説明

ガラス積層体、表示装置用パネル及び表示装置、並びにそれらの製造方法

【課題】支持ガラス基板上に樹脂溶液を付与して樹脂層を形成する際に、樹脂層端部の隆起部分が生じないように形成することができ、その結果、全域にわたって厚さのばらつきが小さなガラス積層体を簡易かつ経済的に製造する。
【解決手段】流体が通過可能なメッシュ部と通過不可能なレジスト硬化部とを備えたスクリーン版を用いるスクリーン印刷法により、支持ガラス基板の一方の面に樹脂溶液を転写し硬化せしめた後、前記支持ガラス基板の樹脂転写領域に薄板ガラス基板を載置・接触させて、支持ガラス基板、樹脂層及び薄板ガラス基板を有するガラス積層体を製造する方法において、前記スクリーン版におけるメッシュ部の外縁で囲まれる領域内の外縁の近傍に又は前記外縁に接して微小レジスト硬化部が複数設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置、有機EL表示装置等の製造に用いられるガラス積層体及び該ガラス積層体を含む表示装置用パネル等の製品、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、有機EL表示装置(OLED)等の表示装置(ディスプレイ)、特にモバイルコンピュータや携帯電話等の携帯型機器用表示装置の分野では、表示装置自体の軽量化、薄型化が重要な課題となっている。
【0003】
この課題に対応するために、表示装置に用いるガラス基板の板厚をさらに薄くすることが望まれている。板厚を薄くする方法としては、一般に、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成する前又は形成した後に、フッ酸等を用いてガラス基板をエッチング処理し、必要に応じてさらに物理研磨して薄くする方法が行われる。
【0004】
しかしながら、表示装置用部材(例えば、TFTアレイ等)をガラス基板の表面に形成する前に、ガラス基板にエッチング処理等を施して薄くすると、ガラス基板の強度が低下し、たわみ量も大きくなる。そのため既存の表示装置製造ラインで処理することができないという問題が生じる。
【0005】
また、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成した後に、エッチング処理等をしてガラス基板を薄くすると、表示装置用部材をガラス基板の表面に形成する過程においてガラス基板の表面に形成された微細な傷が顕在化する問題、すなわちエッチピット(etch pit)の発生という問題が生じる。
【0006】
そこで、これらのような問題を解決することを目的として、表示装置用の既存のガラス基板よりも板厚の薄いガラス基板(以下では「薄板ガラス基板」ともいう。)を、これを支持する他のガラス基板(以下「支持ガラス基板」と称する。)と貼り合わせて積層体とし、その状態で表示装置を製造するための所定の処理(例えば、TFTアレイ形成処理等)を実施し、その後、前記薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを分離する方法等が提案されている。
【0007】
例えば特許文献1には、薄板ガラス基板と、支持ガラス基板と、を積層させてなるガラス積層体であって、前記薄板ガラス基板と、前記支持ガラス基板と、が易剥離性及び非粘着性を有するシリコーン樹脂層を介して積層されていることを特徴とするガラス積層体が記載されている。そして、薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを分離するには、薄板ガラス基板を支持ガラス基板から垂直方向に引き離す力を与えればよく、剃刀の刃等をガラス積層体の端部における薄板ガラス基板と支持ガラス基板との界面(以下「積層界面」という。)に挿入して剥離の起点とする方法や、積層界面へ流体を噴射することにより、より容易に剥離することが可能であると記載されている。
【0008】
なお、この特許文献1において、薄板ガラス基板と支持ガラス基板との間に設けられるシリコーン系樹脂層の形成方法に関する記述としては、ダイコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法が好ましい方法として挙げられている。
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/018028号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記の特許文献1に記載の方法、すなわちダイコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法のような方法でガラス表面上に樹脂を付与(塗布)した場合、樹脂層の端部が樹脂溶液の表面張力の影響で隆起するという問題がある。このため、端部に隆起部分を有する樹脂層の上に薄板ガラス基板を積層すると、前記隆起部分に薄板ガラス基板が乗り上げる形となり、ガラス積層体全体の板厚が端部のみ厚くなる。このため、ガラス積層体の板厚のばらつきが生じ、表示装置の形成工程において、露光時等にフォトマスクとガラス積層体表面との間のギャップが場所によって変化し、パターン形成に影響が出るという問題が生じる。
【0011】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、支持ガラス基板上に樹脂溶液を付与して樹脂層を形成する際に、樹脂層端部の隆起部分が生じないように形成することができ、その結果、全域にわたって厚さのばらつきが小さなガラス積層体を簡易かつ経済的に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、このようなガラス積層体を含む支持体付き表示装置用パネルを提供することを目的とする。また、このような支持体付き表示装置用パネルを用いて形成される表示装置用パネル及び表示装置を提供することを目的とする。
【0013】
さらに、このような支持体付き表示装置用パネル、表示装置用パネル及び表示装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本発明を完成した。本発明は以下の(1)〜(12)である。
【0015】
(1)流体が通過可能なメッシュ部と通過不可能なレジスト硬化部とを備えたスクリーン版を用いるスクリーン印刷法により、支持ガラス基板の一方の面に樹脂溶液を転写し硬化せしめた後、前記支持ガラス基板の樹脂転写領域に薄板ガラス基板を載置・接触させて、支持ガラス基板、樹脂層及び薄板ガラス基板を有するガラス積層体を製造する方法において、
前記スクリーン版におけるメッシュ部の外縁で囲まれる領域内の外縁の近傍に又は前記外縁に接して微小レジスト硬化部が複数設けられていることを特徴とするガラス積層体の製造方法。
