説明

キサンチンオキシダーゼ阻害組成物

【課題】健康食品としても使用できる、安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とし、しかも極めて優れたキサンチンオキシダーゼ活性阻害作用を有するキサンチンオキシダーゼ阻害組成物を提供すること。
【解決手段】キサンチンオキシダーゼ阻害組成物がhydnocarpin又はhydnocarpin-D,又はhydnocarpinとhydnocarpin-Dの混合物を含有すること。または、キサンチンオキシダーゼ阻害組成物がluteolin 3' - methyl ether 及びluteolin 4' - methyl etherの混合物を含有すること。また、当該キサンチンオキシダーゼ阻害組成物がマレインから抽出されたものであること。好ましくは、マレインの葉部から有機溶媒により抽出されたものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサンチンオキシダーゼ阻害活性を有し、尿酸産生抑制作用により痛風及び高尿酸血症改善に有用な植物由来の組成物及び食品に関する。
【0002】
高尿酸血症は痛風の基礎疾患であり、成人男性の約2割(約600万人、1990年代)が高尿酸血症であると報告されている(2002年高尿酸血症、痛風の治療ガイドライン)。また高尿酸血症は、肥満、高血圧、高脂血症および糖尿病などに関連した生活習慣病として、またメタボリックシンドロームの一部分症としても重要視されている。また、最近では疫学調査により、高尿酸血症は女性の心血管死、男性および女性の総死亡における独立した危険因子であることが明らかとされている。
【0003】
現在、本邦における高尿酸血症の治療薬の一つとして、キサンチンオキシダーゼ(XO)阻害による尿酸産生抑制を作用機序とするアロプリノール(allopurinol)が挙げられる。しかし、肝機能障害を起こす場合があるなどの副作用が知られており、より副作用がないキサンチンオキシダーゼ阻害組成物が要求されている。
【0004】
そのため、天然由来のキサンチンオキシダーゼ阻害組成物が研究されているが(特許文献1参照)、キサンチンオキシダーゼ阻害活性は十分ではなく、他の天然由来のキサンチンオキシダーゼ阻害組成物が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−290188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、健康食品としても使用できる、安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とし、しかも極めて優れたキサンチンオキシダーゼ活性阻害作用を有するキサンチンオキシダーゼ阻害組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のキサンチンオキシダーゼ阻害組成物は、
下記式(化1)の化合物(ヒドノカルピン(hydnocarpin))、

又は
下記式(化2)の化合物(ヒドノカルピン−D(hydnocarpin-D))

又はhydnocarpinとhydnocarpin-Dの混合物を含有することを特徴とする。
【0008】
また、前記課題を解決するため、本発明のキサンチンオキシダーゼ阻害組成物は、
下記式(3)の化合物 (ルテオリン3'−メチルエーテル(luteolin 3' - methyl ether))

及び
下記式(4)の化合物(ルテオリン4'−メチルエーテル(luteolin 4' - methyl ether))

