説明

ガス放出機構を備えたキャンロールの製造方法

【課題】 キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部の熱コンダクタンスをほぼ均一にできるキャンロールの製造方法を提供する。
【解決手段】 筒状の基部10とその外周面10a上に設けられた最外周部13とからなり、これら基部10と最外周部13との間に、最外周部13の外周面側に放出するガスを導入する複数のガス導入路14が埋設されたキャンロールの製造方法であって、複数のガス導入路14の位置に、それぞれガス導入路14と略同形状の複数の樹脂体12を配設する工程と、複数の樹脂体12を覆うように基部10の外周面10a上に電気鋳造法で最外周部13を形成する工程と、最外周部13を形成した後に複数の樹脂体12を除去する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス導入路及びガス放出孔を経てキャンロールの外周面からガスを放出するガス放出機構を備えたキャンロールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、フレキシブル配線基板が用いられている。フレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムから作製される。近年、フレキシブル配線基板に形成される配線パターンはますます微細化、高密度化しており、金属膜付耐熱性樹脂フィルム自体がシワ等のない平滑なものであることがより一層重要になってきている。
【0003】
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法としては、従来から金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、あるいは耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法により、もしくは真空成膜法と湿式めっき法との組み合わせにより金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法における真空成膜法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
【0004】
メタライジング法については、特許文献1に、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成する方法が開示されている。また、特許文献2に、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングで形成した第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングで形成した第二の金属薄膜とが、この順でポリイミドフィルム上に積層されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。なお、ポリイミドフィルムの様な耐熱性樹脂フィルムに真空成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを製造する場合は、スパッタリングウェブコータを用いることが一般的である。
【0005】
ところで、上述した真空成膜法において、一般にスパッタリング法は密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。このシワの発生を防ぐため、前述したスパッタリングウェブコータでは、冷却機能を備えたキャンロールにロールツーロールで搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムを巻き付けることによって成膜中の耐熱性樹脂フィルムをその裏面側から冷却する方式が採用されている。
【0006】
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には上記キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されており、さらにクーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側に設けたサブロールによって長尺耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールとその外周面に密着して搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間するギャップ部(間隙)が存在している。このため、成膜の際に生じる長尺耐熱性樹脂フィルムの熱は、キャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因となっていた。
【0008】
この問題を解決するため、特許文献4ではキャンロール外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入する技術が提案されている。これにより、ギャップ部の熱伝導率が真空に比べて高くなるので、成膜中の長尺耐熱性樹脂フィルムの熱負荷が低減されて、シワの発生を効果的に抑制することが可能となる。なお、非特許文献2によれば、ギャップ部への導入ガスが圧力500Paのアルゴンガスであって、キャンロール外周面と耐熱性樹脂フィルムとの間の距離が約40μm以下の分子流領域のとき、ギャップ部の熱コンダクタンスは250(W/m・K)であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−98994号公報
【特許文献2】特許第3447070号公報
【特許文献3】特開昭62−247073号公報
【特許文献4】国際公開第2005/001157号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】"Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data," 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15-20, 2000, p.335
【非特許文献2】"Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design," 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding (2007), p.749