【0016】
(2)前記微小レジスト硬化部が、メッシュ部の外縁で囲まれる領域内の外縁から10mm以内の領域に設けられていることを特徴とする(1)記載のガラス積層体の製造方法。
【0017】
(3)同一形状の微小レジスト硬化部がメッシュ部の外縁に対して平行に並んで複数配置されており、
前記微小レジスト硬化部の面積がA(mm)、メッシュ部の外縁に垂直な方向における前記微小レジスト硬化部の最大径がX(mm)、メッシュ部の外縁に平行な方向における前記微小レジスト硬化部の配置間隔がY(mm)であるとき、
数式Z=100×A/XYで表される微小レジスト硬化部による遮蔽率Z(%)の値が20≦Z≦70を満足するものであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のガラス積層体の製造方法。
【0018】
(4)前記樹脂溶液の粘度が100Pa・s以下であることを特徴とする(1)〜(3)に記載のガラス積層体の製造方法。
【0019】
(5)前記薄板ガラス基板の面積が、前記メッシュ部の外縁で囲まれる領域の面積よりも小さいことを特徴とする(1)〜(4)に記載のガラス積層体の製造方法。
【0020】
(6)前記樹脂溶液に含まれる樹脂のうち最も含有量の多い樹脂が、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂又はシリコーン系樹脂であることを特徴とする(1)〜(5)に記載のガラス積層体の製造方法。
【0021】
(7)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法により製造されたことを特徴とするガラス積層体。
【0022】
(8)前記(7)に記載のガラス積層体を用いたことを特徴とする支持体付き表示装置用パネル。
【0023】
(9)前記(8)に記載の支持体付き表示装置用パネルを用いたことを特徴とする表示装置用パネル。
【0024】
(10)前記(8)に記載の表示装置用パネルを用いたことを特徴とする表示装置。
【0025】
(11)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法によって製造されたガラス積層体を用いて、前記ガラス積層体の表面上に、表示装置用部材を形成する工程を具備することを特徴とする支持体付き表示装置用パネルの製造方法。
【0026】
(12)前記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の方法によって製造されたガラス積層体を用いて、前記ガラス積層体の表面上に、表示装置用部材を形成して支持体付き表示装置用パネルを得た後、該支持体付き表示装置用パネルにおける前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを分離する分離工程を具備することを特徴とする表示装置用パネルの製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、板厚のばらつきの小さいガラス積層体を提供することができる。その結果、LCD用パネルやOLED用パネルの製造工程における露光時等に、フォトマスクとガラス積層体表面との間のギャップ差に起因する不具合を解消できる。
【0028】
また、このようなガラス積層体を含む支持体付き表示装置用パネルを提供することができる。また、このような支持体付き表示装置用パネルを用いて形成される表示装置を提供することができる。さらに、前記ガラス積層体又は前記支持体付き表示装置用パネルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明について説明する。
【0030】
本発明のガラス積層体は、薄板ガラス基板及び支持ガラス基板を有し、前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板との間に樹脂層を有する。前記樹脂層は、薄板ガラス基板に密着しながらも容易に剥離できる性質を有している。すなわち易剥離性(removability)を備えている。このようなガラス積層体を、以下では「本発明の積層体」ともいう。
【0031】
まず、本発明の積層体が有する薄板ガラス基板、支持ガラス基板、樹脂層の各々について説明する。
【0032】
[薄板ガラス基板]
薄板ガラス基板は、その厚さ、形状、大きさ、物性(熱収縮率、表面形状、耐薬品性等)、組成等は特に限定されず、例えば従来のLCD、OLED等の表示装置用のガラス基板と同様であってよい。
【0033】
前記薄板ガラス基板は、TFTアレイ用ガラス基板であることが好ましい。
【0034】
薄板ガラス基板の厚さは0.7mm未満であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましい。また、0.05mm以上であることが好ましく、0.07mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
薄板ガラスの形状は限定されないが、矩形であることが好ましい。薄板ガラスの大きさは限定されないが、例えば矩形の場合は100〜2000mm×100〜2000mmであってよく、500〜1000mm×500〜1000mmであることがより好ましい。
【0036】
なお、薄板ガラスの厚さ及び大きさは下記の方法で測定する。厚さは、レーザーフォーカス変位計を用いて面内9点を測定した値の平均値を持って表し、大きさは鋼尺を用いて短辺・長辺をそれぞれ計測した値を意味するものとする。後述する支持ガラス基板の厚さ及び大きさについても同様とする。
【0037】
このような厚さ及び大きさであっても、本発明の積層体は薄板ガラス基板と支持ガラス基板とを容易に剥離することができる。
【0038】
薄板ガラス基板の熱収縮率、表面形状、耐薬品性等の特性も特に限定されず、製造する表示装置の種類により異なる。
【0039】
また、前記薄板ガラス基板の熱収縮率は小さいことが好ましい。具体的には熱収縮率の指標である線膨張係数が200×10−7/℃以下であるものを用いることが好ましい。前記線膨張係数は、100×10−7/℃以下であることがより好ましく、45×10−7/℃以下であることがさらに好ましい。その理由は熱収縮率が大きいと高精細な表示装置を作ることができないためである。
【0040】
なお、本発明において線膨張係数はJIS R3102(1995年)に規定のものを意味する。
【0041】
薄板ガラス基板の組成は、例えばアルカリ含有ガラスや無アルカリガラスと同様であってよい。中でも、熱収縮率が小さい無アルカリガラスであることが好ましい。
【0042】
[支持ガラス基板]
