説明

キャプシドタンパク質の抗ウイルス性阻害

【課題】HIV-1のレトロウイルスキャプシドタンパク質に関する。
【解決手段】HIV-1キャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物を用いてAIDSに伴う死亡率を減少させる方法が提供される。HIV-1キャプシドタンパク質のN末端ドメインの頂端間隙に結合し、コア粒子の適正な構築を阻害する、CAP-1、CAP-2、CAP-3、CAP-4、CAP-5、CAP-6およびCAP-7の誘導体が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は後天性免疫不全症候群(AIDS)の治療に関する。特に、本発明はヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)キャプシドタンパク質を阻害することによるAIDSの治療に関する。
【0002】
関連出願との相互参照
本出願は、2002年4月22日出願の米国仮出願第60/374,557号、2002年4月25日出願の米国仮出願第60/375,852号および2002年8月16日出願の米国仮出願第60/404,043号の優先権を主張する。
【0003】
政府のライセンス権利
米国政府は、本発明に有償の実施権、ならびに本件特許権者に対して国立衛生研究所が裁定する第AI30917号の条項によって規定される合理的な条項に基づく実施許諾を他者になすべきことを求める限定された状況での権限を有する。
【背景技術】
【0004】
ウイルスは、非細胞性の感染性媒体であるが、適した宿主細胞においてのみ複製可能である。ウイルスは一般的に細菌より小さく、動物、植物、または細菌細胞に感染可能である。多数のウイルスが疾患についての有力な媒体である。感染性粒子(ビリオン)はタンパク質性キャプシドによって包まれた核酸コアおよび、場合により、外被(エンベロープ)からなる。
【0005】
レトロウイルスは包皮された一本鎖RNAウイルスであり、動物に感染する。このファミリーは以下3群からなる:スプマウイルス類、例えばヒト泡沫状ウイルス;レンチウイルス類、例えばヒト免疫不全ウイルス1型および2型、ならびにヒツジのビスナウイルス;およびオンコウイルス類。
【0006】
レトロウイルス粒子は2つの同一RNA分子から構成される。各ゲノムは、プラスセンスの一本鎖RNA分子であり、これは5’末端がキャップされ、3’尾部がポリアデニル化されている。プロトタイプC型オンコウイルスのRNAゲノムには3つのオープンリーディングフレーム、いわゆるgag、polおよびenvが含有されており、これらにはウイルスゲノムの発現に必須のシグナルを含む領域が隣接している。gag領域はウイルスキャプシドの構造タンパク質をコードする。pol領域はウイルスプロテイナーゼ、ならびにゲノム加工用タンパク質、例えば逆転写酵素、リボヌクレアーゼHおよびエンドヌクレアーゼ酵素活性体をコードする。env領域はウイルスエンベロープの糖タンパク質を特定する。これら3つのオープンリーディングフレームに加えて、レンチウイルスおよびスプマウイルスのより複雑なゲノムに別のオープンリーディングフレームが担持されており、それらはゲノム発現の制御に関与する調節タンパク質をコードしている。
【0007】
ウイルスおよびレトロウイルス両者のキャプシドタンパク質間には実質的な相同性が存在する。当業者であれば、任意の標準的バイオテクノロジー検索エンジンを検索することによってこれらの相同性を容易に同定できる。
【0008】
AIDSはレトロウイルス性疾患である。これは深刻な免疫抑制を特徴とし、これにより日和見感染、二次的腫瘍および神経症状が生じる。この現代の疫病の規模は実に驚異的である。米国では、AIDSは25〜44歳の範囲の年齢の男性において第一の死亡原因であり、この年齢群の女性において第三の死亡原因である。AIDSは米国で最初に認知され、報告されたが、現在、193を超える世界中の国で報告されている。アフリカおよびアジアのHIV感染者の累積は巨大で、急速に拡大している。HIVの感染は、ウイルスまたはウイルス感染細胞を含有する血液または体液の交換を促す条件下で生じる。したがってその主要3感染経路は、性的接触、非経口接種、および感染母からその新生児へのウイルス感染である。最終的にAIDSはほとんど一律に致死であるため、この疾患に関する有効な治療を発見することは依然、重大な医学上の課題である。
【0009】
ほとんど疑いなく、AIDSはHIVによって生じる。このHIVはレンチウイルスファミリーに属する非形質転換性ヒトレトロウイルスである。O'Brienら、「HIVはAIDSを引き起こす:コッホの必要条件が充足されている」、Curr Opin Immunol 8: 613 (1996)。 遺伝学的に異なるが関連する2つの型のHIV、いわゆるHIV-1およびHIV-2がAIDS患者から単離されている。HIV-1は米国、欧州、および中央アフリカにおけるAIDSに関連する最も一般的なタイプであり、一方HIV-2は主に西アフリカにおいて同様の疾患を引き起こしている。
【0010】
ほとんどのレトロウイルスと同様に、HIV-1ビリオンは球状であって、高電子密度の錐体形コアを含んでおり、それは宿主細胞膜由来の脂質エンベロープに包まれている。ウイルスコアは(1)主要なキャプシドタンパク質p24(CA)、(2)ヌクレオキャプシドタンパク質p7/p9、(3)2コピーのゲノムRNA、および(4)3つのウイルス酵素(プロテアーゼ(PR)、逆転写酵素(RT)、およびインテグラーゼ)を含有する。ウイルスコアはマトリクスタンパク質、いわゆるp17に包まれ、これはビリオンエンベロープの下側に位置している。ウイルスエンベロープには2つのウイルス糖タンパク質、gp 120およびgp 41が付いており、これらはHIVが細胞に感染するために極めて重要である。
【0011】
他のレトロウイルスと同様に、HIVプロウイルスのゲノムはgag、pol、およびenv遺伝子を含有し、これらは種々のウイルスタンパク質をコードする。gagおよびpol遺伝子の産物はまず、大きな前駆体タンパク質に翻訳されるが、このタンパク質は、ウイルスのプロテアーゼによって切断されるので成熟タンパク質を生成することになる。
【0012】
CAはまず、55 kDaのGag前駆体ポリタンパク質内の一領域として合成される。約4,000コピーのGagが原形質膜で集合し、出芽して未成熟なウイルス粒子を形成する。出芽後、タンパク質分解によってGagが切断されるとCAが遊離し、それが引き金となって立体構造が変化し、この変化によりキャプシド粒子の構築が促進される。Gittiら、「HIV-1キャプシドタンパク質のアミノ末端コアドメインの構造」、Science, 273: 231-35 (1996);von Schwedlerら、「タンパク質分解によるHIV-1キャプシドタンパク質アミノ末端の復元はウイルスコアの構築を促す」、EMBO J., 17: 1555-68 (1998);Grossら、「ヒト免疫不全ウイルスのキャプシドタンパク質のN末端が伸長するとそのインビトロの構築表現型は管状粒子から球状粒子に変換する」、J. Virol., 72: 4798-4810 (1998)。2コピーのウイルスゲノムおよび感染性に必須の酵素は、成熟ビリオンの中心の錐体形キャプシド内に包被されるようになる。
【0013】
最近のいくつかの研究では、適正なキャプシドの構築がウイルスの感染性に極めて重要であることが示されている。構築を阻害するCAの変異は致死であり、キャプシドの安定性を変化させる変異は複製を著しく減弱させる。よってCAは有望な抗ウイルス標的として関心を集める。Tangら、ヒト免疫不全ウイルス1型のN末端キャプシド変異体は、異常なコア形態を示すので感染細胞における逆転写の開始時にブロックされる、J. Virol. 75: 9357-66 (2001);Reicinら、「ヒト免疫不全ウイルス1型ビリオンの形態形成およびウイルスの生命サイクルの早期段階におけるGagの役割」, J. Virol., 70: 8645-52 (1996);およびForsheyら、「最適な安定性を有するヒト免疫不全ウイルス1型コアの形成はウイルスの複製に不可欠である」、J. Virol. 76: 5667-5677 (2002)。
【0014】
ピコルナウイルスのキャプシドタンパク質と結合し、キャプシド殻の解体を阻害することによって感染性を抑制する抗ウイルス性薬剤が開発された。Smithら、「脱殻を阻害する抗ウイルス性物質がヒトライノウイルス14内で結合する部位」、Science, 233: 1286-93 (1986)。しかしながら、HIVキャプシドの構築または解体の阻害剤は未だ同定されていない。現在入手可能なHIV感染治療用の薬物は、ウイルスゲノムがコードする15タンパク質のうちの2つ、すなわちRTおよびPR酵素を標的とするものである。これらの薬物は、単独投与では、わずかに有効であるにすぎない。これは不完全なウイルス抑制条件下で選択される耐性株がすぐに出現するためである。Richman, D. D.、「HIV化学療法」、Nature 410: 995-1001 (2001)。 阻害剤を適切に組み合わせて(高度作用性抗レトロウイルス治療(highly affective anti-retroviral therapy)、HAART)に用いた場合には、ウイルス量の持続した減少が得られる。Richman, D. D.、「HIV化学療法」、Nature 410: 995-1001 (2001);Pillayら、「承認された抗レトロウイルス性薬物に対する耐性の発生率および影響力」、Rev Med Virol, 10: 231-53 (2000)。しかしながら、コンプライアンス不足、耐性、および他の薬物または食物との相互作用を原因とする不十分な抑制は、多数の患者にとってHAART治療の有効性を制限する重大な問題であり、結果的に薬剤耐性株の蔓延を生じる可能性がある。Manskyら、「薬剤と薬剤耐性逆転写酵素の組み合わせは、ヒト免疫不全ウイルス1型が変異する頻度の飛躍的増大となる」、J. Virol., 76: 9253-59 (2002);Coffin, J.、「HIV集団のインビボ動態:遺伝子変異、病原性および治療に対する影響」、Science, 267: 483-89 (1995);Kuritzkes, D. R.、HIV-1感染における薬剤耐性の臨床的意味」、AIDS, 10: S27-33 (1996)。
【0015】
