説明

キノキサリン化合物、これを用いた電子供与性有機材料、光起電力素子用材料および光起電力素子

【課題】光電変換効率の高い光起電力素子を提供すること。
【解決手段】(a)キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格とを含み、(b)バンドギャップ(Eg)が1.8eV以下であり、(c)最高被占分子軌道(HOMO)準位が−4.8eV以下であるキノキサリン化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キノキサリン化合物、これを用いた電子供与性有機材料、光起電力素子用材料および光起電力素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は環境に優しい電気エネルギー源として、現在深刻さを増すエネルギー問題に対して有力なエネルギー源と注目されている。現在、太陽電池の光起電力素子の半導体素材としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、化合物半導体などの無機物が使用されている。しかし、無機半導体を用いて製造される太陽電池は、火力発電や原子力発電などの発電方式と比べてコストが高いために、一般家庭に広く普及するには至っていない。コスト高の要因は主として、真空かつ高温下で半導体薄膜を製造するプロセスにある。そこで、製造プロセスの簡略化が期待される半導体素材として、共役系重合体や有機結晶などの有機半導体や有機色素を用いた有機太陽電池が検討されている。
【0003】
しかし、共役系重合体などを用いた有機太陽電池は、従来の無機半導体を用いた太陽電池と比べて光電変換効率が低いことが最大の課題であり、まだ実用化には至っていない。従来の共役系重合体を用いた有機太陽電池の光電変換効率が低いのは、主として、太陽光の吸収効率が低いことや、太陽光によって生成された電子と正孔が分離しにくいエキシトンという束縛状態が形成されることと、キャリア(電子、正孔)を捕獲するトラップが形成されやすいため生成したキャリアがトラップに捕獲されやすく、キャリアの移動度が遅いことなどによる。
【0004】
これまでの有機半導体による光電変換素子は、現在のところ一般的に次のような素子構成に分類することができる。電子供与性有機材料(p型有機半導体)と仕事関数の小さい金属を接合させるショットキー型、電子受容性有機材料(n型有機半導体)と電子供与性有機材料(p型有機半導体)を接合させるヘテロ接合型などである。これらの素子は、接合部の有機層(数分子層程度)のみが光電流生成に寄与するため光電変換効率が低く、その向上が課題となっている。
【0005】
光電変換効率向上の一つの方法として、電子受容性有機材料(n型有機半導体)と電子供与性有機材料(p型有機半導体)を混合し、光電変換に寄与する接合面を増加させたバルクヘテロ接合型(例えば、非特許文献1参照)がある。なかでも、電子供与性有機材料(p型有機半導体)として共役系重合体を用い、電子受容性有機材料としてn型の半導体特性をもつ導電性高分子のほかC60などのフラーレンやカーボンナノチューブを用いた光電変換材料が報告されている(例えば、非特許文献2〜3、特許文献1〜2参照)。
【0006】
また、太陽光スペクトルの広い範囲にわたる放射エネルギーを効率よく吸収させるために、主鎖に電子供与性基と電子吸引性基を導入し、バンドギャップを小さくした有機半導体による光電変換材料が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。この電子供与性基としてはチオフェン骨格が、電子吸引性基としてはベンゾチアジアゾール骨格やキノキサリン骨格が精力的に研究されている(例えば、非特許文献5、特許文献3〜6参照)。しかしながら、十分な光電変換効率は得られていなかった。
【非特許文献1】J.J.M.Halls、C.A.Walsh、N.C.Greenham、E.A.Marseglla、R.H.Frirnd、S.C.Moratti、A.B.Homes著、「ネイチャー(Nature)」、1995年、376号、498頁
【非特許文献2】E.Kymakis、G.A.J.Amaratunga著、「アプライド フィジクス レターズ(Applied Physics Letters)」(米国)、2002年、80巻、112頁
【非特許文献3】G.Yu、J.Gao、J.C.Hummelen、F.Wudl、A.J.Heeger著、「サイエンス(Science)」、1995年、270巻、1789頁
【非特許文献4】E.Bundgaard、F.C.Krebs著、「ソーラー エナジー マテリアルズ アンド ソーラー セル(Solar Energy Materials & Solar Cells)」、2007年、91巻、954頁
【非特許文献5】X.Li、W.Zeng、Y.Zhang、Q.Hou、W.Yang、Y.Cao著、「ヨーロピアン ポリマー ジャーナル(European Polymer Journal)」、2005年、41巻、2923頁
【特許文献1】特開2003−347565号公報(請求項1、3)
【特許文献2】特開2004−165474号公報(請求項1、3)
【特許文献3】特表2006−502981号公報(請求項1)
【特許文献4】特開2003−104976号公報(請求項1、9)
【特許文献5】特開2006−222429号公報(請求項7)
【特許文献6】特表2004−534863号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、従来の有機太陽電池はいずれも光電変換効率が低いことが課題であった。本発明は光電変換効率の高い光起電力素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、(a)キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格とを含み、(b)バンドギャップ(Eg)が1.8eV以下であり、(c)最高被占分子軌道(HOMO)準位が−4.8eV以下であるキノキサリン化合物、これを用いた電子供与性有機材料、光起電力素子用材料および光起電力素子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い短絡電流密度(Isc)と高い開放電圧(Voc)を両立した、光電変換効率の高い光起電力素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】

