説明

ガラス層定着方法

【課題】ガラス部材同士の溶着状態を均一にすることを可能にするガラス層定着方法を提供する。
【解決手段】溶着予定領域Rに沿って配置されたガラス層103の一部にレーザ光を照射してレーザ吸収率が高いレーザ光吸収部108aをガラス層103に予め形成する。そして、レーザ光吸収部108aを照射開始位置として溶着予定領域Rに沿ってレーザ光を照射してガラス層103を溶融させてガラス部材104にガラス層103を定着させる。レーザ光の照射開始位置が既にレーザ光吸収部108aになっているため、レーザ光の照射を開始する起点付近からすぐにガラス層103の溶融が安定した安定領域とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス部材同士を溶着してガラス溶着体を製造するためにガラス部材にガラス層を定着させるガラス層定着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のガラス溶着方法として、レーザ光吸収性顔料を含むガラス層を、溶着予定領域に沿うように一方のガラス部材に焼き付けた後、そのガラス部材にガラス層を介して他方のガラス部材を重ね合わせ、溶着予定領域に沿ってレーザ光を照射することにより、一方のガラス部材と他方のガラス部材とを溶着する方法が知られている。
【0003】
ところで、ガラス部材にガラス層を焼き付ける技術としては、ガラスフリット、レーザ光吸収性顔料、有機溶剤及びバインダを含むペースト層から有機溶剤及びバインダを除去することにより、ガラス部材にガラス層を固着させた後、ガラス層が固着したガラス部材を焼成炉内で加熱することにより、ガラス層を溶融させて、ガラス部材にガラス層を焼き付ける技術が一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これに対し、焼成炉の使用による消費エネルギの増大及び焼付け時間の長時間化を抑制するという観点(すなわち、高効率化という観点)から、ガラス部材に固着したガラス層にレーザ光を照射することにより、ガラス層を溶融させて、ガラス部材にガラス層を焼き付ける技術が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【特許文献2】特開2002−366050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、レーザ光の照射によってガラス部材にガラス層を焼き付け、そのガラス層を介してガラス部材同士を溶着すると、溶着状態が不均一になる場合があった。
【0007】
そこで、本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ガラス部材同士の溶着状態を均一にすることを可能にするガラス層定着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ガラス部材同士の溶着状態が不均一になるのは、図11に示されるように、焼付け時にガラス層の温度が融点Tmを超えるとガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなることに起因していることを突き止めた。つまり、ガラス部材に固着したガラス層においては、バインダの除去による空隙やガラスフリットの粒子性によって、レーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光において白っぽく見える)。このような状態でガラス部材にガラス層を焼き付けるためにレーザ光を照射すると、ガラスフリットの溶融によって空隙が埋まると共に粒子性が崩れるため、レーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、ガラス層のレーザ光吸収率が急激に高くなる(例えば、可視光において黒っぽく見える)。このとき、レーザ光は、図12に示されるように、幅方向(レーザ光の進行方向と略直交する方向)における中央部の温度が高くなる温度分布を有している。
【0009】
そのため、照射開始位置から幅方向全体にわたってガラス層の溶融が安定した安定領域とするためにレーザを照射開始位置に一旦停止させてから移動すると、幅方向における中央部で最初に始まる溶融により幅方向における中央部のレーザ光吸収率が上昇し、その上昇により幅方向中央部のみが必要以上に溶融してしまい、ガラス部材のクラックやガラス層の結晶化を生じさせてしまうおそれがあった。そこで、ガラス層の焼付けにおいては、図13に示されるように、レーザ光の照射開始位置では溶融が安定しない不安定状態であってもレーザ光を進行させ、徐々に溶融の幅を広げて安定状態になるようにしていた。その結果、照射開始位置から安定状態に到る領域が溶融の不安定な不安定領域となってしまっていた。このような不安定領域を有するガラス層を介してガラス部材同士を溶着すると、不安定領域と安定領域とでレーザ光吸収率が異なってしまうことから、溶着部分が不均一なガラス溶着体を生成してしまうのである。本発明者は、この知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0010】
また、照射開始位置から幅方向全体にわたってガラス層が溶融する安定領域とするためにレーザ光を照射開始位置に暫く停滞させてから進行させると、幅方向における中央部で最初に始まる溶融により中央部のレーザ光吸収率が上昇し、その上昇により中央部が入熱過多の状態となり、ガラス部材にクラックが生じたりガラス層が結晶化したりするおそれがある。そこで、図13に示されるように、レーザ光の照射開始位置で幅方向全体にわたってガラス層が溶融しなくてもレーザ光を進行させると、照射開始位置から安定状態に至る領域が中央部から徐々に溶融の幅が広がる不安定領域となってしまう。このような不安定領域を有するガラス層を介してガラス部材同士を溶着すると、不安定領域と安定領域とでレーザ光吸収率が異なることから、溶着状態が不均一なガラス溶着体が製造されるのである。本発明者は、この知見に基づいて更に検討を重ね、本発明を完成させるに至った。
【0011】
なお、ガラス層の溶融によってガラス層のレーザ光吸収率が高まる場合における可視光下でのガラス層の色変化は、白っぽい状態から黒っぽい状態に変化するものに限定されず、例えば、近赤外レーザ光用のレーザ光吸収性顔料の中には、ガラス層が溶融すると緑色を呈するものも存在する。
【0012】