HAART治療が利用可能であるにもかかわらず、現行の治療では、AIDSに関連する死亡率および罹患率は依然、重大で未解決のままである。有害現象を減少または緩和し、AIDSの臨床結果を改善できる新規治療化合物および新規治療方法が必要とされている。このような改善には、例えば、この疾患の患者についての死亡率の減少および生活の質的改善が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、試験化合物の抗ウイルス活性を評価するための新規方法を提供する。この方法は、(a)試験化合物をGag283またはその断片と接触させること、(b)試験化合物がキャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙(apical cleft)と結合する能力を測定すること、および(c)試験化合物の抗ウイルス作用を評価することを含む。キャプシドタンパク質は、ウイルスのキャプシドタンパク質またはレトロウイルスのキャプシドタンパク質であり得る。レトロウイルスのキャプシドタンパク質には、HIV-1およびHIV-2のキャプシドタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。キャプシドタンパク質は未成熟または成熟タンパク質であり得る。さらに、抗ウイルス作用には、ウイルス成熟時のキャプシド構築の阻害および感染時の解体の阻害を含むがこれらに限定されない。
【0017】
本発明はまた、AIDSに伴う死亡率を減少させる方法を提供する。この方法は、AIDSに罹患したヒトに、HIVキャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物の治療有効量を投与することを含む。本発明の化合物には以下の化合物が含まれるがこれらに限定されない:
N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)、N-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)、N-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)、N-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(1,1,1-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)、N-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)。
【0018】
本発明はまた、AIDSに罹患したヒトを処置するための方法を提供する。この方法は、HIVキャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物を、AIDSに伴う罹患率の数値および重篤度を減少させるのに有効な量にて投与することを含む。本発明の化合物には以下の化合物が含まれるがこれらに限定されない:
N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)、N-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)、N-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)、N-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(1,1,1-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)、N-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)。
【0019】
本発明はまた、Gag283のβ-ヘアピン形成を阻害する能力に関して試験化合物を評価する方法を提供する。この方法は、(a)試験化合物をGag283またはその断片と接触させること、および(b)化合物がGag283のβ-ヘアピン形成を妨害する能力を測定することを含む。
【0020】
本発明はまた、Gag283のβ-ヘアピン形成を阻害する能力に関して試験化合物をスクリーニングする方法を提供する。この方法は、(a)試験化合物をGag283またはその断片と接触させること、および(b)化合物がGag283のβ-ヘアピン形成を妨害する能力を測定することを含む。
【0021】
本発明はさらに、Gag283のβ-ヘアピン形成を阻害する能力に関して試験化合物を同定する方法を提供する。この方法は、(a)Gag283の分子座標を用いてGag283の3Dコンピュータモデルを作成すること、および(b)モデルを用いて、Gag283と結合する試験化合物を同定することを含む。
【0022】
本発明はさらに、キャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する試験化合物を同定する方法を提供する。この方法は、(a)Gag283の分子座標を用いてGag283の3Dコンピュータモデルを作成すること、および(b)モデルを用いて、頂端間隙と結合する試験化合物を同定することを含む。キャプシドタンパク質はウイルスのキャプシドタンパク質またはレトロウイルスのキャプシドタンパク質であり得る。レトロウイルスのキャプシドタンパク質にはHIV-1およびHIV-2のキャプシドタンパク質が含まれるがこれらに限定されない。
【0023】
本発明はまた、以下に記載の式Iを有する、CAP-1、CAP-2、CAP-2、CAP-3、CAP-4、CAP-5、CAP-6またはCAP-7の任意の誘導体または医薬的に受容可能な塩であって、HIV-1キャプシドタンパク質のN末端ドメインの頂端部位と結合し、コア粒子の適正な構築を阻害する抗ウイルス性化合物である化合物を提供する。特に本発明は、CAP-1またはその関連分子の誘導体または医薬的に受容可能な塩であって、一方の窒素上に置換された芳香族置換基を含有し、ならびに他方の窒素上に第二の芳香族基と結合した伸縮自在な連携鎖を含有する尿素基を含有する化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
成熟HIV-1のCAにはN末端β-ヘアピンを含まれており、このβ-ヘアピンはキャプシドコア粒子の形成に必須である。CAは、ウイルスの成熟時にGag前駆体ポリタンパク質がタンパク質分解によって切断されて生成する。従来、高分解能構造の研究は、成熟ウイルスのタンパク質に重点を置いてきた。成熟HIV-1 CAタンパク質はN末端コア(CAN)およびC末端二量体化(CAC)ドメインからなり、これらは独立して折りたたまれ、伸縮自在のリンカーによって連結されている。CANコアドメインには13残基N末端β-ヘアピンを含まれており、このβ-ヘアピンはPro 1の末端NH2+基およびAsp 51の側鎖カルボキシル基間の塩橋によって部分的に安定化している。これらの残基は高度に保存されており、スプマウイルスを除くすべての他のレトロウイルスは同様のN末端β-ヘアピンを含有する可能性が高い。変異誘発の研究により、このβ-ヘアピンがHIV-1キャプシドコア粒子の形成に必要であり、これが分子間CA-CA相互作用に直接関与することによって機能している可能性が高いことが示される。
【0025】
GagのCAドメインはまた、約200コピーの宿主タンパク質、CypAのパッケージングを担う。このCypAはプロリルイソメラーゼであり、かつHIV-1感染性に必須のシャペロンタンパク質である。CypAの正確な機能は未知であるが、このタンパク質は感染時のキャプシドコアの解体を促すと考えられる。
【0026】
未成熟ビリオンおよびウイルス様粒子中のGagポリタンパク質の構造は、低温電子顕微鏡(EM)法を用いて研究されている。低分解能では、会合Gagタンパク質は、ウイルス膜と結合した高電子密度層として観察される。非常に最近の研究では、この高電子密度層が実際には数個の球状殻の密度からなり、例えば脂質二重層と直接結合した、Gagタンパク質のMAドメインに相当する外側殻、CANおよびCACドメインに相当する2つの殻、および第四の最も内側の、GagのNCドメインに相当する殻、および結合RNAゲノムが挙げられている。MAおよびCAN殻の厚さは折りたたまれたドメインの長さ(N末端からC末端までの測定値)と密接に対応する(図1)。興味深いことに、このMAおよびCAN殻間の分離は40Åでしかないが、発明者らによればこれらのドメインが伸長型のGag283であれば80Åを超えて分離可能であることが示された。MAの伸縮自在なC末端ヘリックスの折りたたみが部分的にほどけている場合には、分離はさらに大きくなり得るであろう。このことから、この伸縮自在なリンカーの長さ以外の要因によって未成熟粒子ではこの殻の分離が定まることが判り、また一定のタンパク質-タンパク質相互作用によって規定された殻がMAおよびCAドメインによって形成されることが判る。
【0027】
タンパク質分解により成熟すると、未成熟ビリオンの球状CA殻は凝縮して、特徴的な錐体形のキャプシドコア粒子を形成する。N末端β-ヘアピンはこのキャプシドコア粒子の形成に必要である。インビボでβ-ヘアピン形成を阻害するように変異が設計されると、例えばPro 133がLeuへおよびAsp 183がAlaへ変異すると、形成されるウイルス粒子は正常なキャプシドコアを形成できず、非感染性となる。さらに、未変性のCA分子が管状に集合すると、天然キャプシドコアと類似する特徴をいくつか有することができるが、CAのN末端に残基が付加するか、あるいはAsp 183がAlaに変異すると、構造の不均一な混合物が形成され、これは一般に球状であり、未成熟ビリオンのキャプシド殻に類似する。このβ-ヘアピンは、抗体断片と結合した無傷のCAタンパク質およびCypAと結合したCANドメインの両結晶構造中で広範に格子と接触しており、このことから、このβ-ヘアピンは分子間CA-CA相互作用に直接関与してキャプシドの構築を促すことが判る。
【0028】
未成熟タンパク質中では、このβ-ヘアピンの折りたたみがほどけており、タンパク質分解によりGagが切断するとβ-ヘアピンの形成が起こり、それが引き金となってキャプシドが構築する。 次いでPro 133-NH2+と保存されているAsp 183のCOO-側鎖の間で形成可能な塩橋が形成され、ならびに未成熟タンパク質には存在しない多数の相互作用が追加されると、ヘアピン形成は安定化する。これらの追加の相互作用には、β-鎖間の水素結合およびパッキングだけでなく、このヘアピンと残りのCANドメインの間の相互作用、例えばIle 134の主鎖のNHとGly 178のカルボニルの間の新たな水素結合およびIle 134(β-ヘアピン)、Thr 180(ヘリックス3)およびIle 247およびMet 250(ヘリックス6)の側鎖間の疎水性パッキングが含まれる。したがってこのキャプシドの構築メカニズムの特徴は、トリプシンファミリーのセリンプロテアーゼによる酵素の活性化について採用されているメカニズムと非常に類似しているように見える、すなわちタンパク質分解により不活性な酵素前駆体が切断されて新たなN末端NH3+基が生ずると、隠れていたカルボキシル基とこれが塩橋を形成し、酵素を活性化する。
