン化であるPIではフラグメントイオンが発生せず、親イオンのみが発生するので、(m/z)=78、92、106の3種類の親イオンが現れている。
【0115】
図15のCPU14は、図21のステップS71において、図22(a)のEI測定データをファイル1に記憶する。また、ステップS72において、図22(b)のPI測定データをファイル2に記憶する。次に、CPU14は、ステップS73において、ファイル2に記憶された図22(b)のPI測定データから、発生ガスの(m/z)=78、92、106を判定し、さらに発生ガス数が3個であることを判定し、これらをメモリに記憶する。このとき、発生ガスの物質名までは分からない。さらに、CPU14は、ステップS74において、ファイル2に記憶された図22(b)のPI測定データから、発生ガスの成分分子のイオン強度比dを判定する。本実施形態では、(m/z)=78、92、106のイオン強度比dが、それぞれ、50、100、75であった。イオン強度比は、とりもなおさず、各成分分子の混合物全体に対する濃度比である。
【0116】
次に、CPU14は、ステップS75において、3つの(m/z)のうちの最も小さいもの「78」を選定し、さらにステップS76において、このイオン種のNISTデータをNISTテーブル17から参照用マススペクトルデータとして読み出す。このとき、NISTテーブル17からは、図23(a)に示すベンゼンのマススペクトル(m/z=78)を含み、それ以外にも(m/z)=78と判定した多数の化合物が検索される。
【0117】
次に、ステップS77において、読み出された多数の参照用データに(m/z)=78に相当するイオン強度比dを掛ける。これは、NISTデータが規格化された値である一方で、実際の発生ガスでは図22(b)に示すように各分子成分間で強度が異なっているので、その強度差を補償するために行われるものである。
【0118】
次に、ステップS78において、図15のイオン化率テーブル18から(m/z)=78の物質のイオン化効率IZを読出し、さらにステップS79でそのイオン化効率をNISTデータに掛ける。これは、NISTデータが規格化された値である一方で、実際の発生ガス内の各分子間ではイオン化効率が異なっているので、その相違を補償するために行われるものである。
【0119】
以上により、(m/z)=78の分子に関する参照用データが生成され、これらのデータはファイル3に記憶される。そして、ステップS73でメモリ1内に記憶された(m/z)のうち、処理が終わった(m/z)=78を除去する(ステップS80)。そして、ステップS81において、全ての成分分子について処理が終わったかどうかを判定し、終わっていなければ(ステップS81でNO)、ステップS75へ戻って、残りの(m/z)=92、106について、参照用EIデータ(ステップS79)を生成する処理を繰り返す。
【0120】
なお、これらの処理においては、図23(b)に示す(m/z)=92のトルエン及びその他の(m/z)=92に相当する分子に対して処理が行われる。そして、さらには、図24(a)に示す(m/z)=106のキシレン及びその他の(m/z)=106に相当する分子に対して処理が行われる。そして、最後の(m/z)までの処理が終わると、ステップS79のファイル3内には、(m/z)=78、92、106に対応した全ての参照用EIデータが蓄積されている。
【0121】
その後、CPU14は、ステップS82において、ステップS79のファイル3内に蓄積された(m/z)=78、92、106の3種類のEIデータを1つずつ合成する。その合成結果は、例えば、図24(b)に示すようなマススペクトルとなる。その後、その合成EIデータをステップS71でファイル1に記憶したEI測定データ(図22(a)参照)と比較する。具体的には、(m/z)及びイオン強度とを周知の所定のアルゴリズムに従って比較してヒット率%を演算する。そして、そのヒット率%が所定の値以上である場合に、そのときの合成EIデータを構成している3種の物質名及び混合比を、分析結果又は分析結果候補として決定する。
【0122】
以上のように、本実施形態によれば、発生ガス内の親イオンを推定し(ステップS73)、推定した親イオンのNISTデータを読出し(ステップS75〜S81)、読み出した成分分子ごとのNISTデータを合成した上でその合成データをEI測定データと比較する(ステップ82〜84)、という処理を繰り返すことにより、EI測定データに含まれた分子を判定することにした。
【0123】
