説明

ガラス表面の研磨方法

【課題】 ガラス板の破損や割れが防止され、研磨量が制限されることのないガラス表面研磨方法の提供。
【解決手段】 複数の液晶セルを備える貼り合わされたガラス板1a、1bを載置板2に接置し、ガラス板1a、1bの端面をマスキングテープ4で被覆する工程と、研磨液貯留槽に載置板2を設置することによりガラス板1aの上面を研磨する工程と、ガラス板1aの上面を洗浄する工程と、マスキングテープ4を除去する工程と、を順次行なう研磨方法。この方法は、載置板2をほぼ水平状態に維持したまま行なわれ、途中の研磨と洗浄からなる研磨・洗浄は、複数回繰り返し行なわれることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨液によるガラス表面の研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置の一種である液晶ディスプレイは、薄型のフラットパネルディスプレイとして知られている。図5は、液晶ディスプレイパネルの一例を表した断面模式図である。図示のパネルは、一対のガラス基板の間に液晶セル21を備えた構造をとっている。
【0003】
図示のパネルの画像表示面となるガラス基板8には、貼り合せ後に外表面となる面に偏光板15が積層され、その反対面には、カラーフィルター10がブラックマトリックス11に区分けされつつ形成され、オーバーコート12、透明電極13及び配向膜14が順次積層されている。他方のガラス基板9には、貼り合せガラス基板の外表面側に偏光板19が積層され、反対面には、薄膜トランジスタ16及び透明電極17が形成され、更に配向膜18が積層されている。これらガラス基板8、9の貼り合せは、両ガラス基板間に液晶封入領域となる液晶セル21を確保させるためのスペーサー20を介在させ、両ガラス基板の配向膜を形成した面を対向させて行われている。このようなガラス基板の偏光膜15、19は、ガラス基板8と9を貼り合せた後にその表面上に貼着積層される。
【0004】
このようなパネルは、液晶ディスプレイの構成物として製造される。この製造では、単一の液晶セルを備えたパネルを製造することも可能であるが、高い製造効率を実現するため、複数の液晶セルを備えたパネルを製造することが主流となっている。
【0005】
ところで、液晶ディスプレイは、更なる薄型化が追求されており、研磨液でガラス表面を研磨することが一手段として採られている。例えば、特許文献1の液晶ディスプレイパネルの製造方法では、その製造過程において、複数の液晶セルを備える貼り合せガラス板を立てた状態でカセットに収納し、このカセットを研磨液に浸漬して上下に揺動させ、ガラス表面を研磨するとされている。
【特許文献1】特開2002-87844号公報(第0006段落、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示されている研磨方法によれば、外部接触しているガラス板端部に自重が集中することになって、ガラス板端部が破損しやすくなる。このような破損は、研磨の進行に伴いガラス板が薄くなるにつれて、一層生じやすくなる。更に、特許文献1で採用されているカセットの上下揺動を行なうときには、ガラス板と外部との衝突により、ガラス板の破損が激増することになる。
【0007】
また、研磨に伴って剛性が低下したガラス板は、屈曲することになって、この屈曲を中心にガラス割れが生じる。研磨液への浸漬途中では、ガラス板の自重、研磨液の液流等の様々な要因によって屈曲が生じ、研磨液への浸漬終了後でも、ガラス板をカセットから取り出す際に屈曲が生じることになる。このため、屈曲による割れが生じない程度の研磨量に制限されることになり、ガラス板をより薄型化する障壁となっている。
【0008】
更に、液晶ディスプレイパネルの研磨においては、ガラス板の研磨進行に伴い次の問題が生じる。図6は、研磨液に浸漬されている貼り合せガラス板の端部断面図であり、図6(a)は、研磨液に浸漬直後のガラス板端部を表し、図6(b)は、研磨を進行させたガラス板端部を表す。図6(a)に示すとおり、ガラス板8、9の間に液晶セルの外周を囲うシール剤22を設け、液晶セルが存在するガラス板間への研磨液流入が防止されている。しかし、図6(b)に表す通り、研磨の進行により、シール剤22の量が不十分な部分において隙間23が生じ、その結果、防止しなければならないガラス板間への研磨液の侵入を許すことになる。この研磨液の侵入を防止するために、研磨量が制限される問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、ガラス板の破損や割れが防止され、その上、研磨量が制限されることのないガラス表面研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、研磨液をガラス板表面に接触させるガラス表面の研磨方法において、水平な載置板面上にガラス板を接置した後に前記ガラス板の端面を被覆する端面被覆工程と、前記ガラス板の上面に研磨液を接触させる研磨工程と、前記ガラス板の上面を洗浄する洗浄工程と、前記ガラス板の端面を露出させる端面露出工程と、を順次行なうことを特徴とするガラス表面の研磨方法である。
【0011】
前記ガラス板は、一対のガラス板を貼り合せた貼合板であって、前記一対のガラス板間には配置物が備えられているものであっても良い。貼合板は、例えば、フラットパネルディスプレイの製造工程途中で製造され、ガラス板間に液晶セルを備える液晶ディスプレイパネルが挙げられる。
【0012】