【0029】
脱殻のプロセスは、CypAの存否に依存し、HIV-1がCypAをパッケージングするか否かが感染性に必須である。CypA結合を排除する変異がCAにあると、それを含むビリオンは集合して成熟することができ、低温EM映像では正常な姿をしている。しかしながら、これらの粒子は標的細胞に融合して浸透することができるが、ゲノムを逆転写することはできない。このことから、CypAは、ウイルスの成熟および膜融合の後にほぼ確実に起こる複製サイクルの早期現象に必要であることが判る。興味深いことに、変異体ビリオンは、CypAを効果的にパッケージングしていない場合でも、細胞株が含む内因性CypAの濃度が異常に高いときには、感染しやすくなる。変異体がシクロスポリン同族体の存在下で自然に復帰するか否かは感染性に対するこれらCypA阻害剤に依存する。これらの知見をまとめると、キャプシドの構築と解体のプロセスは微妙に調整されており、比較的小さな変異または細胞条件の変化でもキャプシドコアの安定性に影響し得ることが判る。
【0030】
以下に示すNMRデータから、β-ヘアピンが形成されるとヘリックス6が約2Å位置変化し、これに伴ないCypA結合部位がシフトすることが判る。(i)このβ-ヘアピンがキャプシドの構築に関して明らかに重要である、および(ii)CypAは構築の解体に関与する可能性が高い、という事実を考慮すると、これら部位間の立体構造上の結合は、CypAが媒介する脱殻に関連する現象と密接に関連している。したがって、露出しているループにCypAが結合するとヘリックス6の位置がシフトし、結果としてβ-ヘアピンは不安定化または再び位置移動し、キャプシドが不安定化し、脱殻が促進される。NMR化学シフトマッピング実験によれば、CypAが成熟CANドメインに結合すると、ヘリックス6の主鎖アミドシグナルが実質的にシフトするのが明らかである。成熟CANのβ-ヘアピンは比較的に移動し易いが、遊離ドメインのNMR構造ではその位置は一定である。
【0031】
対照的に、CypA-CAN二量体のX線結晶構造では、一定の電子密度が2つのβ-ヘアピンの一方に関してのみ観察された。X線構造中で電子密度が失われている原因の少なくとも一部は、CypA結合であり得る。さらに、HIV-1のCANドメインに関してこれまでに決定されている5つのX線構造およびNMR構造を比較すると、構造研究に使用する条件に応じて、ヘリックス6の位置が変化し得ることが示された(図2)。成熟CAN:CypA複合体の高分解能X線構造(2.36Å)では、ヘリックス6の主鎖原子に関して報告された温度因子は一般に他のヘリックスの温度因子より大きい。これらのデータをまとめると、ヘリックス6は比較的に移動し易く、その位置はCypA結合およびβ-ヘアピンの形成に敏感であることが判る。最後に、Gagに対するCypAの親和性は、成熟キャプシドタンパク質に対する親和性より1000倍高い。これら親和性の相違は、β-ヘアピンおよびCypA結合部位の立体構造上の結合によって説明できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、Gag283のMAおよびCANドメインに関して独立に測定された拡散テンソルを示す。Dzzは軸対称拡散テンソルの主成分を示す。
【図2】図2は、現在までにHIV-1キャプシドタンパク質のCANドメインに関して決定されているX線およびNMR構造の比較である。
【図3】図3は、HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙内に係留されたCAP-1を示す。
【図4】図4は、HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙へのCAP-1の結合に関与する近位の相互作用を示す。
【図5】図5は、2H、15N標識Gag283サンプルに関して得られた高分解能1H-15N HSQCスペクトルを示す。
【図6】図6は、構造および運動の領域を同定するNMR緩和および化学シフトデータを示す。
【図7】図7は、20個の最低エネルギーGag283検体に関する構造上の統計値の表示である。
【図8】図8は、有意な内部運動も立体構造交換も示さない残基に関して測定された主鎖15N R2/R1値を示す。
【図9】図9は、CANおよびGag283に関して測定されたNMR構造の比較であり、ヘリックス6に関連する立体構造の差異を示す。
【図10】図10は、ヘリックス6のシフトおよびそれに伴うCypA結合ループの位置の変化を示す。
【図11】図11は、未成熟および成熟CANドメインの主鎖原子に関して観察された化学シフトの差異を示す。
【図12】図12は、HIV-1キャプシドタンパク質N末端ドメインに関して、CAP-1で滴定して得られた2Dの1H-15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。
【図13】図13は、HIV-1キャプシドタンパク質N末端ドメインに関して、CAP-1、CAP-2、CAP-3およびCAP-4で滴定して得られた2Dの1H-15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。
【図14】図14は、HIV-1キャプシドタンパク質N末端ドメインに関して、CAP-5、CAP-6およびCAP-7で滴定して得られた2Dの1H-15N HSQCスペクトルのオーバーレイを示す。
【図15】図15は、残基Ser 33(四角形)、Val 59(ひし形)およびGly 60(星形)に関する15N NMR化学シフト滴定データを示し、これは1:1結合等温線 (Kd = 0.82±0.18 mM) に適合した。
【図16】図16は、インビトロキャプシド構築に対するCA結合化合物の作用を示す濁度測定の結果のグラフ表示である。
【図17】図17は、潜在的に感染したU1の培地由来のウイルスの感染性(ひし形)、細胞生存度(四角形)およびウイルス産生(三角形)を添加CAP-1の関数として示すグラフである。
【図18】図18は、感染したU1およびMAGI細胞を100μM CAP-1と72時間インキュベートして得られた、細胞生存度、ウイルス粒子関連RTおよびCAレベルおよび感染単位のグラフを示す。
【図19】図19は、遊離状態、Gagポリタンパク質状態および部分的に加工された状態での細胞内と細胞外のウイルスCAの相対濃度を添加CAP-1の関数として示すキャプシドタンパク質のウエスタンブロットアッセイである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
HIV-1 Gagポリタンパク質のN末端ハーフ(残基2-283)の三次元構造は、以下の一般的方法を用いて決定した。HIV-1 Gag前駆体タンパク質のN末端の283残基およびC末端の追加のHis6タグをコードするDNAを、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いてpNL4-3プラスミドから増幅した。Gag283を担持するプラスミドをBL21コドンプラスRIL細胞株(Stratagene, La Jolla, CA)内へ形質転換した。この形質転換細胞を、H2Oまたは99%2H2O(Martek, Columbia, MD)中に唯一の窒素源および/または炭素源として15NH4Clおよび/またはUL-[13C]グルコース(Cambridge Isotope Laboratories, Andover, MA)を含有するM9最小培地で培養した。タンパク質はコバルトアフィニティー樹脂(Clontech, Palo Alto, CA)で一段階精製した。典型的に、培養培地1リットルからGag283 20 mgを得た。その分子量をESI-MSによって確認した。
【0034】
NMRデータは、50 mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.0、100 mM NaCl、5 mMβメルカプトエタノールおよび1Xプロテアーゼ阻害剤の反応混液(Calbiochem, San Diego, CA)を含有する1 mMタンパク質サンプルを用いて収集した。すべてのNMR実験は、xyzグラジエント三重共鳴プローブを装備した600 MHZ Bruker AVANCE DRX分光光度計を用いて行った;T = 30℃、2D 15N HSQC、3DコンスタントタイムHNHA、HN(CO)CA、HNCO、および4D 15N/15N-校正 NOESY(4DNN)データを主鎖の帰属に用いた。4DNNデータはU-2H/15N標識サンプルに関して得た;Tmix = 200 ms。U-13C/15N標識サンプルに対して収集した他のNOEデータには、4D 13C/15N-校正 NOESY(Tmix = 120 ms)および4D 13C/13C-校正 NOESY(Tmix = 100 ms、2H2O中で記録)が含まれる。NMRデータをNMRPipeで加工し、NMRViewで分析した。シグナルは標準的帰属方法を用いて帰属した。
【0035】
NOEクロスピークは、定量的に強、中および弱の範疇に分類し、これを用いて2.7、3.2および5.0Åの上限距離の帰属をそれぞれ行った。メチル基、縮重基底(germinal)メチレン基、縮重芳香族プロトンおよび立体特異的に帰属されないロイシンまたはバリンのメチル基が関与する距離は、それぞれ0.5、0.8、2.3および1.5Åを加えて補正した。主鎖の水素結合の制限(H-O距離に関して1.8-2.7ÅおよびN-O距離に関して2.4〜3.2Å)を加えて、特徴的なNOEパターンおよび化学シフト指数に基づく標準的な二次構造を補強した。
【0036】
主鎖の二面角の制限は、プログラムTALOSを用いて13Cα、13Cβ、1Hα、13Cおよび15Nの化学シフトを分析して得た。DYANAを用いて行う構造計算はまず、NOEデータ由来の距離制限のみを用いて実行した。その後、水素結合および二面角の制限を組み込み、標的関数(target functions)をさらに最小化した。作成された構造の質はProcheck-NMRを用いて評価した。イメージはChimeraおよびMolScriptを用いて作成し、Raster 3Dを用いて描写した。
【0037】