支持ガラス基板は樹脂層を介して薄板ガラス基板を支持し、薄板ガラス基板の強度を補強する。支持ガラス基板の厚さ、形状、大きさ、物性(熱収縮率、表面形状、耐薬品性等)、組成等は特に限定されない。
【0043】
支持ガラス基板の厚さは特に限定されないが、現行の表示装置(LCDやOLED等)の製造ラインで処理できるような厚さであることが好ましい。前記支持ガラス基板の厚さは、0.1〜1.1mmの厚さであることが好ましく、0.3〜0.8mmであることがより好ましく、0.4〜0.7mmであることがさらに好ましい。
【0044】
例えば、現行の製造ラインが厚さ0.5mmの基板を処理するように設計されたものであって、薄板ガラス基板の厚さが0.1mmである場合、支持ガラス基板の厚さと樹脂層の厚さとの和を0.4mmとする。現行の製造ラインは厚さが0.7mmのガラス基板を処理するように設計されているものが最も一般的であるので、例えば薄板ガラス基板の厚さが0.4mmならば、支持ガラス基板の厚さと樹脂層の厚さとの和を0.3mmとする。
【0045】
支持ガラス基板の厚さは、前記薄板ガラス基板よりも厚いことが好ましい。支持ガラス基板の形状は限定されないが、矩形であることが好ましい。支持ガラス基板の大きさは限定されないが、前記薄板ガラス基板と同程度であることが好ましく、前記ガラス基板よりもやや大きい(縦方向又は横方向の各々が0.05〜10mm程度大きい)ことが好ましい。理由は、表示装置用パネル製造時の位置決めピン等のアライメント装置の接触から前記薄板ガラス基板の端部を保護しやすいこと、及び薄板ガラス基板と支持ガラス基板との剥離をより容易に行うことができるからである。
【0046】
支持ガラス基板は線膨張係数が前記薄板ガラス基板と実質的に同一であってよく、異なってもよい。実質的に同一であると、本発明の積層体を熱処理した際に、薄板ガラス基板又は支持ガラス基板に反りが発生し難い点で好ましい。
【0047】
薄板ガラス基板と支持ガラス基板との線膨張係数の差は300×10−7/℃以下であることが好ましく、100×10−7/℃以下であることがより好ましく、50×10−7/℃以下であることがさらに好ましい。
【0048】
支持ガラス基板の組成は、薄板ガラス基板と同様に、アルカリ含有ガラス、無アルカリガラスと同様であってよい。中でも、熱収縮率が小さい無アルカリガラスであることが好ましい。
【0049】
[樹脂層]
本発明の積層体において、樹脂層は前記支持ガラス基板に固定されている。また該樹脂層は、前記薄板ガラス基板と密着しているが、容易に剥離することができる。すなわち樹脂層は、前記薄板ガラス基板に対して易剥離性を有する。
【0050】
本発明の積層体において、樹脂層と薄板ガラス基板とは粘着剤が有するような粘着力によっては付いていないと考えられ、固体分子間におけるファンデルワールス力に起因する力、すなわち、密着力によって付いていると考えられる。
【0051】
樹脂層の厚さは特に限定されないが、1〜100μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、7〜20μmであることがさらに好ましい。樹脂層の厚さがこのような範囲であると、薄板ガラス基板と樹脂層との密着が十分になるからである。また、気泡や異物が介在しても、薄板ガラス基板のゆがみ欠陥の発生を抑制することができるからである。また、樹脂層の厚さが厚すぎると、樹脂層の形成に時間及び材料を要するため経済的ではない。
【0052】
ここで樹脂層の厚さは、レーザーフォーカス変位計を用いて面内9点を測定した値の平均値を意味するものとする。
【0053】
なお、樹脂層は2層以上からなっていてもよい。その場合、「樹脂層の厚さ」は全ての樹脂層の厚さの合計を意味するものとする。
【0054】
また、樹脂層が2層以上からなる場合は、各々の層を形成する樹脂の種類が異なってもよい。
【0055】
前記樹脂層は、前記薄板ガラス基板の第1主面に対する樹脂層の表面の表面張力が30mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以下であることがより好ましく、22mN/m以下であることがさらに好ましい。このような表面張力であると、より容易に薄板ガラス基板と剥離することができるからである。
【0056】
また、樹脂層は、ガラス転移点が室温(25℃程度)よりも低い材料又はガラス転移点を有しない材料からなることが好ましい。そのような樹脂層の場合、薄板ガラス基板との密着も十分になるからである。
【0057】
また、樹脂層が耐熱性を有していることが好ましい。本発明のパネル製造方法では、例えば前記薄板ガラス基板の第2主面上に表示装置用部材を形成する場合に、樹脂層を有するガラス積層体を熱処理に供するからである。ここで、「樹脂層が耐熱性を有している」とは、窒素気流下で10℃/分の昇温速度で樹脂を過熱した際の5%質量減温度が200℃以上であることを意味する。
【0058】
また、樹脂層の弾性率が高すぎると薄板ガラス基板との密着性が低くなるので好ましくない。また弾性率が低すぎると易剥離性が低くなるので好ましくない。したがって、前記樹脂層は弾性率が0.01〜1000MPaの範囲であることが好ましい。
【0059】
樹脂層を形成する樹脂の種類は特に限定されない。例えばアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂及びシリコーン系樹脂が挙げられる。これらのうち二種類以上の樹脂を混合して用いることもできる。これらの樹脂の中でもシリコーン系樹脂が好ましい。シリコーン系樹脂は耐熱性に優れ、かつ薄板ガラス基板に対する易剥離性に優れるためである。シリコーン系樹脂からなる樹脂層は、例えば400℃程度で1時間程度処理しても、易剥離性がほぼ劣化しない点も好ましい。また、シリコーン系樹脂が支持ガラス基板表面のシラノール基と縮合反応するので、シリコーン系樹脂層を支持ガラス基板の表面(第1主面)に固定し易いからである。
【0060】
また、樹脂層はシリコーン樹脂の中でも剥離紙用シリコーンからなることが好ましく、その硬化物であることが好ましい。剥離紙用シリコーンは直鎖状のジメチルポリシロキサンを分子内に含むシリコーンを主剤とするものである。この主剤と架橋剤とを含む組成物を、触媒、光重合開始剤等を用いて前記支持ガラス基板の表面に硬化させて形成した樹脂層は、優れた易剥離性を有するので好ましい。また、柔軟性が高いので、薄板ガラス基板と樹脂層との間へ気泡や塵介等の異物が混入しても、薄板ガラス基板のゆがみ欠陥の発生を抑制することができるので好ましい。
【0061】
このような剥離紙用シリコーンは、その硬化機構により縮合反応型シリコーン、付加反応型シリコーン、紫外線硬化型シリコーン及び電子線硬化型シリコーンに分類されるが、いずれも使用することができる。これらの中でも付加反応型シリコーンが好ましい。硬化反応のし易さ、樹脂層を形成した際に易剥離性の程度が良好で、耐熱性も高いからである。
