説明

ガラス基板の割断方法および割断装置

【課題】強化ガラスに初亀裂となる傷を確実に入れることができ、スクライブが確実に形成され、ブレイクが真っ直ぐに走るようにすることができる割断方法および割断装置を提供する。
【解決手段】ガラス基板11の割断予定線12に沿って可視領域から紫外領域の波長を有するレーザビーム53をその焦点位置がガラス基板11の端部から割断予定線に沿った内側の位置の表面に位置するように集光させてスクライブの起点である表面亀裂17を形成するとともに、レーザビーム53の焦点をガラス基板11の内部に設定してレーザビーム53をガラス基板11に対して相対的に移動させて、表面亀裂17からガラス基板11の内部を通り、ガラス基板11の端面に延びる内部亀裂16を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスマートフォンやタブレット端末、ノートパソコン、タッチテーブルのスクリーンやテレビのスクリーンなどに使用されるフラットパネルディスプレイ用ガラス、特にガラス表面を化学強化したアルミノケイ酸ガラスやフロートガラスに熱処理を加えて風冷強化した強化ガラス、あるいは厚さが例えば3mm以上の肉厚ガラス(以下これらを強化ガラスと総称する)を割断するガラス基板の割断方法および割断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近ガラス割断において、過去1世紀にわたって使用されてきたダイアモンドチップによる機械的方法に代わって、レーザビーム照射による熱応力スクライブ方法(以下レーザスクライブと略記する)が使用されるようになってきた。
【0003】
レーザスクライブによれば、機械的方法に固有の欠点、すなわちマイクロクラック発生によるガラス強度の低下、割断時のカレット発生による汚染、適用板厚の下限値の存在などが一掃できる。
【0004】
ガラスをレーザスクライブする場合、ガラスの端部近辺に初亀裂と言われるクラックを形成することが必要である。従来、この初亀裂の形成は、ダイヤモンドを使ったカッタで傷を形成するいわゆるメカニカルな初亀裂形成方法が一般的である。この方法は、ダイヤモンドカッタなどの刃物でガラスの表面を引掻くことにより傷を形成するのであるから表面にしか傷が形成されない。ソーダガラスのように硬度が低いガラスでは従来のメカニカル方式で問題なかった。
【0005】
一方で、近年、スマートフォンやタブレット端末、ノートパソコン、タッチテーブルのスクリーンやテレビのスクリーンなどのフラットパネルディスプレイ用ガラスとしてガラス表面の硬度を増すために化学処理を施した強化ガラスが活用されている。
【0006】
このような強化ガラスは表面が硬いためにダイヤモンドカッタなどでは傷を入れ難く、表面に安定してキズを入れることが難しい。また、レーザスクライブの安定性を確実なものにするためには、安定した初亀裂を何本も形成する必要があるが、強化ガラスの表面が硬いために傷の深さが安定せず、強化層の厚みを突き破ることができない場合もある。さらに、余りに強い力でカッタを押圧すると、特に薄いガラスの場合などでは、表面だけに留まらず、ガラス自体が割れてしまう場合もある。
【0007】
このように、強化ガラスに安定した初亀裂を形成する上では、ダイヤモンドカッタのストローク、押圧力、ガラスの上での引掻く距離等の加工パラメータを最適に設定するのは試行錯誤が必要で、その最適範囲を見つけ出すのにも困難が伴っていた。
【0008】
そこで、初亀裂の形成手段としてダイヤモンドカッタなどの刃物でガラスの表面を引掻くことにより傷を形成するかわりに、パルス発振型のレーザを利用する方法が検討されている。
たとえば、ガラスの表面近傍に可視領域から近赤外領域の波長を有する第1レーザビームを集光させて初期クラックを形成し、初期クラックおよびその周辺に炭酸ガスレーザビームなどの第2レーザビームを照射して加熱し、しかる後に第2レーザビームの照射位置を移動させつつ第2レーザビームが照射された領域に冷却媒体を吹き付けて冷却することにより初期クラックを起点としてガラス割断クラックを進展させてガラスを割断するレーザ加工方法(特許文献1参照)や、脆性材料基板に対する透過率の高いレーザビームを用いて脆性材料基板を割断する方法において、トリガークラックから予測できない方向にクラックが生じる先走り現象を抑えるために、COレーザやYAGレーザを使用して脆性材料基板の一方側表面の基板側端よりも内側にトリガークラックを形成する方法(特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−260749号公報