15N緩和データは上記条件下で調製されたU-2H/15N標識Gag283サンプルに関するものである。主鎖15N核に関する[1H]-15N定常状態異種核NOE(XNOE)は検出した水のフリップバックパルスの逆シーケンスを用いて測定した。縦方向の緩和率R1および横方向の緩和率R2は、挿入モードで遅延時間を変えた8つの二次元スペクトルを収集して測定した。15N T1(=l/R1)に関する8つの遅延時間は、10.04、120.49、512.09、763.12、1004.11、1506.16、2008.21、2510.26 msであり、15N T2(=l/R2)に関しては、21.10、36.70、52.30、67.89、83.49、99.09、114.69、130.29 msである;4s回復遅延。
【0038】
所与残基のXNOE値は、プロトン飽和の存在下(I)およびプロトン飽和の不存在下(I0)の15N/lH相関ピークの強度比(I/I0)から得た。誤差はベースラインノイズから見積もった。良好に解離した各ピークに関する緩和率は、市販のソフトウェアOrgin 6.0 (microcal, Northampton, MA)を用いて、8つのスペクトルのピーク強度を2パラメータ(R2)または3パラメータ指数関数的(R1)減衰にフィッティングすることによって得た。報告される誤差は緩和データのフィリング(filling)中に計算される。NH基は、ps-nsタイムスケールでの有意な内部移動(XNOE < 0.70)またはμs-msタイムスケールでの化学交換(R1の増加を伴わないR2の有意な増加)を示すので、回転拡散計算から除外し、残りの緩和データをQuadric Diffusion 1.12 (A.G. Palmer, Columbia University)で分析した。
【0039】
Gag283に関するNMR化学シフトの帰属は、BioMagResBank (http://bmrb.wisc.edu)に寄託されている、受託番号第5316号。最低標的関数を有する20個の検体に関する座標、および関連の制限リストは、Protein Data Bank (http://www.rcsb.org/pdb)に寄託されている、受託番号第1L6N。成熟CANドメインの精密化構造に関する制限リストおよび座標もまた寄託されている、受託番号(1GWP)。
【0040】
HIV-1 Gagポリタンパク質のN末端ハーフ(残基2-283)の三次元構造によって明示された表面間隙は、未成熟なタンパク質ではCAドメインに露出しているが、タンパク質分解によって成熟するとCAタンパク質のN末端β-ヘアピンの残基によって満たされるようになる。化合物群はこのβ-ヘアピン間隙に結合してウイルスの成熟を阻害するので、抗ウイルス活性を有する。
【0041】
さらなる研究において、CAのN末端ドメインのC末端近傍にある別の結合部位(頂端間隙)が示された。β-ヘアピンポケットと異なり、この頂端間隙は成熟型および未成熟型両者のCAのN末端ドメイン表面に存在する。この頂端間隙と結合する化合物は、キャプシドの構築を阻害し、抗ウイルス特性を有する。HIV配列概論(HIV Sequence Compendium)の中の93個のゲノム配列の中で、阻害剤がこの頂端間隙と結合することによって著しく混乱する主鎖アミドシグナルを伴うCAの残基は、厳密に保存されている(Glu 35、Val 36、Val 59、Gly 60、His 62、Gln 63、Ala 65、Tyr 145)であるか、あるいはまれにかつ保存的に置換された(E29D(2)、K30R(1)、A31G(16,)、A31N(1)、F32L(1)、SeeN(13)、G61E(1)、M144T(1)(括弧内は存在数である))である。保存されている残基のほとんどはN末端ドメインの表面に露出しているので、巨大分子と相互作用する機能を有する可能性が示唆される。N末端ドメインのこの頂端間隙の残基は、インビトロでキャプシドが形成すると、分子間CA(N末端ドメイン)-CA(C末端ドメイン)の界面に参入する。このことを本明細書中に含まれる他の開示内容と組み合わせると、阻害剤化合物が機能する機構は適正なキャプシドの構築に必要な分子間CA-CA相互作用を阻害することであるとの説得力のある証拠が得られる。
【0042】
残基Trp 23およびVal 59は、これらがCA単量体のヘリックス1、2および3間に埋もれているという事実にもかかわらず、阻害剤リガンドが結合すると化学シフトの有意な変化を示す。したがって、構築阻害剤はキャプシドタンパク質の局所構造を変化させる可能性が高く、それによりCA-CA相互作用を競合阻害しているか、あるいは構造的に歪んだキャプシド殻の形成を促進しているのかもしれない。
【0043】
キャプシド構築の阻害は、CAに対して特別に高い親和性を有するリガンドを必要としない。おそらくこの理由は、組立てられたビリオン内のGag分子の局所濃度が高い(14 mM)からであり、このことは親和性が温和なリガンド、例えばN-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)であっても、その結合には好都合である。したがって細胞質ゾル中の薬物濃度が発芽ウイルスと細胞において等しい(100μM)と控えめに仮定した場合には、CAと結合したウイルスCAP-1分子のパーセンテージは標準質量作用計算によって算定することができ、これによれば結合したCAP-1濃度([CA:CAP-1])の値は94μMとなる。これは未成熟ビリオン(100μM用量)中94%のCAP-1分子がGagと結合しているはずであり、ビリオン当たりわずか約25分子のGagと結合すれば、ウイルス成熟時のコア構築を阻害するのに十分であることを示している。
【0044】
図3は、キャプシドタンパク質の構造内に係留された小分子リガンドCAP-1を示す。実験によって決定されたこのキャプシドタンパク質のNMR構造を利用して、コノリー表面を作成する。このリガンドのワイヤーフレームモデルを緑色で示す。このリガンド構造は適切なアブイニシオ法を用いて最小化されている。このキャプシド構造は疎水性を示すように着色してある(青色、最も疎水性;赤色、最も親水性;白色、中間疎水性)。
【0045】
実験によって決定された重要な相互作用を図4に示す。顕著な相互作用は、Tyr 145の芳香族環およびCAP-1のフラン間の相互作用;CAP-1中の芳香族環の塩素およびIle 37の疎水性側鎖の相互作用;この分子のジスルフィド成分中の硫黄およびSer 146のヒドロキシル基の相互作用;およびSer 33のヒドロキシル側鎖およびCAP-1のフランの5位のジメチルアミノメチル置換基の窒素の相互作用である。
【0046】
本出願中に記載のすべての尿素を含む他の尿素は、機能的に非常に類似する、キャプシドタンパク質との相互作用を有することが実験によって測定されている。これは以下の図13-14に示す二次元NMRデータから明らかである。
【0047】
リガンドCAP-1およびその構造的相同体の存在下で、このキャプシドタンパク質の多次元NMRスペクトルを調査して得られるデータによると、リガンドに対する潜在的な高親和性結合部位の存在することが証明される。予想に反して、多数の特異的かつ選択的な相互作用が見出された。これはこのような部位の存在を示すばかりでなく、それを手がかりにて、その部位に対する非常に高親和性のリガンドはどのように設計したらよいかが示唆される。
【0048】
いくつかの構造上の特徴がリガンドの要件を示していることがわかる。リガンドは、分子の一方の側に置換フェニルまたは他のアリール基を有することを必要とし、これは比較的かさの大きい置換基を含有する。現状では、塩素原子がこの目的を果たす。しかしながら、実験データをモデルフィッティングと組み合わせてみると、Br-あるいはI-原子でもこれを用いることにより結合の親和性は増加するかもしれないことが示唆される。この芳香環上の他の置換基の位置に関してまでは明瞭には示されないが、我々の見解では、置換基、例えばシアノ基またはジアルキルアミノ基がハロゲンに対してオルト位に含まれると結合部位モデルは肯定的な影響を受けるようである。3,4-ジクロロフェニルや3-クロロ-4-ブロモフェニル部分もまた活性であるようである。
【0049】
CAP-1中の硫黄原子の相対位置は非常に重要である。現在の系では、酸化状態の異なる硫黄を用いてもそれ自体では活性に役立たないようである。これはスルホンまたはスルホンアミドに関して当てはまる。フランは、側鎖に種々の置換基を伴う種々の複素環式基によって同等に置換可能であろう。ジメチルアミノメチルの他に、グアニジン、N-シアノグアニジン、N-ニトログアニジンなどのような基でこの基を置換しても、活性化合物が得られる可能性が高いであろう。
【0050】
細胞質ゾルのGagに対して親和性がより高い化合物はキャプシド構築中のウイルスで濃縮される。またCAに対してより高い親和性を有する化合物ほど、インビトロの構築のより強力な阻害剤である。したがって、HIV-1でのキャプシド構築の抗ウイルス性阻害剤としての効力を増加せしめた薬剤を合理的に設計することは可能である。
【0051】
また、CAP-1、CAP-2、CAP-2、CAP-3、CAP-4、CAP-5、CAP-6またはCAP-7の誘導体であって、HIV-1キャプシドタンパク質のN末端ドメインの頂端部位と結合し、かつコア粒子の適正な構築を阻害する抗ウイルス性化合物を開示する。特に本発明は、CAP-1またはその関連分子の誘導体であって、一方の窒素上に置換された芳香族置換基を含有し、他方の窒素上に第二の芳香族基と結合した伸縮自在な連携鎖を含有する尿素基を含有する化合物を提供する。例えば、このような誘導体は、以下の式Iを有する化合物または医薬的に受容可能な塩である:
【0052】
【化1】

[式中:
(a)R1は水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NHCHR8COOH、−NHCR89COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(b)R2は水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NHCHR8COOH、−NHCR89COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(c)R3は水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NHCHR8COOH、−NHCR89COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(d)R4は水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NHCHR8COOH、−NHCR89COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(e)R5は水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NHCHR8COOH、−NHCR89COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(f)ハロゲンはフルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードに限定される。;