すなわち、本発明に係るガラス層定着方法は、第1のガラス部材にガラス層を定着させるガラス層定着方法であって、ガラス粉、レーザ光吸収材、有機溶剤及びバインダを含むペースト層から有機溶剤及びバインダが除去されることにより形成されたガラス層を、溶着予定領域に沿うように第1のガラス部材に配置する工程と、ガラス層の一部に第1のレーザ光を照射することによりガラス層の一部を溶融させ、ガラス層にレーザ光吸収部を形成する工程と、レーザ光吸収部を照射開始位置として溶着予定領域に沿って第2のレーザ光を照射することによりガラス層を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層を定着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
このガラス層定着方法では、ガラス層を溶融させて第1のガラス部材にガラス層を定着させる前に、ガラス層の一部に第1のレーザ光を照射してガラス層の一部を溶融させ、第1のレーザ光を照射していない部分よりもレーザ吸収率が高いレーザ光吸収部をガラス層に予め形成する。そして、このレーザ光吸収部を照射開始位置として溶着予定領域に沿って第2のレーザ光を照射してガラス層を溶融させて第1のガラス部材にガラス層を定着させる。このように、第2のレーザ光の照射開始位置が既にレーザ光吸収部になっているため、第2のレーザ光の照射を開始する起点付近からすぐにガラス層の溶融が安定する安定領域とすることができる。その結果、このような安定領域を伴って形成されたガラス層を介して第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着することが可能となるため、ガラス部材同士の溶着状態を均一にすることが可能となる。
【0014】
本発明に係るガラス層定着方法は、ガラス層の一部において、溶着予定領域に対する第2のレーザ光の進行方向と交差する方向におけるガラス層の幅全体にわたるように、レーザ光吸収部を形成することが好ましい。この場合、レーザ光吸収部を幅全体にわたるように形成することから、ガラス層の溶融を更に早期に安定化させることができる。また、溶着予定領域に対する第2のレーザ光の進行方向と交差する方向における中央部が第2のレーザ光の進行方向に突出するように、レーザ光吸収部を形成することがより好ましい。レーザ光の進行方向における温度分布は、図12に示されるように、レーザ光吸収部の幅方向における両端部の温度が中央部の温度に比べて低くなる傾向がある。レーザ光吸収部を幅方向における中央部が進行方向に突出するように形成することにより、中央部の温度をより速く上昇することとなるが、その結果、幅方向における中央部の熱が短時間で両端部に伝わり、両端部が十分に加熱され、レーザ光吸収部の幅方向における溶融をより均一にさせることができる。
【0015】
本発明に係るガラス層定着方法は、溶着予定領域に沿ってレーザ光吸収部を断続的に複数形成し、複数のレーザ光吸収部のいずれか1つを照射開始位置とすることが好ましい。このように複数のレーザ光吸収部を溶着予定領域に沿って断続的に形成しておけば、第2のレーザ光の走査速度が速くて溶融が追いつかずに不安定領域が形成されそうな場合であっても、断続的に高吸収領域を形成することにより不安定状態に戻すことなくガラス層の溶融を継続して安定化させることができる。その結果、走査速度の高速化による製造期間の短縮を図ることができると共に、製造歩留まりの向上も図ることができる。
【0016】
また、本発明に係るガラス層定着方法は、第1のガラス部材にガラス層を定着させるガラス層定着方法であって、ガラス粉、レーザ光吸収材、有機溶剤及びバインダを含むペースト層から有機溶剤及びバインダが除去されることにより形成されたガラス層を、溶着予定領域、及び溶着予定領域と接続された所定の領域に沿うように第1のガラス部材に配置する工程と、所定の領域における照射開始位置から所定の領域に沿って第1のレーザ光を照射した後、連続して、溶着予定領域に沿って第1のレーザ光を照射することにより、ガラス層を溶融させ、第1のガラス部材にガラス層を定着させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
このガラス層定着方法では、第1のガラス部材にガラス層を定着させる際、溶着予定領域と接続された所定の領域における照射開始位置から所定の領域に沿って第1のレーザ光を照射するため、所定の領域においてガラス層の溶融が幅方向に広がることになる。このように、所定の領域においてガラス層を事前に溶融させるため、溶着予定領域における不安定領域の比率が低減され、安定領域の比率が高められた状態でガラス層を第1のガラス部材に定着させることができる。その結果、不安定領域が低減されたガラス層を介して第1のガラス部材と第2のガラス部材とを溶着することが可能となるため、ガラス部材同士の溶着状態を均一にすることが可能となる。なお、「安定領域」とは、幅方向全体にわたってガラス層が溶融している領域を意味し、「不安定領域」とは、幅方向の一部のみでガラス層が溶融している領域を意味する。
【0018】
本発明に係るガラス層定着方法において、所定の領域は、第1のレーザ光を照射開始位置から一度照射した場合にガラス層の溶融が不安定となる不安定領域の全体を含むことが好ましい。所定の領域での事前溶融によりガラス層を安定領域へと変化させてから溶着予定領域に沿って第1のレーザ光を照射することで、溶着予定領域のガラス層が安定領域から構成されるようになる。
【0019】
本発明に係るガラス層定着方法において、所定の領域を環状の溶着予定領域の外方に配置することが好ましい。所定の領域を外方に配置することにより、不安定領域を含む所定の領域での未溶融部分から発生するガラス粉などの粉末を溶着予定領域内に入らないようにすることができる。
【0020】
本発明に係るガラス層定着方法において、第1のガラス部材において所定の方向に延在する第1のラインに沿うように、溶着予定領域、及び溶着予定領域の一端部と接続された所定の領域を設定すると共に、第1のガラス部材において所定の方向に延在する第2のラインに沿うように、溶着予定領域、及び溶着予定領域の他端部と接続された所定の領域を設定する工程を含み、第1のレーザ光を照射する際には、第1のラインに沿って一方の側から他方の側に第1のレーザ光を相対的に進行させた後、連続して、第2のラインに沿って他方の側から一方の側に第1のレーザ光を相対的に進行させることが好ましい。このように、所定の方向に延在する第1のライン及び第2のラインに沿って第1のレーザ光を往復するように進行させることにより、所定の領域においてガラス層を事前に溶融させてから溶着予定領域を溶融させることを、第1のライン及び第2のラインに沿って設定された各溶着予定領域において連続して行うことができ、安定領域の比率が高められた複数のガラス層を効率的に得ることができる。
【0021】