【特許文献2】特許公開2010−89144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1によるレーザ加工方法は、可視領域から近赤外領域の波長を有する第1レーザビームを集光させて初期クラックを形成しているが、第1レーザビームの焦点位置の高さ調整がシビアであり操作性に問題がある。また、特許文献1にはガラスの表面近傍からの深さについての記述はあるが、実際にその技術で形成した初期クラックを起点として、加熱と冷却の組み合わせによるレーザスクライブを行ったという記載はない。従って、この初期クラックが形成されたとしても、実際にレーザスクライブをする場合にはどのような技術が必要となるのかについては全く記載されていない。
【0011】
実際、ガラス基板が強化ガラスである場合は、強く化学処理したガラスほどブレイクが難しく、さらに、ガラスが厚い場合にもブレイクのために大きな力が必要になり難しくなるが、特許文献1はこのような課題を解決する方法についての記載は一切ない。
また、ガラスの強化程度が強い場合、あるいはガラスが厚い場合には、ブレイクするために大きな曲げ応力が必要となり、ブレイクに困難が伴うがこの課題に対する解決策も何ら記載されていない。
【0012】
特許文献2によるレーザ加工方法は、初期クラックをガラスの端部でなく内側に入れることにより、そのクラックから前方の方向、つまりガラスの内側に向かってスクライブ溝が形成される。内側に初期クラックを入れるとスクライブの安定性が期待できるとの記載がある。
【0013】
しかし、ガラスの内側にクラックが形成された場合は、クラックから後方の方向のガラスの端の部分には、クラックやスクライブ溝が形成されていないため、ブレイクする場合に、割断予定線から外れた曲がった割断面となってしまうおそれがありブレイク時に直線性が得られない。このように、初期クラックを脆性材料の内側に形成した場合において、ブレイク後の割断面が割断予定線から外れてしまって湾曲する課題があるが、特許文献2には、この課題に対しては何ら解決手段が提示されていない。
また、特許文献1と同様に、ガラスの強化程度が強い場合あるいはガラスが厚い場合におけるブレイクするために大きな曲げ応力が必要となりブレイクに困難が伴う課題に対する解決策も何ら記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明はこれらの従来技術の課題を解決するもので、ガラス基板、特に強化ガラスにおいて、初亀裂となる傷を確実に入れることができ、スクライブが確実に形成されるとともに、ブレイクを容易にし、しかもブレイクが真っ直ぐに走るようにして、強化ガラスでも確実に割断させることができる割断方法および割断装置を提供することを目的とするものである。
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、ガラス基板の割断予定線に沿って加熱用の第1のレーザビームで加熱し、ガラス基板の第1のレーザビームによる加熱位置を割断予定線に沿って相対的に移動させてガラス基板にスクライブ溝を形成するガラス基板の割断方法であって、可視領域から紫外領域の波長を有する第2のレーザビームをその焦点位置がガラス基板の端部から割断予定線に沿った内側の位置の表面に位置するように集光させてスクライブの起点である初亀裂となる表面亀裂を形成するとともに、第2のレーザビームの焦点を前記ガラス基板の内部に設定して第2のレーザビームをガラス基板に対して相対的に移動させて、表面亀裂からガラス基板の内部を通り、ガラス基板の端面に延びる内部亀裂を形成するものである。
上記構成によれば、ガラス基板、特にガラス基板が強化ガラスで形成されたガラス基板において、初亀裂となる傷を確実に入れることができるのでスクライブ溝が確実に形成されるとともに、ブレイク工程においてブレイクを容易にし、しかもガラス基板の割断予定線の全体に亘ってブレイクが真直に走るようにすることができ、ブレイクの困難な強化ガラスでも確実に割断させることができる。
【0016】
また、スクライブ溝の形成は、第1のレーザビームで加熱した領域に冷却媒体を吹き付けて冷却することにより初亀裂となるキズを起点として初亀裂となるキズを進展させて形成している。
上記構成によれば、強化ガラスに十分な深さのスクライブ溝を確実に形成することができる。
【0017】
また、第2のレーザビームは可視領域で緑色を示す波長域のレーザビームであることが好ましい。
上記構成によれば、強化ガラスにおいて初亀裂となる表面亀裂およびガラス内部の内部亀裂を簡単かつ確実に形成することができる。
【0018】