本発明のキノキサリン化合物は、(a)キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格とを含み、(b)バンドギャップ(Eg)が1.8eV以下であり、(c)最高被占分子軌道(HOMO)準位が−4.8eV以下であることを特徴とする。以下、本発明のキノキサリン化合物について説明する。
【0011】
本発明のキノキサリン化合物は、(a)キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格とを含む。ここで、オリゴチオフェン骨格とは、2個以上のチオフェン環同士が共役結合で連結された骨格を示す。キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格の両者を有することにより、(1)深い最高被占分子軌道(HOMO)準位、(2)広い吸収波長領域、(3)高いキャリア移動度を、高いレベルで両立することが可能となる。特に、光起電力素子用材料として用いる場合、高い短絡電流(Isc)を得るためには光吸収波長領域が広い方が好ましく、この観点から、上記オリゴチオフェン骨格を構成するチオフェン環の数は3個以上であることが好ましく、4個以上であることがさらに好ましい。一方、光起電力素子において高い開放電圧(Voc)を得るためには電子供与性有機材料の最高被占分子軌道(HOMO)準位を深くすることが有効であり、この観点から、上記オリゴチオフェン骨格を構成するチオフェン環の数は12個以下であることが好ましく、8個以下であることがさらに好ましい。このチオフェン環の連結位置は、光吸収波長領域を広くするため、また同時に有機半導体として高いキャリア輸送能を確保するために、2,5位(チオフェン環に含まれる硫黄原子の隣接炭素)であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のキノキサリン化合物は、(b)バンドギャップ(Eg)が1.8eV以下である。バンドギャップとは最高被占分子軌道(HOMO)準位と最低空分子軌道(LUMO)準位とのエネルギー差であり、これを1.8eV以下とすることにより、光の吸収効率を高くすることができる。特に、光起電力素子用材料として用いる場合、バンドギャップが1.8eVを超えると、太陽光の吸収効率が低下するため、光電変換効率が低下する。一方、バンドギャップが小さすぎると開放電圧(Voc)の低下をもたらす場合があり、この観点から、バンドギャップは1.8eV以下1.2eV以上であることが好ましく、1.8eV以下1.4eV以上であることがさらに好ましい。ここで、キノキサリン化合物のバンドギャップは、キノキサリン化合物から薄膜を形成し、その光吸収端から下記式を用いて求められる。
【0013】
Eg(eV)=1240/薄膜の光吸収端波長(nm)
ここで用いる薄膜の形成方法は特に限定されるものではないが、通常、クロロホルム、テトラヒドロフラン、クロロベンゼンなどの有機溶媒に溶解させて、スピンコートなどのウェットコーティング法によりガラス基板上に薄膜を形成する。薄膜の厚さは、薄すぎると吸光度が低すぎ、厚すぎると吸光度が高すぎて測定に支障を来たす場合があるため、通常、5nm〜500nmの範囲であることが好ましく、10nm〜200nmの範囲であることがさらに好ましい。
【0014】
バンドギャップを1.8eV以下にするためには、分子内チャージトランスファー(CT)を起こしやすくすること、すなわち、電子吸引性基であるキノキサリン骨格と電子供与性基であるオリゴチオフェン骨格を交互に配置することが有効である。また、オリゴチオフェンを構成するチオフェン環同士のねじれを最小限に留めることもバンドギャップを1.8eV以下にするのに有効である。このためには、隣り合う2つのチオフェン環の2つの隣接置換基のうち、少なくとも1つを立体障害の小さい水素原子とすることが有効である。
【0015】
また、本発明のキノキサリン化合物は、上述のように高い開放電圧(Voc)を得るためには最高被占分子軌道(HOMO)準位を深くすることが有効であり、具体的には(c)で記述したように−4.8eV以下とすることが重要である。最高被占分子軌道(HOMO)準位が−4.8eVを超えると、開放電圧(Voc)が低下するため、光電変換効率が低下する。一方、最高被占分子軌道(HOMO)準位が低すぎると、励起子が電荷分離して生成する電子と正孔が電子受容性有機材料側で再結合して消滅する場合があり、この観点から、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−4.8eV以下−6.1eV以上であることが好ましく、−4.8eV以下−5.5eV以上であることがさらに好ましい。ここで、キノキサリン化合物の最高被占分子軌道(HOMO)準位は、キノキサリン化合物から薄膜を形成し、その光電子分光測定により求められる。ここで用いる薄膜の形成方法は特に限定されるものではないが、通常、上述の方法を用いることができる。薄膜の厚さは、薄すぎると下地の基板の影響を受け、厚すぎると膜厚にムラができて測定に支障を来たす場合があるため、通常、5nm〜500nmの範囲であることが好ましく、10nm〜200nmの範囲であることがさらに好ましい。なお、−4.8eV以下とは、−4.9eV、−5.0eVのように、その絶対値が4.8以上であることを示す。
【0016】
HOMOを−4.8eV以下にするには、電子供与性基であるオリゴチオフェン骨格の数と、このオリゴチオフェン骨格に含まれるチオフェン環の数の両者が多すぎないことが重要である。具体的には、電子吸引性基であるキノキサリン骨格:電子供与性基であるオリゴチオフェン骨格の比が、1:1〜1:2であることが好ましく、また、1つのオリゴチオフェン骨格に含まれるチオフェン環の数を12個以下にすることが好ましい。
【0017】
上述のような特徴を有するキノキサリン化合物として、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物が好ましい。キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格をランダムに配置する場合に比べ、式(1)のようにオリゴチオフェン骨格−キノキサリン骨格−オリゴチオフェン骨格と、規則的に配置することにより、長波長領域の光吸収効率が向上する。
【0018】
【化1】