【0062】
また、剥離紙用シリコーンは、溶剤型剥離紙用シリコーン、エマルジョン型剥離紙用シリコーン及び無溶剤型剥離紙用シリコーンに分類できるが、いずれも使用可能である。これらの中でも無溶剤型剥離紙用シリコーンは、生産性、安全性、環境特性の面が優れるため好ましい。また、無溶剤型剥離紙用シリコーンは、樹脂溶液を硬化させて樹脂層を形成する際、すなわち、加熱硬化、紫外線硬化又は電子線硬化の際に発泡を生じる成分を含まないため、樹脂層中に気泡が残留し難い点も好ましい。
【0063】
また、剥離紙用シリコーンとして、具体的には市販されている商品名又は型番としてKNS−320A,KS−847(いずれも信越シリコーン社製)、TPR6700(GE東芝シリコーン社製)、ビニルシリコーン「8500」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11364」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ、ビニルシリコーン「11365」(荒川化学工業株式会社製)とメチルハイドロジェンポリシロキサン「12031」(荒川化学工業株式会社製)との組み合わせ等が挙げられる。なお、KNS−320A、KS−847及びTPR6700は、あらかじめ主剤と架橋剤とを含有しているシリコーンである。
【0064】
また、樹脂層を形成するシリコーン系樹脂は、樹脂層中の成分が薄板ガラス基板に移行しにくい性質、すなわちシリコーン移行性が低いものであることが好ましい。
【0065】
樹脂層を形成する樹脂溶液の粘度は100Pa・s以下が好ましい。樹脂溶液の粘度が100Pa・sより大きいと、後述するスクリーン印刷で樹脂層を形成した際に、端部が大きく隆起する傾向がある。また、後述するスクリーン版に配した微小レジスト硬化部の箇所がレベリング(平坦化)せずにそのままの形状になる傾向がある。そのため、樹脂溶液の粘度は10Pa・s以下がより好ましく、1Pa・s以下がさらに好ましい。
【0066】
本発明においては、樹脂層の形成方法としてスクリーン印刷法を採用する。スクリーン版の紗の材質、線径、織り方、テンション等には特に制限は無く、目標とする樹脂層の厚み、表面平坦性に応じて適宜選択すればよい。
【0067】
前記支持ガラス基板及び薄板ガラス基板が矩形であるので、支持ガラス基板上に形成する樹脂層領域の形状(以下、「樹脂層領域形状」という。)としては矩形とすることが好ましい。本発明において、樹脂層領域形状とは、樹脂層の外縁で囲まれる領域の形状を意味し、該樹脂層領域形状の面積を樹脂層領域面積というものとする。なお、その樹脂層領域面積は支持ガラス基板の面積以下であることは当然であるが、薄板ガラス基板の面積と同等又はそれより大きいことが好ましい。樹脂層領域面積が薄板ガラス基板の面積よりも大きいと、隆起し易い樹脂層の端部に薄板ガラスが乗り上げることなく支持ガラス基板と薄板ガラス基板を積層することが可能になり、ガラス積層体の端部付近の板厚が厚くならないため好ましい。
【0068】
本発明においては、支持ガラス基板上に樹脂溶液を付与するために、スクリーン印刷法を用いる。ここでいうスクリーン印刷法とは、流体(具体的には樹脂溶液)が通過可能なメッシュ部と通過不可能なレジスト硬化部とを備えたスクリーン(紗)を用い、前記メッシュ部を通して樹脂溶液を支持ガラス基板上に所望の樹脂層領域形状となるように印捺・塗布する方法である。
【0069】
樹脂層形成領域を規定するため、スクリーン版のレジスト硬化部に該当する部分には具体的には乳剤等の硬化体等を形成して樹脂溶液の転写を妨げるようにする。前記レジスト硬化部における硬化体の厚さは10μ以上100μm以下が好ましい。
【0070】
次に、樹脂層の端部の厚さを表すグラフである図1に基づいて説明する。図1に示される例は、0.3Pa・sのシリコーン系樹脂をSUS製の200メッシュのスクリーン版1(レジスト硬化部の乳剤厚さ20μm)を用いて支持ガラス基板上に転写・印捺し、前記シリコーン系樹脂を硬化させた際の端部の形状である。図1から明らかなように樹脂層の端部から離れた領域はその厚みが14μmでありばらつきが小さいが、樹脂層の端部のみ局所的に約4μmの隆起が観察される。この状態で薄板ガラス基板を積層すると、前述のように端部のみガラス積層体が厚くなり、結果として厚さのばらつきが生じる。
【0071】
そこで、本発明においてはスクリーン版のメッシュ部の外縁で囲まれる領域内の外縁近傍に、又は前記外縁に接して他のレジスト硬化部から独立した微小レジスト硬化部を複数設け、メッシュ部の外縁付近に樹脂溶液の転写を妨げる領域を作成する。その結果、メッシュ部外縁付近においてのみ、支持ガラス基板上に転写・印捺される樹脂溶液の量が減少し、前記の図1に見られるような隆起を防止できる。
【0072】
前記微小レジスト硬化部は適度に小さいため、転写後に樹脂溶液がレベリング(平坦化)し、硬化後の樹脂層には微小レジスト硬化部の痕跡は残らない。
【0073】
図2は、前述の微小レジスト硬化部を有するスクリーン版を用いて形成された樹脂層の厚さを表すグラフであり、微小レジスト硬化部の有無以外は、図1のと同じ条件で樹脂溶液を転写・印捺し、硬化させて得たものである。図2から明らかなように、樹脂層の端部における隆起が1μm以下に抑制されている。この状態で薄板ガラス基板を積層すると、前述のような端部のみガラス積層体が厚くなるということはない。
【0074】
次いで、微小レジスト硬化部の形状について、図3及び図4に基づいて説明する。図中、1はスクリーン版、2はメッシュ部、3はレジスト硬化部、4は微小レジスト硬化部を表す(図4においてはメッシュ部2の図示を省略する。図5,7,9,11,13についても同様にメッシュ部2の図示を省略する。)。微小レジスト硬化部3は図3及び図4に示すように、メッシュ部2の外縁5(メッシュ部2とレジスト硬化部3との境界)に対して平行な方向に並んで配置されており、実質的に同一の形状で断続的に配置されている。
【0075】
本発明においては、前記微小レジスト硬化部4の形状は特に限定されるものではないが、メッシュ部2の外縁5に垂直な方向における前記微小レジスト硬化部4の最大径がX(mm)、メッシュ部2の外縁5に平行な方向における前記微小レジスト硬化部4の配置間隔がY(mm)、前記微小レジスト硬化部4の面積がA(mm)と定義するとき、数式Z=100×A/XYで表される微小レジスト硬化部4による遮蔽率Z(%)の値は、20≦Z≦70を満足するものであるであることが好ましい。遮蔽率Zが20%以下であると、端部における樹脂溶液が転写される量が多くなり、樹脂層端部に隆起が生じやすくなる傾向がある。また、遮蔽率Zが70%以上であると、端部における樹脂溶液が転写される量が少なくなりすぎ、樹脂層の端部形状が逆に局所的に陥没しやすくなる傾向がある。したがって、前記遮蔽率Zは20〜70%であると好ましい。さらに好ましい遮蔽率Zの範囲は30%以上60%以下である。そして、図1から分かるように、端部の局所的な隆起は樹脂層端部から数mmの範囲で生じるため、上記Xの値は10mm以下であることが好ましい。さらには5mm以下であることがより好ましい。
