説明

キャビテーション流れの安定化装置

【課題】キャビテーション流れが不安定化するのを抑制し、かつ、広い作動点領域で効果を発揮することができるキャビテーション流れの安定化装置を提供する。
【解決手段】液体燃料Lを加圧する高速ポンプ1の遠心インペラ14上流側に配設され、回転駆動される軸部33とその外周部に螺旋状に形成された羽根34とを有し、上流側からの液体燃料Lを昇圧して下流側に流すインデューサ本体31と、これを囲むインデューサケーシング32とを備えたインデューサ装置30を有する高速ポンプ1におけるキャビテーション流れの安定化装置であって、インデューサケーシング32におけるインデューサ本体31の上流側に貫通孔41が形成され、貫通孔41に流量調整可能なバルブ53が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビテーション流れの安定化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からロケットエンジン用など、高圧の液体水素或いは液体酸素を供給する装置としては、高速にて回転駆動される遠心型高速ポンプ(ターボポンプ)が使用されている。そして、このような高速ポンプでは、その吸込性能を維持させるために遠心インペラに発生するキャビテーションを抑制するインデューサ装置を設けている。図3は、従来の高速ポンプ100の一例を示すものであり、ポンプ本体110とインデューサ装置130とを備えている。ポンプ本体110は、本体ケーシング111内に遠心インペラ114が収容され、遠心インペラ114には回転軸112を介してタービン115が連結されている。インデューサ装置130は、インデューサケーシング132内にインデューサ本体131を収容し、インデューサ本体131は延長軸116を介して回転軸112と同軸上に連結されている。また、インデューサケーシング132はインデューサ本体131の羽根134を所定のチップクリアランスを空けて囲む部分141と、この部分の上流側に形成された拡径部142と、拡径部142の上流側に形成された段差部143と、段差部143の上流側に形成された傾斜部144とを有している。
【0003】
このように構成された高速ポンプでは、高温高圧のガスでタービンが回転して遠心インペラが回転すると、これと同期してインデューサ本体が回転することで、液体燃料を昇圧して高速ポンプの吸入口まで導き、遠心インペラの高速回転により加圧してエンジンなどに供給することができると共に、キャビテーションサージによる圧力振動を抑制することができ、ポンプの吸込性能を維持することができるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−258040号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の特許文献1の高速ポンプのインデューサ装置は、インデューサケーシングに固定化された形状を形成することにより実現されたものであるため、ある作動点領域においてのみ効果を発揮するものであった。また、その有効な形状を見出すために、多くの試行実験をして調整する必要があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、キャビテーション流れが不安定化するのを抑制し、かつ、広い作動点領域で効果を発揮することができるキャビテーション流れの安定化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、液体を加圧するポンプのインペラ上流側に配設され、回転駆動される軸部とその外周部に螺旋状に形成された羽根とを有し、上流側からの前記液体を昇圧して下流側に流すインデューサ本体と、これを囲むインデューサケーシングとを備えたインデューサ装置を有するポンプにおけるキャビテーション流れの安定化装置であって、前記インデューサケーシングにおける前記インデューサ本体の上流側に開口部が形成され、該開口部に流量調整可能なバルブが設けられていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載した発明は、前記開口部が、前記羽根の下流側に発生するキャビティよりも大きな体積を有するキャビティが前記羽根の上流側に形成可能な位置に設けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載した発明は、前記開口部が、前記羽根の上流側端部より、前記羽根における前記液体進行方向の長さの二倍以下の位置に形成されていることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載した発明は、液体を加圧するインペラと、これを囲むケーシングとを備えたポンプにおけるキャビテーション流れの安定化装置であって、前記ケーシングにおける前記インペラの上流側に開口部が形成され、該開口部に流量調整可能なバルブが設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載した発明は、前記開口部が、前記インペラの下流側に発生するキャビティよりも大きな体積を有するキャビティが前記