【0019】
〜R20は同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲンの中から選ばれる。Aは6員環構造を有する2価のアリーレン基または6員環構造を有する2価のヘテロアリーレン基を表す。mは0または1である。nは1以上1000以下の範囲を表す。
【0020】
ここでアルキル基とは例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基のような飽和脂肪族炭化水素基であり、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、無置換でも置換されていてもかまわない。置換される場合の置換基の例としては、下記アルコキシ基やアリール基、ヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。アルキル基の炭素数は、加工性の観点から2個以上が好ましく、光吸収効率をより高くするためには20個以下が好ましい。また、アルコキシ基とは例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのエーテル結合を介した脂肪族炭化水素基を示し、脂肪族炭化水素基は無置換でも置換されていてもかまわない。アルコキシ基の炭素数は、加工性の観点から2個以上が好ましく、光吸収効率をより高くするためには20個以下が好ましい。置換される場合の置換基の例としては、下記アリール基やヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。また、アリール基とは例えばフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、フェナントリル基、アントリル基、ターフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基、ペリレニル基などの芳香族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。アリール基の炭素数は、加工性の観点から6個以上が好ましい。また、30個以下が好ましい。置換される場合の置換基の例としては、上記アルキル基や、下記ヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。また、ヘテロアリール基とは例えば、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、オキサゾリル基、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリニル基、イソキノリル基、キノキサリル基、アクリジニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾフラン基、ジベンゾフラン基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、ベンゾジチオフェン基、シロール基、ベンゾシロール基、ジベンゾシロール基などの炭素以外の原子を有する複素芳香環基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。置換される場合の置換基の例としては、上記アルキル基、アリール基や、下記ハロゲンが挙げられる。また、ハロゲンはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素のいずれかである。
【0021】
また、6員環構造を有する2価のアリーレン基とは2価(結合部位が2箇所)の芳香族炭化水素基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。置換される場合の置換基の例としては、上記アルキル基や、ヘテロアリール基、ハロゲンが挙げられる。6員環構造を有する2価のアリーレン基の好ましい具体例としては、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基、フェナントリレン基、アントリレン基、ターフェニレン基、ピレニレン基、フルオレニレン基、ペリレニレン基などの2価の基が挙げられる。また、6員環構造を有する2価のヘテロアリーレン基とは2価の複素芳香環基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。6員環構造を有する2価のヘテロアリーレン基の好ましい具体例しては、ピリジレン基、ピラジレン基、キノリニレン基、イソキノリレン基、キノキサリレン基、アクリジニレン基、インドリレン基、カルバゾリレン基、ベンゾフラン基、ジベンゾフラン基、ベンゾチオフェン基、ジベンゾチオフェン基、ベンゾジチオフェン基、ベンゾシロール基、ジベンゾシロール基などの2価の複素芳香環基などが挙げられる。これらの中でもフルオレニレン基とジベンゾシロール基はアルキル基などの溶解性置換基を2個容易に導入することができるため、溶解性を確保する観点から好ましい。上記一般式(1)で表される化合物におけるR〜R18は、合成の容易さと溶解性を確保する観点から、水素、アルキル基、アルコキシ基のいずれかであることが好ましい。また、R19およびR20は合成の容易さと化合物の安定性の観点から、アルキル基またはアリール基が好ましい。
【0022】
一般式(1)のnはキノキサリン化合物の重合度を示し、1以上1000以下の範囲である。膜形成の容易さから、キノキサリン化合物は溶媒に可溶であることが好ましく、この観点からnは1以上500以下程度が好ましい。重合度は重量平均分子量から求めることができる。重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定し、ポリスチレンの標準試料に換算して求めることができる。また、上述のように溶媒に可溶とするために、R〜R20の少なくとも一つがアルキル基またはアルコキシ基であることが好ましい。キノキサリン化合物の分子量が小さい場合は、アルキル基またはアルコキシ基の数が多すぎるとガラス転移温度や融点が低下して薄膜の耐熱性が低下する。逆に、キノキサリン化合物の分子量が大きい場合はアルキル基またはアルコキシ基の数が少なすぎると溶解性が低下し薄膜の形成が困難となる。このため、一般式(1)のnが1以上10未満の場合は、R〜R20のうちアルキル基またはアルコキシ基が1個以上8個以下であることがより好ましく、一般式(1)のnが10以上の場合は、R〜R20のうちアルキル基またはアルコキシ基が4個以上であることがより好ましい。
【0023】
一般式(1)のmは0または1であるが、上記nが2以上である場合はm=1であることが好ましい。これは、一般式(1)のAが6員環構造を有しているためにその立体障害により主鎖がねじれて共役が拡張されにくく、nが2以上であるような高分子量体においても最高被占分子軌道(HOMO)準位を深く保つことができるためである。
【0024】
上記の一般式(1)で表される構造を有するキノキサリン化合物として、下記のような構造が挙げられる。なお、下記構造において、nは1以上1000以下の範囲である。
【0025】
【化2】