本発明に係るガラス層定着方法において、第1のガラス部材において所定の方向に延在するラインに沿うように、溶着予定領域、及び溶着予定領域の一端部と接続された所定の領域を少なくとも2組設定する工程を含み、第1のレーザ光を照射する際には、ラインに沿って一方の側から他方の側に第1のレーザ光を相対的に進行させることが好ましい。このように、所定の方向に延在するラインに沿って第1のレーザ光を進行させることにより、所定の領域においてガラス層を事前に溶融させてから溶着予定領域を溶融させることを、第1のラインに沿って設定された少なくとも2組の溶着予定領域において連続して行うことができ、安定領域の比率が高められた複数のガラス層を効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ガラス部材同士の溶着状態を均一にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施形態に係るガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図2】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図3】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図4】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図5】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図6】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図7】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図8】第1の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図9】レーザ光吸収部の変形例を示す図である。
【図10】レーザ光吸収部の別の変形例を示す図である。
【図11】ガラス層の温度とレーザ光吸収率との関係を示すグラフである。
【図12】レーザ照射における温度分布を示す図である。
【図13】レーザ照射における安定領域及び不安定領域を示す図である。
【図14】第2の実施形態に係るガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。
【図15】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図16】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図17】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための断面図である。
【図18】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図19】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図20】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図21】第2の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための斜視図である。
【図22】第3の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図23】第3の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図24】第3の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための平面図である。
【図25】第3の実施形態におけるレーザ光の照射方法の変形例を示すための平面図である。
【図26】第3の実施形態に係るガラス溶着方法を説明するための図であり(a)は平面図、(b)は断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1の実施形態]
【0025】
図1は、第1の実施形態に係るガラス溶着方法の一実施形態によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。図1に示されるように、ガラス溶着体101は、溶着予定領域Rに沿って形成されたガラス層103を介して、ガラス部材(第1のガラス部材)104とガラス部材(第2のガラス部材)105とが溶着されたものである。ガラス部材104,105は、例えば、無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材104,105の外縁に沿って所定幅を有する矩形環状に設定されている。ガラス層103は、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなり、溶着予定領域Rに沿って所定幅を有した矩形環状に形成されている。
【0026】
次に、上述したガラス溶着体101を製造するためのガラス溶着方法について説明する。
【0027】
まず、図2に示されるように、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材104の表面104aにペースト層106を形成する。フリットペーストは、例えば、非晶質の低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)102、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤及びガラスの軟化点温度以下で熱分解する樹脂成分(アクリル等)であるバインダを混練したものである。フリットペーストは、レーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)が予め添加された低融点ガラスを粉末状にしたガラスフリット(ガラス粉)、有機溶剤、及びバインダを混練したものであってもよい。つまり、ペースト層106は、ガラスフリット102、レーザ光吸収性顔料、有機溶剤及びバインダを含んでいる。
【0028】
続いて、ペースト層106を乾燥させて有機溶剤を除去し、更に、ペースト層106を加熱してバインダを除去することにより、溶着予定領域Rに沿ってガラス部材104の表面104aに所定幅を有して延伸するガラス層103を固着させる。なお、ガラス部材104の表面104aに固着したガラス層103は、バインダの除去による空隙やガラスフリット102の粒子性によって、レーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光において白っぽく見える)。
【0029】