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したようにキャンロール側からギャップ部にガスを導入する場合は、キャンロールの最も外側の筒部内に複数のガス導入路を設け、各ガス導入路に外周面側に開口する複数のガス放出孔を設けることが行われてきた。このような構造のキャンロールは、例えば図1(a)〜(c)に示す方法で作製されている。すなわち、先ず図1(a)に示すような同心軸状の外筒部1と内筒部2とからなるジャケットロール構造を作製し、これら外筒部1と内筒部2との間に冷媒が流れる冷却水循環路3を設ける。次に、ガンドリルを用いて、図1(b)に示すように外筒部1の全周に亘って周方向に略均等な間隔をあけて回転軸方向に平行な複数のガス導入路4を穿孔する。そして、マイクロドリルあるいはレーザを用いて、図1(c)に示すように各ガス導入路4にキャンロールの外周面側に開口する複数のガス放出孔5を穿孔する。
【0012】
このように、キャンロールの外筒部の厚肉部に複数のガス導入路を穿孔するにはガンドリルを用いることが必要になる。しかしながら、ガンドリルは、その直径の約100倍までが実質的に穿孔可能な深さ(穴開け加工長さ)とされており、これより深い細穴を開けることは困難であった。そのため、例えば、金属膜付耐熱性樹脂フィルムの生産性を考慮して700mmを超える幅の広いキャンロールを作製する場合、そのガス導入路の長さ(深さ)は700mm程度になるので、ガンドリルの穴径を少なくとも7mm程度と太くする必要があり、結果的にガス導入路の直径が7mmを超えるものとなった。
【0013】
その結果、ガス導入路の容積が大きくなってガス溜まりが生じやすくなり、導入ガスの流量制御が不安定になることがあった。また、大きな穴径のガス導入路を形成するには外筒部の肉厚を厚くする必要が生じ、結果的に冷却水循環路から外筒部の表面までの距離が大きくなって、キャンロールの冷却効率が損なわれることがあった。
【0014】
さらに、ガンドリルは、穿孔する際に孔の周囲において肉厚の薄い方に傾きながら進んでいく性質がある。その結果、外筒部の外周面近くにガス導入路を穿孔すると、外周面に平行に穿孔しようとしても、その穿孔方向が徐々に外周面側に寄ってしまう。これを避けるためには、外筒部の厚み方向の中心部に穿孔することになるが、この場合は、外周面とガス導入路との間隔が大きくなるので、ガス導入路から外周面側に開口する微細なガス放出孔の孔開け加工が困難になる。このように、ガンドリルによるガス放出機構の製作には膨大な手間とコストを費やしていた。
【0015】
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、ロールツーロールで搬送される長尺耐熱性樹脂フィルムをキャンロールの外周面に巻き付けて熱負荷の掛かる成膜処理などの熱を冷却すると共に、フィルムのシワ発生を防止すべくキャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺耐熱性樹脂フィルムとの間のギャップ部にガスを放出することが可能なキャンロールの製造方法を提供することを目的としており、特に、長尺耐熱性樹脂フィルムの巻き付けられるほぼ全領域に亘って当該ギャップ部の間隔をほぼ一定にしてギャップ部の熱コンダクタンスをほぼ均一にできるキャンロールの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明が提供するキャンロールの製造方法は、筒状の基部とその外周面上に設けられた最外周部とからなり、これら基部と最外周部との間に、最外周部の外周面側に開口するガス放出孔にガスを導入する複数のガス導入路が埋設されたキャンロールの製造方法であって、複数のガス導入路の位置に、それぞれガス導入路と略同形状の複数の樹脂体を配設する工程と、複数の樹脂体を覆うように筒状の基部の外周面上に電気鋳造法で最外周部を形成する工程と、最外周部を形成した後に複数の樹脂体を除去する工程とからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガンドリルより細いガス導入路を短時間で形成できる上、ガス導入路のガス溜まりを小さくできるのでガス導入量の制御の制御性が向上する。さらに、ガス導入路を外筒部の表面近くに形成することができるため、ガス放出孔の深さを浅くすることができ、レーザもしくはマイクロドリルによる加工時間を短縮化することができる。
【0018】
また、外筒部全体の厚みが薄くなる上、電気鋳造により熱伝導性の良好な銅で外筒部を形成することができるため、成膜中の長尺樹脂フィルムを効率よく冷却することができる。その結果、従来のキャンロールに比べてキャンロールと長尺樹脂フィルムとのギャップ部全体において熱コンダクタンスをより一層向上させることができるので、長尺樹脂フィルムのシワの発生を極めて効率よく抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガス導入路を備えたキャンロールの従来の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明に係るキャンロールの製造方法の第1の実施形態を示す工程図である。
【図3】本発明に係るキャンロールの製造方法の第2の実施形態を示す工程図である。
【図4】ガス放出孔の穿孔方法の一具体例を示す工程図である。
【図5】本発明の製造方法で作製されたキャンロールが好適に使用されるロールツーロール方式の長尺基板処理装置の一具体例を示す模式図である。
【図6】図5の長尺基板処理装置が具備するキャンロールの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法によって得られるキャンロールは、長尺耐熱性樹脂フィルム(以降、単に長尺樹脂フィルムとも称する)が巻き付けられる外筒部が、筒状の基部と当該基部の外周面上に形成される最外周部とからなる。そして、これら基部と最外周部との間に複数のガス導入路が埋設されている。これら複数のガス導入路は、キャンロールの周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設されており、それらの各々に外周面側に開口する複数のガス放出孔が設けられている。これにより、ガス導入路にガスを供給することによって、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部にガス放出孔を介してガスを導入することが可能となる。
