説明

キャンドモータポンプ及びそのステータ室内に充填材を充填する方法

【課題】キャンドモータポンプのステータの放熱性を改善する。
【解決手段】モータのステータ26は、モータのロータ24を収める筒状のステータキャン38と、ステータキャン38と同軸に配置される筒状のステータバンド44との間の空間であるステータ室52内に収められる。ステータキャン38とステータバンド44の円筒端において、ステータ室52は、円環端部板46,48により閉じられている。ステータ室52は、充填材66で満たされている。充填材66は、ステータ室内に充填された球状無機材料粒子と、この粒子同士を固着させる樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンドモータポンプに関し、特にその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンドモータポンプは、遠心ポンプ等のターボポンプと、これを駆動する電気モータ(以下、単にモータと記す。)が一体となった装置である。モータのロータは、円筒形状のステータキャン内に収められ、モータのステータは、このステータキャンの外側に、ロータを囲むようにして配置される。ロータを含めたモータの回転部分は、すべてステータキャン内に収められ、またステータキャン内には、ポンプの取扱い液が進入している。回転部分がステータキャン内に収められていることにより、回転部分と摺動し、かつ取扱い液の漏出を防止するためのパッキン等の構成が不要となる。モータのステータは、その外周側を囲むハウジングとステータキャンとにより形成されたステータ室内に収められている。ステータ室は、防爆基準等を満たすべく密閉された空間である。特許文献1には、ステータ室内を樹脂で満たしたキャンドモータが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平1−16096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
キャンドモータポンプにおいて、密閉されたステータ室内に配置されるステータの発した熱の放熱が問題となる。ステータ室内の空間を占める空気は熱伝導性が低いため、放熱の効率をよくするために空気より空気熱伝導性の高い樹脂等をステータ室内に充填する技術が知られている。充填された樹脂により、ステータ、特にコイルのコイルエンドで発生した熱が樹脂を介して外部に効率よく放熱される。しかし、ステータ室内に充填した樹脂を硬化させるとき、硬化過程で樹脂は一旦膨張し、その後に収縮して固化する特性があり、ステータ、ステータキャンおよびハウジングと、硬化した樹脂との間に樹脂が充填しきれない空間ができ、熱伝導性の改善が不十分という問題があった。
【0005】
本発明は、ステータ室内に充填される充填材と、ステータおよびステータ室を形成するステータキャン、ハウジング等の密着性を改善し、放熱をより効率よく行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のキャンドモータポンプは、ステータを収めるステータ室内に、球状無機材料粒子をフィラーとした樹脂を充填し、樹脂を硬化させ球状無機材料粒子同士を固着させている。球状無機材料粒子としては、樹脂が硬化するときの温度変化でも体積変化が少なく、ある程度の機械的強度を持つ球状なものであればよく、アルミナ(酸化アルミニウム)、ジルコニア(二酸化ジルコニア)、炭化珪素、窒化珪素などの一般的にセラミックと総称される物質の単体または混合物の球形粒子状の焼結体、二酸化珪素、酸化マグネシウムなど主に金属酸化物の単体または混合物の球形粒子状の焼結体、ジルコン、石英などの天然鉱物単体または混合物の球形粒子の焼結体、及びセラミックと金属酸化物または鉱物の混合物の球形粒子状の焼結体またはガラスビーズなどが利用でき、特に主成分がセラミックで構成されている粒子が好ましい。また、注入、硬化される樹脂はキャンドモータポンプの送液温度、使用環境温度などから選定し、シリコーン樹脂またはエポキシ樹脂とすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、熱膨張が少ない球状無機材料粒子を充填フィラーとして利用しているため、樹脂が硬化する時の温度変化による体積・形状の変化が殆どない。 このため、球状無機材料粒子がステータ室内にステータキャン、ハウジング等に密着した状態で隙間なく充填され、その後に樹脂を充填し、硬化させても、球状無機材料粒子と樹脂の混合物である充填材と、ステータおよびステータ室を形成するステータキャン、ハウジング等の間に余分な空間が発生せずに前記充填材の密着性が改善され、その結果、放熱性が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態のキャンドモータポンプの断面図である。