続いて、図3に示されるように、アルミニウムからなる板状の載置台107の表面107aに、ガラス層103を介してガラス部材104を載置する。そして、溶着予定領域Rに沿って矩形環状に形成されたガラス層103の1つの角部に集光スポットを合わせてレーザ光(第1のレーザ光)L1を照射する。このレーザ光L1のスポット径はガラス層103の幅より大きくなるように設定され、ガラス層103に照射されるレーザ光1のパワーが幅方向(レーザ光の進行方向と略直交する方向)に同程度になるように調整されている。これにより、ガラス層の一部が幅方向全体に同等に溶融されて、レーザ光の吸収率が高いレーザ光吸収部108aが幅方向全体にわたって形成される。その後、図4に示されるように、ガラス層103の残りの3つの角部にも同様にレーザ光L1を順に照射してレーザ光吸収部108b,108c,108dを形成する。なお、レーザ光吸収部108a〜108dでは、ガラス層の一部(角部)でガラスフリット102の溶融によって空隙が埋まると共に粒子性が崩れるため、レーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、この部分のレーザ光吸収率がレーザ光を照射されなかった領域に比べて高い状態となる(例えば、可視光ではレーザ光吸収部108a〜108dに対応する角部のみ黒っぽく見える)。
【0030】
続いて、図4の図示左下に示されるレーザ光吸収部108aを起点(照射開始位置)として、図5及び図6に示されるように、ガラス層103に集光スポットを合わせてレーザ光(第2のレーザ光)L2の照射を、溶着予定領域Rに沿って図示矢印の進行方向に向かって進める。これにより、ガラス部材104に配置されたガラス層103が溶融・再固化し、ガラス部材104の表面104aにガラス層103が焼き付けられる。このガラス層103の焼付け時には、レーザ光吸収率があらかじめ高められたレーザ光吸収部108aを照射開始位置としてレーザ光L2の照射を開始しているため、照射開始位置からすぐにガラス層103の溶融が幅方向全体にわたって行われ溶融が安定した安定領域となっており、溶着予定領域R全域にわたってガラス層103の溶融が不安定となる不安定領域が低減されている。また、残りの3つの角部にもそれぞれレーザ光吸収部108b〜108dを設けているため、ガラス溶着体として機能させる際に負荷がかかり易い角部が、焼付け時に確実に溶融するようにもなっている。なお、ガラス部材104の表面104aに焼き付けられたガラス層103は、溶着予定領域R全域にわたって、ガラスフリット102の溶融によって空隙が埋まると共に粒子性が崩れるため、レーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、レーザ光吸収率が高い状態となる(例えば、可視光において黒っぽく見える)。
【0031】
このように溶着予定領域R全域にわたって安定したガラス層103の焼付けが終了すると、ガラス層103が焼き付けられたガラス部材104を載置台107より取り外す。この際、ガラスフリット102と載置台107との線膨張係数の差がガラスフリット102とガラス部材104との線膨張係数の差よりも大きくなっていることから、ガラス層103は載置台107に固着しないようになっている。また、ガラス部材104の表面104aに焼き付けられたガラス層103は、載置台107の表面107aが研磨されていることから、ガラス部材104と反対側の表面103aの凹凸が平坦化された状態となっている。なお、本実施形態では、ガラス部材104側からレーザ光L2を照射して焼付けが行われていることから、ガラス層103のガラス部材104への定着が確実に行われる一方、表面103a側の結晶化が低減され、その部分の融点が高くならないようになっている。
【0032】
ガラス層103の焼付けに続いて、図7に示されるように、ガラス層103が焼き付けられたガラス部材104に対し、ガラス層103を介してガラス部材105を重ね合わせる。このとき、ガラス層103の表面103aが平坦化されているため、ガラス部材105の表面105aがガラス層103の表面103aに隙間なく接触する。
【0033】
続いて、図8に示されるように、ガラス層103に集光スポットを合わせてレーザ光(第3のレーザ光)L3を溶着予定領域Rに沿って照射する。これにより、溶着予定領域R全域にわたってレーザ光吸収率が高く且つ均一な状態となっているガラス層103にレーザ光L3が吸収されて、ガラス層103及びその周辺部分(ガラス部材104,105の表面104a,105a部分)が同程度に溶融・再固化し、ガラス部材104とガラス部材105とが溶着される。このとき、ガラス部材105の表面105aがガラス層103の表面103aに隙間なく接触すると共にガラス部材104に焼き付けられたガラス層103の溶融が溶着予定領域R全域にわたって安定して行われた安定領域として形成されているため、ガラス部材104とガラス部材105とが溶着予定領域Rに沿って均一に溶着される。
【0034】
以上説明したように、ガラス溶着体101を製造するためのガラス溶着方法においては、ガラス層103を溶融させてガラス部材104にガラス層103を定着させる前に、ガラス層103の一部にレーザ光L1を照射してガラス層103の一部を溶融させ、レーザ光L1を照射していない部分よりもレーザ吸収率が高いレーザ光吸収部108a〜108dをガラス層103の4つの角部に予め形成する。そして、複数のレーザ光吸収部108a〜108dのうちの一のレーザ光吸収部108aを照射開始位置として溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L2を照射してガラス層103を溶融させてガラス部材104にガラス層103を定着させる。このように、レーザ光L2の照射開始位置がレーザ光吸収部108aになっているため、レーザ光L2の照射を開始する起点付近からすぐにガラス層103の溶融が安定した安定領域とすることができる。その結果、このような安定領域を伴って形成されたガラス層103を介してガラス部材104とガラス部材105とを溶着するため、ガラス部材104,105同士の溶着状態を容易に均一にすることができる。
【0035】
また、上述したガラス溶着方法では、ガラス層103の一部(角部)において、溶着予定領域Rに対するレーザ光L2の進行方向と交差する方向におけるガラス層103の幅全体にわたるように、レーザ光吸収部108aを形成している。この場合、レーザ光吸収部108aを幅全体にわたるように形成することから、ガラス層103の溶融を更に早期に安定化させることができる。また、溶着予定領域Rに対するレーザ光L2の進行方向と交差する方向における中央部がレーザ光L2の進行方向に突出するように略円形状にレーザ光吸収部108a〜108dを形成している。このような形状により、レーザ光L2の進行方向と交差する方向における溶融がより均一になっている。
【0036】