この方法によれば、測定によって得られたEI測定データを膨大なNISTデータと直接的に検索するのではなく、PI測定データによって得られた分子量及び発生ガス数のデータを有効に活用してNISTデータを予め絞り込んだ状態でEI測定データと比較するものである。このため、最終的に得られる判定結果は非常に正確であり、演算の対象となるデータ数を大きく減じることができ、しかも、メモリ容量及び演算処理時間を大きく低減することができる。
【0124】
(第2の定性分析)
次に、図20のステップS54で行われる定性分析について図25に示すフローチャートに基づいて第2の分析方法を説明する。図21に示した第1の定性分析において説明したように、図15において、EI質量分析装置5によってEI測定データ(図22(a)参照)が得られる。また、PI質量分析装置2によってPI測定データ(図22(b)参照)が得られる。EI測定データはフラグメントイオンを含んでおり、PI測定データはフラグメントイオンのない親イオンのみを含んでいる。
【0125】
図15のCPU14は、図25のステップS101において、図22(a)のEI測定データをファイル1に記憶する。また、ステップS102において、図22(b)のPI測定データをファイル2に記憶する。次に、CPU14は、ステップS103において、ファイル2に記憶された図22(b)のPI測定データから、発生ガスの(m/z)=78、92、106を判定し、さらに発生ガス数が3個であることを判定し、これらをメモリに記憶する。このとき、発生ガスの物質名までは分からない。さらに、CPU14は、ステップS104において、ファイル2に記憶された図22(b)のPI測定データから、発生ガスの成分分子のイオン強度比dを判定する。本実施形態では、(m/z)=78、92、106のイオン強度比dが、それぞれ、50、100、75であった。イオン強度比は、とりもなおさず、各成分分子の混合物全体に対する濃度比である。
【0126】
次に、CPU14は、ステップS105において、3つの(m/z)のうちの最も小さいもの78を選定し、さらにステップS106において、このイオン種のNISTデータをNISTテーブル17から参照用マススペクトルデータとして読み出す。このとき、NISTテーブル17からは、図23(a)に示すベンゼンのマススペクトル(m/z=78)を含み、それ以外にも(m/z)=78と判定した多数の化合物が検索される。
【0127】
次に、ステップS107において、読み出された多数の参照用データに(m/z)=78に相当するイオン強度比dを掛ける。これは、NISTデータが規格化された値である一方で、実際の発生ガスでは図22(b)に示すように各分子成分間で強度が異なっているので、その強度差を補償するために行われるものである。
【0128】
次に、ステップS108において、図15のイオン化効率テーブル18から(m/z)=78の物質のイオン化率IZを読出し、さらにステップS109でそのイオン化効率をNISTデータに掛ける。これは、NISTデータが規格化された値である一方で、実際の発生ガス内の各分子間ではイオン化効率が異なっているので、その相違を補償するために行われるものである。
【0129】
以上により、(m/z)=78の分子に関する参照用データが生成され、これらのデータはファイル3に記憶される。そして、ステップS103でメモリ1内に記憶された(m/z)のうち、処理が終わった(m/z)=78を除去する(ステップS110)。そして、ステップS111において、(m/z)=78の分子に関する複数の参照用データの個々についての、ステップS101のファイル1に記憶されたEI測定データに対するヒット率を演算する。このヒット率は、(m/z)及びイオン強度に関して参照用データとEI測定データとを周知の所定のアルゴリズムに従って比較して演算される。複数の参照用データの中に所定のヒット率以上のヒット率のものがあれば、その化合物名をステップS113においてファイル4に記憶する。
【0130】
この検索処理を(m/z)=78で読み出された全ての化合物に対して行い、それが終了したときには、ステップS114において、ファイル4に記憶された全てのヒット化合物のマススペクトルをステップS101のファイル1内のEI測定データから減算する。これにより、残りの(m/z)=92、106に対応した化合物に対して検索処理を行う際の参照用データの数を絞り込むことができる。
【0131】
一般に、マススペクトルの検索アルゴリズムは、イオン強度の高い信号と分子量の大きい信号を用いてプロファイルフィッティングするため、混合ガスの場合、分子量の小さい成分は、大きい分子のフラグメントと区別し難くなり、定性することが難しい。これに対し本実施形態のように、(m/z)の小さい分子から順に検索処理を行うことにすれば、従来は分子量が小さいが故に検索にかかり難かった分子成分を確実に検査対象にすることができるようになる。