【図2】充填材の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を、図面に従って説明する。図1は、キャンドモータポンプ10の概略構成を示す断面図である。キャンドモータポンプ10は、遠心ポンプの構成を有するポンプ部12と、遠心ポンプを駆動するモータ部14を含む。ポンプ部12は、遠心ポンプに限らず、斜流ポンプや軸流ポンプ等のターボポンプとして構成されてもよい。ポンプ部12において、インペラ16は、ケーシング18のケーシング室内に収められ、モータ軸20の端に結合されている。ケーシング18の、インペラ後面側には、連結板22がボルトにより固定的に結合されている。
【0010】
モータ部14は、モータ軸20と一体となるよう結合されるロータ24と、ロータ24の周囲を取り巻くように配置されるステータ26からなるモータ28を備える。ステータ26は、略円筒形の内周面に周方向に配列された磁極を有するステータコア30と、導線がステータコアの磁極に巻回されて形成されたコイル32を含む。コイル32の導線の端は、端子箱34に延びて、端子箱内に備えられる端子(不図示)に接続される。ステータコア30の外周面には、少なくとも1本のモータの軸線方向に沿って延びる軸線方向溝36が設けられている。
【0011】
ステータコア30の内側、かつロータ24の外側には、円筒形状のステータキャン38が配置されている。ステータキャン38は、ステータコア30の内周面、すなわち磁極の先端面に接触し、一方、ロータ24の外周面との間では、一定の間隔を設けて配置されている。ステータキャン38のステータコア30から軸線方向に外に延びた部分には、ステータキャン38の外周面に密着してバックアップスリーブ40,42が設けられている。バックアップスリーブ40,42は、円筒形状であり、その肉厚はステータキャン38より厚く、ステータキャン38の変形を防止している。ステータコア30の外周面に沿って円筒形状のステータバンド44が設けられている。ステータキャン38とステータバンド44は、2重に、同心に配置され、軸線方向の長さもほぼ等しい。ステータキャン38とステータバンド44の両端には、円環板形状の円環端部板46,48が配置され、ステータキャン38とステータバンド44の間の円筒形の空間の端を塞いでいる。ポンプ部12側の円環端部板46は、連結板22とボルトにより結合されている。また、ポンプ部12と反対側の円環端部板48には、ステータキャン38の内側の空間の端を塞ぐ円板端部板50がボルトにより結合されている。ステータバンド44、二つの円環端部板46,48、および円板端部板50は、モータ28を収容するモータハウジングと見ることができる。ステータ26は、モータハウジング、特にステータバンド44および二つの円環端部板46,48と、ステータキャン38とで囲まれた、または形成された空間内に収められている。この空間を以降、ステータ室52と記す。ステータ室52は、ステータコア30により、モータ側のステータ室52aと反対側のステータ室52bの二つに分けられている。これらの分けられたステータ室52a,52bは、ステータコア30の磁極の間の部分および前述の軸線方向溝36を介して繋がっている。
【0012】
ロータ24と一体のモータ軸20は、その両端を軸受54,56により支持されている。ポンプ部12側の軸受54は、ポンプ部12のケーシング18から延びる軸受ハウジング58に保持されている。一方、反対側の端の軸受56は、円板端部板50から延びる軸受ハウジング60に保持されている。円筒のステータキャン38の内側の空間、すなわちロータ24が収められるロータ室62には、ポンプ部12が吸込み、吐出する取扱い液が進入している。取扱い液はインペラ16の背面側からロータ室62に進入し、軸受54またはその周囲を通過し、さらにロータ24とステータキャン38の隙間を通過して、ポンプ部12と反対側の空間に達する。そして、そこからモータ軸20の中心に軸線に沿って貫通する中心孔(不図示)を通って、インペラ16の吸込み側に戻される。