また、内部亀裂がガラス基板の端面からガラス基板の内部に向かって延びる直線部と、ガラス基板の内部からガラス基板の表面における表面亀裂に向かって延びる曲線部により形成されたものである。
上記構成によれば、内部亀裂がガラス基板の深さ方向に延びて形成されておりこの内部亀裂がブレイクの案内をするので、ガラス基板の端部付近におけるブレイクの直線性を向上させることができる。
【0019】
また、内部亀裂がガラス基板の端面からガラス基板の内部に延び、かつガラス基板の表面に達する直線部により形成されたものである。
上記構成によれば、内部亀裂がガラス基板の深さ方向に延びて形成されておりこの内部亀裂がブレイクの案内をするので、ガラス基板の端部付近におけるブレイクの直線性を向上させることができる。
【0020】
また、内部亀裂がガラス基板の端面からガラス基板の内部に向かって延びる第1の波形部と、ガラス基板の内部からガラス基板の表面における表面亀裂に向かって延びる第2の波形部により形成されたものである。
上記構成によれば、内部亀裂がガラス基板の深さ方向に延びて形成されておりこの内部亀裂がブレイクの案内をするので、ガラス基板の端部付近におけるブレイクの直線性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スクライブの初亀裂となるキズを可視領域から紫外領域の波長を有するレーザビームで行なっているので、ビームの焦点位置に亀裂を形成でき、ガラスの表面だけに限られず、ガラスの内部にキズを入れることができる。したがって、強化ガラスの端部から内側の位置の表面に集光させてスクライブの初亀裂となるキズを形成するとともに、強化ガラスの端部における強化ガラスの厚さ方向の内部の位置から初亀裂となるキズに延びる内部亀裂を形成することができる。
【0022】
この結果、初亀裂となるキズから割断予定線に沿ってスクライブ溝が形成されてスクライブの安定性が向上する。また、ブレイク時には初亀裂となるキズの後方には強化ガラスの厚さ方向の内部においてガラスの端部に延びる内部亀裂が形成されているので、ブレイクによる割断がこの内部亀裂に沿って行なわれ、割断予定線に沿って高い直線性を有する割断面を形成することができる。
【0023】
また、内部亀裂を形成する際に、レーザビームの焦点位置を上下移動させることにより、ガラスの断面方向において高さ位置が異なるように自在に内部亀裂を形成できるので、強化ガラスの厚さが厚い場合でも容易にブレイクすることができる。
【0024】
また、レーザビームの焦点位置を上下移動させることにより、機械の精度に起因する位置ズレが発生した場合であっても、ガラスの表面に確実に初亀裂を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1に係る脆性材料割断装置の概略図
【図2】本発明の実施例1に係る脆性材料割断装置の初亀裂形成装置部の全体構成を示す概略図
【図3】本発明の実施例1に係る脆性材料割断装置を用いて、ガラス基板を割断している最中の実施態様を模式的に示した斜視図
【図4】本発明の実施例1に係る脆性材料割断方法におけるガラス基板に初亀裂を形成しているときの実施態様を説明する断面側面図
【図5】本発明の実施例1に係る脆性材料割断方法における割断している最中の他の実施態様を模式的に示した斜視図
【図6】本発明の実施例2に係る脆性材料割断方法におけるガラス基板に初亀裂を形成しているときの実施態様を説明する断面側面図
【図7】本発明の実施例3に係る脆性材料割断方法におけるガラス基板に初亀裂を形成しているときの実施態様を説明する断面側面図
【図8】本発明の実施例2に係る脆性材料割断方法によって割段した厚さ1.1mmtのガラス基板サンプルの断面写真
【図9】本発明の実施例3に係る脆性材料割断方法によって割段した厚さ1.1mmtのガラス基板サンプルの断面写真
【図10】本発明の実施例3に係る脆性材料割断方法によって割段した厚さ1.1mmtのガラス基板サンプルの表面付近の拡大断面写真
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明においては、可視領域から紫外領域の波長を有するレーザビームをその焦点位置がガラス基板の端部から割断予定線に沿った内側の位置の表面に位置するように集光させてスクライブの起点である初亀裂となる表面亀裂を形成するとともに、このレーザビームの焦点をガラス基板の内部に設定してレーザビームをガラス基板に対して相対的に移動させて、表面亀裂からガラス基板の内部を通りガラス基板の端面に延びる内部亀裂を形成させる。