【0132】
以上により(m/z)=78の分子に関する検索が終わってその結果がファイル4に記憶された後、残りの(m/z)=92、106の分子に対しても同様にして検索が行われ(ステップS115でNO〜S114)、その結果、ファイル4内にヒット率が高い(m/z)=92、106の分子が記憶される。そして、全ての成分分子に対する検索処理が終わった後(ステップS115でYES)、ステップ116において、ファイル4内に記憶されている分子名及び混合比を分析結果又は分析結果候補として決定する。
【0133】
以上のように、本実施形態によれば、発生ガス内の親イオンを推定し(ステップS103)、推定した親イオンのNISTデータを読出し(ステップS105〜S110)、読み出した成分分子ごとのNISTデータをEI測定データと比較する(ステップ111)、という処理を繰り返すことにより、EI測定データに含まれた成分分子が何であるかを判定することにした。
【0134】
この方法によれば、測定によって得られたEI測定データを膨大なNISTデータと直接的に検索するのではなく、PI測定データによって得られた分子量及び発生ガス数のデータを有効に活用してNISTデータを予め絞り込んだ状態でEI測定データと比較するものである。このため、最終的に得られる判定結果は非常に正確であり、演算の対象となるデータ数を大きく減じることができ、しかも、メモリ容量及び演算処理時間を大きく低減することができる。
【0135】
(第4実施形態)
図26は本発明に係るガス定量分析方法及びその装置のさらに他の実施形態を示している。ここに示すガス定量分析装置1Dが図15に示したガス定量分析装置1Cと異なる点は、質量分析装置55に改変を加えたことであり、以下に詳しく説明する。なお、図15の実施形態と同じ部材は同じ符号で示すことにして、その説明は省略することにする。
【0136】
図15に示したガス定量分析装置1Cにおいては、EI質量分析装置5とソフトイオン化質量分析装置2とをそれぞれ別々の装置として設置した。これに対し、本実施形態では、EI質量分析装置とソフトイオン化質量分析装置とを1つの質量分析装置55によって構成している。図27はTG装置19及び質量分析装置55を詳細に示している。図27に示す構成は、国際公開WO2007/108211パンフレットの図6に開示された構成と略同様である。TG装置19は図16に示したTG装置19と同じ構成を有しているので、説明を省略する。
【0137】
質量分析装置55は、分析室R1を形成するケーシング58と、分析室R1内に設けられたイオン化装置59と、イオン分離手段としての四重極フィルタ61と、イオン検出装置62と、MS制御装置63とを有する。MS制御装置63は、イオン化装置59、四重極フィルタ61、及びイオン検出装置62の各要素の動作を制御する。また、MS制御装置63の中にはイオン検出装置62によって検出されたイオンの強度を演算するエレクトロメータが含まれている。
【0138】
ケーシング58にはターボ分子ポンプ67及びロータリーポンプ68が付設されている。ロータリーポンプ68は分析室R1内の圧力を粗く減圧し、ターボ分子ポンプ67はロータリーポンプ68によって粗く減圧された分析室R1内を真空状態又はそれに近い減圧状態へとさらに減圧する。
【0139】
四重極フィルタ61は、周知の通り、4つの棒状電極を有する。周波数が経時的に変化する高周波交流電圧と所定の大きさの直流電圧とが重畳された状態の走査用電圧がこれらの電極に印加される。この高周波走査用電圧が四重極に印加されることにより、それらの四重極の間を通過するイオンが分子のm/z値ごとに分離され、分離されたそのイオンが後段のイオン検出装置62へ送られる。
【0140】
イオン検出装置62は、イオン偏向器及び電子増倍管(いずれも図示せず)を有する。四重極フィルタ61によって選択されたイオンはイオン偏向器によって電子増倍管へ集められた上で電気信号として出力され、その信号がエレクトロメータによって計数されてイオン強度信号として出力される。
【0141】
イオン化装置59は、光放出手段としてのPI(Photo-ionization)用ランプ64と、EI(Electron Ionization)装置65とを有する。ランプ64はケーシング58を貫通した状態でそのケーシング58に固定されている。その固定部は封止部材によって気密に封止されている。ランプ64の光放射面はEI装置65に対向している。また、ランプ64の光放射面と反対側の端部はケーシング58の外側に位置している。
【0142】