インペラの上流側に形成可能な位置に設けられていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載した発明は、前記開口部が、前記インペラの上流側端部より、前記インペラにおける前記液体進行方向の長さの二倍以下の位置に形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載した発明は、前記開口部が、ノズルまたはスリットで形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載した発明は、前記開口部に供給される前記液体が、その進行方向の軸方向に直交する方向に回転する旋回流により供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載した発明によれば、インデューサ装置のインデューサ本体の上流側にキャビティを能動的に作ることができるため、キャビテーション流れが不安定化するのを抑制することができる。また、バルブにより開口部より供給する液体の流量を調整することができるため、都度液体の主流の条件や羽根の形状に合わせてインデューサケーシングを加工する必要が無くなり、広い作動点領域で効果を発揮することができる。
【0015】
請求項2に記載した発明によれば、羽根の上流側に能動的に作られたキャビティの体積が、羽根の下流側に形成されるキャビティよりも大きくなるため、キャビテーション流れの不安定を抑制することができる効果がある。
【0016】
請求項3に記載した発明によれば、羽根の上流側に能動的に作られたキャビティの体積が、羽根の下流側に形成されるキャビティよりも大きくなるため、キャビテーション流れの不安定を抑制することができる効果があると共に、適正な体積を有するキャビティを上流側に能動的に作ることができる効果がある。
【0017】
請求項4に記載した発明によれば、ポンプのインペラの上流側にキャビティを能動的に作ることができるため、キャビテーション流れ不安定を抑制することができる。また、バルブにより開口部より供給する液体の流量を調整することができるため、都度液体の主流の条件やインペラの形状に合わせてケーシングを加工する必要が無くなり、広い作動点領域で効果を発揮することができる。
【0018】
請求項5に記載した発明によれば、インペラの上流側に能動的に作られたキャビティの体積が、インペラの下流側に形成されるキャビティよりも大きくなるため、キャビテーション流れの不安定を抑制することができる効果がある。
【0019】
請求項6に記載した発明によれば、インペラの上流側に能動的に作られたキャビティの体積が、インペラの下流側に形成されるキャビティよりも大きくなるため、キャビテーション流れの不安定を抑制することができる効果があると共に、適正な体積を有するキャビティを上流側に能動的に作ることができる効果がある。
【0020】
請求項7に記載した発明によれば、開口部から液体をケーシング(またはインデューサケーシング)内に確実に導くことができるため、ケーシング内でキャビティを能動的に作ることができる効果がある。
【0021】
請求項8に記載した発明によれば、ケーシング内に供給された液体によりケーシング内でキャビティを能動的に作り易くすることができるため、キャビテーション流れ不安定を抑制し易くすることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態を図1および図2に基づいて説明する。なお、本実施形態においては、インデューサ装置を備えた遠心型高速ポンプ(以下、高速ポンプという)を用いて説明する。
図1に示すように、高速ポンプ1は、ポンプ本体10とインデューサ装置30とを備えて構成されている。ポンプ本体10は、中空の本体ケーシング11内に回転軸12が軸受13により回転自在に支持され、この回転軸12の一端側に遠心インペラ14が連結されており、他端側にタービン15が連結されている。また、回転軸12の一端側には同軸上に回転自在に支持された延長軸16が連結されている。そして、遠心インペラ14の吸込側(上流側)にはインデューサ装置30が連結されている。
【0023】
インデューサ装置30は、インデューサ本体31と、このインデューサ本体31を囲むインデューサケーシング32とから構成されている。インデューサ本体31は延長軸16の先端部に装着されており、延長軸16に連結される軸部33と、この軸部33の外周面に螺旋状に固定された複数(本実施形態においては、3枚)の羽根34とから構成されている。ここで、羽根34は逆流が発生しないように設計されている。
【0024】
また、インデューサケーシング32は、略中空円筒形をなしており、ポンプ本体10側に形成されたフランジ部35において本体ケーシング11の上流側に形成されたフランジ部17と図示しないボルトなどにより連結されている。そして、このインデューサ装置30の上流側には低温低圧の液体燃料Lが収容された図示しないタンクがフランジ部36を介して図示しないボルトなどにより連結されている。
【0025】
ここで、インデューサケーシング32には、小さな穴の貫通孔41が周面上に複数形成されている。貫通孔41は、インデューサケーシング32の外周面と内周面との間を貫通するように開口されているが、外周面からインデューサ本体31側に向かって傾斜して形成されている。