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明では脆性材料としてガラス基板を例に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1は本発明による強化ガラスの割断方法を実施するための割断装置の全体構成を示す概念図である。ガラス基板11は可動式テーブル32上に載置され、可動式テーブル32はX−Y駆動装置によりX−Y平面において移動する。図においては、ガラスの移動方向であるY軸駆動用のサーボモータ33とシャフト軸のみが示されており、X軸駆動系は図示省略されている。
【0028】
ガラス基板11を加熱するためのレーザ発振器は、COレーザ25が用いられている。COレーザ25はたとえば最大出力100Wのガス封じ切り型が使用される。ガラス基板11の表面強化層が厚かったり、ガラス基板11の厚さが3mm以上など厚い場合には、ブレイクが困難である場合がしばしばあるので、最大出力が100W以上のレーザ発振器を使用することが好ましい。
【0029】
ビーム径φ4mmのレーザビーム26が、ビームエキスパンダ27を通過することでビーム径が約4倍に拡大されφ16mmのビームとなる。拡大されたビームは、反射鏡28により鉛直下方に反射され、ビーム整形手段80を通過することにより円形のビーム形状から細長いビーム形状に整形されて、ガラス基板11上では細長いビーム形状で照射される。
【0030】
ビーム整形手段80としては、具体的に回折光学素子(DOE)あるいはシリンドリカルレンズのような光学部品を利用できるが、本実施例においては、矩形アパーチャとシリンドリカルレンズとを組み合わせて用いている。
【0031】
レーザビーム26がガラス基板11上に照射される位置の後方には、冷却装置30が設置される。冷却装置30としては、2筒管式の冷却ノズルを使用し、内円筒管から水を、外円筒管から空気を噴射させる。水と空気の混合媒体がガラスに向かって噴射されることにより、ガラス基板11上に冷却点が形成される。
【0032】
ガラス基板11上のレーザビームの照射位置に対して、その前方には、初亀裂形成装置50が設けられる。初亀裂形成装置50は、可視領域から紫外領域の波長のパルス状のレーザビームを発生するパルスレーザ発振器51と、パルスレーザ発振器51から発振されたレーザビームを収束する集束レンズ系52を有しており、集束レンズ系52で収束されたレーザビーム53はガラス基板11に対して照射される。
【0033】
パルスレーザ発振器51が発振する可視領域から紫外領域の波長のレーザビームとしては、たとえば波長510〜540nmの波長域のグリーン光を発振するグリーンレーザや波長355nmの紫外光を発振する紫外線レーザなどが使用される。いずれもピーク出力が大きい方が好ましい。本実施形態においては波長532nmのQスイッチ内蔵パルス発振型Nd:YAGレーザを使用した。
【0034】
図2は初亀裂形成装置50の全体構成を示す。パルスレーザ発振器51からのレーザビームは反射鏡54、55で光路調整され、ビームエキスパンダ56で直径を拡げた円形ビームに整形されて集束レンズ系52に入射し、集束レンズ系52で収束されたレーザビーム53はガラス基板11上に照射される。集束レンズ系52はZ軸アクチュエータ57によりガラス基板11の表面に対して上下方向、すなわち垂直方向に移動可能であり、レーザビーム53のガラス基板11に対する焦点位置65を調整することができる。焦点位置65の位置は、集束レンズ系52によって決定される焦点距離fの値によって決められた位置となる。ガラス基板11に対する集束レンズ系52の上下方向の位置は、Z軸方向の原点リミットスイッチ58の設置位置を基準として定められる。
【0035】
パルスレーザ発振器51はレーザドライバ61と電気的に接続されており、Z軸アクチュエータ57はZ軸アクチュエータドライバ62と接続されており、原点リミットスイッチ58は原点リミット検出装置63と接続されている。これらのレーザドライバ61と、Z軸アクチュエータドライバ62と、原点リミット検出装置63とは、それぞれ制御部64からの電気的制御信号に従って駆動される。
【0036】
次に図3を用いて、レーザビームで初亀裂および内部亀裂を形成した後に、スクライブする構成及び動作を説明する。図3では、図1に示したガラス基板11をその中央位置まで割断加工している最中の状態を示している。つまり、図3では、レーザ初亀裂の形成が既に完了した後で、スクライブ最中の状態を示しているので、以下の説明では、時間を遡ってレーザ初亀裂を形成する最初の段階から説明する。
【0037】
強化ガラスを割断するために、まず、初亀裂形成装置50(図1参照)によりガラス基板11の割断予定線12の割断加工の開始端の位置にレーザ初亀裂を形成する。レーザ初亀裂は、図3において、内部亀裂16と表面亀裂17との2つの部分に分けて示してある。