【0076】
この微小レジスト硬化部4は、スクリーン版1におけるメッシュ部2の外縁5で囲まれる領域内の外縁近傍において、少なくとも一部に設けられることが必要である。好ましくは、矩形をなすメッシュ部2の外縁5で囲まれる領域の4辺のすべてに設けられることがより好ましい。
【0077】
次に、本発明の支持体付き表示装置用パネルについて説明する。
【0078】
本発明の支持体付き表示装置用パネルは、本発明のガラス積層体の前記薄板ガラス基板における樹脂層と接していない表面(以下、「解放面」ともいう。)に、さらに表示装置用部材を有するものである。
【0079】
この支持体付き表示装置用パネルは、本発明のガラス積層体の前記薄板ガラス基板の解放面に、表示装置用部材を形成することで得ることができる。
【0080】
前記表示装置用部材とは、従来のLCD、OLED等の表示装置用のガラス基板がその表面に有する発光層、保護層、カラーフィルタ、液晶、ITOからなる透明電極等、各種回路パターン等を意味する。
【0081】
本発明の支持体付き表示装置用パネルは、本発明の積層体における薄板ガラス基板の解放面上にTFTアレイ(以下、単に「アレイ」という。)が形成されたものであることが好ましい。
【0082】
本発明の支持体付き表示装置用パネルには、例えば、アレイが薄板ガラス基板の解放面に形成された本発明の支持体付き表示装置用パネルに、さらにカラーフィルタが形成された他のガラス基板(例えば0.3mm以上程度の厚さのガラス基板)が貼り合わされたものも含まれる。
【0083】
また、このような支持体付き表示装置用パネルから、表示装置用パネルを得ることができる。支持体付き表示装置用パネルから、後述するような方法で、薄板ガラス基板と支持ガラス基板に固定されている樹脂層とを剥離して、表示装置用部材(アレイ等)及び薄板ガラス基板を有する表示装置用パネルを得ることができる。
【0084】
また、このような表示装置用パネルから表示装置を得ることができる。表示装置としてはLCD、OLEDが挙げられる。LCDとしてはTN型、STN型、FE型、TFT型、MIM型が挙げられる。
【0085】
次に、本発明の積層体の製造方法を説明する。
【0086】
前述のように、本発明のガラス積層体は、メッシュ部2の外縁5で囲まれる領域内の外縁5の近傍に又は前記外縁5に接して微小レジスト硬化部4が複数設けられているスクリーン版1を用い、支持ガラス基板の一方の面に樹脂溶液を転写し硬化せしめた後、前記支持ガラス基板の樹脂転写領域に薄板ガラス基板を載置・接触させて、支持ガラス基板、樹脂層及び薄板ガラス基板を有するガラス積層体を製造するものである。このような製造方法を、以下「本発明の製造方法」ともいい、具体的に説明する。
【0087】
まず、薄板ガラス基板及び支持ガラス基板を用意する。薄板ガラス基板及び支持ガラス基板の製造方法は特に限定されない。例えば従来公知の方法で製造することができる。例えば従来公知のガラス原料を溶解し溶融ガラスとした後、フロート法、フュージョン法、ダウンドロー法、スロットダウン法、リドロー法等によって板状に成形して得ることができる。
【0088】
このようにして製造した支持ガラス基板の一方の表面に前述のスクリーン印刷法を用いて樹脂溶液を転写・印捺する。
【0089】
ここで、樹脂溶液の印捺量は1〜100g/mであることが好ましく、5〜20g/mであることがより好ましい。
【0090】
例えば付加反応型シリコーンからなる樹脂層を形成する場合、直鎖状のジメチルポリシロキサンを分子内に含むシリコーン(主剤)、架橋剤及び触媒を含む樹脂溶液を、上記のスクリーン印刷法により支持ガラス基板上に印捺し、その後に加熱硬化させる。加熱硬化の条件は、触媒の配合量によっても異なるが、例えば、主剤及び架橋剤の合計量100質量部に対して、白金系触媒を2質量部配合した場合、大気中で50℃〜250℃、好ましくは100℃〜200℃で反応させる。また、この場合の反応時間は5〜60分間、好ましくは10〜30分間とする。低シリコーン移行性を有するシリコーン系樹脂層とするためには、シリコーン樹脂層中に未反応のシリコーン成分が残らないように硬化反応をできるだけ進行させることが好ましい。上記のような反応温度及び反応時間であると、シリコーン樹脂層中に未反応のシリコーン成分が残らないようにすることができるので好ましい。前記の反応時間や反応温度の好ましい範囲を逸脱した場合には、シリコーン系樹脂の酸化分解が同時に起こり低分子量のシリコーン成分が生成して、もしくは硬化不十分でシリコーン移行性が高くなる可能性がある。樹脂層中に未反応のシリコーン成分が残らないように硬化反応をできるだけ進行させることは、加熱処理後の剥離性を良好にするためにも好ましい。
【0091】
また、例えば剥離紙用シリコーンを用いて樹脂層を形成した場合、支持ガラス基板上に印捺した剥離紙用シリコーンを加熱硬化してシリコーン系樹脂層を形成した後、支持ガラス基板のシリコーン樹脂形成領域に薄板ガラス基板を接触させ積層する。剥離紙用シリコーンを加熱硬化させることによって、シリコーン樹脂硬化物が支持ガラス基板の表面と化学的に結合する。また、アンカー効果によってシリコーン樹脂層が支持ガラス基板の表面と結合する。これらの作用によって、シリコーン樹脂層が支持ガラス基板に強固に固定される。
【0092】
続いて、薄板ガラス基板と樹脂層との密着工程について説明する。上記のような方法で支持ガラス基板上に樹脂層を形成し、樹脂層の表面に薄板ガラス基板を積層する。
【0093】
薄板ガラス基板と樹脂層とは、非常に近接した、相対する固体分子間におけるファンデルワールス力に起因する力、すなわち密着力によって樹脂層と密着させる。こうして支持ガラス基板と薄板ガラス基板とを積層させた状態に保持することができる。
【0094】
薄板ガラス基板と、樹脂層が固定された支持ガラス基板とを、泡を生じさせずに積層するためには、薄板ガラス基板と樹脂層とを接触させることなく相対保持させ、その間の空間を高真空状態にすることが有効である。
【0095】
樹脂層の表面に薄板ガラス基板を密着させる際には、薄板ガラス基板の表面を十分に洗浄し、清浄な環境で積層することが好ましい。樹脂層と薄板ガラス基板との間に異物が混入しても、樹脂層が変形するので薄板ガラス基板の表面の平坦性に影響を与えることはないが、清浄な環境で積層した場合であるほどガラス積層体の平坦性が良好となるので好ましい。