また、上述したガラス溶着方法では、溶着予定領域に沿ってレーザ光吸収部108a〜108dを断続的に複数形成し、これら複数のレーザ光吸収部108a〜108dのうちの1つであるレーザ光吸収部108aを照射開始位置としている。このように複数のレーザ光吸収部108a〜108dを溶着予定領域Rに沿って断続的に形成しておけば、レーザ光L2の走査速度が速くて溶融が追いつかずに不安定領域が形成されそうな場合であっても、断続的に高吸収領域が形成されていることにより不安定状態に戻すことなくガラス層103の溶融を継続して安定化させることができる。その結果、走査速度の高速化による製造期間の短縮を図ることができると共に、製造歩留まりの向上も図ることができる。しかも、角部にレーザ光吸収部108a〜108dが形成されていることから、ガラス溶着体が形成された際に負荷がかかり易い角部を確実に溶融するようにもなっている。
【0037】
本発明は、上述した第1の実施形態に限定されるものではない。
【0038】
例えば、第1の実施形態では、レーザ光吸収部108a〜108dを順に形成するようにしたが、4つのレーザを用いてこれらレーザ光吸収部108a〜108dを同時に形成するようにしてもよい。また、ガラス層103をガラス部材104に配置する工程とガラス層103にレーザ光吸収部108a〜108dを形成する工程とが略同時に行われるようにしてもよい。
【0039】
また、図9に示されるように、半円形状のレーザ光吸収部118a、矩形状のレーザ光吸収部118b、複数の円を幅方向に形成したレーザ光吸収部118c、幅方向中央部に微小な円形で形成したレーザ光吸収部118dなどを形成して、これらのレーザ光吸収部118a〜118dを照射開始位置としてレーザ光L2の照射を行ってガラス層103の焼付けを行うようにしてもよい。
【0040】
また、矩形環状に形成された溶着予定領域Rの角部にレーザ光吸収部を設ける場合、図10に示されるように、扇状のレーザ光吸収部118e,118fなどを形成して、これらのレーザ光吸収部118e,118fを起点としてレーザ光L2の照射を行って焼付けを行うようにしてもよい。
【0041】
また、断続的にレーザ光吸収部を設ける場合、上述した第1の実施形態で示したように各角部にレーザ光吸収部108a〜108dを設けるようにしてもよいし、ガラス層103の直線状の部分に複数のレーザ光吸収部を所定の間隔をあけて設けるようにしてもよい。
【0042】
また、第1の実施形態では、ガラス部材104を介してガラス層103にレーザ光L1,L2を照射したが、反対側から直接、ガラス層103にレーザ光L1,L2を照射するようにしてもよい。
[第2の実施形態]
【0043】
図14は、第2の実施形態に係るガラス溶着方法によって製造されたガラス溶着体の斜視図である。図14に示されるように、ガラス溶着体201は、溶着予定領域Rに沿って形成されたガラス層203を介して、ガラス部材(第1のガラス部材)204とガラス部材(第2のガラス部材)205とが溶着されたものである。ガラス部材204,205は、例えば、無アルカリガラスからなる厚さ0.7mmの矩形板状の部材であり、溶着予定領域Rは、ガラス部材204,205の外縁に沿って所定幅を有する矩形環状に設定されている。ガラス層203は、例えば、低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなり、溶着予定領域Rに沿って所定幅を有した矩形環状に形成されている。
【0044】
次に、上述したガラス溶着体201を製造するためのガラス溶着方法について説明する。
【0045】
まず、図15に示されるように、ディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、矩形環状の溶着予定領域R及び溶着予定領域Rの一の角部と接続されて外方に突出する助走領域Sに沿ってガラス部材204の表面204aにペースト層206を形成する。フリットペーストは、例えば、非晶質の低融点ガラス(バナジウムリン酸系ガラス、鉛ホウ酸ガラス等)からなる粉末状のガラスフリット(ガラス粉)202、酸化鉄等の無機顔料であるレーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)、酢酸アミル等である有機溶剤、及びガラスの軟化温度以下で熱分解する樹脂成分(アクリル等)であるバインダを混練したものである。フリットペーストは、レーザ光吸収性顔料(レーザ光吸収材)が予め添加された低融点ガラスを粉末状にしたガラスフリット(ガラス粉)、有機溶剤、及びバインダを混練したものであってもよい。つまり、ペースト層206は、ガラスフリット202、レーザ光吸収性顔料、有機溶剤及びバインダを含んでいる。
【0046】
続いて、ペースト層206を乾燥させて有機溶剤を除去し、更に、ペースト層206を加熱してバインダを除去することにより、溶着予定領域R及び溶着予定領域Rと接続される助走領域Sに沿ってガラス部材204の表面204aにガラス層203を固着させる。なお、ガラス部材204の表面204aに固着したガラス層203は、バインダの除去による空隙やガラスフリット202の粒子性によって、レーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光において白っぽく見える)。
【0047】
続いて、図16に示されるように、アルミニウムからなる板状の載置台207の表面207a(ここでは研磨面)に、ガラス層203を介してガラス部材204を載置する。これにより、ペースト層206から有機溶剤及びバインダが除去されることにより形成されたガラス層203が、溶着予定領域R及び溶着予定領域Rと接続される助走領域Sに沿うようにガラス部材204と載置台207との間に配置される。
【0048】
続いて、図16〜図18に示されるように、ガラス層203の溶着予定領域Rと接続された助走領域Sにおける照射開始位置Aに集光スポットを合わせて照射開始位置Aからレーザ光(第1のレーザ光)L1の照射を開始し、助走領域Sに沿って溶着予定領域Rに向かってレーザ光L1の照射を行う。ところで、レーザ光L1は前述したような温度分布(図15参照)を有することから、図18に示されるように、助走領域Sにおける照射開始位置Aから、徐々にガラス層203の幅方向(レーザ光の進行方向と略直交する方向)へ溶融が広がり、溶着予定領域Rに接続される接続位置B付近ではガラス層203の溶融が幅方向全体にわたる安定領域となっている。つまり、溶着予定領域の外方に配置された助走領域Sは、ガラス層203の溶融が幅方向の一部で行われる不安定領域の全体を含むようになっている。
【0049】
その後、助走領域Sと溶着予定領域Rとの接続位置Bを越えて溶着予定領域Rに沿ってレーザ光L1のガラス層203への照射を続け、図19に示されるように、接続位置Bに戻るまでレーザ光L1の照射を行う。
【0050】