【0038】
まず、ガラス基板11の割断予定線12の開始端部から内部亀裂16を形成する。そのためには、ビーム停止の状態で、可動式テーブル32(図1参照)の上に載置されたガラス基板11をサーボモータ33(図1参照)により+Y方向に移動させる。そして、レーザビーム53を出力してもその下方のガラス基板11に照射されない位置まで退避させる。


Z軸アクチュエータ57による高さ位置調整については、集束レンズ系52で収束されたレーザビーム53によって作られる焦点位置65の高さが、ガラスの上側表面の高さよりも低くなるように設定する。レーザビーム53の出力指令は、制御部64において、Z軸アクチュエータ57の位置が所定位置にあることや、Y軸駆動用のサーボモータ33(図1参照)が駆動して−Y方向に移動し始めたこと等の条件を検知した上で出力指令が開始される。次に、ビーム初亀裂を形成する工程について、図4を用いて説明する。
【0039】
図4に示すように、焦点位置65の高さがガラスの上側表面の高さよりも低い状態でレーザビーム53の出射を開始する。ガラス基板11を載置している可動式テーブル32(図1参照)がサーボモータ33(図1参照)により−Y方向に移動されると同時にレーザビーム53を照射し、ガラス基板11を割断予定線の方向に沿って移動させる。すると、焦点位置65が横方向に移動し、ガラス断面部のP点に接する。その後も焦点位置65を横方向に移動させることにより、P点をスタートとして、ガラス基板11の内部に白濁点が点列状または点列が連続した線状に形成される。この点列状または線状の白濁点が内部亀裂16を形成する。
【0040】
内部亀裂16が所定の長さになったとき、レーザビーム53を照射したまま可動式テーブル32を移動させつつZ軸アクチュエータ57により集束レンズ系52を徐々に上方に移動させると、内部亀裂16の先端がガラス基板11の上表面方向に伸びてやがてガラス基板11の上表面に達する。こうしてガラス基板の厚さ方向の内部にガラス基板11の端部から割断予定線12の方向に沿って伸びる内部亀裂16は、ガラス基板11の上表面において表面亀裂17を形成する。表面亀裂17が形成される位置はガラス基板11の開始端部から所定距離dだけ離れた内側の位置に設けられる。表面亀裂17を形成した後は、焦点位置65はガラス基板11の上表面を離れて、より上の位置に移動する。Z軸アクチュエータ57が所定の上限位置に達して、焦点位置65がガラス基板11の内部には位置しない状態になった時、レーザビーム53の照射は停止される。以上の工程により、内部亀裂16と表面亀裂17とから成るレーザ初亀裂の形成が完了する。
【0041】
ここで、内部亀裂16と表面亀裂17とを便宜上分けて説明しているのは、次のような理由からである。強化ガラスでは、特にケミカル強化ガラスでは、イオン交換法により強化される領域は厚さ数10ミクロン程度の表面の強化層だけであり、それを超える深さの部分は強化処理されていない。このようなガラスを表面スクライブ加工する場合において、トリガーになり得る好ましい初亀裂として、少なくともガラス表面の強化層の深さだけは貫通している亀裂であった方が良い。すなわち、求められる初亀裂として、薄い強化層を貫通している表面亀裂17が必要であり、ガラス内部の内部亀裂16は必ずしも必要ではない。このようにレーザスクライブ加工を行う上で必要かどうかに応じて、内部亀裂16と表面亀裂17との意味を使い分けて示している。
【0042】
次に、図3に戻って、レーザ初亀裂形成後の動作を示す。集束レンズ系52によって集光されたレーザビーム52により、内部亀裂16と表面亀裂17とが形成された。その後、可動式テーブル32をサーボモータ33により+Y方向に移動させて割断予定線12の方向に沿って一定速度で移動させると同時にCO2レーザビームの照射を開始する。すると、シリンドリカルレンズによって、ガラス基板11上にはCO2レーザビームにより細長いレーザ加熱部14が形成される。
【0043】
一方、ビーム整形手段80の後方には冷却装置30が配置されており、その冷却装置30からは水と空気の混合媒体が下方に噴射される。その結果、ガラス基板11上の冷却装置30の直下位置に冷却点15が形成される。ガラス基板11は割断予定線12の方向に沿って一定速度で移動しているので、冷却点15はレーザ加熱部14の後端から所定距離離間した位置において割断予定線12の方向に沿ってレーザ加熱部14を冷却する。
【0044】