【0026】
【化3】

【0027】
【化4】

【0028】
【化5】

【0029】
【化6】

【0030】
【化7】

【0031】
【化8】

【0032】
なお、一般式(1)で表される構造を有するキノキサリン化合物は、例えば、マクロモレキュルズ(Macromolecules)2000年、33巻、9277−9288頁や、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサイアティ(Journal of American Chemical Society)2006年、128巻、10992−10993頁に記載されている方法に類似した手法により合成することができる。例えば5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェンと、3−アルキルチオフェン−2−ボロン酸誘導体とをパラジウム触媒を用いた鈴木カップリング法で反応させ、得られたクウォーターチオフェン化合物をリチオ化、ボロン酸エステル化し、得られた生成物とジブロモジフェニルキノキサリンとをさらにパラジウム触媒を用いた鈴木カップリング法で反応させる方法が挙げられる。
【0033】
本発明の電子供与性有機材料は、本発明のキノキサリン化合物を含む。前記キノキサリン化合物のみからなるものでもよいし、他の化合物を含んでもよい。他の化合物としては、例えばポリチオフェン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリチエニレンビニレン系重合体などの共役系重合体や、Hフタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)等のフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’−ジ(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体(ターチオフェン、クウォーターチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェンなど)等の低分子有機化合物が挙げられる。
【0034】
本発明の電子供与性有機材料は、光起電力素子用材料、有機電界発光素子用材料、有機トランジスタ用材料、波長変換素子用材料、有機レーザー用材料などに用いることができ、中でも光起電力素子用材料として好ましく用いることができる。
【0035】
本発明のキノキサリン化合物は電子供与性(p型半導体特性)を示すため、光起電力素子に用いる場合により高い光電変換効率を得るためには電子受容性有機材料(n型有機半導体)と組み合わせることが好ましい。本発明の光起電力素子用材料は、上記キノキサリン化合物を含む電子供与性有機材料と、電子受容性有機材料を含む。
【0036】
本発明で用いる電子受容性有機材料とは、n型半導体特性を示す有機材料であり、例えば1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(NTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド(PTCDA)、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックビスベンズイミダゾール(PTCBI)、N,N'−ジオクチル−3,4,9,10−ナフチルテトラカルボキシジイミド(PTCDI−C8H)、2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)、2,5−ジ(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)等のオキサゾール誘導体、3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール(TAZ)等のトリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、フラーレン化合物(C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94を始めとする無置換のものと、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([6,6]−PCBM)、[5,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([5,6]−PCBM)、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドヘキシルエステル([6,6]−PCBH)、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドドデシルエステル([6,6]−PCBD)、フェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル(PC70BM)、フェニル C85 ブチリックアシッドメチルエステル(PC84BM)など)、カーボンナノチューブ(CNT)、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体にシアノ基を導入した誘導体(CN−PPV)などが挙げられる。中でも、フラーレン化合物は電荷分離速度と電子移動速度が速いため、好ましく用いられる。フラーレン化合物の中でも、C70誘導体(上記PC70BMなど)は光吸収特性に優れ、より高い光電変換効率を得られるため、より好ましい。
【0037】
本発明の光起電力素子用材料において、本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の含有比率(重量分率)は特に限定されないが、電子供与性有機材料:電子受容性有機材料の重量分率が、1〜99:99〜1の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜90:90〜10の範囲であり、さらに好ましくは20〜60:80〜40の範囲である。本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料は混合して用いることが好ましい。混合方法としては特に限定されるものではないが、所望の比率で溶媒に添加した後、加熱、撹拌、超音波照射などの方法を1種または複数種組み合わせて溶媒中に溶解させる方法が挙げられる。なお、後述するように、光起電力素子用材料が一層の有機半導体層を形成する場合は、上述の含有比率はその一層に含まれる本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の含有比率となり、有機半導体層が二層以上の積層構造である場合は、有機半導体層全体における本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の含有比率を意味する。
【0038】
光電変換効率をより向上させるためには、キャリアのトラップとなるような不純物は極力除去することが好ましい。本発明では、前述のキノキサリン化合物やこれを含む電子供与性有機材料、および電子受容性有機材料の不純物を除去する方法は特に限定されないが、カラムクロマトグラフィー法、再結晶法、昇華法、再沈殿法、ソクスレー抽出法、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による分子量分画法、濾過法、イオン交換法、キレート法等を用いることができる。一般的に低分子有機材料の精製にはカラムクロマトグラフィー法、再結晶法、昇華法が好ましく用いられる。他方、高分子量体の精製には、低分子量成分を除去する場合には再沈殿法やソクスレー抽出法、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による分子量分画法が好ましく用いられ、金属成分を除去する場合には再沈殿法やキレート法、イオン交換法が好ましく用いられる。これらの方法のうち、複数を組み合わせてもよい。
【0039】
次に、本発明の光起電力素子について説明する。本発明の光起電力素子は、少なくとも正極と負極を有し、これらの間に本発明の光起電力素子用材料を含む。図1は本発明の光起電力素子の一例を示す模式図である。図1において符号1は基板、符号2は正極、符号3は本発明の光起電力素子用材料を含む有機半導体層、符号4は負極である。
【0040】
有機半導体層3は本発明の光起電力素子用材料を含む。すなわち、本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料を含む。これらの材料は混合されていても積層されていてもよい。混合されている場合は、本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料は分子レベルで相溶しているか、相分離している。この相分離構造のドメインサイズは特に限定されるものではないが通常1nm以上50nm以下のサイズである。積層されている場合は、p型半導体特性を示す電子供与性有機材料を有する層が正極側、n型半導体特性を示す電子受容性有機材料を有する層が負極側であることが好ましい。有機半導体層3が積層されている場合の光起電力素子の一例を図2に示す。符号5は一般式(1)で表される構造を有するキノキサリン化合物を有する層、符号6は電子受容性有機材料を有する層である。有機半導体層は5nmから500nmの厚さが好ましく、より好ましくは30nmから300nmである。積層されている場合は、本発明の電子供与性有機材料を有する層は上記厚さのうち1nmから400nmの厚さを有していることが好ましく、より好ましくは15nmから150nmである。
【0041】
また、有機半導体層3には本発明のキノキサリン化合物、および電子受容性有機材料以外の電子供与性有機材料(p型有機半導体)を含んでいてもよい。ここで用いる電子供与性有機材料(p型有機半導体)としては、先に電子供与性有機材料の他の化合物として例示したものが挙げられる。
【0042】
本発明の光起電力素子においては、正極2もしくは負極4のいずれかに光透過性を有することが好ましい。電極の光透過性は、有機半導体層3に入射光が到達して起電力が発生する程度であれば、特に限定されるものではない。ここで、本発明における光透過性は、[透過光強度(W/m)/入射光強度(W/m)]×100(%)で求められる値である。電極の厚さは光透過性と導電性とを有する範囲であればよく、電極素材によって異なるが20nmから300nmが好ましい。なお、もう一方の電極は導電性があれば必ずしも光透過性は必要ではなく、厚さも特に限定されない。
【0043】
電極材料としては、一方の電極には仕事関数の大きな導電性素材、もう一方の電極には仕事関数の小さな導電性素材を使用することが好ましい。仕事関数の大きな導電性素材を用いた電極は正極となる。この仕事関数の大きな導電性素材としては金、白金、クロム、ニッケルなどの金属のほか、透明性を有するインジウム、スズなどの金属酸化物、複合金属酸化物(インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)など)が好ましく用いられる。ここで、正極2に用いられる導電性素材は、有機半導体層3とオーミック接合するものであることが好ましい。さらに、後述する正孔輸送層を用いた場合においては、正極2に用いられる導電性素材は正孔輸送層とオーミック接合するものであることが好ましい。
【0044】
仕事関数の小さな導電性素材を用いた電極は負極となるが、この仕事関数の小さな導電性素材としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属、具体的にはリチウム、マグネシウム、カルシウムが使用される。また、錫や銀、アルミニウムも好ましく用いられる。さらに、上記の金属からなる合金や上記の金属の積層体からなる電極も好ましく用いられる。また、負極4と電子輸送層の界面にフッ化リチウムやフッ化セシウムなどの金属フッ化物を導入することで、取り出し電流を向上させることも可能である。ここで、負極4に用いられる導電性素材は、有機半導体層3とオーミック接合するものであることが好ましい。さらに、後述する電子輸送層を用いた場合においては、負極4に用いられる導電性素材は電子輸送層とオーミック接合するものであることが好ましい。
【0045】