このようにレーザ光L1の照射を溶着予定領域Rと接続された助走領域Sにおける照射開始位置Aから開始して安定領域となってから溶着予定領域Rの溶融を開始するようにしており、ガラス部材204に配置されたガラス層203が溶着予定領域R全周にわたって安定して溶融・再固化し、ガラス部材204の表面204aにガラス層203が焼き付けられる。なお、ガラス部材204の表面204aに焼き付けられたガラス層203は、ガラスフリット202の溶融によって空隙が埋まると共に粒子性が崩れるため、レーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、レーザ光吸収率が高い状態となる(例えば、可視光において黒っぽく見える)。
【0051】
そして、溶着予定領域R全周にわたって安定したガラス層203の焼付けが終了すると、ガラス層203が焼き付けられたガラス部材204を載置台207より取り外す。この際、ガラスフリット202と載置台207との線膨張係数の差がガラスフリット202とガラス部材204との線膨張係数の差よりも大きくなっていることから、ガラス層203は載置台207に固着しないようになっている。また、ガラス部材204の表面204aに焼き付けられたガラス層203は、載置台207の表面207aが研磨されていることから、ガラス部材204と反対側の表面203aの凹凸が平坦化された状態となっている。なお、本実施形態では、ガラス部材204側からレーザ光L1を照射して焼付けが行われていることから、ガラス層203のガラス部材204への定着が確実に行われる一方、表面203a側の結晶化が低減され、その部分の融点が高くならないようになっている。また、助走領域Sのガラス層203は、ガラス層203の焼付け終了後、必要に応じて所定の方法で除去してもよい。
【0052】
ガラス層203の焼付けに続いて、図20に示されるように、ガラス層203が焼き付けられたガラス部材204に対し、ガラス層203を介してガラス部材205を重ね合わせる。このとき、ガラス層203の表面203aが平坦化されているため、ガラス部材205の表面205aがガラス層203の表面203aに隙間なく接触する。
【0053】
続いて、図21に示されるように、ガラス層203に集光スポットを合わせてレーザ光(第2のレーザ光)L2を溶着予定領域Rに沿って照射する。これにより、溶着予定領域R全周にわたってレーザ光吸収率が高く且つ均一な状態となっているガラス層203にレーザ光L2が吸収されて、ガラス層203及びその周辺部分(ガラス部材204,205の表面204a,205a部分)が同程度に溶融・再固化し、ガラス部材204とガラス部材205とが溶着される。このとき、ガラス部材205の表面205aがガラス層203の表面203aに隙間なく接触すると共にガラス部材204に焼き付けられたガラス層203の溶融が溶着予定領域R全周にわたって安定した安定領域として形成されているため、ガラス部材204とガラス部材205とが溶着予定領域Rに沿って均一に溶着される。
【0054】
以上説明したように、ガラス溶着体201を製造するためのガラス溶着方法においては、ガラス部材204にガラス層203を定着させる際、溶着予定領域Rと接続された助走領域Sにおける照射開始位置Aから助走領域Sに沿ってレーザ光L1を照射するため、助走領域Sにおいてガラス層203の溶融が幅方向に広がって幅方向全体にわたることになる。すなわち、助走領域Sが不安定領域の全体を含むようになっている。このように、助走領域Sにおいてガラス層203を事前に溶融させるため、溶着予定領域Rにおける安定領域の比率が高められた状態でガラス層203をガラス部材204に定着させることができ、その結果、安定領域の比率が高められたガラス層203を介してガラス部材204とガラス部材205とを溶着するため、ガラス部材204,205同士の溶着状態を均一にすることができる。
【0055】
また、上述したガラス溶着方法においては、助走領域Sを矩形環状の溶着予定領域Rの外方に配置するようにしている。これにより、助走領域Sでの未溶融部分から発生するガラスフリットなどの粉末を溶着予定領域R内に入らないようにすることができる。しかも、発生した粉末を洗浄によって容易に取り除くこともできる。なお、ガラス部材204にガラス層203を定着させた後、このような助走領域を除去する工程をさらに含むことにより、外観形状が優れたガラス溶着体201を得ることができる。
[第3の実施形態]
【0056】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態では、複数のガラス溶着体201を一括して製造するガラス溶着方法について説明する。
【0057】
まず、図22に示されるように、矩形環状の溶着予定領域R、及び溶着予定領域Rと接続された助走領域S1を複数組、マトリクス状に設定する。本実施形態では、列方向に5組の溶着予定領域Rと助走領域S1とが設定され、行方向に5組の溶着予定領域Rと助走領域S1とが設定されるようになっている。
【0058】
このマトリクス状に設定された矩形環状の溶着予定領域Rは、図23に示されるように、列方向に延在するラインL11(第1のライン)とラインL12(第2のライン)とにそれぞれが沿って対をなす溶着予定領域Ra,Rbと、行方向に延在するラインL13(第1のライン)とラインL14(第2のライン)とにそれぞれが沿って対をなす溶着予定領域Rc,Rdとから構成される。また、溶着予定領域Rと接続される助走領域S1は、ラインL11に沿って溶着予定領域Raの一端部と接続される助走領域Saと、ラインL12に沿って溶着予定領域Rbの他端部と接続される助走領域Sbと、ラインL13に沿って溶着予定領域Rcの一端部と接続される助走領域Scと、ラインL14に沿って溶着予定領域Rdの他端部と接続される助走領域Sdとから構成される。
【0059】
このような構成を有する溶着予定領域R及び助走領域S1それぞれが同じ方向でマトリクス状に設定された後、第2の実施形態と同様にディスペンサやスクリーン印刷等によってフリットペーストを塗布することにより、図22に示されるように、矩形環状の溶着予定領域R、及び溶着予定領域Rと接続された助走領域S1に沿って、ガラス部材214の表面214aにペースト層216をマトリクス状に複数形成する。
【0060】
続いて、各ペースト層216から有機溶剤とバインダとを除去して、溶着予定領域R及び溶着予定領域Rと接続される助走領域S1に沿ってガラス部材214の表面214aにガラス層213を固着させる。なお、ガラス部材214の表面214aに固着した各ガラス層213は、バインダの除去による空隙やガラスフリット202の粒子性によって、レーザ光吸収性顔料の吸収特性を上回る光散乱が起こり、レーザ光吸収率が低い状態となっている(例えば、可視光において白っぽく見える)。その後、アルミニウムからなる板状の載置台の表面(ここでは研磨面)に、ガラス層213を介してガラス部材214を載置する。
【0061】
続いて、図24に示されるように、マトリクス状に配置された各ガラス層213のガラス部材214への焼付けを行う。