【0021】
ガス導入路は、回転軸方向に延在する長さ(深さ)がキャンロールの幅の50%以上であるのが好ましい。なぜなら、この値が50%未満では、上記ギャップ部全体に均等にガスを供給できなくなるからである。なお、ガス導入路は、キャンロールの幅方向における一方の側面から他方の側面まで貫通する貫通孔であってもよいし、一方の側面のみに開口する有底孔であってもよい。
【0022】
本発明では、上記構造のガス導入路を作製するため、先ず上記外筒部の構成要素である筒状の基部を用意し、その外周面側にガス導入路と略同形状の樹脂体を周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設する工程と、樹脂体を覆うように基部の外周面に電気鋳造法で最外周部を形成する工程と、最外周部の形成後に樹脂体を除去する工程とからなることを特徴としている。
【0023】
以下、図2(a)〜(e)の工程図を参照しながら、本発明の製造方法の第1の実施形態について説明する。なお、これら図2(a)〜(e)の工程図には、外筒部についての斜視図のみが部分的に示されている。先ず、図2(a)に示すような、外筒部の構成要素となる筒状基部10を用意する。この筒状基部10の内周面側には、当該筒状基部10と同じ幅を有し且つ同心軸状の筒状の内筒部(図示せず)を設ける。この内筒部の外周面と筒状基部10の内周面との間が冷媒の流れる冷却水循環路(図示せず)となる。筒状基部10の材質には、アルミ、銅、ステンレスなどの熱伝導が高く且つ電気鋳造時のめっき性に優れた材料が好ましい。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、筒状基部10の外周面10a上に、周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って複数の樹脂体12を配置する。これら樹脂体12は、後述するように電気鋳造法によって埋設された後、高温処理などによって除去され、よってガス導入路が形成される。従って、樹脂体12は、ガス導入路を設けたい箇所に、ガス導入路の形状と略同等の形状となるように成形する。
【0025】
図2(b)では、一例として筒状基部10の外周面10aに周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って形成された直方体形状の複数の樹脂体12が、回転軸方向に平行に筒状基部10の幅方向の一端から他端まで延在している様子が示されている。なお、樹脂体12の形状はこれに限定されるものではない。例えば、樹脂体12の長手方向に直交する断面形状は、図2(b)に示す矩形のほか、三角形、台形、半楕円形、半円形、多角形などでもよい。
【0026】
また、各樹脂体12は、外周面10aに対して平行で且つ回転軸に対して傾斜する方向に延在してもよい。すなわち、各樹脂体12は、外周面10a上に延在している限り、S字形状等に湾曲したり屈曲したりしていてもよい。更に、各樹脂体12の一方の端部は、筒状基部10の端部まで延在していなくてもよい。但し、この場合であっても、樹脂体12の長さは筒状基部10の幅の50%以上であることが好ましい。
【0027】
樹脂体12に使用する樹脂には、後工程の電気鋳造工程では固形を保ち、その更に後工程の除去工程で除去できる材質を使用する。このような樹脂としては、例えば軟化点60℃以上100℃未満の樹脂を挙げることができる。樹脂の軟化点が60℃以上であれば、電気鋳造工程で樹脂が溶融することはない。一方、軟化点を100℃未満にすることによって、温湯に浸漬することで樹脂を容易に除去することができる。また、樹脂体12に使用する樹脂に、水溶性やアルカリ性水溶液可溶性のもの、又は非水溶性で有機溶媒のみに可溶のものを使用してもよい。このなかでは、使い勝手を考慮すると、水溶性又はアルカリ性水溶液可溶性であることが望ましい。
【0028】
例えば、樹脂体12にポリグリセリンの脂肪酸エステル樹脂とポリビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合物樹脂とを混合した樹脂を使用する場合は、それらの混合割合を適宜選択することによって、所望の軟化点を達成することができる。すなわち、前述したように、電気鋳造工程では固形を保ちつつ温湯で溶失させることができる。あるいは、樹脂体12にアビエチン酸等の三員環化合物を使用する場合は、電気鋳造工程では固形を保つ軟化点を達成しつつ、アルカリ性水溶液で溶解させることができる。このような性質を示す樹脂としては、例えば半導体ウエハー等の研磨や切断加工の際に使用する固着ワックスとして知られているものがある。
【0029】
上記のように、樹脂体12に使用する樹脂は、温湯に溶解することによって除去してもよいし、アルカリ性水溶液に溶解することによって除去してもよく、除去工程に用いる液体は樹脂の材料に基づいて適宜選択される。さらに、樹脂に銀粉末等の金属粉末やカーボン粉末を適宜添加することで導電性樹脂とすることも可能である。なお、樹脂体12は、例えば、ガス導入路の形状に成形した後に外周面10a上に配設したり、加熱により流動する樹脂をシリンジ等を用いてガス導入路の形状に吐出したりすることによって、筒状基部10の外周面10aに成形することができる。
【0030】
次に、図2(c)に示すように、樹脂体12を覆うように筒状基部10の外周面10aに電気鋳造法で最外周部13を形成する。ここで電気鋳造法とは、電気めっきにより金属を厚く析出させて加工する方法である。従って、その前処理として、樹脂体12を配した筒状基部10の表面にスパッタリング、無電解めっき、又は導電性塗料や導電性粉体の塗布を行って金属膜を形成し、樹脂体12に導電性を付与する必要がある。なお、樹脂体12自身が導電性樹脂で形成されているのであれば、上記前処理による導電性の付与は必要ない。
【0031】
電気鋳造法で形成された最外周部13の外周部には長尺樹脂フィルムが巻き付けられるので、最外周部13の形成後は、その外周面がキャンロールの回転軸方向に直交する断面において略真円状となるように研磨を行うのが望ましい。研磨は公知の方法を用いることができる。
【0032】