この結果、冷却装置30の直下に表面亀裂17から拡大した亀裂線13がガラス基板11の板厚方向に発生する。表面亀裂17の付近で板厚方向に拡大した亀裂線13は、レーザ加熱部14および冷却点15の組み合わせがガラス基板11に対して相対的に移送するのに伴って、割断予定線12の前方方向に亀裂を拡大させることができる。この結果、ガラス基板11の全板厚に亘って割断予定線12に沿ってスクライブ溝13が形成される。
【0045】
こうして形成されたスクライブ溝13は、表面亀裂17をスタート地点として形成されており、表面亀裂17の位置はガラス基板11の端部から所定距離dだけ離れた内側の位置にある。このように、表面亀裂17の位置をガラスの内側に設けることにより、スクライブ溝13が形成する上での加工の安定性が増す。従来技術のように、表面亀裂17をダイヤモンドホイールを用いてガラスの端部に形成する場合においては、特に強化ガラスの場合に、端部に形成した初亀裂から加熱によりガラスが自己破壊し、スクライブ溝の形成を阻害することがあった。しかし、本実施例においては、ガラスが自己破壊しやすい端部を避けて、離れた位置に表面亀裂17を形成しているので、スクライブ溝13の加工成功率が高まる利点がある。
【0046】
ガラス表面には表面亀裂17が形成されるとともに、ガラス内部には内部亀裂16が形成されている。この内部亀裂16はガラス基板11に外力を加えてブレイクする場合に効果を奏する。すなわち、ガラス基板11をブレイクする場合に、ガラス基板の端部から距離dだけ離れた表面亀裂17までの間の場所には、ガラス表面にスクライブ溝が形成されていない。従って、もし、内部亀裂16が存在しないとすると、ブレイク面が割断予定線から外れて婉曲してしまうことになる。本実施形態において加工したガラスには、内部亀裂16により、ガラス内部に割れやすい部分が出来ているため、ブレイクの際の割断面を内部亀裂16に沿って導くことができるので、ブレイクの割断面が割断予定線から外れないようにできる。従って、スクライブ溝13の始端となる表面亀裂17の位置をガラス基板11の端部から割断予定線12に沿って所定距離dだけ離れた内側の位置に形成した場合でも、ブレイク面の全体的な直線性が保たれる。
【0047】
冷却点15の直下で表面亀裂17から拡大したスクライブ溝13はガラス基板11の深さ方向に進行するので、ガラス基板11の沿面方向に作用する引張り応力に不均衡を生じることがなく、スクライブ溝13が割断予定線12に対して湾曲することはない。
【0048】
一方、レーザ加熱部14および冷却点15の組み合わせがガラス基板11に対して相対的に移動して、表面亀裂17とは反対側の割断予定線12上の終端部に達した場合に、スクライブ溝13が終端部に到達すると、終端部側からガラスが自己破壊して、ガラスの表面から底面に到るまでのフルカットの亀裂面が発生することがある。特に強化ガラスの場合には顕著に現れる。このような終端部の破壊は制御されていない割れ方なので、湾曲することが多くブレイク面の直線性を阻害する。
【0049】
そこで図5に示すように、ガラス基板11の内部亀裂16および表面亀裂17とは反対側の終端部における割断予定線12に沿った位置においても、内部亀裂16および表面亀裂17の形成したのと同様の手順で、内部亀裂19および表面亀裂20を形成する。さらに、CO2レーザビームによるスクライブ溝を形成する場合に、レーザ加熱部14(図3参照)が、ちょうど表面亀裂20の位置に差し掛かったタイミングで、CO2レーザビームの照射を停止する。正確なタイミングでCO2レーザビームの照射を停止する手段としては、CO2レーザビームに対する機械的な外部シャッタ機構を用いても良いし、ファラデー回転子により偏光方向を選択する機構であっても、単純にCO2レーザのビーム出力指令をオフにする手段であってもよい。CO2レーザビームの照射タイミング制御手段により、表面亀裂20からガラス終端部までの間で加熱領域が形成されないので、ガラスの終端部にもスクライブ溝は形成されない。このようにすれば、ガラス基板11の終端部において、自己破壊による亀裂が形成されることなく、かつ、ガラス基板11をブレイクする場合にあって、内部亀裂19がブレイクの面を案内するので、ブレイク面が割断予定線から外れないようにすることができる。
【実施例2】
【0050】
図6は実施例2における強化ガラスの割断方法を実施するため動作原理を説明する概念図である。実施例1においては、図4に示すように内部亀裂を形成するためにレーザビームの焦点を最初はガラス基板11の内部で水平に移動させ、その後斜め上方に持ち上げることで表面亀裂17を形成したが、本実施例においては初亀裂としての内部亀裂16をガラス基板11内において斜め上方向に通過する直線状に形成し、この直線状内部亀裂16がガラス基板11の表面に出た位置に表面亀裂17を形成する。
【0051】