【0096】
次に、本発明の支持体付き表示装置用パネルの製造方法を説明する。本発明の支持体付き表示装置用パネルの製造方法は、本発明の積層体における前記薄板ガラス基板の解放面に、表示装置用部材を形成する工程を具備する。
【0097】
具体的には、例えば上記のようにして製造した本発明の積層体における薄板ガラス基板の解放面上に表示装置用部材を形成する。
【0098】
表示装置用部材は特に限定されない。例えばLCDが有するアレイやカラーフィルタが挙げられる。また、例えばOLEDが有する透明電極、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層が挙げられる。
【0099】
このような表示装置部材を形成する方法も特に限定されず、従来公知の方法と同様であってよい。
【0100】
例えば表示装置としてTFT−LCDを製造する場合、従来公知のガラス基板上にアレイを形成する工程、カラーフィルタを形成する工程、アレイが形成されたガラス基板とカラーフィルタが形成されたガラス基板とを貼り合わせる工程(アレイ・カラーフィルタ貼り合わせ工程)等の各種工程と同様であってよい。
【0101】
より具体的には、これらの工程で実施される処理として、例えば純水洗浄、乾燥、成膜、レジスト塗布、露光、現像、エッチング及びレジスト除去が挙げられる。さらに、アレイ・カラーフィルタ貼り合わせ工程を実施した後に行われる工程として、液晶注入工程及び該処理の実施後に行われる注入口の封止工程があり、これらの工程で実施される処理が挙げられる。
【0102】
また、OLEDを製造する場合を例にとると、薄板ガラス基板の解放面上に有機EL構造体を形成するための工程として、透明電極を形成する工程、ホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する工程、封止工程等の各種工程を含み、これらの工程で実施される処理として、具体的には例えば、成膜処理、蒸着処理、封止板の接着処理等が挙げられる。このようにして本発明の支持体付き積層体を製造することができる。
【0103】
次に、本発明の表示装置用パネルの製造方法を説明する。本発明の表示装置用パネルは、上記のような製造方法によって得られる支持体付き表示装置用パネルにおける前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを分離する分離工程を具備する。
【0104】
前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを分離する方法は特に限定されない。
【0105】
例えば、前記薄板ガラス基板を前記支持ガラス基板から垂直方向に引き離す力を与えればよく、剃刀の刃等をガラス積層体の端部における薄板ガラス基板と支持ガラス基板との間の積層界面に挿入して剥離の起点とする方法や、前記積層界面に向けてエアーや水等の流体を吹き付けて剥離することができる。
【0106】
このような方法で本発明の支持体付き積層体のうちの支持体の部分を剥離して、必要な場合はさらに加工して、本発明の表示装置用パネルを得ることができる。
【実施例】
【0107】
(実施例1)
初めに、旭硝子株式会社製の無アルカリガラスAN100と同一の組成で、長辺720mm、短辺600mm、厚さ0.4mm、線膨張係数38×10−7/℃の支持ガラス基板を製造し、その後該支持ガラス基板を純水洗浄、UV洗浄して表面を清浄化した。
【0108】
次に樹脂層を形成するための樹脂として、両末端にビニル基を有する直鎖状ポリオルガノシロキサン(荒川化学工業株式会社製、商品名「8500」:以下、原料1という。)と、分子内にハイドロシリル基を有するメチルハイドロジェンポリシロキサン(荒川化学工業株式会社製、商品名「12031」:以下、原料2という。)とを用いた。そして、これらの樹脂を白金系触媒(荒川化学工業株式会社製、商品名「CAT12070」)と混合して混合物を調製し、スクリーン印刷機を用いて前記の樹脂混合物を含有する樹脂溶液を支持ガラス基板に転写・印捺した。
【0109】
このとき用いたスクリーン版は、メッシュ数200本/インチ(79本/cm)のステンレス鋼製メッシュであり、長辺719mm、短辺599mmの矩形状に形成されている。前記スクリーン版の一部には、乳剤を硬化して形成したレジスト硬化部が形成されている。前記レジスト硬化部の厚さは20μmである。
【0110】
前記スクリーン版は、メッシュ部の外周を囲むようにレジスト硬化部が設けられ、該レジスト硬化部とメッシュ部の境界、すなわちメッシュ部の外縁で囲まれる領域の内側の、前記外縁(境界)の近傍に微小レジスト硬化部が複数配置されている。本例における微小レジスト硬化部4の形状を図5に示す。前記微小レジスト硬化部4は、短径Yが0.3mm、長径Xが1.8mmの斜方形であり、前記短径がメッシュ部の外縁5に沿って平行となるように、0.35mm間隔で複数配置されている。本例において、微小レジスト硬化部4による遮蔽率は43%[100×{(1.8×0.3)/2}/0.35×1.8]であった。
【0111】
前記スクリーン版を用いて樹脂溶液の印捺量は、20g/mであり、印捺後180℃にて30分間大気中で加熱硬化して厚さ14μmのシリコーン系樹脂層を形成した。ここで、ハイドロシリル基とビニル基のモル比が1:1となるように、原料1(直鎖状ポリオルガノシロキサン)と原料2(メチルハイドロジェンポリシロキサン)との混合比を調整した。白金系触媒は、原料1と原料2との合計100質量部に対して5質量部添加した。このようにして得た硬化後の樹脂層の端部形状を図6に示す。
【0112】
そして、長辺720mm、短辺600mm、厚さ0.3mm、線膨張係数38×10−7/℃の薄板ガラス基板(旭硝子株式会社製無アルカリガラス、AN100)の表面を純水洗浄、UV洗浄して清浄化した後、真空プレス装置を用い、常温にて樹脂層が形成された支持ガラス基板と積層した。
【0113】
(実施例2)
使用するスクリーン版における微小レジスト硬化部4を図7に示すような円形の繰り返しパターンとし、微小レジスト硬化部4の形状以外は実施例1と同様の方法でガラス積層体を作製した。本例において、微小レジスト硬化部による遮蔽率は51%であった。このようにして得た硬化後の樹脂層の端部形状を図8に示す。
【0114】
(実施例3)
使用するスクリーン版における微小レジスト硬化部4を図9に示すような、メッシュ部の外縁に底辺が接する二等辺三角形に変更し、スクリーン版のメッシュ数を250本/インチ(98本/cm)に変更した。そして、微小レジスト硬化部の形状とスクリーン版のメッシュ数以外は実施例1と同様の方法でガラス積層体を作製した。本例において、微小レジスト硬化部による遮蔽率は38%であった。このようにして得た硬化後の樹脂層の端部形状を図10に示す。