次に、筒状基部10とその外周面10aに形成された最外周部13とからなる外筒部を前述したように樹脂体12の材料に応じて温湯、アルカリ性水溶液、有機溶媒などに浸漬する。これにより樹脂体12が除去され、図2(d)に示すような複数のガス導入路14を備えた筒状部材が得られる。
【0033】
次に、この筒状部材の外周面側からガス導入路14に向かってレーザもしくはマイクロドリルによって穿孔する。これにより、図2(e)に示すように、各ガス導入路14に複数のガス放出孔15を開けることができる。図2(e)では一例として各ガス導入路14に5個のガス放出孔15を設けた場合が示されている。なお、マイクロドリルで穿孔する場合は、一般的に孔径の10〜20倍の深さまでが、限界とされている。
【0034】
銅製の最外周部13にレーザで穿孔する場合は、銅に吸収される可視域から近赤外域の発振波長を有するレーザを使用すればよく、特にパルスYAGレーザやファイバーレーザーが適している。また、銅の吸収がほとんど無い赤外線波長の炭酸ガスレーザでも加工表面に吸収塗料等を塗布すれば加工が可能になる。なお、上記方法は樹脂体12の除去後にガス放出孔15を穿孔するものであるが、この逆でもよい。すなわち、レーザなどによってガス放出孔15を穿孔した後に樹脂体12を除去してガス導入路14を形成してもよい。
【0035】
次に、図3(a)〜(e)の工程図を参照しながら、本発明の製造方法の第2の実施形態について説明する。この図3(a)〜(e)の工程図も、図2(a)〜(e)と同様に外筒部についての斜視図のみが部分的に示されている。この第2の実施形態の製造方法では、図2(a)と同様の筒状基部に対して、先ずその外周面を加工機を用いて研削し、図3(a)に示すように複数のガス導入路に相当する複数の溝部21を形成する。
【0036】
図3(a)には、一例として筒状基部20の外周面20aに周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って形成された複数の溝部21が示されている。各溝部21は、回転軸方向に平行に筒状基部20の幅方向の一端から他端まで延在している。このような構造の溝部21は、公知の機械加工技術を用いて研削することができ、従来のガンドリルによるガス導入路の形成とは異なり、加工時間を飛躍的に短縮化することができる。なお、溝部21は電気鋳造で形成しても良い。
【0037】
溝部21の長手方向に直交する断面形状は、図3(a)に示す矩形のほか、三角形、台形、半楕円形、半円形、多角形などでもよい。また、各溝部21の延在方向は、外周面20aに対して平行で且つ回転軸に対して傾斜する方向に延在してもよい。すなわち、各溝部21は、外周面20a上に延在している限り、S字形状等に湾曲したり屈曲したりしていてもよい。更に、各溝部21の一方のガス導入を行わない端部は、筒状基部20の端部まで延在していなくてもよい。但し、この場合であっても、溝部21の長さは筒状基部20の幅の50%以上であることが好ましい。
【0038】
次に、図3(b)に示すように、各溝部21に樹脂22を充填する。この樹脂22には、第1の実施形態の樹脂体12と同様の例えば軟化点60℃以上100℃未満の樹脂を使用することができる。そして、第1の実施形態の場合と同様に、樹脂22が導電性樹脂でない場合はスパッタリング等によって樹脂22に導電性処理を施す。
【0039】
次に、溝部21に樹脂22の充填された筒状基部20に電気鋳造法(厚付け電気めっき)を行うことにより、図3(c)に示すように最外周部23を形成する。この最外周部23の材料としては、熱伝導が高く、めっき(電鋳)の際の成長速度が速い銅、銀、ニッケルが適している。この電気鋳造法によって形成される最外周部23の厚みは、薄ければ薄いほど次工程のガス放出孔の加工性に優れるが、外周面を切削研磨加工する際、ある程度強度が必要であるため、1〜5mmが好ましい。なお、第1の実施形態において、非導電性の樹脂体12の表面を導電処理しないまま筒状基部10の外周面10aに電気鋳造法で金属を積層すると、結果的に溝部に樹脂が充填された図3(b)の構造と同様の構造を得ることが可能となる。
【0040】
最外周部23を形成した後は前述した第1の実施形態と同様にして温湯、アルカリ性水溶液、有機溶媒などに浸漬することによって樹脂22を除去し、図3(d)に示すようなガス導入路24を備えた筒状部材が得られる。得られた筒状部材に対して、更に第1の実施形態と同様にしてその外周面側からガス導入路24に向かってレーザもしくはマイクロドリルによって穿孔する。これにより図3(e)に示すように、各ガス導入路24に複数のガス放出孔25を設けることができる。
【0041】
ところで、上記第1及び第2の実施形態の製造方法は、レーザやマイクロドリルでガス放出孔を開けるものであったが、ガス放出孔を開ける方法はこれに限定されるものではない。例えば、第2の実施形態において溝部21に樹脂22を充填する際、図4(a)に示すように、ガス放出孔25に対応する位置に、それぞれ前述した樹脂22と同じ材料を用いて複数の突起部30を形成する。これら突起部30は、例えば公知の射出成形などで加工することができる。この状態で導電性処理を行った上、電気鋳造により最外周部31を形成する。その結果、図4(b)に示すように、電気鋳造で形成された最外周部31の外周面は、突起部30に対応する位置に山状の盛り上がり部32が形成される。
【0042】
そして、盛り上がり部32を有する最外周部31の外周面を、回転軸に直交する断面で真円状となるように研磨することによって、盛り上がり部分32では多めに金属が削られるため、前述した突起部30の樹脂が露出する。これによりガス放出孔25を形成することができる。このように、筒状基部に設けた樹脂の表面に突起部を形成することによって、レーザやマイクロドリル加工を用いることなくガス放出孔を形成することができる。
【0043】
なお、ガスロータリージョイントを使用しないことにより導入ガスの供給を部分的に停止する必要がない場合は、ガス導入路をキャンロールの外周面を取り巻くようならせん形状にしてもよい。また、最外周部の外周面には、搬送する長尺樹脂フィルムに擦り傷をつけないように、クロムめっき、ニッケルめっき、ダイヤモンドライクカーボンコーティング、タングステンカーバイトコーティング、窒化チタンコーティング等の硬質めっきによって外周面に処理を施してもよい。
【0044】
以上説明したように、本発明によるキャンロールの製造方法では、ガス導入路を形成する際にガンドリルを用いる必要がないので、所望の形状の細いガス導入路をキャンロールの外筒部の外周面の近くに形成することができる。また、本発明によるキャンロールの製造方法はガンドリルより細いガス導入路を短時間で形成できる上、ガス導入路のガス溜まりが小さくなるので、ガス導入量を制御する際の制御性が向上する。