の混合物を含有することからなる。
【0009】
また、前記式(1)の化合物、前記式(2)の化合物、前記式(1)と前記式(2)の化合物の混合物、又は前記式(3)と前記式(4)の化合物の混合物のうち、少なくともいずれか一つを含んだマレインの抽出物を含有することが好適である。すなわち、上記組成物が、マレイン(Mullein)の抽出物、特にはマレインの葉部から有機溶媒により抽出された抽出物中の組成物であることが好適である。また、上記組成物を含有する健康食品であることが好適である。
【0010】
本発明者は、天然の植物から得られる成分にキサンチンオキシダーゼ阻害のあるものがないか、数十種の植物を対象に研究を行った。
その結果、ゴマノハグサ科の植物であるマレイン(植物和名:ビロードモウズイカ,学名:Verbascum thapsus L.)の抽出エキスが強いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を示すことを発見した。マレインは、その葉と花に去痰・鎮痛に効果があり得ることが知られていたが、キサンチンオキシダーゼ阻害活性については全く知られていなかったものである。
そして、さらなる研究の結果、その有効成分として、キサンチンオキシダーゼ阻害活性の極めて強い化合物を特定するまでに至り、本発明を完成したものである。
【0011】
本発明において抽出に供し得るマレインの部位は、発見された化合物の含有量や抽出量の観点から葉部を使用することが好適であり、少なくとも葉部を含む部位を乾燥させ粉砕して使用し、抽出の際には有機溶媒を用いるのが好ましい。なお、葉部はもちろん、茎、木質部、木皮部、根部、花など他の部位も利用可能であり、また有機溶媒以外による抽出も可能である。
【0012】
本発明には、マレインの葉部を有機溶媒またはその混合溶液を用いて抽出して得られる抽出物を使用することができるが、メタノール又はエタノールによる抽出が、上記化合物を高く含有するため最も効率的である。抽出温度は、特に限定されないが、少なくとも常温〜100℃での抽出が可能である。抽出物は、公知の方法により液状・粉末状・固形状などさまざまな態様で使用することが可能で、健康食品への適用が容易である。
【0013】
また、後述の実施例において述べる手法などにより、単離・精製された化合物も使用することができる。単離・精製された化合物に適宜必要な公知の添加物等を加えることにより、医薬や健康食品として利用することができるものである。
【0014】
以上の構成により、本発明のマレイン抽出物及び化合物は、健康食品にも適用可能な安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とし、しかも極めて優れたキサンチンオキシダーゼ活性阻害作用を有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤として使用することができ、尿酸産生の抑制を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
XO阻害活性試験法
96well UVマイクロプレート(Thermo)に、各濃度に調製したハーブMeOH抽出エキス溶液、XO(Sigma-Aldrich)溶液(0.2unit/mL)を播種し、25℃で15分間プレインキュベートした。さらに400μMキサンチン(WAKO)緩衝液を加え、25℃で15分間反応後、1M塩酸を加えて酵素反応を停止し、吸光度(295nm)を測定した。XO緩衝液の代わりに緩衝液のみを混合したものをブランクとし、サンプル溶液を緩衝液(10%DMSO含有)としたものをコントロールとして阻害率を算出した。
阻害率(%)=[1−(サンプルの吸光度−ブランクの吸光度)/コントロールの吸光度]×100]
【0016】
結果、下記表に示すように、測定した50種のハーブのMeOH抽出エキスにおいて、マレイン(ゴマノハグサ科Verbascum thapsus L.)乾燥葉部が59.3%の強いXO阻害活性を示し、IC50値は80.2μg/mLであった。
なお、力価(IC50)は、100μg/mL、50μg/mL、10μg/mL、1μg/mL、および0.1μg/mLにおける阻害率(%)を求め、阻害率50% を挟む濃度で直線を引き、50%阻害に相当する濃度を算出したものである(allopurinol:1.9μg/mL(IC50))。
【0017】