【0115】
(実施例4)
使用する薄板ガラス基板の寸法を長辺716mm、短辺594mm、厚さ0.3mmに変更し、積層時に支持ガラス基板の重心と薄板ガラス基板の重心がちょうど重なるようにして積層したこと以外は実施例1と同様の方法でガラス積層体を作製した。
【0116】
(比較例1)
使用するスクリーン版における微小レジスト硬化部を図11に示す形状に変更したこと以外は実施例1と同様の方法でガラス積層体を作製した。本例において、微小レジスト硬化部による遮蔽率は76%であった。このようにして得た硬化後の樹脂層の端部形状を図12に示す。
【0117】
(比較例2)
使用するスクリーン版における微小レジスト硬化部を図13に示す形状、すなわち短径0.2mm、長径2.6mmの斜方形であり、前記短径がメッシュ部の外縁に沿って平行となるように、0.52mm間隔で複数配置されているに変更した以外は実施例1と同様の方法でガラス積層体を作製した。本例において、微小レジスト硬化部による遮蔽率[100×{(2.6×0.2)/2}/(0.52×2.6)]は19%であった。このようにして得た硬化後の樹脂層の端部形状を図14に示す。
【0118】
(比較例3)
微小レジスト硬化部が設けられていないスクリーン版を用意した。微小レジスト硬化部の有無以外は実施例1と同様の条件及び方法でガラス積層体を作製した。
【0119】
以上の実施例1〜4及び比較例1〜3のガラス積層体についての測定結果を下表に示す。表中、「遮蔽率」は前述の微小レジスト硬化部による遮蔽率、「平均厚さ」は前述のレーザーフォーカス変位計を用いてガラス積層体の面内9点を測定した値の平均値、「ばらつき」は前記の厚さ測定の結果得られたばらつき、「隆起高さ」は樹脂層端部の隆起部の高さを表す。
【0120】
【表1】

【0121】
本発明の実施例1〜4のガラス積層体は、気泡を発生することなくシリコーン系樹脂層を介して薄板ガラス基板及び支持ガラス基板とが積層されており、凸状の欠点もなく平滑性も良好であった。また、実施例4のガラス積層体の場合は、薄板ガラス基板が樹脂層の隆起部分には乗り上げない状態で積層されているためガラス積層体のばらつきを一層小さくすることができた。
【0122】
一方、比較例1のガラス積層体は、気泡を発生することなくシリコーン系樹脂層を介して薄板ガラス基板及び支持ガラス基板が積層されており、凸状の欠点もなく平滑性も良好であったが、ガラス積層体の端部付近に筋状の空気の層が観察された。このことは、微小レジスト硬化部の遮蔽率が高く(70%超)、局所的な樹脂層の凹みが生じたためであると考えられる。また、この樹脂層の局所的な凹みの付近に3μm程度の隆起が生じていた。
【0123】
また、比較例2のガラス積層体についても、気泡を発生することなくシリコーン系樹脂層を介して薄板ガラス基板及び支持ガラス基板とが積層されており、凸状の欠点もなく平滑性も良好であったが、微小レジスト硬化部による遮蔽率が小さいため(20%未満)、樹脂層の端部付近に4μm程度の隆起が生じた。
【0124】
比較例3のガラス積層体についても、気泡を発生することなくシリコーン系樹脂層を介して薄板ガラス基板及び支持ガラス基板が積層されており、凸状の欠点もなく平滑性も良好であったが、微小レジスト硬化部を設けていないため樹脂層の厚さのばらつきが大きくなり、また端部付近に4.5μmの隆起が生じた。
【0125】
さらに、上記のガラス積層体を用いた表示装置の製造例を示す。
【0126】
(実施例5)
本例では、実施例1で得たガラス積層体を用いてLCDを製造する。
【0127】
2枚のガラス積層体を準備して、1枚はアレイ形成工程に供して薄板ガラス基板の第2主面にアレイを形成する。残りの1枚はカラーフィルタ形成工程に供して薄板ガラス基板の第2主面にカラーフィルタを形成する。アレイが形成されたガラス積層体と、カラーフィルタが形成されたガラス積層体とをシール材を介して貼り合わせた後、片面ずつ各積層体の端部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、各々の支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板の表面には強度低下につながるような傷はみられない。
【0128】
続いて、ケミカルエッチング処理によりそれぞれの薄板ガラス基板の厚さを0.15mmとする。ケミカルエッチング処理後の薄板ガラス基板の表面には光学的に問題となるようなエッジピットの発生はみられない。
【0129】
その後、薄板ガラス基板を切断し、長辺51mm×短辺38mmの168個のセルに分断した後、液晶注入工程及び注入口の封止工程を実施して液晶セルを形成する。形成された液晶セルに偏光板を貼付する工程を実施し、続いてモジュール形成工程を実施してLCDを得る。こうして得られるLCDは特性上の問題が生じない。
【0130】
(実施例6)
本例では、実施例1で得たガラス積層体と、厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板(旭硝子製AN100)とを用いてLCDを製造する。
【0131】
ガラス積層体を準備して、カラーフィルタ形成工程に供して、ガラス積層体の薄板ガラス基板の第2主面にカラーフィルタを形成する。一方、無アルカリガラス基板はアレイ形成工程に供して一方の主面上にアレイを形成する。
【0132】
カラーフィルタが形成されたガラス積層体と、アレイが形成された無アルカリガラス基板とをシール材を介して貼り合わせた後、ガラス積層体側の端部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板表面には強度低下につながるような傷はみられない。
【0133】
続いて、支持ガラス基板を分離したものを長辺51mm×短辺38mmの168個のセルにレーザーカッタ又はスクライブ−ブレイク法を用いて分断する。その後、液晶注入工程及び注入口の封止工程を実施して液晶セルを形成する。形成された液晶セルに偏光板を貼付する工程を実施し、続いてモジュール形成工程を実施してLCDを得る。こうして得られるLCDは特性上の問題が生じない。
【0134】
(実施例7)
本例では、実施例1で得たガラス積層体を用いてOLEDを製造する。
【0135】
ガラス積層体を、透明電極を形成する工程、補助電極を形成する工程、ホール注入層・ホール輸送層・発光層・電子輸送層等を蒸着する工程、これらを封止する工程に供して、ガラス積層体の薄板ガラス基板上に有機EL構造体を形成する。次に積層体の端部に圧縮空気と水の混合流体を吹きつけた上で、支持ガラス基板を分離する。分離後の薄板ガラス基板の表面には強度低下につながるような傷はみられない。