【0045】
さらに、ガス導入路を外筒部の表面近くに形成することが可能なため、ガス放出孔の深さを浅くすることができ、レーザもしくはマイクロドリルによる加工時間を短縮化することができる。また、外筒部全体の厚みも薄くでき、しかも電気鋳造により熱伝導性の良好な銅で外筒部を製造することができるため、成膜中の長尺樹脂フィルムの冷却を効率よく行うことができる。このように、本発明の方法で作製した外筒部を備えたガス放出機構付きキャンロールをロールツーロール方式による長尺樹脂フィルムのスパッタリングウェブコータに設置することで、スパッタリング成膜時の熱的ダメージを著しく改善することが可能となる。
【0046】
キャンロールを備えたロールツーロール方式による長尺樹脂フィルムの処理装置としては、例えば図5に示す成膜装置、具体的にはスパッタリングによる真空成膜装置がある。このスパッタリングによる真空成膜装置について、図5を参照して具体的に説明する。尚、図5に示す長尺樹脂フィルムの成膜装置はスパッタリングウェブコータと称される装置であり、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムの表面に連続的に効率よく成膜処理を施す場合に好適に用いられる。
【0047】
ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50は、真空チャンバー51内に設けられており、巻出ロール52から巻き出された長尺樹脂フィルムFをモータでキャンロール56に巻き付けて搬送させながら、所定の成膜処理を行った後、巻取ロール64で巻き取るようになっている。これら巻出ロール52から巻取ロール64までの搬送経路の途中に配置されたキャンロール56はモータで回転駆動され、キャンロール56の内部には温調された冷媒が循環している。
【0048】
この成膜装置50では、スパッタリング成膜に際して、真空チャンバー51内を到達圧力10−4Pa程度まで減圧した後、スパッタリングガスの導入により0.1〜10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。真空チャンバー51の形状や材質については、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。上記した真空チャンバー51内の減圧状態を維持するため、真空チャンバー51には図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されている。
【0049】
巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール53と、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54とがこの順に配置されている。また、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺樹脂フィルムFは、キャンロール56の近傍に設けられたモータ駆動のフィードロール55によってキャンロール56の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させて搬送することができる。
【0050】
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺樹脂フィルムFの張力測定を行う張力センサロール62、及び長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
【0051】
上記巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転と、これに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻出ロール52から長尺樹脂フィルムFが巻き出されて巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
【0052】
キャンロール56の近傍には、長尺樹脂フィルムFがキャンロール56の外筒部上に巻き付けられる搬送経路に対向する位置に、成膜手段としてのマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が設けられている。なお、長尺樹脂フィルムFがキャンロール56の外筒部に巻き付けられる範囲に対応する、図5に示す角度範囲Aのことを、長尺樹脂フィルムFの抱き角と称することもある。
【0053】
金属膜のスパッタリング成膜の場合には、図5に示すように板状のターゲットを使用することができるが、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがある。これが問題になる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用することが好ましい。
【0054】
また、図5の長尺樹脂フィルムFの成膜装置50は、熱負荷の掛かる処理としてスパッタリング処理を想定したものであるため、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が図示されているが、熱負荷の掛かる処理が蒸着処理などの他のものである場合は、板状ターゲットに代えて他の真空成膜手段が設けられる。尚、他の熱負荷の掛かる真空成膜処理として、CVD(化学蒸着)又は真空蒸着などを用いることができる。
【0055】
上記した図5の成膜装置で使用されるキャンロールは、例えば図6に示す構造を有している。具体的に説明すると、外筒部1は、その周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って回転軸Oの方向に平行に配設された複数のガス導入路4を有している。これら複数のガス導入路4の各々は、キャンロールの回転軸Oの方向に略均等な間隔をあけて外周面側に開口する複数のガス放出孔5を有している。
【0056】