【0062】
まず、ラインL11に沿って図示下方側(一方の側)から図示上方側(他方の側)にレーザ光(第1のレーザ)L3を進行させて、ラインL11に沿って列方向に同じ向きに設定された5つの溶着予定領域Ra、及びそれら溶着予定領域Raそれぞれに接続される助走領域Saに沿って照射を行う。各溶着予定領域Ra及び各助走領域Saに対してレーザ光L3を照射する際には、第2の実施形態と同様に、助走領域Saにおける照射開始位置から助走領域Saに沿ってレーザ光L3の照射を行った後、連続して、溶着予定領域Raに沿って照射を行い、これを繰り返す。
【0063】
続いて、ラインL12に沿って図示上方側から図示下方側にレーザ光L3を進行させて、ラインL12に沿って列方向に同じ向きに設定された5つの溶着予定領域Rb、及びそれら溶着予定領域Rbそれぞれに接続される助走領域Sbに沿って照射を行う。各溶着予定領域Rb及び各助走領域Sbに対してレーザ光L3を照射する際には、第2の実施形態と同様に、助走領域Sbにおける照射開始位置から助走領域Sbに沿ってレーザ光L3の照射を行った後、連続して、溶着予定領域Rbに沿って照射を行い、これを繰り返す。このような列方向におけるレーザ光L3の往復照射を、他の列に配置されたガラス層13に対
しても同様に行う。
【0064】
次に、ラインL13に沿って図示右側(一方の側)から図示左側(他方の側)にレーザ光(第1のレーザ)L4を進行させて、ラインL13に沿って行方向に同じ向きに設定された5つの溶着予定領域Rc、及びそれら溶着予定領域Rcそれぞれに接続される助走領域Scに沿って照射を行う。各溶着予定領域Rc及び各助走領域Scに対してレーザ光L4を照射する際には、第2の実施形態と同様に、助走領域Scにおける照射開始位置から助走領域Scに沿ってレーザ光L4の照射を行った後、連続して、溶着予定領域Rcに沿って照射を行い、これを繰り返す。
【0065】
続いて、ラインL14に沿って図示左側から図示右側にレーザ光L4を進行させて、ラインL14に沿って行方向に同じ向きに設定された5つの溶着予定領域Rd、及びそれら溶着予定領域Rdそれぞれに接続される助走領域Sdに沿って照射を行う。各溶着予定領域Rd及び各助走領域Sdに対してレーザ光L4を照射する際には、第2の実施形態と同様に、助走領域Sdにおける照射開始位置から助走領域Sdに沿ってレーザ光L4の照射を行った後、連続して、溶着予定領域Rdに沿って照射を行い、これを繰り返す。このような行方向におけるレーザ光L4の往復照射を、他の行に配置されたガラス層213に対しても同様に行う。このような照射により、安定領域の比率が高められた各ガラス層13が一括してガラス部材14に焼き付けられる。なお、上述した説明では、各列方向又は各行方向へのレーザ光L3,L4の照射を一のレーザで行っているが、複数のレーザを用いて図25に示されるように同時に行うようにしてもよい。
【0066】
このようにガラス部材214の表面204aに焼き付けられた各ガラス層213は、ガラスフリット202の溶融によって空隙が埋まると共に粒子性が崩れるため、レーザ光吸収性顔料の吸収特性が顕著に現れ、レーザ光吸収率が高い状態となる(例えば、可視光において黒っぽく見える)。
【0067】
そして、溶着予定領域R全周にわたって安定した各ガラス層213の焼付けが終了すると、ガラス層213が焼き付けられたガラス部材214を載置台217より取り外し、ガラス層213を介してガラス部材214,215を重ね合わせる。そして、各ガラス層213に集光スポットを合わせて、第2の実施形態と同様に、レーザ光L2をマトリクス状に配置された各溶着予定領域Rに沿って照射する。これにより、溶着予定領域R全周にわたってレーザ光吸収率が高く且つ均一な状態となっている各ガラス層213にレーザ光L2が吸収されて、ガラス層213及びその周辺部分(ガラス部材214,215の表面214a,215a部分)が同程度に溶融・再固化し、ガラス部材214とガラス部材215とが溶着され、溶着体220が得られる。なお、レーザ光L2の照射は、上述したガラス層213をガラス部材214に焼き付ける際におけるレーザ光L3,L4と同様の方法で行ってもよい。
【0068】
続いて、ガラス部材214とガラス部材215とからなる溶着体220に対して、図26に示されるように、列方向L15及び行方向L16に沿って所定の方法で切断する。そして、この切断により、溶着体220は個別のガラス溶着体201に分割され、複数のガラス溶着体201を一括して得ることができる。なお、この切断の際に、各助走領域Sa〜Sdをガラス溶着体201から除去するように切断してもよい。
【0069】
以上説明したように、ガラス溶着体201を製造するためのガラス溶着方法においては、ガラス部材214において列方向または行方向に延在するラインL11,L13に沿うように、溶着予定領域Ra,Rc及び溶着予定領域Ra,Rcの一端部と接続された助走領域Sa,Scを設定すると共に、ガラス部材214において列方向または行方向に延在するラインL12,14に沿うように、溶着予定領域Rb,Rd、及び溶着予定領域Rb,Rdの他端部と接続された助走領域Sb,Sdを設定する工程を含み、レーザ光L3,L4を照射する際には、ラインL11,L13に沿って一方の側から他方の側にレーザ光L3,L4を進行させた後、連続して、ラインL12,L14に沿って他方の側から一方の側にレーザ光L3,L4を進行させている。このように、列方向または行方向に延在するラインL11,L13及びラインL12,14に沿ってレーザ光L3,L4を往復するように進行させることにより、助走領域Sa〜Sdにおいてガラス層213を事前に溶融させてから溶着予定領域Ra〜Rdを溶融させることを、ラインL11,13及びラインL12,14に沿って設定された各溶着予定領域Rにおいて連続して行うことができ、安定領域の比率が高められた複数のガラス層213を効率的に得ることができる。
【0070】
また、上述したガラス溶着方法においては、ガラス部材214において列方向または行方向に延在するラインL11〜L14に沿うように、各ライン毎に複数の溶着予定領域R、及び溶着予定領域Rの端部と接続された助走領域S1を設定する工程を含み、レーザ光L3,L4を照射する際には、ラインL11〜L14に沿って一方の側から他方の側に又は他方の側から一方の側にレーザ光L3,L4を進行させている。このように、列方向または行方向に延在するラインL11〜L14に沿ってレーザ光L3,L4を進行させることにより、助走領域Sa〜Sdにおいてガラス層213を事前に溶融させてから溶着予定領域Ra〜Rdを溶融させることを、ラインL11〜L14に沿って設定された複数の溶着予定領域Rにおいて連続して行うことができ、安定領域の比率が高められた複数のガラス層213を効率的に得ることができる。
【0071】