【0013】
キャンドモータポンプ10は、円環端部板46,48に固定される脚部64により、全体を支持されている。
【0014】
ステータ室52には、充填材66が充填され、硬化されている。コイル32のステータコア30から出た部分であるコイルエンド68も充填材66内に埋まっている。充填材66は、球状無機材料粒子と、樹脂、特にシリコーン樹脂との混合材料である。球状無機材料粒子は、例えば伊藤忠セラテック社製ナイガイセラビーズ60(登録商標)を用いることができる。粒子は、真球状ではないが、全体として丸く、角のない粒子である。主成分は、酸化アルミニウム(Al23)と二酸化ケイ素(SiO2)である。樹脂は、バインダーとして用いられている成分のものが利用できる。また、送液する液の温度が高い場合などは、樹脂は耐熱性に優れたものが望ましく、例えば信越シリコーン製のシリコーン樹脂KR−242Rを使用することができる。また、使用状態の環境条件、例えば温度、湿度などによりシリコーン樹脂に替えてエポキシ樹脂を使用することもできる。
【0015】
充填材66の充填は、まず、乾燥した状態の球状無機材料粒子をステータ室52内に、例えば端子箱34から流し込む。端子箱34から球状無機材料粒子を流し込んだ場合、球状無機材料粒子は、まず端子箱34に隣接するステータ室52bに流れ、次にステータコア30の磁極の間の部分および軸線方向溝36を伝い反対側のステータ室52aに達する。このとき、必要であれば、入口側(端子箱34)から遠い側のステータ室(ステータ室52a)を低くする。また、振動を加えることにより、充填密度を高めるようにすることもできる。球状無機材料粒子は、粒子が丸いために、流動性が良好であり、更に粒子径が小さいためにステータ室内の隅々までに密に充填することができる。球状無機材料粒子を充填後、シリコーン樹脂を充填する。ステータ室52の下部、例えば円環端部板46に樹脂を吸い上げるための開口を設けておき、この開口とは反対側から、例えば端子箱34からステータ室52を真空引きなどで、球状無機材料粒子間に樹脂が進入するように吸引する。このときの樹脂の流動性を高めるために、樹脂を適切な溶剤で薄め、粘度を下げるようにしてもよい。その後、加熱乾燥して、樹脂を硬化させる。球状無機材料粒子を使うことで、樹脂と別々にステータ室に注入することができ、射出成形などの大規模な設備を使用することなく、充填作業ができ、製造の手間が掛からない。
【0016】
充填フィラーとして、形状が不定形な粒子を使用すると角がつぶれたり、折れたりすることにより、さらにまた角で引っ掛かっていた粒子同士がずれるなどして、樹脂を硬化させる際に体積が減少することがある。しかし、この実施形態の粒子は球状であるために、粒子同士が密着し、粒子同士の隙間が減少することによる全体の体積減少がほとんど生じない。したがって、硬化した充填材66と、その周囲の部材、例えばステータキャン38、ステータバンド44、バックアップスリーブ40,42、ステータコア30、コイル32との密着性が保たれ、伝熱性を妨げる空間を作らないために放熱性が確保される。また、樹脂がステータコア30の磁極先端とステータキャン38の間に進入し、この間の伝熱性も改善される。
【0017】
また、球状無機材料粒子は、粒子をステータ室52に流し込むとき、また硬化後もコイル32に接触するが、この際、不定形粒子のように角部がないために、コイル導線の絶縁被膜を傷つけることがない。
【0018】
図2は、キャンドモータポンプ各部の温度を示す図である。白丸「○」は充填材を用いなかった場合、黒四角「■」は充填材を用いたと場合を示す。横軸は、測定点を示し、図中に示すS1,S2の範囲の測定点は、ステータの磁極の間、つまりスロット内のコイル表面の温度を示す。また、Eで示す範囲の測定点は、コイルエンド表面の温度を示す。使用したキャンドモータポンプは、出力30kW級のポンプであり、100%負荷で、ほぼ飽和状態に達したときの温度を示している。使用した充填材は、球状セラミック粒子とシリコーン樹脂を組み合わせたものである。より具体的には、伊藤忠セラテック社製ナイガイセラビーズ60(登録商標)の♯400と、信越シリコーン製のシリコーン樹脂KR−242Rである。この型番の粒径は150〜425μmに分布する。ナイガイセラビーズ60(登録商標)の熱伝導率は0.56(W/m・K)、シリコーン樹脂の熱伝導率は0.14〜0.31(W/m・K)、これらを混合した充填材の熱伝導率は0.68(W/m・K)であった。図2に示されるように、コイルの温度が全体的に低下し、特に温度が高くなるコイルエンド部分では、約50℃の温度低減効果が認められた。