外筒部1の内面側には、冷却水などの冷媒が流通する冷却水循環路3が形成されている。冷却水循環路3は、図6のような外筒部1及びこれと同心軸状の内筒部2の間に形成してもよいし、パイプなどの流路を外筒部1の内周面に例えば螺旋状に配置してもよい。この冷却水循環路3内を流れる冷媒は、装置外部に設けられた冷媒冷却装置(図示せず)によって冷却されて冷却水循環路3との間で循環するようになっており、これによりキャンロールの外筒部1の温度調節が可能となる。このような構造をジャケットロール構造と称している。
【0057】
ガス供給ライン7から供給されたガスは、ガスロータリージョイント6を介して各ガス導入路4に分配され、ガス導入路4及びガス放出孔5を経て外筒部1の外周面から放出される。これにより、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部にガスが導入される。
【0058】
これらガス導入路4の本数や、各ガス導入路4が有するガス放出孔5の個数は、長尺樹脂フィルムの抱き各、長尺樹脂フィルムの張力やガスの放出量等に応じて、適宜定めることができる。各ガス放出孔5の内径は、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されない。しかし、ガス放出孔5の直径が1000μmを越えるとガス放出孔直上部の冷却効率が低下する原因となるため、一般的には30〜1000μm程度の直径が好ましい。
【0059】
各ガス導入路4に設ける複数のガス放出孔5については、小さな内径を有するガス放出孔5を狭ピッチにして多数は配置することが外筒部全面に亘って熱伝導性を均一化できるという点において好ましい。しかしながら、小さな内径のガス放出孔5を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には直径が100〜500μm程度のガス放出孔5を5〜10mmのピッチで配置することがより好ましい。
【0060】
複数のガス導入路4に供給するガスは、ガス供給ライン7からガスロータリージョイント6、パイプなどを経て各ガス導入路4に供給される。回転するキャンロール外周面において、長尺樹脂フィルムが接触する抱き角A以外の領域にガス導入路4が位置した時は、このガス導入路4にはガスの供給を遮断できるようなガス供給制御手段を備えることが好ましい。このようなガス供給制御手段としては、例えばガスロータリージョイント6内のガス流路を部分的に閉鎖できる、機械的又は電磁気的に作動する弁等を挙げることができる。
【0061】
これにより、キャンロールに長尺樹脂フィルムが巻き付いている抱き角Aの範囲内ではガス放出孔5からガスが放出されるためキャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとによって形成されるギャップ部にガスが放出される。一方、長尺樹脂フィルムが巻かれていない抱き角A以外に位置するガス放出孔5からはガスが放出されない。従って、導入したガスのほとんどをキャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間に形成されるギャップ部に放出できるため、ギャップ間隔をほぼ一定に維持するためのガス流量制御が容易になり、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部全体における熱コンダクタンスを均一にすることが可能となる。
【0062】
尚、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの間の距離が40μm程度のときは、ギャップ部内に放出されるガスを真空成膜装置が備える真空ポンプで排気することができる。従って、ギャップ部内に放出するガスの種類をスパッタリング雰囲気のガスの種類と同じにすれば、スパッタリング雰囲気を汚染することもない。
【0063】
本発明の製造方法で得られるキャンロールは、上述した成膜装置以外にも、プラズマ処理やイオンビーム処理にも好適に使用することができる。即ち、プラズマ処理やイオンビーム処理は、長尺樹脂フィルムの表面改質を目的として真空チャンバー内の減圧雰囲気下で行われるが、長尺樹脂フィルムに熱負荷が掛かる処理であるためシワ発生の原因となる。そのため、本発明の製造方法で得られるガス放出キャンロールを使用すれば、ガス放出キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ間隔をほぼ一定に維持することができ、熱コンダクタンスを簡単に均一にすることができるので、シワの発生をなくすことが可能となる。
【0064】
尚、プラズマ処理とは、公知のプラズマ処理方法により、例えばアルゴンと酸素の混合ガスまたはアルゴンと窒素の混合ガスからなる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマまたは窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルムを処理する方法である。また、イオンビーム処理とは、公知のイオンビーム源を用い、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして照射することにより、長尺樹脂フィルムを処理する方法である。
【0065】
また、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が挙げられる。これらの耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましいものである。
【0066】
長尺樹脂フィルムとして耐熱性樹脂フィルムを用い、金属膜をスパッタリング等により成膜することで、金属膜付耐熱性樹脂フィルムが得られる。具体的には、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いるメタライジング法により、シワのない金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを製造することができる。
【0067】
上記金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムとしては、耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等からなる膜とCu膜が積層された構造体が例示される。このような構造を有する金属膜付耐熱性樹脂フィルムは、サブトラクティブ法によりフレキシブル配線基板に加工される。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
【0068】