基板1は、光電変換材料の種類や用途に応じて、電極材料や有機半導体層が積層できる基板、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂等の有機材料から任意の方法によって作製されたフィルムや板が使用可能である。また基板側から光を入射して用いる場合は、上記に示した各基板に80%程度の光透過性を持たせておくことが好ましい。
【0046】
本発明では、正極2と有機半導体層3の間に正孔輸送層を設けてもよい。正孔輸送層を形成する材料としては、ポリチオフェン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体などの導電性高分子や、フタロシアニン誘導体(HPc、CuPc、ZnPcなど)、ポルフィリン誘導体などのp型半導体特性を示す低分子有機化合物が好ましく用いられる。特に、ポリチオフェン系重合体であるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)やPEDOTにポリスチレンスルホネート(PSS)が添加されたものが好ましく用いられる。正孔輸送層は5nmから600nmの厚さが好ましく、より好ましくは30nmから200nmである。
【0047】
また本発明の光起電力素子は、有機半導体層3と負極4の間に電子輸送層を設けてもよい。電子輸送層を形成する材料として、特に限定されるものではないが、上述の電子受容性有機材料(NTCDA、PTCDA、PTCDI−C8H、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ホスフィンオキサイド誘導体、フラーレン化合物、CNT、CN−PPVなど)のようにn型半導体特性を示す有機材料が好ましく用いられる。電子輸送層は5nmから600nmの厚さが好ましく、より好ましくは30nmから200nmである。
【0048】
また本発明の光起電力素子は、1つ以上の中間電極を介して2層以上の有機半導体層を積層(タンデム化)して直列接合を形成してもよい。例えば、基板/正極/第1の有機半導体層/中間電極/第2の有機半導体層/負極という積層構成を挙げることができる。このように積層することにより、開放電圧を向上させることができる。なお、正極と第1の有機半導体層の間、および、中間電極と第2の有機半導体層の間に上述の正孔輸送層を設けてもよく、第1の有機半導体層と中間電極の間、および、第2の有機半導体層と負極の間に上述の正孔輸送層を設けてもよい。
【0049】
このような積層構成の場合、有機半導体層の少なくとも1層が本発明の光起電力素子用材料を含み、他の層には、短絡電流を低下させないために、本発明の電子供与性有機材料とはバンドギャップの異なる電子供与性有機材料を含むことが好ましい。このような電子供与性有機材料としては、例えば上述のポリチオフェン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリチエニレンビニレン系重合体などの共役系重合体や、Hフタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)等のフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’−ジ(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体(ターチオフェン、クウォーターチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェンなど)等の低分子有機化合物が挙げられる。また、ここで用いられる中間電極用の素材としては高い導電性を有するものが好ましく、例えば上述の金、白金、クロム、ニッケル、リチウム、マグネシウム、カルシウム、錫、銀、アルミニウムなどの金属や、透明性を有するインジウム、スズなどの金属酸化物、複合金属酸化物(インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)など)、上記の金属からなる合金や上記の金属の積層体、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)やPEDOTにポリスチレンスルホネート(PSS)が添加されたもの、などが挙げられる。中間電極は光透過性を有することが好ましいが、光透過性が低い金属のような素材でも膜厚を薄くすることで充分な光透過性を確保できる場合が多い。
【0050】
次に本発明の光起電力素子の製造方法について説明する。基板上にITOなどの透明電極(この場合正極に相当)をスパッタリング法などにより形成する。次に、本発明のキノキサリン化合物、および電子受容性有機材料を含む光電変換素子用材料を溶媒に溶解させて溶液を作り、透明電極上に塗布し有機半導体層を形成する。このとき用いられる溶媒は有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、o−クロロフェノール、アセトン、酢酸エチル、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。また、フルオラス溶媒(分子中にフッ素原子を1個以上有する有機溶媒)を含有することで光電変換効率をより向上させることができる。このようなフルオラス溶媒として、例えばベンゾトリフルオリド、ヘキサフルオロベンゼン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、ペルフルオロトルエン、ペルフルオロデカリンなどが挙げられる。より好ましくはベンゾトリフルオリドが用いられる。フルオラス溶媒の含有量は全溶媒量に対して0.01〜20体積%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5体積%である。
【0051】
本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料を混合して有機半導体層を形成する場合は、本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料を所望の比率で溶媒に添加し、加熱、撹拌、超音波照射などの方法を用いて溶解させ溶液を作り、透明電極上に塗布する。この場合、2種以上の溶媒を混合して用いることで光起電力素子の光電変換効率を向上させることもできる。これは、電子供与性有機材料と電子受容性有機材料がナノレベルで相分離を起こし、電子と正孔の通り道となるキャリアパスが形成されるためと推測される。組み合わせる溶媒は、用いる電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の種類によって最適な組み合わせの種類を選択することができる。本発明の電子供与性有機材料を用いる場合、組み合わせる好ましい溶媒として上述の中でもクロロホルムとクロロベンゼンが挙げられる。この場合、各溶媒の混合体積比率は、クロロホルム:クロロベンゼン=5:95〜95:5の範囲であることが好ましく、さらに好ましくはクロロホルム:クロロベンゼン=10:90〜90:10の範囲である。また、本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料を積層して有機半導体層を形成する場合は、例えば本発明電子供与性有機材料の溶液を塗布して電子供与性有機材料を有する層を形成した後に、電子受容性有機材料の溶液を塗布して層を形成する。ここで、本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料は、分子量が1000以下程度の低分子量体である場合には、蒸着法を用いて層を形成することも可能である。
【0052】
有機半導体層の形成には、スピンコート塗布、ブレードコート塗布、スリットダイコート塗布、スクリーン印刷塗布、バーコーター塗布、鋳型塗布、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法など何れの方法を用いてもよく、膜厚制御や配向制御など、得ようとする有機半導体層特性に応じて形成方法を選択すればよい。例えばスピンコート塗布を行う場合には、本発明の電子供与性有機材料、および電子受容性有機材料が1〜20g/lの濃度(本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料と溶媒を含む溶液の体積に対する、本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の重量)であることが好ましく、この濃度にすることで厚さ5〜200nmの均質な有機半導体層を得ることができる。形成した有機半導体層に対して、溶媒を除去するために、減圧下または不活性雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)などでアニーリング処理を行ってもよい。アニーリング処理の好ましい温度は40℃〜300℃、より好ましくは50℃〜200℃である。また、アニーリング処理を行うことで、積層した層が界面で互いに浸透して接触する実行面積が増加し、短絡電流を増大させることができる。このアニーリング処理は、負極の形成後に行ってもよい。
【0053】
次に、有機半導体層上にAlなどの金属電極(この場合負極に相当)を真空蒸着法やスパッタ法により形成する。金属電極は、電子輸送層に低分子有機材料を用いて真空蒸着した場合は、引き続き、真空を保持したまま続けて形成することが好ましい。
【0054】
正極と有機半導体層の間に正孔輸送層を設ける場合には、所望のp型有機半導体材料(PEDOTなど)を正極上にスピンコート法、バーコーティング法、ブレードによるキャスト法等で塗布した後、真空恒温槽やホットプレートなどを用いて溶媒を除去し、正孔輸送層を形成する。フタロシアニン誘導体やポルフィリン誘導体などの低分子有機材料を使用する場合には、真空蒸着機を用いた真空蒸着法を適用することも可能である。
【0055】
有機半導体層と負極の間に電子輸送層を設ける場合には、所望のn型有機半導体材料(フラーレン誘導体など)を有機半導体層上にスピンコート法、バーコーティング法、ブレードによるキャスト法、スプレー法等で塗布した後、真空恒温槽やホットプレートなどを用いて溶媒を除去し、電子輸送層を形成する。フェナントロリン誘導体やC60などの低分子有機材料を使用する場合には、真空蒸着機を用いた真空蒸着法を適用することも可能である。
【0056】
本発明の光起電力素子は、光電変換機能、光整流機能などを利用した種々の光電変換デバイスへの応用が可能である。例えば光電池(太陽電池など)、電子素子(光センサ、光スイッチ、フォトトランジスタなど)、光記録材(光メモリなど)などに有用である。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また実施例等で用いた化合物のうち、略語を使用しているものについて、以下に示す。
ITO:インジウム錫酸化物
PEDOT:ポリエチレンジオキシチオフェン
PSS:ポリスチレンスルホネート
PC70BM:フェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル
Eg:バンドギャップ
HOMO:最高被占分子軌道
Isc:短絡電流密度
Voc:開放電圧
FF:フィルファクター
η:光電変換効率
なお、H−NMR測定にはFT−NMR装置((株)日本電子製JEOL JNM−EX270)を用いた。また、平均分子量(数平均分子量、重量平均分子量)はGPC装置(クロロホルムを送液したTOSOH社製、高速GPC装置HLC−8220GPC)を用い、絶対検量線法によって算出した。重合度nは以下の式で算出した。
重合度n=[(重量平均分子量)/(モノマー1ユニットの分子量)]
また、光吸収端波長は、ガラス上に約60nmの厚さに形成した薄膜について、日立製作所(株)製のU−3010型分光光度計を用いて測定した薄膜の紫外可視吸収スペクトル(測定波長範囲:300〜900nm)から得た。バンドギャップ(Eg)は上述した式により、光吸収端波長から算出した。なお、薄膜はクロロホルムを溶媒に用いてスピンコート法により形成した。
【0058】
また、最高被占分子軌道(HOMO)準位は、ITOガラス上に約60nmの厚さに形成した薄膜について、表面分析装置(大気中紫外線光電子分光装置AC−1型、理研機器(株)製)を用いて測定した。なお、薄膜はクロロホルムを溶媒に用いてスピンコート法により形成した。
【0059】
合成例1
化合物A−1を式1に示す方法で合成した。
【0060】
【化9】