そして、このように不安定領域が低減されるようにガラス部材214に焼き付けられた各ガラス層213を介してガラス部材214とガラス部材215とを溶着するため、複数の溶着予定領域Rに沿ったガラス層213が定着されているにもかかわらずガラス部材214,215同士の溶着状態を均一にして、溶着状態が良好な複数のガラス溶着体201を一括して製造することができる。
【0072】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0073】
例えば、第2及び第3の実施形態では、矩形環状の溶着予定領域Rを用いたが、本発明は、円環状の溶着予定領域にも適用することができる。また、第2及び第3の実施形態では、ガラス部材204,214を介してガラス層203,213にレーザ光L1,L3,L4を照射したが、反対側から直接、ガラス層203,213にレーザ光L1,L3,L4を照射するようにしてもよい。
【0074】
また、第2及び第3の実施形態では、ガラス部材204,205,214,215を固定して、レーザ光L1〜L4を進行させるようにしているが、レーザ光L1〜L4は、各ガラス部材204,205,214,215に対して相対的に進行すればよく、レーザ光L1〜L4を固定してガラス部材204,205,214,215を移動させるようにしてもよいし、レーザ光L1〜L4とガラス部材204,205,214,215とをそれぞれ移動させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0075】
101,201…ガラス溶着体、102,202…ガラスフリット(ガラス粉)、103,203,213…ガラス層、104,204,214…ガラス部材(第1のガラス部材)、105,205,215…ガラス部材(第2のガラス部材)、106,206,216…ペースト層、107,207,217…載置台、108a〜108d…レーザ光吸収部、220…溶着体、A…照射開始位置、B…接続位置、R,Ra,Rb,Rc,Rd…溶着予定領域、L1,L3,L4…レーザ光(第1のレーザ光)、L2…レーザ光(第2のレーザ光)、L3…レーザ光(第3のレーザ光)、L11,L13…ライン(第1のライン)、L12,L14…ライン(第2のライン)、L15,L16…切断線、S,Sa,Sb,Sc,Sd…助走領域。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のガラス部材にガラス層を定着させるガラス層定着方法であって、
ガラス粉、レーザ光吸収材、有機溶剤及びバインダを含むペースト層から前記有機溶剤及び前記バインダが除去されることにより形成された前記ガラス層を、溶着予定領域に沿うように前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記ガラス層の一部に第1のレーザ光を照射することにより前記ガラス層の一部を溶融させ、前記ガラス層にレーザ光吸収部を形成する工程と、
前記レーザ光吸収部を照射開始位置として前記溶着予定領域に沿って第2のレーザ光を照射することにより前記ガラス層を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層を定着させる工程と、を含むことを特徴とするガラス層定着方法。
【請求項2】
前記ガラス層の一部において、前記溶着予定領域に対する前記第2のレーザ光の進行方向と交差する方向における前記ガラス層の幅全体にわたるように、前記レーザ光吸収部を形成することを特徴とする請求項1記載のガラス層定着方法。
【請求項3】
前記溶着予定領域に対する前記第2のレーザ光の進行方向と交差する方向における中央部が前記第2のレーザ光の進行方向に突出するように、前記レーザ光吸収部を形成することを特徴とする請求項1記載のガラス層定着方法。
【請求項4】
前記溶着予定領域に沿って前記レーザ光吸収部を断続的に複数形成し、
複数の前記レーザ光吸収部のいずれか1つを前記照射開始位置とすることを特徴とする請求項1記載のガラス層定着方法。
【請求項5】
第1のガラス部材にガラス層を定着させるガラス層定着方法であって、
ガラス粉、レーザ光吸収材、有機溶剤及びバインダを含むペースト層から前記有機溶剤及び前記バインダが除去されることにより形成された前記ガラス層を、溶着予定領域、及び前記溶着予定領域と接続された所定の領域に沿うように前記第1のガラス部材に配置する工程と、
前記所定の領域における照射開始位置から前記所定の領域に沿って第1のレーザ光を照射した後、連続して、前記溶着予定領域に沿って前記第1のレーザ光を照射することにより、前記ガラス層を溶融させ、前記第1のガラス部材に前記ガラス層を定着させる工程と、を含むことを特徴とするガラス層定着方法。
【請求項6】
前記所定の領域は、前記第1のレーザ光を前記照射開始位置から一度照射した場合に前記ガラス層の溶融が不安定となる不安定領域の全体を含むことを特徴とする請求項5記載のガラス層定着方法。
【請求項7】
前記所定の領域を環状の前記溶着予定領域の外方に配置することを特徴とする請求項5記載のガラス層定着方法。
【請求項8】
前記第1のガラス部材において所定の方向に延在する第1のラインに沿うように、前記溶着予定領域、及び前記溶着予定領域の一端部と接続された前記所定の領域を設定すると共に、前記第1のガラス部材において前記所定の方向に延在する第2のラインに沿うように、前記溶着予定領域、及び前記溶着予定領域の他端部と接続された前記所定の領域を設定する工程を含み、
前記第1のレーザ光を照射する際には、前記第1のラインに沿って一方の側から他方の側に前記第1のレーザ光を相対的に進行させた後、連続して、前記第2のラインに沿って他方の側から一方の側に前記第1のレーザ光を相対的に進行させることを特徴とする請求項5記載のガラス層定着方法。
【請求項9】
前記第1のガラス部材において所定の方向に延在するラインに沿うように、前記溶着予定領域、及び前記溶着予定領域の一端部と接続された前記所定の領域を少なくとも2組設定する工程を含み、
前記第1のレーザ光を照射する際には、前記第1のラインに沿って一方の側から他方の側に前記第1のレーザ光を相対的に進行させることを特徴とする請求項5記載のガラス層定着方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2010−116319(P2010−116319A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267968(P2009−267968)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【分割の表示】特願2009−549313(P2009−549313)の分割
【原出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】