(g)R8およびR9は独立して、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、neo-ペンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、またはシクロヘキシルエチルである。;
(h)文字n、m、およびpは独立して、1〜6のいずれかの整数を示す。;
(i)R6およびR7は独立して、水素または、各6個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基からなる群から選択される。;
(j)XはOまたはSからなる群から選択される。;
(k)Yは複素環式基、炭素環式基、または場合により置換されているフェニルである。;
(l)複素環式基は、任意の安定な5、6、または7員単環式または二環式、または7、8、9、または10員二環式複素環式環、これは飽和、部分的不飽和または不飽和(芳香族)であり、ならびにこれは炭素原子および、N、NH、OおよびSからなる群から独立して選択される1、2、3、または4個のヘテロ原子からなり、ならびに上に定義する任意の複素環式環がベンゼン環と縮合している任意の二環式基を含む、から選択される。窒素および硫黄ヘテロ原子は場合により酸化されていてもよい。複素環式環は、任意のヘテロ原子または炭素原子でそのペンダント基と結合されていてもよく、これにより安定な構造が得られる。本明細書中に記載の複素環式環は、得られる化合物が安定であれば、炭素または窒素原子で置換されていてもよい。特に記載すれば、複素環中の窒素は場合により、四級化されていてもよい。複素環中のSおよびO原子の総数が1を超える場合、これらのヘテロ原子は互いに隣接しないのが好ましい。本明細書中で用いる用語「芳香族複素環式系」とは、安定な5〜7員単環式または二環式、または7〜10員二環式複素環式芳香環、これは炭素原子および、N、OおよびSからなる群から独立して選択される1〜4個のヘテロ原子からなる、を意味するものとする。複素環の例には以下のものが含まれるがこれらに限定されない:1H-インダゾール、2-ピロリドニル、2H,6H-1,5,2-ジチアジニル、2H-ピロリル、3H-インドリル、4-ピペリドニル、4aH-カルバゾール、4H-キノリジニル、6H-1,2,5-チアジアジニル、アクリジニル、アゾシニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾオキサゾリル、ベンズチアゾリル、ベンズトリアゾリル、ベンズテトラゾリル、ベンズイソキサゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイミダザロニル、カルバゾリル、4aH-カルバゾリル、β-カルボリニル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロキノリニル、2H,6H-1,5,2-ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3-b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、1H-インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル(ベンズイミダゾリル)、イソチアゾリル、イソキサゾリル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3-オキサジアゾリル、1,2,4-オキサジアゾリル、1,2,5-オキサジアゾリル、1,3,4-オキサジアゾリル、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキサゾリジニルペリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナルサジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、プテリジニル、ピペリドニル、4-ピペリドニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H-キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、カルボリニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、6H-1,2,5-チアジアジニル、1,2,3-チアジアゾリル、1,2,4-チアジアゾリル、1,2,5-チアジアゾリル、1,3,4-チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニル、トリアジニル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,5-トリアゾリル、1,3,4-トリアゾリル、テトラゾリル、およびキサンテニル。好ましい複素環には以下のものが含まれるがこれらに限定されない:ピリジニル、チオフェニル、フラニル、インダゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾチアフェニル、ベンゾフラニル、ベンゾオキサゾリル、ベンズイソキサゾリル、キノリニル、イソキノリニル、イミダゾリル、インドリル、イソイドリル、ピペリジニル、ピペリドニル、4-ピペリドニル、ピペロニル、ピラゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピラジニル、およびピリミジニル、および上記複素環を含有する縮合環およびスピロ化合物。;
(m)炭素環式基は、任意の安定な3、4、5、6、または7員単環式または二環式基、または7、8、9、10、11、12、または13員二環式または三環式基、これらうち任意の基は飽和、部分的不飽和または芳香族であってよい、を意味するものとする。このような炭素環の例には以下のものが含まれるがこれらに限定されない:シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アダマンチル、シクロオクチル、;[3.3.0]ビシクロオクタン、[4.3.0]ビシクロノナン、[4.4.0]ビシクロデカン(デカリン)、[2.2.2]ビシクロオクタン、フルオレニル、フェニル、ナフチル、インダニル、アダマンチル、またはテトラヒドロナフチル(テトラリン)。;
(n)置換されているフェニルは以下の式IIによって定義される:
【0053】
【化2】

[式中:
(o)R10は水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(p)R11は独立して、水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(q)R12は独立して、水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(r)R13は独立して、水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(s)R14は独立して、水素、ハロゲン、シアノ、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ニトロ、−OR8、−SR8、−NHR8、−NR89、−NHCOOH、−NHCH2COOH、−NR8COOR9、−COOR8または、各9個までの炭素原子を含有する直鎖状、分岐状または環式基を含む炭化水素基を示す。;
(t)R8およびR9は独立して、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、ペンチル、ヘキシル、neo-ペンチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル、シクロブチルメチル、シクロブチルエチル、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、またはシクロヘキシルエチルである。;
(u)ハロゲンはフルオロ、クロロ、ブロモ、およびヨードに限定される。]。]。
【0054】
HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙と結合する化合物を含む治療組成物は、全身または局所的に投与してよい。全身投与経路には、経口、静脈内、筋肉内または皮下注射(長期放出用持続性薬剤内へを含む)、眼内および眼球後、くも膜下腔内、腹腔内(例えば、腹腔内洗浄液によって)、エアロゾル化または噴霧化薬物を用いる肺内、または経皮が含まれる。局所経路には、軟膏、点眼剤、点耳剤、洗浄液(例えば傷害の洗浄用)または薬用シャンプー剤型の投与が含まれる。当業者であれば、HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙と結合する化合物を含む治療組成物についての有効投与量および投与計画を容易に最適化でき、これは良好な医療実施および個別の患者の臨床症状によって決定される。
【0055】
HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙と結合する化合物の投与は、好ましくは、上記化合物および医薬的に受容可能な希釈剤、アジュバントまたは担体を含む医薬組成物を用いて行う。この化合物は単独で、あるいは既知の界面活性剤、他の化学療法物質または追加の既知の抗ウイルス性物質と組み合わせて投与してよい。
【0056】
本発明の他の側面および利点は、以下に挙げる説明のための実施例を考慮して理解される。実施例1は、Gag283の全体構造および動態を記載する。実施例2は、Gag283のMAドメインの構造を記載する。実施例3は、Gag283のCANドメインの構造を記載する。実施例4は、CAのN末端ドメイン表面のリガンド結合部位の同定を記載する。実施例5は、HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙と結合する化合物によるキャプシド構築のインビトロ阻害を記載する。実施例6は、HIV-1キャプシドタンパク質の頂端間隙と結合する化合物によるウイルス感染性の阻害を記載する。実施例7は、キャプシド組立てのインビボ阻害を記載する。