図8には、実施例2に示す構成および方法によってサンプル加工された化学強化ガラス断面の写真を示している。ガラスの厚さは1.1mmt、レーザ初亀裂の形成のための加工条件は、レーザ平均パワー1.0W、パルス幅10nsec、繰り返し周波数6kHz、ガラスの水平方向送り速度1mm/sec、Z軸アクチュエータによる垂直方向の上昇送り速度0.3mm/secである。このサンプルにおいては、焦点位置が表面に達した時点でZ軸アクチュエータの上昇速度を遅くして、0.1mm/secにしているため、表面亀裂が長くなっている。
【0052】
図6に戻って、内部亀裂16をガラス基板11内において斜め上方向に通過する直線状に形成するには、図3または図4の構成において、可動式テーブル32を図1における−Y方向に一旦移動させ、レーザビーム53を照射してもその下方にガラス基板11が無い位置まで退避させ、Z軸アクチュエータドライバ62によりZ軸アクチュエータ57を作動させて集束レンズ系52を下方に移動させ、パルスレーザ発振器51からのレーザビームを反射鏡54、55で光路調整してビームエキスパンダ56で整形した後、集束レンズ系52に入射させたレーザビーム53の焦点が図4に示すようにガラス基板11の端部における内部Pに位置するように設定してレーザビーム53をガラス基板11に照射する。
【0053】
ついで、レーザビーム53がガラス基板11を照射している状態のままでガラス基板11を載置している可動式テーブル32をサーボモータ33により+Y方向に移動させて割断予定線12の方向に沿って移動させるとともに、Z軸アクチュエータ57により集束レンズ系52を一定速度で徐々に上方に移動させると、内部亀裂16の先端がガラス基板11内を斜め上方向に直線的に伸びてガラス基板11の上表面に達して表面亀裂17としてのキズを形成して終了する。なお、亀裂を入れる順番としては、表面亀裂17を先に形成し、後から内部亀裂16を形成する順番であってもよい。その他の構成および作用は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【実施例3】
【0054】
図7は実施例3における強化ガラスの割断方法を実施するための動作原理を説明する概念図である。本実施例においては、初亀裂としての内部亀裂16をガラス基板11内において正弦波状やのこぎり波状などの波形に形成し、ガラス基板11が水平移動中はレーザビーム53の焦点位置を表面に出さずにガラス基板11の内部で内部亀裂16が上下に揺動するように維持する。この波形の内部亀裂16が所定の長さになったとき、レーザビーム53を照射したまま可動式テーブル32を割断予定線12の方向に沿って移動させつつZ軸アクチュエータ57により集束レンズ系52を徐々に上方に移動させると、波形の内部亀裂16がガラス基板11内を次第に上方に曲がってガラス基板11の上表面方向に伸びてゆく。そして、レーザビーム53の焦点をガラス基板11の内部を上下に揺動させつつ移動させ、ガラス基盤11の表面をレーザビーム53の焦点が1乃至複数回交差させると、波形の内部亀裂16がガラス基板11の表面を1乃至複数回交差して表面亀裂17としてのキズに連結する。
【0055】
図9および図10には、実施例3に示す構成および方法によってサンプル加工された厚さ1.1mmtの化学強化ガラス断面の写真を示している。特に図10に示されているように、ガラスの表面位置付近で焦点位置を上下に振動させることにより、強化層を複数回貫通することができる。
【0056】
この実施例においても、あらかじめ表面亀裂を形成せずに、波形の内部亀裂16がガラス基板11の表面と交差したときその位置にレーザビーム53の照射を継続して表面亀裂17を形成させるようにしてもよい。この場合、波形の内部亀裂16がガラス基板11の表面を1回交差させた場合は表面亀裂17は1箇所であるが、複数回交差させてもよくその場合は表面亀裂17は複数の点状亀裂が連続した状態で形成される。
その他の構成および作用は実施例1または実施例2と同様であるので説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明による強化ガラスの割断方法および割断装置は、近年、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイや携帯電話、携帯端末などの表示装置用に用いられているガラス表面に強化層を形成した強化ガラスや厚さが厚いガラスの鏡面割断に適用して好適である。
【符号の説明】
【0058】
11 ガラス基板
13 スクライブ溝
14 レーザ加熱部
15 冷却点
16、19 内部亀裂
17、20 表面亀裂
25 COレーザ
26 レーザビーム