EI装置65は、通電によって電子を放出する電子発生手段としてのフィラメント(図示せず)と、そのフィラメントを包囲する外部電極(図示せず)と、その外部電極と対を成す内部電極(図示せず)とを有する。外部電極及び内部電極は共にランプ64からの光を透過可能な構造、例えば、網状、螺旋状、透光性部材を用いた構造になっている。
【0143】
EI装置65内において、フィラメントに通電が成されると熱電子が発生し、外部電極と内部電極とに印加された電圧によりその熱電子が加速される。EI装置65の内部にガスが導入されれば、熱電子の衝突によりそのガスがイオン化される。他方、ランプ64が点灯すると、EI装置65の内部に導入されたガスが光によってソフトイオン化される。フィラメントへの通電を所定時間行い、その後、通電を止めてランプ64を所定時間点灯させれば、1回のガス導入に対してEI及びソフトイオン化の両方を行うことができる。また、フィラメントへの通電及び遮電とランプ64の点灯及び消灯とを所定時間内で短時間で交互に繰り返すことによっても、1回のガス導入に対してEI及びソフトイオン化の両方を行うことができる。
【0144】
TG装置19のガス排気ポート37と質量分析装置55のイオン化装置59のガス入力ポートとがガス搬送チューブ69によってつながれている。このガス搬送チューブ69は図11のガス搬送チューブ38と同じものであり、例えばキャピラリチューブによって形成されている。TG装置19のケーシング21の内部の試料室R0は大気圧であり、イオン化装置59の内部のイオン化領域は真空又はそれに近い減圧状態になっている。ガス搬送チューブ69はチューブの軸方向の長さと管の内径とを調整することによって、試料室R0とイオン化領域との間の圧力差を維持している。
【0145】
図26の制御装置7Dの構成は基本的には図15の実施形態で用いた制御装置7Cと同じである。図26のCPU14及び定量分析プログラムによって実行される制御の流れは基本的に図20に示した先の実施形態の場合と同じである。異なっているのは、ソフトイオン化質量分析装置2とEI質量分析装置5の制御方法である。図15の実施形態では、ソフトイオン化質量分析装置2とEI質量分析装置5とがそれぞれ別体に設けられていたので、それらは互いに独立して制御されていた。これに対し、図27に示す本実施形態では、PI用ランプ64とEI装置65とによって共通のイオン化領域が形成されているので、両者を全く同一のタイミングで作動させることはできない。
【0146】
従って、PI用ランプ64によるPIと、EI装置65によるEIとを互いにタイミングずらせて行う。例えば、所定の長さのイオン化処理時間の初めにPI又はEIの一方を実施し、残りの時間でPI又はEIの他方を実施するという制御が考えられる。他方、PIとEIとを短時間ずつ交互に繰り返すという制御も考えられる。本実施形態によれば、試料31から発生するガスが少量であっても、PI(すなわちソフトイオン化)に基づいた質量分析と、EIに基づいた質量分析とを正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明に係るガス定量分析装置の一実施形態を示す回路ブロック図である。
【図2】図1の主要部の構造図である。
【図3】本発明に係るガス定量分析方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図4】標準試料の模式図である。
【図5】マスクロマトグラムの一例を示す図である。
【図6】面積強度の計算例を示す図である。
【図7】検量線の一例を示す図である。
【図8】マススペクトルの一例を示す図である。
【図9】図8のマススペクトルに対応するマスクロマトグラムを示す図である。
【図10】本発明に係るガス定量分析装置の他の実施形態を示す回路ブロック図である。
【図11】図10の主要部の構造図である。
【図12】本発明に係るガス定量分析方法の他の実施形態を示すフローチャートである。
【図13】TG曲線及びTG曲線とマスクロマトグラムの関係を示す図である。
【図14】試料容器の一例を示す側面断面図である。
【図15】本発明に係るガス定量分析装置のさらに他の実施形態を示す回路ブロック図である。
【図16】図15の主要部の構造図である。
【図17】データベース内の情報の記憶例を示す図である。
【図18】図17の情報の表示例を示す図である。
【図19】他のデータベース内の情報の記憶例を示す図である。
【図20】本発明に係るガス定量分析方法のさらに他の実施形態を示すフローチャートである。
【図21】図20の主要工程の一例のフローチャートである。
【図22】EI測定データ及びPI測定データの一例を示す図である。