【実施例1】
【0057】
Gag283の全体構造および動態
HIV-1pNL4-3の283個のN末端残基(プラス追加のC末端ヘキサヒスチジンタグ)に相当する32.2 kD組換えポリペプチド(Gag283)をクローニングし、NMR実験用に調製した(Mrcalc = 32216.6ダルトン、Mrexp = 32216.1±0.8ダルトン)。高品質のNMRスペクトルを得(図5)、ほぼ完全な1H、15Nおよび13C NMRシグナルの帰属が可能であった。主鎖原子のNMR化学シフトにって、高度にヘリックス状の構造が示されている(図6)。
【0058】
残基Gly 2-Ser 6, Gly 123-Val 143およびPro 279-Leu 283は比較的低い[1H]-15N異種核NOE(XNOE)およびT2緩和値を示し(図6)、ならびに中位1H-1H NOEがほとんどないか、あるいはまったくない。これはこれらの残基の立体構造が不安定であることを示す。比較的不安定でない残基Val 7〜Thr 122およびHis 144〜Ser 278に関しては、トータル2,376の実験的に得られた制限(2046距離制限および332ねじれ角制限、制限された残基当たり17.7制限に相当)を用いた。DYANAを用いて、標的関数1.50±0.24Å2および良好な構造上の統計値(図7)を伴う20個の精密化構造を作成した。MAの残基VAL 7〜Thr 122およびCANのHis 144〜Ser 278は、ヘリックスの主鎖重原子に関してペアになっているRMS偏差がそれぞれ0.41±0.09および0.72±0.14Åであることに良好に収斂した。折りたたまれたドメインを連結する易動性残基(Gly 123〜Val 143)に関しては制限を用いず、このドメイン間ではNOEが観察されなかったので、MAおよびCANドメインの相対的配向は特定していない。この計算から、残基Gly 123〜Val 143が完全に伸長した場合、この2つのドメインは80Åまで分離可能であることが示される。
【0059】
主鎖NH基に関して得られたT1/T2比は、MAおよびCANドメインが異なる回転相関時間を伴って回転することを示す。両ドメインに関して、種々のヘリックスの残基に関するT1/T2(=R2/R1)比は一般に一つに群化しているので、異方性の回転が拡散していることが判る(図8)。CANドメインのT1/T2比に伴う誤差は、MAドメインよりいくらか大きく、これはCANシグナルの線幅がより大きい(ならびに対応して信号雑音比がより小さい)ためである(図6)。CANドメインのいくつかのヘリックス(特にヘリックス7)に関しては群化が比較的乏しいのが観察され、おそらくその理由は存在するCAN-CAN分子間相互作用が弱いからである。実際、特定のヘリックスのT1/T2比の散乱は、サンプル濃度を1.0から0.25 mMに減少させると減少したが、平均T1/T2比は本質的に影響を受けなかった。MAおよびCANドメインの回転拡散特性を別々に計算した。偏長軸対称拡散モデルを用いると最良の統計学的適合が得られ、MAおよびCANドメインに関してそれぞれ回転相関時間は10.0±0.1 nsおよび13.2±0.2 nsであった。拡散テンソルの主要軸(すなわち回転拡散が最速である軸)は、折りたたまれたドメインのNおよびC末端残基を連結するベクトルとほぼ一致する(図1)。
【実施例2】
【0060】
Gag283のMAドメインの構造
Gag283のMAドメインの構造は、単離した成熟タンパク質に関して観察した構造と本質的に同一であった。成熟と未成熟のMAの NMR構造について強固な残基の主鎖重原子を重ね合わせると、それらペア間のRMS偏差は1.27±0.005Åであった。現行のNMR実験における最新の方法論(すなわち、化学シフトに基づく制限および4D NMRデータの使用)を使用した結果、この構造は成熟MA三量体のX線構造と良く一致した(1.14±0.09Å)。 三量体が形成されると310ヘリックス(Pro 66〜Gly 71)が立体構造上の変化を受けてX線構造との適合から除外されるので、適合性が0.90±0.11Åに向上したのである。1H-1H NOEデータは、C末端ヘリックスがこのドメインの球状部分を超えて残基Thr 122まで伸長していることを示した。しかしながら、Cα化学シフト指数は、残基Ile 104〜Gln 117に関してヘリックス値からランダムコイル値に次第に減少し、緩和データとともに、主にα-ヘリックスから主にランダムコイルの立体構造へ進行するシフトを示した(図4)。この知見は、成熟MA三量体に関して報告されたX線構造データと一致し、このデータではこれら残基に関する電子密度は単位セルの6つの異なる分子間で実質的に異なっていた。
【実施例3】
【0061】
Gag283のCANドメインの構造
Gag283のCANドメインの全体構造は、成熟CANドメインに関して観察される構造と非常に類似している。比較を容易にするため、未成熟CANのアミノ酸番号体系を成熟ドメインに関しても同様に使用した(すなわちPro 133は成熟CANのN末端残基である)。残基Ser 148〜Lys 162、Ser 165〜Ser 176、Thr 180〜Val 191、His 194〜His 216、Arg 232〜Ala 237、Thr 242〜Thr 251、Val 258〜Ser 278は、7つのα-ヘリックス(それぞれヘリックス1〜7)を形成し、これらヘリックスはともにフラットでかつ三角形にパッキングされている、また残基Pro 217〜Pro 231(CypA結合部位を含む)は立体構造が伸縮自在なループを形成する。成熟型および未成熟型CAN NMR構造のヘリックス残基の主鎖重原子を重ね合わせると、ペア間のRMS偏差は1.32±0.13Åである。
【0062】
対照的に、Gag283の残基Pro 133〜Val 143の立体構造は、成熟CANタンパク質において観察される立体構造と実質的に異なる。これらの残基に関して、遠位1H-lH NOEの中間体は観察されず、化学シフト指数データによれば、これらがランダムコイルコンの立体構造で存在することが判った(図6)。また、これらの残基の15N NMR緩和特性から、高度の立体構造上の易動性を判った(図6)。成熟CANドメインでは、残基Pro 133〜Asn 137は残基Gln 141〜Gln 145とペアになって逆平行鎖のβ-ヘアピンを形成し、これはヘリックス6に対してパッキングし、Pro 133の主鎖NH2+基はAsp 183の部分的に埋もれた側鎖と塩橋を形成する。さらに、残基His 144〜Ile 147は未成熟構造および成熟構造の両者のCANドメインの球状部分と相互作用するが、NOEデータの差異は、わずかにではあるが有意な構造上の差異を示した。例えば、成熟CANドメインでは、His 144-HβプロトンはIle 247の側鎖メチルプロトン(ヘリックス6)と中程度の強度のNOEを示したが、一方成熟ドメインでは、これらの基は非常に弱いNOEしか生じなかった。
【0063】
さらに、ヘリックス6は成熟タンパク質中での位置と比較して約2Åシフトした(図10および11)。未成熟ドメインでは、ヘリックス3をキャップするThr 180の側鎖はヘリックス6のLeu 243、Ile 247およびMet 250の側鎖によって形成された疎水性クラスター内にパッキングし(図9)、Thr 180およびIle 247メチル基間で非常に強い1H-1H NOEが観察された。しかしながら、成熟タンパク質では、Ile 134の側鎖がこの疎水性ポケット内に挿入され、これによりThr 180およびIle 247側鎖の約2Åの分離が生じ、関連する残基間NOEの強度が実質的に減少する。
【0064】
さらに、Leu 243側鎖のχ2-角は約90°回転だけ異なり、Met 250のメチル基は未成熟ドメイン中では再配向されて、成熟ドメインのIle 134側鎖が占める空間を部分的にふさぐ(図9)。ヘリックス6はまた、CypA結合ループと接触する。このループは伸縮自在であるが、2つのアンサンブルなNMR構造を定性的に比較したところ、Pro 222が、CypAの活性部位と結合するために成熟CANドメイン中での位置から数オングストロームシフトしていることが判った(図10)。残基Pro 133〜Ile 147に関して1H、15Nおよび13Cの化学シフトに有意な差異が観察された。これらは未成熟タンパク質中で伸長しているが、成熟ドメイン中ではβ-ヘアピンを形成する(図11)。有意なシフトはまた、Ala 179、Thr 180、Ile 243、Ile 247、Met 250およびLeu 243に関しても観察された。これらは成熟CANドメインのβ-シートと相互作用する。これらのシフトの差異は上記構造上の変化と完全に一致する。
【0065】
最後に、Glu 177およびGly 178の主鎖アミドに関してシグナルのダブリングおよびR2交換による広幅化が観察された(図5および6)。これらの残基の近傍には、このような作用を引き起こすかもしれない、かさの大きい芳香族側鎖は存在しない。その代わりに、このシグナルダブリングの原因はGlu 177〜Gly 178〜Ala 179ペプチド結合に関連するΨおよびΦねじれ角が不均一でることであった。成熟タンパク質のこれらの残基に関してはシグナルダブリングが観察されなかった。成熟タンパク質では、Gly 178のカルボニルがβ-ヘアピンのIle 134主鎖NHと水素結合を形成しているのである。
【実施例4】
【0066】
CAのN末端ドメインのリガンド結合部位の同定
CAのN末端ドメイン(残基1〜151)をコードするDNAをHIV-1 cDNAプラスミドpNL-4-3から増幅し、C末端ヘキサヒスチジンタグをコードするオリゴヌクレオチドをこの遺伝子に付加した。このDNAをp11a発現ベクター(Novagen, Madison, WI)内へ挿入し、そのタンパク質産物をコバルトアフィニティークロマトグラフィー(Clontech, Palo Alto, CA)によって精製した;MWcalc = 17523.0ダルトン、MWobs = 17523.10±0.44ダルトン(エレクトロスプレー質量分析)。完全長の天然キャプシドタンパク質用のプラスミドは、Dr. W. I. Sundquist (University of Utah, Salt Lake City, UT)の好意により提供を受け、タンパク質は記載通りに精製した。NMRスペクトルは通常の三重共鳴法を用いて帰属した。1H-15N NMR HSQC滴定実験からの結合等温線はORIGIN 7.0ソフトウェア(MicroCal, Northampton, MA)を用いて計算した。