【0061】
化合物(1−a)((株)東京化成工業製)4.3gと臭素((株)和光純薬工業製)10gを48%臭化水素酸((株)和光純薬工業製)150mlに加え、120℃で3時間撹拌した。室温に冷却し、析出した固体をグラスフィルターで濾過し、水1000mlとアセトン100mlで洗浄した。得られた固体を60℃で真空乾燥し、化合物(1−b)6.72gを得た。
【0062】
上記の化合物(1−b)5.56gをエタノール((株)和光純薬工業製)180mlに加え、窒素雰囲気下5℃でNaBH((株)和光純薬工業製)13.2gを加えた後、室温で2日間撹拌した。溶媒を留去したのち水500mlを加え、固体をろ取し、水1000mlで洗浄した。得られた固体をジエチルエーテル200mlに溶解し、水300mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去し、化合物(1−c)を2.37g得た。
【0063】
上記の化合物(1−c)2.37gとベンジル((株)和光純薬工業製)1.87gをクロロホルム80mlに加え、窒素雰囲気下でメタンスルホン酸((株)和光純薬工業製)3滴を加えた後、11時間加熱還流した。得られた溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:クロロホルム)で精製し、メタノールで洗浄して化合物(1−d)を3.72g得た。
【0064】
化合物(1−e)((株)東京化成工業製)10.2gをジメチルホルムアミド((株)キシダ化学製)100mlに溶解し、N−ブロモスクシンイミド((株)和光純薬工業製)9.24gを加え、窒素雰囲気下、室温で3時間撹拌した。得られた溶液に水200ml、n−ヘキサン200ml、ジクロロメタン200mlを加え、有機層を分取し、水200mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン)で精製し化合物(1−f)14.4gを得た。
【0065】
上記の化合物(1−f)14.2gをテトラヒドロフラン((株)和光純薬工業製)200mlに溶解し、−80℃に冷却した。n−ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液((株)和光純薬工業製)35mlを加えた後、−50℃まで昇温し、再度−80℃に冷却した。2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン((株)和光純薬工業製)13.6mlを加え、室温まで昇温し、窒素雰囲気下で4時間撹拌した。得られた溶液に1N塩化アンモニウム水溶液200mlと酢酸エチル200mlを加え、有機層を分取し、水200mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し化合物(1−g)14.83gを得た。
【0066】
上記の化合物(1−g)14.83gと、5,5’−ジブロモ−2,2’−ビチオフェン((株)東京化成工業製)6.78gをジメチルホルムアミド((株)和光純薬工業製)200mlに加え、窒素雰囲気下でリン酸カリウム((株)和光純薬工業製)26.6g、[ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(アルドリッチ社製)1.7gを加え、100℃で4時間撹拌した。得られた溶液に水500mlと酢酸エチル300mlを加え、有機層を分取し、水500mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ヘキサン)で精製し、化合物(1−h)を4.53g得た。
【0067】
上記の化合物(1−h)4.53gをテトラヒドロフラン((株)和光純薬工業製)40mlに溶解し、−80℃に冷却した。n−ブチルリチウム1.6Mヘキサン溶液((株)和光純薬工業製)6.1mlを加えた後、−5℃まで昇温し、−80℃に冷却した。2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン((株)和光純薬工業製)2.3mlを加え、室温まで昇温し、窒素雰囲気下で2時間撹拌した。得られた溶液に1N塩化アンモニウム水溶液150mlと酢酸エチル200mlを加え、有機層を分取し、水200mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン)で精製し、化合物(1−i)2.31gを得た。
【0068】
上記の化合物(1−d)200mgと、上記の化合物(1−i)615mgをジメチルホルムアミド5mlに加え、窒素雰囲気下でリン酸カリウム((株)和光純薬工業製)1.15g、[ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(アルドリッチ社製)18mgを加え、100℃で10時間撹拌した。得られた溶液に水100mlとクロロホルム100mlを加え、有機層を分取し、水300mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン)で精製し、化合物A−1を400mg得た。化合物A−1のH−NMR測定結果を示す。
H−NMR(CDCl,ppm):8.12(s,2H)、7.82−7.77(m,6H)、7.43−7.41(m,6H)、7.20−7.12(m,8H)、7.05(d,2H)、6.96(d,2H)、2.84(m,8H)、1.78−1.61(m,8H)、1.29(m,40H)、0.88(m,12H)
化合物A−1の光吸収端波長は697nm、バンドギャップ(Eg)は1.78eV、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−4.97eVであった。
【0069】
合成例2
化合物A−2を式2に示す方法で合成した。
【0070】
【化10】