【0136】
続いて、薄板ガラス基板をレーザーカッタ又はスクライブ−ブレイク法を用いて切断し、長辺41mm×短辺30mmの288個のセルに分断した後、有機EL構造体が形成されたガラス基板と対向基板とを組み立てて、モジュール形成工程を実施してOLEDを作成する。こうして得られるOLEDは特性上の問題が生じない。
【0137】
以上詳述のように、本発明によれば、樹脂層を形成する際に、樹脂層端部の隆起部分が生じないように形成することができ、その結果全域にわたって厚さのばらつきが小さなガラス積層体を簡易かつ経済的に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明のガラス積層体は、厚さのばらつきが小さいので、TFTアレイ形成工程等の表示装置製造工程において用いるにあたり好適である。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】従来のスクリーン版を用いて樹脂溶液を塗布し、形成された樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。
【図2】微小レジスト硬化部を有する本発明のスクリーン版を用いて樹脂溶液を塗布し、形成された樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。
【図3】本発明方法の一実施態様に係るスクリーン版の模式説明図。
【図4】図3のスクリーン版における微小レジスト硬化部周辺の拡大模式説明図。
【図5】実施例1のスクリーン版における微小レジスト硬化部周辺の拡大模式説明図。
【図6】実施例1にて得られた樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。
【図7】実施例2のスクリーン版における微小レジスト硬化部周辺の拡大模式説明図。
【図8】実施例2にて得られた樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。
【図9】実施例3のスクリーン版における微小レジスト硬化部周辺の拡大模式説明図。
【図10】実施例3にて得られた樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。
【図11】比較例1のスクリーン版における微小レジスト硬化部周辺の拡大模式説明図。
【図12】比較例1にて得られた樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。
【図13】比較例2のスクリーン版における微小レジスト硬化部周辺の拡大模式説明図。
【図14】比較例2にて得られた樹脂層の厚さの分布を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が通過可能なメッシュ部と通過不可能なレジスト硬化部とを備えたスクリーン版を用いるスクリーン印刷法により、支持ガラス基板の一方の面に樹脂溶液を転写し硬化せしめた後、前記支持ガラス基板の樹脂転写領域に薄板ガラス基板を載置・接触させて、支持ガラス基板、樹脂層及び薄板ガラス基板を有するガラス積層体を製造する方法において、
前記スクリーン版におけるメッシュ部の外縁で囲まれる領域内の外縁の近傍に又は前記外縁に接して微小レジスト硬化部が複数設けられていることを特徴とするガラス積層体の製造方法。
【請求項2】
前記微小レジスト硬化部が、メッシュ部の外縁で囲まれる領域内の外縁から10mm以内の領域に設けられていることを特徴とする請求項1記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項3】
同一形状の微小レジスト硬化部がメッシュ部の外縁に対して平行に並んで複数配置されており、
前記微小レジスト硬化部の面積がA(mm)、メッシュ部の外縁に垂直な方向における前記微小レジスト硬化部の最大径がX(mm)、メッシュ部の外縁に平行な方向における前記微小レジスト硬化部の配置間隔がY(mm)であるとき、
数式Z=100×A/XYで表される微小レジスト硬化部による遮蔽率Z(%)の値が20≦Z≦70を満足するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂溶液の粘度が100Pa・s以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項5】
前記薄板ガラス基板の面積が、前記メッシュ部の外縁で囲まれる領域の面積よりも小さいことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項6】
前記樹脂溶液に含まれる樹脂のうち最も含有量の多い樹脂が、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂又はシリコーン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法により製造されたことを特徴とするガラス積層体。
【請求項8】
前記請求項7に記載のガラス積層体を用いたことを特徴とする支持体付き表示装置用パネル。
【請求項9】
前記請求項8に記載の支持体付き表示装置用パネルを用いたことを特徴とする表示装置用パネル。
【請求項10】
前記請求項9に記載の表示装置用パネルを用いたことを特徴とする表示装置。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって製造されたガラス積層体を用いて、前記ガラス積層体の表面上に、表示装置用部材を形成する工程を具備することを特徴とする支持体付き表示装置用パネルの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって製造されたガラス積層体を用いて、前記ガラス積層体の表面上に、表示装置用部材を形成して支持体付き表示装置用パネルを得た後、該支持体付き表示装置用パネルにおける前記薄板ガラス基板と前記支持ガラス基板とを分離する分離工程を具備することを特徴とする表示装置用パネルの製造方法。
【請求項13】
前記請求項12に記載の方法により製造された表示装置用パネルを用いることを特徴とする表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−52994(P2010−52994A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220883(P2008−220883)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】