更に、貫通孔41に液体燃料L´を供給可能な液体供給装置50が設けられている。液体供給装置50は液体燃料L´を収容したタンク51と、タンク51と貫通孔41との間に設けられた供給管52と、供給する液体燃料L´の流量を調整可能なバルブ53とを備えている。ここで、液体燃料L´は、液体燃料Lと同じもので構成されている。
【0026】
なお、インデューサ本体31の羽根34の枚数については、例えば4枚など、ポンプの種類などに応じて適正数に設定することができる。また、貫通孔41はスリット形状に形成してもよい。また、供給管52は、貫通孔41と直接接続してもよいし、貫通孔41の手前まで配管するように構成してもよい。また、バルブ53は、手動調整バルブでも良いし、自動調整バルブでも良い。
【0027】
このように構成された高速ポンプ1では、タービン15が高温高圧のガスの作用で回転させられると、これと同軸の遠心インペラ14が回転駆動されると共に、インデューサ本体31が回転駆動される。すると、この回転により、タンクからの液体燃料Lが昇圧され、軸方向へ送り出され、高速ポンプ1の吸込口37まで導かれる。高速ポンプ1は、タンクからの液体燃料Lをインデューサ本体31により昇圧して遠心インペラ14側に流し、遠心インペラ14の高速回転によりさらに高圧に加圧して吐出するように構成されている。
【0028】
次に、上述のインデューサ装置30の作用について説明する。
図2に示すように、高速ポンプ1が作動し、インデューサ本体31が回転すると、インデューサ本体31の羽根34における液体燃料Lの主流の進行方向下流側にキャビティC2が複数箇所で発生する。
【0029】
また、液体燃料Lと同じ材質の液体燃料L´を旋回流の状態で貫通孔41よりインデューサケーシング32内へと供給すると、インデューサケーシング32内へ供給された液体燃料L´の旋回流と液体燃料Lの主流とが交錯した箇所から下流側にキャビティC1が複数箇所で発生する。つまり、液体燃料L´の旋回流と液体燃料Lの主流との間に渦が発生し、この渦の中心部が低圧になり、キャビティ(渦キャビティ)C1が発生する。
【0030】
ここで、キャビティC1の体積がキャビティC2の体積よりも大きくなるように貫通孔41の位置を決定している。したがって、流量変動に対するキャビティC1の体積変動は小さいため、キャビテーション流れを安定化することができる。
【0031】
また、液体燃料Lの主流の流れ方向と貫通孔41との間に形成されている角度θは、小さくすること、好ましくは20°以下にすることが好ましい。角度θを小さく構成することで、キャビティC1をインデューサケーシング32の内周面により近い位置に形成することができ、液体燃料Lの主流に与える影響を小さくすることができる。
【0032】
更に、貫通孔41の位置を、羽根34の上流側端部より長さP2だけ離れた位置とした。ここで、羽根34の軸方向の長さをP1とすると、長さP2は長さP1の2倍以下の長さであることが好ましい。長さP2を長さP1の2倍より大きい長さに設定すると、キャビティC1の大きさがキャビティC2の大きさより安定的に大きくならず、キャビテーション流れの安定化の効果が薄れる可能性があるためである。
【0033】
そして、液体燃料L´の旋回速度を高く設定することが好ましい。旋回速度が高いと、キャビティC1の形状を主流の流れ方向に細長く形成することができ、液体燃料Lの主流に与える影響を小さくすることができるため好ましい。また、このような細長く形成されたキャビティC1をできる限り数多く作るようにすることが好ましい。キャビティC1を数多く作ることで、よりキャビテーション流れを安定化させることができる。
【0034】
本実施形態によれば、液体燃料Lを加圧する高速ポンプ1における遠心インペラ14の上流側にインデューサ装置30を配設した。インデューサ装置30は、回転駆動される軸部33とその外周部に螺旋状に形成された羽根34とを有し、上流側からの液体燃料Lを昇圧して下流側に流すインデューサ本体31と、これを囲むインデューサケーシング32とを備え、インデューサケーシング32におけるインデューサ本体31の上流側に貫通孔41を複数形成し、貫通孔41に流量調整可能なバルブ53を介して液体燃料L´を供給可能に構成した。
【0035】
このように構成することで、インデューサ装置30のインデューサ本体31の上流側にキャビティC1を能動的に作ることができるため、キャビテーション流れ不安定を抑制することができる。また、バルブ53により貫通孔41より供給する液体燃料L´の流量を調整することができるため、都度液体燃料Lの主流の条件や羽根34の形状に合わせてインデューサケーシング32を加工する必要が無くなり、広い作動点領域で効果を発揮させることができる。
【0036】
また、小さな穴の貫通孔41を複数形成したため、貫通孔41から液体燃料L´をインデューサケーシング32内に確実に導くことができるため、インデューサケーシング32内でキャビティC1を能動的に確実に作ることができる。
【0037】