前記端面被覆工程において、載置板との接置面の反対面となるガラス板上面の端部を被覆すると、研磨後、ガラス板には未研磨部分が残存し、未研磨部分のないガラス板よりもガラスの屈曲が小さくなる。また、端面被覆は、テープ部材により被覆を行うと良く、研磨液との接触を回避する必要がある端面にテープを被覆すると良い。
【0013】
前記研磨工程と洗浄工程からなる研磨・洗浄工程を複数回行うことが、研磨されたガラス表面の平坦性が向上するので、好適である。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成された発明によれば、表面研磨過程において、自重の集中がなく、薄型化に伴う剛性低下によるガラス板の屈曲が生じることがないので、損傷や割れを防止しつつガラス板表面の研磨を行なうことができる。また、貼り合せたガラス板を研磨する場合であっても、研磨量の制限を受けずに、ガラス板間への研磨液侵入を阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づき説明する。図1は、本発明に係る研磨方法の第一実施形態の工程フロー図である。本図に示す通り、本実施形態では、載置板上の置いたガラスの端面を被覆する端面被覆工程ST1と、載置板と共にガラス板を研磨液に浸漬してガラス表面に研磨液を接触させる第一研磨工程ST2と、研磨液を接触させたガラス表面を洗浄する第一洗浄工程ST3と、第一研磨工程ST2と同じ過程により行なわれる第二研磨工程ST4と、第一洗浄工程ST3と同じ過程により行なわれる第二洗浄工程ST5と、端面被覆工程ST1における被覆物を除去する端面露出工程ST6と、を順次行なうものである。更に本実施形態においては、表面研磨が行なわれなかったガラス板端部を除去する端部切断工程ST7が、端面露出工程ST6の後に備えられている。
【0016】
図2は、図1の各工程におけるガラス形状変化を表す模式図である。図2(a)は、端面被覆工程ST1を、図2(b)は、第一研磨工程を、図2(c)は、第一洗浄工程ST3を、図2(d)は、第二研磨工程ST4を、図2(e)は、第二洗浄工程ST5を、図2(f)は、端面露出工程ST6を、図2(g)は、端部切断工程ST7を、夫々表している。以下、図2を参照しつつ本実施形態について詳述する。
【0017】
端面被覆工程ST1は、図2(a)に示すように、表面研磨が行なわれるガラス板1を水平な載置板2の上面に接置し、その後、ガラス板の端面を被覆することにより行なわれる。
【0018】
ガラス板1は、矩形のガラス板であり、組成がSiO2が50〜65重量%、Al23が16〜18重量%、Bが7〜10重量%となっているケイ酸ガラスの一種のアルミノホウケイ酸ガラスである。このガラス板1の表面は、算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以下の平坦面となっている。
【0019】
ガラス板1が接置される載置板2は、研磨液に侵されない塩化ビニル等の材質であって、ガラス板1の底面全てを接置することができる矩形の板材である。この載置板2の上面の周端には、載置板2の移動時に把持される取っ手3が固設されている。
【0020】
載置板2に接置されたガラス板1の端面の被覆は、研磨液に侵されないマスキングテープ4を端面全域に貼着することにより行なわれる。この貼着は、本実施形態において、ガラス板1の上面に非貼着矩形部分を残し、ガラス板1の端面、ガラス板1の上面端部、載置板2のガラス板1の外周部に行なわれる。このようなマスキングテープ4の貼着により、ガラス板1の接置面に貼着部材を設けることなく、ガラス板1を載置板2に固定している。
【0021】
図2(b)に表されている第一研磨工程ST2では、載置板2の水平状態をほぼ維持したまま、研磨液貯留槽5内に貯留されている研磨液に載置板2を浸漬することで、ガラス板1をも浸漬する。このとき、研磨液にはフッ化水素水溶液等のガラス溶解液が使用されており、露出しているガラス板1の上面に研磨液が接触して研磨が進行する。その一方で、露出していないガラス板1の端部や下面は、マスキングテープ4により研磨が防止されることになる。
【0022】
図2(c)に表されている第一洗浄工程ST3では、第一研磨工程ST2後のガラス板1の洗浄が行なわれる。図4は、研磨液への浸漬後のガラス板表面を表す断面模式図である。図示の通り、ガラス板1の表面には、研磨進行途中に、ガラスと研磨液との反応生成物6が付着することになる。本実施形態に使用している高平坦ガラス板であっても、ガラス板1表面に局在化する反応生成物6が均一な研磨を阻害することになって、ガラス表面平坦性が低下するので、目的の研磨量よりも少ない中間研磨量の段階で研磨を中断し、研磨液と共に反応生成物6をガラス板1の表面から水洗除去することとしている。
【0023】
図2(d)、(e)に表されている第二研磨工程ST4、第二洗浄工程ST5は、第二研磨工程ST4が第一研磨工程ST2と同様に行なわれる工程であり、第二洗浄工程ST5が第一洗浄工程ST3と同様に行なわれる。このように研磨工程と洗浄工程からなる研磨・洗浄工程を繰り返し行なうことにより、同じ研磨量の一回だけの研磨洗浄工程よりも表面平坦性が向上したガラス板が得られる。なお、本実施形態では、研磨・洗浄工程を2回繰り返すこととしているが、3回以上の繰り返しを行なうと、ガラス板の表面平坦性が一層向上する。
【0024】
図2(f)に表されている端面露出工程ST6では、マスキングテープ4を除去して、ガラス板1の端面を露出する。図2(g)の端部切断工程ST7では、研磨されなかったガラス板1の端部が切断除去される。本実施形態の方法は、端部切断工程ST7を備えたものとなっているが、端部の切断の必要がないときは、本工程を要しない。端部を残したガラス板1は、端部のないガラス板1よりも屈曲することが抑制されることになって、ガラス割れが防止されることになる。