上記Ni合金等からなる膜はシード層と呼ばれ、Ni−Cr合金又はインコネル、コンスタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができるが、その組成は金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて選択される。また、金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの金属膜を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を形成することがある。尚、電気めっき処理のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとして無電解めっき処理を行い、二次めっきとして電解めっき処理等の湿式めっき法を組み合わせて行う場合もある。湿式めっき処理は、常法による湿式めっき法の諸条件を採用すればよい。
【0069】
このようにして、シワの発生のない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い歩留まりで作製し、液晶テレビ、携帯電話等のフレキシブル配線基板に適用することができる。尚、上記金属膜付耐熱性樹脂フィルムとして、長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層した構造体を例示したが、上記金属膜以外に目的に応じて酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等を用いることも可能である。それらの成膜処理に使用するキャンロールの製造方法にも、本発明のキャンロールの製造方法を用いることができる。
【実施例】
【0070】
図5に示す金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムの成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50を用いて、長尺樹脂フィルムF上にシード層であるNi−Cr膜を成膜し、その上にCu膜を成膜した。尚、長尺樹脂フィルムFには、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。また、キャンロール56には、本発明の製造方法で作製した図6に示すようなガス放出機構付きキャンロールを使用した。
【0071】
このガス放出機構付きキャンロールは、直径900mm、幅750mmであり、外筒部には電気鋳造法によって厚さ2mmの銅製の最外周部を形成した。また、断面が2mm×2mmの四角形のガス導入路を等間隔に360本形成し、各ガス導入路には10mm間隔で発振波長1.064μmのYAGレーザにより内径0.2mmのガス放出孔を47個設けた。ただし、長尺樹脂フィルムFの両端20mm付近にはガス放出孔が存在しないようにした。外筒部の外周面にはハードクロムめっきを施した。
【0072】
このガス放出機構付きキャンロールは以下の製造方法で作製した。まず、直径896mm、幅750mmのステンレス製ロールを用意した。このステンレス製ロールは、図6に示すような外筒部1及びこれと同心軸状の内筒部2からなるジャケットロール構造になっており、これら外筒部1と内筒部2との間に冷媒が流れる冷却水循環路3を形成した。
【0073】
外筒部1の筒状基部には、図3(a)に示すように周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って回転軸方向に平行な幅2mm、深さ2mm、長さ750mmの溝部21を360本を研削加工した。これら溝部21に図3(b)に示すように軟化点が80℃の導電性の樹脂22を充填した。この導電性の樹脂22は、ヘキサグリセリントリステアレート樹脂70%とポリビニルピロリドン・酢酸共重合体樹脂30%の混合樹脂と銀粉粉末を混錬して得た。
【0074】
次に、図3(c)に示すように電気鋳造法で最外周部23を形成し、95℃の温湯に浸漬して導電性の樹脂22を溶解により除去した。これにより図3(d)に示すように筒状基部20の周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設されたガス導入路24を設けた。なお、各溝部21の一端部は、ステンレス製の円盤を溶接して塞いだ。最初に各溝部21を両端まで研削加工したのは、各溝部に充填した樹脂を除去しやすくするためである。その後、最外周部23の表面をキャンロールの回転軸に直交する断面において略真円状になるように研磨した。最外周部23を研磨した後、図3(e)に示すように各ガス導入路24に複数のガス放出孔25を開口した。このようにして得たガス放出機構付きキャンロールの一方の側面(溝部21が端部まで形成されていた側面)のガス導入路24の入り口に、図6に示すようにガスロータリージョイント6を接続させた。
【0075】
成膜装置50のキャンロール56に長尺樹脂フィルムFを巻き付けて搬送するときの、長尺樹脂フィルムFが接触しない角度(フィルム抱き角A以外の角度)を約30°とした。これにより、この角度範囲に存在するガス導入路24は30本になる。この角度範囲に対応するガスロータリージョイント6内の流路ではガスが流通しないようにした。
【0076】
上記ポリイミドフィルムにシード層であるNi−Cr膜とCu膜を積層して成膜するため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタターゲット58〜60にはCuターゲットを使用した。また、アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は5kWとした。更に、巻出ロール52と巻取ロール64の張力は80Nとし、キャンロール56は水冷により20℃に制御した。
【0077】
そして、巻出ロール52に上記耐熱性ポリイミドフィルムをセットし、キャンロール56を経由して耐熱性ポリイミドフィルムの先端部を巻取ロール64に取り付けた。また、真空チャンバー51を複数台のドライポンプにより5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。次に、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分にした後、各マグネトロンスパッタカソードにアルゴンガスを導入して電力を印加し、キャンロール56にはアルゴンガスを1000sccm導入して、Ni−Cr膜及びその上にCu膜の成膜を開始した。