【0071】
合成例1の化合物A−1の372mgをクロロホルム10mlに溶解し、N−ブロモスクシンイミド((株)和光純薬工業製)96mgのジメチルホルムアミド(2ml)溶液を加え、5℃〜10℃で5時間撹拌した。得られた溶液に水100mlとジクロロメタン100mlを加え、有機層を分取し、水200mlで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥した。得られた溶液をカラムクロマトグラフィー(充填材:シリカゲル、溶離液:ジクロロメタン/ヘキサン)で精製し、化合物(2−a)を281mg得た。
【0072】
上記の化合物(2−a)281mgと、化合物(2−b)(アルドリッチ社製)91mgをトルエン20mlに溶解した。ここに水6ml、炭酸カリウム500mg、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)((株)東京化成工業製)11mg、Aliquat336(アルドリッチ社製)1滴を加え、窒素雰囲気下、100℃にて10時間撹拌した。次いで、ブロモベンゼン((株)東京化成工業製)5滴を加え、100℃にて30分間撹拌した。得られた溶液にメタノール200mlを加え、生成した固体をろ取し、メタノール、水、メタノール、アセトン、ヘキサンの順に洗浄した。得られた固体をクロロホルム200mlに溶解させ、シリカゲルショートカラム(溶離液:クロロホルム)を通した後に濃縮乾固した後、メタノールで洗浄し、化合物A−2を200mg得た。重量平均分子量は7818、数平均分子量は3740、重合度nは4.4であった。また、光吸収端波長は712nm、バンドギャップ(Eg)は1.74eV、最高被占分子軌道(HOMO)準位は−5.10eVであった。
【0073】
上記化合物A−1〜A−2、および後述する化合物B−1〜B−2の諸物性(光吸収端波長、バンドギャップ(Eg)、最高被占分子軌道(HOMO)準位)を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
実施例1
上記A−1の1mgとPC70BM(サイエンスラボラトリーズ社製)4mgをクロロベンゼン0.25mlの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機((株)井内盛栄堂製US−2(商品名)、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Aを得た。
【0076】
スパッタリング法により正極となるITO透明導電層を120nm堆積させたガラス基板を38mm×46mmに切断した後、ITOをフォトリソグラフィー法により38mm×13mmの長方形状にパターニングした。得られた基板をアルカリ洗浄液(フルウチ化学(株)製、“セミコクリーン”EL56(商品名))で10分間超音波洗浄した後、超純水で洗浄した。この基板を30分間UV/オゾン処理した後に、基板上に正孔輸送層となるPEDOT:PSS水溶液(PEDOT0.8重量%、PPS0.5重量%)をスピンコート法により60nmの厚さに成膜した。ホットプレートにより200℃で5分間加熱乾燥した後、上記の溶液AをPEDOT:PSS層上に滴下し、スピンコート法により膜厚100nmの有機半導体層を形成した。その後、有機半導体層が形成された基板と陰極用マスクを真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が1×10−3Pa以下になるまで再び排気し、抵抗加熱法によって、負極となるアルミニウム層を80nmの厚さに蒸着した。以上のように、ストライプ状のITO層とアルミニウム層が交差する部分の面積が5mm×5mmである光起電力素子を作製した。
【0077】
このようにして作製された光起電力素子の正極と負極をヒューレット・パッカード社製ピコアンメーター/ボルテージソース4140Bに接続して、大気中でITO層側から擬似太陽光(山下電装株式会社製 簡易型ソーラシミュレータ YSS−E40、スペクトル形状:AM1.5、強度:100mW/cm)を照射し、印加電圧を−1Vから+2Vまで変化させたときの電流値を測定した。この時の短絡電流密度(印加電圧が0Vのときの電流密度の値)は5.75mA/cm、開放電圧(電流密度が0になるときの印加電圧の値)は0.81V、フィルファクター(FF)は0.34であり、これらの値から算出した光電変換効率は1.58%であった。なお、フィルファクターと光電変換効率は次式により算出した。
フィルファクター=JVmax/(短絡電流密度×開放電圧)
(ここで、JVmaxは、印加電圧が0Vから開放電圧値の間で電流密度と印加電圧の積が最大となる点における電流密度と印加電圧の積の値である。)
光電変換効率=[(短絡電流密度×開放電圧×フィルファクター)/擬似太陽光強度(100mW/cm)]×100(%)
以下の実施例と比較例におけるフィルファクターと光電変換効率も全て上式により算出した。
【0078】
実施例2
A−1の代わりに上記A−2を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定した。この時の短絡電流密度は6.96mA/cm、開放電圧は0.75V、フィルファクター(FF)は0.422であり、これらの値から算出した光電変換効率は2.20%であった。
【0079】
比較例1
A−1の代わりに下記B−1(重量平均分子量:2630、数平均分子量:1604、重合度n:3.8)を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定した。この時の短絡電流密度は3.57mA/cm、開放電圧は0.90V、フィルファクター(FF)は0.28であり、これらの値から算出した光電変換効率は0.90%であった。
【0080】
【化11】