【0018】
さらに、反応後のマイクロプレート(マレイン含有)を遠心分離後、上澄中の尿酸量をHPLC分析により測定した(絶対検量線法)。その結果、マイクロプレートを用いた場合と同等の阻害活性値が算出された(IC50 82.1μg/mL)。
なお、力価(IC50)は、100μg/mL、50μg/mL、10μg/mL、1μg/mL、および0.1μg/mLにおける阻害率(%)を求め、阻害率50% を挟む濃度で直線を引き、50%阻害に相当する濃度を算出したものである(allopurinol:1.9μg/mL(IC50))。
分析条件:
カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK C18AQ(4.6×250mm)
移動相:CH3CN-CH3COOH-H2O(1:1:98)
流速:1.0mL/min,検出:295nm
以上により、マレインのMeOH抽出物に強いXO阻害活性があることがわかった。
【0019】
有効成分の検索
マレイン(ゴマノハグサ科Verbascum thapsus L. )の葉(乾燥重量1.0 kg) を熱メタノール(15 L,2時間)で抽出し, 抽出液を減圧下濃縮した。得られたメタノール抽出エキス(VT-Mとする,115 g)について多孔質ポリスチレン樹脂(Diaion HP-20)column chromatography(カラムクロマトグラフィー)(以下CC)に付し、20% メタノール(3L),MeOH(3L),EtOAc(5L)で順次極性を下げながら溶出し、3個の粗画分に分画した。3画分(それぞれVT-M-A,VT-M-B,VT-M-Cとする)についてXO阻害活性試験を実施した結果、メタノール溶出画分(VT-M-B,50 g)に阻害活性が認められ(69.1% at 100 μg/mL, IC50 45.6 μg/mL)、さらにTLC分析時に多様なスポットが認められた。
【0020】
同画分の成分探索
メタノール溶出画分(VT-M-B)をシリカゲル(silica-gel(以下Si))CC [クロロホルム−メタノール (19:1→4:1)→メタノール] により、9個の画分に分画した(VT-M-B-1〜9)。9画分についてXO阻害活性試験を実施した結果、VT-M-B-2画分(1.47 g)に阻害活性が認められたため(78.5% at 100 μg/mL,IC50 6.5 μg/mL)、同画分についてSi(ヘキサン−アセトンの混合溶媒、クロロホルム−メタノールの混合溶媒)および逆相 Si (アセトニトリル−水の混合溶媒)CCにより、繰り返し分離・精製を行った結果、化合物1-4を得た [化合物 1 (31.5 mg), 2 (5.5 mg), 3 (6.0 mg), 4 (12.7 mg)]。
【0021】
得られた化合物について1H- および 13C-NMR を中心としたスペクトルデータを解析することにより、化合物1をapigenin, 2をluteolin 3'-methyl etherとluteolin 4'-methyl etherの1:1混合物, 3をフラボノリグナン(flavonolignan)であるhydnocarpin, 4を3とhydnocarpin-Dの1:1混合物と決定した。
【0022】
それぞれにつきキサンチンオキシダーゼ阻害活性を調べたところ、hydnocarpinについては IC50:1.44μg/mLという、アロプリノールと比較しても(IC50:1.9μg/mL)極めて高い阻害活性が認められた。さらには、hydnocarpinとhydnocarpin-Dの1:1混合物についてはIC50:0.8μg/mLというさらに強い阻害活性が認められた。
【0023】
さらに、luteolin 3'-methyl etherとluteolin 4'-methyl etherの1:1混合物についても、IC50:3.2μg/mLという強い阻害活性が認められた。
【0024】
上述の研究結果から、hydnocarpin-Dについてもhydnocarpinと同様に高い阻害活性があるものと考えられた。そのため、マレインの乾燥重量を多くして、hydnocarpin-Dを単離して確認すべくさらなる研究を行った。
【0025】
有効成分の探索
マレイン(ゴマノハグサ科Verbascum thapsusの葉部)(乾燥重量 3.0 kg)を熱メタノール(60 L,1時間)で抽出し、抽出液を減圧下濃縮した。得られたメタノール抽出エキス(VTとする,450 g)を多孔質ポリスチレン樹脂(Diaion HP-20)column chromatography(カラムクロマトグラフィー)(以下CC)に付し、20% MeOH,MeOH,EtOAcで順次極性を下げながら溶出し、3個の粗画分に分画した。3画分(それぞれVT-A,VT-B,VT-Cとする)についてXO阻害活性を実施した結果、メタノール溶出画分(VT-B,115 g)に阻害活性が認められ(IC50: 43.7 μg/mL)、さらにTLC分析時に多様なスポットが認められた。
【0026】
・同画分の成分探索
メタノール溶出画分(VT-Bとする)について、silica-gel (以下,Si)CC(クロロホルム-メタノール-水の混合溶媒],逆相Si CC(メタノール-水の混合溶媒,アセトニトリル-水の混合溶媒),ゲルろ過CC(メタノール),および逆相Siカラムを装着したHPLC(アセトニトリル-水の混合溶媒)により繰り返し分離・精製を行った結果、1’(6.0 mg),2’(301 mg),3’(10.2 mg),4’(57.2 mg),5’(18.9 mg),6’(8.6 mg),7’(38.0 mg),8’(1129 mg),9’(828 mg)の化合物を単離した。得られた化合物についてH-NMR,13C-NMRスペクトルデータを解析することにより、1’をapigenin,2’をluteolin,3’をluteolin 3'-methyl ether,4’をluteolin 7-O-β-D-glucopyranoside,5’をhydnocarpin,6’をhydnocarpin-D,7’をleucosceptoside A,8’をpoliumoside,9’をferruginoside Cと同定した。化合物2’,4’, 6’, 8’,9’の本植物からの単離に成功したのはこの試験が初めてであり、hydnocarpin-Dを単離することに成功した。
【0027】
上記化合物のうち、2’(luteolin),4’(luteolin 7-O-β-D-glucopyranoside),7’(leucosceptoside A),8’(poliumoside),9’(ferruginoside C)の構造式は以下の通りである。
【0028】
luteolinの構造式(式(5))