【図23】データベースに記憶されたマススペクトルの一例を示す図である。
【図24】データベースに記憶されたマススペクトル及びそれを合成してなるマススペクトルの一例を示す図である。
【図25】図20の主要工程の他の例のフローチャートである。
【図26】本発明に係るガス定量分析装置のさらに他の実施形態を示す回路ブロック図である。
【図27】図26の主要部の構造図である。
【符号の説明】
【0148】
1A,1B,1C、1D.ガス定量分析装置、 2.ソフトイオン化質量分析装置、
3.画像表示装置、 4.プリンタ、 5.EI質量分析装置、 6.入力装置、
7A,7B,7C,7D.制御装置、 9.ソフトイオン化装置、 11.イオン分離装置、 12.イオン強度検出装置、 13.MS制御装置、 14.CPU、 16.メモリ、 17.NISTテーブル、 18.イオン化効率テーブル、 19.TG装置、
21.ケーシング、 22.加熱炉、 23.天秤ビーム、 24.ガス供給源、
26.配管、 27.温度制御装置、 28.支点、 29.試料皿、 31.試料、
32.傾き検知センサ、 33.ビーム傾動装置、 34.天秤ビーム傾動装置、
36.重量演算装置、 37.ガス排気ポート、 38.ガス搬送チューブ、
39.イオン化効率データテーブル、 41.容器本体、 42.揮発性物質、
43.ピンホール、 44.蓋、 46.左欄、 48.ガス搬送チューブ、
49.電子衝撃イオン化(EI)装置、 51.イオン分離装置、 52.イオン強度検出装置、 53.MS制御装置、 55.質量分析装置、 58.ケーシング、 59.イオン化装置、 61.四重極フィルタ、 62.イオン検出装置、 63.MS制御装置、 64.PI用ランプ、 65.EI装置、 67.ターボ分子ポンプ、 68.ロータリーポンプ、 69.ガス搬送チューブ、 G.被定量ガス、 R0.試料室、
R1.分析室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的分子の存在量が既知である標準試料から得られたガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを求め、該質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求め、前記存在量と前記面積強度とに基づいて検量線を作成する検量線作成工程と、
目的分子の存在量が未知である試料から得られたガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを求め、該質量分析データに基づいて前記分子のマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求める未知試料測定工程と、
前記検量線作成工程で求められた検量線に基づいて前記未知試料測定工程で求められた面積強度から前記目的分子の存在量を求める工程と、
を有することを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項2】
目的分子の存在量が未知である試料から得られたガスの重量を求める熱重量測定工程と、
前記ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを求め、該質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求める面積強度測定工程と、
前記熱重量測定工程で求めたガスの重量と、前記面積強度測定工程で求めた面積強度とに基づいて前記目的分子の存在量を求める定量演算工程と
を有することを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のガス定量分析方法において、
前記ソフトイオン化処理は、前記目的分子に関してフラグメントイオンを生じさせないエネルギを持つ光を用いて行われる光イオン化処理である
ことを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項4】
請求項1記載のガス定量分析方法において、
前記検量線作成工程で求められた前記検量線の傾きから前記目的分子のイオン化効率を求め、マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を当該イオン化効率で補正する工程を有する
ことを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項5】
請求項2記載のガス定量分析方法において、