【0081】
比較例2
A−1の代わりに下記B−2(重量平均分子量:5860、数平均分子量:3120、重合度n:4.3)を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製し、電流−電圧特性を測定した。この時の短絡電流密度は4.31mA/cm、開放電圧は0.88V、フィルファクター(FF)は0.30であり、これらの値から算出した光電変換効率は1.14%であった。
【0082】
【化12】

【0083】
上記実施例1〜2、および比較例1〜2の結果を表2にまとめて示す。
【0084】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の光起電力素子の一態様を示した模式図。
【図2】本発明の光起電力素子の別の態様を示した模式図。
【符号の説明】
【0086】
1 基板
2 正極
3 有機半導体層
4 負極
5 一般式(1)で表される構造を有するキノキサリン化合物を有する層
6 電子受容性有機材料を有する層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格とを含み、(b)バンドギャップ(Eg)が1.8eV以下であり、(c)最高被占分子軌道(HOMO)準位が−4.8eV以下であるキノキサリン化合物。
【請求項2】
キノキサリン骨格とオリゴチオフェン骨格が交互に共有結合したものであり、キノキサリン骨格:オリゴチオフェン骨格の比が1:1〜1:2の範囲であり、1つのオリゴチオフェン骨格に含まれるチオフェン環の数が3個以上12個以下である請求項1記載のキノキサリン化合物。
【請求項3】
一般式(1)で表される構造を有する請求項2記載のキノキサリン化合物。
【化1】

(R〜R20は同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲンの中から選ばれる。Aは6員環構造を有する2価のアリーレン基または6員環構造を有する2価のヘテロアリーレン基である。mは0または1である。nは1以上1000以下の範囲を表す。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のキノキサリン化合物を含む電子供与性有機材料。
【請求項5】
電子受容性有機材料および請求項4記載の電子供与性有機材料を含む光起電力素子用材料。
【請求項6】
前記電子受容性有機材料がフラーレン化合物である請求項5記載の光起電力素子用材料。
【請求項7】
少なくとも正極と負極を有する光起電力素子であって、負極と正極の間に請求項5または6記載の光起電力素子用材料を含む光起電力素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−111649(P2010−111649A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287401(P2008−287401)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム未来技術研究開発 タンデム型高効率・高耐久性有機薄膜太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用をうける特許出願)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】