また、貫通孔41に供給される液体燃料L´を、その進行方向の軸方向に直交する方向に回転する旋回流としたため、インデューサケーシング32内に供給された液体燃料L´がインデューサケーシング32内でキャビティC1を能動的に作り易くすることができるため、キャビテーション流れの不安定さを抑制し易くすることができる。
【0038】
更に、羽根34の下流側に発生するキャビティC2の体積よりも大きな体積を有するキャビティC1が羽根34の上流側に形成されるような位置に貫通孔41を設けたため、流量変動に対するキャビティC1の体積変動が小さくなり、キャビテーション流れの不安定を抑制して、安定化することができる。
【0039】
そして、貫通孔41を、羽根34の上流側端部より羽根34における液体燃料Lの進行方向の長さP1の二倍以下の位置に形成したため、適正な大きさのキャビティC1を羽根34の上流側に能動的に作ることができる。
【0040】
尚、本発明は上述した実施形態に限られるものではなく、以下の態様を用いてもよい。
本実施形態では、インデューサ装置のインデューサケーシングに小さな穴の貫通孔を形成してキャビテーション流れの安定化を図ったが、貫通孔に変えて、より穴の大きな貫通孔すなわちスリットを形成してもよいし、インデューサ装置を備えていない軸流ポンプや遠心ポンプの羽根の上流側のケーシングに同様の貫通孔やスリットを形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態における高速ポンプの側断面図である。
【図2】本発明の実施形態におけるインデューサ装置の側断面図である。
【図3】従来の高速ポンプの側断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1…高速ポンプ(ポンプ) 14…遠心インペラ(インペラ) 30…インデューサ装置 31…インデューサ本体 32…インデューサケーシング 33…軸部 34…羽根 41…貫通孔(開口部) C1,C2…キャビティ L,L´…液体燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を加圧するポンプのインペラ上流側に配設され、回転駆動される軸部とその外周部に螺旋状に形成された羽根とを有し、上流側からの前記液体を昇圧して下流側に流すインデューサ本体と、これを囲むインデューサケーシングとを備えたインデューサ装置を有するポンプにおけるキャビテーション流れの安定化装置であって、
前記インデューサケーシングにおける前記インデューサ本体の上流側に開口部が形成され、該開口部に流量調整可能なバルブが設けられていることを特徴とするキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項2】
前記開口部が、前記羽根の下流側に発生するキャビティよりも大きな体積を有するキャビティが前記羽根の上流側に形成可能な位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項3】
前記開口部が、前記羽根の上流側端部より、前記羽根における前記液体進行方向の長さの二倍以下の位置に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項4】
液体を加圧するインペラと、これを囲むケーシングとを備えたポンプにおけるキャビテーション流れの安定化装置であって、
前記ケーシングにおける前記インペラの上流側に開口部が形成され、該開口部に流量調整可能なバルブが設けられていることを特徴とするキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項5】
前記開口部が、前記インペラの下流側に発生するキャビティよりも大きな体積を有するキャビティが前記インペラの上流側に形成可能な位置に設けられていることを特徴とする請求項4に記載のキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項6】
前記開口部が、前記インペラの上流側端部より、前記インペラにおける前記液体進行方向の長さの二倍以下の位置に形成されていることを特徴とする請求項4または5に記載のキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項7】
前記開口部が、ノズルまたはスリットで形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のキャビテーション流れの安定化装置。
【請求項8】
前記開口部に供給される前記液体が、その進行方向の軸方向に直交する方向に回転する旋回流により供給されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のキャビテーション流れの安定化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−175075(P2008−175075A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6788(P2007−6788)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】