【0019】
充填材として、ガラスビーズとエポキシ樹脂を用いることもできる。ガラスビーズは、例えばポッターズ・バロティーニ社製の汎用ガラスビーズGB301Sを使用することができる。上記のガラスビーズの熱伝導率は0.94(W/m・K)、上記エポキシ樹脂の熱伝導率は0.2(W/m・K)、これらを混合した充填材の熱伝導率は0.44(W/m・K)であった。ガラスビーズとエポキシ樹脂を組み合わせた充填材は、前述の球状セラミック粒子とシリコーン樹脂を組み合わせた充填材と同じ手法で充填が可能である。上記のように、ガラスビーズとエポキシ樹脂の充填材の熱伝導率は、球状セラミック粒子とシリコーン樹脂の充填材のそれよりも低いが、コイルエンド部分の熱の放散に寄与することが確認された。充填材の選択に関しては、ポンプの取扱い流体の温度などで、適宜選択することができる。
【0020】
以上のように、この実施形態においては、コイルエンドの周囲に存在した空間が充填材により充填されているため、仮に端子台等、充填材がなく空間が残っている部分で、可燃性のガスが発生しても、この圧力波を充填材が遮ることにより、圧力波がステータキャンまで到達することを防止することができる。
【0021】
また、充填材がステータキャンに密着していることにより、ステータキャンを支え、これの変形を防止する効果が期待できる。
【0022】
本発明のキャンドモータポンプの望ましい態様の一例は、
ターボポンプと、ターボポンプを駆動するモータを有し、
モータのステータ内側に配置され、モータのロータを収め、ターボポンプの取扱い液で満たされる円筒形状のステータキャンと、
ステータ外周を囲む円筒形状のステータバンドと、
ステータキャンおよびステータバンドの円筒の両端を閉じる端部板と、
により、ステータを収めるステータ室が形成(画定、規定)され、
ステータ室内に、球状無機材料粒子が充填され、更に充填された球状無機材料粒子同士を固着させる固着樹脂が注入されている、
キャンドモータポンプである。
【符号の説明】
【0023】
10 キャンドモータポンプ、12 ポンプ部、14 モータ部、24 ロータ、26 ステータ、28 モータ、30 ステータコア、32 コイル、38 ステータキャン、44 ステータバンド、46,48 円環端部板、52 ステータ室、66 充填材、68 コイルエンド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのロータとステータの間に位置する筒状のステータキャンと、ステータを収めるステータ室をステータキャンと共に形成するモータハウジングと、を有するキャンドモータポンプであって、
ステータ室内に、球状無機材料粒子が充填され、更に充填された球状無機材料粒子同士を固着させる樹脂が注入され硬化されている、
キャンドモータポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載のキャンドモータポンプであって、前記球状無機材料粒子が、球状セラミック粒子である、キャンドモータポンプ。
【請求項3】
請求項1に記載のキャンドモータポンプであって、前記球状無機材料粒子が、ガラスビーズである、キャンドモータポンプ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャンドモータポンプであって、前記樹脂がシリコーン樹脂である、キャンドモータポンプ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のキャンドモータポンプであって、前記樹脂がエポキシ樹脂である、キャンドモータポンプ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−223063(P2012−223063A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89821(P2011−89821)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【特許番号】特許第5033252号(P5033252)
【特許公報発行日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【Fターム(参考)】