27 ビームエキスパンダ
28 反射鏡
30 冷却装置
32 可動式テーブル
33 サーボモータ
50 初亀裂形成装置
51 パルスレーザ発振器
52 集束レンズ系
53 レーザビーム
54、55 反射鏡
56 ビームエキスパンダ
57 Z軸アクチュエータ
58 原点リミットスイッチ
61 レーザドライバ
62 Z軸アクチュエータドライバ
63 原点リミット検出装置
64 制御部
65 焦点位置
80 ビーム整形手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の割断予定線に沿って第1のレーザビームで加熱し、前記ガラス基板の前記第1のレーザビームによる加熱位置を前記割断予定線に沿って相対的に移動させて前記ガラス基板にスクライブを形成するガラス基板の割断方法であって、可視領域から紫外領域の波長を有する第2のレーザビームをその焦点位置が前記ガラス基板の端部から前記割断予定線に沿った内側の位置の表面に位置するように集光させてスクライブの起点である初亀裂となる表面亀裂を形成するとともに、前記第2のレーザビームの焦点を前記ガラス基板の内部に設定して前記第2のレーザビームを前記ガラス基板に対して相対的に移動させて、前記表面亀裂から前記ガラス基板の内部を通り、前記ガラス基板の端面に延びる内部亀裂を形成することを特徴とするガラス基板の割断方法。
【請求項2】
第1のレーザビームで加熱した領域に冷却媒体を吹き付けて冷却することにより前記初亀裂となるキズを起点としてスクライブを進展させることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の割断方法。
【請求項3】
第2のレーザビームは可視領域で緑色を示す波長域のレーザビームであることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の割断方法。
【請求項4】
ガラス基板が表面に強化層を形成した強化ガラスまたは厚さが3mm以上の肉厚ガラスであることを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の割断方法。
【請求項5】
内部亀裂がガラス基板の端面からガラス基板の内部に向かって延びる直線部と、ガラス基板の内部からガラス基板の表面における表面亀裂に向かって延びる曲線部により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の割断方法。
【請求項6】
内部亀裂がガラス基板の端面からガラス基板の内部に延び、かつガラス基板の表面に達する直線部により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の割断方法。
【請求項7】
内部亀裂がガラス基板の端面からガラス基板の内部に向かって延びる第1の波形部と、ガラス基板の内部からガラス基板の表面における表面亀裂に向かって延びる第2の波形部により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のガラス基板の割断方法。
【請求項8】
ガラス基板の割断予定線に沿って第1のレーザビームで加熱し、前記ガラス基板の前記第1のレーザビームによる加熱位置を前記割断予定線に沿って相対的に移動させて前記ガラス基板にスクライブを形成するガラス基板の割断装置であって、前記ガラス基板を載置し少なくとも前記割断予定線方向に移動可能な可動式テーブルと、前記割断予定線上に加熱領域を形成する第1のレーザビーム照射手段と、前記ガラス基板に初亀裂を形成するための可視領域から紫外領域の波長を有する第2のレーザビーム照射手段と、前記割断予定線上の位置に冷媒を噴射して局所的に冷却する冷却手段と、前記第2のレーザビーム照射手段からのレーザビームを前記ガラス基板の表面に対して垂直方向に移動させる焦点位置調節手段を有することを特徴とするガラス基板の割断装置。
【請求項9】
ガラス基板の表面にスクライブの起点である初亀裂となる表面亀裂と、前記表面亀裂からガラス基板の内部を通り、前記ガラス基板の端面に延びる内部亀裂を有することを特徴とする強化ガラス。

【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−6706(P2013−6706A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138672(P2011−138672)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(503390651)株式会社レミ (34)
【Fターム(参考)】