【0078】
成膜の際、マグネトロンスパッタカソードの間に設置したレーザ変位計により、耐熱性ポリイミドフィルムの表面形状を測定した。その結果、耐熱性ポリイミドフィルムはキャンロール56の外周面から約40μm離れていることが確認された。尚、キャンロール56の外周面と耐熱性ポリイミドフィルムとの間のギャップ間隔は、耐熱性ポリイミドフィルムの種類や厚さ、フィルム搬送張力、ガス導入量等により異なる。
【0079】
そして、成膜中におけるキャンロール56上のポリイミドフィルム表面の観察が可能な観察窓から観察しながら、各カソードへの印加電力を徐々に増加していった。その結果、スパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)は80kWであった。
【0080】
このように、本発明の製造方法で作製したガス放出機構付きキャンロールを採用した長尺樹脂フィルムの処理方法は、従来のガンドリルで作製したガス放出機構付きキャンロールに比べてスパッタリング電力を高くすることが可能なため、同じ膜厚を得るためのフィルム搬送速度を速くすることができ、生産性を向上させることができた。また、本発明のキャンロールの製造方法は、従来のガンドリルでの製作に比べてガス放出機構付きキャンロールを短時間で製作することができ、製作コストも安価であるため、このキャンロールを用いることにより金属膜付耐熱性樹脂フィルムのコストダウンに寄与することができた。
【符号の説明】
【0081】
1 外筒部
2 内筒部
3 冷却水循環路
4 ガス導入路
5 ガス放出孔
6 ガスロータリージョイント
7 ガス供給ライン
8 ベアリング
10 筒状基部
12 樹脂体
13 最外周部
14 ガス導入路
15 ガス放出孔
20 筒状基部
21 溝部
22 樹脂
23 最外周部
24 ガス導入路
25 ガス放出孔
30 突起部
31 最外周部
32 盛り上がり部
50 成膜装置
51 真空チャンバー
52 巻出ロール
53 フリーロール
54 張力センサロール
55 フィードロール
56 キャンロール
57〜60 マグネトロンスパッタリングカソード
61 フィードロール
62 張力センサロール
63 フリーロール
64 巻取ロール
F 長尺(耐熱性)樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の基部とその外周面上に設けられた最外周部とからなり、これら基部と最外周部との間に、前記最外周部の外周面側に放出するガスを導入する複数のガス導入路が埋設されたキャンロールの製造方法であって、
前記複数のガス導入路の位置に、それぞれガス導入路と略同形状の複数の樹脂体を配設する工程と、前記複数の樹脂体を覆うように前記基部の外周面上に電気鋳造法で前記最外周部を形成する工程と、前記最外周部を形成した後に前記複数の樹脂体を除去する工程とからなることを特徴とするキャンロールの製造方法。
【請求項2】
前記複数の樹脂体を配設する工程では、前記複数の樹脂体を前記基部の周方向に略均等な間隔をあけて全周に亘って配設し、各樹脂体はキャンロールの回転軸方向に平行で且つ当該回転軸方向の長さがキャンロールの幅の50%以上となるように形成することを特徴とする、請求項1に記載のキャンロールの製造方法。
【請求項3】
前記複数の樹脂体を配設する工程では、前記基部の外周面側に前記複数のガス導入路をそれぞれ画定する複数の溝部を形成し、前記複数の溝部に樹脂を充填することによって前記複数の樹脂体を配設することを特徴とする、請求項1または2に記載のキャンロールの製造方法。
【請求項4】
前記最外周部を形成する工程では、前記電気鋳造法の前に前記複数の樹脂体に導電性処理を施すことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキャンロールの製造方法。
【請求項5】
前記複数の樹脂体は軟化点が60℃以上100℃未満であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のキャンロールの製造方法。
【請求項6】
前記複数の樹脂体が導電性樹脂であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のキャンロールの製造方法。
【請求項7】
前記最外周部を銅で形成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のキャンロールの製造方法。
【請求項8】
前記複数のガス導入路の各々に、前記最外周部の外周面に開口する複数のガス放出孔をキャンロールの回転軸方向に略等間隔に設ける工程を更に有していることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のキャンロールの製造方法。
【請求項9】
前記複数のガス放出孔を設ける工程が、レーザもしくはマイクロドリルで穿孔する工程であることを特徴とする、請求項8に記載のキャンロールの製造方法。
【請求項10】
前記複数のガス放出孔を設ける工程が、前記複数の樹脂体を配設する工程において予め前記複数のガス放出孔に対応する位置にそれぞれ複数の樹脂製の突起を形成しておき、この状態で前記最外周部を形成する工程を行うことによって外周面に複数の盛り上がり部を備えた最外周部を形成し、その表面を研磨することによって前記複数のガス放出孔を開口させることを特徴とする、請求項8に記載のキャンロールの製造方法。
【請求項11】
前記複数のガス放出孔を設ける工程の後に、前記最外周部の外周面を、キャンロールの回転軸方向に直交する断面形状が略真円状となるように研磨する工程を更に含んでいることを特徴とする、請求項8または9に記載のガス放出キャンロールの製造方法。
【請求項12】
前記複数のガス放出孔を設ける工程の後に、前記最外周部の外周面に硬質めっきを施す工程を更に有していることを特徴とする、請求項8〜11のいずれかに記載のキャンロールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−7073(P2013−7073A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139117(P2011−139117)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】