【0067】
キャプシドタンパク質の機能を阻害する化合物を同定するため、キャプシドタンパク質表面の間隙と結合するかもしれない化合物に関して公のドメイン化合物ライブラリをスクリーニングし、NMR滴定分光法を用いて結合を試験した。スクリーニング作業は主に、未成熟キャプシドタンパク質のN末端ドメイン表面に露出しているが、タンパク質分解によりGagの切断後に形成されるβ-ヘアピンの残基によってふさがれたβ-ヘアピン間隙に焦点を置いた。公の化合物ライブラリからDOCK-4.0を用いて化合物をスクリーニングし、実験では、良好な理論的結合特性(結合エネルギー< -26kCal/mol、コンタクトスコア< -40)を有する40個の化合物を、無傷のCAタンパク質、CAのN末端ドメイン、および未成熟Gagポリタンパク質の283残基断片(Gag283)に対する結合に関して試験した。キャプシド構築に重要であると思われる部位においてキャプシドタンパク質と結合する数個の化合物を同定した。例示的化合物には以下の化合物が含まれるがこれらに限定されない:N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)、N-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)、N-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)、N-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(l,l,l-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)、N-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)。1化合物、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)は、細胞培養中で特に良い耐性があったので、以下に記載のインビボ抗ウイルス性および機構の研究が可能であった。
【0068】
成熟N末端ドメインをN-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)で滴定した。成熟NTDをCAP-1で滴定して得た代表的な1H-15N HSQC NMRデータを図12に示す。ほとんどのシグナルはこの滴定によって影響を受けなかったが、サブセットのシグナルがCAP-1濃度の増加に応じてシフトした。これは部位特異的結合を示すものである。
【0069】
同様に、HIV-1キャプシドタンパク質のN末端ドメインの頂端間隙と結合する他の化合物を滴定した。図13には、化合物CAP-1、CAP-2、CAP-3、およびCAP-4をHIV-1キャプシドNTDで滴定して得た1H-15N HSQC NMRデータの重ね合わせが提供されている。化合物CAP-1およびCAP-2はこのタンパク質の頂端部位と結合する。これは化合物の添加に応じた特異的化学シフト変化によって証明される通りである。CAP-3およびCAP-4を添加するとわずかな乱れおよびシグナルの広幅化が観察され結合が非常に弱いことが判る。図14には、HIV-1キャプシドNTDとともにキャプシド結合化合物CAP-5、CAP-6、およびCAP-7の存在下および不存在下で得られた1H-15N HSQC NMRデータの重ね合わせが提供されている。結合によって乱れたシグナルを円で示す。また、比較のため、キャプシドタンパク質と結合しない、構造的に関連する2つの化合物を用いて得た結果を図14に示す。
【0070】
化学シフト変化は1:1の結合等温線に適合し、35℃での平衡解離定数(Kd)は0182±0.18 mMであった(図15)。第二の化合物、1-(4-(N-メチル-アセトアミド)フェニル)-3-(4-メチル-3-ニトロフェニル)尿素(CAP-2)に関して有意に強固な結合が観察された、Kd = 52±27μM。いずれの場合においても、結合によって乱れるCA残基(1HNΔδ> 0.1 ppm;15NΔδ> 0.5 ppm;Glu29、Lys30、Ala31、Phe32、Ser33、Glu35、Val36、Val59、Gly60、Gly61、His62、Gln63、Ala65、Met144およびTyr145)はヘリックスの束(ヘリックス1、2、3、4および7)の頂端に、またはその近傍に位置している。Gag283および無傷のCAを用いる滴定に関して本質的に同一の結果が得られた。このことから、天然のN末端マトリクス(MA)およびC末端キャプシド(CTD)ドメインを含有するGag様構造における結合部位は依然としてアクセス可能であり、結合はそのタンパク質の成熟状態には影響されないことを示す。
【実施例5】
【0071】
キャプシド構築のインビトロ阻害
濁度測定を21℃で、波長350 nmで作動するBeckman DU650分光光度計を使用して行った。 DMSO(0.2μl)中の濃縮リガンドをキャプシドタンパク質含有水溶液([CA] = 60μM;[NaH2PO4] = 50 mM;pH 8.0)250μlに加えた。遠心分離によって粒子状物質を除去し、濃NaCl溶液(5M、250μl)を加えてキャプシド構築を開始した。スペクトル測定は、サンプルを平衡化する短い初期遅延後、10秒毎に行った。構築の相対速度を吸光度対時間のプロットの初期勾配から算定した。
【0072】
他のウイルス成分の不存在下で、HIV-1 CAは管状に集合可能であり、この管は成熟コアに類似する構造上の特徴を有する。管が形成されるとサンプル濁度が増加するので、この濁度を分光学的にモニターできる。この測定法を用いて、インビトロのキャプシド構築に対するCAP化合物の潜在的阻害効果について探査した。図17に示されるように、天然HIV-1 CAを構築用緩衝液(50 mMリン酸緩衝液、pH 8.0、2.5 M NaCl、0.04% v/v DMSO)中へ溶解すると、初速度204±36 mOD/分(これは初期勾配から測定し、3回の実験の平均値±標準偏差として報告)で吸光度が増加した。予想通り、CAと結合しない試験化合物は構築速度に影響しなかった。しかしながら、CAP-1およびCAP-2の両者は構築速度を用量依存的に減少した。CAP-2はより強固に結合したのでより顕著な効果があった。図16に示されるように、CAP-1存在下の初期構築速度は、CAP-1:CA比が1:1および2:1の場合にそれぞれ93±3および67±16 mOD/分に減少した。また、より強固に結合するCAP-2の存在下での構築速度は、CAP-2:CA比が0.5:1および1:1の場合にそれぞれ81±2および39±11 mOD/分に減少した。これらのデータから、CA-結合化合物はインビトロでキャプシド構築を阻害可能であり、構築阻害の相対的効率はCAタンパク質に対するリガンドの親和性に依存することが確認される。
【実施例6】
【0073】
ウイルス感染性の阻害
U1細胞(5×105細胞/ml)をTNF-α(10 ng/ml、Sigma)と混合してHIVビリオン産生を活性化し、種々の濃度のCAP-1で処理した。培地を処理72時間後に回収した。MTS細胞増殖アッセイ(CellTiter 96 Aqueous One Solution Cell Proliferatin Assay、Promega, Madison, WI)を用いて細胞生存度を測定した。上清を収集し、低速遠心分離によって細胞片を除去し、上清中の粒子を微量遠心分離によってペレット化した。粒子に関連する感染単位は、Kimptonら、「組み込みβ-ガラクトシダーゼ遺伝子の活性化に基づいて、複製コンピテントな偽形HIVを感受性細胞株で検出」、J. Virol. 66: 2232-39,1992に記載のごとく測定した。ただし、β-gal活性はTropix Gal-Screen検出器システム(Applied Biosystems, Foster City, CA)を用いて測定した。粒子関連RT活性は、Huangら、「p6Gagは完全長ヒト免疫不全ウイルス1型のプロテアーゼ発現性分子クローンから粒子を産生するのに必要である」、J. Virol., 96: 6810-18,1995に記載されるように測定した。細胞分解液およびペレット化粒子を、AIDS患者の血清(AIDS Research and Reference Regent Program, NIAID, NIH)を使用するSDS-PAGE分析に付した。HIV-1 p24 Antigen Capture ELISAキット(AIDS vaccine program, FCRDC/SAIC/NCI, Frederick, MD)を用いてp24(CA)定量測定を行った。MAGI細胞をウイルス吸着(HIV-1RF)後にPBSで洗浄し、これに種々の濃度のCAP-1を含有する新鮮な培地を供給した。感染72時間後、この培養上清を回収し、予め清澄にした。上清の上に存在するウイルス粒子を微量遠心分離によって収集し、次いで粒子関連RT活性および感染性を測定した。
【0074】
HIV-1を産生する潜伏感染したU1細胞を用いて、毒性および抗ウイルス活性に関してCAP化合物を試験した。この測定により、後期複製現象に対する抗ウイルス性効果を評価することができる。CAP-2はインビボ評価に関して非常に細胞障害性であったが、CAP-1は使用条件下で無毒であり、これを使用すると上清の感染性が用量依存的に減少した、図17。100μM CAP-1では、U1細胞は十分に生存可能であったが、感染性は未処理サンプルと比較して約95%減少した、図18および19。
【0075】
CAP-1がウイルス遺伝子の発現および粒子産生に影響するかどうか決定するため、細胞をペレット化して除去した後の上清に関して逆転写酵素(RT)活性およびCA(p24)レベルを測定した。図18に示されるように、CAレベルおよびRT活性はともにCAP-1によって影響されなかった。これは抗ウイルス活性がウイルス産生の阻害によるものでないことを示す。さらに、処理および未処理サンプルに関して得られたウエスタンのデータでは、観察されたp24(CA)レベルが非常に類似していた、図19。これはCAP-1がタンパク質分解によるGagの加工に大きく影響しないことを示す。この知見と一致して、CAP-1はインビトロプロテアーゼ活性に影響しなかった。またp24のウエスタンのデータによると、Gag(p55)の細胞内レベルはCAP-1レベルの増加に応じて減少するが、Gag切断産物p24およびp41のレベルは比較的に影響されないままであった。これらの知見から、CAP-1は完全長Gagポリタンパク質の細胞内分解を促進することが証明される。またgp120に対する抗体を用いて上清に関してgp120を定量した。処理および未処理サンプル間で差異は観察されなかったので、CAP-1はエンベロープ糖タンパク質の合成またはウイルスの取り込みを阻害しないことが判った。