luteolin 7-O-β-D-glucopyranosideの構造式(式(6))

leucosceptoside Aの構造式(式(7))

poliumosideの構造式(式(8))

ferruginoside Cの構造式(式(9))

【0029】
・単離した化合物のキサンチンオキシダーゼ阻害活性
化合物3'-9'についてキサンチンオキシダーゼ阻害活性試験を実施した。その結果、3’,4’,5’,6’のIC50 値はそれぞれ20.0,44.0,1.34,5.50μg/mLであり、前記試験の結果と同様に、5’は陽性対照であるallopurinol(IC50: 1.71 μg/mL)より強いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を示し、hydnocarpin-D単体でも比較的強いキサンチンオキシダーゼ阻害活性示した。
一方,7’,8’,9’は100 μg/mLの濃度でキサンチオキシダーゼ阻害活性を示さず、100 μg/mLにおける阻害率はそれぞれ24.2%,15.8%,16.3%であった。
【0030】
以上の結果から、hydnocarpin単体でアロプリノールより強いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を示すこと、またhydnocarpin-D単体でも強いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を示すことがわかっただけでなく、hydnocarpinとhydnocarpin-Dの混合物が各々単体よりも強いキサンチンオキシダーゼ阻害活性を示すという、相乗効果的な効果を示すことがわかった。
【0031】
以上により、健康食品としても使用できる、安全性の高い天然物由来の成分を有効成分とし、しかも極めて優れたキサンチンオキシダーゼ活性阻害作用を有するキサンチンオキシダーゼ阻害組成物を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(化1)の化合物(ヒドノカルピン(hydnocarpin)),

又は
下記式(化2)の化合物(ヒドノカルピン−D(hydnocarpin-D))

又はhydnocarpinとhydnocarpin-Dの混合物を含有することを特徴とするキサンチンオキシダーゼ阻害組成物。
【請求項2】
下記式(3)の化合物 (ルテオリン3'−メチルエーテル(luteolin 3' - methyl ether))

及び
下記式(4)の化合物(ルテオリン4'−メチルエーテル(luteolin 4' - methyl ether))

の混合物を含有することを特徴とするキサンチンオキシダーゼ阻害組成物。
【請求項3】
前記式(1)の化合物、前記式(2)の化合物、前記式(1)と前記式(2)の化合物の混合物、又は前記式(3)と前記式(4)の化合物の混合物のうち、少なくともいずれか一つを含んだマレインの抽出物を含有することを特徴とするキサンチンオキシダーゼ阻害組成物。
【請求項4】
前記マレインの抽出物が、マレインの葉部から有機溶媒により抽出された抽出物であることを特徴とする請求項3に記載のキサンチンオキシダーゼ阻害組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のキサンチンオキシダーゼ阻害組成物を含む健康食品。

【公開番号】特開2011−37823(P2011−37823A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−67395(P2010−67395)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名:平成21年度 修士学位申請論文発表会 発表要旨 発行者:東京薬科大学 発行年月日:平成22年2月15日 研究集会名:平成21年度 修士学位申請論文発表会 主催者名:東京薬科大学 開催日:平成22年2月23日
【出願人】(509204079)日本抗加齢センタ−株式会社 (1)
【Fターム(参考)】