【0025】
本実施形態は、上述の通りの工程を経ることにより行なわれる。工程過程において、ガラス板1が、一貫して略水平に維持された載置板2に接置されているので、工程途中にガラス板1の破損や割れが生じることが防止されたものとなっている。
【0026】
次に、液晶ディスプレイの製造に使用される貼り合せガラス板の片面の研磨を行う第二実施形態について説明する。本実施形態は、図1に示す工程フロー図の、端部切断工程ST7を除いた端面被覆工程ST1、第一研磨工程ST2、第一洗浄工程ST3、第二研磨工程ST4、第二洗浄工程ST5、端面露出工程ST6、端部切断工程ST7を順次経ることにより行なわれる。
【0027】
図3は、本発明に係る研磨方法の第二実施形態におけるガラス形状変化を表す模式図である。図3(a)は、端面被覆工程ST1を、図3(b)は、第一研磨工程ST2を、図3(c)は、第一洗浄工程ST3を、図3(d)は、第二研磨工程ST4を、図3(e)は、第二洗浄工程ST5を、図3(f)は、端面露出工程ST6を、表している。本実施形態は、第一実施形態の研磨方法と類似するものであり、研磨対象となるガラス板および端面被覆工程ST1におけるマスキングテープ4の貼着方法が異なる。この異なる点についてのみ図3を参照しつつ説明する。
【0028】
研磨対象となるガラス板は、一対のガラス板1a、1bが貼り合わされた貼り合せガラス板であり、この貼り合せガラス板の一面の研磨が行なわれる。ガラス板1aと1bとの間には、公知の液晶ディスプレイパネルと同じく、カラーフィルター等の配置物を備えた複数の液晶セル7が設けられている。
【0029】
図3(a)に示す端面被覆工程ST1において、ガラス板へのマスキングテープ4の貼着は、ガラス板1aと1bとの隙間を含めた端面全域と、載置板2のガラス板1bの外周とに行なわれる。これにより、ガラス板1aと1bとの隙間から研磨液が進入することが防止されることになる。そして、ガラス板1aの上面にマスキングテープ4が貼着されることがないので、研磨後のガラス板1aの上面には、未研磨部分が存在することがない(図3(f)参照)。
【0030】
以上の通り、上記実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、様々な変更が可能である。例えば、上記実施形態の端面被覆工程では、マスキングテープによりガラス板端面の被覆を行なったが、樹脂や額縁状の枠材により端面の被覆を行っても良い。また、ガラス板の上面に所定のマスキングパターンを形成して、任意のパターン研磨を行っても良い。また、上記実施形態では、ガラス板の一面のみを研磨する工程を説明しているが、当然、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの製造工程に取り入れることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る研磨方法の第一実施形態の工程フロー図である。
【図2】図1の各工程におけるガラス形状変化を表す模式図である。
【図3】本発明に係る研磨方法の第二実施形態におけるガラス形状変化を表す模式図である。
【図4】研磨液への浸漬後のガラス板表面を表す断面模式図である。
【図5】液晶ディスプレイパネルの一例を表した断面模式図である。
【図6】研磨液に浸漬されている貼り合せガラス板の端部断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ガラス板
2 載置板
4 マスキングテープ
5 研磨液貯留槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨液をガラス板表面に接触させるガラス表面の研磨方法において、
水平な載置板面上にガラス板を接置した後に前記ガラス板の端面を被覆する端面被覆工程と、
前記ガラス板の上面に研磨液を接触させる研磨工程と、
前記ガラス板の上面を洗浄する洗浄工程と、
前記ガラス板の端面を露出させる端面露出工程と、
を順次行なうことを特徴とするガラス表面の研磨方法。
【請求項2】
前記ガラス板は、一対のガラス板を貼り合せた貼合板であって、
前記一対のガラス板間には配置物が備えられていることを特徴とする請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
前記研磨工程と洗浄工程からなる研磨・洗浄工程が複数回行なわれることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨方法。
【請求項4】
前記端面被覆工程において、前記ガラス板の上面端部を被覆することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項5】
請求項2〜4に記載の研磨方法を使用するフラットパネルディスプレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−1789(P2007−1789A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−181063(P2005−181063)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【出願人】(000195937)西山ステンレスケミカル株式会社 (44)
【Fターム(参考)】