【0076】
抗ウイルス活性はまた、MAGI細胞培養を用いる第二の細胞アッセイにおいて試験した。U1アッセイにおいて観察されたように、ウイルスを産生する感染性MAGI細胞をCAP-1で処理すると、ウイルス粒子の感染性が用量依存的に減少し、100μM CAP-1で、感染単位はほぼ2対数単位低下し、未処理レベルの2%未満にまでなった、図18。ウイルスRT活性の減少は観察されなかった。これは抗ウイルス活性がウイルス産生の阻害によるものでないことをさらに証明する。ウイルス産生はまた、MAGI細胞またはウイルス粒子をCAP-1とプレインキュベートしても影響を受けなかった。これはCAP-1が殺ウイルス性ではなく、初期現象を直接阻害しないことを示す。これらのデータを集約すると、CAP-1の抗ウイルス活性は後期ウイルス現象の阻害によるものであり、その現象は現在研究中または臨床使用中の他の抗HIV物質が標的にしている現象とは異なることが判る。
【実施例7】
【0077】
キャプシド構築のインビボ阻害
処理(CAP-1)および未処理のウイルス産生U1細胞をペレット化し、リン酸緩衝化食塩水(PBS)中で洗浄し、少なくとも10細胞ペレット容量の固定液(100 mMカコジル酸ナトリウム、pH 7.2、2.5%グルタルアルデヒド、1.6%パラホルムアルデヒド、0.5%ピクリン酸)中に再懸濁した。細胞を24〜48時間固定し、その後、固定液を除去し、細胞をPBS中で2回洗浄し、エッペンドルフ遠心分離チューブ中でペレット化した。洗浄細胞ペレットを100 mMカコジル酸ナトリウム、pH 7.2中に1%四酸化オスミウムプラス0.8%フェリシアン化カリウム中で1時間、後固定した。水で十分にすすいだ後、細胞を4%酢酸ウラニル中で1時間、前染色し、十分にすすぎ、脱水し、1:1のアセトン:Epon 812中に一晩浸透させ、100%Epon 812樹脂を用いて1時間浸透させ、この樹脂中に包埋した。重合後、Reichert untramicrotomeで60〜80 nmの薄切片をカットし、クエン酸鉛中で5分間染色し、すすぎ、酢酸ウラニル中で30分間、後染色し、すすぎ、そして乾燥した。EMは1024×1024 GatanマルチスキャンCCDを装備したPhilips CM120/Biotwinにおいて60 kVで行い、元の倍率の25,880×〜36,960×で画像を収集した。この倍率はそれぞれ8.9および6.5Å/ピクセルのt分解能に相当する。 各サンプルに関して、4つの別々のEMグリッドを目査し、少なくとも47画像を収集した。これは最小総面積35ミクロンの二乗に相当する。
【0078】
CAP-1はウイルス産生を阻害しなかったので、処理細胞から生産されたビリオンを形態学的欠損に関してEM検査することが可能であった。成熟ビリオンのキャプシドは一般に、中心の円錐体(粒子の約30%)または球状(約40%)構造として観察され、これは薄切片サンプル調製時の錐体の配向に依存し、そしてEM調製物中の約30%のビリオンでは一般に中心電子密度の欠乏を特徴とする未成熟表現型が現れる。未処理U1細胞培地由来のビリオンではこれらの典型的結果が生じた。しかしながら、処理細胞から生成された粒子ではサイズの不均一性がより大きく現れ、このことからGagによる構築が欠損していることが判る。さらに、細胞中心に局在する濃密なコアは、未処理細胞由来の粒子ではその70%が含有していたのに対して、処理細胞由来の粒子ではその35%しか含有していなかった。最も顕著な結果として、処理細胞由来の粒子はいずれもHIVの特徴である錐体形コアを示さなかった。このことから、CAP-1は成熟コアの構築を阻害することが判る。分子間CA-CA相互作用が崩壊されるように設計したCA変異体と共にビリオンを作成すると、その表現型は本質的に同一になることが観察された。したがってこのEMデータから、CAP-1はウイルス成熟時にキャプシドの構築を阻害すること、および未成熟粒子の構築時には正常なGag-Gag相互作用をある程度妨害することが判る。
【0079】
当業者であれば、上記発明の多数の修飾例および改変例に想到すると予想される。したがって、それらには、添付の特許請求の範囲に記載される制限が専ら課されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV−1ウイルスキャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物を同定する方法であって:
a)Gag283の分子座標を用いてGag283の3Dコンピュータモデルを作成すること、および
b)モデルを用いて、頂端間隙と結合する化合物を同定すること
を含む方法。
【請求項2】
HIV−1キャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合することを特徴とする下記の化合物:
N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)、N-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)、N-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)、N-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(1,1,1-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)、N-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)。
【請求項3】
HIV−1キャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物を含有することを特徴とするAIDS治療剤。
【請求項4】
化合物がN-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項5】
化合物がN-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項6】
化合物がN-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項7】
化合物がN-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項8】
化合物がN-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項9】
化合物がN-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(1,1,1-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項10】
化合物がN-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)である、請求項3に記載の治療剤。
【請求項11】
HIV−1キャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物を用いてキャプシドの構築を阻害する方法。
【請求項12】
化合物が以下の化合物からなる群から選択される、請求項11に記載の方法:
N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)、N-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)、N-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)、N-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(1,1,1-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)、N-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)。
【請求項13】
HIV−1キャプシドタンパク質のN末端ドメインのC末端近傍にある頂端間隙と結合する化合物を用いて感染時のキャプシド解体を阻害する方法。
【請求項14】
化合物が以下の化合物からなる群から選択される、請求項13に記載の方法:
N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[2-チオエチル-2'-[5-(ジメチルアミノメチル)]-2-メチルフリル]尿素(CAP-1)、N-(4-N-アセトアミドフェニル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-2)、N-(2-プロピル)-N'-(3-ニトロ-4-メチルフェニル)尿素(CAP-3)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-(4-シアノフェニル)尿素(CAP-4)、N-(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N'-[4-(1,1,1-トリクロロメチル)フェニル]尿素(CAP-5)、N-(3-ニトロ-4-フルオロフェニル)-N'-[3-(1,1,1-トリフルオロメチル)フェニル]尿素(CAP-6)、N-[(3-クロロ-4-メチルフェニル)-N',N'-プロピル]尿素(CAP-7)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−300434(P2009−300434A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118542(P2009−118542)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【分割の表示】特願2003−586328(P2003−586328)の分割
【原出願日】平成15年4月22日(2003.4.22)
【出願人】(504385410)ユニバーシティー オブ メリーランド,バルチモア カウンティー (1)
【Fターム(参考)】