目的分子の存在量が既知である標準試料から得られたガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを求め、該質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを求め、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を求め、前記存在量と前記面積強度とに基づいて存在量−面積強度線図を作成し、該存在量−面積強度線図の傾きから前記目的分子のイオン化効率を求め、マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度を当該イオン化効率で補正する工程をさらに有する
ことを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のガス定量分析方法において、
前記標準試料は常温で揮発性の試料であり、該標準試料はピンホール付き容器に収容される
ことを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載のガス定量分析方法において、
前記質量分析データからマススペクトルを求め、該マススペクトルに基づいて前記分子の種類を同定する定性分析工程をさらに有する
ことを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項8】
請求項7記載のガス定量分析方法において、
前記定性分析工程では、
前記ガスを電子衝撃イオン化処理によってイオン化して第1マススペクトルを求め、
前記ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して第2マススペクトルを求め、
前記第2マススペクトルから目的分子のm/z値を求め、
求めたm/z値に基づいて参照用データベースの出力データを絞り込み、
絞り込んだ出力データと前記第1マススペクトルとを比較して目的分子を同定する
ことを特徴とするガス定量分析方法。
【請求項9】
(A)ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを生成する質量分析手段と、
(B)前記質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを生成し、該マスクロマトグラムの面積強度を演算する面積強度演算手段と、
(C)目的分子の存在量を入力するための入力手段と、
(D)前記質量分析手段、前記面積強度演算手段、及び前記入力手段の動作を制御する制御手段と、を有し、
(E)前記制御手段は、検量線作成制御モード及び定量分析制御モードを有し、
(F)前記制御手段は、
(a)前記検量線作成制御モードにおいて、
(ア)前記入力手段に入力されたデータを標準試料に含まれる目的分子の存在量として記憶手段に記憶させ、
(イ)記憶された前記存在量と、前記面積強度演算手段によって演算された面積強度とに基づいて検量線を演算して記憶手段に記憶させ、
(b)前記定量分析制御モードにおいて、
(ア)前記質量分析手段によって質量分析データを生成し、
(イ)前記面積強度演算手段によって前記質量分析データに基づいてマスクロマトグラムの面積強度を演算し、
(ウ)演算した前記面積強度に基づいて前記検量線作成制御モードにおいて記憶手段に記憶された前記検量線に従って存在量を演算する
ことを特徴とするガス定量分析装置。
【請求項10】
試料から得られたガスの重量を求める熱重量測定手段と、
ガスをソフトイオン化処理によってイオン化して質量分析データを生成する質量分析手段と、
前記質量分析データに基づいてマススペクトルを生成するマススペクトル生成手段と、
前記マススペクトルを画像として表示する表示手段と、
前記質量分析データに基づいてマスクロマトグラムを生成し、該マスクロマトグラムのピーク波形の面積強度をピーク波形ごとに演算する面積強度演算手段と、
前記熱重量測定手段によって求められたガスの重量と、前記面積強度演算手段によって演算されたピーク波形ごとの面積強度とに基づいて、ピーク波形に対応する分子の存在量を演算する定量演算手段と、
を有することを特徴とするガス定量分析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate


【公開番号】特開2009−210305(P2009−210305A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51414(P2008−51414)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】